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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】差動信号伝送ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20240521BHJP
   H01B 11/18 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H01B11/00 B
H01B11/18 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020153507
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047622
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-081824(JP,A)
【文献】実開昭64-010915(JP,U)
【文献】特開2017-199498(JP,A)
【文献】特開2018-060685(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194033(WO,A1)
【文献】特開2015-115246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00-11/22
13/22-13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の導電線、および、前記一対の導電線を覆う絶縁層を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線の外周に巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの外周に巻き付けられ、第1樹脂被覆層を有する第1テープと、
前記第1テープの外周に巻き付けられ、第2被覆層を有する第2テープと、
を備え、
前記第2被覆層は、前記第1樹脂被覆層の軟化点よりも高い軟化点を有する高軟化点材料からなり、
前記第2テープは、前記第2被覆層の内側に第3樹脂被覆層を更に有する、差動信号伝送ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記第1樹脂被覆層と前記第2被覆層との間に設けられ、且つ、熱可塑性樹脂材料からなる接着層を更に備え、
前記第2被覆層は、前記接着層の軟化点よりも高い軟化点を有する材料からなる、差動信号伝送ケーブル。
【請求項3】
請求項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記第1樹脂被覆層と前記第3樹脂被覆層との間に設けられ、且つ、熱可塑性樹脂材料からなる接着層を更に備え、
前記第2被覆層は、前記接着層の軟化点よりも高い軟化点を有する材料からなる、差動信号伝送ケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記シールドテープは、前記絶縁電線の外周に縦添え巻きで巻き付けられている、差動信号伝送ケーブル。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記第1テープは、前記シールドテープの外周に螺旋状に巻き付けられ、
前記第2テープは、前記第1テープの外周に螺旋状に巻き付けられている、差動信号伝送ケーブル。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記シールドテープは、第4樹脂被覆層、および、前記第4樹脂被覆層の外周を覆うシールド層を有し、
前記シールド層は、第1金属材料からなる、差動信号伝送ケーブル。
【請求項7】
一対の導電線、および、前記一対の導電線を覆う絶縁層を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線の外周に巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの外周に巻き付けられ、第1樹脂被覆層を有する第1テープと、
前記第1テープの外周に巻き付けられ、第2被覆層を有する第2テープと、
を備え、
前記第2被覆層は、前記第1樹脂被覆層の軟化点よりも高い軟化点を有する高軟化点材料からなり、
前記第1樹脂被覆層は、ポリエステルからなる、差動信号伝送ケーブル。
【請求項8】
一対の導電線、および、前記一対の導電線を覆う絶縁層を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線の外周に巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの外周に巻き付けられ、第1樹脂被覆層を有する第1テープと、
前記第1テープの外周に巻き付けられ、第2被覆層を有する第2テープと、
を備え、
前記第2被覆層は、前記第1樹脂被覆層の軟化点よりも高い軟化点を有する高軟化点材料からなり、
前記高軟化点材料は、前記第1樹脂被覆層の軟化点よりも高い融点を有する第2金属材料からなる、差動信号伝送ケーブル。
【請求項9】
請求項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記第2金属材料は、アルミニウム、銅または銅合金からなる、差動信号伝送ケーブル。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記絶縁層の断面形状は、楕円形であり、
前記絶縁層の長径は、1.25mm以下であり、
前記絶縁層の短径は、0.71mm以下である、差動信号伝送ケーブル。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の差動信号伝送ケーブルにおいて、
前記一対の導電線の各々の断面形状は、円形であり、
前記一対の導電線の各々の直径は、34AWG以下である、差動信号伝送ケーブル。
【請求項12】
一対の導電線、および、前記一対の導電線を覆う絶縁層を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線の外周に巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの外周に巻き付けられ、第1樹脂被覆層を有する第1テープと、
前記第1テープの外周に巻き付けられ、第2被覆層を有する第2テープと、
を備え、
前記第2被覆層は、前記第1樹脂被覆層の軟化点よりも高い軟化点を有する高軟化点材料からなり、
前記第2被覆層の厚さは、前記第1樹脂被覆層の厚さよりも薄い、差動信号伝送ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号伝送ケーブルに関し、特に、シールドテープを押さえるための押さえテープを備える差動信号伝送ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
高速デジタル信号を扱う機器において、差動信号伝送ケーブルを用いて差動信号の伝送が行われている。差動信号は、システム電源の低電圧化を実現しながら、外来ノイズに対する耐性を高められるという利点を有している。また、差動信号伝送ケーブルでは、絶縁電線の外周に、差動サックアウトが無いシールド層として、シールドテープを縦添え巻きで巻き付ける手法が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の信号線導体が絶縁体によって一括被覆された絶縁電線と、絶縁電線の外周に縦添え巻きで巻き付けられたシールドテープと、シールドテープの外周に螺旋状に巻き付けられた2層の押さえテープとが開示されている。また、2層の押さえテープは、それぞれ樹脂層および接着層を有し、各々の接着層が、互いに接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-115246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
縦添え巻きで巻き付けられたシールドテープでは、シールドテープの内側(絶縁電線側)に空隙が存在し、空隙の分布が絶縁電線の周方向に対して偏ると、モード変換ノイズが大きくなり、信号の伝送が困難となる。すなわち、差動信号伝送ケーブルの性能が低下する。特に、絶縁電線に含まれる導電線の細径化を図ると、差動信号伝送ケーブルの製造時に上記空隙が発生し易くなるという問題がある。
【0006】
従って、上記空隙の発生をできる限り抑制し、差動信号伝送ケーブルの性能の低下を抑制できる技術が望まれる。その他の目的および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態である差動信号伝送ケーブルは、一対の導電線、および、前記一対の導電線を覆う絶縁層を有する絶縁電線と、前記絶縁電線の外周に巻き付けられたシールドテープと、前記シールドテープの外周に巻き付けられ、第1樹脂被覆層を有する第1テープと、前記第1テープの外周に巻き付けられ、第2被覆層を有する第2テープと、を備え、前記第2被覆層は、前記第1樹脂被覆層の軟化点よりも高い軟化点を有する高軟化点材料からなる。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、差動信号伝送ケーブルの性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における差動信号伝送ケーブルを示す斜視図である。
図2】実施の形態1における差動信号伝送ケーブルを示す断面図である。
図3】シールドテープに空隙が発生する問題を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0011】
(実施の形態1)
<差動信号伝送ケーブル1の構成>
以下に図1および図2を用いて、実施の形態1における差動信号伝送ケーブル1について説明する。図1は、差動信号伝送ケーブル1を示す斜視図である。図2は、差動信号伝送ケーブル1の断面図であり、差動信号伝送ケーブル1の延在方向に対して垂直な断面図である。
【0012】
図1に示されるように、差動信号伝送ケーブル1は、一対の導電線2、および、一対の導電線2を覆う絶縁層3を有する絶縁電線4を備える。更に、差動信号伝送ケーブル1は、絶縁電線4の外周に巻き付けられたシールドテープ5と、シールドテープ5の外周に巻き付けられたテープ6と、テープ6の外周に巻き付けられたテープ7とを備える。
【0013】
シールドテープ5は、絶縁電線4の外周に縦添え巻きで巻き付けられ、テープ6およびテープ7は、シールドテープ5の外周に螺旋状に巻き付けられている。具体的には、テープ6は、シールドテープ5の外周に螺旋状に巻き付けられ、テープ7は、テープ6の外周に螺旋状に巻き付けられている。テープ6およびテープ7は、縦添え巻きにされたシールドテープ5を押さえつけて固定し、シールドテープ5を絶縁電線4に密着させるために設けられている。従って、以下の説明では、テープ6を押さえテープ6と呼称し、テープ7を押さえテープ7と呼称する。
【0014】
また、押さえテープ6および押さえテープ7は、同一方向に巻き付けられる。図1では、押さえテープ6および押さえテープ7は右巻き(Z巻き)にされているが、押さえテープ6および押さえテープ7は左巻き(S巻き)であってもよい。
【0015】
また、図示はしないが、差動信号伝送ケーブル1は、押さえテープ7の外周を覆い、且つ、塩化ビニル、シリコンゴムまたはフッ素樹脂のような樹脂材料からなるジャケットが設けられている。
【0016】
なお、本願において、「絶縁電線4の外周に巻き付けられたシールドテープ5」または「絶縁電線4の外周を覆うシールドテープ5」などのような表現は、絶縁電線4がシールドテープ5の周囲に位置していることを意味する。そして、上記表現は、絶縁電線4およびシールドテープ5が直接接している場合も含み、絶縁電線4とシールドテープ5との間に空間または他の構造体が存在している状態で、絶縁電線4およびシールドテープ5が上記空間または上記他の構造体を介して隣接している場合も含む。このような定義は、絶縁電線4およびシールドテープ5の関係に限られず、押さえテープ6および押さえテープ7などのような他の構造体同士の関係にも適用される。
【0017】
導電線2は、例えば銅または銅合金のような金属材料からなる単線である。導電線2の表面には、銀などの金属材料からなるめっき層が形成されていてもよい。一対の導電線2の一方には、プラス極性の(ポジティブ)信号が伝送され、一対の導電線2の他方には、マイナス極性の(ネガティブ)信号が伝送される。また、一対の導電線2の各々の断面形状は、円形であり、一対の導電線の各々の直径は、0.1601mm(34AWG)以下である。
【0018】
絶縁層3は、例えばポリエチレンまたはフッ素樹脂のような樹脂材料からなり、例えば押出機を用いた押出成型技術によって形成される。なお、上記フッ素樹脂として、例えばパーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフロロアルコキシ(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)を例示できる。絶縁層3は、発泡ポリエチレンのような発泡性の樹脂材料によって構成されていてもよい。また、絶縁層3の断面形状は、楕円形であり、絶縁層3の長径は、1.25mm以下であり、絶縁層3の短径は、0.71mm以下である。このような一対の導電線2および絶縁層3によって、絶縁電線4が構成される。
【0019】
図2には、絶縁電線4の外周を覆うシールドテープ5、押さえテープ6および押さえテープ7の詳細な断面構造を示す拡大断面図が示されている。
【0020】
シールドテープ5は、絶縁層3の外周を覆う樹脂層5a(第4樹脂被覆層)および樹脂層5aの外周を覆うシールド層5cを有する。また、シールドテープ5は、樹脂層5aおよびシールド層5cを接着させるために、絶縁層3とシールド層5cとの間に設けられた接着層5bを有する。
【0021】
樹脂層5aは、例えばポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene Terephthalate)のような樹脂材料からなる。接着層5bは、例えば熱可塑性樹脂材料からなる。シールド層5cは、例えば銅、銅合金またはアルミニウムのような金属材料からなる。また、樹脂層5aの厚さは、例えば2.0~7.0μmであり、接着層5bの厚さは、例えば1.0~3.0μmであり、シールド層5cの厚さは、例えば6.0~10.0μmである。
【0022】
押さえテープ6(第1テープ)は、樹脂層6a(第1樹脂被覆層)および樹脂層6aの外周を覆う着色層6bを有する。樹脂層6aおよび着色層6bの各々は、例えばポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)のような樹脂材料からなる。また、着色層6bを構成する樹脂材料には、染料が含まれている。樹脂層6aの厚さは、例えば3.0~4.0μmであり、着色層6bの厚さは、例えば1.0~2.0μmである。
【0023】
押さえテープ7(第2テープ)は、樹脂層7b(第3樹脂被覆層)および樹脂層7bの外周を覆う高軟化点材料層7c(第2被覆層)を有する。樹脂層7bは、例えばポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)のような樹脂材料からなる。高軟化点材料層7cは、例えばアルミニウム、銅または銅合金のような可撓性の高い金属材料からなるか、ポリイミドまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような高融点の樹脂材料からなる。また、樹脂層7bの厚さは、例えば3.0~4.0μmである。
【0024】
高軟化点材料層7cが上述のような金属材料または樹脂材料からなる場合、その厚さは、例えば1.0~15.0μmである。また、高軟化点材料層7cはアルミニウムからなることが好ましく、その厚さは例えば1.0~4.0μmであることが好ましい。最も好ましくは、高軟化点材料層7cはアルミニウムからなり、その厚さは、樹脂層6aの厚さおよび樹脂層7bの厚さの各々よりも薄く、例えば1.0~2.0μmである。
【0025】
また、押さえテープ6は、着色層6bの外周を覆う接着層6cを有し、押さえテープ7は、樹脂層7bの内周側に設けられた接着層7aを有する。接着層6cおよび接着層7aの各々は、例えば熱可塑性樹脂材料からなる。また、接着層6cおよび接着層7aの各々の厚さは、例えば1.0~2.0μmである。また、接着層7aを高軟化点材料層7cに直接接着できる場合には、樹脂層7bは設けられていなくてもよい。
【0026】
ところで、図2では、各構成を判り易くするために、接着層6cおよび接着層7aを別々に図示している。後で詳細に説明するが、押さえテープ6と押さえテープ7とを接着させるために、接着層6cおよび接着層7aに対して加熱処理が行われる。加熱された接着層6cおよび接着層7aは互いに軟化し、一体化する。従って、本願では、樹脂層6aと樹脂層7bとの間に設けられている接着層6cおよび接着層7aを、1層の「接着層」として説明する場合もある。
【0027】
高軟化点材料層7cは、上述のように金属材料または樹脂材料からなるが、樹脂層6a、樹脂層7bおよび接着層(接着層6c、接着層7a)よりも軟化し難い材料からなる。言い換えれば、高軟化点材料層7cは、樹脂層6aの軟化点および樹脂層7bの軟化点よりも高い軟化点を有する材料からなり、接着層(接着層6c、接着層7a)の軟化点よりも高い軟化点を有する材料からなる。更に言い換えれば、高軟化点材料層7cは、それらの軟化点よりも高い融点を有する金属材料または樹脂材料からなる。
【0028】
実施の形態1の主な特徴は、高軟化点材料層7cが押さえテープ7に含まれていることであるが、このような特徴について説明する前に、本願発明者が検討を行って見出した新規の課題について、以下に説明する。
【0029】
<本願発明者による検討事項について>
図3は、シールドテープ5に空隙が発生する問題を示す説明図である。なお、図3で説明される差動信号伝送ケーブル1には、高軟化点材料層7cが設けられていない。
【0030】
差動信号伝送ケーブル1の製造工程では、差動信号伝送ケーブル1の端末の切断時におけるほつれを抑制するために、接着層6cおよび接着層7aを用いて、押さえテープ6と押さえテープ7とを接着させる必要がある。そのため、差動信号伝送ケーブル1を例えば加熱炉に搬入した後、接着層6cおよび接着層7aに対して加熱処理が行われる。
【0031】
図3には、差動信号伝送ケーブル1の加熱温度と、押さえテープ6および押さえテープ7がシールドテープ5を押し付ける圧力である押圧と、シールドテープ5に空隙が発生した場合の模式図との関係が示されている。
【0032】
また、図3では、加熱温度が80℃以上となる期間が、樹脂層(樹脂層6a、樹脂層7b)の変形期間として示され、加熱温度が90~100℃となる期間が、接着層(接着層6c、接着層7a)の接着期間として示されている。
【0033】
熱可塑性樹脂材料は、所定の温度に加熱されると軟化し、その後、温度が下がると固まるという特性を有する。ここでは、熱可塑性樹脂材料からなる接着層6cおよび接着層7aを軟化させるためには、90~100℃程度の加熱温度が必要となる。この際、ポリエステルのような樹脂材料からなる樹脂層6aおよび樹脂層7bは、80度程度から軟化してしまう。そうすると、押さえテープ6および押さえテープ7が伸び、押さえテープ6および押さえテープ7の押圧が小さくなるので、シールドテープ5に空隙8が発生してしまう。
【0034】
また、上記加熱処理の後、押さえテープ6および押さえテープ7の押圧が小さいままとなるので、シールドテープ5に発生した空隙8を、再び塞ぐことができない。
【0035】
特に、差動信号伝送ケーブル1の細径化を図る場合、すなわち、一対の導電線の各々の口径を34AWG(0.1601mm)以下とし、絶縁層3の長径を1.25mm以下とし、絶縁層3の短径を0.71mm以下とする場合、シールドテープ5が押さえテープ6および押さえテープ7を押す力が強くなる。それ故、樹脂層6aおよび樹脂層7bが軟化すると、シールドテープ5が押さえテープ6および押さえテープ7を押す力が相対的に強くなり易く、シールドテープ5に空隙8が更に発生し易くなる。
【0036】
ここで、空隙8の発生を抑制するための手法として、樹脂層6aに、ポリイミドまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなポリエステルよりも軟化点が高い樹脂材料を適用することも考えられる。しかし、その場合、樹脂層の材料であるポリイミドまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、経済的な方法で十分に薄層化することが難いという問題がある。それ故、実用に供されている材料を使用した場合には、押さえテープ6の厚さが大きくなってしまう。
【0037】
押さえテープ6の厚さが厚すぎる場合、押さえテープ6をシールドテープ5の外周に滑らかに巻き付けることが困難となり、シールドテープ5に空隙8が発生し易くなってしまう。一方で、押えテープ7は、主に、押えテープ6がばらけることを防ぐために設けられるので、押えテープ7には、押えテープ6よりも滑らかさが要求されない。言い換えれば、押えテープ7の厚さは、押さえテープ6よりも厚くなっても構わない。
【0038】
<実施の形態1の主な特徴について>
以上を考慮して、実施の形態1では、高軟化点材料層7cを有する押さえテープ7を適用している。上述のように、高軟化点材料層7cは、樹脂層6aの軟化点および樹脂層7bの軟化点よりも高い軟化点を有する材料からなり、接着層(接着層6c、接着層7a)の軟化点よりも高い軟化点を有する材料からなる。また、高軟化点材料層7cは、それらの軟化点よりも高い融点を有する金属材料または樹脂材料からなる。
【0039】
ここで、上記加熱処理によって、高軟化点材料層7cは軟化しない。このため、仮に、樹脂層6aおよび樹脂層7bが軟化したとしても、高軟化点材料層7cからの押圧によって、押さえテープ6および押さえテープ7の伸びが抑制されるので、押さえテープ6および押さえテープ7の押圧が維持される。
【0040】
従って、シールドテープ5を押さえつけて固定することができ、シールドテープ5を絶縁電線4に密着させることができるので、空隙8の発生を抑制することができる。このように、実施の形態1によれば、差動信号伝送ケーブル1の性能の低下を抑制することができる。
【0041】
また、実施の形態1では、高軟化点材料層7cの厚さを、樹脂層6aの厚さおよび樹脂層7bの厚さの各々よりも薄くすることも可能である。押圧を維持できる程度の厚さを備えた高軟化点材料層7cを、押さえテープ7に追加すればよいので、押さえテープ6および押さえテープ7の各々の厚さが必要以上に厚くなることを抑制できる。このため、押さえテープ6および押さえテープ7をシールドテープ5の外周に滑らかに巻き付けることができる。従って、実施の形態1によれば、差動信号伝送ケーブル1の細径化を図ることも、容易となる。
【0042】
以上、本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0043】
例えば、上記実施の形態では、高軟化点材料層7cが、アルミニウム、銅または銅合金のような金属材料またはポリイミドまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような高融点の樹脂材料である場合を例示したが、軟化し難い材料であれば、高軟化点材料層7cを構成する材料は、他の材料であってもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、高軟化点材料層7cが1層である場合を例示したが、高軟化点材料層7cは、複数層で構成されていてもよい。その場合、各層を構成する材料は、軟化し難い材料であれば、互いに異なる材料であってもよい。ただし、押さえテープ7の厚さの増加を考慮して、高軟化点材料層7cが複数層で構成される場合、各層の合計厚さは、高軟化点材料層7cが1層である場合と同じ厚さにすることが好ましい。
【符号の説明】
【0045】
1 差動信号伝送ケーブル
2 導電線
3 絶縁層
4 絶縁電線
5 シールドテープ
5a 樹脂層
5b 接着層
5c シールド層
6 押さえテープ(テープ)
6a 樹脂層
6b 着色層
6c 接着層
7 押さえテープ(テープ)
7a 接着層
7b 樹脂層
7c 高軟化点材料層
8 空隙
図1
図2
図3