(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】グラビア印刷方法、グラビア印刷機、および積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 1/10 20060101AFI20240521BHJP
B41F 3/20 20060101ALI20240521BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240521BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20240521BHJP
【FI】
B41M1/10
B41F3/20 D
H01G4/30 311D
H01G13/00 391B
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2020090838
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納谷 匡邦
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0051257(US,A1)
【文献】特開平11-320814(JP,A)
【文献】特開平08-072216(JP,A)
【文献】特開2003-297667(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009023160(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/10
B41F 3/20
H01G 4/30
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に印刷パターンを有する版プレートと、前記版プレートの前記表面に接触しつつ回転して移動する転写ロールと、前記転写ロールよりも移動方向前方に配置され、前記版プレートの前記表面に接触しながら前記転写ロールとともに移動するドクターブレードとを備えたグラビア印刷機を用いて、前記ドクターブレードにより導電性ペーストを前記版プレートの前記表面に塗布し、前記転写ロールに貼着している誘電体シートに前記導電性ペーストを転写して印刷する、グラビア印刷方法において、
前記版プレートの前記表面の上を移動する予備ブレードを用いて、
該予備ブレードと前記版プレートの前記表面上の印刷パターンとの間に滴下した前記導電性ペーストを前記版プレートの前記表面に予め一次塗布し、
前記導電性ペーストを前記印刷パターン全体に引き伸ばし、かつ、余分な導電性ペーストを除去し、その後、前記ドクターブレードと前記転写ロールとを移動させて、
該ドクターブレードにより前記導電性ペーストを前記印刷パターン内に埋め込み、かつ、余分な導電性ペーストを除去しつつ、前記導電性ペーストを前記誘電体シートに印刷する、
グラビア印刷方法。
【請求項2】
前記予備ブレードの下辺と前記版プレートの前記表面との間に隙間を設け、かつ、前記隙間を、30μm以上100μm以下とする、請求項1に記載のグラビア印刷方法。
【請求項3】
前記予備ブレードを前記ドクターブレードよりも前記移動方向前方に配置し、前記予備ブレードを前記ドクターブレードおよび前記転写ロールとともに移動させて、前記予備ブレードによる前記一次塗布と、前記ドクターブレードによる前記塗布を連続的に行う、請求項1または2に記載のグラビア印刷方法。
【請求項4】
誘電体シートに導電性ペーストを転写して印刷するためのグラビア印刷機であって、
表面に印刷パターンを有する版プレートと、前記版プレートの前記表面に接触しつつ回転して移動し、かつ、前記誘電体シートが貼着される転写ロールと、前記転写ロールよりも移動方向前方に配置され、前記版プレートの前記表面に接触しながら前記転写ロールとともに移動
しつつ、前記導電性ペーストを前記版プレートの前記表面に塗布するドクターブレードとを備えたグラビア印刷機において、
前記ドクターブレードよりも前記移動方向前方に配置され、前記ドクターブレードおよび前記転写ロールとともに、前記版プレートの前記表面の上を移動する予備ブレードをさらに備え、
前記予備ブレードは、該予備ブレードと前記印刷パターンとの間に滴下した前記導電性ペーストを前記版プレートの前記表面に予め一次塗布し、前記導電性ペーストを前記印刷パターン全体に引き伸ばし、かつ、余分な導電性ペーストを除去し、前記ドクターブレードは、前記一次塗布後の前記導電性ペーストを前記印刷パターン内に埋め込み、かつ、余分な導電性ペーストを除去し、および、前記予備ブレードによる
前記導電性ペーストの一次塗布と、前記ドクターブレードによる前記導電性ペーストの塗布が連続的に行われるように構成されている、
グラビア印刷機。
【請求項5】
誘電体シートの表面に、導電性ペーストを印刷し、前記導電性ペーストが印刷された前記誘電体シートを積層して形成した積層体を焼成することにより、内部電極層を形成する、積層セラミック電子部品の製造方法において、
請求項1~3のいずれか1項に記載のグラビア印刷方法により、前記導電性ペーストの印刷を行う、積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に導電性ペーストを誘電体シート上に印刷するためのグラビア印刷方法およびグラビア印刷機、および、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサなどを含む電子部品についても小型化および高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層および内部電極層を薄膜化することにより、小型化および高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、たとえば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体粉末およびバインダー樹脂を含有する誘電体グリーンシートの表面上に、内部電極用の導電性ペーストを所定の電極パターンで印刷し、乾燥して、乾燥膜を形成する。この乾燥膜と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層し、加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼成を行い、焼成チップ(積層体)を得る。次いで、焼成チップ(積層体)の両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼成後、外部電極表面にニッケルメッキなどを施して、積層セラミックコンデンサを得ている。
【0004】
導電性ペーストを誘電体グリーンシートに印刷する際に用いられる印刷方法としては、従来、スクリーン印刷方法が一般的に用いられている。しかしながら、電子デバイスの小型化、薄膜化、生産性向上などの要求から、より微細な電極パターンを高い生産性で印刷することが求められている。
【0005】
このため、製版に設けられた印刷パターン(凹部)に導電性ペーストを充填し、これを被印刷面に押し当てることでその製版から導電性ペーストを転写する連続印刷方法であるグラビア印刷方法を、導電性ペーストの印刷に適用することが提案されている。グラビア印刷方法は、印刷速度が速く、生産性に優れている。
【0006】
たとえば、特開2003-297667号公報には、グラビア版ロール(シリンダ)に配置された複数の四角形状凹部を互いに隔てる縦方向と横方向の隔壁のうち、縦方向の隔壁、すなわちドクターブレードによる印刷材料の掻き取り方向(ロールの円周方向)に伸長する隔壁を、直線状に連続しないように配列することによって、印刷物の外周縁の直線精度に優れ、かつ、印刷面にピンホールの発生がない印刷物を得ることを可能とするグラビア印刷用版、および、このグラビア印刷用版を用いたグラビア印刷で積層セラミック電子部品を製造する方法が開示されている。
【0007】
また、導電性ペーストをグラビア印刷により誘電体シートに印刷するためには、それに適した導電性ペーストの開発が必要とされる。たとえば、特開2019-046781号公報には、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂、および、有機溶剤を含み、分散剤は、分子量が5000以下のアミノ酸系分散剤を含み、バインダー樹脂は、アセタール系樹脂を含み、有機溶剤は、グリコールエーテル系溶剤を含み、グラビア印刷に適した粘度を有し、かつ、分散性に優れた導電性ペーストが開示されている。
【0008】
グラビア印刷は、大量生産に向いた高速印刷を可能とする方法であり、グラビア印刷機も大掛かりなものになる。このため、グラビア印刷に用いるのに適した導電性ペーストを開発する場合や、少量の電子部品を製造する場合などには、グラビア版ロールを用いた大型のグラビア印刷機に代替して、版プレートを用いた小型のグラビア印刷機が用いられる。
【0009】
版プレートを用いたグラビア印刷機は、たとえば、
図1に示すような構造を有し、印刷パターンが形成されている版プレート1と、転写ロール2と、および、ドクターブレード3とを備える。
【0010】
この構成のグラビア印刷機では、版プレート1は、ロール状の版胴(シリンダ)に装着されずに、平板状の状態で配置される。転写ロール2は、版プレート1の上面に接触し、回転しながら、版プレート1上をAの方向に移動する。ドクターブレード3は、転写ロール2と同じ速度で、版プレート1上面に接触しながら矢印Aの方向に移動する。
【0011】
誘電体シート4の一端は、転写ロール2上に固定されている。導電性ペースト5は、ドクターブレード3と版プレート1上に形成された印刷パターン(凹部)6との間に滴下される。
【0012】
ドクターブレード3は、版プレート1に形成された印刷パターン6を導電性ペースト5で埋め、かつ、それ以外の個所に存在する余分な導電性ペースト5を除去する機能を有する。
【0013】
版プレート1を用いたグラビア印刷では、ドクターブレード3と版プレート1上の印刷パターン6との間に導電性ペースト5を滴下した後、転写ロール2とドクターブレード3が、同時かつ同速度で、版プレート1の上面を接触しながら移動して、ドクターブレード3が導電性ペースト5を版プレート1の上面に形成された印刷パターン6内に埋め込み、かつ、余分な導電性ペースト5を除去する。続いて、誘電体シート4を張り付けた転写ロール2が、版プレート1の上面と接触しながら回転移動して、印刷パターン6内に埋められた導電性ペースト5が誘電体シート4に転写されることにより、印刷が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2003-297667号公報
【文献】特開2019-046781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、積層セラミック電子部品のより小型化および高集積化が進められており、より少量でより高速なグラビア印刷方法による積層セラミック電子部品の製造に対する需要が高まっている。また、グラビア印刷に適した導電性ペーストの開発も行われている。このような場合には、版プレート方式のグラビア印刷機を用いたグラビア印刷方法を適用することが好ましい。
【0016】
しかしながら、版プレート方式のグラビア印刷機を用いたグラビア印刷方法では、特に量産時と同様の10m/秒以上、一般には20m/秒から70m/秒の範囲の印刷速度のように高速で印刷すると、量産時には発生しない印刷欠けが発生してしまうという問題が生じる場合がある。印刷欠けがあると、内部電極層が存在しない箇所が発生し、誘電体層と内部電極層との積層構造を有する構造体が作成できず、コンデンサとして成立しない、もしくは、積層数が不足するのと同様な状態となって、目的とする静電容量が得られない、という重大な問題を生じる。
【0017】
このため、開発段階では、このような印刷欠けを防止して、導電性ペーストのグラビア印刷による量産時の印刷性を適切に評価できるようにすることが求められている。
【0018】
また、版プレートを用いたグラビア印刷は少量生産の際にも用いられる場合もあるため、その場合には、製品の生産性の確保という観点からも印刷欠けの防止が求められている。
【0019】
本発明は上述の問題を解決するため、版プレートを用いたグラビア印刷方法において、量産時と同じ条件となる高速印刷を行った場合であっても、量産時と同様に印刷時の印刷欠けを生じることなく、適切な印刷を可能とすることにより、量産時の印刷性を適切に評価できる印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、表面に印刷パターンを有する版プレートと、前記版プレートの前記表面に接触しつつ回転して移動する転写ロールと、前記転写ロールよりも移動方向前方に配置され、前記版プレートの前記表面に接触しながら前記転写ロールとともに移動するドクターブレードとを備えたグラビア印刷機を用いて、前記ドクターブレードにより導電性ペーストを前記版プレートの前記表面に塗布し、前記転写ロールに貼着している誘電体シートに前記導電性ペーストを転写して印刷するグラビア印刷方法に関する。
【0021】
特に、本発明のグラビア印刷方法では、前記版プレートの前記表面の上を移動する予備ブレードを用いて、前記導電性ペーストを前記版プレートの前記表面に予め一次塗布し、その後、前記ドクターブレードと前記転写ロールとを移動させて、前記導電性ペーストを前記誘電体シートに印刷することを特徴とする。
【0022】
前記予備ブレードの材質に応じて、前記予備ブレードの設置高さ、すなわち、前記予備ブレードを前記版プレートの前記表面に接触させるか、前記予備ブレードの下辺と前記版プレートの前記表面との間に隙間を設けるかが決定される。前記予備ブレードの下辺と前記版プレートの前記表面との間に隙間を設ける場合、前記隙間を、30μm以上100μm以下とすることが好ましい。
【0023】
前記グラビア印刷機において、前記予備ブレードを前記ドクターブレードよりも前記移動方向前方に配置し、前記予備ブレードを前記ドクターブレードおよび前記転写ロールとともに移動させて、前記予備ブレードによる前記一次塗布と、前記ドクターブレードによる前記塗布を連続的に行うことができる。
【0024】
本発明は、誘電体シートに導電性ペーストを転写して印刷するためのグラビア印刷機であって、表面に印刷パターンを有する版プレートと、前記版プレートの前記表面に接触しつつ回転して移動し、かつ、前記誘電体シートが貼着される転写ロールと、前記転写ロールよりも移動方向前方に配置され、前記版プレートの前記表面に接触しながら前記転写ロールとともに移動するドクターブレードとを備えたグラビア印刷機に関する。
【0025】
特に、本発明のグラビア印刷機は、前記ドクターブレードよりも前記移動方向前方に配置され、前記ドクターブレードおよび前記転写ロールとともに移動する予備ブレードをさらに備え、前記予備ブレードによる導電性ペーストの一次塗布と、前記ドクターブレードによる前記導電性ペーストの塗布が連続的に行われるように構成されていることに特徴がある。
【0026】
本発明は、誘電体シートの表面に、導電性ペーストを印刷し、前記導電性ペーストが印刷された前記誘電体シートを積層して形成した積層体を焼成することにより、内部電極層を形成する、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【0027】
特に、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法は、本発明のグラビア印刷方法により、前記導電性ペーストの印刷を行うことに特徴がある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、版プレートを用いたグラビア印刷方法において、予備ブレードにより版プレートの表面に導電性ペーストを薄く塗布する一次塗布を行うことで、版プレートに形成された印刷パターンに、導電性ペーストをある程度塗布しつつ、版プレートの表面上に導電性ペーストを広く分布させ、その後にドクターブレードにより最終的な塗布を施すことで、印刷パターンに導電性ペーストをしっかり充填しつつ、余分なペーストを除去することが可能となり、印刷欠けのない導電性ペーストが印刷された誘電体シートを得ることが可能となる。
【0029】
このように、本発明により、印刷欠けのない、量産時と同等の所望とする、導電性ペーストが印刷された誘電体シートおよびその積層体を焼成して得られる、内部電極層が形成された積層セラミック電子部品を得ることが可能となる。このため、積層セラミック電子部品に適した導電性ペーストの評価を的確に行うことができ、また、少量生産対応の場合は、積層セラミックコンデンサを歩留まりよく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、従来の版プレート方式のグラビア印刷方法を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の版プレート方式のグラビア印刷方法を示す模式図である。
【
図3】
図3(A)は、実施例1で得られた、導電性ペーストが印刷された誘電体シートの写真である。
図3(B)は、比較例2で得られた、導電性ペーストが印刷された誘電体シートの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者が、量産段階では発生しないが、開発段階において、版プレートを用いたグラビア印刷に起因して発生する印刷欠けについて、その原因について鋭意検討を行った結果、導電性ペーストを版プレートの表面に滴下した後に、ドクターブレードを用いて版プレートの表面上に導電性ペーストを引き伸ばして塗布する工程に問題があることを見出した。
【0032】
すなわち、量産時では、ロール状の版胴であるシリンダが導電性ペースト内に浸漬することにより、導電性ペーストが印刷パターン(凹部)内に十分充填されるのに対して、版プレートを用いたグラビア印刷では、量産時と転写条件を揃えるために、転写ロールとドクターブレードの移動をより高速化した条件下では、すなわち、転写ロールとドクターブレードの移動速度を10m/秒以上、特に、量産時と同様の20m/秒から70m/秒の範囲の印刷速度のように高速とした場合には、導電性ペーストがドクターブレードによって押され、版プレートの表面上を移動する際に、その速度についていけず、版プレートの表面に対して滑りを生じ、版プレートに形成された印刷パターンの内部に入り込むことができない状態が発生する場合があることを見出した。
【0033】
本発明者は、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、版プレートを用いたグラビア印刷方法において、転写ロールとドクターブレードを用いた最終的な印刷工程の前に、予備ブレードを用いて、予め導電性ペーストをある程度引き伸ばしておく一次塗布を行うことにより、量産時と同様の高速印刷を行った場合でも、印刷欠けを生じさせることなく、誘電体シートへの導電性ペーストの印刷が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
(グラビア印刷方法)
本発明は、版プレートを用いたグラビア印刷方法に関する。
図2に示すように、本発明のグラビア印刷方法も、従来のグラビア印刷方法と同様に、表面に印刷パターン6を有する版プレート1と、版プレート1の表面に接触しつつ回転して移動する転写ロール2と、転写ロール2よりも移動方向(矢印A)前方に配置され、版プレート1の表面に接触しながら転写ロール2とともに移動するドクターブレード3とを備えたグラビア印刷機を用い、ドクターブレード3により導電性ペースト5を版プレート1の表面に塗布し、転写ロール2に貼着している誘電体シート4に導電性ペースト5を転写して印刷する。
【0035】
特に、本発明のグラビア印刷方法では、版プレート1の表面の上を移動する予備ブレード(引き伸ばし用ブレード)7を用いて、導電性ペースト5を版プレート1の表面に予め一次塗布し、その後、ドクターブレード3と転写ロール2とを移動させて、導電性ペースト5を誘電体シート4に印刷することを特徴とする。
【0036】
予備ブレード7を、ドクターブレード3よりも移動方向前方に配置し、予備ブレード7をドクターブレード3および転写ロール2とともに移動させて、予備ブレード7による一次塗布と、ドクターブレード3による塗布を連続的に行うことが好ましい。
【0037】
より具体的には、予備ブレード7と版プレート1上の印刷パターン6との間に導電性ペースト5を滴下した後、転写ロール2とドクターブレード3と予備ブレード7とが、同時かつ同速度で、版プレート1の上面を接触しながら移動して、予備ブレード7が、導電性ペースト5を印刷パターン6全体に満遍なく引き伸ばし、かつ、余分な導電性ペースト5を除去する。次に、この状態で、ドクターブレード3が導電性ペースト5を印刷パターン6内に埋め込み、かつ、余分な導電性ペースト5を除去する。続いて、誘電体シート4を張り付けた転写ロール2が、版プレート1の上面と接触しながら回転移動して、印刷パターン6内に埋められた導電性ペースト5が誘電体シート4に転写されることにより、印刷が行われる。
【0038】
このように、本発明では、予備ブレード7による一次塗布により、版プレート1に形成された印刷パターン6の全体にわたるように、導電性ペースト5が引き伸ばされる。このため、その後に、ドクターブレードによる最終的な塗布に際して、印刷パターン6の全体にわたって、適切に導電性ペースト5が十分に充填される。このため、一部の印刷パターン6に導電性ペースト5が充填されないことによる印刷欠けの発生が防止される。
【0039】
(予備ブレード)
予備ブレード7に用いる材質としては、導電性ペースト5に溶けてしまうなどの不具合を発生させない限り、特に限定されるものではなく、一般的な金属もしくは樹脂を採用することができる。金属の場合には、SUSなどのステンレスや銅などから選択され、樹脂の場合には、ポリエチレン、シリコーン系樹脂などから選択される。
【0040】
予備ブレード7の形状は、高さ、厚みについては何ら限定されることはなく、一次塗布の際に変形しない程度の強度を有する限り任意の形状を採用することができる。一般的な材料を用いる場合、予備ブレード7の厚みを0.1mm以上とすることにより、十分な強度を得られる場合が多く、厚みを0.5mm以上とすることが好ましい。
【0041】
予備ブレード7の高さも、特に限定されるものではないが、高さが低すぎると、導電性ペースト5を伸ばす際に、導電性ペースト5が予備ブレード7を乗り越えてしまい、元の場所に落下して、予備ブレード7による導電性ペースト5の引き伸ばし効果が得られなくなってしまう場合がある。このため、予備ブレード7の高さを、ドクターブレード3の高さと同等以上とすることが好ましい。
【0042】
予備ブレード7の幅に関しては、版プレート1に形成された印刷パターン6の全体に対して導電性ペースト5を予め引き延ばして、ドクターブレード3による最終的な充填を適切に行わせる必要があるため、印刷パターン6の幅と同等以上の幅とする必要がある。
【0043】
予備ブレード7の下辺の版プレート1の表面からの高さ(グラビア印刷機に設置する場合には、予備ブレード7の印刷機内における設置高さ)に関しては、予備ブレード7の材質に応じて適宜決定される。弾性あるいは柔軟性のある樹脂製の予備ブレード7の場合には、ドクターブレード3と同様に、版プレート1の表面に接触させることができる。この場合、予備ブレード7の移動時に、導電性ペースト5は、予備ブレード7の変形に応じて、予備ブレード7の前方に押されて移動しつつ、予備ブレード7の下を通って後方にすり抜けることにより、版プレート1の少なくとも印刷パターン6の全体に満遍なく塗布される。
【0044】
一方、弾性あるいは柔軟性のない金属製の予備ブレード7の場合には、予備ブレード7の下辺と版プレート1の表面との間に隙間を設けることが好ましい。この場合、予備ブレード7の下辺が版プレート1の表面に接触せず、すなわち、予備ブレード7の下辺が版プレート1の表面と隙間を維持しつつ移動して、導電性ペースト5を適切に印刷パターン6全体に引き延ばすことができる限り、特に限定されるものではない。したがって、予備ブレード7の設置状態における下辺と版プレート1との隙間は、0を超える任意の数値に設定される。
【0045】
予備ブレード7の材質や形状によって、予備ブレード7の下辺と版プレート1との隙間は、30μm以上100μm以下とすることが好ましい。
【0046】
予備ブレード7の下辺と版プレート1との隙間が30μm未満の場合、予備ブレード7をすり抜ける導電性ペースト5の量が不足し、ドクターブレード3による最終充填で印刷パターン6に導電性ペーストを十分に補填できない場合が生じ、印刷欠けが発生してしまう可能性がある。なお、この隙間を40μm以上に設定することが好ましい。
【0047】
予備ブレード7の下辺と版プレート1との隙間が100μmを超えると、導電性ペースト5を押し出す際に、版プレート1上に滴下された導電性ペースト5の上部しか押し出すことができないために、導電性ペースト5の量が少ない場合には、印刷パターン6の後半まで導電性ペースト5が押し出されず、ドクターブレード3による最終充填で、導電性ペースト5が版プレート1上の印刷パターン5全体に十部に塗布されず、印刷欠けとなってしまったり、押し出し量を増やすために多量の導電性ペースト5を準備する必要が生じたりする場合がある。なお、この隙間を70μm以下に設定することが好ましい。
【0048】
試験印刷を行うことなどにより、予備ブレード7の材質や形状、並びに、導電性ペースト5の材質に応じて、適切な量の導電性ペーストで、印刷パターン6への充填不良や多量の余分となる導電性ペースト5の発生を防止する観点から、予め適切に予備ブレード7の設置高さ(予備ブレード7の下辺と版プレート1との隙間)を設定することが好ましい。
【0049】
(グラビア印刷機)
本発明のグラビア印刷機は、上述した予備ブレード7を用いた一次塗布を行うことができる限り、予備ブレード7を設置すること以外は、従来のグラビア印刷機と同様である。このため、グラビア印刷機を構成する個々の要素の説明については省略する。
【0050】
本発明のグラビア印刷機では、予備ブレード7の設置は、ドクターブレード3により版プレート1の印刷パターン6にペースト5を塗布する工程の前に、予め予備ブレード7によりペースト5を版プレート1の表面に一次塗布することができる限り、転写ロール2およびドクターブレード3とは独立していてもよい。
【0051】
ただし、本発明のグラビア印刷機において、予備ブレード7を、ドクターブレード3よりも移動方向前方に位置し、ドクターブレード3および転写ロール2とともに移動するように設置することも可能である。
【0052】
具体的には、ドクターブレード3と転写ロール2を水平方向に移動させるための駆動装置、たとえば、ステッピングモーターなどに、公知の取り付け機構を用いて、好ましくは、予備ブレード7の設置高さを調整可能に取り付けることにより構成することができる。予備ブレード7を、単独で水平方向に移動させるための駆動装置に取り付けることも可能である。
【0053】
(積層セラミック電子部品の製造方法)
本発明の積層セラミック電子部品の製造方法では、本発明のグラビア印刷機およびグラビア印刷方法を用いて、誘電体シートの表面に、導電性ペーストを印刷し、導電性ペーストが印刷された誘電体シートを積層して形成した積層体を焼成することにより、内部電極層を形成する。内部電極層が形成された積層体を適宜切断することにより、積層セラミック電子部品を得ることができる。
【0054】
本発明の適用により、印刷欠けにより内部電極層が適切に形成されていない積層セラミック電子部品が生ずることを防止することができる。このため、積層セラミック電子部品に適した導電性ペーストの評価を的確に行うことができ、また、少量生産対応の場合は、積層セラミックコンデンサを歩留まりよく製造することが可能となる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を比較例とともに示すが、本発明は、この実施例によってのみ限定されることはない。
【0056】
(実施例1)
導電性ペーストとして、量産のグラビア印刷で印刷欠けが生じていない導電性ペーストを準備した。
図2に概略的に示す構成を有する、予備ブレードを備えた版プレート方式のグラビア印刷機を用いて、誘電体シート上に電極パターンを印刷し、その印刷性評価を行った。
【0057】
[印刷条件]
印刷速度: 50m/秒
ドクターブレードの材質: SUS製
ドクターブレード形状: 厚さ:0.1mm、高さ:20mm、幅:130mm
ドクターブレード高さ(隙間):0μm
予備ブレード材質: SUS製
予備ブレード形状: 厚さ:0.5mm、高さ:20mm、幅:100mm
予備ブレード高さ(隙間): 30μm
版プレート形状: 厚さ:3mm、長さ:400mm、幅:200mm
印刷パターン: 全体の長さ:80mm、全体の幅:80mm
評価用電極形状: 厚さ:10μm、長さ:7mm、幅:2mm
電極間距離: 縦方向:1mm、横方向:1mm
【0058】
[印刷性評価]
印刷後、電極パターンの印刷欠けを確認するために、誘電体シート上の電極パターンを写真撮影し、image-jにて2値化処理を行い、印刷面積を算出した。
【0059】
算出した実際の印刷面積と、印刷に用いた版プレートにある印刷パターン面積から、下記(1)式を用い、印刷面積比を算出した。
【0060】
印刷面積比(%)=(実際の印刷面積)/(印刷パターン面積)・・・(1)
印刷面積を算出する際の2値化処理のばらつきなどを考慮し、印刷面積比95%以上の場合に、良好なグラビア印刷ができていると評価した。
【0061】
その評価結果を表1に示す。また、実施例1における印刷後の写真を
図3(A)に示す。
【0062】
(実施例2)
予備ブレードの下辺の版プレートの表面からの高さ(隙間)を100μmとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で電極パターンを印刷し、その印刷性評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
導電性ペーストとして、実施例1で用いたのと同じ導電性ペーストを準備し、従来の予備ブレードを備えていない版プレート方式のグラビア印刷機を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で電極パターンを印刷し、その印刷性評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
予備ブレードの下辺の版プレートの表面からの高さ(隙間)を0μmとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンを印刷し、印刷性評価を行った。その評価結果を表1に示す。また、比較例2における印刷後の写真を
図3(B)に示す。
【0065】
【0066】
表1の結果から、本発明の予備ブレードを追加した版プレート方式のグラビア印刷機を用いた実施例のグラビア印刷方法で印刷した電極パターンは、印刷欠けを生じることなく良好なグラビア印刷ができていることが理解される。
【0067】
これに対して、予備ブレードを備えていない従来の版プレート方式のグラビア印刷機を用いた比較例1のグラビア印刷方法で印刷した電極パターンでは、印刷欠けが生じていることが理解される。また、予備ブレードを備えるが、その設置高さを0μmとした比較例2では、最終塗布で印刷パターンの欠けを防止する十分な導電性ペーストが残っておらず、本評価で用いた予備ブレードの材質(SUS)では、実質的に従来のドクターブレードのみの印刷に近い状態となってしまい、比較例1よりは少ないものの印刷欠けが生じていることが理解される。ただし、たとえば、高い弾性ないしは柔軟性を備えた樹脂製の予備ブレードを用いた場合には、その設置高さを0μmとした場合でも、導電性ペーストが予備ブレードの下をすり抜けられるため、本発明の実施例と同様の作用効果が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0068】
1 版プレート
2 転写ロール
3 ドクターブレード
4 誘電体シート
5 導電性ペースト
6 印刷パターン
7 予備ブレード