(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電源安定化装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240522BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2020021067
(22)【出願日】2020-02-11
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 淳之
(72)【発明者】
【氏名】久保 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悟司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗佑
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特許第3763745(JP,B2)
【文献】特開2002-272113(JP,A)
【文献】特開2008-289267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源(11)から直流配電線(12)を介して電力負荷(70)に電力供給する直流システムにおいて、前記直流配電線と前記電力負荷との間に直列に配置され、前記直流電源から前記電力負荷に印加される直流電圧(Vb)を安定化する電源安定化装置であって、
トランスコア(33)、前記直流配電線と前記電力負荷との間に直列接続され、前記トランスコアを貫通する一次巻線(31)、及び、前記トランスコアに所定巻数であるN
1ターン巻回され、前記トランスコアを介して前記一次巻線と磁気結合する二次巻線(32)を含むカレントトランス(30)と、
前記一次巻線が貫通するセンサコア(43)を有し、前記二次巻線に直列接続されたセンサ用二次巻線(42)が前記センサコアに前記所定巻数と同数のN
1ターン巻回された電流センサ(40)と、
前記直流電圧のリップル電圧(Vout
*)を相殺するための電圧制御項(V
*_v)、及び、前記一次巻線に流れる一次電流(Iaux)のうち前記一次巻線に直流起磁力を発生させる直流電流成分を相殺するように前記二次巻線に相殺電流(Ict)を注入するための電流制御項(V
*_i)を演算し、且つ、前記電圧制御項と前記電流制御項とを加算して得られた電圧指令値(Vinv
*)に基づいて出力電圧生成回路(52)を動作させることで、前記二次巻線に出力電圧(Vout)を印加する制御電源(50)と、
を備え、
前記電流センサは、前記一次巻線に流れる前記一次電流による起磁力と、前記センサ用二次巻線に流れる前記相殺電流による起磁力との差分を検出し、
前記制御電源は、当該起磁力の差分を0に近づけるように前記電流制御項を演算する電源安定化装置。
【請求項2】
前記電圧制御項の制御応答は、前記電流制御項の制御応答より早くなるように設定されている請求項1に記載の電源安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源安定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源から直流システムに供給される直流電圧のリップル成分を補償し、直流電圧を安定化させる装置が知られている。例えば特許文献1に開示された直流リアクトル装置は、直流リアクトル主巻線と、直流リアクトル鉄心を介して直流リアクトル主巻線と磁気的に結合する直流リアクトル補助巻線と、電圧源と、制御手段と、を備える。
【0003】
直流リアクトル主巻線は、交流電源を整流する整流回路と負荷側の平滑コンデンサとの間に接続されている。電圧源は、直流リアクトル補助巻線に接続され任意の電圧波形を発生する。制御手段は、直流リアクトルの磁気飽和を抑制すると共に直流リップルを補償するように電圧源を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の請求項2に対応する実施形態の直流リアクトル装置は、直流一次巻線側の直流電流を検出する直流一次巻線電流検出回路、及び、直流二次巻線側の直流電流を検出する直流二次巻線電流検出回路を有している。制御部の磁気飽和抑制制御部は、一次巻線電流検出値と二次巻線電流検出値との差分を算出する。この構成では二つの電流センサが必要であるため、装置が大型になるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、電流センサの構成を簡素化し、装置を小型化可能な電源安定化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電源安定化装置は、直流電源(11)から直流配電線(12)を介して電力負荷(70)に電力供給する直流システムにおいて、直流配電線と電力負荷との間に直列に配置され、直流電源から電力負荷に印加される直流電圧(Vb)を安定化する。この電源安定化装置は、カレントトランス(30)と、電流センサ(40)と、制御電源(50)と、を備える。
【0008】
カレントトランスは、トランスコア(33)、一次巻線(31)及び二次巻線(32)を含む。一次巻線は、直流配電線と電力負荷との間に直列接続され、トランスコアを貫通する。二次巻線は、トランスコアに所定巻数であるN1ターン巻回され、トランスコアを介して一次巻線と磁気結合する。電流センサは、一次巻線が貫通するセンサコア(43)を有する。二次巻線に直列接続されたセンサ用二次巻線(42)がセンサコアに所定巻数と同数のN1ターン巻回されている。
【0009】
制御電源は、電圧制御項(V*_v)及び電流制御項(V*_i)を演算する。電圧制御項は、直流電圧のリップル電圧(Vout*)を相殺するために用いられる。電流制御項は、一次巻線に流れる一次電流(Iaux)のうち一次巻線に直流起磁力を発生させる直流電流成分を相殺するように二次巻線に相殺電流(Ict)を注入するために用いられる。そして制御電源は、電圧制御項と電流制御項とを加算して得られた電圧指令値(Vinv*)に基づいて出力電圧生成回路(52)を動作させることで、二次巻線に出力電圧(Vout)を印加する。
【0010】
電流センサは、一次巻線に流れる一次電流による起磁力と、センサ用二次巻線に流れる相殺電流による起磁力との差分を検出する。制御電源は、当該起磁力の差分を0に近づけるように電流制御項を演算する。
【0011】
本発明の電源安定化装置では、一つの電流センサで、一次電流による起磁力と相殺電流による起磁力との差分を検出し、制御回路は、その起磁力の差分に基づき電流制御項を演算する。したがって、二つの電流センサが必要となる特許文献1の従来技術に対し、電流センサの数を減らし、装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態による電源安定化装置を含む直流システムの概略構成図。
【
図2】制御回路の電圧制御ブロック及び電流制御ブロックの図。
【
図3】電圧制御ブロックのHPF及び電流制御ブロックのLPFの周波数特性図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(一実施形態)
本発明の一実施形態による電源安定化装置を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、電源安定化装置20は、直流電源11から直流配電線12を介して電力負荷70に電力供給する直流システム90において、直流配電線12と電力負荷70との間に直列に配置される。電源安定化装置20を直列配置とする構成では、電源安定化装置20による直流電源11の分担電圧が少なくて済み、装置容量を低減可能である。
【0014】
電力負荷70は種類を問わず、複数ある場合もある。ただし、一般に電力負荷70はリアクトル成分及び容量成分を有しており、LC共振回路が形成される。例えば電力負荷70で高調波電流が発生すると、これが加振源となりLC共振を引き起こす場合がある。或いは、負荷変動等をきっかけに共振が励起されるおそれがある。共振現象が起きると直流配電線12のインピーダンス降下で直流電圧Vbが大きく変動したり、過大な共振電流が流れ、過電圧や過電流を引き起こしたりする。そこで、このような事象を防止するため、直流システム90において直流電圧Vbを安定化することが求められる。
【0015】
本実施形態の電源安定化装置20は、カレントトランス30、電流センサ40、及び、制御電源50等を備える。この電源安定化装置20は、制御電源50が生成する出力電圧Voutにより直流電圧Vbの電圧リップル成分を補償するとともに、一次電流Iauxの直流電流成分を相殺する。こうして電源安定化装置20は、直流電源11から電力負荷70に印加される直流電圧Vbを安定化する。なお、直流電圧Vbは電圧センサ等により検出され、制御電源50の制御回路60に取得される。
【0016】
カレントトランス30は、一次巻線31及び二次巻線32を含む。一次巻線31は、直流配電線12と電力負荷70との間に直列接続されている。二次巻線32は、制御電源50に接続されており、トランスコア33を介して一次巻線31と磁気結合する。一次巻線31の巻数は1ターンであり、二次巻線32の巻数はN1ターンである。二次巻線32の巻数N1ターンの値は、直流電源11の直流電圧Vb、制御電源50の電流容量や耐圧に応じて任意に設定可能である。
【0017】
直流電源11から電力負荷70への経路である一次巻線31には、直流電流成分とリップル電流成分との両方を含んだ一次電流Iauxが流れる。一次電流Iauxはトランスコア33内に磁束を発生させる。そして、その磁束の密度によってトランスコア33の寸法が決定される。一次電流Iauxの直流電流成分は、トランスコア33の磁束密度を増加させ、寸法を大きくする方向に働く。そこで、カレントトランス30の小型化を図り、一次巻線31の直流電流成分を相殺するために制御電源50の出力電圧Voutによって二次巻線32に注入される電流を相殺電流Ictという。
【0018】
電流センサ40は、「Iaux-N
1Ict」で表される検出電流Isnsを検出し、制御回路60に通知する。電流センサ40の詳細な構成については
図4を参照して後述することとし、先に、従来技術の電流検出構成との違いについて説明する。従来技術では、一次巻線31に流れる一次電流Iauxを検出する電流センサ、及び、二次巻線32に流れる相殺電流Ictを検出する電流センサ、の二台の電流センサが用いられる。
【0019】
一方、本実施形態では、「相殺電流Ictに二次巻線32の巻数N1ターンを乗じた値を一次電流Iauxから減じた値」が一台の電流センサ40により検出される。ここで、電流に巻数を乗じた値は起磁力(単位:[AT(アンペアターン)])である。一次電流Iauxに一次巻線31の巻数1ターンを乗じた値が起磁力Iaux[AT]であり、相殺電流Ictに二次巻線32の巻数N1ターンを乗じた値が起磁力N1Ict[AT]である。
【0020】
つまり、検出電流Isns(=Iaux-N1Ict)は、一次巻線31に流れる一次電流Iauxによる起磁力と、二次巻線32に流れる相殺電流Ictによる起磁力との差分を意味する。本実施形態の電流センサ40は、この起磁力の差分を直接検出し、制御電源50に出力する。
【0021】
制御電源50は、動作電源51、出力電圧生成回路52、及び、制御回路60を含む。動作電源51は、
図1に示すように専用の直流電源で構成されてもよい。或いは、直流配電線12から分岐された配電線に接続されることで、直流電源11の直流電圧Vbが利用されてもよい。
【0022】
出力電圧生成回路52は、制御回路60からの指令に従って動作し、二次巻線32に印加される出力電圧Voutを生成する。例えば出力電圧生成回路52は、高速にPWM制御された単相インバータで構成される。単相インバータは、例えば特許文献1の
図10に記載されたハーフブリッジ回路、又は、
図12に記載されたフルブリッジ回路に準じて実現可能である。ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子がPWM制御によりスイッチング動作することで、動作電源51の電源電圧Einvを変換して出力電圧Voutを生成する。
【0023】
制御回路60は、直流電圧Vb、動作電源51の電源電圧Einv、出力電圧Vout、及び、電流センサ40の検出電流Isnsに基づき、出力電圧生成回路52をPWM制御するためのデューティ比Dを演算する。
図2に制御回路60の演算構成を示す。制御回路60は、電圧制御ブロック61、電流制御ブロック62、加算器63及び除算器64を含む。
【0024】
電圧制御ブロック61は直流電圧Vbの電圧リップルを相殺する出力電圧Voutを発生させるための電圧制御項V
*_vを演算する。
図2に示すフィードバック制御構成の電圧制御ブロック61は、ハイパスフィルタ(図中及び以下「HPF」)611、偏差算出器612、及び電圧制御器613を含む。HPF611は、リップル電圧を含んだ直流電圧Vb中の直流成分をカットし、リップル電圧成分Vout
*を抽出する。
【0025】
偏差算出器612は、リップル電圧成分Vout*と出力電圧Voutとの電圧偏差を算出する。電圧制御器613は、電圧偏差に比例制御のゲインKpvを乗じて電圧制御項V*_vを演算する。或いは、比例制御に積分制御を加えた比例積分制御により電圧制御項V*_vが演算されてもよい。なお、積分制御ブロックの図示を省略する。
【0026】
電流制御ブロック62はカレントトランス30の直流電流成分を制御するための電流制御項V
*_iを演算する。
図2に示す電流制御ブロック62は、ローパスフィルタ(図中及び以下「LPF」)621、偏差算出器622、及び電流制御器623を含む。LPF621は、電流センサ40が検出した検出電流Isns(=Iaux-N
1Ict)中の直流電流成分以外をカットしたフィルタ後検出電流Isns_LPFを出力する。
【0027】
ここで、一次電流Iauxに含まれる直流電流成分をIct
*(
図2に不図示)とすると、フィルタ後検出電流Isns_LPFは、「Ict
*-N
1Ict」、すなわち、一次電流Iauxの直流電流成分Ict
*による起磁力と相殺電流Ictによる起磁力との差分に相当する。
【0028】
偏差算出器622は、フィルタ後検出電流Isns_LPFと目標値である0との電流偏差を算出する。電流制御器623は、電流偏差に比例制御のゲインKpiを乗じて電流制御項V*_iを演算する。ゲインKpiには、電流次元の値を電圧次元に変換する抵抗次元の係数が含まれる。或いは、比例制御に積分制御を加えた比例積分制御により電流制御項V*_iが演算されてもよい。なお、積分制御ブロックの図示を省略する。
【0029】
加算器63は、電圧制御項V*_vと電流制御項V*_iとを加算し、出力電圧生成回路52の電圧指令値Vinv*を算出する。除算器64は、電圧指令値Vinv*を動作電源51の電源電圧Einvで除算することで出力電圧生成回路52のデューティ比Dを演算する。出力電圧生成回路52がデューティ比Dに基づくPWM制御により動作すると、出力電圧Voutがカレントトランス30の二次巻線32に印加される。
【0030】
電圧指令値Vinv*の電圧制御項V*_vが出力電圧Voutに反映されることで、一次巻線31において直流電圧Vbに含まれるリップル電圧に相当する出力電圧Voutが発生し、直流電圧Vbの変動が補償される。本実施形態では直流電圧Vbの変動を検出して出力電圧Vout制御するため、精度良い制御が可能となる。
【0031】
さらに電圧指令値Vinv*の電流制御項V*_iが出力電圧Voutに反映されることで、二次巻線32に相殺電流Ictを重畳させる磁束成分が供給される。したがって、二次巻線32に流れる相殺電流Ictにより、カレントトランス30の一次巻線31に発生する直流磁束成分が相殺される。よって、カレントトランス30の磁路断面積を小さくすることができ、カレントトランス30の小型化が可能となる。
【0032】
ここで、仮に電流制御ブロック62の制御応答が電圧制御ブロック61の制御応答よりも早いと、カレントトランス30内の磁束が常にゼロに制御されるため、出力電圧Voutを適切に発生させることできなくなる。すなわち、リップル電圧相殺と直流磁束制御との制御干渉が生じる。そこで、電圧制御ブロック61の制御応答が電流制御ブロック62の制御応答より早くなるように構成されることで、制御干渉が防止される。
【0033】
例えば
図3に示すように、電流制御ブロック62のLPF621のカットオフ周波数fcoLは、電圧制御ブロック61のHPF611のカットオフ周波数fcoHよりも低く設定されている。或いは、電流制御器623のゲインKpiと電圧制御器613のゲインKpvとの関係を調整することで、電圧制御ブロック61の制御応答が電流制御ブロック62の制御応答より早くなるようにすることも可能である。
【0034】
次に
図4を参照し、カレントトランス30及び電流センサ40の詳細構成について説明する。カレントトランス30は、リング状のトランスコア33に一次巻線31が貫通しており、N
1ターンの二次巻線32が巻回されている。トランスコア33を貫通している一次巻線31の巻数は1ターンである。二次巻線32は制御電源50に接続されている。
【0035】
電流センサ40は、リング状のセンサコア43に一次巻線31が貫通しており、カレントトランス30の二次巻線32と同じ巻数、すなわちN1ターンのセンサ二次巻線42が巻回されている。センサコア43を貫通している一次巻線31の巻数は1ターンである。センサ二次巻線42は二次巻線32に直列接続されている。二次巻線32及びセンサ二次巻線42には、一次電流Iauxが作る磁束を相殺する向きに相殺電流Ictが流れる。
【0036】
この構成によりセンサコア43には、1ターンの一次巻線31に流れる一次電流Iauxによる起磁力と、N1ターンの二次巻線32に流れる相殺電流Ictによる起磁力との差分(Iaux-N1Ict)に比例する磁束が発生する。センサコア43の断面には、センサコア43の磁束量を検出するホールセンサ45が組み込まれている。増幅器(図中「AMP」)46は、ホールセンサ45が検出した磁束量を増幅する。
【0037】
図4に例示した電流センサ40は磁気平衡式であり、増幅された磁束量は、センサコア43に巻回されたN
2ターンの帰還巻線47に印加される。帰還巻線47に接続されたシャント抵抗48の検出電圧Vdcctが制御電源50に入力される。検出電圧Vdcctは、下式で表される。
Vdcct∝(Iaux-N
1Ict)/N
2
【0038】
制御電源50の制御回路60で検出電圧Vdcctは検出電流「Iaux-N
1Ict(=Isns)」に換算され、電流制御ブロック62に入力される。そして、
図2を参照して上述した通り、電流制御ブロック62において検出電流Isnsを目標値0に近づけるように電流制御項V
*_iが演算される。つまり、制御電源50は、一次電流Iauxによる起磁力と相殺電流Ictによる起磁力とを一致させるように、二次巻線32に相殺電流Ictを注入する。
【0039】
このように本実施形態の電流センサ40は、一次電流Iaux自体、及び、相殺電流Ict自体を検出するのではなく、センサコア43を貫通する一次巻線31、及び、センサコア43に巻回されたセンサ二次巻線42に流れる電流の起磁力の差分を検出する。したがって、電流制御ブロック62における比較演算を直接的に実現可能である。
【0040】
ところで、特許文献1(特許第3763745号公報)の
図4、
図5に示される請求項2に対応する実施形態では、直流一次巻線電流検出回路が検出した一次巻線電流検出値と直流二次巻線電流検出回路が検出した二次巻線電流検出値との差分が算出される。この差分に基づく電圧指令データにより電圧源が電圧波形を生成することで、鉄心(トランスコア)の磁気飽和が抑制される。
【0041】
特許文献1の構成では二つの電流センサが必要であるため、装置が大型になるという問題がある。それに対し本実施形態では、一つの電流センサ40で、一次電流Iauxによる起磁力と相殺電流Ictによる起磁力との差分を検出し、制御回路60は、その起磁力の差分に基づき電流制御項V*_iを演算する。したがって、電流センサの数を減らし、装置を小型化することができる。
【0042】
また、特開2018-74668号公報(以下「参考文献」)には、カレントトランスの二次巻線に抵抗性のインピーダンスを付与し負性抵抗による直流配電系統の電圧を安定化する技術が開示されている。例えば参考文献の請求項8に対応する実施例3では、二次巻線に接続された交流/直流変換装置を定抵抗特性となるように制御しているに過ぎず、電力の振動成分を十分に補償できない。また、一次巻線電流の直流成分を除去するためのコンデンサや直流磁束成分を相殺するための三次巻線が設けられている。直流成分を低減することでトランスコア寸法の小型化に寄与する反面、直流成分除去用コンデンサや三次巻線を追加すると、装置が大型化するという問題がある。
【0043】
それに対し本実施形態では、直流電圧Vbのリップル電圧成分Vout*を検出し、そのリップル電圧成分Vout*を相殺するようにカレントトランス30の巻線電圧を制御する。したがって、参考文献のようなコンデンサや三次巻線を追加することなく、リップル電圧成分Vout*の補償特性を向上させることができる。
【0044】
(その他の実施形態)
(a)制御電源50の出力電圧生成回路52の構成としては、単相インバータ以外に、特許文献1に開示されたチョッパ回路等を用いてもよい。また、出力電圧生成回路52の動作方式はデューティ比DによるPWM制御方式に限らず、どのような方式で出力電圧Voutを生成してもよい。
【0045】
(b)直流電源11の電圧Vbが検出される箇所は、
図1に例示した「直流配電線12とカレントトランス30との間」に限らず、「カレントトランス30と電力負荷70との間」であってもよい。すなわち、電力負荷70の両端電圧が検出されてもよい。
【0046】
(c)電流センサ40の構成は、
図4に例示した磁気平衡式に限らず、
図5に示すようにオープンループのホール素子式としてもよい。オープンループ式では、増幅器46で増幅されたホール素子45の出力が制御電源50に入力される。
【0047】
(d)制御回路60の電圧制御ブロック61の構成は、直流電圧VbをHPF611で処理して得られたリップル電圧成分Vout
*に対して出力電圧Voutをフィードバックする構成に限らない。
図6に示すように、フィードフォワード制御器614において、リップル電圧成分Vout
*にゲインKffvが乗算されることで電圧制御項V
*_vが演算されてもよい。
【0048】
(e)制御回路60の電流制御ブロック62において、
図2の構成に対しLPF621が偏差算出器622の後に設けられてもよい。LPF621が電流制御ループ内に構成されれば等価である。また、LPF621によるフィルタ処理に代えて平均化処理が実施されてもよい。
【0049】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0050】
11・・・直流電源、 12・・・直流配電線、
20・・・電源安定化装置、 30・・・カレントトランス、
31・・・一次巻線、 32・・・二次巻線、 33・・・トランスコア、
40・・・電流センサ、 42・・・センサ用二次巻線、 43・・・センサコア、
50・・・制御電源、 52・・・出力電圧生成回路、 70・・・電力負荷。