IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許7490941インクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】インクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/10 20060101AFI20240521BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20240521BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240521BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D11/326
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019185958
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021059691
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義浩
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013173(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102532986(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102009027606(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0289473(US,A1)
【文献】特開2011-153211(JP,A)
【文献】特表2002-504616(JP,A)
【文献】特開2020-075979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00,
17/00
C09C 3/10
B41J 2/01
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.ピグメントオレンジ34(A)と、顔料分散樹脂(B)と、水(C)と、水溶性有機溶剤とを含有することを特徴とするインクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体であって、前記顔料分散樹脂(B)が、スチレン由来の構造単位を有する酸価90~180mgKOH/gのラジカル重合体であって、前記ラジカル重合体の全量に対する前記スチレン由来の構造単位の質量割合が60質量%~95質量%であり、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と前記顔料分散樹脂(B)との質量比[前記顔料分散樹脂(B)/前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)]が0.1~0.4の範囲であり、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と前記水溶性有機溶剤との質量比[前記水溶性有機溶剤/前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)]が0.4~1.5であるインクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体。
【請求項2】
前記C.I.ピグメントオレンジ34が、一次粒子径100nm以下のものである請求項1に記載のインクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体。
【請求項3】
活性エネルギー線非硬化性である請求項1または2に記載のインクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C.I.ピグメントオレンジ34を含有するインクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を含有するインクは、例えばオフセット印刷法やグラビア印刷法やフレキソ印刷法やシルクスクリーン印刷法やインクジェット印刷法等による印刷場面で広く使用されている。
【0003】
なかでも、溶媒として水を用いた水性顔料インクは、従来の有機溶剤系インクと比較して、発火等の危険性が低いため、様々な用途での使用が検討されている。
【0004】
前記水性顔料インクの製造に使用される水性顔料分散体としては、顔料と顔料分散樹脂と水性媒体とを含有するものが知られており、前記水性顔料分散体には、前記顔料が顔料分散樹脂によって水性媒体中に安定して分散されていることが求められる。
【0005】
しかし、インクジェット印刷水性インクには、他の印刷法で使用するインクと異なって、インク吐出ノズルの詰まり等を引き起こすことなく、長期間にわたり吐出可能なレベルの保存安定性が求められるところ、従来の水性顔料分散体(とりわけ他の印刷法で使用されるインクの製造に使用される水性顔料分散体)では、分散安定性に優れたインクジェット印刷水性インクの製造に使用できない場合があった。
【0006】
また、インクジェット印刷水性インクの製造に使用可能な水性顔料分散体中における顔料の分散性は、顔料の種類や配合等によって異なる。そのため、水性顔料分散体の分散性を向上させるためには、顔料の種類や配合等に応じた対策を講じる必要がある。
【0007】
一方、インクジェット印刷水性インクで印刷を行う場面では、基本色であるイエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色のインクのほか、特色と呼ばれるグリーン色、レッド色、ブルー色、オレンジ色等のインクを組み合わせ使用することがある。
【0008】
前記オレンジ色の顔料を用いた水性インクとしては、例えばC.I.ピグメントオレンジ43やC.I.ピグメントオレンジ71を含有するインクが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0009】
しかし、前記インクは、分散物の粒子径が大きくかつ粗大粒子が大量に存在するため、どうしても基本色のインクや顔料分散体に匹敵するレベルの分散性を実現することが困難な場合や、インクジェット印刷法で吐出できない場合や、経時での物性変化を抑制可能なレベルの保存安定性を実現することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開1999/05230パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、分散物の粒子径および粗大粒子数が少なく、水中における顔料の分散性と、保存安定性とに優れ、かつ、インクジェット印刷法で吐出が可能なインクジェット印刷水性インクの製造に使用可能な水性顔料分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、C.I.ピグメントオレンジ34(A)と、顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とするインクジェット印刷水性インク用水性顔料分散体に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性顔料分散体であれば、基本色のインクや水性顔料分散体に匹敵するレベルの分散性を備え、インクジェット印刷法で吐出が可能で、かつ、保存安定性に優れたインクジェット印刷水性インクの製造に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水性顔料分散体は、C.I.ピグメントオレンジ34(A)と、顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とするものであって、もっぱらインクジェット印刷用水性インクの製造に使用する。
前記水性顔料分散体とは、顔料が水等の溶媒に分散した状態のものを指す。前記水性顔料分散体は、水性顔料インクを製造する際に使用する材料、または、水性顔料インクそのものを指す。
【0015】
本発明では、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ34(A)を使用する。
【0016】
前記C.I.ピグメントオレンジ34としては、好ましくは一次粒子径が150nm以下のものを使用することができ、より好ましくは100nm以下のものを使用することができ、特に好ましくは50nm以下のものを使用することができる。これにより、基本色のインクや水性顔料分散体に匹敵するレベルの分散性や、経時での物性変化を抑制可能なレベルの保存安定性を実現することができる。なお、上記一次粒子径の値は、以下の装置及び条件で測定した。
【0017】
はじめに、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)1質量部とエタノール99質量部とを混合したものを、コロジオン膜付きメッシュに滴下し乾燥させたものを測定試料とした。
【0018】
次に、前記測定試料の任意の1000個を、走査透過型電子顕微鏡(STEM、JSM-7500FA、日本電子株式会社製、加速電圧:30kv)を用いて観察し、長径の平均値を一次粒子径とした。
【0019】
本発明で使用する顔料分散樹脂(B)としては、例えばラジカル重合体を使用することができる。
【0020】
前記ラジカル重合体としては、例えば酸価50~250mgKOH/gのラジカル重合体を使用することが好ましく、80~200mgKOH/gのラジカル重合体を使用することがより好ましく、90~180gKOH/gのラジカル重合体を使用することが、水(C)中における前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)の分散性をより一層向上させるうえで特に好ましい。
【0021】
なお、前記酸価は、日本工業規格「K0070:1992、化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に記載された中和滴定法で測定された値を指す。
【0022】
前記ラジカル重合体としては、芳香族環式構造または複素環式構造を有するものを使用することができ、ベンゼン環構造を有するものを使用することがより好ましく、スチレン由来の構造を有するものを使用することがさらに好ましい。
【0023】
前記ラジカル重合体の全量100質量部に対する前記スチレン由来の構造単位の質量割合は50質量部以上であることが好ましく。前記質量割合が60質量部~95質量部の範囲であることが、分散性効果を奏するうえでより好ましい。
【0024】
前記ラジカル重合体としては、各種単量体をラジカル重合することによって得られた重合体を使用することができる。
【0025】
前記単量体としては、前記ラジカル重合体に芳香族環式構造を導入する場合であれば芳香族環式構造を有する単量体を使用することができ、複素環式構造を導入する場合であれば複素環式構造を有する単量体を使用することができる。
【0026】
前記芳香族環式構造を有する単量体としては、例えばスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等を使用することができる。
【0027】
前記複素環式構造を有する単量体としては、例えば2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体を使用することができる。
【0028】
前記ラジカル重合体として芳香族環式構造及び複素環式構造の両方を有するものを使用する場合、前記単量体として、芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を組合せ使用することができる。
【0029】
前記ラジカル重合体としては、前記したとおりスチレン由来の構造単位を有するラジカル重合体を使用することが好ましいことから、前記単量体としてもスチレン、α-メチルスチレン、tert-ブチルスチレンを使用することがより好ましい。
【0030】
また、前記ラジカル重合体の製造に使用可能な単量体としては、前記したもの以外に、必要に応じてその他の単量体を使用することができる。
【0031】
前記その他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等を単独または2種以上組合せ使用することができる。なお、上記「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを指す。
【0032】
前記ラジカル重合体としては、前記単量体のラジカル重合によって形成される構造が線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体を使用することができる。それぞれの重合体において、モノマー配列は特に限定することはなく、ランダム型やブロック型配列の重合体を使用することができる。
【0033】
前記ラジカル重合体としては、その重量平均分子量が2000~20000の範囲内であるものを使用することが好ましく、5000~20000の範囲内にあることがより好ましく、さらに7000~15000範囲内にあると、顔料(A)の凝集や沈降が発生しにくくなり、水性顔料分散体の保存安定性が向上し、かつ、インクの吐出安定性がより一層が向上するため特に好ましい。
【0034】
なお、前記重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0035】
前記ラジカル重合体としては、前記ラジカル重合体が有する酸基の一部または全部は塩基性化合物によって中和されたもの(中和物)を使用することが、優れた保存安定性を奏するうえで好ましい。
【0036】
前記塩基性化合物としては、例えばカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属などの炭酸塩;水酸化アンモニウム等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N-ジメタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-N-ブチルジエタノールアミンなどのアミノアルコール類、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンなどのモルホリン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレートなどのピペラジン等の有機系塩基性化合物を使用することができる。なかでも、前記塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物を使用することが、水性顔料分散体の低粘度化に寄与し、インクジェット記録用インクの保存安定性及び吐出安定性をより一層向上させるうえで好ましく、水酸化カリウムを使用することが特に好ましい。
【0037】
前記ラジカル重合体の中和率は、特に限定はないが、ラジカル重合体の凝集を抑制するうえで80~120%となる範囲であることが好ましい。本発明において、中和率とは、以下の式で計算された値を指す。
【0038】
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{ラジカル重合体の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×ラジカル重合体の質量(g)}]×100
【0039】
前記塩基性化合物は、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)等と混合する際に、予め水等の溶媒に溶解または分散等させたものを使用することができる。
【0040】
本発明の水性顔料分散体は、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と前記顔料分散樹脂(B)との質量比[前記顔料分散樹脂(B)/前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)]が0.1~0.7となる範囲で適宜選択できるが、より優れた分散性および保存安定性を備えるには、0.1~0.4の範囲で使用することが好ましい。
【0041】
水(C)としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることができる。また、前記水(C)としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0042】
本発明の水性顔料分散体は、上記した各種成分が水に溶解または分散したものである。
また、本発明の水性顔料分散体は、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と顔料分散樹脂(B)と水(C)の他に、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)に湿潤性を付与するために水溶性有機溶剤を含有するものを使用することが好ましい。
【0043】
前記水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコール等のアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類;グリセリンや、ポリオキシアルキレンを付加したグリセリン等のグリセリン誘導体等;水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤等を、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0044】
前記水溶性有機溶剤としては、前記したなかでも、高沸点、低揮発性で、高表面張力のグリコール類やジオール類等の多価アルコール類を使用することが、湿潤剤や乾燥抑止剤としての役割も果たすため使用することが好ましく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類を使用することがより好ましい。
【0045】
本発明の水性顔料分散体は、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と前記水溶性有機溶剤との質量比[前記水溶性有機溶剤/前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)]が0.3~2.0となる範囲で適宜選択できるが、より優れた分散性および保存安定性を備えるには、0.4~1.5の範囲で使用することが好ましい。
【0046】
本発明の水性顔料分散体の製造方法は、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と、顔料分散樹脂(B)とを含有する混練物を製造する工程、及び、前記工程で得た前記混練物と水(C)とを混合する工程を有することを特徴とする。
【0047】
はじめに、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)と、顔料分散樹脂(B)と、必要に応じて前記塩基性化合物や水溶性有機溶剤を、容器へ供給し混練する。前記混練物を得る工程は、特に限定されず公知の分散方法で行うことができる。例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、ボールミル等のメディアを使用するメディアミル分散法;超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等を使用したメディアレス分散法;ロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、インテンシブミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の混練分散法等が挙げられる。このうち混練分散法は、前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)を含有する高固形分濃度の混合物に混練機で強い剪断力を与えることによって前記C.I.ピグメントオレンジ34(A)を微細化させる方法であり、顔料濃度の高い混練物を得ることができ、かつ、粗大粒子の低減に有効な方法であり好ましい。前記混練分散法においては、水は、混合物の全固形分に対し50質量%以下で含むかあるいは水を含まないことが好ましい。
【0048】
前記混練分散法は、混合物の仕込み順序には特に限定はなく全量を同時に仕込んで混練を開始してもよいし、各々を少量ずつ仕込んでもよいし、原料によって仕込み順を変えてもよい。各々の原料の仕込み量は前述の範囲で行うことができる。塩基性化合物を配合する際、予め水に溶解された塩基性化合物水溶液を使用する場合には、前記混合物中の水の量は、前記塩基性化合物水溶液に含まれる水の量を考慮して決定することが好ましい。
【0049】
前記混練分散法のメリットである強い剪断力を混合物に与えるためには、該混合物の固形分比率が高い状態で混練するほうが好ましく、より高い剪断力を該混合物に加えることができる。固形分比率としては、20~100質量%の範囲であることが好ましく、30~90質量%の範囲であることがより好ましく、40~80質量%の範囲であることが、混練中の混合物の粘度を適度に高く保つことができるため混練機によって混合物にかかる負荷を大きくでき、その結果、混合物中の顔料の十分な解砕と、顔料のラジカル重合体による被覆とをより効率的に行うことができるため特に好ましい。
【0050】
混練時の温度は混練物に十分な剪断力が加わるように、使用するラジカル重合体のガラス転移点等の温度特性を考慮して適宜調整を行うことができる。例えばラジカル重合体がスチレン-アクリル酸系共重合体の場合、ガラス転移点より低く、かつ該ガラス転移点との温度差が50℃より小さい範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で混練を行うことにより、混練温度の上昇によるラジカル重合体の溶融に伴う混練物の粘度低下によって剪断力が不足することがない。
【0051】
混練工程に用いる混練装置としては、固形分比率の高い混合物に対して高い剪断力を発生させることのできるものであればよく、前述したような公知の混練装置の中から選択して用いることが可能であるが、二本ロール等の撹拌槽を有しない開放型の混練機を用いるよりは、撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を用いることが好ましい。
【0052】
このような装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどが例示され、特にプラネタリーミキサーなどが好適である。
【0053】
本発明においては、好ましくは顔料濃度と顔料とラジカル重合体からなる固形分濃度が高い状態で混練を行うため、混合物の混練状態に依存して混練物の粘度が広い範囲で変化するが、プラネタリーミキサーは二本ロール等と比較すると、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり、更に水性媒体の添加及び減圧溜去も可能であるため、混練時の粘度及び負荷剪断力の調整が容易である。
【0054】
前記混合物を混練した混練物を水(C)に分散させる工程においては、例えば撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を使用していれば、混練後続いて水(C)を添加することが可能である。この工程においては、必要に応じて前記水溶性有機溶剤を併用していてもよい。
【0055】
このようにして得た水性顔料分散体は、用途にもよるが、通常、顔料濃度が10~50質量%となるように調整してあると、インク化の希釈が容易であり好ましい。これを使用してインク化する際は、所望するインク用途や物性に応じて、適宜水溶性溶媒及び/または水、あるいは添加剤を添加して、顔料濃度を0.1~20質量%となるように希釈するのみで、インクを得ることができる。
【0056】
また前記方法で、顔料濃度が前記範囲内であっても粘度が上記範囲よりも高く取扱いに不便を感じる場合には、水(C)もしくは必要に応じて前記水溶性有機溶剤を用いて希釈し、所望の粘度範囲の水性顔料分散体とすることも可能である。
【0057】
具体的には、例えば前述のように撹拌槽を有する混練機で顔料混練物を製造した後、該撹拌槽に水(C)を添加、混合し、必要に応じて撹拌して直接希釈することにより水性顔料分散体を製造できる。また、撹拌翼を備えた別の攪拌機で固体の顔料分散体と水性媒体を混合し、必要に応じて撹拌して水性顔料分散体を調製できる。
【0058】
水(C)の混合に関しては、顔料混練物に対して必要量を一括混合してもよいが、連続的あるいは断続的に必要量を添加して混合を進めた方が、水(C)による希釈が効率的に行われ、より短時間で水性顔料分散体を作製することができる。
【0059】
また、得られた水性顔料分散体を、更に分散機により分散処理しても良い。分散機としては、ペイントシェーカー、ビーズミル、ロールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル、ジュースミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機があげられる。
【0060】
以上の方法で得られた水性顔料分散体に含まれる粒子の体積平均粒子径は、50nmから300nmであることが好ましく、50nmから150nmであることが優れた分散性および保存安定性を備えるうえで最も好ましい。
【0061】
本発明の水性顔料分散体は、もっぱらインクジェット印刷用の水性インクの製造に使用する。前記インクジェット印刷水性インクは、活性エネルギー線によって硬化するインクではなく、活性エネルギー線に対して非硬化性のものであることが好ましい。
【0062】
前記インクジェット印刷水性インクは、前記水性顔料分散体のほかに、必要に応じて、
さらに水溶性溶媒、水、バインダーとしてアクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等の樹脂、乾燥抑止剤、浸透剤、界面活性剤をはじめとする添加剤を混合することで製造することができる。前記混合して得られた混合物は、必要に応じて、遠心分離法や濾過処理法で処理することができる。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0064】
(ラジカル重合体A)
ラジカル重合体Aとしては、スチレン72質量部とアクリル酸12.13質量部とメタクリル酸15.77質量部とn-ブチルアクリレート0.1質量部とを溶液重合して得られた粉体状(直径1mm以下)の重量平均分子量8000、酸価180mgKOH/g、ガラス転移温度は113℃のラジカル重合体を使用した。
【0065】
(ラジカル重合体B)
ラジカル重合体Bとしては、スチレン83質量部とアクリル酸7.35質量部とメタクリル酸9.55質量部とn-ブチルアクリレート0.1質量部とを溶液重合して得られた粉体状(直径1mm以下)の重量平均分子量11000、酸価120mgKOH/g、ガラス転移温度は120℃のラジカル重合体を使用した。
【0066】
(ラジカル重合体C)
ラジカル重合体Cとしては、スチレン87.7質量部とアクリル酸12.3質量部とを溶液重合して得られた粉体状(直径1mm以下)の重量平均分子量8000、酸価90mgKOH/g、ガラス転移温度は113℃のラジカル重合体を使用した。
【0067】
なお、本発明における重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。なお、測定は以下の装置及び条件により実施した。
【0068】
送液ポンプ:LC-9A
システムコントローラー:SLC-6B
オートインジェクター:S1L-6B
検出器:RID-6A
以上、株式会社島津製作所製
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)。
カラム:GL-R400(ガードカラム)+GL-R440+GL-R450+GL-R400M(日立化成工業(株)製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
溶出流量:2ml/min
カラム温度:35℃
【0069】
(実施例1 水性顔料分散体の製造方法)
ラジカル重合体Aを4.5質量部、C.I.ピグメントオレンジ34としてPERMANENT ORANGE RL-01(クラリアントケミカルズ製)15質量部を、プラネタリーミキサー(商品名:ケミカルミキサーACM04LVTJ-B 株式会社愛工舎製作所製)に仕込み、ジャケットを加温し、内容物温度が80℃に達した後、自転回転数:80回転/分、公転回転数:25回転/分で混練を行った。5分後、溶剤としてトリエチレングリコールを12質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を2.38質量部加えた。
【0070】
プラネタリーミキサーの電流値が最大電流値を示してから60分を経過した時点まで混練を継続し混練物を得た。尚、顔料に対する前記ラジカル重合体Aの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0071】
得られた混練物にイオン交換水15質量部を加えて混合、希釈しイオン交換水に分散させた。さらにイオン交換水を加えて混合、希釈しピグメントオレンジ34の濃度が15質量%の水性顔料分散体を得た。
【0072】
(実施例2)
ラジカル重合体A4.5質量部の代わりにラジカル重合体Bを4.5質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.38質量部から1.59質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料の質量に対する前記ラジカル重合体Bの質量の比率(R/P)は0.30であり、顔料の質量に対する溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0073】
(実施例3)
ラジカル重合体A4.5質量部の代わりにラジカル重合体Cを4.5質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.38質量部から1.19質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料の質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.30であり、顔料の質量に対する溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0074】
(実施例4)
C.I.ピグメントオレンジ34として、PERMANENT ORANGE RL-01(クラリアントケミカルズ製)の代わりにPERMANENT ORANGE RL-70(クラリアントケミカルズ製)15質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料に対する前記ラジカル重合体Aの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0075】
(比較例1)
C.I.ピグメントオレンジ34の代わりに、C.I.ピグメントオレンジ43としてPV Fast Orange GRL(クラリアントケミカルズ製)15質量部を使用したこと以外は、実施例2と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料に対する前記ラジカル重合体Bの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0076】
(比較例2)
C.I.ピグメントオレンジ34の代わりに、C.I.ピグメントオレンジ64としてCromophtal Orange K 2960(BASF製)15質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料に対する前記ラジカル重合体Aの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0077】
(比較例3)
C.I.ピグメントオレンジ34の代わりに、C.I.ピグメントオレンジ64としてCromophtal Orange K 2960(BASF製)15質量部を使用したこと以外は、実施例2と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料に対する前記ラジカル重合体Bの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0078】
(比較例4)
C.I.ピグメントオレンジ34の代わりに、C.I.ピグメントオレンジ71としてIrgazin Orange D2905(BASF製)15質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料に対する前記ラジカル重合体Aの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0079】
(比較例5)
C.I.ピグメントオレンジ34の代わりに、C.I.ピグメントオレンジ71としてIrgazin Orange D2905(BASF製)15質量部を使用したこと以外は、実施例2と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料に対する前記ラジカル重合体Bの比率(R/P)は0.30であり、顔料に対する溶剤の比率(S/P)は0.80であった。
【0080】
(水性顔料分散体の分散性の評価)
水性顔料分散体の製造直後の分散性は、分散物の体積平均粒子径及び粗大粒子数の数に基づいて評価した。
〔体積平均粒子径の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した直後の水性顔料分散体を、イオン交換水で2000倍に希釈した。
【0081】
次に、希釈後の水性顔料分散体の約4mlをセルにいれ、マイクロトラック・ベル(株)社製ナノトラック粒度分布計「UPA150」を用い、25℃環境下で、レーザー光の散乱光を検出することにより、体積平均粒子径(MV)を測定した。
【0082】
前記体積平均粒子径を3回測定し、それらの平均値の上位2桁を有効数字として算出した値を、体積平均粒子径の値(単位:nm)とした。体積平均粒子径が190nm以下であれば良好と判断した。
【0083】
〔粗大粒子数の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した直後の水性顔料分散体を、イオン交換水で50倍に希釈した。
【0084】
次に、Particle Sizing Systems社製、個数カウント方式 粒度分布計(Accusizer 780 APS)を用い、前記希釈後の水性顔料分散体に含まれる直径0.5μm以上の粒子数を3回測定した。
【0085】
次に、前記測定値に、それぞれ希釈濃度を乗じることによって、粗大粒子数を算出した。次に、上記方法で算出した3つの粗大粒子数の平均値を、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体の粗大粒子数とした。
【0086】
(水性顔料分散体の保存安定性の試験方法)
はじめに、実施例及び比較例で製造した直後の水性顔料分散体の粗大粒子数を、前記〔粗大粒子数の測定方法〕に記載した方法と同様の方法で測定した。
【0087】
次に、実施例及び比較例で得た水性顔料分散体をポリプロピレン容器に密封し、60℃で4週間保存した後の粗大粒子数を〔粗大粒子数の測定方法〕と同様の方法で測定した。
【0088】
次に、前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数と、前記保存後の水性顔料分散体の粗大粒子数と、変化率(%)=[(前記保存後の水性顔料分散体の粗大粒子数-前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数)/前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数]×100の式に基づき、粗大粒子数の変化率を算出した。
○: 前記変化率が10%未満
△: 前記変化率が10%以上50%未満
×: 前記変化率が50%以上
【0089】
(インクジェット吐出性の試験方法)
実施例及び比較例で製造した得られた水性顔料分散体をイオン交換水で顔料濃度12質量%となるように希釈することによって希釈液を得た。
【0090】
次に、前記希釈液を用い、以下の成分を混合することによって、顔料濃度6質量%のインクジェット記録用水性インクを得た。
水性顔料分散体の希釈液:50質量部
2-ピロリジノン:8質量部
トリエチレングリコール:4質量部
トリエチレングリコール モノ-n-ブチルエーテル:8質量部
精製グリセリン:3質量部
サーフィノール440 (エアープロダクツ社製):0.5質量部
イオン交換水:26.5質量部
前記インクジェット記録用水性インクを、市販のインクジェットプリンターのカートリッジに充填し、インクジェット専用紙に、画像濃度設定100%設定の印刷パターンを印刷した。印刷物を下記基準で目視評価し、インクジェット吐出性を判断した。
○: 印刷画像が欠けていないもの
△: 印刷画像が欠けている面積が10%未満
×: 印刷画像が欠けている面積が10%以上
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】