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特許7490927加工スターアニス、その用途及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】加工スターアニス、その用途及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/14 20160101AFI20240521BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240521BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240521BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20240521BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20240521BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20240521BHJP
【FI】
A23L27/14
A23L27/00 Z
A23L27/00 D
A23L5/10 Z
A23L5/20
A23L27/10 C
A23L23/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023041820
(22)【出願日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0064957(US,A1)
【文献】特開2003-169644(JP,A)
【文献】特開2022-073038(JP,A)
【文献】特開2016-013077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTECHNO/CABA/CAPLUS/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理した、加工スターアニス。
【請求項2】
請求項1に記載の加工スターアニスを含む、
山椒及び/又は花椒の風味を増強するための組成物。
【請求項3】
醤油、及び、
前記醤油に対し0.01質量%以上1質量%以下の、請求項1に記載の加工スターアニス、
を含む、醤油含有調味料。
【請求項4】
請求項1に記載の加工スターアニスを含む、
容器内で加圧加熱処理して製造される食品の不快臭を低減するための組成物。
【請求項5】
スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理することを含む、加工スターアニスの製造方法。
【請求項6】
前記過熱水蒸気による処理を、ロータリーバルブ式装置を用いて行う、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工スターアニス、その用途及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スターアニスは、トウシキミ(Illicium verum)の果実を乾燥させた香辛料であり、「八角」とも呼ばれる。スターアニスは、香料として或いは料理の香りづけのために古くから用いられている香辛料である。
【0003】
一方、香辛料の殺菌方法として、過熱水蒸気による処理方法が従来から知られている。飽和温度以上に加熱した水蒸気(過熱水蒸気)で対象物を処理することにより、短時間で高い殺菌効果を得ることができる。
【0004】
例えば特許文献1には、未粉砕の香辛料又は840μm以上の粒度を有する香辛料を、0.30MPa・G未満の蒸気の圧力、4.0%より高く8.0%以下の酸素濃度、及び70℃以上120℃以下の過熱度で過熱水蒸気により処理した加工香辛料が記載されている。特許文献1には、上記条件での過熱水蒸気処理により香辛料に香ばしい香りが付与されると記載されている。
【0005】
特許文献2には、シナモンを、0.3MPa・G以上0.5MPa・G未満の蒸気圧力、3.0%以上の酸素濃度、35℃以上120℃以下の過熱度、及び120秒未満の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理した加工シナモンが記載されている。特許文献2によれば、前記加工シナモンは、シナモンに特有の渋味が抑制され、自然な甘みが高められたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-013077号公報
【文献】国際公開WO2021/230338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シキミ(Illicium anisatum)は、トウシキミと同じシキミ属に属する植物である。シキミの葉や樹皮は独特の芳香を有し、日本では抹香や線香の原料として用いられる。
【0008】
スターアニスは、柑橘類を想起させるさわやかな芳香を有する一方で、シキミに類似した芳香を有する。スターアニスが有するシキミに類似した芳香は、不快な臭いに感じられることがある。
【0009】
そこで本発明は、スターアニスの柑橘類を想起させるさわやかな好ましい芳香を保持しながら、シキミに類似した好ましくない芳香が抑制された加工スターアニス及びその製造方法、並びに前記加工スターアニスの用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは驚くべきことに、スターアニスを所定の条件で過熱水蒸気処理することにより、スターアニスの好ましい芳香を保持しながら、シキミに類似した好ましくない芳香が抑制された加工スターアニスが得られることを見出し、以下の本発明の一以上の実施形態を完成するに至った。
【0011】
[1]スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理した、加工スターアニス。
【0012】
[2][1]に記載の加工スターアニスを含む、
山椒及び/又は花椒の風味を増強するための組成物。
【0013】
[3]醤油、及び、
前記醤油に対し0.01質量%以上1質量%以下の、[1]に記載の加工スターアニス、
を含む、醤油含有調味料。
【0014】
[4][1]に記載の加工スターアニスを含む、
容器内で加圧加熱処理して製造される食品の不快臭を低減するための組成物。
【0015】
[5]スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理することを含む、加工スターアニスの製造方法。
【0016】
[6]前記過熱水蒸気による処理を、ロータリーバルブ式装置を用いて行う、[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本明細書に開示する加工スターアニスは、スターアニスの柑橘類を想起させるさわやかな好ましい芳香を保持しながら、シキミに類似した好ましくない芳香が抑制されている。
【0018】
本明細書に開示する加工スターアニスの製造方法によれば、上記の好ましい特性を有する加工スターアニスを製造することができる。
【0019】
本明細書に開示する、山椒及び/又は花椒の風味を増強するための組成物は、山椒及び/又は花椒と組み合わせることにより、山椒及び/又は花椒の風味を増強することができる。
【0020】
本明細書に開示する醤油含有調味料は、肉料理等の各種料理の調味に好適に使用できる。
【0021】
本明細書に開示する、容器内で加圧加熱処理して製造される食品の不快臭を低減するための組成物は、当該組成物を容器内に食品材料とともに充填密封し加圧加熱処理することにより、容器内で加圧加熱処理して製造される食品に特有の不快臭を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
<スターアニス>
本明細書においてスターアニスは、トウシキミの果実を乾燥させた香辛料を指し、粉砕していない形態(ホール)であってもよいし、粉砕物の形態であってもよい。
【0024】
本発明の一以上の実施形態では、ホールのスターアニスを所定条件下で過熱水蒸気により処理してホールの加工スターアニスを製造することが好ましい。ホールのスターアニスを過熱水蒸気による処理に供することで、処理中に好ましい芳香が喪失することを抑制することができる。過熱水蒸気による処理後のホールの加工スターアニスは、そのまま香辛料として使用してもよいし、粉砕して粉砕物とし、粉砕物を香辛料として使用してもよい。
【0025】
<加工スターアニスの製造方法>
本発明の一以上の実施形態は、スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理することを含む、加工スターアニスの製造方法に関する。
【0026】
本実施形態に係る方法によれば、スターアニスの好ましい芳香(柑橘類を想起させるさわやかな芳香)を保持しながら、シキミに類似した好ましくない芳香が抑制された加工スターアニスを製造することができる。
【0027】
上記条件での過熱水蒸気による処理は、殺菌処理としても有効であるため、得られた加工スターアニスは更なる殺菌処理をせずそのまま使用することができる。複数回の殺菌処理を行うことによる芳香の減少を避けるためには、本実施形態に係る方法に原料として使用するスターアニスは、予め殺菌処理がされていないスターアニスが好ましい。また上記の通り、本実施形態に係る方法に原料として使用するスターアニスはホールのスターアニスであることが好ましい。
【0028】
本実施形態において水蒸気圧力を0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下とすることで、上記の好ましい芳香特性を有する加工スターアニスが得られる。なお本明細書において「MPa・G」とはゲージ圧であることを示す。水蒸気圧力が0.2MPa・G未満であると、シキミに類似した好ましくない芳香(シキミ臭)を十分に抑制することができない。水蒸気圧力が0.5MPa・Gを上回ると、スターアニスの好ましい芳香の香り立ちが失われ易い。
【0029】
本実施形態における水蒸気圧力は、より好ましくは0.3MPa・G以上0.5MPa・G以下である。水蒸気圧力がこの範囲である場合に、スターアニスの好ましい芳香の香り立ちが特に強く感じられる加工スターアニスを得ることができる。
【0030】
本実施形態では、過熱水蒸気による処理時の酸素濃度を2.4%以上とすることで、スターアニスの好ましい芳香を保持した加工スターアニスを得ることができる。酸素濃度が2.4%未満であると、シキミに類似した好ましくない芳香だけでなく、好ましい芳香も抑制され易い。酸素濃度は好ましくは2.4%以上8.0%以下、より好ましくは4.0%以上5.7%以下である。
【0031】
本明細書に開示する過熱水蒸気処理において、酸素は、スターアニスの間隙に含まれる空気や、過熱水蒸気以外に供給される空気等の酸素含有気体に由来するものである。過熱水蒸気以外に供給される酸素含有気体は、予め過熱水蒸気と混合し、得られた混合気体をスターアニスの処理に用いてもよいし、過熱水蒸気とは別にスターアニスに供給してもよい。本明細書に開示する過熱水蒸気処理において、酸素濃度は以下のように算出するものとする。
【0032】
なお以下の酸素濃度の算出における各圧力は絶対圧力を指し、ゲージ圧に大気圧である0.1MPaを加えた値である。
【0033】
スターアニスを収容した密閉空間に過熱水蒸気を投入する形式の装置(例えば、ロータリーバルブ式装置等)で処理する場合、酸素濃度は以下の式により算出することができる。
【0034】
酸素濃度%={(スターアニスの間隙に含まれる空気の圧力)×(空気中の酸素濃度)+(供給される酸素含有気体の圧力)×(供給される酸素含有気体の酸素濃度)}/(スターアニスの間隙に含まれる空気の圧力+供給される酸素含有気体の圧力+注入される水蒸気の圧力)
【0035】
スターアニスを、過熱水蒸気を含む密閉配管又は容器に投入する形式の装置(例えば、気流式装置等)で処理する場合、酸素濃度は以下の式により算出することができる。
【0036】
酸素濃度%={(スターアニスの間隙に含まれる空気の圧力)×(空気中の酸素濃度)/(スターアニスの間隙に含まれる空気の圧力+供給される酸素含有気体の圧力+注入される水蒸気の圧力)}×{(スターアニスの間隙に含まれる空気の体積)/(スターアニスの間隙に含まれる空気の体積+密閉配管又は容器の体積)}+{(供給される酸素含有気体の圧力)×(供給される酸素含有気体の酸素濃度)/(供給される酸素含有気体の圧力+注入される水蒸気の圧力)}×{(密閉配管又は容器の体積)/(スターアニスの間隙に含まれる空気の体積+密閉配管又は容器の体積)}
【0037】
スターアニスを、開放空間に投入する形式の装置(例えば、連続式装置等)で処理する場合、酸素濃度は以下の式により算出することができる。
酸素濃度%=(供給される酸素含有気体の圧力)×(供給される酸素含有気体の酸素濃度)/(供給される酸素含有気体の圧力+注入される水蒸気の圧力)
【0038】
本明細書に開示する過熱水蒸気処理に用いる装置は、特に限定されない。過熱水蒸気処理に用いる装置の例としては、処理対象のスターアニスを収容した密閉空間に過熱水蒸気を投入する形式の装置(例えばロータリーバルブ式装置)、処理対象のスターアニスを、過熱水蒸気を含む密閉配管又は容器に投入する形式の装置(例えば気流式装置)、処理対象のスターアニスを、開放空間に投入する形式の装置(例えば連続式装置)が挙げられる。これらの装置のなかでも、処理対象のスターアニスを収容した密閉空間に過熱水蒸気を投入する形式の装置は香り成分が気流により損失しないことから好ましく、ロータリーバルブ式装置が特に好ましい。ロータリーバルブ式装置は、対象物を投入したセルに直接過熱水蒸気を注入して殺菌する装置であって、セルがロータリーバルブ等によりなる装置である。処理対象のスターアニスの体積に対して処理する空間(セルの体積)が小さいため、セル内の空気が水蒸気によって希釈されず、また処理空間外に押し出されにくいため、過熱水蒸気の圧力を設定することで酸素濃度を調節することが容易である。
【0039】
本実施形態では、過熱水蒸気による処理を185℃以上235℃以下の温度で行うことにより、上記の好ましい芳香特性を有する加工スターアニスを得ることができる。温度が185℃未満であると、シキミ臭を十分に抑制することができない。温度が235℃を上回ると、スターアニスの好ましい芳香の香り立ちが失われ易い。過熱水蒸気による処理の温度はより好ましくは190℃以上230℃以下であり、特に好ましくは195℃以上220℃以下である。
【0040】
本実施形態では、過熱水蒸気による処理時間を5秒間以上22秒間以下とすることで、上記の好ましい芳香特性を有する加工スターアニスを得ることができる。処理時間が5秒間未満であると、シキミ臭を十分に抑制することができない。処理時間が22秒間を上回ると、スターアニスの好ましい芳香の香り立ちが失われ易い。過熱水蒸気による処理時間はより好ましくは6秒間以上20秒間以下であり、特に好ましくは8秒間以上12秒間以下である。
【0041】
過熱水蒸気処理を経て得られた加工スターアニスは、そのまま食用に用いてもよいが、より好ましくは、処理後に更に粉砕処理を施すことが好ましい。粉砕処理はスタンプ式粉砕機、高速粉砕ミル、ハンマーミル等の粉砕機を用いて行うことができる。必要に応じて、粉砕後の加工スターアニス粉末を、篩を使って篩別し、篩を通過しない画分は回収して再度粉砕処理に用いることができる。
【0042】
<加工スターアニス>
本発明の別の一以上の実施形態は、スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理した、加工スターアニスに関する。
【0043】
本実施形態に係る加工スターアニスは、スターアニスの好ましい芳香(柑橘類を想起させるさわやかな芳香)を保持しながら、シキミに類似した好ましくない芳香が抑制された、好ましい芳香特性を有する。
【0044】
本実施形態に係る加工スターアニスを得るための過熱水蒸気による処理を含む製造方法の好ましい態様は上記の通りである。
【0045】
<山椒及び/又は花椒の風味を増強するための組成物>
本発明の更に別の好ましい実施形態は、
前記加工スターアニスを含む、山椒及び/又は花椒の風味を増強するための組成物、
に関する。
【0046】
本実施形態に係る組成物を、山椒及び/又は花椒とともに喫食すると、山椒及び/又は花椒の風味が増強されて感じられる。本実施形態に係る組成物を用いることで、高価な食材である山椒及び花椒の使用量を低減することが可能である。
【0047】
本実施形態に係る組成物は、100質量部の山椒及び/又は花椒に対し、前記加工スターアニスが例えば0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以上2質量部以下となるように配合することで、山椒及び/又は花椒の風味を増強することができる。
【0048】
本実施形態に係る組成物では、前記加工スターアニスは粉末として含まれることが好ましい。本実施形態に係る組成物は、前記加工スターアニスのみからなるものであってもよいし、食品として許容される他の成分を更に含んでもよい。食品として許容される他の成分としては賦形剤、添加剤、酸化防止剤等が使用できる。
【0049】
<醤油含有調味料>
本発明の更に別の好ましい実施形態は、
醤油、及び、
前記醤油に対し0.01質量%以上1質量%以下の前記加工スターアニス、
を含む、醤油含有調味料、
に関する。
【0050】
本実施形態に係る醤油含有調味料は、豚肉等の畜肉の油臭さを抑制する作用を有するため、肉料理等の各種料理の調味に好適に使用できる。
【0051】
畜肉の油臭さを抑制する作用を有する成分として柑橘類やローズマリーが知られている。しかし柑橘類やローズマリーは強い香りを有するため、醤油含有調味料に配合した場合の用途が制限される。これに対し、前記加工スターアニスを、醤油に対し0.01質量%以上1質量%以下という少量配合した醤油含有調味料は、畜肉の油臭さを抑制できるとともに、スターアニスに特有の芳香を有していないため、幅広い用途に使用することができる。
【0052】
本実施形態に係る醤油含有調味料に配合される前記加工スターアニスは粉末の形態であることが好ましい。本実施形態に係る醤油含有調味料は、醤油及び前記加工スターアニス以外に、調味料として許容される他の成分を更に含むことができる。調味料として許容される他の成分としては水、食塩、みりん、酒、酸化防止剤等が使用できる。
【0053】
<容器内で加圧加熱処理して製造される食品の不快臭を低減するための組成物>
本発明の更に別の好ましい実施形態は、
前記加工スターアニスを含む、
容器内で加圧加熱処理して製造される食品の不快臭を低減するための組成物、
に関する。
【0054】
ここで「容器内で加圧加熱処理して製造される食品」としてはレトルト食品が例示できる。前記容器としてはレトルトパウチなどの柔軟性を有する密封可能な耐熱性の容器が使用できる。加圧加熱処理としては、食品材料を充填密封した容器を、加圧下で120℃以上140℃以下の温度で20分間以上90分間以下の時間加熱する処理が例示できる。容器内で加圧加熱処理して製造される食品としては、カレーソース、シチューソース、デミグラスソースなどの液状又はペースト状の食品が例示できる。
【0055】
レトルト食品等の、容器内で加圧加熱処理して製造される食品は、喫食時に、「ムレ臭」と呼ばれる不快臭が感じられることがある。本実施形態に係る組成物を、容器内に食品材料とともに充填密封し加圧加熱処理することにより前記不快臭を低減することができる。また、本実施形態に係る組成物の使用量を少量、例えば容器に充填密封される内容物の全量に対し前記加工スターアニスが0.005質量%以上0.05質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.03質量%以下となるように配合し、加圧加熱処理することにより、スターアニスに特有の芳香を付与することなく前記不快臭を抑制することができる。
【0056】
本実施形態に係る組成物では、前記加工スターアニスは粉末として含まれることが好ましい。本実施形態に係る組成物は、前記加工スターアニスのみからなるものであってもよいし、食品として許容される他の成分を更に含んでもよい。食品として許容される他の成分としては賦形剤、添加剤、酸化防止剤等が使用できる。
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定
されるものではない。
【実施例
【0058】
以下の実験において温度を明示していない操作は全て室温(約20℃)で行った。
【0059】
実験1:加工スターアニスの調製
トウシキミ(Illicium verum)の乾燥果実(スターアニス)をホールの状態で過熱水蒸気により加熱処理した。過熱水蒸気殺菌装置として、ロータリーバルブ式過熱水蒸気殺菌装置(株式会社大川原製作所製 粒専用殺菌装置SIRV)を用いた。前記装置を用いた過熱水蒸気による加熱処理の条件を下記表に示す。
【0060】
加熱処理を経たスターアニスを「加工スターアニス」と称する。
【0061】
加熱処理後の加工スターアニスを送風により乾燥した。
【0062】
乾燥後の加工スターアニスを粉砕し、500μmメッシュパスサイズの粉末(加工スターアニス末)を回収した。
【0063】
加工スターアニス末をアルミ構成パウチに密封包装し、25℃で1日静置した後、スターアニスの「シキミ臭」及び「香り立ち」をパネル3名で官能評価した。それぞれの評価基準は以下の通り。
【0064】
シキミ臭
〇:生のシキミ及び線香を想起させる臭気がしない
△:生のシキミ及び線香を想起させる臭気があるが許容できる
×:生のシキミ及び線香を想起させる臭気が強く、許容できない
【0065】
香り立ち
〇:柑橘類を想起させるさわやかな香りの立ち上がりをはっきりと感じられる
△:柑橘類を想起させるさわやかな香りの立ち上がりを感じられるが、弱い
×:柑橘類を想起させるさわやかな香りの立ち上がりが感じられない
【0066】
加熱条件及び評価結果を下記の表に示す。各項目について、3名の評価結果のうち、〇>△>×の序列で最も低い評価結果を、各実施例比較例の評価結果とした。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
実験2-1:加工スターアニス末による花椒の風味増強
花椒末99質量部と、実施例1~7及び比較例1~6の加工スターアニス末1質量部とを混合した。比較用に花椒末のみのものを用意した。
【0070】
前記混合物を市販のウナギかば焼きに適量加え、パネル3名で官能評価した。評価項目及び評価基準は以下の通り。
【0071】
シキミ臭
〇:生のシキミ及び線香を想起させる臭気がしない
△:生のシキミ及び線香を想起させる臭気があるが許容できる
×:生のシキミ及び線香を想起させる臭気が強く、許容できない
【0072】
香り立ち
〇:はっきりした花椒の香りの立ち上がりを感じられる
△:添加しないものと比較すると花椒の香りの立ち上がりが感じられ効果があるが、弱い
×:添加しないものと花椒の香りの立ち上がりに差がなく効果がない
【0073】
実験2-2:加工スターアニス末による山椒の風味増強
実施例1~7及び比較例1~6の加工スターアニス末0.3g、クミン末8.1g、山椒末25g、唐辛子末15g、陳皮末20g、ターメリック末10g、グルタミン酸ナトリウム30g、コショウ末9gを混合し、スパイスミックスを得た。比較用に実施例1~7及び比較例1~6の加工スターアニス末を添加しないスパイスミックスを用意した。
【0074】
前記スパイスミックス2gを、市販のカレーうどんに添加し、パネル3名で官能評価した。評価項目及び評価基準は以下の通り。
【0075】
シキミ臭
〇:生のシキミ及び線香を想起させる臭気がしない
△:生のシキミ及び線香を想起させる臭気があるが許容できる
×:生のシキミ及び線香を想起させる臭気が強く、許容できない
【0076】
香り立ち
〇:はっきりした山椒の香りの立ち上がりを感じられる
△:添加しないものと比較すると山椒の香りの立ち上がりが感じられ効果があるが、弱い
×:添加しないものと山椒の香りの立ち上がりに差がなく効果がない
【0077】
実験3:加工スターアニス末を添加した醤油含有調味料
醤油100g、日本酒100g、みりん100g、実施例1~7及び比較例1~6のスターアニス末0.03gを混合し、煮立てて、醤油含有調味料を得た。比較用に実施例1~7及び比較例1~6のスターアニス末を添加しない醤油含有調味料を用意した。
【0078】
豚肩ロース肉300gを3cm角に切り、任意量の熱水中で2時間加熱した。
【0079】
前記醤油含有調味料に、前記加熱後の豚肩ロース肉を加え、加熱して煮立たせたのち放冷して一晩静置した。
【0080】
翌日調味液ごと温め、3名のパネルが喫食し、官能評価した。評価項目及び評価基準は以下の通り。
【0081】
シキミ臭
〇:生のシキミ及び線香を想起させる臭気が感じられない
△:生のシキミ及び線香を想起させる臭気がやや感じられるが許容できる
×:生のシキミ及び線香を想起させる臭気が強く感じられ、許容できない
【0082】
畜肉の油臭さ
〇:感じられない
△:添加しないものと比較すると効果があるが、差が小さい
×:添加しないものと差がなく効果がない
【0083】
実験4:加工スターアニス末によるレトルト食品の不快臭の低減
ラード33.5gと小麦粉37gを120℃になるまで炒めた。そこにターメリック末2g、コリアンダー末2g、フェヌグリーク末1g、唐辛子末1g、クミン末2gを加え、3分間炒めた。次に、グラニュー糖6.5g、食塩7.5g、その他粉末調味料7.5g(グルタミン酸ナトリウム6.5g、核酸調味料0.7g、カラメル色素0.3g)と、実施例1~7及び比較例1~6のスターアニス末0.1gを加え、95℃達温で加熱混合した後、冷却固化しカレールウとした。比較用に実施例1~7及び比較例1~6のスターアニス末を添加しないカレールウを用意した。
【0084】
前記カレールウ全量に水600gを加え撹拌しながら加熱し98℃まで達温させて、カレーソースを調製した。
【0085】
前記カレーソース200gをレトルトパウチに充填密封し、加圧下で120℃60分間殺菌処理を行い、レトルトカレーソースを得た。
【0086】
前記レトルトカレーソースを、殺菌処理の1日後に、100℃で5分湯煎して温め、3名のパネルが喫食し、官能評価した。評価項目及び評価基準は以下の通り。
【0087】
シキミ臭
〇:生のシキミ及び線香を想起させる臭気がしない
△:生のシキミ及び線香を想起させる臭気があるが許容できる
×:生のシキミ及び線香を想起させる臭気が強く、許容できない
【0088】
ムレ臭
〇:感じられない
△:添加しないものと比較すると効果があるが、差が小さい
×:添加しないものと差がなく効果がない
【0089】
実験2-1、2-2、3及び4の評価結果
実験2-1、2-2、3及び4の評価結果を下記表に示す。各項目について、3名の評価結果のうち、〇>△>×の序列で最も低い評価結果を、各実施例比較例の評価結果とした。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】

【要約】
【課題】本発明は、スターアニスの柑橘類を想起させるさわやかな好ましい芳香を保持しながら、シキミに類似した好ましくない芳香が抑制された加工スターアニ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の加工スターアニスは、スターアニスを、0.2MPa・G以上0.5MPa・G以下の水蒸気圧力、2.4%以上の酸素濃度、185℃以上235℃以下の温度、及び、5秒間以上22秒間以下の処理時間の条件下、過熱水蒸気により処理したものである。本発明はまた、スターアニスを前記条件下で過熱水蒸気処理することを含む、加工スターアニスの製造方法に関する。
【選択図】なし