(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】二次電池用活物質および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20240521BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240521BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240521BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240521BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240521BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2023540943
(86)(22)【出願日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2023003304
(87)【国際公開番号】W WO2023157642
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2022024812
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310759(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098070(WO,A1)
【文献】特開2021-048049(JP,A)
【文献】特開2020-113495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/587
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンオキシカーバイド相と、前記シリコンオキシカーバイド相中に少なくとも2個以上の酸化ケイ素粒子を有し、前記酸化ケイ素粒子の含有量が1質量%以上60質量%以下の複合粒子であり、
前記シリコンオキシカーバイド相は、ケイ素-酸素-炭素骨格構造と、炭素元素のみで構成されるフリー炭素を有し、
ラマンスペクトルにおいて、
前記炭素元素のみで構成されるフリー炭素由来の炭素構造のGバンドに帰属される1590cm
-1とDバンドに帰属される1330cm
-1付近の散乱ピークを有し、前記散乱ピークの強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)が、0.7以上2以下である二次電池用活物質。
【請求項2】
前記フリー炭素は炭素源樹脂由来の炭素成分を含む請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項3】
X線回折において2θが28.4°付近のSi(111)に帰属されるピークを有する請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項4】
前記酸化ケイ素粒子の平均粒径が5μm以下である請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項5】
前記複合粒子の平均粒径が2μm以上15μm以下である請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項6】
比表面積が0.3m
2/g以上10m
2/g以下である請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項7】
前記シリコンオキシカーバイド相は更に窒素原子を含む請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項8】
前記複合粒子の表面に炭素被膜を有し、炭素被膜の量が1質量%以上10質量%以下である請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項9】
Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のシリケート化合物を含む請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項10】
請求項1に記載の二次電池用活物質を負極に含む二次電池。
【請求項11】
酸化ケイ素粒子のスラリーをポリシロキサン化合物と炭素源樹脂との混合物と混合し、脱溶媒して前駆体を得る工程と、前記前駆体を焼成して焼成物を得る工程を含む、請求項1に記載の二次電池用活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用活物質および二次電池に関する。より詳細には本発明は二次電池用活物質および前記二次電池用活物質を負極に含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、携帯機器を始め、ハイブリッド自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられており、電気容量、安全性、作動安定性など複数の特性をバランスよく有することが要求されている。
さらに近年、各種電子機器および通信機器の小型化およびハイブリッド自動車等の急速な普及に伴い、これら機器等の駆動電源として、より高容量であり、かつサイクル特性や放電レート特性等の各種電池特性が更に向上したリチウムイオン二次電池の開発が強く求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質として、ケイ素や無定形である酸化ケイ素はその容量が大きいということで大きな関心を持たれているが、繰り返し充放電をしたときの体積膨張が大きく、サイクル性に劣っている。また、酸化ケイ素を用いたリチウム二次電池は初期効率が低いことから、酸化ケイ素を負極活物質に用いるための様々な改良が試みられている。
例えば特許文献1ではケイ素の微結晶を酸化ケイ素中に分散させたケイ素複合体が二次電池用負極活物質として提案されている。
【0004】
しかしながら、酸化珪素は、充電時に不可逆な珪酸リチウムを生成させる酸素原子を多く含んでおり、初回効率が低いという課題がある。そのため、実際に電池を作製した場合に、正極の電池容量を過剰に必要とし、活物質の容量増加分に見合うだけの電池容量の増加が認められなかった。
【0005】
特許文献2には前記の課題を解決するために、珪素微結晶がシロキサン結合を介して分散し、珪素微結晶間に微細な空間を有する構造を有する、非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物が提案されている。
しかしながら酸化珪素をリチウムイオン二次電池用負極活物質として使用した時に、多回数の充放電後の急激な充放電容量低下の原因については、リチウムを大量に吸蔵および放出することによって大きな体積変化が起こり、これに伴い粒子の破壊が起こるためと考えられている。
【0006】
この体積変化に伴う粒子の破壊を抑制するために、特許文献3では超気孔(hyperporous)構造を有するシリコンフレークを活物質として用いることで、前記大きな体積変化を抑制する試みがなされている。
しかしこのような気孔を付与することで活物質の比表面積が増大し、サイクル特性が低下すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-323284号公報
【文献】特開2015-18626号公報
【文献】特表2019-519067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって電気容量の大きい酸化ケイ素を用いたリチウム二次電池のサイクル性および初期効率の改良については未だ十分ではなかった。
【0009】
本発明者らは酸化ケイ素の体積変化に伴う粒子の破壊を抑制し、リチウム二次電池のサイクル性を改良し、高電気容量である酸化ケイ素を用いた二次電池用活物質を検討した。その結果、リチウム二次電池のサイクル性、初期のクーロン効率および容量維持率が改良される二次電池用複合活物質を見出した。
即ち本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる二次電池用活物質および前記二次電池用活物質を負極活物質として含む二次電池に関し、サイクル性、初期のクーロン効率および容量維持率に優れた二次電池を与える二次電池用活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] シリコンオキシカーバイド相と、前記シリコンオキシカーバイド相中に少なくとも2個以上の酸化ケイ素粒子を有する複合粒子である二次電池用活物質。
[2] 前記酸化ケイ素粒子の含有量が1質量%以上60質量%以下である前記[1]に記載の二次電池用活物質。
[3] X線回折において2θが28.4°付近のSi(111)に帰属されるピークを有する前記[1]から[2]に記載の二次電池用活物質。
[4] 前記酸化ケイ素粒子の平均粒径が5μm以下である前記[1]から[3]に記載の二次電池用活物質。
[5] 前記複合粒子の平均粒径が2μm以上15μm以下である前記[1]から[4]に記載の二次電池用活物質。
[6] 比表面積が0.3m2/g以上10m2/g以下である前記[1]から[5]に記載の二次電池用活物質。
[7] 前記シリコンオキシカーバイド相は更に窒素原子を含む前記[1]から[6]に記載の二次電池用活物質。
[8] ラマンスペクトルにおいて、炭素構造のGバンドに帰属される1590cm-1とDバンドに帰属される1330cm-1付近の散乱ピークを有し、前記散乱ピークの強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)が、0.7以上2以下である前記[1]から[7]に記載の二次電池用活物質。
[9] 前記複合粒子の表面に炭素被膜を有し、炭素被膜の量が1質量%以上10質量%以下である前記[1]から[8]に記載の二次電池用活物質。
[10] Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のシリケート化合物を含む前記[1]から[9]に記載の二次電池用活物質。
【0011】
また本発明は、下記の態様を有する。
[11] 前記[1]から[10]に記載の二次電池用活物質を負極に含む二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池に用いられる二次電池用活物質および前記二次電池用活物質を負極活物質として含む二次電池に関し、サイクル性、体積膨張および初期のクーロン効率に優れた二次電池を与える二次電池用活物質が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の二次電池用活物質(以下、「本活物質」とも記す。)はシリコンオキシカーバイド相と、前記シリコンオキシカーバイド相中に少なくとも2個以上の酸化ケイ素粒子(以下、「本酸化ケイ素粒子」とも記す。)を有する複合粒子である。
前記のとおり、酸化ケイ素は、高容量であるがリチウムを大量に吸蔵および放出することによって大きな体積変化が起こり、その結果、サイクル性に劣ると考えられる。一方、シリコンオキシカーバイド相は比較的低容量ではあるが、リチウムの吸蔵および放出に対して体積変化が小さく、サイクル特性に優れる。本活物質は両者を組み合わせることで、高容量維持の上に体積膨張やサイクル特性に優れた二次電池を与える二次電池用活物質が得られたと考えられる。
【0014】
酸化ケイ素とは、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し析出して得られた非晶質の珪素酸化物の総称であり、下記一般式(1)で表される。
SiOn (1)
ただし、前記式(1)において、nは0.4以上1.8以下であり、0.5以上1.6以下が好ましい。
【0015】
本活物質は、シリコンオキシカーバイド相のマトリクスに酸化ケイ素粒子が内在する複合粒子であるため、本活物質の性能に対して酸化ケイ素の粒径が大きな影響を与えることが考えられる。酸化ケイ素粒子の平均粒径が5μmを超える場合、酸化ケイ素は大きな塊となり、本活物質を負極活物質とした時、充放電時に酸化ケイ素粒子による負極活物質の大きな膨張収縮が起こる。その結果、マトリクス内の一部に応力が集中するため活物質の構造崩壊が起きやすく、負極活物質の容量維持率が低下する傾向がある。一方、300nm未満の小サイズの酸化ケイ素粒子は細かすぎるため、酸化ケイ素粒子同士が凝集しやすくなる。そのため、負極活物質中への酸化ケイ素粒子の分散性が低下する可能性がある。また、酸化ケイ素粒子が細かすぎると、その比表面積が高くなり、負極活物質の高温焼成で酸化ケイ素粒子の表面上に副生成物などが多くなる傾向もある。これらが充放電性能の低下に繋がるおそれがある。
【0016】
したがって、本酸化ケイ素粒子の平均粒径は前記の観点から、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。また本酸化ケイ素粒子の平均粒径は粒子分散性と比表面積の観点から、300nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。
ここで平均粒径はレーザー回折式粒度分析計などを用いて測定することができるD50の値である。D50は、レーザー粒度分析計などを用い動的光散乱法により測定することができる。本酸化ケイ素粒子の平均粒径は、粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒子径である。
【0017】
本酸化ケイ素粒子は、例えば平均粒径が前記範囲となるように酸化ケイ素を粉砕などで粒子化し得ることができる。
粉砕に用いる粉砕機としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどの粉砕機が例示できる。また、粉砕は有機溶剤を用いた湿式粉砕であってもよく、有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
得られた酸化ケイ素の粒子を、ビーズ粒径、配合率、回転数または粉砕時間などのビーズミルの条件を制御し、分級等することで本酸化ケイ素粒子の平均粒径を前記範囲することができる。
【0018】
本酸化ケイ素粒子の形状は、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよい。
本酸化ケイ素粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の解析手段を用いることで、前記アスペクト比のサンプルをより容易かつ精密に同定することができる。本発明の二次電池用材料を含有する負極活物質の場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)で切断して断面をFE-SEM観察することができ、またはサンプルをスライス加工してTEM観察により本酸化ケイ素粒子の状態を同定することができる。
なお前記本酸化ケイ素粒子のアスペクト比は、TEM画像に映る視野内のサンプルの主要部分50粒子をベースにした計算結果である。
【0019】
シリコンオキシカーバイド相はケイ素、酸素、炭素を含む化合物から構成されており、ケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造が好ましい。ここでフリー炭素とは、ケイ素-酸素-炭素の三次元骨格に含まれていない炭素である。フリー炭素は炭素相として存在する炭素、炭素相の炭素同士で結合している炭素、およびケイ素-酸素-炭素骨格と炭素相が結合している炭素を含む。
【0020】
シリコンオキシカーバイドは下記式(2)で表されるのが好ましい。
SiOxCy (2)
式(2)中、xはケイ素に対する酸素のモル比、yはケイ素に対する炭素のモル比を表す。
本活物質を二次電池に用いた場合、充放電性能と容量維持率とのバランスが優位になるという観点から、1≦x<2が好ましく、1≦x≦1.9がより好ましく、1≦x≦1.8がさらに好ましい。
また、本活物質を二次電池に用いた場合、充放電性能と初回クーロン効率のバランスとの観点から、1≦y≦20が好ましく、1.2≦y≦15がより好ましい。
【0021】
前記xおよびyはそれぞれの元素の含有質量を測定した後、モル比(原子数比)に換算することにより求めることができる。この際、酸素と炭素は無機元素分析装置を使用することによって、その含有量を定量でき、ケイ素の含有量はICP発光分析装置(ICP-OES)を使用することによって定量できる。
なお、前記xおよびyの測定は前記記載方法によって実施することが好ましいが、本活物質の局所的な分析を行い、それにより得られた含有比データの測定点数を多く取得して、本活物質全体の含有比を類推することでも可能である。局所的な分析としては、例えばエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)や電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)が挙げられる。
【0022】
シリコンオキシカーバイド相を構成する化合物がケイ素、酸素、炭素を含む化合物であり、ケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造の場合、シリコンオキシカーバイド相中のケイ素-酸素-炭素骨格は化学安定性が高く、フリー炭素との複合構造をとり、リチウムの吸蔵および放出に対して体積変化が小さい。本酸化ケイ素粒子がケイ素-酸素-炭素骨格とフリー炭素との複合構造体に密に包まれることで、リチウムの吸蔵および放出に対する本酸化ケイ素粒子の体積変化が抑制される。その結果、本活物質を負極とした場合、負極中の本酸化ケイ素粒子が充放電性能発現の主要成分とする役割を果たしながら、シリコンオキシカーバイド相が充放電時に本酸化ケイ素粒子の体積変化に伴う粒子の破壊を抑制し、リチウム二次電池のサイクル性が改良される。
【0023】
またシリコンオキシカーバイド相を構成する化合物がケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造を有していると、ケイ素-酸素-炭素骨格は、リチウムイオンの接近によりケイ素-酸素-炭素骨格の内部の電子分布に変動が生じ、ケイ素-酸素-炭素骨格とリチウムイオンの間に静電的な結合や配位結合などが形成される。この静電的な結合や配位結合によりリチウムイオンがケイ素-酸素-炭素骨格中に貯蔵される。一方、配位結合エネルギーは比較的低いため、リチウムイオンの脱離反応が容易に行われる。つまりケイ素-酸素-炭素骨格が充放電の際にリチウムイオンの挿入と脱離反応を可逆的に起こすことができると考えられる。
【0024】
前記シリコンオキシカーバイドはケイ素、酸素、炭素以外に窒素を含んでもよい。窒素は後述する本活物質の製造方法において、使用する原料、例えばフェノール樹脂、分散剤、ポリシロキサン化合物、その他の窒素化合物、および焼成プロセスで用いる窒素ガス等を分子内に官能基として窒素を含む原子団とすることで、シリコンオキシカーバイド相に導入することができる。シリコンオキシカーバイド相が窒素を含むことで、本活物質を負極活物質とした時の充放電性能や容量維持率に優れる傾向にある。
シリコンオキシカーバイド相を構成する化合物がケイ素、酸素、炭素および窒素を含む化合物の場合、シリコンオキシカーバイド相は下記式(3)で表される化合物を含有するのが好ましい。
SiOxCyNz (3)
式(3)中、xおよびyは前記と同じ意味であり、zはケイ素に対する窒素のモル比を表す。
シリコンオキシカーバイド相が前記式(3)で表される化合物を含む場合、本活物質を二次電池に用いた際の充放電性能や容量維持率の観点から、1≦x≦2、1≦y≦20、0<z≦0.5が好ましく、1≦x≦1.9、1.2≦y≦15、0<z≦0.4がより好ましい。
【0025】
前記zは前記xおよびyと同様、元素の含有質量を測定した後、モル比(原子数比)に換算することにより求めることができる。
前記xおよびyと同様、zの測定は前記記載方法によって実施することが好ましいが、本活物質の局所的な分析を行い、それにより得られた含有比データの測定点数を多く取得して、本活物質全体の含有比を類推することでも可能である。局所的な分析としては、例えばエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)や電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)が挙げられる。
【0026】
本活物質は前記シリコンオキシカーバイド相中に前記本酸化ケイ素粒子を有している複合粒子であり、本酸化ケイ素が前記シリコンオキシカーバイド相中に分散している複合粒子が好ましい。シリコンオキシカーバイド相中に分散している本酸化ケイ素粒子の数は2以上であり上限は特に限定されない。
【0027】
酸化ケイ素は不均化反応によりケイ素の単体を生成する場合があるが、本活物質は高容量化、高初回効率の観点から、不均化によって生成したケイ素の単体を含んでいる構造でも良い。本活物質がケイ素の単体を含む場合、本活物質をX線回折分析した場合、X線回折パターンにおいて2θが28.4°付近のSi(111)面に帰属されるピークが検出される。
本活物質に別途、ケイ素を添加してもよいが、本活物質が含むケイ素は前記不均化反応により生成したケイ素の結晶子が比較的に小さくて好ましい。
【0028】
活物質の平均粒径が小さすぎると、比表面積の大幅な上昇につれ、本活物質を二次電池とした時、充放電時に固相界面電解質分解物(以下、「SEI」とも記す。)の生成量が増えることで単位体積当たりの可逆充放電容量が低下することがある。平均粒径が大きすぎると、電極膜作製時に集電体から剥離するおそれがある。
したがって本活物質の平均粒径は2μm以上15μm以下が好ましい。本活物質の平均粒径は2.5μm以上がより好ましく、3.0μm以上が特に好ましい。また、本活物質の平均粒径は12μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。平均粒径は前記D50の値である。
【0029】
本活物質の比表面積は0.3m2/g以上10m2/g以下が好ましい。本活物質の比表面積は0.5m2/g以上がより好ましく、1m2/g以上が特に好ましい。また、本活物質の比表面積は9m2/g以下がより好ましく、8m2/g以下が特に好ましい。比表面積が前記範囲であると、電極作製時における溶媒の吸収量を適切に保つことができ、結着性を維持するための結着剤の使用量も適切に保つことができる。なお前記比表面積はBET法により求めた値であり、窒素ガス吸着測定により求めることができ、例えば比表面積測定装置を用いて測定することができる。
【0030】
本活物質は、シリコンオキシカーバイド相中にケイ素-酸素-炭素骨格構造とともに炭素元素のみで構成されるフリー炭素を有しているのが好ましい。本活物質がフリー炭素を有する場合、本活物質のラマンスペクトルにおいて、グラファイト長周期炭素格子構造のGバンドに帰属される1590cm-1と、乱れや欠陥のあるグラファイト短周期炭素格子構造のDバンドに帰属される1330cm-1付近の散乱ピークが観測される。Dバンドの散乱ピーク強度、I(Gバンド)、に対するDバンドの散乱強度、I(Dバンド)、の強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)、0.7以上2以下が好ましい。前記散乱ピーク強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)、は0.7以上1.8以下がより好ましい。前記散乱ピーク強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)、が前記の範囲であるということは、マトリクス中のフリー炭素において以下のことが言える。
【0031】
フリー炭素の一部の炭素原子は、ケイ素-酸素-炭素骨格中の一部のケイ素原子と結合している。このフリー炭素は、充放電特性に影響を与える重要な成分である。フリー炭素は主に、SiO2C2,SiO3C、およびSiO4で構成されるケイ素-酸素-炭素骨格中に形成しているものであり、ケイ素-酸素-炭素骨格の一部のケイ素原子と結合しているため、ケイ素-酸素-炭素骨格内部、および表面のケイ素原子とフリー炭素間の電子伝達がより容易となる。このため本活物質を二次電池に用いた時の充放電時のリチウムイオンの挿入および離脱反応が速やかに進行し、充放電特性が向上すると考えられる。また、リチウムイオンの挿入および脱離反応によって、負極活物質は僅かではあるが膨張および収縮することがあるが、フリー炭素がその近傍に存在することで活物質全体の膨張および収縮が緩和され、容量維持率を大きく向上させる効果があると考えられる。
【0032】
フリー炭素は、シリコンオキシカーバイド相を製造する際にケイ素含有化合物および炭素源樹脂の不活性ガス雰囲気中の熱分解に伴い形成する。具体的にはケイ素含有化合物および炭素源樹脂の分子構造中にある炭化可能な部位が不活性化する雰囲気中で高温熱分解によって炭素成分となり、これらの一部の炭素がケイ素-酸素-炭素骨格の一部と結合する。炭化可能な成分は、炭化水素が好ましく、アルキル類、アルキレン類、アルケン類、アルキン類、芳香族類がより好ましく、その中でも芳香族類であることがさらに好ましい。
【0033】
また、フリー炭素が存在することにより、本活物質の抵抗低減効果が期待され、二次電池の負極として本活物質を使用した場合、本活物質内部の反応が均一かつスムーズに起こり、充放電性能と容量維持率のバランスに優れた二次電池用活物質が得られると考えられる。フリー炭素の導入はケイ素含有化合物由来だけでも可能であるが、炭素源樹脂を併用することにより、フリー炭素の存在量とその効果の増大が期待される。炭素源樹脂の種類は、特に限定されないが、炭素の六員環を含む炭素化合物が好ましい。
【0034】
前記フリー炭素の存在状態は、ラマンスペクトル以外に熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)でも同定することが可能である。ケイ素-酸素-炭素骨格中の炭素原子と異なり、フリー炭素は、大気中で熱分解されやすく、空気存在下で測定した熱重量減少量により炭素の存在量を求めることができる。つまり炭素量は、TG-DTAを用いることで定量できる。
また、熱重量減少挙動より、分解反応開始温度、分解反応終了温度、熱分解反応種の数、各熱分解反応種における最大重量減少量の温度などの熱分解温度挙動の変化も容易に把握できる。これら挙動の温度値を用いて炭素の状態を判断することができる。一方、ケイ素-酸素-炭素骨格中の炭素原子、すなわち前記SiO2C2、SiO3C、およびSiO4を構成するケイ素原子と結合している炭素原子は、非常に強い化学結合を有するために熱安定性が高く、熱分析装置測定の温度範囲内では大気中で熱分解されることがないと考えられる。また、本活物質のシリコンオキシカーバイド相中の炭素は、非晶質炭素と類似する特性を有しているため、大気中において約550℃から900℃の温度範囲に熱分解される。その結果、急激な重量減少が発生する。TG-DTAの測定条件の最高温度は特に限定されないが、炭素の熱分解反応を完全に終了させるために、大気中、約25℃から約1000℃以上までの条件下でTG-DTA測定を行うのが好ましい。
【0035】
また本活物質は前記複合粒子の表面に被膜を有しているのが好ましい。被膜としては、電子伝導性、リチウムイオン伝導性、電解液の分解抑制効果が期待出来る物質の被膜が好ましい。
前記被膜としては、炭素、チタン、ニッケル等の電子伝導性物質の被膜が挙げられる。これらの中でも、負極活物質の化学安定性や熱安定性改善の観点から、炭素の被膜が好ましく、低結晶性炭素の被膜がより好ましい。
【0036】
炭素被膜の場合、本活物質の化学安定性や熱安定性の改善の観点から、被膜の平均厚みは10nm以上300nm以下、または、炭素被膜の含有量は本活物質の質量を100質量%として、1から10質量%が好ましい。
炭素被膜の場合、炭素の被膜は気相沈積法により本活物質表面に作製するのが好ましい。
なお本活物質の質量とは、本活物質を構成する本酸化ケイ素粒子、シリコンオキシカーバイド相の合計量である。シリコンオキシカーバイド相が窒素を含む場合は、窒素も含む合計量であり、本活物質が後述する酸化ケイ素等の第三成分を含む場合、第三成分も含む合計量である。
【0037】
本活物質は前記以外に他の必要な第三成分を含んでもよい。
第三成分としては、Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のシリケート化合物(以下、「本シリケート化合物」とも記す。)が挙げられる。
シリケート化合物は一般に1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子がこれを取り囲んだ構造を持つアニオンを含む化合物であるが、本シリケート化合物はLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と前記アニオンを含む化合物との塩である。
前記アニオンを含む化合物としてはオルトケイ酸イオン(SiO4
4-)、メタケイ酸イオン(SiO3
2-)、ピロケイ酸イオン(Si2O7
6-)、環状ケイ酸イオン(Si3O9
6-またはSi6O18
12-)等のケイ酸イオンが知られている。本シリケート化合物はメタケイ酸イオンとLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属との塩であるシリケート化合物が好ましい。前記金属の中ではLiまたはMgが好ましい。
【0038】
本シリケート化合物はLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有しており、これら金属の2種以上を有していてもよい。2種以上の金属を有する場合、一つのケイ酸イオンが複数種の金属を有していてもよいし、異なる金属を有するシリケート化合物の混合物であってもよい。また本シリケート化合物はLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有する限り、他の金属を有してもよい。
本シリケート化合物はリチウムシリケート化合物またはマグネシウムシリケート化合物が好ましく、メタケイ酸リチウム(Li2SiO3、Li2Si2O5、Li4SiO4)またはメタケイ酸マグネシウム(MgSiO3、Mg2SiO4)がより好ましく、メタケイ酸マグネシウム(MgSiO3、Mg2SiO4)が特に好ましい。
【0039】
本シリケート化合物は前記シリコンオキシカーバイド相および本酸化ケイ素粒子中のいずれに存在してもよく、両方に存在していてもよい。本シリケート化合物がシリコンオキシカーバイド相と本酸化ケイ素の両方に存在する場合、本酸化ケイ素粒子における本シリケート化合物の濃度が、シリコンオキシカーバイド中の濃度より高い方が好ましい。
本シリケート化合物は、結晶状態の場合、粉末X線回折測定(XRD)で検出することができ、非晶質の場合は、固体29Si-NMR測定で確認することができる。
【0040】
本活物質は例えば以下の方法により得られる。
本酸化ケイ素粒子は、前記のとおり、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し析出により製造することができる。また市販の酸化ケイ素を用いてもよい。
本活物質を製造する際には、酸化ケイ素を粉砕、分級等により所望の平均粒径として本酸化ケイ素としてもよい。粉砕、分級の方法は前記のとおりである。
【0041】
前記で得られた本酸化ケイ素粒子のスラリーをポリシロキサン化合物と炭素源樹脂との混合物と混合して懸濁液とし、脱溶媒して前駆体が得られる。得られた前駆体を焼成して焼成物を得、必要に応じて粉砕することで所望の平均粒径または比表面積を有する本活物質が得られる。
本酸化ケイ素粒子のスラリーは、有機溶媒を用い、酸化ケイ素粒子を湿式粉末粉砕装置にて粉砕しながら調整することができる。酸化ケイ素粒子の粉砕を促進させるために有機溶媒に分散剤を添加して用いても良い。湿式粉砕装置としてはローラーミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。
【0042】
前記有機溶媒は、例えば、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン;アルコール類のエタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール;芳香族のベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0043】
前記分散剤の種類は、水系や非水系の分散剤が挙げられ、非水系分散剤が好ましい。非水系分散剤の種類は、ポリエーテル系、アルコール系、ポリアルキレンポリアミン系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系などの高分子型、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系などの低分子型、ポリリン酸塩系などの無機型が例示される。本酸化ケイ素スラリーにおける酸化ケイ素固形分の濃度は特に限定されないが、前記溶媒および、必要に応じて分散剤を含む場合は分散剤と酸化ケイ素の合計量を100質量%として、酸化ケイ素の量は5質量%から40質量%の範囲が好ましく、10質量%から30質量%がより好ましい。
【0044】
前記ポリシロキサン化合物としては、ポリカルボシラン構造、ポリシラザン構造、ポリシラン構造およびポリシロキサン構造を少なくとも1つ含む樹脂が挙げられる。これらの構造のみを含む樹脂であっても良く、これら構造の少なくとも一つをセグメントとして有し、他の重合体セグメントと化学的に結合した複合型樹脂でも良い。複合化の形態はグラフト共重合、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合などがある。例えば、ポリシロキサンセグメントが重合体セグメントの側鎖に化学的に結合したグラフト構造を有する複合樹脂、重合体セグメントの末端にポリシロキサンセグメントが化学的に結合したブロック構造を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0045】
ポリシロキサンセグメントが、下記一般式(S-1)および/または下記一般式(S-2)で表される構造単位を有するポリシロキサン化合物が好ましい。なかでもポリシロキサン化合物が、シロキサン結合(Si-O-Si)主骨格の側鎖または末端に、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基、またはポリエーテル基を有することがより好ましい。
【0046】
【0047】
【化2】
なお前記一般式(S-1)および(S-2)中、R
1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基またはアルキル基、エポキシ基、カルボキシ基などを表す。R
2およびR
3は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基、エポキシ基、カルボキシ基などを示す。)
【0048】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。前記のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0049】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0050】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0051】
ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとしては、例えば、アクリル重合体、フルオロオレフィン重合体、ビニルエステル重合体、芳香族系ビニル重合体、ポリオレフィン重合体等のビニル重合体セグメントや、ポリウレタン重合体セグメント、ポリエステル重合体セグメント、ポリエーテル重合体セグメント等の重合体セグメント等が挙げられる。中でも、ビニル重合体セグメントが好ましい。
【0052】
ポリシロキサン化合物が、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントとが下記の構造式(S-3)で示される構造で結合した複合樹脂でもよく、三次元網目状のポリシロキサン構造を有してもよい。
【0053】
【化3】
なお式中、炭素原子は重合体セグメントを構成する炭素原子であり、2個のケイ素原子はポリシロキサンセグメントを構成するケイ素原子である)
【0054】
ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメントは、ポリシロキサンセグメント中に重合性二重結合など加熱により反応が可能な官能基を有していてもよい。熱分解前にポリシロキサン化合物を加熱処理することにより、架橋反応が進行し、固体状とすることにより、熱分解処理を容易に行うことができる。
【0055】
重合性二重結合としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。重合性二重結合は、ポリシロキサンセグメント中に2つ以上存在することが好ましく3から200個存在することがより好ましく、3から50個存在することが更に好ましい。また、ポリシロキサン化合物として重合性二重結合が2個以上存在する複合樹脂を使用することによって、架橋反応が容易に進行させることができる。
【0056】
ポリシロキサンセグメントは、シラノール基および/または加水分解性シリル基を有してもよい。加水分解性シリル基中の加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、これらの基が加水分解されることにより加水分解性シリル基はシラノール基となる。前記熱硬化反応と並行して、シラノール基中の水酸基や加水分解性シリル基中の前記加水分解性基の間で加水分解縮合反応が進行することで、固体状のポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0057】
本発明でいうシラノール基とはケイ素原子に直接結合した水酸基を有するケイ素含有基である。本発明で言う加水分解性シリル基とはケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有するケイ素含有基であり、具体的には、例えば、下記の一般式(S-4)で表される基が挙げられる。
【0058】
【化4】
なお式中、R
4はアルキル基、アリール基またはアラルキル基等の1価の有機基を、R
5はハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基またはアルケニルオキシ基である。またbは0から2の整数である。
【0059】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0060】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0061】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0062】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0063】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、第二ブトキシ基、第三ブトキシ基等が挙げられる。
【0064】
アシロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、フェニルアセトキシ基、アセトアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等が挙げられる。
【0065】
アリルオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0066】
アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、2-ペテニルオキシ基、3-メチル-3-ブテニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0067】
前記一般式(S-1)および/または前記一般式(S-2)で示される構造単位を有するポリシロキサンセグメントとしては、例えば以下の構造を有するもの等が挙げられる。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
重合体セグメントは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて各種官能基を有していても良い。かかる官能基としては、例えばカルボキシル基、ブロックされたカルボキシル基、カルボン酸無水基、3級アミノ基、水酸基、ブロックされた水酸基、シクロカーボネート基、エポキシ基、カルボニル基、1級アミド基、2級アミド、カーバメート基、下記の構造式(S-5)で表される官能基等を使用することができる。
【0072】
【0073】
また、前記重合体セグメントは、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性二重結合を有していてもよい。
【0074】
前記ポリシロキサン化合物は、例えば、下記(1)から(3)に示す方法で製造することが好ましい。
【0075】
(1)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製しておき、この重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0076】
(2)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製する。また、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を加水分解縮合反応してポリシロキサンも予め調製しておく。そして、重合体セグメントとポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0077】
(3)前記重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物と、ポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
上述方法によりポリシロキサン化合物が得られる。
ポリシロキサン化合物としては、例えば、セラネート(登録商標)シリーズ(有機・無機ハイブリッド型コーティング樹脂;DIC株式会社製)やコンポセランSQシリーズ(シルセスキオキサン型ハイブリッド;荒川化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0078】
前記炭素源樹脂は、ポリシロキサン化合物との混和性が良く、また、不活性雰囲気中、高温焼成により炭化され、芳香族官能基を有する合成樹脂や天然化学原料が好ましい。
【0079】
合成樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。天然化学原料としては、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられるが、安価入手や不純物排除の観点からフェノール樹脂の使用がより好ましい。
【0080】
特に、炭素源樹脂が芳香族炭化水素部位を含む樹脂であることが好ましく、芳香族炭化水素部位を含む樹脂がフェノール樹脂、エポキシ樹脂、または熱硬化性樹脂が好ましく、フェノール樹脂はレゾール型が好ましい。
フェノール樹脂としては、例えばスミライトレジンシリーズ(レゾール型フェノール樹脂,住友ベークライト株式会社製)が挙げられる。
【0081】
本酸化ケイ素粒子のスラリーをポリシロキサン化合物と炭素源樹脂との混合物と混合し、脱溶媒して前駆体が得られる。
ポリシロキサン化合物と炭素源樹脂を含む混合物は、ポリシロキサン化合物と炭素源樹脂とが均一に混合した状態であることが好ましい。前記混合は分散および混合の機能を有する装置を用いて行われる。分散および混合の機能を有する装置としては、例えば、攪拌機、超音波ミキサー、プリミックス分散機などが挙げられる。有機溶媒を溜去することを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などを用いることができる。
【0082】
前駆体は本酸化ケイ素粒子を3質量%から50質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を15質量%から85質量%、炭素源樹脂の固形分を3質量%から70質量%含有するのが好ましく、本酸化ケイ素粒子の固形分含有量を8質量%から40質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を20から70質量%、炭素源樹脂の固形分を3質量%から60質量%含有するのがより好ましい。
【0083】
前記で得られた前駆体を不活性ガス雰囲気中、焼成して熱分解可能な有機成分を完全分解させて焼成物が得られる。焼成温度は、例えば、最高到達温度が900℃から1200℃の範囲の温度で焼成することで、熱分解可能な有機成分を完全分解することができる。またポリシロキサン化合物および炭素源樹脂が高温処理のエネルギーによってケイ素-酸素-炭素骨格とフリー炭素を有するシリコンオキシカーバイド相に転化される。
【0084】
焼成は昇温速度、一定温度での保持時間等により規定される焼成のプログラムに沿って行われる。なお最高到達温度は、設定する最高温度であり、焼成物の構造や性能に強く影響を与えるものである。最高到達温度により、シリコンオキシカーバイド相のケイ素と炭素の化学結合状態を保有する本活物質の微細構造が精密に制御でき、より優れた充放電特性が得られる。
【0085】
焼成方法は、特に限定されないが、不活性雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0086】
得られた焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することでシリコンオキシカーバイド相と、前記シリコンオキシカーバイド相中に少なくとも2個以上の本酸化ケイ素粒子を有する複合粒子である本活物質が得られる。粉砕は目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。例えば10mm以上の塊または凝集粒子の焼成物を、10μm程度の活物質を作製する場合はジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行い1mm程度の粒子にした後、グローミル、ボールミル等で100μm程度とし、ビーズミル、ジェットミル等で10μm程度まで粉砕する。粉砕で作製した粒子には粗大粒子が含まれる場合がありそれを取り除くため、また、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行う。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。なお、焼成前に前駆体混合物を噴霧乾燥等により目標粒子径付近の形状に制御し、その形状で焼成を行った場合は、粉砕工程を省くことも可能である。
【0087】
本活物質がLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のシリケート化合物を有する場合、本酸化ケイ素粒子のスラリーをポリシロキサン化合物と炭素源樹脂との混合物と混合して得られた懸濁液に、Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩を添加し、その後は前記と同じ操作で、前記シリケート化合物を有する本活物質が得られる。
Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩としては、これら金属のフッ化物、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。
【0088】
前記金属の塩は2種以上の金属の塩でもよく、一つの塩が複数種の金属を有していてもよいし、異なる金属を有する塩の混合物であってもよい。
前記金属の塩を懸濁液に添加する際の金属の塩の添加量は、酸化ケイ素粒子のモル数に対してモル比で0.01から0.4までが好ましい。
前記金属の塩が有機溶媒に可溶の場合、前記金属の塩を有機溶媒に溶かして懸濁液に加えて混合すればよい。前記金属の塩が有機溶媒に不溶の場合、金属の塩の粒子を有機溶媒に分散してから前記懸濁液に加え、混合すればよい。前記金属の塩は、分散効果向上の観点から平均粒径が100nm以下のナノ粒子が好ましい。前記有機溶媒は、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
【0089】
前記懸濁液に前記金属の塩を均一に分散させることで金属の塩の分子と本酸化ケイ素粒子を十分に接触させることができる。本酸化ケイ素粒子の表面や周辺に酸化ケイ素が存在する場合、前記金属の塩の分子と本酸化ケイ素粒子が固相反応する条件で、金属の塩の分子と本酸化ケイ素粒子を十分に接触させることで本酸化ケイ素粒子中に本シリケート化合物を存在させることができる。本酸化ケイ素粒子における本シリケート化合物の濃度を、シリコンオキシカーバイド中の濃度より高くするためには、前記金属の塩と本酸化ケイ素粒子の接触状態を向上させるのが重要である。
また、有機添加物を用いて前記金属の塩の分子を表面修飾することで、本酸化ケイ素粒子表面付近に付着することができる。有機添加物の分子構造は、特に制限はないが、本酸化ケイ素粒子の表面上に存在している分散剤との物理的または化学的結合ができるような分子構造が好ましい。前記の物理的または化学的結合は、静電作用、水素結合、分子間ファンデルワールス力、イオン結合、共有結合などが挙げられる。高温焼成の時、前記金属の塩の分子が本酸化ケイ素粒子と固相反応することにより、本酸化ケイ素粒子中に本シリケート化合物を形成させることができる。
【0090】
本活物質が、前記複合粒子の表面に前記炭素の被膜を有している場合、前記方法に続けて、化学気相蒸着装置内で、熱分解性炭素源ガスとキャリア不活性ガスフローの中、700℃から1000℃の温度範囲にて炭素被膜で被覆する。
熱分解性炭素源ガスはアセチレン、エチレン、アセトン、アルコール、プロパン、メタン、エタンなどが挙げられる。
不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられ、通常、窒素が用いられる。
【0091】
本活物質は、サイクル性、初期のクーロン効率および容量維持率に優れており、本活物質を含む負極として用いた二次電池は良好な特性を発揮する。
具体的には、本活物質と有機結着剤と、必要に応じてその他の導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ薄膜状に塗付して負極とすることができる。また、前記のスラリーに黒鉛など炭素材料を加えて負極を作製することもできる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人工黒鉛、ハードカーボンまたはソフトカーボンのような非晶質炭素などが挙げられる。
【0092】
例えば、本活物質と、有機結着材であるバインダーとを、溶媒とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。
【0093】
前記有機結着剤としては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(以下、「SBR」とも記す。);メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、および、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸からなる(メタ)アクリル共重合体等の不飽和カルボン酸共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」とも記す。)などの高分子化合物が挙げられる。
【0094】
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比率は、1質量%から30質量%であることが好ましく、2質量%から20質量%であることがより好ましく、3質量%から15質量%であることがさらに好ましい。
【0095】
有機結着剤の含有比率が1質量%以上であることで密着性がより良好で、充放電時の膨張および収縮によって負極構造の破壊がより抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇がより抑えられる。
かかる範囲において、本活物質は、化学安定性が高く、水性バインダーも採用することができる点で、実用化面においても取り扱い容易である。
【0096】
また、前記負極材スラリーには、必要に応じて、導電助材を混合してもよい。導電助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の負極活物質に対して1質量%から15質量%程度とすればよい。
【0097】
また前記集電体の材質および形状については、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用できる。
【0098】
前記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などが挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
【0099】
また、前記負極材スラリーをシート状またはペレット状等として、これと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等により行うことができる。
【0100】
前記集電体上に形成された負極層または集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、水系のスチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR)などを用いた場合には100から130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150から450℃で熱処理することが好ましい。
【0101】
この熱処理により溶媒の除去、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間および粒子と集電体間の密着性が向上できる。なお、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0102】
また、熱処理した後に、負極は加圧処理しておくことが好ましい。本活物質を用いた負極では、電極密度が1g/cm3から1.8g/cm3であることが好ましく、1.1g/cm3から1.7g/cm3であることがより好ましく、1.2g/cm3から1.6g/cm3であることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性および電極の体積容量密度が向上する傾向がある。一方、電極密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することでケイ素など体積膨張の抑制効果が弱くなり、容量維持率が低下することがある。そのため電極密度の最適な範囲が選択される。
【0103】
本発明の二次電池は前記本活物質を負極に含む。本活物質を含む負極を有する二次電池としては、非水電解質二次電池と固体型電解質二次電池が好ましく、特に非水電解質二次電池の負極として用いた際に優れた性能を発揮するものである。
【0104】
前記本発明の二次電池は、例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の負極活物質を含む負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。
【0105】
正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0106】
正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(ただし、MはCo、Ni、MnまたはFe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
【0107】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0108】
電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
【0109】
本発明の二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。なお、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。
【0110】
本活物質を用いた二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。上述した本発明の負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
【0111】
前記のとおり、本活物質を二次電池の負極活物質とした時、サイクル性、初期のクーロン効率および容量維持率に優れた二次電池を与える。
本活物質は前記方法により負極として用い、前記負極を有する二次電池とすることができる。
【0112】
以上、本活物質、本活物質を負極に含む二次電池に関して説明したが、本発明は前記の実施形態の構成に限定されない。
本活物質および本活物質を負極に含む二次電池は前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例】
【0113】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本発明のケイ素含有活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。
【0114】
合成例1:ポリシロキサン化合物の作製
(メチルトリメトキシシランの縮合物(a1)の合成)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、1、421質量部のメチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と略記する。)を仕込んで、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中に0.17質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と207質量部の脱イオン水との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌してMTMSの加水分解縮合反応をさせた。
前記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40から60℃および40から1.3kPaの減圧下で蒸留した。なお、「40から1.3kPaの減圧下」とは、メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaであり、最終的に1.3kPaとなるまで減圧することを意味する。以下の記載においても同様である。前記反応過程で生成したメタノールおよび水を除去することによって、数平均分子量が1、000から5、000のMTMSの縮合物(以下、「a1」とも記す。)を含有する液を1、000質量部得た。得られた液の有効成分は70質量%であった。
なお、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値、〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕、により算出したものである。
【0115】
硬化性樹脂組成物(1)の製造
撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、150質量部のブタノール(以下、「BuOH」とも記す。)、105質量部のフェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」とも記す。)、277質量部のジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」とも記す。)を仕込んで80℃まで昇温した。
次いで、同温度で21質量部のメチルメタアクリレート(以下、「MMA」とも記す。)、4質量部のブチルメタアクリレート(以下、「BMA」とも記す。)、3質量部の酪酸(以下、「BA」とも記す。)、2質量部のメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPTS」とも記す。)、3質量部のBuOHおよび0.6質量部のブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(以下、「TBPEH」とも記す。)を含有する混合物を、前記反応容器中へ6時間で滴下した。滴下終了後、更に同温度で20時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が10、000のビニル重合体(a2-1)の有機溶剤溶液を得た。
【0116】
次いで、0.04質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と112質量部の脱イオン水との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a2-1)が有する加水分解性シリル基と、前記PTMSおよびDMDMS由来のポリシロキサンを有する加水分解性シリル基およびシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。
次いで、この液に472質量部の合成例1で得られたMTMSの縮合物(a1)、80質量部の脱イオン水を添加し、同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させ、合成例1と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノールおよび水を除去した。次いで、250質量部のBuOHを添加し、不揮発分が60.1質量%の硬化性樹脂組成物(1)を1、000質量部得た。
【0117】
硬化性樹脂組成物(2)の製造
撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、150質量部のBuOH、249質量部のPTMS、263質量部のDMDMSを仕込んで80℃まで昇温した。
次いで、同温度で18質量部のMMA、14質量部のBMA、7質量部のBA、1質量部のアクリル酸(以下、「AA」とも記す。)、2質量部のMPTS、6質量部のBuOHおよび0.9質量部のTBPEHを含有する混合物を、前記反応容器中へ5時間で滴下した。滴下終了後、更に同温度で10時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が20、100のビニル重合体(a2-2)の有機溶剤溶液を得た。
【0118】
次いで、0.05質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と147質量部の脱イオン水との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a2-2)が有する加水分解性シリル基と、前記PTMSおよびDMDMS由来のポリシロキサンが有する加水分解性シリル基およびシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。
次いで、この液に76質量部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、231質量部の合成例1で得られたMTMSの縮合物(a1)、56質量部の脱イオン水を添加し、同温度で15時間撹拌して加水分解縮合反応させ、合成例1と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノールおよび水を除去した。次いで、250質量部のBuOHを添加し、不揮発分が60.0質量%の硬化性樹脂組成物(2)を1、000質量部得た。
【0119】
合成例2:酸化ケイ素粒子の粉砕条件
150mlの小型ビーズミル装置の容器中に60%の充填率となるよう、粉砕メディアとして粒径が0.2mmのジルコニアビーズ、および100mlのメチルエチルケトン溶媒を入れた。その後、100質量部の平均粒径が5μmの酸化ケイ素粉体(市販品)と20質量部のカチオン性分散剤液(ビックケミー・ジャパン株式会社:BYK145)を入れ、表1に記載の粉砕条件でビーズミル湿式粉砕を行い、固形物濃度が30質量%の濃い褐色液体状の酸化ケイ素、SiO-1からSiO-3、のスラリーを得た。レーザー光散乱測定にて各酸化ケイ素の平均粒径を測定した結果、表1のとおりであった。
【0120】
また、容器直径が150mm、粉砕メディアとしてジルコニアボールを有する小型ボールミル装置を用い、メタノールを粉砕用溶媒として、100質量部の平均粒径が5μmの酸化ケイ素粉体(市販品)と20部のカチオン性分散剤液(ビックケミー・ジャパン株式会社:BYK145)を粉砕容器に入れ、表1に示すような粉砕条件にて酸化ケイ素の粉砕を行い、固形物濃度が30質量%の酸化ケイ素粉体、SiO-4からSiO-7、のスラリーを得た。SiO-4からSiO-7の平均粒径を表1に示した。
【0121】
【0122】
実施例1
前記合成例1で作製した平均分子量3500のポリシロキサン樹脂(硬化性樹脂組成物(1))および平均分子量3000のフェノール樹脂を樹脂固形物の重量比で90/10で混合し、高温焼成後の生成物中の酸化ケイ素粒子含有量が50質量%となるように合成例2で得られたSiO-1のスラリーを添加し、撹拌機中にて十分に混合した。得られた酸化ケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液を120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行った。その後、真空乾燥機を用いて110℃で減圧乾燥を10時間行い、最後に窒素雰囲気中900℃で4時間にて高温焼成することで黒色固形物を得た。得られた黒色固形物を遊星型ボールミルで粉砕し、黒色粉体を作製した。この黒色粉体の20gをCVD装置(デスクトップロータリキルン:高砂工業株式会社製)に投入し、エチレンガス0.2L/分および窒素ガス0.8L/分の混合ガスを導入しながら、850℃で1時間、化学的気相成長法により、黒色粉体表面への炭素被膜処理を行い、活物質粒子を作製した。
【0123】
炭素被膜処理後の活物質粉末の炭素被覆量を熱分析装置によって測定したところ、処理前重量より2.1%増加したことが分かった。得られた活物質粉末の平均粒径は約2.9μmであり、比表面積は6.5m2/gであった。
Cu-Kα線による粉末X線回折(XRD)の測定結果によりSi(111)結晶面に帰属される2θ=28.4°の回折ピークは検出されなかった。エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectroscopy、EDS)結果から窒素元素の含有量は0.2質量%であった。また、ラマン散乱分析測定結果、炭素のGバンドに帰属される1590cm-1付近のピークとDバンドに帰属される1330cm-1付近のピークを示し、強度比I(Gバンド)/I(Dバンド)は1.4であった。
【0124】
80質量部の前記で得られた活物質粒子と導電助剤として10質量部のアセチレンブラックおよびバインダーとして10質量部のCMCとSBRとの混合物とを混合してスラリーを調製した。得られたスラリーを銅箔上に製膜した。110℃で減圧乾燥後、Li金属箔を対極としてハーフセルとしてコイン型リチウムイオン電池を作製した。二次電池充放電試験装置(北斗(株)製)を用い、作製したハーフセルの充放電特性の評価を25℃にて行った。カットオフ電圧範囲は0.005から1.5Vとした。充放電の測定結果は、初回放電容量が1180mAh/g、初回クーロン効率が67.5%であった。
【0125】
フルセルの評価は、正極材料としてLiCoO2を正極活物質、集電体としてアルミ箔を用いた単層シートを用いて、正極膜を作製し、450mAh/gの放電容量設計値にて黒鉛粉体と活物質粉末を混合して負極膜を作製した。非水電解質には六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネート(以下、「EC」とも記す。)とジエチルカーボネート(以下、「DEC」とも記す。)を体積比で1/1の混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いたラミ型リチウムイオン二次電池を作製した。ラミ型リチウムイオン二次電池を25℃、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで1.2mA(正極基準で0.25c)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行い、放電容量を求めた。2.5Vから4.2V電圧範囲内の充放電を1サイクルとして、300サイクル後の容量維持率は90%であった。充放電後、ラミネートセルをグローブボックス・アルゴン雰囲気中にて解体して負極を取り出し、EC/DEC混合液で洗浄してから静置乾燥後、電極膜の厚みを測定した。充放電前後に負極膜の厚さの変化率を負極膨張率した。負極膨張率は19%であった。結果を表2に示した。
【0126】
実施例2および3
酸化ケイ素を実施例2はSiO-2、実施例3はSiO-3とした酸化ケイ素スラリーを用い、その他は実施例1と同様の条件にて活物質を得た。得られた活物質の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0127】
実施例4から8
酸化ケイ素にSiO-4を用い、酸化ケイ素の含有量を実施例4は5質量%、実施例5は10質量%、実施例6は30質量%、実施例7は50質量%、実施例8は58質量%とし、その他は実施例1と同様の条件下で活物質粒子を得た。得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。得られた各種評価結果を表2に示した。
【0128】
実施例9および10
酸化ケイ素にSiO-4を用い、実施例1と同様の条件下にて、酸化ケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液を120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行い、その後、高温焼成を行った。焼成物の粉砕条件を変えて黒色粉末を得、CVD装置(デスクトップロータリキルン:高砂工業株式会社製)に投入し、エチレンガス0.3L/分および窒素ガス0.7L/分の混合ガスを導入した。実施例9は850℃で1時間、実施例10は850℃で2時間、化学的気相成長法により、黒色粉体表面への炭素被覆処理を行い、実施例9と実施例10の活物質粒子を作製した。得られた活物質の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0129】
実施例11から13
前記合成例1で作製した平均分子量3500のポリシロキサン樹脂(硬化性樹脂組成物(2))および平均分子量3000のフェノール樹脂を樹脂固形物の質量比で、実施例11は100/0、実施例12は50/50、実施例13は30/70として混合し、高温焼成後の生成物中の酸化ケイ素粒子含有量が50質量%となるように合成例2で得られたSiO-4のスラリーを添加し、酸化ケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液を120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行った。それ以降の条件は実施例1と同様にして、活物質粒子を作製した。得られた活物質の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0130】
実施例14
酸化ケイ素にSiO-5を用い、その他は実施例1と同様の条件下で活物質粒子を得た。得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。得られた各種評価結果を表2に示した。
【0131】
実施例15および16
酸化ケイ素を実施例15はSiO-6、実施例16はSiO-7とした酸化ケイ素スラリーを用い、酸化ケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液を混合した。酸化ケイ素粒子の量に対してLi+/酸化ケイ素をモル比で実施例15は30/100、実施例16は50/100となるようにLiClを原料として酸化ケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液に添加し、120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行った。それ以降の条件は実施例1と同様にして、活物質粉末を作製した。得られた活物質粒子中のLi元素の含有量は実施例が2.5質量%、実施例16は5.1質量%であった。得られた活物質粒子の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0132】
実施例17
酸化ケイ素にSiO-7を用い、その他は実施例1と同様の条件にて酸化ケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液を120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行い、窒素雰囲気中、1000℃で4時間、高温焼成して活物質粒子を得た。得られた活物質粒子をCu-Kα線による粉末X線回折(XRD)の測定を行った結果、Si(111)結晶面に帰属される2θ=28.4°の回折ピークが検出された。得られた活物質粒子の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0133】
比較例1
20gの平均粒径が5μmの酸化ケイ素粉体をCVD装置(デスクトップロータリキルン:高砂工業株式会社製)に投入し、エチレンガス0.2L/分および窒素ガス0.8L/分の混合ガスを導入しながら、850℃で1時間、化学的気相成長法により、黒色粉体表面への炭素被覆処理を行い、活物質粒子を作製した。処理後の炭素被覆量を熱分析装置によって測定したところ、処理前重量より2.0%増加したことが分かった。得られた活物質粒子をCu-Kα線による粉末X線回折(XRD)の測定を行った結果、Si(111)結晶面に帰属される2θ=28.4°の回折ピークが検出されなかった。得られた活物質粒子の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0134】
比較例2
合成例1で作成した硬化性樹脂組成物(1)を110℃にて減圧乾燥後、窒素雰囲気中、1100℃で4時間、高温焼成することで黒色固形物を得た。得られた黒色固形物を遊星型ボールミルで粉砕後に黒色粉体を作製後、比較例1と同様なCVD条件下にて炭素被膜処理を行った。
得られた炭素被膜処理後の黒色粉体の粒径および比表面積を測定し、炭素被膜処理後の黒色粉体を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0135】
比較例3
酸化ケイ素粒子の代わりに平均粒径が100nmの市販のケイ素粒子(Alfa Aesar製)を用いて、実施例1と同様な条件にてケイ素粒子を含有する樹脂混合懸濁液を120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行い、窒素雰囲気中、1000℃で4時間、高温焼成することで黒色固形物を得た。得られた活物質粒子をCu-Kα線による粉末X線回折(XRD)の測定を行った結果、Si(111)結晶面に帰属される2θ=28.4°の回折ピークが強く検出された。得られた活物質粒子の粒径および比表面積を測定し、得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。各種評価結果を表2に示した。
【0136】
比較例4
平均分子量3000のフェノール樹脂と、高温焼成後の生成物中の酸化ケイ素粒子含有量が50質量%となるように合成例2で得られたSiO-4のスラリーとを混合後、120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行った。CVD炭素被膜を実施しなかった以外は実施例1と同様の条件下で活物質粒子を得た。得られた活物質粒子を用いてハーフセルおよびフルセルでの充放電性能を評価した。得られた各種評価結果を表2に示した。
【0137】
【0138】
[評価方法]
表2中、各評価方法は以下のとおりである。
平均粒径 D50:レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製、マスターサイザー3000)を用いて測定した。
比表面積:比表面積測定装置(BELJAPAN社製、BELSORP-mini)を用いて窒素吸着測定より、BET法で測定した。29Si-NMR:JEOL RESONANCE社製、JNM-ECA600を用いた。
【0139】
ラマン散乱スペクトル測定:測定機器としてNRS-5500(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は励起レーザーの波長は532nm、対物レンズの倍率は100倍、測定波数範囲は3500から100cm-1とした。
粉末X線回折(XRD): X線回折装置(リガク社製、SmartLab)を用いて大気中で測定した。
【0140】
窒素含有量の測定:酸素・窒素分析装置(EMGA-920)を用いた。
炭素被膜量の測定:熱分析装置(リガク社製、Thermo Plus EVO2)を用いて大気中にて重量損失を測って計算した。
【0141】
電池特性評価:二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005から1.5Vに、充放電レートが0.1C(1から3回)と0.2C(4サイクル以後)にし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。放電容量、充電容量、初回クーロン効率とサイクル性(本願では、25℃でフルセルを300サイクル充放電後の容量維持率を指す)、負極膨張率は以下のようにして求めた。活物質の充電容量と放電容量:ハーフセルの充放電測定で求めた。活物質の初回クーロン効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)容量維持率(%@300回目)=300回目の負極放電容量(mAh/g)/負極初回放電容量(mAh/g)、フルセル(ラミネートセル)の測定で求めた。負極膨張率:フルセルを300サイクルでの充放電後、負極を取り出し、EC/DEC混合液で洗浄してから静置乾燥後、電極膜の厚みを測定した。充放電前後に負極膜の厚さの変化率を負極膨張率した。
【0142】
前記結果から明らかなように、本活物質を負極活物質として用いた場合、高容量維持の上、負極の膨張率が低く、サイクル性(あるいは容量維持率)及び初回クーロン効率はいずれも高く、またこれら二次電池の特性のバランスに優れる。また本活物質を負極活物質として含む二次電池はその電池特性に優れている。