(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】複合構造材料
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20240522BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240522BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240522BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240522BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20240522BHJP
C08K 5/3432 20060101ALI20240522BHJP
C08L 77/04 20060101ALI20240522BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20240522BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240522BHJP
A01N 43/40 20060101ALN20240522BHJP
A01N 59/06 20060101ALN20240522BHJP
A01N 61/00 20060101ALN20240522BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
B32B27/10
B05D5/00 E
B05D5/00 Z
B05D7/00 K
B05D7/24 301B
B05D7/24 302C
C08K3/30
C08K5/3432
C08L77/04
C09K21/14
B32B27/18 F
A01N43/40 101P
A01N59/06 Z
A01N61/00 D
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2023076375
(22)【出願日】2023-05-03
【審査請求日】2023-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517241824
【氏名又は名称】株式会社タケナカダンボール
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 利文
(72)【発明者】
【氏名】名田 淳
(72)【発明者】
【氏名】芦内 誠
(72)【発明者】
【氏名】大成 冬真
(72)【発明者】
【氏名】白米 優一
(72)【発明者】
【氏名】早川 早一郎
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190303(JP,A)
【文献】特開2014-122203(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108802926(CN,A)
【文献】特開2015-163686(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121539(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/210576(WO,A1)
【文献】特開2010-222496(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102154395(CN,A)
【文献】特開2001-181387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N1/00-65/48
A01P1/00-23/00
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09K21/00-21/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合構造材料が抗菌性及び難燃性を有する組成物で塗布され、
前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、
当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)と
ミョウバン由来の金属イオンとの反応物、及び前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)由来の金属イオンとの反応物
の混合物である、複合構造材料。
【請求項2】
前記イオンコンプレックスの成分のモル比が、前記ミョウバン1molあたり、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)のカルボキシル基が2-3molであることを特徴とする請求項
1に記載の複合構造材料。
【請求項3】
前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を構成するグルタミン酸がD-グルタミン酸、L-グルタミン酸、又はD-グルタミン酸及びL-グルタミン酸の混合物であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の複合構造材料。
【請求項4】
前記複合構造材料が、ダンボール、パルプ又は再生紙のいずれか1種から選択されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の複合構造材料。
【請求項5】
前記ミョウバンが、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項
2に記載の複合構造材料。
【請求項6】
複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法であって、
前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、
当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバン、及び前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)との反応物であり、
前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンを水で混合し反応させ、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンのイオンコンプレックスを得た後、乾燥させ、乾燥物を得る工程と、
前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)を水で混合し反応させ、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)のイオンプレックスを得た後、乾燥させ、乾燥物を得る工程と、
各イオンコンプレックスの乾燥物を、低級アルコール又は中級アルコールに溶解し組成物の溶液を得る工程と、
前記組成物の溶液を複合構造材料に塗布又は上塗りする工程と、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造材料に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスによる感染拡大により、新たな生活様式が確立し巣ごもり需要が発生している。健康で安全な生活を過ごすために、住居、オフィス、飲食又は災害等に関する分野において、衛生環境の改善や安全性の向上が求められている。
【0003】
飛沫感染のような感染症を防止する手段として、卓上に設けられるセパレートや、簡易個室を設けることで、他者との接触を極力減らし、感染を防止する需要が増加している。このようなセパレート等は主にダンボールやアクリル板等を材料に安価で容易に利用できるものとなっている。
【0004】
食中毒や感染症などの原因となる病原性の微生物を予防的に抑制する目的で、抗菌材料を複合構造材料に使用することにより抗菌作用を付与している。
【0005】
また抗菌材料に使用される抗菌剤は、無機系抗菌剤、有機系抗菌剤、天然系抗菌剤に大別される。無機系抗菌剤としては、銀、銅、亜鉛等の金属イオンが古くから知られている。特に銀イオンは、抗菌効果の持続性が高く耐熱性にも優れているので、ダンボールやプラスチック等に配合する際の成形加工に適している。ただし銀イオンは、真菌類に対する抑制効果が弱いことが欠点であり、また有機系抗菌剤は化学合成品よりも製造コストが高く、耐熱性や加工性が悪い点でも依然として課題が残る。
【0006】
上記の問題を解決するため、複合構造材料に第四級アンモニウム塩を固定化する技術が知られている。例えば特許文献1には、ポリ-γ-グルタミン酸イオン(以下、「PGA」と記載することもある)と第四級アンモニウムイオンから形成されるイオンコンプレックスが記載されている。当該イオンコンプレックスは水に不溶性のポリマーであり、有機系抗菌剤と同等の抗菌性や安全性を有し、複合構造材料との接着性が高く、表面塗装、配合等が可能であるため、加工性に優れるものである。また、腐食性を有するハロゲンを含まないため、低腐食性に優れた素材である。さらには、当該イオンコンプレックスは、それ自体、プラスチック、フィルム、繊維などへ成型可能な物性を有している。当該特許文献には、イオンコンプレックスから成形されたフィルムが、抗菌性を有する材料として有用であることが記載されている。
【0007】
このような背景の下、抗菌剤やイオンコンプレックスを塗布した複合構造材料が広く使用されるようになった。例えば住宅、オフィス等だけではなく災害時の避難所でも、簡易に使用できかつ、衛生的であることからセパレートや簡易ベッド等の用途で広く使用されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1のイオンコンプレックスを使用した複合構造材料は可燃性であり、住宅等の火災や、災害時の避難所で火の不始末等による火災が発生した際、ダンボール等の複合構造材料が延焼することにより、火災が広くなり被害が大きくなるという問題点があった。そのため、抗菌性だけでなく、難燃性を有するイオンコンプレックスを開発することが当該技術分野において望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、ポリ-γ-グルタミン酸Naと、ミョウバンのイオンコンプレックスとして優れた抗菌性と難燃性を有する組成物が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、複合構造材料が抗菌性及び難燃性を有する組成物で塗布され、
前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)と金属イオンとの反応物である、複合構造材料及び、当該複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、複合構造材料が抗菌性及び難燃性を有する組成物で塗布され、前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバン由来の金属イオンとの反応物、及び前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)由来の金属イオンとの反応物の混合物である、複合構造材料に関する。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記イオンコンプレックスの成分のモル比が、前記ミョウバン1molあたり、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)のカルボキシル基が2-3molであることを特徴とする請求項1に記載の複合構造材料に関する。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を構成するグルタミン酸がD-グルタミン酸、L-グルタミン酸、又はD-グルタミン酸及びL-グルタミン酸の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合構造材料に関する。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記複合構造材料が、ダンボール、パルプ又は再生紙のいずれか1種から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合構造材料に関する。
【0016】
請求項5に係る発明は前記ミョウバンが、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の複合構造材料に関する。
【0017】
請求項6に係る発明は、複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法であって、前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバン、及び前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)との反応物であり、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンを水で混合し反応させ、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンのイオンコンプレックスを得た後、乾燥させ、乾燥物を得る工程と、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)を水で混合し反応させ、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)のイオンプレックスを得た後、乾燥させ、乾燥物を得る工程と、各イオンコンプレックスの乾燥物を、低級アルコール又は中級アルコールに溶解し組成物の溶液を得る工程と、前記組成物の溶液を複合構造材料に塗布又は上塗りする工程と、を含む方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る複合構造材料によれば、複合構造材料が抗菌性及び難燃性を有する組成物で塗布され、前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバン由来の金属イオンとの反応物、及び前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)由来の金属イオンとの反応物の混合物であることを特徴とする、複合構造材料であるので、ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)と金属イオンのイオンコンプレックスの抗菌作用及び難燃作用により、有機系抗菌剤と同等の抗菌性や安全性を有し、かつ複合構造材料へ被膜形成し、表面塗装が可能であるため、加工性に優れる。そのため、複合構造材料に付着した細菌の増殖を顕著に抑制することができ、またその難燃作用により、延焼が生じにくいという優れた作用効果を奏する。即ち、本発明は住宅での使用や災害時の避難所での使用等幅広い用途に利用でき汎用性に優れるものである。
また、ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバン及びヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)のイオンコンプレックスの抗菌作用や接着性、及びコーティング剤としての機能により、ミョウバン由来のアルミニウムイオンやHDP由来の臭化物イオン等の金属イオンとのイオンコンプレックスを複合構造材料へ均一に塗布し被膜形成することができ、その抗菌作用が複合構造材料全体にわたり作用することで、複合構造材料に付着した細菌の増殖を抑制することができ、また難燃作用により、延焼が生じにくいという優れた作用効果を奏する。
【0019】
請求項2に係る複合構造材料によれば、前記イオンコンプレックスの成分のモル比が、前記ミョウバン1molあたり、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)のカルボキシル基が2-3molであることを特徴とし、最適な割合のポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンのイオンコンプレックスを特定することでより効果の高い、抗菌作用及び難燃作用を有することができるという優れた作用効果を奏する。
【0020】
請求項3に係る複合構造材料によれば、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を構成するグルタミン酸がD-グルタミン酸、L-グルタミン酸、又はD-グルタミン酸及びL-グルタミン酸の混合物であることを特徴とするので、安定した融点を有するイオンコンプレックスを形成することができ、生分解性に優れ環境にも良いという優れた作用効果を奏する。
【0021】
請求項4に係る複合構造材料によれば、前記複合構造材料が、ダンボール、パルプ又は再生紙のいずれか1種から選択されることを特徴とするので、安価に利用でき、携帯性やその使用前後の保管時における省スペース化、組み立ての簡素化等を行うことができ、例えば避難所等で当該ダンボールを使用し簡便にセパレートを設けることができ、さらに抗菌性を有することから、細菌による汚染を防止し、その上、難燃性を有するため、火災等が生じた際も延焼を防ぐことができるという優れた作用効果を奏する。
【0022】
請求項5に係る複合構造材料によれば、前記ミョウバンが、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とするので、人体への刺激性が弱く高い抗菌性を持ち、燃焼により徐々に結晶水を放出することや、ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)水和物由来の水分との相乗効果により、延焼を防ぎ、高い難燃性を発揮するという優れた作用効果を奏する。
【0023】
請求項6に係る方法によれば、複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法であって、前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバン、及び前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)との反応物であり、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンを水で混合し反応させ、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンのイオンコンプレックスを得た後、乾燥させ、乾燥物を得る工程と、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)を水で混合し反応させ、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)のイオンプレックスを得た後、乾燥させ、乾燥物を得る工程と、各イオンコンプレックスの乾燥物を、低級アルコール又は中級アルコールに溶解し組成物の溶液を得る工程と、前記組成物の溶液を複合構造材料に塗布又は上塗りする工程と、を含むことを特徴とするので、ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)とミョウバンのイオンコンプレックスの抗菌作用及び難燃作用により、有機系抗菌剤と同等の抗菌性や安全性を有し、かつ複合構造材料への接着性が高く、表面塗装や被膜形成が可能であるため、加工性に優れる。そのため、複合構造材料に付着した細菌の増殖を顕著に抑制することができ、またその難燃作用により、延焼が生じにくいという優れた作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る複合構造材料の実施例で使用する耐熱性試験に用いる装置の側面図である。
【
図2】本発明に係る複合構造材料の実施例で使用する耐熱性試験に用いる装置の上面図である。
【
図3】本発明に係る複合構造材料の実施例で示すin vitro抗菌試験の結果である。
【
図4】本発明に係る複合構造材料の実施例で示す抗菌性実装試験用ダンボールの抗菌試験結果である。
【
図5】(b)本発明に係る複合構造材料の実施例で示す無水エタノールコーティングによるコーティング面接触部殺菌効果についての実装試験の結果である。(e)本発明に係る複合構造材料の実施例で示すPGA/HDPおよびPGA/Meコーティングによるコーティング面接触部殺菌効果についての実装試験の結果である。
【
図6】本発明に係る複合構造材料の実施例で示す耐燃性試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る複合構造材料およびPGAイオンコンプレックスを含む組成物を複合構造材料に塗布する方法について詳述する。
【0026】
本発明に係る複合構造材料に塗布するポリ-γ-グルタミン酸イオンコンプレックス(以下、「PGAIC」と記載することもある)について、当該ポリ-γ-グルタミン酸イオンコンプレックスは納豆の粘性の主成分であるポリ-γ-グルタミン酸を改質した多機能性素材である。
【0027】
マイナスの電荷を備えるPGAのカルボキシル基に対し、カチオン性分子を反応させることでイオン結合を形成して、瞬時に改質されたPGAICが合成される。合成されたPGAICはカチオン性分子の機能(抗菌・抗ウイルス性等)がPGAの各種機能(微生物捕捉)によって拡張されている。
【0028】
納豆の大豆一粒には100億個を超える微生物が存在するが、PGAは微生物親和性が高く、微生物の誘引・定着の責任因子として機能する。驚くべきことにその正味のPGA重量は0.2%と極めて少ない。かかる機能性材料PGAICはPGA由来の微生物親和性によりカチオン分子機能の拡張に加え、被生分解能を併せもつ。加えて、長期に渡る機能性の持続や特定環境下における機能性を持ち合わせたイオンコンプレックス独自の機能を有する。
【0029】
また本発明の複合構造材料に塗布される組成物において、PGAの種類は特に限定されない。PGAはL-グルタミン酸及び/又はD-グルタミン酸からなるものがあるが、いずれを使用しても良い。また一方の割合が多いほど、安定性が優れ、特にL-グルタミン酸は生分解性にも優れるため、好適にはL-グルタミン酸を用いる。
【0030】
本発明の複合構造材料に使用する溶媒としては、水、低級アルコール又は中級アルコールが好適である。PGAイオンコンプレックスは水で調整し、当該PGAイオンコンプレックスを乾燥させた後、アルコールに溶解することができる。目的化合物であるPGAイオンコンプレックスは水に対して不溶性であることから、反応後における目的物の単離精製が容易となる。
また低級アルコール又は中級アルコールは粉末化したPGAイオンコンプレックスを溶解する際に使用可能である。
【0031】
本発明で使用するミョウバンとしては、例えばカリウムミョウバン、アンモニウムミョウバン、焼アンモニウムミョウバン等が挙げられ、これらの中では、カリウムミョウバンが比較的良好に使用できる。
【0032】
上記PGAイオンコンプレックスの成分のモル比が、前記ミョウバン1molあたり、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)のカルボキシル基が2-3molでとすることが多い。
【実施例】
【0033】
以下、本発明に係る複合構造材料及びPGAイオンコンプレックスを含む組成物を複合構造材料に塗布する方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<PGA/HDPの調製>
ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)1kgを水20kgに溶解させたPGA溶液とした。この時、PGA濃度は1~5質量%以下に調製することが好ましい。
【0035】
次にPGAのパートナー分子となるヘキサデシルピリジニウムブロミド(HDP)粉末3kgを温水20kgに溶解させる。この時、過不足なくイオンコンプレックス化を促すため、PGAカルボキシル基に等molとなるようにHDP粉末を用意した。また、溶解に使用する温水の温度は60℃~100℃以下が好ましい。
【0036】
PGA溶液に対し、HDP溶液をすべて添加する。両溶液の反応が進みPGAとHDPのイオンコンプレックス(以下、PGA/HDPイオンコンプレックスと称することもある)が形成されたことにより、瞬時に白濁が生じる。
反応後液中のPGA/HDPを遠心分離に供して回収し、-80℃にて一晩凍結させた。
【0037】
凍結後、凍結乾燥機に素早く移し、PGA/HDPの重量減少が観察されなくなるまで乾燥を行なった。そして、乾燥後に得られたPGA/HDPを以降の実施例で用いられる実験に使用した。
【0038】
<PGA/Meの調製>
ポリ-γグルタミン酸Na(PGA)1kgを水20kgに溶解させPGA溶液とした。この時、PGA濃度は1%以上5%以下に調製することが好ましい。
【0039】
PGAのパートナー分子となるミョウバン(以下、Meと称することもある)1.2kgを水20kgに溶解させミョウバン溶液とした。この時、過不足なくイオンコンプレックス化を促すため、PGAカルボキシル基に等molとなるようにミョウバンを用意した。
【0040】
PGA溶液に対し、ミョウバン溶液をすべて添加した。ミョウバン中に含まれるAlイオンと反応することにより瞬時に白濁が生じイオンコンプレックス(以下、「PGA/Me」と称することもある)を形成した。
【0041】
反応後液中のPGA/Meを遠心分離に供して回収し、-80℃にて一晩凍結させた。
【0042】
凍結後、凍結乾燥機に素早く移し、PGA/Meの重量減少が観察されなくなるまで乾燥を行なった。そして、乾燥後に得られたPGA/Meを以降の実施例で用いる実験に使用した。
【実施例1】
【0043】
<In vitro抗菌試験用ダンボール片の調製>
暖ダンルームベッドII(株式会社タケナカダンボール社製)の一部を切り出し1cm×1cmのダンボール片を作製した。
【0044】
0.625%濃度となるように無水アルコールに分散させたPGA/Me分散液を調製した。5%濃度となるように無水アルコールに溶解させたPGA/HDP溶液を調製した。PGA/HDP濃度が5%、PGA/Me濃度が0.625%となるようにPGA/HDPとPGA/Meを無水アルコールにそれぞれ溶解、分散させ、PGA/HDPおよびPGA/Me調製液を調製した。
上記ダンボール片を無水エタノール、0.625%PGA/Me分散液、5%PGA/HDP溶液、PGA/HDPおよびPGA/Me調製液にそれぞれコーティング(ダンボール片の2面及び内部にそれぞれ1mLずつ)して、重量変化のなくなるまで25℃で乾燥させた。
無処理、無水エタノール処理、PGA/Me処理、PGA/HDP処理、PGA/HDPおよびPGA/Me処理ダンボール片の5種類を用意し、抗菌試験に用いた。
【0045】
抗菌試験は、段階希釈によるコロニーフォーミングユニット(CFU)測定法を採用した。具体的にはEscherichia coli JM109とStaphyrococcus aureus IFO3060をそれぞれLuria-Bertani(LB)液体培地で一定の濁度(OD600=0.6)になるまで37℃、145rpmで振とうしながら前培養した。5mLの生理食塩水にE.coliの初期投入菌数が1.2×105細胞、S.aureusの初期投入菌数が2.4×105細胞となるように前培養液を添加し、適宜菌懸濁液を調製した。なお、菌懸濁液の一部を分取して生理食塩水で希釈した後、LB平板培地に塗布して37℃で24時間培養し、培養後に目視でCFUを測定することで初期投入菌数を測定した。
調製した菌懸濁液に無処理、無水エタノール処理、PGA/Me処理、PGA/HDP処理、PGA/HDPおよびPGA/Me処理ダンボール片(1cm×1cm)をそれぞれ投入し、37℃で4時間、145rpmで振とうした。振とう後、菌懸濁液の一部を分取して生理食塩水で希釈した後、LB平板培地に塗布して37℃で24時間培養した。培養後に目視でCFUを測定し、対照区と比較することで抗菌力を測定した。
【0046】
抗菌試験の結果を
図3に示した。抗菌力の指標として、Log reduction score(LRS)を用いた。これは生育した菌数から一定時間後にどの程度生菌数が減少したかを対数で示した数値であり、仮にLRS=3であるならば99.9%の、LRS=5であるならば99.999%の抗菌力を発揮していることを示唆する。
図3に示した通り、無処理ダンボール片(a)と無水エタノール処理したダンボール片(b:Et-OH処理)、およびPGA/Me浸漬処理ダンボール片(c)では大腸菌、黄色ブドウ球菌どちらにも全く抗菌力を示さない一方、PGA/HDP浸漬処理したダンボール片(d)とPGA/HDP及びPGA/Me浸漬処理ダンボール片(e)ではLRS=5となり99.999%という顕著な抗菌力を発揮している。このため、ダンボール片に抗菌性を付与できたと判断した。
【実施例2】
【0047】
<抗菌性実装試験用ダンボールの調製>
0.625%PGA/Me分散液、5%PGA/HDP溶液、PGA/HDPおよびPGA/Me調製液58mLをそれぞれ31cm×47cmのダンボール面にスプレーで塗布しPGA/Meが0.25μg/cm2、PGA/HDPが2.0μg/cm2、あるいはPGA/HDPとPGA/Meが2.0μg/cm2と0.25μg/cm2となるように調整した。
コーティングしたダンボールを重量変化がなくなるまで乾燥させた。
【0048】
抗菌試験は試験用ダンボールを被験者が手指を用いて「持つ」「開ける」「たたむ」等の接触を行うという条件で行い、抗菌力を測定する試験を行った。具体的には、石鹸で手指消毒を行なった後、上記接触を伴う日常動作を5時間以上行なった。その後、抗菌性実装試験用ダンボールに手指を3分間接触させた後、手指を離し、LB平板培地に静かに手指を接触させた。1分間、LB培地へ手指を接触させた後、静かに手指を離し、LB培地上に転写された菌を37℃で24時間培養した。培養後にLB平板培地上のコロニーを観察し、対照区と比較することで抗菌性を確認した。
【0049】
試験の結果、PGA/MeとPGA/HDPがコーティングによって、試験用ダンボールに接触した手指由来の微生物の増殖を抑制した(
図4c,d)。またPGA/MeとPGA/HDPが共存した場合にも微生物の増殖を抑制した(
図4e,
図5e)。対照として設定したPGAIC非コーティング面では多種多数の微生物が確認された(
図4b、
図5b)。以上の結果より、PGAICコーティングされたダンボールに「持つ」「開ける」「たたむ」等の接触を行なうことで接触面が抗菌効果を持つことが実証された。PGA/MeについてはIn vitro試験に代表される高微生物濃度では抗菌性を確認し難いが、実生活における手指上等の微生物濃度であれば抗菌性を発揮するものと推考される。人から人へ渡され、様々な場所を移動するダンボールに、かかる幅広い対象への抗菌効果が、実用的な行動(行為)の中で確認されたことは本結果の実利性についても十分に担保されたものであると考えられる。
【実施例3】
【0050】
<耐燃性ダンボール片の調製>
暖ダンルームベッドII(株式会社タケナカダンボール社製)の一部を切り出し5cm×5cmのダンボール片を作製した。
5%PGA/HDPアルコール溶液にPGA/Meを投入し、PGA/Meを十分に拡散させた後、素早くイオンコンプレックス混合液をダンボール片に塗布し、コーンラージ棒により塗り拡げた。この時、計算上ダンボール片表面積(25cm2)あたり、約50mgのPGA/HDP及び約6.25mgのPGA/Meを塗布したことになる。
塗布処理後、重量変化がなくなるまで25℃で乾燥させた。
無処理、アルコール処理、PGA/HDPのみ処理、PGA/Meのみ処理、PGA/HDP及びPGA/Me処理をそれぞれ用意し、耐燃性試験に用いた。
【0051】
耐燃性試験は上記耐燃性ダンボール片を用いて、試験装置(1)の試験台(3)に無処理(a)、アルコール処理(b)、PGA/HDPのみ処理(c)、PGA/Meのみ処理(d)、PGA/HDP及びPGA/Me(e)をそれぞれ処理したダンボール片(4)をそれぞれ設置し、アルコールランプ(2)の炎先端がダンボール片に接触する位置で加熱を行い、耐燃性を検証する試験を行った。
【0052】
耐燃性試験の結果を
図6に示す。アルコールランプ(2)の炎は先端部で600℃を超える。試験台(3)を介して無処理のダンボール片にアルコールランプ(2)の炎を当てた場合、平均約32秒で燃えることが明らかとなった。また、PGA/HDPのみ、PGA/Meのみの場合でもそれぞれ平均約32秒、39秒で燃えるため、耐燃性はないと判断した。一方、PGA/HDP及びPGA/Meの混合液を塗布した場合、燃焼せず徐々に炭化していくことが判明した(
図6)。
【0053】
上記試験結果のように、既存のPGA/HDPのみ、PGA/Meのみを用いることでは、それぞれ難燃性を示さない。一方で、PGA/HDP及びPGA/Meを併用することによってのみ、高い難燃性を有するという優れた効果を奏することは、PGAICにかかる蓋然性では説明できない新規な発見であるといえる。
【0054】
PGA/HDP及びPGA/Meを併用することによる優れた効果は、PGA/HDPの強い抗菌性と接着性、及びPGA/Meの耐熱性や吸熱性の同時相乗的な効果によって実現したものであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る複合構造材料及び、当該複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法により得られた複合構造材料は、優れた抗菌性や難燃性を有する。この複合構造材料は、家庭内だけでなく、オフィスでの使用や災害時の避難所等特殊な環境下ででも使用することができ、複合構造材料として様々なシーンに幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 試験装置
2 アルコールランプ
3 試験台
4 ダンボール片
【要約】
【課題】
本発明は、複合構造材料が抗菌性及び難燃性を有する組成物で塗布され、前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)と金属イオンとの反応物である、複合構造材料及び、当該複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
複合構造材料が抗菌性及び難燃性を有する組成物で塗布され、前記組成物はポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)を含むイオンコンプレックスからなり、当該イオンコンプレックスは、前記ポリ-γ-グルタミン酸Na(PGA)と金属イオンとの反応物である、複合構造材料及び当該複合構造材料に抗菌性及び難燃性を有する組成物を塗布又は上塗りする方法を備えている。
【選択図】
図6