(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】車両用ドアガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240521BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240521BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240521BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240521BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03C27/12 L
C03C27/12 D
B32B17/10
B32B27/30 102
B32B27/36
B60J1/00 H
(21)【出願番号】P 2020514128
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019015920
(87)【国際公開番号】W WO2019203142
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-02-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018080602
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 遼太
(72)【発明者】
【氏名】青木 時彦
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-524864(JP,A)
【文献】国際公開第2005/040868(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/181740(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094453(WO,A1)
【文献】特開2001-310626(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020792(WO,A1)
【文献】特開平8-133792(JP,A)
【文献】特開2017-186179(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039469(WO,A1)
【文献】特開2013-209246(JP,A)
【文献】特開2012-81748(JP,A)
【文献】特開2009-208980(JP,A)
【文献】特開2012-214026(JP,A)
【文献】特開2007-176154(JP,A)
【文献】特開2008-200924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/12
B32B17/10
B60J1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板がこの順に積層された合わせガラスを含む車両用ドアガラスであって、
前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含み、
前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる2種の樹脂層が交互に積層されてなり、
前記樹脂層を構成する樹脂は、
一方がポリエチレンテレフタレートで、他方がポリエチレンテレフタレート共重合体であるか、
または、一方がポリエチレンテレフタレートで、他方が混合ポリエチレンテレフタレートであり、
前記混合ポリエチレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート共重合体から選ばれる少なくとも2種の混合物からなる樹脂であり、
前記合わせガラスの車外側から測定される可視光反射率が、7%以上10%以下であり、
前記赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満、かつ前記方向に直交する方向の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満であり、所定方向の前記赤外線反射フィルムの熱収縮率は、前記赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であり、
前記合わせガラスを車両に取り付けたときに正面視で前記合わせガラスが視認可能な領域において、前記赤外線反射フィルムの外周が正面視で前記合わせガラスの外周から内側に10mmまでの範囲内に位置していることを特徴とする、車両用ドアガラス。
【請求項2】
前記合わせガラスに対して、D65光源による光を車外側から入射角10~60°の範囲で照射して得られる反射光の色調は、CIE1976L
*a
*b
*色度座標で、-5<a
*<3および-12<b
*<2である、請求項
1記載の車両用ドアガラス。
【請求項3】
前記合わせガラスを車両に取り付けたときに前記合わせガラスが視認可能な領域において、前記赤外線反射フィルムの外周が正面視で前記合わせガラスの外周から内側に5mmまでの範囲内に位置するように配置される、請求項1
または2記載の車両用ドアガラス。
【請求項4】
前記合わせガラスを車両に取り付けたときに前記合わせガラスが視認可能な領域において、前記赤外線反射フィルムの正面視での外周の全ての角部が曲率を有し、かつ、外周の最小曲率半径が8mm以上である、請求項1~
3のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項5】
前記赤外線反射フィルムの厚みが120μm以下である、請求項1~
4のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項6】
前記赤外線反射フィルムの厚みが80μm以上120μm以下である、請求項1~5のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項7】
前記第1の接着層および第2の接着層は、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が2%以上8%以下、前記方向に直交する方向の熱収縮率が2%以上8%以下であり、所定方向の前記第1の接着層および第2の接着層の熱収縮率は、前記第1の接着層および第2の接着層を50℃で10分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であり、
前記赤外線反射フィルムの熱収縮率が最大となる方向と、前記第1の接着層および第2の接着層の熱収縮率が最大となる方向とが直交する、請求項1~6のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項8】
前記第1の接着層および第2の接着層は、ポリビニルブチラールを含む、請求項1~7のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項9】
前記赤外線反射フィルムの熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率を、前記第1の接着層と前記第2の接着層の熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率の平均値で割った値が0.1以上0.4以下の範囲内にある、請求項1~8のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項10】
屈折率の異なる前記樹脂層が2種であり、相対的に屈折率の高い樹脂層を高屈折率層とし、屈折率の低い樹脂層を低屈折率層とする場合、
前記高屈折率層の屈折率が、1.62~1.70の範囲である、請求項1~9のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項11】
屈折率の異なる前記樹脂層が2種であり、相対的に屈折率の高い樹脂層を高屈折率層とし、屈折率の低い樹脂層を低屈折率層とする場合、
前記低屈折率層の屈折率が、1.50~1.58の範囲である、請求項1~10のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【請求項12】
屈折率の異なる前記樹脂層が2種であり、相対的に屈折率の高い樹脂層を高屈折率層とし、屈折率の低い樹脂層を低屈折率層とする場合、
前記高屈折率層と前記低屈折率層の屈折率の差が、0.05~0.20の範囲である、請求項1~11のいずれか1項記載の車両用ドアガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアガラスに関し、特に、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスからなる車両用ドアガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の空調負荷を低減し、乗員の快適性を向上させるため、遮熱性を付与した合わせガラスを使用した車両用のドアガラスが知られている。その中でも2枚のガラス板の中間に接着層を介して赤外線反射フィルムを配置した合わせガラスが提案されている。
【0003】
該合わせガラスは、例えば、ガラス板、接着層、赤外線反射フィルム、接着層、ガラス板をこの順に重ね合わせ、その後、全体を加熱加圧して一体化することにより製造されている。このような合わせガラスの製造に際しては、接着層の厚みムラによる押圧ムラや、フィルムと接着層との熱収縮率の差等によって、フィルムに凹凸状の歪みやシワが発生し、外観が損なわれるという問題があり、この問題を解決する対応が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、屈折率の異なる樹脂層を交互に積層し、積層する各層の厚みを制御することで、赤外線を干渉反射する機能を有する多層積層フィルムにおいて、外観上の凹凸を抑制するようにフィルムの熱収縮応力を規定した多層積層フィルムの技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、曲げ加工によって湾曲したガラス板を用いた場合に、特に主面の周縁部に発生しやすいフィルムのシワを抑制するために、赤外線反射フィルムの熱収縮率、弾性率、伸びのいずれかが所定の範囲内になるように制御された合わせガラスが記載されている。
【0006】
ここで、特許文献1および特許文献2の技術は、合わせガラスの主面内における外観の悪化の抑制を目的とし、ある程度の効果が認められる。しかしながら、車両用のドアガラスにおいては、ドアガラスの昇降に伴い特に主面の周縁部や端面(以下、併せて端部という)が目立ちやすく、端部の外観が問題となることが知られている。
【0007】
例えば、赤外線反射フィルムの端部を保護するために、平面視でフィルムの外周がガラス板の外周より内側に配置されることがある。その場合、特にドアガラスの昇降に伴い、ドアガラス端部の色調が変化してギラついて見えるという問題がある。一方、外観向上のために平面視でフィルムの外周をガラス板の外周に近接して配置した場合には、製造時の加熱により赤外線反射フィルムが熱収縮し、それに伴い接着層が主面の中心に向かって引き込まれてガラス端部の外観不良が発生するという問題がある。
【0008】
しかし、上記のとおり特許文献1や特許文献2では、赤外線反射フィルムに起因する合わせガラスの主面内での外観の悪化が抑制されているが、車両のドアガラスに用いた場合に発生する端部のギラつきや、接着層の引き込みに起因する外観の問題は解決されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開2013/137288号
【文献】特開2010-180089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスからなる車両用ドアガラスであって、遮熱性に優れるとともに、外観が良好であり、特に端部の外観不良の発生が抑制された車両用ドアガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の車両用ドアガラスは、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板がこの順に積層された合わせガラスを含む車両用ドアガラスであって、
前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含み、
前記赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満、かつ前記方向に直交する方向の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満であり、所定方向の前記赤外線反射フィルムの熱収縮率は、前記赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であり、
前記合わせガラスを車両に取り付けたときに正面視で前記合わせガラスが視認可能な領域において、前記赤外線反射フィルムの外周が正面視で前記合わせガラスの外周から内側に10mmまでの範囲内に位置する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスからなる車両用ドアガラスであって、遮熱性に優れるとともに、外観が良好であり、特に端部の外観不良の発生が抑制された車両用ドアガラスを提供できる。
【0013】
なお、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスにおいては、反射像の輪郭が揺らいで見える現象、いわゆるオレンジピールの問題も知られているが、本発明によればオレンジピールの発生も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態における車両用ドアガラスを構成する合わせガラスの正面図の一例である。
【
図2】
図1に示す合わせガラスのX-X線における断面図である。
【
図3】
図1に示す車両用ドアガラスを有する自動車の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【0016】
実施形態の車両用ドアガラス(以下、単に「ドアガラス」という。)は、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板を有し、これらがこの順に積層された合わせガラスを含み、赤外線反射フィルムの構成が、以下の(1)~(3)の要件を満たす。
(1)赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含む。
(2)赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満、かつ該方向に直交する方向の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満である。ただし、所定方向の赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率である。
(3)合わせガラスを車両に取り付けたときに正面視で合わせガラスが視認可能な領域において、赤外線反射フィルムの外周が正面視で合わせガラスの外周から内側に10mmまでの範囲内に位置する。
【0017】
赤外線反射フィルムは、(1)の要件を満たすことで、干渉反射による赤外線反射性を有する。赤外線反射フィルムが(2)の要件を満たすことで、合わせガラスの製造時に接着層の引き込みが抑制されるとともに、(3)の要件を満たすことで、合わせガラスとしたときのギラつきが抑えられ、端部の外観不良が抑制される。これにより、遮熱性に優れるとともに、外観が良好であり、特に端部の外観不良の発生が抑制された実施形態のドアガラスが得られる。以下、実施形態のドアガラスについて、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は実施形態に係るドアガラスを構成する合わせガラスの一例の平面図である。
図2は
図1に示す合わせガラスのX-X線における断面図である。
図3は、
図1に示す実施形態の一例であるドアガラスを有する自動車の側面図を示す。
【0019】
本明細書において「上」、「下」、「前」および「後」とは、ドアガラスを車両に搭載した際のそれぞれドアガラスの上側、下側、前側および後ろ側を示す。ドアガラスの「上下方向」とは、ドアガラスを車両に搭載した際のドアガラスにおける上下方向を示し、上下方向に直交する方向を「車幅方向」と称する。
【0020】
本明細書において、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層、第2のガラス板およびドアガラスは、それぞれ互いに対向する2つの主面を有し、該2つの主面を繋ぐ端面を有する。本明細書において、主面の周縁部とは、該主面の外周から中央部に向かって、ある一定の幅を有する領域を示す。両主面の周縁部と端面を併せて端部と称する。また、本明細書において、主面の中央から見た外周側部分を外側、主面の外周から見た中央側部分を内側と称する。本明細書において、「略同形」、「同寸」とは、それぞれ人が見て同じ形状、同じ寸法を有するとみなされる状態を示す。他の場合においても、「略」は上記と同様の意味を有する。また、数値範囲を表す「~」は、上限値及び下限値を含む。
【0021】
図1および
図2に示す、ドアガラスとして使用される合わせガラス10(以下、「ドアガラス10」ともいう。)は、第1のガラス板1、第1の接着層3、赤外線反射フィルム5、第2の接着層4および第2のガラス板2がその順に積層されてなる。第1のガラス板1、第1の接着層3、第2の接着層4および第2のガラス板2は、互いに略同形、同寸の主面を有する。
【0022】
合わせガラス10において、赤外線反射フィルム5の主面の形状は第1のガラス板1の主面の形状と略相似である。赤外線反射フィルム5は、合わせガラス10を車両に取り付けたときに正面視で、合わせガラス10が視認可能な領域(以下、「視認領域」ともいう。)において、外周(
図1中、一点鎖線で示す。)が正面視で合わせガラス10の外周から内側に10mmまでの範囲内に位置する。
【0023】
図3に示す自動車100は、
図1に示す合わせガラス10を有する。自動車100において、前側のサイドドアSと後側のサイドドアSは、それぞれドアパネル20とドアパネル20に昇降可能に配設されたドアガラス10を含む。
図3では、前側のサイドドアSについて、ドアガラス10を最も上まで上げたとき、すなわち、窓を閉じたときの、ドアガラス10を破線で示す。また、ドアガラス10を最も上まで上げた位置から下に距離Lだけ下ろしたときの、ドアガラス10を実線と破線で示す。
【0024】
自動車100において、前側と後側のドアパネル20の上端、すなわち車両開口部の下端を結ぶラインをベルトラインVLという。
図1に、ドアガラス10を自動車100に取り付けて最も上まで上げたとき(ドアガラスを完全に閉じたとき)の、ドアガラス10におけるベルトラインVLの位置を示す。本明細書では、ドアガラス10において、視認領域は、
図1に示すとおり、ドアガラス10を自動車100に取り付けてドアガラス10を最も上まで上げた状態でベルトラインVLより上に位置する領域である。該状態でベルトラインVLより下に位置する領域は非視認領域である。
【0025】
図3は、窓を閉じた状態ではドアガラス10のいずれの端面も視認できないが、窓を開けることでその一部が視認可能となることを示している。ドアガラス10においては、少なくとも、ドアガラス10を自動車100に取り付けてドアガラス10を最も上まで上げた状態で、ベルトラインVLより上に位置する領域で、上記(3)の要件を満たせば、ギラつきは抑制できる。以下、ドアガラス10の各構成要素について説明する。
[赤外線反射フィルム]
ドアガラス10における赤外線反射フィルム5は、上記(1)~(3)の要件を満たす。赤外線反射フィルム5はさらに、以下の(4)および(5)のいずれか一方または両方の要件を満たすことが好ましい。
(4)赤外線反射フィルムは厚みが120μm以下である。
(5)赤外線反射フィルムは、合わせガラスを車両に取り付けたときに合わせガラスが視認可能な領域において、正面視での外周の最小曲率半径が8mm以上である。
【0026】
要件(1)により、赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含む。赤外線反射フィルム5は、積層体を含むことにより赤外線反射性を有する。赤外線反射フィルム5は積層体のみから構成されてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で任意に別の層、例えば、後述する保護層等を有してもよい。赤外線反射フィルムにおける別の層は、耐久性の観点から、樹脂で構成されることが好ましい。
【0027】
要件(1)に関し、赤外線反射フィルム5において、積層体を構成する屈折率の異なる樹脂層の種類は2種以上であればよく、2種以上4種以下が好ましく、製造容易性の観点から2種が特に好ましい。屈折率の異なる樹脂層の2種を用いた場合、相対的に屈折率の高い樹脂層を高屈折率層、屈折率の低い樹脂層を低屈折率層とする。この場合、積層体は、通常、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層して構成される。
【0028】
樹脂層における屈折率は、光源としてナトリウムD線を用いて測定される波長589nmの屈折率とし与えられる。高屈折率層の屈折率は、1.62~1.70の範囲が好ましく、低屈折率層の屈折率は、1.50~1.58の範囲が好ましい。また、高屈折率層と低屈折率層の屈折率の差は、0.05~0.20の範囲が好ましく、0.10~0.15の範囲がより好ましい。
【0029】
樹脂層の屈折率は、樹脂の種類、樹脂中の官能基や骨格の種類、樹脂の含有量を適宜調整することにより調整できる。樹脂層を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリオレフィン、脂環族ポリオレフィン、ポリアミド、アラミド、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、含フッ素樹脂等が挙げられる。
【0030】
これらの樹脂から屈折率の異なる樹脂を適宜2種以上選択し、選択した樹脂からなる樹脂層を、上記の設計に従い積層して積層体を形成する。なお、屈折率の異なる樹脂を選択する際、層間密着性や、高精度の積層構造の実現性の観点から、好ましくは、同一の繰り返し単位を含む樹脂の組み合わせを選択する。上記の樹脂の中でも、ポリエステルは、強度、耐熱性、透明性の観点から好ましく、ポリエステルから同一の繰り返し単位を含む組み合わせを選択するのが好ましい。選択されるポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸と、ジオール、あるいはそれらの誘導体を用いて得られるポリエステルが好ましい。
【0031】
選択されるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート共重合体、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート共重合体、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート共重合体等が挙げられる。上記のポリエステルの中から選択される1種以上のポリエステルを用いることが好ましい。
【0032】
これらの中で、屈折率の異なる樹脂層を構成する樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう。)およびポリエチレンテレフタレート共重合体(以下、「PET共重合体」ともいう。)から選ばれる少なくとも1種を含む組み合わせが好ましい。積層体が2種類の樹脂層を交互に積層して構成される場合、例えば、一方をPETからなる樹脂層とし、他方の樹脂層をPET共重合体、または、PETおよびPET共重合体から選ばれる少なくとも2種の混合物からなる樹脂(以下、「混合PET」ともいう。)からなる樹脂層とするのが好ましい。
【0033】
PET共重合体は、PETと同一の繰り返し単位であるエチレンテレフタレート単位と他のエステル結合を持った繰り返し単位(以下、「他の繰り返し単位」ともいう。)とで構成される。他の繰り返し単位の割合(以下、「共重合量」ともいう。)としては、異なる屈折率を獲得する必要性から5モル%以上が好ましく、一方、層間の密着性や、熱流動特性の差が小さいため各層の厚みの精度や厚みの均一性に優れることから、90モル%以下が好ましい。さらに好ましくは10モル%以上、80モル%以下である。
【0034】
なお、混合PETが、PETとPET共重合体の混合物、またはPET共重合体の2種以上からなる混合物である場合、混合物としての他の繰り返し単位の含有割合が、上記PET共重合体における共重合量と同様になるように、各成分を混合することが好ましい。
【0035】
屈折率の異なる樹脂層間において、ガラス転移温度の差の絶対値は20℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度の差の絶対値が20℃より大きい場合には、積層体を含む赤外線反射フィルムを製膜する際の厚み均一性が不良となり、赤外線反射性にばらつきが生じるおそれがある。また、積層体を含む赤外線反射フィルムを成形する際にも、過延伸が発生するなどの問題が生じやすい。
【0036】
混合PETは、他の繰り返し単位として、原料ジオールとしてのスピログリコールに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。以下、原料成分由来の繰り返し単位については、原料化合物名に単位を付して表記する。例えば、スピログリコール由来の繰り返し単位は「スピログリコール単位」と表記する。混合PETがスピログリコール単位を含むとは、混合PETがスピログリコール単位を有するPET共重合体を含むことを意味する。混合PETは、スピログリコール単位を有するPET共重合体のみからなってよく、該PET共重合体とPETの混合物であってもよい。以下の説明において、混合PETが特定の化合物の単位を含むとは、混合PETがスピログリコール単位を含む場合と同様の意味である。スピログリコール単位を含む混合PETは、PETとのガラス転移温度差が小さいため好ましい。
【0037】
混合PETは、他の繰り返し単位として、スピログリコール単位に加えて、シクロヘキサンジカルボン酸単位を含むことが好ましい。スピログリコール単位およびシクロヘキサンジカルボン酸単位を含む混合PETは、PETとのガラス転移温度差が小さい上に、PETとの屈折率差が大きいことから積層体とした際に高い赤外線反射性が得られやすい。
【0038】
混合PETが、スピログリコール単位およびシクロヘキサンジカルボン酸単位を含む場合、スピログリコール単位の共重合量が5モル%~30モル%、シクロヘキサンジカルボン酸単位の共重合量が5モル%~30モル%であることが好ましい。
【0039】
混合PETは、他の繰り返し単位として、シクロヘキサンジメタノール単位を含む態様も好ましい。シクロヘキサンジメタノール単位を含む混合PETは、PETとのガラス転移温度差が小さいため好ましい。
【0040】
混合PETが、シクロヘキサンジメタノール単位を含む場合、シクロヘキサンジメタノール単位の共重合量は、赤外線反射性と層間密着性の両立の観点から、15モル%以上60モル%以下が好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノールは幾何異性体としてシス体あるいはトランス体があり、また配座異性体としてイス型あるいはボート型がある。よって、シクロヘキサンジメタノール単位を含む混合PETは、PETと共延伸しても配向結晶化しにくく、赤外線反射性が高く、熱履歴による光学特性の変化もさらに少なく、製膜時の不具合も生じにくいものである。
【0041】
上記において用いるPETおよび混合PETの固有粘度(IV)は、製膜の安定性の観点から、0.4~0.8が好ましく、0.6~0.75がより好ましい。
【0042】
以上、PETと混合PETの組み合せについて説明した。本発明においては、組み合わせは上記に限定されず、求められる特性に応じて、異なる混合PETを組み合わせてもよい。その場合、混合PETを構成する単位の種類は同じであって、繰り返し単位の組成が異なる組み合わせが好ましい。
【0043】
このような屈折率の異なる樹脂層を100層以上積層することで、積層体は赤外線を干渉反射する機能を有するものである。積層体の積層数は100層以上であれば特に制限されない。好ましくは、赤外線反射フィルム5の膜厚が(4)の要件を満たす範囲で適宜調整される。赤外線反射性を高めるために、樹脂層の層数は400層以上が好ましく、600層以上がより好ましい。積層体の積層数の上限は、赤外線反射フィルム5の膜厚の好ましい上限を満たす観点から概ね5000層が好ましい。
【0044】
積層体が有する樹脂層の積層数や各樹脂層の層厚は、求められる赤外線反射性に応じて、用いる樹脂層の屈折率に基づいて設計される。例えば、屈折率の異なる2種の樹脂層としてA層とB層を用いた場合、層厚分布は隣接するA層とB層の光学厚みが下記式(i)を満たすことが好ましい。
【0045】
λ=2(nAdA+nBdB) (i)
ここでλは反射波長、nAはA層の屈折率、dAはA層の厚み、nBはB層の屈折率、dBはB層の厚みである。
【0046】
層厚分布は式(i)と下記式(ii)を同時に満たすことも好ましい。
【0047】
nAdA=nBdB (ii)
式(i)と式(ii)とを同時に満たす層厚分布を持つことで偶数次の反射を解消できる。これにより、例えば、波長850nm~1200nmの範囲における平均反射率を高くしつつ、波長400nm~700nmの範囲における平均反射率を低くすることができ、透明でかつ、熱エネルギーの遮断性能の高い赤外線反射フィルム5を得ることができる。
【0048】
層厚分布は式(i)、式(ii)以外に、711711構成(米国特許第5360659号)を用いることも好ましい。711711構成とは、A層とB層がABABABの順で積層された6層を1つの繰り返しユニットとし、ユニット内での光学厚みの比を711711とする積層構成のことである。711711構成の層厚分布とすることで、高次の反射を解消できる。これにより、例えば、波長850nm~1400nmの範囲における平均反射率を高くしつつ、波長400nm~700nmの範囲における平均反射率を低くすることができる。また、波長850nm~1200nmの範囲の反射を式(i)と式(ii)を同時に満たす層厚分布によって、波長1200nm~1400nmの範囲の反射を711711構成の層厚み分布とすることも好ましい。このような層厚構成とすることで、少ない積層数で効率良く光を反射させることができる。
【0049】
層厚分布はフィルム面の一方から反対側の面へ向かって増加または減少する層厚分布や、フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚が増加した後減少する層厚分布や、フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚が減少した後増加する層厚分布等が好ましい。層厚分布の変化の仕方としては、線形、等比、階差数列といった連続的に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚を持ち、その層厚がステップ状に変化するものが好ましい。
【0050】
なお、赤外線反射フィルム5は、積層体の両表層に保護層として層厚が3μm以上の樹脂層を有してもよい。保護層の層厚は好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。保護層の層厚が厚くなることで、フローマークの抑制、透過率・反射率スペクトルのリップルの抑制の効果が得られる。
【0051】
要件(4)に関し、赤外線反射フィルム5は、厚み120μm以下であるのが好ましい。赤外線反射フィルム5は、厚みが120μm以下であると、合わせガラス製造時の脱気性が良好である。また、赤外線反射フィルム5は、厚みが80μm以上であるのが好ましい。赤外線反射フィルム5は厚みが80μm以上であることによって保有する剛性により、合わせガラス製造時に、第1の接着層および第2の接着層の熱収縮による影響を受けにくい。これにより、例えば、オレンジピールの発生を抑制しやすい。赤外線反射フィルム5の厚みは85μm以上115μm以下が好ましく、90μm以上110μm以下がより好ましい。
【0052】
赤外線反射フィルム5は、要件(2)に関し、熱収縮率が最大となる方向(以下、「最大収縮方向」ともいう。)の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満、かつ該方向に直交する方向(以下、単に「直交方向」ともいう。)の熱収縮率が0.6%を超え1.2%未満である。
【0053】
ただし、赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における所定方向の長さの縮小率であり、具体的には、赤外線反射フィルムの熱収縮率は、以下のとおり測定できる。
【0054】
まず、赤外線反射フィルム5から最大収縮方向または直交方向に沿って、短冊状の試験片を切り出す。赤外線反射フィルムは後述のように構成材料をフィルム状に延伸することにより製造されるため、赤外線反射フィルムにはその応力が残留応力として存在する。特に、フィルム製造時の流れ方向である長手方向、いわゆるMD方向について残留応力が大きく熱収縮しやすい。したがって、通常は、MD方向が最大収縮方向であり、幅方向であるTD方向が直交方向である。
【0055】
試験片は、例えば長さ150mm、幅20mmとする。この試験片には、長手方向に約100mmの間隔を空けて一対の基準線を記入し、この基準線間の長さL1を測定する。熱風循環式オーブン内に試験片を垂直に吊り下げ、150℃まで昇温して30分間保持し、室温まで自然冷却して60分間保持した後、基準線間の長さL2を測定する。熱収縮率は得られたL1およびL2を用いて以下の式(iii)で算出できる。
【0056】
熱収縮率=((L1-L2)/L1)×100[%] (iii)
赤外線反射フィルム5は、最大収縮方向および直交方向の熱収縮率が0.6%を超えることでオレンジピールの発生を抑制でき、1.2%未満であることで、接着層の引き込みに起因する外観不良の発生を抑制できる。最大収縮方向の熱収縮率は、0.65%以上1.10%以下が好ましく、0.70%以上0.90%以下がより好ましい。直交方向の熱収縮率は、0.65%以上1.10%以下が好ましく、0.70%以上1.10%以下がより好ましい。また、最大収縮方向の熱収縮率と直交方向の熱収縮率の差は小さい程好ましく、互いに同一であるのが特に好ましい。
【0057】
要件(1)および(2)を満たし、好ましくは要件(4)を満たす赤外線反射フィルム5は、例えば、以下の方法で製造できる。なお、以下の例示は、屈折率の異なる2種の樹脂層として、樹脂AからなるA層と樹脂BからなるB層を用いた積層体からなる赤外線反射フィルム5の製造方法である。該方法を適宜変更することで、3種以上の樹脂層を用いた赤外線反射フィルムや、保護層等の別の層を有する赤外線反射フィルムも製造可能である。
【0058】
A層とB層を用いた積層体からなる赤外線反射フィルムは、以下の(a)~(c)工程を含む方法で製造できる。(a)工程および(b)工程で、上記(1)および(2)の要件の全てを満たす赤外線反射フィルムが得られる場合、(c)工程は行わない。すなわち、(c)工程は任意の工程とすることができる。
(a)最終的に得られる積層体とは層厚が異なるが積層数が同様となるようにA層とB層が交互に積層された未延伸積層体を作製する工程。
(b)(a)工程で得られた未延伸積層体を延伸し層厚を調整して積層体前駆体を得る工程。
(c)(b)工程後の積層体前駆体を熱処理して、要件(2)を満たすように熱収縮率が調整された積層体を得る工程。
(a)未延伸積層体を作製する工程
樹脂Aおよび樹脂Bをペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて事前乾燥を熱風中あるいは真空下で行い、押出機に供給される。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量が均一化され、フィルタ等を介して異物や変性した樹脂などを取り除く。
【0059】
2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された樹脂Aおよび樹脂Bは、次に、多層積層装置に搬送され、該装置により所望の積層数に積層した溶融積層体とされ、次いでダイにて目的の形状に成形され吐出される。ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化することで、未延伸積層体となる。なお、多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィールドブロックやスタティックミキサー等が使用できる。
(b)延伸工程
(a)工程で得られた未延伸積層体を延伸し積層体前駆体を作製する。延伸方法は、通常、二軸延伸とする。二軸延伸の方法は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれでもよい。さらに、MD方向および/またはTD方向に再延伸を行ってもよい。面内の配向差を抑制できる点や、表面傷を抑制する観点から、同時二軸延伸が好ましい。二軸延伸は、好ましくは、樹脂Aおよび樹脂Bのうちガラス転移点が高い方の樹脂のガラス転移点の温度以上、該温度+120℃以下の範囲で行う。
【0060】
MD方向およびTD方向の延伸倍率は、得られる積層体において各層の層厚が設計された層厚となるように調整される。さらに、好ましくは、MD方向とTD方向で残留応力が同程度となるように延伸倍率、延伸速度が調整される。これにより、得られる赤外線反射フィルムにおいて、(1)の要件を満たし、好ましくは(4)の要件を満たすことができる積層体前駆体が得られる。
【0061】
延伸工程で得られる積層体前駆体は、通常、残留応力が高く、赤外線反射フィルムにおける(2)の要件を満たさない。次いで、以下の(c)熱処理を得ることで、(2)の要件を満たす積層体が得られる。ただし、上記のとおり積層体前駆体が、(2)の要件を満たす場合は、これをそのまま積層体として用いてよい。
(c)熱処理工程
積層体前駆体の熱処理は、延伸機内で行うのが一般的である。熱処理温度は、好ましくは、樹脂Aおよび樹脂Bのうち融点が高い樹脂の融点より低く、融点が低い樹脂の融点より高い温度である。これにより、融点が高い方の樹脂は高い配向状態を保持する一方、融点が低い樹脂の配向は緩和されるために、容易にこれらの樹脂の屈折率差を設けることができる。さらに、配向緩和に伴い熱収縮応力を低減することが容易となる。これによって、積層体の熱収縮率を容易に(2)の範囲内に調整できる。
【0062】
なお、熱処理は、熱処理時のリラックス率が0%以上10%以下、好ましくは0%以上5%以下となるように行ってもよい。リラックスは、TD方向およびMD方向のいずれか一方または両方に行なってもよい。また、熱処理時に2%以上10%以下の微延伸を行うことも好ましい。微延伸はTD方向およびMD方向のいずれか一方または両方に行なってもよい。このようにして、熱処理温度、熱処理時間、リラックス率や微延伸率を調整して、積層体の熱収縮率を(2)の範囲内に調整する。
【0063】
なお、積層体の熱収縮率を調整する目的で、熱処理工程後の冷却中にリラックスを行ってもよく、さらに、熱処理工程後に微延伸を行ってもよい。
【0064】
ドアガラス10において、赤外線反射フィルム5は、その最大収縮方向が、ドアガラス10の上下方向または車幅方向に略一致するように配置される。この場合、略一致するとは、角度のずれが±5°以内であることをいう。
【0065】
赤外線反射フィルム5における要件(3)は、合わせガラス10の正面視での視認領域における、赤外線反射フィルム5の外周位置に関する要件である。以下、特に断りのない限り、視認領域は、合わせガラス10を正面視した場合の視認領域である。非視認領域においても同様である。赤外線反射フィルム5が要件(3)を満たす、すなわち、視認領域における赤外線反射フィルム5の外周と合わせガラス10の外周との距離が10mm以内であると、合わせガラス10の端部のギラつきが抑制される。
【0066】
なお、合わせガラス10の正面視における外周は、通常は、第1のガラス板1および第2のガラス板2の正面視における外周と一致する。
【0067】
視認領域における赤外線反射フィルム5の外周と合わせガラス10の外周との距離は、最大値が10mm以内となるように設定されればよい。以下、視認領域における赤外線反射フィルム5の外周と合わせガラス10の外周(ガラス板の端面)との距離を「距離W」で示す。なお、第1のガラス板と第2のガラス板の外周位置が異なる場合は、より外側にあるガラス外周を合わせガラスの外周とする。例えば、距離Wの最大値が10mm以内であれば、視認領域であるベルトラインVLより上における合わせガラス10の左辺(前側の辺)、右辺(後側の辺)、上辺で距離Wは互いに異なってもよく、各辺内で異なってもよい。
図1においては、ベルトラインVLより上の視認領域における左辺での距離w1、右辺での距離w2、および上辺での距離w3は同じに設定されている。
【0068】
ここで、ギラつきの要因は主として赤外線反射フィルム5の端面が視認されることによると考えられる。
図3に示すとおり、窓を閉じたときには、ドアガラス10のいずれの端面も視認できないが、距離Wが0を超える場合には、車種によっては正面視で赤外線反射フィルム5の外周が視認される場合がある。その場合には見る角度によっては、特に左辺(前側の辺)において、赤外線反射フィルム5の端面が視認されることがある。さらに、ドアガラス10の昇降に伴い、特に上辺で赤外線反射フィルム5の端面が視認されやすい。
【0069】
しかしながら、上記のいずれの場合においても距離Wが最大で10mm以内であれば、合わせガラスの端部におけるギラつきは十分に抑制される。距離Wは、最大値が5mm以内に設定されるのが好ましく、3mm以内がより好ましく、1.5mm以内がさらに好ましく、0mmが特に好ましい。また、車種に応じて、窓を閉じたときやドアガラス10を昇降する際に、特に赤外線反射フィルム5の端面が視認されやすい辺に対して、距離Wを短くする等の対応をとってもよい。
【0070】
なお、合わせガラス10においては、赤外線反射フィルム5が樹脂で構成されることにより、距離Wが0mmであっても、外気に曝されることによる影響が殆どなく、耐久性の確保が可能である。また、赤外線反射フィルム5が(2)の要件を満たすことにより、距離Wが0mmであっても、合わせガラス製造時における接着層の引き込みに起因する外観不良の発生は殆どない。
【0071】
合わせガラス10の非視認領域において、赤外線反射フィルム5の外周と合わせガラス10の外周との距離は特に制限されない。ただし、合わせガラス10の生産効率の観点からは、非視認領域であるベルトラインVLより下における合わせガラス10の左辺(前側の辺)、右辺(後側の辺)、下辺においても、赤外線反射フィルム5の外周と合わせガラス10の外周との距離を、視認領域における距離Wと同様にするのが好ましい。具体的には、非視認領域における合わせガラス10の左辺では距離w1、右辺では距離w2とし、下辺での距離w4をこれらと同等とするのが好ましい。
【0072】
赤外線反射フィルム5は、要件(5)に関し、合わせガラス10の視認領域において、外周の最小曲率半径が8mm以上であることが好ましい。合わせガラス10の視認領域においては、通常平面視における外周の全ての角部は曲率を有するように成形される。同様に、合わせガラス10の視認領域において、赤外線反射フィルム5の平面視における外周の角部は全てが曲率を有するように成形される。
図1に示す赤外線反射フィルム5において、外周が最小曲率半径を有する点は、上辺と右辺(後側の辺)のなす角部におけるA点である。正面視において、赤外線反射フィルム5の外周に曲率半径が8mm未満の箇所が存在すると、該箇所が光を鋭く反射するため意匠性が損なわれる場合がある。赤外線反射フィルム5の外周の最小曲率半径は、10mm以上が好ましく、15mm以上がより好ましい。
[接着層]
ドアガラス10における第1の接着層3および第2の接着層4は、第1のガラス板1および第2のガラス板2の主面と同形、同寸の主面を有し、厚みが後述のとおりの平膜状の層である。第1の接着層3および第2の接着層4は、その間に赤外線反射フィルム5を挟持しつつ、第1のガラス板1および第2のガラス板2の間に挿入され、これらを接着してドアガラス10として一体化する機能を有する。
【0073】
第1の接着層3および第2の接着層4は、ドアガラス10における配置位置を除いて同じ構成とできる。以下、第1の接着層3および第2の接着層4を、まとめて「接着層」として説明する。
【0074】
接着層は、通常の合わせガラスの接着層に用いられる熱可塑性樹脂を含む接着層からなる。熱可塑性樹脂の種類は特に制限されず、公知の接着層を構成する熱可塑性樹脂の中から適宜選択することができる。
【0075】
熱可塑性樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル(PVC)、飽和ポリエステル、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、シクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、単独でも、2種類以上が併用されてもよい。
【0076】
熱可塑性樹脂は、ガラス転移点、透明性、耐候性、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性等の諸性能のバランスを考慮して選択される。熱可塑性樹脂のガラス転移点は、例えば、可塑剤量により調整できる。上記諸性能のバランスを考慮すると、接着層に用いる熱可塑性樹脂は、PVB、EVA、ポリウレタン等が好ましい。さらに、ドアガラス10製造時の赤外線反射フィルム5の変形量を低減させることを考慮するとPVBが特に好ましい。
【0077】
接着層は、熱可塑性樹脂を主成分として含有する。接着層が、熱可塑性樹脂を主成分として含有するとは、接着層の全量に対する熱可塑性樹脂の含有量が30質量%以上のことをいう。接着層は、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有することができる。
【0078】
接着層は、熱収縮率が最大となる方向(以下、赤外線反射フィルムの場合と同様に「最大収縮方向」ともいう。)の熱収縮率が2.0%以上8.0%以下、該方向に直交する方向(以下、赤外線反射フィルムの場合と同様に、単に「直交方向」ともいう。の熱収縮率が2.0%以上8.0%以下であるのが好ましい。接着層における最大収縮方向の熱収縮率は4.0%以上7.0%以下がより好ましく、直交方向の熱収縮率は4.0%以上7.0%以下がより好ましい。
【0079】
ただし、接着層の熱収縮率は、温度20℃湿度55%の恒温恒湿環境下に24時間以上放置した時点を熱処理前とし、その後接着層を50℃で10分間保持した後、20℃のデジケーター内で1時間放冷した時点を熱処理後としたときの、熱処理の前後における所定方向の長さの縮小率である。接着層の熱収縮率は、具体的には、熱処理の温度と試験時間を50℃、10分に変更し、熱処理の前後に前処理および後処理を施す以外は上記赤外線反射フィルムの熱収縮率を測定する方法と同様にして測定できる。
【0080】
赤外線反射フィルム5と同様に、接着層は構成材料をフィルム状に延伸することにより製造され、製造時の流れ方向であるMD方向について残留応力が大きく熱収縮しやすい。したがって、通常は、MD方向が最大収縮方向であり、幅方向であるTD方向が直交方向である。ドアガラス10の製造時に赤外線反射フィルム5の最大収縮方向と接着層の最大収縮方向を一致させて積層した場合、赤外線反射フィルム5への変形負荷がかかりやすい。
【0081】
したがって、ドアガラス10において、接着層は、好ましくは、赤外線反射フィルム5の最大収縮方向と、接着層の最大収縮方向とが直交するように配置される。接着層と、赤外線反射フィルムとは互いの最大収縮方向が完全に直交していることが好ましいが、完全な直交状態からの角度のずれが、各接着層について±5°以内となっていればよい。
【0082】
また、ドアガラス10において、赤外線反射フィルム5の熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率を、第1の接着層3と第2の接着層4の熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率の平均値で割った値(H)が0.1以上0.4以下の範囲内であることが好ましい。数値Hが0.1以上の場合、接着層の収縮による赤外線反射フィルムの変形負荷が小さくなり、オレンジピールやシワの外観不良が発生しにくい。数値Hが0.4以下の場合、接着層と赤外線反射フィルムの熱収縮率が一致する方向に近づき過ぎず、赤外線反射フィルムの収縮が加速せず、赤外線反射フィルム引込みに起因する外観不良が発生しにくい。
【0083】
第1の接着層3および第2の接着層4の膜厚は、特に限定されるものではない。具体的には、車両用合わせガラス用等に通常用いられる接着層と同様に、それぞれ0.3~0.8mmであることが好ましく、第1の接着層3と第2の接着層4の合計膜厚として0.7~1.5mmであることが好ましい。各接着層の膜厚が0.3mm未満であったり、2層の合計膜厚が0.7mm未満であったりすると、2層を併せても強度が不十分となることがあり、逆に各接着層の膜厚が0.8mmを超えたり、2層の合計膜厚が1.5mmを超えたりすると、後述するドアガラス10作製時のオートクレーブによる本接着(本圧着)工程において、これが挟み込まれる第1のガラス板1と第2のガラス板2にずれが生じる現象、いわゆる板ずれ現象が発生することがある。
【0084】
接着層は単層構造に限定されない。例えば、特開2000-272936号公報等に開示された遮音性能の向上を目的として用いられる、性質の異なる(損失正接の異なる)樹脂膜を積層した多層樹脂膜を接着層として使用してもよい。さらに、ドアガラス10において、接着層を上下方向の断面形状が楔形状となるように設計してもよい。楔形状としては、接着層の厚みが上辺から下辺へ向けて単調に減少していてもよいし、上辺の厚みが下辺の厚みより大きい限りにおいて、部分的に厚みが均一な部分を有する設計でもよく、部分的に楔角が変化してもよい。
[ガラス板]
ドアガラス10における第1のガラス板1および第2のガラス板2の板厚は、その組成、第1の接着層3および第2の接着層4の組成によっても異なるが、一般的には0.1~10mmである。
【0085】
第1のガラス板1および第2のガラス板2のうち、例えば第1のガラス板1を車内側に配置した場合、第1のガラス板1の板厚は、0.5~2.0mmが好ましく、0.7~1.8mmがより好ましい。その場合、車外側となる第2のガラス板2の板厚は、耐飛石衝撃性が良好となることから、1.6mm以上が好ましい。両者の板厚の差は、0.3~1.5mmが好ましく、0.5~1.3mmがより好ましい。車外側となる第2のガラス板2の板厚は、1.6~2.5mmが好ましく、1.7~2.1mmがより好ましい。
【0086】
第1のガラス板1および第2のガラス板2との板厚の合計が4.1mm以下であることが軽量化の観点から好ましく、3.8mm以下であることがより好ましく、3.6mm以下であることがさらに好ましい。
【0087】
なお、第1のガラス板1および第2のガラス板2は、
図2に示すように端面が面取り加工されているのが好ましい。面取り加工は通常の方法で行える。ガラス板が面取り加工されるこれにより、意匠性とガラス取扱い安全性の両面から実用的なものとなる。
【0088】
第1のガラス板1および第2のガラス板2は、無機ガラス、有機ガラス(樹脂)から構成することができる。無機ガラスとしては、通常のソーダライムガラス(ソーダライムシリケートガラスともいう)、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。無機ガラスとしては、例えば、フロート法等により成形されたフロート板ガラスが挙げられる。無機ガラスとしては、風冷強化、化学強化等の強化処理が施されたものも使用できる。
【0089】
有機ガラス(樹脂)としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも、特に、ビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、上記樹脂は、2種以上が併用されてもよい。
【0090】
ガラスは、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等を含有してもよい。このようなガラスとして、グリーンガラス、紫外線吸収(UV)グリーンガラス等が挙げられる。なお、UVグリーンガラスは、SiO2を68質量%以上74質量%以下、Fe2O3を0.3質量%以上1.0質量%以下、かつFeOを0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、波長350nmの紫外線透過率が1.5%以下、550nm以上1700nm以下の領域に透過率の極小値を有する。
【0091】
ガラスは、透明であればよく、無色でも有色でもよい。また、ガラスは、2層以上が積層されたものでもよい。適用箇所にもよるが、無機ガラスが好ましい。
【0092】
第1のガラス板1および第2のガラス板2の材質は、同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。第1のガラス板1および第2のガラス板2の形状は、平板でもよいし、全面または一部に曲率を有してもよい。第1のガラス板1および第2のガラス板2の大気に晒される表面には、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティングが施されてもよい。また、第1のガラス板1および第2のガラス板2の対向面には、低放射性コーティング、赤外線遮光コーティング、導電性コーティング等、通常、金属層を含むコーティングが施されてもよい。
[合わせガラス]
本発明のドアガラスを構成する合わせガラスは、車外側の可視光反射率が7%以上10%以下であるのが好ましい。
【0093】
合わせガラス10は、車外側から測定される可視光反射率(Rv)が7%未満であると、赤外線反射フィルム5の機能が十分でない、すなわち遮熱性が十分でない場合がある。可視光反射率(Rv)が10%超であると、合わせガラス端部において赤外線反射フィルムの端面に起因するギラつきが目立ちやすい。可視光反射率(Rv)は、7.5%以上10.0%以下がより好ましい。
【0094】
合わせガラス10は、日射透過率(Te)は45%以下であり、かつ、可視光透過率(Tv)は70%以上であることが好ましい。日射透過率(Te)は40%以下がより好ましく、38%以下が特に好ましい。車外側から測定される日射反射率(Re)は18%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。可視光透過率(Tv)は72%以上がより好ましく、73%以上が特に好ましい。また、合わせガラス10のヘイズ値は1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下が特に好ましい。
【0095】
なお、車外側から測定される可視光反射率(Rv)、車外側から測定される日射反射率(Re)、日射透過率(Te)および可視光透過率(Tv)は、分光光度計等により、少なくとも300~2100nmが含まれる波長域の透過率、反射率を測定し、それぞれJIS R3106(1998年)およびJIS R3212(1998年)で規定される計算式から算出される値である。本明細書において、特に断りのない限り、可視光反射率、日射反射率、日射透過率および可視光透過率は、上記の方法で測定、算出される車外側から測定される可視光反射率(Rv)、車外側から測定される日射反射率(Re)、日射透過率(Te)および可視光透過率(Tv)をいう。
【0096】
さらに、合わせガラス10に対して、D65光源による光を車外側から入射角10~60°の範囲で照射して得られる反射光の色調は、CIE1976L*a*b*色度座標で、-5<a*<3および-12<b*<2であるのが好ましい。上記条件で測定されるa*およびb*の値が上記範囲外では、合わせガラス端部において赤外線反射フィルムの端面に起因するギラつきが目立ちやすい。上記条件で測定されるa*は-3<a*<2がより好ましい。上記条件で測定されるb*は-9<b*<0がより好ましい。
[ドアガラスの製造]
本発明のドアガラスは、一般的に用いられる公知の技術により製造できる。ドアガラス(合わせガラス)10においては、それぞれ上記のとおり準備した第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板がその順に積層された圧着前の合わせガラスである合わせガラス前駆体を準備する。その際、得られる合わせガラスの外周と赤外線反射フィルムの外周の正面視における位置関係が(3)の要件を満たすように、上記各構成要素を積層する。また、必要に応じて、第1の接着層、赤外線反射フィルムおよび第2の接着層のTD方向、MD方向を上記の好ましい方向に合わせて積層する。
【0097】
この合わせガラス前駆体を、例えば、ゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約-65~-100kPaの減圧度(絶対圧力約36~1kPa)となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70~110℃に加熱する。これにより、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板の全体が接着された合わせガラスが得られる。その後、必要に応じて、合わせガラスをオートクレーブの中に入れ、温度約120~150℃、圧力約0.98~1.47MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行う。圧着処理により、合わせガラスの耐久性をさらに向上させることができる。
【実施例】
【0098】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明される実施例に限定されない。まず、以下の方法で9種類の赤外線反射フィルムA~Iを製造した。赤外線反射フィルムA~Hは、屈折率の異なる2種類の樹脂層を積層した積層体からなり、それぞれ熱収縮率が異なる赤外線反射フィルムである。赤外線反射フィルムIは、PETフィルム上に屈折率が異なる2種類の無機酸化物層を積層した赤外線反射フィルムである。
(赤外線反射フィルムA~Hの製造)
屈折率の異なる2種類の熱可塑性樹脂として、樹脂Aと樹脂Bを用いた。樹脂Aとして、固有粘度IV=0.65、屈折率1.66のPET(結晶性ポリエステル、融点255℃)を用いた。樹脂Bとして、固有粘度IV=0.73、屈折率1.55の、全単位に対してスピログリコール単位25モル%、シクロヘキサンジカルボン酸単位30モル%を含むPET共重合体(PE/SPG・T/CHDC)を用いた。用意した2種類の樹脂をそれぞれ押出し機にて280℃に溶融させ、光学厚み比を樹脂A/樹脂B=1になるようにして厚み方向に交互に2000層積層して未延伸積層体を得た。
【0099】
赤外線反射フィルムA~Hにおいて、未延伸積層体を所定の倍率で二軸延伸して、積層体の厚みを調整した後、熱処理を施して、MD方向およびTD方向の残留応力(熱収縮率)を調整して、表1に示す物性(熱収縮率、厚み)を有する赤外線反射フィルムを得た。表1に示す熱収縮率は、「最大方向」が、熱収縮率が最大となる方向に相当し、具体的には、赤外線反射フィルムのMD方向である。表1に示す「直交方向」は、「最大方向」に直交する方向であり、赤外線反射フィルムのTD方向である。なお、赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における所定方向の長さの縮小率であり、上記の方法で測定した値である。
(赤外線反射フィルムIの製造)
厚み100μmのPETフィルム上にマグネトロンスパッタリング方法により高屈折率誘電体層となるNb
2O
5層と低屈折率誘電体層となるSiO
2層とをその順で交互に合わせて7層積層して赤外線反射膜を形成し、赤外線反射フィルムIとした。
[例1~14]
図2に示した合わせガラスと同様の積層構成であり、w1=w2であって、各例においてw1(w2)が異なる合わせガラスを以下のとおり製造して評価した。例1~8が実施例であり、例9~14が比較例である。
(合わせガラスの製造)
第1のガラス板として、ガラス板正面視の外周サイズが、縦500mm、横950mmであり、板厚2mmの熱線吸収グリーンガラス(旭硝子社製:NHI(通称))を準備し、第2のガラス板として、正面視の外周サイズが、縦500mm、横950mmであり、板厚2mmのクリアガラス(旭硝子社製:FL(通称))を準備した。
【0100】
第1の接着層には厚さ0.76mmのPVBフィルム(イーストマンケミカル社製:品番QL51)を用い、第2の接着層には厚さ0.38mmのPVBフィルム(イーストマンケミカル社製:品番RK11)を用い、それぞれの外周サイズを第1のガラス板および第2のガラス板と同じ縦500mm、横950mmとした。なお、厚さの異なる2種類のPVBフィルムにおいて、その熱収縮率が最大となる方向、具体的にはMD方向の熱収縮率はいずれも6.0%、それに直交する方向、具体的にはTD方向の熱収縮率はいずれも5.0%であった。また、PVBフィルムの熱収縮率は、PVBフィルムを上記の方法で測定した値である。さらに、延伸方法を調整することにより熱収縮率が上記とは異なる接着層を2種類準備した。いずれも第1の接着層は厚さ0.76mmのPVBフィルム、第2の接着層は0.38mmのPVBフィルムとした。一方の接着層はMD方向の熱収縮率が8.5%、TD方向の熱収縮率が7.0%であった。もう一方の接着層はMD方向の熱収縮率が2.5%、TD方向の熱収縮率が2.0%であった。
【0101】
各例において上記で得られた赤外線反射フィルムA~Iのいずれかを用いて、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板をその順に積層した積層体を準備した。
【0102】
なお、各例において、予め赤外線反射フィルムA~Iの正面視の外周と第1のガラス板および第2のガラス板の外周の距離(w1)が、4辺全てにおいて、表1の値となるように赤外線反射フィルムA~Iのサイズを調整した。また、第1の接着層、赤外線反射フィルムおよび第2の接着層はいずれも、MD方向を第1のガラス板および第2のガラス板の横方向に合わせて積層した。
【0103】
真空バッグに積層体を入れ、圧力計の表示が100kPa以下となるように脱気した後、120℃に加熱して圧着し、さらにオートクレーブにて温度135℃、圧力1.3MPaで60分間の加熱加圧を行い、最終的に冷却して合わせガラスとした。
【0104】
各例で得られた合わせガラスにおける、可視光反射率(Rv)、日射反射率(Re)およびD65光源による光を車外側から入射角10°で照射して得られる反射光のCIE1976L*a*b*色度座標におけるa*およびb*を測定した。なお、測定には分光光度計(日立ハイテクノロジー製U4100)を用いた。表1に結果を示す。
[評価]
得られた合わせガラスについて、赤外線反射フィルム端部の劣化、接着層の引き込み、ギラつき、オレンジピール、遮熱性を評価した。
<赤外線反射フィルム端部の劣化>
合わせガラスを温度80℃、湿度95%RHの恒温恒湿槽に投入し、1000時間後に赤外線反射フィルム端部の変色の有無を目視により観察した。あわせて、赤外線反射フィルム外周より内側に20mm以内の範囲におけるクラックの有無を顕微鏡観察により確認した。評価は以下の基準で行った。
A;赤外線反射フィルム端部において、変色、クラックのいずれの発生も認められない。
C;赤外線反射フィルム端部において、変色やクラックのいずれかの発生が認められる。
<接着層引き込み>
正面視で、合わせガラスの外周から、接着層の外周が内側に、および赤外線反射フィルムの外周が圧着前の積層体における位置から内側に、引き込まれているかどうかを目視により観察した。評価は以下の基準で行った。
A;赤外線反射フィルム、接着層のいずれの引き込みの発生も認められない。
C;接着層の外周および赤外線反射フィルムの外周が5mm以上の長さにわたって引き込まれた部分が認められる。
【0105】
赤外線反射フィルムの熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率を、第1の接着層と第2の接着層の熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率の平均値で割った値を「熱収縮比(H)」として算出し、結果を表1にまとめた。
<ギラつき;色調の変化>
合わせガラスをドアガラスとして、例えば、
図3に示すように車両に組み付けた状態で、車内からドアガラスの端部のギラつき(色調の変化)を目視により観察した。合わせガラスは
図1に示すような形状とした。評価は以下の基準で行った。
A;ドアガラスの昇降に係わらずドアガラス端部の色調の変化が認められない。
B;ドアガラスの昇降時(作動時)にのみドアガラス端部の色調の変化が認められる。
C;ドアガラスの昇降に係わらずドアガラス端部の色調の変化が認められる。
<オレンジピール>
背景を暗くした状態で合わせガラスを水平に配置し、さらに合わせガラスの180cm上に直管型の蛍光灯(長さ630mm、30W、三菱電機照明社製FL30SW)を長さ方向が合わせガラスの幅方向となるように設置し点灯した。蛍光灯の位置を合わせガラスの中央部の直上となるように調整し、中央部における蛍光灯反射像の輪郭の揺らぎの有無を目視により観察した。同様にして、蛍光灯の位置を合わせガラスの下辺近傍の直上となるように調整し、下辺近傍における蛍光灯反射像の輪郭の揺らぎの有無を目視により観察した。観察結果を以下の基準で評価した。
A;蛍光灯反射像の輪郭に揺らぎが認められない。
B;中央部または下辺近傍において、蛍光灯反射像の輪郭の一部に揺らぎが認められる。
C;中央部および下辺近傍において、蛍光灯反射像の輪郭の半分程度に揺らぎが認められる。
<遮熱性>
上記で測定された合わせガラスの日射反射率Reを遮熱性の指標として評価に用いた。日射反射率Reはすべて20%以上であり良好であった。
<ドアガラス角部の意匠性>
図1に示される正面視での形状を有する合わせガラスを準備した。外周が最小曲率半径を有するA点における赤外線反射フィルムの曲率半径がそれぞれ、16mm、9mm、7mmである、計3種類の合わせガラスを準備した。A点における曲率半径が16mm、9mmの合わせガラスでは例2の赤外線反射フィルムを使用し、A点における曲率半径が7mmの合わせガラスでは例3の赤外線反射フィルムを使用した。合わせガラスを蛍光灯の下に配置し、A点における赤外線反射フィルムの外観を目視により観察した。その結果、A点の曲率半径が16mm、9mmの場合は強い光の反射は見られず意匠性は問題無いレベルであった。一方、A点の曲率半径が7mmの場合は強い光の反射が見られ意匠性が悪かった。
【0106】
【表1】
本国際特許出願は、2018年4月19日に出願した日本国特許出願第2018-080602号に基づきその優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018-080602号の全内容を参照によりここに援用する。
【符号の説明】
【0107】
10 合わせガラス(車両用ドアガラス)
1 第1のガラス板
2 第2のガラス板
3 第1の接着層
4 第2の接着層
5 赤外線反射フィルム
100 自動車
20 ドアパネル
VL ベルトライン