(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】接合構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240522BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240522BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20240522BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20240522BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240522BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240522BHJP
【FI】
H01L21/52 B
H01L21/52 D
B22F1/00 K
B22F7/08 E
B22F7/04 D
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020166908
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-08-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼開催日:令和2年2月4日 集会名、開催場所:大阪大学 新技術説明会 JST東京本部別館1Fホール(東京都千代田区五番町7番地) 公開者:陳 伝■
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】陳 伝▲トウ▼
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 克昭
(72)【発明者】
【氏名】張 政
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-014556(JP,A)
【文献】特開2017-031470(JP,A)
【文献】特開2012-174927(JP,A)
【文献】特開2018-060941(JP,A)
【文献】特開2017-103180(JP,A)
【文献】特開2017-157599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B22F 1/00
B22F 7/08
B22F 7/04
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、半導体素子、及び前記基材と前記半導体素子とを接合する接合層を備える接合構造体であって、
前記半導体素子は、前記基材と接合させるためのメタライズ層を有しておらず、
前記接合層は、多孔質銀焼結体と、個数平均一次粒子径1nm以上20nm以下の銀ナノ粒子とを含み、
少なくとも一部の前記銀ナノ粒子は、前記多孔質銀焼結体と前記半導体素子との間に存在する、接合構造体。
【請求項2】
前記基材は、前記半導体素子とは別の半導体素子である、請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
基材、半導体素子、及び前記基材と前記半導体素子とを接合する接合層を備える接合構造体の製造方法であって、
前記基材と前記半導体素子とを、銀ペーストを用いて接合する接合工程を少なくとも備え、
前記半導体素子は、前記基材と接合させるためのメタライズ層を有しておらず、
前記銀ペーストは、X線回折法を用いて測定される残留ひずみが5.0%以上の銀粒子と、溶媒とを含む、接合構造体の製造方法。
【請求項4】
前記銀粒子の体積基準における50%累積径は、100nm以上50μm以下である、請求項3に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項5】
前記銀ペースト中の前記銀粒子の含有率は、前記銀ペーストの全質量に対して、85質量%以上95質量%以下である、請求項3又は4に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項6】
前記銀粒子は、X線回折法を用いて測定される残留ひずみが20.0%以下である、請求項3~5のいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記銀粒子は、フレーク状銀粒子である、請求項3~6のいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項8】
前記接合工程は、
前記基材上に前記銀ペーストを塗布する塗布工程と、
前記基材と前記半導体素子とを、前記銀ペーストを介して重ね合わせることにより、積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を加熱する加熱工程と
を含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程において、前記積層体を加圧せずに加熱する、請求項8に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程において、150℃以上350℃以下の温度で前記積層体を加熱する、請求項8又は9に記載の接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と半導体素子とが接合された接合構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材と半導体素子とが接合された接合構造体(以下、単に「接合構造体」と記載することがある)が知られている。基材と半導体素子との接合強度(以下、単に「接合強度」と記載することがある)を高めるために、接合面側の表層に金属層(以下、「メタライズ層」と記載することがある)を有する半導体素子を使用して、接合構造体を製造することがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、メタライズ層としてニッケル層を有する半導体素子を使用して、基材と半導体素子とを接合させた接合構造体(半導体装置)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の接合構造体を製造する場合、メタライズ層の形成工程を設ける必要があるため、製造コストの低減が困難である。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造コストを低減できる上、高い接合強度を確保できる接合構造体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る接合構造体は、基材、半導体素子、及び前記基材と前記半導体素子とを接合する接合層を備える。前記半導体素子は、前記基材と接合させるためのメタライズ層を有しない。前記接合層は、多孔質銀焼結体と、個数平均一次粒子径1nm以上20nm以下の銀ナノ粒子とを含む。少なくとも一部の前記銀ナノ粒子は、前記多孔質銀焼結体と前記半導体素子との間に存在する。
【0008】
ある実施形態では、前記基材は、前記半導体素子とは別の半導体素子である。
【0009】
本発明に係る接合構造体の製造方法は、基材、半導体素子、及び前記基材と前記半導体素子とを接合する接合層を備える接合構造体の製造方法である。本発明に係る接合構造体の製造方法は、前記基材と前記半導体素子とを、銀ペーストを用いて接合する接合工程を少なくとも備える。前記半導体素子は、前記基材と接合させるためのメタライズ層を有しない。前記銀ペーストは、X線回折法を用いて測定される残留ひずみが5.0%以上の銀粒子と、溶媒とを含む。
【0010】
ある実施形態では、前記銀粒子の体積基準における50%累積径は、100nm以上50μm以下である。
【0011】
ある実施形態では、前記銀ペースト中の前記銀粒子の含有率は、前記銀ペーストの全質量に対して、85質量%以上95質量%以下である。
【0012】
ある実施形態では、前記銀粒子は、X線回折法を用いて測定される残留ひずみが20.0%以下である。
【0013】
ある実施形態では、前記銀粒子は、フレーク状銀粒子である。
【0014】
ある実施形態では、前記接合工程は、前記基材上に前記銀ペーストを塗布する塗布工程と、前記基材と前記半導体素子とを、前記銀ペーストを介して重ね合わせることにより、積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体を加熱する加熱工程とを含む。
【0015】
ある実施形態では、前記加熱工程において、前記積層体を加圧せずに加熱する。
【0016】
ある実施形態では、前記加熱工程において、150℃以上350℃以下の温度で前記積層体を加熱する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造コストを低減できる上、高い接合強度を確保できる接合構造体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る接合構造体の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る接合構造体の接合箇所の一例を示す部分断面図である。
【
図3】(a)、(b)及び(c)は、本発明の第2実施形態に係る接合構造体の製造方法の一例を示す工程別断面図である。
【
図4】フレーク状銀粒子の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【
図5】球状銀粒子の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【
図6】フレーク状銀粒子の一例を示す透過電子顕微鏡写真である。
【
図7】実施例1の接合構造体の接合箇所の断面を示す走査電子顕微鏡写真である。
【
図8】
図7に示す断面のうち半導体素子と多孔質銀焼結体との接合箇所を拡大した走査電子顕微鏡写真である。
【
図9】実施例1の接合構造体の接合箇所の断面を示す透過電子顕微鏡写真である。
【
図10】実施例1の接合構造体の剪断強度を測定した後の半導体素子を、接合箇所側から撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合がある。
【0020】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「フレーク状銀粒子」は、球状とは異なる形状を有する銀粒子であり、例えば平板状(より具体的には、葉片状、鱗片状等)の銀粒子である。なお、「球状」には、真球状、及び真球状以外の球状(より具体的には、扁球状等)が含まれる。
【0021】
「多孔質銀焼結体」とは、銀粒子の集合体を、銀粒子の融点よりも低い温度で焼結させて得られる多孔質の焼結体を指す。
【0022】
「体積基準における50%累積径」は、体積基準の粒度分布(体積粒度分布)における、小粒径側からの頻度の累積が50%になる粒子径である。以下、体積基準における50%累積径を、「体積中位径(D50)」と記載することがある。粒子(詳しくは、粒子の粉体)の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製「ELSZ-1000ZS」)を用いて測定されたメディアン径である。粒子の個数平均一次粒子径の測定値は、何ら規定していなければ、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-2100」、加速電圧:200kV)を用いて測定した、100個の一次粒子の断面の円相当径(一次粒子の断面の面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。
【0023】
材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。
【0024】
以下、X線回折法を用いて測定される残留ひずみを、単に「残留ひずみ」と記載することがある。また、本明細書中では、溶媒も分散媒も、「溶媒」と記載する。
【0025】
<第1実施形態:接合構造体>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る接合構造体を説明する。参照する
図1は、本発明の第1実施形態に係る接合構造体の一例を示す断面図である。参照する
図2は、本発明の第1実施形態に係る接合構造体の接合箇所の一例を示す部分断面図である。なお、参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0026】
図1に示す接合構造体10は、基材11、半導体素子12、及び基材11と半導体素子12とを接合する接合層13を備える。半導体素子12は、基材11と接合させるためのメタライズ層を有しない。よって、接合構造体10を製造する際、半導体素子12にメタライズ層を形成する工程が不要となるため、接合構造体10は、製造コストの低減が可能な接合構造体である。
【0027】
図2に示すように、接合層13は、多孔質銀焼結体14と、複数個の銀ナノ粒子15とを含む。銀ナノ粒子15の個数平均一次粒子径は、1nm以上20nm以下である。また、少なくとも一部の銀ナノ粒子15は、多孔質銀焼結体14と半導体素子12との間に存在する。
【0028】
接合構造体10が高い接合強度を確保できる理由は、以下のように推測される。銀ナノ粒子15は、比較的表面自由エネルギーが高いため、多孔質銀焼結体14と半導体素子12との間において、多孔質銀焼結体14と半導体素子12とを接着させる接着剤として機能する。これにより、接合層13と半導体素子12との接合強度を高めることができる。従って、接合構造体10によれば、高い接合強度を確保できる。
【0029】
接合構造体10の製造コストをより低減するためには、基材11は、半導体素子12と接合させるためのメタライズ層を有しないことが好ましい。この場合、一部の銀ナノ粒子15は、多孔質銀焼結体14と基材11との間に存在することが好ましい。一部の銀ナノ粒子15が多孔質銀焼結体14と基材11との間に存在する場合、基材11がメタライズ層を有しなくても、接合層13と基材11との間の接合強度を高めることができる。
【0030】
より高い接合強度を確保するためには、銀ナノ粒子15の個数平均一次粒子径は、1nm以上10nm以下であることが好ましく、3nm以上8nm以下であることがより好ましい。銀ナノ粒子15の個数平均一次粒子径は、例えば、後述する特定銀粒子の体積中位径(D50)を変更することにより調整できる。
【0031】
半導体素子12としては、例えば、シリコンを主成分として含む半導体素子(以下、Si半導体素子と記載することがある)、ガリウムナイトライドを主成分として含む半導体素子(以下、GaN半導体素子と記載することがある)、シリコンカーバイドを主成分として含む半導体素子(以下、SiC半導体素子と記載することがある)、シリコンナイトライドを主成分として含む半導体素子、及び窒化アルミニウム(アルミニウムナイトライド)を主成分として含む半導体素子が挙げられる。なお、半導体素子12の表面には、酸化物層が形成されていてもよい。
【0032】
より高い接合強度を確保するためには、半導体素子12の面積は、0.1mm2以上1000mm2以下であることが好ましく、1mm2以上100mm2以下であることがより好ましい。
【0033】
より高い接合強度を確保するためには、半導体素子12の厚さは、0.1mm以上100mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1mm以下であることがより好ましい。
【0034】
基材11の構成材料は、特に限定されない。また、基材11の面積についても、半導体素子12を接合するための領域を確保できる限り、特に限定されない。基材11の厚さは、例えば、0.1mm以上1000mm以下である。基材11の例としては、半導体素子12を実装させるための基板(実装基板)、セラミックス板、ガラス板、及びフレキシブル基材が挙げられる。
【0035】
基材11として使用可能な実装基板としては、例えば、アルミニウム製回路付きセラミックス基板(より具体的には、DBA(登録商標)基板)、銅製回路付きセラミックス基板(より具体的には、DBC基板)、及びフレキシブル基板が挙げられる。実装基板としてフレキシブル基板を使用する場合、フレキシブル基板を形成するためのフレキシブル基材としては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、及びポリエチレンナフタレートフィルムが挙げられる。
【0036】
基材11として使用可能なセラミックス板としては、例えば、窒化アルミニウム板、アルミナ板、及びジルコニア板が挙げられる。
【0037】
基材11として使用可能なフレキシブル基材としては、例えば、上述したフレキシブル基板を形成するためのフレキシブル基材として例示した基材が挙げられる。
【0038】
また、基材11は、半導体素子12とは別の半導体素子(以下、第2半導体素子と記載することがある)であってもよい。基材11が第2半導体素子である場合、接合構造体10は、所謂チップオンチップ構造を有する。よって、基材11が第2半導体素子である場合、接合構造体10を用いて形成される実装構造体(電子部品が実装された構造体)の高密度化が可能となる。
【0039】
第2半導体素子は、半導体素子12と同種の半導体素子であってもよく、半導体素子12とは異なる種類の半導体素子であってもよい。第2半導体素子の例としては、上述した半導体素子12として例示した半導体素子が挙げられる。また、第2半導体素子の寸法は、半導体素子12の寸法と同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
以上、本発明の第1実施形態に係る接合構造体について説明したが、本発明の接合構造体は、上述した第1実施形態に限定されない。例えば、本発明の接合構造体は、3個以上の半導体素子が接合層を介して接合された接合構造体であってもよい。
【0041】
<第2実施形態:接合構造体の製造方法>
以下、図面を参照して、本発明の第2実施形態に係る接合構造体の製造方法を説明する。第2実施形態に係る接合構造体の製造方法は、例えば上述した第1実施形態に係る接合構造体の好適な製造方法である。以下、上述した第1実施形態と重複する内容については、説明を省略する場合がある。なお、参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0042】
まず、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法の概要について、
図3(a)~(c)を参照しながら説明する。
図3(a)~(c)は、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法の一例を示す工程別断面図である。第2実施形態に係る接合構造体の製造方法は、基材11(
図3(a)参照)と半導体素子12(
図3(b)参照)とを、銀ペーストを用いて接合する接合工程を備える。また、第2実施形態では、接合工程が、塗布工程と、積層体形成工程と、加熱工程とを含む。なお、
図3(a)~(c)において、
図1に示される構成要素と同一の構成要素については、
図1と同一の符号を付している。
【0043】
塗布工程では、
図3(a)に示すように、基材11上に銀ペーストを塗布し、銀ペーストからなる塗布膜20を形成する。基材11上に塗布する銀ペーストは、X線回折法を用いて測定される残留ひずみが5.0%以上の銀粒子と、溶媒とを含む。銀粒子の残留ひずみの測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。以下、X線回折法を用いて測定される残留ひずみが5.0%以上の銀粒子を、特定銀粒子と記載することがある。
【0044】
塗布工程後かつ積層体形成工程前に、塗布膜20中の溶媒の少なくとも一部を除去するために、塗布膜20を加熱する工程を設けてもよい。
【0045】
積層体形成工程では、
図3(b)に示すように、基材11と半導体素子12とを、銀ペーストからなる塗布膜20を介して重ね合わせることにより、積層体40を形成する。
【0046】
加熱工程では、積層体形成工程で得られた積層体40を加熱する。積層体40を加熱することにより、塗布膜20(
図3(b)参照)中の特定銀粒子同士が焼結し、基材11と半導体素子12とを接合する接合層13(
図3(c)参照)が形成される。これにより、
図3(c)に示す接合構造体10が得られる。
【0047】
次に、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法が備える各工程について詳述する。
【0048】
[塗布工程]
塗布工程で使用される銀ペーストは、特定銀粒子と、溶媒とを含む。特定銀粒子の体積中位径(D50)は、100nm以上50μm以下であることが好ましく、1.0μm以上10.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下であることが更に好ましい。特定銀粒子の体積中位径(D50)が100nm以上である場合、特定銀粒子の残留ひずみを5.0%以上の範囲に容易に調整できる。また、特定銀粒子の体積中位径(D50)が50μm以下である場合、接合強度をより高めることができる。
【0049】
印刷法により基材11上に銀ペーストを塗布する場合、基材11上に塗布膜20を容易に形成するためには、銀ペースト中の特定銀粒子の含有率は、銀ペーストの全質量に対して、85質量%以上95質量%以下であることが好ましく、90質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。なお、銀ペーストには、特定銀粒子以外の銀粒子が含まれていてもよい。ただし、接合強度をより高めるためには、銀ペースト中の特定銀粒子の含有率は、銀ペースト中の銀粒子の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0050】
接合強度をより高めるためには、特定銀粒子の残留ひずみは、10.0%以上であることが好ましい。また、銀ペースト中において、特定銀粒子の結晶構造を安定して維持するためには、特定銀粒子の残留ひずみは、20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましい。
【0051】
接合強度を更に高めるためには、特定銀粒子の残留ひずみが10.0%以上15.0%以下であり、かつ特定銀粒子の体積中位径(D50)が1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、特定銀粒子の残留ひずみが11.0%以上14.0%以下であり、かつ特定銀粒子の体積中位径(D50)が2.0μm以上4.0μm以下であることがより好ましい。
【0052】
特定銀粒子としては、例えば、フレーク状銀粒子が挙げられる。残留ひずみを有するフレーク状銀粒子は、例えば、銀化合物(より具体的には、銀塩等)を還元剤により還元して得られた球状銀粒子を、攪拌装置(より具体的には、ボールミル等)で攪拌することにより得られる。フレーク状銀粒子の残留ひずみ及び体積中位径(D50)は、各々、例えば上記攪拌装置により攪拌する際の攪拌条件(より具体的には、攪拌速度、攪拌時間等)を変更することにより調整できる。
【0053】
銀ペーストに含まれる溶媒としては、例えば、エーテル結合を有する溶媒(以下、エーテル系溶媒と記載することがある)、及びアルコールが挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、エーテル、及びグリコールエーテルが挙げられる。銀ペーストに含まれる溶媒として、一種の溶媒を単独で使用してもよく、二種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
銀ペーストの溶媒としてエーテルを使用する場合、使用可能なエーテルとしては、例えば、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、及び1,4-ジオキサンが挙げられる。
【0055】
銀ペーストの溶媒としてグリコールエーテルを使用する場合、使用可能なグリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、及びジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルが挙げられる。
【0056】
銀ペーストの溶媒としてアルコールを使用する場合、使用可能なアルコールとしては、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、1-オクタノール、及び2-オクタノールが挙げられる。
【0057】
なお、塗布工程で使用される銀ペーストは、特定銀粒子及び溶媒以外の成分(他の成分)を更に含んでもよい。他の成分としては、例えば、銀ペースト中における特定銀粒子の分散性を高めるための分散剤が挙げられる。
【0058】
基材11上に銀ペーストを塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、印刷法及びポッティング法が挙げられる。基材11上に塗布膜20を容易に形成するためには、基材11上に銀ペーストを塗布する方法としては、印刷法(より具体的には、スクリーン印刷法等)が好ましい。
【0059】
[積層体形成工程]
積層体形成工程で使用する半導体素子12は、基材11と接合させるためのメタライズ層を有しない。第2実施形態に係る接合構造体の製造方法では、半導体素子12にメタライズ層を形成する工程が不要となるため、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法によれば、製造コストを低減できる。
【0060】
[加熱工程]
加熱工程において積層体40を加熱する方法としては、例えば、積層体40をホットプレートで加熱する方法、及び積層体40を加熱炉で加熱する方法が挙げられる。
【0061】
積層体40を加熱する際の加熱温度は、塗布膜20中の特定銀粒子同士が焼結する温度である限り、特に限定されず、例えば、100℃以上400℃以下である。接合強度をより高めるためには、積層体40を加熱する際の加熱温度は、150℃以上350℃以下であることが好ましい。なお、加熱温度に到達するまでの昇温速度は、例えば10℃/分以上20℃/分以下である。また、接合強度をより高めるためには、積層体40を加熱する際の加熱時間(加熱温度を維持する時間)は、15分以上5時間以下であることが好ましく、30分以上3時間以下であることがより好ましい。
【0062】
積層体40の加熱は、大気圧下で行われてもよいし、減圧下で行われてもよい。また、積層体40の加熱は、空気中で行われてもよいし、不活性ガス(より具体的には、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気下で行われてもよい。
【0063】
加熱工程では、積層体40を加圧せずに加熱してもよいし、積層体40に圧力を印加しながら積層体40を加熱してもよい。半導体素子12の破損を抑制するためには、加熱工程において積層体40を加圧せずに加熱することが好ましい。第2実施形態では、特定銀粒子を含む銀ペーストを用いて、基材11と半導体素子12とを接合するため、加熱工程において積層体40を加圧しなくても、基材11と半導体素子12との間の接合強度を高めることができる。
【0064】
加熱工程において塗布膜20中の特定銀粒子同士が焼結することにより得られる接合層13の厚さは、例えば、1μm以上100μm以下である。接合層13の厚さは、例えば、塗布工程で使用する銀ペースト中の特定銀粒子の含有率を変更することにより調整できる。
【0065】
また、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法によれば、高い接合強度を確保できる。その理由は、以下のように推測される。
【0066】
第2実施形態では、加熱工程において塗布膜20中の特定銀粒子の残留ひずみが緩和される。特定銀粒子の残留ひずみが緩和される際に、特定銀粒子の結晶中の転位箇所(結晶欠陥部位)から微小な銀ナノ粒子15(
図2参照)が生成する。
【0067】
以下、
図2を参照しながら、特定銀粒子の転位箇所から生成した銀ナノ粒子15について説明する。銀ナノ粒子15の個数平均一次粒子径は、例えば1nm以上20nm以下であり、好ましくは1nm以上10nm以下であり、より好ましくは、3nm以上8nm以下である。少なくとも一部の銀ナノ粒子15は、多孔質銀焼結体14と半導体素子12との間に存在する。生成した銀ナノ粒子15は、特定銀粒子に比べて表面自由エネルギーが高いため、多孔質銀焼結体14と半導体素子12との間において、多孔質銀焼結体14と半導体素子12とを接着させる接着剤として機能する。これにより、接合層13と半導体素子12との接合強度を高めることができる。従って、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法によれば、高い接合強度を確保できる。
【0068】
接合層13には、例えば酸化銀(不図示)が存在していてもよい。酸化銀は、例えば、特定銀粒子の残留ひずみが緩和される際に、特定銀粒子の結晶中の転位箇所から生成する。
【0069】
特定銀粒子から生成した、一部の銀ナノ粒子15は、加熱工程において多孔質銀焼結体14と一体化してもよい。
【0070】
接合強度をより高めるためには、多孔質銀焼結体14と半導体素子12との間に銀ナノ粒子15が存在する領域は、銀ナノ粒子15のみが存在する領域、又は銀ナノ粒子15及び酸化銀(不図示)のみが存在する領域であることが好ましい。
【0071】
以上、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法について説明したが、本発明の接合構造体の製造方法は、上述した第2実施形態に限定されない。
【0072】
例えば、
図3(a)~(c)を参照して説明したように、第2実施形態に係る接合構造体の製造方法は、接合工程が、塗布工程と、積層体形成工程と、加熱工程とを含むが、本発明の接合構造体の製造方法において、接合工程は、上述した特定の銀ペーストを用いて半導体素子と基材とを接合する限り、特に限定されない。
【0073】
また、本発明の接合構造体の製造方法は、接合工程以外の工程(他の工程)を備えてもよい。他の工程としては、例えば、半導体素子と基材とを電気的に接続する工程が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。なお、走査電子顕微鏡(SEM)写真は、いずれもSEM(株式会社日立ハイテク製「SU8020」)を用いて、加速電圧5kVの条件で撮影した。また、透過電子顕微鏡(TEM)写真は、いずれもTEM(日本電子株式会社製「JEM-2100」)を用いて、加速電圧200kVの条件で撮影した。
【0075】
また、銀粒子(詳しくは、後述するフレーク状銀粒子FP及び球状銀粒子SPのいずれか)の残留ひずみは、X線回折法を用いて銀粒子(粉体)の結晶格子の面間隔を得た後、得られた結晶格子の面間隔から求めた。銀粒子の残留ひずみの測定方法の詳細を、以下に示す。
【0076】
<銀粒子の残留ひずみの測定方法>
まず、湾曲IPX線回折装置(株式会社リガク製「RINT(登録商標) RAPIDII」)を用いて、以下に示す測定条件で銀粒子の粉体(試料)のX線回折スペクトルを測定した。
特性X線:Cu-Kα線(λ=1.5418Å)
管電圧:40kV
管電流:30mA
測定範囲(2θ):0°以上160°以下
走査速度:1°/秒
【0077】
次いで、得られたX線回折スペクトルに基づいて、統合粉末X線解析ソフトウェア(株式会社リガク製「PDXL Ver.2.0」)を用いて、試料の結晶格子の(111)面、(200)面及び(220)面のそれぞれの面間隔を算出した。以下、得られた(111)面の面間隔をd1と記載し、得られた(200)面の面間隔をd2と記載し、得られた(220)面の面間隔をd3と記載する。
【0078】
次いで、d1と、残留ひずみがない銀の結晶の(111)面の面間隔(以下、d10と記載する)とから、下記式(1)に基づいて残留ひずみε1(単位:%)を算出した。また、d2と、残留ひずみがない銀の結晶の(200)面の面間隔(以下、d20と記載する)とから、下記式(2)に基づいて残留ひずみε2(単位:%)を算出した。また、d3と、残留ひずみがない銀の結晶の(220)面の面間隔(以下、d30と記載する)とから、下記式(3)に基づいて残留ひずみε3(単位:%)を算出した。
残留ひずみε1=100×(d1-d10)/d10・・・(1)
残留ひずみε2=100×(d2-d20)/d20・・・(2)
残留ひずみε3=100×(d3-d30)/d30・・・(3)
【0079】
次いで、残留ひずみε1、残留ひずみε2及び残留ひずみε3の平均値を、式「(残留ひずみε1+残留ひずみε2+残留ひずみε3)/3」により算出し、得られた平均値を試料の残留ひずみ(単位:%)とした。
【0080】
<銀粒子の準備>
後述する銀ペーストに使用する銀粒子として、フレーク状銀粒子FP(福田金属箔粉工業株式会社製「シルコート(登録商標)AgC-239」、体積中位径(D
50):3.0μm、残留ひずみ:12.5%)、及び球状銀粒子SP(大研化学工業株式会社製「S211A-10」、体積中位径(D
50):320nm、残留ひずみ:0%)を準備した。
図4に、フレーク状銀粒子FPのSEM写真を示す。また、
図5に、球状銀粒子SPのSEM写真を示す。なお、フレーク状銀粒子FPの体積中位径(D
50)及び残留ひずみは、いずれも、後述する接合構造体SA-1の作製に使用した銀ペーストから溶媒を除去して得られたフレーク状銀粒子FPの粉体を、測定対象として測定した場合も、同じ結果が得られた。同様に、球状銀粒子SPの体積中位径(D
50)及び残留ひずみは、いずれも、後述する接合構造体SB-1の作製に使用した銀ペーストから溶媒を除去して得られた球状銀粒子SPの粉体を、測定対象として測定した場合も、同じ結果が得られた。
【0081】
また、フレーク状銀粒子FPについては、TEMを用いて観察した。
図6に、フレーク状銀粒子FPのTEM写真を示す。
図6に示すように、フレーク状銀粒子FPは、転位箇所(転位線DL)を有していた。
【0082】
<接合構造体の作製>
次に、実施例1~5の接合構造体及び比較例1の接合構造体の作製方法を説明する。以下、実施例1の接合構造体、実施例2の接合構造体、実施例3の接合構造体、実施例4の接合構造体、実施例5の接合構造体、及び比較例1の接合構造体を、それぞれ接合構造体SA-1、接合構造体SA-2、接合構造体SA-3、接合構造体SA-4、接合構造体SA-5、及び接合構造体SB-1と記載することがある。なお、接合構造体SA-1~SA-5及びSB-1を作製する際に使用した半導体素子は、いずれも基材と接合させるためのメタライズ層を有していなかった。また、接合構造体SA-1~SA-5及びSB-1を作製する際に使用した基材は、いずれも半導体素子と接合させるためのメタライズ層を有していなかった。
【0083】
[接合構造体SA-1の作製]
(接合させる対象物の準備)
半導体素子として、Si半導体素子(寸法:3mm×3mm×0.4mm、以下、「第1Si半導体素子」と記載する)を準備した。また、基材として、Si半導体素子(寸法:5mm×5mm×0.4mm、以下、「第2Si半導体素子」と記載する)を準備した。
【0084】
(銀ペーストの調製工程)
フレーク状銀粒子FPと、エーテル系溶媒(株式会社ダイセル製「CELTOL(登録商標)IA」)とを、質量比(フレーク状銀粒子FP:エーテル系溶媒)が12:1となるように混合し、銀ペーストを得た。
【0085】
(接合工程)
第2Si半導体素子の電極が形成されていない方の主面に、厚さ100μmのマスクを用いて、スクリーン印刷法により銀ペースト(上述した調製工程により得られた銀ペースト)を塗布した(塗布工程)。次いで、印刷された銀ペーストからなる塗布膜に第1Si半導体素子を載置して、積層体を得た(積層体形成工程)。第1Si半導体素子を載置する際は、第1Si半導体素子の電極が形成されていない方の主面が塗布膜に接触するように第1Si半導体素子を載置した。次いで、得られた積層体をホットプレートにより加熱した(加熱工程)。加熱工程では、大気圧下、ホットプレートの加熱部に積層体を載置した状態で、室温(温度25℃)から加熱温度である250℃まで15℃/分の昇温速度でホットプレートの加熱部を昇温させた後、加熱部の温度を250℃に30分間維持した。なお、加熱工程では、積層体を、加圧せずに加熱した。以上説明した作製方法により、接合構造体SA-1を得た。
【0086】
[接合構造体SA-2の作製]
以下に示す変更点以外は、接合構造体SA-1の作製と同じ方法で接合構造体SA-2を得た。
【0087】
(変更点)
接合構造体SA-2の作製では、半導体素子として、第1Si半導体素子の代わりにGaN半導体素子(寸法:3mm×3mm×0.4mm)を準備した。接合構造体SA-2の作製では、基材として、第2Si半導体素子の代わりにGaN半導体素子(寸法:5mm×5mm×0.4mm)を準備した。
【0088】
[接合構造体SA-3の作製]
以下に示す変更点以外は、接合構造体SA-1の作製と同じ方法で接合構造体SA-3を得た。
【0089】
(変更点)
接合構造体SA-3の作製では、半導体素子として、第1Si半導体素子の代わりにSiC半導体素子(寸法:3mm×3mm×0.4mm)を準備した。接合構造体SA-3の作製では、基材として、第2Si半導体素子の代わりにSiC半導体素子(寸法:5mm×5mm×0.4mm)を準備した。
【0090】
[接合構造体SA-4の作製]
以下に示す変更点以外は、接合構造体SA-1の作製と同じ方法で接合構造体SA-4を得た。
【0091】
(変更点)
接合構造体SA-4の作製では、基材として、第2Si半導体素子の代わりにガラス板(松浪硝子工業株式会社製「S1111」、寸法:10mm×10mm×1.0mm)を準備した。
【0092】
[接合構造体SA-5の作製]
以下に示す変更点以外は、接合構造体SA-1の作製と同じ方法で接合構造体SA-5を得た。
【0093】
(変更点)
接合構造体SA-5の作製では、基材として、第2Si半導体素子の代わりに窒化アルミニウム板(株式会社トクヤマ製「SH-30」、寸法:50mm×50mm×0.6mm)を準備した。
【0094】
[接合構造体SB-1の作製]
以下に示す変更点以外は、接合構造体SA-1の作製と同じ方法で接合構造体SB-1を得た。
【0095】
(変更点)
接合構造体SB-1の作製では、基材として、第2Si半導体素子の代わりに窒化アルミニウム板(株式会社トクヤマ製「SH-30」、寸法:50mm×50mm×0.6mm)を準備した。接合構造体SB-1の作製では、銀ペーストの調製工程において、フレーク状銀粒子FPの代わりに球状銀粒子SPを使用して銀ペーストを調製した。詳しくは、接合構造体SB-1の作製では、銀ペーストの調製工程において、球状銀粒子SPと、エーテル系溶媒(株式会社ダイセル製「CELTOL(登録商標)IA」)とを、質量比(球状銀粒子SP:エーテル系溶媒)が12:1となるように混合し、銀ペーストを得た。
【0096】
<接合構造体の電子顕微鏡による観察>
[SEMによる観察]
得られた接合構造体SA-1をSEMにより観察した。
図7は、接合構造体SA-1の接合箇所の断面を示すSEM写真である。
図7に示すように、接合構造体SA-1では、第1Si半導体素子50と第2Si半導体素子60とが接合層13を介して接合されていた。また、
図7に示す断面のうち、第1Si半導体素子50と多孔質銀焼結体14との接合箇所を拡大したSEM写真である
図8に示すように、第1Si半導体素子50と多孔質銀焼結体14との接合性は良好であった。
【0097】
[TEMによる観察]
得られた接合構造体SA-1をTEMにより観察した。
図9は、接合構造体SA-1の接合箇所の断面を示すTEM写真である。
図9に示すように、接合構造体SA-1では、一部の銀ナノ粒子15が、多孔質銀焼結体14と第1Si半導体素子50との間に存在していた。また、接合構造体SA-1に含まれる銀ナノ粒子15は、個数平均一次粒子径が5nmであった。
【0098】
なお、図示はしないが、接合構造体SA-2~SA-5でも、一部の銀ナノ粒子が、多孔質銀焼結体と半導体素子との間に存在していた。また、接合構造体SA-2~SA-5に含まれる銀ナノ粒子は、いずれも個数平均一次粒子径が5nmであった。一方、接合構造体SB-1は、個数平均一次粒子径1nm以上20nm以下の銀ナノ粒子を含んでいなかった。
【0099】
<接合構造体の剪断強度の測定>
[接合構造体SA-1の剪断強度の測定]
剪断試験機(Nordson DAGE社製「XD-7500」)を用いて、接合構造体SA-1の剪断強度(第1Si半導体素子50と第2Si半導体素子60との間の剪断強度)を測定した。詳しくは、上記剪断試験機を用いて、第1Si半導体素子50と第2Si半導体素子60とに対して剪断力を加えて、剪断強度(剪断破壊が起きたときの剪断応力)を測定した。その結果、46.0MPaの剪断強度が得られた。なお、剪断強度が大きいほど、接合構造体の接合強度が高いことを示す。
【0100】
図10は、接合構造体SA-1の剪断強度を測定した後の第1Si半導体素子50を、接合箇所側から撮影したSEM写真である。
図10に示すように、第1Si半導体素子50の表面には、多孔質銀焼結体14が残存していた。つまり、接合構造体SA-1では、上記剪断試験機により剪断力を加えても、多孔質銀焼結体14の一部が第1Si半導体素子50と接合していた。
【0101】
[接合構造体SA-2の剪断強度の測定]
上述した接合構造体SA-1の剪断強度の測定と同じ条件で、接合構造体SA-2の剪断強度を測定した。その結果、45.8MPaの剪断強度が得られた。
【0102】
[接合構造体SA-3の剪断強度の測定]
上述した接合構造体SA-1の剪断強度の測定と同じ条件で、接合構造体SA-3の剪断強度を測定した。その結果、53.5MPaの剪断強度が得られた。
【0103】
[接合構造体SA-4の剪断強度の測定]
上述した接合構造体SA-1の剪断強度の測定と同じ条件で、接合構造体SA-4の剪断強度を測定した。その結果、29.0MPaの剪断強度が得られた。
【0104】
[接合構造体SA-5の剪断強度の測定]
上述した接合構造体SA-1の剪断強度の測定と同じ条件で、接合構造体SA-5の剪断強度を測定した。その結果、29.8MPaの剪断強度が得られた。
【0105】
[接合構造体SB-1の剪断強度の測定]
上述した接合構造体SA-1の剪断強度の測定と同じ条件で、接合構造体SB-1の剪断強度を測定した。その結果、0.4MPaの剪断強度が得られた。
【0106】
接合構造体SA-1~SA-5及びSB-1の剪断強度の測定結果から、本発明によれば、高い接合強度を確保できる接合構造体を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係る接合構造体は、例えば、電子部品が実装された実装構造体の部材として利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
10 :接合構造体
11 :基材
12 :半導体素子
13 :接合層
14 :多孔質銀焼結体
15 :銀ナノ粒子
40 :積層体