(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電解質分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/28 20060101AFI20240522BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01N27/28 Q
G01N27/333 331Z
(21)【出願番号】P 2021574495
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045114
(87)【国際公開番号】W WO2021153004
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2020012734
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】宮川 拓士
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 友一
(72)【発明者】
【氏名】山本 遇哲
(72)【発明者】
【氏名】川原 鉄士
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-5294(JP,A)
【文献】実開平3-104856(JP,U)
【文献】特開2013-134141(JP,A)
【文献】特開2019-148572(JP,A)
【文献】特開平6-109686(JP,A)
【文献】特開昭61-80027(JP,A)
【文献】特開2001-255333(JP,A)
【文献】特開2014-142307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めたイオン濃度の試薬をイオン選択電極により測定した結果と、検体をイオン選択電極により測定した結果とに基づいて、前記検体中の特定イオンの濃度を測定する電解質分析装置であって、
予め定めたイオン濃度よりも高い濃度の試薬原液を純水により希釈還元して、予め定めたイオン濃度の試薬を生成する試薬生成部と、
前記純水の循環流路とを備え、
前記循環流路は、前記イオン選択電極により試薬の測定を行う分析部、測定対象である検体を前記純水により希釈する希釈槽、及び、前記試薬生成部により生成された試薬を加温する試薬プリヒート領域を通るように設けられ、
前記試薬生成部は、前記試薬原液を前記循環流路を経た前記純水により希釈還元して得られた前記試薬と前記純水との温度差の絶対値が、前記希釈還元により得られた試薬と前記試薬原液との温度差の絶対値よりも小さくなるように前記試薬を生成することを特徴とする電解質分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の電解質分析装置であって、
前記試薬生成部は、前記希釈還元により得られた試薬と前記純水との温度差の絶対値が、前記希釈還元により得られた試薬と前記試薬原液との温度差の絶対値よりも小さくなる体積比で前記試薬原液と前記純水とを混合して前記試薬を生成することを特徴とする電解質分析装置。
【請求項3】
予め定めたイオン濃度の試薬をイオン選択電極により測定した結果と、検体をイオン選択電極により測定した結果とに基づいて、前記検体中の特定イオンの濃度を測定する電解質分析装置であって、
予め定めたイオン濃度よりも高い濃度の試薬原液を純水により希釈還元して、予め定めたイオン濃度の試薬を生成する試薬生成部と、
前記純水の循環流路とを備え、
前記循環流路は、前記イオン選択電極により試薬の測定を行う分析部、測定対象である検体を前記純水により希釈する希釈槽、及び、前記試薬生成部により生成された試薬を加温する試薬プリヒート領域を通るように設けられ、
前記試薬生成部は、前記試薬原液に対する前記純水の体積比が16倍以上となるように、前記試薬原液を前記循環流路を経た前記純水により前記希釈還元を行い前記試薬を生成することを特徴とする電解質分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電解質分析装置であって、
分析対象である検体を純水により希釈して希釈検体を生成する検体希釈部を備え、
前記検体希釈部は、前記希釈検体と前記純水との温度差の絶対値が、前記検体と前記希釈検体との温度差の絶対値よりも小さくなるように前記希釈検体を生成することを特徴とする電解質分析装置。
【請求項6】
請求項1又は3に記載の電解質分析装置であって、
前記循環流路に設けられ、前記循環流路を循環される前記純水の温度を制御する温度制御装置を備えたことを特徴とする電解質分析装置。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の電解質分析装置であって、
前記循環流路に設けられ、前記循環流路を循環される前記純水を殺菌する殺菌装置を備えたことを特徴とする電解質分析装置。
【請求項8】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質分析装置は、血清や尿などの生体試料中のナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)などの電解質成分を分析する装置である。電解質分析装置で用いられる分析手法としては、例えば、イオン選択電極(ISE: Ion Selective Electrode)と基準電位を生じる比較電極との電位差を測定することで検体中の電解質濃度を測定するイオン選択電極法(ISE法)が知られている。
【0003】
ISE法に係る技術として、例えば、特許文献1には、試料を希釈し、収容する希釈槽と、上記希釈槽に収容され希釈された試料を吸引する試料吸引ノズルを有する試料吸引機構と、上記試料吸引機構で吸引された試料の電解質濃度を測定する電解質測定部と、上記試料吸引ノズルの試料吸引口付近を包囲する外管と、上記外管に恒温水を循環させる恒温水供給機構と、を備える電解質分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ISE法を用いた電解質分析装置では、イオン成分に応答して電位差が生じるイオン感応膜がイオン選択電極に貼り付けられており、試料中の電解質濃度に依存して変動する電位を測定する。また、基準電位を一定に保つために比較電極が比較電極液と呼ばれる溶液に接触させられる。そして、電解質濃度を導出する際には、イオン選択電極と比較電極との電位差と、キャリブレーションから得られた検量線とを用いて電解質濃度への変換が実施される。
【0006】
ところで、ISE法において用いられる電位差と濃度との関係は温度に依存して変化する。そのため、キャリブレーションの実施時と生体試料の濃度測定時とで測定系の温度が変化した場合、得られた電位差からの電解質濃度への変換が適切に実施できず、測定結果に誤差が生じる可能性があった。特に、測定試薬の切り替え時や装置の立ち上げ時などには、導入される測定試薬の温度が変化しやすいため、適切な測定を実施することが困難である。
【0007】
上記従来技術においては、測定系の温度を一定に保つために、測定系周辺に温度管理された恒温水を循環させるとともに、測定に用いる試薬流路にプリヒート領域設けている。
【0008】
しかしながら、発生しうる温度変化が大きい場合には、プリヒート領域をより拡大させる必要があり、より複雑な構成とする必要があった。温度変化に関する対策としては、例えば、間欠的な測定時には、温度変化の大きい測定開始後の数回の動作に対してダミー測定を実施したり、装置立ち上げ時には、装置温度を均一化するまでの十分な時間を設けたりするなどの方法も知られているが、スループットの低下を招いてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、より簡便な構成で試薬の温度を制御することができる電解質分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、予め定めたイオン濃度の試薬をイオン選択電極により測定した結果と、検体をイオン選択電極により測定した結果とに基づいて、前記検体中の特定イオンの濃度を測定する電解質分析装置であって、予め定めたイオン濃度よりも高い濃度の試薬原液を純水により希釈還元して、予め定めたイオン濃度の試薬を生成する試薬生成部を備え、前記試薬生成部は、前記希釈還元により得られた試薬と前記純水との温度差の絶対値が、前記希釈還元により得られた試薬と前記試薬原液との温度差の絶対値よりも小さくなるように前記試薬を生成するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より簡便な構成で試薬の温度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】濃縮内部標準液、純水、及び純水により希釈還元された内部標準液の温度の関係を示す図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図4】第3の実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図5】第4の実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図6】第5の実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図7】第6の実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、濃縮試薬(試薬原液または濃縮内部標準液と称する場合がある)と純水とを希釈還元部で希釈して希釈槽に吐出する電解質分析装置を例示して説明するが、これに限られず、例えば、濃縮試薬と純水とをそれぞれ希釈槽に吐出して希釈する電解質分析装置においても本発明の適用が可能である。
【0014】
また、本発明の実施の形態では、単体で測定に用いられる電解質分析装置を例示して説明するが、これに限られず、例えば、生化学自動分析装置、免疫自動分析装置、質量分析装置や凝固分析装置などの自動分析装置に搭載される電解質分析装置、或いは、これらの複合システムやこれらを応用した自動分析システムにおいても本発明の適用が可能である。
【0015】
なお、以下において「検体」とは、患者の生体から採取される分析対象の総称であり、例えば、血液や尿などが挙げられる。また、これらに対して所定の前処理を行った分析対象も「検体」に含まれる。
【0016】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【0018】
図1において、電解質分析装置100は、検体分注部101、分析部102、試薬部103、及び機構部104から概略構成されている。
【0019】
検体分注部101は、検体分注機構13、図示しない搬送部、及び検体容器14を有している。
【0020】
測定対象の検体は、検体容器14に入れられ、搬送部によって検体分注機構13近傍まで搬送される。検体分注機構13は、検体容器14内に保持された検体を吸引して希釈槽10に吐出することで分注し、電解質分析装置100内に引き込む。
【0021】
分析部102は、希釈槽10、シッパノズル12、希釈液ノズル18、内部標準液ノズル19、廃液吸引ノズル20、イオン選択電極(ISE)1、比較電極2、ピンチ弁17、電圧計25、アンプ26、及びコンピュータ27から構成されている。
【0022】
検体分注部101による分注で希釈槽10に吐出された検体は、希釈液ノズル18から希釈槽10へ吐出される希釈液で希釈・攪拌される。希釈槽10希釈・攪拌された検体(希釈検体)は、シッパノズル12により吸引されて分析部102へ送液され、希釈槽10内に残った廃液は廃液吸引ノズル20により吸引されて廃液タンクに排出される。
【0023】
比較電極液ボトル5に格納された比較電極液は、ピンチ弁17が閉じた状態でシッパシリンジ9が動作することで、比較電極2へ送液される。この状態でピンチ弁17を開くことで、イオン選択電極1の流路に送液された希釈検体溶液と、比較電極2の流路に送液された比較電極液とが接液し、イオン選択電極1と比較電極2が電気的に導通する。
【0024】
コンピュータ27は、電解質分析装置100の全体の動作を制御するものであり、検体分注部101、分析部102、試薬部103、及び機構部104に設けられた各電磁弁16の開閉動作やシリンジ7,8,9の送液動作(送液量)などを制御して、イオン選択電極1と比較電極2との間に生じる電位差と、事前に実施したキャリブレーションにより得られた検量線とに基づいて、検体の電解質の濃度を算出する。
【0025】
具体的には、イオン選択電極1には検体中の特定のイオン(例えば、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、クロールイオン(Cl-)など)の濃度に応じて起電力が変化するイオン感応膜が貼付されており、イオン選択電極1は検体中の対応する各イオン濃度に応じた起電力を出力する。コンピュータ27は、電圧計25及びアンプ26を介してイオン選択電極1と比較電極2との間の起電力を取得し、取得した起電力から検体中のイオン濃度を演算して、図示しない表示装置に表示したり、記憶装置に記憶したりする。
【0026】
また、コンピュータ27は、検体測定後、次の検体測定までの間に内部標準液ノズル19より、希釈槽10内へ一定の濃度に調整された内部標準液を吐出し、検体と同様に測定を行い、その測定結果を用いて温度変化などによる電位変動の補正、すなわち、検体の測定結果の補正を行う。
【0027】
試薬部103は、測定や洗浄に用いる試薬を供給するものであり、濃縮内部標準液ボトル3、希釈液ボトル4、比較電極液ボトル5、脱ガス機構6、フィルタ15、及び希釈還元部24を有している。
【0028】
濃縮内部標準液(濃縮試薬)を収容する濃縮内部標準液ボトル3および希釈液を収容する希釈液ボトル4は、フィルタ15を介した流路により内部標準液ノズル19及び希釈液ノズル18にそれぞれ接続されている。内部標準液ノズル19及び希釈液ノズル18は、希釈槽10内に先端を導入した形状で設置されている。また、捕獲電極液を収容する比較電極液ボトル5は、フィルタ15を介した流路により比較電極2に接続されている。
【0029】
濃縮内部標準液ボトル3に収容されている濃縮内部標準液は、内部標準液を既知の濃度まで濃縮したものであり、希釈液によって所定の濃度まで希釈還元することにより、測定に用いる内部標準液が生成される。
【0030】
濃縮内部標準液ボトル3から内部標準液ノズル19までの流路上には、希釈還元部24が設けられており、純水製造装置21が流路によって接続されている。希釈還元部24では、純水によって濃縮内部標準液を所定の倍率で希釈還元する。ここでいう純水は、一定量以上の不純物が含まれない水であってもよいし、脱イオン処理を施した水であってもよい。純水製造装置21と希釈還元部24の間の流路、希釈液ボトル4と希釈槽10の間の流路、および比較電極液ボトル5と比較電極2の間の流路には脱ガス機構6が接続されており、希釈槽10内へは脱ガスした溶液が吐出される。
【0031】
なお、前述した希釈還元部24は濃縮内部標準液ボトル3と希釈槽10の間の流路に設けられることが望ましいが、これに制限されるものではない。例えば、希釈槽10に純水供給用の純水ノズルを設け、希釈槽10において純水を用いての濃縮内部標準液の希釈還元を実施してもよい。
【0032】
機構部104は、内部標準液シリンジ7、希釈液シリンジ8、シッパシリンジ9、電磁弁16などを有しており、送液などの各動作を担っている。
【0033】
内部標準液は、内部標準液シリンジ7および電磁弁16の動作により、希釈還元部24に濃縮内部標準液および純水を一定比率で導入する。これにより、濃縮内部標準液は純水によって希釈され、所定の濃度に調整される。
【0034】
ここで、濃縮内部標準液ボトル3内の濃縮内部標準液の液温は、設置からの時間経過に伴い、徐々に室温に近づいていく。しかしながら、設置直後の濃縮内部標準液ボトル3内の液温は保管状態の温度に近しい。一般に保管状態温度の最低値は15℃程度に設定され、電解質分析装置100の使用保証温度や供給水温度は一般的に30℃程度に設定されるため、濃縮内部標準液と希釈に用いられる純水間では最大で15℃以上の温度差が発生する可能性がある。このため、純水を用いての希釈により生成された内部標準液の温度は、ボトル内の液温の変化に伴い変化する。
【0035】
前述したように、測定に用いる液温が変化した場合、イオン選択電極1で発生した電圧値からの濃度変換が適切に実施できず、測定が適切に行えない可能性がある。そこで、本実施の形態においては、測定を適切に実施する、すなわち濃縮内部標準液の温度によらず、一定温度(より詳しくは、電解質分析装置100が設置されている環境の温度から容易に推定可能な温度であって、測定に及ぼす誤差が予め定めた許容範囲内となる温度)の内部標準液を純水による希釈還元で生成するため、希釈還元部24における希釈倍率を制御する。
【0036】
具体的には、電解質分析装置100で用いられる純水であって、電解質分析装置100が設置されている環境に限りなく近い温度であると推定される純水を用いて濃縮内部標準液の希釈還元を行う。すなわち、このような純水を用いて濃縮内部標準液の希釈還元を行う本実施の形態においては、少なくとも、濃縮内部標準液と供給される純水の比率(体積比)を、濃縮内部標準液:純水=1:1よりも大きい比率(ただし、濃縮内部標準液量<純水量)で希釈する。より望ましくは、希釈により生成された内部標準液の温度と純水(希釈液)の温度の差分が1℃以下となるような体積比で濃縮内部標準液を純水により希釈する。本願発明者らが実験的に得た知見によれば、例えば、濃縮内部標準液において推定される最低温度(保管温度など)を15℃、純水の温度として推定される最高温度(電解質分析装置100の仕様上の使用最高温度など)を32℃とすると、濃縮内部標準液と供給される純水の比率(体積比)を、濃縮内部標準液:純水=1:16以上の比率(濃縮内部標準液に対する純水の体積比が16倍以上となる比率)で希釈することにより、希釈により生成された内部標準液の温度と純水(希釈液)の温度の差分を1℃以下とすることができる。純水の温度は、電解質分析装置100が設置されている環境温度に近い一定温度である推定されるため、希釈により生成された内部標準液の温度の各測定ごとの変化は、濃縮内部標準液ボトル3内の液温によらず1℃以下となる。これにより、電解質分析装置100設置される濃縮内部標準液ボトル3ボトル内の濃縮内部標準液の温度に依存することなく、適切な温度の内部標準液を用いた測定を行うことができ、適切な測定が可能となる。
【0037】
図2は、濃縮内部標準液、純水、及び純水により希釈還元された内部標準液の温度の関係を示す図である。
【0038】
図2に示すように、例えば、温度T1の濃縮内部標準液を温度T2の純水で希釈還元する場合、濃縮内部標準液:純水=1:1よりも大きい比率(ただし、濃縮内部標準液量<純水量)で希釈すると、希釈還元により得られた内部標準液(温度T3)と純水(温度T2)との温度差TD2の絶対値が、濃縮内部標準液(温度T1)と内部標準液(温度T3)との温度差TD3の絶対値よりも小さくなるように、内部標準液が生成される。
【0039】
本実施例では、純水製造装置21により製造された純水は、供給水タンク22に一時保管され、適宜ポンプ23によって脱気部を通過した後、装置内に供給される。供給水タンク22に純水を十分長い時間保管することによって、装置に供給される純水の温度は、室温と等しくなり、測定系を含めた電解質分析装置100全体の温度を室温を基準として管理することが容易となる。しかしながら、純水の供給体系に関しては前述した体形に制限されるものではない。例えば供給水タンク22や脱気部は省略してもよいし、ポンプ23を設けず、シリンジを用いて純水供給の制御を実施してもよい。
【0040】
こうして装置内に供給された純水は電磁弁の開閉および内部標準液シリンジ7の動作により、希釈還元部24に送液され、希釈還元部24において濃縮内部標準液との混合により、所定の濃度の内部標準液を生成する。
【0041】
生成された内部標準液および希釈液は、内部標準液シリンジ7および希釈液シリンジ8と電磁弁の動作により希釈槽10へ送液される。希釈液の温度のばらつきによる測定への影響をさけるため、希釈液はプリヒート11を介することで温度を一定範囲内に制御される。
【0042】
ここで、試薬部103及び機構部104は、予め定めたイオン濃度よりも高い濃度の試薬原液を純水により希釈還元して、予め定めたイオン濃度の試薬を生成する試薬生成部を構成する。また、検体分注部101、分析部102の希釈槽10、試薬部103、及び機構部104は、分析対象である検体を希釈液により希釈して希釈検体を生成する検体希釈部を構成する。
【0043】
以上のように構成した本実施の形態の動作を説明する。
【0044】
図示しない搬送機構により、検体容器14に分取された検体は検体分注部101まで搬送される。検体は検体分注部101において検体分注機構13によって検体容器14から分注され希釈槽10へ吐出される。希釈槽10において検体が分注された後、希釈ノズルから希釈液シリンジ8および電磁弁16の動作によって希釈液ボトル4から希釈液を吐出し、検体を希釈する。流路内の希釈液の温度や圧力の変化によって気泡が発生することを防ぐため、希釈液流路に設置された脱ガス機構6で脱ガス処理を行う。希釈された検体は、シッパシリンジ9や電磁弁16の動作によってイオン選択電極1へ吸引される。
【0045】
また、ピンチ弁17とシッパシリンジ9によって比較電極内へ、比較電極液ボトル5から比較電極液が送液され、希釈液と比較電極液が接液することで、イオン選択電極1と比較電極2が電気的に導通する。こうしてイオン選択電極で発生した希釈液の濃度に応じた起電力を比較電極2を基準として電圧計25とアンプ26を用いて計測する。また、検体測定の前後には濃縮内部標準液を純水により所定の濃度に希釈し、生成した内部標準液を内部標準液シリンジ7によって希釈槽10に吐出し、検体測定と同様の動作によって内部標準液の測定を行う。測定された電位差およびあらかじめ実施したキャリブレーションにより得られた結果からコンピュータ27にて計算を行い、検体中の電解質濃度を算出する。
【0046】
以上のように構成した本実施の形態における効果を説明する。
【0047】
ISE法において用いられる電位差と濃度との関係は温度に依存して変化する。そのため、キャリブレーションの実施時と生体試料の濃度測定時とで測定系の温度が変化した場合、得られた電位差からの電解質濃度への変換が適切に実施できず、測定結果に誤差が生じる可能性があった。特に、測定試薬の切り替え時や装置の立ち上げ時などには、導入される測定試薬の温度が変化しやすいため、適切な測定を実施することが困難である。
【0048】
従来技術においては、測定系の温度を一定に保つために、測定系周辺に温度管理された恒温水を循環させるとともに、測定に用いる試薬流路にプリヒート領域設けている。しかしながら、発生しうる温度変化が大きい場合には、プリヒート領域をより拡大させる必要があり、より複雑な構成とする必要があった。温度変化に関する対策としては、例えば、間欠的な測定時には、温度変化の大きい測定開始後の数回の動作に対してダミー測定を実施したり、装置立ち上げ時には、装置温度を均一化するまでの十分な時間を設けたりするなどの方法も知られているが、スループットの低下を招いてしまうという問題があった。
【0049】
これに対して本実施の形態においては、イオン選択電極1により予め定めたイオン濃度の試薬を測定した結果に基づいて、検体中の特定イオンの濃度を測定する電解質分析装置100であって、予め定めたイオン濃度よりも高い濃度の試薬原液(濃縮内部標準液)を純水により希釈還元して、予め定めたイオン濃度の試薬を生成する試薬生成部(例えば、試薬部103及び機構部104)を備え、試薬生成部は、希釈還元により得られた試薬と純水との温度差の絶対値が、希釈還元により得られた試薬と試薬原液との温度差の絶対値よりも小さくなるように試薬を生成するように構成したので、より簡便な構成で試薬の温度を制御することができる。
【0050】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を
図3を参照しつつ説明する。
【0051】
本実施の形態は、第1の実施の形態において、検体の希釈を希釈液に代えて純水で行うことにより希釈検体を生成するものである。
【0052】
図3は、本実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。図中、第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0053】
図3において、電解質分析装置100は、純水製造装置21から供給される純水を供給タンク内にて保持した後、ポンプ23を用いて装置に供給される供給流路が内部標準液シリンジ7に加え、希釈液シリンジ8に分岐する構成を備えている。希釈シリンジへの純水供給方法を前述した系が望ましいがこれに制限されるものではない。例えば、内部標準液シリンジ7への供給構成と、希釈液シリンジ8への供給構成をそれぞれ独立に持つものでもよい。
【0054】
検体を純水にて希釈する際の、元の純水と希釈後の検体希釈水の間の温度差は十分に小さいことが必要となる。具体的には、温度変化を1℃以下に制御する必要がある。検体の管理温度が濃縮内部標準液温度と同程度であることを踏まえると、例えば、検体:純水=1:16以上の比率(検体に対する純水の体積比が16倍以上となる比率)で希釈して希釈検体を生成すると、希釈検体と純水との温度差の絶対値が、希釈検体と検体との温度差の絶対値よりも小さく、かつ温度変化が1℃以下である希釈検体が生成される。
【0055】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0056】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、内部標準液の液温のみならず、検体の希釈に用いられる液温も純水の温度となるため、温度調整のためのプリヒート11を省くことができる。なお、希釈還元部24を希釈水流路に設け、希釈倍率に対応する濃度に濃縮された濃縮希釈液を用いる構成としても同様の効果を得られる。
【0058】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態を
図4を参照しつつ説明する。
【0059】
本実施の形態は、第2の実施の形態において、純水を電解質分析装置内で循環させる循環流路を備え、濃縮内部標準液(濃縮試薬)の希釈を循環流路から導入した純水で行うように構成したものである。
【0060】
図4は、本実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。図中、第2の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0061】
図4において、電解質分析装置100は、ポンプ23から内部標準液シリンジ7及び希釈液シリンジ8までの流路上に設けられ、ポンプ23から送出された純水を電解質分析装置100内で循環する純水循環流路29と、純水循環流路29内で純水を循環させるポンプ30と、ポンプ23から純水循環流路29までの流路上に設けられた電磁弁28とを有している。
【0062】
本実施の形態において、濃縮内部標準液の希釈に使用する純水は純水循環流路29から導入される。純水製造装置21で生成された純水は供給水タンク22に保持され、ポンプ30によって脱気装置を介した後に純水循環流路29に供給される。純水循環流路29は、ポンプ30によって経路内の純水を効率的に循環させる。これにより、純水循環流路29内の純水温度は均一化され、仮に純水製造装置21から供給される純水の温度が変化した場合にも系としての温度変化を小さくすることができる。なお、純水の温度は純水循環流路29内を循環することによって室温に依存して一定に制御されることを踏まえると、供給水タンク22を省略することも可能である。なお、純水循環流路29の導入部に設けられた電磁弁28の開閉およびポンプ30の動作によって濃縮内部標準液の希釈に用いられた純水相当量が新たに純水循環流路29に供給される。
【0063】
その他の構成は第2の実施の形態と同様である。
【0064】
以上のように構成した本実施の形態においても第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態を
図5を参照しつつ説明する。
【0066】
本実施の形態は、第3の実施の形態における純水循環流路に純水の温度を制御する温度制御装置を備えたものである。
【0067】
図5は、本実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。図中、第3の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0068】
図5において、電解質分析装置100は、純水循環流路29内に循環する純水の温度を一定に制御する温度制御装置31を有している。温度制御装置31は例えば、熱電対により循環水の温度を監視し、得られた温度に基づき、ヒータの出力を制御するものでもよいし、その実施形態は問わない。純水循環流路29に温度制御装置31を設けることにより、循環する純水の温度は、室温や供給水の温度によらず一定に制御される。すなわち、濃縮内部標準液と純水循環流路29から導入した純水との希釈により生成される内部標準液温度も環境温度によらず、一定に制御されることとなる。これにより、環境の変化に対してロバスト性の高い安定した測定が可能となる。
【0069】
その他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0070】
以上のように構成した本実施の形態においても第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
<第5の実施の形態>
本発明の第5の実施の形態を
図6を参照しつつ説明する。
【0072】
本実施の形態は、第3の実施の形態における純水循環流路に純水の殺菌を行う殺菌装置を備えたものである。
【0073】
図6は、本実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。図中、第3の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0074】
図6において、電解質分析装置100は、純水循環流路29内に循環する純水の殺菌を行う殺菌装置32を有している。純水循環流路29内に存在する純水は、電解質分析装置100がシステムOFF状態となり滞留が発生した場合や長期間にわたって循環が継続された場合には、バクテリアなどの増殖が発生する可能性がある。バクテリアの増殖により純水の性質が変化した場合、目的の検体のイオン濃度が適切に求められない可能性がある。また、流路内にフィルムが発生し、流路つまりの原因ともなりうる。そこで、本実施の形態においては、菌類の増殖による影響を防ぐために純水循環流路29に殺菌装置32を設ける。殺菌装置32は、例えば、紫外線を用いて流路内の純水を非接触で殺菌するものである。一般に用いられる液体を用いた殺菌装置32を用いる場合には、殺菌用の液体に含まれるイオン濃度や化学反応を踏まえ殺菌装置32を選択する必要がある。純水循環流路29内の純水に対して殺菌を行う殺菌装置32を適用することで、長期間の使用においても安定した測定が可能となる。
【0075】
その他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0076】
以上のように構成した本実施の形態においても第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
<第6の実施の形態>
本発明の第5の実施の形態を
図7を参照しつつ説明する。
【0078】
本実施の形態は、第3の実施の形態における純水循環流路を、イオン選択電極により試薬の測定を行う分析部102、測定対象である検体を純水により希釈する希釈槽10、及び、試薬生成部(試薬部103及び機構部104)により生成された試薬を加温するプリヒート11を通るように設けたものである。
【0079】
図7は、本実施の形態に係る電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。図中、第3の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0080】
図7において、電解質分析装置100の純水循環流路29は、イオン選択電極1、希釈槽10、及び内部標準液および希釈液部に設置されたプリヒート11を通り、これらを循環水の温度で一定に保つように構成されている。ただし、これらの一部のみを通るように、すなわち、一部のみの温度を一定に保つように構成されてもよい。また、その他の経路を経由してもよい。本実施の形態のように、測定に関連する系全体を循環水温度で一定に保つように純水循環流路29を構成した場合には、より温度変化の少ない、安定した測定が可能となる。また、循環水から導入した純水を用いて生成される内部標準液は、希釈に用いられる純水の温度とほぼ等しい。そのため、プリヒート11を設ける場合にも、濃縮試薬を純水で希釈する系と比べ領域のスペースの縮小化や構成の簡素化の点で優位となる。
【0081】
その他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0082】
以上のように構成した本実施の形態においても第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…イオン選択電極(ISE)、2…比較電極、3…濃縮内部標準液ボトル、4…希釈液ボトル、5…比較電極液ボトル、6…脱ガス機構、7…内部標準液シリンジ、8…希釈液シリンジ、9…シッパシリンジ、10…希釈槽、11…プリヒート、12…シッパノズル、13…検体分注機構、14…検体容器、15…フィルタ、16…電磁弁、17…ピンチ弁、18…希釈液ノズル、19…内部標準液ノズル、20…廃液吸引ノズル、21…純水製造装置、22…供給水タンク、23…適宜ポンプ、23…ポンプ、24…希釈還元部、25…電圧計、26…アンプ、27…コンピュータ、28…電磁弁、29…純水循環流路、30…ポンプ、31…温度制御装置、32…殺菌装置、100…電解質分析装置、101…検体分注部、102…分析部、103…試薬部、104…機構部