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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20240516BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240516BHJP
   C08F 261/04 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C08L51/06
C08L29/04 C
C08F261/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021527784
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025301
(87)【国際公開番号】W WO2020262634
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019122196
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】沢谷 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 雅義
(72)【発明者】
【氏名】前川 一彦
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-133259(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004455(WO,A1)
【文献】特公昭45-017439(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/124553(WO,A1)
【文献】特開2004-322562(JP,A)
【文献】特開2002-121517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)及び酸化防止剤(C)を含み
共重合体(B)がグラフト共重合体(B1)であり、
グラフト共重合体(B1)がビニルアルコール系重合体(B-1)単位からなる主鎖及びジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖から構成されており、
ESRスペクトルのg値が2.0031~2.0050である、樹脂組成物。
【請求項2】
ラジカル量が15×10-3mmol/kg以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ESRスペクトルの超微細結合定数(A値)が20ガウス未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらにビニルアルコール系重合体(A)を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ビニルアルコール系重合体(B-1)単位がエチレン-ビニルアルコール共重合体単位を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ジエン系重合体(B-2)が、ポリブタジエン、及びポリイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
酸化防止剤(C)の含有率が0.1質量%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂組成物100質量部に対し、共重合体(B)を10~85質量%含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)を含む重合体組成物(P)を洗浄液で洗浄する工程を含み、前記洗浄液が酸化防止剤(C)を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた柔軟性を有し、且つ長期的な保存安定性にも優れる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系樹脂は、高い結晶性に起因する優れた皮膜特性(機械的強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)又は親水性を利用して、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、種々の包装体、シート、容器等に広く利用されている。一方、通常、ビニルアルコール系樹脂はガラス転移温度が常温より高く、高度に結晶化しているため、柔軟性が低く耐屈曲性に弱い点、反応性が低い点等、用途によっては大きな課題となる物性的欠点を抱えている。柔軟性の低さは可塑剤を複合することで解決できるが、その場合は可塑剤のブリードアウト又は結晶性の著しい低下による機械物性及びバリア性の低下等が避けられない。
【0003】
一方、特定の構造をビニルアルコール系樹脂に化学的に導入する方法が提案されている。特許文献1には、ビニルアルコール系樹脂のジメチルスルホキシド溶液中、末端に変性官能基を導入したジエン系重合体を反応させ、反応性基を介してジエン系重合体を導入したポリマーが例示されている。
【0004】
また、特許文献2、3には、電離放射線を使ってビニルアルコール系樹脂にラジカルを発生させ、当該ビニルアルコール系樹脂とブタジエンを接触させることで共重合体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/190029号
【文献】特公昭39-6386号公報
【文献】特公昭41-21994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの特許文献では、共重合体の長期的な保存安定性については検討されていなかった。実際には、共重合体は大気暴露下では極めて劣化しやすく、実使用上の保存安定性に課題を抱えていた。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、優れた柔軟性を有するとともに、長期的な保存安定性にも優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ビニルアルコール系重合体単位とジエン系重合体単位とを含む共重合体を湿潤状態のまま大気暴露下で長期保管すると、ジエン系重合体が徐々に分解して脱離していく現象が生じることを発見した。その要因を検証した結果、ジエン系重合体の脱離現象は、樹脂組成物が有する微量のラジカルの種類に関係して安定性が変化することを発見した。この知見から、樹脂組成物が有するラジカルの構造を制御することによって、上述の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
[1]ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)及び酸化防止剤(C)を含み、ESRスペクトルのg値が2.0031~2.0050である、樹脂組成物。
[2]ラジカル量が15×10-3mmol/kg以下である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]ESRスペクトルの超微細結合定数(A値)が20ガウス未満である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]共重合体(B)がグラフト共重合体(B1)である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]さらにビニルアルコール系重合体(A)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]ビニルアルコール系重合体(B-1)単位がエチレン-ビニルアルコール共重合体単位を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]ジエン系重合体(B-2)が、ポリブタジエン、及びポリイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]酸化防止剤(C)の含有率が0.1質量%未満である、[]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]樹脂組成物100質量部に対し、共重合体(B)を10~85質量%含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)を含む重合体組成物(P)を洗浄液で洗浄する工程を含み、前記洗浄液が酸化防止剤(C)を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた柔軟性を有するとともに、長期的な保存安定性にも優れる樹脂組成物を提供することができる。特に、本発明の樹脂組成物は、工業上の実用性の観点から、プラントにおける共重合体を製造する場合等の、得られた共重合体を一定時間湿潤状態で保管する場合であっても、その間の吸湿による劣化を抑制することができ、長期的な保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)を含み、ESRスペクトルのg値が2.0031~2.0050であることを特徴とする。
【0012】
ESRスペクトルの測定で得られるg値とは、下記式(Q)で表されるパラメータである。
g=hν/βH (Q)
(式中、hはプランク定数を表し、νは共鳴周波数を表し、βはボーア磁子を表し、Hは共鳴磁場(ESRシグナルとベースラインとの交点)を表す。)
【0013】
g値は、ESRスペクトルの測定で得られる。ESRスペクトルの測定は、公知の電子スピン共鳴装置を用いて行うことができる。電子スピン共鳴装置としては、日本電子株式会社製 JES-X3、ブルカージャパン株式会社製 EMXplus(付属装置:オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製クライオスタット ESR910)等が挙げられる。
【0014】
本発明者らは、樹脂組成物が、大気中の水分或いは何らかの溶媒を含んだ状態など湿潤した状態においては、樹脂の分解反応が著しく進行することを発見した。この分解反応は、湿潤状態で樹脂組成物が可塑化されることで重合体が分子運動し易い状態になり、その結果、分子鎖間の反応或いは分解を促進する物質(例えば酸素或いは水など)の浸透が促されることに起因すると考えられる。本発明の樹脂組成物は、その製法に関わらず極めて微少量ながらラジカルが検出されることから、ラジカルの量が分解反応に対する安定性に影響すると考えられるが、本発明者らの検討結果から、その安定性はラジカルの量ではなく、ラジカルの種類、構造に大きく影響されることを発見した。異方性を反映したスペクトルとしてg値を特定の範囲とする樹脂組成物では、湿潤状態でもジエン系重合体の分解を抑制できることを見出した。本発明の樹脂組成物が有するg値としては、柔軟性と、長期的な保存安定性により優れる点から、2.0035~2.0049が好ましく、2.0036~2.0048がより好ましく、2.0037~2.0047がさらに好ましい。
【0015】
本発明の樹脂組成物のラジカル量は、柔軟性と、長期的な保存安定性により優れる点から、15×10-3mmol/kg以下であるものが好ましく、10×10-3mmol/kg以下であるものがより好ましく、8.5×10-3mmol/kg以下であるものがさらに好ましい。ラジカル量は、例えば、後記する実施例に記載のように、ESRスペクトルの測定で得られる信号強度から算出できる。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、ESRスペクトルの超微細結合定数(A値)が20ガウス未満であることが好ましく、19ガウス未満であることがより好ましく、18ガウス未満であることがさらに好ましい。本発明の樹脂組成物に含まれる共重合体(B)は、乾燥状態では化学的に安定であるが、ESRスペクトルから算出されるA値は、ラジカルの構造によって変化することから、樹脂組成物が安定に存在できるラジカルの構造種は、A値の範囲で規定することができる。A値は20ガウス未満であれば、ラジカルの量が多い状態でも分解反応は生じにくくなるため、好ましい。また、安定性に優れる樹脂組成物のA値は10ガウス以上が好ましい。A値が20ガウスを超えると、上述の分解反応が促進される。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)を含む。また、それに加えてビニルアルコール系重合体(A)を含んでいてもよい。
【0018】
(ビニルアルコール系重合体(A)及び(B-1))
ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)の種類は特に限定されないが、例えば、以下に示すポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体が好適に用いられる。ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)は、各重合体を構成する構造単位、各重合体の粘度平均重合度、けん化度等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)は、ビニルアルコール単位の含有率が40mol%以上であることが好ましく、50mol%以上であっても、55mol%以上であってもよい。また、ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)の各々において、単独のポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いてもよいし、複数のポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコール共重合体を組み合せて用いてもよい。なお、本発明において重合体中の構造単位とは、重合体を構成する繰り返し単位のことを意味する。例えば、エチレン単位又はビニルアルコール単位も構造単位である。
【0019】
上記ポリビニルアルコールの粘度平均重合度(JIS K 6726(1994)に準拠して測定)は特に限定されず、好ましくは100~10,000、より好ましくは200~7,000、さらに好ましくは300~5,000である。上記粘度平均重合度が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物の機械物性が優れる。ビニルアルコール系重合体(B-1)においては、共重合体(B)の所望の数平均分子量に応じて粘度平均重合度を調整すればよい。
【0020】
上記ポリビニルアルコールのけん化度(JIS K 6726(1994)に準拠して測定)は特に限定されないが、機械物性に優れる点から、50mol%以上が好ましく、80mol%以上がより好ましく、95mol%以上がさらに好ましく、100mol%であってもよい。
【0021】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体におけるエチレン単位の含有率は特に限定されないが、機械物性に優れる点及び製造が容易となる点から、10~60mol%が好ましく、20~50mol%がより好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含有率は1H-NMR測定から求めることができる。
【0022】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体のけん化度は特に限定されないが、成形性及び機械物性に優れる点から、80mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましく、99mol%以上がさらに好ましく、100mol%であってもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体のけん化度はJIS K 6726(1994)に準拠して測定できる。
【0023】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は特に限定されないが、0.1g/10分以上が好ましく、0.5g/10分以上がより好ましい。上記メルトフローレートが0.1g/10分以上であると、耐水性及び機械物性に優れる。なお、上記メルトフローレートの上限は通常用いられる値であればよく、例えば25g/10分以下であってもよい。メルトフローレートは、ASTM D1238に準拠して、メルトインデクサーを用いて210℃、荷重2160gの条件で測定して求めた値を示す。
【0024】
上記のエチレン-ビニルアルコール共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の不飽和単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。上記エチレン-ビニルアルコール共重合体における該不飽和単量体に由来する構造単位の含有率は、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体を構成する全構造単位に対して10mol%以下であることが好ましく、5mol%以下であることがより好ましい。
【0025】
上記ポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコール共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニルアルコール単位、ビニルエステル系単量体及びエチレン単位以外の構造単位(c)を含んでいてもよい。
【0026】
当該構造単位(c)としては、例えば、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン等のα-オレフィン類(ポリビニルアルコールの場合はエチレンを含む);アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリルアミドプロピルジメチルアミン等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン等のメタクリルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等に由来する構造単位が挙げられる。当該構造単位(c)の含有率は、上記ポリビニルアルコール又は上記エチレン-ビニルアルコール共重合体を構成する全構造単位に対して10mol%未満であることが好ましい。
【0027】
ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)としては、特にエチレン-ビニルアルコール共重合体が好適に用いられる。ある好適な実施形態では、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位がエチレン-ビニルアルコール共重合体単位を含む、樹脂組成物が挙げられる。エチレン-ビニルアルコール共重合体を用いることで、本発明の樹脂組成物の熱成形性が向上しやすい。
【0028】
(共重合体(B))
共重合体(B)は、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される。共重合体(B)は、少なくとも一つのビニルアルコール系重合体(B-1)単位と少なくとも一つのジエン系重合体(B-2)単位を有する共重合体であれば特に制限はない。共重合体(B)は、例えばグラフト共重合体(B1)、ブロック共重合体(B2)である。
【0029】
(グラフト共重合体(B1))
共重合体(B)は、好ましくはグラフト共重合体(B1)である。グラフト共重合体(B1)の構造は特に限定されないが、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される。グラフト共重合体(B1)はビニルアルコール系重合体(B-1)単位からなる主鎖及びジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖から構成されることが好ましい。すなわち、ビニルアルコール系重合体(B-1)からなる主鎖に対して、ジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖が導入されたものであることが好ましい。特に、1つのビニルアルコール系重合体(B-1)単位に複数のジエン系重合体(B-2)単位が結合したものが特に好ましい。ビニルアルコール系重合体(B-1)の種類は特に限定されないが、例えば、上記したポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。ビニルアルコール系重合体(B-1)は、ビニルアルコール単位の含有率が40mol%以上であることが好ましく、50mol%以上であっても、55mol%以上であってもよい。ビニルアルコール系重合体(B-1)において、ポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体を1種単独で用いてもよく、複数のポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコール共重合体を組み合せて用いてもよい。
【0030】
(ブロック共重合体(B2))
共重合体(B)が、ブロック共重合体(B2)である場合、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位を重合体ブロック(b1)として有し、ジエン系重合体(B-2)単位を重合体ブロック(b2)として有する。ブロック共重合体(B2)は、重合体ブロック(b1)及び重合体ブロック(b2)をそれぞれ1つずつ有するものであってもよいし、重合体ブロック(b1)及び/又は重合体ブロック(b2)を2つ以上有するものであってもよい。該ブロック共重合体の結合様式としては、b1-b2型ジブロック共重合体、b1-b2-b1型トリブロック共重合体、b2-b1-b2型トリブロック共重合体、b1-b2-b1-b2型テトラブロック共重合体或いはb2-b1-b2-b1型テトラブロック共重合体に代表される線状マルチブロック共重合体、(b2-b1-)n、(b1-b2-)n等で表される星型(ラジアルスター型)ブロック共重合体などが挙げられる。nは2より大きい値である。
【0031】
(ジエン系重合体(B-2))
共重合体(B)は、ジエン系重合体(B-2)を含む。ジエン系重合体(B-2)の構造は特に限定されないが、ジエン系重合体(B-2)がオレフィン構造を有することが好ましい。ジエン系重合体(B-2)がオレフィン構造を有することで、本発明の樹脂組成物は高エネルギー線による架橋又は加硫が可能となる。ジエン系重合体(B-2)としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリファルネセン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ジエン系重合体(B-2)は、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン及びファルネセンからなる群より選択される2種以上の共重合体であってもよい。中でも、反応性及び柔軟性の観点から、ポリブタジエン、ポリイソプレンが好ましく、ポリイソプレンがより好ましい。なお、共重合体(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ビニルアルコール系重合体(B-1)とジエン系重合体(B-2)以外の構造単位を含んでいてもよい。また、グラフト共重合体(B1)の側鎖は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ビニルアルコール系重合体(B-1)とジエン系重合体(B-2)以外の構造単位を含んでいてもよい。
【0032】
共重合体(B)における、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位の合計質量に対するジエン系重合体(B-2)単位の含有率は特に限定されないが、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。上記ジエン系重合体(B-2)単位の含有率は80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。上記含有率が10質量%以上の場合、共重合体(B)(特にグラフト共重合体(B1))において所望の柔軟性及び反応性が得られやすく、80質量%以下の場合、ビニルアルコール系重合体(A)と共重合体(B)の相溶性に優れ、粗大な相分離の形成による透明性及び諸物性の悪化を抑制しやすい。前記ジエン系重合体(B-2)単位の含有率の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0033】
共重合体(B)の含有率は、樹脂組成物100質量部に対し、10~85質量%が好ましく、15~75質量%がより好ましく、20~70質量%がさらに好ましい。
【0034】
グラフト共重合体(B1)において、ジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖は、分子量分布を有していることが好ましい。ジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖が分子量分布を有すると、ビニルアルコール系重合体(A)を含む実施形態において、ビニルアルコール系重合体(A)とグラフト共重合体(B1)の相溶性が向上しやすく、成形後の透明性が高くなりやすい。
【0035】
本発明の重合体組成物(P)の総変性量は、より柔軟性に優れる点から、1.0~30mol%が好ましく、5.0~25mol%がより好ましく、8.0~20mol%がさらに好ましい。本明細書において重合体組成物(P)とはビニルアルコール系重合体(A)及び共重合体(B)からなる重合体組成物を意味し、重合体組成物(P)の総変性量とは、その全単量体単位に対するグラフト重合された単量体の含有量を意味する。重合体組成物(P)の総変性量は、具体的には、実施例に記載の方法で算出される。
【0036】
本発明の重合体組成物(P)の結晶融解温度は、140℃以上であることが好ましい。上記結晶融解温度が上記140℃以上であることで、優れた機械物性が発現されやすい。一方、前記重合体組成物(P)の結晶融解温度は、200℃以下であることが好ましい。上記結晶融解温度が上記200℃以下であると成形時に高温とする必要がなく、樹脂の熱劣化を抑制しやすい。
【0037】
(重合体組成物(P)の製造方法)
本発明の重合体組成物(P)の製造方法は特に限定されないが、共重合体(B)がグラフト共重合体(B1)である場合、例えば、一般に公知である種々のグラフト重合法を用いてビニルアルコール系重合体の主鎖上にラジカルを発生させグラフト鎖を導入することでグラフト共重合体(B1)を製造し、得られたグラフト共重合体(B1)とビニルアルコール系重合体(A)を所望の組成で混合する方法が挙げられる。上記グラフト重合法としては、例えば、重合開始剤を用いたラジカル重合を用いてグラフト重合する方法;活性エネルギー線を用いるグラフト重合法(以下、活性エネルギー線グラフト重合法と称する);が挙げられ、活性エネルギー線グラフト重合法が好適に用いられる。特に、活性エネルギー線グラフト重合法を用いる重合体組成物(P)の製造方法としては、ラジカルを発生させるために、ビニルアルコール系重合体(B-1)に予め活性エネルギー線を照射する工程、及び、ビニルアルコール系重合体(B-1)をジエン系重合体(B-2)の原料である単量体中に、又は当該単量体を含む溶液中に分散させてグラフト重合する工程を含む、製造方法が好適である。係る方法を用いて得られる生成物は、未反応のビニルアルコール系重合体(B-1)と、グラフト共重合体(B1)の混合物になり、上記未反応のビニルアルコール系重合体(B-1)がビニルアルコール系重合体(A)に相当する。そのため、本法を用いれば本発明の重合体組成物(P)をわずか一工程で製造できる。また、係る方法により得られるグラフト共重合体(B1)の側鎖の分子量は、均一化されず分子量分布を有する。さらに、上記活性エネルギー線グラフト重合法を用いる重合体組成物(P)の製造方法によって得られた重合体組成物に、必要に応じて、ビニルアルコール系重合体(A)を添加してもよい。
【0038】
ビニルアルコール系重合体(B-1)に活性エネルギー線を照射すると、少なくともビニルアルコール単位のメチン基の炭素原子にラジカルが発生することが確認されている。したがって、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体が上記メチン基の炭素原子を開始末端としてラジカル重合することにより、ジエン系重合体(B-2)からなる側鎖がビニルアルコール系重合体(B-1)からなる主鎖の3級炭素原子に直接結合しているグラフト共重合体(B1)が生成する。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体に活性エネルギー線を照射すると、エチレン単位のメチレン基の炭素原子にもラジカルが発生すると考えられる。このため、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体が上記メチレン基の炭素原子を開始末端としてラジカル重合することにより、ジエン系重合体(B-2)からなる側鎖がビニルアルコール系重合体(B-1)からなる主鎖の2級炭素原子に直接結合しているグラフト共重合体(B1)が生成すると推定される。
【0039】
本発明の製造方法において、含水率15質量%以下のビニルアルコール系重合体(B-1)に活性エネルギー線を照射することが好ましい。前記含水率は、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。含水率が15質量%以下である場合、ビニルアルコール系重合体(B-1)に発生したラジカルが消失しにくくなり、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体に対するビニルアルコール系重合体(B-1)の反応性が十分になりやすい。また、本発明の製造方法において、含水率0.001質量%以上のビニルアルコール系重合体(B-1)に活性エネルギー線を照射することが好ましい。前記含水率は、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。
【0040】
ビニルアルコール系重合体(B-1)に照射する活性エネルギー線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等の電離放射線;X線、g線、i線、エキシマレーザー等が挙げられ、中でも電離放射線が好ましく、実用的には電子線及びγ線がより好ましく、処理速度が早く、かつ設備も簡便にできる電子線がさらに好ましい。
【0041】
ビニルアルコール系重合体(B-1)に活性エネルギー線を照射する線量としては、5~200kGyが好ましく、10~150kGyがより好ましく、20~100kGyがさらに好ましく、30~90kGyが特に好ましい。照射する線量が5kGy以上の場合、十分な量の側鎖を導入しやすくなる。一方、照射する線量が200kGy以下の場合、コスト面で有利になりやすい上、活性エネルギー線の照射によるビニルアルコール系重合体(B-1)の劣化を抑制しやすくなる。
【0042】
ビニルアルコール系重合体(B-1)の形状は特に限定されないが、平均粒子径が50~4000μmの粉末又はペレット形状であることが好ましい。当該形状にすることにより、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体(例えばブタジエン、イソプレン、イソブチレン、クロロプレン、ファルネセン等)又は当該単量体を含む溶液との接触効率が上昇するため、高い反応率が得られやすい。平均粒子径が50μm以上の場合、粉末の飛散を抑制しやすい傾向にあり、4000μm以下の場合、反応率が高くなりやすい。上記平均粒子径は、より好ましくは60~3500μm、さらに好ましくは80~3000μmである。株式会社堀場製作所製レーザー回折装置「LA-950V2」を用いた測定方法が挙げられる。
【0043】
活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)を、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体を含む溶液中に分散させてグラフト重合を行う場合、用いられる分散溶媒は、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体を溶解させるが、活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)を溶解させないものである必要がある。活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)を溶解させる溶媒を使用した場合、グラフト重合の進行とビニルアルコール系重合体(B-1)に発生したラジカルの失活が同時に進行するため、付加する単量体の量を制御することが困難である。前記グラフト重合に用いられる分散溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;トルエン、ヘキサン等が挙げられる。なお、水を使用する場合は、必要に応じて単量体を分散させるために界面活性剤等を併用してもよい。また、これらの溶媒は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
グラフト重合を行う工程において、活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)が膨潤することで、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体が前記ビニルアルコール系重合体(B-1)の内部まで浸透し、ジエン系重合体(B-2)からなる側鎖を多量に導入できる。したがって、使用する分散溶媒は活性エネルギー線が照射された前記ビニルアルコール系重合体との親和性を考慮して選択することが好ましい。上述の分散溶媒の中でも、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールは活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)との親和性が高いため、本発明の製造方法において好適に用いられる。また、活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)が溶解しない範囲で、上記分散溶媒の混合物を液体媒体として使用することも、上記と同様の理由で効果的である。一方、液体媒体とビニルアルコール系重合体の親和性が過度に高い場合、反応後の樹脂が著しく膨潤し、ろ過による単離が困難になる上、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体が単独重合しやすくなる。したがって、分散溶媒は、使用するビニルアルコール系重合体との親和性、後述する反応温度における膨潤性を踏まえた上で適切に選択することが好ましい。
【0045】
グラフト重合におけるジエン系重合体(B-2)の原料である単量体の使用量は、単量体の反応性に合わせて適宜調整される。上記反応性は前述の通り、ビニルアルコール系重合体への単量体の浸透しやすさ等に依存して変化する。したがって、上記単量体の適切な添加量は、分散溶媒の種類もしくは量、又はビニルアルコール系重合体(B-1)の重合度もしくはけん化度等に依存して変化するが、活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)100質量部に対して、1~1000質量部が好ましい。ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体の量が上記範囲内であると、グラフト共重合体(B1)の、ビニルアルコール系重合体(B-1)と、ジエン系重合体(B-2)の比率を前記範囲に制御しやすい。上記単量体の使用量は、2~900質量部がより好ましく、5~800質量部がさらに好ましい。
【0046】
グラフト重合における液体媒体の使用量は、活性エネルギー線が照射されたビニルアルコール系重合体(B-1)100質量部に対して100~4000質量部が好ましく、200~2000質量部がより好ましく、300~1500質量部がさらに好ましい。
【0047】
グラフト重合における反応温度は、好ましくは20℃~150℃であり、より好ましくは30℃~120℃であり、さらに好ましくは40℃~100℃である。反応温度が20℃以上であるとグラフト重合反応が進行しやすい。反応温度が150℃以下であるとビニルアルコール系重合体(B-1)の熱溶融が起こりにくい。なお、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体の沸点あるいは液体媒体の沸点が上記反応温度よりも低い場合は、オートクレーブ等の耐圧容器内で加圧下反応させることができる。
【0048】
グラフト重合における反応時間は、10時間以内が好ましく、8時間以内がより好ましく、6時間以内がさらに好ましい。上記反応時間が10時間以下であると、ジエン系重合体(B-2)の原料である単量体の単独重合を抑制しやすい。グラフト重合における反応時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。
【0049】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、(i)溶液に分散した、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)を含む重合体組成物(P)を熱処理する工程を含み、前記熱処理の温度が30~150℃である、製造方法、(ii)ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位から構成される共重合体(B)を含む重合体組成物(P)を洗浄液で洗浄する工程を含み、前記洗浄液が酸化防止剤(C)を含む、製造方法等が挙げられる。前記製造方法(i)において、前記溶液は、酸化防止剤(C)を含んでいてもよい。これらの製造方法で用いる酸化防止剤(C)は後述するものを使用できる。製造方法(i)における酸化防止剤(C)の含有率は、溶液全量に対して、10~1000ppmが好ましく、20~800ppmがより好ましく、30~500ppmがさらに好ましい。製造方法(ii)における酸化防止剤(C)の含有率は、洗浄液全量に対して、10~1000ppmが好ましく、20~800ppmがより好ましく、30~500ppmがさらに好ましい。
【0050】
前記製造方法(i)において、熱処理の温度は、35~120℃が好ましく、40~100℃がより好ましく、50~90℃がさらに好ましい。前記製造方法(i)の溶液に用いる溶媒は、樹脂組成物との親和性が高く、樹脂組成物を膨潤させることができる溶媒が好ましい。好適には、水、メタノール等のアルコール類が挙げられる。前記製造方法(ii)の洗浄液に用いる溶媒は、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類を含む有機溶媒が挙げられる。
【0051】
(酸化防止剤(C))
本発明の樹脂組成物は、ESRスペクトルのg値を所定範囲内に制御されることで優れた保存安定性を発現するが、さらに安定性を向上させる目的で酸化防止剤(C)を含んでいてもよい。酸化防止剤(C)としては、フェノール系化合物(C1)、アミン系化合物(C2)及びリン系化合物(C3)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。本発明の樹脂組成物における酸化防止剤(C)の含有率は、1.0質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満がより好ましく、0.1質量%未満がさらに好ましい。
【0052】
(フェノール系化合物(C1))
フェノール系化合物(C1)の分子量としては、100以上2000以下が好ましく、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、150以上1500以下がより好ましく、160以上1200以下がさらに好ましい。
【0053】
フェノール系化合物(C1)としては、下記一般式[I]又は[II]で表される化合物が好ましい。
【化1】
【化2】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~15の炭化水素基又は水酸基を表し、Xは炭素数1~15の二価の炭化水素基を表し、Yはビニルオキシ基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、R~R及びXの前記炭化水素基は、-O-、-S-、-NH-、-N(R)-、-O(CO)-、及び-CO-からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を含んでいてもよい。Rは炭素数1~6の炭化水素基を表す。)
【0054】
1~R7の炭素数1~15の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基(イソヘキシル基)、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチル-2-メチル-プロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基、tert-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチルヘプチル基、n-ノニル基、n-デシル基、1-メチルノニル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、(1-メチル)エテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル基、置換フェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。置換フェニル基が有する置換基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。R~Rの炭素数1~15の炭化水素基としては、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れる点から、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。R~Rの炭化水素基の炭素数としては、1~10が好ましく、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れる点から、1~6がより好ましい。Rの炭化水素基としては、R~Rとして上記したもののうち炭化水素基の炭素数1~6のものが挙げられる。Xの炭素数1~15の二価の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等のアルキレン基が挙げられる。Xの炭化水素基の炭素数としては、1~10が好ましく、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れる点から、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましい。Yとしては、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れる点から、(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。また、ある好適な実施形態では、R~R及びXの炭化水素基が、-O-、-S-、-NH-、-N(R)-、-O(CO)-、及び-CO-を含まないフェノール系化合物が挙げられる。さらに、他の好適な実施形態では、Rが水酸基であるフェノール系化合物が挙げられる。
【0055】
また、他の実施形態のフェノール系化合物(C1)としては、下記一般式[III]で表される化合物が挙げられる。
【化3】
(式中、R9及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~15の炭化水素基を表し、Zは炭素数1~15の二価の炭化水素基を表し、R9、R10及びZの炭化水素基は、-O-、-S-、-NH-、-N(R11)-、-O(CO)-、及び-CO-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含んでいてもよい。R11は炭素数1~6の炭化水素基を表す。)
【0056】
及びR10の炭化水素基は、R~Rと同様のものが挙げられる。R11の炭化水素基は、Rと同様のものが挙げられる。一般式[III]で表される化合物としては、R及びR10が炭素数1~6の炭化水素基であり、Zが炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、前記二価の炭化水素基が、-O-、-S-、-NH-、-N(R11)-、-O(CO)-、及び-CO-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含む化合物が好ましい。
【0057】
ある好適な実施形態のフェノール系化合物(C1)としては、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れるとともに、ブリードの生成抑制効果及び変色の防止効果により優れる点から、一般式[I]で表される化合物であり、R、R及びRが、炭素数1~6の炭化水素基であるフェノール系化合物が挙げられる。
【0058】
また、他の好適な実施形態のフェノール系化合物(C1)としては、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れるとともに、変色の防止効果により優れる点から、一般式[II]で表される化合物であり、R、R、R、及びRが炭素数1~6の炭化水素基であり、Xが炭素数1~6の二価の炭化水素基であり、Yがアクリロイルオキシ基であるフェノール系化合物が挙げられる。
【0059】
フェノール系化合物(C1)としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、モノ(α-メチルベンジル)フェノール、ジ(α-メチルベンジル)フェノール、トリ(α-メチルベンジル)フェノール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン、2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、4,6-ビス〔(オクチルチオ)メチル〕-o-クレゾール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられ、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れる点から、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートが好ましい。フェノール系化合物(C1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性がより優れる点から、フェノール系化合物(C1)としては、中でも、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン及び2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0061】
フェノール系化合物(C1)の含有量は、重合体組成物(P)100質量部において、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、0.001~15質量部が好ましく、0.005~10質量部がより好ましく、ブリードの生成抑制効果及び変色の防止効果により優れる点からは、0.008~8質量部がさらに好ましい。
【0062】
(アミン系化合物(C2))
アミン系化合物(C2)の分子量としては、100以上2000以下が好ましく、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、150以上1500以下がより好ましく、160以上1200以下がさらに好ましい。アミン系化合物(C2)を用いることで、共重合体(B)のジエン系重合体(B-2)単位の酸化反応を特異的に抑制することができる、すなわち、共重合体(B)のジエン系重合体(B-2)単位におけるカルボニル基の生成を抑制することができる。そのため、共重合体(B)のジエン系重合体(B-2)単位に生成するカルボニル基とビニルアルコール系重合体(B-1)の水酸基との反応が生じさせず、熱安定性に優れる。また、アミン系化合物(C2)と共重合体(B)とを用いることで、適度な柔軟性を樹脂組成物に付与できる。さらに、アミン系化合物(C2)は、少量であっても、前記カルボニル基の生成を抑制でき、樹脂組成物の熱安定性と柔軟性を高めることができる。
【0063】
アミン系化合物(C2)としては、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、芳香族基を有するアミン(ただし、ベンズイミダゾール骨格を有するベンズイミダゾール化合物(例えば、2-メルカプトベンズイミダゾール等)を除く)が好ましい。芳香族基としては、フェニル基、置換フェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられ、フェニル基が好ましい。置換フェニル基が有する置換基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。芳香族基を有するアミンとしては、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性により優れる点から、芳香環を2つ以上含む2級アミン又は芳香環を2つ以上含む3級アミンが好ましい。芳香族基を有するアミンに含まれる芳香環の数は、特に限定されないが、2~6個であってもよく、2~4個であってもよく、2~3個であってもよい。
【0064】
芳香環を2つ以上含む2級アミンとしては、例えば、下記一般式[IV]で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(式中、R12~R21は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~15の炭化水素基を表し、W及びWは炭素数1~15の二価の炭化水素基を表し、m及びnはそれぞれ独立して0又は1であり、R12~R21及びW及びWの炭化水素基は、-O-、-S-、-NH-、-N(R22)-、-O(CO)-、及び-CO-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含んでいてもよい。R12~R21は、一緒になって環を形成していてもよい。R22は炭素数1~6の炭化水素基を表す。)
【0065】
12~R21の炭素数1~15の炭化水素基は、R~Rと同様のものが挙げられる。W及びWの炭素数1~15の二価の炭化水素基は、Xと同様のものが挙げられる。R12~R21が一緒になって形成する環は、芳香環であってもよく、酸素原子又は硫黄原子を含む複素環であってもよい。例えば、R12とR17が一緒になって-S-を介して硫黄原子と窒素原子を含む複素環を形成していてもよい。
【0066】
一般式[IV]で表される化合物としては、m及びnが0である、ジアリールアミン骨格を有するアミンが好ましい。また、一般式[IV]で表される化合物としては、R12~R21がすべて水素原子であり、m及びnが0であり、R12とR17の組み合わせ及び/又はR16とR21の組み合わせが、-S-を介して複素環を形成している化合物も含まれる。
【0067】
アミン系化合物(C2)としては、例えば、N-フェニル-1-ナフチルアミン、ジ(4-ブチルフェニル)アミン、ジ(4-ペンチルフェニル)アミン、ジ(4-ヘキシルフェニル)アミン、ジ(4-ヘプチルフェニル)アミン、ジ(4-オクチルフェニル)アミン、4,4’-ビス(α、α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン、2,3:5,6-ジベンゾ-1,4-チアジン、N,N,N’,N’-テトラメチル-p-ジアミノジフェニルメタン、ジフェニルアミン等のジアリールアミン骨格を有するアミンが挙げられ、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、4,4’-ビス(α、α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、2,3:5,6-ジベンゾ-1,4-チアジン、及びN,N,N’,N’-テトラメチル-p-ジアミノジフェニルメタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。アミン系化合物(C2)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
アミン系化合物(C2)の含有量は、重合体組成物(P)100質量部において、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、0.05~15質量部が好ましく、0.1~8質量部がより好ましく、少量の使用であっても樹脂組成物の熱安定性により優れる点から、1~5質量部がさらに好ましい。
【0069】
(リン系化合物(C3))
リン系化合物(C3)の分子量としては、100以上2000以下が好ましく、樹脂組成物の熱安定性及び柔軟性の点から、150以上1500以下がより好ましく、160以上1200以下がさらに好ましい。リン系化合物(C3)を用いることで、共重合体(B)のジエン系重合体(B-2)単位の酸化反応を特異的に抑制することができる。すなわち、共重合体(B)におけるカルボニル基の生成を抑制することができる。そのため、共重合体(B)のジエン系重合体(B-2)単位に生成するカルボニル基とビニルアルコール系重合体の水酸基との反応が生じさせず、熱安定性に優れる。また、リン系化合物(C3)と共重合体(B)とを用いることで、適度な柔軟性を樹脂組成物に付与できる。さらに、リン系化合物(C3)は、少量であっても、前記カルボニル基の生成を抑制でき、樹脂組成物の熱安定性と柔軟性を高めることができる。
【0070】
リン系化合物(C3)としては、三価の亜リン酸エステルが好ましい。三価の亜リン酸エステルとしては、下記一般式[V]、[VI]又は[VII]で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【化6】
【化7】
(式中、R23、R24、R28及びR29はそれぞれ独立して、炭素数1~25の炭化水素基を表し、R25~R27はそれぞれ独立して、炭素数1~25の二価の炭化水素基を表し、複数のR23は、一緒になって環を形成していてもよい。)
【0071】
23、R24、R28及びR29の炭素数1~25の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、炭素数1~25のアルキル基、炭素数2~25のアルケニル基等の脂肪族基;炭素数6~25の芳香族基が挙げられる。脂肪族基としては、炭素数3~20のアルキル基が好ましく、炭素数4~19のアルキル基がより好ましい。芳香族基としては、フェニル基、置換フェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられ、フェニル基、置換フェニル基が好ましい。置換フェニル基が有する置換基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。複数のR23、R24、R28及びR29はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。R25~R27の炭素数1~25の二価の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、炭素数1~25のアルキレン基、炭素数2~25のアルケニレン基等の二価の脂肪族基;炭素数6~25の二価の芳香族基が挙げられる。脂肪族基としては、炭素数1~20のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。二価の芳香族基としては、フェニレン基、置換フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基が挙げられる。置換フェニレン基が有する置換基としては、置換フェニル基と同様のものが挙げられる。複数のR25~R27はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。ある好適な実施形態では、リン系化合物(C3)は、R23が直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基で置換された置換フェニル基であり、3つのR23がすべて同一である、一般式[V]で表される化合物である。
【0072】
リン系化合物(C3)としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられ、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトが好ましい。リン系化合物(C3)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本発明の樹脂組成物のある好適な実施形態としては、本発明の効果が得られる限り、フェノール系化合物(C1)とアミン系化合物(C2)を含んでもよく、フェノール系化合物(C1)とリン系化合物(C3)を含んでもよく、アミン系化合物(C2)とリン系化合物(C3)を含んでもよく、フェノール系化合物(C1)とアミン系化合物(C2)とリン系化合物(C3)を含んでもよい。フェノール系化合物(C1)とリン系化合物(C3)を含む樹脂組成物、又はアミン系化合物(C2)とリン系化合物(C3)を含む樹脂組成物が効果的であり、特にアミン系化合物(C2)とリン系化合物(C3)を含む樹脂組成物が効果的である。重合体組成物(P)100質量部において、フェノール系化合物(C1)とアミン系化合物(C2)とリン系化合物(C3)の合計の含有量は0.001~15質量部が好ましく、0.005~10質量部がより好ましい。本発明の樹脂組成物において、フェノール系化合物(C1)及びアミン系化合物(C2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、リン系化合物(C3)を含む場合の混合比率は特に限定されないが、フェノール系化合物(C1)及びアミン系化合物(C2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の質量(WX)とリン系化合物(C3)の質量(WY)の質量比(WX/WY)が90/10~50/50であることが好ましい。質量比がこの範囲であると、2種の化合物を併用して含む場合の効果が表れやすい。当該質量比(WX/WY)は、好ましくは85/15~55/45、さらに好ましくは80/20~60/40である。
【0074】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の他成分を含んでいてもよい。上記他成分としては、例えば着色剤、光安定剤、加硫剤及び加硫促進剤、無機添加剤(シリカ等)が挙げられる。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、成形体(フィルム、シート、ボード、繊維等)、多層構造体、添加剤、相溶化剤、コート剤、バリア材、シーリング剤(金属シーラント等)、接着剤等の広範な用途に使用できる。
【0076】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【実施例
【0077】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
【0078】
[樹脂組成物のビニルアルコール系重合体(A)と共重合体(B)との質量比の算出]
後述する実施例及び比較例のグラフト重合反応で得られた樹脂組成物を抽出溶媒(ポリビニルアルコールの場合:水、エチレン-ビニルアルコール共重合体の場合:水/イソプロパノール=4/6(質量比)混合)に添加し、80℃で3時間抽出処理を行った。抽出液を濃縮し、得られた抽出物、及び抽出されなかった残渣の質量をそれぞれ測定した。係る抽出物の質量が上記樹脂組成物に含まれるビニルアルコール系重合体(A)の質量(Waとする)であり、抽出されなかった残渣の質量が上記樹脂組成物に含まれるグラフト共重合体(B1)の質量(Wbとする)である。これらの質量から(A)/(B1)の質量比を算出した。なお、当該処理における抽出物がグラフト共重合体(B1)を含まず、ビニルアルコール系重合体(A)のみであることは、抽出物の1H-NMR分析から確認した。
【0079】
[ビニルアルコール系重合体(B-1)単位とジエン系重合体(B-2)単位の合計質量に対するジエン系重合体(B-2)単位の含有率の算出]
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の質量を「Wab」とし、Wabと、反応に使用したビニルアルコール系重合体(B-1)の質量の差を「Wq」とする。上述の方法で算出された樹脂組成物中のビニルアルコール系重合体(A)の質量を「Wa」とし、Wab-Waをグラフト共重合体(B1)の質量「Wb」とした。そして、Wb-Wqをビニルアルコール系重合体(B-1)単位からなる主鎖の質量とし、Wqをジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖の質量として、ビニルアルコール系重合体(B-1)単位からなる主鎖とジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖の合計質量に対するジエン系重合体(B-2)単位からなる側鎖の含有率を算出した。
【0080】
[総変性量の算出]
(ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)がポリビニルアルコールの場合)
原料のポリビニルアルコールの酢酸ビニル単位をa1質量%、ビニルアルコール単位をb1質量%とする。以下の計算式に従い、総変性量(樹脂組成物の全単量体単位に対する、グラフト重合された単量体の含有量)を算出した。
変性量[mol%]=Z1/(X1+Y1+Z1)×100
上記式中、X1、Y1、Z1は以下の数式で算出される値である。
1={(原料のポリビニルアルコール(質量部))×(a1/100)}/86
1={(原料のポリビニルアルコール(質量部))×(b1/100)}/44
1={(反応後の樹脂組成物(質量部))-(原料のポリビニルアルコール(質量部))}/(グラフト重合する単量体の分子量)
【0081】
(ビニルアルコール系重合体(A)及びビニルアルコール系重合体(B-1)がエチレン-ビニルアルコール共重合体の場合)
原料のエチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位をa質量%、ビニルアルコール単位をb質量%とする。以下の計算式に従い、総変性量(樹脂組成物の全単量体単位に対する、グラフト重合された単量体の含有量)を算出した。
変性量[mol%]=Z/(X+Y+Z)×100
上記式中、X、Y、Zは以下の数式で算出される値である。
={(原料のエチレン-ビニルアルコール共重合体(質量部))×(a/100)}/28
={(原料のエチレン-ビニルアルコール共重合体(質量部))×(b/100)}/44
={(反応後の樹脂組成物(質量部))-(原料のエチレン-ビニルアルコール共重合体(質量部))}/(グラフト重合する単量体の分子量)
【0082】
[樹脂組成物中の酸化防止剤(C)の含有率の算出]
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を、熱分解ガスクロマトグラフィー装置(アジレント・テクノロジー株式会社製GC/MS Agilent7890A/5975C、パイロライザ:フロンティア・ラボ株式会社製 ダブルショットパイロライザ)を用い、以下の条件に従って樹脂組成物中の酸化防止剤(C)の含有率を算出した。
熱脱着温度:100℃/0min-10℃/min-320℃/0.1min
カラム:HP-5ms
GC注入温度:290℃
スプリット比:50/1
GCオーブン温度:50℃/1min-10℃/min-290℃/15min
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/min)
質量範囲:m/z 29-600
【0083】
[ESR測定によるラジカル量とg値、超微細結合定数(A値)の算出]
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物をESR測定用のガラス管に入れ、電子スピン共鳴装置(ブルカージャパン株式会社製 EMXplus、付属装置:オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製クライオスタット ESR910)を用い、以下の条件に従ってESR測定を行い、得られたESRスペクトルからg値、A値を算出した。また、ラジカル量(mmol/kg)は、得られたESRスペクトルの信号強度から求めたラジカル数を測定試料質量で除した値(個/kg)を、アボガドロ数を用いてモル換算して算出した。
温度:室温
中心磁場:3360~3390G付近
磁場掃引範囲:400G
変調:100kHz、5G
マイクロ波:9.5GHz、0.016mW
掃引時間:83.89s×8回
時定数:163.84ms
【0084】
[安定性評価]
各実施例及び比較例の樹脂組成物70質量部に対しヘプタンを30質量部混合し、得られた湿潤状態の混合物をアルミバットに広げ、表面をアルミ箔で覆った状態で20℃、50%RHの環境下で静置した。静置開始から10日が経過した後の混合物をサンプリングし、質量を測定した(W1)。これを40℃で終夜乾燥した後再度質量を測定し(W2)、下記式からサンプリングした混合物の固形分濃度(A、%)を算出した。
固形分濃度(A)=W2/W1×100
また、W1の質量測定時にサンプリングした混合物の一部を別途採取し、質量を測定した(W3)。これをテトラヒドロフラン中で60℃、30分撹拌した後、濾別して樹脂組成物を分離する操作を6回繰り返した。6回の操作で得られた濾液(分解物を含むもの)を全て混合し、溶媒を減圧留去した後、40℃で終夜真空乾燥した。得られた抽出乾燥物の質量を測定し(W4)、下記式からサンプリングした混合物に含まれる分解物発生量(%)を算出した。
分解物発生量(%)=W4/W3×{(A/100)}×100
この分解物発生量の数値が大きいほど、経時的な分解物の発生量が大きく、安定性が悪いことを示す。
【0085】
[引張弾性率及び伸度の評価]
上記安定性評価に供した後の各実施例及び比較例の樹脂組成物を、200℃で120秒プレス成形して、厚さ100μmのプレスフィルムを作製し、窒素雰囲気下で150kGyの電子線を照射した。照射後のフィルムを幅10mmのダンベル型にカットし、20℃、70%RHの保管環境下で一週間調湿した後、オートグラフ(株式会社島津製作所製「AG-5000B」)を用いて引張弾性率及び破断伸度を測定した(ロードセル1kN、引張速度500mm/min、チャック間距離70mm)。表に記載の破断伸度の値は5回測定の平均値を採用した。
【0086】
[実施例1]
市販のエチレン-ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、E105、エチレン単位含有率44mol%、エチレン質量分率33.3質量%、ビニルアルコール質量分率66.7質量%、MFR(210℃、荷重2160g)13.0g/10分)を粉砕した後、目開き75μm篩と目開き212μmの篩を用いて、振とうした際に両篩の間にトラップされた粒子を回収して分級された粒子を得た。得られた粒子100質量部(含水率0.5質量%)に窒素雰囲気下、電子線(30kGy)を照射し、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得た。
これとは別に、撹拌機、窒素導入管及び粒子の添加口を備えたオートクレーブに、イソプレン485質量部を仕込み、氷冷した状態で300Torrまで減圧後窒素で常圧に戻す操作を3回実施し、系内を窒素置換した。このオートクレーブに電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を100質量部添加し、オートクレーブを密閉して、再び氷冷した状態で300Torrまで減圧後窒素で常圧に戻す操作を3回実施し、系内を窒素置換した。その後内温が68℃になるまで加温した。共重合体粒子がイソプレン中に分散した状態で4時間68℃での加熱撹拌を継続し、グラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後にろ別して粒子を回収した後、ヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物のH-NMR分析から確認し、7回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
さらに洗浄後の粒子を脱イオン水に添加し、80℃で1時間処理した後、再び粒子をろ別し、得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0087】
[実施例2]
実施例1と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得た。
次に、撹拌機、窒素導入管及び粒子の添加口を備えたオートクレーブに、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体100質量部を添加し、系内に窒素を封入、脱圧する操作を5回繰り返して系内を窒素置換した。ここに液化ブタジエン250質量部を仕込み、オートクレーブを密閉して内温が65℃になるまで加温、そのまま4時間加熱撹拌を継続しグラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後、解圧しながら残留するブタジエンを除去した。得られた反応後の粒子をヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリブタジエンが抽出除去されていることを抽出物のH-NMR分析から確認し、4回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリブタジエンは残留していなかった。
さらに洗浄後の粒子を脱イオン水に添加し、80℃で1時間処理した後、再び粒子をろ別し、得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0088】
[実施例3]
実施例1と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得て、実施例1と同様にしてグラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後に、0.02質量部のジブチルヒドロキシトルエン(以下BHTと記す)を添加した後、ろ別して粒子を回収した。その後、BHTを50ppm含有するヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物のH-NMR分析から確認し、7回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0089】
[実施例4]
実施例1と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得て、実施例1と同様にしてグラフト重合を行った。
その後、その後、常温まで冷却した後に、0.1質量部のジブチルヒドロキシトルエン(以下BHTと記す)を添加した後、ろ別して粒子を回収した。その後、BHTを200ppm含有するヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物のH-NMR分析から確認し、7回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0090】
[実施例5]
実施例1と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得て、実施例1と同様にしてグラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後にろ別して粒子を回収した後、ヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物のH-NMR分析から確認し、7回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
さらに洗浄後の粒子を、ヒドロキノン(以下HQと記す)を200ppm含有する脱イオン水に添加し、80℃で1時間処理した後、再び粒子をろ別し、得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0091】
[実施例6]
市販のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、Poval 5-74、けん化度74mol%、酢酸ビニル質量分率40.7質量%、ビニルアルコール質量分率59.3質量%)を粉砕した後、目開き75μm篩と目開き212μmの篩を用いて、振とうした際に両篩の間にトラップされた粒子を回収して分級された粒子を得た。得られた粒子100質量部(含水率0.5質量%)に窒素雰囲気下、電子線(30kGy)を照射し、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得た。
これとは別に、撹拌機、窒素導入管及び粒子の添加口を備えたオートクレーブに、イソプレン485質量部を仕込み、氷冷した状態で300Torrまで減圧後窒素で常圧に戻す操作を3回実施し、系内を窒素置換した。このオートクレーブに電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を100質量部添加し、オートクレーブを密閉して、再び氷冷した状態で300Torrまで減圧後窒素で常圧に戻す操作を3回実施し、系内を窒素置換した。その後内温が68℃になるまで加温した。共重合体粒子がイソプレン中に分散した状態で4時間68℃での加熱撹拌を継続し、グラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後に、0.02質量部のBHTを添加した後、ろ別して粒子を回収した。その後、BHTを50ppm含有するヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物の1H-NMR分析から確認し、5回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、ポリビニルアルコールとグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0092】
[実施例7]
市販のエチレン-ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、F101、エチレン単位含有率32mol%、エチレン質量分率23.0質量%、ビニルアルコール質量分率77.0質量%、MFR(210℃、荷重2160g)3.8g/10分)を粉砕した後、目開き75μm篩と目開き212μmの篩を用いて、振とうした際に両篩の間にトラップされた粒子を回収して分級された粒子を得た。得られた粒子100質量部(含水率0.5質量%)に窒素雰囲気下、電子線(20kGy)を照射し、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得た。
これとは別に、撹拌機、窒素導入管及び粒子の添加口を備えたオートクレーブに、イソプレン240質量部、イソプロパノール245質量部を仕込み、氷冷した状態で300Torrまで減圧後窒素で常圧に戻す操作を3回実施し、系内を窒素置換した。このオートクレーブに電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を100質量部添加し、オートクレーブを密閉して、再び氷冷した状態で300Torrまで減圧後窒素で常圧に戻す操作を3回実施し、系内を窒素置換した。その後内温が68℃になるまで加温した。共重合体粒子がイソプレン中に分散した状態で4時間68℃での加熱撹拌を継続し、グラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後に、0.02質量部のBHTを添加した後、ろ別して粒子を回収した。その後、BHTを50ppm含有するヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物の1H-NMR分析から確認し、5回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、ポリビニルアルコールとグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0093】
[比較例1]
市販のエチレン-ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、E105)を評価した。物性評価結果を表1に示す。
【0094】
[比較例2]
実施例1と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得て、実施例1と同様にしてグラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後にろ別して粒子を回収した後、ヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリイソプレンが抽出除去されていることを抽出物の1H-NMR分析から確認し、7回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリイソプレンは残留していなかった。
得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0095】
[比較例3]
実施例2と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得て、実施例2と同様にしてグラフト重合を行った。
その後、常温まで冷却した後、解圧しながら残留するブタジエンを除去した。得られた反応後の粒子をヘプタンに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。本操作では微量副生するポリブタジエンが抽出除去されていることを抽出物の1H-NMR分析から確認し、4回目の洗浄操作以降抽出物は確認されなかった。すなわち、粒子中にポリブタジエンは残留していなかった。
得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥して、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。樹脂組成物の分析結果及び物性評価結果を表1に示す。
【0096】
[比較例4]
特公昭41-021994号に相当する比較例として、以下の比較例4を行った。
実施例1と同様にして、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を得た。
次に、撹拌機、窒素導入管及び粒子の添加口を備えたオートクレーブに、電子線を照射したエチレン-ビニルアルコール共重合体100質量部、メタノール99質量部を添加し、系内に窒素を封入、脱圧する操作を5回繰り返して系内を窒素置換した。ここに液化ブタジエン149質量部を仕込み、オートクレーブを密閉して室温で19時間撹拌を継続しグラフト重合を行った。
その後、解圧しながら残留するブタジエンを除去した。得られた反応後の内容物をろ過して粒子を単離した後、粒子をメタノールに添加し、15分撹拌洗浄し、粒子をろ別する洗浄操作を10回繰り返した。得られた粒子を40℃で終夜真空乾燥した後、バッチミキサーに粒子を入れ、175℃で15分混練した。得られた混練物を凍結粉砕し、エチレン-ビニルアルコール共重合体とグラフト共重合体とを含む目的の樹脂組成物を得た。物性評価結果を表1に示す。なお、樹脂組成物の分析については、上記方法に従い分析を試みたが、抽出溶媒への可溶性差による成分分離が困難であり、構造の詳細を同定できなかったが、グラフト重合前後の粒子の質量変化から、4%の質量増加を確認した。
【0097】
【表1】
【0098】
上記実施例から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、ビニルアルコール系樹脂に比べ高い柔軟性を有しながら、保存安定性にも優れ、長時間の保管環境下でも分解物が生じにくいことがわかる。従って、従来のビニルアルコール系重合体よりもしなやかで割れにくい成形体を形成することが期待される。
【0099】
比較例1のように、未変性のビニルアルコール系樹脂は、弾性率が高く、硬く脆い欠点を抱えている。比較例2及び3のように、ラジカル量が少ない場合でも、A値が本発明の範囲から逸脱する樹脂組成物は、大気下でジエン系重合体の部分が経時分解し易い。分解物が生じた状態の樹脂組成物は、熱成形後にクラック等の欠陥が生じやすく、比較例2及び3のフィルムは柔軟化して引張弾性率が低下した半面、フィルムが破断し易いことから伸度が低下した。この経時的な分解現象は放置期間に応じてさらに進行することから、A値が本発明の範囲から逸脱する樹脂組成物は成形後に安定した物性を発現することができないと考えられる。比較例4では、樹脂組成物は、弾性率が高く、硬く脆い欠点を抱えていた上、経時的な分解現象が見られた。