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特許7489867偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020142639
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038247
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松久 英樹
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-173477(JP,A)
【文献】特開2020-71241(JP,A)
【文献】特開2005-128504(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016542(WO,A1)
【文献】特開2013-202979(JP,A)
【文献】特開2004-78208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを第1処理液に接触させる第1処理工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを前記第1処理液が介在する状態でロールに接触させて搬送する搬送工程と、をこの順に有し、
前記第1処理液はヨウ素を含み、
前記ロールはスポンジロールであり、
前記ロールは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.03mm以上0.9mm以下である凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下である凸部の少なくとも一方を有する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第1処理液はホウ酸を含む、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを前記第1処理液とは異なる第2処理液に接触させる第2処理工程をさらに有する、請求項1または2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記偏光フィルムは、視感度補正単体透過率が43%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための装置であって、
第1処理液を収容する第1処理浴と、
前記第1処理浴内に配置されたロールと、
前記ロールを通る搬送経路と、を有し、
前記第1処理液はヨウ素を含み、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、前記搬送経路に沿って搬送されて、前記第1処理浴に浸漬され、
前記ロールはスポンジロールであり、
前記ロールは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.03mm以上0.9mm以下である凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下である凸部の少なくとも一方を有する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素のような二色性色素を吸着配向させた偏光フィルムが公知である。たとえば特開2001-141926号公報(特許文献1)は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する染色処理、架橋剤で処理する架橋処理及びフィルム乾燥処理を順次施すとともに、製造工程の間にポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して延伸処理を施すことによって偏光フィルムを製造することを開示している。
【0003】
特開2012-173477号公報(特許文献2)には、樹脂フィルムの搬送に溝付き金属ガイドロールを用いることにより、偏光子に発生するスクラッチを低減することが記載されている。特開2000-147252号公報(特許文献3)には、偏光フィルムの搬送にスパイラルゴムロールを用いることにより、破断を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-141926号公報
【文献】特開2012-173477号公報
【文献】特開2000-147252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
偏光フィルムは、工業的には長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、偏光フィルムの製造装置が有するフィルムの搬送経路に沿って連続的に搬送させながら、該搬送経路上にある上述の染色処理及び架橋処理などを行う各槽に順次浸漬させる製造方法が適用されることによって生産される。フィルムの搬送において、フィルムの搬送速度とガイドロールの回転速度が一致していることがフィルムの表面を保護する観点から好ましい。特に、湿潤状態にあるフィルムはロールとの接触によりダメージを受けやすい。例えば、特許文献2,3に記載されているようにガイドロールの表面を凹凸加工した場合に、フィルムのグリップ性を向上させることができたとしても、このような方法により高透過率の偏光フィルムを製造した場合に、染色ムラが散見されることを知見した。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明は、偏光フィルムに染色ムラが形成されることを抑制した偏光フィルムの製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造方法及び製造装置を提供する。
[1] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを第1処理液に接触させる第1処理工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを前記第1処理液が介在する状態でロールに接触させて搬送する搬送工程と、をこの順に有し、
前記第1処理液はヨウ素を含み、
前記ロールは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.03mm以上0.9mm以下である凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下である凸部の少なくとも一方を有する、偏光フィルムの製造方法。
[2] 前記第1処理液はホウ酸を含む、[1]に記載の偏光フィルムの製造方法。
[3] 前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを第1処理液とは異なる第2処理液に接触させる第2処理工程をさらに有する、[1]または[2]に記載の偏光フィルムの製造方法。
[4] 前記ロールはスポンジロールである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
[5] 前記偏光フィルムは、視感度補正単体透過率が43%以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
[6] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための装置であって、
第1処理液を収容する第1処理浴と、
前記第1処理浴内に配置されたロールと、
前記ロールを通る搬送経路と、を有し、
前記第1処理液はヨウ素を含み、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、前記搬送経路に沿って搬送されて、前記第1処理浴に浸漬され、
前記ロールは、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.03mm以上0.9mm以下である凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下である凸部の少なくとも一方を有する、装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、染色ムラが形成されることを抑制した偏光フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】凹凸部を有するロールを模式的に示す(a)上面図、及び(b)断面図である。
図2】本実施形態に係る製造方法に用いる偏光フィルム製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3】ガイドロールB-4の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一態様に係る偏光フィルムの製造方法(以下、「本実施形態に係る製造方法」ともいう)について説明する。ただし本発明は、この一態様に限定されるものではない。
【0011】
[偏光フィルムの製造方法]
本実施形態に係る製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法である。具体的には、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを第1処理液に接触させる第1処理工程と、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを上記第1処理液が介在する状態でロールに接触させて搬送する搬送工程と、をこの順に有する。上記処理液はヨウ素を含む。また、上記ロールは、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.03mm以上0.9mm以下の凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下の凸部の少なくとも一方を有する。このような凹部又は凸部を有することによりフィルムのグリップ性を向上させることができる。また、このような凹部又は凸部は、フィルムの染色ムラの原因とはなりにくい。
【0012】
本明細書において、凹部は周囲よりも凹んでいる領域を意味し、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが接触しない領域であることが好ましい。凹部の外形は限定されることなく、凹部の外形を結ぶ直線の内、最大長さとなる直線の長さ(最長長さ)と、最短長さとなる直線の長さ(最短長さ)とが同程度である円形、矩形等の凹部、最長長さと最短長さとが異なる溝状の凹状部等が例示される。溝状の凹状部は、ロールの全周に亘って形成されているものであってもよい。凹状部の幅は、例えば、0.3mm以上50mm以下である。本実施形態の製造方法で用いられるロールにおける凹部は、深さが0.03mm以上0.9mm以下である。
【0013】
本明細書において、凸部は周囲よりも凸になっている領域を意味し、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが他の領域よりも強い圧力で接触する領域であることが好ましい。凸部の外形は限定されることなく、凸部の外形を結ぶ直線の内、最大長さとなる直線の長さが(最長長さ)と、最端長さとなる直線の長さ(最短長さ)とが同程度である円形、矩形等の凸部、最長長さと最短長さとが異なる凸状部等が例示される。凸状部は、ロールの全周に亘って形成されているものであってもよい。凸状部の幅は、例えば、0.3mm以上50mm以下である。本実施形態の製造方法で用いられるロールにおける凸部は、高さが0.03mm以上0.9mm以下である。
【0014】
凹部または凸部は、一つであっても複数であってもよい。凹部または凸部の外形の面積は限定されることはないが、例えば0.03mm以上であり、0.07mm以上、1mm以上である。一つの凹部または一つの凸部の外形の面積が1mm未満である場合には、複数の凹部または凸部を有することが好ましい。深さが0.03mm以上0.9mm以下の凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下の凸部の外形の合計面積は、フィルムのグリップ性を維持する観点から、ロールの表面積の0.1%以上であり、1%以上であることが好ましく、例えば30%以下であり、20%以下であることが好ましい。
【0015】
ロールは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.3mm以上0.9mm以下の凹部、又は高さが0.3mm以上0.9mm以下の凸部を有する一方で、深さが0.9mmを超える凹部、又は高さが0.9mmを超える凸部を有しないことが好ましい。このようなロールを用いることにより、フィルムのグリップ性を向上させつつ、フィルムの染色ムラを抑制することができる。
【0016】
偏光フィルムに染色ムラが形成される要因については詳細には明らかではないが、凹部又は凸部において、またはその付近において処理液が溜まりやすく、その処理液が染色性を不均一にする原因になり得るものと推測される。
【0017】
本実施形態においては、第1処理工程においてポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素を含む第1処理液を接触させた後、得られたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを上記第1処理液が介在した状態で、深さが0.3mm以上0.9mm以下の凹部、又は高さが0.3mm以上0.9mm以下の凸部を有するロールを用いて搬送することによって、染色ムラを抑制することができる。
【0018】
本明細書において、凹部の深さとは、凹部の表面と凹部の周辺の凹部及び凸部以外の表面の高さの差の最大値をいう。本明細書において、凸部の高さとは、凸部の表面と凸部の周辺の凸部及び凹部以外の表面の高さの差の最大値をいう。図1(a)は、本実施形態の方法で用いられるロールであって、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに接触する領域に凹部を有するロールを模式的に表す上面図を示し、図1(b)は図1(a)におけるb-b断面図を示す。図1(a)及び図1(b)に示すロール60には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに接触する領域に凹部61を有する。凹部61について、深さDが0.03mm以上0.9mm以下である。
【0019】
上記搬送工程で用いられるロールの種類は特に限定されず、例えば、フィルムの片面を支持するフリーロールであるガイドロールであってもよく、フィルムを挟持する一対のロール(ニップロール等)であってもよい。該ロールの形状は、限定されず、スパイラルロール、クラウンロール等が挙げられる。
また、その材質は限定されることなく、スポンジロール、ゴムロール、木製ロール、又は金属ロール等を採用することができるが、グリップ性の観点からは、ロール表面が発泡処理されたスポンジロールや、ロール表面に溝切加工されたマイクログルーブロールなどを用いることが好ましい。グリップ性に優れたロールを用いることにより、PVA系樹脂フィルムがロールの表面を滑ることを防止することができ、PVA系樹脂フィルムの表面に傷が形成されるのを抑制することができる。
【0020】
スポンジロールにおけるスポンジの材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエン化ビニル系などが挙げられ、この中でもポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
上記第1処理工程により、上記フィルムの表面に第1処理液が存在することとなる。したがって、第1処理液を接触させたフィルムは、搬送工程において、その表面上に第1処理液が存在した状態、つまり、第1処理液が介在した状態でフィルムが搬送される。搬送工程におけるロールとしては、第1処理浴内のロール、第1処理浴内に第1処理液に少なくとも一部が浸漬した状態で配置されたロールや、第1処理浴からフィルムが取り出された後にフィルムが最初に接触するロールなどが挙げられる。
ここでの第1処理浴は、ヨウ素を含む処理液を収容する処理浴であり、例えば、後述する染色浴が該当する。また、架橋液、補色液がヨウ素を含む場合は、架橋浴、補色浴が該当し得る。第1処理浴に該当する処理浴は1つであっても2つ以上であってもよい。以下、本実施形態に係る製造方法について具体的に説明する。
【0022】
〔ポリビニルアルコール系樹脂フィルム〕
偏光フィルムは、例えば一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素(ヨウ素、二色性染料等)を吸着配向させることにより得ることができる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムを意味し、例えばケン化したポリ酢酸ビニル系樹脂などが例示される。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体)などが挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常約1000~10000程度、好ましくは約1500~5000程度である。ケン化度は、通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99~100モル%である。これらのポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えばアルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどを使用することができる。
【0023】
本実施形態に係る製造方法において開始材料となるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、厚みが80μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは30μm以下の未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を用いることができる。これにより市場要求が益々高まっている薄膜の偏光フィルムを得ることができる。原反フィルムの幅は特に制限されず、例えば400mm以上8000mm以下であり、好ましくは2000mm以上5500mm以下である。未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚みは、10μm以上であってもよいし、20μm以上であってもよい。原反フィルムは、例えば長尺の未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのロール(原反ロール)として用意される。なお、未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)は通常、ロール状フィルムとして供給される。
【0024】
上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、これを支持する基材フィルムに積層されていてもよい。すなわちポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、基材フィルムとその上に積層されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとの積層フィルムとして準備されてもよい。この場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、例えば、基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、これを乾燥させることによって製造することができる。
【0025】
基材フィルムとしては、例えば、熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることができる。具体例としては、透光性を有する熱可塑性樹脂、好ましくは光学的に透明な熱可塑性樹脂で構成されるフィルムであって、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;メタクリル酸メチル系樹脂のような(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリイミド系樹脂等であることができる。
【0026】
〔処理工程〕
本実施形態に係る製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法である。以下、本明細書においてポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製するまでの一連の製造工程を「処理工程」の用語を用いて説明する。すなわち本実施形態に係る製造方法は、1または複数の処理工程を行うことにより、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを作製することができる。上記1または複数の処理工程としては、例えば上述したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して膨潤、染色、架橋、補色および洗浄などの各種の処理を行う膨潤工程、染色工程、架橋工程(ホウ酸工程)、補色工程および洗浄工程などを挙げることができる。
【0027】
具体的には、膨潤工程は、上記原反フィルムに膨潤液を接触させて膨潤処理を行う工程である。染色工程は、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「膨潤フィルム」ともいう)に染色液を接触させて染色処理を行う工程である。架橋工程(ホウ酸工程)は、染色処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「染色フィルム」ともいう)に架橋液を接触させて架橋処理を行う工程である。補色工程は、架橋処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「架橋フィルム」ともいう)に補色液を接触させて色調整処理を行う工程である。さらに洗浄工程は、色調整処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「色補正フィルム」ともいう)に対し、洗浄液を付着させることにより上記架橋工程、補色工程等において付着した余剰のホウ酸、ヨウ素等の薬剤を除去する洗浄処理を行う工程である。上記1または複数の処理工程は、本発明の効果を奏する限り、上述した工程に限定されず、その他の工程を含むことができる。上記1または複数の処理工程は、上述した工程およびその他の工程を適宜組み合わせることもできる。
【0028】
上記処理工程は、上述した膨潤工程などの各工程のいずれかの前またはいずれかの工程中に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する操作を含むことが好ましい。例えば未延伸の原反フィルムを空気あるいは不活性ガス中で一軸延伸(乾式延伸)した後、膨潤工程、染色工程、架橋工程、補色工程および洗浄工程をこの順に行うことを例示することができる。また未延伸の原反フィルムを用いて膨潤工程、染色工程、架橋工程、補色工程および洗浄工程をこの順に行い、上記架橋工程の前またはその工程中に湿式にてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸することを例示することもできる。
【0029】
以下、図2を参照しながら、本実施形態に係る製造方法を例示することにより具体的に説明する。図2は、本実施形態に係る製造方法に用いる偏光フィルム製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
【0030】
図2に示される偏光フィルム製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反(未延伸)フィルム10を、原反ロール11より連続的に巻出しながらフィルム搬送経路に沿って搬送し、フィルム搬送経路上に設けられた膨潤浴(膨潤槽内に収容された膨潤液)13、染色浴(染色槽内に収容された染色液)14、架橋浴(架橋槽内に収容された架橋液)15、補色浴(補色槽内に収容された補色液)16、および洗浄浴(洗浄槽内に収容された洗浄液)17を順次通過させることにより、膨潤工程、染色工程、架橋工程、補色工程および洗浄工程をこの順に行うことができる。さらに、上記処理浴を順次通過させた原反(未延伸)フィルム10に対し、最後に乾燥炉21を通過させることにより、偏光フィルム23を得るように構成されている。次いで偏光フィルム製造装置は、偏光フィルム23を、例えば、そのまま次の偏光板作製工程(偏光フィルム23の片面又は両面に保護フィルムを貼合する工程)に搬送することができる。図2における矢印は、フィルムの搬送方向を示している。
【0031】
図2の説明において、「処理槽」は、膨潤槽、染色槽、架橋槽、補色槽および洗浄槽を含む総称であり、「処理液」は、膨潤液、染色液、架橋液、補色液および洗浄液を含む総称であり、「処理浴」は、膨潤浴、染色浴、架橋浴、補色浴および洗浄浴を含む総称である。膨潤浴、染色浴、架橋浴、補色浴および洗浄浴は、それぞれ上記偏光フィルム製造装置における膨潤部、染色部、架橋部、補色部および洗浄部を構成する。
【0032】
偏光フィルム製造装置のフィルム搬送経路は、上記処理浴の他、ガイドロール30~32,34~36,38~40,42~46ならびにニップロール50~52,53a,53b,54~55を適宜の位置に配置することによって構成されている。ガイドロール30~32,34~36,38~40,42~46は、搬送されるフィルムを支持し、かつフィルム搬送方向を変更することができる。ニップロール50~52,53a,53b,54~55は、上記フィルム搬送経路に沿って搬送されるフィルムを押圧および挟持し、回転による駆動力をフィルムに与えることができ、かつフィルム搬送方向を変更することができる。ガイドロールおよびニップロールは、各処理浴の前後および処理浴中に配置することができ、これにより処理浴へのフィルムの導入、浸漬および処理浴からの引き出しを行うことができる。例えば、各処理浴中に1以上のガイドロールを設け、これらのガイドロールに沿ってフィルムを搬送することにより、各処理浴にフィルムを浸漬することができる。
【0033】
偏光フィルム製造装置は、各処理浴の前後にニップロール50~52,53a,53b,54が配置されている。これにより、いずれか1以上の処理浴中で、その前後に配置されるニップロール間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸を実施することが可能である。以下、各工程について説明する。
【0034】
<膨潤工程>
膨潤工程は、原反フィルム10表面の異物除去、原反フィルム10中の可塑剤除去、易染色性の付与、原反フィルム10の可塑化等の目的で行われる。処理条件は、上記目的が達成でき、かつ原反フィルム10の極端な溶解および失透等の不具合を生じない範囲で決定される。
【0035】
上記膨潤工程では、原反フィルム10を原反ロール11より連続的に巻出しながら、フィルム搬送経路に沿って搬送し、原反フィルム10を膨潤浴13に所定時間浸漬し、次いで膨潤フィルムとして引き出すことによって膨潤処理を行うことができる。膨潤浴に用いる膨潤液としては、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709号公報)、塩化物(特開平06-281816号公報)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類等を約0.01~10質量%の範囲で添加した水溶液を使用することが可能である。
【0036】
膨潤浴13の温度は、例えば10~70℃程度、好ましくは15~50℃程度、より好ましくは15~35℃程度である。原反フィルム10の浸漬時間は、好ましくは10~600秒程度、より好ましくは15~300秒程度である。
【0037】
上記膨潤処理では、原反フィルム10が幅方向に膨潤するために、膨潤フィルムにシワが入る問題が生じやすい。このシワを取りつつ膨潤フィルムを搬送するための1つの手段として、拡幅機能を有する公知のロールや公知の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は延伸処理を施すことである。例えば、ニップロール50とニップロール51との周速差を利用して膨潤浴13中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0038】
上記膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、原反フィルムに積極的な延伸を行わない場合、搬送方向のフィルムのたるみを無くすため、例えば膨潤浴13の前後に配置するニップロール50,51の速度をコントロールする手段等を講ずることが好ましい。また、膨潤浴13中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴13中での水流をシャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)等を併用したりすることも有用である。
【0039】
図2に示される例において、膨潤浴13から引き出された膨潤フィルムは、ガイドロール32、ニップロール51を順に通過して染色浴14へ導入される。
【0040】
<染色工程>
染色工程は、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素等の二色性色素を吸着させ、これを配向させる等の目的で行われる。処理条件は、上記目的が達成でき、かつフィルムの極端な溶解および失透等の不具合が生じない範囲で決定される。染色工程は、膨潤処理後の膨潤フィルムをニップロール51、ガイドロール34~35およびニップロール52によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送し、染色浴14に所定時間浸漬し、次いで染色フィルムとして引き出すことによって染色処理を行うことができる。二色性色素の染色性を高めるために、染色工程に供される膨潤フィルムは、少なくともある程度の一軸延伸処理を施したフィルムであることが好ましく、染色処理前の一軸延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の一軸延伸処理に加えて、染色処理時に一軸延伸処理を行うことが好ましい。
【0041】
二色性色素としてヨウ素を用いることが好ましく、染色浴14に用いる染色液としては、例えば、濃度が質量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=約0.003~1/約0.1~20/100である水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物とを併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合、二色性色素を含む点で後述する架橋液と区別される。本明細書において水溶液が水100質量部に対し、二色性色素を約0.003質量部以上含む場合、上記水溶液を染色液とみなすことができる。膨潤フィルムを浸漬するときの染色浴14の温度は、通常10~45℃程度、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃であり、膨潤フィルムの浸漬時間は、通常20~600秒程度、好ましくは30~300秒である。
【0042】
上述のように染色工程では、染色浴14で膨潤フィルムの一軸延伸を行うことができる。膨潤フィルムの一軸延伸は、染色浴14の前後に配置したニップロール51とニップロール52との間で周速差をつけることにより行うことができる。
【0043】
上記染色処理においても、上記膨潤処理と同様にシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、上述したガイドロール34,35,36に拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、公知の拡幅装置を備えさせたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0044】
図2に示される例において、染色浴14から引き出された染色フィルムは、ガイドロール36、ニップロール52を順に通過して架橋浴15へ導入される。
【0045】
<染色工程の一態様>
染色工程の一態様において、染色工程は第1処理工程であり、染色液は第1処理液である。かかる態様において、図2に示すガイドロール34,35,36の内、少なくとも一つのガイドロールは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に深さが0.03mm以上0.9mm以下である凹部及び高さが0.03mm以上0.9mm以下である凸部の少なくとも一方を有するロール(以下、「第1ロール」ともいう。)である。図2において、第1ロールは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに染色液が介在する状態で接触してこれを搬送するものであり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接触する表面に、深さが0.9mmを超える凹部、又は高さが0.9mmを超える凸部を有しない。本態様に係る製造方法によると、偏光フィルムに染色ムラが形成されることを抑制することができる。
【0046】
本実施形態に係る製造方法において、染色工程は、本発明の効果が得られる限り、上記に例示する方法に限定されず、特許請求の範囲と均等の意味において、ならびにその範囲内ですべての変更を行うことができる。さらに本実施形態に係る製造方法において、第1処理工程である処理工程について、その工程が染色工程である場合に限定されず、処理浴が収容する処理液がヨウ素を含む処理工程であればよい。例えば、架橋工程や補色工程が該当し得る。これらの場合も、染色ムラによる視認不良が無い偏光フィルムを提供することが可能となる。各処理工程において組成が異なる処理液が用いられる複数の処理工程を有する製造方法において、少なくとも1つ処理工程が第1処理工程であればよく、他の処理工程は第1処理工程とは異なる第2処理工程であってもよい。第2処理工程で用いられる第1処理液とは異なる組成の処理液を第2処理液とする。
【0047】
架橋工程および補色工程が第1処理工程である場合、上述の染色工程の一態様における搬送工程についての説明を、これらの処理工程における搬送工程の説明とすることができる。
【0048】
<架橋工程>
架橋工程は、上記染色フィルムに対し、耐水性を付与する目的で行われる。上記架橋工程は、1回または複数回行ってもよい。架橋工程は、ニップロール52,ガイドロール38~40およびニップロール53aによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送されてきた染色フィルムを、架橋浴15に所定時間浸漬し、次いで架橋フィルムとして引き出すことによって架橋処理を行うことができる。
【0049】
架橋液としては、架橋剤を溶媒に溶解させた溶液を使用することができる。架橋剤としては、例えばホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。溶媒としては、例えば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでもよい。架橋液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、0.1~15質量%の範囲にあることが好ましく、1~12質量%であることがより好ましい。
【0050】
架橋処理においては、必要に応じ、ホウ酸に代えて他の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と他の架橋剤とを併用してもよい。染色フィルムを浸漬するときの架橋浴の温度は、通常20~85℃程度、好ましくは30~70℃であり、染色フィルムの浸漬時間は、通常10~600秒程度、好ましくは20~300秒である。また、膨潤処理前に予め延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して染色処理および架橋処理をこの順に施す場合、架橋浴の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50~85℃である。
【0051】
架橋処理は、1回または複数回行ってもよい。この場合、使用する架橋浴の組成および温度は、上記の範囲内であれば同じであってもよく、異なっていてもよい。また、各ニップロールの周速差を利用して架橋浴中で一軸延伸処理を施すこともできる。
【0052】
架橋処理においても、膨潤処理と同様にシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、ガイドロール38,39,40に拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、公知の拡幅装置を備えさせたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0053】
図2に示される例において、架橋浴15から引き出された架橋フィルムは、ガイドロール40、ニップロール53aを順に通過して補色浴16へ導入される。
【0054】
<補色工程>
補色工程は、上記架橋フィルムに対し、色相調整する目的で行われる。上記補色工程は、ニップロール53a,ガイドロール42~44およびニップロール53bによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送されてきた架橋フィルムを、補色浴16に所定時間浸漬し、次いで色補正フィルムとして引き出すことによって補色処理を行うことができる。架橋フィルムを浸漬するときの補色浴の温度は、通常20~65℃程度であり、架橋フィルムの浸漬時間は、通常1~300秒程度、好ましくは2~100秒である。
【0055】
補色浴16の前後に配置した各ニップロール53a、53bの周速差を利用して補色浴16中で一軸延伸処理を施すこともできる。図2に示される例において、補色浴16から引き出された色補正フィルムは、フィルム搬送経路に沿って次に説明する洗浄工程において使用される洗浄浴17へ導入される。
【0056】
<延伸工程>
ここで上述のようにポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、一連の処理工程の間(すなわち、1または複数の処理工程のうちいずれかの工程の前後および/またはいずれか1以上の処理工程中)に、湿式または乾式にて一軸延伸処理されることが好ましい。一軸延伸処理の具体的方法は、例えば、フィルム搬送経路を構成する2つのニップロール(例えば、処理浴の前後に配置される2つのニップロール)間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸、特許第2731813号公報に記載されるような熱ロール延伸、テンター延伸等であることができ、好ましくはロール間延伸である。一軸延伸工程は、開始材料であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの原反フィルムから偏光フィルムを得るまでの間に複数回にわたって実施することができる。延伸処理は、フィルムのシワの発生を抑制することに対しても有効である。
【0057】
上記原反フィルムを基準とした偏光フィルムの最終的な累積延伸倍率は通常、3.5~7倍程度であり、好ましくは4~6.5倍である。延伸工程はいずれの処理工程で行ってもよく、2以上の処理工程で延伸処理を行う場合においても、延伸処理はいずれの処理工程で行ってもよい。
【0058】
<洗浄工程>
洗浄工程は、上記架橋工程、補色工程等において上記フィルムに付着した余剰のホウ酸、ヨウ素等の薬剤を除去することを目的とする。例えば図2に示される偏光フィルム製造装置が有する洗浄浴17においては、上述した補色工程後の色補正フィルムを、洗浄浴17内に設けられたガイドロール45,46および洗浄浴17の前後に配置される2つのニップロール53b,54によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送しつつ、洗浄処理することができる。第1ニップロール53bおよび第2ニップロール54は、それぞれ水切りロールとして作用することにより、上記色補正フィルムに付着した余剰のホウ酸、ヨウ素等の薬剤を洗浄し、除去することができる。
【0059】
上記洗浄工程においても膨潤工程などと同様に、シワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する目的で、ガイドロール45,46に拡幅機能を有する公知のロールを用いたり、公知の拡幅装置を備えさせたりすることができる。また洗浄工程においてシワの発生を抑制するために延伸処理を施してもよい。
【0060】
洗浄工程に用いられる洗浄液としては、水、およびこの種のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの洗浄に用いられる従来公知の洗浄液をいずれも用いることができる。洗浄工程に用いられる洗浄液の温度範囲も従来と同じ温度範囲(たとえば2~60℃)とすることができる。なお洗浄工程が完了した後に上記フィルムから洗浄液を除去する場合、その洗浄液除去手段としては、例えばニップロール54があり、当該ニップロール以外にも上記フィルムにエアーを吹き付けて除液を行う手段、上記フィルムに接触して除液を行うスクレイパー、吸引ロール、水切りロール等を用いることができる。
【0061】
<その他の工程:たとえば乾燥工程>
本実施形態に係る製造方法は、上述した各処理工程以外の工程を含むことができる。その他の工程としてたとえば、乾燥工程を挙げることができる。乾燥工程は、洗浄工程の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理を行う工程である。上記乾燥工程における乾燥方法については特に制限されないが、例えば図2に示す乾燥炉21を用いて熱風乾燥することができる。この場合において乾燥温度は、例えば30~100℃程度であり、乾燥時間は、例えば30~600秒程度である。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理は、遠赤外線ヒーターを用いて行うこともできる。以上のようにして偏光フィルムを作製することができる。偏光フィルムの厚みは、例えば約5~50μm程度である。
【0062】
<偏光フィルム>
本実施形態に係る製造方法により、表面にスジ状の染色ムラが形成されることが抑制された偏光フィルムを得ることができる。上記偏光フィルムの視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮し、43~50%であることが好ましく、43~49%であることがより好ましく、44~48%であることがさらに好ましい。視感度補正偏光度Pyは、幅方向のいずれの位置においても、90.0%以上であることが好ましく、98.0%以上であることがより好ましい。
【0063】
視感度補正単体透過率(Ty)、および視感度補正偏光度(Py)は、次の測定方法により求めることができる。まず上記偏光フィルムに対し、積分球付き分光光度計〔日本分光(株)製の「V7100」〕を用いて波長380~780nmの範囲におけるMD透過率とTD透過率を測定し、下記式:
単体透過率(%)=(MD+TD)/2
偏光度(%)={(MD-TD)/(MD+TD)}×100
に基づいて各波長における単体透過率及び偏光度を算出する。
【0064】
ここで「MD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光フィルム試料の透過軸とを平行にしたときの透過率をいい、上記式において「MD」として表わされる。また、「TD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光フィルム試料の透過軸とを直交にしたときの透過率をいい、上記式において「TD」として表わされる。次に、上記単体透過率及び偏光度について、JIS Z 8701:1999「色の表示方法-XYZ表色系及びX101010表色系」の2度視野(C光源)に基づいて視感度補正を行うことにより、視感度補正単体透過率(Ty)、および視感度補正偏光度(Py)を求めることができる。
【0065】
上記偏光フィルムの幅は、例えば、50mm以上5000mm以下であり、好ましくは500mm以上4000mm以下である。上記偏光フィルムは、巻取ロールに順次巻き取ってロール状としてもよいし、巻き取ることなくそのまま偏光板を作製する工程(偏光フィルムの片面または両面に保護フィルム等を積層する工程)に供することもできる。
【0066】
<偏光板>
偏光板は、以上のようにして作製された偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤を介して保護フィルムを貼合することにより得ることができる。保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースおよびジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂からなるフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム;アクリル系樹脂フィルム;ポリプロピレン系樹脂の鎖状オレフィン系樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0067】
偏光フィルムと保護フィルムとの接着性を向上させるために、偏光フィルムおよび/または保護フィルムの貼合面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射、プライマー塗布処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。偏光フィルムと保護フィルムとの貼合に用いる接着剤としては、紫外線硬化性接着剤のような活性エネルギー線硬化性接着剤、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液、またはこれに架橋剤が配合された水溶液、ウレタン系エマルジョン接着剤のような水系接着剤等を挙げることができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例示によって限定されるものではない。
【0069】
(ガイドロールA-1の準備)
直径70mm、幅600mmの表面に凹部及び凸部を有しないガイドロールを準備し、これをガイドロールA-1とした。
【0070】
(ガイドロールA-2の準備)
上記で準備したガイドロールA-1と同寸法であり、表面に無数の略円形状の凹部を有するスポンジロールを準備し、これをガイドロールA-2とした。ガイドロールA-2の表面の任意の領域に含まれる10個の凹部について、深さは0.2~0.5mmでその平均値は0.3mmであり、面積は0.03~0.20mmでその平均値は0.07mmであった。凹部の占有面積は、ロール表面の15%であった。
【0071】
(ガイドロールB-1、B-2、B-3、B-4、B-5の準備)
ガイドロールA-2を用いてその表面に、深さd[mm]と、幅w[mm]の全周に亘る溝状の凹部を、幅方向に間隔g[mm]をあけて間欠的に複数形成して、ガイドロールB-1、B-2、B-3、B-4、B-5とした。それぞれの深さd、幅w、間隔gは表1に示すとおりとした。図3は、ガイドロールB-4の断面の模式図を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例1)
図2に示される装置と同様の偏光フィルムの製造装置を用いて、長尺のポリビニルアルコールフィルム(PVA系樹脂フィルム10)から偏光フィルム23を連続製造した。用いたポリビニルアルコールフィルムは、厚み60μmのポリビニルアルコールフィルムであり、フィルムを構成するポリビニルアルコールのケン化度は99.9モル%以上、平均重合度は2400であった。染色浴14内には二つのガイドロールA-2を配置した。
【0074】
〔a〕膨潤処理工程
巻出ロール11よりPVA系樹脂フィルム10を連続的に巻き出しながら搬送し、30℃の純水が入った膨潤浴13に浸漬しながら、フィルムが弛まないようにニップロール50,51間に周速差をつけて1.5倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行って膨潤処理した。
【0075】
〔b〕染色処理工程
次に、第1染色処理を施すために、ニップロール51を通過したPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水(質量比)が0.03/1.0/100である30℃の染色浴14に120秒間浸漬した。この染色処理では、染色浴14の前後に配置されているニップロール間に周速差をつけて1.5倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。
【0076】
〔c〕架橋処理工程及び補色処理工程
次に、耐水化を目的とする架橋処理を施すため、ニップロール52を通過したPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水(質量比)が10/5/100である55℃の架橋浴15に30秒間浸漬した。この架橋処理においても、ニップロール間に周速差をつけて、2.0倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。次いで、架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水(質量比)が10/5/100である40℃の補色浴16に15秒間浸漬した(補色処理)。この補色処理においても、ニップロール間に周速差をつけて、1.2倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。
その後、補色処理後のPVA系樹脂フィルム10を15℃の純水が入った洗浄浴17に浸漬し、次いで乾燥炉21を通過させることにより70℃で3分間乾燥させて、偏光フィルム23を作製した。
【0077】
(実施例2)
偏光フィルムの製造装置において、染色浴14内に配置されている二つのガイドロールについて、ガイドロールA-2に代えてガイドロールB-1を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム23を作製した。
【0078】
(実施例3)
偏光フィルムの製造装置において、染色浴14内に配置されている二つのガイドロールについて、ガイドロールA-2に代えてガイドロールB-2を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム23を作製した。
【0079】
(実施例4)
偏光フィルムの製造装置において、染色浴14内に配置されている二つのガイドロールについて、ガイドロールA-2に代えてガイドロールB-3を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム23を作製した。
【0080】
(実施例5)
偏光フィルムの製造装置において、染色浴14内に配置されている二つのガイドロールについて、ガイドロールA-2に代えてガイドロールB-4を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム23を作製した。
【0081】
(比較例1)
偏光フィルムの製造装置において、染色浴14内に配置されている二つのガイドロールについて、ガイドロールA-2に代えてガイドロールA-1を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム23を作製した。
【0082】
(比較例2)
偏光フィルムの製造装置において、染色浴14内に配置されている二つのガイドロールについて、ガイドロールA-2に代えてガイドロールB-5を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム23を作製した。
【0083】
(評価)
実施例1~5、比較例1,2で作製された偏光フィルムについて、視感度補正単体透過率Tyを測定し、また目視にてガイドロールの回転性と染色ムラを観察し次の基準によりガイドロールの回転性と染色ムラを評価した。実施例1~5、比較例1,2で作製された偏光フィルムの視感度補正単体透過率Tyは、いずれも44.0%であった。表2に、評価結果を示す。
【0084】
<ガイドロールの回転性>
A:フィルムと同等の速さでロールが回っている。
B:フィルムの流れよりは遅いがロールが止まらずに回っている。
C:フィルムは流れているが、ロールが時折停止する。
D:フィルムは流れているが、ロールは停止している。
【0085】
<染色ムラ>
A:染色ムラが視認されなかった。
B:うっすら染色ムラが確認されるものの、問題となるレベルではなかった。
C:染色ムラがはっきりと視認された。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示す結果から、染色浴において、深さが0.9mm以下である凹部を有するガイドロールを用いた実施例1~5について、問題となるレベルの染色ムラが視認されないことがわかった。また、実施例1~5においては、ガイドロールの回転性について、比較例1のようにガイドロールが完全に停止してしまうことが抑制されている。
【符号の説明】
【0088】
10 ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム、11 原反ロール、13 膨潤浴、14 染色浴、15 架橋浴、16 補色浴、17 洗浄浴、21 乾燥炉、23 偏光フィルム、30~32,34~36,38~40,42~46 ガイドロール、50~52,53a,53b,54~55 ニップロール。
図1
図2
図3