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特許7492063液全卵及び液全卵を用いた卵加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】液全卵及び液全卵を用いた卵加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20240521BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20240521BHJP
【FI】
A23L15/00 D
A23L35/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023084357
(22)【出願日】2023-05-23
【審査請求日】2023-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】児玉 大介
(72)【発明者】
【氏名】岩本 知子
(72)【発明者】
【氏名】有満 和人
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104104(JP,A)
【文献】特開昭61-115441(JP,A)
【文献】佐藤泰編著,食卵の科学と利用,初版,1980年,pp.252-257
【文献】再現!モロゾフ○卵の風味豊かなプリン○(原文では○はハート),[online],2020年03月25日,[検索日 2023年8月10日],インターネット,<URL: https://cookpad.com/recipe/6072058>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵由来の可溶性固形分濃度が24~29質量%であり、
卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が1.1~3.0である、
液全卵。
【請求項2】
卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が1.1~2.0である、
請求項1記載の液全卵。
【請求項3】
卵以外の原材料の割合が1質量%以下である、
請求項記載の液全卵。
【請求項4】
液全卵に含まれる液卵白の可溶性固形分濃度が18~24%である、
請求項記載の液全卵。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の液全卵を用いた、
卵加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液全卵及び液全卵を用いた卵加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵は卵焼きや目玉焼き、ゆで卵など卵そのものの味を楽しむこともできるが、他の素材と組み合わせることで様々な料理を作ることもできる。例えば、牛乳と組み合わせることでプリンやカスタードクリームを作ることができるし、出汁と組み合わせることで茶わん蒸しや出し巻き卵等を作ることができる。このように卵を他の素材と組み合わせて料理を作った場合、卵のコクや風味が感じられるだけでなく、牛乳や出汁等、他の素材の風味をより引き立てることができれば、さらに美味しい料理となる。
【0003】
特許文献1には液卵にセルロースを配合することにより、卵加工品の風味劣化が抑制され、気泡安定性、ジューシー感や保形性が向上すること、及び、食感が改善することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-65836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液卵そのものの組成を工夫することや、乳や出汁等、他の素材の風味をより感じやすくすることに着目した知見はこれまでになかった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、乳や出汁等、他の素材の風味がより感じやすくなる液全卵及び液全卵を用いた卵加工品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、液全卵の可溶性固形分濃度と、液全卵中の卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の割合を所定範囲に調整することにより、乳や出汁等、卵以外の素材の風味を感じやすい液全卵が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)卵由来の可溶性固形分濃度が24~29%であり、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が0.8~3.0である、液全卵、
(2)卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が1.1~2.0である、(1)記載の液全卵。
(3)卵以外の原材料の割合が1%以下である、(1)又は(2)記載の液全卵、
(4)液全卵に含まれる液卵白の可溶性固形分濃度が18~24%である、(1)~(3)のいずれかに記載の液全卵、
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の液全卵を用いた、卵加工品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乳や出汁等、他の素材の風味をより感じやすくなる液全卵を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
<液全卵>
本発明の液全卵は鶏卵の液卵黄と液卵白を均質化して得た液状物であり、卵由来の可溶性固形分濃度が24~29%、液全卵中の卵黄可溶性固形量に対する卵白可溶性固形分量の比が0.8~3.0であること以外は、殻付卵を割卵して卵殻を取り除いた卵内容物をそのまま均質化して調製した一般的な液全卵と同様の外観、性状を有する。そのため、本発明の液全卵は、一般的な液全卵と同様の使い方で用いることができる。
また、本発明の液全卵の調製に用いる液卵黄及び液卵白は、割卵して得たものをそのまま用いることもできるし、ろ過処理をしたもの、凍結後解凍したもの、乾燥後水戻ししたもの、加熱殺菌処理をしたもの、濃縮したもの、希釈処理をしたもの等、様々なものを用いることができる。ここで本発明の均質化とは、卵黄と卵白を混合して卵黄と卵白の区別が判然としない状態にすることをいう。
また、本発明の液全卵は、保存性を高めるため、殺菌、凍結、ろ過等の処理を適宜行ったものでもよい。
【0012】
<卵由来の可溶性固形分濃度>
本発明の液全卵は、卵由来の可溶性固形分濃度が24~29%である。ここで卵由来の可溶性固形分濃度とは、卵黄、卵白、カラザ、卵殻膜など卵に由来する可溶性固形分の濃度を意味する。液全卵に含まれる卵由来の可溶性固形分濃度が前記範囲であることにより、通常の液全卵や殻付き卵と同じように使用したときに、適度な硬さの卵加工品を得ることができ、卵だけでなく他の素材の風味も感じやすくなる。より食感が良く、素材の風味が感じやすい卵加工品が得られやすくなることから、前記可溶性固形分濃度は、24.5~28.5%であることが好ましい。なお、本発明における卵由来の可溶性固形分濃度は、20℃で、屈折計を用いて測定した値であり、20℃のショ糖水溶液の質量百分率に相当する値である。
【0013】
<卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比>
本発明の液全卵は、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が0.8~3.0である。卵黄可溶性固形分量とは、液全卵に含まれる卵黄由来の可溶性固形分の総量のことを意味し、卵白可溶性固形分量とは、液全卵に含まれる卵白由来の可溶性固形分の総量を意味する。したがって、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が前記範囲であるということは、一般的な液全卵よりも卵白由来の可溶性固形分量がやや多い割合で卵黄と卵白の割合が調整されていることを意味するものである。これにより、他の素材の風味を感じやすく、かつ食感にも優れた卵加工品を得ることができる。さらに、素材の風味がより感じやすくなることから、前記卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比は、1.9~2.5であることが好ましく、1.1~2.0であることがより好ましい。
卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が前記範囲であることにより、他の素材の風味が感じやすくなる理由は定かではないが、卵黄と卵白の割合が変化することで、乳化による風味のマスキング力が弱まり、他の素材の風味を感じやすくなったことや、ゲル化のネットワーク構造が変化することにより、ゲルの崩壊時に出汁や乳の風味が出てきやすくなったことなどが考えられる。
【0014】
<その他原材料>
本発明の液全卵は、本発明の効果を損なわない範囲で、卵以外の原材料を含有することができるが、様々な用途に用いやすいことから、卵以外の原料による可溶性固形分濃度が1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることが好ましく、全く含まないことがより好ましい。
【0015】
<卵加工品>
本発明において、卵加工品とは、本発明の液全卵を用いて調製した加工品を意味する。卵加工品としては、例えば、スクランブルエッグ、オムレツ、卵焼き、炒り卵、薄焼き卵、錦糸卵、カスタードクリーム、プリン、茶わん蒸し、親子丼等が挙げられる。特に、本発明の効果を奏しやすいことから、乳又は出汁を含む卵加工品であることがより好ましい。
【0016】
<液全卵の調製方法>
本発明の液全卵の調製方法は、液全卵中の卵由来の可溶性固形分濃度が24~29%であり、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が0.8~3.0の範囲内となるように調製すれば、特に限定しないが、例えば、液卵白を濃縮したり、乾燥卵白を添加するなどの方法で、固形分含量の多い液卵白を調製した後、当該液卵白と液卵黄の混合比率を調整するなどして、調製することができる。本発明の液全卵の調製に用いる液卵白は、卵由来の可溶性固形分濃度や、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比を所定範囲に調整しやすいことから、可溶性固形分濃度が18~24%の液卵白を用いることが好ましく、19~23%の液卵白を用いることがより好ましい。液卵黄の可溶性固形分濃度は特に限定しないが、40~55%であることができる。なお、前記液卵黄の可溶性固形分濃度は、鶏卵の割卵し、液卵黄と液卵白に分けた際に、液卵黄に混入する一部の液卵白を除いたときの値である。
【0017】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0018】
<液全卵の調製>
鶏卵を卵黄と卵白に分けた後、卵白に、乾燥卵白を高濃度に水戻しして調製した液卵白を混合し、可溶性固形分濃度が異なる複数の液卵白を調製した。次いで、前記液卵白を、液卵黄と表1に記載の割合で混合し、実施例1~4、比較例1~4の液全卵を調製した。また、対照例として一般的に流通する液全卵を用いた。なお、可溶性固形分濃度は、デジタル屈折計(株式会社アタゴ製デジタル屈折計RX-7000i)を用い、20℃に温度調整して測定した。
【0019】
<試験例1:プリンの調製>
調製した各液全卵20%、牛乳50%、生クリーム17%、グラニュー糖13%を混合後、容器に充填し、85℃で30分間蒸してプリンを調製した。調製したプリンを3名の専門パネラーが試食し、下記基準で乳風味を評価した。結果を表1に示した。
【0020】
[風味の評価基準]
◎:対照例と比較して乳風味を感じやすい。
○:対照例と比較して乳風味をやや感じやすい。
△:対照例と乳風味が同等である。
×:対照例と比較して乳風味を感じにくい。
【0021】
[表1]
【0022】
表1に示すように、液全卵の可溶性固形分濃度が24~29%であり、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の質量比が0.8~3.0である液全卵を用いることにより、他の素材(乳)の風味を感じやすいことが分かった。
【0023】
<試験例2:茶わん蒸しの調製>
対照例、実施例2、比較例2又は比較例3の液全卵を21%、本みりん1.3%、醤油1.1%、食塩0.8%、かつお出汁0.7%、清水75.1%を混合後、容器に充填し、85℃で30分間蒸して茶わん蒸しを調製した。調製した茶わん蒸しを3名の専門パネラーが試食し、下記基準で出汁風味を評価した。
【0024】
[風味の評価基準]
◎:対照例と比較して出汁の風味を感じやすい。
○:対照例と比較して出汁の風味をやや感じやすい。
△:対照例と出汁の風味が同等である。
×:対照例と比較して出汁の風味を感じにくい。
【0025】
その結果、実施例2の液全卵を用いて調製した茶わん蒸しは対照の茶わん蒸しよりも出汁の風味を感じやすかった。一方、比較例2及び3の液全卵を用いて調製した茶わん蒸しは対照の茶わん蒸しよりも出汁の風味が感じられなかった。さらに、実施例2の液全卵を用いて調製した茶わん蒸しは、くちどけも良く好ましい食感であった。

【要約】
【課題】乳や出汁等、他の素材の風味をより感じやすくなる液全卵及び液全卵を用いた卵加工品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の液全卵は、可溶性固形分濃度が24~29質量%であり、卵黄可溶性固形分量に対する卵白可溶性固形分量の比が0.8~3.0である、液全卵である。
【選択図】なし