(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/16 20060101AFI20240522BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20240522BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240522BHJP
B41M 3/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B29C59/16
B23K26/364
B32B27/20 Z
B41M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020072647
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019090374
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】草谷 光晴
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-230832(JP,A)
【文献】特開平02-099170(JP,A)
【文献】特開平03-194000(JP,A)
【文献】特開平05-131800(JP,A)
【文献】特開平05-220444(JP,A)
【文献】特開平06-093119(JP,A)
【文献】特開2009-096108(JP,A)
【文献】特開2018-051960(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105670(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/125999(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 3/00-3/14
B23K 26/00-26/70
B29C 70/00-70/88
B29C 59/00-59/18
B29C 71/00-71/04
B41M
C08J 7/00-7/18
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤を含有する樹脂組成物からなり、塗料により印刷するための印刷部を有する樹脂成形品であって、該印刷部が、レーザ光の照射により形成された深さ1~60μmの溝と、該溝内に一部が露出した該充填剤を有する、印刷部を有する樹脂成形品。
【請求項2】
前記充填剤が、無機系充填剤及び/又は金属系充填剤である、請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記充填剤が、繊維状充填剤である、請求項1又は2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記溝が、前記充填剤の平均径の1~400%の深さである、請求項1~3いずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項5】
前記溝が、前記印刷部の20%以上の面積に形成されている、請求項1~4いずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、結晶性樹脂を全樹脂成分中40質量%以上含有するものである、請求項1~5いずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項7】
前記印刷部に前記塗料が塗布されている、請求項1~6いずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項8】
前記印刷部にプライマを塗布した上に、前記塗料が塗布されている請求項1~6いずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項9】
充填剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂成形品への印刷方法であって、該樹脂成形品の表面に、レーザ光の照射により深さ1~60μmの溝を形成し、該充填剤の一部が露出した該溝を含む印刷部を設ける工程と、該印刷部に塗料を塗布し印刷層を形成する工程、を有する樹脂成形品への印刷方法。
【請求項10】
充填剤を含有する樹脂組成物からなり、溝を有する樹脂成形品の溝上に印刷層を有する印刷物であって、
前記溝は、深さ1~60μmであり、
前記樹脂成形品は、
前記溝内に一部が露出した充填剤を含有する印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品は、その形状の自由度から自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした各種分野で用いられており、その活用分野は機構部品に留まらず、意匠性が要求される筐体等の外観部品にも及んでいる。それに伴い、樹脂成形品に意匠性を付与する方法として、樹脂成形品表面への印刷などの加飾技術が求められている。
【0003】
特許文献1は、結晶性熱可塑性樹脂からなる成形品の少なくとも一部の表面を、サンドブラスト、ショットブラスト、又は液体ホーニングにより、十点平均粗さRzが10μm≦Rz≦40μmとなるように粗化した後、粗化表面に二液硬化型樹脂組成物を塗膜状に付着させ、硬化させることを特徴とする樹脂成形品の塗膜形成方法を開示している。
【0004】
また、特許文献2では、樹脂成形品と他の成形品とを一体化して複合成形品を製造する方法を開示する。この方法は、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品にレーザ照射を施すことで樹脂の一部除去を行い、無機充填剤が橋架け状に露出した溝を有する溝付き樹脂成形品を得た後、溝付き樹脂成形品の溝を有する面を接触面として熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなる他の成形品と一体化する。この方法によると、橋架け状に露出した無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の界面でアンカーの役割を果たし、結果として複合成形品の強度を著しく高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許2002-97292号公報
【文献】特許第5632567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のサンドブラストやショットブラスト、液体ホーニング、あるいは、やすり掛け等、研削により成形品表面を粗化する技術では、粗化した印刷部に設けた印刷層の密着強度をある程度向上させることができたが、例えば屋外で用いられる成形品や印刷部が他の部材と接触する成形品など、厳しい環境で使用される成形品では、印刷層の剥離が問題となる場合があり、更なる印刷層の密着強度の向上が要求されている。また、意匠性の観点で印刷の外観性(画質)も高いレベルで要求される。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、意匠性に優れ、高い密着強度の印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記によって上記課題を解決した。
【0009】
1. 充填剤を含有する樹脂組成物からなり、塗料により印刷するための印刷部を有する樹脂成形品であって、該印刷部が、レーザ光の照射により形成された深さ1~60μmの溝と、該溝内に一部が露出した該充填剤を有する、印刷部を有する樹脂成形品。
2. 前記充填剤が、無機系充填剤及び/又は金属系充填剤である、前記1記載の樹脂成形品。
3. 前記充填剤が、繊維状充填剤である、前記1又は2記載の樹脂成形品。
4. 前記溝が、前記充填剤の平均径の1~400%の深さである、前記1~3いずれかに記載の樹脂成形品。
5. 前記溝が、前記印刷部の20%以上の面積に形成されている、前記1~4いずれかに記載の樹脂成形品。
6. 前記樹脂組成物が、結晶性樹脂を全樹脂成分中40質量%以上含有するものである、前記1~5いずれかに記載の樹脂成形品。
7. 前記印刷部に前記塗料が塗布されている、前記1~6いずれかに記載の樹脂成形品。
8. 前記印刷部にプライマを塗布した上に、前記塗料が塗布されている前記1~6いずれかに記載の樹脂成形品。
9. 充填剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂成形品への印刷方法であって、該樹脂成形品の表面に、レーザ光の照射により深さ1~60μmの溝を形成し、該充填剤の一部が露出した該溝を含む印刷部を設ける工程と、該印刷部に塗料を塗布し印刷層を形成する工程、を有する樹脂成形品への印刷方法。
10. 溝を有する樹脂成形品の溝上に印刷層を有する印刷物であって、該溝は、深さ1~60μmであり、該樹脂成形品は、充填剤を含有する印刷物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、印刷の外観性に優れ、かつ樹脂成形品からの印刷層の剥離という課題を解決した、印刷部を有する成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の充填剤を含有する樹脂組成物からなる溝形成前の樹脂成形品に、レーザ光を照射し溝を形成した状態を示す概念図である。
【
図2】ポリフェニレンサルファイド(PPS)にガラス繊維を40質量%含有させた樹脂組成物からなる溝形成前の樹脂成形品に、深さ15μmの溝を有する印刷部を形成し、そこに塗料による印刷層を設けた写真である(実施例1)。
【
図3】実施例1で形成した溝形成前の樹脂成形品に、深さ50μmの溝を有する印刷部を形成し実施例1と同様の印刷層を設けた写真である(実施例2)。
【
図4】実施例1で形成した溝形成前の樹脂成形品に、深さ70μmの溝を有する印刷部を形成し実施例1と同様の印刷層を設けた写真である(比較例1)。
【
図5】実施例1で使用した溝形成前の樹脂成形品に、深さ200μmの溝を有する印刷部を形成し実施例1と同様の印刷層を設けた写真である(比較例2)。
【
図6】ポリブチレンテレフタレートにガラス繊維を30質量%含有させた樹脂組成物に、深さ30μmの溝を有する印刷部を形成し、そこに塗料による印刷層を設けた写真である(実施例3)。
【
図7】ポリブチレンテレフタレートにチタン酸カリウムウィスカを20質量%含有させた樹脂組成物からなる溝形成前の樹脂成形品に、深さ50μmの溝を有する印刷部を形成し、そこに塗料による印刷層を設けた写真である(実施例4)。
【
図8】実施例1で使用した溝形成前の樹脂成形品に、深さ15μmの溝を有する印刷部を形成し、そこに白色塗料によるベタ印刷層を設けた写真である(実施例5)。
【
図9】実施例1で使用した溝形成前の樹脂成形品に、深さ70μmの溝を有する印刷部を形成し、そこに白色塗料によるベタ印刷層を設けた写真である(比較例6)。
【
図10】ポリアセタール樹脂にカーボンブラックを0.5質量%含有させた樹脂組成物からなる50mm×70mm×3mmの樹脂成形品に深さ30μmの溝を有する印刷部を40mm×40mm形成し、そこにUV硬化塗料による印刷層35mm×35mmを設け塗料を硬化させた印刷物の写真である。
【
図11】
図10の印刷物の未塗装部分(成形面)の拡大写真である。
【
図13】
図10の印刷物を紫外線カーボンアークランプ、ブラックパネル温度83℃で600時間処理を行った印刷物の未塗装部分(成形面)の拡大写真である。
【
図14】
図10の印刷物を紫外線カーボンアークランプ、ブラックパネル温度83℃で600時間処理を行った印刷物の印刷された部分の拡大写真である。
【
図15】ポリアセタール樹脂にカーボンブラックを0.5質量%含有させた樹脂組成物からなる50mm×70mm×3mmtの樹脂成形品の中央部40mm×40mm部分にレーザにより深さ20μmの溝を有するように処理した後、2液ウレタン塗料によりアンダーコート塗装を行い、真空蒸着によりアルミニウムを約10μm製膜した写真である。破線内がレーザ処理部である・
【
図16】
図15で作成した印刷物にJIS K5400(1990年)に準拠して2mm幅の碁盤目状にナイフで切り傷を入れた後テープを貼り、テープを剥がした印刷物の写真である。破線内がレーザ処理部である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0013】
<樹脂成形品>
溝を有する樹脂成形品は、通常使用される充填剤を含む樹脂組成物を成形してなる溝を形成する前の樹脂成形品に溝を形成することで製造することができる。溝を形成する前の樹脂成形品は、通常の射出成形等で形成することができる。
【0014】
樹脂組成物に含まれる樹脂は、後述する方法でその一部を除去することにより、樹脂成形品表面に溝を形成することができるものであれば特に限定されず、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂や、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)等の非晶性樹脂が挙げられる。
【0015】
なお、後述する方法で樹脂の一部除去(溝形成)を行う上では樹脂成形品が不透明であることが望ましいため、樹脂としては結晶性樹脂を用いることが好ましく、全樹脂成分中の結晶性樹脂の割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
上記と同様に樹脂の一部除去を行いやすくするには、樹脂成形品が不透明であることが好ましいため、樹脂組成物には染料や顔料などの着色剤(光吸収剤)を添加することも好ましく、有機系の着色剤よりも無機系の着色剤(例えばカーボンブラック)を添加することがより好ましい。
【0017】
このような着色剤を添加することで、透明な非晶性樹脂にも後述する方法での樹脂の除去を行うことが可能となるが、非晶性樹脂は通常、耐薬品性が低い(すなわち塗料やインクとの親和性が高い)ことから、結晶性樹脂に比べ印刷が容易であるため、本発明は印刷性に対する要求が高い結晶性樹脂において、より効果を発揮するものである。
【0018】
<充填剤>
樹脂組成物に含まれる充填剤は、後述の方法で樹脂の一部を除去して樹脂成形品表面に溝を形成する際に、樹脂と共に除去されるのではなく、溝内に露出した状態で残存するものであれば特に限定されない。
【0019】
好適な充填剤としては、無機系充填剤及び/又は金属系充填剤を用いることができ、その形状も繊維状充填剤[例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化珪素繊維、ウィスカ(炭化珪素、アルミナ、窒化珪素、チタン酸カリウムなどのウィスカ)などの無機系繊維状充填剤や、銅、アルミ、チタン、鉄などで形成された金属系繊維状充填剤など]、板状充填剤[例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイトなど]、粉粒状充填剤[例えば、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ミルドファイバ(ガラスなどのミルドファイバ)、ウォラストナイトなど]を用いることができるが、溝内への残存しやすさの面ではある程度アスペクト比が大きい(例えばアスペクト比が2以上500以下の)繊維状充填剤や板状充填剤が好ましく、繊維状充填剤がより好ましい。
【0020】
なお、充填剤の寸法も特に限定されないが、溝内への残存しやすさや印刷の密着強度の面では平均径が1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
【0021】
一方、印刷の画質の面では平均径が50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。ここで、溝の深さや幅に対し充填剤の寸法がある程度小さい場合、溝の形成時に充填剤が脱落しうるが、その脱落痕がアンカーとして作用する、すなわち脱落痕に塗料が入り込むことで印刷の密着強度が向上する場合もある。
【0022】
この場合においても充填剤があまりに小さいと、脱落痕への塗料の浸入が困難となり密着強度の向上効果が得にくくなるため、平均径は上記の範囲であることが好ましい。なお、充填剤が脱落しにくいようにするには、充填剤の長手方向の長さは、溝の短手方向の長さよりも長いことが好ましい
【0023】
溝を形成する前の樹脂成形品は、溝を形成する工程での破損や変形を避ける意味で、形成する溝の深さの2倍以上の厚みであることが必要である。溝を形成する前の樹脂成形品の厚みは、形成する溝の深さの5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることがさらに好ましい。
【0024】
ここで本発明における平均径とは、繊維状充填剤であればその繊維径(繊維断面が円形でない場合は長径と短径の平均値)、板状充填剤や粉粒状充填剤であれば投影面積を真円換算した直径を指すものとし、それぞれ樹脂成形品の灰分を顕微鏡観察し、無作為に抽出した100個の充填剤の寸法の平均値から求めることができる。
【0025】
樹脂成形品を構成する樹脂組成物は、その他公知の添加剤(酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、靱性改良剤、流動性改良剤、耐加水分解性改良剤等)を含有してもよい。
【0026】
<溝形成前の樹脂成形品への溝の形成工程を含む印刷部を設ける工程>
本発明の樹脂成形品の溝の形成は、溝を形成する前の樹脂成形品の表面にレーザ光を照射して、樹脂を一部除去することにより行うのが好ましい。レーザ光の種類や波長、出力や照射時間などの条件は、対象となる樹脂成形品を構成する樹脂組成物に応じて適宜選択すれば良いが、溝の深さが1~60μmとなるように調節する。印刷の密着強度と画質の観点では、溝の深さは2~50μmであることが好ましく、3~40μmであることがより好ましく、4~30μmであることがさらに好ましい。
【0027】
上記の溝の深さは、画質及び印刷層を形成する塗料(以下インクともいう)との密着強度を確保するアンカーとしての充填剤を露出させつつ、充填剤の脱落や、充填剤の裏側へのインクの回り込みによる画質の低下を抑制できるように調節する意味で、充填剤の平均径を基準に決定することが合理的であり、充填剤の平均径の1~400%の深さの溝とすることが好ましく、充填剤の平均径の5~300%とすることがより好ましく、10~200%とすることがさらに好ましい。
【0028】
なお、樹脂組成物が平均径の異なる複数種の充填剤を含む場合は、最も平均径の小さい種類の充填剤を基準に、その平均径の1~400%の深さの溝を形成すれば良い。
【0029】
形成する溝の面積は、画質及び密着強度を確保する意味で、印刷部の面積に対し20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0030】
上限は特に限定されず、印刷部全面(100%)にわたってレーザ光を照射しても良いが、フィラー背面への塗料の回り込みによる画質の低下を抑える意味で、印刷部の面積の98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
なお、溝部のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、レーザ光照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0032】
<溝を有する樹脂成形品への印刷層を形成する工程>
本発明の溝を有する樹脂成形品への印刷は、上記により溝を形成した印刷部にインクなどの塗料を塗布することにより行う。塗料としては、一般的な塗料、UV硬化する塗料、インク等のほか、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングの下地処理用のアンダーコート用の塗料やメッキの下地としての触媒含有塗料なども使用することができる。
【0033】
また塗料に含まれる添加剤により印刷層(ひいては当該印刷層を形成した樹脂成形品である印刷物)に機能を付与することもできる。例えば帯電防止剤や導電剤が含まれていれば帯電防止性や導電性(または電磁波シールド性や熱伝導性)、抗菌剤や防カビ剤を含んでいれば抗菌性、防カビ性、耐候剤や反射剤、蓄光剤が含まれていれば耐候性、高日射反射性、蓄光性など各種機能を印刷物に付与することができる。
【0034】
また印刷層の形成工程は、溝を形成する工程から時間が経過していても本発明の効果を発揮することができるが、溝への埃などの付着による画質の低下や塗料の密着強度の低下を避ける意味で、できるだけ時間を経過させないことが好ましい。連続的な工程とすることも好ましい。
【0035】
塗料の塗布方法は刷毛やブラシ等による塗布に限定されず、噴霧、転写、インクジェットなど、印刷において通常用いられる各種の方法を、樹脂成形品の材質や形状、印刷する画像のサイズや種類(写真、文字、塗り潰し等)などに応じ適宜選択すれば良い。
【0036】
また、樹脂組成物と塗料との親和性を考慮し、あらかじめ樹脂成形品の印刷部にプライマのような下地を塗布し、その上に塗料を塗布しても良い。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
ポリプラスチックス株式会社製のポリフェニレンサルファイド樹脂に、平均径(平均繊維径)13μm、長さ3mmのガラス繊維40質量%とカーボンブラック0.5質量%を添加した樹脂組成物を用いて、シリンダ温度320℃、金型温度140℃、射出速度30mm/sec、保圧力60MPaにて、80mm×80mm×3mmの平板状の樹脂成形品を射出成形した。
【0039】
得られた樹脂成形品の、突き出しピン跡のない平滑面側の中央64mm×64mmの領域に対し、キーエンス製レーザーマーカMD-X1520を用いて、波長1064nm、出力90%にてレーザ光を照射して、幅100μm、ピッチ250μmの格子状(流動方向に対し±45°の斜格子状)の溝を、深さ15μmとなるように形成し印刷部を設けた。
【0040】
次いで、溝を形成した印刷部の中央56mm×56mmの領域に対し、ミマキエンジニアリング社製フラットベッドUVインクジェットプリンタUJF-3042を用いて、ミマキエンジニアリング社純正UV硬化インクにて所定のサンプル画像(オウム画像)を印刷して印刷層を形成し、印刷物を作製した(
図2)。
【0041】
(実施例2)
溝の深さを50μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した(
図3)。
【0042】
(比較例1)
溝の深さを70μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した(
図4)。
【0043】
(比較例2)
溝の深さを200μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した(
図5)。
【0044】
(比較例3)
溝の深さを0.1μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0045】
(比較例4)
レーザ光を照射せず溝を形成しなかった以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0046】
(比較例5)
レーザ光を照射する代わりに、JIS R6010に規定される粒度P120番の紙やすりで成形品表面を15μmの深さまで研磨し、それ以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0047】
(実施例3)
樹脂組成物として、ポリプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂に、平均径(平均繊維径)13μm、長さ3mmのガラス繊維30質量%とカーボンブラック0.5質量%を添加した樹脂組成物を用い、また溝の深さを30μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した(
図6)。
【0048】
(実施例4)
樹脂組成物として、ポリプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂に、平均径(平均繊維径)0.6μm、長さ20μmのチタン酸カリウムウィスカ20質量%を添加した樹脂組成物を用い、また溝の深さを50μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した(
図7)。
【0049】
(実施例5)
印刷部を10mm×10mmの領域とした以外は実施例1と同様に樹脂成形品への印刷を行った。ここではUV硬化インクとして白の単色を用いベタ印刷層を形成した。
【0050】
(比較例6)
印刷部を10mm×10mmの領域とした以外は比較例1と同様に樹脂成形品への印刷を行った。ここではUV硬化インクとして白の単色を用いベタ印刷層を形成した。
【0051】
<結果>
図2~7は各実施例・比較例の印刷部及び印刷結果を示す写真である。背景が溝形成後、印刷前の印刷部の光学顕微鏡による500倍の拡大写真である。四角い白く見える島状の部分がレーザ光を照射せずに残った樹脂成形品の表面、格子状の黒く見える部分が形成された溝であり、溝の内部に筋状に見える部分が露出した充填剤である。また図の写真別窓が、サンプル画像が印刷された画像の外観である。
【0052】
実施例1~4にあたる
図2、3、6、7では充填剤が適度に露出し、画像が鮮明に印刷されているのに対し、比較例1、2にあたる
図4、5では充填剤が過剰に露出し、その裏側にインクが回り込んでしまい、くすんだ画像となっている。なお、実施例4にあたる
図7では、溝の内部に一部充填剤の脱落痕も観察されている。
【0053】
図8、9は実施例5及び比較例6の印刷部の光学顕微鏡による10倍の拡大写真である。実施例5にあたる
図8ではインクが成形品表面を覆っており、平滑な外観が得られているのに対し、比較例6にあたる
図9ではインクが溝の奥まで浸み込んで、充填剤の裏側に回り込んでしまい、荒れた外観画像となっている。
【0054】
実施例2と比較例3~5について、塗装面にカッターナイフを使用して縦及び横方向に2mm間隔でそれぞれ6本の傷を入れ、合計25個の2mm四方のマス目を形成し、そのマス目の上に市販のセロハンテープを貼り付け、上から指で良くこすって塗装面に密着させた後、セロハンテープの一端を指でつまんで一挙にテープを剥がし、塗装面の剥離状況を観察したところ、実施例2では剥離が見られなかったが、比較例3~5では剥離が見られた。実験は、23℃55RH%の雰囲気下で行った。
【0055】
図10は50mm×70mm×3mmの平板状のポリアセタール樹脂成形片にレーザ光で溝を形成後にUV硬化塗料で印刷した印刷物の写真であり、中央の四角いマーブル状の模様部分が印刷部分である。その周りに見える正方形の部分はレーザ光で溝を形成後に印刷されなかった部分である。
【0056】
図11は
図10のポリアセタール樹脂成形品でレーザ光を照射されていない成形片表面の拡大写真であり、
図12は
図10のポリアセタール樹脂成形品でUV硬化塗料により印刷された部分を拡大した写真である。
【0057】
図13と
図14は
図10のポリアセタール樹脂成形品の印刷物を紫外線カーボンアークランプ、ブラックパネル温度83℃で600時間処理し、印刷物の表面を拡大した写真である。
図13は未塗装のポリアセタール樹脂成形品の表面であり筋状のクラックが発生している。一方、
図14のUV硬化塗料により印刷された部分にはクラックが発生しておらず、樹脂成形品の表面の劣化が抑えられている。
【0058】
図15は50mm×70mm×3mmの平板状のポリアセタール樹脂成形品にアンダーコートとして2液ウレタン塗料を塗装後、真空蒸着によりアルミニウムを製膜した写真である。破線内はアンダーコート塗装前にレーザ照射した部分である。
図16はJIS K5400(1990年)に準拠し碁盤目試験により
図15に示すポリアセタール樹脂成形品の印刷物の塗膜の付着性試験を行ったものである。
【0059】
図16によるとアンダーコート塗装前にレーザ光の照射により溝形成を行っている部分は製膜したアルミニウムが残っているのに対し、未処理の部分は塗膜が全面にわたり剥がれており、溝形成による効果が確認できる。