(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】セメント混合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 18/14 20060101AFI20240517BHJP
B09B 3/25 20220101ALI20240517BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20240517BHJP
B02C 19/06 20060101ALI20240517BHJP
C22B 7/04 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C04B18/14 Z
B09B3/25
B09B5/00 J ZAB
B02C19/06 B
C22B7/04 Z
(21)【出願番号】P 2020083695
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】柳原 龍河
(72)【発明者】
【氏名】門田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 智彦
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172260(JP,A)
【文献】特開2011-093738(JP,A)
【文献】特開平04-089335(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077251(WO,A1)
【文献】鈴木 道隆,粉体の密充填におよぼす粒子物性の影響,Journal of the Society of Powder Technology,日本,Volume 40 Issue 5,p. 348-354,https://www.jstage.jst.go.jp/article/sptj1978/40/5/40_5_348/_article/-char/en
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B02C 19/06
B09B 5/00
C22B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅スラグ粉末からなる/または銅スラグ粉末を含むセメント混合材であって、
前記銅スラグ粉末の比表面積は4000cm
2/g以上8000cm
2/g以下で
あり、
前記銅スラグ粉末のメディアン径は3.5μm以上7μm以下であり、
前記銅スラグ粉末の均等数は2.1以上3.5以下である
ことを特徴とするセメント混合材。
【請求項2】
前記銅スラグ粉末において、10μmのふるいを通過する粒子の体積割合が85%以上であり、10μmのふるいを通過して2μmのふるいに残留する粒子の体積割合が80%以上95%以下であることを特徴とする請求項
1に記載のセメント混合材。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のセメント混合材を製造する方法であって、
銅スラグをジェットミルにより粉砕することによって前記銅スラグ粉末を製造することを特徴とするセメント混合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混合材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅スラグは、銅製錬所において副産物として年間約300t発生している。銅スラグの利用方法としては、下記特許文献1に記載のように、銅スラグを粉砕して製造した銅スラグ粉末をセメント混合材あるいはコンクリートの混合材として利用する方法が挙げられる。
【0003】
しかし、銅スラグ粉末をセメント混合材あるいはコンクリートの混合材として使用すると、このセメント混合材から製造するセメント混練物の強度が銅スラグ粉末によって低下するおそれがある。すなわち、セメント混合材が銅スラグ粉末からなると、または、セメント混合材に銅スラグ粉末が含まれると、このセメント混合材を混合したセメントの強度発現性が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、種々の研究を重ねた結果、セメント混合材として用いる銅スラグ粉末の比表面積が4000cm2/g以上8000cm2/g以下であると、この銅スラグ粉末をセメント混合材として使用しても高い強度を有するセメント混練物(モルタル、コンクリートなど)を製造することができるという知見を得た。
【0006】
また、本発明者は、さらなる研究を重ねた結果、銅スラグをジェットミルにより粉砕して銅スラグ粉末を製造する方法においては、この銅スラグ粉末(粉体の凝集体)の比表面積(JIS R 5201に規定されている比表面積試験の測定値)が高くなるにつれて、この銅スラグ粉末を構成する個々の粉末の実際の比表面積が均等になるという知見を得た。
【0007】
本発明は、これら知見に基づいてなされたものであり、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグ粉末を含んでいても強度発現性が高いセメント混合材、及び、このセメント混合材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一項目は、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグ粉末を含むセメント混合材に係るものである。前記銅スラグ粉末の比表面積は4000cm2/g以上8000cm2/g以下である。
【0009】
上記第一項目に係るセメント混合材をセメントクリンカ粉末、石膏粉末及び水と混練すると、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末により形成された隙間が銅スラグ粉末により効率よく充填され、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び銅スラグ粉末が互いに密着した状態でセメントクリンカ粉末及び石膏粉末が水和するため、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末の水和が促進されて高い強度を有するセメント混練物を製造することができる。このように、上記第一項目に係るセメント混合材は、強度発現性が高いものである。
【0010】
本発明の第二項目に係るセメント混合材においては、前記銅スラグ粉末のメディアン径が3.5μm以上7μm以下であり、前記銅スラグ粉末の均等数が2.1以上3.5以下である。本発明の第三項目においては、上記第一項目又は上記第二項目における前記銅スラグ粉末において、10μmのふるいを通過する粒子の体積割合が85%以上であり、10μmのふるいを通過して2μmのふるいに残留する粒子の体積割合が80%以上95%以下である。
【0011】
上記第二項目及び上記第三項目に係るセメント混合材をセメントクリンカ粉末、石膏粉末及び水と混練すると、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末により形成された隙間が銅スラグ粉末によりさらに効率よく充填されるため、さらに高い強度を有するセメント混練物を製造することができる。
【0012】
本発明の第四項目は、上記第一項目~上記第三項目に係るセメント混合材を製造する方法に係るものであり、銅スラグ(粒体)をジェットミルにより粉砕することによって前記銅スラグ粉末(粉体の凝集体)を製造するものである。
【0013】
上記第四項目によれば、銅スラグ粉末(粉体の凝集体)を構成する個々の粉体の比表面積を均等に高めることができるため、製造する銅スラグ粉末の強度発現性を効率よく高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグ粉末を含んでいても強度発現性が高いセメント混合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセメント混合材の製造方法を適用したセメント製造装置を示す全体構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るセメント混合材及びその製造方法の試験例を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態に係るセメント混合材及びその製造方法の試験例を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態に係るセメント混合材及びその製造方法の試験例を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係るセメント混合材及びその製造方法の試験例を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係るセメント混合材及びその製造方法の試験例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るセメント混合材の製造方法を適用したセメント製造装置1を示す全体構成図である。
図1に示すように、セメント製造装置1は、クリンカサイロ2、仕上ミル3、分級装置4、ジェットミル5、混合装置6及びセメントサイロ7を備える。
【0017】
クリンカサイロ2は、セメント焼成装置(不図示)から排出されるセメントクリンカ(不図示)を貯蔵する。仕上ミル3は、クリンカサイロ2から排出されるセメントクリンカCを石膏Gと共に粉砕して粉砕物Dを製造する。分級装置4は、仕上ミル3から排出される粉砕物Dを分級して粗粉Rと微粉Fとに分離する。ジェットミル5は、銅スラグS1を粉砕して銅スラグ粉末S2を製造する。混合装置6は、分級装置4から排出される微粉Fとジェットミル5から排出される銅スラグ粉末S2とを混合して混合物Mを製造する。セメントサイロ7は、混合装置6から排出される混合物Mを貯蔵する。また、分級装置4は、粗粉Rを仕上ミル3に戻す。仕上ミル3は、分級装置4から粗粉Rを戻された場合には、セメントクリンカCを石膏G及び粗粉Rと共に粉砕して粉砕物Dを製造する。
【0018】
本実施形態のジェットミル5は、その内部にノズル(図示せず)、供給部(図示せず)及び粉砕部(図示せず)を備え、大気圧下よりも圧縮された気体をノズルから粉砕部に音速で噴出すると共に銅スラグS1(粒体)を供給部から粉砕部に供給し、この気体の流れによって銅スラグS1同士を衝突させて粉砕することにより銅スラグ粉末S2(粉体の凝集体)を製造する。
【0019】
銅スラグ粉末S2は、本発明の一実施形態に係るセメント混合材に対応するものである。この銅スラグ粉末S2の比表面積は4000cm2/g以上8000cm2/g以下(より好ましくは4500cm2/g以上7000cm2/g以下 、さらに好ましくは5110cm2/g以上6400cm2/g以下、最も好ましくは5110cm2/g以上5800cm2/g以下)である。好ましくは、この銅スラグ粉末S2のメディアン径が3.5μm以上7μm以下であり、この銅スラグ粉末S2の均等数(ロジン・ラムラー式におけるもの)が2.1以上3.5以下である。このような数値範囲が好ましい理由については試験例の説明において後述する。なお、この比表面積は、JIS R 5201に規定されている比表面積試験に準拠して、銅スラグ粉末S2をブレーン空気透過装置(図示せず)を用いて測定される値である。
【0020】
銅スラグ粉末S2においては、好ましくは、10μm篩通過分(10μmのふるいを通過する粒子)の体積割合(銅スラグ粉末S2全体における10μm通過分の含有率)が85%以上であり、10μmのふるいを通過して2μmのふるいに残留する粒子の体積割合(銅スラグ粉末S2全体における10μmのふるいを通過して2μmのふるいに残留する粒子の含有率)が80%以上95%以下である。
【0021】
銅スラグS1の化学組成としては、例えば、酸化鉄含有率が35質量%以上55質量%以下、二酸化ケイ素含有率が28質量%以上38質量%以下、酸化カルシウム含有率が1質量%以上10質量%以下、酸化アルミニウム含有率が2質量%以上8質量%以下である。
【0022】
本実施形態において、セメントクリンカC、石膏G及び銅スラグS1をまとめてジェットミル5に供給して粉砕し、ジェットミル5から排出した粉砕物(セメントクリンカCの粉末、石膏Gの粉末及び銅スラグS1の粉末の混合粉末)をセメント組成物としてセメントサイロ7に貯蔵してもよい。また、銅スラグ粉末S2と銅スラグ粉末以外の材料(例えば、高炉スラグ粉末及びフライアッシュなど)との混合物をセメント混合材として混合装置6に供給してもよい。
【0023】
さらに、上記実施形態において、銅スラグ粉末S2と微粉F(セメント)とを別々にSS(サービスステーション:図示せず)へ運び、SS内の設備で混合してセメント組成物として出荷してもよい。銅スラグ粉末S2をコンクリートの混和材として使用する場合は、コンクリートの製造プラント(図示せず)でコンクリートを製造する際に、微粉F(セメント)と銅スラグ粉末S2との双方をコンクリートミキサ(図示せず)に投入して使用できる。
【0024】
次に、本発明の一実施形態に係るセメント混合材及びその製造方法の試験例について説明する。この試験例は、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグを含んでいても強度発現性が高いセメント混合材、及び、その好ましい製造方法について導出することを目的とするものである。
【0025】
この試験例においては比較例1~3及び実施例1~3を行った。比較例1~3及び実施例1~3においては、銅スラグ(
図1に示す銅スラグS1に相当)を粉砕して銅スラグ粉末(
図1に示す銅スラグ粉末S2に相当)を製造した。そして、この銅スラグ粉末をセメント混合材としてセメントクリンカ粉末(
図1に示すセメントクリンカCの粉末に相当)及び石膏粉末(
図1に示す石膏Gの粉末に相当)と混合することにより、セメント組成物(
図1に示す混合物Mに相当)を製造した。さらに、このセメント組成物を水及び標準砂と混練してモルタル(セメント混練物)を製造した。なお、以下において、セメントクリンカ粉末と石膏粉末との混合粉末を適宜「セメント粉末」という。
【0026】
表1~表3は、この試験例における試験条件を示す表である。具体的には、表1は、比較例1~3及び実施例1~3において粉砕した銅スラグの種類、銅スラグの粉砕に使用した粉砕機の種類、製造した銅スラグ粉末の比表面積、製造した銅スラグ粉末のメディアン径、及び、製造した銅スラグ粉末の均等数(ロジン・ラムラー式におけるもの)を示している。この比表面積は、JIS R 5201に規定されている比表面積試験に準拠して算出したものである。この比表面積の算出において、密度は表2に記載している数値を使用した。また、このメディアン径の測定にはマイクロトラック・ベル株式会社の粒度分布測定装置(MT3300EX)を使用した。表1に記載しているメディアン径は体積基準で算出された値である。
【0027】
表2は、比較例1~3及び実施例1~3において原料として用いた銅スラグ(銅スラグA、B)の化学組成(質量%)、塩基度及び密度を示している。この化学組成は、蛍光X線分析により測定したものである、この塩基度は、「[CaO含有率(質量%)+MgO含有率(質量%)+Al2O3含有率(質量%)]/SiO2含有率(質量%)」の計算値である。また、表3は、比較例1~3及び実施例1~3において使用したセメント粉末の化学組成及び鉱物組成を示している。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
この試験例における試験条件を
図2及び
図3において示す。具体的には、
図2は、銅スラグ粉末の体積基準の粒度分布における度数分布として比較例及び実施例ごとに示すグラフである。
図3は、銅スラグ粉末の体積基準の粒度分布を累積分布として比較例及び実施例ごとに示すグラフである。これら
図2及び
図3にも示されていることであるが、表4において明確に示されているように、10μm篩通過分(10μmのふるいを通過する粒子)の体積割合(銅スラグ粉末全体における10μm通過分の含有率)は、比較例1~3においては50%以下であり、かつ、実施例1~3においては85%以上である。また、10μmのふるいを通過して2μmのふるいに残留する粒子の体積割合(銅スラグ粉末全体における10μmのふるいを通過して2μmのふるいに残留する粒子の含有率)は、比較例1~3においては40%以下であり、かつ、実施例1~3においては80%以上95%以下である。
【0032】
【0033】
この試験例における試験結果を
図4において示す。具体的には、
図4は、比較例1~3及び実施例1~3における銅スラグ粉末の比表面積(表1に示すもの)と表3に示す活性度指数(セメント混合材の強度発現性の指標値)との関係を示している。この活性度指数は、JIS A 6201に規定されている方法(ただし、フライアッシュに代えて銅スラグ粉末を使用する方法)に準拠して算出したものであり、基準モルタル(結合材としてセメントクリンカ粉末及び石膏粉末を使用したもの)に対する各モルタル(結合材として、比較例1~3及び実施例1~3における銅スラグ粉末、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末を使用したもの)の28日強度の百分率を示す値である。ただし、銅スラグ粉末の置換率は20%とした。
図4に示すグラフにおける左側から右側に向かって、比較例1、比較例2、比較例3、実施例1、実施例2及び実施例3の順にプロットがなされている。
【0034】
【0035】
図4に示すグラフから次のことを読み取ることができる。セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び銅スラグ粉末を含むセメント組成物において、銅スラグ粉末の比表面積が4000cm
2/g未満の範囲内においては、銅スラグ粉末の比表面積にかかわらず銅スラグ粉末の活性度指数はさほど高まらない。銅スラグ粉末の比表面積が4000cm
2/g以上5110cm
2/g未満の範囲内においては、銅スラグの比表面積が大きくなるにつれて銅スラグ粉末の活性度指数が急激に高まり、特に、銅スラグ粉末の比表面積が4500cm
2/g以上であると銅スラグ粉末の活性度指数が90%を超える。銅スラグ粉末の比表面積が5110cm
2/g以上5800cm
2/g以下の範囲内においては、銅スラグ粉末の比表面積が増加しても銅スラグ粉末の活性度指数はわずかに高まるだけである。
【0036】
銅スラグ粉末の比表面積が5800cm2/gを超えて6400cm2/g以下の範囲内においては、銅スラグ粉末の比表面積が増加すると銅スラグ粉末の活性度指数はわずかに低くなる。銅スラグ粉末の比表面積が6400cm2/gを超える範囲内においては、銅スラグ粉末の比表面積が大きくなるにつれて銅スラグ粉末の活性度指数が急激に低下し、特に、銅スラグ粉末の比表面積が7000cm2/gを超えると銅スラグ粉末の活性度指数が90%を下回る。ただし、銅スラグ粉末の比表面積が8000cm2/g以下であれば、銅スラグ粉末の活性度指数は85%以上に維持される。
【0037】
この結果から次のことを導出することができる。すなわち、銅スラグ粉末からなるセメント混合材の強度発現性は、銅スラグ粉末の比表面積が4000cm2/g以上8000cm2/g以下であれば高くなり(銅スラグ粉末の活性度指数が85%以上)、銅スラグ粉末の比表面積が4500cm2/g以上7000cm2/g以下であればさらに高くなり(銅スラグ粉末の活性度指数が90%を超える程度)、銅スラグ粉末の比表面積が5110cm2/g以上6400cm2/g以下であると非常に高くなる。
【0038】
なお、銅スラグ粉末の比表面積が5800cm2/g以下であれば、銅スラグの不要な粉砕(銅スラグ粉末の活性度指数を低下させてしまうような粉砕)を回避することができる。
【0039】
また、この試験例からは、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグ粉末を含むセメント混合材の好ましい製造方法についても導出することができる。この製造方法について以下説明する。
【0040】
図5は、実施例1~3における、セメント組成物の混練時間とセメント組成物の混練に伴うセメント組成物1g当たりの積算発熱量との関係を示している。積算発熱量の測定はASTM C1702 - 17:"Standard Test Method for Measurement of Heat of Hydration of Hydraulic Cementitious Materials Using Isothermal Conduction Calorimetry"に準拠し実施した。
【0041】
図6は、実施例1、2及び実施例3における、銅スラグ粉末の比表面積(表1に示すもの)と反応率との関係を示している。
図6に示すグラフにおける左側から右側に向かって、実施例1、2及び実施例3の順にプロットがなされている。この反応率は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び銅スラグ粉末からなるセメント組成物を、水粉末比0.6で練り込んで作製したセメントペーストを材齢28日となったタイミングで溶解液と混合して、未反応の銅スラグ粉末以外を溶解液に溶解させ、「(溶解液と混合する前の銅スラグ粉末の質量-溶解液と混合した後の銅スラグ粉末残分の質量)/溶解液と混合する前の銅スラグ粉末の質量」の百分率を算出したものである。
【0042】
図5に示す実施例1、2及び実施例3を比較すると、セメント混合材として使用する銅スラグ粉末の比表面積が高い場合ほど、セメント組成物の混練に伴うセメント組成物1g当たりの積算発熱量が大きくなっている。なお、セメント組成物の混練終了時における積算発熱量は、実施例1においては304.4J/g、実施例2においては307.6J/g、実施例3においては313.5J/gになった。これは、セメント混合材として使用する銅スラグ粉末の比表面積が高い場合ほど、セメント組成物の混練段階において、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末により形成された隙間を銅スラグ粉末が効率よく充填し、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び銅スラグ粉末が互いに密着した状態でセメントクリンカ粉末及び石膏粉末が水和するため、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末の水和が促進されたためであると考えられる。
【0043】
しかし、実施例1、2においては、
図5に示すように実施例3よりも積算発熱量が小さいにもかかわらず、
図4に示すように銅スラグ粉末の活性度指数が高くなっている。これは、実施例1、2においては、
図6に示すように実施例3よりも銅スラグ粉末の反応率が高いためであると考えられる。なお、上述したように、
図4及び
図6において、右から3番目のプロットが実施例1を示しており、右から2番目のプロットが実施例2を示しており、一番右のプロットが実施例3を示している。
【0044】
つまり、一般的なセメント混合材(銅スラグ粉末以外のもの。例えば、高炉スラグ粉末やフライアッシュ)を製造する場合には、セメント混合材の比表面積を大きくするほどセメント混合材の強度発現性が高まる。しかし、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグを含むセメント混合材を製造する場合には、セメント混合材(銅スラグ粉末)の比表面積を8000cm2/g以下(好ましくは6400cm2/g以下、より好ましくは5800cm2/g以下)に調整しないと、銅スラグ粉末の反応率低下によってセメント混合材の強度発現性が低下してしまう。
【0045】
ところで、表1に示すように、ディスクミルにより銅スラグを粉砕する場合には、銅スラグ粉末の比表面積を高めるほど銅スラグ粉末の均等数が減少している。一方、ジェットミルにより銅スラグを粉砕する場合には、銅スラグ粉末の比表面積を高めるほど銅スラグ粉末の均等数が増加しており、かつ、ディスクミルにより銅スラグを粉砕する場合よりも銅スラグ粉末の均等数が大きくなっている。つまり、銅スラグをジェットミルにより粉砕して銅スラグ粉末(粉体の凝集体)の比表面積(JIS R 5201に規定されている比表面積試験の測定値)を4000cm2/g以上8000cm2/g以下に調整することによって、銅スラグ粉末を構成する個々の粉体の実際の比表面積を満遍なく4000cm2/g以上8000cm2/g以下にすることができる。
【0046】
よって、表1及び
図4~
図6に示す結果から、銅スラグ粉末からなる/または銅スラグ粉末を含むセメント混合材の好ましい製造方法を次のように導出することができる。すなわち、この製造方法は、銅スラグをジェットミルにより粉砕することによって銅スラグ粉末(粉体の凝集体)の比表面積(JIS R 5201に規定されている比表面積試験の測定値)を4000cm
2/g以上8000cm
2/g以下に調整し、この銅スラグ粉末をセメント混合材としてセメントクリンカ粉末及び石膏粉末と混合するものである。
【0047】
なお、ジェットミルのように圧縮気体を噴出して銅スラグ同士を衝突させて粉砕する粉砕装置に代えて、圧縮液体を噴出して銅スラグ同士を衝突させて粉砕する粉砕装置を使用することも考えられるが、圧縮液体は圧縮気体に比較して高速で噴出することが難しい。このため、銅スラグ粉末を構成する個々の粉体の比表面積を短時間で均等に高めるためには、銅スラグの粉砕にジェットミルを使用することが好ましいと考えられる。
【0048】
なお、上述した試験例とは別の試験例についても説明する。表6は、この別の試験例について示している。この別の試験例は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び銅スラグ粉末を含むセメント組成物において、銅スラグ粉末の置換率(セメント組成物の銅スラグ粉末含有率)が0質量%、10質量%、20質量%及び50質量%の場合における、このセメント組成物から製造したセメント混練物の圧縮強度(材齢28日)と銅スラグ粉末の活性度指数とを示している。なお、銅スラグ粉末の比表面積は5110cm2/gで統一した。銅スラグ粉末の置換率が20質量%のデータは上述した実施例1におけるものである。
【0049】
銅スラグ粉末がセメント組成物の強度発現性に何ら影響を与えないと仮定した場合、銅スラグ粉末の置換率が10%、20%及び50%の場合においては、銅スラグ粉末の活性度指数がそれぞれ「90%、80%及び50%」(以下、これらの数値を「基準値」という。)になるはずである。しかし、表6に示すように、銅スラグ粉末の置換率が10%、20%及び50%の場合においては、銅スラグ粉末の活性度指数がそれぞれ基準値を上回っている。しかも、銅スラグ粉末の置換率が大きくなるほど(すなわち、多量の銅スラグ粉末をセメント組成物の材料に使用するほど)、銅スラグ粉末の活性度指数が基準値を大きく超えている。
【0050】
つまり、表6は、銅スラグ粉末の比表面積が4000cm2/g以上8000cm2/g以下である場合には、セメント組成物の材料として多量の銅スラグ粉末を使用するほど、銅スラグ粉末によってセメント組成物の強度発現性を効果的に高めることができる、ということを示している。
【0051】
【符号の説明】
【0052】
1 セメント製造装置
2 クリンカサイロ
3 仕上ミル
4 分級装置
5 ジェットミル
6 混合装置
7 セメントサイロ
C セメントクリンカ
D 粉砕物
F 微粉
G 石膏
M 混合物
R 粗粉
S1 銅スラグ
S2 銅スラグ粉末