(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ポドサイトの培養方法、ポドサイトの培養用キット、被検物質の毒性判定方法、及び、生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20240522BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240522BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240522BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240522BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240522BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240522BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N5/071
C12M1/00 C
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2021537302
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2020029676
(87)【国際公開番号】W WO2021024985
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019146636
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発」「創薬における高次in vitro評価系としてのKidney-on-a-chipの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】南学 正臣
(72)【発明者】
【氏名】土肥 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 啓志
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230737(WO,A1)
【文献】HALE, L. J., et al.,3D organoid-derived human glomeruli for personalised podocyte disease modelling and drug screening,NATURE COMMUNICATIONS[オンライン],2018年12月04日,9: 5167,インターネット〈https://doi.org/10.1038/s41467-018-07594-z〉,[検索日2020.09.14]
【文献】MINER, H. J.,The glomerular basement membrane,EXPERIMENTAL CELL RESEARCH,2012年03月05日,Vol. 318, No. 9,pp. 973-978
【文献】矢尾板永信,他,初代培養からみたポドサイトの特性,日本腎臓学会誌,2006年04月25日,Vol. 48, No. 3,p. 215, O-229
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00
C12Q 1/00
C12M 3/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、ラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養することを特徴とする樹状突起構造を有するポドサイトの培養方法。
【請求項2】
前記ラミニンα5β2γ1が、基板上に固定化されている、請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
前記温度感受性不死化ポドサイトが、細胞外マトリックス非存在下で培養したものである、請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
前記温度感受性不死化ポドサイトが、33℃、増殖条件下で培養したものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の培養方法。
【請求項5】
前記ROCK阻害剤がY27632である、請求項1~4のいずれか一項に記載の培養方法。
【請求項6】
本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられる挿入部とを備え、前記本体部は、培養液を収容可能な液収容空洞を含み、前記挿入部は、細胞を収容可能な細胞収容空間を含む細胞収容部と、前記細胞収容空間の下面を画定する膜部材であって培養液が透過可能な膜部材とを含み、前記本体部に挿入部が取り付けられると前記膜部材が液収容空洞内に位置し、前記液収容空洞に供給された培養液が前記細胞収容空間内に流入し、前記細胞収容空間内に収容された細胞が培養液の流れの中で培養可能になる細胞培養装置を用いて培養する、請求項1~5のいずれか一項に記載の培養方法。
【請求項7】
温度感受性不死化ポドサイト、ラミニンα5β2γ1、及びROCK阻害剤を含む、樹状突起構造を有するポドサイトの培養用キット。
【請求項8】
コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、ラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養して得られた樹状突起構造を有するポドサイトに、被検物質を添加した後、前記ポドサイトの樹状突起構造の傷害の有無を検証し、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害がある場合に、前記被検物質が生体内のポドサイトに対し毒性があると判定することを特徴とする生体内ポドサイトに対する被検物質の毒性判定方法。
【請求項9】
前記樹状突起構造の傷害の有無の検証が、前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質の検出である、請求項8に記載の判定方法。
【請求項10】
前記物質が、アルブミン、トランスフェリン及びIgGからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項9に記載の判定方法。
【請求項11】
前記物質が、蛍光標識されている、請求項9又は10に記載の判定方法。
【請求項12】
前記物質の検出と同時に、イヌリンの、前記ポドサイトの樹状突起構造の通過を検出する、請求項9~11のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項13】
コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、ラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養して得られた樹状突起構造を有するポドサイトに、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害を与える条件下で被検物質を添加した後、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害があるか否かを検証し、前記樹状突起構造の傷害を抑制する被検物質を選択することを特徴とする生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポドサイトの培養方法、ポドサイトの培養用キット、被検物質の毒性判定方法、及び、生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法に関する。
本願は、2019年8月8日に、日本に出願された特願2019-146636号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
腎臓病学におけるネフローゼ症候群は、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が傷害されることにより惹起される蛋白尿・低アルブミン血症を主な症状とする症候群であり、腎代替療法を要する腎死に至る疾患群として世界的に問題となっている。
ポドサイトの傷害においては、成熟期の生体内で観察される樹状突起構造が消失する知見が、病的変化として位置づけられている。培養ポドサイトを平面基板上で生体内の形質を伴った状態で培養する技術は、創薬研究における毒性試験や、ネフローゼ症候群の病態解明において大きな恩恵をもたらすことが期待される。
【0003】
しかし、従来の培養技術においては培養ポドサイトの形態は樹状突起構造を再現することができず、ネフローゼ症候群領域の創薬・病態解明の研究発展を阻んでいる。2017年に新潟大学の矢尾板らより、ラット初代培養ポドサイトにおける入り組む樹状突起構造を再現する培養法が報告された(非特許文献1)が、他の細胞種での再現が困難であり、また、初代培養系なので、毎回動物から臓器単離を行うことが必要となり、時間、コスト及び倫理上の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kidney Int. 2018 Feb;93(2):519-524.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より短時間、低コストで、倫理上問題なく、樹脂突起構造を有するポトサイドを培養する方法が可能になれば大きな恩恵をもたらす。本発明は、毎回臓器を単離することなく、短時間、低コストで、敷石状配列とは異なる入り組む樹状突起構造を有するポドサイトを培養する方法、前記樹状突起構造を有するポドサイトの培養キット、前記培養方法によって得られたポドサイトを用いる被検物質の毒性判定方法、及び前記培養方法によって得られたポドサイトを用いる生体ポドサイト保護剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、細胞外マトリクス(ECM:Extracellular Matrix)であるラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養することにより、株化細胞で、従来の敷石状配列とは異なる入り組む樹状突起構造を再現することができることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の態様を含む。
[1] コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、ラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養することを特徴とする樹状突起構造を有するポドサイトの培養方法。
[2] 前記ラミニンα5β2γ1が、基板上に固定化されている、[1]に記載の培養方法。
[3] 前記温度感受性不死化ポドサイトが、細胞外マトリックス非存在下で培養したものである、[1]又は[2]に記載の培養方法。
[4] 前記温度感受性不死化ポドサイトが、33℃、増殖条件下で培養したものである、[1]~[3]のいずれか一項に記載の培養方法。
[5] 前記ROCK阻害剤がY27632である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の培養方法。
[6] 本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられる挿入部とを備え、前記本体部は、培養液を収容可能な液収容空洞を含み、前記挿入部は、細胞を収容可能な細胞収容空間を含む細胞収容部と、前記細胞収容空間の下面を画定する膜部材であって培養液が透過可能な膜部材とを含み、前記本体部に挿入部が取り付けられると前記膜部材が液収容空洞内に位置し、前記液収容空洞に供給された培養液が前記細胞収容空間内に流入し、前記細胞収容空間内に収容された細胞が培養液の流れの中で培養可能になる細胞培養装置を用いて培養する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の培養方法。
[7] 温度感受性不死化ポドサイト、ラミニンα5β2γ1、及びROCK阻害剤を含む、樹状突起構造を有するポドサイトの培養用キット。
[8] コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、ラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養して得られた樹状突起構造を有するポドサイトに、被検物質を添加した後、前記ポドサイトの樹状突起構造の傷害の有無を検証し、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害がある場合に、前記被検物質が生体内のポドサイトに対し毒性があると判定することを特徴とする生体内ポドサイトに対する被検物質の毒性判定方法。
[9] 前記樹状突起構造の傷害の有無の検証が、前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質の検出によるものである、[8]に記載の判定方法。
[10] 前記物質が、アルブミン、トランスフェリン及びIgGからなる群から選ばれる少なくとも一種である、[9]に記載の判定方法。
[11] 前記物質が、蛍光標識されている、[9]又は[10]に記載の判定方法。
[12] 前記物質の検出と同時に、イヌリンの、前記ポドサイトの樹状突起構造の通過を検出する、[9]~[11]のいずれか一項に記載の判定方法。
[13] コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、ラミニンα5β2γ1上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養して得られた樹状突起構造を有するポドサイトに、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害を与える条件下で被検物質を添加した後、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害があるか否かを検証し、前記樹状突起構造の傷害を抑制する被検物質を選択することを特徴とする生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポドサイトの培養方法、ポドサイトの培養用キット、被検物質の毒性判定方法、及び、生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で作製されたマウスポドサイトの明視野での顕微鏡写真(上段)、ビメンチン及びDAPI染色像(下段)を示す。左が対照の培養方法で培養したポドサイト、右がラミニンα5β2γ1(以下、L521とも称する)とY27632を用いて培養したポドサイトを示す。
【
図2】実施例2で作製されたラットポドサイトのビメンチン及びDAPI染色像を示す。上段が対照の培養方法で培養したポドサイト、下段がL521とY27632を用いて培養したポドサイトを示す。
【
図3】実施例1で作製されたマウスポドサイトのポドカリキシン(PODXL)、シナプトポジン(SYNPO)、ビメンチン(Vim)及びインテグリンα3(ITGA3)の各マーカーの発現を示したグラフである。横軸のPGCは、増殖条件で培養したポドサイト、STDは、L521及びY27632を用いて、血清を添加して分化条件で培養したポドサイト、PRCは、L521及びY27632を用いて、無血清で、分化条件で培養したポドサイトをそれぞれ示す。縦軸は、各々のマーカーの発現量を示す。
【
図4】比較例1~3で作製されたマウスポドサイトの明視野の顕微鏡写真を示す。左から1番目の写真は、比較例1に示した、Y27632非存在下、L521存在下で無血清で培養したポドサイト、左から2番目の写真は、比較例2に示した、Y27632及びL511存在下で、無血清で培養したポドサイト、左から3番目の写真は、比較例3で示した、Y27632及びL521存在下で、血清培地で培養したポドサイト、左から4番目の写真は、実施例1で示した、Y27632及びL521存在下で、無血清で培養したポドサイトをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ポドサイトの培養方法]
本発明の樹状突起構造を有するポドサイトの培養方法は、コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、L521上で、ROCK阻害剤存在下、好ましくはY27632存在下で、無血清で培養することを特徴とする。
【0010】
本発明の培養方法において、ポドサイトとは、糸球体上皮細胞乃至糸球体足細胞であって、生体内の腎臓において血液を濾過するために重要な機能を発揮する。そして、生体の腎臓内で、ポドサイトは、細胞体より数本の突起(一次突起)が伸長し、一次突起より伸長する多数の突起(足突起)が隣のそれと絡み合った形態(スクラム構造)を有している。スクラム構造の足突起間に生じた隙間にSlit Diaphragm Proteinと称される蛋白質が保持され、血液を濾過する際には、老廃物である尿毒素や不要な電解質等と生体内にとっては必要な血漿蛋白(アルブミン等)とを選別しながら濾過するサイズバリアとして機能する(尿毒素や電解質は血漿蛋白よりも分子サイズが小さい)。このサイズバリアが消失する疾患がネフローゼ症候群という多量の蛋白尿を呈するものである。
【0011】
前記温度感受性不死化ポドサイトとしては、マウス、ラット、ヒト等の動物由来のポドサイトを温度感受性不死化したものであれば、特に制限はないが、例えば、SV40ウイルスによって不死化した細胞等が挙げられる。温度感受性不死化ポドサイトは、公知の方法を用いて作製することができ、例えば、温度感受性SV40ラージT抗原を導入した動物の腎糸球体から単離する方法や、野生型の動物の糸球体から単離したポドサイトにSV40ラージT抗原を遺伝子導入する方法等により作製することができる。
【0012】
本発明の培養方法においては、まず、温度感受性不死化ポドサイトを、コンフルエントになるまで増殖させる。増殖は、増殖条件(Permissive growth condition;PGCとも称する)下で行うことが好ましい。増殖条件としては、例えば、25~35℃、好ましくは、33℃で培養する条件が挙げられる。25~35℃、好ましくは33℃の増殖条件下で培養することにより、前記温度感受性不死化ポドサイトの増殖が促進される。ここで、「コンフルエント」とは、細胞が増殖し、細胞間に隙間がなくなりはじめた状態のことを言う。なお、前記温度感受性不死化ポドサイトにおいて、T抗原転写領域の上流にインターフェロンγによって転写が促進するプロモーター領域を設けた遺伝子導入を行っている場合は、より効率的に増殖させるために、インターフェロンγ(以下、IFNγとも称する)を添加することが好ましい。
前記温度感受性不死化ポドサイトは、細胞外マトリックス存在下で培養したものであっても、非存在下で培養したものであってもよいが、細胞マトリックス非存在下で培養したものであることが好ましい。
【0013】
次に、前記コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、細胞外マトリックスであるL521上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養することにより、樹状突起構造を有するポドサイトを再現することができる。
細胞外マトリックスであるL521は、基板上に固定されていることが好ましい。基板としては、特に制限はないが、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック製、あるいはガラス製のディッシュやプレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、シリコーン等の材料から成る多孔膜等が挙げられる。L521が基板上に固定されていることにより、安定して樹状突起構造を有するポドサイトを培養することができる。
【0014】
本発明の培養方法において、ラミニンとは、基底膜の主要な構成分子である糖タンパク質であり、α鎖と、β鎖、γ鎖が会合した構造を有する。ラミニンのこれらのポリペプチド鎖はそれぞれ数種類存在し、その組み合わせにより十数種類のラミニンが存在する。ラミニンα5β2γ1は、α鎖のサブユニット番号が5、β鎖のサブユニット番号が2、γ鎖のサブユニット番号が1のラミニンである。ラミニンα5β2γ1(L521)は、ラミニン-11とも言う。L521は、ポドサイトが樹状突起構造を有する成熟期の糸球体基底膜におけるラミニンの主要なサブタイプであり、成熟期ポドサイトに発現する主要な接着斑分子であるインテグリンα3β1と親和性が高いことが知られている。
【0015】
ROCK阻害剤とは、Rho-associated coiled-coil forming kinase(Rho結合キナーゼ)阻害剤である。本発明の培養方法において用いられるROCK阻害剤としては、特に制限はないが、Y27632が好ましい。
【0016】
本発明の培養方法において用いられる無血清で培養するための培地としては、無血清培地であれば特に制限はないが、例えば、血清を含まないRPMI培地等が挙げられる。
【0017】
前記コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、L521上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養するための条件は、分化条件(Non-Permissive growth condition;以下、Non-PGCとも称する)が好ましい。前記分化条件としては、例えば、35~40℃、好ましくは、37℃で培養することが挙げられる。
【0018】
本発明の培養方法において、ポドサイトが樹状突起構造を有するかは、顕微鏡による構造観察、ビメンチンによる染色等によって確認することができる。また、成熟期ポドサイトにおいて発現が認められる遺伝子の発現により確認することもできる。成熟期ポドサイトにおいて発現が認められる遺伝子としては、例えば、ポドカリキシン(podocalyxin;PODXL)、シナプトポジン(synaptopodin;SYNPO)、ビメンチン(Vimentin;Vim)、インテグリンα3(integrin-α3;ITGA3)等が挙げられる。
【0019】
本発明の培養方法は、特開2018-42556号に開示された培養装置を用いて培養してもよい。前記培養装置としては、例えば、本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられる挿入部とを備え、前記本体部は、培養液を収容可能な液収容空洞を含み、前記挿入部は、細胞を収容可能な細胞収容空間を含む細胞収容部と、前記細胞収容空間の下面を画定する膜部材であって培養液が透過可能な膜部材とを含み、前記本体部に挿入部が取り付けられると前記膜部材が液収容空洞内に位置し、前記液収容空洞に供給された培養液が前記細胞収容空間内に流入し、前記細胞収容空間内に収容された細胞が培養液の流れの中で培養可能になる細胞培養装置等が挙げられる。
上記装置を用いて培養する方法としては、具体的には、下記の手順で行う方法が挙げられる。
(工程1)挿入部内の多孔膜に対しL521のコーティングを行う。
(工程2)挿入部内に対しY27632を含む無血清培地へ置換を行い、本体部にも前記培地を注入する。
(工程3)細胞収容空間内で細胞を培養する。
(工程4)細胞剥離溶液で細胞を剥離した後、得られた細胞剥離溶液を、Y27632を含まない無血清培地で中和し、細胞を遠心分離にて細胞塊とする。細胞塊以外の上清液を除去し、細胞塊をY27632含有無血清培地で希釈し、樹状突起構造を有するポドサイトを含む細胞懸濁液を得る。
【0020】
[ポドサイトの培養用キット]
本発明の樹状突起構造を有するポドサイトの培養用キットは、温度感受性不死化ポドサイト、L521、及びROCK阻害剤を含む。本発明の樹状突起構造を有するポドサイトの培養用キットにおいて、温度感受性不死化ポドサイト、L521、及びROCK阻害剤は、前記したものが挙げられる。
【0021】
本発明の樹状突起構造を有するポドサイトの培養用キットにおいて、L521は、基板上に固定されているものを用いることが好ましい。前記基板としては、前記ポドサイトの培養方法において挙げられた基板を用いることができる。L521が基板上に固定されていることにより、安定して樹状突起構造を有するポドサイトを培養することができる。
【0022】
本発明のキットにおいて、前記温度感受性不死化ポドサイトは、細胞外マトリックス存在下で培養したものであっても、非存在下で培養したものであってもよいが、細胞外マトリックス非存在下で培養したものであることが好ましい。
【0023】
本発明のキットにおいて、前記温度感受性不死化ポドサイトは、25~35℃、好ましくは、33℃で培養したものが好ましい。前記温度感受性不死化ポドサイトを25~35℃、好ましくは33℃の増殖条件で培養することにより、前記温度感受性不死化ポドサイトの増殖が促進される。
【0024】
本発明のキットには、温度感受性不死化ポドサイト、L521、及びROCK阻害剤以外に、他の構成要素を含んでいてもよい。例えば、温度感受性不死化ポドサイトを分化可能なIFNγ非含有の無血清培地を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のキットには、前記培養方法で用いる特開2018-42556号に開示された前記細胞培養装置を含んでいてもよい。
【0026】
[生体内ポドサイトに対する被検物質の毒性判定方法]
本発明の生体内ポドサイトに対する被検物質の毒性判定方法は、コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、L521上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養して得られた樹状突起構造を有するポドサイトに、被検物質を添加した後、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害があるか否かを検証し、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害がある場合に、前記被検物質が生体内のポドサイトに対し毒性があると判定することにより行うことができる。
【0027】
本発明の毒性判定方法において、温度感受性不死化ポドサイト、L521、及びROCK阻害剤は、前記したものが挙げられる。
【0028】
本発明の毒性判定方法において、L521の細胞外マトリックスは、基板上に固定されていることが好ましい。前記基板としては、前記ポドサイトの培養方法において挙げられた基板を用いることができる。L521が基板上に固定されていることにより、効率よく被検物質の毒性を判定することができる。
【0029】
本発明の毒性判定方法において、前記温度感受性不死化ポドサイトは、細胞外マトリックス存在下で培養したものであっても、細胞外マトリックス非存在下で培養したものであってもよいが、細胞外マトリックス非存在下で培養したものを用いることが好ましい。
【0030】
本発明の毒性判定方法において、前記温度感受性不死化ポドサイトは、25~35℃、好ましくは、33℃で培養したものが好ましい。前記温度感受性不死化ポドサイトを25~35℃、好ましくは33℃の増殖条件で培養することにより、前記温度感受性不死化ポドサイトの増殖が促進されるため、効率よく被検物質の毒性を判定することができる。
【0031】
前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害があるか否かの検証は、(1)基底側(ポドサイトが固定化されている側とは反対側)から、ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質を含む培養液を灌流し、ポドサイトが固定化されている多孔質膜上のポドサイトの樹状突起構造を、前記物質が通過する割合を判定する方法、(2)前記ポドサイトの樹状突起構造が傷害された際に変化する分子を、定量PCR法等によるmRNAレベルでの変化、ウェスタンブロットやELISA等の蛋白質発現定量法による変化により検出する方法、(3)前記ポドサイトの樹状突起構造が傷害された際に観察される細胞骨格の変化を観察する方法、(4)前記ポドサイトの樹状突起構造が傷害された際にアポトーシス等による細胞死に陥り、細胞密度が減少する所見を位相差顕微鏡等による細胞数カウント、DAPI、Hoechst等を用いた核染色による核カウント、又は基底側の培養液に脱落するポドサイトの数のカウントによって検証する方法、(5)基底側の培養液中において、成熟期ポドサイトにおいて発現が認められるポドカリキシン等のマーカー陽性細胞数が被検物質非存在下と比較して増加しているかの検証、成熟期ポドサイトにおいて発現が認められるポドカリキシン等のマーカーの、クレアチニンなどのポドサイトを通過することが可能な低分子物質に対する比が増大しているかの検証、WTIエクソソームが、被検物質非存在下と比較して増加しているかの検証等により行うことができる。
【0032】
上記(1)の検証方法は、具体的には、温度感受性不死化ポドサイトが固定化されている基板を多孔質膜上で前記培養方法により培養し、被検物質を添加した後、基底側(ポドサイトが固定化されている側とは反対側)から、前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質(以下、傷害時通過物質とも称する)を含む培養液を灌流し、ポドサイトが固定化されている多孔質膜上のポドサイトの樹状突起構造を、前記傷害時通過物質が通過する割合を判定することにより行うことができる。前記被検物質がポドサイトに対し毒性がある場合は、ポドサイトの樹状突起構造が破綻するため、前記傷害時通過物質が基底側からポドサイト側に流入する割合が増加し、ポドサイト側で前記傷害時通過物質が検出される割合が、被検物質がない場合と比較して増加する。
それに対し、被検物質がポドサイトに対し毒性を有さない場合は、ポドサイトの樹状突起構造が維持されるため、前記傷害時通過物質が基底側からポドサイト側に流入する割合が変化しないか、又は増加することが少ないため、ポドサイト側で前記傷害時通過物質が検出される割合が、被検物質がない場合と比較して変化しないか、又は増加することが少なくなる。
【0033】
前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質としては、例えば、アルブミン、トランスフェリン、IgG等の高分子物質が挙げられる。これらの高分子物質は、一種で用いても組み合わせて用いてもよい。前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質を検出する方法としては、例えば、質量分析装置を用いる方法、前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質を標識物質で標識し、前記標識を検出する方法等が挙げられる。前記標識物質としては、例えば、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、酵素等が挙げられるが、蛍光物質が好ましい。
【0034】
(1)の検出方法において、ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質と同時に、ポドサイトが傷害を受けたか否かに関わらず、糸球体濾過障壁を自由に通過することができる低分子物質を組み合わせることが好ましい。前記低分子物質としては、イヌリン等が挙げられる。例えば、傷害前の生理的な状況ではイヌリンは、ポドサイトの樹状突起構造を通過でき、アルブミンの通過は抑制されているが、ポドサイトが傷害を受けると、イヌリンとアルブミンの両者とも通過できてしまうため、傷害の前後でイヌリンとアルブミンのクリアランスの差があるか否かを検出することにより、被検物質がポドサイトに対して毒性があるかを判定することができる。
【0035】
また、例えば、基底側から灌流させる培養液中にあらかじめトランスフェリンとIgGを、それぞれ別々の波長で光る蛍光標識を行った状態でかつ濃度を既知の状態で含ませ、ポドサイト側に流入してくる培養液中の各々の蛍光強度よりトランスフェリンとIgGの濃度を割り出せるようにし、傷害の前後でトランスフェリンとIgGのクリアランスの比をとることにより、被検物質がポドサイトに対して毒性があるかを判定することもできる。
【0036】
(2)の検証方法において、前記ポドサイトの樹状突起構造が傷害された際に変化する分子としては、WT1、MafB、Lmx1b、Pod1、Foxc2、nephrin(NPHS1)、podocin(NPHS2)、synaptopodin、podocalyxin、α-actinin-4、NEPH1、FAT、P-cadherin、Lamininβ2(LAMB2)等が挙げられる。
【0037】
(3)の検証方法において、前記ポドサイトの樹状突起構造が傷害された際に観察される細胞骨格の変化を観察する方法としては、走査型電子顕微鏡により樹状突起構造から敷石状配列への変化を観察する方法、透過型電子顕微鏡によりポドサイトのFoot process消失、スリット膜の消失を観察する方法、免疫染色により、中間径フィラメント(ビメンチン、ネスティン、デスミン等)が樹状突起構造から細胞質内散在パターンへ変化する所見、アクチンが点状配列からストレスファイバー様へ変化する所見を観察する方法等が挙げられる。
【0038】
(5)の検証方法において、基底側の培養液中において、成熟期ポドサイトにおいて発現が認められるポドカリキシン等のマーカー陽性細胞数が、被検物質非存在下と比較して増加している場合、被検物質がポドサイトに対して毒性があると判定することができる。また、成熟期ポドサイトにおいて発現が認められるポドカリキシン等のマーカーの、クレアチニンなどのポドサイトを通過することが可能な低分子物質に対する比が増大している場合、被検物質がポドサイトに対して毒性があると判定することができる。また、WTIエクソソームが、被検物質非存在下と比較して増加している場合、被検物質がポドサイトに対して毒性があると判定することができる。
【0039】
[生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法]
本発明の生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法は、コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、L521上で、ROCK阻害剤存在下で、無血清で培養して得られた樹状突起構造を有するポドサイトに、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害を与える条件下で被検物質を添加した後、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害があるか否かを検証し、前記樹状突起構造の傷害を抑制する被検物質を選択することにより行うことができる。
【0040】
本発明のスクリーニング方法において、温度感受性不死化ポドサイト、L521、及びROCK阻害剤は、前記したものが挙げられる。
【0041】
本発明のスクリーニング方法において、L521は、基板上に固定されていることが好ましい。前記基板としては、前記ポドサイトの培養方法において挙げられた基板を用いることができる。L521が基板上に固定されていることにより、効率よく生体内ポドサイト保護剤をスクリーニングすることができる。
【0042】
本発明のスクリーニング方法において、前記温度感受性不死化ポドサイトは、細胞外マトリックス存在下で培養したものであっても、細胞外マトリックス非存在下で培養したものであってもよいが、細胞外マトリックス非存在下で培養したものを用いることが好ましい。
【0043】
本発明のスクリーニング方法において、前記温度感受性不死化ポドサイトは、25~35℃、好ましくは、33℃で培養したものが好ましい。前記温度感受性不死化ポドサイトを25~35℃、好ましくは33℃の増殖条件で培養することにより、前記温度感受性不死化ポドサイトの増殖が促進されるため、効率よく生体内ポドサイト保護剤をスクリーニングすることができる。
【0044】
前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害があるか否かの検証は、前記毒性判定方法において挙げた方法より行うことができる。
【0045】
本発明の生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法としては、例えば、温度感受性不死化ポドサイトが固定化されている基板を多孔質膜上で、前記培養方法により培養し、前記樹状突起構造を有するポドサイトに傷害を与える物質と被検物質とを添加した後、基底側(ポドサイトが固定化されている側とは反対側)から、ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質(傷害時通過物質)を含む培養液を灌流し、ポドサイトが固定化されている多孔質膜上のポドサイト樹状突起構造を、前記傷害時通過物質が通過することを抑制する被検物質を選択することにより、生体内ポドサイト保護剤をスクリーニングする方法等が挙げられる。被検物質にポドサイト保護作用がある場合は、前記樹状突起構造を有するポドサイトに傷害を与える物質が存在しても、ポドサイトの樹状突起構造が維持されるため、前記傷害時通過物質が基底側からポドサイト側に流入することが抑制され、ポドサイト側で検出される前記傷害時通過物質の割合が、被検物質非存在下と比較して減少する。
それに対し、被検物質がポドサイトに対し保護作用を有さない場合は、前記樹状突起構造を有するポドサイトに傷害を与える物質により、ポドサイトの樹状突起構造が破綻し、前記傷害時通過物質が基底側からポドサイト側に流入することが抑制されないため、ポドサイト側で検出される前記傷害時通過物質の割合が、被検物質非存在下と比較して減少しない。
【0046】
前記ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質としては、前記毒性判定方法で挙げた物質が挙げられる。
【0047】
前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害を与える条件としては、前記ポドサイトの樹状突起構造に傷害を与える条件であれば特に制限はないが、例えば、アドリアマイシン等の抗腫瘍剤を添加する条件等が挙げられる。
【0048】
また、本発明のスクリーニング方法において、ポドサイトが傷害を受けたときに、ポドサイトの樹状突起構造を通過する割合が増加する物質と同時に、ポドサイトが傷害を受けたか否かに関わらず、糸球体濾過障壁を自由に通過することができる低分子物質を組み合わせることが好ましい。前記低分子物質としては、イヌリン等が挙げられる。例えば、傷害前の生理的な状況ではイヌリンは通過でき、アルブミンは通過できないが、ポドサイトが傷害を受けると、イヌリンとアルブミンの両者とも通過できてしまうため、傷害の前後でイヌリンとアルブミンのクリアランスの差がないか否かを検出することにより、被検物質がポドサイトに対して保護作用を有するか否かを判定することができる。
【0049】
また、例えば、基底側から灌流させる培養液中にあらかじめトランスフェリンとIgGを、それぞれ別々の波長で光る蛍光標識を行った状態でかつ濃度を既知の状態で含ませ、ポドサイト側に流入してくる培養液中の各々の蛍光強度よりトランスフェリンとIgGの濃度を割り出せるようにし、傷害の前後でトランスフェリンとIgGのクリアランスの比をとることにより、被検物質がポドサイトに対して保護作用を有するか否かを判定することもできる。
【実施例】
【0050】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]温度感受性不死化ポドサイトの培養(1)
SV40ラージT抗原が導入されたマウス(H-2Kb-tsA58 transgenic mouse)より単離されたマウス温度感受性不死化ポドサイトをディッシュ(PRIMARIA Dish;Corning社製)上で、播種密度1.35×105cells/cm2で、IFNγ(#315-05、Pepro-tech社製)を終濃度で5ng/mL存在下、10mMピルビン酸ナトリウム、1mM HEPES-KOH及び10%Fetal Bovine Serum(FBS)を含むRPMI1640培地(R8758、Sigma-Aldrich社製)で、33℃で3日間培養した。温度感受性不死化ポドサイトは、3日間培養することによりコンフルエントに達した。
【0052】
上記で得られたコンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、0.5%ITS-X(51500056、Gibco社製)、0.1%MEM非必須アミノ酸溶液(M7145-100ML、Merck社製)、10ng/mL IGF1(250-19、Pepro-Tech社製)、10ng/mL EGF(315-09、Pepro-Tech社製)、1ng/mL HGF(315-23、Pepro-Tech社製)、1ng/mL FGF2(450-33、Pepro-Tech社製)及び10μM Y27632(036-24023、富士フィルム和光純薬社製)を含むRPMI1640培地(R8758、Sigma-Aldrich社製)で、L521が固定化されたポリスチレン樹脂製の基板上で、37℃で2時間培養した。対照として、前記温度感受性不死化ポドサイトを、10%FBS、100μg/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)を含む0.1%MEM培地で、L521が固定化されていない基板上で培養した。細胞は、ビメンチン及びDAPIを用いて染色を行った。細胞が樹状突起構造を有さなければ、ビメンチンは細胞質内に散在するパターンとなるが、樹状突起構造を有していれば、ビメンチンの局在パターンが、細胞体中心から四方に伸びたパターンとなる。DAPIは細胞の核を染色できるため、DAPI染色により、細胞の存在を確認することができる。結果を
図1に示す。
【0053】
図1に示したように、L521が固定化された基板上で、Y27632を含む無血清培地で培養したポドサイトは、樹状突起構造を有していた。それに対し、L521が固定化されていない基板を用い、Y27632を含まない血清培地で培養したポドサイトは、樹状突起構造を有していなかった。
【0054】
[実施例2]温度感受性不死化ポドサイトの培養(2)
SV40ラージT抗原が導入されたマウスより単離された温度感受性不死化ポドサイトの代わりに、SV40ラージT抗原が導入されたラットより単離された温度感受性不死化ポドサイトを用いる以外は、実施例1と同様にして温度感受性不死化ポドサイトを培養した。その結果を
図2に示す。
図2(下段)に示したように、ラット温度感受性不死化ポドサイトを用いた場合でも、樹状突起構造を有するポドサイトを再現することができた。
【0055】
[実施例3]樹状突起構造特異的遺伝子の発現
実施例1で得られたポドサイトの樹状突起構造特異的遺伝子であるPODXL、SYNPO、Vim、及びITGA3の発現を定量PCR法により確認した。
【0056】
その結果を
図3に示す。なお、
図3中、PGCは、コンフルエントに達した温度感受性不死化ポドサイトを、増殖条件(L521非固定、IFNγ添加、血清添加条件で、33℃で培養)で培養した場合のポドサイトの結果を示す。
図3に示したように、実施例1で培養して得られたポドサイト(図中、PRCで示す)は、樹状突起構造特異的な遺伝子であるPODXL、SYNPO、Vim、及びITGA3の発現が、血清を添加して分化条件で培養した場合(L521固定、IFNγ無添加、血清添加条件で、37℃で培養、図中、STDで示す)と、増殖条件で培養した場合と比較して有意に上昇していることが確認された。
【0057】
[比較例1]
Y27632を含まない無血清培地を用いる以外は、実施例1と同様にして、温度感受性不死化ポドサイトを培養した。その結果を
図4(左から1番目)に示す。
図4に示したように、Y27632を含まない無血清培地を用いて培養したポドサイトは、Y27632を含む無血清培地で培養したポドサイト(左から4番目)と比較して、樹状突起構造を有していなかった。
【0058】
[比較例2]
L521の代わりに、ラミニンα5β1γ1(以下、L511とも称する)を用いた以外は、実施例1と同様にして、温度感受性不死化ポドサイトを培養した。その結果を
図4(左から2番目)に示す。
図4に示したように、L511を用いて培養した場合は、L521を用いて培養したポドサイト(左から4番目)と比較して、ポドサイトは樹状突起構造を有していなかった。
【0059】
[比較例3]
培地に10%FBSを添加する以外は、実施例1と同様にして、温度感受性不死化ポドサイトを培養した。その結果を
図4(左から3番目)に示す。
図4に示したように、血清培地を用いた場合は、無血清培地で培養したポドサイト(左から4番目)と比較して、ポドサイトは樹状突起構造を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、ポドサイトの培養方法、ポドサイトの培養用キット、被検物質の毒性判定方法、及び、生体内ポドサイト保護剤のスクリーニング方法を提供することができる。