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特許7490222結合相にFe合金を用いた高強度超硬合金およびその製造方法
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  • 特許-結合相にFe合金を用いた高強度超硬合金およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】結合相にFe合金を用いた高強度超硬合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20240520BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240520BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20240520BHJP
   B23B 27/14 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C22C29/08
B22F3/10 H
C22C1/051 G
B23B27/14 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020094067
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021188089
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】中山 博行
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第01572524(GB,A)
【文献】特開昭61-261455(JP,A)
【文献】特開昭58-110655(JP,A)
【文献】米国特許第03384465(US,A)
【文献】特開昭56-009353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/08
C22C 1/051
B22F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCと結合相であるFe-Ni合金とを含む超硬合金であって、
前記結合相を10mass%~30mass%の範囲で含み、
FeとNiとの原子量比が20:1から2:1の範囲で表され、
かつ、総炭素量が5mass%~7mass%の範囲であり、
前記結合相はfcc構造とbcc構造との混合相である
ことを特徴とする超硬合金。
【請求項2】
前記結合相中におけるbcc構造の体積割合が40vol.%以上である
ことを特徴とする請求項の超硬合金。
【請求項3】
抗折強度が3.5GPa以上を示す
ことを特徴とする請求項1または請求項2の超硬合金。
【請求項4】
WCと結合相であるFe-Ni合金とを含む超硬合金であり、前記結合相を10mass%~30mass%の範囲で含み、FeとNiとの原子量比が20:1から2:1の範囲で表され、かつ、総炭素量が5mass%~7mass%の範囲である超硬合金の製造方法であって、
WC粉末と、C粉末と、Fe粉末およびNi粉末またはFe-Ni合金粉末とを混合し、真空または不活性雰囲気で1300℃~1500℃で15分以上保持した後、800℃まで100℃/min~150℃/minの冷却速度で冷却する
超硬合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度を有するFe合金を結合相に用いた超硬合金およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は炭化タングステン(WC)を、結合相として機能する金属を用いて結合した複合材料である。この結合相である金属には、コバルト(Co)が主に用いられている。さらに、WCと結合相である金属とにバナジウムやクロムなどの金属を炭化物の形態で微量添加し、超硬合金が作製されている。このような超硬合金は高強度(抗折強度で2GPa以上)と高靭性(KICで10MPam0.5以上)とを有する強度と靭性バランスに優れた材料である。また、Coに代えてニッケル(Ni)を用いた超硬合金も作製されているが、その強度は全般的にWC-Coから構成される超硬合金に比べて劣る。
【0003】
一方、CoやNiに比べ安価で、資源供給リスクの小さい鉄(Fe)またはFe合金を結合相に用いた超硬合金の作製も試みられている。非特許文献1には結合相に純FeまたはFe-Co合金を用いた例が示されている。これによると、結合相が純FeまたはFe-Co合金いずれの場合も、脆化相であるM23C6やM3C(Mは金属元素)が焼結プロセス中に形成するため、その抗折強度は2GPa以下である。また、脆化相が形成されるのを抑制のためには、炭素(C)添加が有効であることも本文献では示されている。しかし、脆化相の形成を抑制するために必要な炭素量を添加した場合、添加した炭素の一部が超硬合金内に存在してしまい、さらに超硬合金の強度を低下させてしまう。
【0004】
さらに、Feの結晶構造は、bcc構造であり、従来の結合相であるCoやNiのfcc構造に比べて延性に乏しい。この結晶構造の違いもFeまたはFe合金を結合相に用いた超硬合金が高強度を示さない一因であることが指摘されている。
【0005】
また、特許文献1および特許文献2においてもFe合金を結合相に用いた超硬合金が作製されている。これによると、5μm以下の円相当径を有する脆化相の面積率を5%以下に抑制することで比較的高強度を示す超硬合金が作製できることが報告されている。しかし、その抗折強度は最大で約2.7GPaである。また、結合相の組成もその大部分がbcc構造を基本とするマルテンサイト相またはベイナイトである。
【0006】
また、特許文献3ではFeにクロム(Cr)やマンガン(Mn)を合金化した結合相を用いた超硬合金について述べられている。本文献によると超硬合金を-60℃以下の温度で3hr以上冷却するサブゼロ処理を施すことで、高強度の超硬合金が得られることを報告している。しかし、その抗折強度は最大で3GPa未満である。また、その際の結合相もbcc構造に近似のマルテンサイト相が主相であると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-131889号公報
【文献】国際公開第2018/025848号
【文献】特開2001-81526号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「粉体および粉末冶金」 第14号、1967年、p. 86 - 91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、結合相にFe合金を用いた超硬合金であって、脆化相の生成が抑制され高強度を示す超硬合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
WCと結合相であるFe-Ni合金とを含む超硬合金であって、前記結合相を10mass%~30mass%の範囲で含み、FeとNiとの原子量比が20:1から2:1の範囲で表され、かつ、総炭素量が5mass%~7mass%の範囲であることを特徴とする超硬合金。
【発明の効果】
【0011】
本発明の結合相にFe合金を用いた超硬合金は、脆化相の生成が抑制され高強度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】WC-20mass%(Fe9Ni1)に(a)総炭素量が4.9mass%(比較例1)、6 mass%(実施例1)および7 mass%(実施例2)となるように添加したのち、温度1400℃、保持時間30分で焼結後、800℃まで平均120℃/分の速度で冷却した試料のX線回折結果。
図2】WC-20 mass%(Fe9Ni1)に総炭素量が7mass%(実施例2)および8 mass%(比較例2)となるように添加したのち、温度1400℃、保持時間30分で焼結後、800℃まで平均120℃/分の速度で冷却した試料のSEM像。
図3】結合相のFeとNiとの原子量比が19:1(実施例3)、9:1(実施例1)、4:1(実施例4)および2.33:1(実施例5)に調整し、かつ総炭素量が6 mass%となるように調整されたWC-20 mass%(Fe-Ni)混合粉末を温度1400℃、保持時間30分で焼結後、800℃まで平均120℃/分の速度で冷却した試料のX線回折結果。
図4】FeとNiとの原子量比が19:1(実施例3)、9:1(実施例1)、4:1(実施例4)および2.33:1(実施例5)となるように調整し、かつ総炭素量が6mass%となるように炭素を添加したWC-20mass%(Fe-Ni)混合粉末を、温度1400℃、保持時間30分で焼結後、800℃まで平均120℃/分の速度で冷却し作製した試料の抗折強度(TRS)測定結果。
図5】WC-20mass%(Fe9Ni1)に総炭素量が6mass%となるように添加したのち、温度1400℃、保持時間30分で焼結後、800℃まで平均20℃/分の速度で冷却した料のSEM像(比較例3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<超硬合金>
【0014】
本発明に係る超硬合金(以下「本超硬合金」という)は、WCと結合相であるFe-Ni合金とを含む。例えば、切削工具、金型、または、耐摩耗部品等の各種の用途に本超硬合金が使用される。
【0015】
具体的には、本超硬合金は、WCと結合相であるFe-Ni合金とを含む。WCの含有量は、90mass%~70mass%の範囲であり、好適には82mass%~78mass%である。Fe-Ni合金の含有量は、10mass%~30mass%の範囲であり、好適には18mass%~22mass%である。本超硬合金における総炭素量は、5mass%~7mass%の範囲であり、好適には6mass%~7mass%の範囲である。なお、本願における総炭素量とは、本超硬合金におけるWC中のCも含めた全てのCの総量である。
【0016】
結合相であるFe-Ni合金において、FeとNiとの原子量比は20:1から2:1の範囲であり、好適には9:1から4:1の範囲である。FeとNiとの原子量比が9:1から4:1の範囲にある構成によれば、より高強度の超硬合金が得られる。
【0017】
本超硬合金における結合相(Fe-Ni合金)は、好適には、fcc(face centered cubic)構造とbcc(body centered cubic)構造との混合相である。結合相中におけるbcc構造の体積割合は、好適には40vol.%以上である。ここで、fcc構造は延性に優れていて、bcc構造は高強度であることが知られている。したがって、fcc構造とbcc構造との混合相から結合相がなる構成によれば、結合相がfcc構造またはbcc構造の単相である場合と比較して、延性と強度の双方を向上させることが可能になる。
【0018】
本超硬合金の抗折強度(曲げ強度)は、例えば3GPa以上であり、好適には3.5GPa以上である。以上の説明から理解される通り、WCと結合相であるFe-Ni合金とを含む本超硬合金によれば、高強度を実現することが可能になる。本超硬合金では、例えば、Fe単体を結合とする超硬合金と比較して、延性および強度の双方を向上させることができる。抗折強度の測定方法については後述する。
【0019】
なお、本超硬合金は、WCとFe-Ni合金とからなり、他の金属等の原料は典型的には含有しない(ただし原料に含まれる微量の不純物は除く)。
<超硬合金の製造方法>
【0020】
以下、本発明に係る超硬合金の製造方法について説明する。超硬合金の製造方法は、原料粉末作製工程とプレス成形工程と焼結工程とを含む。
(1)原料粉末作製工程
本超硬合金を製造には、WC粉末とFe粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末が用いられる。なお、Fe粉末およびNi粉末の一部または全部をFeとNiとからなるFe-Ni合金粉末に置き換えてもよい。WC粉末、Fe粉末およびNi粉末全体を100mass%としたときに、FeおよびNiの含有量が10mass%~30mass%、WCの含有量が90mass%~70mass%になるようにWC粉末、Fe粉末およびNi粉末を調整する。好適には、FeおよびNiの含有量は18mass%~22mass%であり、WCおよびCの含有量が82mass%~78mass%である。また、FeとNiとの原子量比は20:1から2:1の範囲にあることが好適であり、さらに好適は9:1から4:1の範囲にある。なお、原料粉末中のFeとNiとは超硬合金の結合相として機能する。
【0021】
次に、上述の通り、WC粉末、Fe粉末およびNi粉末を調成した粉末に、C粉末を添加することで原料粉末を作製する。具体的には、超硬合金においてWC中の炭素を含めた総炭素量が5mass%~7mass%の範囲となるように、WC粉末、Fe粉末およびNi粉末に、C粉末を添加する。ここで、原料粉末における総炭素量が7mass%を超えると、Cの一部が超硬合金中に残留し、強度低下の原因となる。一方で、原料粉末における総炭素量が5mass%より少ないと脆化相が形成され、この場合も強度低下の原因となる。以上の事情を考慮して、本発明では、超硬合金中の総炭素量が5mass%~7mass%の範囲となるようC粉末を添加する。総炭素量は特に6mass%~7mass%が好適である。
【0022】
原料粉末をアトライターやボールミルを用いて溶媒中で粉砕および混合を行った後に、乾燥させる。当該乾燥後の原料粉末が超硬合金の製造に利用される。原料粉末を粉砕する際に用いる粉砕容器は、セラミックス製または金属製の容器いずれも用いることができるが、特に金属製かつFe合金製であることが好ましい。また、原料粉末を粉砕する際に用いるボールは、セラミックス製、金属製またはWC製の物を用いることができるが、Fe合金製またはWC製が好ましく、特にWC製であることが好適である。原料粉末を混合する際に用いる溶媒は、エタノールやメタノール等のアルコール類やアセトンなどの有機溶媒または純水等を用いることができるが、エタノールやメタノールのなどのアルコール類またはアセトンが好ましく、さらにはエタノールを用いることが好適である。
【0023】
(2)プレス成形工程
(1)で製造した原料粉末を所望の形状にプレス成形することで成形体を作製する。具体的には、所望の形状を有する金型に原料粉末を充填し、同素材のパンチを用いて粉末を上下方向より加圧成形することで、成形体が得られる。プレス成形の際の荷重は50MPa以上が好ましく、さらには60MPa以上であることが好適である。また、金型成形後に冷間静水圧成形(CIP:Cold Isostatic Pressing)等を行うことも可能である。
【0024】
(3)焼結工程
(2)で作製した成形体を焼結することで超硬合金を製造する。具体的には、成形体を真空中またはAr,NまたはHe等の不活性ガス雰囲気下において炉内で焼結を行う。この際、真空またはN雰囲気で焼結を行うことが好ましく、さらには真空中であることが好適である。また、焼結の際の真空度は、1×10-1Pa以下が好適であり、5×10-2 Pa以下がさらに好適である。焼結温度は、1300℃~1500℃の範囲が好適であり、1400℃以上がさらに好適である。また、焼結温度での保持時間は、15分以上が好適であり、30分以上がさらに好適である。
【0025】
所定の保持時間が経過した後、炉内温度を800℃以下まで、100℃/mim以上の速度で冷却する。冷却の際の冷却速度は、120℃/min以上であることが好適である。また、冷却方法は、炉冷、空冷、Ar,N,He等の不活性ガスを用いたガス冷却、水または油焼き入れなどの手法を用いることができる。以上の工程により、本発明に係る超硬合金が製造される。以上に説明した焼結工程によれば、脆化相の形成が抑制され、高強度を示す超硬合金を製造することができる。
【0026】
<強度測定方法>
【0027】
以上の方法で作製した超硬合金を幅3mm~4mm、かつ、厚さ1.5mm~2mmの板状に切断および研削した後に、スパン10mmの条件で抗折強度を三点曲げ試験により測定する。同製造方法で作製した複数個(5本以上)の超硬合金について抗折強度を測定し、その平均値を抗折強度とする。本超硬合金の抗折強度は、好適には3.5GPa以上である。
<組織観察方法>
【0028】
作製した超硬合金の一面を粒度1μmのダイヤモンド砥粒を用いて研磨し、鏡面を得る。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて組織観察を行う。
【実施例
【0029】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
以下の通り、実施例1-5および比較例1-3を製造した。
【0031】
(実施例1)
原料粉末(WC粉末,Fe粉末,Ni粉末およびC粉末)を以下の通りに作製した。まず、WC粉末、Fe粉末およびNi粉末を調成した。具体的には、FeおよびNiの含有量が合わせて20mass%であり、WCが残部(80mass%)であり、FeとNiとの原子量比が9:1となるように、WC粉末、Fe粉末およびNi粉末を調成した。そして、WC粉末、Fe粉末およびNi粉末に、WCの炭素も含めた総炭素量が6mass%となるようにC粉末を添加して原料粉末を作製した。
【0032】
作製した原料粉末を遊星型ボールミルにてエタノール中で4hr湿式混合した後、エタノールを蒸発させた。次に、エタノールを蒸発させた後の原料粉末を金型に充填し、上下より金型と同素材のパンチを用いて荷重65MPaにて冷間成形することで、成形体を得た。成形体を2×10-2Paの真空雰囲気下で温度1400℃で30分間にわたり焼結した。焼結終了後に、炉内温度を平均120℃/minの速度で800℃まで炉冷することで、実施例1を得た。
【0033】
(実施例2)
実施例2では、原料粉末の総炭素量のみが実施例1と相違する。具体的には、実施例2の原料粉末の総炭素量は、総炭素量が7mass%である。その他の条件(含有量や原子量比)および製造方法は実施例1と同様である。
【0034】
(比較例1)
比較例1では、原料粉末の総炭素量のみが実施例1と相違する。具体的には、比較例1の原料粉末の総炭素量は、総炭素量が4.9mass%である。その他の条件および製造方法は実施例1と同様である。
【0035】
(比較例2)
比較例2では、原料粉末の総炭素量のみが実施例1と相違する。具体的には、比較例2の原料粉末の総炭素量は、総炭素量が8mass%である。その他の条件および製造方法は実施例1と同様である。
【0036】
図1は、実施例1,2および比較例1のX線回折結果が示されている。図1に示される通り、比較例1では脆化相(η相)の生成が確認できる。一方で、実施例1および実施例2では脆化相(η相)が確認できない(または十分に少ない)ことがわかる。すなわち、実施例1および実施例2は、比較例1と比較して、強度が十分に高いという知見が得られた。
【0037】
図2は、実施例2および比較例2のSEM画像である。図2に示される通り、比較例2では内部に炭素が確認できるのに対して、実施例2では炭素が確認されない。すなわち、実施例2では、原料粉末中のC粉末が内部に残留することに起因した強度の低下を抑制することが可能である。
【0038】
表1には、比較例1-2および実施例1における抗折強度(平均強度)の測定結果を示す。表1に示される通り、実施例1に対して、比較例1では約35%、比較例2では48%の抗折強度しか示さないという知見が得られた。
【表1】
【0039】
(実施例3)
実施例3では、原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比のみが実施例1と相違する。具体的には、実施例3の原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比は、19:1である。その他の条件(含有量や総炭素量)および製造方法は実施例1と同様である。
【0040】
(実施例4)
実施例4では、原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比のみが実施例1と相違する。具体的には、実施例4の原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比は、4:1である。その他の条件および製造方法は実施例1と同様である。
【0041】
(実施例5)
実施例5では、原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比のみが実施例1と相違する。
具体的には、実施例5の原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比は、2.33:1である。その他の条件および製造方法は実施例1と同様である。
【0042】
図3には、実施例1,3-5のX線回折結果が示されている。図3に示される通り、原料粉末中におけるFeとNiとの原子量比を相違させることで、結合相(Fe-Ni合金)中の結晶構造が相違することが把握できる。具体的には、実施例3ではbcc構造のみの単相であり、実施例1ではbcc構造とfcc構造との混合相であり、実施例4,5ではfcc構造のみの単相であり、Niに対するFeの割合が高くなるにつれて、fcc構造の割合も大きくなる。
【0043】
図4には、実施例1,3-5の抗折強度に関する実験結果が示されている。実施例1,3-5の各々について同条件で作製した複数の試料を表すプロットが示されている。横軸は、試料の抗折強度(TRS:Transverse Rupture Strength)を表す。縦軸は、各実施例における複数の試料の抗折強度が、横軸が示す抗折強度よりも小さくなる確率を表す。例えば、実施例1においては、約4.4GPaに位置するプロットが示す確率は約92%であるから、4.4GPaまでの荷重で実施例1における92%の試料が破壊することを意味する。試料の抗折強度は、幅3mm~3.5mm、かつ、厚さ1.5mm~1.8mmに切断および研削した後、スパン10mmの条件で測定した。試料の確率は、累積頻度(=100*(i-0.3)/(n+0.4))により算出した(i:実施例における複数の試料を抗折強度の昇順に並べたときの試料の順番,i=1~n,n:試料総数)。例えば、実施例1の8個の試料のうち抗折強度が2番目に小さい試料(約3.5GPaのプロット)の累積頻度100*(2-0.3)/(8+0.4)は、20.2である。
【0044】
図4に示される通り、実施例1,3-5の全てにおいて、抗折強度の平均値が約3GPa以上となった。特に、実施例1の複数の試料における抗折強度の平均値が最も高く約4GPaであり、最大の抗折強度が約4.5GPaであった。また、実施例1における結合相中のfcc構造とbcc構造との体積をX線回折結果より見積もると、bcc構造の体積が約60vol%であることがわかった。
【0045】
(比較例3)
比較例3では、実施例1と同様の原料粉末を使用したが、製造方法を実施例1とは一部相違させた。具体的には、実施例1と同様の原料粉末を遊星型ボールミルにてエタノール中で4hr湿式混合した後、エタノールを蒸発させた。そして、エタノールを蒸発させた後の原料粉末を金型に充填し、上下より金型と同素材のパンチを用いて荷重60MPaにて冷間成形することで、成形体を得た。次に、成形体を真空雰囲気下で温度1400℃で30分間にわたり焼結した。焼結終了後に、炉内温度を平均20℃/minの速度で800℃まで炉冷することで、比較例3を得た。すなわち、実施例1と比較例3とでは、焼結終了後に炉冷する際の速度が相違する。
【0046】
図5は、比較例3のSEM画像が示されている。具体的には、比較例3の一面を1μmのダイヤモンド砥粒を用いて鏡面研磨を施した後のSEM画像である。図5から把握される通り、WCおよび結合相であるFe-Ni合金に加えて、脆化相(η)が確認できる。また、比較例3は、抗折強度は約1.1GPaであった。脆化相は、M6Cの組成比で表される炭化物である。Mは、W,FeおよびNiを示す。なお、W,FeおよびNiの組成比は一定とは限らない。
【0047】
以上の説明から理解される通り、本発明によれば、脆化相の形成が抑制された高強度の超硬合金を提供することが可能である。



図1
図2
図3
図4
図5