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特許7490250固相接合用鋼、固相接合用鋼材、固相接合継手及び固相接合構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】固相接合用鋼、固相接合用鋼材、固相接合継手及び固相接合構造物
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240520BHJP
   C22C 37/00 20060101ALI20240520BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240520BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C37/00 Z
C22C38/06
B23K20/12 360
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021504876
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006683
(87)【国際公開番号】W WO2020184123
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019044618
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 革新的新構造材料等研究開発事業「中高炭素鋼/中高炭素鋼の摩擦接合共通基盤研究」委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】潮田 浩作
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 知也
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】青木 祥宏
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-299138(JP,A)
【文献】特開2008-255369(JP,A)
【文献】IRONOV S.等,Microstructure and tensile behavior of friction-stir welded TRIP steel,Materials Science & Engineering A,2018年01月17日,Vol.717,26~33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C22C 37/00
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合材の少なくとも一方が固相接合用鋼からなる固相接合用鋼材であり、
前記固相接合用鋼は、鋼組成が、質量%で、
C:0.20~0.45%、
Si:1.00~3.00%、
Mn:2.00~5.00%、を含有し、
残部がFe及び不可避不純物のみの組成であり、
前記固相接合用鋼材の固相接合部がラス状のマルテンサイト組織を有し、
前記固相接合用鋼材の室温での引張強さが1000MPa以上、伸びが20%以上であり、
前記固相接合部の室温での引張強さが1500MPa以上、伸びが20%以上であること、
を特徴とする固相接合継手。
【請求項2】
前記マルテンサイト組織における旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下であること、
を特徴とする請求項に記載の固相接合継手。
【請求項3】
前記固相接合部が摩擦攪拌接合部であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の固相接合継手。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の固相接合継手を有すること、
を特徴とする固相接合構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固相接合を好適に用いることができる固相接合用鋼及び固相接合用鋼材、当該固相接合用鋼からなる固相接合継手及び固相接合構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の溶融溶接よりも接合部の強度低下を小さくできる固相接合方法が注目されており、特に、摩擦発熱現象や金属材の塑性変形を利用した固相接合方法が盛んに検討されている。当該固相接合方法としては、例えば、高速で回転する円柱状のツールを被接合材に圧入して接合する「摩擦攪拌接合(FSW)」、回転する円柱状の被接合材を固定された被接合材に当接させて接合する「摩擦圧接」、及び被接合材を当接させた状態で往復運動させて接合する「線形摩擦接合」等が挙げられる。
【0003】
従来の鉄鋼材は溶融溶接の使用を前提とした合金設計となっていることが多いが、近年では摩擦接合法に適した鉄鋼材に関する検討も進められており、例えば、特許文献1(特開2008-31494号公報)では、低合金構造用鋼であって、600℃以上の平衡状態においてフェライト単相となる温度域幅とオーステナイト相とフェライト相の2相となる温度域幅の合計が200℃以上であることを特徴とする摩擦攪拌接合用の低合金構造用鋼、が開示されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の低合金構造用鋼においては、接合部の到達温度付近における、フェライト単相域及びオーステナイト相‐フェライト2相域を拡大することにより、摩擦攪拌接合における鋼の変形抵抗が大幅に低減し、その結果、回転ツールの耐久性が向上し、接合速度等の接合条件の制限が緩和される、としている。加えて、ツールの損耗、破損による交換作業の頻度が抑えられ、接合時間が短縮されるので施工能率が向上する、としている。
【0005】
また、摩擦攪拌接合の原理を利用した表面改質技術である摩擦攪拌プロセスに適した鋼に関する検討も進められており、例えば、特許文献2(特開2014-162971号公報)では、質量%で、C:0.40~1.50%、Si:0.15~2.00%、Mn:0.30 ~2.00%、Cr:0.50~3.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなる摩擦攪拌プロセス用鋼、が開示されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の摩擦攪拌プロセス用鋼においては、摩擦攪拌プロセスを適用することによって優れた表面硬化が達成できる、としている。
【0007】
更に、本願発明者も、特許文献3(特開2018-16866号公報)において、鋼組成が、質量%で、C:0.20~0.45%、及びCr:1.00~3.50%を含有し、かつA式によって定義される炭素当量CEが0.40~1.00質量%であること、を特徴とする摩擦攪拌接合用鋼、を開示している。CE=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(A)式中に記載された元素記号は、摩擦攪拌接合用鋼材における各成分の含有量を単位質量%で示す。
【0008】
上記特許文献3に記載の摩擦攪拌接合用鋼においては、摩擦攪拌接合によって従来の高張力鋼と同等以上の継手特性(攪拌部の引張強度及び破壊靭性等)を得ることができる鋼であり、比較的安価な合金元素のみを最小限添加した鋼及び、当該鋼を被接合材とする摩擦攪拌接合方法を提供することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-31494号公報
【文献】特開2014-162971号公報
【文献】特開2018-16866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている低合金構造用鋼は、プロセス時の鋼の変形抵抗を低減することで鋼に対する摩擦攪拌接合の適用を容易にするものであり、接合部(攪拌部)の機械的特性や鋼に添加する元素のコストや入手容易性等に関しては殆ど考慮されていない。
【0011】
また、上記特許文献2に開示されている摩擦攪拌プロセス用鋼は、摩擦熱を利用した表面焼き入れに対して組成を最適化したものであり、接合部の機械的性質を担保することを目的とした鉄鋼材とは、その設計指針が全く異なるものである。
【0012】
更に、上記特許文献3に開示されている摩擦攪拌接合用鋼では、一般的な高張力鋼と同等以上の継手特性を得ることができるものの、比較的高価なクロム(Cr)が主要な添加元素として使用されていることに加え、母材及び継手の機械的性質についても更なる高強度化が求められている。近年では引張強度が1000MPa以上となる超高張力鋼に対する需要が増加しているところ、上記特許文献3に開示されている摩擦攪拌接合用鋼の引張特性は超高張力鋼の水準には達していない。
【0013】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、母材及び固相接合によって得られる接合部の引張特性が共に超高張力鋼と同等以上となる鋼であり、比較的安価な合金元素のみを最小限添加した固相接合用鋼及び固相接合用鋼材を提供することにある。また、本発明は、比較的安価な合金元素のみを最小限添加した固相接合用鋼からなる継手であって、母材及び接合部の引張特性が共に超高張力鋼と同等以上である固相接合継手、及び当該継手を有する固相接合構造物を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記目的を達成すべく、鋼の組成及び機械的性質と固相接合によって得られる接合部の組織及び機械的性質との関係について鋭意研究を重ねた結果、炭素鋼を基本としてSi及びMnを適量添加すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は、
鋼組成が、質量%で、
C:0.20~2.14%、
SiとAlの合計:1.00~3.00%、
Mn:2.00~4.00%、を含有し、
残部がFe及び不可避不純物のみの組成であること、
を特徴とする固相接合用鋼を提供する。
【0016】
本発明の固相接合用鋼は比較的大量の炭素を含有することで高強度化が図られている一方、溶融溶接と比較して接合温度が低いことに加えて冷却速度を遅くすることができる固相接合の使用を前提とすることで、割れや欠陥等の存在しない良好な接合部を得ることができる。ここで、炭素含有量を0.20質量%以上とすることで鋼及び固相接合部の強度を十分に向上させることができ、2.14質量%以下とすることで黒鉛の分散による引張特性の低下を抑制することができる。
【0017】
炭素含有量は0.20~0.45質量%であることが好ましく、0.20~0.30質量%であることがより好ましく、0.20~0.25質量%であることが最も好ましい。本発明の固相接合用鋼においては、炭素含有量の下限である0.20質量%で母材及び固相接合部の引張強度が1000MPa以上となることから、良好な延性を担保するために、所望の引張強度が得られる限りにおいて、上限値は小さな値とすることが好ましい。
【0018】
また、SiとAlは同様の効果を有し、Si及び/又はAlは、主として母材及び固相接合部の延性を担保する目的で添加されている。SiとAlの含有量の合計を1.00質量%以上とすることで、延性を低下させるセメンタイトの生成を抑制したり、オーステナイトを安定化することができる。一方で、3.00質量%以上添加しても当該効果は向上しないため、添加量の上限を3.00質量%としている。SiとAlの含有量の合計は1.50~2.50質量%とすることが好ましく、1.75~2.25質量%とすることがより好ましい。なお、Si及びAlは安価な合金元素であり、豊富に存在する元素である。また、SiとAlと共に添加する必要はなく、どちらか一方を添加してもよい。
【0019】
また、Mnの添加も母材及び固相接合部の延性向上に寄与している。上記のSiの添加に加えてMnの含有量を2.00質量%以上とすることで、オーステナイト安定化によるTRIP(マルテンサイト変態誘起塑性)効果による延性の向上が期待できる。加えて、固相接合の条件にも依存するが、2.00質量%以上のMnを添加することで焼き入れ性を維持し、かつ固相接合部のオーステナイト粒径を微細化し、その結果オーステナイトから微細なラス状のマルテンサイト組織を形成させることができる。その結果、高強度でありつつ十分な延性を有する固相接合部を得ることができる。一方で、当該効果はMnの含有量を5.00質量%以上としても殆ど向上しないことから、Mn含有量の上限を5.00質量%としている。ここで、強度を重視する場合はMn含有量を3.00~5.00質量%とすることが好ましく、延性を重視する場合は2.00質量%以上3.00質量%未満とすることが好ましい。
【0020】
本発明の固相接合用鋼は、上記のC、Si、Al及びMn以外の残部がFe及び不可避不純物のみの組成となっている。炭素鋼を基本とし、レアメタルの添加を控えることで製造コストを低減することができることに加え、生産の持続可能性を担保(偏在リスクを低減)することができる。なお、本発明の固相接合用鋼は固相接合による接合を前提としているが、当該固相接合の方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の固相接合方法を使用することができる。代表的な固相接合方法としては、摩擦攪拌接合、摩擦接合及び線形摩擦接合を挙げることができる。
【0021】
本発明の固相接合用鋼においては、更に、質量%で、Cr:1.00~3.50%を含有させることができる。適当な量のCrを含有することで、固相接合部の強度及び靭性を改善することができる。靭性は強度と延性の一種の積であるため、Crの添加により強度と延性が共に高くなる結果、靭性が改善される。
【0022】
また、本発明は、上記本発明の固相接合用鋼からなる固相接合用鋼材が少なくとも一方の被接合材となっており、前記固相接合用鋼材の固相接合部が微細なラス状のマルテンサイト組織を有すること、を特徴とする固相接合継手も提供する。
【0023】
本発明の固相接合継手は被接合材の少なくとも一方が本発明の固相接合用鋼であり、高価な合金元素を含んでおらず安価であることに加え、高い強度と延性を兼ね備えている。また、接合部の組織がラス状のマルテンサイトとなっており、当該領域の炭素含有量が0.20~2.14%となっていることから、接合部は極めて高い引張強度を有している。加えて、Mnの添加によりマルテンサイトが微細化されており、接合条件によっては残留オーステナイトに起因するTRIP効果も期待できることから、良好な延性を発現することができる。
【0024】
また、本発明の固相接合継手においては、前記マルテンサイト組織における旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下であること、が好ましい。旧オーステナイト組織を微細化することで、ラス状のマルテンサイト組織が微細化され、固相接合部に高い強度と延性を付与することができる。ここで、旧オーステナイトの平均粒径は15μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが最も好ましい。なお、旧オーステナイトの平均粒径を求める方法は特に限定されず従来公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、適当なエッチングを施した組織を観察してもよく、マルテンサイトと旧オーステナイトとの方位関係により、マルテンサイトから旧オーステナイトを再構築し、再構築した旧オーステナイト組織から求めてもよい。
【0025】
また、本発明の固相接合継手は、前記固相接合用鋼材の室温での引張強さが1000MPa以上、伸びが20%以上であり、前記固相接合部の室温での引張強さが1500MPa以上、伸びが20%以上であること、が好ましい。固相接合用鋼材と固相接合部がこれらの引張特性を有することで、高い強度と信頼性が要求される用途において、超高張力鋼と同等以上の機械的性質を有する継手として十分に使用することができる。ここで、引張試験の結果は引張試験片のサイズ及び形状の影響を受ける場合が存在するが、本願明細書においては、平行部の長さが4mm、幅が2mm程度の、比較的小型の引張試験片を用いて得られた値を基準とする。
【0026】
また、本発明の固相接合継手は、前記固相接合部が摩擦攪拌接合部であること、が好ましい。固相接合部は摩擦接合や線形摩擦接合によって形成されたものでもよいが、摩擦攪拌接合部とすることで、鋼板の任意の領域に固相接合部を形成することができ、大型構造物の製造にも対応することができる。
【0027】
また、本発明は、本発明の固相接合継手を有すること、を特徴とする固相接合構造物、も提供する。固相接合継手以外の構造部に関する材質、形状及びサイズは特に限定されず、従来公知の種々の構造物とすることができる。
【0028】
更に、本発明は、本発明の固相接合用鋼からなり、ラス状のマルテンサイト組織を有し、前記マルテンサイト組織における旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下であること、を特徴とする固相接合用鋼材、も提供する。当該組成及び組織を有する固相接合用鋼材は、室温での引張強さが1000MPa以上、伸びが20%以上となり、高い強度と信頼性が要求される用途において、超高張力鋼と同等以上の機械的性質を有する鋼材として十分に使用することができる
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、母材及び固相接合によって得られる接合部の引張特性が共に超高張力鋼と同等以上となる鋼であり、比較的安価な合金元素のみを最小限添加した固相接合用鋼及び固相接合用鋼材を提供することができる。また、本発明によれば、比較的安価な合金元素のみを最小限添加した固相接合用鋼からなる継手であって、母材及び接合部の引張特性が共に超高張力鋼と同等以上である固相接合継手、及び当該継手を有する固相接合構造物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】摩擦攪拌接合によって形成された固相接合部を有する固相接合継手の概略図である。
図2】摩擦圧接によって形成された固相接合部を有する固相接合継手の概略図である。
図3】線形摩擦接合によって形成された固相接合部を有する固相接合継手の概略図である。
図4】鋼材(母材)の引張試験片の概略図である。
図5】攪拌部の引張試験片の概略図である。
図6】実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の組織写真である。
図7】実施固相接合用鋼1~4及び比較固相接合用鋼1,2の応力ひずみ線図である。
図8】実施固相接合用鋼3の破面写真である。
図9】実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の接合部の断面マクロ写真である。
図10】実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の攪拌部の組織写真である。
図11】実施固相接合用鋼1~4及び比較固相接合用鋼1,2の攪拌部の応力ひずみ線図である。
図12】実施固相接合用鋼3の攪拌部の破面写真である。
図13】実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の攪拌部の結晶方位マップ像である。
図14】実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の母材のフェイズマップである。
図15】実施固相接合用鋼1~4及び比較固相接合用鋼1,2の母材と攪拌部の引張特性を示すグラフである。
図16】旧オーステナイト組織の再構築結果である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の固相接合用鋼、固相接合用鋼材、固相接合継手及び固相接合構造物の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、重複する説明は省略する場合がある。
【0032】
(1)固相接合用鋼
本発明の固相接合用鋼は、
鋼組成が、質量%で、
C:0.20~2.14%、
SiとAlの合計:1.00~3.00%、
Mn:2.00~5.00%、を含有し、
残部がFe及び不可避不純物のみの組成であること、
を特徴とする固相接合用鋼、である。
【0033】
構造材の比強度の向上が切望されているところ、鋼についてはレアメタルの添加による各種高張力鋼が提案されているが、レアメタルは偏在リスクが高く、コストや生産安定性等の観点から問題となる。一方で、鋼の強度は基本的に炭素量の増加に伴って向上することから、炭素鋼を積極的に活用することができればレアメタルの使用量を削減することができる。
【0034】
ここで、炭素量が多い中・高炭素鋼は溶融溶接時に割れが発生するため、溶接が極めて困難な材料であるとされているが、本発明の固相接合用鋼は固相接合の使用を前提とすることで当該問題を克服している。また、適量のSi、Al及びMnの添加により、母材及び接合部に良好な延性が付与されている。以下、各成分について詳細に説明する。
【0035】
1.必須の添加元素
C:0.20~2.14質量%
炭素含有量を0.20質量%以上とすることで鋼及び固相接合部の強度を十分に向上させることができ、2.14質量%以下とすることで黒鉛の分散による引張特性の低下を抑制することができる。炭素含有量は0.20~0.45質量%であることが好ましく、0.20~0.30質量%であることがより好ましく、0.20~0.25質量%であることが最も好ましい。本発明の固相接合用鋼においては、炭素含有量の下限である0.20質量%で母材及び固相接合部の引張強度が1000MPa以上となることから、良好な延性を担保するために、所望の引張強度が得られる限りにおいて、上限値は小さな値とすることが好ましい。
【0036】
SiとAlの合計:1.00~3.00質量%
Si及び/又はAlの含有量の合計を1.00質量%以上とすることで、延性を低下させるセメンタイトの生成を抑制することができる。一方で、3.00質量%以上添加しても当該効果は向上しないため、添加量の上限を3.00質量%としている。Si及び/又はAlの含有量の合計は1.50~2.50質量%とすることが好ましく、1.75~2.25質量%とすることがより好ましい。
【0037】
Mn:2.00~5.00質量%
Siの添加に加えてMnの含有量を2.00質量%以上とすることで、オーステナイト安定化によるTRIP(マルテンサイト変態誘起塑性)効果による延性の向上が期待できる。加えて、固相接合の条件にも依存するが、2.00質量%以上のMnを添加することで固相接合部に微細なマルテンサイト組織を形成させることができる。その結果、高強度でありつつ十分な延性を有する固相接合部を得ることができる。一方で、当該効果はMnの含有量を5.00質量%以上としても殆ど向上しないことから、Mn含有量の上限を5.00質量%としている。ここで、強度を重視する場合はMn含有量を3.00~5.00質量%とすることが好ましく、延性を重視する場合は2.00質量%以上3.00質量%未満とすることが好ましい。
【0038】
2.任意の添加元素
Cr:1.00~3.50質量%
適当な量のCrを含有することで、固相接合部の強度及び靭性を改善することができる。靭性は強度と延性の一種の積であるため、Crの添加により強度と延性が共に高くなる結果、靭性が改善される。Crの添加による固相接合部の特性改善のメカニズムは必ずしも明らかにはなっていないが、炭素鋼にCrを添加することにより、固相接合中(オーステナイトからの冷却過程)における初析フェライトの生成が抑制され、得られる固相接合部の強度が上昇すると共に、マルテンサイト(又はベイナイト)の延性が向上するものと思われる。なお、Crのより好ましい含有量は1.50~3.00質量%である。
【0039】
Cu:3.0質量%以下
Cuは、母材の強度を確保するために有用な元素であるが、3.0質量%を超えて含有すると母材及びHAZ部が硬化するため、3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
Ni:5.0質量%以下
Niは、母材の強度と靱性を向上させる元素であるが、5.0質量%を超えて含有するとHAZ部が硬化するため、5.0質量%以下とすることが好ましい。また、Niは高価であることからも、5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
Mo:1.0質量%以下
Moは、母材の強度向上に有用な元素であるが、1.0質量%を超えると靱性に悪影響を及ぼすことから、1.0質量%以下とすることが好ましい。また、Moは高価であることからも、1.0質量%以下とすることが好ましい。
【0042】
Nb:0.1質量%以下
Nbは、母材およびHAZ部の強度と靱性を確保するために有用な元素であるが、0.1質量%を超えると靱性に悪影響を及ぼすことから、0.1質量%以下とすることが好ましい。また、Nbは高価であることからも、0.1質量%以下とすることが好ましい。なお、Nbはオーステナイトを微細化し、その結果、微細なラス状のマルテンサイト組織を形成する効果を有すると考えられる。
【0043】
Ti:0.1質量%以下
Tiは、母材およびHAZ部の強度と靱性を確保するために有用な元素であるが、0.1%を超えると靱性に悪影響を及ぼすことから、0.1質量%以下とすることが好ましい。なお、Tiはオーステナイトを微細化し、その結果、微細なラス状のマルテンサイト組織を形成する効果を有すると考えられる。
【0044】
V:0.1質量%以下
Vは、母材の強度を高めるのに有用な元素であるが、含有量が0.1質量%を超えると靱性を 劣化させるので、0.1質量%以下とすることが好ましい。また、Vは高価であることからも、0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0045】
B:0.0040質量%以下
Bは、圧延中にオーステナイト粒界に偏析して焼入性を上げる作用があるが、0.0040質量%を超えるとHAZ部の靱性を劣化させることから、0.0040質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
その他、不純物としてはNがあり、多量に含有されると窒化物を形成して靱性の低下を 招くので、Nの混入量は0.010質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
(2)固相接合継手
本発明の固相接合継手に関して、摩擦攪拌接合によって形成された固相接合部を有する場合の一態様を図1に、摩擦圧接によって形成された固相接合部を有する場合の一態様を図2に、線形摩擦接合によって形成された固相接合部を有する場合の一態様を図3に、それぞれ示す。摩擦圧接又は線形摩擦接合を用いた場合は被接合材(2,4)の摩擦面に固相接合部6が形成され、摩擦攪拌接合を用いた場合は摩擦攪拌接合用ツールが通過した領域に固相接合部6が形成される。
【0048】
摩擦攪拌接合に関しては、(1)金属板の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその加工部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属板同士を接合する接合、(2)金属板の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部で移動させずに回転させて接合するスポット接合、(3)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその箇所で移動させずに回転させて金属板同士を接合するスポット接合、(4)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属板同士を接合する接合の(1)~(4)の4つの態様及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0049】
本発明の固相接合継手1では、被接合材(2,4)のうちの少なくとも一方が、本発明の固相接合用鋼からなる固相接合用鋼材となっている。また、固相接合部6の組織はラス状のマルテンサイト組織を有している。ここで、固相接合部6の殆どの領域をラス状のマルテンサイト組織とすることで、極めて高い強度を得ることができる。一方で、一般的なマルテンサイト組織では十分な延性を発現することが困難であるが、本願発明者がマルテンサイト組織と引張特性の関係を鋭意調査した結果、Mnの添加によりラス状のマルテンサイト組織を微細化することで、良好な延性を付与できることが明らかになった。
【0050】
固相接合部6では、マルテンサイト組織における旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下であること、が好ましい。旧オーステナイト組織を微細化することで、ラス状のマルテンサイト組織が微細化され、固相接合部に高い強度と延性を付与することができる。ここで、旧オーステナイトの平均粒径は15μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが最も好ましい。なお、旧オーステナイトの平均粒径を求める方法は特に限定されず従来公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、適当なエッチングを施した組織を観察してもよく、マルテンサイトと旧オーステナイトとの方位関係により、マルテンサイトから旧オーステナイトを再構築し、再構築した旧オーステナイト組織から求めてもよい。
【0051】
本発明の固相接合用鋼からなる被接合材(2,4)の引張強さが1000MPa以上、伸びが20%以上であり、固相接合部6の室温での引張強さが1500MPa以上、伸びが20%以上であること、が好ましい。被接合材(2,4)と固相接合部6がこれらの引張特性を有することで、高い強度と信頼性が要求される用途において、超高張力鋼と同等以上の機械的性質を有する継手として十分に使用することができる。なお、他方の被接合材(2,4)が本発明の固相接合用鋼よりも強度が低い場合は、固相接合継手1において最も強度が低い領域から破断することになり、引張強さ及び伸びは破断領域の機械的性質を大きく反映した値となる。
【0052】
固相接合継手1の固相接合部6は摩擦圧接や線形摩擦接合によって形成されたものでもよいが、摩擦攪拌接合部とすることで、鋼板の任意の領域に固相接合部6を形成することができ、大型構造物の製造にも対応が可能である。
【0053】
(3)固相接合構造物
本発明の固相接合構造物は、固相接合継手1を有することを特徴としている。固相接合継手1以外の構造部に関する材質、形状及びサイズは特に限定されず、従来公知の種々の構造物とすることができる。
【0054】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、固相接合構造物は特に限定されないが、例えば、自動車、船舶及び鉄道車両等の輸送用機器の構造部、各種建築構造物、橋梁、鉄管等を挙げることができる。
【0055】
(4)固相接合用鋼材
本発明の固相接合用鋼材は、本発明の固相接合用鋼からなり、ラス状のマルテンサイト組織を有し、当該マルテンサイト組織における旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下であること、を特徴とする固相接合用鋼材である。当該組成及び組織を有する固相接合用鋼材は、室温での引張強さが1000MPa以上、伸びが20%以上となり、高い強度と信頼性が要求される用途において、超高張力鋼と同等以上の機械的性質を有する鋼材として十分に使用することができる
【0056】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
以下、実施例において本発明の固相接合用鋼、固相接合用鋼材、固相接合継手及び固相接合構造物について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0058】
≪実施例1≫
高周波溶解により表1に示す組成を有する鋼のインゴット(φ35×20~25h)を作製し、950℃の熱間圧延にて板厚を3mmに調整した後、950℃で10分間の均熱拡散処理を施して鋼板(実施固相接合用鋼1)を得た。なお、表1に示す値は質量%である。
【0059】
【表1】
【0060】
得られた鋼板に対し、ショルダ径15mm、プローブ径6mm、プローブ長2.9mmの形状を有する超硬合金製ツール(プローブにネジを有していない)を用い、ツール回転速度:400rpm、接合速度:150mm/min、接合荷重:2.5ton、ツール前進角:3°、接合雰囲気:Arの条件で摩擦攪拌接合を行った。
【0061】
≪実施例2≫
表1に示す実施例2の組成を用いた以外は実施例1と同様にして、鋼板(実施固相接合用鋼2)を得た。また、実施例1と同様にして、摩擦攪拌接合を施した。
【0062】
≪実施例3≫
表1に示す実施例3の組成を用いた以外は実施例1と同様にして、鋼板(実施固相接合用鋼3)を得た。また、実施例1と同様にして、摩擦攪拌接合を施した。
【0063】
≪実施例4≫
表1に示す実施例4の組成を用いた以外は実施例1と同様にして、鋼板(実施固相接合用鋼4)を得た。また、実施例1と同様にして、摩擦攪拌接合を施した。
【0064】
≪比較例1≫
表1に示す比較例1の組成を用いた以外は実施例1と同様にして、鋼板(比較固相接合用鋼1)を得た。また、実施例1と同様にして、摩擦攪拌接合を施した。
【0065】
≪比較例2≫
表1に示す比較例2の組成を用いた以外は実施例1と同様にして、鋼板(比較固相接合用鋼2)を得た。また、実施例1と同様にして、摩擦攪拌接合を施した。
【0066】
[評価試験]
(1)組織観察
摩擦攪拌接合方向に対して垂直に攪拌部を含む領域を切り出し、断面を研磨及び腐食(4%ナイタール)した後、光学顕微鏡を用いて組織観察を行った。なお、研磨にはエメリー紙(#600~#3000)及びダイヤモンドペースト(粒度3μm及び1μm)を用いた。また、母材観察用の試料も同様に準備した。
【0067】
(2)引張試験
上記実施例及び比較例で得られた鋼材(母材)及び攪拌部の引張特性を評価した。鋼材に関しては図4に示す試験片を作製し、攪拌部に関しては図5に示すサイズの試験片を作製した。なお、試験片の切り出しには放電加工機を用い、引張軸は接合方向に対して垂直とした。引張試験機(SHIMADZU Autograph AGS-X 10kN)を用い、クロスヘッド速度0.06mm/minで継手の引張強度を測定した。
【0068】
(3)EBSD測定
摩擦攪拌接合継手の攪拌部における組織のサイズを詳細に確認するため、EBSD測定によって結晶方位マップ像を得た。また、母材の残留オーステナイト量についても評価した。EBSD測定にはFE-SEM(日本電子株式会社製JSM-7001FA)及びTSL社製のOIM data Collection ver5.31を用いた。
【0069】
実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の組織写真を図6に示す。Mnを含んでいない場合はフェライトとパーライトからなる組織、Mn含有量が1質量%の場合はフェライトとベイナイトからなる組織、Mn含有量が2質量%以上の場合はマルテンサイトからなる組織となっている。
【0070】
実施固相接合用鋼1~4及び比較固相接合用鋼1,2の引張特性を図7に示す。Mn含有量の増加に伴い引張強度が高くなっており、特に、Mn含有量が2質量%以上では1000MPa以上の値となっている。また、良好な延性も備えており、約1400MPaの極めて高い引張強度を有している実施固相接合用鋼3(Mn含有量:4質量%)及び実施固相接合用鋼4(Mn含有量:5質量%)でも20%以上の伸びを示している。実施固相接合用鋼3の破面の写真を図8に示しているが、延性破断に起因するディンプルが観察される。
【0071】
実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の接合部の断面マクロ写真を図9に示す。全ての場合で欠陥のない攪拌部が得られており、摩擦攪拌接合によって良好な継手が得られることが分かる。
【0072】
実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の攪拌部の組織写真を図10に示す。Mnを含んでいない場合はフェライトとベイナイトからなる組織、Mn含有量が1質量%の場合はフェライトとマルテンサイトからなる組織、Mn含有量が2質量%以上の場合はマルテンサイトからなる組織となっている。
【0073】
実施固相接合用鋼1~4及び比較固相接合用鋼1,2の攪拌部の引張特性を図11に示す。Mn含有量の増加に伴い引張強度が高くなっており、特に、Mn含有量が2質量%以上では1500MPa以上の値となっている。また、良好な延性も備えており、約1700MPaの極めて高い引張強度を有している実施固相接合用鋼2(Mn含有量:3質量%)、実施固相接合用鋼3(Mn含有量:4質量%)及び実施固相接合用鋼4(Mn含有量:5質量%)でも25%以上の伸びを示している。実施固相接合用鋼3の攪拌部の破面の写真を図12に示しているが、延性破断に起因するディンプルが観察される。
【0074】
実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の攪拌部の結晶方位マップ像を図13に示す。Mn含有量の増加に伴いマルテンサイト組織が微細化しており、当該マルテンサイト組織の微細化が、攪拌部が良好な延性を示す主な原因であると考えられる。
【0075】
実施固相接合用鋼1~3及び比較固相接合用鋼1,2の母材のフェイズマップを図14に示す。Si含有量が2質量%でMn含有量が2質量%以上の場合に残留オーステナイトが存在しており、特に、2質量%ではその量が多くなっている(7.6%)。図7に示すように、Mn含有量が2質量%の実施固相接合用鋼1は高い引張強度(1000MPa)を有しつつも伸びが35%以上となっており、TRIP効果が発現した可能性が考えられる。
【0076】
実施固相接合用鋼1~4及び比較固相接合用鋼1,2の母材と攪拌部の引張特性を図15にまとめて示す。図15では縦軸が伸び、横軸が引張強度となっているが、Mn含有量が2質量%以上の場合では、母材及び攪拌部が共に右上の領域にプロットされており、優れた強度-延性バランスを有している。なお、Mn含有量が1質量%の場合は、母材の強度が十分に増加していない。
【0077】
EBSD測定の結果を用い、マルテンサイトと旧オーステナイトとの方位関係により、マルテンサイトから旧オーステナイトを再構築した結果を図16に示す(図中のスケールバーは15μm)。実施固相接合用鋼1、実施固相接合用鋼2及び実施固相接合用鋼3の旧オーステナイトの平均粒径は、15.1μm、11.7μm及び11.9μmとなっている。何れの場合も微細な旧オーステナイト粒となっているが、Mn添加量の増加に伴って微細化する一方、当該効果はMn添加量が3~4質量%程度で飽和していると考えられる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・固相接合継手、
2,4・・・被接合材、
6・・・固相接合部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16