(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】複合成形品および溝付き樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 65/70 20060101AFI20240522BHJP
B29C 65/78 20060101ALI20240522BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240522BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20240522BHJP
【FI】
B29C65/70
B29C65/78
B29C45/14
B23K26/382
(21)【出願番号】P 2019231272
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
(72)【発明者】
【氏名】香村 友美
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-047614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263035(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0135322(KR,A)
【文献】特開2018-080360(JP,A)
【文献】特開2019-166638(JP,A)
【文献】特開2015-100959(JP,A)
【文献】特開2015-142943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00 - 65/82
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材Aと樹脂Bにより一体化している複合成形品であって、前記部材Aは内部に管を有し、前記管は、前記部材Aと前記樹脂Bとの接合部に存在する少なくとも2か所の孔と通じており、前記部材Aは熱可塑性樹脂であり、前記管は、前記接合部の垂直方向に対して60°及び120°の角度を有しており、前記管内には前記樹脂Bが存在している複合成形品。
【請求項2】
内部に管を有する部材Aからなる成形品であって、前記部材Aは熱可塑性樹脂であり、前記管は成形品表面に存在する少なくとも2か所の孔と通じており、前記管は、前記成形品表面の垂直方向に対して60°及び120°の角度を有して
おり、
前記管はレーザ照射により形成されている
、複合成形品に用いられる成形品。
【請求項3】
請求項2に記載の成形品の製造方法であって、前記成形品表面の垂直方向に対して60°及び120°の角度でレー
ザを照射して、前記管および前記孔を形成する成形品の製造方法。
【請求項4】
前記管の長さは0.2~40mmであり、前記孔の径の大きさは0.1~3mmである、請求項1に記載の複合成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形品およびこの複合成形品を形成するための溝付き樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした分野では、二酸化炭素の排出量削減、製造コストの削減等の要請に応えるため、金属成形品の一部を樹脂成形品に置き換える動きが広がっている。これに伴い、樹脂成形品と金属成形品とを一体化した複合成形品が広く普及している。これに限らず、同種又は異種の材料からなる成形品を一体化した複合成形品も広く普及している。
【0003】
一の成形品と他の成形品とを一体化した複合成形品の製造方法として、例えば、特許文献1には、一方の樹脂成形品の表面に電磁放射線を照射することで該表面にナノ構造を形成し、その後、該表面に他方の樹脂成形品を接して充填、成形し、一体化させることが提案されている。
【0004】
特許文献2には、ガラス繊維を含有する第1樹脂成形品の接合面にレーザにより溝を形成し、その接合面に第2樹脂を射出成型することで複合成形品とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-529404号公報
【文献】特開2015-91642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一の成形品と他の成形品とを接合したときの強度に関し、さらなる改良の余地がある。特に、樹脂成形品にガラス繊維等の無機充填剤が含まれていない場合にさらなる改良の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂成形品にガラス繊維等の無機充填剤が含まれていない場合であっても、他の成形品と接合したときの強度をよりいっそう高めることの可能な複合成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1) 部材Aと樹脂Bにより一体化している複合成形品であって、該部材Aは内部に管を有し、該管は、部材Aと該樹脂Bとの接合部に存在する少なくとも2か所の孔と通じており、該管内には該樹脂Bが存在している複合成形品。
2) 内部に管を有する部材Aであって、該管は成形品表面に存在する少なくとも2か所の孔と通じている成形品。
3) 前記少なくとも2か所の孔は、成形品が有する一つの面に存在する、前記2記載の成形品。
4) 前記2および3記載の成形品の製造方法であって、該管および孔をレーザ照射によって形成する成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、内部に管を有しその管が部材の接合部にある2か所の孔と通じることで通管孔を形成している部材Aに対し、その通管孔を埋めるように別の樹脂Bを流し込むことで、部材Aに対し樹脂Bからなる部分が環状のフックのような効果を発揮し、より強固に接合する複合成形品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の管を有する部材Aの一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の管を有する部材Aの別の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の複合成形品の実施態様の一例である。
【
図4】本発明の複合成形品の別の実施態様の一例である。
【
図5】本発明の部材の接合部表面に形成された孔のX線CT写真である。
【
図6】本発明の部材の内部の管の断面を示すX線CT写真である。
【
図7】本発明の複合成形品の引張試験を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0012】
<複合成形品>
本発明の複合成形品は、部材Aと樹脂Bにより一体化している複合成形品であって、該部材Aは内部に管を有し、その管が接合部に存在する少なくとも2か所の孔と通じており、そしてその管には樹脂Bが存在していることを特徴とする。
【0013】
<部材A>
≪内部に存在する管≫
本発明の部材Aは、内部に管が存在しており、その管の開口部は部材Aの接合部である表面に存在する2か所以上の孔と通じている。
図1および2は、部材Aの内部に有する管を示している。
【0014】
管は少なくとも2か所が、部材Aが有する接合部に存在する孔と通じていればよく、
図2で示すように3か所以上であってもよい。
【0015】
本発明の隣り合う孔の径は、0.1~3mmであることが好ましい。孔のピッチは、0.2~3mmであり、好ましくは0.5~1mmである。なお、管の径は、孔の径とほぼ同じである。
【0016】
管の長さは、0.2~40mmであり、好ましくは0.2~20mmである。第1成形品内部に存在する管の深さは、孔の存在する接合部から0.1~2mmであり、0.1~1mmであることが好ましい。
【0017】
部材Aは、レーザ照射により溝を形成できるものであれば特に限定されない。例えば熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)等を挙げることができる。部材Aは熱硬化性樹脂であってもよいし、金属やセラミックであってもよい。
【0018】
≪レーザ照射による孔および管の形成方法≫
本発明の接合部となる部材A表面にレーザの照射を行い、樹脂を部分的に除去することで、複数の孔を形成することができ、レーザ照射角度の違う少なくとも2か所の孔を部材Aの内部で連結することによって管が得られる。
【0019】
レーザの照射は、照射対象材料の種類やレーザ装置の出力等をもとに設定されるが、部材に適度のエネルギーを照射して溝を形成しないと、設定どおりの幅や深さの溝を形成することが難しかったりするため、複数回に分けて行うことが好ましい。
【0020】
管の長さは、レーザ照射の角度、レーザ照射する位置によって適宜定めることができる。例えば、
図1に示すように、2か所の孔を離して形成すると長い管を形成することができる。また
図2に示すように3か所以上の孔を連結させることで、さらに管を長くすることができる。
部材Aが熱可塑性樹脂では、レーザの吸収を向上させるために色素、染料等のレーザ吸収剤を添加することもできる。レーザ吸収剤としては、カーボンブラックが好ましい。
【0021】
なお、孔、管の表面のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、孔、管がレーザ光照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0022】
<複合成形品>
図3および4は本発明の複合成形品の概略拡大断面の模式図である。
図3では、ほぼ一定間隔で孔が形成され、その孔の2か所が連結することによって管が形成され、その管内に樹脂Bが存在している。
図4では、内部にランダムに形成した孔を有する第1成形品の管に樹脂Bが存在している。
【0023】
≪樹脂B≫
樹脂Bは、射出成形可能な樹脂であれば熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の種類は特に問わない。例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)等を挙げることができる。
【0024】
<複合成形品の形成方法>
本発明の複合成形品は、成形によって得られる。ここで成形方法としては、熱板溶着、プレス加工、接着、塗装、メッキ、印刷等が挙げられるが、二重成形であることが好ましい。
【0025】
二重成形の場合、部材Aを金型に入れ、この金型の内部に、孔を有する面を接合面として、樹脂Bを封入する。その際樹脂Bは管にも入り込み、この状態で冷却することにより複合成形品を形成することができる。
【0026】
二重成形は、樹脂Bを金型内部に封入する際の圧力により、管の内部まで充填することが容易である。管内部まで樹脂Bが充填されることにより、樹脂Bが環状となり、単に孔が掘られた状態よりもより強固な接合力を発揮する。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りの無い限り、測定は23℃50%RHの雰囲気下で行った。
【0028】
<実施例1>
実施例において使用した材料は下記のとおりである。
≪部材A≫
PBT:ポリプラスチックス社製 ジュラネックス2002 ED3002
≪樹脂B≫
POM:ポリプラスチックス社製 ジュラネックスM450-44 CF2001
【0029】
<部材Aの作製>
≪試験片の作製≫
部材Aは、ASTM D256のアイゾット試験片形状(W12.7×D6.4×L63.5mm)で作製した。
部材Aを、下記成形条件で、ASTMのアイゾット試験片金型に射出成形した。
PBT:シリンダー温度260℃、金型温度80℃
【0030】
ついでレーザ照射装置にて、照射径80μmレーザにより接合部に対して所定の角度(接合部の垂直方向に対して60°および120°)から2か所の孔を形成し、
図1の形状(ピッチ1.7mm)の部材Aを作製した(
図5および6)。
比較例1として、接合部に垂直(90°)にレーザ照射で孔を形成した部材Aを作製した。
【0031】
≪レーザ照射条件≫
レーザ波長 :1064nm
レーザ照射径:80μm
照射機 :キーエンス社製レーザ マーカー MD-X1520
レーザ出力 :22.5W
照射速度 :20mm/s
【0032】
<複合成形品の作製>
上記で作製した試験片を、ASTM曲げ試験片金型を用い、樹脂Bよりシリンダー温度190℃、金型温度80℃の条件にて二重成形を行い、
図7のようなASTMの曲げ試験片(12.7×6.4×127 D790)mmを作製した。接合部の断面積は、81.3mm
2(12.7×6.4mm)である。
【0033】
<接合強度測定>
作製した複合成形品試料について、万能試験機を用いて、ASTMの曲げ試験片の引張破壊強度を測定し、接合部の断面積より引張応力を算出した。結果を表1に示す。
破壊速度:10mm/min/
試験機 :島津製作所製万能試験機 AG-20kNXDplus
【0034】
【0035】
表1から、第1成形品に管を有する本発明は、接合強度が改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0036】
1 部材A
2 孔
3 管
4 接合部
5 複合成形品
6 樹脂B
P 引張試験の張力方向