(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】水酸化リチウム水和物、水酸化リチウム水和物の製造方法、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20240521BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240521BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
C01D15/02
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2018124661
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-04-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2017127546
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡元 康紀
(72)【発明者】
【氏名】田上 梓
(72)【発明者】
【氏名】浅川 武司
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】原 賢一
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-265023(JP,A)
【文献】特開2018-070424(JP,A)
【文献】Xixian Yang et al.,Effect ob Carbon Nanoadditives on Lithium Hydroxide Monohydrate-Based Composite Materials for Low Temperature Chemical Heat Storage,Energies,2017年,10(5),644,https://doi.org/10.3390/en10050644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D15/02
H01M4/485-4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子形状が棒状、もしくは扁平化している水酸化リチウム水和物であって、
アスペクト比が30以上60以下であり、
累積90%粒子径(D90)が1000μm以下であり、
前記アスペクト比は、
以下の第1工程、第2工程により算出される水酸化リチウム水和物。
前記第1工程は、前記水酸化リチウム水和物についてSEM観察を行った際の1視野中の最大粒子を選択し、前記最大粒子を包含する最小サイズの外接円を描き、前記外接円の直径を長辺の長さAとみなし、前記最大粒子の最短の辺を短辺の長さBとし、B/A×100を前記最大粒子のアスペクト比とし、
第2工程は、前記第1工程の前記1視野を含めて計10視野となるように視野を選択し、選択したそれぞれの前記視野で前記第1工程と同じ手順により前記最大粒子のアスペクト比を算出し、前記10視野で算出した前記最大粒子のアスペクト比の平均を、前記水酸化リチウム水和物の前記アスペクト比とする。
【請求項2】
累積90%粒子径(D90)が200μm以上600μm以下である請求項1に記載の水酸化リチウム水和物。
【請求項3】
累積90%粒子径(D90)が300μm以上600μm以下である請求項1に記載の水酸化リチウム水和物。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の水酸化リチウム水和物の製造方法であって、
水酸化リチウム水溶液から前記水酸化リチウム水和物を晶析する工程を含み、
前記水酸化リチウム水和物を晶析する際の、前記水酸化リチウム水溶液の撹拌条件について、得られる前記水酸化リチウム水和物の
前記アスペクト比が30以上60以下となるように選択する水酸化リチウム水和物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の水酸化リチウム水和物を用いたリチウムニッケル複合酸化物の製造方法
であって、
前記水酸化リチウム水和物を加熱し、脱水する脱水工程と、
前記脱水工程で得られた無水水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成する混合工程と、
前記混合工程で得られた前記混合物を焼成することで、前記リチウムニッケル複合酸化物を生成する焼成工程と、を有するリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化リチウム水和物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンなどの小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウム二次電池の需要が急激に伸びている。リチウム二次電池の正極に用いられる正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物や、リチウムニッケル複合酸化物等のリチウムを含有する複合酸化物が用いられている。
【0003】
リチウムを含有する複合酸化物の製造方法として、例えば特許文献1には、リチウム塩とニッケル塩とをLi/Niモル比が少なくとも1となるように混合し、焼成して正極材料用のLiNiO2を得る方法において、リチウム塩とニッケル塩との混合物を、オゾン1%以上を含む空気及び/または酸素中で500℃~1000℃で10時間以上焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の製造方法が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献1には、水酸化リチウムとして無水物を用いた例も開示されている。具体的には、水酸化ニッケルと無水水酸化リチウムとの混合物を、雰囲気調整炉内で加熱焼成して、リチウム二次電池用正極活物質を製造した例が開示されている。
【0005】
ところで、水酸化リチウムは通常水和し、一水和物となっていることから、水酸化リチウムの無水物とするためには、水酸化リチウム水和物を脱水し、無水化する必要がある。
【0006】
例えば特許文献2には、水酸化リチウム一水塩を、ロータリーキルンを用いて、炉心管内温度150℃以上に加熱することにより無水化することを特徴とする水酸化リチウム一水塩の無水化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-180863号公報
【文献】特開2006-265023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水酸化リチウム水和物を熱処理により脱水する場合に、該脱水の処理に多くの時間を要する場合があり、生産性を向上し、また熱処理に要するコストを低減する観点から短い時間で脱水することができる水酸化リチウム水和物が求められていた。
【0009】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、脱水に要する時間を抑制できる水酸化リチウム水和物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の一側面では、
粒子形状が棒状、もしくは扁平化している水酸化リチウム水和物であって、
アスペクト比が30以上60以下であり、
累積90%粒子径(D90)が1000μm以下であり、
前記アスペクト比は、以下の第1工程、第2工程により算出される水酸化リチウム水和物を提供する。
前記第1工程は、前記水酸化リチウム水和物についてSEM観察を行った際の1視野中の最大粒子を選択し、前記最大粒子を包含する最小サイズの外接円を描き、前記外接円の直径を長辺の長さAとみなし、前記最大粒子の最短の辺を短辺の長さBとし、B/A×100を前記最大粒子のアスペクト比とし、
第2工程は、前記第1工程の前記1視野を含めて計10視野となるように視野を選択し、選択したそれぞれの前記視野で前記第1工程と同じ手順により前記最大粒子のアスペクト比を算出し、前記10視野で算出した前記最大粒子のアスペクト比の平均を、前記水酸化リチウム水和物の前記アスペクト比とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、脱水に要する時間を抑制できる水酸化リチウム水和物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明に係る実施例で用いた転動撹拌機の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の水酸化リチウム水和物の一実施形態について説明する。
[水酸化リチウム水和物]
本実施形態の水酸化リチウム水和物は、アスペクト比を60以下とすることができる。
【0014】
なお、水酸化リチウム水和物の水和水の数は特に限定されないが、水酸化リチウムは通常一水和物を形成することから、本実施形態の水酸化リチウム水和物は、水酸化リチウム一水和物とすることができる。
【0015】
本発明の発明者らは、脱水に要する時間を抑制できる水酸化リチウム水和物、すなわち脱水し易い水酸化リチウム水和物について鋭意検討を行った。
【0016】
その結果、水酸化リチウム水和物の粒子の形状が、脱水のし易さに大きな影響を与えていることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明の発明者らの検討によれば、粒子形状が棒状、もしくは扁平化している水酸化リチウム水和物ほど脱水し易い水酸化リチウム水和物となる。具体的にはアスペクト比が60以下の水酸化リチウム水和物とすることで、脱水し易い水酸化リチウム水和物とすることができる。
【0018】
これは、アスペクト比が60以下の水酸化リチウム水和物とすることで、中心から表面までの距離が短い水酸化リチウムとすることができ、熱処理を行った場合に、中心まで短時間で加熱し、脱水を行うことができるからと考えられる。
【0019】
また、本実施形態の水酸化リチウム水和物は、アスペクト比を60以下とすることで、該水酸化リチウム水和物を工場の配管内を搬送する場合や、後述する脱水工程を行う為に加熱する際に、排気中に含まれる水酸化リチウムをバグフィルターで回収する場合等に、配管や設備のハウジング内壁に付着したり、バグフィルターをすり抜けたりすることを抑制できる。すなわち、無水水酸化リチウムを製造する際の回収率を高めることができる。これは、アスペクト比が60以下の場合、上述の様に水酸化リチウム水和物の粒子は棒状、もしくは扁平化しており、係る形状に由来した効果と推認される。
【0020】
本実施形態の水酸化リチウム水和物のアスペクト比は55以下であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態の水酸化リチウム水和物のアスペクト比の下限値は特に限定されないが、過度に小さくなると針状形状に近づき、脱水工程等で粒子が割れ、微粉になり易くなるため、本実施形態の水酸化リチウム水和物のアスペクト比は、30以上が好ましい。
【0022】
アスペクト比の算出方法について、
図1を用いて説明する。本実施形態の水酸化リチウム水和物のアスペクト比は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、算出することができる。
【0023】
具体的には、まずSEM観察を行った際の1視野中の最大粒子を選択する。次いで、
図1に示す様に、該最大粒子10を包含する最小サイズの外接円11を描き、外接円11の直径を長辺の長さAとみなすことができる。また、該最大粒子10の最短の辺を短辺の長さBとすることができる。そして、B/A×100を該最大粒子のアスペクト比とすることができる。
【0024】
同様にして上記1視野を含む計10視野で最大粒子のアスペクト比を算出し、その平均を、該水酸化リチウム水和物のアスペクト比とすることができる。すなわち、視野を10回変え、各視野での最大粒子のアスペクト比を算出し、その平均を水酸化リチウム水和物のアスペクト比とすることができる。
上記評価方法からも明らかなように、本実施形態の水酸化リチウム水和物のアスペクト比は、特定の面に限定して算出するものではない。従って、最大粒子10の形状や、SEMによる観察視野における配置等にもよるが、最大粒子10の主表面、すなわち厚み方向と直交する面を構成する辺だけではなく、厚みが該最大粒子10の長辺、または短辺となる場合もある。このため、平均化して算出されたアスペクト比には厚みの要素も含まれる場合がある。
【0025】
また、本実施形態の水酸化リチウム水和物は、累積90%粒子径(D90)が1000μm以下であることが好ましく、600μm以下であることがより好ましい。
【0026】
既述の様に、水酸化リチウム水和物のアスペクト比を所定の範囲とすることで、脱水し易い水酸化リチウム水和物とすることができるが、例えば粒子径の過度に大きい粒子が混入していると、均一に脱水処理ができない恐れがある。そして、本発明の発明者らの検討によれば、累積90%粒子径(D90)を1000μm以下とすることで、特に均一に脱水処理を行えることが好ましい。
【0027】
累積90%粒子径の下限値は特に限定されるものではないが、例えば200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましい。
【0028】
これは、累積90%粒子径を200μm以上とすることで、水酸化リチウムを工場の配管内を搬送する場合や、後述する脱水工程を行う為に加熱した際に、排気中に含まれる水酸化リチウムをバグフィルターで回収する場合等に、配管や設備のハウジング内壁に付着したり、バグフィルターをすり抜けたりすることを特に抑制できるからである。すなわち、無水水酸化リチウムを製造する際の回収率を特に高めることができる。
【0029】
なお、累積90%粒子径(D90)は、乾式でレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値90%での粒径を意味する。
【0030】
本実施形態の水酸化リチウム水和物の製造方法は特に限定されるものではない。例えば炭酸リチウム水溶液と、水酸化カルシウム水溶液とを反応させることで水酸化リチウム水溶液と、炭酸カルシウムの沈殿物とを得、炭酸カルシウムを分離後、水酸化リチウムを晶析させることで製造することができる。
【0031】
そして、水酸化リチウムを晶析する際の、例えば水酸化リチウム水溶液の撹拌条件によりアスペクト比が変化することから、予備試験により撹拌条件とアスペクト比との関係を求めておき、所望のアスペクト比に応じて、撹拌条件を選択し、製造することができる。
【0032】
また、得られた水酸化リチウム水和物を粉砕等することで、そのアスペクト比を調整し、所望のアスペクト比を有する水酸化リチウム水和物を製造することもできる。
[リチウムニッケル複合酸化物の製造方法]
本実施形態の水酸化リチウム水和物を用いて各種リチウム含有化合物を製造することができる。ここでは、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法の一構成例について説明する。
【0033】
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法により、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されるものではなく任意の組成とすることができる。
【0034】
ただし、一般式:LixNi(1-y-z)MyNzO2+α(式中、Mは、CoおよびMnから選択される少なくとも1種、Nは、AlおよびTiから選択される少なくとも1種であり、0.95≦x≦1.15、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.8、-0.2≦α≦0.2である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが好ましい。
【0035】
リチウムニッケル複合酸化物としては、各種組成の複合酸化物が提案されているが、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物は、電池特性に優れている点で好ましく、さらに、本実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法を適用することにより、工業的規模での量産工程においても、優れた充放電特性を安定して備える正極活物質を得ることが可能となる。
【0036】
ここで、一般式のM元素は、Coおよび/またはMnであり、yを上記範囲とすることで、リチウム二次電池の正極材料に用いられた際の電池容量の低下を抑制しながらサイクル特性を向上させることができる。yは、0.1以上0.2以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0037】
また、一般式のN元素は、Alおよび/またはTiであり、zを上記範囲とすることで、リチウム二次電池の正極材料に用いられた際の電池容量の低下を抑制しながら熱安定性を向上させることができる。zは、0.02以上0.05以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0038】
そして、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0039】
既述の水酸化リチウム水和物を無水化する脱水工程。
【0040】
無水水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成する混合工程。
【0041】
混合物を、焼成する焼成工程。
【0042】
以下に各工程について説明する。
(脱水工程)
脱水工程においては、既述の水酸化リチウム水和物を加熱し、脱水することができる。この際、水酸化リチウム水和物を短時間で均一に加熱し、より短時間で脱水するために、水酸化リチウム水和物を流動させながら加熱することが好ましい。
【0043】
なお、水酸化リチウム水和物を加熱する過程においては、水酸化リチウム水和物から生じた水により、水酸化リチウムは水分の多い環境下に置かれることになるが、水分の多い環境下では、水酸化リチウムが炭酸化し易い。しかし、既述の水酸化リチウム水和物を原料として用いた場合、水酸化リチウム水和物を短時間で脱水処理することができるため、炭酸化の進行を特に抑制することができる。
【0044】
脱水工程において、水酸化リチウム水和物を流動させる場合、水酸化リチウム水和物を流動させる手段は特に限定されないが、例えば各種撹拌機を用いることができる。特に、転動撹拌機を好ましく用いることができる。なお、転動撹拌機とは、1または2以上の撹拌手段を備えており、該撹拌手段がモーター等の回転手段により加えられた動力により回転することで撹拌機内の試料を撹拌することができる装置を意味する。そして、該転動撹拌機に加熱手段を設けておくことにより試料を流動させながら加熱することができる。
【0045】
加熱手段は、流動している水酸化リチウム水和物を加熱できる手段であればよく、特に限定されないが、例えばジャケット構造を有し、該ジャケット内に水蒸気等の熱媒体を供給することで加熱する手段等を挙げることができる。なお、上述のジャケット構造を有する加熱手段を用いる場合、該加熱手段により流動している水酸化リチウム水和物を加熱できるように該加熱手段を配置することが好ましい。例えば撹拌機の被撹拌物を撹拌する領域を画する壁部等の一部、または全部を該加熱手段により構成することができる。
【0046】
水酸化リチウム水和物を流動させる手段としては、上述のような撹拌機を用いる方法だけではなく、例えば気流により、水酸化リチウム水和物を流動させながら乾燥する手段等も挙げられる。この場合、供給する気流を加熱しておくことで、水酸化リチウム水和物の流動と、加熱とを併せて行うことができる。
【0047】
脱水工程において、水酸化リチウム水和物を流動、加熱する際の雰囲気は特に限定されないが、空気雰囲気、窒素雰囲気、真空雰囲気から選択されたいずれかの雰囲気を好ましく用いることができる。
【0048】
なお、真空雰囲気とする場合には、真空圧を-70kPa以下とすることが好ましい。真空圧を-70kPa以下とすることで、脱水反応を促進することができるからである。真空圧の下限値は特に限定されないが、高真空とするためには、排気能力の高い真空ポンプが必要となるため、コストを低減する観点から-90kPa以上であることが好ましい。
【0049】
脱水工程における加熱温度は、80℃以上250℃以下の範囲が好ましく、100℃以上200℃以下の範囲がより好ましい。
【0050】
上述のように、熱媒体として水蒸気を用いる場合は、操業の容易性や設備の簡略化の観点から、脱水工程における加熱温度を100℃以上150℃以下とすることが好ましい。
【0051】
脱水工程において、上記温度範囲で加熱して脱水することにより、水酸化リチウム水和物の結晶水を十分に脱水するとともに、脱水に必要な時間を短縮することができる。
【0052】
加熱時間は、特に限定されるものではない。例えば、脱水工程に供する水酸化リチウム水和物の量や、加熱温度等を考慮して、水酸化リチウム水和物が十分に無水水酸化リチウムに転換される、例えば無水水酸化リチウムの水分含有量が好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下となる時間を選択できる。
【0053】
加熱時間は特に限定されないが、例えば150分間以上300分間以下とすることが好ましく、200分間以上300分間以下とすることがより好ましい。なお、加熱時間とは、既述の加熱温度で保持している時間を意味する。
【0054】
脱水後に無水水酸化リチウムに水分が吸着すると、炭酸リチウムの生成が促進されるため、脱水工程後の無水水酸化リチウムは乾燥状態を保持することが好ましい。工業的規模の量産工程では、管理された水分および炭酸ガス分圧下で保管することにより水酸化リチウムの乾燥状態を維持することが好ましい。
(混合工程)
混合工程では、脱水工程で得られた無水水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成することができる。
【0055】
この際に用いるニッケル化合物は特に限定されるものではなく、一般的にリチウムニッケル複合酸化物の原料となるニッケル化合物を用いることができる。
【0056】
ニッケル化合物としては特に、不純物混入の低減や粒径制御の観点から、ニッケル複合水酸化物、およびニッケル複合酸化物から選択された1種以上を用いることが好ましい。具体的には調製するリチウムニッケル複合酸化物の目的組成に応じた、ニッケル複合水酸化物や、ニッケル複合酸化物を用いることができ、例えば、既述の一般式で示したリチウムニッケル複合酸化物を調製する場合、Ni(1-y-z)MyNz(OH)2+βや、Ni(1-y-z)MyNzO1+γから選択された1種類以上を用いることができる。
なお、上記各式中のy、zは既述のリチウムニッケル複合酸化物の場合と同じ範囲を有することが好ましい。また、添加元素M、Nについても同様である。そして、β、γについては-0.2≦β≦0.2、-0.2≦γ≦0.2であることが好ましい。
【0057】
ニッケル複合水酸化物は通常の方法で得られるものでよく、特に限定されないが、組成が均一であり、適度な粒径である粒子が得られるため、共沈法で得られたニッケル複合水酸化物を好ましく用いることができる。また、ニッケル複合酸化物は、ニッケルおよび添加元素を含有する化合物を酸化焙焼することで得られるものが好ましく、例えば上記ニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して得られるものがより好ましい。
【0058】
原料として、ニッケル複合水酸化物、および/またはニッケル複合酸化物を用いた場合、これらの原料の二次粒子の平均粒径は特に限定されないが、5μm以上20μm以下の範囲とすることが好ましく、8μm以上15μm以下の範囲とすることがより好ましい。原料の平均粒径は、得られるリチウムニッケル複合酸化物に継承されるため、上記平均粒径の範囲とすることで、良好な充填性とともに、電池に用いた際の電解質との反応性を高くすることができ、電池特性を良好なものとすることができる。
【0059】
なお、平均粒径は、乾式でレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。本明細書では平均粒径は同様の意味を有する。
【0060】
ニッケル化合物と混合する水酸化リチウムの量は特に限定されず、目的とするリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じて選択することができる。例えば既述のリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じた混合比とすることができる。焼成前後で組成はほとんど変化しないため、得ようとするリチウムニッケル複合酸化物の組成から、ニッケル複合酸化物と混合する水酸化リチウムの量を容易に決定することができる。
【0061】
混合方法としては、通常用いられる方法でよく、一般的な混合機を使用することができ、シェーカーミキサー、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができ、ニッケル化合物の形骸が破壊されない程度に、十分に混合されればよい。
[焼成工程]
焼成工程では、混合工程で得られた混合物を焼成することで、リチウムニッケル複合酸化物を生成することができる。
【0062】
焼成時の雰囲気としては、酸素を十分に供給するため、酸素濃度が60容量%以上であることが好ましく、80容量%以上であることがより好ましい。
【0063】
これは、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応では、例えば以下の反応式(1)に示す化学反応により水が生成される。水が多量に生成されると、外部から十分な酸素が供給されない場合は、反応場への酸素の拡散が不足して反応式(1)の反応が進行せず、リチウムニッケル複合酸化物の合成不足が発生し、電池容量の低下など、電池性能が劣化した正極活物質となる恐れがあるからである。
【0064】
2NiO+2LiOH+1/2O2 → 2LiNiO2+H2O ・・・(1)
この際、酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合して供給することが好ましい。
【0065】
また、焼成温度としては、700℃以上780℃以下の範囲であることが好ましく、700℃以上750℃以下の範囲であることがより好ましい。700℃以上とすることで、十分に結晶成長したリチウムニッケル複合酸化物を得ることができ、良好な電池性能が得られ、好ましいからである。また、780℃以下とすることで、生成したリチウムニッケル複合酸化物が分解することを抑制できるからである。
【0066】
焼成工程において、上記焼成温度に昇温する過程で、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度までの温度域、例えば450℃以上650℃以下の範囲で一旦保持してニッケル化合物と水酸化リチウムを十分に反応させることが好ましい。
【0067】
焼成に用いる炉は、雰囲気が制御できる各種の炉が使用可能であるが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましく、工業的生産においては、特にプッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用することが好ましい。
【0068】
なお、ここではリチウムニッケル複合酸化物を製造する場合を例に説明したが、本実施形態の水酸化リチウム水和物は、各種リチウム化合物の製造に適用することができ、係る形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例について、比較例との対比により、より具体的に説明をおこなうが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
水酸化リチウム水和物を晶析反応により製造した。具体的には、炭酸リチウム水溶液と、水酸化カルシウム水溶液とを反応させることで水酸化リチウム水溶液と、炭酸カルシウムの沈殿物とを得、炭酸カルシウムを分離後、水酸化リチウムを晶析させることで水酸化リチウム水和物を製造した。なお、製造に当たっては予備試験を行い、水酸化リチウム水溶液から水酸化リチウムを晶析する際の水酸化リチウム水溶液の撹拌条件と得られる水酸化リチウム水和物のアスペクト比との関係を求めておき、アスペクト比が50程度になるように撹拌条件を選択して行った。
【0070】
得られた水酸化リチウム水和物は、水酸化リチウム一水和物であり、アスペクト比は54.1であった。
【0071】
なお、アスペクト比は、以下の手順により算出した。
【0072】
得られた水酸化リチウム水和物のSEM(株式会社日立製作所製 型式:S-4700)観察を行い、SEM観察を行った際の1視野中の最大粒子を選択する。次いで、
図1に示す様に、選択した最大粒子10を包含する最小サイズの外接円11を描き、外接円11の直径を長辺の長さAとした。また、該最大粒子10の最短の辺を短辺の長さBとした。そして、B/A×100を該最大粒子のアスペクト比とした。
【0073】
同様にして上記1つの視野での測定、算出を含む計10視野で最大粒子のアスペクト比を算出し、その平均を、該水酸化リチウム水和物のアスペクト比とした。
【0074】
また、得られた水酸化リチウム水和物について、乾式でレーザー回折・散乱法粒度分布測定機(日機装株式会社製 型式:HRA9320 X-100)を用いて累積90%粒子径を測定したところ、526μmであることが確認できた。
【0075】
得られた水酸化リチウムを、
図2に示したジャケット構造を有する加熱手段を備えた転動撹拌機20(日本コークス工業(株)製、型式:FM4000)に供給した。なお、
図2は、転動撹拌機20の撹拌手段22の回転軸を通り、回転軸と平行な面での断面図を模式的に示している。
【0076】
転動撹拌機20は、
図2に示すように、側壁、及び底面を構成する壁部21がジャケット構造になっており、内部に熱媒体である蒸気を供給できるように構成されている。そして、底部には、撹拌手段22が設けられており、該撹拌手段22を図示しないモーターにより回転させることで、転動撹拌機20の内部に入れた試料を流動させることができる。また、転動撹拌機20の壁部21で囲まれた容器の上部には図示しない蓋を配置することができ、試料周辺の雰囲気を制御できるように構成されている。
【0077】
転動撹拌機20には、容器内を真空引きするための図示しない真空ポンプが接続されており、該真空ポンプと、転動撹拌機20の容器内とを接続する配管にはバグフィルターが設けられている。
【0078】
そして、転動撹拌機20の容器内211の雰囲気を大気圧から減圧した真空雰囲気(-90kPa)とし、加熱することで脱水処理を行った。
【0079】
具体的には、転動撹拌機20の壁部21のジャケット内に水蒸気をゲージ圧0.19MPa(130℃相当)で供給し、容器内は、上述のように真空雰囲気に保持したまま撹拌手段22で撹拌することにより、試料である水酸化リチウム水和物を流動させながら130℃に加熱した。
【0080】
脱水時間は、転動撹拌機20内の中心部で測温した温度が65℃に達した時点から、転動撹拌機20内の中心部で測温した温度が120℃に達するまでの時間とした。これは、転動撹拌機のジャケット内に水蒸気を供給開始後、脱水が進行している間は転動撹拌機20内の壁部21から離れた中心部で測温した温度は65℃近傍で安定するからである。そして、その後脱水が完了に近づくと徐々に温度が上昇し、転動撹拌機20内の中心部で測温した温度も供給する水蒸気の温度に近い120℃程度にまで昇温するからである。なお、壁部21近傍ではジャケットに供給した水蒸気と略同じ温度、すなわち約130℃となっている。
【0081】
その結果、脱水時間は206分となった。得られた脱水処理後の水酸化リチウムの水分率は1質量%以下であった。
【0082】
また、脱水処理前の水酸化リチウムの質量と、脱水処理後に回収された水酸化リチウムの質量とから回収率を以下の式(A)により算出したところ、99.7%になることが確認できた。
【0083】
なお、以下の式(A)は、リチウム分の回収率を示す式である。このため、脱水処理後の水酸化リチウム、すなわち無水水酸化リチウムの質量から、脱水処理後に回収したリチウム分の質量を算出するために0.289倍している。また、脱水処理前の水酸化リチウム、すなわち水酸化リチウム一水和物の質量から、脱水処理前に該水酸化リチウム一水和物に含まれていたリチウム分の質量を算出するため、0.167倍している。
(回収率/%)=100×(脱水処理後の水酸化リチウム×0.289)/(脱水処理前の水酸化リチウムの質量×0.167)・・・(A)
[実施例2、3]
水酸化リチウム水和物を製造する際の撹拌条件を変更した点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウム水和物(水酸化リチウム一水和物)を製造した。
そして、得られた水酸化リチウム水和物について、実施例1と同様にしてアスペクト比、及び累積90%粒子径を測定した後、実施例1と同様にして脱水処理を行い、脱水時間、及び回収率を測定した。
なお、実施例2、実施例3で得られた脱水処理後の水酸化リチウムの水分率は1質量%以下であった。
結果を表1に示す。
[比較例1、2]
水酸化リチウム水和物を製造する際の撹拌条件を変更した点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウム水和物(水酸化リチウム一水和物)を製造した。
【0084】
そして、得られた水酸化リチウム水和物について、実施例1と同様にしてアスペクト比、及び累積90%粒子径を測定した後、実施例1と同様にして脱水処理を行い、脱水時間、及び回収率を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
表1に示した結果によると、アスペクト比が60以下である実施例1~3の水酸化リチウム水和物は、アスペクト比が60よりも大きい比較例1、2と比較して、脱水時間を大幅に短縮できることが確認できた。また、実施例1~3に示した水酸化リチウム水和物によれば、脱水工程時の回収率も99.5%以上と高くなることが確認できた。