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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電気駆動移動体用ギアードモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/10 20060101AFI20240522BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20240522BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K1/276
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022568272
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044779
(87)【国際公開番号】W WO2022124275
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020202611
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】度會 亜起
(72)【発明者】
【氏名】平野 広昭
(72)【発明者】
【氏名】萱野 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 匡
(72)【発明者】
【氏名】金 忠植
(72)【発明者】
【氏名】渡部 速人
(72)【発明者】
【氏名】伊東 和徳
(72)【発明者】
【氏名】石田 和也
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-085779(JP,A)
【文献】特開2004-328991(JP,A)
【文献】特許第6544455(JP,B1)
【文献】特開2015-065803(JP,A)
【文献】特開2006-340478(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125407(WO,A1)
【文献】特開2014-132599(JP,A)
【文献】特開2001-339923(JP,A)
【文献】特開2015-037331(JP,A)
【文献】特開平08-256457(JP,A)
【文献】特開2009-227221(JP,A)
【文献】特開2019-180180(JP,A)
【文献】特開2017-107889(JP,A)
【文献】特開2006-149031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/10
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大回転速度が20000rpm以上、45000rpm以下であって、希土類ボンド磁石をロータに埋め込んだ同期リラクタンスモータと、該同期リラクタンスモータの回転速度を使用範囲の回転速度に減速させてトルクを所定範囲に向上させる減速機とを有し、
前記ロータの大きさは、前記ロータの半径をR(cm) 、前記ロータの軸方向の長さをL(cm) とするとき、2cm≦R≦6cm、2cm≦L≦25cmであることを特徴とする電気駆動移動体に推進力を付与するための電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項2】
弱め磁界制御の範囲において、出力Pを一定に制御することを特徴とする請求項1に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項3】
前記同期リラクタンスモータの最大回転速度をn(rpm) 、その最大出力をP(W)とし、前記ロータの半径をR(cm) 、前記ロータの軸方向の長さをL(cm) 、前記ロータの側面積をS(cm2 )=2πRLとするとき、
前記ロータの大きさは、下記の式を満たすS対して、0.7S以上、1.1S以下の範囲の側面積を与える半径Rと長さLとを有する大きさであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
S=kP/n
ただし、k(cm2 /W分)は比例定数であり、120cm2 /W分≦k≦160cm2 /W分である。
【請求項4】
前記同期リラクタンスモータの最大出力Pは、25kW以上、180kW以下である ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項5】
前記同期リラクタンスモータの最大回転速度時のトルクは5Nm以上、86Nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項6】
前記減速機の減速比は3以上、30以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項7】
前記希土類ボンド磁石の残留磁束密度は0.6T以上、1.0T以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項8】
希土類ボンド磁石は、ネオジウム(Nd)を含み、 ジスプロシウム(Dy)及びテルビウム(Tb)を含む重希土類元素群の中の元素を含まないことを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【請求項9】
前記電気駆動移動体はモータのみを駆動源とする自動車又は内燃機関による推進力に加えてモータによる推進力を付加するハイブリッド方式の自動車又は燃料を電気に変換してモータにより駆動力を得る燃料自動車であることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の電気駆動移動体用ギアードモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進力の全部又は一部をモータの駆動力が担う電気駆動移動体用ギアードモータに関する。特に、電気モータのみを駆動源とする電動車両(BEV)、内燃機関による推進力に加えてモータによる推進力を付加するハイブリッド電動車両(HV)、燃料から得られる電力により回転するモータによる推進力を与える燃料電池電動車両(FCV)などの電気駆動移動体用ギアードモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1のようにフェライト磁石を用いた同期リラクタンスモータが知られている。また、希土類焼結磁石をロータに埋め込んだ埋込磁石同期モータ(IPMSM) が知られている。ところが、希土類元素は資源量が乏しく、特に、耐熱性付与等の性能の向上のために必要なジスプロシウム(Dy) は貴重であって地球上に偏在しており、安定供給の点に問題となっている。そのため、原材料を多く使用する希土類焼結磁石に代わるものとして、非特許文献1、2のように、希土類ボンド磁石をロータに埋め込んだ永久磁石補助型同期リラクタンスモータ(PMA-SynRM)が提案されている。
また、ネオジウム(Nd)を節約し、ジスプロシウム(Dy)を含む重希土類元素を節約又は使用しない高効率・高出力モータの実現が望まれており、国の科学技術政策においても、その開発目標が定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-83066号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】小林眞莉香他「希土類ボンド磁石を用いた自動車駆動用PMASynRMの基礎検討」;平成29年電気関係学会関西連合大会,pp.110-111
【文献】Marika Kobayashi etal.,"Basic Study of PMASynRM with Bonded Magnetsfor Traction Applications" The 2018 International Power ElectronicsConference, pp.2802-2807,2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は貴重な希土類元素を用いる代わりにフェライトを用いているが、フェライトは電機子電流により生成される磁場により減磁され易い。このため、特許文献1は減磁を効果的に防止するための構造を提案している。また、希土類焼結磁石を用いるには、高回転速度を実現するために磁石による磁束を低減するには極めて薄くする必要があり、加工限度が存在する。このため、希土類焼結磁石を用いた場合には、回転速度を20000rpm以上にすることは不可能に近い。
【0006】
一方、非特許文献1、2では、ロータの埋込磁石として希土類ボンド磁石が用いられている。5000rpmにおいて最大出力75.6kW~92.7kWが得られている。また、最大回転速度は17000rpmであり、出力は最大出力75.6kWから最大回転速度において44.5kWに低下している。
【0007】
このように非特許文献1、2では、磁石埋込型リランタクンスモータに希土類ボンド磁石が用いられているが、17000rpm以上の回転速度が得られていない。また、最大回転速度と最大出力に対して、最適なロータの外周側面積、したがって希土類ボンド磁石の使用量との関係は全く考察されていない。したがって、非特許文献1、2においては、モータの性能を高く維持したまま、希土類元素の使用量をできる限り抑制するという観点は存在しない。
【0008】
そこで、本発明者らは、モータの性能を可能な限り損なわずに、希土類ボンド磁石の使用量を出来る限り低減できないかとの課題を設定して検討してきた。その結果、所望の出力を維持したまま、ロータの側面積をできるだけ小さくすることが必要であるとの結論を得た。出力が25kW以上の大出力モータにおいては従来実現されていない最大回転速度20000rpm~45000rpmを実現するためには、ロータの外周の側面積を小さくして、希土類ボンド磁石の使用量を可能な限り低減させ、高速回転によるトルクの低下を、減速ギアを用いて使用範囲のトルクが得られるように増大させれば、電気自動車の駆動源に用いることができるとの新たな着想に至った。
【0009】
本発明の目的は、モータの性能を出来る限り維持して、希土類ボンド磁石の使用量を低減させた電気自動車の駆動用モータを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、最大回転速度が20000rpm以上、45000rpm以下であって、希土類ボンド磁石をロータに埋め込んだ同期リラクタンスモータと、該同期リラクタンスモータの回転速度を使用範囲の回転速度に減速させてトルクを所定範囲に向上させる減速機とを有し、ロータの大きさは、ロータの半径をR(cm) 、ロータの軸方向の長さをL(cm) とするとき、2cm≦R≦6cm、2cm≦L≦25cmであることを特徴とする電気自動車に推進力を付与するための電気駆動移動体用ギアードモータである。
本発明において、電気駆動移動体は単に電気自動車とも言う。その電気自動車はバッテリに蓄電された電力を用いた電気モータのみを駆動源とするBattery Electric Vehicle(BEV)、内燃機関による推進力に付加して電動モータの推進力を用いるHybrid Vehicle(HV)、タンクの燃料から発電して、モータに通電してモータを駆動源とするFuel Cell Vehicle(FCV)を含む概念である。要するに電気モータにより推進力を得る自動車を電気自動車と定義している。
本発明において、最大回転速度は25000rpm以上、45000rpm以下としても良く、30000rpm以上、45000rpm以下としても良い。32000rpm以上、45000rpm以下としても良い。さらに望ましくは34000rpm以上、45000rpm以下としても良い。
【0011】
本発明において、ロータの大きさは、ロータの半径をR(cm) 、ロータの軸方向の長さをL(cm) とするとき、2cm≦R≦6cm、2cm≦L≦25cmとすることが望ましい。Lが25cmを越えると、ロータの軸が波打つ可能性があり、現実的ではない。さらには、4cm≦R≦6cm、2cm≦L≦18cmとしても良い。半径Rが6cmを越えると、モータの体格が過度に大きくなる可能性があり、モータの配置スペースの点からも望ましくない。
【0012】
また、弱め磁界制御の範囲において、出力Pを一定に制御することが望ましい。
また、同期リラクタンスモータの最大回転速度をn(rpm) 、その最大出力をP(W)とし、ロータの半径をR(cm) 、ロータの軸方向の長さをL(cm) 、ロータの側面積をS(cm2 )=2πRLとするとき、ロータの大きさは、下記の式を満たすS対して、0.7S以上、1.1S以下の範囲の側面積を与える半径Rと長さLとを有する大きさとすることが望ましい。
S=kP/n
ただし、k(cm2 /W分)は比例定数であり、120cm2 /W分≦k≦160cm2 /W分である。kの値は希土類ボンド磁石の残留磁束密度、磁石の形状、複数の磁石の配置形状、磁石配置を分離するスリットの形状、磁気回路の透磁率や抵抗、電機子コイルの配置と磁石とコイルとの配置関係、電機子電流の大きさなどによって変化する。これらの因子を最適化することで、kの値は小さくすることができる。すなわち、最大出力が大きくても、又は、最大回転速度が小さくても、kを小さくすれば側面積は小さくできる。kの範囲は、その観点から設定されている。
【0013】
(R,L)を決定する側面積に関して、側面積Sが小さい程、希土類元素の使用量を低減できる。側面積Sが大きい程、高出力、高トルクが得られるが、希土類元素の使用量が多くなるので、上限が上記のように定められている。最大出力Pと最大回転速度nと120cm2 /W分≦k≦160cm2 /W分を満たす任意のkの値とから上記の式から得られる側面積Sに対して、一定の幅を持たせて側面積Sの範囲を決定している。側面積が小さくなる方向の幅を、側面積が大きくなる方向の幅よりも大きく設定しているのは、所望の最大出力Pと最大回転速度nを実現する範囲で、可能な限り側面積Sを小さくする方が望ましいからである。その観点から、(R,L)を決定する側面積は、0.7S以上、1.1S以下の範囲としても良い。また、0.8S以上、1.1S以下、又は、0.9S以上、1.1S以下の範囲としても良い。
【0014】
また、本発明において、同期リラクタンスモータの最大出力Pは、25kW以上、180kW以下であることが望ましい。望ましくは40kW以上、180kW以下である。また、望ましくは40kW以上、150kW以下、40kW以上、100kW以下としても良い。25kW以上の出力で、回転速度20000rpm以上のモータは実現されていない。また、同期リラクタンスモータの最大回転速度時のトルクは、最大出力に依存するが、5Nm以上、86Nm以下であることが望ましい。さらには、5Nm以上、70Nm以下であることが望ましい。さらには、6Nm以上、60Nm以下であることが望ましい。減速機の減速比は減速機の出力軸の使用回転速度範囲により決定されるが、電気駆動移動体用の駆動源としては、3以上、30以下であることが望ましい。さらには、12以上、30以下としても良い。さらには、19以上、27以下としても良い。
【0015】
本発明において、希土類ボンド磁石の残留磁束密度は0.6T以上、1.0T以下であることが望ましい。また、希土類ボンド磁石は、ネオジウム(Nd)を含み、ジスプロシウム(Dy)及びテルビウム(Tb)を含む重希土類元素群の中の元素を含まないようにすることができる。特に、産出量が限られるジスプロシウム(Dy)又はテルビウム(Tb)を含まなくとも高性能なモータが実現できるので効果的である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ロータの回転速度を20000~45000rpmとし、最高出力は25kW~180kWを実現する状態で、ロータの側面積を小さく、従って、希土類元素の使用量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例に係る電気自動車用ギアードモータの構成を示すブロック図。
図2】希土類ボンド磁石をロータに埋め込んだ同期リラクタンスモータの軸に垂直な断面図。
図3】実施例に係るモータの回転速度とトルクとの関係を示す特性図。
図4】実施例に係るモータの側面積と最大回転速度との関係を、最大出力をパラメータとして示す特性図。
図5】実施例に係るモータの側面積と最大出力との関係を、最大回転速度をパラメータとして示す特性図。
図6】実施例に係るモータの最大回転速度と最大出力との関係を、側面積をパラメータとして示した特性図。
図7.A】実施例に係るモータの側面積を218.7cm2 とした時の最大回転速度と最大出力の取り得る範囲を、比例定数をパラメータとして示した特性図。
図7.B】実施例に係るモータの側面積を600cm2 とした時の最大回転速度と最大出力の取り得る範囲を、比例定数をパラメータとして示した特性図。
図8.A】実施例に係る最大出力50kW、最大回転速度34000rpmのモータの半径と軸長の取り得る範囲を、側面積の許容幅により示す特性図。
図8.B】実施例に係る最大出力100kW、最大回転速度34000rpmのモータの半径と軸長の取り得る範囲を、側面積の許容幅により示す特性図。
図8.C】実施例に係る最大出力150kW、最大回転速度34000rpmのモータの半径と軸長の取り得る範囲を、側面積の許容幅により示す特性図。
図9】実施例に係るモータの半径と軸長との関係を、側面積をパラメータとして示す特性図。
図10】実施例に係る最大出力25kWのモータの半径と軸長との関係を、最大回転速度をパラメータとして示す特性図。
図11】は実施例に係る最大出力50kWのモータの半径と軸長との関係を、最大回転速度をパラメータとして示す特性図。
図12】実施例に係る最大出力100kWのモータの半径と軸長との関係を、最大回転速度をパラメータとして示す特性図。
図13】実施例に係る最大出力150kWのモータの半径と軸長との関係を、最大回転速度をパラメータとして示す特性図。
図14】実施例に係る最大出力180kWのモータの半径と軸長との関係を、最大回転速度をパラメータとして示す特性図。
図15】実施例に係る最大出力50kW、減速比3.3のギアードモータにおけるモータ軸と出力軸の回転速度とトルクとの関係を示す特性図。
図16】実施例に係る最大出力50kW、減速比15のギアードモータにおけるモータ軸と出力軸の回転速度とトルクとの関係を示す特性図。
図17】実施例に係る最大出力50kW、減速比21.7のギアードモータにおけるモータ軸と出力軸の回転速度とトルクとの関係を示す特性図。
図18】実施例に係る最大出力50kW、ギアードモータのモータ単体における回転速度とトルクとの関係を測定して得られた特性図。
図19】実施例に係るギアードモータの変速機の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体的な一実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例には限定されない。
【実施例1】
【0019】
図1は実施例に係るギアードモータ1のブロック図である。希土類ボンド磁石埋込型同期リラクタンスモータ2の回転軸は、減速機3の出力軸4に歯車群を介して結合している。減速機3によりギアードモータ1の回転速度が減速されて、出力軸4の回転が制御されている。減速機3の機構は良く知られているので詳しい説明は省略する。例えば特開2015-72054号公報、US2007/0111838A1公報が知られている。実施例の一つは、2組の歯車を用いて、減速比は3.3としている。勿論、減速比は3以上、30以下の範囲の任意の比を用いることができる。望ましくは、3.3以上、25以下の範囲の任意の比を用いることができる。減速比21.8の減速機3の構成を図19に示す。希土類ボンド磁石埋込型同期リラクタンスモータ2のロータ10(図2)の回転軸11の回転力を図1の出力軸4の回転力に伝達するのが、減速機3である。ロータ10の回転軸11の先端部分には入力歯車32が形成されている。入力歯車32には第1伝達歯車33が回転可能に歯合している。第1伝達歯車33は中間軸34に結合されており、中間軸34の出力端側には第2伝達歯車35が形成されている。出力軸4には、第2伝達歯車35と歯合して回転する出力歯車36が形成されている。当然のことながら、回転軸11、中間軸34、出力軸4は筐体に支持された軸受けにより回転可能に軸支されている。ロータ10の回転軸11の回転速度は入力歯車32と第1伝達歯車33とにより第1段の減速(減速比5.53)が行われる。回転数が減速された中間軸34の回転は、第2伝達歯車35と出力歯車36とにより、第2段の減速(減速比3.94)が行われる。減速機3の全体の減速比は21.79である。このようにしてロータ10の回転軸11の回転速度は、2段階の減速を経て出力軸4の回転速度となる。出力軸4の出力トルクはロータ10の回転軸11のトルクの21.8倍となる。
【0020】
図2は、希土類ボンド磁石埋込型同期リラクタンスモータ2のロータ10の軸11に垂直な断面図である。ロータ10は中心に回転軸11を有し、その外周は空隙を隔てて、ステータ20が配設されている。極対数は4である。ステータ20は1極当たり6個のスットが形成されており、そのスロットに電機子コイル21が配設されている。ロータ10は高透磁率材料の板が軸方向に積層され、隣接する板は絶縁されている。断面において円弧状の空洞12、13が軸方向に伸びて形成されている。外周側に近い外側の空洞12は、2つに分離されており、軸11に近い内側の空洞13は4つに分離されている。空洞は、半径方向に2列に形成しているが、3列であっても、3列以上であっても良い。また、空洞の円弧方向の分割数は2個、4個を示しているが、外側の空洞12が3個、内側の空洞13が5個、6個など任意である。
【0021】
この空洞12、13の中に、希土類ボンド磁石14、15が軸方向に沿って充填されている。希土類ボンド磁石は、希土類元素粒子と粒子を結着するバインダ樹脂とからなる。電気抵抗率は50μΩm以上、望ましくは100μΩm以上、さらには500μΩm以上、さらには1000μΩm以上とすることができる。これにより渦電流損をより低減できる。希土類元素粒子は、一種類に限らず、組成や粒度分布が異なる複数種が混在したものでも良い。磁石粒子には、等方性磁石粒子、異方性磁石粒子の何れを用いても良い。異方性磁石粒子を用いるとき、ボンド磁石は配向磁場中で成形されたものを用いることができる。勿論、配向と着磁とを同時に行っても良い。バインダ樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂を用いるとき、成形後に熱硬化処理(キュア処理)がなされると好ましい。
【0022】
希土類ボンド磁石14、15の充填方法は任意であるが、希土類元素粉末と樹脂との混合体をロータ10へ射出成形し冷却固化させる方法を用いることができる。その他、圧縮成形であっても良い。半硬化した希土類ボンド磁石を空洞12、13に挿入させた後に、加熱して完全に硬化させても良い。圧縮成形の場合、バインダ樹脂量を少なくして希土類元素粒子量を多くできる。このため圧縮成形による磁石は、射出成形による磁石より磁束密度を大きくすることができる。
【0023】
希土類異方性磁石粉末には、Nd-Fe-B系磁石粉末、Sm-Fe-N系磁石粉末、Sm-Co系磁石粉末等を用いることができる。ロータ10に磁石粉末とバインダ樹脂との混練体を空洞12、13に充填した後に、ロータを配向磁場において、磁石粉末を配向させた後に、着磁しても良い。圧縮成形であれば、配向磁場中において圧縮して希土類ボンド磁石を形成する。
【0024】
希土類異方性磁石粉末として、Nd系磁石粉末(粗粉末)であるNdFeB系異方性希土類磁石粉末とSm系磁石粉末(微粉末)であるSmFeN系異方性磁石粉末を使用し、バインダ樹脂とし熱可塑性樹脂であるPPS(ポリフェニレンサルファイド)を使用し、それらを含んだコンパウンド(愛知製鋼カタログ:S5P-13MF)を使用した。このコンパウンドを射出成形によりロータ10に充填し、希土類ボンド磁石をロータ内に埋め込み、ロータと一体化した。
【0025】
この希土類ボンド磁石の残留磁束密度Br は、0.67Tとした。残留磁束密度Br は、0.6T以上 1.0T以下の範囲に設定するのが良い。
【0026】
1.トルク-回転速度特性
希土類ボンド磁石埋込型リラクタンスモータのトルク-回転速度特性を図3に示す。回転速度0~5500rpmの範囲では、トルクは最大となり87Nmで一定である。この回転速度範囲では、電機子電流は最大値で一定である。この範囲では回転速度が増加するに連れて、電機子に印加される電圧が最大トルクを出力するように増加する期間であり、出力が回転速度に伴って直線的に増加する。回転速度5500rpmから11500rpmの範囲における破線直線で示されたトルク-回転速度特性は、弱め界磁制御を行わない場合の特性である。この特性は最大トルク制御を表しており、回転速度の増加に伴って電機子に発生する誘導起電力により電機子電流が低下する領域となる。弱め界磁制御をしない場合には、11500rpmにおいて、回転速度は零となり、それ以上の回転速度は得られない。
【0027】
2.弱め磁界制御
図3において、回転速度が5500rpm以上、最大回転速度45000rpm以下の範囲は、弱め界磁制御を行った時のトルク-回転速度特性の下記(1)式による理論曲線である。モータは回転速度に伴って電機子コイルに誘導逆起電力(速度起電力)が発生し、電機子電流が低下してモータの回転速度は増加しない。希土類ボンド磁石による電機子コイルの交差磁束を弱めるために、電機子電流の位相を進み位相で制御することで、電機子反作用により交差磁束を低減させて誘導逆起電力を抑制するようにしている。
【0028】
3.モータの関係式
モータのトルクT(Nm)と回転速度n(rpm)と出力P(W)との関係は(1)式が成立する。モータのトルクTは(2)式で表現される。ここでPn は極対数、Φa は(3)式で示されるように、電機子コイルのボンド磁石の磁束による交差磁束(ロータの制止状態では直流の最大交差磁束、回転時ではピーク値)Φm のdq軸座標系への変換値(d軸成分)である。Id 、Iq は、電機子電流のd軸(直軸)成分、q軸(横軸)成分である。本実施例では極対数Pn は4としている。しかし、極対数Pn は、4の他、1、2、3、6など任意である。Ld ,Lq は電機子コイルのd軸インダクタンス、q軸インダクタンスである。図2に示すように、d軸はボンド磁石の円弧の中心からラジアルの向きであり、q軸は隣接するボンド磁石の中間点からラジアルの向きにとられている。d軸とq軸の成す角は機械角では22.5°である。q軸は電気角では無負荷誘導起電力の向きであり、d軸はボンド磁石による磁束が電機子コイルに向かう向きであり、q軸はd軸に対して90°遅れ位相にある。
【数1】
【数2】
【数3】
【0029】
ロータの円筒側面の面積(以下、「側面積」という)Sを用いると、(2)式は、(4)式のように表現できる。ここで、Φa0は単位側面積当たりの交差磁束(交差磁束密度)(d軸成分)である。Ld0,Lq0は、それぞれ、単位側面積当たりの電機子コイルのd軸インダクタンス、q軸インダクタンスである。
【数4】
【0030】
ここで、kを(5)式で定義する。(4)式のTをkで表して、そのTを(1)式に代入して、(6)式のように側面積Sは表現できる。
【数5】
【数6】
(4)式において、最大回転速度におけるLd0、Lq0、Id 、Iq は、それぞれ、最大回転速度における弱め界磁制御の限界から、最大出力、側面積によらず一定と見做せる。実施例の最大出力50kWのモータにおいては、側面積Sは218.7cm2 であり、最大回転速度34000rpmが得られた。この最大回転速度でのkは、(6)式から148.7cm2 /W分となる。
【0031】
4.最大出力をパラメータとする最大回転速度と側面積との関係
最大回転速度においては、kの値は(5)式より側面積Sに依存しないので、最大出力に係わらず一定と見做せる。(6)式においてnを最大回転速度として、最大回転速度nと側面積Sとの関係を、最大出力Pをパラメータとして図示すると、図4のようになる。図4において、最大出力が大きくなる程、曲線は上に位置しており、最も下に位置しているのが最大出力25kW、最も上に位置しているのが最大出力180kWの曲線である。最大回転速度nを大きくするには、側面積Sを小さくする必要があることが分かる。換言すれば、希土類ボンド磁石の使用量を減少させるためには、最大回転速度を増大させる必要がある。最大回転速度nと最大出力Pを決めれば、(6)式、図4から最適な側面積Sを求めることができる。
【0032】
5.最大回転速度をパラメータとする最大出力と側面積との関係
最大出力Pと側面積Sとの関係を、最大回転速度nをパラメータとして図示すると、図5のようになる。図5において、最大回転速度が大きくなる程、傾きは小さくなる。傾きが最も大きい直線が最大回転速度20000rpmであり、傾きが最も小さい直線が最大回転速度45000rpmである。側面積Sは最大出力Pに比例しているが、最大回転速度nが大きくなる程、側面積Sの最大出力Pに対する比例係数が小さくなることが分かる。最大回転速度を大きくすれば、最大出力Pを大きくしても側面積Sはそれほど大きくする必要がなく、希土類ボンド磁石の使用量が低減できることが分かる。
【0033】
5.側面積をパラメータとする最大回転速度と最大出力との関係
最大回転速度nと最大出力Pとの関係を、側面積Sをパラメータとして図示すると図6のようになる。図6において、側面積が大きくなる程傾きが小さくなる。側面積が1200cm2 の直線が最も傾きが小さく、側面積が100cm2 の直線の傾きが最も大きい。側面積Sが600cm2 の時に、最大出力Pと最大回転速度nの最適な組み合わせの選択範囲が最も広いことが分かる。側面積Sが600cm2 の時には、最大回転速度nは20000rpmから45000rpmの全範囲をとることができ、最大出力は81kWから182kWの範囲の値をとることができる。
【0034】
6.側面積を一定としてkをパラメータとする最大回転速度と最大出力との関係
側面積Sを218.7cm2 とした時の最大回転速度nと最大出力Pとの関係を、kをパラメータとして図示すると図7.Aのようになる。また、側面積Sを600cm2 とした時の最大回転速度nと最大出力Pとの関係を、kをパラメータとして図示すると図7.Bのようになる。kの値が小さい程、同一の側面積に対して最大回転速度と、最大出力の取り得る範囲が拡大することが分かる。したがって、kの値を小さくすることが重要となる。
【0035】
kの値は(5)式から明らかなように、Φa0Iq -(Lq0-Ld0)Iq Id の逆数に比例している。ただし、Lq0-Ld0>0、Iq >0、Id <0である。第1項は、単位極対数と単位側面積当たりのマグネットトルク、第2項は単位極対数と単位側面積当たりのリラクタンストルクである。一般的にはリラクタンストルクの方がマグネットトルクよりも大きいが、低回転速度になる程相電流が大きくなるので、リラクタンストルクの方がマグネットトルクよりも大きくなる程度が大きくなる。高回転速度になる程、相電流が小さくなるので、回転速度に対するリラクタンストルクの減少率はマグネットトルクの減少率よりも大きい。そのため、高回転速度になる程、全トルクに対するマグネットトルクの比率が徐々に増加し、単位面積当たりの交差磁束Φa0がkに与える影響が大きくなる。交差磁束Φa0はボンド磁石の残留磁束密度Br 、個々のボンド磁石の形状や、複数のボンド磁石の配置構造、配置層数、磁極間のボンド磁石の間隔、ボンド磁石のスリット幅、磁気回路の透磁率、ボンド磁石と電機子コイルの配置関係などに依存する。kの値を148.7(cm2 /W分)と決定した時の残留磁束密度Br が0.67Tであることと、残留磁束密度Br の現実的な範囲0.6~1.0Tを考慮して、本発明では、kの値を120cm2 /W分以上、160cm2 /W分以下としている。kの値を小さくする程、同一の最大回転速度と最大出力に対して側面積Sは小さくでき、ボンド磁石の使用量は少なくできる。
【0036】
7.決定された側面積に対して所定幅を持たせた時の半径と軸長との関係
最大出力50kW、最大回転速度34000rpmが実現された時の最適側面積Sは218.7cm2 であった。kの値(120~160)cm2 /W分の範囲により決定される側面積の範囲内(176.5~235.3cm2 )のSに対して0.7S以上、1.1S以下の範囲内のロータの半径Rとロータの軸方向の長さ(以下、「軸長」という)Lとの関係を図8.A示す。側面積が大きい程、曲線は軸長が大きくなる領域に位置する。側面積258.8cm2 (kの最大値160cm2 /W分の時の側面積235.3cm2 ×1.1)の時のR-L曲線と、側面積123.6cm2 (kの最小値120cm2 /W分の時の側面積176.5cm2 ×0.7)の時のR-L曲線との間の領域の(R,L)が最大出力50kW、最大回転速度34000rpm時の望ましい範囲となる。
【0037】
最大出力100kW、最大回転速度34000rpmの時の最適側面積Sは437.4cm2 である。kの値(120~160)cm2 /W分の範囲により決定される側面積の範囲内(352.9~470.6cm2 )のSに対して0.7S以上、1.1S以下の範囲内のロータの半径Rと軸長Lとの関係を図8.B示す。側面積が大きい程、曲線は軸長が大きくなる領域に位置する。側面積517.7cm2 (kの最大値160cm2 /W分の時の側面積470.6cm2 ×1.1)の時のR-L曲線と、側面積247.0cm2 (kの最小値120cm2 /W分の時の側面積352.9cm2 ×0.7)の時のR-L曲線との間の領域の(R,L)が最大出力100kW、最大回転速度34000rpm時の望ましい範囲となる。
【0038】
最大出力150kW、最大回転速度34000rpmの時の最適側面積Sは656.0cm2 である。kの値(120~160)cm2 /W分の範囲により決定される側面積の範囲内(529.4~705.9cm2 )のSに対して0.7S以上、1.1S以下の範囲内のロータの半径Rと軸長Lとの関係を図8.C示す。側面積が大きい程、曲線は軸長が大きくなる領域に位置する。側面積776.5cm2 (kの最大値160cm2 /W分の時の側面積705.9cm2 ×1.1)の時のR-L曲線と、側面積370.6cm2 (kの最小値120cm2 /W分の時の側面積529.4cm2 ×0.7)の時のR-L曲線との間の領域の(R,L)が最大出力150kW、最大回転速度34000rpm時の望ましい範囲となる。
【0039】
8.側面積をパラメータとする半径と軸長との関係
側面積Sをパラメータとしてロータの半径Rと軸長Lとの関係を図9に示す。図9において、側面積が大きくなる程、曲線は上方向(軸長が長くなる方向)に位置する。最大出力Pと最大回転速度nを決定すれば、最適側面積Sが求まり、その最適S面積を実現するための最適な半径Rと軸長Lの組み合わせが決定できる。
【0040】
9.最大回転速度をパラメータとする最大出力別の半径と軸長との関係
最大出力25kWの時の最大回転速度をパラメータとする最適な半径Rと軸長Lとの関係を図10に示す。最大出力50kWの時の最大回転速度をパラメータとする最適な半径Rと軸長Lとの関係を図11に示す。最大出力100kWの時の最大回転速度をパラメータとする最適な半径Rと軸長Lとの関係を図12に示す。最大出力150kWの時の最大回転速度をパラメータとする最適な半径Rと軸長Lとの関係を図13に示す。最大出力180kWの時の最大回転速度をパラメータとする最適な半径Rと軸長Lとの関係を図14に示す。図10図14の各図において、最大回転速度が大きくなる程、曲線は下方(軸長が短くなる方向)に位置する。
【0041】
最大出力が25kWの時には、最大回転速度20000rpm~45000rpmの全範囲において、2cm≦R≦6cm、2cm≦L≦25cmが成立しており、自由度が高い。最大出力が大きくなるに連れて、2cm≦R≦6cm、2cm≦L≦25cmを満たす(R,L)が制限されるようになるが、最大回転速度を大きくすれば、(R,L)の取り得る最適範囲は拡大されるのが分かる(図10図14)。特に、150kWの図13においては、最大回転速度45000rpmの時には、半径Rは3.2cmから6cmの全範囲をとることができる。したがって、最大回転速度nを大きくすることが、側面積を小さくでき、小型化の自由度を高くすることになる。
【0042】
10.最大回転速度を実現するための最適化
最大出力Pと最大回転速度nを与えると、(1)式からトルクTが求まる。このトルクは、最大出力Pと最大回転速度nに対する最大トルクを意味する。すなわち、この最大トルクは、その出力と回転速度における限界トルクを意味し、その限界トルク以上のトルクを出力することはできない。一方、(4)式で与えられるトルクTは、モータの最大回転速度におけるLd0、Lq0、Id 、Iq により決定される。したがって、(4)式で与えられるトルクTが、限界トルクとなるように、最大回転速度におけるΦa0、Ld0、Lq0、Id 、Iq を決定すれば、(1)式を満たす最大回転速度nを実現できる。
【0043】
11.ギア減速
次に、最大出力50kWの場合について、モータの回転軸の回転速度を、自動車を推進させる駆動軸(減速機の出力軸)の回転速度に減速する場合の特性について説明する。図15図16図17は、それぞれ、減速比3.3、15、21.7の場合におけるトルク-回転速度との特性を示す。横軸はモータのトルク-回転速度の特性については、モータの回転軸の回転速度を表し、駆動軸のトルク-回転速度との特性については減速機の出力軸の回転速度を表している。実線がモータの回転軸速度と回転軸トルクとの関係を示す特性、破線が減速機の出力軸速度と出力軸トルクとの関係を示す特性である。減速比3.3ではモータの回転速度範囲0~45000rpmが、駆動軸の回転速度範囲0~13600rpmに減速され、最大トルクは86.8Nmから281Nmに3.2倍に増加している。減速比15ではモータの回転速度範囲0~45000rpmが、駆動軸の回転速度範囲0~3000rpmに減速され、最大トルクは86.8Nmから1194Nmに13.8倍に増加している。減速比21.7ではモータの回転速度範囲0~45000rpmが、駆動軸の回転速度範囲0~2070rpmに減速され、最大トルクは86.8Nmから2303Nmに26.5倍に増加している。
【0044】
12.試作機
ロータの半径Rは4cm、軸長Lは8.7cm、側面積Sは218.7cm2である。希土類ボンド磁石(Dyを含まない)を、図2に示すように、ロータ断面において、ロータ一磁極当り周方向に複数の磁石が配列した磁石を径方向に2列配置している。各磁石列のロータ外周側は円弧接線に沿って配列され、ボンド磁石はその円弧接線に垂直な印加磁界で着磁されている。今回は異方性磁石粉末を使用するため、成形時に着磁処理と同様な印加磁界で配向処理が行われる。前述のコンパウンド(S5P-13MF)を使用して射出成形された希土類ボンド磁石の残留磁束密度Br は0.67T、コイル交差磁束Φm は32.6mWb、Φa は40.0mWb、減速比は3.3である。減速機では、冷却した潤滑油を歯車に噴射して、円滑な回転と機械の冷却を行った。最大出力Pは50kWである。最大回転速度45000rpmまで実現した。最大回転速度34000rpmでは、その回転速度での長時間運転が実現した。回転速度34000rpmの時のId は、-141.4A、Iq は34.5A、相電流実効値Ie は84A、トルクは14.3Nm、進角β(無負荷誘導起電力と電機子電流との成す角)は76.3°であった。最大回転速度45000rpmでは、Id は、-150.3A、Iq は25.4A、相電流実効値Ie は88A、トルクは10.9Nm、進角βは80.4°であった。最大回転速度45000rpmが実現されたので、出力50kW、120cm2 /W分≦k≦160cm2 /W分に対して、側面積Sは133.3cm2以上、177.8cm2以下の範囲を最適範囲として実現することができることが分かった。
【0045】
上記の試作機のモータ単体の回転速度n(rpm)とトルクT(Nm)と出力(kW)の関係を測定した。測定値と相電流実効値Ieから換算される諸元の結果を表1に示す。
【表1】
図18の回転速度nとトルクTとの実測特性は、図3の理論特性と良く一致していることが分かる。また、出力Pは回転速度5600rpm以上の範囲では一定であり、高速回転数になっても、出力は低下していないことが理解される。
また、上記の試作機において図19に示す減速機で、減速比を21.8にした。その結果、減速比3.3の時と同様に、最大回転速度45000rpmまで実現した。
上記の試作機から、最大出力は25kWから180kW、最大回転速度は20000rpmから45000rpmを実現するためには、モータのロータの側面積Sやkの値が重要な要素であり、上述したように側面積、半径、軸長を決定すれば、希土類元素を最小とすることができるとの発明を完成させた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、推進力の全部又は一部をモータの駆動力が担う電気駆動移動体用の駆動用モータに利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ギアードモータ
2…希土類ボンド磁石埋込型同期リラクタンスモータ
3…減速機
10…ロータ
12,13…空洞
14,15…希土類ボンド磁石
20…ステータ
21…電機子コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7.A】
図7.B】
図8.A】
図8.B】
図8.C】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19