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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240520BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240520BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240520BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240520BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20240520BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K5/098
C08K5/17
C08K5/20
C08K5/41
C08J5/18 CEX
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021567589
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048345
(87)【国際公開番号】W WO2021132425
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019236922
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 洋平
(72)【発明者】
【氏名】浜島 功
(72)【発明者】
【氏名】中井 慎二
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/132592(WO,A1)
【文献】特表2009-532512(JP,A)
【文献】米国特許第04440830(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110144268(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L29/04
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、及びキレート剤(D)を含有するポリビニルアルコールフィルムであって、
ノニオン系界面活性剤(B)がアルカノールアミドであり、
ノニオン系界面活性剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であり、
アニオン系界面活性剤(C)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であり、
キレート剤(D)が、有機カルボン酸系化合物、アミノカーボネート系化合物及びヒドロキシアミノカーボネート系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、
キレート剤(D)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.005~0.1質量部であるポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコールフィルム中の鉄元素のモル数に対するキレート剤(D)のモル数の割合が50倍以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコールフィルム中の鉄元素の含有量が0.05ppm~1.5ppmである、請求項1または2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
フィルム幅が1.5m以上である、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
フィルムの長さが3000m以上である、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
フィルム厚みが10~70μmである、請求項1~5のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、及びキレート剤(D)を含有するポリビニルアルコールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)フィルムは、透明性、光学特性、機械的強度、水溶性などに関するユニークな性質を利用して様々な用途に使用されている。特に、その優れた光学特性を利用して、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である偏光板を構成する偏光フィルムの製造原料(原反フィルム)としてPVAフィルムが使用されており、その用途が拡大している。LCD用偏光板には高い光学性能が求められ、その構成要素である偏光フィルムに対しても高い光学性能が要求される。
【0003】
偏光板は、一般的に、原反のPVAフィルムに染色、一軸延伸、および必要に応じてホウ素化合物等による固定処理等を施して偏光フィルムを製造した後、当該偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造される。そして、原反のPVAフィルムは、一般的に、キャスト製膜法等のPVAを含む製膜原液を乾燥させる方法によって製造される。
【0004】
これまでにPVAフィルムやその製造方法に関する多くの技術が知られている。特許文献1には、PVA樹脂、硫酸エステル塩型アニオン系界面活性剤(a)としてドデシル硫酸ナトリウム、エーテル型ノニオン系界面活性剤(b)としてポリオキシエチレンドデシルエーテル、及び含窒素型ノニオン系界面活性剤(c)としてラウリン酸ジエタノールアミドを含むPVAフィルムが記載されている。これによれば、光学的スジや光学的色ムラ等のない優れた光学特性を有し、かつ耐ブロッキング性に優れた効果を発揮できるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、PVA樹脂、エーテル型ノニオン系界面活性剤(a)としてポリオキシエチレンドデシルエーテル、及び二種類の含窒素型ノニオン系界面活性剤(b)としてポリオキシエチレンドデシルアミンとラウリン酸ジエタノールアミドを含有するPVAフィルムが記載されている。これによれば、光学的スジ等のない優れた光学特性を有し、かつ耐ブロッキング性に優れた効果を発揮できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-206809号公報
【文献】特開2005-206810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、ドデシル硫酸ナトリウムのような硫酸エステル塩型アニオン系界面活性剤とラウリン酸ジエタノールアミドのような含窒素型ノニオン系界面活性剤とを用いた場合には、それらの耐加水分解性(耐熱性)が低いことにより配合量を多大にする必要があり、経済性の観点から改善の余地があった。また、それらの界面活性剤を多量に配合すると、その分解物が滞留しやすく生産工程中において汚れが発生しやすくなり、生産性の観点からも改善の余地があった。また、特許文献2のように、界面活性剤として、アニオン系界面活性剤を用いずに、含窒素型ノニオン系界面活性剤等を用いた場合には、上記経済性と生産性の問題に加えて、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生するという問題があった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができるため生産性に優れ、光学欠陥が少なく、剥離性も良好なPVAフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、ポリビニルアルコール(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、及びキレート剤(D)を含有するポリビニルアルコールフィルムであって、ノニオン系界面活性剤(B)がアルカノールアミドであり、ノニオン系界面活性剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であり、アニオン系界面活性剤(C)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であり、キレート剤(D)が、有機カルボン酸系化合物、アミノカーボネート系化合物及びヒドロキシアミノカーボネート系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、キレート剤(D)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.005~0.20質量部であるポリビニルアルコールフィルムを提供することによって解決される。
【0010】
このとき、ポリビニルアルコールフィルム中の鉄元素のモル数に対するキレート剤(D)のモル数の割合が50倍以上であることが好ましい。ポリビニルアルコールフィルム中の鉄元素の含有量が0.05ppm~1.5ppmであることも好ましい。
【0011】
またこのとき、フィルム幅が1.5m以上であることが好ましい。フィルムの長さが3000m以上であることも好ましい。フィルム厚みが10~70μmであることも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができるため生産性に優れ、光学欠陥が少なく、剥離性も良好なPVAフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のPVAフィルムは、PVA(A)、特定のノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、及び特定のキレート剤(D)をそれぞれ一定量含有する。本発明者らは、PVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、及びキレート剤(D)をそれぞれ一定量含有するPVAフィルムが、光学欠陥が少なく剥離性が良好であることを見出した。
【0014】
従来、ノニオン系界面活性剤としてラウリン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミドが広く用いられている。しかしながら、アルカノールアミドのようなノニオン系界面活性剤と硫酸エステル塩型のようなアニオン系界面活性剤は共に耐熱性が低い。そのため分解して脂肪酸を生成し、この脂肪酸が生産工程中に存在する多価金属イオンと結合して脂肪酸塩を形成することがある。この脂肪酸塩が生産工程中に発生する汚れの原因の一つとなっており改善が求められていた。本発明者らは鋭意検討した結果、PVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)に加えて、特定のキレート剤(D)をそれぞれ一定量含有することにより、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができることを見出した。したがって、本願発明のように、PVA(A)、特定のノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、及び特定のキレート剤(D)をそれぞれ一定量含有することが重要である。このような構成を満たすことにより、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができるため生産性に優れ、光学欠陥が少なく、剥離性も良好なPVAフィルムを得ることができる。なお、本発明において、このようなPVAフィルムが得られる理由としては、キレート剤(D)が、製膜原液中の鉄元素に代表される多価金属イオンを捕捉することにより、製膜工程において脂肪酸(ノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤の分解物)と多価金属イオンとの結合反応が抑制され、脂肪酸塩の生成が抑制されるためと推察される。
【0015】
[PVA(A)]
PVA(A)としては、ビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよいが前者が好ましい。入手性、コスト、PVA(A)の生産性などの観点からビニルエステルとして酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
ビニルエステルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。これらの他のモノマーは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、他のモノマーとして、エチレンおよび炭素数3~30のオレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0017】
前記ビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合に特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0018】
PVA(A)の重合度に必ずしも制限はないが、重合度が下がるにつれてフィルム強度が低下する傾向があることから200以上であることが好ましく、より好適には300以上、更に好適には400以上、特に好適には500以上である。また、重合度が高すぎるとPVA(A)の水溶液あるいは溶融したPVA(A)の粘度が高くなり、製膜が難しくなる傾向があることから、10,000以下であることが好ましく、より好適には9,000以下、更に好適には8,000以下、特に好適には7,000以下である。ここでPVA(A)の重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA(A)を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
重合度 = ([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0019】
PVA(A)のけん化度に特に制限はなく、例えば60モル%以上のPVA(A)を使用することができるが、偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する観点から、PVA(A)のけん化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることが更に好ましい。ここでPVA(A)のけん化度とは、PVA(A)が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味する。PVA(A)のけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0020】
PVA(A)は、1種のPVAを単独で用いてもよいし、重合度、けん化度、変性度などが異なる2種以上のPVAを併用してもよい。但し、PVAフィルムが、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性官能基を有するPVA;酸無水物基を有するPVA;アミノ基等の塩基性官能基を有するPVA;これらの中和物など、架橋反応を促進させる官能基を有するPVAを含有すると、PVA分子間の架橋反応によって当該PVAフィルムの二次加工性が低下することがある。したがって、光学フィルム製造用の原反フィルムのように、優れた二次加工性が求められる場合においては、PVA(A)における、酸性官能基を有するPVA、酸無水物基を有するPVA、塩基性官能基を有するPVAおよびこれらの中和物の含有量はそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましく、いずれも含有しないことがより好ましい。
【0021】
前記PVAフィルムにおけるPVA(A)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更に好ましい。
【0022】
[ノニオン系界面活性剤(B)]
ノニオン系界面活性剤(B)の含有量は、PVA(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部である。ノニオン系界面活性剤(B)の含有量が0.01質量部未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生するとともに剥離性が悪くなる。ノニオン系界面活性剤(B)の含有量は、0.02質量部以上であることが好ましく、0.04質量部以上であることがより好ましい。一方、ノニオン系界面活性剤(B)の含有量が、0.20質量部を超える場合、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができず、生産性が低下する。ノニオン系界面活性剤(B)の含有量は、0.16質量部以下であることが好ましく、0.12質量部以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明で用いられるノニオン系界面活性剤(B)はアルカノールアミドである。アルカノールアミドの種類は特に限定されないが、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミドなどの脂肪族アルカノールアミドが好適である。脂肪族アルカノールアミドとしては、3級アミド型の脂肪族アルカノールアミド及び2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドを用いることができる。
【0024】
また、ノニオン系界面活性剤(B)として、ポリオキシエチレン基を有する脂肪族アルカノールアミドも好適に用いることができる。前記アルカノールアミドとしては、下記式(I)で示される2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドや下記式(II)で示される3級アミド型の脂肪族アルカノールアミドが挙げられる。
【0025】
【化1】
[式(I)中、Rは炭素数8~18のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が2~10である。]
【0026】
【化2】
[式(II)中、Rは炭素数8~18のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が2~10である。]
【0027】
上記式(I)及び(II)中、Rは炭素数8~18のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。Rの炭素数(アルキル鎖長)が8未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生するおそれがある。Rの炭素数(アルキル鎖長)は9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。一方、Rの炭素数(アルキル鎖長)が18を超える場合、活性剤凝集物の個数が多く、ヘイズの値が高くなるおそれがある。Rの炭素数(アルキル鎖長)は15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましい。
【0028】
上記式(I)及び(II)中、ポリオキシエチレン鎖数(n)は2~10である。ポリオキシエチレン鎖数(n)が2未満の場合、活性剤凝集物の個数が多く、ヘイズの値が高くなるおそれがある。ポリオキシエチレン鎖数(n)は4以上であることが好ましい。一方、ポリオキシエチレン鎖数(n)が10を超える場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生するおそれがある。ポリオキシエチレン鎖数(n)は、8以下であることが好ましい。
【0029】
[アニオン系界面活性剤(C)]
アニオン系界面活性剤(C)の含有量は、PVA(A)100質量部に対してPVA(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部である。アニオン系界面活性剤(C)の含有量がこの範囲から外れると光学欠陥が多くなる。アニオン系界面活性剤(C)の含有量は、0.02質量部以上であることが好ましく、0.04質量部以上であることがより好ましい。一方、アニオン系界面活性剤(C)の含有量は、0.16質量部以下であることが好ましく、0.12質量部以下であることがより好ましい。
【0030】
アニオン系界面活性剤(C)としては特に限定されないが、硫酸エステル塩型及びスルホン酸塩型からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
前記硫酸エステル塩型としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム、アルキル硫酸アンモニウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。前記アルキルとしては、炭素数8~20のアルキルが好ましく、炭素数10~16のアルキルがより好ましい。
【0032】
前記スルホン酸塩型としては、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸カリウム、アルキルスルホン酸アンモニウム、アルキルスルホン酸トリエタノールアミン、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸二ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム等が挙げられる。前記アルキルとしては、炭素数8~20のアルキルが好ましく、炭素数10~16のアルキルがより好ましい。
【0033】
上記の界面活性剤は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、光学欠陥を少なくする観点から、アニオン系界面活性剤(C)が硫酸エステル塩型であることが好ましい。
【0034】
[キレート剤(D)]
キレート剤(D)の含有量は、PVA(A)100質量部に対して0.005~0.20質量部である。本発明において、キレート剤(D)が、製膜原液中の鉄元素に代表される多価金属イオンを捕捉することにより、製膜工程において脂肪酸(ノニオン系界面活性剤(B)又はアニオン系界面活性剤(C)の分解物)と多価金属イオンとの結合反応が抑制され、脂肪酸塩の生成が抑制される。キレート剤(D)の含有量が0.005質量部未満の場合、生産工程(製膜工程)中における汚れの発生を防ぐことができず、生産性が低下する。キレート剤(D)の含有量は、0.007質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましい。一方、キレート剤(D)の含有量が0.20質量部を超える場合、光学欠陥が多くなる。キレート剤(D)の含有量は、0.15質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
また、PVAフィルム中の鉄元素のモル数に対するキレート剤(D)のモル数の割合が50倍以上であることが好ましい。当該割合が50倍以上であることにより、生産工程中における汚れの発生を十分に防ぐことができる。当該割合は、80倍以上であることがより好ましく、100倍以上であることがさらに好ましい。一方、当該割合は、通常、500倍以下である。
【0036】
本発明におけるキレート剤(D)は、有機カルボン酸系化合物、アミノカーボネート系化合物及びヒドロキシアミノカーボネート系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。すなわち、本明細書におけるキレート剤(D)とは、多価金属イオンと結合してキレート化合物を形成する化合物であって、有機カルボン酸系化合物、アミノカーボネート系化合物及びヒドロキシアミノカーボネート系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0037】
有機カルボン酸系化合物とは、カルボキシル基及びヒドロキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の基を2つ以上有するとともに、当該基の少なくとも1つはカルボキシル基である化合物又はその塩である。有機カルボン酸系化合物としては、脂肪族、脂環式、芳香族カルボン酸、又はこれらの塩が挙げられ、中でも脂肪族カルボン酸又はその塩が好適である。脂肪族カルボン酸又はその塩としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸又はその塩;乳酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその塩;カルボキシメチルタルトロン酸ナトリウム、カルボキシメチルオキシコハク酸ナトリウムなどのエーテルカルボン酸又はその塩が挙げられる。中でも、製膜原液中の溶解性、及び脂肪酸と結合する多価金属イオンを効果的に捕捉する観点から、脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその塩が好適であり、クエン酸又はその塩がより好適であり、クエン酸ナトリウムがさらに好適である。
【0038】
アミノカーボネート系化合物とは、分子内に2~6個のカルボキシル基を有するとともに、2級アミン構造又は3級アミン構造を少なくとも1つ有する化合物又はその塩である。2級アミン構造を有する前記アミノカーボネート系化合物としては、イミノ二酢酸又はこれらの塩が挙げられる。3級アミン構造を有する前記アミノカーボネート系化合物としては、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミノ五酢酸又はこれらの塩が挙げられる。中でも、前記アミノカーボネート系化合物としては、分子内に2~6個のカルボキシル基を有するとともに、3級アミン構造を少なくとも1つ有する化合物又はその塩が好適である。製膜原液中の溶解性、及び脂肪酸と結合する多価金属イオンを効果的に捕捉する観点から、ニトリロ三酢酸ナトリウムがより好適である。
【0039】
ヒドロキシアミノカーボネート系化合物とは、前記アミノカーボネート系化合物の一部又は全部のカルボキシル基がヒドロキシ基に置換された化合物又はその塩である。ヒドロキシアミノカーボネート系化合物としては、ヒドロキシエチルグリシン、トリエタノールアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、ジエタノールアミン又はこれらの塩が挙げられる。中でも、製膜原液中の溶解性、及び脂肪酸と結合する多価金属イオンを効果的に捕捉する観点から、前記アミノカーボネート系化合物の全部がヒドロキシ基に置換された化合物又はその塩が好適であり、トリエタノールアミンがより好適である。
【0040】
[PVAフィルム]
PVAフィルム中の鉄元素の含有量が0.05ppm~1.5ppmであることが好ましい。本発明において、PVAフィルム中の鉄元素の含有量は後述する方法によって測定される。ここで、PVAフィルム中の鉄元素は、脂肪酸(ノニオン系界面活性剤(B)又はアニオン系界面活性剤(C)の分解物)と塩を形成したもの、キレート剤(D)によって捕捉されたものの両者が区別なく測定される。よって、本発明におけるPVAフィルム中の鉄元素の含有量は、通常、製膜原液中の鉄元素の含有量と同程度である。したがって、PVAフィルム中の鉄元素の含有量が0.05ppm未満の場合、製膜原液中の原料PVAの精製に多大なコストを要し、経済性が悪化するおそれがある。当該含有量は0.1ppm以上であることがより好ましい。一方、PVAフィルム中の鉄元素の含有量が1.5ppmを超える場合、生産工程中における汚れの発生を防ぐことが十分にできないおそれがある。また、製膜原液中の鉄元素を捕捉するためのキレート剤(D)を多大に配合する必要があり、経済性の観点から好ましくない。当該含有量は1.0ppm以下であることがより好ましい。
【0041】
PVAフィルムに柔軟性を付与させることができる観点から、本発明のPVAフィルムは可塑剤を含有することが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらは1種の可塑剤のみを用いてもよいし、2種以上の可塑剤を併用してもよい。中でも、PVA(A)との相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。
【0042】
可塑剤の含有量は、PVA(A)100質量部に対して1~30質量部の範囲内であることが好ましい。可塑剤の含有量が1質量部以上であると衝撃強度などの機械的物性や二次加工時の工程通過性に問題が生じ難い。一方、可塑剤の含有量が30質量部以下であるとフィルムが適度に柔軟になり、取り扱い性が向上する。
【0043】
本発明のPVAフィルムは、PVA、界面活性剤および可塑剤以外の他の成分を、必要に応じて更に含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤(無機物粒子・デンプン等)、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。PVAフィルム中の他の成分の含有量は10質量%以下が好ましい。
【0044】
本発明のPVAフィルムの幅に特に制限はない。近年幅広の偏光フィルムが求められていることから、当該幅は1.5m以上であることが好ましい。また、PVAフィルムの幅があまりに広すぎると、PVAフィルムを製膜するための製膜装置の製造費用が増加したり、更には、実用化されている製造装置で光学フィルムを製造する場合において均一に延伸することが困難になったりすることがあることから、通常、PVAフィルムの幅は7.5m以下である。
【0045】
本発明のPVAフィルムの形状は特に制限されないが、より均一なPVAフィルムを連続して円滑に製造することができる点や、光学フィルム等を製造する際に連続して使用する点などから、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺のフィルムの長さ(流れ方向の長さ)は特に制限されず、適宜設定することができる。フィルムの長さは、3000m以上であることが好ましい。一方、フィルムの長さは、30000m以下であることが好ましい。長尺のフィルムはコアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。
【0046】
本発明のPVAフィルムの厚みは特に制限されず、適宜設定することができる。偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する観点から、フィルムの厚みは、10~70μmであることが好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは、任意の10ヶ所において測定された値の平均値として求めることができる。
【0047】
本発明のPVAフィルムの製造方法は特に限定されないが、好適な製造方法は、ポリビニルアルコール(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)及びキレート剤(D)を含有するポリビニルアルコールフィルムの製造方法であって、ポリビニルアルコール(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)及びキレート剤(D)を配合して製膜原液を調製する工程と、当該製膜原液を用いて製膜する工程とを有し、ノニオン系界面活性剤(B)が、アルカノールアミドであり、キレート剤(D)が、有機カルボン酸系化合物、アミノカーボネート系化合物及びヒドロキシアミノカーボネート系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、前記製膜原液におけるノニオン系界面活性剤(B)の配合量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であり、前記製膜原液におけるアニオン系界面活性剤(C)の配合量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であり、前記製膜原液におけるキレート剤(D)の配合量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.005~0.20質量部である。
【0048】
製膜原液を調製する工程において、液体媒体をさらに配合することもできる。このときの液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
【0049】
本発明のPVAフィルムの製造方法において、例えば、PVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、キレート剤(D)、液体媒体、および必要に応じて更に上記した可塑剤やその他の成分を含有する製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法など公知の方法を採用することができる。なお、製膜原液は、PVA(A)が液体媒体に溶解してなるものであってもよいし、PVA(A)が溶融したものであってもよい。
【0050】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は製膜方法、製膜条件等によっても異なるが、50~90質量%の範囲内であることが好ましく、55~80質量%の範囲内であることがより好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなりすぎず製膜が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が90質量%以下であることにより、製膜原液の粘度が低くなりすぎず得られるPVAフィルムの厚み均一性が向上する。
【0051】
製膜原液におけるノニオン系界面活性剤(B)の配合量は、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であることが好ましい。ノニオン系界面活性剤(B)の配合量が0.01質量部未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生するとともに剥離性が悪くなるおそれがある。ノニオン系界面活性剤(B)の配合量は0.02質量部以上であることがより好ましく、0.04質量部以上であることがさらに好ましい。一方、ノニオン系界面活性剤(B)の配合量が0.20質量部を超える場合、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができないおそれがある。ノニオン系界面活性剤(B)の配合量は、0.16質量部以下であることがより好ましく、0.12質量部以下であることがさらに好ましい。本発明で用いられるノニオン系界面活性剤(B)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記製膜原液におけるアニオン系界面活性剤(C)の配合量は、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.01~0.20質量部であることが好ましい。アニオン系界面活性剤(C)の配合量がこの範囲から外れると光学欠陥が多くなるおそれがある。アニオン系界面活性剤(C)の配合量は、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.04質量部以上であることがさらに好ましい。一方、アニオン系界面活性剤(C)の配合量は、0.16質量部以下であることがより好ましく、0.12質量部以下であることがさらに好ましい。本発明で用いられるアニオン系界面活性剤(C)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記製膜原液におけるキレート剤(D)の配合量は、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.005~0.20質量部であることが好ましい。キレート剤(D)の配合量が0.005質量部未満の場合、生産工程中における汚れの発生を防ぐことができないおそれがある。キレート剤(D)の配合量は、0.007質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましい。一方、キレート剤(D)の配合量が0.20質量部を超える場合、光学欠陥が多くなるおそれがある。キレート剤(D)の配合量は、0.15質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。本発明で用いられるキレート剤(D)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
次に製膜する工程について説明する。上記の製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法によって本発明のPVAフィルムが好適に製造される。このときの具体的な製造方法に特に制限はなく、例えば、当該製膜原液をドラムやベルト等の支持体上に膜状に流延または吐出し、当該支持体上で乾燥させることにより得ることができる。得られたフィルムに対し、必要に応じて、乾燥ロールや熱風乾燥装置により更に乾燥したり、熱処理装置により熱処理を施したり、調湿装置により調湿したりしてもよい。製造されたPVAフィルムは、コアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。また、製造されたPVAフィルムの幅方向の両端部を切り取ってもよい。
【0055】
本発明のPVAフィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム、特殊集光フィルム等を製造するための原反フィルムとして好適に使用することができる。本発明により、光透過性が高くて品質が高いPVAフィルムを得ることができる。したがって、光学用PVAフィルムであることが本発明の好適な実施態様である。
【0056】
前記PVAフィルムを染色する工程と延伸する工程とを有する偏光フィルムの製造方法が本発明の好適な実施態様である。当該製造方法が更に固定処理工程、乾燥処理工程、熱処理工程等を有していてもよい。染色と延伸の順序は特に限定されず、延伸処理の前に染色処理を行ってもよいし、延伸処理と同時に染色処理を行ってもよいし、または延伸処理の後に染色処理を行ってもよい。また、延伸、染色などの工程は複数回繰り返してもよい。特に延伸を2段以上に分けると均一な延伸を行いやすくなるため好ましい。
【0057】
PVAフィルムの染色に用いる染料としては、ヨウ素または二色性有機染料(例えば、DirectBlack 17、19、154;DirectBrown 44、106、195、210、223;DirectRed 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;DirectBlue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;DirectViolet 9、12、51、98;DirectGreen 1、85;DirectYellow 8、12、44、86、87;DirectOrange 26、39、106、107などの二色性染料)などを使用することができる。これらの染料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。染色は、通常、上記染料を含有する溶液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0058】
PVAフィルムを延伸する方法として、一軸延伸方法および二軸延伸方法が挙げられ、前者が好ましい。PVAフィルムを流れ方向(MD)等に延伸する一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよいが、得られる偏光フィルムの性能および品質の安定性の観点から湿式延伸法が好ましい。湿式延伸法としては、PVAフィルムを、純水、添加剤や水溶性の有機溶媒等の各種成分を含む水溶液、または各種成分が分散した水分散液中で延伸する方法が挙げられる。湿式延伸法による一軸延伸方法の具体例としては、ホウ酸を含む温水中で一軸延伸する方法、前記染料を含有する溶液中や後述する固定処理浴中で一軸延伸する方法などが挙げられる。また、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸してもよいし、その他の方法で一軸延伸してもよい。
【0059】
一軸延伸する際の延伸温度は特に限定されないが、湿式延伸する場合は好ましくは20~90℃、より好ましくは25~70℃、更に好ましくは30~65℃の範囲内の温度が採用され、乾熱延伸する場合は好ましくは50~180℃の範囲内の温度が採用される。
【0060】
一軸延伸処理の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点からフィルムが切断する直前までできるだけ延伸することが好ましく、具体的には4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることが更に好ましい。延伸倍率の上限はフィルムが破断しない限り特に制限はないが、均一な延伸を行うためには8.0倍以下であることが好ましい。
【0061】
偏光フィルムの製造にあたっては、一軸延伸されたPVAフィルムへの染料の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理としては、一般的なホウ酸および/またはホウ素化合物を添加した処理浴中にPVAフィルムを浸漬する方法等を採用することができる。その際に、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0062】
一軸延伸処理、または一軸延伸処理と固定処理を行ったPVAフィルムを次いで乾燥処理や熱処理を行うことが好ましい。乾燥処理や熱処理の温度は30~150℃が好ましく、特に50~140℃であることが好ましい。温度が低すぎると、得られる偏光フィルムの寸法安定性が低下しやすくなる。一方、温度が高すぎると染料の分解などに伴う偏光性能の低下が発生しやすくなる。
【0063】
上記のようにして得られた偏光フィルムの両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にすることができる。その場合の保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などが一般に使用されており、そのうちでもPVA系接着剤が好ましく用いられる。
【0064】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレイ装置の部品として使用することができる。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどを同時に貼り合わせてもよい。
【実施例
【0065】
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0066】
[PVAフィルム中の鉄元素の含有量]
PVAフィルム0.5gをPTFE製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸6mLを加えて室温で30分間分解させた。分解後に蓋をし、湿式分解装置(アクタック社の「MWS-2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することでさらに分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を100mLのメスフラスコ(PMP製)に移し、純水でメスアップして測定用試料溶液とした。この試料溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社の「OPTIMA4300DV」)により鉄元素の含有量を求めた。
【0067】
[PVAフィルム中のキレート剤含有量]
測定対象となるPVAフィルムロールの表層側から10mの領域を切り出し、更に任意の位置からMD100mm×TD100mm(厚み60μm)のサンプル片を採取した。採取したサンプルを以下の条件で前処理した。
【0068】
(前処理条件)
1.サンプル0.3gを50mlサンプル管に精秤する。
2.HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を15ml加え、更に0.01mol/lの塩酸を1ml加え、50℃で攪拌溶解する。
3.溶解後室温まで冷却し、メタノール60ml中(室温、攪拌下)に滴下して再沈する。
4.綿栓でろ過し、沈殿物を除く。
5.ろ液をエバポレーター(40℃)で濃縮する。
6.メタノールと水を4:6で混合した溶液を添加して2mlにメスアップし、分析サンプルとした。
【0069】
(キレート剤の定量)
前処理したサンプルをHPLCで定量し、キレート剤(D)の含有量を求めた。キレート剤のシグナルノイズ比が適切でない場合は、前記した前処理条件6の添加液量を調整したり、HPLC測定の注入量を調整して、キレート剤を定量した。
【0070】
(クエン酸三ナトリウムとニトリロ三酢酸ナトリウムのHPLC測定条件)
・装置:ACQUITY UPLC H-class(waters製)
・カラム:ACQUITY UPLC BEH Amide 2.1×100mm 1.7μm(waters製)
・移動相:0.1%トリフルオロ酢酸とアセトニトリル溶液を4:6で混合した溶液
・流量:0.5ml/min
・温度:40℃
・注入量:10μL
・検出器:ELSD
【0071】
(トリエタノールアミンのHPLC測定条件)
・装置:LC-20a1(株式会社島津製作所製)
・カラム:TSKgel Amide-80(4.6×250mm、5μm)
・移動相:0.1%ギ酸とアセトニトリルの混合液
・グラジエントの時間と移動相のアセトニトリル濃度:
【表1】
・流量:1ml/min
・温度:40℃
・注入量:10μL
・検出器:corona
【0072】
[PVAフィルム製造の工程通過性]
(剥離性)
4000m以上の長尺フィルムの製膜において、キャストドラムから膜を剥離する際に、問題なく剥離できたものをA、部分的にドラムへ付着するが容易に剥離して生産性に問題がないものをB、ドラムへの付着で剥離できなかったものをCとして評価した。
【0073】
[PVAフィルムの品質]
(光学欠陥の評価方法)
PVAフィルム上の製膜時の流れ方向(MD方向)に平行に存在するスジ状の欠点と鮫肌状の欠点を目視で観察して評価した。具体的には以下の実施例、比較例で得られたPVAフィルムから切り出したサンプル片をMD方向が垂直になるように吊り下げ、その背後に30Wの直管状蛍光灯を垂直に置いて点灯し、光学欠陥について、以下の基準で評価した。
A:スジ状と鮫肌状の欠陥が全くなく製品に最も適したレベル。
B:スジ状または鮫肌状の欠陥が所々あるが製品として使用可能なレベル。
C:スジ状または鮫肌状の欠陥が多数あり製品に適さないレベル。
【0074】
[ダイス汚れ]
PVAフィルムを連続で50,000m製膜した後に設備を停止して、ダイス内部の原液流路面における汚れの付着状態を観察し、以下の基準で評価した。
A:汚れがなく製品採取に最も適したレベル。
B:汚れが所々あるが製品採取に使用可能なレベル。
C:汚れが多数あり製品採取に適さないレベル。
【0075】
実施例1
PVA(A)として重合度2400、けん化度99.9モル%のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)のチップを用いた。当該PVAのチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に浸漬させた後、遠心脱水を行い、揮発分率60質量%のPVA含水チップを得た。
【0076】
当該PVA含水チップ250質量部(乾燥PVAは100質量部)に対して、蒸留水25質量部、グリセリン12質量部、ノニオン系界面活性剤(B)0.05質量部、アニオン系界面活性剤(C)0.05質量部、キレート剤(D)0.03質量部混合した後、得られた混合物を二軸押出機で加熱溶融(最高温度130℃)して製膜原液とした。このとき用いたノニオン系界面活性剤(B)は、3級アミド型のラウリン酸ジエタノールアミドであり、アニオン系界面活性剤(C)は、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(アルキル基の炭素数が12、エチレンオキサイドの付加数が3)であり、キレート剤(D)はクエン酸ナトリウムであった。
【0077】
この製膜原液を熱交換器で100℃に冷却した後、180cm幅のコートハンガーダイから表面温度が90℃であるドラム上に押出製膜して、さらに熱風乾燥装置を用いて乾燥し、次いで、製膜時のネックインにより厚くなったフィルムの両端部を切り取ることにより、膜厚60μm、幅165cmのPVAフィルムを連続的に製造した。製造過程のPVAフィルムについて上記した方法により剥離性を評価した。次いで、製造されたPVAフィルムのうちの長さ4000m分を円筒状のコアに巻き取ってフィルムロールとした。得られたPVAフィルムについて上記した方法により光学欠陥と鉄元素の含有量を評価した。また、製造過程でダイスに付着した汚れを上記した方法により評価した。結果を表2に示す。
【0078】
実施例2~7、比較例1~6
ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、キレート剤(D)の種類及び使用量を表2に示されるとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてPVAフィルムを製造してそれを評価した。なお、実施例3で使用したキレート剤(D)は、トリエタノールアミンであり、実施例4で使用したキレート剤(D)は、ニトリロ三酢酸ナトリウムであり、実施例5で使用したノニオン系界面活性剤(B)とアニオン系界面活性剤(C)は、それぞれポリオキシエチレンラウリン酸モノエタノールアミド(ポリオキシエチレン鎖数が6)とアルキルスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数が15)である。
【0079】
表2に示す通り、実施例1~7のPVAフィルムは、剥離性に優れ、光学欠陥が少なく、品質が良好であった。また、ダイス汚れがないため、ダイスの洗浄頻度が少なくてよく、生産性に優れる。一方、ノニオン系界面活性剤(B)が多い比較例1のPVAフィルムは、ダイス汚れが多数発生した。アニオン系界面活性剤(C)が多い比較例2とキレート剤(D)が多い比較例3のPVAフィルムは、光学欠陥が多数発生した。ノニオン系界面活性剤(B)がない比較例4のPVAフィルムは、剥離性が良好ではなく、光学欠陥も多数発生した。アニオン系界面活性剤(C)がない比較例5のPVAフィルムは、光学欠陥が多数発生した。キレート剤(D)がない比較例6のPVAフィルムは、ダイス汚れが多数発生した。なお、表2に示す通り、PVAフィルムの製膜原液中におけるノニオン系界面活性剤(B)及びアニオン系界面活性剤(C)の配合量の値と、PVAフィルム中におけるノニオン系界面活性剤(B)及びアニオン系界面活性剤(C)の含有量の値とが一致しているが、これは、製膜原液に配合されたノニオン系界面活性剤(B)及びアニオン系界面活性剤(C)が分解して生成した脂肪酸がごく少量なので、配合量の値と含有量の値の差分を測定できなかったことによるものである。
【0080】
【表2】