(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】分子の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/553 20060101AFI20240521BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240521BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01N33/553
G01N33/53 D
G01N33/483 C
(21)【出願番号】P 2020019000
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019023701
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】座古 保
(72)【発明者】
【氏名】武藤 悠
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215314(JP,A)
【文献】特開2016-206117(JP,A)
【文献】特表2018-530755(JP,A)
【文献】国際公開第2017/025834(WO,A1)
【文献】座古保,『診る』バイオマテリアル 金ナノ粒子を用いた検出・診断技術,バイオマテリアル,2016年07月20日,Vol.34 No.3,Page.190-197
【文献】矢野湧暉,暗視野イメージング画像の色分解による標的分子検出に向けた金ナノ粒子凝集解析法,日本分析化学会年会講演要旨集,2018年08月29日,Vol.67th,Page.107
【文献】吉村健,異なる2種の金属ナノ粒子の架橋による混合色輝点の形成を利用した抗体検出,日本分析化学会年会講演要旨集,2020年09月02日,Vol.69th,Page.146
【文献】吉村健,異なる2種のナノ粒子の架橋による混合色輝点の形成を利用したトロンビン検出,日本分析化学会年会講演要旨集,2019年08月28日,Vol.68th,Page.160
【文献】吉村健,固定化DNAを介して核酸アプタマーを修飾した金ナノ粒子によるトロンビンタンパク質の検出,分析化学討論会講演要旨集,2019年05月04日,Vol.79th,Page.202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/553
G01N 33/53
G01N 33/483
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の分子認識化合物を修飾した第1のナノ粒子、第2の分子認識化合物を修飾した第2のナノ粒子、および対象試料を混合すること、ならびに
混合した試料を暗視野観察することを含み、
上記第1のナノ粒子、上記第2のナノ粒子、および上記第1のナノ粒子と上記第2のナノ粒子とのダイマーは、暗視野観察下での輝点色が互いに異なるものであり、
上記第1のナノ粒子が銀ナノ粒子であり、上記第2のナノ粒子が金ナノアーチン、金ナノ粒子、または金ナノロッドであり、
上記輝点色の違いに基づき上記ダイマーを判別することを含むことを特徴とする分子の検出方法。
【請求項2】
上記第1の分子認識化合物および上記第2の分子認識化合物の少なくとも一方がタンパク質であることを特徴とする請求項
1に記載の分子の検出方法。
【請求項3】
上記第1の分子認識化合物および上記第2の分子認識化合物の少なくとも一方が抗体であることを特徴とする請求項
1または2に記載の分子の検出方法。
【請求項4】
第1の分子認識化合物を修飾した第1のナノ粒子、第2の分子認識化合物を修飾した第2のナノ粒子、および対象試料を混合すること、ならびに
混合した試料を暗視野観察することを含み、
上記第1のナノ粒子、上記第2のナノ粒子、および上記第1のナノ粒子と上記第2のナノ粒子との凝集体は、暗視野観察下での輝点色が互いに異なるものであり、
上記第1のナノ粒子が銀ナノ粒子であり、上記第2のナノ粒子が金ナノアーチン、金ナノ粒子、または金ナノロッドであり、
上記輝点色の違いに基づき上記凝集体を判別することを含むことを特徴とする分子の検出方法。
【請求項5】
ナノ粒子のダイマーの検出方法であって、
第1のナノ粒子と第2のナノ粒子とのダイマーを形成させることを含み、
上記第1のナノ粒子および上記第2のナノ粒子は、暗視野観察下での輝点色が互いに異なり、
上記第1のナノ粒子が銀ナノ粒子であり、上記第2のナノ粒子が金ナノアーチン、金ナノ粒子、または金ナノロッドであり、
上記第1のナノ粒子の輝点色および上記第2のナノ粒子の輝点色と異なる輝点色を検出することで上記第1のナノ粒子と上記第2のナノ粒子との上記ダイマーを検出する、ナノ粒子のダイマーの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子の検出方法に関し、より詳細には、暗視野下における分子の検出方法である。
【背景技術】
【0002】
試料中の分子を検出するための手法が種々開発されており、ナノ粒子を用いたセンサーが数多く提案されている。例えば非特許文献1では、NaCl存在下で一本鎖DNA修飾金ナノ粒子に、完全相補鎖のDNAを添加したときのみ、金ナノ粒子の凝集が発生し溶液色が赤から青へと変化することを利用した遺伝子センサーが提案されている。また非特許文献2では、暗視野顕微鏡下でナノ粒子を観察すると明るい輝点として観測可能なことを利用したアミロイドフィブリル検出系が示されている。この検出系では、アミロイドモノマーと結合した金ナノ粒子(モノマーで存在する)、およびアミロイドフィブリルと結合した金ナノ粒子(凝集体として存在する)を暗視野顕微鏡観察によりイメージングする。得られた観測画像にあるスポットのピクセル値平均を輝度として算出し、ヒストグラムを作成し、ナノ粒子凝集を評価することで、アミロイドフィブリルを高感度で検出している。
【0003】
これらの検出方法はいずれも金ナノ粒子モノマーと凝集体との光学的特性の違いを利用した検出系である。モノマーおよび凝集体を利用する検出系では、凝集を発生させるために、ナノ粒子よりも高濃度の検出対象が必要となる場合がある。例えば、2種のモノクローナル抗体を用いて、抗体修飾金ナノ粒子によるサンドイッチ型のイムノアッセイ系を構築する場合、検出対象濃度がナノ粒子濃度よりも低い領域では、凝集は発生せずダイマーが優先して形成されることは容易に推測できる。そのため、より高感度な検出系構築のためには、モノマーとダイマーとを判別する必要がある。モノマーとダイマーとを判別する方法として、非特許文献3に記載の方法が挙げられる。非特許文献3では、2つの金ナノ粒子をDNAで連結し、当該DNAにより金ナノ粒子間の距離を制御し、その2粒子間の距離に応じて、暗視野観察下での輝点の色が変化することを示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J.Am.Chem.Soc.,2003,125,8102
【文献】Analytical.Sciences.,2016,32,307
【文献】ACS.nano.,2015,978
【文献】PNAS.,2006,104,2667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献3に記載の方法で大きな輝点色変化が生じるのは、極めて近接位に2つの金ナノ粒子が配置し、粒子間の表面プラズモン共鳴が発生した場合のみである。例えば、非特許文献4に記載のように、10nm程度の粒子間距離が存在する場合には輝点色の変化を確認することはできない。そのため、2粒子間の距離が離れているダイマーにおいては、非特許文献3に示されているような輝点色の変化は生じないものと推察される。したがって、かさ高い分子の検出系においては、非特許文献3の技術を利用できない。一方で、特定の分子を検出するバイオアッセイでは、分子を認識するための化合物として、抗体(1分子で10~15nm)など、高分子の分子認識タンパク質が多用されている。そのため、分子認識タンパク質自体がかさ高い分子となっているため、これを非特許文献3の技術と組み合わせて分子の検出系を構築することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、かさ高い分子の検出にも適用可能な、ナノ粒子を用いた分子の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分子の検出方法は、上記課題を解決するために、第1の分子認識化合物を修飾した第1のナノ粒子、第2の分子認識化合物を修飾した第2のナノ粒子、および対象試料を混合すること、ならびに混合した試料を暗視野観察することを含み、上記第1のナノ粒子、上記第2のナノ粒子、および上記第1のナノ粒子と上記第2のナノ粒子とのダイマーは、暗視野観察下での輝点色が互いに異なるものであり、輝点色の違いに基づき当該ダイマーを判別することを含むものである。
【0008】
また、本発明に係る分子の検出方法の一態様においては、上記第1のナノ粒子が銀ナノ粒子である。
【0009】
また、本発明に係る分子の検出方法の一態様においては、上記第2のナノ粒子が金ナノアーチンである。
【0010】
また、本発明に係る分子の検出方法の一態様においては、上記第1の分子認識化合物および上記第2の分子認識化合物の少なくとも一方がタンパク質である。
【0011】
また、本発明に係る分子の検出方法の一態様においては、上記第1の分子認識化合物および上記第2の分子認識化合物の少なくとも一方が抗体である。
【0012】
本発明に係る分子の検出方法の別の態様は、第1の分子認識化合物を修飾した第1のナノ粒子、第2の分子認識化合物を修飾した第2のナノ粒子、および対象試料を混合すること、ならびに混合した試料を暗視野観察することを含み、上記第1のナノ粒子、上記第2のナノ粒子、および上記第1のナノ粒子と上記第2のナノ粒子との凝集体は、暗視野観察下での輝点色が互いに異なるものであり、上記輝点色の違いに基づき上記凝集体を判別することを含むものである。
【0013】
本発明に係るナノ粒子のダイマーの検出方法は、第1のナノ粒子と第2のナノ粒子とのダイマーを形成させることを含み、上記第1のナノ粒子および上記第2のナノ粒子は、暗視野観察下での輝点色が互いに異なり、上記第1のナノ粒子の輝点色および上記第2のナノ粒子の輝点色と異なる輝点色を検出することで上記第1のナノ粒子と上記第2のナノ粒子との上記ダイマーを検出することを含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分子の検出方法によれば、ナノ粒子間の表面プラズモン共鳴による輝点色変化が生じないようなナノ粒子ダイマーであっても、ナノ粒子モノマーと区別することができ、ナノ粒子を用いて容易に分子の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る検出原理のスキームを示した図である。
【
図3】実施例5での色成分棒グラフを示す図である。
【
図4】実施例6でのRGB3次元プロットを示す図である。
【
図5】実施例7でのRGB3次元プロットを示す図である。
【
図7】実施例12での粒径測定結果を示す図である。
【
図8】実施例14でのRGB3次元プロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る分子の検出方法は、分子認識化合物を修飾した、輝点色が互いに異なる複数のナノ粒子と、対象試料とを混合し、混合した試料を暗視野観察することを含むものである。まず、本発明に係る検出方法の一実施形態におけるスキームについて、
図1を参照して説明する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る本検出方法のスキームを示す図である。
図1に示すように、本検出方法では、分子認識化合物で修飾した少なくとも2種類のナノ粒子であるナノ粒子A(第1のナノ粒子)とナノ粒子B(第2のナノ粒子)とを使用する。ナノ粒子Aおよびナノ粒子Bを対象試料と混合した際に、対象試料中に検出対象となる分子(検出対象)が存在すると、ナノ粒子Aにおける分子認識化合物が検出対象と会合するとともに、ナノ粒子Bにおける分子認識化合物が検出対象と会合する。これにより、検出対象を介した、ナノ粒子Aとナノ粒子Bとのダイマー(異種ナノ粒子ダイマー)が形成される。この混合試料を用いて暗視野顕微鏡観察を行うと、ナノ粒子Aの輝点と、ナノ粒子Bの輝点と、異種ナノ粒子ダイマーの輝点とが観察される。その際、観察像を画像データとして取得し、当該画像データを用いて、各輝点の輝点色に基づき、各輝点の帰属を行うこと、すなわち輝点の帰属を判別することで、異種ナノ粒子ダイマーの形成を確認することができ、検出対象の検出が可能となる。さらには、これに基づき、検出対象となる分子の濃度等を測定することも可能となる。なお、
図1では、一つの例として機械学習による分類を示しているが、判別方法はこれに限定されない。
【0018】
以下、本実施形態における分子の検出方法の詳細について説明する。
【0019】
〔ナノ粒子〕
本実施形態で用いるナノ粒子は、暗視野観察下で輝点として観察可能な粒子である。暗視野観察下で輝点として観察可能であれば、本実施形態に適用されるナノ粒子は特に制限されず、例えば、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、金ナノロッド、金ナノアーチン、金ナノ粒子凝集体および量子ドットなどが例示できる。
【0020】
本実施形態におけるナノ粒子Aとナノ粒子Bとは互いに相違するナノ粒子である。用いるナノ粒子の組み合わせには特に制限はなく、暗視野観察時における輝点色が解析により判別可能な程度に異なる色となる組み合わせであればよい。例えば、一方を、銀ナノ粒子とし、他方を金ナノアーチンとする組み合わせが挙げられる。本明細書において、輝点色とは、後述する暗視野観察下で観察される試料からの散乱光および反射光等に由来する輝点の色である。
【0021】
また、ナノ粒子の粒子径も特に制限されないが、10nm~1μmの粒子径であることが好ましく、20nm~100nmの粒子径であることがさらに好ましい。なお、本明細書において粒子径とは、球状の粒子においては直径であり、ナノロッドなどの棒状の粒子の場合には長軸方向の長さである。
【0022】
ナノ粒子の材質は、ナノ粒子が暗視野下で特徴的な輝点として観測可能となるものであれば、特に制限されない。しかしながら、輝度の大きさの観点で、可視から近赤外の波長帯にプラズモン共鳴特性を有する金属が好ましい。
【0023】
なお、本実施形態の検出方法においては、少なくとも2種類のナノ粒子(ナノ粒子Aおよびナノ粒子B)が用いられればよく、その種類の数に制限はなく、3種類以上のナノ粒子を用いてもよい。3種類以上のナノ粒子を用いる場合の例については後述する。
【0024】
〔分子認識化合物〕
本実施形態における分子認識化合物は、検出対象と会合しうるものであればよく特に限定されない。例えば、分子認識化合物の会合部位としては、ホスト分子として用いられる小分子(シクロデキストリン、クラウンエーテル、およびボロン酸など)、検出対象と親和性を有するタンパク質(レクチン、および抗体など)、検出対象と親和性を有する核酸(アプタマーなど)、アビジンまたはビオチンなどを用いればよい。
【0025】
ナノ粒子Aに結合している分子認識化合物(第1の分子認識化合物)およびナノ粒子Bに結合している分子認識化合物(第2の分子認識化合物)が共に検出対象と会合した状態をとることができる限り、ナノ粒子Aにおける分子認識化合物とナノ粒子Bにおける分子認識化合物とは同一のものであってもよく、異なっていてもよい。
【0026】
ナノ粒子Aに結合している分子認識化合物およびナノ粒子Bに結合している分子認識化合物が共に検出対象と会合した状態をとることにより、ナノ粒子Aとナノ粒子Bとのダイマーが形成されることになる。
【0027】
ナノ粒子を分子認識化合物で修飾する方法は、公知の手法を用いることができ、会合部位がその機能を果たす限り、特に制限はない。
【0028】
〔対象試料〕
本実施形態における対象試料とは、検出対象となる分子が存在するか否か、ひいてはその濃度を調べることを目的とした液体試料を意図している。
【0029】
また、検出対象は、該検出対象と会合し得るような分子認識化合物が存在し得る限り制限はないが、例示として、核酸、タンパク質、糖およびエクソソーム等の生体分子、薬剤、ならびにウイルスなどが挙げられる。検出対象のサイズは、暗視野下でダイマーの輝点が1つの輝点として観察可能な大きさであればよく特に限定されない。例えば、エクソソームのように特に大きな検出対象を介したナノ粒子ダイマーについては、その輝点が1つの輝点として観察されないことが予想される。しかしながらこのような場合でも、対物レンズの倍率を変更する等により観察像の解像度を調整することで、ダイマーを1つの輝点として観察することができる。
【0030】
さらに、詳しくは後述するが、検出対象は1種類に限らず、3種類以上のナノ粒子を組み合わせて用いることにより、複数種の検出対象を同時に検出することも可能である。
【0031】
〔暗視野観察〕
本実施形態における暗視野観察は、試料に斜めから光を当て、試料からの散乱光および反射光等のみを観察する、従来公知の暗視野観察手法であればよい。照明法も透過型、および落射型のどちらでもよく、利用者が適宜選択すればよい。
【0032】
暗視野観察下で生じる輝点を画像解析するために、観察画像をカラー画像として取得する。観察画像を取得するための撮像装置は、カラー画像として撮像可能な限り特に制限はない。なお、試料中のナノ粒子を固定化せずに観察を行う場合には、シャッタースピードの速い撮像装置を用いることが好ましい。
【0033】
ナノ粒子の暗視野観察のために、ナノ粒子を含む液状試料を基板上に展開する。基板は、例えば、スライドガラスおよびガラスシャーレなどを例示できる。基板の材質は、液状試料が展開できる限り特に制限はなく、ソーダガラス、石英ガラス、アクリル樹脂およびポリカーボネート等の材料を例示できる。
【0034】
本実施形態における暗視野観察では、ナノ粒子を基板上に固定化してもよい。ナノ粒子を基板上に固定化することにより、取得される観察画像の鮮明さを向上させることができる。ナノ粒子を基板上に固定化する方法としては、ナノ粒子と基板表面との相互作用を利用した手法が挙げられるがこれに限定されない。例えば、ナノ粒子として金ナノ粒子を用いる場合、基板表面をアミノ基で修飾することにより、負に帯電した金ナノ粒子との静電的な相互作用により、金ナノ粒子を基板上に固定化することができる。あるいは、ナノ粒子を含む試料中の塩濃度を上昇させ、基板としてスライドガラスを用いることにより、ナノ粒子を基板上に固定化することができる。
【0035】
〔異種ナノ粒子ダイマー〕
本実施形態における異種ナノ粒子ダイマーは、上述の通り、ナノ粒子Aと、ナノ粒子Aとは異なる種類のナノ粒子Bとのダイマーである。すなわち、異種ナノ粒子ダイマーは、暗視野観察下での輝点色が互いに異なるナノ粒子どうしのダイマーである。
【0036】
暗視野下で1つのナノ粒子(ナノ粒子のモノマー)を観察した場合、表面プラズモン共鳴により、そのナノ粒子のサイズよりも大きな輝点として観察される。また、上述の非特許文献3に示されるように、ナノ粒子がダイマーを形成し、ナノ粒子間の距離が非常に小さい場合には、粒子間の表面プラズモン共鳴により輝点色の変化が生じ得る。しかしながら、検出対象との会合によってダイマーを形成しているナノ粒子どうしの距離が、粒子間の表面プラズモン共鳴による輝点色変化が生じない程度に離れている場合には、従来知られた技術ではダイマーの検出はできない。
【0037】
本実施形態に係る検出方法では、ダイマーを形成している各ナノ粒子のモノマーの輝点色の混合色の輝点としてダイマーを観察しており、これにより検出対象との会合により生じたダイマーの検出が可能となっている。
【0038】
異種ナノ粒子ダイマーの形成は、ナノ粒子A、ナノ粒子Bおよび対象試料を、各分子認識化合物と検出対象とが会合可能な条件下で混合することで可能である。またナノ粒子Aにおける分子認識化合物とナノ粒子Bにおける分子認識化合物とは、検出対象に対してどちらを先に会合させてもよく、また同時に会合させてもよい。
【0039】
形成される異種ナノ粒子ダイマーは1種類に限定されない。例えば、輝点色が互いに異なるナノ粒子A、ナノ粒子Bおよびナノ粒子Cの存在下、検出対象1によりナノ粒子Aとナノ粒子Bとの異種ナノ粒子ダイマーが形成され、検出対象2によりナノ粒子Aとナノ粒子Cとの異種ナノ粒子ダイマーが形成されるように、各ナノ粒子における分子認識化合物を選定し、各ナノ粒子を修飾することができる。異種ナノ粒子ダイマーを構成するナノ粒子の組み合わせが異種ナノ粒子ダイマー間で相違するため、異種ナノ粒子ダイマーにおける輝点色も互いに相違することとなる。これにより、輝点色の違いに基づき、複数種の異種ナノ粒子ダイマーを区別可能に同時に検出することが可能となる。
【0040】
〔輝点の解析〕
暗視野観察画像を用いた輝点の解析手法について説明するが、検出対象の検出方法は輝点色の変化を利用するものであればよくこれに限定されない。
【0041】
(輝点の色分解)
本実施形態における1つの検出方法では、暗視野観察により得られたカラーの観察画像を複数の色成分に色分解して、各色成分の情報を含む輝点の色情報を取得し、当該色情報に基づき解析を行うことも可能である。以下では、暗視野観察により得られたカラーの観察画像をRGBに色分解し、各輝点のRGB値に基づき解析を行う場合を例に説明する。
【0042】
まず暗視野観察で得られたカラーの観察画像を8-bitグレースケールに画像変換する。グレースケール画像において輝点を識別し、輝点として識別された領域を対象領域(ROI)と決定する。輝点の識別は、例えば、後述の実施例で示す画像解析ソフト(ImageJ)を用いる場合には、閾値30-255、サイズ30-10000、および真円度0.3-1.0という条件を満たすものを画像処理の段階で輝点として識別すればよい。次いで、対象となるカラーの観察画像をR成分、G成分およびB成分それぞれの成分画像に分割し、各色成分画像について全てのROIで強度測定を行う。ROIにおける各色成分の強度(R値、G値およびB値)を、輝点の色情報とする。
【0043】
(輝点の判別)
色情報に基づき輝点を判別するための一態様として、得られた輝点の色情報を、RGB値の3変量データとして3次元プロットする。3次元プロットすることにより、帰属が異なることによる輝点の相違を、視覚的に認識できるようになる。なお、本明細書において帰属とは、輝点がナノ粒子、異種ナノ粒子ダイマーおよび不純物の何れに由来するものであるかを示すものである。さらに、ナノ粒子の輝点である場合には、複数あるナノ粒子のうちのどのナノ粒子に由来するものであるかまで特定するものである。同様に、複数の異種ナノ粒子ダイマーが存在し得る場合には、そのうちのどの異種ナノ粒子ダイマーに由来するものであるかまで特定するものである。
【0044】
3次元プロットを行うことでナノ粒子を視覚的に判別することが可能となるが、より正確な判別を行うためには、あるいはより簡便に判別を行うためには、予め取得した判別情報に基づいて判別することが好ましい。ここで、判別情報とは、帰属が明らかな輝点の色情報を収集し、収集された色情報を用いることにより導きだされた基準、モデル、アルゴリズムおよびプログラム等であり、観察により得られた輝点の色情報に当該判別情報を適用し、当該輝点の帰属が何であるかを結論づけるものである。
【0045】
(機械学習的手法)
同じ種類のナノ粒子であっても、各ナノ粒子の輝点のRGB値にはバラツキがある。また、異なる種類のナノ粒子または不純物であっても、目的とするナノ粒子と輝点の色が近い場合がある。そのため、精度よく判別を行うには、人の視覚による判別では限界がある。そのため、帰属の判別にあたっては、上述の判別情報として、RGB値を入力データとして、帰属の判定結果を出力するソフトウェア(コンピュータプログラム)を用いることが好ましい。特に、機械学習結果に基づいて帰属を自動で判別するソフトウェア(分類モデル)を上述の判別情報として用いることが、判定精度の観点から望ましい。判別に利用可能なソフトウェア(アルゴリズム)は、特に限定されないが、例えば、教師あり学習済みのニューラルネットワーク、あるいは教師あり学習済みのサポートベクターマシン等を利用することもできる。
【0046】
例えば、RGB値である入力データから、銀ナノ粒子モノマー、金ナノアーチン、銀ナノ粒子-金ナノアーチンダイマーおよび不純物の何れであるかの判別結果を上記ソフトウェアに出力させることができる。この場合、予め、銀ナノ粒子モノマーを用いて銀ナノ粒子モノマーの色情報を取得し、金ナノアーチンを用いて金ナノアーチンの色情報を取得し、不純物(例えば、生体試料および土壌サンプル等)を用いて不純物の色情報を取得しておく。また、銀ナノ粒子-金ナノアーチンダイマーの色情報は、銀ナノ粒子と金ナノアーチンの輝点画像をコンピューター上で合成して得たものを用いる。そして、このようにして得られた帰属が既知の色情報を学習データとして用いて上記ソフトウェアの機械学習を行い、同じく帰属が既知の色情報をテストデータとして用いて機械学習の精度を確認する、という処理を繰り返し行う。これにより、当該ソフトウェアによる所望の判定精度での判定が可能な状態となる。
【0047】
このようなソフトウェアの一つの例としては、統計分析フリーソフトのR(R DEVELOPMENT CORE TEAM (2005). R: A LANGUAGE
AND environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria.ISBN 3-900051-07-0, URL http://www.R-project.org.)が挙げられる。
【0048】
機械学習を用いた判別手法を採用することにより、ナノ粒子の帰属をより精度良く判別することができ、これにより検出結果の信頼度がより向上する。
【0049】
以上から、本実施形態における具体的手法においては、分子の検出方法は、混合した試料を暗視野観察下で観察し、カラーの観察画像を得る工程、当該観察画像を色分解して、各色成分の情報を含む輝点の色情報を取得する工程、および当該色情報から、当該観察画像中の輝点がナノ粒子Aの輝点である、ナノ粒子Bの輝点であるか、異種ナノ粒子ダイマーの輝点であるか否かを判別する工程を含むものである。
【0050】
また、当該判別する工程では、予め取得した判別情報に基づき、当該観察画像中の輝点の帰属を判別することを含み得る。
【0051】
また、当該判別情報は、当該色情報と当該輝点の帰属との相関関係を機械学習した、輝点の分類モデルであり得る。
【0052】
さらに、本実施形態によれば、対象試料中の分子を検出することができるが、ナノ粒子のダイマーの検出方法とも捉えることができる。すなわち、本発明の一実施形態は、ナノ粒子のダイマーの検出方法であって、ナノ粒子Aとナノ粒子Bとのダイマーを形成させることを含み、ナノ粒子Aおよびナノ粒子Bは、暗視野観察下での輝点色が互いに異なり、ナノ粒子Aの輝点色およびナノ粒子Bの輝点色と異なる輝点色を検出することで異種ナノ粒子ダイマーを検出する方法でもあり得る。
【0053】
さらには、暗視野下での輝点色の異なる2つのナノ粒子によるダイマーを形成し、モノマーの状態と異なる輝点を観察する方法でもあり得る。
【0054】
また、本実施形態の技術は、輝点色の異なる2つのナノ粒子がダイマーを形成する場合に限らず、輝点色の異なる2つのナノ粒子の何れをも含む凝集体が形成される場合にも適用可能である。すなわち、輝点色の異なる2つのナノ粒子の何れをも含む凝集体が形成されることにより、モノマーの状態と異なる輝点が観察されることになり、凝集体とモノマーとを判別することができ、これにより分子の検出が可能となる。したがって、本実施形態は、異なる2つナノ粒子を含む凝集体と、モノマーとを観察し、これらを判別する方法でもあり得る。
【0055】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0056】
以下の実施例1~9では、第1のナノ粒子として銀ナノ粒子(AgNP)を用い、第2のナノ粒子として金ナノアーチン(AuNU)を用い、第1のナノ粒子に修飾する分子認識化合物としてプロテインAを用い、第2のナノ粒子に修飾する分子認識化合物としてBSAを用いた場合の例を具体的に示す。また、実施例10~15では、第1のナノ粒子として銀ナノ粒子(AgNP)を用い、第2のナノ粒子として金ナノアーチン(AuNU)を用い、第1のナノ粒子に修飾する分子認識化合物としてBSAを用い、第2のナノ粒子に修飾する分子認識化合物としてプロテインAを用いた場合の例を具体的に示す。しかしながら、本発明はこれらに限定されない。
【0057】
〔実施例1.アミノ基導入スライドガラスの作製〕
スライドガラス(松浪ガラス社製、S1111)を超純水および70%エタノールで洗浄し、乾燥させた。次に1%APTES((3-Aminopropyl)triethoxysilane、超純水希釈)をスライドガラスに塗布し、室温で30分静置した後、超純水で洗浄した。これを乾燥させアミノ基導入スライドガラスを得た。
【0058】
〔実施例2.プロテインA修飾銀ナノ粒子の作製〕
銀ナノ粒子(60nm、BBI solution社製)50μLとプロテインA(10μg/mL,和光純薬)50μLとを0.1×PBS中で混合し、その後室温で15分静置した。PEG(0.02%)900μLを混合し、遠心分離(6000rpm、10分)した。上澄み液を除去し、沈殿したナノ粒子を回収した。PEG(0.02%)1mLを加えてナノ粒子を分散させた後、同様に遠心分離を行った。回収した沈殿を0.1×PBS(50μL)に分散させ、これをプロテインA修飾銀ナノ粒子(AgNP-ProA)とした。
【0059】
〔実施例3.BSA修飾金ナノアーチンの作製〕
金ナノアーチン(80nm、16pM、Cytodiagnostics社製)50μLとBSA(FractionV、50μg/mL、和光純薬)50μLとを0.1×PBS中で混合し、その後室温で15分静置した。PEG(0.02%)900μLを混合し、遠心分離(6000rpm、10分)した。上澄み液を除去し、沈殿したナノ粒子を回収した。回収した沈殿を0.1×PBS(50μL)に分散させ、これをBSA修飾金ナノアーチン(AuNU-BSA)とした。
【0060】
〔実施例4.ナノ粒子の修飾評価〕
AgNP-ProAおよびAuNU-BSAが作製されたことの確認を、動的光散乱(DLS)法による粒径測定により行った。結果を
図2に示す。銀ナノ粒子(AgNP)の平均粒径は修飾前後で63.9nmから79.3nmに増大した。また金ナノアーチン(AuNU)の平均粒径は修飾前後で89.0nmから100.0nmに増大した。この結果からプロテインAおよびBSAがそれぞれのナノ粒子表面に修飾されたことを確認した。
【0061】
〔実施例5.ナノ粒子の暗視野観察〕
実施例2で作製したAgNP-ProA、および実施例3で作製したAuNU-BSAを暗視野下で観察した。また、AgNP-ProA、AuNU-BSAおよび2μg/mLの抗BSA抗体を混合し、抗BSA抗体を介したAgNP-ProAとAuNU-BSAとのダイマーを形成させて、これを暗視野下で観察した。観察用プレパラートの作製は、試料3.5μLを実施例1で作製したアミノ基導入スライドガラスに滴下し、その上からカバーガラスを被せ、カバーガラスの四辺にトップコートを塗ることによって密閉することで行った。作製したプレパラートを暗視野下で油浸観察した。観察装置には顕微鏡(BX53、OLYMPUS社製)、CCDカメラ(カラー、DP73、OLYMPUS社製)、および対物レンズ(UplanFLN60×、OLYMPUS社製)を用い、観察条件は露光時間10sec、ISO100、および4800×3600ピクセルシフトで撮影した。
【0062】
結果、AgNP-ProAと、AuNU-BSAとで互いに異なる色の輝点が観察された。また、混合試料において、AgNP-ProAおよびAuNU-BSAのいずれとも異なる色(ピンク~紫色)の輝点が観察された。AgNP-ProA、AuNU-BSAおよびAgNP-ProAとAuNU-BSAとのダイマーにおける暗視野観察下での代表的な輝点の色成分(RGB成分)の棒グラフを
図3に示す。
【0063】
〔実施例6.銀ナノ粒子-金ナノアーチンダイマーの像の予測〕
実施例2および実施例3で作製した修飾ナノ粒子をそれぞれ暗視野観察し、観察されたそれぞれ10個の輝点を30×30pixelで抽出した。次いで、AgNP-ProAの輝点と、AuNU-BSAの輝点とを重ね合わせたcalculated dimer像を得た。詳細には、AgNP-ProAの10個の輝点と、AuNU-BSAの10個の輝点との全ての組み合わせ(10×10)について重ね合わせを行い、計100個のcalculated dimer像を得た。calculated dimer像は、AgNP-ProAとAuNU-BSAとでダイマーを形成した際に観察されると推測される像を意図したものである。抽出した各修飾ナノ粒子における10個の輝点と、calculated dimer像を以下に示す方法で処理して、RGB値の3次元プロットにより可視化した。
(1)画像処理
画像解析ソフトImageJ(Biophotonics International, vol11,issue7,pp.36-42,2004)を用いて、以下の方法で画像処理を行った。
【0064】
(1-1)グレースケール変換、輝点解析およびROI保存
対象画像をグレースケールに変換し、輝点解析および輝点の領域情報(ROI)の取得を行った。輝点解析のパラメーターは閾値30-255、サイズ30-10000、真円度0.3-1.0で行った。
【0065】
(1-2)RGBへの分割、および各画像におけるROIでの輝点解析
RGBで構成されている対象の画像を、R成分の画像、G成分の画像およびB成分の画像の3つの画像に分割した。各画像について上記(1-1)で取得したROIで輝点解析を行い、R、GおよびBの各画像におけるROIの強度を取得した。取得した各ROIの強度を、各輝点のR、GおよびBそれぞれの強度とした。これを、以降の解析データとして用いた。
【0066】
(2)Rを用いたデータ処理
上記(1-2)で得た解析データの処理は、統計分析フリーソフトのR(R DEVELOPMENT CORE TEAM (2005). R: A LANGUAGE AND environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria.ISBN 3-900051-07-0, URL http://www.R-project.org.)を用いて行った。
【0067】
具体的には、解析データをテキストファイルとして出力し、各輝点とそのRGB値とを対応させた表を作成した。各輝点のRGB値を3次元プロットすることで、輝点のRGB値の分布を可視化した。可視化したRGB値の3次元プロットを異なる角度から観察した結果が
図4の(a)~(c)に対応する。
【0068】
結果、銀ナノ粒子のクラスター、金ナノアーチンのクラスター、およびcalculated dimerのクラスターの3つのクラスターに分かれることが確認された。また、ダイマーとして観察される輝点のRGB値の3次元プロットは
図4の(a)~(c)に示す位置であることが推測された。
【0069】
〔実施例7.AgNP-AuNUの異種ダイマーサンプルの3次元プロット〕
実施例5で観察した各暗視野像を実施例6に示した方法で処理し、実施例6のcalculated dimer像も含めてRGB3次元プロットした結果を
図5に示す。
図5の(a)~(c)に示されるように、銀ナノ粒子および金ナノアーチン由来のプロットとは明らかに異なるプロットが混合試料中に確認され、そのプロットはcalculated dimer像のプロットと十分近い位置であった。以上の結果から混合試料中に銀ナノ粒子と金ナノアーチンとのダイマーが存在することが示唆された。また、
図5の(a)~(c)に示すように、色分解によって、銀ナノ粒子と、金ナノアーチンと、銀ナノ粒子-金ナノアーチンダイマーとを判別可能であることが確認された。なお、
図5に示すプロット中、銀ナノ粒子のクラスターには、混合試料中にモノマーとして存在する修飾銀ナノ粒子の輝点も含まれている。同様に、
図5に示すプロット中、金ナノアーチンのクラスターには、混合試料中にモノマーとして存在する修飾金ナノアーチンの輝点も含まれている。
【0070】
〔実施例8.機械学習の構築〕
観察対象の輝点がどのナノ粒子(異種ナノ粒子ダイマーを含む)または不純物に対応するか決定するための基準を設けることにより、帰属の判別が容易となる。しかしながら、
図5の3次元プロットに示されるような、各輝点のプロットが線形分離できない分布である場合には、人の手で基準を規定することが困難である。そこで、機械学習を利用した輝点の帰属の判別方法を採用した。
【0071】
実施例2および3で得られた、銀ナノ粒子および金ナノアーチンの輝点のRGB値情報を、その帰属と合わせて学習データとした。また、ナノ粒子を含まない0.1×PBSの暗視視野像を撮影し、得られた情報を不純物の学習データとして用いた。銀ナノ粒子と金ナノアーチンとの異種ダイマーに関しては、ImageJを用いて、抗BSA抗体修飾AuNUの20個の各輝点像(30×30pix)とAgNP-proAの20個の各輝点像(30×30pix)とを、全ての組み合わせ(20×20)について画像合成することで400個の合成画像を取得した。この合成処理を、輝点画像を横方向に5または10pixずらした場合についても行うことでさらに800個の合成画像を取得し、最終的に合計1200個の画像合成を取得した。これを異種ダイマーの輝点画像として扱い、そのRGB値情報を、その帰属と合わせて学習データとした。
【0072】
この学習データを用いた機械学習による、輝点の帰属を判定するための分類モデルの作製は統計分析フリーソフトのRを用いて行った。
【0073】
〔実施例9.検出対象濃度依存性〕
抗BSA抗体を検出対象とし、その濃度を0、0.5、1または2μg/mLと変化させた場合の試料に、AgNP-ProAおよびAuNU-BSAを混合し、混合試料について暗視野観察を行い、AgNP-ProAと、AuNU-BSAと、異種ダイマーとの合計量に対する異種ダイマーの量の割合を算出した。異種ダイマーの割合を算出するための各輝点の帰属の判別は、実施例8の機械学習済の統計分析フリーソフトのRにより行った。結果を
図6に示す。
図6から検出対象の濃度に応じて異種ダイマーの割合が増加することが確認できた。すなわち、暗視野下での輝点色の異なるナノ粒子を用いて、モノマーの状態とダイマーの状態での輝点色の変化を利用した、対象分子の検出系を構築できた。
【0074】
〔実施例10.BSA修飾銀ナノ粒子の作製〕
銀ナノ粒子(60nm、28pM、BBI solution社製)50μLとBSA(FractionV、50μg/mL、和光純薬)50μLとを0.1×PBS50μL中で混合し、その後37℃で30分静置した。PEG(0.02%)500μLを混合し、遠心分離(8000rpm、10分)した。上澄み液を除去し、沈殿したナノ粒子を回収した。回収した沈殿を0.1×PBS(50μL)に分散させ、これをBSA修飾銀ナノ粒子(AgNP-BSA)とした。
【0075】
〔実施例11.プロテインA修飾金ナノアーチンの作製〕
金ナノアーチン(80nm、39pM、Cytodiagnostics社製)50μLとプロテインA(10μg/mL,和光純薬)50μLとを0.1×PBS50μL中で混合し、その後37℃で30分静置した。PEG(0.02%)を含むBSA溶液500μLを混合し、遠心分離(8000rpm、10分)した。上澄み液を除去し、沈殿したナノ粒子を回収した。回収した沈殿を0.1×PBS(50μL)に分散させ、これをプロテインA修飾金ナノアーチン(AuNU-ProA)とした。
【0076】
〔実施例12.ナノ粒子の修飾評価〕
AgNP-BSAおよびAuNU-ProAが作製されたことの確認を、動的光散乱(DLS)法による粒径測定により行った。結果を
図7に示す。銀ナノ粒子(AgNP)の平均粒径は修飾前後で65.2nmから83.5nmに増大した。また金ナノアーチン(AuNU)の平均粒径は修飾前後で90.0nmから103.8nmに増大した。この結果からBSAおよびプロテインAがそれぞれのナノ粒子表面に修飾されたことを確認した。
【0077】
〔実施例13.ナノ粒子の暗視野観察〕
実施例10で作製したAgNP-BSA、および実施例11で作製したAuNU-ProAを暗視野下で観察した。また、AgNP-BSA、AuNU-ProAおよび2μg/mLの抗BSA抗体を混合し、抗BSA抗体を介したAgNP-BSAとAuNU-ProAとのダイマーを形成させて、これを暗視野下で観察した。ダイマーサンプルの調製は、まずAgNP-BSAと2μg/mLの抗BSA抗体を混合し、37℃で30分静置した後にAuNU-ProAを添加し、60分反応させることで行った。観察用プレパラートの作製は、試料3.5μLを実施例1で作製したアミノ基導入スライドガラスに滴下し、その上からカバーガラスを被せ、カバーガラスの四辺にトップコートを塗ることによって密閉することで行った。作製したプレパラートを暗視野下で油浸観察した。観察装置には顕微鏡(BX53、OLYMPUS社製)、CCDカメラ(カラー、DP73、OLYMPUS社製)、および対物レンズ(UplanFLN60×、OLYMPUS社製)を用い、観察条件は露光時間10sec、ISO100、および4800×3600ピクセルシフトで撮影した。
【0078】
結果、AgNP-BSAと、AuNU-ProAとで互いに異なる色の輝点が観察された。また、混合試料において、AgNP-BSAおよびAuNU-ProAのいずれとも異なる色(ピンク~紫色)の輝点が観察された。
【0079】
〔実施例14.AgNP-AuNUの異種ダイマーサンプルの3次元プロット〕
実施例13で観察した各暗視野像を実施例6に示した方法で処理し、実施例6のcalculated dimer像も含めてRGB3次元プロットした結果を
図8に示す。
図8の(a)~(c)に示されるように、銀ナノ粒子および金ナノアーチン由来のプロットとは明らかに異なるプロットが混合試料中に確認され、そのプロットはcalculated dimer像のプロットと十分近い位置であった。以上の結果から混合試料中に銀ナノ粒子と金ナノアーチンとのダイマーが存在することが示唆された。また、
図8の(a)~(c)に示すように、色分解によって、銀ナノ粒子と、金ナノアーチンと、銀ナノ粒子-金ナノアーチンダイマーとを判別可能であることが確認された。なお、
図8に示すプロット中、銀ナノ粒子のクラスターには、混合試料中にモノマーとして存在する修飾銀ナノ粒子の輝点も含まれている。同様に、
図8に示すプロット中、金ナノアーチンのクラスターには、混合試料中にモノマーとして存在する修飾金ナノアーチンの輝点も含まれている。
【0080】
〔実施例15.検出対象濃度依存性〕
抗BSA抗体を検出対象とし、その濃度を0、0.5、1または2μg/mLと変化させた場合の試料に、AgNP-BSAおよびAuNU-ProAを混合し、混合試料について暗視野観察を行い、AgNP-BSAとAuNU-ProA、異種ダイマーの全体数を全量としたときの異種ダイマーの割合を算出した。異種ダイマーの割合を算出するための各輝点の帰属の判別は、実施例8の機械学習済の統計分析フリーソフトのRにより行った。結果を
図9に示す。
図9から検出対象の濃度に応じて異種ダイマーの割合が増加することが確認できた。すなわち、銀ナノ粒子および金ナノアーチンそれぞれを修飾する分子認識化合物を変更した本実施例においても、暗視野下での輝点色の異なるナノ粒子を用いて、モノマーの状態とダイマーの状態での輝点色の変化を利用した対象分子の検出系を構築できた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、暗視野下で検出対象を検出する分野に利用することができる。