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特許7491222ハロゲンフッ化物の除去方法およびハロゲンフッ化物混合ガス中の含有ガス成分の定量分析方法、定量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ハロゲンフッ化物の除去方法およびハロゲンフッ化物混合ガス中の含有ガス成分の定量分析方法、定量分析装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240521BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240521BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B01D53/14
B01D53/14 200
B01D53/14 100
G01N30/88 G
G01N30/06 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020561318
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048055
(87)【国際公開番号】W WO2020129726
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018239516
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019194301
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(72)【発明者】
【氏名】松井 一真
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02732410(US,A)
【文献】特開2012-106200(JP,A)
【文献】特開平08-215539(JP,A)
【文献】国際公開第2010/090118(WO,A1)
【文献】特開2007-057371(JP,A)
【文献】特開平04-009757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12、
53/14-53/18、
53/34-53/85、
53/92、53/96
G01N 30/06、30/88
B01J 20/00-20/34、
H01L 21/3065
C07B 31/00-61/00、
63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスと、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の塩化物、臭化物またはヨウ化物である除去剤とを、10℃以上300℃未満の反応温度で反応させることを特徴とする、混合ガス中のハロゲンフッ化物の除去方法。
【請求項2】
前記ハロゲンフッ化物が、BrF、BrF3、BrF5、IF3、IF5、IF7から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のハロゲンフッ化物の除去方法。
【請求項3】
前記除去剤がカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の塩化物であり、前記混合ガスと前記塩化物との反応温度が10℃以上100℃未満である、請求項1または2に記載のハロゲンフッ化物の除去方法。
【請求項4】
前記除去剤がカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の臭化物またはヨウ化物であり、前記混合ガスと前記臭化物またはヨウ化物との反応温度が100℃以上300℃未満である、請求項1または2に記載のハロゲンフッ化物の除去方法。
【請求項5】
その他のガス成分が、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、テトラフルオロメタン、四フッ化珪素、六フッ化硫黄、六フッ化タングステンおよび五フッ化クロムから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハロゲンフッ化物の除去方法。
【請求項6】
前記混合ガスと前記除去剤とを、反応させたのち、生成した反応生成物を、シリカゲル、モレキュラーシーブ、活性炭、鉄粒、銅粒、亜鉛粒から選ばれる少なくとも1種の吸着剤またはアルカリ水溶液と接触させることによって、反応副生物を除去することを特徴とする、請求項1に記載のハロゲンフッ化物の除去方法。
【請求項7】
臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスと、除去剤とを反応させて、前記混合ガス中のハロゲンフッ化物を除去し、さらに生成した副生成物を除去したのち、残存ガスをガスクロマトグラフにより定量分析する方法であって、
前記除去剤が、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の塩化物、臭化物またはヨウ化物である、
ことを特徴とするハロゲンフッ化物混合ガス中の含有ガス成分の定量分析方法。
【請求項8】
臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスが充填された試料容器、ハロゲンフッ化物除去槽、副生成物除去槽、およびガスクロマトグラフを備え、ハロゲンフッ化物除去槽には除去剤が充填されるとともに、試料ガスからハロゲンフッ化物および副生成物が除去された残存ガスをガスクロマトグラフに導入する、ハロゲンフッ化物混合ガス中の含有ガス成分の定量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガス中に含まれる臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物の除去方法に関する。
また本発明は、半導体加工処理ガスとして使用される臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物に同伴している微量不純物成分の定量分析方法および定量分析装置に関する。さらに詳しくは、前記ハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガス中に含まれる酸素、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンなどの不純物成分を簡便かつ精度よく定量分析する方法および定量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素以外のハロゲンのフッ化物ガス、すなわちハロゲンフッ化物ガスは、最近の電子産業の発展に伴いエキシマレーザー用、CVD装置のクリーニング用等、エッチングガスなどの半導体加工処理用ガスとして、様々な用途に使用されるようになってきており、その用途も年々広がってきている。
近年、半導体の微細化が進行してエッチングガス、クリーニングガスには高純度のガスが求められており、微量不純物を精度よく定量する分析方法が必要である。
【0003】
たとえばフッ素系ガス中の不純物の定量分析方法として、特許文献1には、F2、ClF、ClF3、ClF5中に不純物を含有するガスを塩化物充填層に通して、前記ガスを塩素ガスに変換したあと、塩素ガスを完全に除去して、ガスクロマトグラフで微量不純物を分析する方法を開示している。特許文献1には、塩化物として塩化ナトリウムが使用されている。
【0004】
また、特許文献2にはその他のガス成分を含有するフッ素ガスと臭化物とを反応させて、生成した臭素を除去し、次いで臭素を除去した後の残存ガスをガスクロマトグラフで定量分析する方法を開示している。
【0005】
さらに、特許文献3には、フッ素を含むガスとCa(OH)2等のアルカリ化合物との反応により、酸素ガスを発生させ、酸素ガスを定量することでフッ素ガス成分を定量する方法が開示されている。
【0006】
また、ハロゲンフッ化物ガスは、高い反応性を有するものが多く、危険性および毒性の高いものが多い。このため、ハロゲンフッ化物ガスをそのまま大気中に放出することはできない。
【0007】
特許文献4には、ClF3、BrF3、BrF5のようなハロゲン系ガスを水酸化カルシウムおよび水酸化カリウムの混合物と反応させ、固体ハロゲン化物として固定化させるハロゲン系ガスの除去法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2725876号公報
【文献】特許第4642602号公報
【文献】特公平7-97106号公報
【文献】特開平8-215538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4の方法では、ハロゲンフッ化物と水酸化カルシウムとの反応で生成する水によって固体アルカリが溶解または潮解してスラリーが生成し、物質移動の管を閉塞する可能性があった。
【0010】
本発明では、このような閉塞の可能性を低減した状態で臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物を除去して排ガスの取り扱いを容易にした除去方法を提供することを課題とする。
【0011】
さらに、本発明では、臭素フッ化物、ヨウ素フッ化物などのハロゲンフッ化物に同伴している微量不純物の定量分析方法および定量分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような状況の下、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ハロゲンフッ化物と微量不純物等のその他のガス成分を含有する混合ガスと、除去剤とを反応させてハロゲンフッ化物を除去し、さらに生成した副生成物を除去し、残存ガスを定量分析することでハロゲンフッ化物に同伴している微量不純物を定量できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成は以下の通りである。
【0013】
[1]臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスと、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の塩化物、臭化物またはヨウ化物である除去剤とを、反応させることを特徴とする、混合ガス中のハロゲンフッ化物の除去方法。
[2]前記除去剤との反応温度が10℃以上300℃未満である、[1]のハロゲンフッ化物の除去方法。
[3]前記ハロゲンフッ化物が、BrF、BrF3、BrF5、IF3、IF5、IF7から選択される少なくとも1種である、[1]のハロゲンフッ化物の除去方法。
[4]前記除去剤がカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の塩化物であり、前記混合ガスと前記塩化物との反応温度が10℃以上100℃未満である、[1]~[3]のハロゲンフッ化物の除去方法。
[5]前記除去剤がカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の臭化物またはヨウ化物であり、前記混合ガスと前記臭化物またはヨウ化物との反応温度が100℃以上300℃未満である、[1]~[3]のハロゲンフッ化物の除去方法。
[6]その他のガス成分が、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、テトラフルオロメタン、四フッ化珪素、六フッ化硫黄、六フッ化タングステンおよび五フッ化クロムから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、[1]のハロゲンフッ化物の除去方法。
[7]反応生成物を、シリカゲル、モレキュラーシーブ、活性炭、鉄粒、銅粒、亜鉛粒から選ばれる少なくとも1種の吸着剤またはアルカリ水溶液と接触させることによって、反応副生物を除去することを特徴とする、[1]のハロゲンフッ化物の除去方法。
[8]臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスと、除去剤とを反応させて、前記混合ガス中のハロゲンフッ化物を除去し、さらに生成した副生成物を除去したのち、残存ガスをガスクロマトグラフにより定量分析する方法であって、
前記除去剤が、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる元素の塩化物、臭化物またはヨウ化物である、
ことを特徴とするハロゲンフッ化物混合ガス中の含有ガス成分の定量分析方法。
[9]臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスが充填された試料容器、ハロゲンフッ化物除去槽、副生成物除去槽、およびガスクロマトグラフを備え、ハロゲンフッ化物除去槽には除去剤が充填されるとともに、試料ガスからハロゲンフッ化物および副生成物が除去された残存ガスをガスクロマトグラフに導入する、ハロゲンフッ化物混合ガス中の含有ガス成分の定量分析装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハロゲンフッ化物の除去方法によれば、反応物による配管の閉塞の可能性を低減した状態で、臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物を効率よく除去できる。このため、排ガスの取り扱いを容易にした除去方法を提供することが可能となる。
【0015】
また、本発明の定量分析方法および定量分析装置によれば、従来知られていなかったハロゲンフッ化物に同伴している酸素、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンなどの不純物成分を精度よく定量できる。このため、半導体のエッチングガスなどに使用される、高純度ハロゲンフッ化物を安定供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1~2で評価する分析装置の概略図である。
図2】実施例3~10で評価する分析装置の概略図である。
図3】実施例11~19で評価する分析装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る、臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガス(以降、「ハロゲンフッ化物混合ガス」または「混合ガス」という場合がある)からハロゲンフッ化物を除去する方法および前記混合ガス中のハロゲンフッ化物の定量分析方法および定量分析装置について詳細に説明する。
【0018】
臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物としては、BrF、BrF3、BrF5、IF3、IF5、IF7から選択した1種または2種以上が使用される。
前記混合ガスに含まれるその他のガス成分としては、不純物成分や希釈ガスなどが挙げられる。
【0019】
不純物成分としては、酸素、窒素、二酸化炭素およびテトラフルオロメタン等の気体;四フッ化珪素、六フッ化硫黄、六フッ化タングステンおよび五フッ化クロム等の揮発性金属フッ化物などが挙げられる。これらは、ハロゲンフッ化物製造に由来するものが多い。また、上記希釈ガス成分としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが挙げられ、安全性や腐食等などの観点で混合される。
【0020】
前記混合ガス中のその他のガス成分の含有量は、ハロゲンフッ化物に対して、通常1体積ppm~5体積%程度の不純物ガス量であってもよいし、通常10~90体積%程度の希釈ガス量であってもよいが、あるいはこれらの範囲以外の量でもあってもよく、特に制限されない。
【0021】
前記混合ガスは、その他のガス成分を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。その他のガス成分を2種以上含む場合、これらの含有量は特に制限されず、微量のその他のガス成分を2種以上含んでいてもよいし、多量のその他のガス成分を2種以上含んでいてもよいし、あるいは、微量のその他のガス成分と多量のその他のガス成分とが混在して含まれていてもよい。
【0022】
本発明に係る除去方法では、前記混合ガス中のハロゲンフッ化物を除去する。
本発明に係る定量分析方法は、微量成分のみ、または多量成分のみの分析だけでなく、微量成分と多量成分とが混在するガス成分についても定量的な分析を可能にする。
【0023】
本発明では、まずハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスと、除去剤とを反応させてハロゲンフッ化物を除去するとともに、生成した副生成物を除去する。
除去剤としては金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物を用いることができる。
【0024】
除去剤との反応では、ハロゲンフッ化物のハロゲン分(フッ素除く)とフッ素分とを分離して、フッ素分と除去剤の金属塩とが反応して、フッ化金属塩となり、塩素、臭素、ヨウ素を発生させ回収する。除去剤の量は、ハロゲンフッ化物に対し、反応当量以上の過剰量含まれていればよく、また、連続処理する場合、流通量に対し、過剰となる量であればよく、例えば反応当量の3~30倍でもよく、好ましくは反応当量の5~10倍である。
【0025】
金属塩化物としては塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムまたは塩化バリウムは、比較的に純度が高く安価な試薬として入手でき、好適である。金属臭化物としては臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウムまたは臭化バリウムは、比較的に純度が高く安価な試薬として入手でき、好適である。金属ヨウ化物としてはヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウムまたはヨウ化バリウムは比較的に純度が高く安価な試薬として入手でき、好適である。
【0026】
たとえば、除去剤として塩化カリウムを使用して五フッ化臭素と反応させると下記式(1)で示される化学反応によって フッ化カリウムと臭素と塩素が発生する。
10KCl + 2BrF5 → 10KF + Br2 + 5Cl2 ・・・(1)
除去剤として臭化カリウムを使用して五フッ化臭素と反応させると下記式(2)で示される化学反応によって、フッ化カリウムと臭素が発生する。
5KBr + BrF5 → 5KF + 3Br2 ・・・(2)
除去剤としてヨウ化カリウムを使用して七フッ化ヨウ素と反応させると下記式(3)で示される化学反応によってフッ化カリウムとヨウ素が発生する。
7KI + IF7 → 7KF + 4I2 ・・・(3)
【0027】
ハロゲンフッ化物と除去剤との反応は、例えば10℃以上300℃未満で行うことができ、室温付近でも比較的に容易に進行するが、反応速度を上げて置換反応を完全に終了させるためには、反応温度は、除去剤が臭化物またはヨウ化物の場合には、100℃以上、さらには、150℃以上が好ましい。また、除去剤が塩化物の場合には、10℃以上100℃未満が好ましく、15℃以上95℃以下がより好ましく、20℃以上90℃以下が更に好ましい。温度を高くしすぎると配管を腐食するおそれがある。本発明の方法であれば、反応生成物による、物質移動の管閉塞は少ない。
【0028】
前記反応は、通常気相で行い、前記除去剤が充填された反応管に、ハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスを通過・反応させると、金属フッ化物は、反応管中に沈着して反応管内に残り、その他のガス成分と、副生成物のハロゲン分子とが反応管から排出され、前記混合ガス中のその他のガス成分は実質的に除去剤と反応しない。
【0029】
上記塩素、臭素、ヨウ素などの副生成物は、吸着剤や吸収剤と反応生成物を接触させることによって、吸着または吸収されて除去される。たとえば、シリカゲル、モレキュラーシーブ、活性炭などの吸着剤、鉄粒、銅粒、亜鉛粒などの反応剤またはアルカリ水溶液を含む吸収剤などを使用することができる。なお、アルカリ水溶液とは、pHが9~14程度のものをいうが特に限定されない。
【0030】
本発明の除去方法では、吸着または吸収されなかったその他のガス成分(残存ガス)中のテトラフルオロメタンや六フッ化硫黄など比較的安定なガス成分は、活性炭やゼオライトなどの吸着剤により吸着され、四フッ化ケイ素、六フッ化タングステンおよび五フッ化クロムなど比較的反応性の高いガス成分はソーダライムなどで分解されることにより分離される。残った不純物成分である、窒素、アルゴンなどの不活性ガスは希釈ガスとして再利用または大気中へ放出できる。
【0031】
一方、本発明の定量分析方法では、吸着または吸収されなかったその他のガス成分(残存ガス)を、ガスクロマトグラフにより定量分析して、反応前の重量と反応後の重量変化および、残存ガス中の定量分析結果から、前記混合ガス中に含有されていたその他のガス成分を定量的に分析することができる。
【0032】
ガスクロマトカラムの充填剤は、目的とするその他のガス成分によって任意に選択することができ、酸素や窒素を定量分析する場合にはモレキュラーシーブ13Xが好ましい。さらに、ガスクロマトグラフの検出器も任意に選択することができるが、熱伝導度検出器(TCD)が実用性の面から好ましい。
【0033】
次に、本発明の分析方法に用いる装置を示す図1を用いて、更に具体的に説明する。
本発明のかかる分析装置では、ハロゲンフッ化物とその他のガス成分を含有する混合ガスが充填された試料ガスボンベ1、希釈ガスが充填されたボンベ2、および該容器に接続した配管およびをこれらの送気機構3、ハロゲンフッ化物除去槽4、副生成物除去槽5、およびガスクロマトグラフ7を備え、必要に応じて、流路切替バルブ6および、排気のための除害槽8を備える。ハロゲンフッ化物除去槽には除去剤が充填されるとともに必要に応じて加熱手段(図示せず)が設けられ、副生成物除去槽には、前記した吸着・吸収剤が充填されている。希釈ガスは、試料ガスと混合させるが、ガスクロマトグラフ測定のキャリアガスとして使用することもできる。なお、図1中では同じボンベ2から希釈ガスが試料ガスと混合されるが、キャリアガスは別のボンベから供給してもよい。キャリアガスとしては、窒素ガス、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスと共に水素ガスも使用できる。
【0034】
前記混合ガスは、希釈ガスとともに、送気機構3としてたとえば、マスフローコントローラー(MFC)などによって、ハロゲンフッ化物除去槽4に送られて、除去剤と反応させ、反応後の副生成物は、副生成物除去槽5で除去される。そして残った残存ガスは、必要に応じて希釈ガスと混合され、試料ガスとして試料計量管、流量計を通ってガスクロマトグラフ7で定量分析される。定量分析後の試料ガスは排気されるが、排ガスは必要に応じて、活性炭やゼオライトなどの吸着剤、ソーダライムなどの分解剤が充填された除害槽8を通して、不純物を除去して排気されることも可能である。
【0035】
ガスクロマトグラフに導入された試料ガスはガスクロマトグラフ用の充填剤が充填されたカラムで分離され、熱伝導度検出器で検出される。予め同様な操作で分析した標準ガスのピーク面積と試料ガスの微量成分のピーク面積を比較することによって微量成分の濃度を知ることが出来る。
【実施例
【0036】
以下、実施例により、本実施の形態に係る発明を更に具体的に説明するが、本実施の形態に係る発明は、以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0037】
<実施例1>
五フッ化臭素を試料ガスとしてのガス組成を本発明に係る定量分析方法に従って分析した。分析は図1に示す分析装置により行った。
【0038】
除去剤として臭化カリウムを充填したハロゲンフッ化物除去槽4、副生成物除去槽5としてシリカゲルを充填した吸着管、ガスクロマトグラフ7にはモレキュラーシーブ13Xを充填したカラムを使用した。試料ガスと臭化カリウムとの反応は200℃にした。また、キャリアガスは、ヘリウムを使用した。
【0039】
ガスクロマトグラフによる分析結果では、試料ガス中に、N2が240体積ppm、O2が5体積ppm以下で含まれ、残りは、五フッ化臭素であった。なお、ガスクロマトグラフのカラム入口、検出器を確認したが五フッ化臭素による腐食は見られなかった。
【0040】
<実施例2>
七フッ化ヨウ素を試料ガスとしてのガス組成を本発明に係る定量分析方法に従って分析した。分析は図1に示す分析装置により行った。
【0041】
除去剤としてヨウ化カリウムを充填したハロゲンフッ化物除去槽4、副生成物除去槽5としてシリカゲルを充填した吸着管、ガスクロマトグラフ7にはモレキュラーシーブ13Xを充填したカラムを使用した。試料ガスとヨウ化カリウムとの反応は200℃にした。また、キャリアガスは、ヘリウムを使用した。
【0042】
ガスクロマトグラフによる分析結果では、試料ガス中に、N2が=320体積ppm、O2が5体積ppm以下で含まれ、残りは、七フッ化ヨウ素であった。なお、ガスクロマトグラフのカラム入口、検出器を確認したが七フッ化ヨウ素による腐食は見られなかった。
【0043】
<比較例1>
除去剤の代わりに、Ca(OH)2を充填した反応管を用いた以外は実施例1と同様の方法で分析した。反応管の温度は200℃にした。
五フッ化臭素とCa(OH)2が反応した結果、O2が多量に検出されたため、O2とN2が分離されずN2の定量は不可であった。
【0044】
<実施例3>
図2に示すように、内径50.8mm、長さ900mmである円筒形のハロゲンフッ化物除去槽4に、粒径が3~20mmの塩化カルシウム (トクヤマ製,2560g)を充填した。試料ガスボンベ1(試料容器)からの五フッ化臭素を希釈ガスボンベ2からの窒素で10体積%の濃度に希釈したガスを空筒基準線速度0.6m/分で、25℃、大気圧下でハロゲンフッ化物除去槽4に流通させた。ハロゲンフッ化物除去槽4の排出口に赤外分光分析装置(FT-IR)9を接続し、ハロゲンフッ化物除去槽4から出た流体の五フッ化臭素ガス濃度を測定し、1ppmを超えた時点で五フッ化臭素の流通を停止し、流通を停止するまでに処理された五フッ化臭素の処理量を求めた。その結果、表1に示すように201gの五フッ化臭素を除去でき、その際、急激な発熱や配管等の閉塞は無かった。
【0045】
<実施例4>
塩化カルシウムに代えて塩化カリウム(関東化学製)を用い、ハロゲンフッ化物除去槽4の温度を90℃とする以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0046】
<実施例5>
塩化カルシウムに代えて塩化マグネシウム(関東化学製)を用いる以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0047】
<実施例6>
流通する五フッ化臭素の濃度を1体積%とする以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0048】
<実施例7>
流通する五フッ化臭素の濃度を20体積%とする以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0049】
<実施例8>
処理ガスを七フッ化ヨウ素とし、ハロゲンフッ化物除去槽4から出た流体の七フッ化ヨウ素ガス濃度を測定し、1ppmを超えた時点で七フッ化ヨウ素の流通を停止する以外は、実施例3と同様の方法で七フッ化ヨウ素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0050】
<実施例9>
塩化カルシウムに代えて臭化カリウム(関東化学製)を用い、ハロゲンフッ化物除去槽4の温度を100℃とする以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0051】
<実施例10>
処理ガスを七フッ化ヨウ素とし、塩化カルシウムに代えてヨウ化カリウム(関東化学製)を用い、ハロゲンフッ化物除去槽4の温度を100℃とし、ハロゲンフッ化物除去槽4から出た流体の七フッ化ヨウ素ガス濃度を測定し、1ppmを超えた時点で七フッ化ヨウ素の流通を停止する以外は、実施例3と同様の方法で七フッ化ヨウ素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0052】
<実施例11>
図3に示すように、赤外分光分析計9の排気口に粒径2~4mmのシリカゲル(関東化学製,2038g)を充填した内径76.2mm、長さ900mmである円筒形の副生成物除去槽5をもうけ、副生成物除去槽5の排出口に紫外可視吸光測定器(UV-Vis)10を接続し、副生成物除去槽5から出た流体の塩素ガス濃度を測定し、1ppmを超えた時点で五フッ化臭素の流通を停止する以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0053】
<実施例12>
シリカゲルに代えてモレキュラーシーブ13X(ユニオン昭和製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0054】
<実施例13>
シリカゲルに代えてモレキュラーシーブ5A(ユニオン昭和製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0055】
<実施例14>
シリカゲルに代えて活性炭(粒状白鷺、大阪ガスケミカル製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0056】
<実施例15>
シリカゲルに代えて90質量%Al23-10質量%Na2(BASF製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0057】
<実施例16>
シリカゲルに代えてFe粒(関東化学製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0058】
<実施例17>
シリカゲルに代えてCu粒(関東化学製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0059】
<実施例18>
シリカゲルに代えてZn粒(関東化学製)を用いる以外は、実施例11と同様の方法で五フッ化臭素の処理を行った。その結果を表1に示す。尚、配管等の閉塞は無かった。
【0060】
<実施例19>
ハロゲンフッ化物除去槽の温度を150℃にした以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の除去処理を行った。その結果、実施例3と同程度の五フッ化臭素が処理できたが、若干、配管の腐食が見られた。
【0061】
<比較例2>
除去剤として塩化カルシウムに変えて、ソーダライム(矢橋工業製、水酸化カルシウムCa(OH)2(約75質量%)、水 H2O(約20質量%)、水酸化ナトリウムNaOH(約3質量%)、水酸化カリウムKOH(約1質量%))のみを用いる以外は、実施例3と同様の方法で五フッ化臭素の除去処理を行った。その結果、反応中にハロゲンフッ化物除去槽入り口に設置した圧力計の値が上昇したことから、ハロゲンフッ化物除去槽が閉塞したと判断し、五フッ化臭素の流通を停止した。流通停止までに処理した五フッ化臭素は47gであった。ハロゲンフッ化物除去槽を開放し、槽内を観察すると、茶色スラリーの発生が認められた。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0063】
混合ガス中の臭素またはヨウ素を含むハロゲンフッ化物を、容易に分離できる除去方法を提供できる。このため、使用された半導体加工処理用ガスを、安全に高い処理効率で長期間継続して排ガス処理できる。
【0064】
または、本発明によればハロゲンフッ化物中の微量不純物の定量分析方法を提供できる。これによって、高純度ハロゲンフッ化物の安定供給が可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1:試料ガスボンベ
2:希釈ガスボンベ
3:送気機構
4:ハロゲンフッ化物除去槽
5:副生成物除去槽
6:流路切替バルブ
7:ガスクロマトグラフ
8:除害槽
9:赤外分光分析装置(FT-IR)
10:紫外可視吸光測定器(UV-Vis)
図1
図2
図3