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特許7491663澱粉含有食品用ほぐれ剤、澱粉含有食品及び澱粉含有食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】澱粉含有食品用ほぐれ剤、澱粉含有食品及び澱粉含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240521BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240521BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240521BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20240521BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L7/10 E
A23L7/109 A
A23L29/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018182681
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020048506
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笠井 通雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】地引 由美子
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】淺野 美奈
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138578号公報(JP,A)
【文献】特開2013-56号公報(JP,A)
【文献】特開2013-226120号公報(JP,A)
【文献】特開2016-86752号公報(JP,A)
【文献】特開2016-67253号公報(JP,A)
【文献】特開2016-96730号公報(JP,A)
【文献】特開2009-185023号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L7/10-7/113
A23D9/00-9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と乳化剤を含有する澱粉含有食品用ほぐれ剤であって、
澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に油脂を90.0~99.997質量%含有し、
澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に下記の乳化剤Aを0.003~2.0質量%、下記の乳化剤Bを8.0質量%以下含有することを特徴とする、
澱粉含有食品用ほぐれ剤(ただし、液状油脂100質量部に対して、グリセリン重合度が8以上12以下のポリグリセリンと、炭素数12以上24以下の不飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸とのエステルを0.2~2.5質量部、グリセリン重合度が2のポリグリセリンと、炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸とのエステルであるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.5~2.5質量部、全構成脂肪酸中、不飽和脂肪酸の含量が75質量%以上であるグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.2~1.0質量部含有するもの、及び、食用油脂とポリグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン酢酸脂肪酸エステルとを含有するもの、を除く)。
(乳化剤A)構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リシノレート、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のHLB8以下の乳化剤
【請求項2】
油脂と、下記の乳化剤a及び下記の乳化剤Bのみからなる乳化剤を含有する澱粉含有食品用ほぐれ剤であって、
澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に油脂を90.0~99.997質量%含有し、
澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に乳化剤aを0.003~2.0質量%、乳化剤Bを8.0質量%以下含有することを特徴とする、
澱粉含有食品用ほぐれ剤(ただし、液状油脂100質量部に対して、グリセリン重合度が8以上12以下のポリグリセリンと、炭素数12以上24以下の不飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸とのエステルを0.2~2.5質量部、グリセリン重合度が2のポリグリセリンと、炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸とのエステルであるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.5~2.5質量部、全構成脂肪酸中、不飽和脂肪酸の含量が75質量%以上であるグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.2~1.0質量部含有するものを除く)。
(乳化剤a)構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リシノレート、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のHLB8以下の乳化剤
【請求項3】
前記乳化剤Aが、構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸であり、構成脂肪酸の50質量%未満が不飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルである、請求項1に記載の澱粉含有食品用ほぐれ剤。
【請求項4】
前記乳化剤aが、構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸であり、構成脂肪酸の50質量%未満が不飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルである、請求項2に記載の澱粉含有食品用ほぐれ剤。
【請求項5】
澱粉含有食品が麺類、飯類から選ばれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の澱粉含有食品用ほぐれ剤。
【請求項6】
澱粉含有食品用ほぐれ剤が、スプレーで澱粉含有食品に塗布するものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の澱粉含有食品用ほぐれ剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の澱粉含有食品用ほぐれ剤が塗布された、澱粉含有食品。
【請求項8】
加熱工程を経た澱粉含有食品に、請求項1~6のいずれか1項に記載の澱粉含有食品用ほぐれ剤を塗布することを特徴とする、澱粉含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有食品用ほぐれ剤、澱粉含有食品及び澱粉含有食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そば、うどん、中華麺、パスタなどは、茹でて食すが、特に加熱などしなくても、そのまま食すことができるように流通しているものも多い。しかし、それらの麺類は、流通あるいは保存中に麺と麺が付着するなどの問題が発生しやすく、これらの問題を改善するために、油脂をコーティングし、麺相互の付着を防止し、ほぐれ性を改善することが行われてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、乳化剤としてソルビタンモノラウリン酸エステルと食用油を含有するほぐれ性改善用油脂組成物の例が提案されている。
【0004】
これらの麺類は、“つゆ”(つけ汁)、“たれ”や“ソース”等をつけて風味を付与して食すが、“つゆ”、“たれ”、“ソース”等が水系のため、麺が予め、それらに浸され、あるいは、かけられている場合、それらに含有する水分が保存中に麺類に移行し、麺類の食感を損なう問題があった。さらに、麺類が膨潤し、外観を損なうことがあった。また、麺類を茹でた後に、水(湯)切が不十分だと、同様に水分が麺類に移行し、食感・外観を損なうことがあった。
【0005】
同様に、含水量の多い食材と接触して食される飯類も、保存中に飯類へ水分移行が発生する問題があった。
【文献】特開2013-000056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、保存時の食感及び/又は外観の劣化が抑制された澱粉含有食品用ほぐれ剤を提供することである。また、食感が良好でほぐれ性の良い澱粉含有食品、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、油脂と乳化剤を含有し、乳化剤中に特定のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[7]を提供する。
[1] 油脂と乳化剤を含有する澱粉含有食品用ほぐれ剤であって、
澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に油脂を90.0~99.997質量%含有し、
澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に下記の乳化剤Aを0.003~2.0質量%含有することを特徴とする、
澱粉含有食品用ほぐれ剤。
(乳化剤A)構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステル
[2] さらに、澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に下記の乳化剤Bを0.0~8.0質量%含有する、[1]の澱粉含有食品用ほぐれ剤。
(乳化剤B)有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リシノレート、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のHLB8以下の乳化剤
[3] 前記乳化剤Aが、構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸であり、構成脂肪酸の50質量%未満が不飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルである、[1]又は[2]の澱粉含有食品用ほぐれ剤。
[4] 澱粉含有食品が麺類、飯類から選ばれる、[1]~[3]のいずれかの澱粉含有食品用ほぐれ剤。
[5] 澱粉含有食品用ほぐれ剤が、スプレーで澱粉含有食品に塗布するものである、請求項[1]~[4]のいずれかの澱粉含有食品用ほぐれ剤。
[6] [1]~[5]のいずれかの澱粉含有食品用ほぐれ剤が塗布された、澱粉含有食品。
[7] 加熱工程を経た澱粉含有食品に、[1]~[5]のいずれかの澱粉含有食品用ほぐれ剤を塗布することを特徴とする、澱粉含有食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水系の“つゆ”、“たれ”“ソース”等から澱粉含有食品への水分移行を妨げることができる。また、澱粉含有食品の食感及び/又は外観の劣化が抑制できる。さらに、澱粉含有食品相互の付着が防止される。そのため、麺類あるいは飯類等の大きさ等の経時的な変化が少なく、また、適度な量を取り分けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に例示説明する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0011】
[澱粉含有食品用ほぐれ剤]
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ剤は、油脂と乳化剤を含む。乳化剤としては、乳化剤A(構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステル)を含有する。
本発明において、澱粉含有食品用ほぐれ剤中の乳化剤Aにより、澱粉含有食品の保存時の食感の劣化が抑制される。また、澱粉含有食品用ほぐれ剤中に含有する油脂により、澱粉含有食品のほぐれ性が澱粉含有食品用ほぐれ剤を用いない場合に比べて改善される。さらに、油脂と乳化剤Bの組合せによりほぐれ性がより改善される。
<油脂>
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ剤は、油脂を含む。油脂としては、動植物油脂、グリセリンと脂肪酸から合成した油脂及びそれらの分別油、エステル交換油、水素添加油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、エゴマ油、亜麻仁油、落花生油、グレープシード油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。
グリセリンと脂肪酸から合成した油脂としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
分別油としては、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクションなどのパーム油の分別油が挙げられる。
エステル交換油としては、パーム油あるいはパーム油の分別油と他の液状油脂のエステル交換油、あるいはMCTと植物油などとのエステル交換油を用いることができる。
水素添加油は、動植物油、動植物油の分別油の水素添加油の他、エステル交換油の水素添加油などが挙げられる。
【0012】
本発明で用いる油脂は、室温で流動性を失うものは、澱粉含有食品への塗布時に加熱により溶解させる必要があるので、30℃で流動性を有する態様のものが好ましい。原料油脂の一部が30℃で固体であっても、他の原料油脂と併用して用いることによって、油脂全体として流動性を有していれば好適に使用できる。20℃で流動性を有する油脂がより好ましく、20℃で液状である油脂がさらに好ましい。特に、融点の低い液状油でありながら、酸化安定性も良好であるという利点を有することから、なたね油、パームオレイン、これらの混合物などを好適に使用することができる。
【0013】
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ剤は、前述の油脂を、澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に90.0~99.997質量%含有する。油脂が90.0~99.997質量%の範囲であれば、澱粉含有食品のほぐれ性が許容できる範囲である。澱粉含有食品用ほぐれ剤は、油溶性成分中に油脂を95.0~99.99質量%含有することが好ましく、97.0~99.9質量%含有することがより好ましい。
【0014】
<乳化剤>
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ剤は、乳化剤Aを0.003~2.0質量%含有する。
【0015】
(乳化剤A)
乳化剤Aは、構成脂肪酸の20質量%以上がベヘン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルである。乳化剤Aにより、澱粉含有食品用ほぐれ剤中の油溶性成分がゲル化及び/又は増粘し、澱粉含有食品ほぐれ剤が澱粉含有食品に塗布された際に、水系の“つゆ”、“たれ”“ソース”等から澱粉含有食品への水分移行を妨げることができる。ベヘン酸のエステルは、一般的に融点が高く、構成脂肪酸にベヘン酸を有するポリグリセリン及び/又はグリセリン脂肪酸エステルは油脂をゲル化及び/又は増粘する効果が高い。ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、好ましくは、20~100質量%がベヘン酸であり、より好ましくは、25~95質量%がベヘン酸であり、さらに好ましくは30~80質量%がベヘン酸である。
【0016】
乳化剤Aのポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルは、より融点が高いものが、ゲル化及び/又は増粘特性が好ましいため、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が50質量%未満であることが好ましい。好ましくは、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が0~45質量%であり、より好ましくは、0~20質量%であり、さらに好ましくは2~15質量%である。なお、ベヘン酸以外の構成脂肪酸として、炭素数16~22の不飽和直鎖脂肪酸、炭素数6~22の飽和直鎖脂肪酸を用いることができ、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。乳化剤Aの構成脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸を10~80質量%含有することが好ましい。
【0017】
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンやグリセリンのエステルであるが、澱粉含有食品ほぐれ剤を製造する際の油脂への溶解性、分散性等から、平均エステル化度が高いものが好ましい。平均エステル化度(百分率)は、ポリグリセリン及び/又はグリセリンの水酸基がどの程度エステル化されているかを示すもので、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルのけん化価と水酸基価を測定し、(けん化価)÷(けん化価+水酸基価)×100で算出することができる。なお、ケン化価、水酸基価は、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定)に準じて測定することができる。
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルの平均エステル化度は、30%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルの平均エステル化度は、99%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明において、澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に乳化剤Aを0.003~2.0質量%含有する。乳化剤Aが0.003質量%未満であれば、澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分のゲル化及び/又は増粘作用が低下し、澱粉含有食品の水分移行を抑制することが難しい。また、2.0質量%超では、乳化剤Aの結晶量が多くなり、澱粉含有食品への塗布が難しくなる。澱粉含有食品用ほぐれ剤は、油溶性成分中に乳化剤Aを0.05~2.0質量%含有することが好ましく、0.03~0.5質量%含有することがより好ましく、0.05~0.2質量%含有することがさらに好ましい。
【0019】
(乳化剤B)
本発明において、乳化剤として、前述の乳化剤A以外に乳化剤Bも含むことができる。乳化剤Bは、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リシノレート、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のHLB8以下の乳化剤である。これらの乳化剤は、前述の油脂と組合わせることにより、澱粉含有食品のほぐれ性が改善される。
【0020】
乳化剤Bは、澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に0.0~8.0質量%含有することが好ましい。乳化剤Bが0.3質量%以上で、油脂との相乗作用により、澱粉含有食品のほぐれ性がより高まる。一方、乳化剤Bが過剰であると、析出したり、粘度が高くなることで澱粉含有食品への塗布が難しくなる。乳化剤Bは、澱粉含有食品用ほぐれ剤の油溶性成分中に0.3~8.0質量%含有することがより好ましく、0.3~5.0質量%含有することがさらに好ましく、0.3~2.0質量%含有すること最も好ましい。
【0021】
乳化剤Bは、油脂への溶解性の点から、HLB8以下である。乳化剤Bは、HLB1~7.5が好ましく、HLB2~7がより好ましい。なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。同算出方法では、HLB値は、算術平均として算出される。そのため、本発明においても、乳化剤Bが複数のHLB成分を有するものである場合、平均HLBが8以下であればよい。
【0022】
有機酸モノグリセリドとしては、モノグリセリドの水酸基にさらに有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸)が結合しているものを用いることができる。特に、コハク酸モノ脂肪酸グリセリン、クエン酸モノ脂肪酸グリセリンが、好ましい。また、有機酸モノグリセリドを構成している脂肪酸は、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、ステアン酸、パルミチン酸、これら脂肪酸の混合脂肪酸、あるいはパーム油、菜種油、サフラワー油、大豆油等の動植物油由来の混合脂肪酸を構成脂肪酸とすることができる。
【0023】
ポリグリセリン縮合リシノレートとしては、HLB3以下のものであることが好ましい。
【0024】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、澱粉含有食品用ほぐれ剤が液状になりやすいことから、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸であることが好ましく、不飽和脂肪酸がオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸であることがより好ましい。酸化安定性の点から、オレイン酸、エルカ酸がより好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリン部分の重合度は、特に限定するものではない。ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリン部分は、重合度2~50のものが好ましく、重合度2~12がより好ましく、重合度3~10がさらに好ましい。ポリグリセリンは、グリセリンが重合してできたものであり、様々な重合度を有する混合物として得られる。本願において、ポリグリセリン脂肪酸エステルは分子蒸留等で高純度にしたものを用いることもできるが、一般的に、重合度4以上のものは、単離することが困難なため、様々な重合度のポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物であることを許容する。そのため、本発明において、重合度は、平均重合度である。
【0025】
<水溶性成分>
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ剤は、澱粉含有食品への添加量が少量の場合は、まんべんなく麺へ塗布するために、水あるいはエタノール等のアルコールで希釈することができる。澱粉含有食品用ほぐれ剤中の油溶性成分の含有量は、20~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましく、60~100質量%であることがさらに好ましく、70~100質量%であることが最も好ましい。
アルコールの澱粉含有食品用ほぐれ剤中の含有量は0~80質量%であることが好ましい。水は油溶性成分に対して、過剰に配合すると油溶性成分と分離しやすくなり、また、澱粉含有食品への塗布後に蒸発させる必要が生じるので、水及び/又はアルコールの澱粉含有食品用ほぐれ剤中の含有量は澱粉含有食品用ほぐれ剤中に0~50質量%であることがより好ましく、0~40質量%であることがさらに好ましく、0~30質量%であることが最も好ましい。
【0026】
<その他成分>
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ剤は、上記成分以外にも、澱粉含有食品用ほぐれ剤に一般的に配合される原材料を使用することができる。具体的には、例えば、pH調整剤、調味剤、着色料、香料、酸化防止剤、糖類、糖アルコール類、安定剤、乳化剤等を使用することができる。これらの成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、澱粉含有食品用ほぐれ剤中に10質量%以下含有させることができ、好ましくは0~3質量%、より好ましくは0~1質量%含有させることができる。
【0027】
<澱粉含有食品及びその製造方法>
本発明の澱粉含有食品は、前述の澱粉含有食品用ほぐれ剤を塗布したものであり、そば、うどん、中華麺、パスタ等の麺類、及び、ご飯、チャーハン、カレーライス、丼物等の飯類である。例えば、流通後や保存後に電子レンジ等で加熱して食す、ボロネーゼ、ミートソース、カルボナーラ等の麺類、丼物等の澱粉含有食品が好ましい。なお、澱粉含有食品用ほぐれ剤は、澱粉含有食品100質量部に対して、0.1~7質量部となるように塗布することが好ましく、0.2~5.0質量部となるように塗布することがより好ましい。
【0028】
澱粉含有食品は、加熱調理等の加熱処理の後に、澱粉含有食品用ほぐれ剤を塗布する。その後、必要に応じて、“つゆ”、“たれ”や“ソース”等と接触させる。
【0029】
澱粉含有食品用ほぐれ剤を塗布した後に、“つゆ”、“たれ”や“ソース”等と接触させることで、流通や保存を経ても、澱粉含有食品の食感・外観・ほぐれ性を良好に維持することができる。
【実施例
【0030】
次に、実施例、比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0031】
[試料(澱粉含有食品用ほぐれ剤)]
表1~3の配合にて60℃で均一溶解するまで加熱混合し、試料(澱粉含有食品用ほぐれ剤)2~12、14~18を得た。なお、使用した原材料は以下の通りである。

油脂1(精製菜種(キャノーラ)油:日清オイリオグループ株式会社製)、
油脂2(精製コーン油:日清オイリオグループ株式会社製)
油脂3(精製HOLL菜種油:日清オイリオグループ株式会社製)、
乳化剤A(ポリグリセリン脂肪酸エステル:ベヘン酸45%、ステアリン酸45%、オレイン酸6%、エステル化度84%)
乳化剤B1(トリオレイン酸ペンタグリセリン:HLB7、「サンソフトA-173E」太陽化学株式会社製)、
乳化剤B2(ペンタオレイン酸デカグリセリン:HLB4.5:「サンソフトQ-175S」 太陽化学株式会社製)、
乳化剤B3(ヘプタオレイン酸デカグリセリン:HLB4.0、「サンソフトQ-177S」太陽化学株式会社製)
乳化剤B4(ペンタオレイン酸ヘキサグリセリン:HLB4.7、「PO-5S」阪本薬品工業株式会社製)
乳化剤B5(ペンタオレイン酸テトラグリセリン:HLB2.9、「PO-3S」阪本薬品工業株式会社製)
乳化剤B6(クエン酸モノグリセリド:HLB7,「サンソフト623M」太陽化学株式会社製)
乳化剤B7(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル:太陽化学株式会社製)
【0032】
[澱粉含有食品用ほぐれ剤の評価1]
パスタ(「オーマイ スパゲッティ1.7mm」日本製粉株式会社製)を、塩(「なるとの塩」鳴門塩業株式会社製)1%添加した熱湯に加え、8分間茹でた。その後、水を切り、冷水で粗熱をとり、さらに水を切った。麺100質量部に対して、2質量%の各試料(澱粉含有食品用ほぐれ剤)を添加・混合した。
組成物を添加された麺50gを容器に入れ、ソース(「デルモンテ完熟あらごしトマト」キッコーマン株式会社製)50gを上からかけて、5℃で1日間、保存した。保存したサンプルの評価(麺の太さ、麺の食感)を行った。表1~3に結果を示す。
【0033】
<麺の太さ>
マイクロスコープ(「デジタルマイクロスコープVHX-5000」株式会社キーエンス製)を用い、平面計測にて測定し、麺の直径を測定した(撮影サイズ:標準「1600×1200」、撮影モード:通常撮影、レンズ:VH-Z20、倍率:30倍)。
【0034】
<麺の食感>
室温で30分放置後に、専門パネラー10名で下記の評価点で評価し、平均値を算出した。
3:参考例1よりも、弾力がある麺である。
2:参考例1よりも、やや弾力がある麺である。
1:参考例1と同等の弾力がある麺である。
0:参考例1よりも、柔らかい麺である。
【0035】
<麺のほぐれ性>
室温で30分放置後に、専門パネラー10名で下記の評価点で評価し、平均値を算出した。
3:参考例1よりも、ほぐれ性が良い。
2:参考例1よりも、ほぐれ性がやや良い。
1:参考例1と同程度のほぐれ性を有する。
0:参考例1よりも、ほぐれ性が悪い。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
実施例1~13は、参考例、比較例に比べて、麺の膨潤が抑制され、食感も良好である。また、ほぐれ性も参考例以上の効果を有している。