(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】半導体シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240521BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20240521BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20240521BHJP
C23C 16/01 20060101ALI20240521BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C30B29/06 504F
C30B25/20
C23C16/24
C23C16/01
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020026334
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】仙田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】須藤 治生
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186449(JP,A)
【文献】特開2019-142733(JP,A)
【文献】特開2016-213232(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175120(WO,A1)
【文献】特開2017-005049(JP,A)
【文献】特開2017-088460(JP,A)
【文献】特開2010-056316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 25/20
C23C 16/24
C23C 16/01
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により育成されたSi単結晶インゴットから製造された基板が、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×10
18atoms/cm
3以下で調整された基板であって、前記基板の表面にSi単結晶エピタキシャル膜を形成する、シリコンウェーハの製造方法において、
基板の裏面のみに、少なくとも厚さ300nm以上のSi酸化膜を、500℃以下温度でCVD法により形成する工程と、
前記Si酸化膜の形成工程の後、前記基板を、酸化性雰囲気下で、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後、前記基板の表面側に形成された熱酸化膜を除去する表面酸化膜除去工程と、
を備え、
前記表面酸化膜除去工程の後、Si単結晶エピタキシャル膜を成膜するエピタキシャル膜成膜工程と、
を含
み、
前記酸化性雰囲気下の熱処理工程において、基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが、20nm以上150nm以下であり、
前記酸化性雰囲気下の熱処理工程後の基板において、基板表面から深さ300nmまでの領域のリン(P)の濃度が7×10
19
atoms/cm
3
以下である、
ことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記Si単結晶インゴットから製造された基板に、Si単結晶インゴット育成時にPが凝集して形成される
Si-P欠陥が含まれ、前記
Si-P欠陥の最大辺長さが、100nm未満、かつその密度が1×10
12
ケ/cm
3未満であることを特徴とする請求項1に記載されたシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体シリコンウェーハの製造方法に関し、特に、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整された基板上に、Si単結晶エピタキシャル膜を成膜する半導体シリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーMOS用エピウェーハの基板抵抗率は、最も進んだウェーハでは1mΩcm以下である。この基板抵抗率を低下させるためには、ドーパント濃度を増加させる必要がある。そのため、nタイプドーパント種は砒素やアンチモンから比較的揮発性の低い燐(P)へと移行しており、その濃度は約1×1020atoms/cc程度となっている。
【0003】
このように、ドーパント濃度を増加してエピタキシャル膜を成長させると、特許文献1~3に記載されているように、積層欠陥(スタッキングフォルト、以下、SFともいう)がエピタキシャル膜に発生する。特に、抵抗率1.1mΩcm以下の基板において、SFが発生しやすかった。
【0004】
このSF原因となる結晶欠陥は、特許文献1、2において、Pと酸素(O)のクラスター欠陥と推察されると報告されており、また熱処理やエピ成長での抑制技術が報告されている。
【0005】
具体的には、リンがドープされたシリコンウェーハを加熱すると、リンと酸素のクラスター(微小析出物)が形成される。この後、シリコンウェーハ表面に存在する自然酸化膜除去を目的に、水素ガス雰囲気下で熱処理(以下、「水素ベーク処理」という)が施されると、水素ガスによるエッチング作用と、シリコンウェーハの最表層とクラスターとのエッチング速度の違いとから、クラスターが選択的にエッチングされ微小ピットとなる。
この微小ピットが形成されたシリコンウェーハに対してエピタキシャル成長を行うと、微小ピットが起源となってエピタキシャル膜内にSFとなって発生すると推察されることが報告されている。
【0006】
そして、特許文献1には、CZ法により製造された単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの裏面に酸化膜を形成する裏面酸化膜形成工程と、前記シリコンウェーハの外周部に存在する前記酸化膜を除去する裏面酸化膜除去工程と、前記裏面酸化膜除去工程後の前記シリコンウェーハに対し、アルゴンガス雰囲気下において1200℃以上1220℃以下の温度で熱処理を行うアルゴンアニール工程と、前記アルゴンアニール工程後の前記シリコンウェーハに対し、水素ガス雰囲気下において1050℃以上1200℃以下の温度で30秒以上300秒以下の熱処理を行う水素ベーク工程と、前記水素ベーク工程後の前記シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程とを有するエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が示され、エピタキシャル膜のSFを抑制できることが示されている。
【0007】
また、特許文献2においても、特許文献1と同様に、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が示され、エピタキシャル膜のSFを抑制できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5845143号公報
【文献】特許第6477210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1、2に示された対策では、充分なSF低減が困難であることが、本発明者らの実験を通じて明確となった。
実験では、リンがドープされ、抵抗率が0.8mΩcmで、酸素濃度が0.8×1018/cm3のチョクラルスキー法で育成したφ200mm単結晶シリコンウェーハにおいて、アルゴンガス雰囲気下、1200℃で1時間の熱処理を行った。
続いて、水素ガス雰囲気下、1180℃で60秒の水素ベーク処理を行った後、ウェーハ表面に3μm厚のエピタキシャル膜を成長させた。
その後、KLA-Tencor社製SP-1のDCNモードで測定される90nmサイズ以上のLPD数を評価したところ、SFに起因するLPD密度は少なくとも10ケ/cm2以上(ウェーハ1枚あたり3140ケ以上)観察された。
このようにアルゴンガス雰囲気下の熱処理で表層の固溶酸素濃度を充分低減しても、SFの抑制が困難であった。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、エピタキシャル膜におけるSFの抑制を鋭意、研究した。
その結果、本発明者らは、Si結晶中の酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下の場合には、Pを含む欠陥の種類がAtomic%オーダーのPおよびSiから形成される、Si-P凝集欠陥(Si-P欠陥)であることを見出した。
【0011】
また、P凝集欠陥(Si-P欠陥)は、その内部に内在的な余剰Si面(SF)を有し(参考文献4および5)、これがエピタキシャル膜の成膜前の基板表面での結晶歪みとなり、その後のエピタキシャル膜の成膜で、エピタキシャル膜(エピ層)を伝播するSFになることが判明した。
このSi-P欠陥とは、下記参考文献4および5に示す通り、Siと数atomic%のPを含有する板状欠陥である。Pは原子位置ではなく格子間に存在し、また余剰Si(外部SF)も含まれる。欠陥周囲の抵抗率から推定されるP濃度は0.2atomic%程度であり、局所的にPが凝集し、かつ結晶歪みを有する。
【0012】
参考文献4、5は下記の通りである。
参考文献4:29th International Conference on Defectsin Semiconductors, Atomic structures of grown-in Si-P precipitates inred-phosphorus heavily doped CZ-Si crystals (TuP-16)
参考文献5:第78回 応用物理学会秋季学術講演会 赤燐高ドープCZ-Si結晶における Si-P析出物の構造解析 (7p-PB6-6)
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制し、エピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる、シリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためになされた、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法は、チョクラルスキー法により育成されたSi単結晶インゴットから製造された基板が、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整された基板であって、前記基板の表面にSi単結晶エピタキシャル膜を形成する、シリコンウェーハの製造方法において、基板の裏面のみに、少なくとも厚さ300nm以上のSi酸化膜を、500℃以下温度でCVD法により形成する工程と、前記Si酸化膜の形成工程の後、前記基板を、酸化性雰囲気下で、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する熱処理工程と、前記熱処理工程の後、前記基板の表面側に形成された熱酸化膜を除去する表面酸化膜除去工程と、を備え、前記表面酸化膜除去工程の後、Si単結晶エピタキシャル膜を成膜するエピタキシャル膜成膜工程と、を含み、前記酸化性雰囲気下の熱処理工程において、基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが、20nm以上150nm以下であり、前記酸化性雰囲気下の熱処理工程後の基板において、基板表面から深さ300nmまでの領域のリン(P)の濃度が7×10
19
atoms/cm
3
以下である、ことを特徴としている。
【0015】
このように、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法は、基板を、酸化性雰囲気下で、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する熱処理が行われるため、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を消滅させることができるため、エピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる。
【0016】
リン(P)をドープし、抵抗率が1.05mΩcm以下(P濃度7×1019atoms/cm3以上)で調整されたSi単結晶中の固溶酸素濃度を0.9×1018atoms/cm3以下とすることは、結晶中でPが凝集して出来る欠陥をSi-P欠陥(PとOのクラスターではなく)とするための必要条件である。
即ち、上記条件を満たさない場合には、PとOのクラスターが形成され、酸化性雰囲気下で、1100℃以上1250℃以下の範囲の一定温度で、30分以上120分以下保持しても消滅させることはできない。
【0017】
このように、リン(P)をドープし、抵抗率が1.05mΩcm以下(P濃度7×1019atoms/cm3以上)で調整されたSi単結晶中の固溶酸素濃度を0.9×1018atoms/cm3以下とし、結晶中でPが凝集して出来る欠陥をSi-P欠陥としたため、酸化性雰囲気下で、1100℃以上1250℃以下の範囲の一定温度で、30分以上120分以下保持することによって、Si-P欠陥を効果的に消滅させることができる。
【0018】
ここで、酸化性雰囲気とは、O2ガス雰囲気をいう。
また、前記熱処理が、1100℃未満もしくは30分未満では、Si-P欠陥の消滅が不十分であり、1250℃より高いもしくは120分より長いと、基板にスリップ転位が導入される虞があるため好ましくない。
【0019】
このSi-P欠陥を消滅できるのは、以下の理由によるものと推察される。
酸化性雰囲気で熱処理を行うと、基板表面が酸化され、表面酸化膜(SiO2)と、バルク(Si)界面にて発生する応力を緩和するために、その界面にて格子間Siが発生する。
これにより、Si基板内は格子間Siが過飽和な状態(熱平衡濃度以上に存在する状態)となる。格子間Siが過飽和な状態になると、格子間Si機構で拡散するPは拡散速度が上がる(例えば、S. T. Dunham and N. Jeng,Appl. Phys. Lett., 59, 2016 (1991))。
この効果を利用することによって、表層でPが外方拡散にて濃度低下し易くなるため、Si-P欠陥の消滅が加速される。
【0020】
更に、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法は、熱処理工程前に、ウェーハの裏面側のみに、少なくとも厚さ300nm以上の酸化膜を500℃以下の温度でCVD法により形成する工程を備えている。
【0021】
これは、後のSiエピタキシャル成長の際、基板裏面からのPの脱離に伴うエピタキシャル成長膜中における抵抗異常(オートドープ)を抑制するためである。
しかしながら、このようなCVD酸化膜は、比較的低温でも厚く形成できるが、一般的にSiO2の密度が低く、マイクロポアが存在し、水分含有量も多く、膜質が悪い。
このようなCVD酸化膜を有するSi基板に対して、例えば、Arガスなどの非酸化性雰囲気下で熱処理を行うと、マイクロポアにArガスが侵入し、ガスエッチングされ、CVD酸化膜とSi界面との間に空隙を形成し、膜の密着性が損なわれるだけでなく、水分が揮発して、基板表面のヘイズ(曇り)を悪化させる。
一方、酸化性雰囲気下で熱処理を行うと、マイクロポアにO2ガスが侵入し、熱酸化膜を形成してポアを埋め、CVD酸化膜を緻密化させる働きがある。更には、CVD酸化膜から水分が揮発しても基板表面に熱酸化膜が形成されているため、基板表面のヘイズを悪化させる虞がない。
【0022】
そのため、基板の裏面のみに、少なくとも厚さ300nmのSi酸化膜を、500℃以下温度でCVD法により形成し、この基板を、酸化性雰囲気下で、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する熱処理が行われる。
【0023】
その後、ウェーハ(基板)の表面側に形成された酸化膜を除去した後、Si単結晶エピタキシャル膜を成膜する。
【0024】
ここで、前記Si単結晶インゴットから製造された基板に、Si単結晶インゴット育成時にPが凝集して形成されるSi-P欠陥が含まれ、前記Si-P欠陥の最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満であることが望ましい。
【0025】
Si-P欠陥に起因するSFを抑制するためには、Si-P欠陥の最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012
ケ/cm
3
未満であることが必要である。
これは、基板(Siウェーハ)中に存在するSi-P欠陥が、エピタキシャル膜成長後に、SF(LPD:Light Point Defectとして検出)として顕在化するには、Si-P欠陥のサイズと密度に閾値が存在する。
即ち、Si-P欠陥の最大辺長さが100nm以上、あるいはその密度が1×1012
ケ/cm
3
以上である場合には、SFとして顕在化するため、好ましくない。
【0026】
また、前記酸化性雰囲気下の熱処理工程後の基板において、基板表面から深さ300nmまでの領域のリン(P)の濃度は7×1019
atoms/cm3以下である。
前記酸化性雰囲気下の熱処理工程後の基板において、リン(P)の濃度を7×1019
atoms/cm
3
以下に制御することによって、基板表面から深さ300nmまでのSi-P欠陥の最大辺長さを100nm未満、かつその密度を1×1012
ケ/cm
3
未満とすることができる。
したがって、少なくとも基板表面から深さ300nmまでの領域のリン(P)の濃度が7×1019
atoms/cm
3
以下であれば、基板表面にエピタキシャル膜を形成させても、SFが発生しないため、好ましい。
【0027】
また、前記酸化性雰囲気下の熱処理工程において、基板表面に形成される熱酸化膜の厚さは、20nm以上150nm以下である。
【0028】
この熱酸化膜の厚さ制御は、O2ガスの分圧の調整によって行うことができる。
熱処理後は、エピタキシャル膜を形成させるために、表面の熱酸化膜を排除する必要があるが、表面酸化膜のみを除去することは複数の工程が必要でコストがかかる。
このため、基板表面に形成される熱酸化膜を20nm以上150nm以下に制御することで、例えば、希HF溶液(HF0.5%)に基板全体を浸漬させて、表面側(おもて面側)の熱酸化膜は完全剥離するが、裏面側のCVD酸化膜は300nm以上残留させることができる。
【0029】
尚、前記熱酸化膜が20nm未満だと、熱酸化膜の面内均一性が悪く、部分的にはSi基板表面でアクティブ酸化が起こりガスエッチングされ表面が粗れるため好ましくない。
また、前記熱酸化膜が150nmよりも厚いと希HF溶液に浸漬させた際、裏面のCVD酸化膜を300nm以上残留させることが難しくなるため好ましくない。
【0030】
また、前記おもて面酸化膜除去工程の後、エピタキシャル膜成膜工程前に、基板の表面を50nm以上150nm以下除去することが望ましい。
これは、熱処理後のウェーハ表面の粗さを修正するためであり、また熱処理時の付着パーティクルの焼き付きを除去するためである。また、エピタキシャル膜成膜工程前に、基板の表面を50nm以上150nm以下除去することで、エピタキシャル膜成膜工程の歩留が向上する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制し、エピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法の実施形態のフローチャートを示す図である。
【
図2】
図2は、実験1の結果を示す図であって、保持時間とLPD数(65nm)の関係を示す図である。
【
図3】
図3は、実験2の結果を示す図であって、(a)は基板の裏面状態を示す写真であり、
図3(b)は
図3(a)の一部拡大写真である。
【
図4】
図4は、実験4の結果を示す図であって、Si-P欠陥サイズと、Si-P欠陥密度の関係、およびエピ後のSF発生閾値を示す図である。
【
図5】
図5は、実験5の結果を示す図であって、表面から深さ方向のリンの濃度の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、水冷体を備える引上げ装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法の実施形態について、
図1、
図2に基づいて説明する。尚、以下に示す実施形態は一例を示すものであって、本発明はこの実施形態に制限されるものではない。
【0034】
本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法に用いられる基板は、チョクラルスキー法により育成されたSi単結晶インゴットから製造された基板であって、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下(P濃度7×1019atoms/cm3以上)で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整された基板である。また、この基板には、Si-P欠陥が含まれる(ステップS1)。
【0035】
この基板は、例えば、チョクラルスキー法によりSi単結晶を成長させ、Si単結晶インゴットを製作する際、引き上げ炉内に水冷体を設置して結晶を強制的に冷却し、かつ引上速度を0.5以上1.0mm/minとし、さらに磁場印加を2000以上4000Gauss以下で行うことで、温度勾配を大きくし、組成的過冷却現象を抑制すると共に、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することによって、製作することができる。
【0036】
具体的には、例えば、
図6に示すような引上げ装置1を用いることができる。この引上げ装置1にあっては、引上げ炉2の上部と遮蔽板4との間に円筒状の水冷体3が設置され、この水冷体3によって引上げ中のシリコン単結晶5を強制的に冷却する。
尚、図中、符号6は石英ガラスルツボ、符号7はヒータ、符号8は磁場印加部、符号9はシリコン単結晶5を引上げるワイヤーである。
【0037】
また、Si単結晶インゴットを、スライス角度が主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲となるようにスライスし、基板を製作するのが好ましい。前記基板のスライス角度は、エピタキシャル膜の成膜時のSFの成長と消滅に影響を与える。主表面方位はSi(100)であり、スライス角度は前記主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲である。
即ち、スライス角度は前記主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲とすることにより、SFの欠陥消滅にはエピタキシャル膜の成膜中にSi原子が移動をおこなうパスとなるSiステップ幅が形成される。このSiステップ幅が形成されることにより、Si原子が移動することができ、Si原子歪みが除去され、SFを消滅させることができる。
【0038】
上記したように、製作された基板は、抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、結晶中にPが凝集して形成される欠陥の実体がSi-P結晶欠陥である欠陥を含んでいる(ステップS1)。
抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下の基板は、社会的に求められている水準の基板である。しかも、上記した基板の製作方法によっても,Si-P結晶欠陥は抑制されるものの、結晶中に残存する。
【0039】
尚、前記抵抗率、前記固溶酸素濃度は、ドーパント濃度、引上速度、磁場強度を調整することによって得ることができる。
【0040】
このようにして製作された基板のSi-P欠陥の実体は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012
ケ/cm
3
未満であることが望ましい。
Si-P欠陥の最大辺長さが100nm以上の場合に、Si-P欠陥がエピタキシャル膜成膜工程の後、SF(LPD)として顕在化する。またSi-P欠陥の密度が1×1012
ケ/cm
3
以上の場合においてもエピタキシャル膜成膜工程の後、SFとして顕在化する。
よって、Si-P欠陥の最大辺長さが100nm未満であることが好ましく、またSi-P欠陥の密度が1×1012
ケ/cm
3
未満であることが望ましく、このように調整された結晶成長をおこなうことが好ましい。
【0041】
次に、基板の裏面にSi酸化膜を形成する(ステップS2)。
パワーMOSFETでは、一般的にウェーハ裏面にSi酸化膜が形成される。このSi酸化膜は、例えば500℃未満の低温CVDにより形成される。また、このSi酸化膜は、ウェーハの裏面側のみに、少なくとも厚さ300nm以上形成される。
このSi酸化膜は、後のSiエピタキシャル成長の際、基板裏面からのPの脱離に伴うエピタキシャル成長膜中における抵抗異常(オートドープ)を抑制するためである。
【0042】
このCVD酸化膜は、一般的にSiO2の密度が低く、マイクロポアが存在し、水分含有量も多く、膜質が悪い。
しかしながら、後の工程において、酸化性雰囲気下で熱処理を行うと、マイクロポアにO2ガスが侵入し、熱酸化膜を形成してポアを埋め、CVD酸化膜を緻密化させる働きがある。また、CVD酸化膜から水分が揮発してもウェーハ(基板)表面に熱酸化膜が形成されているため、基板表面のヘイズを悪化させる虞がないため好ましい。
【0043】
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工が施される(ステップS3)。
この鏡面研磨は、例えば、シリカ粒子を含むスラリーを流しながらウェーハ表面を研磨布に押し当て、回転させながら研磨を行う。また、ステップS3で鏡面研磨を行う理由は、上記ウェーハ裏面にSi酸化膜を形成する際、ウェーハのおもて面側を保護テープなどに接触させるためダメージが導入されている。このダメージを除去することも目的として含まれている。尚、この鏡面研磨では、Si-P欠陥は減少しない。
【0044】
続いて、基板を1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する(ステップS4)。
この熱処理の炉内雰囲気は、酸化性雰囲気であり、具体的には、O2ガス雰囲気をいう。そのため、この熱処理によって、基板表面には、熱酸化膜が厚さ20nm以上150nm以下に形成される。この熱酸化膜の厚さ制御は、酸化性雰囲気のO2ガスの分圧の調整によって行うことができる。
【0045】
また、このように1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持することにより、Si-P欠陥を効果的に消滅させることができる。その結果、エピタキシャル膜のSF欠陥が抑制される。
尚、1100℃未満、また30分未満では、Si-P欠陥を十分に消滅させることができず、1250℃を越える温度、また120分を超える時間では、基板にスリップ転位が導入される虞があるため好ましくない。
【0046】
尚、前記熱酸化膜の厚さ20nm未満の場合には、熱酸化膜の面内均一性が悪く、部分的にはSi基板表面でアクティブ酸化が起こりガスエッチングされるため好ましくない。
一方、また、前記熱酸化膜が厚さ150nmを超える場合には、後工程の表面酸化膜の除去工程において、裏面側のCVD酸化膜を300nm以上残留させることができないため、好ましくない。
【0047】
次に、酸溶液もしくは酸雰囲気でその表面(おもて面側)酸化膜を完全に除去する(ステップS5)。
前記した熱処理で、基板表面に形成される熱酸化膜を20nm以上150nm以下に制御することで、例えば、希HF溶液(HF0.5%)に基板全体を浸漬させて、表面側の熱酸化膜は完全剥離するが、裏面側のCVD酸化膜は300nm以上残留させることができる。
Si表面の清浄化はもちろん、Si-Pの欠陥消滅にも表面自然酸化膜を除去する必要があるため、酸化膜除去工程を含むことが望ましい。
尚、希HF溶液(HF0.5%)に基板全体を浸漬させる以外に、HCl(塩化水素)等の酸雰囲気でその表面酸化膜を除去しても良い。
【0048】
また、エピタキシャル膜成膜工程前の基板に対して、表面清浄化処理を行う(ステップS6)。
この表面清浄化処理工程では、H2(水素)およびHCl(塩化水素)の混合ガスで、表面Siを50nm以上150nm以下エッチングで除去する。
このように、基板の表面清浄化処理を行うことにより、エピタキシャル膜成膜工程後のSFをより低減することができる。このとき、HCl(塩化水素)ガスでの欠陥除去が有効であり、キャリアガスとしてH2(水素)とHCl(塩化水素)の混合ガスを使用するのが好ましい。
ただし、ステップS4終了時における欠陥残存深さは概ね100nm以下であり、その生産性などを考慮すると、表面Siを50nm以上150nm以下のエッチングが適切である。
【0049】
続いて、Si単結晶エピタキシャル膜を1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜する。Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上6.0μm/分以下の成膜速度で成膜する(ステップS7)。
【0050】
研究の結果、SF低減に適切な、Si単結晶エピタキシャル膜の成長速度および温度の組み合わせがあることが判明した。
すなわち、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上、6.0μm/分以下とすることによって、LPDを抑制することができることが判明した。
【0051】
具体的に一例を挙げれば、チョクラルスキー法により引き上げた結晶方位(001)のφ200mm単結晶Siを、スライス、裏面酸化膜成膜、鏡面加工、酸化性雰囲気下の熱処理、および、おもて面酸化膜除去、そして表面清浄化処理まで実施した。
ドーパントは赤燐、引上げ速度は、0.8mm/min、磁場強度を3000Gaussとした。そして、抵抗率は0.80Ωcm、酸素濃度は0.8×1018atoms/cc、スライス角度は0.3°とした基板を得た。
【0052】
そして、裏面酸化膜成膜をCVD法にて500℃の条件下で形成し、基板のおもて面をシリカスラリーと研磨布を用いた機械的な研磨で鏡面加工した。その後、O2ガス雰囲気下で、熱処理を行い、希HF(0.5%)溶液に、基板を浸漬させて、おもて面側に形成した熱酸化膜を完全に除去した。そして、H2+SiHCl3雰囲気下、1150℃、成膜速度4μm/minにて、エピ膜4μmを成膜した。
【0053】
Si成膜は、表面の原子ステップ上をSi原子が移動することにより、Si成膜なされる。この過程で、Si-P欠陥起因のSi原子の配列の乱れを、このSi原子移動で修正することにより、SFを抑制することができる。
したがって、Si成膜とこの修正とを両立するためには、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上、6.0μm/分以下の条件が必要である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により制限されるものではない。
【0055】
(実験1)
ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×10
18atoms/cm
3以下で調整されたφ200mmSi基板を用いた。
そして、裏面酸化膜成膜をCVD法にて500℃の条件下で300nm形成し、基板のおもて面をシリカスラリーと研磨布を用いた機械的な研磨で鏡面加工した。
次に、O
2ガス雰囲気下で、熱処理温度を1050℃、1100℃、1200℃、1250℃、1270℃とし、その温度で15分、30分、120分、180分保持する熱処理を行い、希HF(0.5%)溶液に、基板を浸漬させて、おもて面側に形成した熱酸化膜を完全に除去した。そして、H
2+SiHCl
3雰囲気下、1150℃、成膜速度4μm/minにて、エピ膜4μmを成膜した。
エピ成膜後、表面に存在するサイズ65nm以上のLPD数をKLA-Tencor社製SP1で検査した。その結果を
図2に示す。
図2に示すように、温度1100℃~1270℃、保持時間30分~120分で、判断基準であるLPD数200ケ以下となった。
なお、
図2に示すように、例えば、温度1270℃の線図と温度1250℃の線図は重なり合い、温度1250℃以上は、ほとんど横ばいで変化がなかった。
【0056】
(実験2)
実験1における酸化性雰囲気をAr雰囲気に変えた場合の熱酸化膜の検証を行った。
熱処理条件は、Arガス雰囲気下、1200℃で120分保持とした。
図3(a)(b)に示す通り、Arガスの場合、裏面CVD膜のマイクロポアにArガスが侵入しSi基板をガスエッチングした。
その結果、空隙が形成され、これがエピ成膜時において、おもて面側への付着パーティクルの原因やリンのオートドープの原因となるため好ましくない。
尚、
図3(a)は基板の裏面状態を示す写真であり、
図3(b)は
図3(a)の一部拡大図である。
【0057】
(実験3)
エピ成膜時においてオートドープを防止するために必要となる裏面酸化膜の厚さの検証を行った。
具体的には、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整されたφ200mm基板を用いた。
次に、裏面酸化膜成膜をCVD法にて500℃の条件下で、膜厚を200nm、250nm、300nm、350nm、400nm形成した。
その後、基板のおもて面をシリカスラリーと研磨布を用いた機械的な研磨で鏡面加工した。その後、O2ガス雰囲気下で、熱処理を行い、熱処理温度を1200℃とし、その温度で120分保持する熱処理を行い、その後、希HF(0.5%)溶液に、基板を浸漬させて、おもて面側に形成した熱酸化膜を完全に除去した。そして、H2+SiHCl3雰囲気下、1150℃、成膜速度4μm/minにて、エピ膜4μmを成膜した。
【0058】
そして、エピ層へのリンのオートドープを拡がり抵抗測定法(Spreading Resistance Analysis)を用いて検証した。その結果を表1に示す。
この表1に示す通り、裏面酸化膜厚が300nm以上でエピ層へのリンのオートドープが防止できることが分かった。
【0059】
【0060】
(実験4)
次に、結晶中のリンのドープ量を7×10
19atoms/cm
3~1.3×10
20atoms/cm
3の範囲で変化させ、育成条件を調整して、Si-P欠陥のサイズと密度の水準を変化させた結晶(固溶酸素濃度が0.9×10
18atoms/cm
3以下)を作製した。
そして、Si-P欠陥のサイズと密度を、断面TEM観察にて測定した。その結果を
図4に示す。表面に存在するサイズ65nm以上のLPD数をKLA-Tencor社製SP1で検査し、LPD数が200ケ以下をOK、200ケより多い場合をNGとした。
【0061】
その結果、
図4に示す通り、Si-P欠陥サイズが100nm未満、かつ密度が1×10
12
ケ/cm
3
未満の場合、OKとなることが分かった。
なお、OKとなった結晶は全て、リン濃度が7×10
19atoms/cm
3以下の結晶である共通点があった。すなわち、リン濃度が7×10
19atoms/cm
3以下であれば、Si-P欠陥サイズが100nm未満、かつ密度が1×10
12
ケ/cm
3
未満となり、SFの発生が抑制できることが分かった。
【0062】
(実験5)
結晶中のリンのドープ量を1.3×1020atoms/cm3(基板抵抗率0.6mΩ・cm)、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下としたφ200mm基板を用いて、裏面酸化膜成膜をCVD法にて500℃の条件下で、膜厚を300nm形成した。
その後、基板のおもて面をシリカスラリーと研磨布を用いた機械的な研磨で鏡面加工した。その後、ArまたはO2ガス雰囲気下で、熱処理を行い、熱処理温度を1200℃とし、その温度で120分保持する熱処理を行い、その後、希HF(0.5%)溶液に、基板を浸漬させて、おもて面側に形成した熱酸化膜を完全に除去した。
そして、H2+SiHCl3雰囲気下、1150℃、成膜速度4μm/minにて、エピ膜4μmを成膜した。
【0063】
そして、エピ成膜後、表面に存在するサイズ65nm以上のLPD数をKLA-Tencor社製SP1で検査した結果、Arの場合は、LPD数が200ケを超えたが、O2の場合は、200ケ未満となった。
【0064】
このように、ArとO
2でエピ成膜後のLPD数に差が出る理由としては、以下に説明するように、ウェーハ表面から深さ方向のリンの濃度プロファイルに依存している。
図5は、熱処理工程によるリンの濃度プロファイルをシミュレーションした結果である。シミュレーションは、境界条件として、基板のリン濃度を1.3×10
20atoms/cm
3とし、最表面のリン濃度を1.0×10
17atoms/cm
3とした。Arの場合、表面から深さ300nmにおけるリンの濃度が7×10
19atoms/cm
3を超えているが、O
2の場合、格子間Siの注入によるリンの増殖拡散によって、表面から深さ300nmにおけるリンの濃度が7×10
19atoms/cm
3以下となることが判明した。
なお、リン濃度が7×10
19atoms/cm
3以下の場合、Si-P欠陥サイズが100nm未満、Si-P欠陥密度が1×10
12
ケ/cm
3
未満となるため、エピ後のLPD数は200ケ以下となり、SF発生を効果的に抑制できる。