(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び成膜体
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20240521BHJP
B05B 7/16 20060101ALI20240521BHJP
B05D 1/12 20060101ALI20240521BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C23C24/04
B05B7/16
B05D1/12
B05D7/24 301W
(21)【出願番号】P 2020065151
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 勝己
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】曽木 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】明渡 純
(72)【発明者】
【氏名】青柳 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 浩明
(72)【発明者】
【氏名】篠田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】津田 弘樹
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-211030(JP,A)
【文献】特開2015-161003(JP,A)
【文献】特開2003-213450(JP,A)
【文献】特開2006-193784(JP,A)
【文献】特表2013-513723(JP,A)
【文献】特開2009-293127(JP,A)
【文献】特開2015-147981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/04
B05B 7/16
B05D 1/12
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に膜を形成する成膜装置であって、
セラミックス原料粉をガス中に分散させたエアロゾルを噴出端から前記基材に向けて噴出するエアロゾル搬送路と、
前記エアロゾル搬送路内を流通する前記エアロゾルを加熱する加熱手段とを備え、
前記加熱手段は、前記エアロゾルの流通方向に沿って複数配設され、
複数の前記加熱手段のうち前記エアロゾルの流通方向最下流に配設された前記加熱手段の目標加熱温度は、
500℃以上且つ残りの前記加熱手段の目標加熱温度よりも
200℃以上高
くなるよう制御される、成膜装置。
【請求項2】
複数の前記加熱手段は、前記エアロゾルの流通方向最上流に配設された前記加熱手段から前記流通方向の下流側に向かうにつれて目標加熱温度が高くなる
よう制御される請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記セラミックス原料粉を構成する粒子の密度が4.0g/cm
3以上である請求項1
又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記セラミックス原料粉は、安定化ジルコニアである請求項1~
3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
セラミックス原料粉をガス中に分散させたエアロゾルをエアロゾル搬送路の噴出端から基材に向けて噴出させて前記基材上に膜を形成する方法において、
前記エアロゾル搬送路内を流通する前記エアロゾルを、前記エアロゾルの流通方向に沿った複数の加熱位置において加熱し、
複数の前記加熱位置のうち前記エアロゾルの流通方向最下流の前記加熱位置での目標加熱温度を、
500℃以上且つ残りの前記加熱位置での目標加熱温度よりも
200℃以上高くする
よう制御を行う成膜方法。
【請求項6】
複数の前記加熱位置での前記エアロゾルの加熱は、前記エアロゾルの流通方向最上流の前記加熱位置から前記流通方向の下流側に向かうにつれて目標加熱温度が高くなるように
制御を行う請求項
5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記セラミックス原料粉を構成する粒子の密度が4.0g/cm
3以上である請求項
5又は6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記セラミックス原料粉は、安定化ジルコニアである請求項
5~7のいずれか一項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に膜を形成する成膜装置及び成膜方法、並びに成膜体に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結のような高温での熱処理を経ることなく、金属酸化物材料からなる膜を基材上に形成する方法として、エアロゾルデポジション法(AD法)と呼ばれる手法がある。このAD法は、金属酸化物などの微粒子からなる原料粉を、ノズルから音速程度でセラミックスやプラスチックなどの基材に向けて噴射し、原料粉が基材に衝突する際のエネルギーによって微粒子を破砕・変形させることで、基材上に緻密な膜を形成する方法である。
【0003】
AD法では、基材に衝突する微粒子の衝撃力が膜の緻密度に大きな影響を与えるため、所望とする膜質を均質に得るためには、基材に衝突する微粒子の速度を適正な範囲内に制御する必要がある。中でも、ジルコニア系材料は硬度が高く基材衝突時に塑性変形的な挙動を示し難く、成膜可能なプロセスウィンドウが非常に狭い。そのため、基材に衝突する微粒子の速度にはより高い均一性が求められる。また、均質な膜を得るためには、エアロゾル中での微粒子凝集体の発生を抑制し、可能な限り微粒子を気相中に単一分散させた状態を保つことが望ましい。エアロゾル中での微粒子凝集体の発生原因は、主にエアロゾルを搬送する配管の内壁やノズルの内壁への微粒子の付着による凝集体形成及び付着した凝集体の脱離であると考えられている。
【0004】
特許文献1には、微粒子凝集体の形成や脱離によるエアロゾル中での凝集体の発生を抑えるために、ノズル先端を加熱する方法が提案されている。この方法によれば、ノズル先端の内壁の温度がノズルに導入されるエアロゾルの温度より高くなるため、熱対流効果によりノズル内壁への微粒子や凝集体の付着を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、ノズル先端を150℃以上に加熱すると、エッチングが起こって部分的な剥離が生じる虞があると指摘している。
【0007】
しかしながら、本願発明者が鋭意研究を重ねた結果、150℃以上に加熱することが緻密度の高い膜を形成する上で重要である場合があることがわかった。
【0008】
一方、単にエアロゾルの加熱温度を高くすると、ノズルの流路断面内での微粒子の速度分布がワイドになり、均質な膜が得られないという問題がある。
【0009】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、緻密度の高い均質な膜を形成できる成膜装置及び成膜方法、並びに成膜体の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る成膜装置の特徴構成は、基材上に膜を形成する成膜装置であって、
セラミックス原料粉をガス中に分散させたエアロゾルを噴出端から前記基材に向けて噴出するエアロゾル搬送路と、
前記エアロゾル搬送路内を流通する前記エアロゾルを加熱する加熱手段とを備え、
前記加熱手段は、前記エアロゾルの流通方向に沿って複数配設され、
複数の前記加熱手段のうち前記エアロゾルの流通方向最下流に配設された前記加熱手段の目標加熱温度は、500℃以上且つ残りの前記加熱手段の目標加熱温度よりも200℃以上高くなるよう制御される点にある。
また、上記目的を達成するための本発明に係る成膜方法の特徴構成は、セラミックス原料粉をガス中に分散させたエアロゾルをエアロゾル搬送路の噴出端から基材に向けて噴出させて前記基材上に膜を形成する方法において、
前記エアロゾル搬送路内を流通する前記エアロゾルを、前記エアロゾルの流通方向に沿った複数の加熱位置において加熱し、
複数の前記加熱位置のうち前記エアロゾルの流通方向最下流の加熱位置での目標加熱温度を、500℃以上且つ残りの前記加熱位置での目標加熱温度よりも200℃以上高くするよう制御を行う点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、エアロゾル搬送路の噴出端での流路断面内におけるエアロゾルの温度は、エアロゾル搬送路の外周部の方が中心部よりも高くなり、熱対流効果によって外周部に存在するセラミックス原料粉の割合が減少し、その結果、セラミックス原料粉の速度分布がシャープになり、基材上に均質な膜を形成できる。更に、エアロゾル搬送路の噴出端から噴出されるエアロゾルの温度が従来の150℃よりも高くなるため、緻密度の高い膜を形成でき、特に、セラミックス原料粉が比較的密度が大きいYSZ(イットリア安定化ジルコニア)などの安定化ジルコニアである場合に、粒子を十分に加速させることができるため、緻密度の高い均質な膜を形成できる。
【0016】
また、本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、複数の前記加熱手段は、前記流通方向最上流に配設された前記加熱手段から前記流通方向の下流側に向かうにつれて目標加熱温度が高くなるよう制御される点にある。
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、複数の前記加熱位置での前記エアロゾルの加熱は、前記流通方向最上流の前記加熱位置から前記流通方向の下流側に向かうにつれて目標加熱温度が高くなるように制御を行う点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、エアロゾル搬送路の噴出端での流路断面内における外周部のエアロゾルの温度と、中心部のエアロゾルの温度との差をより大きくでき、熱対流効果を高めることができる。したがって、セラミックス原料粉の速度分布をよりシャープにでき、緻密度の高い均質な膜をより形成し易くなる。
【0018】
本発明に係る成膜装置及び成膜方法の更なる特徴構成は、前記セラミックス原料粉を構成する粒子の密度が4.0g/cm3以上である。
【0019】
上記特徴構成によれば、密度が4.0g/cm3以上である粒子から構成されるセラミックス原料粉を基に緻密度の高い均質な膜を形成できる。
【0020】
また、本発明に係る成膜装置及び成膜方法の更なる特徴構成は、前記セラミックス原料粉は、安定化ジルコニアである点にある。
【0021】
本願発明者は、セラミックス原料粉として安定化ジルコニアを用いた際に、緻密度の高い均質な膜を形成できることを実験により確認している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態に係る成膜装置の構成を示す図である。
【
図2】実施例で形成された膜を模式的に示す図である。
【
図3】比較例で形成された膜を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る成膜装置及び成膜方法について説明する。
【0026】
〔成膜装置について〕
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、処理室2やエアロゾル発生部6、エアロゾル搬送管10(エアロゾル搬送路)、搬送ガス送給手段15、加熱手段20を備える。
【0027】
処理室2は、気密状の筐体である。処理室2内は、排気設備としてのメカニカルブースターポンプ3及び真空ポンプ4によって気体が排出されることにより、所定圧力(例えば、0.5kPa程度)以下に減圧される。また、処理室2内には、成膜処理が施される基材Kが保持される保持部5や、エアロゾル搬送管10のうち噴出端10a側の部分が配設されている。
【0028】
エアロゾル発生部6は、セラミックス原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させる装置である。本実施形態において、エアロゾル発生部6は、処理室2外に配設されており、原料供給管S1を介して原料粉供給部7が接続されている。また、エアロゾル発生部6には、後述する搬送ガス送給管S2及びエアロゾル搬送管10が接続されている。そして、エアロゾル発生部6では、原料粉供給部7から一定速度で供給されるセラミックス原料粉と、搬送ガス送給手段15によって送給される搬送ガスとを混合したエアロゾルが発生する。この発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管10に送給される。尚、原料粉供給部7からエアロゾル発生部6へと供給されるセラミックス原料粉の供給速度は、速くすることで目標とする厚みを有した膜を形成するのに要する時間を短くできるが、供給速度が速すぎると、原料粉の供給量に脈動が生じて均質な膜が得られ難くなる。一方、供給速度が遅すぎると、膜質は改善されるが成膜完了までに要する時間が長くなって製造コストが増加する。そのため、セラミックス原料粉の供給速度は、1.5~30g/minであることが好ましい。
【0029】
エアロゾル搬送管10は、その噴出端10aが処理室2内の保持部5と対向するように当該処理室2内に配設されている。本実施形態におけるエアロゾル搬送管10は、円筒状の直管部材であり、流路断面の形状は円形である。また、エアロゾル搬送管10は、噴出端10aと反対側の端部がエアロゾル発生部6に接続され、一部が処理室2外に位置するように設けられている。このエアロゾル搬送管10によれば、エアロゾル発生部6からエアロゾルが送給され、この送給されたエアロゾルが噴出端10aの開口部から噴出される。
【0030】
搬送ガス送給手段15は、ガス供給部16や搬送ガス圧力制御部17、搬送ガス流量制御部18、搬送ガス送給管S2などからなる。
【0031】
具体的に、ガス供給部16には、搬送ガス送給管S2が接続されており、ガス供給部16は、空気やN2、He、Arなどのガスをコンプレッサーやガスボンベによって搬送ガス送給管S2内に供給するものである。
【0032】
本実施形態において、搬送ガス送給管S2は、ガス供給部16から供給されるガスを搬送ガスとしてエアロゾル発生部6まで送給するためのものである。具体的に、本実施形態では、ガス供給部16から送出されたガスが搬送ガスとして、搬送ガス圧力制御部17、搬送ガス流量制御部18を順に経由してエアロゾル発生部6まで送給されるようになっており、ガス供給部16、搬送ガス圧力制御部17、搬送ガス流量制御部18及びエアロゾル発生部6の間に接続された複数の配管によって搬送ガス送給管S2が構成されている。また、搬送ガス送給管S2における搬送ガス流量制御部18とエアロゾル発生部6との間には、搬送ガス送給管S2内の圧力を検出する圧力センサP1が設けられている。
【0033】
搬送ガス圧力制御部17は、搬送ガス送給管S2内を流通する搬送ガスを適正圧力に静定するものであり、搬送ガス流量制御部18は、搬送ガス送給管S2内を流通する搬送ガスの流量を制御するものである。本実施形態において、搬送ガス圧力制御部17及び搬送ガス流量制御部18は、圧力センサP1により検出される圧力などを基に、その動作が適宜制御される。
【0034】
加熱手段20は、エアロゾル搬送管10内を流通するエアロゾルを加熱するための手段である。具体的に、本実施形態においては、エアロゾル搬送管10のうち処理室2外に位置する部分の外壁周りに配設された第1ヒーター21aと、エアロゾル搬送管10のうち処理室2内に位置する部分の外壁周りに配設された2つの第2及び第3ヒーター21b,21cとから構成され、第3ヒーター21cは、エアロゾル搬送管10の噴出端10a近傍に配設され、第2ヒーター21bは、第1ヒーター21aと第3ヒーター21cとの間に配設されている。即ち、これら3つのヒーター21a,21b,21cは、エアロゾルの流通方向上流側から第1ヒーター21a、第2ヒーター21b、第3ヒーター21cの順で設けられており、第1ヒーター21aはエアロゾルの流通方向最上流、第2ヒーター21bはエアロゾルの流通方向中流、第3ヒーター21cはエアロゾルの流通方向最下流に配設されたヒーターである。
【0035】
本実施形態において、エアロゾルの流通方向最下流に配設された第3ヒーター21cは、その目標加熱温度が、500℃以上且つエアロゾルの流通方向最上流に配設された第1ヒーター21aの目標加熱温度よりも200℃以上高くなるように制御される。
【0036】
また、本実施形態において、エアロゾルの流通方向中流に配設された第2ヒーター21bは、その目標加熱温度が第1ヒーター21aの目標加熱温度以上且つ第3ヒーター21cの目標加熱温度以下となるように制御される。即ち、本実施形態に係る成膜装置1においては、複数のヒーター21a,21b,21cがエアロゾルの流通方向最上流に配設された第1ヒーター21aからエアロゾルの流通方向の下流側に向かうにつれて目標加熱温度が高くなるように制御される。
【0037】
〔セラミックス原料粉について〕
成膜装置1で用いられるセラミックス原料粉を構成する粒子としては、密度4.0g/cm3以上であるものが好ましく、このような粒子としては、例えば、ジルコニアにイットリウムやカルシウム、マグネシウム、ハフニウムなどを含有する安定化ジルコニアの粒子である。尚、本実施形態においては、イットリウムを含有するジルコニア(YSZ)をセラミックス原料粉として用いる。
【0038】
〔成膜方法について〕
次に、上記成膜装置1を用いた成膜方法により、基材K上に膜(成膜体)を形成する過程について説明する。本実施形態に係る成膜方法では、エアロゾル搬送管10内を流通するエアロゾルを、エアロゾルの流通方向に沿った複数の加熱位置(即ち、第1ヒーター21a、第2ヒーター21b、第3ヒーター21cを設置した位置)において加熱し、エアロゾルの流通方向最下流の加熱位置での目標加熱温度を、500℃以上且つエアロゾルの流通方向最上流の加熱位置での目標加熱温度よりも200℃以上高くする。即ち、まず、第1ヒーター21a、第2ヒーター21b及び第3ヒーター21cでの目標加熱温度が所定の温度となるように各ヒーター21a,21b,21cを作動させる。具体的に、第1ヒーター21a、第2ヒーター21b、第3ヒーター21cは、流通方向下流側に設置されたものであるほど目標加熱温度が高くなるように各ヒーター21a,21b,21cを作動させる。より具体的には、第3ヒーター21cを、500℃以上且つ第1ヒーター21aよりも200℃以上高い加熱温度となるように作動させ、第2ヒーター21bを、第1ヒーター21aの目標加熱温度以上且つ第3ヒーター21cの目標加熱温度以下の加熱温度となるように作動させる。
【0039】
ついで、搬送ガス圧力制御部17及び搬送ガス流量制御部18によって搬送ガス送給管S2内を流通する搬送ガスの流量や圧力を調整しながらガス供給部16からエアロゾル発生部6へと搬送ガスを送給する。エアロゾル発生部6では、送給された搬送ガスと原料粉供給部7から供給されたセラミックス原料紛とが混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管10に送給される。そして、エアロゾル搬送管10の噴出端10aから基材Kに向けてエアロゾルが噴出され、基材K上に膜が形成される。
【0040】
ここで、エアロゾル発生部6から送給され、エアロゾル搬送管10の噴出端10aへと流通するエアロゾルは、第1ヒーター21a、第2ヒーター21b及び第3ヒーター21cによって徐々に加熱される。これにより、エアロゾル搬送管10の噴出端10aでの流路断面内におけるエアロゾルの温度は、外周部の方が中心部よりも高くなり、熱対流効果によって外周部に存在するセラミックス原料粉の割合が減少し、その結果、エアロゾル搬送管10の噴出端10aから噴出されたエアロゾル中のセラミックス原料粉の速度分布がシャープになり、基材K上に均質な膜を形成できる。更に、エアロゾル搬送管10の噴出端10aから噴出されるエアロゾルの温度が従来よりも高くなるため、緻密度の高い膜を形成でき、特に、セラミックス原料粉が比較的密度が大きいYSZなどの安定化ジルコニアである場合に、粒子を十分に加速させることができるため、緻密度の高い均質な膜を形成できる。
【0041】
また、本実施形態に係る成膜方法は、緻密度が高い均質な膜を形成することができるため、例えば、固体酸化物形燃料電池の構成部材としての触媒の担体や電極材料、電解質を作製する際に好適に用いることができ、特に、比較的高い緻密度が要求される電解質膜やこれを含んだ電極材料を作製する際に好適に用いることができる。
【0042】
以下、実施例及び比較例について説明する。実施例及び比較例では、上記成膜装置を使用し、この成膜装置においては、エアロゾルの流通方向上流側から順に第1ヒーター、第2ヒーター、第3ヒーターが設けられている。実施例では、上記成膜装置の第1ヒーターを300℃、第2ヒーターを300℃、第3ヒーターを550℃の目標加熱温度となるように作動させて基材に膜を形成した。一方、比較例では、第1ヒーターを550℃、第2ヒーターを300℃、第3ヒーターを550℃の目標加熱温度となるように作動させて基材に膜を形成した。尚、実施例及び比較例ともにセラミックス原料紛としては、密度が5.9g/cm3、メジアン径が0.98μmであるYSZの粒子を使用した。また、実施例及び比較例ともに搬送ガスの流量は18L/minとし、処理室内の圧力は0.2kPaとした。
【0043】
表1は実施例及び比較例に関する各種条件及び結果をまとめた表であり、
図1は実施例で形成された膜を示す図であり、
図2は比較例で形成された膜を示す図である。尚、表1中の「外周部温度」とは、エアロゾル搬送管の噴出端の流路断面内における外周部から噴出されたガスの温度であり、「中心部温度」とは、上記流路断面内における中心部から噴出されたガスの温度であり、「温度差」とは、外周部温度から中心部温度を差し引いて得られる温度差である。また、「相対密度」とは、成膜部分の密度(基材上に堆積した膜の重量/体積)を求め、これを理論密度値(本材料では5.9g/cm
3)で除した値(%)である。
【0044】
【0045】
表1から分かるように、実施例では比較例よりも温度差が大きくなっており、これにより、実施例の方が熱対流効果が高くなって、YSZ粒子の速度分布がよりシャープになった結果、相対密度が高い緻密な膜を形成できている。また、
図1及び
図2から分かるように、外周部から噴出されたエアロゾル中のYSZ粒子が衝突することで形成される圧粉体などからなる多孔質領域(
図1及び
図2中の網掛け部分)の大きさは、実施例の方が比較例よりも圧倒的に小さくなっており、均質な膜が形成できている。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る成膜装置1及び成膜方法のように、エアロゾルの流通方向最下流に配設された加熱手段(即ち第3ヒーター21c)の目標加熱温度を、500℃以上且つエアロゾルの流通方向最上流に配設された加熱手段(即ち第1ヒーター21a)の目標加熱温度よりも200℃以上高くすることで、緻密度が高い均質な膜を形成できる。
【0047】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態においては、複数の加熱手段として、3つのヒーター21a,21b,21cを設ける態様としたが、加熱手段の数はこれに限られるものではなく、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。尚、4つ以上の加熱手段を設ける場合には、エアロゾルの流通方向最上流及び最下流に配設された加熱手段以外の加熱手段(流通方向中流に配設された加熱手段)の目標加熱温度は、最下流に配設された加熱手段の目標加熱温度以下且つ最上流に配設された加熱手段の目標加熱温度以上とすることが好ましく、流通方向中流に複数の加熱手段を設ける場合には、これらの加熱手段の目標加熱温度は、流通方向上流側から下流側に向かうにつれて高くすることが好ましい。
【0048】
〔2〕上記実施形態では、エアロゾルの流通方向最下流に配設された第3ヒーター21cは、その目標加熱温度が、500℃以上且つエアロゾルの流通方向最上流に配設された第1ヒーター21aの目標加熱温度よりも200℃以上高くなるように制御される態様としたが、これに限られるものではない。エアロゾルの流通方向最下流に配設された第3ヒーター21cの目標加熱温度が、200℃以上且つ第1及び第2ヒーター21a,21bの目標加熱温度よりも高ければよい。即ち、複数のヒーターを設けた場合、これら複数のヒーターのうちエアロゾルの流通方向最下流に配設されたヒーターの目標加熱温度は、200℃以上且つ残りのヒーターの目標加熱温度よりも高ければよい。
このようにしても、エアロゾル搬送管の噴出端での流路断面内におけるエアロゾルの温度は、外周部の方が中心部よりも高くなり、熱対流効果によって外周部に存在するセラミックス原料粉の割合が減少し、その結果、セラミックス原料粉の速度分布がシャープになり、基材上に均質な膜が形成される。更に、エアロゾル搬送管の噴出端から噴出されるエアロゾルの温度が従来よりも高くなるため、緻密度の高い膜が形成される。
また、第3ヒーター21cを500℃以上且つ残りのヒーター(即ち、第1ヒーター21a及び第2ヒーター21b)の目標加熱温度よりも200℃以上高くなるようにしてもよい。
【0049】
〔3〕上記実施形態では、直管部材で構成されるエアロゾル搬送管10をエアロゾル搬送路とする態様としたが、これに限られるものではない。エアロゾル搬送路は、直管部材で構成されるエアロゾル搬送管と、当該エアロゾル搬送管の先端にノズルを取り付けた態様であってもよく、この場合、ノズルの先端がエアロゾル搬送路の噴出端となる。
【0050】
〔4〕上記実施形態では、エアロゾル搬送管10の流路断面の形状を円形としたが、これに限られるものではなく、角形や他の形状であってもよい。
【0051】
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、基材上に膜を形成する成膜装置及び成膜方法、並びに成膜体に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 成膜装置
10 エアロゾル搬送管
10a 噴出端
21a 第1ヒーター
21b 第2ヒーター
21c 第3ヒーター
K 基材