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特許7492479電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物および電子部品マスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物および電子部品マスク
(51)【国際特許分類】
   C08L 39/06 20060101AFI20240522BHJP
   C08K 5/1545 20060101ALI20240522BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240522BHJP
   C08L 83/12 20060101ALI20240522BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C08L39/06
C08K5/1545
C08K5/29
C08L83/12
C09D5/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021051557
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149414
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】齊川 誠
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-175345(JP,A)
【文献】特開平01-245879(JP,A)
【文献】特開平06-306327(JP,A)
【文献】特開平06-087725(JP,A)
【文献】特開2015-155525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であって、
(A)粘度平均分子量が5,000~1,500,000のポリビニルピロリドンを100質量部、
(B)1分子中にポリエーテル基を1つ以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサンを5~100質量部、
(C)25℃における比誘電率が15以上の溶剤を[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]=0.01~0.4の範囲となる量
で含むものであり、
前記(A)成分のポリビニルピロリドンがN-ビニル-2-ピロリドンの単独重合体であることを特徴とする電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物。
【請求項2】
前記電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物が、さらに、(D)成分として下記式(D-1)~(D-3)から選ばれる少なくとも1種の発光性化合物
【化1】
(式中、Rは互いに独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基であり、Rは互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、R3は水素原子、メチル基、エチル基またはオクタデシル基であり、Xは塩化物イオンまたは過塩素酸イオンである。)
【化2】
(式中、R4は互いに独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R5は水素原子、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、イソチオシアネート基、マレイミド基、セミカルバジド基またはチオセミカルバジド基である。)
【化3】
(式中、R6は水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、カルボキシル基、またはアセチル基であり、R7は水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、またはトリフルオロメチル基であり、R8は水素原子、メチル基、エチル基、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、またはエトキシ基である。)
を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物。
【請求項3】
前記(D)成分の配合量が、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して、0.1~5質量部であることを特徴とする請求項2に記載の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物から前記(C)成分が除去されたものからなることを特徴とする電子部品マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物および該組成物を用いた電子部品マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や電子部品の高集積化に伴い電子部品の小型化が進んでいる。電子機器には多数の電子部品が搭載されているが、電子機器の高性能化のためには精度の高い設計製造技術や長時間使用時でも性能が劣化しにくい高い耐久性が求められている。電子部品の特性を劣化させる要因として腐食性ガスや水分の影響がある。腐食性ガスや水分の影響を低減させる1つの方法として、電子部品に保護材を適用することが挙げられる。特許文献1では、電子部品間や電子部品と封止樹脂間に、空隙に含浸することにより電極部の腐食を抑制するポリイミドシリコーン電子部品用含浸材が報告されている。
【0003】
ポリシラザン化合物は硬化により良質なシリカ質ガラス膜を形成することから、優れたガスバリア性や耐熱性、絶縁性を示す。電子部品は高温環境下での使用において高い信頼性が求められるので、上記シリカ質ガラス膜は電子部品への水分や腐食性ガスの侵入を防ぐマスクとして有用である。特許文献2では、有機EL素子の封止を目的とした樹脂シートの表面に、ポリシラザン化合物を塗布してシリカ質ガラス膜を形成させることで、樹脂シートの水蒸気透過量を低くできることが報告されている。この結果はポリシラザン化合物が防湿被膜の形成に有用であることを示している。
【0004】
上記の背景から、ポリシラザン化合物による防湿コーティング膜を一例とする機能性コーティング膜は電子部品の性能を向上させるうるものである。しかし表面実装型の電子部品をコーティングする場合にはある問題点が発生する。その問題点とは、素体だけでなく電極部もコーティング膜で覆われた状態で半田実装を試みると回路基板への固着強度の著しい低下や導通不良が引き起こされうることである。そこで特許文献3では、水溶性ポリマーまたは脂肪族塩をマスク剤として用いることで基材の所望の場所にポリシラザン硬化被膜をパターニングする方法が報告されている。この方法を用いれば表面実装型の電子部品において電極部以外をコーティング膜で覆うことが可能である。しかし、この時用いるマスク剤の組成について十分な検討がなされているとは言い難い。
【0005】
マスクに必要な特性として第一に除去の容易性が挙げられる。除去方法の一例としては洗浄液による洗浄が挙げられる。マスクの洗浄液への溶解性が良いほど生産効率や歩留まりが向上する。
第二に機能性コーティング膜形成時の耐溶出性が挙げられる。マスク形成に続く機能性コーティング膜形成は、コーティング液のスピンコート法やディップ法などのウェットプロセスによって行われる場合がある。このときコーティング液そのものや、それに含まれる溶剤等の成分によりマスクが溶出しマスクとしての機能を果たさなくなる恐れがある。
【0006】
ポリビニルピロリドンは水やアルコール等の極性溶剤に溶解する非イオン性のポリマーであり高い成膜性を有する。特許文献3はこの性質を利用しているが、高い成膜性ゆえに溶剤を用いた洗浄除去工程時の溶出速度の速さに欠ける事例が発生している。
【0007】
以上のことから、機能性コーティング膜形成時に溶出除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品マスク用組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-335124号公報
【文献】国際公開第2018/174116号
【文献】特開2020-175345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、機能性コーティング膜形成時には溶出除去されにくい一方で、その後の所望の時点では容易に除去できるという、相反する特性を備えた電子部品マスク用組成物を得ることはできなかった。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であって、機能性コーティング膜形成時に溶出除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記に示すような特徴を示す電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を提供するものである。
【0011】
即ち、電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であって、
(A)粘度平均分子量が5,000~1,500,000のポリビニルピロリドンを100質量部、
(B)1分子中にポリエーテル基を1つ以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサンを5~100質量部、
(C)25℃における比誘電率が15以上の溶剤を[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]=0.01~0.4の範囲となる量
で含むものであることを特徴とする電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を提供する。
【0012】
このような電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であれば、機能性コーティング膜形成時に溶出除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品用マスクとなる。
【0013】
また、本発明では、上記組成物が、さらに、(D)成分として下記式(D-1)~(D-3)から選ばれる少なくとも1種の発光性化合物を含むことができる。
【化1】
(式中、Rは互いに独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基であり、Rは互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、R3は水素原子、メチル基、エチル基またはオクタデシル基であり、Xは塩化物イオンまたは過塩素酸イオンである。)
【0014】
【化2】
(式中、R4は互いに独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R5は水素原子、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、イソチオシアネート基、マレイミド基、セミカルバジド基またはチオセミカルバジド基である。)
【0015】
【化3】
(式中、R6は水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、カルボキシル基、またはアセチル基であり、R7は水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、またはトリフルオロメチル基であり、R8は水素原子、メチル基、エチル基、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、またはエトキシ基である。)
を含むものであることを特徴とする電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物。
【0016】
このような電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であれば、得られるマスクの視認性を向上させることができる。
【0017】
また本発明では、前記(D)成分の配合量が、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましい。
【0018】
このような電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であれば、本発明の効果を向上させることができる。
【0019】
また本発明は、上記電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物から前記(C)成分が除去されたものからなることを特徴とする電子部品マスクを提供する。
【0020】
このような電子部品マスクであれば、機能性コーティング膜形成時に溶出除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能である。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であれば、適切な組み合わせのポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンおよび溶剤を含むことで、機能性コーティング膜形成時に溶出して除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品マスクを与えることができる。また、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物から(C)成分が除去された電子部品マスクは、例えば、電子部品に保護材として適用されるポリシラザン硬化被膜をパターニングする際に用いるマスク剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述のように、機能性コーティング膜形成時に溶出して除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品マスク用組成物の開発が求められていた。
特に、ポリビニルピロリドンから得られる膜の除去性を向上させるにためは、ポリビニルピロリドンが溶解する溶剤に溶解し、かつ、ポリビニルピロリドン膜の除去操作に対する耐久性を低下させる性能を有することが必要である。そこで本発明者らは、添加される化合物および溶解させる溶剤の配合組成を探索することに想到した。
【0023】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、適切な組み合わせのポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンおよび溶剤を含む電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物から得られる電子部品マスク(電子部品用マスク)は、機能性コーティング膜形成時に除去されにくいまま、所望の時点で容易に除去可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
即ち、本発明は、電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物であって、(A)粘度平均分子量が5,000~1,500,000のポリビニルピロリドンを100質量部、(B)1分子中にポリエーテル基を1つ以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサンを5~100質量部、(C)25℃における比誘電率が15以上の溶剤を[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]=0.01~0.4の範囲となる量で含むことを特徴とする電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物である。
【0025】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これは例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことは言うまでもない。
【0026】
[電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物]
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、(A)粘度平均分子量が5,000~1,500,000のポリビニルピロリドン、(B)1分子中にポリエーテル基を1つ以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサン、及び(C)25℃における比誘電率が15以上の溶剤を含むものである。必要に応じて、(D)発光性化合物などの添加剤を含むことができる。以下、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物に含まれる成分について説明する。
【0027】
<(A)ポリビニルピロリドン>
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を構成する(A)ポリビニルピロリドンは、(C)成分を除去することによって固体状となり、電子部品マスクを形成するものである。前記ポリビニルピロリドンとしては、粘度平均分子量が5,000~1,500,000の範囲にあるものであれば特に限定されず、下記式(A)
【化4】
に示すポリビニルピロリドンにおいて、置換基Rが水素原子以外の有機置換基でもよい。置換基Rの具体例としては、水素原子、メチル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、フェニル基などが挙げられ、中でも水素原子が好ましい。nは繰り返し単位数である。
【0028】
前記ポリビニルピロリドンの製造方法は特に限定されないが、例えば、下記式(a)
【化5】
に示すような、(A)に対応する置換基Rを有するN-ビニル-2-ピロリドンまたはその誘導体を原料モノマーとして、有機過酸化物を用いて重合することによって得ることができる。
【0029】
また、前記ポリビニルピロリドンは、下記式(A´)
【化6】
に示すようにN-ビニル-2-ピロリドン(誘導体)モノマーと他の重合性モノマーとを共重合することによって得られるコポリマーであってもよい。式(A´)中、Sは他の重合性モノマーに対応する繰り返し単位であり、mはその単位数である。例えば、ビニルピロリドンと共重合させるモノマーがスチレンである場合、前記ポリビニルピロリドンの構造は下記式(A´´)
【化7】
で示される。
【0030】
ビニルピロリドンと共重合させる重合性モノマーは、ビニルピロリドンと共重合する必要があるため、オレフィン結合を有していることが好ましい。
ビニルピロリドンと共重合させる重合性モノマーとして、例えば、スチレン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、エイコセンが挙げられる。
前記コポリマー(A´)の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記モノマー(a)と、共重合させる重合性モノマーを混合し、有機過酸化物を用いて重合することによって得ることができる。
【0031】
前記ピロリドンの平均分子量が5,000より小さい場合は、コーティング液に含まれる溶剤等の成分によりマスクの溶出量が増大し、マスクの消失や著しい表面荒れが発生する恐れがある。このようなことが起きるとマスクとしての性能が著しく低下してしまう。平均分子量が1,500,000より大きい場合は、後述する(C)成分への溶解性が著しい低下や組成物の著しい増粘が起きる恐れがあり、また、マスクの緻密化によって除去が困難になる恐れがある。以上のことから、平均分子量が5,000~1,500,000の範囲であることが必須であり、40,000~1,000,000の範囲であることが好ましい。だだし、この平均分子量は、25℃の水溶液について、Mark-Houwink-桜田の式より算出される粘度平均分子量である。
【0032】
前記のポリビニルピロリドンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0033】
<(B)ポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサン>
本発明のポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、ポリエーテル基を有することで、電子部品マスクの除去性を向上させるものである。前記ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンは、(A)成分が溶解する(C)成分への溶解性に優れるために、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物が均一な溶液となり、塗布膜中の各成分組成が一定になる。なお、以下では、「ポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサン」を「ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサン」ということもある。
【0034】
前記ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンは、1分子中にポリエーテル基を1つ以上有しており、かつ、シロキサン単位の繰り返し構造が直鎖状であることで、(C)成分への溶解性に優れる。シロキサン単位の繰り返し構造が分岐状など非直鎖状であると、(C)成分への溶解性が低下する。
【0035】
本発明におけるポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの具体的な構造は特に限定されないが、例えば、下記式(B)
【化8】
に示す繰り返し単位を少なくとも1つ含むことができる。
(式中、R10は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、またはアリール基であり、Xはポリエーテル基であり、Yは水素原子、または炭素数1~3のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基である。)
【0036】
繰り返し単位(B)は1分子中に2種類以上含まれていてもよい。
繰り返し単位(B)においてR10はメチル基が好ましく、Yはメチル基が好ましい。
【0037】
本発明におけるポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンのシロキサン単位全体の重合度は、(C)成分への溶解性を高める観点から、1,000以下が好ましく、500以下がさらに好ましく、100以下がさらに好ましい。
【0038】
ポリエーテル基(X)は、炭素鎖が酸素原子によって連結された構造を有する置換基であれば特に限定されないが、例えば、下記式(X1)
【化9】
に示す構造(繰り返し単位)を有する。
(式中、aは1~10の整数であり、bは1~30の整数である。)
【0039】
本発明におけるポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの(C)成分への溶解性を高める観点から、aは5~10の整数が好ましく、bは5~30の整数が好ましい。
【0040】
ポリエーテル基の繰り返し単位(X1)はポリエーテル基1置換基中に2種類以上含まれていてもよい。
【0041】
(B)成分のポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンの添加量は、(A)ポリビニルピロリドン100質量部に対して、5~100質量部である必要があり、5~50質量部が好ましい。5質量部より少ない場合は、(B)成分を含まない場合と比較して、マスクの除去性が向上しない。100質量部より多い場合は、マスク形成に続く機能性コーティング膜形成時に、コーティング液に含まれる溶剤等の成分によるマスクの溶出量が増える。これにより、マスクされていた基材の部分的な露出や、溶出したマスク成分によるコーティング液の汚染の恐れがある。
【0042】
前記ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0043】
<(C)溶剤>
(C)成分は、25℃における比誘電率が15以上の溶剤であり、本発明で用いる前記(A)成分のポリビニルピロリドンおよび前記(B)成分のポリエーテル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、塗布時の作業性を改善することを目的として、溶剤に溶解させて用いられる。前記溶剤としては、25℃における比誘電率が15以上のものであれば特に限定されないが、前記(A)ポリビニルピロリドン化合物、(B)ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサン、および、含む場合には(D)発光性化合物を溶解する溶剤が好ましい。前記溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノールなどのアルコール化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、アセトニトリル、プロピロニトリルなどのニトリル化合物、1-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム化合物、γ-ブチロラクトンなどのラクトン化合物、水などが挙げられる。
【0044】
塗布時の作業性の観点から、(C)成分の含有量は[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]=0.01~0.4の範囲であることが必要であり、0.05~0.35が好ましい。0.01より小さい値の場合は形成されるマスクの膜厚が小さすぎるためにマスクとして機能しなくなる。一方で0.4より大きい値の場合は、組成物が著しく高粘度になり作業性が大きく悪化する。
【0045】
前記(A)ポリビニルピロリドンおよび前記(B)ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサンの溶解性が良好になる観点から、(C)成分の溶剤は比誘電率が15以上であることが必要であり、18以上であることが好ましい。溶剤の比誘電率が15以上であれば、溶剤の極性が十分に高いため各成分を良好に溶解することができるが、比誘電率が15未満では、組成物が相溶しない場合がある。
【0046】
前記の溶剤はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0047】
なお、後述するように溶剤除去の観点から、溶剤の沸点は、大気圧下(1013hPa)において25~200℃であることが好ましく、25~150℃であることがより好ましい。この範囲内であれば、溶剤が効率的かつ十分に除去でき、ハンドリング性も良好である。
【0048】
<(D)発光性化合物>
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、さらに、(D)成分として発光性化合物を含むことができる。
(D)成分の発光性化合物は、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物に添加することでマスクの視認性を向上させるものである。
【0049】
本発明における電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、溶液状態で基材に塗工され、続く溶剤除去を経てマスクとなる。マスクは固体であるので、本発明における発光性化合物は固体状態で発光を示すことが好ましい。一方で、溶液状態で発光性化合物が沈殿している場合、得られるマスク中の発光性化合物の分布が一様ではなくなり、視認性を安定して得られない懸念がある。このことから(D)成分の発光性化合物は本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物に溶解していることが好ましい。本発明で用いる溶剤は極性が高いため、それらの溶剤に効率よく溶解する観点から、発光性化合物はキサンテン系化合物またはクマリン系化合物が好ましい。
【0050】
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、さらに、(D)成分として下記式(D-1)~(D-3)から選ばれる少なくとも1種の発光性化合物を含むことができる。下記式(D-1)、(D-2)はキサンテン系化合物であり、(D-3)はクマリン系化合物である。
【0051】
【化10】
(式中、Rは互いに独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基であり、Rは互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、R3は水素原子、メチル基、エチル基またはオクタデシル基であり、Xは塩化物イオンまたは過塩素酸イオンである。)
【0052】
【化11】
(式中、R4は互いに独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R5は水素原子、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、イソチオシアネート基、マレイミド基、セミカルバジド基またはチオセミカルバジド基である。)
【0053】
【化12】
(式中、R6は水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、カルボキシル基、またはアセチル基であり、R7は水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、またはトリフルオロメチル基であり、R8は水素原子、メチル基、エチル基、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、またはエトキシ基である。)
【0054】
前記キサンテン系化合物の具体例としては、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン590塩化物、ローダミン6G過塩素酸塩などのローダミン化合物、フルオレセイン、2’,7’-クロロフルオレセイン、4’,5’-ジブロモフルオレセイン、テトラヨードフルオレセイン、5-アミノフルオレセイン、6-アミノフルオレセイン、5-ニトロフルオレセイン、6-ニトロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン-5-イソチオシアネート、フルオレセイン-6-イソチオシアネート、フルオレセイン-5-マレイミド、フルオレセイン-6-マレイミド、フルオレセイン-5-セミカルバジド、フルオレセイン-6-セミカルバジド、フルオレセイン-5-チオセミカルバジド、フルオレセイン-6-チオセミカルバジドなどのフルオレセイン化合物などが挙げられ、中でもローダミンBまたはフルオレセインが好ましい。
【0055】
前記クマリン系化合物の具体例としては、クマリン、3-メチルクマリン、3-エチルクマリン、3-ヒドロキシクマリン、3-トリフルオロメチルクマリン、3-アミノクマリン、3-カルボキシクマリン、3-アセチルクマリン、4-メチルクマリン、4-エチルクマリン、4-ヒドロキシクマリン、4-トリフルオロメチルクマリン、4-アミノクマリン、4-カルボキシクマリン、4-アセチルクマリン、7-メチルクマリン、7-エチルクマリン、7-アミノクマリン、7-メチルアミノクマリン、7-エチルアミノクマリン、7-(ジメチルアミノ)クマリン、7-(ジエチルアミノ)クマリン、7-ヒドロキシクマリン、7-メトキシクマリン、7-エトキシクマリン、3,7-ジメチルクマリン、7-エチル-3-メチルクマリン、7-アミノ-3-メチルクマリン、7-(メチルアミノ)-3-メチルクマリン、7-(エチルアミノ)-3-メチルクマリン、7-(ジメチルアミノ)-3-メチルクマリン、7-(ジエチルアミノ)-3-メチルクマリン、7-ヒドロキシ-3-メチルクマリン、7-メトキシ-3-メチルクマリン、7-エトキシ-3-メチルクマリン、4,7-ジメチルクマリン、7-エチル-4-メチルクマリン、7-アミノ-4-メチルクマリン、7-(メチルアミノ)-4-メチルクマリン、7-(エチルアミノ)-4-メチルクマリン、7-(ジメチルアミノ)-4-メチルクマリン、7-(ジエチルアミノ)-4-メチルクマリン、7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン、7-メトキシ-4-メチルクマリン、7-エトキシ-4-メチルクマリンなどが挙げられ、中でも7-(ジエチルアミノ)-4-メチルクマリンが好ましい。
【0056】
前記の発光性化合物はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0057】
前記の発光性化合物の添加量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましい。
【0058】
[添加剤]
その他、本発明の組成物には目的に応じ、(A)~(C)成分以外の(D)成分や成膜助剤などの添加剤を添加することができる。
【0059】
<電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物の製造方法>
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、その製造方法に制限はなく、例えば、(C)成分に(A)成分と(B)成分、及び場合により(D)成分などの添加剤を加えて、例えば、撹拌羽にて撹拌することで得ることができる。このようにして、(A)成分と(B)成分、及び場合により(D)成分等が(C)成分に均一に溶解した電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を得ることができる。
【0060】
<電子部品マスクの形成方法>
本発明の電子部品用ポリビニルピロリドン含有組成物を用いた電子部品マスクを形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、前記電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を基材となる電子部品に塗布する塗布工程、次いで、基材に塗布した塗膜から溶剤を除去する溶剤除去工程を経る方法が挙げられる。
【0061】
(塗布工程)
基材に対して本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を塗布する方法としては例えば、ダイレクトグラビアコータ、チャンバードクターコータ、オフセットグラビアコータ、リバースキスコータ、リバースロールコータ、スロットダイ、リップコータ、エアードクターコータ、一本ロールキスコータ、正回転ロールコータ、ブレードコータ、含浸コータ、MBコータ、MBリバースコータ、ナイフコータ、バーコータなどのロールコート法やスピンコート法、ディスペンス法、ディップ法、スプレー法、転写法、スリットコート法などが挙げられる。
【0062】
塗膜の厚さは、塗布される電子部品の形状などにより異なるが、マスク形成後に形成される機能性コーティング膜の厚さより小さいことが好ましい。
【0063】
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を塗布する前に基材に対して表面改質処理を行っても良い。表面改質処理は主に基材へ電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物の均一な塗工性を向上させる目的で行われ、基材表面に付着した有機物の分解除去や、基材表面に化学反応点を形成することで実現される。表面改質処理方法としては例えば、アルゴンプラズマ処理、酸素プラズマ処理、オゾン処理、UV照射処理、キセノンエキシマ光照射処理などが挙げられ、基材の種類などにより使い分けられる。
【0064】
(溶剤除去工程)
前記塗布工程に次いで、基材上に形成された塗工膜から溶剤を除去する溶剤除去工程に移行する。前記溶剤除去工程は20~250℃で行うことが好ましく、25~200℃がより好ましい。この範囲内であれば溶剤が速やかに揮発し、塗工膜から除去することができる。溶剤除去工程の温度が250℃以下だと成分が分解、あるいは酸化等の変質により使用後に除去不能になる恐れがないため好ましい。
【0065】
上記の理由により、本発明で用いる(C)溶剤の沸点は、大気圧下(1013hPa)において25~200℃であることが好ましく、25~150℃であることがより好ましい。この範囲内であれば、溶剤が膜内に残存することもなく、ハンドリング性も良好である。
【0066】
塗工膜から溶剤を除去することで、本発明における(A)成分及び(B)成分が基材上で固体の被膜となり、これがマスクとなる。
【0067】
このように電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物から(C)成分が除去されたものが本発明の電子部品マスクである。
【0068】
<機能性コーティング膜の形成方法>
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物を使用してマスクを形成することにより、種々の機能性コーティング膜(硬化被膜)の形成(パターニング)を行うことができる。膜の形成方法(パターニング方法)は、特に限定されないが、例えば、特許文献3に記載の方法を採用できる。
【0069】
例えば、機能性コーティング膜としてポリシラザン硬化被膜を用いた場合のパターニング方法は、下記(1)~(4)の工程を含むことができる。
(1)基材の所望の場所にマスク剤を塗布するマスキング工程
(2)前記基材および前記マスク剤の上にポリシラザン化合物を含むコーティング液を塗布するコーティング工程
(3)塗布された前記ポリシラザン化合物を含むコーティング液を乾燥、硬化させて、ポリシラザン硬化被膜を形成する硬化工程
(4)前記マスク剤、および前記マスク剤の上にコーティングされている前記ポリシラザン硬化被膜を洗浄液で洗浄する洗浄工程
【0070】
この場合、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、上記(1)マスキング工程でマスク剤として使用される。そして、(2)コーティング工程、(3)硬化工程を経て、(4)洗浄工程が行なわれる。以下、(4)洗浄工程について更に説明する。
【0071】
マスク剤は硬化していないので軟質であり、マスク剤の上にコーティングされたポリシラザン硬化被膜の膜厚も非常に薄いため、前記洗浄工程ではマスク剤とその上にコーティングされているポリシラザン硬化被膜を洗浄液により取り除くことができる。この工程で用いる洗浄液として水を用いる。水は炭素数1~4の脂肪族アルコールなどの有機溶剤よりも安全性が高く、環境汚染の原因とならない。これはマスク剤として水溶解性があるものを使用するためであるが、ポリシラザン化合物が水と反応することを利用し、ポリシラザン硬化被膜に部分的に未硬化な箇所があったとしても硬化反応が進行され、均一な硬化塗膜を得ることができるためでもある。この時にマスク剤に有機溶剤溶解性を示す樹脂を用い洗浄を有機溶剤で行う場合は、仮にポリシラザン硬化被膜に未硬化部分が存在すると前記未硬化部分が有機溶剤に溶出し、均一な硬化被膜が得られない可能性がある。洗浄方法はマスク剤およびその上に積層されているポリシラザン硬化被膜が取り除ければ特に制約はない。洗浄方法としては、例えば撹拌洗浄、超音波洗浄、スプレー洗浄、ジェット洗浄、ブラシ洗浄、浸漬洗浄、バブリング洗浄などが挙げられ、基材の種類や立体構造、パターニング形状などから最適なものを選択できる。
なお、洗浄工程の後に、洗浄液を拭き取る工程や、洗浄液を乾燥除去する工程を加えても良い。
【0072】
パターニング方法の一実施形態について説明する。
まず、基材のポリシラザン化合物によるガラス質膜を形成したくない場所にマスク剤をパターニングして塗布する。次に、マスク剤の上から基材全体に対してポリシラザン化合物を含むコーティング液を塗布する。その後、塗布したコーティング液から有機溶剤を揮発、乾燥させ、ポリシラザン化合物の塗膜を硬化させてポリシラザン硬化被膜を形成する。更に、マスク剤とその表面上に付着しているポリシラザン硬化被膜を水洗浄液により取り除き、基材上に均一なポリシラザン硬化被膜を形成する。
【0073】
以上のように、本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、基材に塗工した後に、溶剤を除去することで機能性コーティング膜形成時には溶出除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品マスク用組成物を得ることができる。
特に、本発明では、上記(A)成分に、(B)成分と(C)成分とを適切な比率で配合することにより、機能性コーティング膜形成時にはコーティング組成物に対する溶出性が低いため除去されにくく、一方、機能性コーティング膜形成時以外の所望の時点で、ポリビニルピロリドンが溶解する水などの溶剤により、マスク部分を容易に除去可能である。
このため、例えば、電子部品の保護材として優れているポリシラザン化合物の硬化膜を効率的にパターニングできるため、高温環境下等での使用において高い信頼性が求められる電子部品を高い生産性で製造することができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
なお、以下において、粘度平均分子量は、25℃の水溶液について、ウベローデ粘度計を用いて決定した固有粘度をもとにMark-Houwink-桜田の式より算出された値であり、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値であり、25℃における比誘電率は、化学便覧基礎編改定5版(2004)((社)日本化学会、丸善出版(株))および、静電気安全指針(1988)(労働省産業安全研究所)を参照した。
【0075】
(A)ポリビニルピロリドン
(A-1)ポリビニルピロリドンK15(平均分子量10000)(東京化成工業製)
(A-2)ポリビニルピロリドンK30(平均分子量40000)(東京化成工業製)
(A-3)ポリビニルピロリドンK90(平均分子量360000)(東京化成工業製)
(A-4)ポリビニルピロリドン,M.W.1,300,000(Alfa Aesar製)
なお、上記ポリビニルピロリドンの平均分子量は、25℃の水溶液について、Mark-Houwink-桜田の式より算出される粘度平均分子量に換算して、いずれも5,000~1,500,000の範囲内であった。
【0076】
(B)ポリオルガノシロキサン
ポリエーテル基含有ポリオルガノシロキサン
(B-1)KF-6011(信越化学工業製):直鎖状ポリエーテル変性シリコーン
(B-2)KF-6043(信越化学工業製):直鎖状ポリエーテル変性シリコーン
比較用ポリオルガノシロキサン
(B-3)KF-6100(信越化学工業製):分岐型ポリグリセリン変性シリコーン
(B-4)KF-96-50CS(信越化学工業製):ジメチルシリコーン
(B-5)KF-54(信越化学工業製):メチルフェニルシリコーン
【0077】
(C)溶剤
(C-1)純水 [78.30]
(C-2)IPA(デルタ化成製) [19.92]
(C-3)N-メチル-2-ピロリジノン(関東化学製) [32.2]
(C-4)酢酸プロピル(関東化学製) [6.00]
なお、上記角括弧内の数値はそれぞれの25℃における比誘電率である。
【0078】
(D)発光性化合物
(D-1)ローダミンB(Alfa Aesar製)
(D-2)フルオレセイン(富士フィルム和光純薬製)
(D-3)7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン(東京化成工業製)
【0079】
[実施例1~23、比較例1~21]
下記評価用の機能性コーティング膜用コーティング液の調製
窒素雰囲気下で脱水ピリジン(4,500g)を-10℃まで冷却し、ジクロロシラン(64L)を吹き込んだ後-10℃で1時間撹拌した。アンモニア(216L)を吹き込み、25℃に戻しながら12時間撹拌した。生じた固体をろ別し、ろ液にn-ジブチルエーテル(1,000g)を加えた。液中のピリジンをn-ジブチルエーテルと共沸させながら減圧留去し、留出液が4,500gに達した時点で、n-ジブチルエーテル(1,000g)をさらに加えた。続けてピリジンをn-ジブチルエーテルと共沸させながら減圧留去することでペルヒドロポリシラザンのn-ジブチルエーテル溶液を得た。なお、このペルヒドロポリシラザンの重量平均分子量は6,100であった。その後、溶液全体を100質量部としたときにポリシラザン化合物が10質量部となるようにn-ジブチルエーテルを添加した。以下の実施例、比較例では、この溶液をコーティング液として使用した。
【0080】
(1)溶液外観の評価
表1に示す割合で、(C)成分に(A)成分と(B)成分、及び場合により(D)成分を加えて、1分間振とうすることで電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物の調製を行った。得られた組成物を目視にて観察し、透明で均一な溶液であるものは○、懸濁や分離が発生し不透明な溶液だったものは×を表1~4に示した。
【0081】
(2)電子部品用マスクの水溶性の評価
上記の評価(1)にて結果が〇だったものについて下記のように電子部品用マスクを作製して、その水溶性の評価を行った。
【0082】
塗布工程
(1)にて調製した組成物をスライドガラスにバーコータにて塗布した。
【0083】
溶剤除去工程
上記にて塗布した組成物を100℃の乾燥機で10分間加熱することで溶剤を除去し、電子部品用マスク(電子部品マスク)を作製した。
【0084】
作製した電子部品用マスクを40℃の純水を入れた容器に浸漬し、1分間静置した。電子部品用マスクを取り出し、100℃の乾燥機で10分間加熱することで電子部品用マスクに付着した純水を揮発させた。純水への浸漬前後での電子部品用マスクの重量変化率を計算し、試験後の電子部品用マスクの除去率(%)を求めた。これを、水溶性を示す数値として表1~4に示した。表1~4における水溶性の値が大きいほど、水を洗浄液として用いたときの電子部品用マスクの除去が容易であることを示し、電子部品用マスクとしての性能が優れていることを示す。
【0085】
(3)コーティング液への電子部品用マスクの溶出度の評価
(2)の評価にて作製した電子部品用マスクを25℃のジ-n-ブチルエーテルを入れた容器に浸漬し、磁気撹拌子を用いて容器内を500rpmで1分間撹拌した。電子部品用マスクを取り出し、100℃の乾燥機で10分間加熱することでジ-n-ブチルエーテルを揮発させた。ジ-n-ブチルエーテルへの浸漬前後での電子部品用マスクの重量変化率を計算し、試験後の電子部品用マスクの除去率(%)を求めた。これをコーティング剤に含まれる溶剤成分への溶出性を示す数値として表1~4に示した。表1~4における溶出性の値が小さいほど、コーティング時でも電子部品用マスクに劣化が無いことを示し、電子部品用マスクとしての性能が優れていることを示す。
【0086】
(4)マスク性能の評価
(2)の評価にて作製した電子部品用マスクに、上記で調製したコーティング液をスピンコート(回転速度500rpm、回転時間30秒)し、100℃の乾燥機で10分間加熱することでコーティング膜を作製した。これを25℃の流水で30秒間洗浄した後、100℃の乾燥機で10分間加熱することで表面に付着した水を揮発させた。流水での洗浄前後の外観を目視にて比較した。コーティング膜が電子部品用マスクとともに全て除去できたものには〇、残存率が70~100%のものには×、それ以外のものには△を表1~4に示した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
実施例1~10と比較して、比較例1~6はマスクの溶出性が高い。このことから(B)成分が本発明の配合量を逸脱する場合には、機能性コーティング液へのマスクの溶出量が多くなりマスクが劣化しやすいことを示す。さらに比較例2~6ではマスク性能の評価結果が悪化している。
【0092】
同一の(A)成分を用いているものについてみると、実施例1~17と比較して、(B)成分を含まない比較例7~13はマスクの水溶性が低い。
【0093】
実施例18と比較例14、および、実施例19~20と比較例15~16をそれぞれ比較してみると、比較例はマスクの水溶性が低い。
【0094】
比較例17の結果から、[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]が0.4より大きい場合は、組成物が相溶しない。
【0095】
比較例18の結果から、(B)成分のポリシロキサンが直鎖状ポリオルガノシロキサンでない場合は、(B)成分を含まない比較例12と比べてマスクの水溶性が向上しない。
【0096】
比較例19~20の結果から、ポリエーテル基を含有しないポリシロキサンは(C)溶剤への溶解性に乏しく、組成物が相溶しない。
【0097】
比較例21の結果から、(C)成分の比誘電率が15未満の場合は、組成物が相溶しない。
【0098】
[産業上の利用可能性]
本発明の電子部品マスク用ポリビニルピロリドン含有組成物は、基材に塗工した後に、溶剤を除去することで機能性コーティング膜形成時に溶出除去されにくく、所望の時点で容易に除去可能な電子部品マスク用組成物を得ることができる。
【0099】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。