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特許7492484導電性高分子組成物、基板、及び基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物、基板、及び基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20240522BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240522BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20240522BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20240522BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L101/02
C08F212/14
C08F220/10
H01B1/12 E
H01B1/12 F
H01B1/12 G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021059230
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022155819
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】長澤 賢幸
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-9342(JP,A)
【文献】特開2020-128472(JP,A)
【文献】特開2020-41037(JP,A)
【文献】特開2016-56348(JP,A)
【文献】特開2019-99766(JP,A)
【文献】国際公開第2021/205873(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00- 61/12
C08G 73/00- 73/26
C08F 212/00-212/36
C08F 220/00-220/70
C08L 25/00- 25/18
C08L 33/00- 33/26
C08L 65/00- 65/04
C08L 79/00- 79/08
C08L 101/00-101/16
H01B 1/12、1/20、5/14
CAplus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系ポリマー(A)、および下記一般式(1)で表されるポリマー(B)との複合体をHO(D)に分散させたものであり、かつ、水溶性の有機溶剤(C)、および下記一般式(2)で表される化合物(E)を含む導電性高分子組成物であって、
前記導電性高分子組成物を膜厚20~200nmで成膜したときの膜導電率が1.00E-05S/cm未満のものであり、かつ、有機薄膜素子の正孔注入層の形成に用いられるものであることを特徴とする導電性高分子組成物。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Zはフェニレン基、ナフチレン基、エステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかであり、Zがフェニレン基、ナフチレン基であればRは単結合、エステル基、あるいはエーテル基のいずれか又はエステル基とエーテル基の両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかであり、Zがエステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基であればRは、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかである。mは1~3である。R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、Rは、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はエステル基とエーテル基の両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかである。Rは単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。X、Xは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Rfはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。a、b1、b2、及びb3は含有率であり、0<a<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0であり、0<b1+b2+b3<1.0である。nは1~4の整数である。)
【化2】
(式中、R201及びR202はそれぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子、ヘテロ原子のいずれかを示す。R203及びR204はそれぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子のいずれかを示す。R201とR203、あるいはR201とR204は互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の4価の有機基を示す。Lがヘテロ原子を有する場合、該ヘテロ原子はイオンであってもよい。)
【請求項2】
表面張力が20~50mN/mの範囲のものであることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子組成物。
【請求項3】
前記(C)成分は、沸点120℃以上の有機溶剤(C1)、及び/又は沸点120℃未満の有機溶剤(C2)であり、前記(A)成分、(B)成分、(D)成分の合計に対して1.0wt%≦(C1)+(C2)≦50.0wt%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性高分子組成物。
【請求項4】
前記(C1)成分および(C2)成分は炭素数が1~7のアルコール、エーテル、エステル、ケトン、ニトリル類から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の導電性高分子組成物。
【請求項5】
前記(B)成分中の繰り返し単位aが、下記一般式(3-1)~(3-4)で示される繰り返し単位a1~a4から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【化3】
(式中、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R13は、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかであり、R14は単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。Yはエーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかを示し、アミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。mは1~3である。a1、a2、a3、a4は含有率であり、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0である。)
【請求項6】
前記(B)成分中の繰り返し単位b1が、下記一般式(4-1)~(4-4)で示される繰り返し単位b’1~b’4から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【化4】
(式中、R15、R16、R17およびR18は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、b’1、b’2、b’3、b’4は含有率であり、0≦b’1<1.0、0≦b’2<1.0、0≦b’3<1.0、0≦b’4<1.0、0<b’1+b’2+b’3+b’4<1.0である。)
【請求項7】
前記(B)成分が、さらに下記一般式(5)で示される繰り返し単位cを含むものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【化5】
(cは含有率であり、0<c<1.0である。)
【請求項8】
前記(B)成分の重量平均分子量が1,000~500,000の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項9】
前記(A)成分は、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上の前駆体モノマーが重合したものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項10】
前記(E)成分の含有量が、前記(A)成分と(B)成分との複合体100質量部に対して1質量部から50質量部であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項11】
更に、ノニオン系界面活性剤を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項12】
前記ノニオン系界面活性剤の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分との複合体100質量部に対して、1質量部から15質量部であることを特徴とする請求項11に記載の導電性高分子組成物。
【請求項13】
有機薄膜素子を有する基板であって、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物によって前記有機薄膜素子中の正孔注入層が形成されたものであることを特徴とする基板。
【請求項14】
前記導電性高分子組成物をスピンコート、スプレーコーターまたはインクジェット印刷により塗布する工程を有することを特徴とする請求項13に記載の基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子組成物、および有機エレクトロルミネッセンス素子中、該導電性高分子組成物から形成された塗布型導電膜を含む基板に関する。
【背景技術】
【0002】
共役二重結合を有する重合体(π共役系ポリマー)は、ポリマー自体は導電性を示さないが、適切なアニオン分子をドーピングすることによって電子または正孔の移動が発現し、導電性高分子材料となる。π共役系ポリマーとしては、ポリチオフェン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の(ヘテロ)芳香族ポリマー、及びこれらの混合物等が用いられており、アニオン分子(ドーパント)としては、スルホン酸系のアニオンが最もよく用いられている。これは、強酸であるスルホン酸が上記のπ共役系ポリマーと効率良く相互作用するためである。
【0003】
スルホン酸系のアニオンドーパントとしては、ポリビニルスルホン酸やポリスチレンスルホン酸(PSS)等のスルホン酸ポリマーが広く用いられている(特許文献1)。また、スルホン酸ポリマーには登録商標ナフィオンに代表されるビニルパーフルオロアルキルエーテルスルホン酸もあり、これは燃料電池用途に使用されている。
【0004】
スルホン酸ホモポリマーであるポリスチレンスルホン酸(PSS)は、ポリマー主鎖に対しスルホン酸がモノマー単位で連続して存在するため、π共役系ポリマーに対するドーピングが高効率であり、またドープ後のπ共役系ポリマーの水への分散性も向上させることができる。これはPSSにドープ部位よりも過剰に存在するスルホ基の存在により親水性が保持され、水への分散性が飛躍的に向上するためである。
【0005】
PSSをドーパントとしたポリチオフェンは、高導電性かつ液材料としての扱いが可能なため、有機ELや太陽電池などの透明電極として使用されているITO(インジウム-スズ酸化物)に換わる塗布型の透明電極膜材料として期待され、または有機ELや太陽電池などの有機薄膜デバイスが全層塗布型材料機構に移行しつつある段階において、高い導電性は必要ないものの、電極からキャリア移動層へのキャリア移動負荷低減する注入層として機能する塗布型材料としての適用が期待されている。
【0006】
親水性が低いπ共役系ポリマーに対し、親水性が極めて高いPSSをドーパントとして適用することにより、π共役系ポリマーとドーパントの複合体はHO中では粒子となって分散しており、液材料として基板上への塗布が可能である。当該複合体の基板上への塗布後、熱風循環炉、ホットプレート等による加熱成膜やIR、UV照射等による成膜が可能だが、前記親水性が極めて高いPSSが水分を保持するため、成膜処理後も膜内に水分が多量に残り、素子作製・封止後にその水分が揮発して素子内に充満するなどして素子性能を著しく低下させることがある。例えば有機ELの構成膜(薄膜)に当該材料を用いた場合、膜内の残存水分および封止までの製造プロセスにおける外部雰囲気から吸収された水分により、構成層の積層および封止後に水分の揮発または隣接層への浸透が生じ、封止素子内や膜内部での水分凝集による欠陥発生、発光層の機能低下や膜内水分による素子駆動電圧の上昇など素子の機能低下を招き、結果として素子寿命が短くなるなどの問題が生じる。
【0007】
このため、PSSをドーパントとしたπ共役系ポリマーの複合体のHO分散液を有機ELや太陽電池など有機薄膜素子中の透明電極材料や正孔注入層の材料として用いた場合、前記残存水分が素子の性能劣化を引き起こす。HO代替溶剤として有機溶剤に当該複合体を分散させる試みもあるが、有機溶剤への親和性が低いため均一分散液を得ることが困難である。
【0008】
また、広汎に適用が検討されているPEDOT-PSSでは光吸収が可視光域にあり透過率が低いため光透過性発光素子への適用に支障が生じ、また、液状態では前記複合体の分散粒子が凝集しやすいなどの特質もあり、ろ過精製に困難が伴う。
【0009】
PSSをドーパントとしたπ共役系ポリマーの複合体を有機ELや太陽電池など有機薄膜素子中の透明電極材料や正孔注入層の材料として用いる場合、その薄膜形成の方法には様々な手法がある。成膜する方法としては、例えば、スピンコーター等による塗布、バーコーター、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などがあり、基板への塗布後、熱風循環炉、ホットプレート等による加熱処理、IR、UV照射等を行って導電膜を形成することができる。しかし、前記の様に、組成物内の成分凝集体の除去を目的としたろ過に問題があり、濾過をせずに塗布を行うと、これら凝集体の影響により塗布不良が生じたり、例え均一膜が得られたとしても表面ラフネスが悪く、激しい表面凹凸やピンホールが生じるため、積層構造を持つ有機ELや太陽電池などに適用した場合、キャリアの移動障害やショートなどの問題が発生しやすいなどの問題がある。
【0010】
また、PSSをドーパントとしたπ共役系ポリマーとの複合体の溶剤をHOとする場合、表面張力が高いため、ガラス基板、プラスチック基板によらず塗布時の接触角が大きく、塗布後の液の凝集が生じたり、基板上の弾きによる液滴として基板上に付着する。そのため均一膜を得るためには、材料の表面張力を低下させることにより基板との接触角を低下させ、レベリング性を付与する必要がある。特に、液材料の噴霧や吹き付けによるスプレーコートやインクジェット印刷では、前記表面張力の低下およびレベリング性の付与は必須要素である。また、ノズル周辺の固形分の固着やノズル先端から液材料が吐出してから基板へと着液するまでの間に乾燥による固形分析出が生じることがあるため、主溶剤のHOを揮発性の低い溶剤に置換することや、HOが主溶剤であるならば、別途乾燥遅延剤を添加する必要がある。
【0011】
PSSをドーパントとしたπ共役系ポリマーとの複合体を、ガラス基板、プラスチック基板に塗布するには、塗布性および膜質の観点から、主溶剤は有機溶剤であることがもっとも望ましい。特許文献2および特許文献3では、無水溶剤または低水分含量溶剤中でのポリチオフェン-ポリアニオン錯体の製造を記載している。これらの系では、初期溶剤としてのHOは、別の水混和性有機溶剤と交換される。この目的のために、有機溶剤が加えられ、次いでHOが、例えば蒸留によって除去される。しかし、この手順の短所は、その蒸留には2段階プロセスを使用することが必要であり、添加される有機溶剤は水と混和性である必要があり、また当該有機溶剤の沸点が概ね150℃以上である場合、汎用性の高いポリチオフェン-ポリアニオン粒子性分散液の場合、高導電化などのポリマー変性が生じ、ホール注入層としての用途では適性導電率域から逸脱してしまう等の問題がある。
【0012】
また、特許文献4において、Otaniらは、PEDOTなどの導電性ポリマーが最初に乾燥され、次いで有機溶剤に再分散される方法を記載している。実施例には、イソプロピルアルコールおよびγ-ブチロラクトンが挙げられているが、この方法では再溶解のために極性溶剤を必要とする。本文献では、ポリチオフェン-ポリアニオン複合体については開示していないが、ポリチオフェン-ポリアニオン複合体、特にPSSをドーパントとするPEDOT-PSSでは化学重合の溶剤であるHO除去後の有機溶剤への再分散は高圧分散などの機械的処理が必要であり、該処理を行った後であっても有機ELや太陽電池など有機薄膜素子中の透明電極材料や正孔注入層の材料として用いる場合、光が透過する形成膜上にポリマー凝集体由来のダークスポット等の欠陥が生じやすいという欠点がある。粘度もHO主溶剤系に比べ高粘度化する傾向にある。これら欠点は成膜性および有機薄膜素子の輝度寿命、耐久性、生産上の歩留まりに大きく関与するところであり、PEDOT-PSSを使用するにおいては、使用時に少なくとも0.45μm以下のろ過膜を通液しても固形分減による膜厚減を引き起こさない分散液が適正であるため、当該再分散処方は望ましくない。
【0013】
また、汎用性の高いPEDOT-PSS等のPSSをドーパントとしたポリチオフェン系導電性ポリマーは合成法が公知であり、原料および製造品の市販品も市場に数多くあるため、有機ELや太陽電池など有機薄膜素子への適用において好適な材料ではあるが、可視光に吸収があるため透明性が悪く、またHO分散液状態で凝集性が高く、さらに有機溶剤を混合すると凝集性が加速するため高粘度化や濾過精製の困難が生じ、成膜後も膜内に水分が多く残り、膜そのものも表面ラフネスが悪く、凝集体由来の粒子性欠陥が発生しやすいという問題があった。また、凝集を回避するために有機溶剤を添加しない状態では表面張力が高いため、噴霧式印刷機適用の際には基板吹き付け後に着液後に液滴の接触角が高くレベリング性が低いため平坦な連続膜が得られず、基板上に液滴による組成物の海島構造や部分的な膜が形成される。
【0014】
特許文献5、6、7では、チオフェン、ピロール、アニリン、多環式芳香族化合物から選択される繰り返し単位によって形成されるπ共役系ポリマーに対し、フッ素化酸ユニットを取り込んだドーパントポリマーを使用し、形成される導電性ポリマー組成物が提案されている。HO、π共役系ポリマーの前駆体モノマー、フッ素化酸ポリマー、及び酸化剤を任意の順番で組み合わせることにより導電性ポリマーのHO分散体となることが示されている。フッ素化酸ユニットを導入することでフッ素原子の有機溶剤親和性がドーパントポリマーに付与され、結果π共役系ポリマーとの複合体全体の有機溶剤や疎水性基板表面への親和性が増え、当該複合体の有機溶剤への分散性や疎水性基板への塗布性が改善する。また、ドーパント内にフッ素化酸ユニットを導入することで、PSSで見られる強親水性が緩和されるため、成膜後の膜内残存水分が低減する。
【0015】
特許文献6におけるドーパントポリマーはフッ素化酸ユニットとPSSの構成モノマーであるスチレンスルホン酸などの酸ユニットから構成されているが、π共役系ポリマーにドープしているスルホン酸末端以外の余剰のスルホン酸末端から発生するHの量については制御していない。即ちドーパントポリマー(B)の繰り返し単位がすべてスルホン酸末端をもつユニットの場合、π共役系ポリマー(A)を構成する繰り返し単位に対し、1:1でドープしていないため、非ドープ状態のドーパントポリマー(B)の繰り返し単位のスルホン酸末端はフリーの酸として存在し、成膜前の液状態の材料の酸性度が非常に高い状態となる。この高酸性度の影響により、塗布工程における周辺基材の腐食が進行する問題があり、さらに薄膜素子の構成要素として成膜乾燥後も隣接層経由または積層構造の側面から素子構造内にHが拡散し、それぞれの構成層の化学的変質、機能低下を招き、素子全体の性能が劣化し、耐久性も低下する等の問題があった。当該問題点に対し特許文献7では両性イオン化合物を添加することによりHの隣接層への拡散を制御しており、このことから、チオフェン、ピロール、アニリン、多環式芳香族化合物から選択される繰り返し単位によって形成されるπ共役系ポリマーとフッ素化酸ユニットを取り込んだドーパントポリマーから成る複合体の有機溶剤への分散性や基板への塗布性が改善する。
【0016】
また、特許文献8では、前記フッ素化酸ユニットとPSSの構成モノマーであるスチレンスルホン酸などの酸ユニットから構成されるドーパントポリマーに、非ドープ性フッ素含有ユニット、即ち、非フッ素化酸ユニットをドーパントポリマー中に取り込むことで、Hの発生源であるスルホン酸ユニットの存在率を低減し、π共役系ポリマーにドープしているスルホン酸末端以外の余剰のスルホン酸末端から発生するHの量をさらに制御している。
【0017】
特許文献8に記載の組成物は濾過性が良好で成膜性が良くスピンコート法では平坦性の高い連続膜が形成される。同手法により成膜された膜は有機EL素子中の正孔注入層、有機薄膜太陽電池などの正孔注入層として適用することが可能である。また、有機EL素子中の正孔注入層に適用する場合、前記組成物は成膜時に効率的に膜内の残存水分を低減する効果があり、水分により輝度減衰が加速する有機EL素子においては輝度の減衰を遅延、即ち、有機EL素子の発光輝度寿命を延長させる効果がある。しかし、これら有機薄膜素子の生産においてはスピンコートによる成膜を行うよりもスプレーコーターやインクジェット印刷の様な液滴を基板に吹き付ける印刷法の方が塗布工程の所要時間短縮となり好適であるものの、前記組成物を当該印刷法により成膜した場合、塗布斑やピンホールの発生、膜の平坦性不足などの問題が生じ、素子の高電圧化や発光斑、耐久性劣化、ショートなどの問題が生じる。また、前記組成物の溶剤がHO100%である場合、前記印刷法では液滴噴霧時にHOの揮発によりノズル周辺の固形分の固着やノズル先端から液材料が吐出してから基板へと着液するまでの間に乾燥による固形分析出が生じ、膜に析出物が付着し有機EL素子の欠陥が生じることが問題であった。
【0018】
また、特許文献8に記載の組成物は有機EL素子内の陽極であるITO電極上に成膜して実装した場合、駆動電圧印加時にITO電極面外に塗布された当該組成物膜の部分が正孔注入層として機能すると同時に電極としても振る舞い、本来発光する電極面以外の部分が発光する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2008-146913号公報
【文献】欧州特許出願公開第1,373,356(A)号明細書
【文献】国際公開第2003/048228(A)号パンフレット
【文献】特開2005-068166号公報
【文献】特表2008-546899号公報
【文献】特許第6483518号公報
【文献】特許第6450666号公報
【文献】特開2020-128472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、成膜性が良く、酸性度の緩和が可能で、高い透明性をもつ導電膜を形成することができる導電性高分子組成物であって、かつ、液滴による塗布法であるスプレーコートやインクジェット印刷用インクとして用いても無欠陥の平坦な均一膜を形成することが可能で、さらに、有機EL素子中の正孔注入層に適用した場合、有機EL素子に実装して素子を発光させた場合に本来発光するITO電極面以外の部分の発光を防止する組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明では、
π共役系ポリマー(A)、および下記一般式(1)で表されるポリマー(B)との複合体をHO(D)に分散させたものであり、かつ、水溶性の有機溶剤(C)、および下記一般式(2)で表される化合物(E)を含む導電性高分子組成物であって、
前記導電性高分子組成物を膜厚20~200nmで成膜したときの膜導電率が1.00E-05S/cm未満のものである導電性高分子組成物を提供する。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Zはフェニレン基、ナフチレン基、エステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかであり、Zがフェニレン基、ナフチレン基であればRは単結合、エステル基、あるいはエーテル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、Zがエステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基であればRは、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかである。mは1~3である。R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、Rは、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。X、Xは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Rfはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。a、b1、b2、及びb3は、0<a<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0であり、0<b1+b2+b3<1.0である。nは1~4の整数である。)
【化2】
(式中、R201及びR202はそれぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子、ヘテロ原子のいずれかを示す。R203及びR204はそれぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子のいずれかを示す。R201とR203、あるいはR201とR204は互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の4価の有機基を示す。Lがヘテロ原子を有する場合、該ヘテロ原子はイオンであってもよい。)
【0022】
このように、前記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)を含むと、濾過性が良好で成膜性が良く、酸性度が緩和され、表面張力、基板上での接触角の低下によりレベリング性が良好な導電性組成物を与える。また、当該組成物をスプレーコートやインクジェット印刷用インクとして成膜した場合、無欠陥の平坦な均一膜を与える。さらに成膜された膜の導電率(S/cm)を1.00E-05未満とすることで、有機EL素子中の正孔注入層に適用した際には、素子発光において本来発光するITO電極面以外の部分の発光(クロストーク)を防止する組成物を得ることができる。
【0023】
また、本発明の導電性高分子組成物は、表面張力が20~50mN/mの範囲のものであることが好ましい。
【0024】
表面張力がこのような値であると、スプレー印刷機やインクジェット印刷機の様な液滴噴霧式印刷機適用の際に、基板吹き付け後に液滴のレベリングが進行し、基板上における液の弾きや部分膜の形成、液滴の痕跡として組成物の海島構造の形成を防ぐことができる。
【0025】
また、前記(C)成分は、沸点120℃以上の有機溶剤(C1)、及び/又は沸点120℃未満の有機溶剤(C2)であり、前記(A)成分、(B)成分、(D)成分の合計に対して1.0wt%≦(C1)+(C2)≦50.0wt%であることが好ましい。
【0026】
このとき、前記(C1)成分および(C2)成分は炭素数が1~7のアルコール、エーテル、エステル、ケトン、ニトリル類から選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0027】
本発明では、このような有機溶剤を用いることができる。
【0028】
また、前記(B)成分中の繰り返し単位aが、下記一般式(3-1)~(3-4)で示される繰り返し単位a1~a4から選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
【化3】
(式中、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R13は、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかであり、R14は単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。Yはエーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかを示し、アミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。mは1~3である。a1、a2、a3、a4は、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0である。)
【0029】
また、前記(B)成分中の繰り返し単位b1が、下記一般式(4-1)~(4-4)で示される繰り返し単位b’1~b’4から選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
【化4】
(式中、R15、R16、R17およびR18は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、b’1、b’2、b’3、b’4は、0≦b’1<1.0、0≦b’2<1.0、0≦b’3<1.0、0≦b’4<1.0、0<b’1+b’2+b’3+b’4<1.0である。)
【0030】
このように(B)成分中の繰り返し単位としては前記aおよびb1,またはaおよびb2、またはaおよびb3を含むものが好ましく、π共役系ポリマー(A)および(B)から成る複合体を含むことで、本発明の導電性高分子組成物の濾過性および成膜性、有機・無機基板への塗布性、成膜後の導電率が適正なものなり、かつ成膜後の膜内の残存水分の低減に効果を生じる。
【0031】
また、前記(B)成分が、さらに下記一般式(5)で示される繰り返し単位cを含むものであってもよい。
【化5】
(cは0<c<1.0である。)
【0032】
このような繰り返し単位cを(B)成分に含むことで、有機EL素子中の正孔注入層、有機薄膜太陽電池などの有機薄膜素子構成層を形成した際の膜の導電率や効率的機能発現をさらに調整することができる。
【0033】
また、前記(B)成分の重量平均分子量が1,000~500,000の範囲であることが好ましい。
【0034】
重量平均分子量が1,000以上では、耐熱性が優れ、また(A)成分との複合体溶液の均一性が良好となる。一方、重量平均分子量が500,000以下であると、粘度が極度に上昇せず作業性が良好となり、水や有機溶剤への分散性が低下しない。
【0035】
また、前記(A)成分は、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上の前駆体モノマーが重合したものであることが好ましい。
【0036】
このようなモノマーであれば、重合が容易であり、また空気中での安定性が良好であるため、(A)成分を容易に合成できる。
【0037】
また、前記(E)成分の含有量が、前記(A)成分と(B)成分との複合体100質量部に対して1質量部から50質量部であることが好ましい。
【0038】
このような(E)成分の含有量であれば、より確実に積層構造の隣接層ならび他の構成層への酸の拡散を制御することができる。
【0039】
また本発明の導電性高分子組成物は、更に、ノニオン系界面活性剤を含むものであることが好ましい。
【0040】
このようなものであれば、基材等の被加工体への塗布性をさらに上げることができる。
【0041】
このとき、前記ノニオン系界面活性剤の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分との複合体100質量部に対して、1質量部から15質量部であることが好ましい。
【0042】
このようなものであれば、化合物(E)により酸性度が緩和されているので、前記印刷法における基材中接液する金属部品の腐食を防止でき、かつ、有機EL、太陽電池等の薄膜積層素子の正孔注入層として前記導電性高分子組成物を用いて膜形成した際に、積層構造の隣接層ならび他の構成層への酸の拡散が制御でき、素子性能への悪影響を低減することができ、かつ、従来のスピンコートによる成膜技術に加え、スプレーコート、インクジェットなどの液滴噴霧式塗布法による基材等の被加工体への塗布性がさらに良好となり、形成された膜の表面平坦性も良好になる。
【0043】
また本発明の導電性高分子組成物は、有機薄膜素子の正孔注入層の形成に用いられるものであることが好ましい。
【0044】
本発明の導電性高分子組成物から形成された導電膜は、導電性、正孔注入性、成膜後の膜内の低水分性に優れるため、有機EL、太陽電池の正孔注入層として良好に機能するものとすることができる。
【0045】
また本発明では、有機薄膜素子を有する基板であって、上記の導電性高分子組成物によって前記有機薄膜素子中の正孔注入層が形成されたものである基板を提供する。
【0046】
本発明の導電性高分子組成物は、このような用途に特に好適に用いることができる。
【0047】
また本発明では、前記導電性高分子組成物をスピンコート、スプレーコーターまたはインクジェット印刷により塗布する工程を有する上記の基板の製造方法を提供する。
【0048】
本発明の基板は、このようにすれば容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0049】
以上のように、本発明の導電性高分子組成物であれば、低粘性で濾過性が良好であり無機、有機基板への塗布成膜性が良い導電性高分子組成物を提供することができる。また、ドーパントポリマー(B)の成分中aおよびbのそれぞれの繰り返し単位内に存在するフッ素原子の影響により成膜中の膜内残存水分の除去が効率的で、かつ、形成された膜が透明性、平坦性、適切な導電性および良好な正孔注入機能をもつ導電膜を形成することが可能となる。また(B)成分中、スルホ基を含有する繰り返し単位bに対しスルホン酸末端を持たない非ドープ性フッ素化ユニットaを共重合し、そのポリマーをドーパントとして(A)成分と複合体を形成させることにより、非ドープ状態の余剰スルホン酸末端を低減させることとなり、その結果Hの発生率が低減され、さらに(E)の成分により酸性度を緩和することで、本発明の導電性高分子組成物を薄膜積層素子の構成膜として適用した際に印刷機材の接液金属部分の腐食を抑え、かつHの他の構成層への影響を抑えることが可能となる。また、本発明の導電性高分子組成物によって形成された導電膜は、正孔注入効率、透明性等に優れ、かつ薄膜積層素子の構成膜として適用した際にも、膜中の残存水分が低減できるため、当該薄膜積層素子の正孔注入層として効果的に機能するものとすることができる。また、本発明の導電性高分子組成物は、有機溶剤を混合することで表面張力、接触角を低下させるため、基板上でのレベリング性が良好で、従来のスピンコート以外、液滴による塗布法であるスプレーコートやインクジェット印刷用インクとして用いても無欠陥の平坦な均一膜を形成することが可能で、かつ、組成物から成膜された膜の導電率(S/cm)が1.00E-05未満であるため、有機EL素子中の正孔注入層に適用し発光させた場合、本来発光するITO電極面以外の部分の発光を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
有機薄膜素子の正孔注入層はこれまで蒸着材料を使用することが多かったが、蒸着のプロセスは生産性向上を目的とした常圧下でのロール・ツー・ロールの適用や、また下層のITO電極上の表面粗さを平坦化し、ITOの突起やピンホールに由来する素子欠陥を低減することが困難なため、常圧下での印刷、ロール・ツー・ロール適用、下層のITO電極上の表面粗さを平坦化が可能である塗布型正孔注入層材料の開発が求められていた。このことから、上述のように低粘性で濾過性が良好であり、無機、有機基板への塗布成膜性が良く、従来のスピンコートによる成膜から、さらにスプレーコーターやインクジェット印刷においても低欠陥連続膜を形成することができ、膜内残存水分が少なく、形成膜の平坦性が良好で、かつ、有機ELの正孔注入層として適用した際に、下層電極面以外の部分の発光を防止することができる導電性高分子組成物は有効な正孔注入層であり、今後の有機薄膜素子の製造において極めて有望な材料となる。
【0051】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、塗布型正孔注入層材料としての機能をもつPEDOT-PSSに代表される導電性高分子材料のドーパントとして広く用いられているポリスチレンスルホン酸ホモポリマー(PSS)の代わりに、非ドープ性フッ素化ユニットaと例えばα位がフッ素化されたスルホ基を有する繰り返し単位を有する繰り返し単位bを共重合したドーパントポリマーを用い、さらに導電性高分子材料のHO分散液に水溶性の有機溶剤を混合することで、濾過性が良好でスプレーコーターやインクジェット印刷機適用時にも無機基板上での低欠陥連続膜形成能が良好で、形成された膜には残存水分が少なく、高平坦性をもつ導電膜を形成することができる導電性高分子組成物を見出した。さらに、該組成物の膜導電率を所定値より低くすることによって、有機EL素子の構成層として実装した際、素子の性能評価において均一発光を示し、輝度減衰率が少なく発光寿命が長く、また下層のITO電極面外の余剰発光(クロストーク)を示さない良好な結果を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0052】
即ち、本発明は、
π共役系ポリマー(A)、および下記一般式(1)で表されるポリマー(B)との複合体をHO(D)に分散させたものであり、かつ、水溶性の有機溶剤(C)、および下記一般式(2)で表される化合物(E)を含む導電性高分子組成物であって、
前記導電性高分子組成物を膜厚20~200nmで成膜したときの膜導電率が1.00E-05S/cm未満のものである導電性高分子組成物である。
【化6】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Zはフェニレン基、ナフチレン基、エステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかであり、Zがフェニレン基、ナフチレン基であればRは単結合、エステル基、あるいはエーテル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、Zがエステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基であればRは、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかである。mは1~3である。R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、Rは、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。X、Xは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Rfはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。a、b1、b2、及びb3は、0<a<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0であり、0<b1+b2+b3<1.0である。nは1~4の整数である。)
【化7】
(式中、R201及びR202はそれぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子、ヘテロ原子のいずれかを示す。R203及びR204はそれぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子のいずれかを示す。R201とR203、あるいはR201とR204は互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の4価の有機基を示す。Lがヘテロ原子を有する場合、該ヘテロ原子はイオンであってもよい。)
【0053】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
[(A)π共役系ポリマー]
本発明の導電性高分子組成物は、(A)成分としてπ共役系ポリマーを含む。この(A)成分は、π共役系連鎖(単結合と二重結合が交互に連続した構造)を形成する前駆体モノマー(有機モノマー分子)が重合したものであればよい。
【0055】
このような前駆体モノマーとしては、例えば、ピロール類、チオフェン類、チオフェンビニレン類、セレノフェン類、テルロフェン類、フェニレン類、フェニレンビニレン類、アニリン類等の単環式芳香族類;アセン類等の多環式芳香族類;アセチレン類等が挙げられ、これらのモノマーの単一重合体又は共重合体を(A)成分として用いることができる。
【0056】
上記モノマーの中でも、重合の容易さ、空気中での安定性の点から、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物、及びこれらの誘導体が好ましく、ピロール、チオフェン、アニリン、及びこれらの誘導体が特に好ましい。
【0057】
また、π共役系ポリマーを構成するモノマーが無置換のままでも(A)成分は十分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるために、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換したモノマーを用いてもよい。
【0058】
ピロール類、チオフェン類、アニリン類のモノマーの具体例としては、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシエチルピロール、3-メチル-4-カルボキシブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール;チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブテンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、3-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン、3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン;アニリン、2-メチルアニリン、3-イソブチルアニリン、2-メトキシアニリン、2-エトキシアニリン、2-アニリンスルホン酸、3-アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0059】
中でも、ピロール、チオフェン、N-メチルピロール、3-メチルチオフェン、3-メトキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェンから選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ピロール、3,4-エチレンジオキシチオフェンによる単一重合体は導電性が高く、より好ましい。
【0060】
実用上の理由から、これらの繰り返しユニット数は好ましくは2~20の範囲、より好ましくは6~15の範囲である。分子量としては、130~5000程度が好ましい。
【0061】
[(B)ドーパントポリマー]
本発明の導電性高分子組成物は、(B)成分としてドーパントポリマーを含む。この(B)成分のドーパントポリマーは、下記一般式(1)で示される、繰り返し単位aとbを含む強酸性ポリアニオンである。繰り返し単位aを形成するモノマーは下記一般式(6)で示される。
【0062】
【化8】
【化9】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Zはフェニレン基、ナフチレン基、エステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかであり、Zがフェニレン基、ナフチレン基であればRは単結合、エステル基、あるいはエーテル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、Zがエステル基、エーテル基、アミノ基、あるいはアミド基であればRは、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかである。mは1~3である。R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、Rは、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。X、Xは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Rfはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。a、b1、b2、及びb3は、0<a<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0であり、0<b1+b2+b3<1.0である。nは1~4の整数である)
【0063】
(B)成分中の繰り返し単位aが、下記一般式(3-1)~(3-4)で示される繰り返し単位a1~a4から選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
【化10】
(式中、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R13は、エーテル基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基あるいは単結合のいずれかであり、R14は単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、エーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれか又は、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかであり、さらにアミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよいものである。Yはエーテル基、エステル基、アミノ基、あるいはアミド基のいずれかを示し、アミノ基およびアミド基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。mは1~3である。a1、a2、a3、a4は、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0である。)
【0064】
(B)成分中、繰り返し単位bに対し繰り返し単位aの含有率が向上するに従い本発明の効果がより明確に現れ、40≦a≦60であれば本発明の効果を十分に得るに好ましい。即ち、有機EL素子における正孔注入層として適用した場合、十分な正孔注入効率を発現し、かつ、陽極であるITO電極外の余剰発光(クロストーク)を防止するに妥当な膜導電率を示す範囲は40≦a≦60、40≦b≦60、または40≦a≦60、40≦b+c≦60であることが好ましく、その時c≦40であることが好ましい。(cについては後述する。)
【0065】
繰り返し単位aを与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0066】
【化11】
【0067】
【化12】
【0068】
【化13】
【0069】
(B)成分中の繰り返し単位b1としては、下記一般式(4-1)~(4-4)で示される繰り返し単位b’1~b’4から選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
【0070】
【化14】
(式中、R15、R16、R17およびR18は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、b’1、b’2、b’3、b’4は、0≦b’1<1.0、0≦b’2<1.0、0≦b’3<1.0、0≦b’4<1.0、0<b’1+b’2+b’3+b’4<1.0である。)
【0071】
繰り返し単位b1を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0072】
【化15】
【0073】
【化16】
【0074】
【化17】
(式中、Rは前述の通り。)
【0075】
繰り返し単位b2を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0076】
【化18】
【0077】
【化19】
【0078】
【化20】
(式中、Rは前記と同様である。)
【0079】
繰り返し単位b3を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0080】
【化21】
(式中、Rは前記と同様である。)
【0081】
(B)成分は、さらに下記一般式(5)で示される繰り返し単位cを含むことができる。
【化22】
(cは0<c<1.0である)
【0082】
繰り返し単位cを与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0083】
【化23】
【0084】
また、(B)成分のドーパントポリマーは、繰り返し単位a~c以外の繰り返し単位dを有していてもよく、この繰り返し単位dとしては、例えばスチレン系、ビニルナフタレン系、ビニルシラン系、アセナフチレン、インデン、ビニルカルバゾールなどを挙げることができる。
【0085】
繰り返し単位dを与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0086】
【化24】
【0087】
【化25】
【0088】
【化26】
【0089】
【化27】
【0090】
(B)成分のドーパントポリマーを合成する方法としては、例えば上述の繰り返し単位a~dを与えるモノマーのうち所望のモノマーを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合を行い、(共)重合体のドーパントポリマーを得ることができる。
【0091】
重合時に使用する有機溶剤としてはトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルエチルケトン、γ-ブチロラクトン等が例示できる。
【0092】
ラジカル重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示できる。
【0093】
反応温度は、好ましくは50~80℃であり、反応時間は好ましくは2~100時間、より好ましくは5~20時間である。
【0094】
(B)成分のドーパントポリマーにおいて、繰り返し単位aを与えるモノマーは1種類でも2種類以上でも良いが、重合性を高めるメタクリルタイプとスチレンタイプのモノマーを組み合わせることが好ましい。
【0095】
また、繰り返し単位aを与えるモノマーを2種類以上用いる場合は、それぞれのモノマーはランダムに共重合されていてもよいし、ブロックで共重合されていてもよい。ブロック共重合ポリマー(ブロックコポリマー)とした場合は、2種類以上の繰り返し単位aからなる繰り返し部分同士が凝集することによってドーパントポリマー周辺に特異な構造が発生し、導電率が向上するメリットも期待される。
【0096】
また、繰り返し単位a~cを与えるモノマーはランダムに共重合されていてもよいし、それぞれがブロックで共重合されていてもよい。この場合も、上述の繰り返し単位aの場合と同様、ブロックコポリマーとすることで導電率が向上するメリットが期待される。
【0097】
ラジカル重合でランダム共重合を行う場合は、共重合を行うモノマーやラジカル重合開始剤を混合して加熱によって重合を行う方法が一般的である。第1のモノマーとラジカル重合開始剤存在下重合を開始し、後に第2のモノマーを添加した場合は、ポリマー分子の片側が第1のモノマーが重合した構造で、もう一方が第2のモノマーが重合した構造となる。しかしながらこの場合、中間部分には第1のモノマーと第2のモノマーの繰り返し単位が混在しており、ブロックコポリマーとは形態が異なる。ラジカル重合でブロックコポリマーを形成するには、リビングラジカル重合が好ましく用いられる。
【0098】
RAFT重合(Reversible Addition Fragmentation chain Transfer polymerization)と呼ばれるリビングラジカルの重合方法は、ポリマー末端のラジカルが常に生きているので、第1のモノマーで重合を開始し、これが消費された段階で第2のモノマーを添加することによって、第1のモノマーの繰り返し単位のブロックと第2のモノマーの繰り返し単位のブロックによるジブロックコポリマーを形成することが可能である。また、第1のモノマーで重合を開始し、これが消費された段階で第2のモノマーを添加し、次いで第3のモノマーを添加した場合はトリブロックポリマーを形成することもできる。
【0099】
RAFT重合を行った場合は分子量分布(分散度)が狭い狭分散ポリマーが形成される特徴があり、特にモノマーを一度に添加してRAFT重合を行った場合は、より分子量分布が狭いポリマーを形成することができる。
【0100】
なお、(B)成分のドーパントポリマーにおいては、分子量分布(Mw/Mn)は1.0~2.0、特に1.0~1.5と狭分散であることが好ましい。狭分散であれば、これを用いた導電性高分子組成物によって形成した導電膜の透過率が低くなるのを防ぐことができる。
【0101】
RAFT重合を行うには連鎖移動剤が必要であり、具体的には2-シアノ-2-プロピルベンゾチオエート、4-シアノ-4-フェニルカルボノチオイルチオペンタン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボネート、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸、シアノメチルドデシルチオカルボネート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモチオエート、ビス(チオベンゾイル)ジスルフィド、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィドを挙げることができる。これらの中では、特に2-シアノ-2-プロピルベンゾチオエートが好ましい。
【0102】
(B)成分のドーパントポリマーは、好ましくは重量平均分子量が1,000~500,000、より好ましくは2,000~200,000の範囲のものである。重量平均分子量が1,000以上では、耐熱性に優れるものとなり、また(A)成分との複合体溶液の均一性が悪化しない。一方、重量平均分子量が500,000以下であると、粘度が極度に上昇せず作業性は良好となり、水や有機溶剤への分散性も良好なものとなる。
【0103】
なお、重量平均分子量(Mw)は、溶剤として水、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、又はポリスチレン換算測定値である。
【0104】
なお、(B)成分のドーパントポリマーを構成するモノマーとしては、スルホ基を有するモノマーを使ってもよいが、スルホ基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩をモノマーとして用いて重合反応を行い、重合後にイオン交換樹脂を用いてスルホ基に変換してもよい。
【0105】
[(A)成分と(B)成分の複合体]
本発明の導電性高分子組成物に含まれる複合体は、上述の(A)成分であるπ共役系ポリマーと(B)成分であるドーパントポリマーを含むものであり、(B)成分のドーパントポリマーは、(A)成分のπ共役系ポリマーに配位することで複合体を形成する。
【0106】
本発明に用いられる複合体は、HOに分散可能で、かつ有機溶剤に親和性をもつものであることが好ましく、強疎水性の無機または有機基板に対しスプレーコーターおよびインクジェット印刷機適用時の連続膜形成性や膜の平坦性を良好にすることができる。
【0107】
(複合体の製造方法)
(A)成分と(B)成分からなる複合体は、例えば、(B)成分の水溶液又は(B)成分の水・有機溶媒混合溶液中に、(A)成分の原料となるモノマー(好ましくは、ピロール、チオフェン、アニリン、又はこれらの誘導体モノマー)を加え、酸化剤及び場合により酸化触媒を添加し、酸化重合を行うことで得ることができる。
【0108】
酸化剤及び酸化触媒としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ペルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のペルオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素等が使用できる。
【0109】
酸化重合を行う際に用いる反応溶媒としては、水又は水と有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。ここで用いられる有機溶剤は、水と混和可能であり、(A)成分及び(B)成分を溶解又は分散しうる有機溶剤が好ましい。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド等の極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、D-グルコース、D-グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物、ジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。これら水と混和可能な有機溶剤の配合量は、反応溶媒全体の50質量%以下が好ましい。
【0110】
また、(B)成分のドーパントポリマー以外に、(A)成分のπ共役系ポリマーへのドーピング可能なアニオンを併用してもよい。このようなアニオンとしては、π共役系ポリマーからの脱ドープ特性、導電性ポリマー複合体の分散性、耐熱性、及び耐環境特性を調整する等の観点からは、有機酸が好ましい。有機酸としては、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸等が挙げられる。
【0111】
有機カルボン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にカルボキシ基を一つ又は二つ以上を含むものを使用できる。例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸等が挙げられる。
【0112】
フェノール類としては、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類が挙げられる。
【0113】
有機スルホン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にスルホン酸基が一つ又は二つ以上を含むものが使用できる。スルホン酸基を一つ含むものとしては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、1-ヘプタンスルホン酸、1-オクタンスルホン酸、1-ノナンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、1-ドデカンスルホン酸、1-テトラデカンスルホン酸、1-ペンタデカンスルホン酸、2-ブロモエタンスルホン酸、3-クロロ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、コリスチンメタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、1-アミノ-2-ナフトール-4-スルホン酸、2-アミノ-5-ナフトール-7-スルホン酸、3-アミノプロパンスルホン酸、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ペンチルベンゼンスルホン酸、ヘキシルベンゼンスルホン酸、ヘプチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、へキサデシルベンゼンスルホン酸、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸、ジプロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、4-アミノベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、4-アミノ-2-クロロトルエン-5-スルホン酸、4-アミノ-3-メチルベンゼン-1-スルホン酸、4-アミノ-5-メトキシ-2-メチルベンゼンスルホン酸、2-アミノ-5-メチルベンゼン-1-スルホン酸、4-アミノ-2-メチルベンゼン-1-スルホン酸、5-アミノ-2-メチルベンゼン-1-スルホン酸、4-アミノ-3-メチルベンゼン-1-スルホン酸、4-アセトアミド-3-クロロベンゼンスルホン酸、4-クロロ-3-ニトロベンゼンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸、ジメチルナフタレンスルホン酸、4-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、8-クロロナフタレン-1-スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物等のスルホン酸基を含むスルホン酸化合物等を例示できる。
【0114】
スルホン酸基を二つ以上含むものとしては、例えば、エタンジスルホン酸、ブタンジスルホン酸、ペンタンジスルホン酸、デカンジスルホン酸、m-ベンゼンジスルホン酸、o-ベンゼンジスルホン酸、p-ベンゼンジスルホン酸、トルエンジスルホン酸、キシレンジスルホン酸、クロロベンゼンジスルホン酸、フルオロベンゼンジスルホン酸、アニリン-2,4-ジスルホン酸、アニリン-2,5-ジスルホン酸、ジメチルベンゼンジスルホン酸、ジエチルベンゼンジスルホン酸、ジブチルベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、エチルナフタレンジスルホン酸、ドデシルナフタレンジスルホン酸、ペンタデシルナフタレンジスルホン酸、ブチルナフタレンジスルホン酸、2-アミノ-1,4-ベンゼンジスルホン酸、1-アミノ-3,8-ナフタレンジスルホン酸、3-アミノ-1,5-ナフタレンジスルホン酸、8-アミノ-1-ナフトール-3,6-ジスルホン酸、4-アミノ-5-ナフトール-2,7-ジスルホン酸、アントラセンジスルホン酸、ブチルアントラセンジスルホン酸、4-アセトアミド-4’-イソチオ-シアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸、4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸、4-アセトアミド-4’-マレイミジルスチルベン-2,2’-ジスルホン酸、1-アセトキシピレン-3,6,8-トリスルホン酸、7-アミノ-1,3,6-ナフタレントリスルホン酸、8-アミノナフタレン-1,3,6-トリスルホン酸、3-アミノ-1,5,7-ナフタレントリスルホン酸等が挙げられる。
【0115】
これら(B)成分以外のアニオンは、(A)成分の重合前に、(A)成分の原料モノマー、(B)成分、酸化剤及び/又は酸化重合触媒を含む溶液に添加してもよく、また重合後の(A)成分と(B)成分を含有する複合体に添加してもよい。
【0116】
このようにして得た(A)成分と(B)成分からなる複合体は、必要によりホモジナイザやボールミル等で細粒化して用いることができる。
【0117】
細粒化には、高い剪断力を付与できる混合分散機を用いることが好ましい。混合分散機としては、例えば、ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ、ビーズミル等が挙げられ、中でも高圧ホモジナイザが好ましい。
【0118】
高圧ホモジナイザの具体例としては、吉田機械興業社製のナノヴェイタ、パウレック社製のマイクロフルイダイザー、スギノマシン社製のアルティマイザー等が挙げられる。
【0119】
高圧ホモジナイザを用いた分散処理としては、例えば、分散処理を施す前の複合体溶液を高圧で対向衝突させる処理、オリフィスやスリットに高圧で通す処理等が挙げられる。
【0120】
細粒化の前又は後に、濾過、限外濾過、透析等の手法により不純物を除去し、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、キレート樹脂等で精製してもよい。
【0121】
なお、導電性高分子組成物中の(A)成分と(B)成分の合計含有量は0.05~5.0質量%であることが好ましい。(A)成分と(B)成分の合計含有量が0.05質量%以上であれば、十分な導電性ないし正孔注入機能が得られ、5.0質量%以下であれば、均一な導電性塗膜が容易に得られる。
【0122】
重合反応水溶液に加えることのできる、又はモノマーを希釈することのできる有機溶剤としては、メタノール、酢酸エチル、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、ブタンジオールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ブタンジオールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸t-ブチル、プロピレングリコールモノt-ブチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0123】
尚、有機溶剤の使用量は、モノマー1モルに対して0~1,000mLが好ましく、特に0~500mLが好ましい。有機溶剤の使用量が1,000mL以下であれば、反応容器が過大となることがないため経済的である。
【0124】
本発明の組成物は(A)成分と(B)成分の複合体を(D)成分であるHOに分散させたものであり、さらに下記一般式(2)で表される化合物(E)および水溶性の有機溶剤(C)を含むものである。
【0125】
[(C)成分:水溶性の有機溶剤]
本発明では、基板等の被加工体へ印刷適用性を向上させるため、水溶性の有機溶剤を添加する。このような有機溶剤としては、HO可溶性をもちかつ常圧における沸点が250℃以下の有機溶剤が挙げられる。
【0126】
例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、イソプレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、ジアルキルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ブタンジオールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、酢酸エチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸t-ブチル、プロピレングリコールモノt-ブチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド等の極性溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0127】
(A)および(B)からなる複合体のHO分散液に混合する有機溶剤(C)は水溶性有機溶剤であることが必須である。有機溶剤(C)は、沸点120℃以上のものを(C1)、沸点120℃未満のものを(C2)とし、例えば(C1)又は(C2)を単独で、または(C1)と(C2)を混合して用いることができ、(A)成分、(B)成分、(D)成分の合計に対して1.0wt%≦(C1)+(C2)≦50.0wt%であることが好ましく、さらには5.0wt%≦(C1)+(C2)≦30.0wt%であることがより好ましい。
【0128】
更に、(C1)成分および(C2)成分は炭素数が1~7のアルコール、エーテル、エステル、ケトン、ニトリル類から選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0129】
また、水溶性の有機溶剤にHOよりも沸点の高い有機溶剤を用いることで、ノズル周辺の固形分の析出やノズル先端から液材料が吐出してから基板へと着液するまでの間に乾燥による固形分析出を回避できる。
【0130】
[(D)成分:HO]
(D)成分としては例えば超純水を用いることができる。
【0131】
[(E)成分]
(E)成分は下記一般式(2)で示される化合物である。
【化28】
(式中、R201及びR202はそれぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子、ヘテロ原子のいずれかを示す。R203及びR204はそれぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の1価炭化水素基、水素原子のいずれかを示す。R201とR203、あるいはR201とR204は互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の直鎖状、分岐状又は環状の4価の有機基を示す。Lがヘテロ原子を有する場合、該ヘテロ原子はイオンであってもよい。)
【0132】
(E)成分を含むものであれば前記導電性高分子組成物の酸性度を緩和することができ、有機EL、太陽電池等の薄膜積層素子の正孔注入層として用いて膜形成した際に、成膜における機材の接液金属部分の腐食を抑えることができ、また素子の積層構造の隣接層ならび他の構成層への酸の拡散が抑制され、素子性能における酸による影響を低減することができる。
【0133】
本発明において一般式(2)で表される化合物(E)は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。また、公知の化合物のいずれも用いることができる。
【0134】
上記一般式(2)で表される化合物の構造としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0135】
【化29】
【0136】
【化30】
【0137】
【化31】
【0138】
また、本発明の導電性高分子組成物は、上記一般式(2)中のLが、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~10の直鎖状、分岐状又は環状の4価の有機基である化合物を含有するものであることが好ましい。
【0139】
また、上記一般式(2)で表される構造以外で、本発明で好適に用いられるものでは、以下の式(7)で表される化合物が挙げられる。
【化32】
【0140】
また、本発明における導電性高分子組成物の上記一般式(2)で表される化合物および上記式(7)で表される化合物の含有量は、上記(A)成分と(B)成分からなる複合体100質量部に対して1質量部から50質量部であることが好ましく、さらには10質量部から30質量部がより好ましい。上記一般式(2)で表される化合物および上記式(7)で表される化合物の含有量をこのようなものとすれば、本発明の導電性高分子組成物によって形成された膜から隣接層へのHの拡散を制御できる。
【0141】
[その他の成分]
(界面活性剤)
本発明では、基板等の被加工体への濡れ性をさらに上げるため、界面活性剤を添加してもよい。このような界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系の各種界面活性剤が挙げられる。具体的には例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル等のノニオン系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン系界面活性剤、アルキル又はアルキルアリル硫酸塩、アルキル又はアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン系界面活性剤、アミノ酸型、ベタイン型等の両性イオン型界面活性剤等を挙げることができる。
【0142】
好ましくは、ノニオン系界面活性剤の含有量が、上記(A)成分と上記(B)成分との複合体100質量部に対して、1質量部から50質量部であり、より好ましくは1質量部から15質量部であり、もしくは30質量部から50質量部としてもよい。
【0143】
以上説明したような、本発明の導電性高分子組成物であれば、成膜時に効率よく膜内残存水分を除去でき、濾過性が良好で、無機、有機基板上にスプレーコーター、インクジェット印刷機適用時にも連続膜形成性が高く膜平坦性も良好で、透明性が高い導電膜を形成することができる。
【0144】
[導電性高分子組成物]
本発明の導電性高分子組成物は、膜厚20~200nm、好ましくは膜厚30~200nm、より好ましくは膜厚40~150nmで成膜したときの膜導電率が1.00E-05S/cm未満となるような組成物である。このときの成膜方法としては特に限定はされないが、例えば、スピンコートによる成膜とすることができる。
【0145】
このような膜導電率とすることによって、本発明の導電性高分子組成物を有機薄膜素子の正孔注入層として電極上に成膜し素子に実装した場合、当該膜自身が電極として機能することを抑制し、本来の電極面外の発光(クロストーク)を抑制することができる。一方、膜導電率が1.00E-05S/cm以上の場合には、クロストークを抑制することができない。
【0146】
また、本発明の導電性高分子組成物は、表面張力が20~50mN/mの範囲のものであることが好ましく、20~35mN/mの範囲のものであることがより好ましい。表面張力がこのような値であると、スプレー印刷機やインクジェット印刷機の様な液滴噴霧式印刷機適用の際に、基板吹き付け後に液滴のレベリングが進行し、基板上における液の弾きや部分膜の形成、液滴の痕跡として組成物の海島構造の形成を防ぐことができる。
【0147】
[基板]
本発明では、有機薄膜素子(例えば、有機EL素子)を有する基板であって、前記の導電性高分子組成物によって前記有機薄膜素子中の正孔注入層が形成されたものである基板を提供する。
【0148】
基板としては、ガラス基板、石英基板、フォトマスクブランク基板、シリコンウエハー、ガリウム砒素ウエハー、インジウムリンウエハー等の無機系基板、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、トリアセチルセルロース等の樹脂製有機基板等が挙げられる。
【0149】
[基板の製造方法]
また、本発明の基板は前記導電性高分子組成物をスピンコート、スプレーコーターまたはインクジェット印刷により塗布する工程を有する基板の製造方法により製造することができる。
【0150】
本発明の基板の製造方法では、例えば、前記導電性高分子組成物をスプレーコーターまたはインクジェット印刷によりガラス基板やあらかじめITOが蒸着されたガラス基板上に塗布する工程を有する基板の製造方法とすることができる。
【0151】
以上のように、本発明のπ共役系ポリマー(A)と超強酸のスルホ基および非ドープ性フッ素化ユニットを含有するドーパントポリマー(B)から成る複合体のHO(D)分散液に、化合物(E)および水溶性の有機溶剤(C)を混合することより、低粘性で濾過性が良好であり、無機、有機基板上にスプレーコーター、インクジェット印刷機適用時にも連続膜形成性が高く、透明性、平坦性、耐久性、及び導電性の好適な導電膜を形成することが可能となる。また、(E)の成分により非ドープ状態の酸ユニットに由来するHの拡散を抑制することができる。このような導電性高分子組成物であれば、正孔注入層として機能するものとすることができる。さらに、膜導電率を1.00E-05S/cm未満にすることにより、有機EL素子等に実装したときのクロストークを抑制することができる。
【実施例
【0152】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0153】
[ドーパントポリマー合成例]
以下の実施例で用いた複合体中の(B)で示される共重合ドーパントポリマーを重合する際の原料モノマーを示す。
【0154】
【化33】
【0155】
【化34】
【0156】
[合成例1]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の1.51gとモノマーb”1の3.12gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=20,500
分子量分布(Mw/Mn)=1.82
この高分子化合物を(ポリマー1)とする。
【化35】
【0157】
[合成例2]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の1.80gとモノマーb”1の2.50gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=19,500
分子量分布(Mw/Mn)=1.90
この高分子化合物を(ポリマー2)とする。
【化36】
【0158】
[合成例3]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”2の1.51gとモノマーb”1の3.12gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=21,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.91
この高分子化合物を(ポリマー3)とする。
【化37】
【0159】
[合成例4]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の1.51gとモノマーb”2の2.55gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=18,500
分子量分布(Mw/Mn)=1.88
この高分子化合物を(ポリマー4)とする。
【化38】
【0160】
[合成例5]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の1.80gとモノマーb”3の2.04gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=20,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.95
この高分子化合物を(ポリマー5)とする。
【化39】
【0161】
[合成例6]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”3の1.35gとモノマーb”1の3.13gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=21,500
分子量分布(Mw/Mn)=2.07
この高分子化合物を(ポリマー6)とする。
【化40】
【0162】
[合成例7]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”4の1.74gとモノマーb”1の3.75gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=22,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.90
この高分子化合物を(ポリマー7)とする。
【化41】
【0163】
[合成例8]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”5の2.00gとモノマーb”1の3.75gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=21,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.88
この高分子化合物を(ポリマー8)とする。
【化42】
【0164】
[合成例9]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”5の2.50gとモノマーb”1の3.13gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=19,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.97
この高分子化合物を(ポリマー9)とする。
【化43】
【0165】
[合成例10]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の1.50gとモノマーb”4の1.68gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてナトリウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=22,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.00
この高分子化合物を(ポリマー10)とする。
【化44】
【0166】
[比較合成例1]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の0.60gとモノマーb”1の5.00gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=20,500
分子量分布(Mw/Mn)=1.94
この高分子化合物を(比較ポリマー1)とする。
【化45】
【0167】
[比較合成例2]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の0.60gとモノマーb”2の4.08gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=19,500
分子量分布(Mw/Mn)=1.99
この高分子化合物を(比較ポリマー2)とする。
【化46】
【0168】
[比較合成例3]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”4の0.87gとモノマーb”1の5.00gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=19,500
分子量分布(Mw/Mn)=2.00
この高分子化合物を(比較ポリマー3)とする。
【化47】
【0169】
[比較合成例4]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”5の1.00gとモノマーb”1の5.00gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=20,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.85
この高分子化合物を(比較ポリマー4)とする。
【化48】
【0170】
[比較合成例5]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の0.90gとモノマーb”3の4.60gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=26,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.04
この高分子化合物を(比較ポリマー5)とする。
【化49】
【0171】
[比較合成例6]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、モノマーa”1の0.90gとモノマーb”4の2.35gと2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.12gをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてナトリウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を19F,1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=31,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.11
この高分子化合物を(比較ポリマー6)とする。
【化50】
【0172】
[π共役系ポリマーとしてポリチオフェンを含む導電性高分子複合体分散液の調製]
(調製例1)
2.37gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、15.0gのポリマー1を1,000mLの超純水に溶かした溶液とを30℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を30℃に保ち、撹拌しながら、100mLの超純水に溶かした5.22gの過硫酸ナトリウムと1.42gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、4時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に1,000mLの超純水を添加し、限外濾過法を用いて約1,000mL溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記濾過処理が行われた処理液に200mLの10質量%に希釈した硫酸と2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去し、これに2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、濃縮により2.5質量%の青色の導電性高分子複合体分散液1を得た。
【0173】
限外濾過条件は下記の通りとした。
限外濾過膜の分画分子量:30K
クロスフロー式
供給液流量:3,000mL/分
膜分圧:0.12Pa
なお、他の調製例でも同様の条件で限外濾過を行った。
【0174】
(調製例2)
15.0gのポリマー1をポリマー2に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.49g、過硫酸ナトリウムの配合量を5.47g、硫酸第二鉄の配合量を1.49gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液2を得た。
【0175】
(調製例3)
15.0gのポリマー1をポリマー3に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.49g、過硫酸ナトリウムの配合量を5.47g、硫酸第二鉄の配合量を1.49gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液3を得た。
【0176】
(調製例4)
15.0gのポリマー1をポリマー4に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.84g、過硫酸ナトリウムの配合量を6.25g、硫酸第二鉄の配合量を1.70gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液4を得た。
【0177】
(調製例5)
15.0gのポリマー1をポリマー5に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.28g、過硫酸ナトリウムの配合量を5.01g、硫酸第二鉄の配合量を1.37gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液5を得た。
【0178】
(調製例6)
15.0gのポリマー1をポリマー6に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.47g、過硫酸ナトリウムの配合量を5.43g、硫酸第二鉄の配合量を1.48gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液6を得た。
【0179】
(調製例7)
15.0gのポリマー1をポリマー7に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.00g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.40g、硫酸第二鉄の配合量を1.20gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液7を得た。
【0180】
(調製例8)
15.0gのポリマー1をポリマー8に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を1.90g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.17g、硫酸第二鉄の配合量を1.13gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液8を得た。
【0181】
(調製例9)
15.0gのポリマー1をポリマー9に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を1.89g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.15g、硫酸第二鉄の配合量を1.13gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液9を得た。
【0182】
(調製例10)
15.0gのポリマー1をポリマー10に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を3.00g、過硫酸ナトリウムの配合量を6.60g、硫酸第二鉄の配合量を1.80gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性高分子複合体分散液10を得た。
【0183】
(比較調製例1)
15.0gのポリマー1を比較ポリマー1に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.09g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.59g、硫酸第二鉄の配合量を1.25gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、比較導電性高分子複合体分散液1を得た。
【0184】
(比較調製例2)
15.0gのポリマー1を比較ポリマー2に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.64g、過硫酸ナトリウムの配合量を5.82g、硫酸第二鉄の配合量を1.59gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、比較導電性高分子複合体分散液2を得た。
【0185】
(比較調製例3)
15.0gのポリマー1を比較ポリマー3に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を1.97g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.33g、硫酸第二鉄の配合量を1.18gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、比較導電性高分子複合体分散液3を得た。
【0186】
(比較調製例4)
15.0gのポリマー1を比較ポリマー4に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を1.91g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.21g、硫酸第二鉄の配合量を1.15gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、比較導電性高分子複合体分散液4を得た。
【0187】
(比較調製例5)
15.0gのポリマー1を比較ポリマー5に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.05g、過硫酸ナトリウムの配合量を4.50g、硫酸第二鉄の配合量を1.23gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、比較導電性高分子複合体分散液5を得た。
【0188】
(比較調製例6)
15.0gのポリマー1を比較ポリマー6に変更し、3,4-エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.97g、過硫酸ナトリウムの配合量を6.54g、硫酸第二鉄の配合量を1.78gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、比較導電性高分子複合体分散液6を得た。
【0189】
[π共役系ポリマーとしてポリチオフェンを含む導電性高分子組成物評価]
(実施例)
調製例1~10で得た2.5質量%の導電性高分子複合体分散液に、一般式(2)で表される化合物(E)に含まれるL-(+)-Lysine 0.43質量%、及びフルオロアルキルノニオン系界面活性剤FS-31(DuPont社製)を混合し、有機溶剤(C1)としてPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を10wt%、有機溶剤(C2)としてEtOHを5wt%混合し、孔径0.20μmのセルロース製フィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過したものをそれぞれ実施例1~10とした。
【0190】
実施例1~10と同様の方法で、有機溶剤(C1)をPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)10wt%、有機溶剤(C2)をIPA(2-プロパノール)5wt%混合して調製したものをそれぞれ実施例11~20とした。
【0191】
実施例1~10と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を10wt%、有機溶剤(C2)としてBuOH(ターシャリーブチルアルコール)を5wt%混合して調製したものをそれぞれ実施例21~30とした。
【0192】
実施例1~10と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を10wt%、有機溶剤(C2)としてEtOHを5wt%混合して調製したものをそれぞれ実施例31~40とした。
【0193】
実施例1~10と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を10wt%、有機溶剤(C2)としてIPA(2-プロパノール)を5wt%混合して調製したものをそれぞれ実施例41~50とした。
【0194】
実施例1~10と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を10wt%、有機溶剤(C2)としてBuOH(ターシャリーブチルアルコール)を5wt%混合して調製したものをそれぞれ実施例51~60とした。
【0195】
(比較例)
比較調製例1~6で得た2.5質量%の導電性高分子複合体分散液に、一般式(2)で表される化合物(E)に含まれるL-(+)-Lysine 0.43質量%、及びフルオロアルキルノニオン系界面活性剤FS-31(DuPont社製)を混合し、有機溶剤(C1)としてPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を10wt%、有機溶剤(C2)としてEtOHを5wt%混合し、孔径0.20μmのセルロース製フィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過したものをそれぞれ比較例1~6とした。
【0196】
比較例1~6と同様の方法で、有機溶剤(C1)をPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)10wt%、有機溶剤(C2)をIPA(2-プロパノール)5wt%混合して調製したものをそれぞれ比較例7~12とした。
【0197】
比較例1~6と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を10wt%、有機溶剤(C2)としてBuOH(ターシャリーブチルアルコール)を5wt%混合して調製したものをそれぞれ比較例13~18とした。
【0198】
比較例1~6と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を10wt%、有機溶剤(C2)としてEtOHを5wt%混合して調製したものをそれぞれ比較例19~24とした。
【0199】
比較例1~6と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を10wt%、有機溶剤(C2)としてIPA(2-プロパノール)を5wt%混合して調製したものをそれぞれ比較例25~30とした。
【0200】
比較例1~6と同様の方法で、有機溶剤(C1)としてPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を10wt%、有機溶剤(C2)としてBuOH(ターシャリーブチルアルコール)を5wt%混合して調製したものをそれぞれ比較例31~36とした。
【0201】
上述のようにして調製した実施例及び比較例の導電性高分子組成物を以下のように評価した。
【0202】
(表面張力)
デュヌイ式表面張力試験機D型(伊藤製作所製)を用い、組成物の表面張力を測定した。その結果を表1-1から表1-3に示す。
【0203】
(粘度)
導電性高分子組成物の液温度が25℃になるように調節した。音叉型振動式粘度計 SV-10(エー・アンド・デイ社製)の付属専用測定セルに35mLを計りとり、調製直後の粘度を測定した。その結果を表1-1から表1-3に示す。
【0204】
(pH測定)
導電性高分子組成物のpHは、pHメーターD-52(堀場製作所製)を用いて測定した。その結果を表1-1から表1-3に示す。
【0205】
(透過率)
入射角度可変の分光エリプソメーター(VASE)によって測定された波長636nmにおける屈折率(n,k)より、FT=200nmにおける波長550nmの光線に対する透過率を算出した。その結果を表1-1から表1-3に示す。
【0206】
(導電率)
直径4インチ(100mm)のSiOウエハー上に、導電性高分子組成物1.0mLを滴下後、10秒後にスピンナーを用いて全体に回転塗布した。回転塗布条件は膜厚が100±5nmとなるよう調節した。精密高温機にて120℃、30分間ベークを行い、溶媒を除去することにより導電膜を得た。
得られた導電膜の導電率(S/cm)は、Hiresta-UP MCP-HT450、Loresta-GP MCP-T610(いずれも三菱化学社製)を用いて測定した表面抵抗率(Ω/□)と膜厚の実測値から求めた。その結果を表1-1から表1-3に示す。
【0207】
(スプレーコーター成膜性)
35mm角の無アルカリガラス基板をUV/O洗浄で10分間表面洗浄し、前記導電性高分子組成物をスプレーコーターNVD203(Fujimori Technical Laboratory製)で塗布成膜した。塗布膜は膜表面を光学顕微鏡および干渉顕微鏡で観察し、連続膜の形成の有無を評価した。結果を表1-1から表1-3に示す。
【0208】
(有機EL照明実装時のクロストーク)
洗浄したITO付きガラス基板に実施例1~60、比較例1~36の導電性高分子組成物それぞれを100nmの膜厚となる様にスプレーコート塗布し、正孔輸送層としてα-NPD(ジフェニルナフチルジアミン)を80nmの膜厚になる様に蒸着により積層した。次いで、発光層としてAlq(トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム錯体を膜厚35nmになる様に蒸着し、その上層に8-Liq(8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム)を30nmの膜厚となる様に蒸着した。その上にマグネシウムと銀を混合した合金で膜厚100nmの電極を形成して有機EL素子を得た。この素子を固定電流密度20mA/cmの負荷して発光させ、ITO電極外の発光(クロストーク)の有無を光学顕微鏡で観測した。結果を表1-1から表1-3に示す。導電性高分子組成物の成膜はスプレーコーターNVD203(Fujimori Technical Laboratory製)で塗布し、200℃30min加熱成膜した。
【0209】
【表1-1】
【0210】
【表1-2】
【0211】
【表1-3】
【0212】
(素子連続発光輝度減衰率)
洗浄したITO付きガラス基板に実施例1~60、比較例1~36の導電性高分子組成物を100nmの膜厚となる様にスプレーコート塗布し、正孔輸送層としてα-NPD(ジフェニルナフチルジアミン)を80nmの膜厚になる様に蒸着により積層した。次いで、発光層としてAlq(トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム錯体を膜厚35nmになる様に蒸着し、その上層に8-Liq(8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム)を30nmの膜厚となる様に蒸着した。その上にマグネシウムと銀を混合した合金で膜厚100nmの電極を形成して有機EL素子を得た。この素子を固定電流密度20mA/cmの負荷して発光させ、駆動直後の輝度[cd/m]、[cd/A]および駆動電圧[V]、連続発光において駆動直後の輝度が70%になるまでの経過時間を測定した。結果を表2-1から表2-3に示す。
【0213】
【表2-1】
【0214】
【表2-2】
【0215】
【表2-3】
【0216】
表1-1から表1-3に示すように、π共役系ポリマー(A)、および前記一般式(6)記載の重合性モノマーとフルオロスルホン酸を有するモノマーとを共重合したポリマー(B)との複合体のHO(D)分散液に、水溶性の有機溶剤(C)、前記一般式(2)で表される化合物(E)および界面活性剤を混合した導電性高分子組成物である実施例1~60および比較例1~36は、表面張力、粘度、pH、透過率は同等で、スプレー塗布による成膜でも連続膜(平坦)が形成されるが、実施例1~60の導電率は比較例1~36の導電率よりも低くいずれも1.00E-05S/cm未満であり、有機EL素子に実装、発光試験を行った際ITO電極外発光(クロストーク)を生じることがない。それに対し、導電率が1.00E-05S/cm以上である比較例1~36を実装して発光試験を行った有機EL素子では、ITO電極面外発光(クロストーク)が観測された。
【0217】
また、表2-1から表2-3が示すように、実施例1~60および比較例1~36は有機ELに実装した際、素子駆動直後の輝度[cd/m]、[cd/A]および駆動電圧[V]は同等で、実施例1~60の導電率は比較例1~36の導電率よりも低いものの、ITOからのホール注入効果および機能は同等で、連続発光において駆動直後の輝度が70%になるまでの経過時間も同等であることから、実施例1~60の導電性高分子組成物は有機EL素子の正孔注入層材料として良好な性能を示すものとすることができる。
【0218】
以上のように、本発明の導電性高分子組成物であれば、無機、有機基板上への成膜において従来のスピンコーターによる塗布に加え、スプレーコーター、インクジェットなどの噴霧式印刷機の適用時にも連続膜形成をすることができ、形成された膜は透明性、導電性が正孔注入層として適切、かつ注入効率の良好な導電膜を形成することが可能となることが明らかとなった。また(B)成分中、スルホ基を含有する繰り返し単位bとスルホン酸末端を持たない非ドープ性フッ素化ユニットaを共重合し、そのポリマーをドーパントとして(A)成分と複合体を形成させることで成膜後の膜内残存水分の排除効率が向上し、水分により輝度減衰が加速する有機EL素子においては輝度の減衰を遅延、即ち、有機EL素子の発光輝度寿命を延長させる効果があり、さらに、化合物(E)により、スルホ基を含有する繰り返し単位b由来Hによる隣接層、および成膜に用いる機材の金属接液面の腐食防止、また、膜の導電率(S/cm)を1.00E-05未満とすることで、有機EL素子に実装した際に、陽極であるITO電極面外に塗布された当該組成物膜の部分が正孔注入層として機能すると同時に電極としても振る舞うことを防止し、クロストークのない本来発光する電極面のみが発光する素子を提供することができる。
【0219】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。