(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】薬物送達デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
A61M5/315
A61M5/315 550N
A61M5/315 500
(21)【出願番号】P 2021542367
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 EP2020051454
(87)【国際公開番号】W WO2020152192
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-25
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ブランケ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ユーグル
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ポール・モーリス
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・メレディス・ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ジェフリー・アーサー・マーシュ
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・スティール
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514590(JP,A)
【文献】特表2016-507302(JP,A)
【文献】国際公開第2018/134385(WO,A1)
【文献】特表2010-524525(JP,A)
【文献】特表2008-522754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイス(100)であって:
ハウジング(102)と、
該ハウジング(102)内に配置されたプランジャ(160)であって、長手方向軸(X)に沿って可動であり、薬剤容器内のピストンを遠位方向(D)に押すように適用されており、回転が防止されており、外ねじ山(162)を含むプランジャ(160)と、
ハウジング(102)内に配置された駆動ナット(170)であって、プランジャ(160)の外ねじ山(162)に係合する内ねじ山(171)を含み、駆動ナット(170)とハウジング(102)との間に軸方向支承部(172)が配置されて、ハウジング(102)に対する駆動ナット(170)の軸方向運動が防止または制限される、駆動ナット(170)と、
共同回転するように駆動ナット
(170)に連結された少なくとも1つの回転可能な構成要素(150、180)と、少なくとも1つの非回転可能な構成要素(110)とを介して、遠位方向(D)に駆動ナット(170)に対して力をかけるように構成された機構であって、少なくとも1つの回転可能な構成要素(150、180)と、少なくとも1つの非回転可能な構成要素(110)との間に支承部(152)が配置され、該支承部(152)が、軸方向支承部(172)よりも小さい直径を有する、機構と
を含
み、
少なくとも1つの回転可能な構成要素は、ハウジング(102)に配置された駆動スリーブ(150)を含み、
駆動ナット(170)と駆動スリーブ(150)は、軸方向には互いに対して動くことが可能であり、
駆動スリーブ(150)は、該駆動スリーブ(150)のハウジング(102)に対する回転が防止される近位位置と、長手方向軸(X)を中心として該駆動スリーブ(150)の回転が可能になる遠位位置との間で、長手方向軸(X)に沿って可動であって、
少なくとも1つの回転可能な構成要素(150、180)が共同回転するように駆動ナット(170)に連結されることを特徴とし、ここで、駆動スリーブ(150)と駆動ナット(170)との間の駆動スプライン(173)は、ハウジング(102)に対して共同回転するように駆動スリーブ(150)と駆動ナット(170)とを連結するが、駆動ナット(170)に対する駆動スリーブ(150)の軸方向運動は可能にしている、前記薬物送達デバイス。
【請求項2】
駆動スリーブ(150)と駆動ナット(170)との間に配置されて、駆動スリーブ(150)と駆動ナット(170)とを長手方向軸(X)に沿って引き離すように付勢するスリーブばね(180)を、少なくとも1つの回転可能な構成要素がさらに含む、請求項
1に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項3】
駆動スリーブ(150)および/または駆動ナット(170)に駆動トルクをかけるように構成された駆動機構をさらに含む、請求項1
または2に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項4】
支承部(152)は点支承部(152)である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項5】
少なくとも1つの非回転可能な構成要素は、遠位方向(D)に押下されるように構成されたボタン(110)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項6】
ボタン(110)は、少なくとも押下されたときに、駆動スリーブ(150)に当接する、請求項5に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項7】
ボタン(110)を近位方向(P)に付勢するボタンばね(111)をさらに含む、請求項
5または6に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項8】
ボタン(110)を完全に押下すると、駆動スリーブ(150)は駆動ナット(170)に当接するように構成されている、請求項
5~7のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項9】
ボタン(110)を完全に押下すると、軸方向支承部(172)の摩擦トルクが、確実に駆動機構の駆動トルクよりも小さくなるように、スリーブばね(180)が寸法設定されている、請求項
2を引用する請求項5~8のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項10】
駆動ナット(170)とボタン(110)との間の力伝播経路に、力増倍器(190)が配置されている、請求項
5~9のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項11】
力増倍器(190)は、ハウジング(102)上の少なくとも1つの支持部(191)を含み、ボタンばね(111)は、力伝播経路のうちの非回転部分の一部であるダイヤフラムばねとして構成され、ボタンばね(111)の外側縁部(111.1)は支持部(191)に連結され、その一方で、ボタンばね(111)の中央領域(111.2)はボタン(110)によって係合され、ボタンばね(111)と駆動スリーブ(150)との間に中間部分(192)が配置され、それにより支承部(152)が、中間部分(192)と駆動スリーブ(150)との間にある、請求項
10に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項12】
中間部分(192)は、複数の近位突出部または周囲方向の近位縁部(193)を含み、該近位縁部(193)は、外側縁部(111.1)と中央領域(111.2)との間のボタンばね(111)の一部によって係合される、請求項
11に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項13】
軸方向支承部(172)は、遠位方向(D)の負荷において少ない摩擦を有するように構成されているが、近位方向(P)の負荷においてブレーキとして作用するように構成されている、請求項1~
12のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項14】
軸方向支承部(172)は、ハウジング(102)と駆動ナット(170)に整合表面(172.1、172.2)を含み、整合表面(172.1、172.2)は、近位方向(P)に先細りになっている、請求項1~13のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【請求項15】
駆動スリーブ(150)とハウジング(102)との間にスプライン(151)が配置されて、駆動スリーブ(150)が近位位置にあるときに、駆動スリーブ(150)の回転が防止され、駆動スリーブ(150)が遠位位置に動かされたとき、スプライン(151)は係合解除するように適用されて、それにより駆動スリーブ(150)は回転できるようになる、請求項1~14のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、薬物送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から、巻上げ式の注射デバイスが知られており、このデバイスでは、回転可能なダイヤルグリップなどのユーザハンドルに対してユーザによって加えられたトルクが、ドライブトレインに沿って伝えられて、ねじりばねなどの回転エネルギー貯蔵ユニットを巻き上げかつ/または繰り出す。回転エネルギー貯蔵ユニットは、回転可能に駆動可能な排出機構を駆動する。回転エネルギー貯蔵ユニットが解放されると、蓄積された回転エネルギーに対応する薬物用量が送達される。
【0003】
ドライブトレインは、回転可能な要素を、回転貯蔵ユニットのトルク負荷に対抗して複数の別個の角度位置のうちの1つの位置に維持するためのラチェットを含んでよいことがさらに知られており、このラチェットは、ユーザハンドルにトルクを加えることにより、1つの位置から隣接する位置へと切替え可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、許容された状態の全範囲にわたってより均質的な動作を実現するという目的のために、可変用量の巻上げ送達機構のドライブトレインの内部状態と、このドライブトレイン内の選択された境界面における摩擦協働の範囲との間の依存性を、新規に導入するかつ/または適切に適合させるという概念により、改善された薬物送達デバイスを提供することである。より具体的には、「状態」という用語は、「運動学的状態」および「負荷状態」も含むと理解してよい。以下、「運動学的状態」という用語は、ドライブトレイン全体の許容された動作状況に属する、ドライブトレイン要素のあらゆる種類の絶対位置および相対位置、ならびに絶対配向および相対配向を包含するものと理解してよく、その一方で「負荷状態」という用語は、許容された動作状況の間にドライブトレイン要素に対して作用するあらゆる種類の力およびトルクを包含するものと理解してよい。したがって、許容された動作中に、ドライブトレイン部材の境界面に沿って生じるあらゆる種類の本質的な摩擦力も、「負荷状態」という用語の意味に含まれる。本質的な摩擦と、本開示によって提示される概念に基づく摩擦とを適切に区別するために、後者は、より平衡化されたドライブトレイン動作をもたらすための全体的な目標を考慮して、「摩擦の変調依存性」または略して「変調摩擦」と呼ぶこととする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、摩擦と運動学的状態との間の変調依存性は、全体的に異なる2つのラインに沿って実現することができ、これは、解放可能な回転接続を用いた一時的な組合せとしてドライブトレインを理解することができる典型的な状況を考慮したものであり、その一時的な組合せは、一方で交互用量設定ユニット、および他方で用量ごとに一方向に送る段階的な排出ユニットから作られる。ここで、これらのラインのうちの第1のラインに沿って、本開示は、用量設定および/または用量排出の動作過程で、用量設定ユニットにおいて生じる摩擦効果を変調するための手法を提供する。これは、排出動作に必要な機械的エネルギーが、用量設定動作の過程でユーザによって供給されるエネルギーから直接取得される、いわゆる「エナジャイズオンダイヤル」タイプの巻上げ機構に関して有用な場合がある。特に、これは、加えられる力とその結果生じる変形との間、またはその逆の間に、多少なりとも有意な非一定の関係を有する機械的ばね、または同様の機械的引っ張り力の蓄積に基づく巻上げ機構に対して、好ましい結果とともに適用することができる。たとえば、巻上げ式の送達機構において一般に使用される金属のねじりばねは、引っ張りトルクと巻上げ角度との間に、おおよそ線形の依存性、いわゆるばね定数を有する。多くの用途において、この線形挙動は欠点であると考えられており、したがってコストと包装の限度内で、幅広く平坦な定数を有するばねを使用し、より高い初期付勢力を同時に加えることによって、対処されている。
【0006】
第1のラインの手法に加えて、またはその代替として、先に述べた第2のラインに沿って、ドライブトレインの排出部分の運動学的状態とともに摩擦の変調依存性を導入することができる。これは特に、容器内の薬物液体の全量を排出するのに適したエネルギー量が、すでにドライブトレインの初期構成に蓄えられている完全に事前付勢された、または事前張力をかけられた送達システムに関して、役立つことがある。全般的な概念に関して、概念の適切な実現は、不均質な挙動が最初に導入されている場合に、運動レベルに対する摩擦効果の修正を探求すべきであることが、これらの検討から明らかになるはずである。以下に提示するより具体的な実施形態は、たとえばねじりばねの巻上げ機構における非線形の駆動トルクが、ドライブトレインの回転状態に対する摩擦の変調依存性という概念によって、かなりの程度まで補償可能であるという考えを、熟練した読者に提供する。
【0007】
さらに、前に、または単独で設定する手法に加えて、境界面摩擦と、ドライブトレインの負荷状態との間の変調依存性を導入してもよい。ここでも、これは、ドライブトレインの用量設定部分および排出部分に適用可能である。しかし、典型的な状況において、用量設定部分は、運動学的状態にそれほど直接的にリンクされているわけではないその負荷状態の著しい変動を受けない。その例として、「エナジャイズオンダイヤル」の用量設定部分の負荷状態は、その運動学的状態、すなわちそれに加えられる巻上げ角度の量に主に依存しており、この巻上げ角度の量が、最終的に用量設定に対応している。したがって、全般的に、ドライブトレインの内部負荷状態に影響を及ぼす外部抵抗の変動を原因とする不均質なまたは非一定の動作挙動を補償するために、変調摩擦を探求することが、より適切であることがわかり、これは典型的には、むしろその排出部分に適用される。著しい変動を受ける、よく知られている外部抵抗は、ドライブトレインの排出部分の出力部材に対抗して作用するカートリッジの栓から生じる反作用力である。明らかに、カートリッジの栓の反作用力は、カートリッジバイアルに対する栓の摩擦だけに依存するのではなく、カニューレを通る薬物液体の流れ抵抗もある程度含む。これに関し、別の様々な影響条件は、たとえば薬物液体の温度依存性の粘度、針通路の直径、針の長さ、および注射部位において個々の組織が維持している圧力などとして、非常によく知られている。
【0008】
本開示の一態様によれば、薬物送達デバイスは:
- ハウジングと、
- ハウジング内に配置されたプランジャであって、長手方向軸に沿って可動であり、薬剤容器内のピストンを遠位方向に押すように適用されており、回転が防止されており、外ねじ山を含むプランジャと、
- ハウジング内に配置された駆動ナットであって、プランジャの外ねじ山に係合する内ねじ山を含み、駆動ナットとハウジングとの間に軸方向支承部が配置されて、ハウジングに対する駆動ナットの軸方向運動が防止または制限される、駆動ナットと、
- 共同回転するように駆動ナットに連結された少なくとも1つの回転可能な構成要素と、少なくとも1つの非回転可能な構成要素とを介して、遠位方向に駆動ナットに対して力をかけるように構成された機構であって、少なくとも1つの回転可能な構成要素と、少なくとも1つの非回転可能な構成要素との間に支承部が配置され、この支承部が、軸方向支承部よりも小さい直径を有する、機構とを含む。
【0009】
例示的実施形態において、少なくとも1つの非回転可能な構成要素は、遠位方向に押下されるように構成されたボタンを含む。
【0010】
例示的実施形態において、少なくとも1つの回転可能な構成要素は、ハウジングに配置された駆動スリーブであって、駆動スリーブの回転が防止される近位位置と、長手方向軸を中心として駆動スリーブの回転が可能になる遠位位置との間で、長手方向軸に沿って可動である駆動スリーブを含む。
【0011】
例示的実施形態において、ボタンは、少なくとも押下されたときに、駆動スリーブに当接する。
【0012】
例示的実施形態において、駆動ナットと駆動スリーブは、共同回転するように連結されているが、軸方向には互いに対して動くことが可能である。
【0013】
例示的実施形態において、駆動スリーブと駆動ナットとの間に配置されて、駆動スリーブと駆動ナットとを長手方向軸に沿って引き離すように付勢するスリーブばねを、少なくとも1つの回転可能な構成要素がさらに含む。
【0014】
例示的実施形態において、薬物送達デバイスは、駆動スリーブおよび/または駆動ナットに駆動トルクをかけるように構成された駆動機構をさらに含む。
【0015】
例示的実施形態において、支承部は点支承部である。
【0016】
例示的実施形態において、ボタンは、点支承部において駆動スリーブに係合する。
【0017】
例示的実施形態において、薬物送達デバイスは、ボタンを近位方向に付勢するボタンばねをさらに含む。
【0018】
例示的実施形態において、駆動スリーブとハウジングとの間にスプラインが配置されて、駆動スリーブが近位位置にあるときに、駆動スリーブの回転が防止され、駆動スリーブが遠位位置に動かされたとき、スプラインは係合解除するように適用されて、それにより駆動スリーブは回転できるようになる。
【0019】
例示的実施形態において、薬物送達デバイスは、ハウジングに対するプランジャの回転を防止するように配置されたプランジャスプラインをさらに含む。
【0020】
例示的実施形態において、薬物送達デバイスは、駆動スリーブと駆動ナットとの間の駆動スプラインであって、ハウジングに対して共同回転するように駆動スリーブと駆動ナットとを連結するが、駆動ナットに対する駆動スリーブの軸方向運動は可能にするように適用された駆動スプラインをさらに含む。
【0021】
例示的実施形態において、駆動機構は、ハウジングに対して駆動スリーブおよび/または駆動ナットを回転させるように構成されたねじりばねを含む。
【0022】
例示的実施形態において、ボタンを完全に押下すると、駆動スリーブは駆動ナットに当接するように構成されている。
【0023】
例示的実施形態において、ボタンを完全に押下すると、軸方向支承部の摩擦トルクが、確実に駆動機構の駆動トルクよりも小さくなるように、スリーブばねが寸法設定されている。
【0024】
例示的実施形態において、駆動ナットとボタンとの間の力伝播経路に、力増倍器が配置されている。
【0025】
例示的実施形態において、力増倍器は、ハウジング上の少なくとも1つの支持部を含み、ボタンばねは、力伝播経路のうちの非回転部分の一部であるダイヤフラムばねとして構成され、ボタンばねの外側縁部は支持部に連結され、その一方で、ボタンばねの中央領域はボタンによって係合され、ボタンばねと駆動スリーブとの間に中間部分が配置され、それにより支承部が、中間部分と駆動スリーブとの間にある。
【0026】
例示的実施形態において、中間部分は、外側縁部と中央領域との間のボタンばねの一部によって係合される複数の近位突出部または周囲方向の近位縁部を含む。
【0027】
例示的実施形態において、軸方向支承部は、遠位方向の負荷において少ない摩擦を有するように構成されているが、近位方向の負荷においてブレーキとして作用するように構成されている。
【0028】
例示的実施形態において、軸方向支承部は、ハウジングと駆動ナットに整合表面を含み、整合表面は、近位方向に先細りになっている。
【0029】
本明細書に記載の薬剤送達デバイスは、患者に薬物または薬剤を注射するように構成可能である。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内とすることができる。このようなデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの医療従事者によって操作され、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器を含むことができる。
【0030】
デバイスは、封止されたアンプルを使用前に穿孔する必要があるカートリッジベースのシステムを含むことができる。
【0031】
特定の薬剤との組合せで、ここに説明するデバイスを、必要な仕様内で動作するようにカスタマイズしてもよい。たとえば、ある特定の期間内で薬剤を注射するように、デバイスをカスタマイズしてもよい。他の仕様は、不快感を少なくもしくは最小限に抑えること、または人的要因、保存期間、有効期限、生体適合性、環境的配慮などに関するある特定の条件を含むことができる。このような変形形態は、たとえば、粘度約3cP~約50cPの範囲の薬物など、様々な要因に起因して生じることがある。その結果、薬物送達デバイスは多くの場合、サイズが約25ゲージ~約31ゲージの範囲にある中空針を含む。一般的なサイズは、27ゲージおよび29ゲージである。
【0032】
本開示の適用可能性のさらなる範囲は、以下に提供する詳細な説明から明らかになろう。しかし、本開示の趣旨および範囲内の様々な変更および修正は、この詳細な説明から、当業者には明らかになるので、詳細な説明および具体的な例は、本開示の例示的実施形態を示す一方で、例として与えられるに過ぎないことが理解されるべきである。
【0033】
本開示は、以下に提供する詳細な説明および添付図面から、より完全に理解されよう。図面は、単に例として提供されるものであり、本開示を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略図である。
【
図1B】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略図である。
【
図2A】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略詳細図である。
【
図2B】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略詳細図である。
【
図3】スライダの概略的な長手方向セクションを示す図である。
【
図4】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略詳細図である。
【
図5】ボタンが押下された状態の薬物送達デバイスの概略詳細図である。
【
図6】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略詳細図である。
【
図7】ボタンが押下された状態の薬物送達デバイスの概略詳細図である。
【
図8】薬物送達デバイスの例示的実施形態の概略詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
対応する部材は、すべての図において同じ参照符号を用いて印付けされる。
【0036】
本開示のいくつかの実施形態によれば、例示的な薬物送達デバイス10が、
図1Aおよび
図1Bに示してある。
【0037】
上述したデバイス10は、液体薬物を送達または排出して、患者の身体に注射するように構成される。デバイス10はハウジング11を含み、このハウジング11は典型的には、注射されることになる薬剤を収容するリザーバ(たとえば、シリンジ24または容器)と、送達工程の1つまたはそれ以上のステップを容易にするために必要な構成要素とを収容している。またデバイス10は、ハウジング11に対して分離可能に、特にデバイス10の遠位端または前端Dに取り付けることができるキャップアセンブリ12も含んでよい。典型的には、ユーザは、デバイス10が操作可能になる前に、ハウジング11からキャップアセンブリまたはキャップ12を取り外さなくてはならない。
【0038】
示してあるように、ハウジング11は、実質的に円筒形であってよく、長手方向軸Xに沿って実質的に一定の直径を有してよい。ハウジング11は、遠位領域20と近位領域21とを有する。「遠位」という用語は、注射部位に相対的に近い位置を指し、「近位」という用語は、注射部位から相対的に遠く離れた位置を指す。
【0039】
図2Aおよび
図2Bは、薬物を収容している不図示のカートリッジを受けるように適用された薬物送達デバイス100用の、たとえば、ばね駆動式注射ペン用の、用量ダイヤルおよび用量ディスプレイアセンブリの例示的実施形態の概略詳細図である。ハウジング102の近位端に、ダイヤルボタン110が設けられており、このダイヤルボタン110をユーザが回転させて、可変用量サイズを選択することができる。ハウジング102には、長手方向窓103がさらに設けられており、ユーザが目盛りドラム120を視覚的に確認できるようになっている。ハウジング102は、遠位方向Dにおいて目盛りドラム120を支持する内部突出部をさらに備えてもよい。
【0040】
目盛りドラム120の内部は、好ましくは、ばね駆動式の用量設定機構によって占有されており、これはたとえば、WO2006/045528A1、およびより詳細にはWO2016/055620A1に開示されている。これらの文献の開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
目盛りドラム120は、ダイヤルボタン110の回転に付随するようにダイヤルボタン110に直接連結されており、それによりユーザがダイヤルボタン110を回転させて用量を選択するとき、目盛りドラム120がダイヤルボタン110とともに回転する。ダイヤルボタン110と目盛りドラム120の両方は、いずれも軸方向に変位することなく回転するように配置される。ダイヤルボタン110と目盛りドラム120との間の接続は、解放可能な連結によって行うことができ、それにより、設定された用量が注射されたとき、ダイヤルボタン110が必ずしも目盛りドラム120とともに回転して戻るとは限らない。
【0042】
長手方向窓103は矩形であってよく、薬物送達デバイス100の長手方向に対して平行に延びている2本の長手方向境界線105と、長手方向境界線105に対して垂直な2本の横断方向境界線106とを有する。窓103は透明であってよく、または代替として、ハウジング102の開口部であってよい。長手方向境界線105には、長手方向に延びている径方向内向きに突出したリブを設けることができる。この実施形態において、リブは、長手方向窓103の長手方向境界線105より長くなるように、ハウジング102の全長にわたって成形することができる。
【0043】
目盛りドラム120は、らせん状トラックまたはねじ山121を有する外側表面を含む。さらに、目盛りドラムは印122を有していてよく、この印122は、目盛りドラム120に直接印刷することも、刻印することも、他のやり方で提供することもできる。開示される実施形態では、「0」~「100」の印が、目盛りドラム120にらせん状に提供されているが、
図2には10目盛りごとの印122しか示されていない。印のうちの1つが窓135に示されることになるが、隣接する印も、完全にまたは部分的に窓135に現れることがある。
【0044】
目盛りドラム120の外側のらせん状のねじ山121は、スライダ130の対応する雄ねじ山131によって係合される。
図3は、スライダ130の概略的な長手方向セクションである。スライダ130は管状であってよく、延長部133によって長くなった、その周囲の周囲部分132を有しており、この目的については以下で説明する。周囲部分132は、2つの凹部134間に提供され、この2つの凹部134は、ハウジング102の長手方向境界線105から径方向内向きに突出している2本の長手方向リブに係合し、それによりスライダ130は、軸方向にしか動くことができなくなる。スライダ130の周囲部分132には、窓135がさらに設けられており、この窓を通してユーザは目盛りドラム120を見ることができる。
【0045】
窓135の2つの辺、特に窓135の近位側と遠位側の辺に、目盛りドラム120のらせん状ねじ山121に係合するように適用された雄ねじ山131が設けられる。この係合が、凹部134と、ハウジング102の長手方向境界線105から径方向内向きに突出している2本の長手方向リブとの係合と組み合わされることにより、目盛りドラム120が回転するときには常にスライダ130が軸方向に移動する。スライダ130には、らせん状の案内表面136.1、136.2がさらに設けられており、この案内表面136.1、136.2は、
図2に示してあるスリーブ140のらせん状開口部141と相互作用する。開口部141と、スライダ130の案内表面136.1、136.2とのこの係合により、スライダ130が軸方向に摺動するときには常に、スリーブ140を回転させる。スリーブ140は、その近位端にカラーを有してよく、このカラーは、目盛りドラム120に載っているが、目盛りドラム120に接続されてはいない。したがって、スリーブ140は、目盛りドラム120から独立して回転する。さらに、らせん状開口部141は、その近位端に、拡張されたアクセス開口部を有して、らせん状開口部141にスライダ130を組み付けやすくしてよい。
【0046】
用量を設定するために、ユーザは、ダイヤルボタン110を回転させ、次いでこのダイヤルボタン110が、目盛りドラム120を回転させる。いずれかの方向への目盛りドラム120の回転は、スライダ130の軸方向運動に変換される。ハウジング102の長手方向窓103に対する、スライダ130、ひいてはスライド窓135の軸方向運動は、長手方向窓103およびスライド窓135において、一度に1つの印122しか提示されないように、目盛りドラム120に印刷された印のらせん状パターンと整合される。
【0047】
スライダ130が軸方向に移動するとき、スライダ130はスリーブ140を回転させ、らせん状開口部141を取り囲むスリーブ140の周囲領域144は、こうして目盛りドラム120の一部を覆い、これにより残りの印122を覆って視覚化されないようにする。
【0048】
見えない印122を、スライド窓135を通してユーザが見ることを完全に防止するために、スライダ130の軸方向長さは、好ましくは、目盛りドラム120のらせん状トラック121の可視部分を覆うのに十分なほど長い。したがって、スライダ130の周囲部分132に延長部133を設けることが有利な場合がある。目盛りドラム120の長さを十分に活用するため、スライダ130がその最も近位位置にあるときに、この延長部133を受けるためのポケットを、用量ダイヤルボタン110に設けてもよい。同様の空間が、ハウジング102の遠位端に設けられて、スライダ130を受けてもよい。スライダ130の遠位部分も、延長部分として形成可能である。
【0049】
このようなばね駆動式の用量設定機構は、ねじりばねを含んでよく、このねじりばねは、薬物送達デバイスのねじ切り部分に係合したねじ切りプランジャを回転させて、ねじりばねが解放されたときにプランジャを前進させるか、薬物送達デバイス100に軸方向に固定された駆動ナットであって、回転不能に固定されたプランジャに係合したねじ山を含む駆動ナットを回転させて、ねじりばねが解放されたときにプランジャを前進させるように構成されている。ダイヤルボタン110などの用量設定部材を回転させることにより、ねじりばねに張力をかけることができる。ハウジング102は、ハウジング102の遠位端に設けられた不図示のカートリッジホルダにさらに接続可能である。このカートリッジホルダは、薬物を収容している不図示のカートリッジを支持してよい。カートリッジホルダは、交換可能とすることも、ハウジング102に不可逆的に接続することもできる。
【0050】
従来の注射ペンにおいて、らせん状開口部141は、その全長にわたって均一な幅を有している。これとは異なり、本開示のらせん状開口部141は、特にらせん状開口部141の、より遠位側の縁部141.2のピッチが、より近位側の縁部141.1のピッチより勾配が大きくなるように、遠位方向Dに向かってわずかに広くなった幅を有している。さらに、らせん状案内表面136.1、136.2のうちの1つ、特にらせん状案内表面136.2は、スライダ130に取り付けられた固定端136.2.1と、固定端136.2.1の反対の自由端136.2.2とを有する弾性のある梁として構成され、この弾性のある梁は、らせん状開口部141の縁部、特により遠位側の縁部141.2と摩擦係合するように構成されている。弾性のある梁は、らせん状開口部141の縁部に接触するように構成された隆起部136.2.3を有してよい。らせん状開口部141の幅に応じて、すなわちスリーブ140に対するスライダ130の軸方向位置に応じて、弾性のある梁は、多少なりとも事前張力がかけられる。この事前張力により、相対運動中の弾性のある梁とスリーブ140との間の摩擦が決定され、ひいては目盛り表示によって消費される、ばね駆動からのトルクが決定される。
【0051】
らせん状開口部141の幅が遠位方向Dに広がっており、らせん状案内表面136.2が、らせん状開口部141の縁部に係合する弾性のある梁として構成されていることから、スライダ130がスリーブ140に沿って遠位方向に、すなわち印「0」に向かって進むにつれ、らせん状案内表面136.2とらせん状開口部141との間の摩擦が低減する。このことは、ばね駆動式の用量設定機構からの非一定のトルクを、少なくとも部分的に補償することができる。
【0052】
開示される構成は、摩擦を付加して、薬物送達デバイスのばね駆動式の用量設定機構内でばねトルクに抵抗するクラッチ機能の動作音量を低減することができる。
【0053】
本開示は、針を介して薬剤用量を送達するように動作可能な医療用デバイスに、追加的な機能性を提供する。この追加的な機能性は、駆動ばねからのトルクに抵抗するように作用する摩擦を導入して、前記トルクに同じく抵抗することがあるクラッチ機能を弱くできるようにし、それによりクラッチ機能の動作音量を低減することを含む。
【0054】
高いダイヤル設定用量において、ダイヤル設定クラッチに作用するトルク量を低減する傾向がある摩擦を加えることにより、クラッチ歯の形状またはクラッチばね力を弛緩させることができ、ダイヤル設定の音量が低減される。
【0055】
摩擦を導入するための多数の位置が考えられる。これらは、2つのカテゴリに分類される。
- 高いダイヤル設定用量において摩擦が生成され、徐々に低減して、低いダイヤル設定用量においてゼロになるように構成された、ゲージに関する境界面。このカテゴリ内で、実施形態は、大用量において本体内のゲージアパーチャとの干渉が大きくなるように、ゲージ舌状部の幅を変えることを含む。この実施形態は、軸方向力に対する、構成要素公差の影響を最小限に抑えることを目的とする。
- ダイヤル設定中には互いに対して動くが、投薬中には互いに対して動かない構成要素間の摩擦。この摩擦は、投薬中に駆動ばねからの使用可能な出力トルクに影響を及ぼさないので、ダイヤル設定用量に伴って変わる必要がない。このカテゴリ内で、実施形態は、ダイヤルのグリップと本体との間で径方向の干渉を導入することにより、摩擦を加えることを含む。この実施形態は、軸方向力に対する、構成要素公差の影響を最小限に抑えることを目的とする。
【0056】
摩擦を加えること自体により、ダイヤル設定の雑音や感触が変わるわけではない。しかし、摩擦を加えることにより、クラッチ歯の境界面をより弛緩した状態にすることができ、次いでこれにより、ダイヤル設定の音量が低減されることになる。
【0057】
図4は、薬物送達デバイス100のドライブトレインにおける、たとえば薬物を収容している不図示のカートリッジを受けるように適用された注射ペンの、排出部分の例示的実施形態を示す概略詳細図である。ハウジング102の近位端に、遠位方向Dに押下することができるボタン110が配置されている。弱い力のボタンばね111が提供されて、近位方向Pにボタン110を付勢してよい。この弱い力のボタンばね111は、ボタン111に対して作用する全体的な付勢力を必要に応じて増大させるための任意選択の手段として理解されるべきである。概して、全体的な付勢力のより重要な寄与は、遠位端にわたってボタン110に適用され、この遠位端において、ボタン110は、駆動スリーブ150の中央部分に当接する。ボタン110と駆動スリーブ150とのこの接触は、好ましくは、非常に低い摩擦で相対的な回転を可能にする点状の支承部152に制限される。駆動スリーブ150は、ハウジング102内に配置され、長手方向軸Xに沿って可動であり、駆動スリーブ150の軸方向位置に応じて、長手方向軸Xを中心として回転可能である。駆動スリーブ150とハウジング102との間にスプライン151が配置されて、駆動スリーブ150が近位位置にあるときに、駆動スリーブ150の回転を防止する。スプライン151は、駆動スリーブ150が遠位位置に動かされたとき係合解除されるように適用され、それにより駆動スリーブ150は回転できるようになる。プランジャ160は、ハウジング102内でかつ駆動スリーブ150内に配置されており、プランジャ160は、長手方向軸Xに沿って可動であり、カートリッジ(不図示)またはシリンジなどの薬剤容器でピストン(不図示)を押すように適用されている。ハウジング102に対するプランジャ160の回転を防止するために、プランジャスプライン161が配置されている。プランジャ160は、外ねじ山162を含む。ハウジング102内に、駆動ナット170が配置される。駆動ナット170は、プランジャ160の外ねじ山162に係合する内ねじ山171を含む。駆動ナット170とハウジング102との間に、軸方向支承部172が配置されて、ハウジング102に対する駆動ナット170の軸方向運動を防止または制限する。駆動スリーブ150と駆動ナット170との間に、スリーブばね180が配置されて、駆動スリーブ150と駆動ナット170とを、長手方向軸Xに沿って引き離すように付勢する。駆動スリーブ150と駆動ナット170との間の駆動スプライン173は、ハウジング102に対して共同回転するように駆動スリーブ150と駆動ナット170とを連結するが、駆動ナット170に対する駆動スリーブ150の軸方向運動は可能にする。ボタン110が押下されると、駆動スリーブ150が近位位置から遠位位置に動かされて、スプライン151が係合解除され、それにより駆動スリーブ150と駆動ナット170とを含むシステムが回転可能になる。回転は、ねじりばね(不図示)を含む駆動機構によって引き起こされて、ハウジング102に対して駆動スリーブ150および/または駆動ナット170を回転させ、それによりプランジャ160が遠位方向Dに移動して、カートリッジまたはシリンジ内のピストンを変位させてよい。駆動機構、および設定用量または利用可能容量に対応した回転角度の制限は、当技術分野において、たとえばWO2014/166909、WO2017/001692、WO2010/149209において既知であり、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
ボタン110を押下すると、この押下によりボタン110に作用する力が、点支承部152、駆動スリーブ150、およびスリーブばね180を介して駆動ナット170に伝播されて、ボタンばね111に加えて、注射をトリガするのに必要な最小作動力の一因となる。スリーブばね180は、ハウジング102に対して遠位方向Dに当接していないが、駆動ナット170に当接しており、この力伝播により、軸方向支承部を、プランジャ160の反作用力から完全にまたは部分的に解放することができる。駆動ナット170が回転してプランジャ160を遠位方向Dに押すとき、この反作用力が生じる。その結果、駆動ナット170は、軸方向支承部172に対抗して近位方向Pに押されて摩擦を生じさせ、それにより駆動ばねからのトルクの一部分が散逸される。ボタン110の押下により軸方向支承部を解放することにより、摩擦を低減することができる。反作用力の一部は、こうして軸方向支承部172から点支承部152に向かって逸らされ、この点支承部152は、軸方向支承部172よりはるかに小さい摩擦を生じさせる。これは、場合により、軸方向支承部172を低コストで、特にボール支承部ではなくスライド支承部を使用して実装可能にして、経済的な制約または必要性に適合させることができる。
【0059】
図5は、ボタン110が完全に押下された位置にある状態の薬物送達デバイス100の概略図である。概説した状況では、軸方向支承部170に対するある程度の軸方向力を、ボタン110のあらゆる位置にわたって維持するために、十分な付勢または事前張力が、スリーブばね180の包装に提供される。ほぼ事実上関連する境界条件は、示してある下端位置にボタン110を押し込むのに必要な力である。なぜなら、この力は、デバイスをトリガして薬物を送達するための個々のユーザの能力に、直接関係しているからである。さらに、取扱い中に意図しない動作を防止する最小トリガを有するための規則または他の必要性が存在することがある。当業者であれば、望まれる挙動を達成するために、どのようにばね定数およびばね付勢を選択しなくてはならないかを理解するであろう。それぞれの選択に応じて、ボタン110が押下されるときに、スリーブばね180の圧縮により、軸方向の力が増大し、軸方向支承部170をプランジャ160の反作用力から解放する機能が、同じ量だけ増大することになる。さらに、軸方向支承部172に対する解放をさらに提供するために、スリーブばね180の周りをショートカットする第2の力経路を提供することができる。図示してある状況において、これは、駆動スリーブ150と駆動ナット170との当接によって実現され、この当接は、ボタン110および駆動スリーブ150が、それらの最終的な軸方向端部位置に到達する前のわずかにオフセットした点において生じる。したがって、オフセット点と最終的な端部位置との間で、駆動スリーブ150がその後、遠位方向Dへ移動しても、ばねのさらなる圧縮は生じず、即座に軸方向支承部172を下向きに押すことになる。場合により、これを使用して、軸方向支承部172を浮遊位置にすることができ、この浮遊位置では、軸方向支承部172は事実上、いかなる軸方向力もハウジングに伝達しない。このような状況において、ボタン110に十分な力が加えられていれば、プランジャ160の反作用力のすべてが、点支承部152において支持される。
【0060】
好ましい使用事例において、典型的な軸方向負荷の状況に適合させるために、これらの概念に変形形態を適用する余地が大いに存在することが、理解されるべきである。状況によっては、過剰解放、すなわち前記力の伝播が、プランジャ160からの反作用力なしに、軸方向支承部172において完全に解消される状態になることがある。これは、たとえば、初期状態において、プランジャ160とカートリッジまたはシリンジのピストンとの間に間隙が与えられている場合に生じることがあり、これは公差に対処するための従来の構成である。したがって、力が完全に軸方向支承部172に伝播されることを前提として、軸方向支承部172の摩擦トルクが、確実に駆動機構の駆動トルクより小さくなるように、スリーブばね180を寸法設定してよい。そうでなければ、駆動機構は、前記間隙を閉じることができない恐れがある。しかし、異常に低いプランジャ160の反作用力に起因する、軸方向支承部172における摩擦の増大は、所望の機構挙動を生じさせるために利用することができる。たとえば、プランジャの反作用力172が全くなくても駆動機構を動かなくするような摩擦を生じさせないが、駆動ナット170の回転を単に遅くする摩擦は生じさせるように、軸方向支承部172のレイアウトを注意深く調整してよい。これは、場合により、プランジャ160がカートリッジの栓に接触しない状況において、加速から駆動ナット170を保護することを可能にする。これはたとえば、使い捨てデバイスの、または再使用可能デバイスにおいてカートリッジを交換した後の初期プライミング動作において生じることがある。このような状況における駆動ナット170の加速は、回転エネルギーの蓄積をもたらすことがあり、これによりプランジャ160が栓にぶつかるとき、または機構が機械的な端部止め具機能に到達するときに、高い力ピークが生じる。機構が過剰に加速すること、および高速で動作することを防止することは、損傷を回避するという目的だけに限定されず、治療を改善するため、または利便性の理由から、過剰に高い排出速度を回避するという使用事例にも関係することがある。適切なレイアウトは、たとえば排出速度と、デバイスに取り付けられたカニューレのゲージとの依存性を低減しやすくすることができる。サイズの小さいカニューレは、幅広いカニューレが弱い力で生成する流速と同じ流速を生成するために、より大きいプランジャ力を必要とする。説明した摩擦調整は、少しの力しか必要ない状況に反してプランジャ160が作用する状況において、駆動トルクの一部を除去するために使用可能である。
【0061】
軸方向支承部172を解放するという説明したやり方は、軸方向支承部172における摩擦損失を低減でき、同じ損失を異なる場所で発生させることはない。点支承部は、その直径が小さいことから、非常に低い摩擦しか発生させない。したがって、開示される解決策は、駆動システムに固有であると考えられてきた欠点を、支点軸駆動ではなく回転ナットに基づいて軽減する。本質的に、回転ナットに基づく駆動システムは、支点軸駆動と少なくとも同じ摩擦損失を有する。なぜなら、ねじ山の摩擦損失は、等しい直径、ピッチ、および摩擦係数において同じだからである。プランジャスプライン161に対するプランジャ160の摺動運動からの低い摩擦損失と比較すると、同様のことがこれにも当てはまる。しかし、従来の駆動システムとは異なり、回転ナットに基づき、より大きい摩擦損失は、本解決策によって回避することができる。駆動ナット170の低摩擦の補強のない従来の解決策は、軸方向支承部172において摩擦損失を発生させ、従来のレイアウトにおいて、この摩擦損失は、少なくともねじ山の摩擦損失と同程度に大きい。なぜなら、軸方向支承部172はプランジャ160を取り囲んでおり、したがって、軸方向支承部172は、ねじ山より大きい直径を有するからである。従来のレイアウトでは、軸方向支承部172が、プランジャ160からの反作用力をすべて支承する。同様の摩擦が組み合わされると、ねじ山および軸方向支承部172における軸方向の力が同じなので、ねじ山および軸方向支承部172において同じ線形の摩擦力が作用する。しかし、軸方向支承部172の直径の方が大きいので、軸方向支承部172における摩擦トルク損失の方が、ねじ山における損失より大きい。
【0062】
図4および
図5の実施形態のさらなる1つの目的は、駆動ナットのばね駆動式デバイスの概念について、ピストンの摩擦力が低いことによって注射スピードが速くなりすぎるのを防止することにあってよい。駆動ナット170は、プランジャ160にねじ込まれ、プランジャ160は、ハウジング102において、または追加的な構成要素において、たとえばプランジャスプライン161もしくはスプライン挿入部において、軸方向に案内される。
【0063】
軸方向支承部172は、ピストンを遠位方向Dに押すことにより、注射中に近位方向Pに押される。ピストンを移動させるために必要とされる力は、1回の注射ストロークにわたってほぼ一定であることが予想され、これにより機構の支承部出力を推定することができる。しかし、機構は減衰されないので、ピストンを移動させるのに必要な力が弱すぎたり、間隙がある場合のように損なわれたりする場合には、注射が早くなりすぎることがある。
【0064】
例示的実施形態において、クラッチばねをダイヤルスリーブと駆動ナット170との間に置くことができる。クラッチばねの力により、駆動ナット170が遠位方向Dに押される。駆動ナット170は、投薬中に近位方向Pに押され、駆動ナット170は、近位方向Pにおいて軸方向支承部172に当接する。ピストンを移動させるための力が弱すぎるまたは損なわれる場合には、クラッチばねが、軸方向支承部172の表面に対抗して駆動ナット170を遠位方向Dに押すことになり、軸方向支承部172は、高い摩擦を発生させるように特定の摩擦特性を有してよく、駆動ナット170の回転を遅くし、したがって注射スピードを低減させることができる。ピストンを移動させる力が十分に高くなるとすぐに、駆動ナット170は再び近位方向Pに後退し、軸方向支承部172の高摩擦表面にはもう接触しない。
【0065】
図4および
図5の実施形態は、
図2および
図3の実施形態と組み合わせることができる。
【0066】
図6は、
図6に提示された
図4および
図5の実施形態の上側部分に適用された修正形態についての概略詳細図であり、ここでは駆動ナット170とボタン110との間の力伝播経路の上側部分に、力増倍器190が配置されている。従来のレイアウトにおいて、トリガボタン110は、典型的には、プランジャ160に加えられる最小力の約半分であるトリガ力を提供する。したがって、
図4および
図5の実施形態において、軸方向支承部172は完全に解放されないことがある。力増倍器190は、たとえばボタン110に対して作用する作動力を、ハウジング102上の支持部191を用いて変換することにより、この制限を除去することができる。増倍器が付加的な力を提供するために、ハウジングにおけるいくらかの支持を必要とすることを考慮するとき、ボタン110と点支承部152との間に力増倍器190を置くことの利益が明らかになる。概説した状況において、この支持は、回転不能であってよく、したがって付加的な損失を回避することができる。点支承部152の下の下流に力増倍器190を提供するなら、ハウジングの軸方向支持部を、ドライブトレインの回転から回転分離するための手段が必要になる。示してある実施形態では、力増倍器190は、ダイヤフラムばねとして構成されたボタンばね111を含んでよく、このダイヤフラムばねは、力伝播経路のうちの非回転部分の一部である。ボタンばね111の外側縁部111.1は、支持部191に連結されており、その一方で、ボタンばね111の中央領域111.2は、ボタン110によって係合される。中間部分192が、ボタンばね111と駆動スリーブ150との間に配置されており、それにより、点支承部152が中間部分192と駆動スリーブ150との間にある。中間部分192は、複数の近位突出部または周囲方向の近位縁部193を含み、この近位縁部193に、外側縁部111.1と中央領域111.2との間のボタンばね111の一部が係合する。ボタンばね111が中間部分に係合する位置に応じて、ボタン110から中間部分192に伝播される力が増幅されるとともに、移動が短くなる。
図7は、ボタン110が押下された状態の薬物送達デバイスの概略詳細図である。
図5および
図6の実施形態は、
図3および
図4の実施形態の軸方向支持部172をほぼ完全に解放することを可能にする。
【0067】
図8は、薬物送達デバイス100の、たとえば薬物を収容している不図示のカートリッジを受けるように適用された注射ペンの、例示的実施形態を示す概略図である。
図2~
図7の実施形態は、
図8に示す実施形態によって修正可能である。
図8の実施形態において、軸方向支承部172は、1つの負荷方向にのみ、たとえば遠位方向Dにのみ、低減した摩擦を有するように構成されるが、反対の負荷方向には、たとえば近位方向P、すなわちプランジャ160からの反作用負荷の方向には、ブレーキとして作用するように構成される。例示的実施形態において、軸方向支承部172は、ハウジング102と駆動ナット170に整合表面172.1、172.2を含んでよく、ここで整合表面172.1、172.2は、近位方向Pに先細りになっている。プランジャ160からの反作用力が増大するにつれ、整合表面172.1、172.2は、
図9に示してあるように互いに係合し、それにより軸方向支承部172の摩擦も増大し、こうして駆動ナット170に影響する駆動トルクが低減される。これは、プランジャ160の軸方向の力を制限するために使用可能である。この状況において、駆動スリーブ150および駆動ナット170は、これらの間でいくらかの自由移動ができるように構成可能であり、すなわち駆動スリーブ150および駆動ナット170は、必ずしも互いに当接していなくてもよい。
【0068】
以下に、例示的実施形態の一覧を示す。
【0069】
実施形態1 薬物送達デバイス(100)であって:
- ハウジング(102)と、
- ハウジング(102)内に配置されたプランジャ(160)であって、長手方向軸(X)に沿って可動であり、薬剤容器内のピストンを押すように適用されており、薬物送達デバイス(100)の構成要素にある内ねじ山(171)に係合する外ねじ山(162)を有するプランジャ(160)と、
- プランジャ(160)、または内ねじ山(171)を有する構成要素に対して、駆動トルクをかけて、プランジャ(160)を遠位方向(D)に前進させるように構成されたねじりばねを含む用量設定機構と、
- ねじりばねに張力をかけるように、回転可能に動作するように適用されたダイヤル設定機構と、
- ダイヤル設定機構を回転させるときに、ねじりばねからのトルクに対抗する摩擦トルクを発生させる摩擦装置と
を含む薬物送達デバイス。
【0070】
実施形態2 摩擦装置は、高いダイヤル設定用量において高い摩擦トルクを発生させるように構成されており、ダイヤル設定用量の低減に伴い摩擦トルクが低減する、実施形態1に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0071】
実施形態3 ダイヤル設定機構は:
- 可変用量サイズを選択するために回転されるように適用されたダイヤルボタン(110)
を含む、実施形態1または2に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0072】
実施形態4 ダイヤル設定機構は、
- ハウジング(102)内で軸方向に固定され、用量が設定されるときに回転されるように適用された目盛りドラム(120)であって、ダイヤルボタン(110)に連結されており、少なくとも1つの回転方向において、ダイヤルボタン(110)の回転に付随する目盛りドラム(120)
を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の薬物送達デバイス(100)。
【0073】
実施形態5 目盛りドラム(120)は、らせん状トラックまたはねじ山(121)を備える外側表面を含み、スライダ(130)は、ハウジング(102)に回転不能に固定され、ねじ山(121)に係合する雄ねじ山(131)を有しており、それにより目盛りドラム(120)が回転すると、スライダ(130)が軸方向に並進する、実施形態4に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0074】
実施形態6 目盛りドラムは、ダイヤル設定された用量を示す印(122)を有している、実施形態4または5に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0075】
実施形態7 ユーザが目盛りドラム(120)を見ることができる窓(135)を、スライダ(130)が備え、ハウジング(102)は、スライダ(130)の窓(135)と角度方向に位置合わせされた長手方向窓(103)を備える、実施形態5または6に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0076】
実施形態8 スライダ(130)は、スリーブ(140)のらせん状開口部(141)と相互作用するらせん状の案内表面(136.1、136.2)をさらに備え、それによりスライダ(130)が軸方向に摺動するとき、開口部(141)とスライダ(130)の案内表面(136.1、136.2)とのこの係合により、スライダ(130)はスリーブ(140)を回転させる、実施形態5~7のいずれか1つに記載の薬物送達デバイス(100)。
【0077】
実施形態9 スリーブ(140)は、その近位端にカラーを有し、このカラーは、目盛りドラム(120)に固定されることなく目盛りドラム(120)に載っている、実施形態8に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0078】
実施形態10 らせん状開口部(141)は、遠位方向(D)の向かってわずかに広くなった幅を有し、案内表面(136.1、136.2)のうちの少なくとも1つは、スライダ(130)に取り付けられた固定端(136.2.1)と、固定端(136.2.1)の反対の自由端(136.2.2)とを有する弾性のある梁として構成され、弾性のある梁は、らせん状開口部(141)の縁部に摩擦係合するように構成されている、実施形態8または9のいずれか1つに記載の薬物送達デバイス(100)。
【0079】
実施形態11 弾性のある梁は、らせん状開口部(141)の縁部に接触するように構成された隆起部(136.2.3)を有する、実施形態10に記載の薬物送達デバイス(100)。
【0080】
注射デバイスは、液体の薬物または薬剤を収容しているカートリッジを含んでよい。たとえば、注射ボタンを押すことにより、ダイヤル設定されたまたは事前設定された量に応じて、カートリッジからその一部分を排出することができる。「薬物」および「薬剤」という用語は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を指してよい。特定の医薬製剤に関するさらなる詳細情報は、同時係属中の出願、PCT/EP2018/082640、代理人整理番号DE2017/081の開示から得ることができ、この文献は、この範囲まで、参照により本明細書に含まれるものとする。
【0081】
本明細書に記載の物質、処方、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または除去)は、本開示の完全な範囲および趣旨から逸脱することなく行うことができ、本開示は、そうした修正、およびあらゆるその等価物を包含することを、当業者は理解するであろう。
【符号の説明】
【0082】
10 デバイス
11 ハウジング
11a 窓
12 キャップアセンブリ
13 ニードルスリーブ
14 キャリア
17 針
20 遠位領域
21 近位領域
22 ボタン
23 ピストン
24 容器、シリンジ
30 駆動ばね
40 プランジャ
100 薬物送達デバイス
102 ハウジング
103 窓
105 長手方向境界線
106 横断方向境界線
110 ボタン
111 ボタンばね
111.1 外側縁部
111.2 中央領域
120 目盛りドラム
121 らせん状トラック、らせん状ねじ山
122 印
130 スライダ
131 雄ねじ山
132 周囲部分
133 延長部
135 窓
136.1 らせん状案内表面
136.2 らせん状案内表面
136.2.1 固定端
136.2.2 自由端
136.2.3 隆起部
140 スリーブ
141 らせん状開口部
141.1 近位縁部
141.2 遠位縁部
144 周囲領域
150 駆動スリーブ
151 スプライン
152 点支承部
160 プランジャ
161 プランジャスプライン
162 外ねじ山
170 駆動ナット
171 内ねじ山
172 軸方向支承部
172.1 整合表面
172.2 整合表面
173 駆動スプライン
180 スリーブばね
190 力増倍器
191 支持部
192 中間部分
193 近位縁部
D 遠位端、遠位方向
P 近位端、近位方向
X 長手方向軸