(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】リンク機構
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20240522BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20240522BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20240522BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20240522BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20240522BHJP
F16H 49/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
B25J17/00 E
B25J15/08 J
B25J19/06
F16H1/28
F16H49/00 A
(21)【出願番号】P 2022529254
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022131
(87)【国際公開番号】W WO2021245884
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-04-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物名 小型・低摩擦アクチュエータMagLinkageの開発とハンド応用、学会発表_予稿集、No.19-2 Proceedings of the 2019 JSME Conference on Robotics and Mechatronics,Hiroshima,Japan,June 5-8,2019 発行日 令和 1年 6月 5日 ・集会名 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス 講演会 2019 in Hiroshima 開催場所 広島国際会議場(広島県広島市) 開催日 令和 1年 6月 5日 ・刊行物名 小型・低摩擦アクチュエータ”MagLinkage”を用いた低衝撃・ノンストップ把持、学会発表_予稿集、第37回日本ロボット学会学術講演会(2019年9月3日~7日) 発行日 令和 1年 9月 3日 ・広報資料 MagLinkage with MagTran 発行日 令和 1年 6月 11日 ・広報資料 歯のない歯車 マグトラン(株式会社エフ・イー・シー) 発行日 令和 1年 6月 25日 ・広報資料 壊さない、壊れないロボットハンド 発行日 令和 1年 12月 18日 ・刊行物名 鹿児島読売新聞掲載広告「日本のものづくりを支えるロボット工学研究」 発行日 令和 1年 10月 26日 ・刊行物名 疑似ダイレクトドライブロボット「マグリンケージハンド」 発行日 令和 2年 1月 ・広報資料 <小型・低摩擦アクチュエータ MagLinkageを備えた多指ハンドシステム> 発行日 令和 1年 11月 22日 ・広報資料 SDP16HB(MagLinkage仕様)の特徴 発行日 令和 2年 2月 14日 ・刊行物名 日刊工業新聞 令和1年9月27日付 発行日 令和 1年 9月 27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳祐
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-153047(JP,A)
【文献】特開2014-136260(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053005(WO,A1)
【文献】特開2013-121268(JP,A)
【文献】特開2012-163186(JP,A)
【文献】特開2016-211667(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109099121(CN,A)
【文献】小山佳祐,マグリンケージ,Keisuke Koyama HP [オンライン],2019年12月26日,[検索日2020.08.05], インターネット<URL: https://kk-hs-sa.website/research/maglinkage/index-j. html>
【文献】小山佳祐,小型・低摩擦アクチュエータMagLinkageを備えた多指ハンドシステム,東京大学石川グ ループ研究室ホームページ [オンライン],2019年09月01日,[検索日2020.08.05], インターネット< URL:http://ishikawa-vision.org/fusion/MagLinkage_hand/index-j.html>
【文献】石田雅彦,『西日本製造技術イノベーション2019』現地レポート,みんなの試作広場(minsaku) [オンライン],2019年08月01日,[検索日:2020.08.05], インターネット<URL:https:// minsaku.com/articles/post400/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
F16H 1/28
F16H49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リンクと、
前記第1リンクの一端側に連結された第1関節と、
前記第1リンクの他端側に連結された第2関節と、
前記第2関節に一端側が連結された第2リンクと、
第3リンクと、
前記第3リンクの一端側に連結された第3関節と、
前記第3リンクの他端側に連結された第4関節と、
前記第4関節に一端側が連結された第4リンクとを備え、
前記第1関節、前記第2関節、前記第3関節、及び前記第4関節が、
モータと、
前記モータの回転軸に連結された第1磁石歯車と、
前記第1磁石歯車と磁気的に係合する第2磁石歯車と、
前記第2磁石歯車の回転軸に連結された遊星減速機とを備えたアクチュエータユニットを有し、
対象物を低衝撃で把持するために、前記第1関節をダンピング制御するとともに前記第2関節をコンプライアンス制御する第1フェーズと、前記第3関節を位置制御するとともに前記第4関節を前記対象物に向かって近づける第2フェーズと、前記第1関節を位置制御するとともに前記第4関節のコンプライアンス制御による仮想バネの変位が一定となるように第3関節を位置制御する第3フェーズとをこの順番に実行する
第1制御回路をさらに備え
、
前記第1関節、前記第1リンク、前記第2関節、及び前記第2リンクが、ロボットハンドの第1指を構成し、
前記第3関節、前記第3リンク、前記第4関節、及び前記第4リンクが、前記ロボットハンドの第2指を構成し、
前記第1関節が、前記ロボットハンドの前記第1指の根元関節であり、
前記第2関節が、前記ロボットハンドの前記第1指の指先関節であり、
前記第3関節が、前記ロボットハンドの前記第2指の根元関節であり、
前記第4関節が、前記ロボットハンドの前記第2指の指先関節であることを特徴とするリンク機構。
【請求項2】
前記モータが、前記遊星減速機の出力軸に外力トルクが作用した際に前記モータの回転軸が逆回転する逆回転量を計測するエンコーダを有する請求項1に記載のリンク機構。
【請求項3】
前記エンコーダにより計測された逆回転量に基づいて、前記遊星減速機の出力軸に作用する衝撃トルクを吸収するように前記モータを制御する
第2制御回路をさらに備える請求項2に記載のリンク機構。
【請求項4】
前記
第2制御回路が、前記第1磁石歯車及び前記第2磁石歯車の係合する磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクを補償するように前記モータを制御する請求項3に記載のリンク機構。
【請求項5】
前記第1磁石歯車及び前記第2磁石歯車が、前記モータの回転を直交変換する請求項1に記載のリンク機構。
【請求項6】
前記第1関節の前記第1磁石歯車及び前記第2磁石歯車の係合する磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクを補償するように前記モータを制御する制御回路をさらに備える請求項1に記載のリンク機構。
【請求項7】
前記第2リンクの他端側に仮想ダンパの力が作用するように前記第1関節のアクチュエータユニットをダンピング制御するとともに、前記第2リンクの他端側に仮想バネの力が作用するように前記第2関節のアクチュエータユニットをコンプライアンス制御する制御回路をさらに備える請求項1に記載のリンク機構。
【請求項8】
対象物を低衝撃で把持するために、前記第1関節をダンピング制御するとともに前記第2関節をコンプライアンス制御し、前記第3関節を角度制御するとともに前記第4関節をコンプライアンス制御した後、前記第1~第4関節を仮想バネと仮想ダンパを並列接続したモデルにより制御する制御回路をさらに備える請求項1に記載のリンク機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックドライバビリティを有するアクチュエータユニット及びこれを備えたリンク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの回転軸に連結されたハーモニックドライブ(登録商標)減速機と、このハーモニックドライブ(登録商標)減速機の出力軸に連結された第1傘歯車と、この第1傘歯車と係合する第2傘歯車とを有する関節を備えた高速度ロボットハンドが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】今井睦朗、他4名、「視覚フィードバックを用いた高速ハンドシステムの開発」、日本ロボット学会創立20周年記念学術講演会/講演論文集、2002年10月12~14日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の高速度ロボットハンドは、傘歯車を用いているため、低バックラッシと低摩擦とを両立することが困難であるという問題があり、また、機械的な歯の摩耗によりバックラッシが変動するという問題がある。このため、塑性変形モード、弾性変形制御モード、直列弾性体アクチュエータモードといった力制御、位置制御を実現することが困難である。
【0005】
本発明の目的は、低バックラッシと低摩擦とを両立することができるアクチュエータユニット及びこれを有するリンク機構を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るアクチュエータユニットは、モータと、前記モータの回転軸に連結された第1磁石歯車と、前記第1磁石歯車と磁気的に係合する第2磁石歯車と、前記第2磁石歯車の回転軸に連結された遊星減速機とを備えたことを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るリンク機構は、第1リンクと、前記第1リンクの一端側に連結された第1関節と、前記第1リンクの他端側に連結された第2関節と、前記第2関節に一端側が連結された第2リンクとを備え、前記第1関節及び前記第2関節が、本発明の一態様に係るアクチュエータユニットを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低バックラッシと低摩擦とを両立することができるアクチュエータユニット及びこれを有するリンク機構を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る多指ハンドの外観を示す画像である。
【
図2】上記多指ハンドに設けられたアクチュエータユニットの構成を示す斜視図である。
【
図3】上記アクチュエータユニットに設けられた指先関節をPD角度制御した際の角度応答を示すグラフである。
【
図4】上記指先関節をPD角度制御した際の角速度応答を示すグラフである。
【
図5】上記アクチュエータユニットに設けられた根元関節をPD角度制御した際の角度応答を示すグラフである。
【
図6】上記根元関節をPD角度制御した際の角速度応答を示すグラフである。
【
図7】上記根元関節の摩擦・コギングトルク制御の効果を示すグラフである。
【
図8】上記多指ハンドに設けられた第1指のMaxwellモデル制御の仕組みを説明するための模式図である。
【
図9】上記Maxwellモデル制御により制御された多指ハンドの第1指の軽量物体キャッチ動作を時系列的に示す図である。
【
図10】比較例に係る制御モードにより制御された多指ハンドの第1指の軽量物体キャッチ動作を時系列的に示す図である。
【
図11】上記Maxwellモデル制御及び上記比較例に係る制御モードにより制御された多指ハンドの第1指に作用する仮想バネ反力と経過時間との間の関係を示すグラフである。
【
図12】実施形態2に係る多指ハンドの動作の第1フェーズを示す模式図である。
【
図13】上記多指ハンドの動作の第2フェーズを示す模式図である。
【
図14】上記多指ハンドの動作の第3フェーズを示す模式図である。
【
図15】薄板状物体を高速に把持しようとする上記多指ハンドの動作を示す画像である。
【
図16】上記薄板状物体を高速に把持した上記多指ハンドの動作を示す画像である。
【
図17】上記多指ハンドの塑性変形制御モードの概念を示す模式図である。
【
図18】上記多指ハンドの直列弾性体アクチュエータモード1の概念を示す模式図である。
【
図19】机上の物体を横方向から高速に把持するために第1フェーズで制御された上記多指ハンドの動作を示す画像である。
【
図20】机上の物体を横方向から高速に把持するために第2フェーズで制御された上記多指ハンドの動作を示す画像である。
【
図21】机上の物体を横方向から高速に把持するために第3フェーズで制御された上記多指ハンドの動作を示す画像である。
【
図22】上記多指ハンドの直列弾性体アクチュエータモード2の概念を示す模式図である。
【
図23】上記多指ハンドの弾性変形制御モードの概念を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
(多指ハンド15の構成)
図1は実施形態1に係る多指ハンド15(リンク機構、ロボットハンド)の外観を示す画像である。多指ハンド15は、第1指10(リンク機構、ロボットハンド)と第2指16(リンク機構、ロボットハンド)とを備える。第1指10は、第1リンク11と、第1リンク11の一端側に連結された根元関節12(第1関節)と、第1リンク11の他端側に連結された指先関節13(第2関節)と、指先関節13に一端側が連結された第2リンク14とを有する。第2指16は、第3リンク17と、第3リンク17の一端側に連結された根元関節18(第3関節)と、第3リンク17の他端側に連結された指先関節19(第4関節)と、指先関節19に一端側が連結された第4リンク20とを有する。根元関節12・18及び指先関節13・19のそれぞれは、アクチュエータユニット1を含む。
【0011】
図2はアクチュエータユニット1の構成を示す斜視図である。アクチュエータユニット1は、ダイレクトドライブモータ2(モータ)と、ダイレクトドライブモータ2の回転軸6に連結された第1磁石歯車3と、第1磁石歯車3と磁気的に係合する第2磁石歯車4と、第2磁石歯車4の回転軸に連結された遊星減速機5とを備える。第1磁石歯車3及び第2磁石歯車4は、N極とS極とが外周面に円周方向に沿って交互に配置されており、ダイレクトドライブモータ2の回転を直交変換する。なお、第1磁石歯車3及び第2磁石歯車4は平行に配置されてもよい。
【0012】
ダイレクトドライブモータ2は、遊星減速機5の出力軸8に外力トルクが作用した際にダイレクトドライブモータ2の回転軸6が逆回転する逆回転量を計測するエンコーダ7を有する。
【0013】
アクチュエータユニット1は、エンコーダ7により計測された逆回転量に基づいて、遊星減速機5の出力軸8に作用する衝撃トルクを吸収するようにダイレクトドライブモータ2を制御する制御回路9をさらに備える。
【0014】
制御回路9は、第1磁石歯車3及び第2磁石歯車4の係合する磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクを補償するようにダイレクトドライブモータ2を制御する。
【0015】
図1に示す多指ハンド15は、衝撃吸収キャッチを実現し、アクチュエータユニット1を8個用いている。このアクチュエータユニット1は、
図2に示すように、小型のダイレクトドライブモータ2の回転軸6を第1及び第2磁石歯車3・4により直交変換し、遊星減速機5で回転速度をロボット応用に適した速度域まで減速する。
【0016】
ダイレクトドライブモータ2、低減速比の遊星減速機5、及び第1及び第2磁石歯車3・4を組み合わせたアクチュエータユニット1は、第1及び第2磁石歯車3・4を採用したことにより、低摩擦・低バックラッシが実現されているため、バックドライバビリティが非常に優れている。
【0017】
そして、アクチュエータユニット1は、ダイレクトドライブモータ2、第1及び第2磁石歯車3・4、遊星減速機5の順番に連結されているので、遊星減速機5が第1及び第2磁石歯車3・4のトルクを増幅する。前述した非特許文献1に記載の高速度ロボットハンドは、磁石歯車の前段に連結された減速機でトルク増幅が行われるため、結果的に発揮できるトルクは磁石歯車の最大伝達トルク(極小)になり、小トルクしか発揮できない。これに対して、実施形態1に係るアクチュエータユニット1は、第1及び第2磁石歯車3・4の後段に連結された遊星減速機5でトルク増幅が行われるため、大きいトルクを発揮することができる。
【0018】
また、ダイレクトドライブモータ2の長手方向と出力軸8とが直交した位置関係にあるため、小型のロボットハンド・脚ロボットを構成することが容易である。
【0019】
この低摩擦・低バックラッシが実現されたアクチュエータユニット1を備える多指ハンド15を用いることにより、衝撃吸収制御(Maxwellモデル制御)を外界センサレス・サーボ制御のみで実現することができた。ロボットハンドにおいて、サーボ制御のみで衝撃吸収制御を実現した例はこれまでになく、本実施形態が初の報告である。
【0020】
アクチュエータのバックドライバビリティを向上するために、トルクセンシングと摩擦補償制御を組み合わせる手法や、出力軸のバックラッシを利用する制御手法が提案されている。
【0021】
しかしながら、小型のロボットハンドや脚ロボットを構成する際に問題となる「アクチュエータと出力軸の配置」は上記提案で考慮されていない。一方、油圧駆動アクチュエータを用いた高バックドライバブルハンドの従来例もあるが、油漏れし辛く、かつ応答性の良い小型の油圧駆動アクチュエータの入手は現在でも難しい。最近は、高バックドライバビリティな直列弾性アクチュエータ(Series Elastic Actuator(SEA))が何種類か販売されているが、サイズが大きいという問題がある。また、アクチュエータの出力軸が対象物や環境と接触した際に、接触を維持しながら衝撃を吸収する高応答な力制御が可能であるか否かは直列弾性アクチュエータで検証されていない。従って、多指ハンドや脚ロボットをコンパクトに構成可能な小型・高速・高バックドライブアクチュエータを新たに開発する必要があった。
【0022】
実施形態1に係るアクチュエータユニット1を備えた多指ハンド15の主な寸法・仕様を(表1)及び(表2)に示す。
【表1】
【0023】
【表2】
指先から指先(DIP)関節13までの間の第2リンク14のリンク長60.5mm、指先関節13から根元(PIP)関節12までの間の第1リンク11のリンク長77mmであり、指幅35mmである。この多指ハンド15のサイズは、バックドライバビリティが優れた多指ハンドの中では最小クラスのサイズである。速度域とトルク域は定格スペックの高速度ロボットハンドと同等の性能を目指してアクチュエータ、減速機、及び磁石歯車を選定した。
【0024】
根元関節12では大トルクを発揮するために、直径18mmのDDモータ(MDS-2018,マイクロテック・ラボラトリー株式会社)と高トルクタイプの磁石歯車(FD22S-C-SA,株式会社エフ・イー・シー)を採用した。一方、指先関節13は小サイズと滑らかな回転の実現を重視し、直径13mmのDDモータ(MDS-1318)と低コギングタイプの磁石歯車(FD22-C-SA)を用いた。
【0025】
最大トルクは、指先関節13で0.41Nm、根元関節12で1.0Nmであり、最大回転速度は両関節共に182rpmである。減速比は、従来の高速ハンドが1/50-1/100であるのに対し、本多指ハンド15では両関節共に1/16.4である。従来の定格スペックの高速ハンドに比較すると、指先関節13の最大トルクは2.1倍、根元関節12の最大トルクは1.1倍であり、多指ハンド15は減速比を小さくしつつトルクアップを実現した。但し、1指2関節モジュールの第1指10の重量は、従来の高速ハンドが110gであるのに対し、本多指ハンド15は280gである。また各関節の最高回転速度は従来の定格スペックの高速ハンド基準で0.9倍である。従って、高速位置決め制御には従来の高速ハンドが適しており、高ダイナミックレンジでの力制御には本多指ハンド15が適している。
【0026】
(表3)に指先関節13及び根元関節12のダイレクトドライブモータ2の回転軸6側での静止摩擦トルク、クーロン摩擦トルク、及び粘性摩擦トルクを示す。
【0027】
【表3】
静止摩擦トルクは、ダイレクトドライブモータ2に三角波状のトルク指令を十分低速で与えた際に回転軸6が回転を始めた時点のモータトルク指令値である。一方、クーロン摩 擦トルクと粘性摩擦トルクは、後述する1リンク1慣性モデルを仮定し、従来のMD同定法で推定した値である。指先関節13のダイレクトドライブモータ2(MDS-1318)の瞬時最大トルクは0.025Nmであるのに対し、静止摩擦力は4.0E-3Nmであるため、瞬時最大トルクを基準にすると静止摩擦による損失は16%である。また、根元関節12のダイレクトドライブモータ2(MDS-2018)の瞬時最大トルクは0.13Nmであり、静止摩擦力は1.68E-2Nmであるため、同基準で静止摩擦による損失は13%である。指先関節13、根元関節12共にモータ瞬時最大トルクを100%とすると静止摩擦による損失は16%以下であり、実施形態1に係る多指ハンド15は直交軸変換を含む減速機系としては極端に摩擦が小さい。
【0028】
(角度・角速度追従特性)
指先関節13・根元関節12の角度・角速度の応答特性を検証するために、下記PD(Proportional-Differential、比例微分)制御式(1)による目標角度への追従実験を行った。
【0029】
【数1】
τ
ref-iは関節iのトルク指令値であり、K
p-iは比例ゲイン、K
d-iは微分ゲインである。θ
1が指先関節13の角度であり、θ
2が根元関節12の角度である。指先関節13・根元関節12の各軸順番に角度目標値を下記式(2)で与え、0~2s間、目標値をスイープさせた。なお、連成振動の影響を除去するために、駆動しない関節は固定して実験を行った。
【0030】
【数2】
図3は指先関節13をPD角度制御した際の角度応答を示すグラフである。
図4はその角速度応答を示すグラフである。
図5は根元関節12をPD角度制御した際の角度応答を示すグラフである。
図6はその角速度応答を示すグラフである。なお角速度は角度を微分して計算した。グラフ内の点線は目標角度値又は理想速度値を示している.
図3及び
図4より、指先関節13は角度・角速度共に目標値への追従性能が良い。指先関節13は低コギングの磁石歯車を採用したことで、摩擦・コギング補償無しで滑らかな角度・速度制御が可能である。
【0031】
一方、
図5及び
図6より、根元関節12は-5~5rad/sの角速度域で角速度の脈動が生じている。根元関節12にはトルクを重視して大トルクの磁石歯車を採用したが、この結果、磁石歯車の磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクが無視できないレベルとなり、速度の脈動が生じたと考えられる。
【0032】
(摩擦・コギングトルクモデルと補償制御)
より滑らかに 根元関節12の角度・角速度を制御するために、摩擦・コギングモデルを導入する。モデルを単純にするために、1リンク1慣性系とし、磁石歯車のコギングトルクはcos波形で近似する。この摩擦・コギングトルクモデルを下記式(3)に示す。
【0033】
【数3】
式(3)の左辺第一項目が慣性力、二項目が粘性摩擦力、三項目がクーロン摩擦力、第四項がコギングトルクである。θ
2-mは根元関節12のモータ角度であり、Iは慣性モーメント、Dは粘性摩擦係数、Cはクーロン摩擦係数、C
iはコギングトルク係数、θ
offset-iはコギング波形の位相である。一方、右辺第一項はトルク指令、第二項はトルク指令のゼロ点オフセット誤差である。これらのパラメータ値はMD同定法と適当なステップ応答から求めた。摩擦・コギングトルク項のパラメータ同定値
【数4】
から下記式(4)により摩擦・コギング補償を行う。
【0034】
【数5】
上記τ′
ref-2は、PD制御によるトルク指令値や衝撃吸収制御のトルク指令値である。
【0035】
図7は根元関節12の摩擦・コギングトルク制御の効果を示すグラフである。縦軸が角速度、横軸は時間であり、線L1が理想値、線L2がPD制御のみの場合での角速度値、線L3がPD制御と摩擦・コギングトルク補償制御を組み合わせて実行した際の角速度値である。
図7より、摩擦・コギングトルク補償制御を用いた線L3は、角速度0~2rad/s内での追従特性が、PD制御のみの線L2よりも向上し、明らかに角速度の脈動が減少した。しかしながら、角速度-5~0rad/sの区間では、摩擦・コギングトルク補償制御を用いた線L3の方が速度の脈動が増加している。このため、この摩擦・コギングトルクモデルでは関節回転方向の切り替わりを含むタスクで滑らかに角度・角速度を制御することは困難である。但し、物体の衝撃吸収キャッチタスクでは、一方向に滑らかに角度・角速度を制御できれば良いため、本摩擦・コギングトルクモデルを用いる。
【0036】
(衝撃吸収キャッチ)
実施形態1に係る多指ハンド15の第1指10(第2指16)は、摩擦が極端に小さい機構であるため、小さい外力が加わった際でも関節がバックドライブし、このバックドライブの回転量をダイレクトドライブモータ2側のエンコーダ7で正確に計測できる。この特徴は、外界センサレスで精度の高い把持力の推定や、インピーダンス制御を行う際に有利である。実施形態1では、本発明者らが提案している直列インピーダンス制御(Maxwellモデル制御)が多指ハンド15の第1指10により実現可能かを検証した。
【0037】
通常のインピーダンス制御ではバネとダンパを並列接続したvoigtモデルが用いられるが、物体や環境と衝突した後に初期位置に戻ろうとする反力が必ず発生する。この反力は、制御対象が物体を高速キャッチする際に弾き返す原因となる。
【0038】
そこで、バネとダンパを直列接続したMaxwellモデルを用いる制御方法が提案されている。このMaxwellモデルでは、塑性変形的な挙動(初期位置に戻ろうとする反力が発生しない挙動)を実現するため、軽量な物体を弾き返さずにキャッチする場合に有効である。本実施形態に係る手法は、多指ハンド15の指先関節13により仮想的なバネ力を発生させ、このバネ力のフィードバックに基づき根元関節12をダンピング制御することで直列接続されたバネ・ダンパモデルを表現する。
【0039】
シミュレーションや、実物のバネをアクチュエータの手先に取り付けて変位を計測することで物体を弾き返さずにキャッチする例がこれまでに示されている。しかしながら、機構系の摩擦の問題と物体との接触を維持することの難しさにより、ロボットハンドにおいてサーボ制御のみでのMaxwellモデル制御はこれまでに実現されていない。
【0040】
(制御式)
実施形態1では、アクチュエータユニット1の高いバックドライバビリティを生かして、Maxwellモデル制御を実現する。従来手法では位置ベース制御が用いられてきたが、この位置ベース制御の手法では、摩擦の影響を位置制御ループで小さくできる反面、物体と指先との接触を保つためには非常に高い制御応答性が必要になり安定した制御が難しかった。
【0041】
そこで、実施形態1では、トルクベース制御を用いることで、アクチュエータユニット1の高いバックドライブ特性を生かし、物体と指先との接触を保ちやすくする。
【0042】
図8は多指ハンド15に設けられた第1指10のMaxwellモデル制御の仕組みを説明するための模式図である。
【0043】
図8に示す通り、第1指10の第2リンク14の指先に仮想的なバネを設定し、指先 関節13の初期角度θ
initial‐2を基準にして式(5)により仮想バネ力F
springを計算する。
【0044】
【数6】
K
sは仮想バネのバネ定数、K
gは減速比、L1は指面の中心から指先関節13までのリンク長であり、θ
s1は仮想バネの軸方向とL1リンクのなす角度である。そして仮想バネ力F
springを用いて指先関節13のトルク目標値τ
ref‐1を下記式(6)で与える。
【0045】
【数7】
θ
s2はL
1リンクとL
0‐2仮想リンク(指面の中心から根元関節12との間の距離)のなす角度である。一方、根元関節12のダンピングトルクはF
springの微分値を使用し、下記式(7)で与える。
【0046】
【数8】
K
dは仮想ダンパの粘性係数である。式(6)と式(7)により、直列接続された仮想バネ及び仮想ダンパを手先座標基準で表現し、Maxwellモデルの塑性変形の挙動を実現する。
【0047】
(実験)
図9はMaxwellモデル制御により制御された多指ハンドの第1指10の軽量物体キャッチ動作を時系列的に示す図である。
図10は比較例に係る制御モードにより制御された多指ハンドの第1指10の軽量物体キャッチ動作を時系列的に示す図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付している。これらの構成要素の詳細な説明は繰り返さない。
【0048】
トルクベースMaxwellモデル制御で軽量な物体21を弾かずにキャッチ可能かを検証した。物体21は100gの鉄製円柱とし、傾斜面上を転がせて加速させた後に水平面上で1指2関節モジュールである第1指10の指先22に衝突させた。なお、指先22はアルミ平板を用いた。実験の再現性を高めるために、指先22の面と物体21と実験装置の表面とに約0.2mm厚の滑り止めテープを貼りつけた。
【0049】
図9に示す通り、トルクベースのMaxwellモデル制御を根元関節12と指先関節13とに用いることで、指先22は物体21を弾かずに接触を保ち続けることができた。
【0050】
一方、
図10には根元関節12のダンピング制御ゲインを零とし、指先関節13のバネ挙動のみでキャッチした際の様子が示されている。この場合は、接触後に指先22が物体21を弾き返してしまい、接触を維持することはできなかった。根元関節12の摩擦・コギングトルク補償制御をオフにした場合も同様に、接触後に指先22が物体21を弾き返してしまい、接触を維持することはできなかった。
【0051】
図11はMaxwellモデル制御及び比較例に係る制御モードにより制御された多指ハンド15の第1指10に作用する仮想バネ反力と経過時間との間の関係を示すグラフである。波形W1はMaxwellモデル制御で摩擦・コギング補償制御があるときの仮想バネ反力を示し、波形W2はMaxwellモデル制御で摩擦・コギング補償制御が無いときの仮想バネ反力を示し、波形W3は根元関節12のダンピング制御ゲイン零での仮想バネ反力を示している。
【0052】
波形W1の場合で最も撃力が小さく、かつ接触時間も増加している。波形W1では仮想バネ力のピークが二つあるが、これはMaxwellモデル制御のダンピング制御ゲインを比較的大きく設定したため、一度目の衝突の後にわずかに物体21から指先22が離れ、その後二回目の衝突が起こったためである。連続的に接触を維持し続けるためにはダンピング制御ゲインを適切に設定することと、静止摩擦を補償する方法が必要である。以上の結果から、多指ハンド15の第1指10とトルクベースMaxwell制御及び摩擦・コギングトルク補償制御との組み合わせにより、物体21の衝突時に撃力を低減させて接触時間を増加させることが可能である。これらの効果により、軽量物体を跳ね返さずにキャッチすることが可能となった。
【0053】
このように、制御回路9は、第2リンク14に仮想ダンパの力が作用するように根元関節12のアクチュエータユニット1をダンピング制御するとともに、第2リンク14に仮想バネの力が作用するように指先関節13のアクチュエータユニット1をコンプライアンス制御する。
【0054】
(実施形態1の効果)
実施形態1によれば、新しい小型・低摩擦のアクチュエータユニット1とMaxwellモデル制御を用いた衝撃吸収キャッチを実現することができる。小型のダイレクトドライブモータ2、遊星減速機5の組み合わせにより、減速比を小さくしつつ、かつトルクアップを達成した。第1及び第2磁石歯車3・4を用いて回転軸6を直交変換することで、極めて高いバックドライバビリティを持つ多指ハンド15を小型サイズで実現した。この他、第1及び第2磁石歯車3・4のメリットとしては、メンテナンスフリー、トルクリミッタ機能の付加がある。
【0055】
根元関節12で低速域において磁石歯車のコギングトルクによる回転速度の脈動が発生する問題に対して、実施形態1では、単純な摩擦・コギングトルクモデルによる補償制御を導入した。ボールキャッチのように、一方向のみに滑らかに関節を駆動することが重要であるタスクにおいて、実施形態1に係る摩擦・コギングトルクモデルによる補償制御が有効である.
実施形態1に係るアクチュエータユニット1を用いることで、Maxwellモデル制御を用いた衝撃吸収キャッチを初めてサーボ制御のみで実現した。実験結果から、物体21との衝突による撃力の発生時間は180~280msと極めて短く、この短い時間内に衝撃を低減するためには、高バックドライバビリティなアクチュエータユニット1に係る機構と高速なトルクベース制御との組み合わせが有効である。さらに、高速ビジョンセンサや高速・高精度近接覚センサと多指ハンド15との組み合わせにより、より高度で高速なキャッチタスクや製品の組立 タスクの高機能化を目指すことができる。
【0056】
(実施形態2)
実施形態2では、実施形態1で前述した多指ハンド15と衝撃吸収制御とを用いた把持動作を提案する。この把持動作では、外界センサレスで一方の第1指10を把持対象物と接触させながら、他方の第2指16を接近させることで、多指ハンド15の手先を停止させることなく把持を行う。多指ハンド15の高いバックドライバビリティと衝撃吸収制御の組み合わせにより、高速かつシームレスな動作を実現できる点と、把持の衝撃力を小さくできる点が有効である。
【0057】
準静的な把持動作では、1)物体形状に沿った指先配置と、2)物体重量や摩擦係数に応じた把持力調整が重要視される。しかしながら、動く物体を把持する場合やロボット自身が移動しながら把持を行う場合は、これらに加えて、3)把持の衝撃力を吸収して物体を弾くことを防止する手法と、4)動作全体の高速化のためにリーチングから把持までをシームレスに実行する手法も必要である。特にベアリングなどの小型部品やプラスチック製品の組立などでは、ハンド指先よりも把持物体の方が、重量が軽いケースが多く、把持動作を高速化するにつれ物体を弾く失敗例が顕著に表れる。また、従来手法ではリーチング動作と把持動作には別々の手法を用いる場合が多く、この制御の切り替え時にロボットの動作が途切れ途切れになる問題があった。実施形態2では実施形態1に係る多指ハンド15と衝撃吸収制御(Maxwellモデル制御)を用いることで、物体を弾かずにシームレスな動作で把持する動作を提案する。
【0058】
(把持動作)
図12は実施形態2に係る多指ハンド15の動作の第1フェーズを示す模式図である。
図13は多指ハンド15の動作の第2フェーズを示す模式図である。
図14は多指ハンド15の動作の第3フェーズを示す模式図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付している。これらの構成要素の詳細な説明は繰り返さない。
【0059】
多指ハンド15の2指4関節での動作フェーズの切り替わりを説明する。まず、
図12に示すように、第1フェーズで多指ハンド15の全体を右方向に移動させて第1指10を物体21に接触させる。そして、
図13に示すように、第2フェーズで第2指16を物体21に第1指10と反対側からアプローチさせる。最後に、
図14に示すように、第3フェーズで第1指10及び第2指16により把持力調整を行う。なお、触覚センサや近接 覚センサは使用せず、第1指10及び第2指16の関節角度フィードバックのみを用いる。
【0060】
第1指10の根元関節12及び指先関節13、並びに、第2指16の根元関節18及び指先関節19には、実施形態1で前述したアクチュエータユニット1が設けられる。このアクチュエータユニット1は、小型のダイレクトドライブモータ2(マイクロテック・ラボラトリー株式会社製)と直交軸変換型の第1及び第2磁石歯車3・4(株式会社エフ・イー・シー製)と、小型の遊星減速機5(株式会社信電舎製)とで構成される小型・低 摩擦アクチュエータである(
図2)。小型のダイレクトドライブモータ2と小型の遊星減速機5(減速比約1/16)により低減速比ながら高トルクを発揮できる。さらに、ダイレクトドライブモータ2の回転軸6を第1及び第2磁石歯車3・4で直交変換することで小型・低摩擦な機構を実現している。出力軸8に外力トルクが加わった際に小トルクで逆回転し、この回転量をダイレクトドライブモータ2側のエンコーダ7で計測可能である。この高いバックドライバビリティと角度計測を利用することにより、アクチュエータユニット1は、角度フィードバックのみ(外界センサレス)でコンプライアンス制御やダンピング制御を実装できる利点を有する。
【0061】
(動作フェーズ)
第1~第3フェーズ全ての中で、第1指10の指先関節13の関節角度θ2及び第2指16の指先関節19の関節角度θ4はコンプライアンス制御される。そしてこの関節角度θ2又はθ4の変位が閾値以上になった際に物体21と接触したと判定し、第1指10又は第2指16の根元関節12又は18の関節角度θ1又はθ3の制御を切り替える。根元関節12・18の制御にはダンピング制御又は位置制御を用いる。
【0062】
第1フェーズと第2フェーズでは第1指10の根元関節12はダンピング制御され、第1指10の指先関節13のコンプライアンス制御と合わせて塑性変形的挙動を実現する。この塑性変形挙動により、物体21と第1指10の衝突時の平均撃力を低下させること で、第1指10は物体21を弾くことなく接触を維持する。そして、第1指10の指先関節13の関節角度θ2の角度変化が閾値を超えた時点で第1フェー ズから第2フェーズに切り替える。
【0063】
第2フェーズでは、第2指16の根元関節18の関節角度θ3を位置制御し、物体21に向かって第2指16をアプローチさせる。そして、第2指16の指先関節19の関節角度θ4の変位が閾値以上になったタイミングで第3フェーズに切り替える。
【0064】
第3フェーズでは、第1指10の根元関節12の関節角度θ1と第2指16の根元関節18の関節角度θ3共に位置制御を行う。第1指10の関節角度θ1は第3フェーズ開始時点での角度を維持し、第2指16の関節角度θ3は、指先関節19のコンプライアンス制御による仮想バネの変位が一定となるように把持力調整を行う。
【0065】
本手法では指先関節13・19は常にコンプライアンス制御されているため、物体21と指先との間の接触を維持しやすい利点がある。また、フィードバックループは多指ハンド15の制御のみで閉じているため、多指ハンド15を搭載するロボットアーム側の制御はPtoP(Point to Point)の位置制御のみ行えばよい。ロボットアームの手先位置を把持対象物の物体21に向かって移動させれば、後は自動的に多指ハンド15が物体21との接触を検知し、衝撃吸収制御を行いつつ物体21を把持する点が本手法の特徴である。
【0066】
このように、制御回路9Aは、物体21を低衝撃で把持するために、根元関節12をダンピング制御するとともに指先関節13をコンプライアンス制御する第1フェーズと、根元関節18を位置制御するとともに指先関節19を物体21に向かって近づける第2フェーズと、根元関節12を位置制御するとともに指先関節19のコンプライアンス制御による仮想バネの変位が一定となるように根元関節18を位置制御する第3フェーズとをこの順番に実行する。
【0067】
(把持実験)
合計4つのアクチュエータユニット1を用いて2指4関節の多指ハンド15を構成し、この多指ハンド15をユニバーサルロボット社のアーム(UR5e)に取り付けた。アクチュエータユニット1のモータドライバはリアルタイム制御器(dSPACE)と接続され、1msごとにエンコーダ7の角度フィードバックと、アクチュエータユニット1のトルク制御(電流制御)を行った。なお、リアルタイム制御器上ではエンコーダ7の角度を用いてトルク指令値型のPD位置制御又は衝撃吸収制御を行った。上記アームのコントローラとリアルタイム制御器はIO(Input Output)ポートのみで接続されており、アーム動作開始のタイミングのみリアルタイム制御器から信号が送られる。上記アームのコントローラはこの信号を受けてアーム手先位置のフィードフォワード制御を開始する。なお、このアーム手先位置の目標値は物体21の設置位置を中心にして±30ミリメートルのそれぞれの地点を上記アームが通過するように設定し、物体21の配置誤差に対応できるようにした。
【0068】
多指ハンド15は、ペットボトル、缶、電話子機を把持することができた。第1指10が物体21に衝突した後に第2指16が物体21に接近し、その後、第1指10、第2指16ともに物体21の両側面を把持して持ち上げることができた。ペットボトル、缶、電話子機のそれぞれの物体21は重量やサイズが異なるが、同一パラメータで把持することが可能であった。本手法は、アームの手先のアプローチ方向に配置される物体21の位置誤差と物体21の幅の誤差に対してロバストであり、シームレスな動作で物体21からの衝撃力を低減しつつ物体21を把持することが達成可能である。
【0069】
(低衝撃ノンストップ把持(アーム上下動作))
図15は薄板状の物体21Aを高速に把持しようとする多指ハンド15の動作を示す画像である。
図16は物体21Aを高速に把持した多指ハンド15の動作を示す画像である。
図17は多指ハンド15の塑性変形制御モードの概念を示す模式図である。
図18は多指ハンド15の直列弾性体アクチュエータモード1の概念を示す模式図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付している。これらの構成要素の詳細な説明は繰り返さない。
【0070】
アーム23に取り付けられた多指ハンド15は、第1指10と第2指16を備える。まず、机上に配置された薄板状の物体21Aに対して、アーム23を矢印A1に示すように上方向からアプローチさせて第1指10の第2リンク14の先端を物体21Aに接触させた。物体21Aは名刺である。
【0071】
第1指10は、
図17に示される塑性変形モードで動作させた。この塑性変形モードは、実施形態1で前述した塑性変形モードに相当する。指先関節13のアクチュエータユニット1は、第2リンク14の先端に仮想バネ力が作用するように制御される。根元関節12のアクチュエータユニット1は、第2リンクの先端に仮想ダンパの力が作用するように制御される。これにより、物体21Aからの衝撃力が吸収される。
【0072】
次に、第2指16を、
図18に示される直列弾性体アクチュエータモード1で動作させた。指先関節19のアクチュエータユニット1は、第4リンク20の先端に仮想バネ力が作用するように制御される。根元関節18のアクチュエータユニット1は、指先関節19の制御による仮想ばね力の変位が一定となるように把持力制御を行って物体21Aに対する一定の接触力を維持する。
【0073】
多指ハンド15は、机上の名刺である物体21Aを低衝撃ノンストップで高速に把持することができた。アプローチから把持までに要した時間は1秒以下であった。
【0074】
(低衝撃ノンストップ把持(アーム左右動作))
図19は机上の物体21Bを横方向から高速にピックアップするために第1フェーズで制御された多指ハンド15の動作を示す画像である。
図20は物体21Bを横方向から高速に把持するために第2フェーズで制御された多指ハンド15の動作を示す画像である。
図21は物体21Bを横方向から高速に把持するために第3フェーズで制御された多指ハンド15の動作を示す画像である。
図22は多指ハンド15の直列弾性体アクチュエータモード2の概念を示す模式図である。
図23は多指ハンド15の弾性変形制御モードの概念を示す模式図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付している。これらの構成要素の詳細な説明は繰り返さない。
【0075】
アーム23に取り付けられた多指ハンド15は、第1指10と第2指16を備える。まず、机上に配置された物体21Bに対して、アーム23を矢印A2に示すように横方向からアプローチさせて第1指10の第2リンク14の先端を物体21Bに接触させた。物体21Bは電話子機である。第1指10は、前述した塑性変形モードで動作させた。これにより、物体21Aからの衝撃力が吸収される。
【0076】
次に、第2指16を、
図22に示される直列弾性体アクチュエータモード2で動作させた。指先関節19のアクチュエータユニット1は、第4リンク20の先端に仮想バネ力が作用するように制御される。根元関節18のアクチュエータユニット1は、角度の位置が制御される。これにより、物体21Bに接触するまで第2指16の第4リンク20の指先が物体21Bにアプローチする。
【0077】
次に、第1指10及び第2指16を
図23に示される弾性変形制御モードで動作させた。指先関節13・19及び根元関節12・18のアクチュエータユニット1は、仮想バネと仮想ダンパを並列接続したvoigtモデルにより制御される。これにより、第1指10及び第2指16と物体21Bとの間で一定の接触力が維持される。
【0078】
多指ハンド15は、机上の電話子機の物体21Bを低衝撃ノンストップで高速に把持することができた。アプローチから把持までに要した時間は1秒以下であった。
【0079】
このように、制御回路9Aは、物体21Bを低衝撃で把持するために、根元関節12をダンピング制御するとともに指先関節13をコンプライアンス制御し、根元関節18を角度制御するとともに指先関節19をコンプライアンス制御した後、根元関節12、指先関節13、根元関節18、及び指先関節19を仮想バネと仮想ダンパを並列接続したモデルにより制御する。
【0080】
(実施形態2の効果)
実施形態2によれば、高いバックドライバビリティを持つアクチュエータユニット1と衝撃吸収制御とを用いた動的な把持動作を実現することができる。この把持動作は、関節角度フィードバックのみで物体との接触検知と衝撃吸収制御を行い、アーム手先位置を動作し続けながら把持を行う。指先関節13・19は常にコンプライアンス制御されるため、物体21A・21Bとの接触を維持しやすい長所がある。第1指10、第2指16の根元関節12・18の動作フェーズ切り替えはあるものの、非接触から接触後までシームレスに動作し続けるため、移動しながら高速に把持することに適した動作である。また、フィードバックループが多指ハンド15側で閉じているため、多指ハンド15とアーム23の制御を非同期とできる利点がある。この利点により、ユニバーサルロボット社のアーム(UR5e)以外の他のアームに多指ハンド15を装着することができる。多指ハンド15を装着したアームの手先位置を物体21A・21Bに向かってアプローチさせれば、後は多指ハンド15側で自動的に、物体21A・21Bの位置とその幅寸法に応じて把持動作を実行するため、非常に単純な制御系でロバストな把持動作が可能である。
【0081】
実施形態1及び2に係るアクチュエータユニット1は下記(表4)に示すように、従来のダイレクトドライブモータ、直列弾性アクチュエータ(SEA)、ソフトロボット、及び油圧に係る構成と比較して、比較的サイズが小さく、力/変位のヒステリシスが小さく、可変インピーダンス、寿命/耐久性、及び要素部品の入手性が優れている。
【0082】
【表4】
(用途)
実施形態1及び2に係るアクチュエータユニット1を備えた多指ハンド15は、ロボットハンド、多脚ロボットに適用することができる他、種々の用途に用いることができる。
【0083】
例えば、手の麻痺が生じた時のリハビリテーションのために、装着者の各指に実物のバネが連結され、手を開く方向に当該バネが各指を引っ張り、装着者が手を握る動作開く動作を繰り返すことにより手の麻痺から回復するトレーニングを行うリハビリテーション機器に、アクチュエータユニット1を適用することにより、バネの長さ、強さを制御により変更することができる。
【0084】
また、ドアの開閉装置にアクチュエータユニット1の衝撃吸収制御を適用することにより、ドアに作用する衝撃力に対する安全性を高めることができる。
【0085】
さらに、包丁等の危険物が収納され得るキッチン等の引き出しにアクチュエータユニット1の衝撃吸収制御を適用することにより、当該引き出しに作用する衝撃力に対する安全性を高めることもできる。
【0086】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るアクチュエータユニット1は、モータ(ダイレクトドライブモータ2)と、前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)の回転軸6に連結された第1磁石歯車3と、前記第1磁石歯車3と磁気的に係合する第2磁石歯車4と、前記第2磁石歯車4の回転軸に連結された遊星減速機5とを備える。
【0087】
この特徴によれば、モータにより生成されたトルクは第1磁石歯車及び第2磁石歯車を介して低バックラッシ、低摩擦損失で伝達される。そして、遊星減速機でこのトルクは増幅される。即ち、この結果、低バックラッシ、低摩擦、大トルクのアクチュエータユニットを構成することができる。
【0088】
本発明の態様2に係るアクチュエータユニット1は、上記態様1において、前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)が、前記遊星減速機5の出力軸8に外力トルクが作用した際に前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)の回転軸6が逆回転する逆回転量を計測するエンコーダ7を有することが好ましい。
【0089】
上記構成によれば、遊星減速機の出力軸に作用する外力トルクを検知することができる。
【0090】
本発明の態様3に係るアクチュエータユニット1は、上記態様2において、前記エンコーダ7により計測された逆回転量に基づいて、前記遊星減速機5の出力軸8に作用する衝撃トルクを吸収するように前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)を制御する制御回路9・9Aをさらに備えることが好ましい。
【0091】
上記構成によれば、外界センサを用いることなくサーボ制御のみで衝撃吸収制御(Maxwellモデル制御)を実現することができる。
【0092】
本発明の態様4に係るアクチュエータユニット1は、上記態様3において、前記制御回路9・9Aが、前記第1磁石歯車3及び前記第2磁石歯車4の係合する磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクを補償するように前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)を制御することが好ましい。
【0093】
上記構成によれば、第1及び第2磁石歯車に大トルクの磁石歯車を採用することができる。
【0094】
本発明の態様5に係るアクチュエータユニット1は、上記態様1において、前記第1磁石歯車3及び前記第2磁石歯車4が、前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)の回転を直交変換することが好ましい。
【0095】
上記構成によれば、アクチュエータユニットをコンパクトに構成することができる。
【0096】
本発明の態様6に係るリンク機構(多指ハンド15、第1指10、第2指16)は、第1リンク11と、前記第1リンク11の一端側に連結された第1関節(根元関節12)と、前記第1リンク11の他端側に連結された第2関節(指先関節13)と、前記第2関節(指先関節13)に一端側が連結された第2リンク14とを備え、前記第1関節(根元関節12)及び前記第2関節(指先関節13)が、本発明の態様1に係るアクチュエータユニット1を有する。
【0097】
この特徴によれば、第1関節及び第2関節の摩擦を極端に小さくすることができる。
【0098】
本発明の態様7に係るリンク機構(多指ハンド15、第1指10、第2指16)は、上記態様6において、前記第1関節(根元関節12)の前記第1磁石歯車3及び前記第2磁石歯車4の係合する磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクを補償するように前記モータ(ダイレクトドライブモータ2)を制御する制御回路9・9Aをさらに備えることが好ましい。
【0099】
上記構成によれば、トルクを重視して大トルクの磁石歯車を採用する第1関節のアクチュエータユニットの第1及び第2歯車の磁極が切り替わるタイミングで生じるコギングトルクを低減することができる。
【0100】
本発明の態様8に係るリンク機構(多指ハンド15、第1指10、第2指16)は、上記態様6において、前記第2リンク14の他端側に仮想ダンパの力が作用するように前記第1関節(根元関節12)のアクチュエータユニット1をダンピング制御するとともに、前記第2リンク14の他端側に仮想バネの力が作用するように前記第2関節(指先関節13)のアクチュエータユニット1をコンプライアンス制御する制御回路9・9Aをさらに備えることが好ましい。
【0101】
上記構成によれば、リンク機構が物体を衝撃を吸収しながらキャッチすることができる。
【0102】
本発明の態様9に係るリンク機構(多指ハンド15)は、上記態様6において、第3リンク17と、前記第3リンク17の一端側に連結された第3関節(根元関節18)と、前記第3リンク17の他端側に連結された第4関節(指先関節19)と、前記第4関節(指先関節19)に一端側が連結された第4リンク20とをさらに備え、前記第3関節(根元関節18)及び前記第4関節(指先関節19)が、本発明の態様1に係るアクチュエータユニット1を有することが好ましい。
【0103】
上記構成によれば、第3関節及び第4関節の摩擦を極端に小さくすることができる。
【0104】
本発明の態様10に係るリンク機構(多指ハンド15)は、上記態様9において、対象物(物体21・21A)を低衝撃で把持するために、前記第1関節(根元関節12)をダンピング制御するとともに前記第2関節(指先関節13)をコンプライアンス制御する第1フェーズと、前記第3関節(根元関節18)を位置制御するとともに前記第4関節(指先関節19)を前記対象物(物体21・21A)に向かって近づける第2フェーズと、前記第1関節(根元関節12)を位置制御するとともに前記第4関節(指先関節19)のコンプライアンス制御による仮想バネの変位が一定となるように第3関節(根元関節18)を位置制御する第3フェーズとをこの順番に実行する制御回路9Aをさらに備えることが好ましい。
【0105】
上記構成によれば、多指ハンドの高いバックドライバビリティと衝撃吸収制御の組み合わせにより、高速かつシームレスな把持動作を実現でき、また、把持動作の衝撃力を小さくすることができる。
【0106】
本発明の態様11に係るリンク機構(多指ハンド15)は、上記態様9において、対象物(物体21B)を低衝撃で把持するために、前記第1関節(根元関節12)をダンピング制御するとともに前記第2関節(指先関節13)をコンプライアンス制御し、前記第3関節(根元関節18)を角度制御するとともに前記第4関節(指先関節19)をコンプライアンス制御した後、前記第1~第4関節(根元関節12・指先関節13・根元関節18・指先関節19)を仮想バネと仮想ダンパを並列接続したモデルにより制御する制御回路9Aをさらに備えることが好ましい。
【0107】
上記構成によれば、机上の物体を低衝撃ノンストップで高速に把持することができる。
【0108】
本発明の態様12に係るリンク機構(多指ハンド15)は、上記態様6において、前記第1関節(根元関節12)が、ロボットハンドの根元関節であり、前記第2関節(指先関節13)が、前記ロボットハンドの指先関節であることが好ましい。
【0109】
上記構成によれば、第1関節及び第2関節の摩擦が極端に小さいロボットハンドを提供することができる。
【0110】
本発明の態様13に係るリンク機構(多指ハンド15)は、上記態様9において、前記第1関節(根元関節12)、前記第1リンク11、前記第2関節(指先関節13)、及び前記第2リンク14が、ロボットハンドの第1指10を構成し、前記第3関節(根元関節18)、前記第3リンク17、前記第4関節(指先関節19)、及び前記第4リンク20が、前記ロボットハンドの第2指16を構成することが好ましい。
【0111】
上記構成によれば、第1関節~第4関節の摩擦が極端に小さいロボットハンドを提供することができる。
【0112】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 アクチュエータユニット
2 ダイレクトドライブモータ(モータ)
3 第1磁石歯車
4 第2磁石歯車
5 遊星減速機
6 回転軸
7 エンコーダ
8 出力軸
9 制御回路
10 第1指(リンク機構、ロボットハンド)
11 第1リンク
12 根元関節(第1関節)
13 指先関節(第2関節)
14 第2リンク
15 多指ハンド(リンク機構、ロボットハンド)
16 第2指(リンク機構、ロボットハンド)
17 第3リンク
18 根元関節(第3関節)
19 指先関節(第4関節)
20 第4リンク
21 物体(対象物)