(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】EUVL用ガラス基板、及びその製造方法、並びにEUVL用マスクブランク、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20240521BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20240521BHJP
G03F 1/60 20120101ALI20240521BHJP
【FI】
C03C15/00 A
G03F1/24
G03F1/60
(21)【出願番号】P 2021021787
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020084729
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奈良 拓真
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】山名 哲史
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C15/00-23/00
G03F1/22-1/24
G03F1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の第1主面と、前記第1主面とは反対向きの矩形状の第2主面と、前記第1主面及び前記第2主面に対して垂直な4つの端面と、前記第1主面と前記端面との境界に形成された4つの第1面取面と、前記第2主面と前記端面との境界に形成された4つの第2面取面と、を有し、
TiO
2を含有する石英ガラスで形成され、
前記端面は、フッ素(F)及び前記フッ素と共にガスクラスタを形成する前記フッ素以外の元素(A)を含み、下記式(1)及び下記式(2)を満たす、EUVL用ガラス基板。
【数1】
【数2】
上記式(1)中、D1(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したFの強度であり、xは前記端面からの深さ(単位:nm)、a1x+b1はxが200以上400以下の範囲におけるD1(x)を最小二乗法で近似した直線であり、上記式(2)中、D2(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したAの強度であり、xは前記端面からの深さ(単位:nm)、a2x+b2はxが200以上400以下の範囲におけるD2(x)を最小二乗法で近似した直線である。
【請求項2】
矩形状の第1主面と、前記第1主面とは反対向きの矩形状の第2主面と、前記第1主面及び前記第2主面に対して垂直な4つの端面と、前記第1主面と前記端面との境界に形成された4つの第1面取面と、前記第2主面と前記端面との境界に形成された4つの第2面取面と、隣り合う2つの前記端面と前記第1主面の角を削り落とすように前記第1主面に対して斜めに形成された1つ以上のノッチ面と、を有し、
TiO
2を含有する石英ガラスで形成され、
前記ノッチ面は、フッ素(F)及び前記フッ素と共にガスクラスタを形成する前記フッ素以外の元素(A)を含み、下記式(3)及び下記式(4)を満たす、EUVL用ガラス基板。
【数3】
【数4】
上記式(3)中、D3(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したFの強度であり、xは前記ノッチ面からの深さ(単位:nm)、a3x+b3はxが200以上400以下の範囲におけるD3(x)を最小二乗法で近似した直線であり、上記式(4)中、D4(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したAの強度であり、xは前記ノッチ面からの深さ(単位:nm)、a4x+b4はxが200以上400以下の範囲におけるD4(x)を最小二乗法で近似した直線である。
【請求項3】
前記フッ素以外の前記元素(A)は、炭素(C)、ホウ素(B)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、又はタングステン(W)である、請求項1又は2に記載のEUVL用ガラス基板。
【請求項4】
前記フッ素以外の前記元素(A)は、炭素(C)である、請求項3に記載のEUVL用ガラス基板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のEUVL用ガラス基板と、
EUVL用ガラス基板上に形成される、EUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成される、前記EUV光を吸収する吸収膜とを有する、EUVL用マスクブランク。
【請求項6】
請求項1に記載のEUVL用ガラス基板を製造する方法であって、
前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を含むガスクラスタを前記EUVL用ガラス基板に照射し、前記端面に前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を打ち込むことを含む、EUVL用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載のEUVL用ガラス基板を製造する方法であって、
前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を含むガスクラスタを前記EUVL用ガラス基板に照射し、前記ノッチ面に前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を打ち込むことを含む、EUVL用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記ガスクラスタは、CF
4、CHF
3、CH
2F
2、C
2F
6、BF
3、NF
3、SF
6、SeF
6、TeF
6、又はWF
6を含む、請求項6又は7に記載のEUVL用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記ガスクラスタは、CF
4、CHF
3、又はCH
2F
2を含む、請求項8に記載のEUVL用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のEUVL用ガラス基板と、前記EUVL用ガラス基板上に形成される、EUV光を反射する反射膜と、前記反射膜上に形成される、前記EUV光を吸収する吸収膜とを有するEUVL用マスクブランクの製造方法であって、
前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を含むガスクラスタを前記EUVL用ガラス基板に照射し、前記端面に前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を打ち込むことを含む、EUVL用マスクブランクの製造方法。
【請求項11】
請求項2に記載のEUVL用ガラス基板と、前記EUVL用ガラス基板上に形成される、EUV光を反射する反射膜と、前記反射膜上に形成される、前記EUV光を吸収する吸収膜とを有するEUVL用マスクブランクの製造方法であって、
前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を含むガスクラスタを前記EUVL用ガラス基板に照射し、前記ノッチ面に前記フッ素及び前記フッ素以外の前記元素を打ち込むことを含む、EUVL用マスクブランクの製造方法。
【請求項12】
前記ガスクラスタは、CF
4、CHF
3、CH
2F
2、C
2F
6、BF
3、NF
3、SF
6、SeF
6、TeF
6、又はWF
6を含む、請求項10又は11に記載のEUVL用マスクブランクの製造方法。
【請求項13】
前記ガスクラスタは、CF
4、CHF
3、又はCH
2F
2を含む、請求項12に記載のEUVL用マスクブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、EUVL用ガラス基板、及びその製造方法、並びにEUVL用マスクブランク、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイスの製造には、フォトリソグラフィ技術が用いられている。フォトリソグラフィ技術では、露光装置によって、フォトマスクのパターンに光を照射し、フォトマスクのパターンをレジスト膜に転写する。
【0003】
最近では、微細パターンの転写を可能とするため、短波長の露光光、例えば、ArFエキシマレーザ光、さらにはEUV(Extreme Ultra-Violet)光などの使用が検討されている。
【0004】
ここで、EUV光とは、軟X線および真空紫外光を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、露光光として13.5nm程度の波長のEUV光が主に検討されている。
【0005】
特許文献1には、EUVL(Extreme Ultra-Violet Lithography)用マスクブランクの製造方法が記載されている。EUVL用マスクブランクは、ガラス基板と、ガラス基板の上に形成される反射膜と、反射膜の上に形成される吸収膜とを含む。
【0006】
EUVL用マスクブランクには、微細パターンの転写精度を向上すべく、高い平坦度が求められる。EUVL用マスクブランクの平坦度は主に基板であるガラス基板の平坦度で決まるので、ガラス基板には高い平坦度が求められる。
【0007】
そこで、ガラス基板の平坦度を向上すべく、ビーム状のガスクラスタをガラス基板の主面に照射するエッチング工程が行われる。ガラス基板の主面は、ガスクラスタによって局所的にエッチングされ、平坦化される。
【0008】
特許文献1には、ガスクラスタの照射によって、ガラス基板の主面から深さ100nm程度までフッ素又は塩素を打ち込む技術が開示されている。この技術によれば、ガラス基板の主面に圧縮応力層が生じ、ガラス基板の主面の強度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、EUVL用ガラス基板は、ガスクラスタを照射するエッチング工程の後に、研磨工程、検査工程、及び成膜工程などに供される。これらの工程をまとめて後工程と呼ぶ。
【0011】
後工程では、ガラス基板の端面が、保持具又は位置決め具等に押し当てられる。それゆえ、端面には、傷が付きやすい。なお、端面の代わりに、又は端面に加えて、ノッチ面が、保持具又は位置決め具に押し当てられることもある。
【0012】
ノッチ面は、隣り合う2つの端面と主面の角を削り落とすように、主面に対して斜めに形成される。ノッチ面はガラス基板の向きを示し、ガラス基板の向きが所望の向きになるように、ガラス基板が各種の装置に設置され、保持具又は位置決め具等に押し当てられる。
【0013】
なお、ノッチ面は、無くてもよい。
【0014】
ガラス基板の端面又はノッチ面に、傷が付くのは避けられない。但し、その傷が伸展し、大きな欠陥が生じると、ガラス基板は不良品として廃棄されてしまう。従って、歩留まりが低下してしまう。
【0015】
本開示の一態様は、EUVL用ガラス基板の端面又はノッチ面に形成された傷の伸展を抑制できる、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の一態様に係るEUVL用ガラス基板は、矩形状の第1主面と、前記第1主面とは反対向きの矩形状の第2主面と、前記第1主面及び前記第2主面に対して垂直な4つの端面と、前記第1主面と前記端面との境界に形成された4つの第1面取面と、前記第2主面と前記端面との境界に形成された4つの第2面取面と、を有する。EUVL用ガラス基板は、TiO2を含有する石英ガラスで形成される。前記端面は、フッ素(F)及び前記フッ素と共にガスクラスタを形成する前記フッ素以外の元素(A)を含み、下記式(1)及び下記式(2)を満たす。
【0017】
【0018】
【数2】
上記式(1)中、D1(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したFの強度であり、xは前記端面からの深さ(単位:nm)、a1x+b1はxが200以上400以下の範囲におけるD1(x)を最小二乗法で近似した直線である。上記式(2)中、D2(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したAの強度であり、xは前記端面からの深さ(単位:nm)、a2x+b2はxが200以上400以下の範囲におけるD2(x)を最小二乗法で近似した直線である。
【0019】
本開示の別の一態様に係るEUVL用ガラス基板は、矩形状の第1主面と、前記第1主面とは反対向きの矩形状の第2主面と、前記第1主面及び前記第2主面に対して垂直な4つの端面と、前記第1主面と前記端面との境界に形成された4つの第1面取面と、前記第2主面と前記端面との境界に形成された4つの第2面取面と、隣り合う2つの前記端面と前記第1主面の角を削り落とすように前記第1主面に対して斜めに形成された1つ以上のノッチ面と、を有する。EUVL用ガラス基板は、TiO2を含有する石英ガラスで形成される。前記ノッチ面は、フッ素(F)及び前記フッ素と共にガスクラスタを形成する前記フッ素以外の元素(A)を含み、下記式(3)及び下記式(4)を満たす。
【0020】
【0021】
【数4】
上記式(3)中、D3(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したFの強度であり、xは前記ノッチ面からの深さ(単位:nm)、a3x+b3はxが200以上400以下の範囲におけるD3(x)を最小二乗法で近似した直線であり、上記式(4)中、D4(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したAの強度であり、xは前記ノッチ面からの深さ(単位:nm)、a4x+b4はxが200以上400以下の範囲におけるD4(x)を最小二乗法で近似した直線である。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一態様によれば、EUVL用ガラス基板の端面又はノッチ面に形成された傷の伸展を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るEUVL用マスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1のS101に供されるガラス基板の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るEUVL用マスクブランクを示す断面図である。
【
図5】
図5は、EUVL用フォトマスクの一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る加工装置を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図6のガラス基板、及びその周辺部品を拡大して示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図7のガスクラスタの照射方向から見た、ガラス基板、及びその周辺部品を示す図である。
【
図9】
図9は、
図7のクランプ及びスペーサを別の方向から見た図である。
【
図10】
図10は、ガラス基板に対するガスクラスタの衝突の一例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、例1のガラス基板の端面に対する、ガスクラスタの照射を示す図である。
【
図12】
図12は、例1のガラス基板の端面をTOF-SIMSで測定した、F強度/Si強度の深さ方向分布を示す図である。
【
図13】
図13は、例1のガラス基板の端面をTOF-SIMSで測定した、C強度/Si強度の深さ方向分布を示す図である。
【
図14】
図14は、例1のガラス基板の端面の、ガスクラスタ照射前後の硬さを比較した図である。
【
図15】
図15は、例2のガラス基板のノッチ面をTOF-SIMSで測定した、F強度/Si強度の深さ方向分布を示す図である。
【
図16】
図16は、例2のガラス基板のノッチ面をTOF-SIMSで測定した、C強度/Si強度の深さ方向分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0025】
図1に示すように、EUVL(Extreme Ultra-Violet Lithography)用マスクブランクの製造方法は、S101~S107を有する。マスクブランクの製造にはガラス基板が用いられる。ガラス基板のガラスは、TiO
2を含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiO
2を80質量%~95質量%、TiO
2を4質量%~17質量%含んでよい。TiO
2含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiO
2およびTiO
2以外の第三成分や不純物を含んでもよい。このような石英ガラスとして、例えば、Corning社のULE(登録商標)7973シリーズを用いてもよい。
【0026】
ガラス基板2は、
図2及び
図3に示すように、第1主面21と、第2主面22と、4つの端面23と、4つの第1面取面24と、4つの第2面取面25と、3つのノッチ面26とを含む。第1主面21は、矩形状である。本明細書において、矩形状とは、角に面取加工を施した形状を含む。また、矩形は、正方形を含む。第2主面22は、第1主面21とは反対向きである。第2主面22も、第1主面21と同様に、矩形状である。端面23は、第1主面21及び第2主面22に対して垂直である。第1面取面24は、第1主面21と端面23の境界に形成される。第2面取面25は、第2主面22と端面23の境界に形成される。第1面取面24及び第2面取面25は、本実施形態では、いわゆるC面取面であるが、R面取面であってもよい。ノッチ面26は、隣り合う2つの端面23と第1主面21の角を削り落とすように、第1主面21に対して斜めに形成される。ノッチ面26はガラス基板2の向きを示し、ガラス基板2の向きが所望の向きになるように、ガラス基板2が各種の装置に設置される。ノッチ面26の数は、本実施形態では3つであるが、1つ以上であればよく、特に限定されない。例えばノッチ面26の数が4つであっても、ノッチ面26の大きさが異なれば、ガラス基板2の向きは判別可能である。なお、ノッチ面26は無くてもよく、ノッチ面26の数はゼロでもよい。
【0027】
ガラス基板2の第1主面21は、
図3にドット模様で示す品質保証領域27を有する。品質保証領域27は、S101~S104によって所望の平坦度に加工される領域である。品質保証領域27は、第1主面21に直交する方向から見て、例えば端面23からの距離Lが5mm以内の周縁領域28を除く領域である。なお、図示しないが、ガラス基板2の第2主面22も、第1主面21と同様に、品質保証領域と周縁領域とを有する。
【0028】
先ず、
図1のS101では、ガラス基板2の第1主面21及び第2主面22を研磨する。第1主面21及び第2主面22は、両面研磨機で同時に研磨されてもよいし、片面研磨機で順番に研磨されてもよい。S101では、研磨パッドとガラス基板2の間に研磨スラリーを供給しながら、ガラス基板2を研磨する。研磨スラリーは、研磨剤を含む。研磨剤は、例えば酸化セリウム粒子である。第1主面21及び第2主面22は、異なる材質又は粒度の研磨剤で、複数回研磨されてもよい。
【0029】
なお、S101で用いられる研磨剤は、酸化セリウム粒子には限定されない。例えば、S101で用いられる研磨剤は、酸化シリコン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化チタン粒子、ダイヤモンド粒子、又は炭化珪素粒子などであってもよい。
【0030】
次に、
図1のS102では、ガラス基板2の第1主面21及び第2主面22の表面形状を測定する。表面形状の測定には、例えば、表面が傷付かないように、レーザ干渉式等の非接触式の測定機が用いられる。測定機は、第1主面21の品質保証領域27、及び第2主面22の品質保証領域の表面形状を測定する。
【0031】
次に、
図1のS103では、S102の測定結果を参照し、平坦度を向上すべく、ガラス基板2の第1主面21及び第2主面22をビーム状のガスクラスタで加工する。第1主面21と第2主面22は、ガスクラスタで順番にエッチングされる。その順番は、どちらが先でもよく、特に限定されない。
【0032】
ガスクラスタは、熱電子の衝突によってイオン化され、続いて、電界によって加速され、更に中性化後に、第1主面21又は第2主面22に向けて照射される。ガスクラスタの衝突によって、第1主面21又は第2主面22が局所的にエッチングされ、平坦化される。S103の詳細は、後述する。
【0033】
次に、
図1のS104では、ガラス基板2の第1主面21及び第2主面22の仕上げ研磨を行う。第1主面21及び第2主面22は、両面研磨機で同時に研磨されてもよいし、片面研磨機で順番に研磨されてもよい。S104では、研磨パッドとガラス基板2の間に研磨スラリーを供給しながら、ガラス基板2を研磨する。研磨スラリーは、研磨剤を含む。研磨剤は、例えばコロイダルシリカ粒子である。
【0034】
次に、
図1のS105では、ガラス基板2の第1主面21の品質保証領域27に、
図4に示す反射膜3を形成する。反射膜3は、EUV光を反射する。反射膜3は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜であってよい。高屈折率層は例えばシリコン(Si)で形成され、低屈折率層は例えばモリブデン(Mo)で形成される。反射膜3の成膜方法としては、例えばイオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法が用いられる。
【0035】
次に、
図1のS106では、S105で形成された反射膜3の上に、
図4に示す吸収膜4を形成する。吸収膜4は、EUV光を吸収する。吸収膜4は、例えばタンタル(Ta)、クロム(Cr)、パラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1つの元素を含む単金属、合金、窒化物、酸化物、酸窒化物などで形成される。吸収膜4の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0036】
最後に、
図1のS107では、ガラス基板2の第2主面22の品質保証領域に、
図4に示す導電膜5を形成する。導電膜5は、露光装置の静電チャックでフォトマスクを静電吸着するのに用いられる。導電膜5は、例えば窒化クロム(CrN)などで形成される。導電膜5の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。なお、S107は、本実施形態ではS105及びS106の後に実施されるが、S105及びS106の前に実施されてもよい。
【0037】
なお、反射膜3と導電膜5の配置は逆でもよい。つまり、導電膜5がガラス基板2の第1主面21の品質保証領域27に形成され、反射膜3がガラス基板2の第2主面22の品質保証領域に形成されてもよい。吸収膜4は、反射膜3の上に形成される。
【0038】
上記S101~S107により、
図4に示すEUVL用マスクブランク1が得られる。EUVL用マスクブランク1は、ガラス基板2と、反射膜3と、吸収膜4と、導電膜5とを含む。なお、EUVL用マスクブランク1は、導電膜5を含まなくてもよい。また、EUVL用マスクブランク1は、更に別の膜を含んでもよい。
【0039】
例えば、EUVL用マスクブランク1は、更に、低反射膜を含んでもよい。低反射膜は、吸収膜4上に形成される。低反射膜は、
図5に示す吸収膜4の開口パターン41の検査に用いられ、検査光に対して吸収膜4よりも低反射特性を有する。低反射膜は、例えばTaONまたはTaOなどで形成される。低反射膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0040】
また、EUVL用マスクブランク1は、更に、保護膜を含んでもよい。保護膜は、反射膜3と吸収膜4との間に形成される。保護膜は、吸収膜4に開口パターン41を形成すべく吸収膜4をエッチングする際に、反射膜3がエッチングされないように、反射膜3を保護する。保護膜は、例えばRu、Si、またはTiO2などで形成される。保護膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0041】
図5に示すように、EUVL用フォトマスクは、吸収膜4に開口パターン41を形成して得られる。開口パターン41の形成には、フォトリソグラフィ法およびエッチング法が用いられる。従って、開口パターン41の形成に用いられるレジスト膜が、EUVL用マスクブランク1に含まれてもよい。
【0042】
次に、
図6を参照して、
図1のS103で用いられる加工装置について説明する。加工装置100は、いわゆるGCIB(Gas Cluster Ion Beam)加工装置である。
【0043】
加工装置100は、真空容器101を含む。真空容器101は、ノズルチャンバ102と、イオン化/加速チャンバ103と、処理チャンバ104とを有する。3つのチャンバ102、103、104は、互いに接続され、ガスクラスタの通路を形成する。3つのチャンバ102、103、104は、3つの真空ポンプ105、106、107によって排気され、所望の真空度に維持される。なお、チャンバの数、及び真空ポンプの数は、特に限定されない。
【0044】
加工装置100は、生成部110を含む。生成部110は、ガスクラスタを生成する。生成部110は、例えば、原料タンク111と、圧力制御器113と、供給管114と、ノズル116とを含む。原料タンク111は、原料ガス(例えばCF4ガス)を貯蔵する。圧力制御器113は、供給管114を介して原料タンク111からノズル116に供給される原料ガスの供給圧を制御する。ノズル116は、ノズルチャンバ102内に設けられ、真空中に原料ガスを噴射し、超音速のガスジェット118を形成する。
【0045】
原料ガスは、ガスジェット118内にて、断熱膨張によって冷却される。その結果、ガスジェット118の一部は、それぞれが数個から数1000個の原子又は分子の集合体であるガスクラスタに凝縮する。ガスジェット118の流れの中心付近にガスクラスタが多く含まれる。それゆえ、スキーマ119によって、ガスジェット118の流れの中心付近のみを通過させることにより、ガスクラスタを効率的に送り出せる。
【0046】
なお、原料ガスは、CF4ガスには限定されず、CHF3ガス、CH2F2ガス、C2F6ガス、BF3ガス、NF3ガス、SF6ガス、SeF6ガス、TeF6ガス、又はWF6ガスなどであってもよい。詳しくは後述するが、これらのガスの中でも、CF4ガス、CHF3ガス、又はCH2F2ガスが好ましい。これらのガスから複数のガスが選ばれてもよく、混合ガスが原料ガスとして用いられてもよい。
【0047】
加工装置100は、イオン化部120を含む。イオン化部120は、ガスジェット118内のガスクラスタの少なくとも一部をイオン化する。イオン化部120は、例えば、1以上の熱フィラメント124と、円筒電極126とを含む。熱フィラメント124は、電源125からの電力(電圧VF)によって発熱し、熱電子を放出する。円筒電極126は、熱フィラメント124から放出された熱電子を加速し、加速した熱電子をガスクラスタと衝突させる。電子とガスクラスタとの衝突によってガスクラスタの一部から電子が放出され、これらのガスクラスタが正イオン化する。なお、2つ以上の電子が放出され、多価イオン化する場合もある。円筒電極126と熱フィラメント124の間に、電源127からの電圧VAが印加される。この電圧VA(電界)によって、熱電子が加速され、ガスクラスタと衝突する。
【0048】
加工装置100は、加速部130を含む。加速部130は、イオン化部120でイオン化したガスクラスタを加速し、GCIB128を形成する。加速部130は、例えば、第1電極132と、第2電極134とを含む。第2電極134は接地され、第1電極132には電源135から正の電圧Vsが印加される。第1電極132および第2電極134は、正イオン化したガスクラスタを加速する電界を形成する。加速されたガスクラスタは、第2電極134の開口からGCIB128として引き出される。電源136は、第1電極132および第2電極134に対してイオン化部120にバイアスをかける加速電圧VAccを供給し、総GCIB加速電位がVAccに等しくなるようにする。VAccは、例えば1kV~200kV、好ましくは1kV~70kVである。
【0049】
加工装置100は、不図示の中性化部を含んでもよい。中性化部は、加速部130で形成されたGCIB128を中性化し、中性のガスクラスタを形成する。中性のガスクラスタをガラス基板2に照射するので、ガラス基板2の帯電を防止できる。なお、正イオン化されたガスクラスタをガラス基板2に照射しても、ガラス基板2のエッチングは可能である。
【0050】
加工装置100は、照射部150を含む。照射部150は、ビーム状のガスクラスタ129をガラス基板2に照射し、ガラス基板2を局所的にエッチングする。ガスクラスタ129のビームの強度分布の半値幅は、例えば1~30mmである。照射部150は、例えば、ステージ151と、ステージ移動機構152と、アパーチャ153とを含む。ステージ151は、処理チャンバ104内に設置され、ガラス基板2を保持する。ステージ移動機構152は、ガラス基板2におけるガスクラスタ129の照射点を移動させるべく、ステージ151を2次元的にY軸方向及びZ軸方向に移動させる。移動速度を制御することで、エッチング量を制御でき、ガラス基板2を平坦化できる。なお、ステージ移動機構152は、ステージ151をX軸方向にも移動可能である。また、ステージ移動機構152は、Y軸方向に延びる回転軸を中心にステージ151を回転可能である。アパーチャ153は、ガスクラスタ129の通路の途中に設けられ、ガスクラスタ129の強度の均一性を高める。ガスクラスタ129は、アパーチャ153の開口を通り、ガラス基板2に照射される。
【0051】
次に、
図7~
図9を参照して、加工装置100の照射部150について説明する。本明細書において、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向は互いに垂直な方向である。X軸方向及びY軸方向が水平方向、Z軸方向が鉛直方向である。以下の説明において、X軸正方向が前方、X軸負方向が後方である。
図7に矢印で示すガスクラスタ129の照射方向は、X軸正方向である。
【0052】
図7に示すように、照射部150は、ビーム状のガスクラスタ129を前方に照射し、照射したガスクラスタ129でガラス基板2の第1主面21、端面23、第1面取面24及びノッチ面26を局所的にエッチングする。第1主面21は、後方に向けて配置され、且つ斜め上向きに傾斜して配置される。傾斜角度は、特に限定されないが、例えば5°である。第1主面21を斜め上向きに傾斜して配置することで、4つの端面23のうち下方の端面23にビーム状のガスクラスタ129を直接照射することが可能となる。なお、ガラス基板2の向きを逆向きにすれば、ガラス基板2の第2主面22及び第2面取面25の局所的なエッチングも当然に可能である。
【0053】
図9に示すように、ステージ151は、ガラス基板2の第2主面22に対向配置される。ステージ151は、ガラス基板2の前方に配置される。ステージ151は、例えばスペーサ155を介してガラス基板2を保持してもよい。スペーサ155は、ステージ151とガラス基板2の間に隙間を形成する。ガラス基板2の第2主面22の全体がステージ151に接触する場合に比べて、第2主面22の接触傷の発生を抑制できる。
【0054】
スペーサ155は、先細り状のテーパ面を有してもよい。スペーサ155のテーパ面でガラス基板2の第2面取面25を保持すれば、第2主面22に全く接触しないので、第2主面22の接触傷の発生を確実に防止できる。スペーサ155の一部は、
図8に示すようにガスクラスタ129の照射方向から見て、ガラス基板2の外側に配置される。
【0055】
なお、本実施形態ではガスクラスタ129の照射方向から見て、スペーサ155の一部をガラス基板2の外側に配置するが、スペーサ155の全体をガラス基板2の内側に配置することも可能である。その場合、スペーサ155は、ガラス基板2の第2面取面25ではなく、第2主面22の品質保証領域を除く周縁領域に接触する。
【0056】
また、ステージ151は、クランプ156を介して、ガラス基板2を保持してもよい。真空中でガラス基板2を安定的に保持できる。クランプ156の全体は、ガスクラスタ129の照射方向から見て、ガラス基板2の外側に配置される。クランプ156は、例えばガラス基板2の端面23を押さえる。クランプ156は、ガラス基板2の周縁に沿って間隔をおいて複数設けられる。
【0057】
なお、クランプ156は、本実施形態ではガラス基板2の端面23を押さえるが、ガラス基板2の第1主面21の周縁領域28を押さえてもよい。また、クランプ156は、ガラス基板2の第1面取面24を押さえてもよい。これらの場合も、クランプ156の一部は、ガスクラスタ129の照射方向から見て、ガラス基板2の外側に配置される。
【0058】
ところで、
図1に示すように、ガラス基板2は、ガスクラスタ129を照射するエッチング工程の後に、研磨工程、検査工程、及び成膜工程などに供される。これらの工程をまとめて後工程と呼ぶ。後工程では、ガラス基板2の端面23が、保持具又は位置決め具等に押し当てられる。それゆえ、端面23には、傷が付きやすい。
【0059】
そこで、本実施形態では、ガスクラスタ129の照射によって、ガラス基板2の端面23に、フッ素(F)及びフッ素以外の元素(以下、「A」とも表記する。)を打ち込み、端面23の近傍を軟化させる。端面23の近傍の硬さが柔らかいので、傷を伸展させる応力を吸収するように、端面23の近傍が変形できる。従って、傷の伸展を抑制でき、歩留まりの低下を抑制できる。
【0060】
Aは、Fと共にガスクラスタ129を形成するものであれば特に限定されないが、例えば、炭素(C)、ホウ素(B)、水素(H)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、又はタングステン(W)である。詳しくは後述するが、Aは、価電子数が少ない元素が好ましく、また、原子半径が小さい元素が好ましい。具体的には、Aは、好ましくは炭素(C)、ホウ素(B)、又は窒素(N)であり、より好ましくは炭素(C)である。
【0061】
図10に示すようにガスクラスタ129がガラス基板2に打ち込まれると、反応性の高いフッ素によって、ガラス表面近傍のSi-O結合が切断される。その結果、Si、O、F、及びAがランダムに結合し、密度が疎になるので、ガラス表面の硬さが柔らかくなると推定される。
【0062】
ガラス表面の密度が疎になれば、ガラス表面に圧縮応力が生じないので、ガラス表面の硬さが硬くなることはない。ガラス表面の密度を疎にする目的で、Aは、価電子数が少ない元素が好ましく、また、原子半径が小さい元素が好ましい。Aは、上記の通り、好ましくは炭素、ホウ素、又は窒素であり、より好ましくは炭素である。AとFによって形成されるガスクラスタ129は、好ましくはCF4、CHF3、CH2F2、BF3、又はNF3であり、より好ましくはCF4、CHF3、又はCH2F2である。CF4等は、BF3及びNF3に比べて、取り扱いが容易である。
【0063】
また、ガラス表面の密度が疎になれば、ガラス表面に圧縮応力が生じないので、圧縮応力によるガラス基板2の変形が生じない。従って、ガラス基板2の第1主面21及び第2主面22の平坦度が良好である。
【0064】
F及びAは、ガラス基板2の端面23に打ちこまれる。
図1のS103にて、ガスクラスタ129をガラス基板2の端面23に直接照射してもよいし、ガラス基板2の周辺部品との衝突によって向きを変えたガスクラスタ129を、ガラス基板2の端面23に打ちこんでもよい。また、4つの端面23にガスクラスタ129を直接照射するために、X軸に対して平行な回転軸を中心にガラス基板2を90度ずつ回転させ、S103を複数回実施してもよい。このとき、ガスクラスタ129の照射時間およびステージ151の座標を制御することで、4つの端面23に打ちこまれるF及びAの量を制御することができる。ガラス基板2の周辺部品としては、例えばステージ151、スペーサ155、及びクランプ156等が挙げられる。
【0065】
端面23は、F及びAを含み、下記式(1)及び下記式(2)を満たす。
【0066】
【0067】
【数6】
上記式(1)中、D1(x)は、TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定される、Siの強度で規格化したFの強度であり、xは端面23からの深さ(単位:nm)、a1x+b1はxが200以上400以下の範囲におけるD1(x)を最小二乗法で近似した直線である。上記式(2)中、D2(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したAの強度であり、xは端面23からの深さ(単位:nm)、a2x+b2はxが200以上400以下の範囲におけるD2(x)を最小二乗法で近似した直線である。上記式(1)の左辺の値S1は、好ましくは10以下である。また、上記式(2)の左辺の値S2は、好ましくは1以下である。
【0068】
上記の通り、端面23は、F及びAを含み、上記式(1)及び上記式(2)を満たす。これにより、保持具又は位置決め具等に当てられる端面23の近傍の硬さを軟化できる。端面23の近傍の硬さが柔らかいので、傷を伸展させる応力を吸収するように、端面23の近傍が変形できる。従って、傷の伸展を抑制でき、歩留まりの低下を抑制できる。
【0069】
なお、端面23の代わりに、又は端面23に加えて、ノッチ面26が、保持具又は位置決め具に押し当てられることもある。この場合、ノッチ面26に傷が付くのは、避けられない。但し、その傷が伸展し、大きな欠陥が生じると、ガラス基板は不良品として廃棄されてしまう。従って、歩留まりが低下してしまう。
【0070】
そこで、ガスクラスタ129の照射によって、ガラス基板2のノッチ面26に、フッ素(F)及びフッ素以外の元素(A)を打ち込み、ノッチ面26の近傍を軟化させてもよい。ノッチ面26の近傍の硬さが柔らかいので、傷を伸展させる応力を吸収するように、ノッチ面26の近傍が変形できる。従って、傷の伸展を抑制でき、歩留まりの低下を抑制できる。
【0071】
図1のS103にて、ガスクラスタ129をガラス基板2のノッチ面26に直接照射してもよいし、ガラス基板2の周辺部品との衝突によって向きを変えたガスクラスタ129を、ガラス基板2のノッチ面26に打ちこんでもよい。また、X軸に対して平行な回転軸を中心にガラス基板2を90度ずつ回転させ、S103を複数回実施してもよい。このとき、ガスクラスタ129の照射時間およびステージ151の座標を制御することで、全てのノッチ面26に打ちこまれるF及びAの量を制御することができる。ノッチ面26は、端面23に比べて、ガスクラスタ129を直接照射しやすく、F及びAの含有量を大きくできる。
【0072】
ガスクラスタ129を照射したノッチ面26は、F及びAを含み、下記式(3)及び下記式(4)を満たす。
【0073】
【0074】
【数8】
上記式(3)中、D3(x)は、TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定される、Siの強度で規格化したFの強度であり、xはノッチ面26からの深さ(単位:nm)、a3x+b3はxが200以上400以下の範囲におけるD3(x)を最小二乗法で近似した直線である。上記式(4)中、D4(x)は、TOF-SIMSで測定される、Siの強度で規格化したAの強度であり、xはノッチ面26からの深さ(単位:nm)、a4x+b4はxが200以上400以下の範囲におけるD4(x)を最小二乗法で近似した直線である。上記式(3)の左辺の値S3は、好ましくは10以下である。また、上記式(4)の左辺の値S4は、好ましくは1以下である。
【0075】
上記の通り、ノッチ面26は、F及びAを含み、上記式(3)及び上記式(4)を満たす。これにより、保持具又は位置決め具等に当てられるノッチ面26の近傍の硬さを軟化できる。ノッチ面26の近傍の硬さが柔らかいので、傷を伸展させる応力を吸収するように、ノッチ面26の近傍が変形できる。従って、傷の伸展を抑制でき、歩留まりの低下を抑制できる。
【実施例】
【0076】
次に、主に
図12~
図14を参照して、実験データについて説明する。例1では、ガスクラスタ129をガラス基板2の端面23に直接照射した。具体的には、
図11に図示の如く、ガスクラスタ129のビーム129Aがガラス基板2の下方の端面23に斜めに入射するように、第1主面21を後方に向けて且つ斜め上向きに傾斜して配置した。傾斜角度は、5°であった。これにより、ガラス基板2の端面23にガスクラスタ129を直接照射した。これを、X軸に対して平行な回転軸を中心にガラス基板2を90度ずつ回転させて行うことで、4つの端面23にガスクラスタ129を直接照射した。ガスクラスタ129の原料ガスとしては、CF
4ガスを用いた。つまり、フッ素(F)以外の元素(A)は炭素(C)であった。ガスクラスタ129の照射後、ガラス基板2の端面23の組成分析を、TOF-SIMSにより測定した。組成分析用のサンプルは、ガラス基板2の端面23から切り出し、端面23を上に向けて略水平となるように治具に固定した。端面23の組成分析には、ION-TOF社製のTOF.SIMS5を用いた。ガラス基板2としては、TiO
2を含有する石英ガラスを用いた。
【0077】
図12に、例1のガラス基板2の端面23をTOF-SIMSで測定した、F強度/Si強度の深さ方向分布を示す。
図12から明らかなように、Fは、ガラス基板2の端面23の近傍に打ち込まれた。上記式(1)の左辺の値S1は、1.00であった。なお、ガスクラスタ129の照射前に、端面23の組成分析をTOF-SIMSにより実施したところ、S1は0.139であった。
【0078】
また、
図13に、例1のガラス基板2の端面23をTOF-SIMSで測定した、C強度/Si強度の深さ方向分布を示す。
図13から明らかなように、Cは、ガラス基板2の端面23の近傍に打ち込まれた。上記式(2)の左辺の値S2は、0.07であった。なお、ガスクラスタ129の照射前に、端面23の組成分析をTOF-SIMSにより実施したところ、S2は0.017であった。
【0079】
図14に、例1のガラス基板2の端面23の、ガスクラスタ照射前後の硬さを示す。硬さは、エリオニクス社製の超微小押込み硬さ試験機(商品名:ENT-1100a)により測定した。押込み荷重は60mN、保持時間は1000ms、測定回数は100回であった。
図14において、H
minは最小値、H
25%は25パーセンタイル、H
50%は50パーセンタイル(中央値)、H
75%は75パーセンタイル、H
maxは最大値を示す。一般的に、測定値を小さい順に並べた際に、初めから数えて全体のα%に位置する値を、αパーセンタイルと言う。
図14から明らかなように、ガスクラスタの照射前の硬さに比べて、ガスクラスタの照射後の硬さは柔らかいことが分かる。
【0080】
例2では、例1と同一のガラス基板2のノッチ面26にガスクラスタ129を直接照射した。ガスクラスタ129の原料ガスとしては、CF4ガスを用いた。つまり、フッ素(F)以外の元素(A)は炭素(C)であった。ガスクラスタ129の照射後、ガラス基板2のノッチ面26の組成分析を、TOF-SIMSにより測定した。組成分析用のサンプルは、ガラス基板2のノッチ面26を含む角から切り出し、ノッチ面26を上に向けて水平に治具に固定した。ノッチ面26の組成分析には、ION-TOF社製のTOF.SIMS5を用いた。
【0081】
図15に、例2のガラス基板2のノッチ面26をTOF-SIMSで測定した、F強度/Si強度の深さ方向分布を示す。
図15から明らかなように、Fは、ガラス基板2のノッチ面26の近傍に打ち込まれた。上記式(3)の左辺の値S3は、4.83であった。なお、ガスクラスタ129の照射前に、ノッチ面26の組成分析をTOF-SIMSにより実施したところ、S3は0.139であった。
【0082】
また、
図16に、例2のガラス基板2のノッチ面26をTOF-SIMSで測定した、C強度/Si強度の深さ方向分布を示す。
図16から明らかなように、Cは、ガラス基板2のノッチ面26の近傍に打ち込まれた。上記式(4)の左辺の値S4は、0.114であった。なお、ガスクラスタ129の照射前に、ノッチ面26の組成分析をTOF-SIMSにより実施したところ、S4は0.017であった。
【0083】
以上の結果から、例2のガラス基板2のノッチ面26も、例1のガラス基板2の端面23と同様に、ガスクラスタ129の照射によって硬さが柔らかくなったことがわかる。
【0084】
以上、本開示に係るEUVL用ガラス基板、及びその製造方法、並びにEUVL用マスクブランク、及びその製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0085】
1 EUVL用マスクブランク
2 ガラス基板
21 第1主面
22 第2主面
23 端面
24 第1面取面
25 第2面取面
26 ノッチ面
3 反射膜
4 吸収膜
129 ガスクラスタ
129A ビーム