IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京医科歯科大学の特許一覧

特許7489663生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム
<>
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図1
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図2
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図3
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図4
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図5
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図6
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図7
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図8
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図9
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図10
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図11
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図12
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図13
  • 特許-生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/246 20210101AFI20240517BHJP
   A61B 5/248 20210101ALI20240517BHJP
   A61B 5/383 20210101ALI20240517BHJP
   A61B 5/388 20210101ALI20240517BHJP
【FI】
A61B5/246
A61B5/248
A61B5/383
A61B5/388
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020131162
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027267
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三谷 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
(72)【発明者】
【氏名】川端 茂▲徳▼
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-123181(JP,A)
【文献】特開2020-032116(JP,A)
【文献】特開2017-217443(JP,A)
【文献】特表2015-534856(JP,A)
【文献】国際公開第2014/076698(WO,A1)
【文献】渡部 泰士、出口 浩司、安井 隆、他,脊髄誘発磁場計測システムの開発,RICOH TECHNICAL REPORT ,No.42,日本,株式会社リコー ,2017年02月24日,pp.132-139 ,企業技報2017-00028-005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内で発生するトリガに応じて誘発される生体信号を計測部位で計測する生体信号計測部と、
前記トリガに応じて誘発される参照生体信号を参照計測部位で計測する参照生体信号計測部と、
複数の前記参照生体信号の潜時のずれに基づいて、複数の前記生体信号の潜時を揃える潜時補正部と、
潜時が揃えられた複数の前記生体信号を加算平均する加算平均部と
を有し、
前記生体信号計測部の計測部位と前記参照生体信号計測部の参照計測部位とが、同一の神経を伝達する活動電流に起因する信号を検出可能な位置関係にあり、
前記生体信号が、生体磁場または生体電位の信号であること
を特徴とする生体情報計測装置。
【請求項2】
生体内で前記トリガを発生させる刺激を生体の刺激部位に印加する生体刺激部を有すること
を特徴とする請求項1に記載の生体情報計測装置。
【請求項3】
前記参照計測部位と前記計測部位との距離は、前記刺激部位と前記計測部位との距離より小さいこと
を特徴とする請求項2に記載の生体情報計測装置。
【請求項4】
生体内で自発的に発生する前記トリガを検出するトリガ検出部を有し、
前記参照生体信号の潜時および前記生体信号の潜時は、前記トリガ検出部が検出した前記トリガを基準に検出されること
を特徴とする請求項1に記載の生体情報計測装置。
【請求項5】
前記参照計測部位と前記計測部位との距離は、前記トリガを検出するトリガ検出部位と前記計測部位との距離より小さいこと
を特徴とする請求項4に記載の生体情報計測装置。
【請求項6】
前記生体信号計測部は、前記計測部位で生体が発生する磁場または電位を計測し、
前記参照生体信号計測部は、前記参照計測部位で生体が発生する電位または磁場を計測すること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生体情報計測装置。
【請求項7】
前記潜時補正部は、前記参照生体信号のピーク値および前記生体信号のピーク値をそれぞれ潜時として検出すること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の生体情報計測装置。
【請求項8】
前記潜時補正部は、前記参照生体信号が所定の閾値を跨ぐタイミングおよび前記生体信号が所定の閾値を跨ぐタイミングを潜時として検出すること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の生体情報計測装置。
【請求項9】
前記参照生体信号の潜時は、前後の所定数のエポックデータを使用してローパスフィルタを通した後に検出されること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の生体情報計測装置。
【請求項10】
前記ローパスフィルタは線形位相FIRフィルタであること
を特徴とする請求項9に記載の生体情報計測装置。
【請求項11】
前記ローパスフィルタは移動平均であること
を特徴とする請求項9に記載の生体情報計測装置。
【請求項12】
前記参照生体信号の潜時は、時間方向のローパスフィルタを通した後に検出されること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の生体情報計測装置。
【請求項13】
前記時間方向の前記ローパスフィルタは線形位相FIRフィルタであること
を特徴とする請求項12に記載の生体情報計測装置。
【請求項14】
前記時間方向の前記ローパスフィルタは移動平均であること
を特徴とする請求項12に記載の生体情報計測装置。
【請求項15】
生体内で発生するトリガに応じて誘発される生体信号を計測部位で計測し、
前記トリガに応じて誘発される参照生体信号を参照計測部位で計測し、
複数の前記参照生体信号の潜時のずれに基づいて、複数の前記生体信号の潜時を揃え、
潜時が揃えられた複数の前記生体信号を加算平均し、
前記生体信号の計測部位と前記参照生体信号の参照計測部位とが、同一の神経を伝達する活動電流に起因する信号を検出可能な位置関係にあり、
前記生体信号が、生体磁場または生体電位の信号であること
を特徴とする生体情報計測方法。
【請求項16】
生体内で発生するトリガに応じて誘発される生体信号を計測部位で計測し、
前記トリガに応じて誘発される参照生体信号を参照計測部位で計測し、
複数の前記参照生体信号の潜時のずれに基づいて、複数の前記生体信号の潜時を揃え、
潜時が揃えられた複数の前記生体信号を加算平均する
処理をコンピュータに実行させ
前記生体信号の計測部位と前記参照生体信号の参照計測部位とが、同一の神経を伝達する活動電流に起因する信号を検出可能な位置関係にあり、
前記生体信号が、生体磁場または生体電位の信号であることを特徴とする生体情報計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報計測装置、生体情報計測方法および生体情報計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に生体から発せられる信号は非常に微弱であり、電気的あるいは磁気的なノイズの影響を受けた場合、生体情報を取り出すことが困難になる。そこで、生体計測信号と時間相関性のあるノイズ信号の発生時刻に同期して生体計測信号の加算平均を取ることでノイズ信号を抽出し、抽出したノイズ信号を生体計測信号から減算することで、ノイズ信号を除去した生体計測信号を抽出する手法が提案されている。また、例えば、トリガ信号に合わせて脳波波形を分割し、分割した脳波波形を加算平均することで、ノイズを除去して脳波波形を抽出する手法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、神経で発生する磁場を計測する生体磁場計測装置では、生体に複数回の電気刺激を印加し、電気刺激に応じて神経の計測部位で発生する磁場を計測し、計測した磁場信号を加算平均する。しかしながら、電気刺激に応じて神経に流れる活動電流の伝導速度は変動する。このため、電気刺激の印加タイミングを基準にして、計測部位で計測された生体信号を加算平均すると、信号波形が鈍ってしまうという問題がある。信号波形が鈍ると、生体信号の潜時を正しく検出できないおそれがあり、生体情報計測装置の計測性能が低下するおそれがある。加算平均による信号波形の鈍りは、加算平均される元の生体信号の数が多いほど顕著になる。
【0004】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、複数の生体信号を加算平均する場合に発生する信号波形の鈍りを軽減し、信号波形を加算平均する場合にも正しい潜時を求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の生体情報計測装置は、生体内で発生するトリガに応じて誘発される生体信号を計測部位で計測する生体信号計測部と、前記トリガに応じて誘発される参照生体信号を参照計測部位で計測する参照生体信号計測部と、複数の前記参照生体信号の潜時のずれに基づいて、複数の前記生体信号の潜時を揃える潜時補正部と、潜時が揃えられた複数の前記生体信号を加算平均する加算平均部とを有し、前記生体信号計測部の計測部位と前記参照生体信号計測部の参照計測部位とが、同一の神経を伝達する活動電流に起因する信号を検出可能な位置関係にあり、前記生体信号が、生体磁場または生体電位の信号である
【発明の効果】
【0006】
複数の生体信号を加算平均する場合に発生する信号波形の鈍りを軽減することができ、信号波形を加算平均する場合にも正しい潜時を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態における生体情報計測装置を含む生体情報計測システムの一例を示す全体構成図である。
図2図1の生体情報計測装置の一例を示す機能ブロック図である。
図3図2のSQUIDセンサアレイの一例を示す上面図である。
図4図2の生体情報計測装置により生体磁場を計測する一例を示す説明図である。
図5図2の生体情報計測装置により生体磁場を計測する別の例を示す説明図である。
図6図2の生体情報計測装置により磁場波形を補正する一例を示す説明図である。
図7】本手法を適用する前処理として移動平均を適用した場合としなかった場合の磁場波形を示す説明図である。
図8】SQUIDセンサアレイ11で計測した生体磁場において、図6に示した波形シフトの適用前後の磁場波形の一例を示す説明図である。
図9図2の生体情報計測装置による生体磁場計測の流れの一例を示すフロー図である。
図10】第2の実施形態における生体情報計測装置を含む生体情報計測システムの一例を示す全体構成図である。
図11図10のSQUIDセンサアレイの一例を示す上面図である。
図12】第3の実施形態における生体情報計測装置を含む生体情報計測システムの一例を示す全体構成図である。
図13図12の生体情報計測装置の一例を示す機能ブロック図である。
図14図1図10および図12のデータ処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体情報計測装置を含む生体情報計測システムの一例を示す全体構成図である。例えば、図1に示す生体情報計測システム1000は、電気刺激に基づいて脊髄から発生する磁場を計測する脊髄誘発磁場計測システムである。
【0010】
生体情報計測システム1000は、主要な構成要素として生体情報計測装置100および磁気シールドルーム200を有する。生体情報計測装置100は、磁場計測装置10、低温容器20、神経刺激装置30、参照信号検出装置40、データ処理装置50および各種電極32、42を含む。
【0011】
磁場計測装置10は、例えば、複数の超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)を含むSQUIDセンサアレイ11と信号処理装置12とを有する。磁場計測装置10は、神経刺激装置30による電気刺激等に応じて被検体Pである生体の計測対象の神経に誘発された磁場を計測する。磁場計測装置10による計測で得られる生体磁場を示す信号は、生体信号(生体磁場信号)の一例である。以下では、超伝導量子干渉素子をSQUIDとも称する。
【0012】
データ処理装置50は、表示装置50aを含み、データ処理装置50に接続される磁場計測装置10、神経刺激装置30および参照信号検出装置40の動作を制御する。また、データ処理装置50は、磁場計測装置10が計測した生体磁場データを処理する機能と、生体磁場波形等を表示装置50aに表示する機能とを有する。さらに、データ処理装置50は、マウスやキーボード等の図示しない入力装置を有する。
【0013】
生体情報計測装置100の一部は、磁気をシールドする磁気シールドルーム200内に配置されている。磁気シールドルーム200を利用することで、生体磁場の計測対象の生体から発生する微弱な磁場(例えば、脊髄誘発磁場)を計測することができる。磁気シールドルーム200は、例えば、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅やアルミニウム等の導電体からなる板材とを積層することにより構成される。以下では、生体磁場の計測対象の生体は、被検体Pとも称される。
【0014】
磁気シールドルーム200は、例えば、2.5m×3.0m×2.5m程度の大きさの内部空間を有する。また、磁気シールドルーム200は、装置器具の搬送や、人の出入りを可能とする扉210を有する。扉210は、磁気シールドルーム200の他の部分と同様に、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅またはアルミニウム等の導電体からなる板材とを積層することにより構成される。
【0015】
以下、生体情報計測装置100およびその周辺部について、より詳しく説明する。磁気シールドルーム200内には、テーブル300が設置されている。また、磁気シールドルーム200内に設置される低温容器20内には、SQUIDセンサアレイ11は配置され、磁場の計測や計測時の制御等に用いる信号線71が、SQUIDセンサアレイ11と信号処理装置12との間に接続される。信号線71は、磁場ノイズの低減のためにツイストケーブル構造を有する。信号線71は、磁気シールドルーム200の壁部を貫通して形成された孔を通して、磁気シールドルーム200の外へ引き出され、信号処理装置12に接続される。
【0016】
デュワーとも称される低温容器20は、被検体Pから発生する磁場を検出するSQUIDセンサアレイ11を極低温で動作させるために必要な液体ヘリウムを保持する。低温容器20は、例えば、脊髄誘発磁場の計測に適した形状の突起部21を有しており、突起部21の内部にSQUIDセンサアレイ11が設置される。例えば、脊髄誘発磁場の計測は、テーブル300上で仰臥位となった被検体Pの頚椎部分を突起部21上に載せ、頚椎部分をSQUIDセンサアレイ11に対向させた状態で行われる。
【0017】
生体から発生する脊髄誘発磁場は微弱であるため、データ処理装置50は、磁場計測装置10で計測された複数の生体磁場信号を積算処理する(例えば、加算平均)。複数の生体磁場信号を互いに同期させるため、神経刺激装置30による外部からの電気刺激により被検体Pの神経活動が誘発される。被検体Pの体表上に取り付けられる電極32に接続された神経刺激装置30は、電極32を介して被検体Pに電気刺激を印加する。
【0018】
図1に示す例では、電極32は、被検体Pの左肘部に取り付けられる。電極32から電気刺激が印加されると、左腕の正中神経が誘発され、電気刺激に応じて発生する神経活動が頚椎を通る神経線維に伝搬される。そして、頚椎部分の脊髄および脊髄神経から発生する磁場が、被検体Pの頚椎部分に対向するSQUIDセンサアレイ11により検出される。なお、電極32は、被検体Pの右肘部に取り付けられてもよく、肘部以外の部位に取り付けられてもよい。また、磁場の計測部位は、腰椎部分または胸椎部分等、頚椎部分以外でもよい。
【0019】
各電極32は、刺激用の電気信号を伝送するための信号線72を介して、磁気シールドルーム200の外に設置された神経刺激装置30に接続される。信号線72は、磁場ノイズの低減のためにツイストケーブル構造を有する。信号線72は、磁気シールドルーム200の壁部を貫通して形成された孔を通して電極32まで配線される。
【0020】
参照信号検出装置40は、信号線73を介して電極42に接続される。例えば、電極42は、被検体Pの体表上において磁場の計測部位の近くに取り付けられる。参照信号検出装置40は、神経刺激装置30による被検体Pへの電気刺激に応じて誘発される神経活動に伴って神経に流れる活動電流を生体電位として電極42で計測する。
【0021】
参照信号検出装置40は、受信した生体電位を示す電位データを、ケーブルを介してデータ処理装置50に出力する。神経刺激装置30による刺激部位への電気刺激に応じて神経に流れる活動電流は、トリガの一例である。参照信号検出装置40が計測する生体電位は、参照生体信号(参照生体電位)の一例である。
【0022】
例えば、データ処理装置50は、PC(Personal Computer)等のコンピュータ装置であり、ケーブルを介して信号処理装置12、神経刺激装置30および参照信号検出装置40にそれぞれ接続される。データ処理装置50は、神経刺激装置30を制御することで電極32から被検体Pへの電気刺激の印加タイミングを設定する。
【0023】
データ処理装置50は、磁場計測装置10の動作を制御することで信号処理装置12から出力される生体磁場データ等を受信する。データ処理装置50は、参照信号検出装置40が検出した生体電位の波形に基づいて、生体磁場データの時間変化示す生体磁場波形を生成し、生成した生体磁場波形を表示装置50aに表示する。このように、データ処理装置50は、SQUIDセンサアレイ11が計測した生体磁場の信号波形を、参照信号検出装置40から受信する電位データに基づいて補正する機能を有する。生体磁場の信号波形の補正については、図2以降で説明される。
【0024】
図2は、図1の生体情報計測装置100の一例を示す機能ブロック図である。データ処理装置50は、CPU(Central Processing Unit)51および記憶装置52を有する。CPU51は、刺激タイミング制御部511、潜時補正部512および加算平均部513を有する。刺激タイミング制御部511、潜時補正部512および加算平均部513の機能は、ハードウェアで実現されてもよく、CPU51が実行する生体情報計測プログラムにより実現されてもよい。記憶装置52は、解析パラメータ521、形態画像データ522および生体磁場データ523等が格納される記憶領域を有する。
【0025】
磁場計測装置10および磁場計測装置10を制御するCPU51は、生体信号計測部の一例である。刺激タイミング制御部511は、神経刺激装置30を制御することで電極32(陽極と陰極とを有する)に刺激電流を供給する。そして、刺激タイミング制御部511は、電極32が取り付けられる被検体Pの体表(皮膚)から神経を電気的に刺激する。また、刺激タイミング制御部511は、被検体Pに電気刺激を印加したタイミングを示す刺激タイミング情報を、電気刺激の印加毎に潜時補正部512に通知する。
【0026】
刺激タイミング制御部511および神経刺激装置30は、生体刺激部の一例である。参照信号検出装置40と参照信号検出装置40から参照生体信号(参照生体電位)を受信するCPU51とは、被検体Pの体表である参照計測部位に発生する参照生体信号を計測する参照生体信号計測部の一例である。
【0027】
潜時補正部512は、刺激タイミング制御部511からの刺激タイミング情報に対応して、参照信号検出装置40を介して電極42(陽極と陰極とを有する)から繰り返し受信する複数の参照生体電位の波形データの各々のピーク値を潜時として検出する。また、潜時補正部512は、刺激タイミング情報に対応して、磁場計測装置10から繰り返し受信する複数の生体磁場信号を検出する。なお、参照信号検出装置40に接続される電極42は、陽極と陰極とではなく、単一の電極でもよい。
【0028】
さらに、潜時補正部512は、検出した複数の参照生体電位の潜時のずれ量をそれぞれ検出する。潜時補正部512は、各参照生体電位のずれ量を用いて、対応する各磁場波形データを時間軸上でシフトすることで、複数の磁場波形データの潜時を揃える処理を実施する。すなわち、潜時補正部512は、神経に流れる活動電流の伝導速度の変動に応じて変化する磁場波形データの潜時を揃える処理を実施する。加算平均部513は、潜時が揃えられた磁場波形データを加算平均する。
【0029】
記憶装置52は、例えば、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等である。解析パラメータ521は、例えば、磁場波形データの解析に使用する各種パラメータを含む。形態画像データ522は、被検体Pの計測対象部位の形態画像のデータであり、例えば、X線画像データである。形態画像データ522と、SQUIDで計測される生体磁場データとを組み合わせることで、生体磁場データの計測位置が視覚的に把握可能になる。生体磁場データ523は、磁場計測装置10で計測された生体磁場のデータである。生体磁場波形は、生体磁場データを計測時刻順につなげることで生成される。なお、記憶装置52には、CPU51が実行する各種プログラムが記憶される。
【0030】
図3は、図2のSQUIDセンサアレイ11の一例を示す上面図である。例えば、SQUIDセンサアレイ11は、マトリックス状に配置された44個のSQUIDを有する。SQUIDに付した99chから104chは、図8での説明で使用する。図3は、SQUID10を先端側から見た様子を示す。各SQUIDは、図1に示す突起部21内で先端を上部に向けて配置される。なお、SQUID10の配置数および配置形状は、図2に限定されない。磁場計測装置10は、SQUID毎に生体磁場を計測し、計測した生体磁場を磁場データとしてデータ処理装置50に出力する。
【0031】
図4は、図2の生体情報計測装置100により生体磁場を計測する一例を示す説明図である。図4では、電極32から左肘部に印加される電気刺激により左肘部の正中神経で誘発された神経活動がトリガとなり、正中神経を介して頚椎を通る神経線維に神経活動が神経に流れる活動電流として伝導される。
【0032】
例えば、一対の電極42の一方は、正中神経の経路に対応する位置であって、鎖骨上窩部分(いわゆるErb点)の表皮に取り付けられる。Erb点は、神経が表皮付近に接近しているため、神経活動に伴って発生する電位を計測しやすい場所である。このため、Erb点は、参照生体電位の計測に適している。
【0033】
図4に示すように、参照生体電位の計測に使用する電極42は、刺激印加のトリガ点(電極32付近)と磁場計測部位(SQUID)との間の神経に沿った経路のうち、磁場計測部位に近い位置に取り付けられる。換言すれば、電極42が取り付けられる参照電位の計測部位である参照計測部位と磁場計測部位との距離は、刺激印加のトリガ点に対応する電気刺激の刺激部位と磁場計測部位との距離より小さい。被検体Pへの電極42の取り付け位置は、取り付け位置と生体磁場の計測部位との距離が、電気刺激を印加する電極32と生体磁場の計測部位との距離より小さくなるように設定されればよい。
【0034】
電極42が電気刺激の刺激部位よりもSQUIDに近い位置に配置されるため、参照信号検出装置40は、刺激印加毎に、生体磁場の潜時の変動量と同程度の潜時の変動量を有する生体電位を検出することができる。これにより、図6で説明するように、刺激印加毎に変動する生体磁場波形の潜時の補正の精度を高くすることができる。したがって、計測した生体信号を加算平均する場合にも、神経に流れる活動電流の伝導速度の変動に依存しない正しい潜時を求めることができる。この際、従来から使用されている生体電位計測の手法を利用して、潜時の変動量を検出することができる。
【0035】
図5は、図2の生体情報計測装置100により生体磁場を計測する別の例を示す説明図である。図5では、電極42は、磁場計測部位(SQUID)よりも頭部側の頚椎に対応する位置(例えば、頸筋)の表皮に取り付けられる。これにより、図4と同様に、電極42が取り付けられる参照計測部位と磁場計測部位との距離を、電気刺激の刺激部位と磁場計測部位との距離より小さくすることができる。したがって、参照信号検出装置40は、刺激印加毎に、生体磁場の潜時の変動量と同程度の潜時の変動量を有する生体電位を検出することができ、図6で説明するように、生体磁場波形の潜時の補正の精度を高くすることができる。
【0036】
図6は、図2の生体情報計測装置100により磁場波形を補正する一例を示す説明図である。図6に示す補正処理は、生体情報計測装置100による生体情報計測方法の一例を示す。例えば、図6に示す補正処理は、CPU51が生体情報計測プログラムを実行することで実現される。
【0037】
図6では、説明を分かりやすくするために、被検体Pに電気刺激を5回印加して、計測された磁場データを2つのSQUIDa、SQUIDb毎に加算平均する例が示される。実際の生体磁場の計測では、図7で説明するように、電気刺激を数千回印加して計測された磁場データが、数十個のSQUID毎に加算平均される。
【0038】
参照信号検出装置40は、電気刺激毎に、電極42を介して計測する生体電位を計測する。磁場計測装置10は、電気刺激毎に、SQUIDa、SQUIDbで生体磁場を計測する。神経に流れる活動電流の伝導速度は、例えば、電気刺激毎にその都度変動する。このため、5つの生体電位波形のピーク潜時は互いにずれ、SQUIDa、SQUIDb毎の5つの生体磁場波形のピーク潜時は互いにずれる。
【0039】
なお、5つの電気刺激の各々に応じてSQUIDa、SQUIDbが計測する生体磁場の波形は、SQUIDa、SQUIDbの位置に応じて互いにずれている。例えば、SQUIDbは、SQUIDaに比べて被検体Pの頭部に近い側に位置する。このため、SQUIDbで計測される生体磁場の波形のピーク潜時は、SQUIDaで計測される生体磁場の波形のピーク潜時よりも遅れて現れる。
【0040】
潜時補正部512は、電気刺激毎に、生体電位の波形のピーク潜時を算出する。潜時補正部512は、例えば、ピーク潜時が最も早い生体電位波形に合わせて、他の生体電位波形を時間軸方向にシフトすることで生体電位波形を補正する。潜時補正部512により電気刺激毎に計測した生体電位波形を、時間軸方向に補正することで、補正後の生体電位波形のピーク潜時を互いに等しくすることができる。
【0041】
さらに、潜時補正部512は、5つの生体電位波形の補正値(時間シフト量)を用いて、SQUIDa、SQUIDb毎に5つの生体磁場波形をそれぞれ時間軸方向にシフトすることで、生体磁場波形のピーク潜時を補正する。これにより、潜時補正部512は、SQUIDa、SQUIDb毎に、5つの生体磁場波形のピーク潜時を揃えることができる。
【0042】
ここで、図4および図5で説明したように、生体電位を計測する電極42は、SQUIDセンサアレイ11に近い位置に配置される。このため、電気刺激毎に計測される、生体電位波形のピーク潜時のずれ量と、SQUID毎の生体磁場波形のピーク潜時のずれ量との差を小さくすることができる。この結果、生体電位波形の補正値を用いて、神経に流れる活動電流の伝導速度の変動に依存する、SQUID毎の生体磁場波形のピーク潜時のずれを揃える精度を向上することができる。
【0043】
加算平均部513は、SQUIDa、SQUIDb毎に、ピーク潜時が揃えられた生体磁場データを加算平均する。ピーク潜時が予め揃えられているため、加算平均した生体磁場データの波形は、ピーク潜時を揃えずに加算平均した生体磁場データの波形に比べて、波形の鈍りを軽減して波形を急峻にすることができる。
【0044】
この結果、生体情報計測装置100は、生体磁場データを加算平均する場合にも、神経に流れる活動電流の伝導速度の変動による生体磁場信号の揺らぎを抑えて、生体磁場波形の鈍りを軽減し、正しい潜時を求めることができる。この結果、生体情報計測装置100による生体磁場データの計測精度を向上することができる。
【0045】
なお、例えば、被検体Pが高齢の場合、若年層に比べて、神経に流れる活動電流の伝導速度の変動は大きくなり、生体磁場波形のピーク強度は小さくなる。しかしながら、本実施形態では、生体磁場波形のピーク潜時のずれ量をSQUID毎に補正することができる。この結果、ピーク強度の大きさによらず、加算平均後の生体磁場波形を急峻にしつつ、本来のピーク潜時とのずれを小さくすることができる。
【0046】
図7は、本手法を適用する前処理として移動平均を適用した場合としなかった場合の磁場波形を示す説明図である。図7において、横軸は電気刺激の印加からの経過時間を示し、縦軸は磁場強度を示す。破線は、得られた生体磁場波形に対して移動平均を適用する前の波形を示す。実線は、得られた生体磁場波形に対して移動平均を適用した後の波形を示す。
【0047】
図7において、移動平均適用後の磁場計測波形は、ノイズが低下しSN比(Signal to Noise ratio)が向上していることが分かる。したがって、磁場計測部位の近くで計測された生体電位の波形の潜時を使用して、生体磁場波形の潜時を揃えることで、基準となる潜時を安定して検出することができる。
【0048】
図8は、SQUIDセンサアレイ11で計測した生体磁場において、図6に示した波形シフトの適用前後の磁場波形の一例を示す説明図である。破線は、波形シフトの適用前の生体磁場波形を加算平均した波形を示す。実線は、波形シフトの適用後の生体磁場波形を加算平均した波形を示す。
【0049】
図8では、図3のSQUIDセンサアレイ11の99chから104chのSQUIDで計測された生体磁場の波形が示される。以下では、顕著な効果が表れた102chと103chについて、神経活動由来の磁場波形が存在している時間領域T102、T103を参照して説明する。
【0050】
102ch、103chにおける時間領域T102、T103での磁場波形は、そのいずれにおいても、図6に示した波形シフトを適用した場合の磁場波形の半値幅が、適用しない場合の磁場波形の半値幅に比べて小さくなっており、かつ、振幅は大きくなっている。すなわち、図6に示す手法によりピーク潜時のずれを補正することによって、神経活動をより強く、急峻に計測することができることが分かる。
【0051】
図9は、図2の生体情報計測装置100による生体磁場計測の流れの一例を示すフロー図である。すなわち、図9は、生体情報計測装置100による生体情報計測方法の一例を示す。例えば、図9に示す動作は、CPU51が生体情報計測プログラムを実行することで実現される。
【0052】
まず、ステップS10において、CPU51は、神経刺激装置30を制御することで、任意の回数の電気刺激を被検体Pに印加する。次に、ステップS12において、CPU51は、磁場計測装置10を制御することで、各SQUIDが計測する生体磁場データを記憶装置52に記録する。
【0053】
また、ステップS14において、CPU51は、参照信号検出装置40を制御することで、ステップS12での生体磁場データの記録と並行して、生体電位データを記憶装置52に記録する。次に、ステップS16において、CPU51(潜時補正部512)は、生体電位波形のピーク潜時を算出し、算出したピーク潜時に基づいて、生体電位波形のシフト量(補正値)を生体電位波形毎に算出する。
【0054】
ステップS12およびステップS16の後、ステップS18において、CPU51(潜時補正部512)は、ステップS16で算出したシフト量を用いて、生体磁場波形のシフト補正処理を実施する。次に、ステップS20において、CPU51(加算平均部513)は、シフト補正したSQUID毎の生体磁場波形の加算平均処理を実施し、図9に示す処理を終了する。
【0055】
以上、第1の実施形態では、生体磁場波形のピーク潜時を揃えた後、加算平均処理を実施することで、生体磁場波形を急峻にしつつ、本来のピーク潜時とのずれを小さくすることができる。すなわち、複数の生体信号を加算平均する場合に発生する信号波形の鈍りを軽減し、信号波形を加算平均する場合にも正しい潜時を求めることができる。したがって、生体情報計測装置100は、神経に流れる活動電流の伝導速度の変動による生体磁場信号の揺らぎを抑えて、生体磁場波形の鈍りを軽減し、正しい潜時を求めることができる。この結果、生体情報計測装置100による生体磁場データの計測精度を向上することができる。
【0056】
SQUIDセンサアレイ11の近くに配置された電極42を介して計測される生体電位の波形の潜時のずれ量を用いて、ピーク潜時のずれ量を補正することで、生体磁場波形のピーク潜時を互いに一致させる精度を向上することができる。神経刺激装置30から被検体Pに電気刺激を印加し、電気刺激に応答して被検体P内部でトリガを発生させることで、所望のタイミングで所望の回数の生体電位および生体磁場を計測することができる。これにより、生体磁場データの取得時間を短縮することが可能になり、被検体Pの負担を軽減することができる。
【0057】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態における生体情報計測装置を含む生体情報計測システムの一例を示す全体構成図である。図1と同様の要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図10に示す生体情報計測システム1000は、図1の生体情報計測装置100の代わりに生体情報計測装置100Aを有する。
【0058】
生体情報計測装置100Aは、図1の生体情報計測装置100から参照信号検出装置40および電極42を取り除いて構成される。そして、生体情報計測装置100Aは、SQUIDセンサアレイ11のSQUIDで計測される生体磁場データを参照生体信号(参照生体磁場)として利用する。生体情報計測装置100Aのその他の構成および機能は、図1の生体情報計測装置100の構成および機能と同様である。
【0059】
図11は、図10のSQUIDセンサアレイ11の一例を示す上面図である。SQUIDセンサアレイ11は、図3のSQUIDセンサアレイ11と同一である。この実施形態では、例えば、右下に斜線で示すSQUIDが、参照生体磁場を計測するために流用される。すなわち、右下に斜線で示すSQUIDが計測する生体磁場は、参照生体磁場としても使用される。そして、斜線で示すSQUIDの先端方向に対向する図示しない被検体の部位が参照計測部位になり、SQUIDセンサアレイ11の各SQUIDの先端方向に対向する図示しない被検体Pの部位が計測部位になる。なお、Erb点付近に位置するSQUIDを、参照生体磁場を計測するために使用されることが好ましい。
【0060】
そして、生体情報計測装置100Aは、図6に示す電極42を使用した生体電位の計測の代わりに、斜線で示すSQUIDを使用した参照生体磁場を計測する。データ処理装置50の潜時補正部512は、電気刺激毎に、参照生体磁場波形のピーク潜時を算出し、参照生体磁場波形のピーク潜時を一致させる場合のシフト量(補正値)を算出する。
【0061】
さらに、潜時補正部512は、各参照生体磁場波形の補正値(時間シフト量)を用いて、破線枠で示す計測部位内のSQUIDのそれぞれにより計測された電気刺激毎の生体磁場波形をシフトする。そして、潜時補正部512は、破線枠で示す計測部位で計測された生体磁場のピーク潜時を補正する。これにより、潜時補正部512は、計測部位に対応するSQUID毎に、生体磁場波形のピーク潜時を揃えることができる。
【0062】
以上、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第2の実施形態では、SQUIDを利用して参照生体磁場を計測することで、参照計測部位を生体磁場の計測部位の最も近くに配置することができる。この結果、生体磁場波形の補正値を使用して、破線枠内のSQUIDで計測された生体磁場の波形のピーク潜時を互いに一致させる精度をさらに向上することができる。この結果、生体情報計測装置100による生体磁場データの計測精度をさらに向上することができる。
【0063】
図1の参照信号検出装置40および電極42を不要にできるため、生体情報計測装置100Aのコストを削減できる。また、被検体Pに電極42を取り付けなくてよいため、被検体Pの負担を軽減することができる。
【0064】
(第3の実施形態)
図12は、第3の実施形態における生体情報計測装置を含む生体情報計測システムの一例を示す全体構成図である。図1と同様の要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図12に示す生体情報計測システム1000は、図1の生体情報計測装置100の代わりに生体情報計測装置100Bを有する。
【0065】
生体情報計測装置100Bは、図1の生体情報計測装置100の神経刺激装置30および電極32の代わりに、トリガ信号記録装置60および電極62を有する。電極62は、信号線74を介してトリガ信号記録装置60に接続される。例えば、電極62は、図12に示すように、被検体Pの左肘部に取り付けられる。トリガ信号記録装置60は、被検体P内で自発的に発生するトリガに応じて電極62に現れる生体情報(例えば生体電位)を記録する。生体情報計測装置100Bのその他の構成および機能は、図1の生体情報計測装置100の構成および機能と同様である。
【0066】
この実施形態では、参照生体電位の計測に使用する電極42は、被検体P内で自発的に発生するトリガを検出するトリガ検出部位と磁場計測部位との間の神経に沿った経路において、磁場計測部位(SQUID)に近い位置に取り付けられる。換言すれば、電極42が取り付けられる参照電位の計測部位である参照計測部位と磁場計測部位との距離は、トリガ検出部位と磁場計測部位との距離より小さい。なお、電極62の取り付け位置であるトリガ検出部位は、被検体P内で自発的に発生するトリガの発生部位の近くに設定される。
【0067】
電極42は、トリガの発生部位に近いトリガ検出部位よりもSQUIDに近い位置に配置される。このため、参照信号検出装置40は、刺激印加毎に、生体磁場の潜時の変動量と同程度の潜時の変動量を有する生体電位を検出することができる。これにより、図6で説明したように、生体磁場波形の潜時の補正の精度を高くすることができる。
【0068】
図13は、図12の生体情報計測装置100Bの一例を示す機能ブロック図である。図2と同様の要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図12に示したように、生体情報計測装置100Bは、データ処理装置50に接続されたトリガ信号記録装置60と、トリガ信号記録装置60に接続された電極62(陽極と陰極とを有する)を有する。なお、電極62は、陽極と陰極とではなく、1つの電極を有してもよい。
【0069】
CPU51は、図2の刺激タイミング制御部511の代わりに、トリガ信号計測部514を有する。トリガ信号記録装置60は、被検体Pである生体内で自発的に発生するトリガ(例えば、トリガ電位)を含む生体情報(例えば生体電位)を記録する。トリガ信号記録装置60は、記録した生体情報をトリガ信号計測部514に出力する。例えば、トリガ信号記録装置60は、被検体Pが左腕を曲げるとき、または左腕を曲げようとするときに生体内の運動神経で発生する電流に応じて電極62に現れる電位を記録する。
【0070】
トリガ信号計測部514は、トリガ信号記録装置60から受信する生体情報に基づいて、生体内で発生したトリガ信号を計測する。トリガ信号計測部514は、計測したトリガ信号の発生タイミングをトリガタイミング情報として潜時補正部512に通知する。トリガ信号計測部514は、生体内で自発的に発生するトリガを検出するトリガ検出部の一例である。
【0071】
潜時補正部512は、上述した実施形態の電気刺激の印加を示す刺激タイミング情報の代わりに、トリガタイミング情報をトリガ信号計測部514から受信する。そして、潜時補正部512は、トリガタイミング情報により示されるトリガのタイミングを基準にして、参照信号検出装置40から繰り返し受信する複数の参照生体電位の波形データのピーク値を潜時として検出する。また、潜時補正部512は、トリガタイミング情報に基づいて、磁場計測装置10から繰り返し受信する複数の生体磁場信号を検出する。潜時補正部512による生体磁場データの潜時を揃える処理は、図6の説明と同様である。
【0072】
以上、第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第3の実施形態では、図1の神経刺激装置30により電気刺激を被検体Pに印加することなく、潜時のずれが補正された生体磁場データを取得することができる。被検体Pは、電気刺激を受けなくてよいため、被検体Pの負担を軽減することができる。
【0073】
なお、上述した第1および第2の実施形態では、神経刺激装置30および電極32を使用して、被検体Pに電気刺激を印加する例が説明された。しかしながら、電気刺激の代わりに、被検体Pに磁場刺激が印加されてもよい。この場合、電極32の代わりにコイルが被検体Pに対向する位置に配置され、神経刺激装置30の代わりにコイルに電流を流す電流供給装置がデータ処理装置50に接続される。刺激タイミング制御部511は、電流供給装置を介してコイルに流す電流を制御することで、コイルから被検体Pに印加する磁場の量と印加タイミングとを制御する。
【0074】
上述した第1から第3の実施形態では、磁場計測装置10を使用して、被検体Pの計測部位で発生する磁場が計測される例が示された。しかしながら、磁場計測装置10の代わりに、被検体Pの計測部位で発生する電位を計測する電位計測装置が使用されてもよい。また、電気刺激の代わりに磁場刺激が被検体Pに印加される手法において、被検体Pの計測部位で発生する電位を計測する電位計測装置が使用されてもよい。
【0075】
上述した第2の実施形態と第3の実施形態を組み合わせて、生体内で自発的に発生するトリガをトリガ信号記録装置で検出し、SQUIDの1つに対向する参照計測部位で生体磁場が計測されてもよい。さらに、生体内で自発的に発生するトリガをトリガ信号記録装置で検出し、参照計測部位および計測部位の両方で生体電位が検出されてもよい。
【0076】
以上をまとめると、図1に示す生体情報計測装置100は、被検体Pへの刺激印加を磁場により行ってもよく、生体磁場の代わりに生体電位を計測し、生体電位波形の潜時を補正した後、加算平均してもよい。図10に示す生体情報計測装置100Aは、被検体Pへの刺激印加を磁場により行ってもよい。図12に示す生体情報計測装置100Bは、参照生体電位の計測の代わりに、SQUIDを利用して参照生体磁場を計測してもよい。また、図12に示す生体情報計測装置100Bは、生体磁場の代わりに生体電位を計測し、生体電位波形の潜時を補正した後、加算平均してもよい。なお、被検体Pへの刺激印加は、電気刺激または磁場刺激だけではなく、被検体Pの体表に対する接触刺激または痛み刺激でもよい。
【0077】
また、上述した第1から第3の実施形態では、参照生体電位波形のピーク潜時のずれ量に基づいて、生体磁場波形のピーク潜時を補正する例が示された。しかしながら、参照生体電位データの値または参照生体磁場データの値が所定の閾値を跨ぐタイミングである立ち上がり潜時または立ち下がり潜時が算出されてもよい。そして、閾値により算出される潜時のずれ量に基づいて、生体磁場波形または生体電位波形の潜時が補正されてもよい。
【0078】
なお、生体電位信号のSN比が低いとき、生体電位波形のピーク潜時の検出に適さない場合がある。この場合、前後の所定数のエポックデータを利用してローパスフィルタまたは移動平均をかけ、SN比を向上させて生体電位波形のピーク潜時の検出に適したデータに加工してもよい。また、単一のエポックデータに対して時間方向にローパスフィルタまたは移動平均をかけてSN比を向上させて生体電位波形のピーク潜時の検出に適したデータに加工してもよい。ローパスフィルタの種類は、例えば、線形位相FIR(Finite Impulse Response)フィルタでもよい。また、生体電位信号に、ローパスフィルタまたは移動平均の処理を行った後に、潜時が検出されてもよい。
【0079】
例えば、着目するエポックデータ(n)(nは番号)の前後の10個のエポックデータを使用する移動平均は、着目するエポックデータ(n)を含む21個のエポックデータ(n-10)~(n+10)の加算平均を、番号nを変化させて順次に算出することで求められる。これにより、エポックデータ間でのピーク潜時のシフト量が十分小さい場合に、振幅を維持したままSN比を向上することができる。一方、1つのエポックデータに時間方向に移動平均をかける場合、振幅が小さくなり、SN比が低下するおそれがある。
【0080】
また、複数のエポックデータに対してローパスフィルタをかける場合、時間点が同じエポックデータのデータ列に対してフィルタリングが実施される。ローパスフィルタは、特性を様々に変更可能であるため、適切な特性のローパスフィルタを選択することで、単純な移動平均に比べてSN比を向上することが可能になる。
【0081】
図14は、図1図10および図12のデータ処理装置50のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0082】
データ処理装置50は、例えば、情報処理装置であり、CPU501、RAM502、ROM503、補助記憶装置504、入出力インタフェース505および表示装置506を有し、これらがバス507で相互に接続されている。CPU501は、図2のCPU51に対応し、表示装置506は、図2の表示装置50aに対応する。
【0083】
CPU501は、データ処理装置50の全体の動作を制御するとともに、生体情報計測装置100(または、100A、100B)の動作を制御する。CPU501は、ROM503または補助記憶装置504に格納された生体情報計測プログラムを実行することで、上述した第1から第3の実施形態の動作を実現する。
【0084】
RAM502は、CPU501のワークエリアとして用いられる。RAM502は、生体情報計測プログラムおよび各種情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。ROM503は、各種プログラムやプログラムで使用するパラメータ等を記憶する。例えば、ROM503または補助記憶装置504に格納された生体情報計測プログラムが、RAM502に展開され、CPU501により実行されてもよい。
【0085】
補助記憶装置504は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置である。補助記憶装置504は、例えば、データ処理装置50の動作を制御するOS(Operating System)等の制御プログラムや、データ処理装置50の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0086】
入出力インタフェース505は、タッチパネル、キーボード、操作ボタンまたはスピーカー等のユーザインタフェースと、他の電子機器と通信するための通信インタフェース等を含む。表示装置506には、図6で説明した生体電位波形、生体磁場波形等が表示される。また、表示装置506には、図7および図8に示した生体磁場波形が表示されてもよい。
【0087】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 磁場計測装置
11 SQUIDセンサアレイ
12 信号処理装置
20 低温容器
21 突起部
30 神経刺激装置
32 電極
40 参照信号検出装置
42 電極
50 データ処理装置
50a 表示装置
51 CPU
52 記憶装置
60 トリガ信号記録装置
62 電極
71 信号線
72 信号線
73 信号線
74 信号線
100、100A、100B 生体情報計測装置
200 磁気シールドルーム
210 扉
300 テーブル
501 CPU
502 RAM
503 ROM
504 補助記憶装置
505 入出力インタフェース
506 表示装置
507 バス
511 刺激タイミング制御部
512 潜時補正部
513 加算平均部
514 トリガ信号計測部
521 解析パラメータ
522 形態画像データ
523 生体磁場データ
1000 生体情報計測システム
P 被検体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0089】
【文献】特開2009-195571号公報
【文献】特公平06-007825号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14