(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】積層圧電シート
(51)【国際特許分類】
H10N 30/857 20230101AFI20240521BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240521BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240521BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240521BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/073 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/02 20230101ALI20240521BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20240521BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240521BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H10N30/857
B32B5/18
B32B15/08 D
B32B15/085 Z
H10N30/30
H10N30/88
H10N30/073
H10N30/02
H04R17/02
C08J5/18 CES
C08J9/00 A
C08J9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020056802
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 至
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-037633(JP,A)
【文献】特開2014-225596(JP,A)
【文献】特開2017-055114(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150850(WO,A1)
【文献】特開昭54-105799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0186437(US,A1)
【文献】特開2009-177048(JP,A)
【文献】特開2007-145960(JP,A)
【文献】特開2007-039672(JP,A)
【文献】特開2017-078152(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154286(WO,A1)
【文献】特開2014-121201(JP,A)
【文献】特開2014-207391(JP,A)
【文献】特開2015-095914(JP,A)
【文献】特開平09-031266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/857
B32B 5/18
B32B 15/08
B32B 15/085
H10N 30/30
H10N 30/88
H10N 30/073
H10N 30/02
H04R 17/02
C08J 5/18
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔エレクトレットフィルム、電極及び保護フィルムを少なくとも有し、前記保護フィルムの端部が接着されて内部が密閉された構成を備え、前記内部に不活性ガスを含有
し、前記内部の酸素濃度が10000ppm以下である、積層圧電シート
であって、前記多孔エレクトレットフィルム表面の水接触角が105°以上180°以下である、積層圧電シート。
【請求項2】
前記多孔エレクトレットフィルムの圧電定数(d
33)が50pC/N以上
10000pC/N以下である請求項
1に記載の積層圧電シート。
【請求項3】
前記多孔エレクトレットフィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する、請求項1
又は2に記載の積層圧電シート。
【請求項4】
前記多孔エレクトレットフィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分として含み、かつ前記ポリプロピレン系樹脂が80%以上のβ晶生成能を有する請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層圧電シート。
【請求項5】
前記多孔エレクトレットフィルムの厚さが10μm以上200μm以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載の積層圧電シート。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の積層圧電シートを備えるセンサーデバイス。
【請求項7】
前記保護フィルムの端部を接着し、内部に不活性ガスを封入後、帯電処理を行う工程を含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の積層圧電シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層圧電シートに関し、特に振動発電、水位計、音響検出器、マットセンサー、ロボットハンドなどのセンサー等に好適に用いることができる積層圧電シートに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性樹脂フィルムを用いた多孔エレクトレットは、優れた圧電効果を示すことが知られており、振動発電、センサーデバイス等に広く用いられている。多孔エレクトレットフィルムの圧電特性は、一般に高い電圧で帯電処理を行なうことで高めることができるが、高電圧を印加するとフィルムの絶縁破壊や、コロナ放電により生じたオゾンにより絶縁性の低下が起きるため、一定以上の圧電特性向上は困難であった。
このような問題点に対し、多孔フィルム中に高圧の非反応性ガスで含浸した後、加熱により空孔を変形させることで高い圧電特性を達成できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した特許文献1に記載の多孔エレクトレットは、製造工程が煩雑であり、また、帯電処理を大気下で行うため、コロナ放電による表面の酸化が避けられない課題がある。
そこで、本発明は、多孔エレクトレットフィルムの表面酸化を防ぎ、かつ良好な圧電特性を有する積層圧電シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、かかる課題を解決することに着目し本発明を完成するに至った。本発明は、その一態様において以下の[1]~[8]を要旨とする。
[1]多孔エレクトレットフィルム、電極及び保護フィルムを少なくとも有し、前記保護フィルムの端部が接着されて内部が密閉された構成を備え、前記内部に不活性ガスを含有する、積層圧電シート。
[2]前記多孔エレクトレットフィルム表面の水接触角が105°以上である、[1]に記載の積層圧電シート。
[3]前記多孔エレクトレットフィルムの圧電定数(d33)が50pC/N以上である[1]又は[2]に記載の積層圧電シート。
[4]前記多孔エレクトレットフィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層圧電シート。
[5]前記多孔エレクトレットフィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分として含み、かつ前記ポリプロピレン系樹脂が80%以上のβ晶生成能を有する[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層圧電シート。
[6]前記多孔エレクトレットフィルムの厚さが10μm以上200μm以下である[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層圧電シート。
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載の積層圧電シートを備えるセンサーデバイス。
[8]前記保護フィルムの端部を接着し、内部に不活性ガスを封入後、帯電処理を行う工程を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の積層圧電シートの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の積層圧電シートは、多孔エレクトレットフィルムの表面酸化を防ぐことができ、かつ良好な圧電特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一例に係る積層圧電シートの俯瞰図である。
【
図2】本発明の一例に係る積層圧電シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0009】
<積層圧電シート>
本発明の積層圧電シートは、多孔エレクトレットフィルム、電極及び保護フィルムを少なくとも有し、前記保護フィルムの端部が接着されて内部が密閉された構成を備え、前記内部に不活性ガスを含有する。
積層圧電シートは上記の構成を有することで、多孔エレクトレットフィルムの表面酸化を防ぐことができ、かつ圧電特性が良好となる。また、製造工程を複雑にしたり、特殊な材料を使用したりする必要がないため、量産化が可能になる。
【0010】
以下、まず本積層圧電シートの特性について詳細に説明する。
(1)起電力
本発明の積層圧電シートの起電力は10mV以上100V以下が好ましく、20mV以上50V以下がより好ましく、30mV以上10V以下がさらに好ましい。10mV以上であることで、圧電特性が良好となり、例えばセンサーとして使用した場合に十分な感度を得ることができる。一方で100V以下であることで、センサーやアクチュエーターとして組み込んだ際の火花放電のリスクを低減することができる。
なお、本発明の積層圧電シートの起電力は以下の方法で測定される。
(起電力の測定方法)
圧電シート上に厚さ10mmの発泡ポリプロピレンシートを置き、その上から高さ30cmの落差でソフトボール(3号ボール(ナガセケンコー社製)、重さ190g)を5回落下させ、発生する起電力を、オシロスコープを用いることで測定し、その平均値を記録する。
【0011】
(2)厚さ
本発明の積層圧電シートの厚さは50μm以上700μm以下であることが好ましい。上記下限については、70μmがより好ましく、100μmがさらにより好ましい。一方で上限は、600μmがより好ましく、500μmがさらに好ましい。厚さが50μm以上であれば、応答性の積層圧電シートを得ることができる。また、厚さが700μm以下であれば、ロールtoロールで搬送及び捲回することができ、後の加工が容易である。
なお、圧電シートの厚さは実施例に記載の方法で測定できる。
【0012】
次に積層圧電シートを構成する各層の構成について説明する。
【0013】
1.多孔エレクトレットフィルム
本発明の積層圧電シートは、少なくとも1つの多孔エレクトレットフィルムを含む。多孔エレクトレットフィルムは、多孔体の樹脂フィルムを帯電させたものを好適に用いることができる。多孔エレクトレットフィルムを構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられるが、環境負荷が小さく、帯電処理を行いやすいという点でポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。
【0014】
(1)ポリオレフィン系樹脂
本発明の積層圧電シートを構成する多孔エレクトレットフィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有することが好ましく、中でもポリプロピレン系樹脂を主成分として含有することが好ましい。ここで、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する場合、多孔エレクトレットフィルムにおけるポリオレフィン系樹脂の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
【0015】
また、多孔エレクトレットフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする場合、その含有量は具体的には50質量%以上、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0016】
また、ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80%以上99%以下であることが好ましく、より好ましくは83%以上98%以下、さらに好ましくは85%以上97%以下である。アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルでさらに規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0017】
また、ポリオレフィン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5以上10.0以下であることが好ましい。より好ましくは2.0以上8.0以下、さらに好ましくは2.0以上6.0以下である。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって、ポリスチレン換算値として測定される。
【0018】
また、ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、0.5g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、1.0g/10分以上10g/10分以下であることがより好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0019】
なお、ポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0020】
本発明に好適に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「WAYMAX」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱ケミカル社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。
【0021】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることが好ましい。β晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる無孔膜状物はそのものでも帯電処理後に優れた圧電特性を示すが、延伸し多孔構造とすることで、より優れた圧電特性が得られる。β晶を利用した多孔構造形成は、延伸過程においてポリプロピレン系樹脂中のβ晶が、α晶に転移する過程で多孔化が生じるため、多孔構造は緻密であり、従来公知である無機フィラーや非相溶性有機物の添加による多孔化と比較し、粒径や分散径に依存しないことから、多孔構造の調製に有利である。
【0022】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは、β晶活性を有することが好ましい。本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムのβ晶活性は、延伸前の無孔膜状物においてポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細かつ均一な孔が多く形成されるため、機械特性に優れ、微細かつ均一な孔形成により優れた耐電圧性を得ることができる。
【0023】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、多孔エレクトレットフィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断される。具体的には、示差走査型熱量計で多孔エレクトレットフィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、さらに25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断される。
【0024】
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施した多孔エレクトレットフィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。詳細には、ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた多孔エレクトレットフィルムについてX線回折測定を行い、プロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性があると判断される。ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0025】
前述したポリプロピレン系樹脂のβ晶活性を得る方法としては、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、及びβ晶核剤を添加する方法などが挙げられるが、本発明においては、β晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有する多孔エレクトレットフィルムを得ることができる。
【0026】
前記β晶活性の程度については、β晶生成能を測定することで定量化ができる。多孔エレクトレットフィルムに含まれるポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。80%以上であることで、積層圧電シートとした際に好適な圧電特性を発揮することができる。上限については特に制限はないが、β晶生成能は100%以下であることが好ましい。なお、β晶生成能は以下の通り測定できる。
【0027】
β晶生成能は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、多孔エレクトレットフィルムを示差熱分析し、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算される。
β晶生成能(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、ポリプロピレン系樹脂がホモポリプロピレンの場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上170℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばポリプロピレン系樹脂が、エチレンが1~4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
【0028】
(2)β晶核剤
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは優れた圧電特性を得るために、β晶核剤が含まれていることが好ましい。β晶核剤が含まれていることによって、β晶活性を有することができる。本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられる。また必要に応じて、2種類以上のβ晶核剤を混合して用いてもよい。
【0029】
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期表第2族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。
【0030】
これらのβ晶核剤の中でも、得られる積層圧電シートの圧電特性の面でアミド化合物が好ましい。アミド化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’-ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’-ジフェニルヘキサンジアミド等が挙げられ、中でもN,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミドが好ましい。アミド化合物は極性が高いアミド基を有するため、結晶構造中に電荷を局在化させることができ、高い圧電特性を有すると考えられる。
一方で、アミド化合物のように極性が高い化合物は、極性が低いポリプロピレン系樹脂とは静電的な相互作用により分散性が悪く、凝集しやすいという問題がある。しかしながら、一般的なβ晶核剤は、一定の温度域ではポリプロピレン系樹脂に溶解するという特性を有している。この特性により、ポリプロピレン系樹脂にβ晶核剤が均一に分散され、β晶核剤由来の結晶が均一に析出されやすくなる。よって、極性が低いポリプロピレン系樹脂中に極性の高いアミド化合物の結晶が均一に分散され、高い圧電特性を有することができると考えられる。
【0031】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」などが挙げられる。
【0032】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルム中のβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することができるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し0.0001質量部以上5.0質量部以下が好ましく、0.001質量部以上3.0質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1.0質量部以下がさらに好ましい。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保できる。そのため、多孔フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保でき、帯電処理することで所望の圧電特性を有する多孔エレクトレットフィルムが得られる。一方、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0033】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤を含有することで、多孔エレクトレットフィルムの表面酸化劣化を防止しやすくなる。酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
本発明の実施形態においては、1種類の酸化防止剤を単独で使用することもできるし、2種以上の酸化防止剤を併用することもできる。2種以上の酸化防止剤を併用することで相乗効果が得られる場合は、2種類以上の酸化防止剤を併用することが好ましい。その中でも、リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用することが好ましい。
酸化防止剤の含有量としては、樹脂100質量部に対して、0.01~5質量部の範囲が好ましい。0.01質量部以上であれば、酸化防止剤としての効果を発揮することができ、5質量部以下であれば、コスト的に有利である。以上の観点から、酸化防止剤の含有量としては、0.03~1質量部がより好ましく、0.05~0.5質量部がさらに好ましい。
【0034】
リン系酸化防止剤としては、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物が挙げられ、具体例としては、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,6-ヘキサメチレン-ビス(N-ヒドロキシエチル-N-メチルセミカルバジド)-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-サリシロイルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t(ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-N,N’-ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド-ジホスファイトなどが挙げられるが、少なくとも1つのP-O結合が芳香族基に結合しているものがより好ましく、具体例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルホスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ミックスド-モノおよびジ-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)などが挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール化合物が挙げられる。ヒンダードフェノール化合物としては、N,N’-(1,6-ヘキサンジイル)ビス[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシベンゼンプロパンアミド]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-[3,5-ジ(t-ブチル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオナート]、2,2チオ[ジエチルビス-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、4,4’,4’’-[(2、4、6-トリメチルベンゼン-1,3,5-トリイル)トリス(メチレン)]トリス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-S-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、P-イソプロポキシジフェニルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-p-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-p,p’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジメチル-2-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニルキノンジイミン等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、2価の硫黄にプロピオン酸エステルが結合したチオエーテル系化合物が挙げられ、具体的には、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールなどを挙げることができる。
【0035】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムには、その性質を損なわない程度に添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、着色剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、滑剤、難燃剤、導電剤、エラストマーなどの各種添加剤が適宜含まれていてもよい。
【0036】
多孔エレクトレットフィルムの厚さは、好ましくは10μm以上200μm以下である。厚さを上記範囲内とすることで、積層圧電シートを必要以上に厚くすることなく、圧電特性を良好にできる。このような観点から、多孔エレクトレットフィルムの厚さは、より好ましくは15μm以上150μm以下、さらに好ましくは20μm以上120μm以下である。
【0037】
多孔エレクトレットフィルムの圧電定数(d33)は、大きいほど積層圧電シートとした際に優れたセンサー感度、発電性能を有するため好ましい。圧電定数(d33)は好ましくは50pC/N以上、より好ましくは75pC/N以上、さらに好ましくは100pC/N以上である。50pC/N以上であることで、積層圧電シートとした際に十分な感度が得られるという効果がある。一方で上限については特に制限はないが、ハンドリング性の面で10000pC/N以下が好ましい。圧電定数は実施例に記載の方法にて測定される。
【0038】
多孔エレクトレットフィルムの水接触角は、好ましくは105°以上である。水接触角が105°以上であることは、多孔エレクトレットフィルムの表面の酸化劣化の度合いが小さいことを意味する。上限としては実質的に180°である。
水接触角が105°以上であることはすなわち、帯電処理後も良好な圧電性を示すことが期待されるため好ましい。一方で105°未満であることは、酸化によって表面が劣化していることを示唆するものであり、良好な圧電性が期待できない。
多孔エレクトレットフィルムの水接触角は、帯電処理時のガス雰囲気を低酸素雰囲気にすることにより大きくすることができる。低酸素雰囲気とは、好ましくは酸素濃度10000ppm以下、より好ましくは5000ppm以下、更に好ましくは3000ppm以下である。
【0039】
2.電極
本発明の積層圧電シートは、少なくとも1つの電極を有する。電極となる層は導電性を有していればよく、アルミニウム箔、銅箔、銀箔、金箔、ニッケル箔、スズ箔などの金属箔、カーボンシートなどが好適に用いられる。
【0040】
電極の厚さは、好ましくは2μm以上150μm以下、より好ましくは3μm以上100μm以下、さらに好ましくは5μm以上50μm以下である。2μm以上であることで、電極としての導電安定性を発現できる。一方で150μm以下であることで、積層圧電シートとした際のフレキシブル性を担保することができる。
【0041】
積層圧電シートにおいて電極は、少なくとも2層設けられることが好ましい。2層の電極は、後述するように多孔エレクトレットフィルムを挟み込むように配置されるとよい。また、電極は、例えば別の電極との短絡を防止するために、多孔エレクトレットフィルムの外周側にはみ出ないように配置されることが好ましい。
【0042】
3.保護フィルム
本発明の積層圧電シートは、少なくとも1つの保護フィルムを有する。保護フィルムを設けることにより、特殊な材料を使用しなくても積層圧電シートの耐水性を良好にできる。保護フィルムは、積層圧電シートにおいて、例えば、電極及び多孔エレクトレットフィルムを覆うように設けられ、これにより、電極及び多孔エレクトレットフィルムを適切に保護する。
【0043】
積層圧電シートにおいて保護フィルムは、少なくとも2層設けられることが好ましい。保護フィルムを2層設けることで、電極及び多孔エレクトレットフィルムを保護フィルムで両側から挟み込むことができるのでより一層保護性能が向上する。
【0044】
保護フィルムの厚さは10μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上300μm以下、50μm以上200μm以下がさらに好ましい。厚さが10μm以上あることで、積層圧電シートに十分な耐水性を付与することができる。厚さが500μm以下であることで、積層圧電シートのフレキシブル性を担保できる。
なお、積層圧電シートに保護フィルムが2層以上設けられる場合、上記保護フィルムの厚さは各層の厚さである。
【0045】
保護フィルムとして使用できるフィルムは、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリスチレン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、フッ素系樹脂フィルムなどの樹脂フィルムを好適に用いることができる。熱融着性の観点で、樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましく、また、樹脂フィルムにホットメルト樹脂などを積層したフィルムを使用することもできる。これらのフィルムは市販のラミネートフィルムとして容易に入手することができる。
【0046】
4.接着層
本発明の積層圧電シートは、電極や保護フィルムの密着性を向上するために、接着層を備えていてもよい。このような構成により、積層圧電シートを製造するときなどの電極の移動を規制して、多孔エレクトレットフィルムに対する電極の位置ずれが発生することを防止する。そのため、例えば、電極が多孔エレクトレットフィルムの端部からはみ出して、他の電極に接触して短絡することなどを防止でき、それにより、起電力を高くでき、積層圧電シートに良好な圧電特性を付与できる。
【0047】
接着層は、電極と保護フィルムとの間に設けられることが好ましい。この場合、当該接着層は導電性を有してもよいし、導電性を有さなくてもよい。導電性を有することで電極タブとの導通が安定する効果がある。
接着層は、感圧接着性を有する粘着層であってもよいし、感圧接着性を有さなくてもよいが、感圧接着性を有する粘着層とすることが好ましい。粘着層とすることで、電極及び保護フィルムを、粘着層を介在させて積層し加圧するだけで電極と保護フィルムを接着させることができる。
【0048】
接着層は、接着剤で構成される限り特に限定されないが、接着層が粘着層である場合、粘着剤により構成されるとよい。粘着剤としては、特に制限はないが、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられ、これらのなかではアクリル系粘着剤が好ましい。
粘着剤は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、合成ゴム、天然ゴム、シリコーン系樹脂などの主ポリマーを含有し、主ポリマーに、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、金属不活性剤、酸化防止剤、顔料、染料などから選択される少なくとも1つの添加剤が配合されてもよい。
【0049】
また、粘着層を、導電性を有する導電性粘着層とする場合、粘着剤としては導電性粘着剤を使用すればよい。導電性粘着剤は、導電性を有する限り特に限定されないが、導電性粒子が配合されることが好ましい。
導電性粒子としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属粉粒子、カーボン、グラファイト等の導電性カーボン粒子、樹脂、中実ガラスビーズ、中空ガラスビーズなどのコア材の表面に金属被覆を有するものなどが挙げられる。これらのなかでもニッケル粉粒子、銅粉粒子、銀粉粒子などの金属粉粒子が導電性、接着性、生産性に優れるため好ましい。また、導電性粒子の形状は、特に限定されず、球状、表面針状形状などでもよいし、導電性粒子間で結合等を形成し、複数の導電性粒子が連なった形状を有するものなどであってもよい。
導電性粒子は、1種単独で使用してもよいし2種類以上混合して使用してもよい。
導電性粘着剤における導電性粒子の含有量は、所望の導電性を付与できるように適宜調整されればよいが、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、8質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0050】
また、接着層に感圧接着性を有さない接着剤を使用する場合、接着層を構成する接着剤としては、熱硬化性接着剤、光硬化性接着剤、ホットメルト接着剤、湿気硬化性接着剤などを使用すればよい。これらは、導電性を有してもよいし、導電性を有さなくてもよいが、導電性を有する場合、導電性粒子を配合した導電性接着剤とすればよい。導電性粒子の詳細、含有量などは上記のとおりである。
【0051】
接着層の厚さは、特に限定されないが、積層圧電シートを必要以上に厚くせずに、保護フィルムと電極の間の接着性を確保する観点から、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上50μm以下がより好ましく、さらに好ましくは4μm以上35μm以下である。
また、電極の一方のあるいは両面に予め接着層が積層された接着テープを使用してもよく、例えば、銅箔、アルミニウム箔などの金属箔の片面に粘着層が積層された粘着テープなどを使用してもよい。このような粘着テープは、市販品を使用してもよく、例えばDIC社製の「E-2300ND」、「E20CU」、「E30CU」、「E40CU」、「E50CU」、「E65CU」、「52050AD」「#8506ADW-10-H2」などを使用できる。
【0052】
5.その他の構成部材
本発明の積層圧電シートは、デバイスに組み込む際のハンドリング性や電気特性を向上する目的で、上記で挙げた構成部材以外に、電極タブ、シールド層、緩衝層などの構成部材を有してもよい。積層圧電シートは、これら構成部材を有することで、各構成部材に応じた機能を積層圧電シートに付与することができる。
【0053】
積層圧電シートは、上記したなかでは電極タブを有することが好ましい。電極タブは、各電極を他の電子部品などに導通させるために設けられる。電極タブは、電極に接続するように設けられる限りいかなる構成でもよく、例えば保護フィルム上に形成されてもよいし、多孔エレクトレットフィルム上に形成されてもよいし、保護フィルムと多孔エレクトレットフィルムの間に挟み込まれるように配置されてもよい。また、後述するように保護フィルムにより積層圧電シートの内部を密閉する場合には、電極タブは積層圧電シートの内部から外部に延出するように配置してもよい。
また、電極タブは、例えば電極が複数層設けられる場合には電極の層数に応じて設けられるとよく、例えば電極が2層設けられる場合には、電極タブもその層数に応じて2つ設けられるとよい。
【0054】
6.積層構成
本発明の積層圧電シートは、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムを少なくともこの順に積層した構成を有することが好ましい。
また、積層圧電シートは、2つの電極の間に多孔エレクトレットフィルムが配置された構成を有することが好ましい。
さらに、積層圧電シートは、2層の保護フィルムで電極及び多孔エレクトレットフィルムを両側から挟み込む構成を有することがより好ましい。
すなわち、積層圧電シートは、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムをこの順に積層した構成を有することがより好ましい。
なお、保護フィルムを2層有する構成において、保護フィルムが2枚設けられ、各層を構成する保護フィルムがそれぞれ別の保護フィルムより形成されてもよいが、保護フィルムが1枚であり、1枚の保護フィルムが例えば折り畳まれて、1枚の保護フィルムにより2層の保護フィルムが形成されてもよい。
【0055】
また、積層圧電シートは、前述のように、電極と保護フィルムの間に接着層が設けられ、電極が接着層を介して保護フィルムに接着されることが好ましい。ここで、積層圧電シートにおいて、2つの電極が設けられる場合、2つの電極のうち一方が接着層を介して保護フィルムに接着すればよいが、電極のずれをより一層防止して、圧電特性を良好にする観点から、2つの電極それぞれと、各保護フィルムの間は、いずれも接着層を介在させることが好ましい。
したがって、2つの電極を有する場合、積層圧電シートは、保護フィルム、接着層、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、接着層及び保護フィルムをこの順に積層した構成を有することが好ましい。
ただし、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、接着層及び保護フィルムをこの順に積層した構成を有し、一方の保護フィルムと電極の間に接着層が設けらなくてもよい。この場合、一方の保護フィルムと電極は、例えば直接積層されるとよい。
【0056】
また、電極と多孔エレクトレットフィルムは、上記のとおり他の層を介在せずに直接積層されてもよいし、スペーサーなどの接着層以外の他の層を介在させてもよい。したがって、2つの電極を有する場合、積層圧電シートは、両方の電極それぞれが多孔エレクトレットフィルムに直接積層されてもよいし、両方の電極それぞれが多孔エレクトレットフィルムにスペーサーなどの他の層を介在して積層されてもよい。また、一方の電極と多孔エレクトレットフィルムが直接積層されるとともに、他方の電極と多孔エレクトレットフィルムがスペーサーなどの他の層を介在して積層されてもよい。
【0057】
7.積層圧電シートの構成
本発明の積層圧電シートは、保護フィルムの端部が接着されて内部が密閉された構成を有し、当該内部に不活性ガスを含有する。
本発明において、不活性ガスとは、多孔エレクトレットフィルムの表面酸化を防ぐことのできるガスをいい、具体的には、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、フロン、キセノン、六フッ化硫黄などが挙げられるが、簡便に使用でき、環境負荷が小さいという点から、窒素が好ましい。
【0058】
本発明の積層圧電シートの内部は、不活性ガスを含有することによって酸素濃度が低減されている。当該酸素濃度は好ましくは10000ppm以下であり、より好ましくは5000ppm以下であり、更に好ましくは3000ppm以下である。
【0059】
保護フィルムは、端部を接着して電極及び多孔エレクトレットフィルムを収納する観点から、電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも面積が大きいことが好ましい。保護フィルムは、端部が電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置されるとよく、そのようにはみ出した端部を接着させることで、積層圧電シートの内部が密閉されることが好ましい。
【0060】
積層圧電シートは、上記のとおり、好ましくは保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムを少なくともこの順に積層した構成を有するが、この積層構造においては、各層を構成する保護フィルムの端部同士が接着されているとよい。
例えば、保護フィルムが2枚の場合には、2枚の保護フィルム両方を、その端部が電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置するとよい。そして、そのはみ出した端部同士を接着させて積層圧電シートを密閉し、内部に電極及び多孔エレクトレットフィルムを収納するとよい。この場合、各層を構成する保護フィルムの端部は全周にわたって、電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置させ、端部の全周を接着すればよい。
また、1枚の保護フィルムを例えば折り畳んで2層の保護フィルムを形成する場合には、その折り畳み部分以外において各層を構成する保護フィルムの端部同士を接着して積層圧電シートを密閉するとよい。折り畳まれた保護フィルムにおいても、端部が電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置するとよく、そのはみ出すように配置された端部同士が接着されているとよい。
保護フィルムの端部同士は、積層圧電シートの内部が密閉される限り接着方法は特に限定されないが、融着や、接着剤を使用した接着であってよい。
【0061】
図1、2に、積層圧電シートの好ましい一例を具体的に示す。
図1、2において、積層圧電シート10は、保護フィルム11、接着層12、電極13、多孔エレクトレットフィルム14、電極13、接着層12及び保護フィルム11がこの順に積層された構成を有する。積層圧電シート10において保護フィルム11、11は、上記のとおり、端部同士が互いに接着されて内部が密閉された状態であり、当該内部に接着層12、電極13及び多孔エレクトレットフィルム14が収納される。また、各保護フィルム11の電極13が貼り合わされた面には、電極タブ15も形成され、電極タブ15が電極13に接続される。
勿論、
図1、2に示す積層圧電シート10は、本発明の積層圧電シートの一例を示すものであり、本発明の要旨を逸脱しない限りいかなる変更がなされてもよい。
【0062】
<積層圧電シートの製造方法>
以下、本発明の積層圧電シートの製造方法の一例について説明するが、本発明の積層圧電シートは以下に説明する製造方法により製造される積層圧電シートに限定されるものではない。
【0063】
本発明の積層圧電シートは、保護フィルムの間に少なくとも多孔エレクトレットフィルム及び電極を配置して、保護フィルムの端部を接着し、かつ内部に不活性ガスを封入した後に帯電処理を行うことで製造できる。また、本発明の積層圧電シートは、以下に示すとおりに製膜工程、延伸工程、積層工程及び帯電処理工程を経て製造することが好ましい。以下、製膜工程、延伸工程、積層工程及び帯電処理について順次説明する。
【0064】
(1)製膜工程
製膜工程では、多孔エレクトレットフィルムを構成する材料よりなる無孔膜状物が製膜される。製膜工程においては、多孔エレクトレットフィルムを構成する材料を、公知の方法で製膜する限り特に限定されないが、例えば多孔エレクトレットフィルムを構成する樹脂(材料樹脂)を加熱溶融してフィルム状に製膜すればよく、具体的には、Tダイ法、インフレーション法などにより製膜すればよく、中でもTダイ法を採用するのが好ましい。また、実用的には、Tダイから材料樹脂を溶融押出してキャストロール(チルロール、キャストドラムなど)によりキャスト成形するのが好ましい。また、材料樹脂は、適宜添加剤が配合され、また2種以上の樹脂成分が混合され、2以上の成分を含む樹脂組成物として製膜されてもよい。
【0065】
多孔エレクトレットフィルムを構成する材料は、混練装置において混練された後に製膜されてもよい。混練を行う際、用いる混練装置を特に限定するものではない。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。また、押出機には、設備構造及び必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、多孔エレクトレットフィルムを構成する材料より水分や低分子量物質を除去してもよい。
【0066】
上記のとおりキャストロールを使用する場合、Tダイから押出されたシート状の溶融樹脂(樹脂組成物)をキャストロール上に押し出し、回転するキャストロール上に密着させながら引き取りフィルム状物に成形するとよい。また、キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
【0067】
また、溶融樹脂(樹脂組成物)を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は100℃以上が好ましい。より好ましくは110℃以上で、更に好ましくは120℃以上である。本発明ではポリプロピレン系樹脂の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の増加が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の無孔膜状物を得ることが好ましい。また、キャストロールの温度は140℃以下が好ましく、より好ましくは135℃以下で、更に好ましくは130℃以下である。キャストロールの温度を140℃以下とすることで、フィルム製膜時にキャストロールからの剥離が容易である。
【0068】
得られる無孔膜状物において、両端部を除いた有効部分の厚さは30μm以上500μm以下であるのが好ましく、中でも40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、また、300μm以下がより好ましく、その中でも200μm以下であることがさらに好ましい。無孔膜状物の厚さが30μm以上であれば、延伸時に破断を防ぐことができ、無孔膜状物の厚さが500μm以下であれば、無孔膜状物の延伸を行いやすくすることができる。
本発明の多孔エレクトレットフィルムの無孔膜状物での層構成に関しては、上記の単層構成のみだけでなく、他の層を組み合わせた構成であってもよい。
【0069】
(2)延伸工程
次に、得られた無孔膜状物に対して延伸処理を行う。無孔膜状物に対して延伸処理を行うことで、無孔膜状物を容易に多孔フィルムにすることができる。延伸処理では、無孔膜状物に対して一軸延伸あるいは二軸延伸を行なうとよい。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。これらのうち逐次二軸延伸を採用すると、多孔構造の制御が比較的容易であり、機械強度や収縮率など他の諸物性とのバランスがとりやすい。逐次二軸延伸は、特に限定されないが、例えば縦延伸した後に、横延伸するとよい。なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0070】
延伸温度は、用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、縦延伸温度は、好ましくは60℃以上140℃以下であり、より好ましくは80℃以上120℃以下である。縦延伸温度を140℃以下とすることで、主成分であるポリプロピレン系樹脂の融点以下で破断なく延伸が可能となるため好ましい。一方で、60℃以上とすることで、延伸時の破断が抑制できるため好ましい。
横延伸温度は、好ましくは90℃以上160℃以下であり、より好ましくは100℃以上150℃以下である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、空孔が十分に形成され、空孔率を高めることができ、十分な圧電特性を有することができる。また、逐次二軸延伸の場合には、例えば縦延伸時に生じた空孔が拡大されて多孔層の空孔率を増加することができる。
なお、以上説明した温度は、一軸延伸又は逐次二軸延伸の場合の温度であるが、同時二軸延伸の場合の延伸温度は、上記観点から、好ましくは90℃以上140℃以下、より好ましくは100℃以上120℃以下の範囲内で調整すればよい。
【0071】
延伸倍率は、所望する空孔率に合わせて任意に選択すればよいが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以上9.0倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以上8.0倍以下である。一軸延伸あたりの延伸倍率が1.1倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が十分に生じる。また、10倍以下とすることで、空孔率が抑制され、耐圧性に優れる多孔フィルムを得ることができる。また、逐次二軸延伸の場合には、各軸当たり上記で規定した延伸倍率で延伸することによって、先の延伸時に生じた空孔が後の延伸時に変形することもない。
【0072】
(3)積層工程
次に、延伸工程で得られた多孔フィルムと、電極及び保護フィルムを積層して、積層体を得る。
積層する順序は外側から保護フィルム、電極、多孔フィルムとすることが好ましく、電極が2つ設けられる場合は、保護フィルム、電極、多孔フィルム、電極、保護フィルムの順に積層することが好ましい。
【0073】
具体的な積層方法としては、電極と保護フィルムとを接着剤を用いて貼り合わせ、電極付き保護フィルムを得たあと、その電極付き保護フィルムと多孔フィルムとを重ね合わせる方法が好ましい。
なお、電極及び保護フィルムをそれぞれ2つ用いる場合は、上記方法で電極付き保護フィルムを2つ得たあと、電極側を内側にして、2つの電極付き保護フィルムで多孔フィルムを挟み込むようにして積層することが好ましい。
また、電極を2つと、保護フィルムを1つ用いる場合は、2つの電極を1枚の保護フィルムの一方の面に貼って電極付き保護フィルムを得たあと、その電極付き保護フィルムを、2つの電極が互いに対向するように折りたたみ、2つの電極の間に多孔フィルムを挟み込むようにして積層することが好ましい。
【0074】
本製造方法では、保護フィルムの端部を接着することが好ましい。端部を接着する方法は、ヒートシーラーを用いた融着や、接着剤を用いる方法が挙げられる。この際に、のちの帯電処理を低酸素濃度状態で行うために、不活性ガスが注入されてもよい。
上記接着及び不活性ガスの注入は、例えば以下のようにして行われてよい。
i)上記いずれかの積層方法により多孔フィルム、電極及び保護フィルムを積層したあと、外側の保護フィルムの端部同士を接着して内部を密閉し、不活性ガスを注入する。
ii)上記いずれかの積層方法において、電極付き保護フィルムを得たあと、外側の保護フィルムの端部同士を部分的に接着してから多孔フィルムを挿入する。その後、保護フィルムの端部のうち接着されていない部分を接着し、内部を密閉して、不活性ガスを注入する。
iii)保護フィルムの端部同士を部分的に接着してから、電極及び多孔フィルムを挿入する。その後、保護フィルムの端部のうち接着されていない部分を接着し、内部を密閉し、不活性ガスを注入する。
不活性ガスの注入方法としては、特に限定されず、端部の接着していない部分から注入することもできるし、端部をすべて接着してから、保護フィルムに穴をあけて、注入することもできる。また、端部の接着していない部分から、不活性ガスを内部に注入し、内部を不活性ガスで置換しておいて、端部をすべて接着し、その後保護フィルムに孔をあけて、最終的に、不活性ガスを注入してもよい。なお、保護フィルムに孔をあける態様では、注入後、当該孔をテープ等で塞ぐことが好ましい。
【0075】
(4)帯電処理
ついで、上記積層体に帯電処理を行うことで、本発明の積層圧電シートが得られる。この際に、前記多孔フィルムは、表面および空孔内部に電荷が注入され、本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムとなる。帯電処理は連続式であってもよいし、バッチ式であってもよい。帯電処理を行う際の電極は、フィルムの表裏に針状電極、ワイヤー電極、ロール状電極、板状電極などの電極間にフィルムを通し、電極間に電界を印加する方式でもよいし、フィルムの表裏に直接、塗布や蒸着により電極を形成した後に、電界を印加する方式でもよい。印加する電界としては好ましくは0.1MV/m以上10MV/m以下、より好ましくは0.2MV/m以上8MV/m以下、さらに好ましくは0.3MV/m以上6MV/m以下である。0.1MV/m以上であることで、多孔エレクトレットフィルムが優れた圧電特性を有することができる。10MV/m以下であることで、帯電処理時の絶縁破壊を低減するという効果がある。
【0076】
この帯電処理工程において、積層体内部に不活性ガスが注入された状態で帯電処理を行うことにより、多孔フィルム内に酸素が少ない状態で電荷を注入することができ、オゾン発生に伴う多孔エレクトレットフィルムの酸化劣化を抑えることができる。
【0077】
<積層圧電シートの用途>
本発明の積層圧電シートは、例えば振動発電、水位計、音響検出器、マットセンサー、ロボットハンドなどに使用することができる。積層圧電シートは、特に限定されないが、例えば圧電素子として使用すればよく、積層圧電シートに作用された圧力を電圧に変換して、積層圧電シートに作用される圧力を検知したり、発電したりすることができる。
また、積層圧電シートはセンサーデバイスとして上記した各種機器に組み込むとよい。本発明の積層圧電シートは、例えばリード線や回路実装を施すことで、本シートを備えたセンサーデバイスとすることができる。
【0078】
<語句の説明など>
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格;JIS K6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の積層圧電シートについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0080】
実施例、比較例で使用する材料は以下の通りである。
(ポリプロピレン系樹脂)
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)
(β晶核剤)
・B-1:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(NU-100、新日本理化社製)
(酸化防止剤)
・C-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASF社製)
【0081】
(多孔フィルムの製造)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(B-1)0.2質量部、酸化防止剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで樹脂組成物を得た。リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物を投入して成形を行ない、キャストロールに導かれて厚さが100μmの無孔膜状物を得た。その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度105℃で縦方向に4.2倍延伸し、続いて150℃で横方向に2.1倍延伸することで多孔フィルムを得た。多孔フィルムはβ晶活性を有し、多孔フィルムに含有されるポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は92%であった。
【0082】
(実施例1)
以下に示す通り
図1、2に示す積層圧電シート10を作製した。保護フィルム11、11として、厚さ20μmのA4サイズの2枚のフィルムの一端部同士を予め融着したポリエチレン系樹脂フィルムを用意した。各保護フィルム11の内側に、片面に接着層12を有する電極13として、導電性銅箔粘着テープ「E20CU」(DIC社製、電極厚さ9μm、接着層厚さ11μm)を19cm角に切り出したものを貼り合わせ、次いで、各保護フィルム11上に各電極13に接続する電極タブ15を形成した。その後、2枚の電極付き保護フィルムの電極13、13間に、20cm角に切り出した多孔フィルム14を、電極13がフィルム14の外周側にはみ出さないように挟み込み、ヒートシーラーを用いて保護フィルム11、11の予め融着した一端部以外の端部同士を熱融着することで積層シートを作成した。電極タブ15は、保護フィルム11、11同士を融着することで形成された袋の内側から外側に延出していた。続いて袋状となった保護フィルムに、注射器で端部から窒素ガスを5cc注入し、保護フィルムに圧力をかけて内部の気体を追い出し、再び窒素ガスを注入する作業を3回行い、内部のガスを窒素に置換し、注射器を刺した部分をテープで仮止めした。
得られた積層体をアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで12kVの電圧を1分間かけ帯電処理を行ない、ガス注入に使用した部分を熱融着し切り取ることで縁切りし、積層圧電シートを得た。
【0083】
(実施例2)
窒素ガスに替えてアルゴンガスを用いた点以外は実施例1と同様にして積層圧電シートを得た。
【0084】
(比較例1)
窒素ガスの注入を行なわなかった点以外は実施例1と同様にして積層圧電シートを得た。
【0085】
(比較例2)
窒素ガスを封入した容器に多孔フィルムを1日貯蔵し、その後、大気環境下で窒素ガス注入を行なわなかった点以外は、実施例1と同様にして積層圧電シートを得た。
【0086】
実施例および比較例で得られた積層圧電シートに関して、厚さ、圧電特性及び耐水性、水接触角を以下の方法で測定した。
【0087】
(1)厚さ
1/1000mmのダイアルゲージを用いて積層圧電シートの厚さを無作為に10点測定して、その平均値を求めた。
【0088】
(2)圧電特性
積層圧電シートから内部の多孔エレクトレットフィルムを50mm×50mmの寸法に取り出し、リードテクノ社製ピエゾメーターにて厚さ方向の圧電定数(d33)を表面と裏面をそれぞれ上にして各5箇所(便宜上 表面:dA、dB、dC、dD、dE 裏面:dF、dG、dH、dI、dJ と表記する)を准静的法により測定し、その平均値を求めた。なお、表面と裏面でそれぞれ測定値の正負が反対になるため下記の式により算出した。ピエゾメーターの端子はφ8mm円筒状とし、クランプ荷重を1N、動荷重を1.3Nとして測定を行なった。
圧電定数=|dA+dB+dC+dD+dE-dF-dG-dH-dI-dJ|/10
【0089】
(3)耐水性
積層圧電シートについて、電極タブを保護テープで覆い、10秒間水に沈めた後、風乾後、中から多孔エレクトレットフィルムを取り出し、圧電定数(d33)を評価し、式(1)により浸水前後の圧電定数の維持率を算出した。以下の評価基準で判定することで、耐水性を評価した。
維持率(%)=〔浸水後の圧電定数/浸水前の圧電定数〕×100 (1)
(評価基準)
A(good):維持率が80%以上
B(poor):維持率が80%未満
【0090】
(4)水接触角
積層圧電シートから内部の多孔エレクトレットフィルムを50mm×50mmの寸法に取り出し、接触角計(DMs-401、協和界面科学社製)を用いて純水の接触角を測定した。測定サンプルは事前に除電は行わず、測定点数は10点、測定温度は25℃で、着水後100ミリ秒後の角度を測定した。
【0091】
(5)表面酸化状態
水接触角の測定結果を以下の基準で判定した。
(評価基準)
A(good):水接触角が105°以上
B(poor):水接触角が105°未満
【0092】
表1に実施例、比較例に関する評価結果を示した。
【表1】
【0093】
実施例1及び2より、本発明が規定する層構成によって、多孔エレクトレットフィルムの表面酸化を防止でき、かつ良好な圧電特性を示すことがわかった。
一方で、比較例1及び2では、多孔エレクトレットフィルムの圧電特性が大幅に低下した。これは、多孔エレクトレットフィルムの水接触角が低下していることから、帯電処理工程で多孔エレクトレットフィルムの表面が酸化したためであると考えられる。
【符号の説明】
【0094】
10 積層圧電シート
11 保護フィルム
12 接着層
13 電極
14 多孔エレクトレットフィルム
15 電極タブ