IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコンの特許一覧

特許7491310光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置
<>
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図1
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図2
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図3
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図4
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図5
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図6
  • 特許-光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/062 20060101AFI20240521BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240521BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03C3/062
G02B1/00
G02B3/00 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021524901
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022114
(87)【国際公開番号】W WO2020246544
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019106096
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉本 幸平
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129058(JP,A)
【文献】国際公開第2013/081027(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/093280(WO,A1)
【文献】特開昭57-038342(JP,A)
【文献】特開2010-111527(JP,A)
【文献】特開平05-051234(JP,A)
【文献】特開2005-350330(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104944770(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106495465(CN,A)
【文献】特開2011-230992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
G02B 3/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンのモル%表示で、
Si4+の含有率が、5%以上20%以下
Al3+の含有率が、18%以上35%以下
La3+、Y3+及びGd3+の総含有率が、15%以上50%以下
Zr4+の含有率が、2%以上15%以下
Ta の含有率が、8%以上30%以下
Gd 3+ の含有率が、0%以上10%以下、であり、かつ、
Si4+及びAl3+の総含有率に対するAl3+の含有率の比(Al3+/(Si4++Al3+))が、0.5以上0.85以下である、
光学ガラス。
【請求項2】
さらに、カチオンのモル%表示で、
Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+の総含有率が、0%以上15%以下である、
請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
さらに、カチオンのモル%表示で、
Ti4+の含有率が、0%以上10%以下である、
請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
さらに、カチオンのモル%表示で、
Nb5+の含有率が、0%以上30%以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
3+ の含有率が、0%以上5%以下、
5+ の含有率が、0%以上5%以下である、
請求項1~4のいずれか一項に光学ガラス。
【請求項6】
Li、Na、K及びCs の総含有率が、0%以上5%以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
結晶化ピーク温度(T)-ガラス転移温度(T)で表される差(ΔT)が、130℃以上である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
d線における屈折率(n)が、1.95以上2.05以下である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
アッベ数(ν)が、25以上40以下である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
厚みの最大値が、6mm以上である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項12】
請求項11に記載の光学素子を用いた光学系。
【請求項13】
請求項12に記載の光学系を備える交換レンズ。
【請求項14】
請求項12に記載の光学系を備える光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置に関する。本発明は2019年6月6日に出願された日本国特許の出願番号2019-106096の優先権を主張し、文献の参照による織り込みが認められる指定国については、その出願に記載された内容は参照により本出願に織り込まれる。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスは、様々な光学素子や光学装置に用いられており、例えば、特許文献1には紫外から赤外領域に用いられるハロゲン化物ガラスが開示されている。光学装置に用いられる光学系の設計の自由度を広げるために、高い屈折率を有する光学ガラスの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-081973号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の第一の態様は、カチオンのモル%表示で、Si4+の含有率が、5%以上20%以下、Al3+の含有率が、18%以上35%以下、La3+、Y3+及びGd3+の総含有率が、15%以上50%以下、Zr4+の含有率が、2%以上15%以下、Ta の含有率が、8%以上30%以下Gd 3+ の含有率が、0%以上10%以下、であり、かつ、Si4+及びAl3+の総含有率に対するAl3+の含有率の比(Al3+/(Si4++Al3+))が、0.5以上0.85以下である、光学ガラスである。
【0005】
本発明の第二の態様は、上述した光学ガラスからなる光学素子である。
【0006】
本発明の第三の態様は、上述した光学素子を用いた光学系である。
【0007】
本発明の第四の態様は、上述した光学系を備える交換レンズである。
【0008】
本発明の第五の態様は、上述した光学系を備える光学装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える多光子顕微鏡の構成の例を示すブロック図である。
図2図2は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の他の例の正面図である。
図4図4は、図3の撮像装置の背面図である。
図5図5は、ガスジェット式の浮遊炉の全体構成の模式図である。
図6図6は、ガスジェット式の浮遊炉のステージ上の台座の拡大模式図である。
図7図7は、各実施例及び各比較例の光学恒数値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0011】
<光学ガラス>
本実施形態に係る光学ガラスは、カチオンのモル%表示で、Si4+成分が、5~20%、Al3+成分が、18~35%、La3+、Y3+及びGd3+成分の総量が、15~50%、Zr4+成分が、2~15%、Ta4+成分が、8~30%、であり、かつ、Al3+/(Si4++Al3+)が、0.5~0.85である。なお、本明細書中において、特に断らない場合は、各成分の含有量は全てカチオンのモル%表示であるものとする。また、各カチオンの態様は特に限定されないが、例えば、酸化物等の態様で光学ガラスに含有され得る。
【0012】
本実施形態に係る光学ガラスは、SiOやB等の網目形成酸化物を構成するカチオンの含有量が低くともガラス化することができる新規な光学ガラスである。そして、本実施形態に係る光学ガラスは、高い屈折率、低い分散性(屈折率の波長依存性)及び耐失透性を高いレベルで兼ね備えることができる。さらに、本実施形態の組成とすることで、大型のガラスゴブを安定して作製することができる。
【0013】
まず、本実施形態に係る光学ガラスの各成分について説明する。
【0014】
Si4+成分は、例えば、酸化物換算組成ではSiOとして含まれ、網目形成酸化物を構成する成分である。Si4+成分は、高い熔融性や耐失透性を高めることができる成分である。この含有量が5%未満であるとガラスが失透しやすくなり、20%を超えると十分な熔融性が得られない。このような観点から、この含有量は5~20%である。そして、これらの効果を一層向上させる観点から、この含有量の下限は、好ましくは6%であり、より好ましくは7%であり、この含有量の上限は、好ましくは15%であり、より好ましくは10%である。
【0015】
Al3+成分は、例えば、酸化物換算組成ではAlとして含まれる成分である。Al3+は、光学ガラス製造時の成分安定性や、光学ガラスの耐失透性を高めることができる成分である。この含有量が、18%未満であるとガラスが失透しやすくなり、35%を超えると光学ガラス製造時の成分安定性が低下し、製造上の不具合が発生しやすくなる。このような観点から、この含有量は18~35%である。そして、これらの効果を一層向上させる観点から、この含有量の下限は、好ましくは19%であり、より好ましくは20%であり、この含有量の上限は、好ましくは30%であり、より好ましくは25%である。
【0016】
希土類成分であるLa3+、Y3+、Gd3+は、低分散性を損なわずに屈折率を高めることができる成分であり、例えば、酸化物換算組成ではそれぞれLa、Y、Gdとして含まれる。La3+、Y3+、及びGd3+の総量(La3++Y3++Gd3+)が少ないと上述した効果が十分でなく、この総量が50%を超えるとガラスが失透しやすくなる。このような観点から、La3++Y3++Gd3+は15~50%である。そして、これらの効果を一層向上させる観点から、これらの総量の下限は、好ましくは25%であり、より好ましくは35%であり、これらの総量の上限は、好ましくは45%であり、より好ましくは40%である。
【0017】
La3+は、例えば、酸化物換算組成ではLaとして含まれる成分である。La3+は、低分散性を損なわずに屈折率を高める効果を有し、また、ガラスの耐失透性を維持することができる。このような観点から、この含有量は、好ましくは0~50%である。その上限は、より好ましくは47%であり、更に好ましくは45%である。
【0018】
3+は、例えば、酸化物換算組成ではYとして含まれる成分である。Y3+は、低分散性を損なわずに屈折率を高めることができる成分であり、特にLa3+とガラス中に共存させることで耐失透性を一層向上させることができる。このような観点から、この含有量は、好ましくは0~50%である。その上限は、より好ましくは10%であり、更に好ましくは5%である。そして、La3+及びY3+を、ともに含有することが好ましい。
【0019】
Gd3+は、例えば、酸化物換算組成ではGdとして含まれる成分である。Gd3+は、低分散性を損なわずに屈折率を高めることができる成分であり、特にLa3+とガラス中に共存させることで耐失透性を一層高めることができる。このような観点から、この含有量は、好ましくは0~50%である。その上限は、より好ましくは10%であり、更に好ましくは5%である。そして、La3+及びGd3+を、ともに含有することが好ましい。
【0020】
Zr4+は、例えば、酸化物換算組成ではZrOとして含まれる成分である。Zr4+は、低分散性を維持しつつ、耐失透性を高める効果を有する。この含有量が2%未満であると分散性が高くなり、15%を超えるとガラスが失透しやすくなる。このような観点から、この含有量は2~15%である。そして、これらの効果を一層向上させる観点から、この含有量の下限は、好ましくは5%であり、より好ましくは8%であり、この含有量の上限は、好ましくは13%であり、より好ましくは12%である。
【0021】
Ta5+は、例えば、酸化物換算組成ではTaとして含まれる成分である。Ta5+は、低分散性を維持しつつ、耐失透性を高める効果を有する。この含有量が8%未満であると分散性が高くなり、30%を超えるとガラスが失透しやすくなる。このような観点から、この含有量は8~30%である。そして、これらの効果を一層向上させる観点から、この含有量の下限は、好ましくは9%であり、より好ましくは10%であり、この含有量の上限は、好ましくは20%であり、より好ましくは15%である。
【0022】
本実施形態に係る光学ガラスは、Al3+/(Si4++Al3+)が、0.5~0.85の関係を満たす。かかる関係を満たすよう配合することで、熔融性と耐失透性を高いレベルで両立させることができる。これらの効果を一層向上させる観点から、Al3+/(Si4++Al3+)の下限は、好ましくは0.6であり、より好ましくは0.7であり、この上限は、好ましくは0.8であり、より好ましくは0.75である。
【0023】
本実施形態に係る光学ガラスは、さらに、アルカリ土類金属であるMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群より選ばれる少なくとも1つの成分を含有することが好ましい。これらのアルカリ土類金属酸化物R2+(R=Mg、Ca、Sr、Baのいずれか1種以上を表す。)は、例えば、酸化物換算組成ではROとして含まれる成分である。これらは1種のみならず2種以上を用いてもよい。このような成分を更に含有することで、ガラスの熔融性を一層向上させることができる。
【0024】
そして、上述した効果を一層向上させる観点から、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+成分の総量は、好ましくは0~15%である。この総量の上限は、より好ましくは10%であり、更に好ましくは5%である。
【0025】
Ti4+は、例えば、酸化物換算組成ではTiOとして含まれる成分である。Ti4+は、低分散性を一層高めることができる。このような効果や、希土類成分や遷移金属成分の含有量との観点から、この含有量は、好ましくは0~10%である。そして、その含有量の上限は、より好ましくは7%であり、更に好ましくは4%である。
【0026】
Nb5+は、例えば、酸化物換算組成ではNbとして含まれる成分である。Nb5+は、ガラスの低分散性を一層向上させることができる。この効果を一層向上させる観点から、この含有量は、好ましくは0~30%である。そして、この含有量の下限は、より好ましくは3%であり、更に好ましくは5%であり、この含有量の上限は、より好ましくは20%であり、更に好ましくは10%である。
【0027】
3+は、例えば、酸化物換算組成ではBとして含まれ、網目形成酸化物を構成する成分である。そして、P5+は、例えば、酸化物換算組成ではPとして含まれ、網目形成酸化物を構成する成分である。ガラス形成能を向上させやすくすることができる。その一方で、B3+やP5+は、揮発性が高い成分であるため、過剰に導入すると製造時においてガラスの組成変動を招き、脈理を顕在化させることがある。本実施形態に係る光学ガラスは、かかるB3+やP5+の含有量を低減乃至含有せずともガラス化が可能であり、優れた物性を付与することができる。
【0028】
上述した観点から、B3+の含有量は、好ましくは0~5%であり、より好ましくは0~3%であり、更に好ましくは0%である。そして、かかる観点から、B3+は、実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、当該成分を積極的に添加しないことを意味し、不可避的に含有されることを除外するものではない。
【0029】
また、上述した観点から、P5+の含有量は、好ましくは0~5%であり、より好ましくは0~3%であり、更に好ましくは0%である。そして、かかる観点から、P5+は、実質的に含有しないことが好ましい。
【0030】
アルカリ金属M(Li、Na、K、Cs)は、例えば、酸化物換算組成ではMOとして含まれ、網目形成酸化物を構成する成分である。その一方で、これらアルカリ金属Mは、揮発性が高い成分であるため、過剰に導入すると製造時においてガラスの組成変動を招き、脈理を顕在化させることがある。本実施形態に係る光学ガラスは、これらアルカリ金属Mの含有量を低減乃至含有せずともガラス化が可能であり、優れた物性を付与することができる。
【0031】
上述した観点から、Li、Na、K、Csの含有量の総量は、好ましくは0~5%であり、より好ましくは0~3%であり、更に好ましくは0%である。そして、かかる観点から、Li、Na、K及びCsは、実質的に含有しないことが好ましい。
【0032】
本実施形態に係る光学ガラスは、その目的達成に支障のない範囲であれば、その他の任意成分を更に含有してもよい。
【0033】
次に、本実施形態に係る光学ガラスの物性について説明する。
【0034】
本実施形態に係る光学ガラスは、その結晶化ピーク温度(T)とガラス転移温度(T)の差(ΔT=T-T)は、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは160℃以上であり、更に好ましくは170℃以上であり、より更に好ましくは180℃以上である。ΔTは、耐失透性の指標として用いることができる。一般的に、ΔTが高いことは、ガラスの耐失透性が高いことを意味する。そして、本実施形態において、結晶化ピーク温度(T)とガラス転移温度(T)は、いずれも示差熱分析によって測定できる。
【0035】
本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率領域に関するものとして好適に使用できる。このような観点から、本実施形態に係る光学ガラスのd線(波長:587.562nm)における屈折率(n)は、好ましくは1.95~2.05である。かかる観点から、この下限は、より好ましくは1.97であり、更に好ましくは1.99であり、この上限は、より好ましくは2.03であり、更に好ましくは2.01である。
【0036】
本実施形態に係る光学ガラスは、低分散性を有する(アッベ数(ν)が高い)ガラスである。本実施形態に係る光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは25~40である。かかる観点から、この下限は、より好ましくは27であり、更に好ましくは29であり、この上限は、より好ましくは37であり、更に好ましくは35である。
【0037】
本実施形態に係る光学ガラスは、厚さが厚い光学ガラスとすることができる。具体的には、本実施形態に係る光学ガラスの厚みの最大値は、好ましくは6mm以上であり、より好ましくは6.2mm以上であり、更に好ましくは6.4mm以上である。ここでいう「厚みの最大値」とは、レンズ形状の場合は厚み方向の最大値をいい、略球形の場合はその直径値をいう。
【0038】
本実施形態に係る光学ガラスは、カメラや顕微鏡等の光学装置の備えるレンズ等の光学素子として好適である。このような光学素子には、ミラー、レンズ、プリズム、フィルタ等が含まれる。これら光学素子を含む光学系としては、例えば、対物レンズ、集光レンズ、結像レンズ、カメラ用交換レンズ等が挙げられる。そして、これらは、レンズ交換式カメラ、レンズ非交換式カメラ等の撮像装置、多光子顕微鏡等の顕微鏡に用いることができる。なお、光学装置としては、上述した撮像装置や顕微鏡に限られず、ビデオカメラ、テレコンバーター、望遠鏡、双眼鏡、単眼鏡、レーザ距離計、プロジェクタ等も含まれる。以下にこれらの一例を説明する。
【0039】
<多光子顕微鏡>
図1は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える多光子顕微鏡の構成の例を示すブロック図である。
【0040】
多光子顕微鏡1は、対物レンズ106、集光レンズ108、結像レンズ110を備える。対物レンズ106、集光レンズ108、結像レンズ110のうち少なくとも1つは、本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。以下、多光子顕微鏡1の光学系を中心に説明する。
【0041】
パルスレーザ装置101は、例えば、近赤外波長(約1000nm)であって、パルス幅がフェムト秒単位の(例えば、100フェムト秒の)超短パルス光を射出する。パルスレーザ装置101から射出された直後の超短パルス光は、一般に所定の方向に偏光された直線偏光となっている。
【0042】
パルス分割装置102は、超短パルス光を分割し、超短パルス光の繰り返し周波数を高くして射出する。
【0043】
ビーム調整部103は、パルス分割装置102から入射される超短パルス光のビーム径を、対物レンズ106の瞳径に合わせて調整する機能、試料Sから発せられる多光子励起光の波長と超短パルス光の波長との軸上の色収差(ピント差)を補正するために超短パルス光の集光及び発散角度を調整する機能、超短パルス光のパルス幅が光学系を通過する間に群速度分散により広がってしまうのを補正するために、逆の群速度分散を超短パルス光に与えるプリチャープ機能(群速度分散補償機能)等を有する。
【0044】
パルスレーザ装置101から射出された超短パルス光は、パルス分割装置102によりその繰り返し周波数が大きくされ、ビーム調整部103により上述した調整が行われる。そして、ビーム調整部103から射出された超短パルス光は、ダイクロイックミラー104によりダイクロイックミラー105の方向に反射され、ダイクロイックミラー105を通過し、対物レンズ106により集光されて試料Sに照射される。このとき、走査手段(不図示)を用いることにより、超短パルス光を試料Sの観察面上に走査させてもよい。
【0045】
例えば、試料Sを蛍光観察する場合には、試料Sの超短パルス光の被照射領域及びその近傍では、試料Sが染色されている蛍光色素が多光子励起され、赤外波長である超短パルス光より波長が短い蛍光(以下、「観察光」という。)が発せられる。
【0046】
試料Sから対物レンズ106の方向に発せられた観察光は、対物レンズ106によりコリメートされ、その波長に応じて、ダイクロイックミラー105により反射されたり、あるいは、ダイクロイックミラー105を透過したりする。
【0047】
ダイクロイックミラー105により反射された観察光は、蛍光検出部107に入射する。蛍光検出部107は、例えば、バリアフィルタ、PMT(photo multiplier tube:光電子増倍管)等により構成され、ダイクロイックミラー105により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部107は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0048】
一方、ダイクロイックミラー105を透過した観察光は、走査手段(不図示)によりデスキャンされ、ダイクロイックミラー104を透過し、集光レンズ108により集光され、対物レンズ106の焦点位置とほぼ共役な位置に設けられているピンホール109を通過し、結像レンズ110を透過して、蛍光検出部111に入射する。蛍光検出部111は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、結像レンズ110により蛍光検出部111の受光面において結像した観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部111は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0049】
なお、ダイクロイックミラー105を光路から外すことにより、試料Sから対物レンズ106の方向に発せられた全ての観察光を蛍光検出部111で検出するようにしてもよい。
【0050】
また、試料Sから対物レンズ106と逆の方向に発せられた観察光は、ダイクロイックミラー112により反射され、蛍光検出部113に入射する。蛍光検出部113は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、ダイクロイックミラー112により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部113は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0051】
蛍光検出部107、111、113からそれぞれ出力された電気信号は、例えば、コンピュータ(不図示)に入力され、そのコンピュータは、入力された電気信号に基づいて、観察画像を生成し、生成した観察画像を表示したり、観察画像のデータを記憶したりすることができる。
【0052】
<撮像装置>
本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子は、デジタル一眼レフカメラやデジタルスチルカメラ等の撮像装置にも好適に用いることができる。
【0053】
図2は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の斜視図である。
【0054】
撮像装置2はいわゆるデジタル一眼レフカメラ(レンズ交換式カメラ)であり、撮影レンズ203(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。カメラボディ201のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒202が着脱自在に取り付けられる。そして、レンズ鏡筒202のレンズ203を通した光が、カメラボディ201の背面側に配置されたマルチチップモジュール206のセンサチップ(固体撮像素子)204上に結像される。このセンサチップ204は、いわゆるCMOSイメージセンサー等のベアチップである。マルチチップモジュール206は、例えば、センサチップ204がガラス基板205上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0055】
図3は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の他の例の正面図であり、図4は、図3の撮像装置の背面図である。
【0056】
この撮像装置CAMはいわゆるデジタルスチルカメラ(レンズ非交換式カメラ)であり、撮影レンズWL(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。
【0057】
撮像装置CAMは、不図示の電源ボタンを押すと、撮影レンズWLのシャッタ(不図示)が開放されて、撮影レンズWLで被写体(物体)からの光が集光され、像面に配置された撮像素子に結像される。撮像素子に結像された被写体像は、撮像装置CAMの背後に配置された液晶モニタLMに表示される。撮影者は、液晶モニタLMを見ながら被写体像の構図を決めた後、レリーズボタンB1を押し下げて被写体像を撮像素子で撮像し、メモリ(不図示)に記録保存する。
【0058】
撮像装置CAMには、被写体が暗い場合に補助光を発光する補助光発光部EF、撮像装置CAMの種々の条件設定等に使用するファンクションボタンB2等が配置されている。
【0059】
このようなデジタルカメラ等に用いられる光学系には、より高い解像度、軽量化、小型化等が求められる。これらを実現するには光学系に高屈折率なガラスを用いることが有効である。かかる観点から、本実施形態に係る光学ガラスは、かかる光学装置の部材として好適である。
【0060】
<光学ガラスの製造方法>
本実施形態に係る光学ガラスは、例えば、浮遊炉を用いて製造することができる。浮遊炉には、静電式、電磁式、音波式、磁気式、及びガスジェット式等があり、特に限定されるものではないが、酸化物の浮遊熔解にはガスジェット式の浮遊炉を用いることが好ましい。以下、ガスジェット式の浮遊炉を用いる製造方法を一例として説明する。
【0061】
図5は、ガスジェット式の浮遊炉の全体構成の模式図を示し、図6は、ガスジェット式の浮遊炉のステージ上の台座の拡大模式図である。
【0062】
ガスジェット式の浮遊炉3では、原料Mは、ステージ301上の台座302に配置される。そして、レーザ光源303から出射されたレーザ光Lは、ミラー304とミラー305を介して原料Mへ照射される。レーザ光Lの照射により加熱される原料Mの温度は、放射温度計306でモニタされる。放射温度計306がモニタする原料Mの温度情報に基づき、レーザ光源303の出力がコンピュータ307によって制御される。また、原料Mの状態はCCDカメラ308によって撮像され、それがモニタ309へ出力される(図5参照)。なお、レーザ光源としては、例えば、炭酸ガスレーザを使用できる。
【0063】
ガスジェット式の浮遊炉3では、台座に送り込まれるガスによって原料Mが浮遊する状態にある(図6参照)。台座に送り込まれるガスの流量は、ガス流量調節器310によって制御される。例えば、円錐状の孔を設けたノズルからガスを噴射し、原料Mを浮遊させた状態でレーザ光Lによる非接触加熱を行うことができる。原料Mが熔解すると自身の表面張力によって球形、又は楕円体形状となりその状態で浮遊する。
【0064】
その後、レーザ光Lを遮断すると融液状態となった原料は冷却され、透明なガラスが得られる。なお、ガスの種類は特に限定されず、公知のものを適宜採用することができ、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気等が挙げられる。また、ノズルの形状や加熱方式は特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0065】
従来において、例えば、るつぼ等の容器を用いて光学ガラスを製造する場合、SiO、B、P、GeO等の網目形成酸化物を多く含ませてガラス形成能を高めることが必要であった。そのため、網目形成酸化物でない材料を多量に含有し、上述した網目形成酸化物の含有量が少ないガラス組成とした場合には、容器-融液界面を起点とした結晶化(不均一核生成)が発生して、ガラス化できないことが多いといった事情があった。また、各種光学機器の光学レンズの材料としてガラスゴブが用いられることがあるが、このガラスゴブについては大型なものを安定して作製できることが望まれている。
【0066】
この点、本実施形態では、例えば、上述した浮遊炉を用いる方法によって光学ガラスを製造する場合、容器と融液の接触がないため、不均一核生成を最大限抑制することができる。結果、融液のガラス形成を大きく促進し、るつぼ熔解では製造不可能な、網目形成酸化物の含有量が少ない、或いは一切含まない組成であってもガラス化することが可能になる。かかる製造方法を採用することで、従来ではガラス化させることができなかった本実施形態に係る組成系の光学ガラスを製造することができる。さらに、上述したような大型のガラスゴブも作製することができる。加えて、本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率かつ高アッベ数である。本実施形態に係る光学ガラスはこのような利点を多々有するため、高屈低分散硝材や広帯域透過材料としての応用が可能である。
【実施例
【0067】
次に、以下の実施例及び比較例の説明をするが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
(各実施例の光学ガラスの作製)
各実施例の光学ガラスは、図5及び図6に示すガスジェット式の浮遊炉3を用い、以下の手順に準拠して作製した。まず、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等から選ばれる原料を所定の化学組成となるよう可秤量した後、アルミナ製乳鉢で混合した。この原料を20MPaで一軸加圧し円柱形のペレットに成形した。得られたペレットを電気炉で1000~1300℃、大気中で6~12時間焼成し、焼結体を作製した。得られた焼結体を粗く砕き、500~600mgを採取して台座のノズルに設置した。そして、酸素ガスを噴射しながら炭酸ガスレーザを上方から照射することで原料を熔解させた。熔解した原料は、自身の表面張力で球形又は楕円体形状になり、ガスの圧力で浮遊状態とした。原料が完全に熔解した状態でレーザ出力を遮断することで、原料を冷却して直径6mmのガラス球を得た。各実施例のガラスについては、いずれも熔解中に視認できる揮発は確認されず、泡や失透についても確認されなかった。
【0069】
(各比較例の光学ガラスの作製)
各比較例の光学ガラスも、図5及び図6に示すガスジェット式の浮遊炉3を用い、上記の実施例と同様の手順で作製した。
【0070】
(ガラスゴブの作製)
各実施例及び各比較例において直径6mmの略球形のガラスゴブを作製できた場合は、「ガラス化」と記載し、成分が結晶化したことにより十分に熔融しなかった場合は「失透」と記載した。
【0071】
(結晶化ピーク温度(T)、ガラス転移温度(T)、その温度差(ΔT)の測定)
結晶化ピーク温度(T)と、ガラス転移温度(T)は、いずれも昇温過程における示差熱分析(昇温温度10℃/分)によって測定し、T-Tを温度差(ΔT)とした。
【0072】
(屈折率及びアッベ数の測定)
ガラスの屈折率測定は、プリズムカプラ(Metricon製、モデル「2010/M」)を用いて測定した。ガラス試料を研磨し、研磨面を単結晶ルチルプリズムに密着させ、測定波長の光を入射させた際の全反射角を測定して屈折率を求めた。473nm、594.1nm、656nmの3波長で各5回測定し、平均値を測定値とした。さらに、得られた実測値に対し、以下のDrude-Voigtの分散式を用いて最小二乗法によるフィッティングを行い、d線(587.562nm)、F線(486.133nm)、C線(656.273nm)における屈折率と、アッベ数(ν)を算出した。
【0073】
【数1】
【0074】
(n:屈折率、m:電子質量、c:光速度、e:電荷素量、N:単位体積当たりの分子数、f:振動子強度、λ:固有共鳴波長、λ:波長)
【0075】
また、アッベ数(ν)は以下の式で定義される。
【0076】
【数2】
【0077】
(n:d線における屈折率、n:F線における屈折率、n:C線における屈折率)
【0078】
各表に、各実施例及び各比較例の組成及びその物性値をそれぞれ示す。なお、特に断りがない限り、各成分の含有量はカチオン%基準である。
【0079】
図7は、各実施例及び各比較例の光学恒数値をプロットしたグラフである。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
以上より、各実施例の光学ガラスは、高屈折率、低分散性及び耐失透性を高いレベルで兼ね備え、かつ、大型のガラスゴブを安定して作製できることが確認された。
【符号の説明】
【0086】
1…多光子顕微鏡、101…パルスレーザ装置、102…パルス分割装置、103…ビーム調整部、104,105,112…ダイクロイックミラー、106…対物レンズ、107,111,113…蛍光検出部、108…集光レンズ、109…ピンホール、110…結像レンズ、2…撮像装置、201…カメラボディ、202…レンズ鏡筒、203…レンズ、204…センサチップ、205…ガラス基板、206…マルチチップモジュール、3…ガス浮遊炉、301…ステージ、302…台座、303…レーザ光源、304,305…ミラー、306…放射温度計、307…コンピュータ、308…CCDカメラ、309…モニタ、310…ガス流量調節器、L…レーザ光、M…原料、S…試料、CAM…撮像装置、WL…撮影レンズ、EF…補助光発光部、LM…液晶モニタ、B1…レリーズボタン、B2…ファンクションボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7