(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】アリールアミン化合物およびその利用
(51)【国際特許分類】
C07D 209/88 20060101AFI20240521BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240521BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20240521BHJP
【FI】
C07D209/88 CSP
H05B33/14 A
H05B33/22 D
(21)【出願番号】P 2021509253
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011967
(87)【国際公開番号】W WO2020196154
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019060190
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】首藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 歳幸
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-56841(JP,A)
【文献】国際公開第2008/129947(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするアリールアミン化合物。
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立して、炭素数6~20のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、または炭素数6~20のアリール基を表す。)
【請求項2】
下記式(1-1)で表される請求項1記載のアリールアミン化合物。
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、前記と同じ意味を表す。)
【請求項3】
下記式(1-1A)または(1-1B)で表される請求項2記載のアリールアミン化合物。
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、前記と同じ意味を表す。)
【請求項4】
前記R
1が、フェニル基、1-ナフチル基または2-ナフチル基である請求項1~3のいずれか1項記載のアリールアミン化合物。
【請求項5】
前記R
1が、すべてフェニル基である請求項4記載のアリールアミン化合物。
【請求項6】
前記R
2が、すべて水素原子である請求項1~5のいずれか1項記載のアリールアミン化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のアリールアミン化合物と、有機溶媒とを含む電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
ドーパント物質を含む請求項7記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項9】
前記ドーパント物質が、アリールスルホン酸エステル化合物である請求項8記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜。
【請求項11】
請求項10記載の電荷輸送性薄膜を備える電子素子。
【請求項12】
請求項10記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である請求項12記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールアミン化合物およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子は、ディスプレイや照明といった分野での実用化が期待されており、低電圧駆動、高輝度、高寿命等を目的とし、材料や素子構造に関する様々な開発がなされている。
この有機EL素子では複数の機能性薄膜が用いられるが、その中の1つである正孔注入層は、陽極と正孔輸送層または発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動および高輝度を達成するために重要な役割を果たす。
【0003】
この正孔注入層の作製方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別される。これらのプロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。
このため、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。
【0004】
このような事情に鑑み、本発明者らは、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与える電荷輸送性材料や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好な化合物を開発してきている(特許文献1~3参照)。
【0005】
一方、これまで、有機EL素子を高性能化するために様々な取り込みがなされてきているが、光取出し効率を向上させる等の目的で、用いる機能膜の屈折率を調整する取り組みがなされている。具体的には、素子の全体構成や隣接する他の部材の屈折率を考慮して、相対的に高いあるいは低い屈折率の正孔注入層や正孔輸送層を用いることで、素子の高効率化を図る試みがなされている(特許文献4,5参照)。
このように、屈折率は有機EL素子の設計上重要な要素であり、有機EL素子用材料では、屈折率も考慮すべき重要な物性値と考えられている。
【0006】
また、有機EL素子に用いられる電荷輸送性薄膜の着色は、有機EL素子の色純度および色再現性を低下させる等の事情から、近年、有機EL素子用の電荷輸送性薄膜は、可視領域での透過率が高く、高透明性を有することが望まれている(特許文献6参照)。
このように、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスを用いた有機ELディスプレイの実用化に向けてその開発が精力的に行われており、透明性が良好な電荷輸送性薄膜を与えるウェットプロセス用材料が常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2008/129947号
【文献】国際公開第2015/050253号
【文献】国際公開第2017/217457号
【文献】特表2007-536718号公報
【文献】特表2017-501585号公報
【文献】国際公開第2013/042623号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒への溶解性が良好であるとともに、光学特性が良好な薄膜を与え、この薄膜を正孔注入層等に適用した場合に良好な特性を有する有機EL素子を実現できるアリールアミン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アリールカルバゾール骨格を有する所定のアリールアミン化合物が、有機溶媒への溶解性が良好であるとともに、当該化合物を含むワニスが光学特性に優れた薄膜を与え、この薄膜を正孔注入層等に適用した場合に良好な特性を有する有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されることを特徴とするアリールアミン化合物、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立して、炭素数6~20のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、または炭素数6~20のアリール基を表す。)
2. 下記式(1-1)で表される1のアリールアミン化合物、
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、前記と同じ意味を表す。)
3. 下記式(1-1A)または(1-1B)で表される2のアリールアミン化合物、
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、前記と同じ意味を表す。)
4. 前記R
1が、フェニル基、1-ナフチル基または2-ナフチル基である1~3のいずれかのアリールアミン化合物、
5. 前記R
1が、すべてフェニル基である4のアリールアミン化合物、
6. 前記R
2が、すべて水素原子である1~5のいずれかのアリールアミン化合物、
7. 1~6のいずれかのアリールアミン化合物と、有機溶媒とを含む電荷輸送性ワニス、
8. ドーパント物質を含む7の電荷輸送性ワニス、
9. 前記ドーパント物質が、アリールスルホン酸エステル化合物である8の電荷輸送性ワニス、
10. 7~9のいずれかの電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜、
11. 10の電荷輸送性薄膜を備える電子素子、
12. 10の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子、
13. 前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である12の有機エレクトロルミネッセンス素子
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアリールアミン化合物は、有機溶媒への溶解性が良好であり、このアリールアミン化合物を含む電荷輸送性ワニスを用いることで、高透明性(低k(消衰係数))、かつ、高屈折率(高n)な電荷輸送性薄膜を得ることができる。
この電荷輸送性薄膜は、有機EL素子をはじめとした電子素子用薄膜として好適に用いることができ、特に、本発明の電荷輸送性薄膜を有機EL素子の正孔注入層等に適用することで、良好な特性を有する素子を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るアリールアミン化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とし、好ましい一態様としては、式(1-1)で表される。
【0013】
【0014】
【0015】
式(1)および(1-1)において、R1は、それぞれ独立して、炭素数6~20のアリール基を表し、R2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、または炭素数6~20のアリール基を表す。
【0016】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1~20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等の炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、ビシクロブチル、ビシクロペンチル、ビシクロヘキシル、ビシクロヘプチル、ビシクロオクチル、ビシクロノニル、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基などが挙げられる。
【0017】
炭素数1~20のアルコキシ基は、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のずれでもよく、その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキシルオキシ、n-オクチルオキシ、n-デシルオキシ、2-メチルヘキシルオキシ、2-エチルヘキシルオキシ、2-n-プロピルヘキシルオキシ、2-n-ブチルヘキシルオキシ、2-エチルデシルオキシ、3-エチルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0018】
炭素数6~20のアリール基の具体例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリル、9-フェナントリル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数1~20のハロゲン化アルキル基は、上記炭素数1~20のアルキル基の少なくとも1つの水素原子をハロゲン原子で置換した基であり、その具体例としては、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、2-クロロエチル、2-ブロモエチル、1,1-ジフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、3-ブロモプロピル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル、3-ブロモ-2-メチルプロピル、4-ブロモブチル、パーフルオロペンチル、2-(パーフルオロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
【0020】
特に、化合物の有機溶媒への溶解性を考慮すると、R1は、炭素数6~14のアリール基が好ましく、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基がより好ましく、いずれもフェニル基、1-ナフチルまたは2-ナフチル基がより一層好ましく、いずれもフェニル基がさらに好ましい。
【0021】
化合物の有機溶媒への溶解性を考慮すると、R2は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、すべて水素原子がより一層好ましい。
【0022】
式(1-1)において、中心のカルバゾール骨格が有する3つの窒素原子と、アリールカルバゾール骨格のカルバゾール環との結合位置は特に限定されるものではなく、それぞれ同一の位置で結合しても、別々の位置で結合してもよいが、下記式(1-1A)または(1-1B)で示されるように、アリールカルバゾール骨格の窒素原子に対して3位(メタ位)または4位(パラ位)で結合するものが好ましく、3位で結合するものがより好ましい。
【0023】
【化6】
(式中、R
1およびR
2は、上記と同じ意味を表す。)
【0024】
本発明で好適なアリールアミン化合物としては、下記式(2)または(3)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【0026】
下記スキームに示されるように、式(1)または(1-1)で表されるアリールアミン化合物は、ジアミノカルバゾール化合物[Ia]または[Ib]と、ハロゲン化アリールカルバゾール化合物[II]とを触媒存在下で反応させて製造できる。
【0027】
【化8】
(式中、Xは、ハロゲン原子または擬ハロゲン基を表し、R
1およびR
2は、上記と同じ意味を表す。)
【0028】
【化9】
(式中、X、R
1およびR
2は、上記と同じ意味を表す。)
【0029】
ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。
擬ハロゲン基としては、メタンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基等の(フルオロ)アルキルスルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシ基等の芳香族スルホニルオキシ基などが挙げられる。
【0030】
ジアミノカルバゾール化合物[Ia]または[Ib]と、ハロゲン化アリールカルバゾール化合物[II]との仕込み比は、ジアミノカルバゾール化合物の全NH基の物質量に対し、ハロゲン化アリールカルバゾール化合物を5当量以上とすることができるが、5~5.5当量程度が好適である。
【0031】
上記反応に用いられる触媒としては、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等の銅触媒;Pd(PPh3)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)、Pd(PPh3)2Cl2(ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム)、Pd(dba)2(ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム)、Pd2(dba)3(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)、Pd(P-t-Bu3)2(ビス(トリ(t-ブチルホスフィン))パラジウム)、Pd(OAc)2(酢酸パラジウム)等のパラジウム触媒などが挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、これらの触媒は、公知の適切な配位子とともに使用してもよい。
【0032】
このような配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、ジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィン、ジ-t-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等の3級ホスフィン、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3級ホスファイト、Aldrich社で市販されている、JohnPhos, CyjohnPhos, DavePhos, XPhos, SPhos, tBuXPhos, RuPhos, Me4tBuXPhos, sSPhos, tBuMePhos, MePhos, tBuDavePhos, PhDavePhos, 2’-Dicyclohexylphosphino-2,4,6-trimethoxybiphenyl, BrettPhos, tBuBrettPhos, AdBrettPhos, Me3(OMe)tBuXPhos, (2-Biphenyl)di-1-adamantylphosphine, RockPhos, CPhos等のビフェニルホスフィン化合物などが挙げられる。
【0033】
触媒の使用量は、ハロゲン化アリールカルバゾール化合物[II]1molに対して、0.01mol~0.5mol程度とすることができるが、0.05~0.2mol程度が好適である。
また、配位子を用いる場合、その使用量は、使用する金属錯体に対し0.1~5当量とすることができるが、1~2当量が好適である。
【0034】
また、上記反応には塩基を用いてもよい。塩基としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、t-ブトキシリチウム、t-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属単体、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルコキシアルカリ金属、炭酸アルカリ金属、炭酸水素アルカリ金属;炭酸カルシウム等の炭酸アルカリ土類金属;n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド(LDA),リチウム2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(LiTMP),ヘキサメチルジシラザンリチウム(LHMDS)等の有機リチウム;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ピリジン等のアミン類などが挙げられる。
塩基を用いる場合、その使用量は、使用するハロゲン化アリールカルバゾール化合物[II]に対し0.1~5当量とすることができるが、1~2当量が好適である。
【0035】
原料化合物が全て固体である場合あるいは目的とするアリールアミン化合物を効率よく得る観点から、上記各反応は溶媒中で行う。溶媒を使用する場合、その種類は、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。具体例としては、脂肪族炭化水素類(ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、デカリン等)、ハロゲン化脂肪族炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ラクタムおよびラクトン類(N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン等)、尿素類(N,N-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等)などが挙げられ、これらの溶媒は単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0036】
反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよいが、特に、0~200℃程度が好ましく、20~150℃がより好ましい。
反応終了後は、常法にしたがって後処理をし、目的とするアリールアミン化合物を得ることができる。
【0037】
上述した本発明のアリールアミン化合物は、電荷輸送性物質として好適に利用することができる。この場合、本発明のアリールアミン化合物と、有機溶媒とを含む電荷輸送性ワニスとして用いることができるが、この電荷輸送性ワニスには、得られる薄膜の用途に応じ、その電荷輸送能の向上等を目的としてドーパント物質を含んでいてもよい。また、本発明のアリールアミン化合物は、アニリン誘導体、チオフェン誘導体等の従来公知のその他の電荷輸送性物質と併用することもできるが、本発明のアリールアミン化合物単独で電荷輸送性物質として用いることが好ましい。
なお、本発明において、電荷輸送性とは導電性と同義である。電荷輸送性ワニスとは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、それにより得られる固形膜が電荷輸送性を有するものでもよい。
【0038】
ドーパント物質としては、ワニスに使用する少なくとも1種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、無機系のドーパント物質、有機系のドーパント物質のいずれも使用できる。
また、無機系および有機系のドーパント物質は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
さらにドーパント物質は、ワニスから固体膜である電荷輸送性薄膜を得る過程で、例えば焼成時の加熱といった外部からの刺激によって、例えば分子内の一部が外れることによってドーパント物質としての機能が初めて発現または向上するようになる物質、例えばスルホン酸基が脱離しやすい基で保護されたアリールスルホン酸エステル化合物であってもよい。
【0039】
特に、本発明においては、無機系のドーパント物質としては、ヘテロポリ酸が好ましい。
ヘテロポリ酸とは、代表的に式(H1)で表されるKeggin型あるいは式(H2)で表されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【0040】
【0041】
ヘテロポリ酸の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、これらのヘテロポリ酸は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。
特に、1種類のヘテロポリ酸を用いる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。また、2種類以上のヘテロポリ酸を用いる場合、その2種類以上のヘテロポリ酸の1つは、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
なお、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で示される構造から元素の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
すなわち、例えば、一般的には、リンタングステン酸は化学式H3(PW12O40)・nH2Oで、リンモリブデン酸は化学式H3(PMo12O40)・nH2Oでそれぞれ示されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)またはW(タングステン)もしくはMo(モリブデン)の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態および公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0042】
ヘテロポリ酸の使用量は、質量比で、電荷輸送性物質1に対して0.001~50.0程度とすることができるが、好ましくは0.01~20.0程度、より好ましくは0.1~10.0程度である。
【0043】
一方、有機系のドーパント物質としては、特にテトラシアノキノジメタン誘導体やベンゾキノン誘導体を用いることができる。
テトラシアノキノジメタン誘導体の具体例としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)や、式(H3)で表されるハロテトラシアノキノジメタンなどが挙げられる。
また、ベンゾキノン誘導体の具体例としては、テトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン(F4BQ)、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、テトラブロモ-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)などが挙げられる。
【0044】
【0045】
式中、R500~R503は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表すが、少なくとも1つはハロゲン原子であり、少なくとも2つがハロゲン原子であることが好ましく、少なくとも3つがハロゲン原子であることがより好ましく、全てがハロゲン原子であることが最も好ましい。
ハロゲン原子としては上記と同じものが挙げられるが、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0046】
このようなハロテトラシアノキノジメタンの具体例としては、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,3,5,6-テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)等が挙げられる。
【0047】
テトラシアノキノジメタン誘導体およびベンゾキノン誘導体の使用量は、電荷輸送性物質に対して、好ましくは0.0001~100当量、より好ましくは0.01~50当量、より一層好ましくは1~20当量である。
【0048】
また、有機系ドーパント物質としては、下記式(a1)で表される1価または2価のアニオンと式(c1)~(c5)で表される対カチオンからなる、電気的に中性なオニウムボレート塩を用いることもできる。
【0049】
【化12】
(式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基または置換基を有してもよい炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Lは、炭素数1~20のアルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子または-CN
+-を表す。)
【0050】
【0051】
式(a1)において、炭素数1~20のアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等が挙げられる。なお、アリール基、ヘテロアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0052】
上記式(a1)のアニオンの好適例としては、式(a2)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
【0054】
オニウムボレート塩の使用量は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質に対して、0.1~10程度とすることができる。
なお、上記オニウムボレート塩は、例えば、特開2005-314682号公報等に記載された公知の方法を参考に合成することができる。
【0055】
また、有機系のドーパント物質として、アリールスルホン酸化合物やアリールスルホン酸エステル化合物も好適に用いることができる。
【0056】
アリールスルホン酸化合物の具体例としては、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、p-スチレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸、p-ドデシルベンゼンスルホン酸、ジヘキシルベンゼンスルホン酸、2,5-ジヘキシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、6,7-ジブチル-2-ナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、3-ドデシル-2-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、4-ヘキシル-1-ナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、2-オクチル-1-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、7-へキシル-1-ナフタレンスルホン酸、6-ヘキシル-2-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、2,7-ジノニル-4-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、2,7-ジノニル-4,5-ナフタレンジスルホン酸、国際公開第2005/000832号記載の1,4-ベンゾジオキサンジスルホン酸化合物、国際公開第2006/025342号記載のアリールスルホン酸化合物、国際公開第2009/096352号記載のアリールスルホン酸化合物等が挙げられる。
【0057】
好ましいアリールスルホン酸化合物の例としては、式(H4)または(H5)で表されるアリールスルホン酸化合物が挙げられる。
【0058】
【0059】
A1は、OまたはSを表すが、Oが好ましい。
A2は、ナフタレン環またはアントラセン環を表すが、ナフタレン環が好ましい。
A3は、2~4価のパーフルオロビフェニル基を表し、pは、A1とA3との結合数を示し、2≦p≦4を満たす整数であるが、A3がパーフルオロビフェニルジイル基、好ましくはパーフルオロビフェニル-4,4’-ジイル基であり、かつ、pが2であることが好ましい。
qは、A2に結合するスルホン酸基数を表し、1≦q≦4を満たす整数であるが、2が最適である。
【0060】
A4~A8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基を表すが、A4~A8のうち少なくとも3つは、ハロゲン原子である。
【0061】
炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロピル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル、4,4,4-トリフルオロブチル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0062】
炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロビニル、パーフルオロプロペニル(アリル)、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
その他、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基の例としては上記と同様のものが挙げられるが、ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0063】
これらの中でも、A4~A8は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり、かつ、A4~A8のうち少なくとも3つは、フッ素原子であることが好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のフッ化アルキル基、または炭素数2~5のフッ化アルケニル基であり、かつ、A4~A8のうち少なくとも3つはフッ素原子であることがより好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、または炭素数1~5のパーフルオロアルケニル基であり、かつ、A4、A5およびA8がフッ素原子であることがより一層好ましい。
なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基であり、パーフルオロアルケニル基とは、アルケニル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基である。
【0064】
rは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数を表し、1≦r≦4を満たす整数であるが、2~4が好ましく、2が最適である。
【0065】
ドーパント物質として用いるアリールスルホン酸化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、本発明のアリールアミン化合物とともに用いた場合における有機溶媒への溶解性を考慮すると、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下である。
【0066】
以下、好適なアリールスルホン酸化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0067】
【0068】
アリールスルホン酸化合物の使用量は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質1に対して、好ましくは0.01~20.0程度、より好ましくは0.4~5.0程度である。
アリールスルホン酸化合物は市販品を用いてもよいが、国際公開第2006/025342号、国際公開第2009/096352号等に記載の公知の方法で合成することもできる。
【0069】
一方、アリールスルホン酸エステル化合物としては、国際公開第2017/217455号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、国際公開第2017/217457号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、特願2017-243631に記載のアリールスルホン酸エステル化合物等が挙げられ、具体的には、下記式(H6)~(H8)のいずれかで表されるものが好ましい。
【0070】
【化17】
(式中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。)
【0071】
式(H6)において、A11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基である。
A12は、-O-または-S-であるが、-O-が好ましい。
A13は、ナフタレンまたはアントラセンから誘導される(n+1)価の基であるが、ナフタレンから誘導される基が好ましい。
Rs1~Rs4は、それぞれ独立して、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0072】
直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~6アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ヘキシル基等が挙げられるが、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
炭素数2~20の1価炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル基等のアルキル基;フェニル、ナフチル、フェナントリル基等のアリール基などが挙げられる。
【0073】
特に、Rs1~Rs4のうち、Rs1またはRs3が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、残りが水素原子であるか、Rs1が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、Rs2~Rs4が水素原子であることが好ましい。この場合、炭素数1~3の直鎖アルキル基としては、メチル基が好ましい。
また、Rs5としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基またはフェニル基が好ましい。
【0074】
式(H7)において、A14は、置換されていてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基であり、この炭化水素基は、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20の炭化水素化合物からm個の水素原子を取り除いて得られる基である。
このような炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。
なお、上記炭化水素基は、その水素原子の一部または全部が、更に置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、シラノール、チオール、カルボキシ、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、エステル、チオエステル、アミド、オルガノオキシ、オルガノアミノ、オルガノシリル、オルガノチオ、アシル、スルホ、1価炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でも、A14としては、ベンゼン、ビフェニル等から誘導される基が好ましい。
【0075】
また、A15は、-O-または-S-であるが、-O-が好ましい。
A16は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基であり、この芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。
このような芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。
中でも、A16としては、ナフタレンまたはアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0076】
Rs6およびRs7は、それぞれ独立して、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の1価脂肪族炭化水素基であり、Rs8は、直鎖状または分岐鎖状の1価脂肪族炭化水素基である。ただし、Rs6、Rs7およびRs8の炭素数の合計は6以上である。Rs6、Rs7およびRs8の炭素数の合計の上限は、特に限定されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
上記直鎖状または分岐鎖状の1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、イソプロペニル、1-メチル-2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基などが挙げられる。
これらの中でも、Rs6は水素原子が好ましく、Rs7およびRs8は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0077】
式(H8)において、Rs9~Rs13は、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基である。
炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
【0078】
炭素数1~10のハロゲン化アルキル基は、上記炭素数1~10のアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されるものではなく、その具体例としては、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロピル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル、4,4,4-トリフルオロブチル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0079】
炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されるものではなく、その具体例としては、パーフルオロビニル、パーフルオロ-1-プロペニル、パーフルオロ-2-プロペニル、パーフルオロ-1-ブテニル、パーフルオロ-2-ブテニル、パーフルオロ-3-ブテニル基等が挙げられる。
【0080】
これらの中でも、Rs9としては、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基が好ましく、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数2~4のハロゲン化アルケニル基がより好ましく、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロペニル基がより一層好ましい。
Rs10~Rs13としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0081】
A17は、-O-、-S-または-NH-であるが、-O-が好ましい。
A18は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基であり、この芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。
このような芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。
これらの中でも、A18としては、ナフタレンまたはアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0082】
Rs14~Rs17は、それぞれ独立して、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基である。
1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、イソプロペニル、1-メチル-2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基などが挙げられるが、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0083】
Rs18は、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、またはORs19である。Rs19は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
Rs18の直鎖状または分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基としては、上記と同様のものが挙げられる。
Rs18が1価脂肪族炭化水素基である場合、Rs18は、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
Rs19の炭素数2~20の1価炭化水素基としては、前述した1価脂肪族炭化水素基のうちメチル基以外のもののほか、フェニル、ナフチル、フェナントリル基等のアリール基などが挙げられる。
これらの中でも、Rs19は、炭素数2~4の直鎖アルキル基またはフェニル基が好ましい。
なお、上記1価炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0084】
好適なアリールスルホン酸エステル化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
【0086】
アリールスルホン酸エステル化合物の使用量は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質1に対して、好ましくは0.01~20程度、より好ましくは0.05~10程度である。
【0087】
本発明においては、透明性に優れ、高屈折率の電荷輸送性薄膜を作製することを考慮すると、ドーパント物質として、アリールスルホン酸化合物、アリールスルホン酸エステル化合物を用いることが好ましく、溶媒に対する溶解性や、消衰係数のより小さい薄膜を得ることを考慮すると、アリールスルホン酸エステル化合物を用いることがより好ましい。
【0088】
さらに、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、正孔輸送層への注入性の向上、素子の寿命特性等の改善を目的として、上記電荷輸送性ワニスは、有機シラン化合物を含んでいてもよい。その含有量は、電荷輸送性物質およびドーパント物質の合計質量に対して、通常1~30質量%程度である。
【0089】
本発明の電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、本発明のアリールアミン化合物を良好に溶解し得る高極性溶媒を用いることができる。本発明のアリールアミン化合物は、溶媒の極性を問わず、溶媒中に溶解することが可能である。また、必要に応じて、高極性溶媒よりもプロセス適合性に優れている点で低極性溶媒を用いてもよい。本発明において、低極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7未満のものを、高極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7以上のものと定義する。
【0090】
低極性溶媒としては、例えば、
クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素系溶媒;
トルエン、キシレン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;
1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール等の脂肪族アルコール系溶媒;
テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、4-メトキシトルエン、3-フェノキシトルエン、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;
安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、マレイン酸ジブチル、シュウ酸ジブチル、酢酸ヘキシル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒
等が挙げられる。
【0091】
また、高極性溶媒としては、例えば、
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒;
エチルメチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;
アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のシアノ系溶媒;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等の多価アルコール系溶媒;
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、2-フェノキシエタノール、2-ベンジルオキシエタノール、3-フェノキシベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等の脂肪族アルコール以外の1価アルコール系溶媒;
ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒
等が挙げられる。
【0092】
電荷輸送性ワニスの粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度に応じて適宜定まるものではあるが、通常、25℃で1~50mPa・sである。なお、本発明において固形分とは、電荷輸送ワニスに含まれる溶媒以外の成分を意味する。
また、電荷輸送性ワニスの固形分濃度は、ワニスの粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1~10.0質量%程度であり、ワニスの塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5~5.0質量%程度、より好ましくは1.0~3.0質量%程度である。
【0093】
電荷輸送性ワニスの調製法としては、特に限定されるものではないが、例えば、本発明のアリールアミン化合物を含む電荷輸送性物質等の固形分を高極性溶媒に溶解させ、そこへ低極性溶媒を加える手法や、高極性溶媒と低極性溶媒を混合し、そこへ電荷輸送性物質を溶解させる手法などが挙げられる。
【0094】
特に、電荷輸送性ワニスの調製の際、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る観点から、電荷輸送性物質、ドーパント物質等を有機溶媒に溶解させた後、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いて濾過することが望ましい。
【0095】
以上説明した電荷輸送性ワニスは、これを用いることで容易に電荷輸送性薄膜を製造できることから、電子素子、特に有機EL素子を製造する際に好適に用いることができる。
この場合、電荷輸送性薄膜は、上述した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布して焼成して形成することができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられ、塗布方法に応じてワニスの粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0096】
また、塗布後の電荷輸送性ワニスの焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面および高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができるが、用いるドーパント物質の種類によっては、ワニスを大気雰囲気下で焼成することで、電荷輸送性を有する薄膜が再現性よく得られる場合がある。
【0097】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、100~260℃程度の範囲内で適宜設定され、例えば得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140~250℃程度が好ましく、145~240℃程度がより好ましいが、上述した式(1)で表されるアリールアミン化合物を電荷輸送性物質として用いる場合、200℃以下という低温焼成でも、良好な電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。
なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0098】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層等の陽極と発光層との間に設けられる機能層として用いる場合、5~300nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0099】
以上説明した本発明の電荷輸送性薄膜は、400~800nmの波長領域の平均値で、通常、1.50以上の屈折率(n)と0.10以下の消衰係数(k)を示すが、ある態様においては1.60以上の屈折率(n)を、その他のある態様においては1.70以上の屈折率(n)を示し、また、ある態様においては0.07以下の消衰係数(k)を、その他のある態様においては0.02以下の消衰係数(k)を示す。
【0100】
上記電荷輸送性薄膜を有機EL素子に適用する場合、有機EL素子を構成する一対の電極の間に、上述の電荷輸送性薄膜を備える構成とすることができる。
有機EL素子の代表的な構成としては、以下(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層あるいは電子注入輸送層がホール(正孔)ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。さらに、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0101】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」および「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
「電子注入層」、「電子輸送層」および「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料を含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0102】
本発明の電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、陽極と発光層との間に設けられる機能層として用い得るが、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層として好適であり、正孔注入層または正孔輸送層としてより好適であり、正孔注入層としてより一層好適である。
【0103】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いてEL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔注入層を有するOLED素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
陽極基板上に、上記の方法により、本発明の電荷輸送性薄膜からなる正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子輸送層/ホールブロック層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成する代わりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物を用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0104】
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属やこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0105】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5”-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2’:5’,2”-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類などが挙げられる。
【0106】
発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物が挙げられるが、これらに限定されない。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0109】
正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1’-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1’-ペンテン-5’-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルシスキノキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0110】
発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0111】
本発明の電荷輸送性ワニスは、上述した通り有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層等の陽極と発光層との間に設けられる機能層の形成に好適に用いられるが、その他にも有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池、有機ペロブスカイト光電変換素子、有機集積回路、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機光学検査器、有機光受容器、有機電場消光素子、発光電子化学電池、量子ドット発光ダイオード、量子レーザー、有機レーザーダイオードおよび有機プラスモン発光素子等の電子素子における電荷輸送性薄膜の形成にも利用することができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)MALDI-TOF-MS:ブルカー社製、autoflex III smartbeam
(2)1H-NMR:日本電子(株)製 JNM-ECP300 FT NMR SYSTEM
(3)基板洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(4)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS-A100
(5)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET-4000
(6)素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(7)素子の電流密度および輝度の測定:(株)イーエッチシー製 多チャンネルIVL測定装置
(8)EL素子の寿命測定(輝度半減期測定):(株)イーエッチシー製 有機EL輝度寿命評価システムPEL-105S
(9)屈折率(n)および消衰係数(k)の測定:ジェー・エー・ウーラムジャパン製 多入射角分光エリプソメーターVASE
【0113】
[1]アリールアミン化合物の製造
[実施例1-1]アリールアミン化合物Aの合成
【化19】
【0114】
4つ口フラスコに、3,6-ジアミノカルバゾール0.3g、2-ブロモフェニルカルバゾール2.570g、Pd2(dba)20.086g、[(tBu)3PH]BF4 0.087g、tBuONa1.05g、およびトルエン10gを入れ、80℃で3時間撹拌した。その後、室温に戻してセライトろ過をした。ろ液にトルエンと飽和食塩水を加えて分液し、水層を除いた。得られた有機層にMgSO4を適量加え、室温で10分間静置した。MgSO4をシリカゲルでろ過し、ろ液を濃縮した。得られた濃縮液を、酢酸エチル、メタノールの混合溶媒に滴下し、室温で30分撹拌後、析出した固体をろ別した。得られた固体を乾燥して、アリールアミン化合物A0.82gを得た(収率38%)。
【0115】
1H-NMR(500MHz,THF-d8)δ[ppm]:7.95-7.92(m,10H),7.72-7.55(m,20H),7.54-7.41(m,5H),7.35-7.20(m,25H),7.16-7.09(m,6H).
【0116】
[実施例1-2]アリールアミン化合物Bの合成
【化20】
【0117】
4つ口フラスコに、3,6-ジアミノカルバゾール0.502g、3-ブロモフェニルカルバゾール4.441g、Pd2(dba)20.037g、[(tBu)3PH]BF4 0.037g、tBuONa1.346g、およびトルエン15gを入れ、80℃で5.5時間撹拌した。反応終了後、セライトろ過をして、シリカゲルクロマトグラフィーによって目的物の箇所を濃縮した。濃縮物に活性体を加え、室温で1時間撹拌した後、セライトろ過で活性炭を取り除いた。得られたろ液を酢酸エチル、メタノールの混合溶媒に滴下し、室温で1時間撹拌した。析出した固体をろ別して得られた固体を乾燥し、アリールアミン化合物B3.50gを得た(収率98%)。
【0118】
1H-NMR(500MHz,THF-d8)δ[ppm]:8.12-7.92(m,10H),7.85-7.67(m,20H),7.66-7.53(m,5H),7.37-7.24(m,25H),7.19-7.10(m,6H).
【0119】
[2]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例2-1]
クロロホルム(10g)に実施例1-1で得られたアリールアミン化合物A(0.027g)と、国際公開第2017/217455号に記載された方法に従って合成した下記式で表されるアリールスルホン酸エステルA(0.024g)とを加えて室温で撹拌して溶解させて得られた溶液を、孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して電荷輸送性ワニスA1を得た。
【0120】
【0121】
[実施例2-2]
アルールアミン化合物Aを実施例1-2で得られたアリールアミン化合物Bに変更した以外は、実施例2-1と同様にして電荷輸送性ワニスB1を得た。
【0122】
[実施例2-3]
アリールアミン化合物Aの使用量を0.040gに変更した以外は、実施例2-1と同様にして電荷輸送性ワニスA2を得た。
【0123】
[実施例2-4]
アリールアミン化合物Bの使用量を0.040gに変更した以外は、実施例2-2と同様にして電荷輸送性ワニスB2を得た。
【0124】
[3]薄膜の製造および膜物性評価
[実施例3-1および実施例3-2]
実施例2-1および実施例2-2で得られたワニスを、それぞれスピンコーターを用いて石英基板に塗布し、大気焼成下、120℃で1分間乾燥後、大気雰囲気下、200℃で15分間焼成し、石英基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
得られた膜付き石英基板を用いて、波長400~800nmにおける可視域平均屈折率nおよび可視域平均消衰係数kの測定を行った。結果を表1に示す。
【0125】
【0126】
表1に示されるように、本発明の電荷輸送性ワニスから得られた薄膜は、高い屈折率を有し、消衰係数が低いことがわかる。
【0127】
[4]ホールオンリー素子(HOD)1の作製および特性評価
[正孔注入層形成用溶液の調製]
国際公開第2013/084664号記載の方法に従って合成した式(T)で表されるアニリン誘導体0.137gと、国際公開第2006/025342号記載の方法に従って合成した式(N)で表されるアリールスルホン酸0.271gとを、窒素雰囲気下で1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン6.7gに溶解させた。得られた溶液に、シクロヘキサノール10g、プロピレングリコール3.3gを順次加えて撹拌し、正孔注入層形成用溶液を調製した。
【0128】
【0129】
[実施例4-1]
ITO基板として、インジウム錫酸化物(ITO)が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。続いて、上記のように調製した正孔注入層形成用溶液をスピンコートによりITO基板上に塗布し、大気中、ホットプレート上で80℃に加熱して1分間乾燥後、さらに230℃で15分間の加熱焼成を行い、正孔注入層(膜厚:30nm)を形成した。
次に、実施例2-3で得られた電荷輸送性ワニスA2を、スピンコーターを用いて正孔注入層上に塗布した後、大気雰囲気下、130℃で10分間焼成し、40nmの正孔輸送層薄膜を形成した。
この上に、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて0.2nm/秒にて80nmのアルミニウム薄膜を形成してホールオンリー素子(HOD)を得た。
【0130】
[実施例4-2]
電荷輸送性ワニスA2の代わりに、実施例2-4で得られた電荷輸送性ワニスB2を用いた以外は、実施例4-1と同様の方法でHODを作製した。
【0131】
上記で作製したHODについて、駆動電圧4Vでの電流密度を測定した。結果を表2に示す。
【0132】
【0133】
表2に示されるように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、正孔輸送層として、優れた電荷輸送性を示すことがわかる。
【0134】
[5]単層素子(SLD)の作製
[実施例5-1]
実施例4-1と同様のITO基板上に、実施例2-1で得られた電荷輸送性ワニスA1を、スピンコートにより塗布し、大気焼成下、120℃で1分間乾燥後、さらに大気雰囲気下、200℃で15分間焼成し、正孔注入層(膜厚:50nm)を形成した。
この上に、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて0.2nm/秒にて80nmのアルミニウム薄膜を形成して単層素子(SLD)を得た。
【0135】
[実施例5-2]
電荷輸送性ワニスA1の代わりに、実施例2-2で得られた電荷輸送性ワニスA2を用いた以外は、実施例5-1と同様の方法でSLDを作製した。
【0136】
上記で作製したSLDについて、駆動電圧4Vでの電流密度を測定した。結果を表3に示す。
【0137】
【0138】
表3に示されるように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示すことがわかる。
【0139】
[6]HOD2の作製
[実施例6-1]
実施例4-1と同様のITO基板上に、実施例2-1で得られた電荷輸送性ワニスA1を、スピンコーターを用いて塗布し、大気下で、120℃で1分間乾燥後、次いで200℃で15分間焼成を行い、正孔注入層(膜厚:50nm)を形成した。
その上に、蒸着装置(真空度2.0×10-5Pa)を用いてα-NPDおよびアルミニウムの薄膜を順次積層し、HODを得た。蒸着は、蒸着レート0.2nm/秒の条件で行った。α-NPDおよびアルミニウムの薄膜の膜厚は、それぞれ30nmおよび80nmとした。
【0140】
[実施例6-2]
電荷輸送性ワニスA1の代わりに、実施例2-2で得られた電荷輸送性ワニスA2を用いた以外は、実施例6-1と同様の方法でHODを作製した。
【0141】
上記で作製したHODについて、駆動電圧4Vでの電流密度を測定した。結果を表4に示す。
【0142】
【0143】
表4に示されるように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、正孔注入層として、正孔輸送層への良好な正孔注入性を示すことがわかる。
【0144】
[7]有機EL素子の作製および特性評価
[実施例7-1]
実施例4-1と同様のITO基板上に、実施例2-1で得られた電荷輸送性ワニスA1を、スピンコーターを用いて塗布し、大気下で、120℃で1分間乾燥後、次いで200℃で15分間焼成を行い、50nmの薄膜を形成した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてα-NPDを0.2nm/秒にて30nm成膜した。次に、関東化学(株)製の電子ブロック材料HTEB-01を10nm成膜した。次いで、新日鉄住金化学(株)製の発光層ホスト材料NS60と発光層ドーパント材料Ir(ppy)3を共蒸着した。共蒸着は、Ir(ppy)3の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、Alq3、フッ化リチウムおよびアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、Alq3およびアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ20nm、0.5nmおよび80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤((株)MORESCO製、モレスコモイスチャーカットWB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製HD-071010W-40)を有機EL素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0145】
[実施例7-2]
電荷輸送性ワニスA1の代わりに、実施例2-2で得られた電荷輸送性ワニスA2を用いた以外は、実施例7-1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0146】
得られた有機EL素子について、5,000cd/m2で発光させた場合における駆動電圧、電流密度、電流効率、発光効率、外部発光量子収率(EQE)、およびLT85(初期輝度5,000cd/m2の15%減少に要する時間)を測定した。結果を表5に示す。
【0147】
【0148】
表5に示されるように、本発明の有機EL素子はいずれも高い電流効率と高いEQEを示し、かつ、良好な寿命特性を示すことがわかる。