IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電荷輸送性ワニス 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電荷輸送性ワニス
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/155 20230101AFI20240521BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20240521BHJP
   H10K 50/18 20230101ALI20240521BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240521BHJP
   H10K 71/30 20230101ALI20240521BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240521BHJP
【FI】
H10K50/155
H10K50/17
H10K50/18
H10K59/10
H10K71/30
H10K85/60
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021527666
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024702
(87)【国際公開番号】W WO2020262418
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019118135
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 陽介
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-171968(JP,A)
【文献】米国特許第07781550(US,B1)
【文献】国際公開第2017/217457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
H05B 33/14
H05B 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子、(B)単分散の電荷輸送性有機化合物及び(C)有機溶媒を含む電荷輸送性ワニスであって、
前記電荷輸送性有機化合物が、アリールアミン誘導体、チオフェン誘導体及びピロール誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むものである電荷輸送性ワニス
【請求項2】
前記表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子の平均粒子径が、2~100nmである請求項1記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項3】
前記電荷輸送性有機化合物が、アリールアミン誘導体を含む請求項1又は2記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項4】
前記電荷輸送性有機化合物の分子量が、200~9,000である請求項1~のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項5】
前記電荷輸送性有機化合物が、前記有機溶媒に溶解している請求項1~のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項6】
更に、(D)ドーパントを含む請求項1~のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項7】
(D)ドーパントが、アリールスルホン酸エステル化合物である請求項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
電荷輸送性ワニス中の固形分濃度が、0.1~20質量%である請求項1~7のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項9】
粘度が、25℃で1~50mPa・sである請求項1~8のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
【請求項11】
請求項10記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層又は正孔輸送層である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に用いられる正孔注入層等の有機機能層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別される。これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。このような事情に鑑み、本出願人は、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与える電荷輸送性材料や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好な化合物を開発してきている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
一方、これまで、有機EL素子を高性能化するために様々な取り込みがなされてきている。例えば、光取出し効率を向上させる等の目的で、用いる機能膜の屈折率を調整する取り組みがなされている。具体的には、素子の全体構成や隣接する他の部材の屈折率を考慮して、相対的に高い、あるいは低い屈折率の正孔注入層や正孔輸送層を用いることで、素子の高効率化を図る試みがなされている(例えば、特許文献4、5参照)。このように、屈折率は有機EL素子の設計上重要な要素であり、有機EL素子用材料では屈折率も考慮すべき重要な物性値と考えられている。
【0004】
また、有機EL素子に用いられる電荷輸送性薄膜の着色は、有機EL素子の色純度及び色再現性を低下させる等の事情から、近年、有機EL素子用の電荷輸送性薄膜は、可視領域での透過率が高く、高透明性を有することが望まれている(例えば、特許文献6参照)。本出願人は、可視領域での着色が抑制され、透明性に優れた電荷輸送性薄膜を与えるウェットプロセス用材料を既に見出しているが(例えば、特許文献6、7参照)、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスを用いた有機ELディスプレイの実用化に向けてその開発が精力的に行われており、高透明性の電荷輸送性薄膜を与えるウェットプロセス用材料は常に求められている。
【0005】
ところで、有機ELディスプレイの製造において、ウェットプロセスで正孔注入層やその他の有機機能層を形成する場合、一般的に、層の形成領域を取り囲むように隔壁(バンク)を設け、その隔壁の開口部内に有機機能インクが塗布される。この際、開口部内に塗布されたインクが隔壁の側面を這い上がり、隔壁の側面と接触する塗膜周縁部の厚みが塗膜中央部よりも厚くなる、いわゆる這い上がり現象が発生することがある。このような這い上がり現象が起こると、電極間に形成された複数の有機機能層がその積層順に機能せず、リーク電流路が形成されるという事態を引き起こす。その結果、所望の素子特性が実現できないこととなる。また、這い上がった正孔注入層等の有機機能層は、得られる有機EL素子の発光ムラを引き起こすことがある。特許文献8、9には這い上がり現象を抑制する手段が提案されているが、ウェットプロセスを用いた有機ELディスプレイの開発がより一層加速する昨今の状況を受け、このような這い上がり現象の抑制に関する技術への要求は更に高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/129947号
【文献】国際公開第2015/050253号
【文献】国際公開第2017/217457号
【文献】特表2007-536718号公報
【文献】特表2017-501585号公報
【文献】国際公開第2013/042623号
【文献】国際公開第2008/032616号
【文献】特開2009-104859号公報
【文献】特開2011-103222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みなされたものであり、這い上がり現象が抑制され、高屈折率かつ高透明性を有する薄膜を与え、有機EL素子の機能層として好適な電荷輸送性薄膜を与える電荷輸送性ワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子、単分散の電荷輸送性有機化合物及び有機溶媒を含む電荷輸送性ワニスから得られる薄膜が、高い電荷輸送性、高い透明性(低いk値)及び高い屈折率(高いn値)を示し、前記ワニスをウェットプロセスで隔壁内に塗布した場合に、ワニスの這い上がりが極めて抑制された薄膜を作製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記電荷輸送性ワニスを提供する。
1.(A)表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子、(B)単分散の電荷輸送性有機化合物及び(C)有機溶媒を含む電荷輸送性ワニス。
2.前記表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子の平均粒子径が、2~100nmである1の電荷輸送性ワニス。
3.前記電荷輸送性有機化合物が、アリールアミン誘導体、チオフェン誘導体及びピロール誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む1又は2の電荷輸送性ワニス。
4.前記電荷輸送性有機化合物が、アリールアミン誘導体を含む3の電荷輸送性ワニス。
5.前記電荷輸送性有機化合物の分子量が、200~9,000である1~4のいずれかの電荷輸送性ワニス。
6.前記電荷輸送性有機化合物が、前記有機溶媒に溶解している1~5のいずれかの電荷輸送性ワニス。
7.更に、(D)ドーパントを含む1~6のいずれかの電荷輸送性ワニス。
8.(D)ドーパントが、アリールスルホン酸エステル化合物である7の電荷輸送性ワニス。
9.1~8のいずれかの電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
10.9の電荷輸送性薄膜を備える有機EL素子。
11.前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層又は正孔輸送層である10の有機EL素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いることで、ウェットプロセスで隔壁内に塗布した場合でも、ワニスの這い上がり(いわゆるパイルアップ)が極めて抑制された電荷輸送性薄膜を作製できる。また、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜は、平坦性及び電荷輸送性に優れ、高い透明性及び高い屈折率を有する。したがって、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜は、有機EL素子をはじめとする電子素子用薄膜として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例4で得られた電荷輸送性薄膜付き基板の隔壁内の電荷輸送性薄膜の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電荷輸送性ワニス]
本発明の電荷輸送性ワニスは、(A)表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子(以下、表面修飾ジルコニア粒子ともいう。)、(B)単分散の電荷輸送性有機化合物、及び(C)有機溶媒を含むものである。
【0013】
[(A)表面修飾ジルコニア粒子]
(A)成分の表面修飾ジルコニア(ZrO2)粒子は、ジルコニアからなる核粒子を表面処理剤で表面処理して得られるものである。前記表面処理剤としては、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン、メトキシトリ(エチレンオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;ヘプタノール、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、フェノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オレイルアルコール、ドデシルアルコール、オクタデカノール等のアルコール;トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル;オクタン酸、酢酸、プロピオン酸、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸等のカルボン酸等が挙げられる。
【0014】
前記核粒子の平均粒子径は、好ましくは1~90nm、より好ましくは2~45nm、より一層好ましくは3~18nmである。なお、前記核粒子の平均粒子径を測定する方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる方法等が挙げられる。TEMを用いる平均粒子径の測定方法は種々知られているが、その一例として、円相当径に基づく方法を挙げることができる。これは、TEMを用いて得られる粒子の投影画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより、各粒子の円相当径を求め、それらの円相当径の数平均として、平均粒子径を求める方法である。円相当径はヘイウッド径とも呼ばれ、粒子の投影画像の面積と同じ面積を持つ円の直径である。この方法では、典型的には、TEMと共に提供される、TEMの製造販売元が作成した画像処理ソフトウェアを用いて、投影画像の処理を行う。
【0015】
前記表面修飾ジルコニア粒子は、その平均粒子径が、2~100nmのものが好ましく、3~50nmのものがより好ましく、5~20nmのものがより一層好ましい。なお、前記表面修飾ジルコニア粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定における累積頻度分布が50%になる粒子径(メジアン径D50)である。
【0016】
前記表面修飾ジルコニア粒子としては市販品又はそれらを表面処理したものを使用することができ、その具体例としては、第一稀元素化学工業(株)製EP酸化ジルコニウム、同SPZ酸化ジルコニウム、同UEP酸化ジルコニウム、同SRP-2酸化ジルコニウム、同UEP-100酸化ジルコニウム、新日本電工(株)製PCS、同N-PC、同OGS、同H4、昭和電工(株)製ショウジルコニアRZ(#42/100、#100/200、#200F、#280F、#325F、#3000F)等の固体粒子や、Pixelligent Technologies社製PixClear(登録商標)シリーズ、日産化学(株)ナノユース(登録商標)ZR-40BL、同ZR-30AL、第一稀元素化学工業(株)製ZSL-10A、同ZSL-10T、同ZSL-20N、ZSL00014等の表面修飾ジルコニア粒子の分散液、又はそれらを表面処理したものを挙げることができるが、これらに限定されない。また、表面修飾ジルコニア粒子は、公知の方法で製造してもよい。
【0017】
(A)成分の表面修飾ジルコニア粒子の含有量は、固形分中、通常1~98質量%程度であり、好ましくは5~90質量%程度、より好ましくは10~80質量%程度である。なお、固形分とは、ワニスに含まれる成分のうち溶媒以外の成分を意味する。
【0018】
本発明において、電荷輸送性有機化合物としては、例えば有機ELの分野等で用いられるものを用いることができる。その具体例としては、オリゴアニリン誘導体、N,N'-ジアリールベンジジン誘導体、N,N,N',N'-テトラアリールベンジジン誘導体等のアリールアミン誘導体(アニリン誘導体)、オリゴチオフェン誘導体、チエノチオフェン誘導体、チエノベンゾチオフェン誘導体等のチオフェン誘導体、オリゴピロール等のピロール誘導体等の各種電荷輸送性有機化合物が挙げられる。これらのうち、アリールアミン誘導体、チオフェン誘導体が好ましい。
【0019】
前記電荷輸送性有機化合物としては、特開2002-151272号公報、国際公開第2004/105446号、国際公開第2005/043962号、国際公開第2008/032617号、国際公開第2008/032616、国際公開第2013/042623号、国際公開第2014/141998号、国際公開第2014/185208号、国際公開第2015/050253号、国際公開第2015/137391号、国際公開第2015/137395号、国際公開第2015/146912号、国際公開第2015/146965号、国際公開第2016/190326号、国際公開第2016/136544号、国際公開第2016/204079号等に開示されたものを使用することができる。
【0020】
本発明において、前記電荷輸送性有機化合物は、単分散である(すなわち、分子量分布が1である)必要がある。分子量分布を有するオリゴマーやポリマーを使用すると、這い上がり現象を抑制する効果が不十分となる。前記電荷輸送性有機化合物の分子量は、平坦性の高い薄膜を与える均一なワニスを調製する観点から、通常200~9,000程度であるが、より電荷輸送性に優れる薄膜を得る観点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、平坦性の高い薄膜をより再現性よく与える均一なワニスを調製する観点から、8,000以下が好ましく、7,000以下がより好ましく、6,000以下がより一層好ましく、5,000以下が更に好ましい。
【0021】
前記電荷輸送性有機化合物としては、単分散の電荷輸送性有機化合物を1種単独で用いることもでき、異なる単分散の電荷輸送性有機化合物を2種以上組み合わせ用いてもよいが、這い上がり現象を再現性よく抑制する観点から、用いる単分散の電荷輸送性有機化合物は、好ましくは1~3種であり、ワニス調製を容易にする観点等から、より好ましくは1又は2種であり、より一層好ましくは1種である。
【0022】
以下、本発明において好適な電荷輸送性有機化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されない。なお、下記式中、Phはフェニル基であり、DPAはジフェニルアミノ基である。
【化1】
【0023】
【化2】
【0024】
前記電荷輸送性有機化合物の固形分中の含有量は、通常2~99質量%程度であり、好ましくは10~95質量%程度、より好ましくは20~90質量%程度である。
【0025】
[有機溶媒]
前記有機溶媒としては、前述した各成分や後述する各任意成分を溶解又は分散可能なものであれば、特に限定されないが、プロセス適合性に優れている点で低極性溶媒を用いることが好ましい。本発明において、低極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7未満のものを、高極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7以上のものと定義する。
【0026】
前記低極性溶媒としては、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール等の脂肪族アルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、4-メトキシトルエン、3-フェノキシトルエン、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジブチル、シュウ酸ジブチル、酢酸ヘキシル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0027】
前記高極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒;エチルメチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のシアノ系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等の多価アルコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、2-フェノキシエタノール、2-ベンジルオキシエタノール、3-フェノキシベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等の脂肪族アルコール以外の1価アルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒等が挙げられる。
【0028】
前記有機溶媒の使用量は、電荷輸送性有機化合物の析出を抑制しつつ十分な膜厚を確保する観点から、本発明のワニス中の固形分濃度が、通常0.1~20質量%程度、好ましくは0.5~10質量%となる量である。前記有機溶媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
本発明の電荷輸送性ワニスは、溶媒として水も含むことができるが、耐久性に優れる有機EL素子を再現性よく得る観点から、水の含有量は、ワニスに含まれる溶媒に対して好ましくは3質量%以下であり、更に、パイルアップが抑制された電荷輸送性薄膜を再現性よく得る観点から、溶媒として有機溶媒のみを用いることが好ましい。なお、この場合における「有機溶媒のみ」とは、溶媒として用いるものが有機溶媒だけであることを意味し、使用する有機溶媒や固形分等に微量に含まれる「水」の存在までをも否定するものではない。
【0030】
[ドーパント]
本発明の電荷輸送性ワニスは、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の電荷輸送性を向上させる等の目的で、ドーパントを含んでもよい。ドーパントとしては、ワニスに使用する少なくとも一種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、無機系のドーパント、有機系のドーパントのいずれも使用できる。更に、ドーパントは、ワニスから固体膜である電荷輸送性薄膜を得る過程で、例えば、焼成時の加熱といった外部からの刺激によって、分子内の一部が外れることによってドーパントとしての機能が初めて発現又は向上するようになる物質、例えば、スルホン酸基が脱離しやすい基で保護されたアリールスルホン酸エステル化合物であってもよい。
【0031】
前記無機系ドーパントとしては、ヘテロポリ酸が好ましく、その具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、ケイタングステン酸等が挙げられる。
【0032】
ヘテロポリ酸とは、代表的に下記式(HPA1)で示されるKeggin型又は下記式(HPA2)で示されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【化3】
【0033】
前記ヘテロポリ酸としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明で用いるヘテロポリ酸は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。特に、1種類のヘテロポリ酸を用いる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸又はリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。また、2種類以上のヘテロポリ酸を用いる場合、その2種類以上のヘテロポリ酸の1つは、リンタングステン酸又はリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
【0034】
なお、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で示される構造から元素の数が多いもの又は少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
【0035】
すなわち、例えば、一般的にリンタングステン酸は化学式H3(PW1240)・nH2Oで、リンモリブデン酸は化学式H3(PMo1240)・nH2Oでそれぞれ表されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)又はW(タングステン)若しくはMo(モリブデン)の数が多いもの又は少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態及び公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0036】
前記有機系ドーパントとしては、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸エステル、所定のアニオンとその対カチオンとからなるイオン化合物、テトラシアノキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体等が挙げられる。
【0037】
前記アリールスルホン酸化合物としては、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の透明性の点から、下記式(A)又は(B)で表されるものが好ましい。
【化4】
【0038】
式(A)中、A1は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。A2は、ナフタレン環又はアントラセン環であるが、ナフタレン環が好ましい。A3は、2~4価のパーフルオロビフェニル基である。p1は、A1とA3との結合数であり、2≦p1≦4を満たす整数であるが、A3がパーフルオロビフェニルから誘導される2価の基であり、かつ、p1が2であることが好ましい。p2は、A2に結合するスルホン酸基数であり、1≦p2≦4を満たす整数であるが、2が好適である。
【0039】
式(B)中、A4~A8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基又は炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基であるが、A4~A8のうち少なくとも3つはハロゲン原子である。qは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数であり、1≦q≦4を満たす整数であるが、2~4が好ましく、2がより好ましい。
【0040】
前記炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、パーフルオロブチル基等が挙げられる。前記炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロエテニル基、1-パーフルオロプロペニル基、パーフルオロアリル基、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
【0041】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、フッ素原子が好ましい。前記炭素数1~20のアルキル基としては、式(6)のRA及びRBの説明において述べたものと同様のものが挙げられる。
【0042】
これらのうち、A4~A8としては、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり、かつA4~A8のうち少なくとも3つはフッ素原子であることが好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のフッ化アルキル基又は炭素数2~5のフッ化アルケニル基であり、かつA4~A8のうち少なくとも3つはフッ原子であることがより好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基又は炭素数1~5のパーフルオロアルケニル基であり、かつA4、A5及びA8がフッ素原子であることがより一層好ましい。なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基であり、パーフルオロアルケニル基とは、アルケニル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基である。
【0043】
好適なアリールスルホン酸の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化5】
【0044】
前記アリールスルホン酸エステル化合物としては、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の透明性の点から、国際公開第2017/217455号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、国際公開第2017/217457号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、特願2017-243631に記載のアリールスルホン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0045】
具体的には、低極性溶媒への溶解性の観点から、アリールスルホン酸エステル化合物としては、下記式(C)~(E)で表されるものが好ましい。
【化6】
【0046】
式(C)中、A11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基(すなわち、パーフルオロビフェニルからm個のフッ素原子を取り除いて得られる基)である。A12は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。A13は、ナフタレン又はアントラセンから誘導される(n+1)価の基(すなわち、ナフタレン又はアントラセンから(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基)であるが、ナフタレンから誘導される基が好ましい。
【0047】
式(C)中、Rs1~Rs4は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0048】
前記直鎖状又は分岐状の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0049】
前記炭素数2~20の1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基等のアリール基等が挙げられる。
【0050】
s1~Rs4のうち、Rs1又はRs3が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、残りが水素原子であることが好ましい。更に、Rs1が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、Rs2~Rs4が水素原子であることが好ましい。前記炭素数1~3の直鎖アルキル基としては、メチル基が好ましい。また、Rs5としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0051】
式(C)中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0052】
式(D)中、A14は、置換されていてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基である。前記炭化水素基は、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20の炭化水素からm個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。
【0053】
また、前記炭化水素基は、その水素原子の一部又は全部が、更に置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホ基等が挙げられる。これらのうち、A14としては、ベンゼン、ビフェニル等から誘導される基が好ましい。
【0054】
式(D)中、A15は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。
【0055】
式(D)中、A16は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基である。前記芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。これらのうち、A16としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0056】
式(D)中、Rs6及びRs7は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基である。Rs8は、直鎖状又は分岐状の1価脂肪族炭化水素基である。ただし、Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計は6以上である。Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計の上限は、特に限定されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0057】
前記直鎖状又は分岐状の1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。
【0058】
s6としては水素原子が好ましく、Rs7及びRs8としては炭素数1~6のアルキル基が好ましい。この場合、Rs7及びRs8は、同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
式(D)中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0060】
式(E)中、Rs9~Rs13は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基である。
【0061】
前記炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0062】
前記炭素数1~10のハロゲン化アルキル基は、前記炭素数1~10のアルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されない。前記ハロゲン化アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0063】
前記炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されない。その具体例としては、パーフルオロビニル基、パーフルオロ-1-プロペニル基、パーフルオロ-2-プロペニル基、パーフルオロ-1-ブテニル基、パーフルオロ-2-ブテニル基、パーフルオロ-3-ブテニル基等が挙げられる。
【0064】
これらのうち、Rs9としては、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基等が好ましく、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数2~4のハロゲン化アルケニル基等がより好ましく、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロペニル基等がより一層好ましい。また、Rs10~Rs13としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0065】
式(E)中、A17は、-O-、-S-又は-NH-であるが、-O-が好ましい。
【0066】
式(E)中、A18は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基である。前記芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。これらのうち、A18としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0067】
式(E)中、Rs14~Rs17は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基である。前記1価脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0068】
式(E)中、Rs18は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、又は-ORs19である。Rs19は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0069】
s18で表される直鎖状又は分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基としては、Rs14~Rs17の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。Rs18が1価脂肪族炭化水素基である場合、Rs18としては、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0070】
s19で表される炭素数2~20の1価炭化水素基としては、前述した1価脂肪族炭化水素基のうちメチル基以外のもののほか、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基等のアリール基等が挙げられる。これらのうち、Rs19としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。なお、前記1価炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0071】
式(E)中、nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0072】
好適なアリールスルホン酸エステル化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化7】
【0073】
前記所定のアニオンとその対カチオンとからなるイオン化合物としては、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の透明性の点から、下記式(F)で表されるイオン化合物が好ましい。
【化8】
【0074】
式(F)中、Eは、長周期型周期表の第13族元素であり、Ar1~Ar4は、それぞれ独立に、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アセチル基等の炭素数2~12のアシル基、又はトリフルオロメチル基等の炭素数1~10のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい。
【0075】
前記第13族元素としては、ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、ホウ素原子がより好ましい。前記炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等挙げられる。前記炭素数2~20のヘテロアリール基としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基等が挙げられる。
【0076】
式(F)中、M+は、オニウムイオンである。前記オニウムイオンとしては、ヨードニウムイオン、スルホニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン等が挙げられるが、特に、下記式(G)で表されるヨードニウムイオンが好ましい。
【化9】
【0077】
式(G)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基であり、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基で置換されていてもよい。
【0078】
前記テトラシアノキノジメタン誘導体としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)や2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等が挙げられる。
【0079】
前記ベンゾキノン誘導体としては、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)等が挙げられる。
【0080】
これらのドーパントのうち、這い上がり現象を抑制する効果が大きいことから、アリールスルホン酸化合物及びアリールスルホン酸エステル化合物が好ましい。
【0081】
本発明の電荷輸送性ワニスがドーパントを含む場合、その含有量は、ドーパントの種類、所望の電荷輸送性等に応じて異なるため一概に規定できないが、電荷輸送性有機化合物(H)に対するドーパント(D)の含有量の比(D/H)が、モル比で、通常0.01~50程度となる量であり、好ましくは0.1~10程度となる量であり、より好ましくは1.0~5.0程度となる量である。
【0082】
[その他の成分]
本発明の電荷輸送性ワニスは、得られる電荷輸送性薄膜の膜物性の調整等の目的で、更に有機シラン化合物を含んでもよい。前記有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物又はテトラアルコキシシラン化合物が挙げられる。とりわけ、有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物又はトリアルコキシシラン化合物が好ましく、トリアルコキシシラン化合物がより好ましい。有機シラン化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
本発明のワニスが有機シラン化合物を含む場合、その含有量は、固形分中、通常0.1~50質量%程度であるが、得られる薄膜の平坦性の向上や電荷輸送性の低下の抑制等のバランスを考慮すると、好ましくは0.5~40質量%程度、より好ましくは0.8~30質量%程度、より一層好ましくは1~20質量%程度である。
【0084】
本発明の電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性有機化合物やドーパントを有機溶媒に溶解させて均一性の高いワニスを得る観点から、アミン化合物を含んでもよく、その含有量は、固形分中、通常0.1~50質量%程度である。
【0085】
電荷輸送性ワニスの調製方法は、特に限定されないが、例えば、電荷輸送性有機化合物、表面修飾ジルコニア粒子及び必要に応じてドーパント等を任意の順で又は同時に有機溶媒に加える方法が挙げられる。また、有機溶媒が複数ある場合は、まず電荷輸送性有機化合物、表面修飾ジルコニア粒子及び必要に応じてドーパント等を1種の有機溶媒に溶解又は分散させ、そこへ他の有機溶媒を加えてもよく、複数の有機溶媒の混合溶媒に、電荷輸送性有機化合物、表面修飾ジルコニア粒子及び必要に応じてドーパント等を順次又は同時に溶解又は分散させてもよい。
【0086】
また、本発明においては、表面修飾ジルコニア粒子の分散液を用いて電荷輸送性ワニスを調製してもよい。この場合も、その混合順序は特に限定されないが、表面修飾ジルコニア粒子以外の成分(電荷輸送性有機化合物等)を有機溶媒と混ぜて混合物を調製し、その混合物に予め準備した表面修飾ジルコニア粒子の分散液を加える方法や、その混合物を予め準備しておいた表面修飾ジルコニア粒子の分散液に加える方法が挙げられる。この際、必要であれば、最後に更に有機溶媒を追加で加えたり、有機溶媒に比較的溶けやすい一部の成分を混合物中に含めないでそれを最後に加えたりしてもよい。構成成分の凝集や分離を抑制し、均一性に優れるワニスを再現性よく調製する観点から、良好な分散状態又は良好な溶解状態の表面修飾ジルコニア粒子の分散液及びその他の成分を含む混合物をそれぞれ別に準備し、両者を混ぜ、その後良く撹拌することが好ましい。なお、表面修飾ジルコニア粒子や電荷輸送性有機化合物等は、共に混ぜられる有機溶媒の種類や量によっては、混ぜられた際に凝集又は沈殿する可能性がある点に留意する。また、分散液を用いてワニスを調製する場合、最終的に得られる電荷輸送性ワニス中の表面修飾ジルコニア粒子が所望の量となるように、分散液の濃度やその使用量を決める必要がある点にも留意する。電荷輸送性ワニスを調製する際、成分が分解したり変質したりしない範囲で、適宜加熱してもよい。
【0087】
本発明の電荷輸送性ワニスは、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る観点から、電荷輸送性有機化合物及び必要に応じてドーパント等を有機溶媒に溶解させた後、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いてろ過することが望ましい。
【0088】
本発明の電荷輸送性ワニスの粘度は、通常、25℃で1~50mPa・sである。また、本発明の電荷輸送性ワニスの表面張力は、通常、25℃で20~50mN/mである。なお、粘度は、東機産業(株)製TVE-25形粘度計で測定した値である。表面張力は、協和界面科学(株)製、自動表面張力計CBVP-Z型で測定した値である。ワニスの粘度と表面張力は、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、前述した溶媒の種類やそれらの比率、固形分濃度等を変更することで調整可能である。
【0089】
平坦性に優れる電荷輸送性薄膜を再現性よく得る観点、均一な光学物性を有する電荷輸送性薄膜を再現性よく得る観点等から、本発明の電荷輸送性ワニス中、単分散の電荷輸送性有機化合物及び含まれる場合にはドーパント等は、有機溶媒に均一に溶解し、かつ表面処理剤で表面修飾されたジルコニア粒子は、有機溶媒に均一に分散している。
【0090】
[電荷輸送性薄膜]
本発明の電荷輸送性薄膜は、本発明の電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、焼成することで形成することができる。
【0091】
ワニスの塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられるが、これらに限定されない。塗布方法に応じて、ワニスの粘度及び表面張力を調節することが好ましい。
【0092】
また、塗布後の電荷輸送性ワニスの焼成雰囲気も特に限定されず、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面及び高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。共に用いるドーパントの種類によっては、ワニスを大気雰囲気下で焼成することで、より高い電荷輸送性を有する薄膜が再現性よく得られる場合がある。
【0093】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、通常100~260℃程度の範囲内で適宜設定される。なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0094】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層又は正孔注入輸送層等の陽極と発光層との間の機能層として用いる場合、5~300nmが好ましいが、平坦性に優れる電荷輸送性薄膜を再現性よく得る観点から、その下限値は、好ましくは10nm、より好ましくは20nm、より一層好ましくは30nm、更に好ましくは40nm、更に一層好ましくは45nmであり、透明性に優れる薄膜を再現性よく得る観点から、その上限値は、好ましくは250nm、より好ましくは200nm、より一層好ましくは150nm、更に好ましくは100nm、更に一層好ましくは75nmである。なお、表面修飾ジルコニア粒子の粒子径が膜厚よりも大きくなると平坦性に優れる薄膜を得ることができないため、所望の膜厚を考慮して、用いる表面修飾ジルコニア粒子の粒子径を決定する。通常、表面修飾ジルコニア粒子の平均粒子径(nm)は、電荷輸送性薄膜の厚さ(nm)よりも3nm以上小さいものとする。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の液量を変化させたりする等の方法が挙げられる。
【0095】
本発明の電荷輸送性薄膜は、400~800nmの波長領域の平均値で、1.67以上の屈折率(n)と0.040以下の消衰係数(k)を示すが、ある態様においては1.69以上の屈折率を、その他のある態様においては1.72以上の屈折率を、更に別のある態様においては1.73以上の屈折率を示す。また、ある態様においては0.030以下の消衰係数を、その他のある態様においては0.025以下の消衰係数を、更に別のある態様においては0.020以下の消衰係数を示す。
【0096】
以上説明した方法によって、本発明の電荷輸送性薄膜を形成できるが、本発明の電荷輸送性ワニスを用いることで、隔壁付き基板の隔壁内に電荷輸送性薄膜を好適に形成できる。
【0097】
このような隔壁付基板としては、公知のフォトリソグラフィー法等によって所定のパターンが形成された基板であれば特に限定されない。なお、通常、基板上において隔壁によって規定される開口部は複数存在する。通常、開口部の大きさは、長辺100~210μm、短辺40μm×100μmであり、バンクテーパー角度は20~80°である。基板の材質としては、特に限定されるものではないが、電子素子の陽極材料として用いられるインジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極材料;アルミニウム、金、銀、銅、インジウム等に代表される金属又はこれらの合金等から構成される金属陽極材料;高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体等のポリマー陽極材料等が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。
【0098】
本発明の電荷輸送性ワニスを隔壁付基板の隔壁内にインクジェット法で塗布した後、減圧し、更に必要に応じて加熱することで、隔壁内に塗布された電荷輸送性ワニスから溶媒を除去して電荷輸送性薄膜を作製して電荷輸送性薄膜付き基板を製造することができ、更には、この電荷輸送性薄膜上にその他の機能膜を積層することで、有機EL素子等の電子素子を製造することができる。この際、インクジェット塗布時の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気、窒素等の不活性ガス雰囲気、減圧下のいずれでもよい。
【0099】
減圧時の減圧度(真空度)は、ワニスの溶媒が蒸発する限り特に限定されないが、通常1,000Pa以下であり、好ましくは100Pa以下、より好ましくは50Pa以下、より一層好ましくは25Pa以下、更に好ましくは10Pa以下である。減圧時間も、溶媒が蒸発する限り特に制限はないが、通常0.1~60分程度、好ましくは1~30分程度である。なお、焼成(加熱)をする場合の条件は、前述した条件と同じである。
【0100】
以上説明した方法によれば、隔壁内おいて、ワニスの這い上がりを効果的に抑制できる。具体的には、後述のパイルアップ指数として、通常84%以上、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上、より一層好ましくは93%以上、更に好ましくは96%以上という高い値で、パイルアップを抑制することができる。なお、パイルアップ指数は、隔壁(バンク)幅をA(μm)とし、隔壁(バンク)中央部の電荷輸送性薄膜の膜厚から+10%の膜厚の範囲をB(μm)とした場合における(B/A)×100(%)との式から導き出すことができる。
【0101】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は、一対の電極を有し、これら電極の間に、本発明の電荷輸送性薄膜からなる機能層を有するものである。
【0102】
有機EL素子の代表的な構成としては、以下の(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層又は電子注入輸送層がホールブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。更に、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0103】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」及び「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものである。発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
【0104】
「電子注入層」、「電子輸送層」及び「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものである。発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
【0105】
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料とを含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0106】
本発明の電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、陽極と発光層との間に設けられる機能層として好適に用いることができ、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層としてより好適に用いることができ、正孔注入層としてより一層好適に用いることができる。
【0107】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いて有機EL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜からなる正孔注入層を有する有機EL素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
【0109】
陽極基板上に、前記方法により、本発明の電荷輸送性ワニスを用いて正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/ホールブロック層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成するかわりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物を用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0110】
前記陽極材料としては、ITO、IZOに代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属、又はこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
前記正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、4,4',4''-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4',4''-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5''-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2':5',2''-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類等が挙げられる。
【0112】
前記発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、前記発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0114】
前記電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
前記電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al23)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
前記陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
前記電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0118】
前記正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1'-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1'-ペンテン-5'-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N'-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルセスキオキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4'-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0119】
前記発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2'-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0120】
陽極と陰極及びこれらの間に形成される層を構成する材料は、ボトムエミッション構造、トップエミッション構造のいずれを備える素子を製造するかで異なるため、その点を考慮して、適宜材料を選択する。
【0121】
通常、ボトムエミッション構造の素子では、基板側に透明陽極が用いられ、基板側から光が取り出されるのに対し、トップエミッション構造の素子では、金属からなる反射陽極が用いられ、基板と反対方向にある透明電極(陰極)側から光が取り出される。そのため、例えば陽極材料について言えば、ボトムエミッション構造の素子を製造する際はITO等の透明陽極を、トップエミッション構造の素子を製造する際はAl/Nd等の反射陽極を、それぞれ用いる。
【0122】
本発明の有機EL素子は、特性悪化を防ぐため、定法に従い、必要に応じて捕水剤等と共に封止してもよい。
【0123】
本発明の電荷輸送性薄膜は、前述したとおり、有機EL素子の機能層として用いることができるが、その他にも有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池、有機ペロブスカイト光電変換素子、有機集積回路、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機光学検査器、有機光受容器、有機電場消光素子、発光電子化学電池、量子ドット発光ダイオード、量子レーザー、有機レーザーダイオード及び有機プラスモン発光素子等の電子素子の機能層としても用いることができる。
【実施例
【0124】
以下、合成例、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0125】
使用した装置は、以下のとおりである。
(1)MALDI-TOF-MS:ブルカー社製autoflex III smartbeam
(2)1H-NMR:日本電子(株)製JNM-ECP300 FT NMR SYSTEM
(3)基板洗浄:長州産業(株)製基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(4)ワニスの塗布:ミカサ(株)製スピンコーターMS-A100
(5)膜厚測定及び表面形状測定:(株)小坂研究所製微細形状測定機サーフコーダET-4000A
(6)素子の作製:長州産業(株)製多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(7)素子の電流密度の測定:(株)イーエッチシー製多チャンネルIVL測定装置
(8)屈折率(n)の測定:ジェー・エー・ウーラム社製多入社角分光エリプソメーターVASE
(9)消衰係数(k)の測定:ジェー・エー・ウーラム社製多入社角分光エリプソメーターVASE
(10)インクジェット装置:クラスターテクノロジー(株)製専用ドライバWAVE BUILDER(型番:PIJD-1)、カメラ付き観測装置inkjetlado、自動ステージInkjet Designer及びインクジェットヘッドPIJ-25NSET
【0126】
使用した試薬は、以下のとおりである。
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:4-ヒドロキシフェニルメタクリレート
HPMA-QD:4-ヒドロキシフェニルメタクリレート1molと1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド1.1molとの縮合反応によって合成した化合物
CHMI:N-シクロヘキシルマレイミド
PFHMA:2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
AIBN:α,α'-アゾビスイソブチロニトリル
QD1:α,α,α'-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン1molと1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド1.5molとの縮合反応によって合成した化合物
GT-401:ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(商品名:エポリードGT-401、(株)ダイセル製)
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
CHN:シクロヘキサノン
TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
TBSCl:tert-ブチルジメチルクロロシラン
THF:テトラヒドロフラン
Pd(dba)2:ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)
[(t-Bu)3PH]BF4:トリtert-ブチルホスフニウムテトラフルオロボラート
t-BuONa:tert-ブトキシナトリウム
TBAF:テトラブチルアンモニウムフルオリド
【0127】
[1]隔壁(バンク)付基板の作製
(1)アクリル重合体の合成
[合成例1-1]
MMA(10.0g)、HEMA(12.5g)、CHMI(20.0g)、HPMA(2.50g)、MAA(5.00g)及びAIBN(3.20g)をPGME(79.8g)に溶解し、60~100℃にて20時間反応させることにより、アクリル重合体P1溶液(固形分濃度40質量%)を得た。アクリル重合体P1のMnは3,700、Mwは6,100であった。
【0128】
[合成例1-2]
HPMA-QD(2.50g)、PFHMA(7.84g)、MAA(0.70g)、CHMI(1.46g)及びAIBN(0.33g)をCHN(51.3g)に溶解し、110℃にて20時間撹拌して反応させることにより、アクリル重合体P2溶液(固形分濃度20質量%)を得た。アクリル重合体P2のMnは4,300、Mwは6,300であった。
【0129】
なお、アクリル重合体P1及びP2の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、下記条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のよって測定した。
・クロマトグラフ:(株)島津製作所製GPC装置LC-20AD
・カラム:Shodex KF-804L及び803L(昭和電工(株)製)並びにTSK-GEL(東ソー(株)製)を直列接続
・カラム温度:40℃
・検出器:UV検出器(254nm)及びRI検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・カラム流速:1mL/分
【0130】
(2)ポジ型感光性樹脂組成物の製造
[製造例1]
アクリル重合体P1溶液(5.04g)、アクリル重合体P2溶液(0.05g)、QD1(0.40g)、GT-401(0.09g)及びPGMEA(6.42g)を混合し、室温で3時間撹拌して均一な溶液とし、ポジ型感光性樹脂組成物を得た。
【0131】
(3)隔壁(バンク)付基板の作製
[製造例2]
(株)テクノビジョン製UV-312を用いて10分間オゾン洗浄したITO-ガラス基板上に、スピンコーターを用いて、製造例1で得られたポジ型感光性樹脂組成物を塗布した後、基板をホットプレート上でプリベーク(100℃、120秒間)し、膜厚1.2μmの薄膜を形成した。この薄膜に、長辺200μm、短辺100μmの長方形が多数描かれたパターンのマスクを介して、キヤノン(株)製紫外線照射装置PLA-600FAにより、波長365nmの紫外線を用いて175mJ/cm2で露光した。その後、薄膜を1.0質量%TMAH水溶液に120秒間浸漬して現像を行った後、超純水を用いて薄膜の流水洗浄を20秒間行った。次いで、この長方形パターンが形成された薄膜をポストベーク(230℃、30分間)して硬化させ、隔壁付基板を作製した。
【0132】
[2]電荷輸送性有機化合物の合成
[合成例2]アニリン誘導体Aの合成
(1)中間体1の合成
【化10】
【0133】
60%水素化ナトリウム(4.8g、120mmol)のTHF懸濁液(150mL)に、氷冷下、2-ブロモカルバゾール(24.6g、100mmol)のTHF溶液(200mL)を滴下した後、室温で30分撹拌した。氷冷下、TBSCl(18.1g、120mmol)のTHF溶液(40mL)を滴下し、室温で2時間撹拌した。水(66mL)を加え、酢酸エチル(50mL)で3回抽出した後、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過で硫酸マグネシウムを取り除き、得られたろ液から溶媒留去し、淡褐色固体を得た。得られた淡褐色固体にヘキサン(150mL)を加え、ろ過した。ろ物にメタノール(333mL)を加え、30分還流させた後、室温まで冷却し、ろ過し、ろ物を回収することにより、中間体1を白色固体として得た(収量27.1g、収率75%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, CDCl3) δ [ppm]: 0.75(s, 6H), 1.04(s, 9H), 7.24(t, J=7.5Hz, 1H), 7.34(d, J=8.0Hz, 1H), 7.38(t, J=7.5Hz, 1H), 7.59(d, J=8.5Hz, 1H), 7.73(s, 1H), 7.90(d, J=8.5Hz, 1H), 8.02(d, J=7.5Hz, 1H).
【0134】
(2)中間体2の合成
【化11】
【0135】
4,4'-ジアミノジフェニルアミン(3g、15mmol)及び中間体1(11.1g、30.75mmol)のトルエン溶液(60mL)に、Pd(dba)2(173mg、0.3mmol)、[(t-Bu)3PH]BF4(174mg、0.6mmol)、t-BuONa(3.17g、33mmol)を加え、80℃で2時間加熱撹拌した。飽和食塩水(60mL)で洗浄後、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過で硫酸ナトリウムを取り除き、得られたろ液から溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーで精製することにより、中間体2を白色固体として得た(収量3.6g、収率32%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ [ppm]: 0.67(s, 12H), 0.96(s, 18H), 6.85(d, J=8.5Hz, 2H), 7.02(d, J=8.5Hz, 4H), 7.08(d, J=8.5Hz, 4H), 7.11(t, J=7.5Hz, 2H), 7.18-7.22(m, 4H), 7.53(d, J=8.0Hz, 2H), 7.76(brs, 1H), 7.87(d, J=8.5Hz, 2H), 7.90(d, J=7.5Hz, 2H), 7.96(brs, 2H).
【0136】
(3)中間体3の合成
【化12】
【0137】
中間体2(3.45g、4.56mmol)及び2-ブロモ-9-フェニルカルバゾール(4.63g、14.36mmol)のトルエン溶液(35mL)に、Pd(dba)2(155mg、0.27mmol)、[(t-Bu)3PH]BF4(160mg、0.55mmol)、t-BuONa(1.84g、19.15mmol)を加え、90℃で2時間加熱撹拌した。得られた反応混合物を飽和食塩水(35mL)で洗浄し、有機層をシリカゲルカラム(90g、溶離液:トルエン)で精製した。得られた溶液を140gまで濃縮した後、酢酸エチル(260mL)/メタノール(780mL)の混合液に滴下し、室温で2時間撹拌した。析出した固体をろ過することにより、中間体3を黄色固体(5.35g、収率:79%)として得た。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, THF-d8) δ [ppm]: 0.50(s, 12H), 0.86(s, 18H), 7.03-7.08(m, 15H), 7.11-7.21(m, 8H), 7.26-7.34(m, 10H), 7.42-7.58(m, 15H), 7.88(d, J=8.5Hz, 2H), 7.92(d, J=7.5Hz, 2H), 8.00-8.06(m, 6H).
【0138】
(4)アニリン誘導体Aの合成
【化13】
【0139】
中間体3(5.28g、3.56mmol)のTHF溶液(25mL)に、氷冷下、1mol/LのTBAFのTHF溶液(10.7mL、10.7mmol)を滴下し、室温で2時間撹拌した。反応液をメタノール(90mL)に滴下し、析出した固体をろ過することにより、アニリン誘導体Aを黄色固体として得た(収量4.16g、収率93%)。1H-NMR及びMALDI-TOF-MSの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, THF-d8) δ [ppm]: 6.96-7.12(m, 17H), 7.17-7.35(m, 18H), 7.41-7.60(m, 13H), 7.89-7.94(m, 4H), 7.99-8.05(m, 6H), 10.00(brs, 2H).
MALDI-TOF-MS m/Z found: 1253.52 ([M+H]+ calcd: 1253.49)
【0140】
[3]ドーパントの合成
[合成例3]アリールスルホン酸エステルCの合成
国際公開第2017/217455号に記載された方法に従って、下記式で表されるアリールスルホン酸エステルCを合成した。
【化14】
【0141】
[4]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例1]
アニリン誘導体A0.117g及びアリールスルホン酸エステルC0.233gの混合物(D/H=2.0(モル比))に、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.425g、マロン酸ジイソプロピル3.022g及びフタル酸ジメチル2.170gを加え、室温で撹拌して溶解させた。そこへ、ジルコニア粒子のPGME分散液(Pixelligent Technologies社製PixClear、平均粒子径7~10nm、ジルコニア濃度:50質量%)0.467gを加え、電荷輸送性ワニスAを調製した。
【0142】
[比較例1]
アニリン誘導体A0.167g及びアリールスルホン酸エステルC0.333g(D/H=2.0(モル比))の混合物に、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル4.75g、マロン酸ジイソプロピル2.85g及びフタル酸ジメチル1.9gを加え、室温で撹拌して溶解させ、電荷輸送性ワニスBを調製した。
【0143】
[5]薄膜の製造及び光学物性評価
[実施例2]
電荷輸送性ワニスAを、スピンコーターを用いて石英基板に塗布した後、大気下、120℃で1分間乾燥し、次いで200℃で15分間焼成し、石英基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
【0144】
[比較例2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスBを用いた以外は、実施例2と同様の方法で石英基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
【0145】
得られた膜付き石英基板を用いて、波長400~800nmにおける可視域平均屈折率nおよび可視域平均消衰係数kの測定を行った。結果を表1に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから得られた薄膜は、粒子を含まない比較例の薄膜に比べ、高い屈折率と低い消衰係数を示した。
【0148】
[6]単層素子の作製及び特性評価
[実施例3]
電荷輸送性ワニスAを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下、120℃で1分間乾燥し、次いで200℃で15分間焼成し、ITO基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。ITO基板としては、パターニングされた厚さ50nmのITO膜が表面に形成された、25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて、アルミニウムを0.2nm/秒にて80nm成膜することで、単層素子を作製した。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤((株)MORESCO製モレスコモイスチャーカットWB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製HD-071010W-40)を素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0149】
実施例3で得られた単層素子を5Vで駆動した場合の電流密度を測定した。結果を表3に示す。
【0150】
【表2】
【0151】
表2に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示すことがわかった。
【0152】
[7]インクジェット塗布による電荷輸送性薄膜付き基板の作製
[実施例4]
電荷輸送性ワニスAを、固形分濃度が2.3質量%となるように溶媒で希釈し、製造例2で作製した隔壁付基板上の長方形の開口部(膜形成領域)に、インクジェット装置を用いて吐出した。なお、電荷輸送性ワニスを希釈する際に、ワニス中の混合溶媒の組成比率が変化しないように、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、マロン酸ジイソプロピル及びフタル酸ジメチルを加えた。得られた塗膜を、その後すぐに、常温で10Pa以下の減圧度(真空度)で15分間減圧乾燥し、次いで常圧で、200℃15分間乾燥して隔壁内に電荷輸送性薄膜を形成し、電荷輸送性薄膜付き基板を得た。なお、電荷輸送性薄膜の開口部中央付近の膜厚が60~80nmとなるように吐出した。
【0153】
実施例4で得られた電荷輸送性薄膜付き基板について、電荷輸送性薄膜表面の形状を測定した。結果を図1に示す。また、作製した電荷輸送性薄膜についてパイルアップ指数を求めた。パイルアップ指数は、隔壁(バンク)幅をA(μm)とし、隔壁(バンク)中央部の電荷輸送性薄膜の膜厚から+10%の膜厚の範囲をB(μm)とした場合における(B/A)×100(%)として求めた。結果を表3に示す。なお、実施例4は、短辺を隔壁幅としてパイルアップ指数を算出した。
【0154】
【表3】
【0155】
図1及び表3に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスを用いて作製した電荷輸送性薄膜付き基板については、その電荷輸送性薄膜が良好な平坦性を示し、パイルアップ指数も98%を超える高い値を示した。
図1