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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20240522BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20240522BHJP
   A61L 15/48 20060101ALI20240522BHJP
   A61L 15/50 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61F13/511 200
A61F13/15 144
A61F13/511 110
A61L15/48 200
A61L15/50 200
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023076179
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2019080548の分割
【原出願日】2019-04-19
(65)【公開番号】P2023093758
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】和田 一郎
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086476(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/100650(WO,A1)
【文献】特開2018-79033(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、前記トップシート及び前記バックシートの間に配置される吸収層と、を備える吸収性物品であって、
前記吸収性物品は、前記吸収層よりも肌側に位置する繊維シートの、前記吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に、ゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部を備え、
前記ゲルローションが、
スチレン系エラストマー、
炭化水素系オイル、及び
界面活性剤、を含み、
前記ゲルローション塗布部が設けられた前記繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を備え、
前記繊維シートは、少なくとも1の方向に対して交互に設けられた凸部及び凹部を有し、
前記凸部及び前記凹部は、前記繊維シートの肌側面に配置されており、
塗布された前記ゲルローションが存在する部分である前記ゲルローション塗布部は、前記凸部の非肌側面のみに配置されている、
吸収性物品。
【請求項2】
前記繊維シートの肌側面に配置された前記凹部の非肌側面が凸状に形成されており、
前記繊維シートの肌側面に配置された前記凸部の非肌側面が凹状に形成されており、
前記ゲルローション塗布部は、前記凸部の凹状の非肌側面に配置されている、
請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記凸部の非肌側面における前記ゲルローションの存在量よりも、前記凹部の非肌側面における前記ゲルローションの存在量が少ない、
請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記凹部及び前記凸部が、それぞれ、前記少なくとも1の方向に対して直交する方向に沿って配置されており、
前記ゲルローション塗布部が、前記直交する方向に沿って配置されている、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記直交する方向と交差する1又は複数の方向に沿って、前記吸収層の表面に、吸収層エンボスパターンが形成されている、
請求項4に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記凹部及び前記凸部が千鳥状のパターンで配置されている、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記繊維シートの前記高繊維密度部が、前記凹部に存在する、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記繊維シートが、前記トップシートである、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤である、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記界面活性剤が、7以上20以下のHLB値を有する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項11】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、前記トップシート及び前記バックシートの間に配置される吸収層と、を備える吸収性物品であって、
前記吸収性物品は、前記トップシート、及び前記トップシートと前記吸収層との間に配置されていてもよいシートから選ばれる繊維シートの、前記吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に、ゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部を備え、
前記ゲルローションが、
スチレン系エラストマー、
炭化水素系オイル、及び
界面活性剤、を含み、
前記ゲルローション塗布部が設けられた前記繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を備え、
前記繊維シートが、前記トップシートであり、塗布された前記ゲルローションが存在する部分である前記ゲルローション塗布部が前記トップシートの非肌側面のみに配置されている、
吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
トップシートの肌側面にゲルローション塗布部を備える吸収性物品が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、トップシートと、バックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収層とを備える吸収性物品であって、着用者の肌と接する領域の少なくとも一部に、スチレン系エラストマー等のゲル化剤と、炭化水素等のローションとを含むゲルローションを有する吸収性物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-229075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸収性物品の中には、複数回にわたって体液を吸収することが求められるものがある一方で、吸収性物品が体液を吸収する場合には、トップシート上を体液が長手方向及び幅方向に拡散し、効率的に体液を吸収することが好ましいものとされている。しかしながら、吸収性物品が、体液を繰り返し吸収する場合、体液の拡散性が十分でないことがあった。
この点において、特許文献1に記載の吸収性物品は、着用者の肌と接する領域の少なくとも一部にゲルローションを塗布することにより、着用者の肌を保護するローションを、着用者の肌に継続的に放出することを目的とするものであり、2回目以降の体液の吸収においても、吸収性物品の長手方向及び幅方向への十分な体液拡散性を発揮する、繰り返し吸収時における体液拡散性についての解決策を提供することを目的とするものではない。
また、体液の拡散性を向上させるため、トップシート等を表面処理することにより、体液とトップシート等との親和性を高めた吸収性物品においては、体液が一度、吸収性物品に吸収されると、体液により表面処理剤が洗い流されてしまうことがあり、繰り返し吸収時における体液拡散性が十分ではないことがある。
【0006】
よって、本発明は、吸収性物品に吸収される体液により、吸収性物品表面に存在する成分が洗い流されてしまったとしても、繰り返し吸収時における体液拡散性に優れた吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、上記課題にかんがみ鋭意研究を行った。その結果、吸収性物品の吸収層よりも肌側に配置される繊維シートの少なくとも一部に、スチレン系エラストマー、炭化水素系オイル、及び界面活性剤を含むゲルローションを塗布し、且つ上述の繊維シートが、ゲルローションを塗布した領域に高繊維密度部を備えている吸収性物品によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
具体的には、本発明は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、上記トップシート及び上記バックシートの間に配置される吸収層と、を備える吸収性物品であって、上記吸収性物品は、上記トップシート、及び上記トップシートと上記吸収層との間に配置されていてもよいシートから選ばれる繊維シートの、上記吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に、ゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部を備え、上記ゲルローションが、スチレン系エラストマー、炭化水素系オイル、及び界面活性剤、を含み、上記ゲルローション塗布部が設けられた上記繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を備える、吸収性物品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繰り返し吸収時における体液拡散性に優れた吸収性物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態における吸収性物品の平面図である。
図2図1のII-IIにおける断面図である。
図3】第1の実施形態における吸収性物品に用いられるトップシートの斜視図である。
図4】第2の実施形態における吸収性物品の平面図である。
図5図4のV-Vにおける断面図である。
図6】第2の実施形態における吸収性物品に用いられるトップシートの斜視図である。
図7】第3の実施形態における吸収性物品の、図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の態様について説明する。
【0012】
[第1の態様]
(構成)
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、上記トップシート及び上記バックシートの間に配置される吸収層と、を備える吸収性物品であって、上記吸収性物品は、上記トップシート、及び上記トップシートと上記吸収層との間に配置されていてもよいシートから選ばれる繊維シートの、上記吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に、ゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部を備え、上記ゲルローションが、スチレン系エラストマー、炭化水素系オイル、及び界面活性剤、を含み、上記ゲルローション塗布部が設けられた上記繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を備える、吸収性物品。
【0013】
(効果)
本発明の第1の態様の吸収性物品は、トップシート及びトップシートと吸収層との間に配置されるシートから選ばれる繊維シートの、吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に、ゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部を備えている。そして、このゲルローションに含まれる、炭化水素系オイル、及び界面活性剤の極性の違いから、界面活性剤がゲルローションの表面にブリードアウトしやすいので、ブリードアウトした界面活性剤の作用により、吸収性物品に吸収される体液の拡散性が高まる。さらに、本発明の第1の態様の吸収性物品は、体液により上記繊維シートや、上記ゲルローションの表面に存在する界面活性剤が洗い流されたとしても、この界面活性剤が、ゲルローションの内部から供給されて、ゲルローションの表面に再度、ブリードアウトするので、体液拡散性が維持される。
【0014】
加えて、本発明の第1の態様の吸収性物品は、上記ゲルローション塗布部が設けられた上記繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を備えているので、体液や、ゲルローションの表面にブリードアウトした界面活性剤が、毛細管現象によって高繊維密度部に拡散しやすく、体液の拡散性が高まる。したがって、本発明の吸収性物品は、繰り返し吸収時の体液拡散性に優れる。
【0015】
[第2の態様]
(構成)
上記繊維シートが、上記トップシートであり、上記ゲルローション塗布部が上記トップシートの非肌側面に配置されている、第1の態様に記載の吸収性物品。
【0016】
(効果)
本発明の第2の態様によれば、ゲルローションがトップシートの非肌側面に塗布されている。このため、ゲルローションが、トップシートにおける体液の透過を妨げにくいので、吸収性物品が、トップシートの全面から体液を吸収しやすい。したがって、トップシートの、体液を透過する特性である体液透過性が良好に維持される。
【0017】
[第3の態様]
(構成)
上記トップシートが少なくとも1の方向に対して交互に配置された凹部及び凸部を有し、上記凸部の非肌側面における上記ゲルローションの存在量よりも、上記凹部の非肌側面における上記ゲルローションの存在量が少ない、第2の態様に記載の吸収性物品。
【0018】
(効果)
本発明の第3の態様によれば、凹部の非肌側面は、凸部の非肌側面よりもゲルローションの存在量が少ないので、トップシートの凹部から、体液が吸収層に向かって浸透しやすい。したがって、トップシートの体液透過性が高まる。
【0019】
[第4の態様]
(構成)
上記トップシートの肌側面に配置された凹部の非肌側面に凸部が配置されており、肌側面に配置された凸部の非肌側面に凹部が配置されている、第3の態様に記載の吸収性物品。
【0020】
(効果)
本発明の第4の態様においては、トップシートが断面波状の形態を構成する凸部と凹部を有している。ここで、ゲルローションは、凹部の非肌側面に比べて、凸部の非肌側面により多く存在しているので、凸部の非肌側面のゲルローションからブリードアウトした界面活性剤は、重力にしたがい、凹部にも拡散しやすい。これにより、凸部だけではなく、凹部においても体液の拡散性が高まる。
【0021】
[第5の態様]
(構成)
上記凹部及び上記凸部が、それぞれ、上記少なくとも1の方向に対して直交する方向に沿って配置されており、上記ゲルローション塗布部が、上記直交する方向に沿って配置されている、第3又は第4の態様に記載の吸収性物品。
【0022】
(効果)
本発明の第4の態様によれば、ゲルローションの作用により体液を拡散させやすい凸部と、凸部から移動した体液を透過しやすい凹部とが、上記直交する方向に沿って存在しており、ゲルローション塗布部も上記直交する方向に沿って配置されているので、吸収性物品の繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシートの体液透過性がともに高まる。
【0023】
[第6の態様]
(構成)
上記直交する方向と交差する1又は複数の方向に沿って、上記吸収層の表面に、吸収層エンボスパターンが形成されている、第5の態様に記載の吸収性物品。
【0024】
(効果)
本発明の第6の態様によれば、吸収層の表面に形成された吸収層エンボスパターンが、トップシートを透過して吸収層の表面に到達した体液を、上記直交する方向と交差する1又は複数の方向に沿って拡散させるので、吸収性物品の、繰り返し吸収時の体液拡散性が高まる。
【0025】
[第7の態様]
(構成)
上記凹部及び上記凸部が千鳥状のパターンで配置されている、第3又は第4の態様に記載の吸収性物品。
【0026】
(効果)
本発明の第7の態様によれば、体液を拡散させやすい凸部と、凸部から移動した体液を透過しやすい凹部とが、千鳥状のパターンで存在しているので、吸収性物品の繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシートの体液透過性がともに高まる。
【0027】
[第8の態様]
(構成)
上記トップシートの上記高繊維密度部が、上記凹部に存在する、第3から第7のいずれかの態様に記載の吸収性物品。
【0028】
(効果)
本発明の第8の態様によれば、毛細管現象により、凹部が拡散する体液を吸収しやすいので、吸収層に向かって、体液がトップシートを透過しやすくなる。したがって、吸収性物品の、繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシートの体液透過性が高まる。
【0029】
[第9の態様]
(構成)
上記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤である、第1から第8のいずれかの態様に記載の吸収性物品。
【0030】
(効果)
本発明の第9の態様によれば、ゲルローションからの界面活性剤がより持続性かつ徐放性のものとなるとともに、ゲルローションの肌への刺激性が軽減される。
【0031】
[第10の態様]
(構成)
上記界面活性剤が、7以上20以下のHLB値を有する、第1から第9のいずれかの態様に記載の吸収性物品。
【0032】
(効果)
本発明の第10の態様によれば、界面活性剤がゲルローションからよりブリードアウトしやすくなり、吸収性物品の、繰り返し吸収時の体液拡散性が高まる。
【0033】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す第1の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
図1は、本発明の第1の実施形態における吸収性物品1の平面図であり、図2は、図1のII-IIにおける断面図であり、図3は、本発明の第1の実施形態における吸収性物品1に用いられるトップシート2の斜視図である。図1から図3に示すように、本実施形態の吸収性物品1は、互いに直交する長手方向L、幅方向W、及び厚さ方向Tを有する。本発明の「吸収性物品」は、例えば、テープ止めタイプの使い捨ておむつ、パンツタイプ使い捨ておむつ、尿取りパッド、軽失禁パッド、生理用パッド、パンティライナ等として使用される。
【0035】
[吸収性物品]
本発明の吸収性物品は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置される吸収層を有する。そして、図1及び図2に示すように、本実施形態の吸収性物品1においては、トップシート2の非肌側面の、吸収層4と厚さ方向Tに重畳する領域の少なくとも一部に、ゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部5を、長手方向Lに沿って備えている。そして、トップシート2の領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部8を備えている。
【0036】
後述するように、本発明の吸収性物品が備えるゲルローションは、界面活性剤を含み、この界面活性剤が炭化水素系オイルとともに、ゲルローションの表面にブリードアウトしやすい性質を有するが、本実施形態において、後述するように、トップシート2の領域が、長手方向Lに沿って配置されている凹部6に繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部8を備えていることにより、体液や、ゲルローションの表面にブリードアウトした界面活性剤が、毛細管現象によって、トップシート2の凸部7の非肌面側から、トップシート2内の高繊維密度部8に向かって拡散しやすく、拡散した界面活性剤の作用により、長手方向Lにおける体液の拡散性が高まる。したがって、本実施形態の吸収性物品1は、繰り返し吸収時の、長手方向Lにおける体液拡散性に優れる。高繊維密度部8は、例えば凹部6内に長手方向Lに沿って延びる底部でもよく、凹部6内に連続的又は間欠的に位置する圧搾部(エンボス部)でもよい。
【0037】
なお、本実施形態において、界面活性剤を含むゲルローションを、トップシート2における凸部7の非肌面側に配置することにより、繰り返し吸収時の体液拡散性が高まるメカニズムについては、以下のように推定されるが、本発明の吸収性物品は、以下に説明するメカニズムにより作用するものに限定されるものではない。
まず、長手方向Lに延設されたゲルローションは、界面活性剤をブリードアウトする性質を有するが、このブリードアウトされた界面活性剤は、重力や、トップシート2内の繊維密度の差によりトップシート2内を高繊維密度部へ向かって幅方向に拡散し、自動的にゲルローションをトップシート内に広く配置させることができる。また、ゲルローションに含まれる炭化水素系オイルは、界面活性剤と同様にブリードアウトして、体液滑性付与剤としても機能するので、ブリードアウトした炭化水素系オイルがトップシート2内を拡散することにより、体液の吸収層4への透過性も高まる。
本実施形態においては、体液がトップシート2を透過して、界面活性剤や、炭化水素系オイルが洗い流されたとしても、ゲルローションの内部から、追加の界面活性剤や、炭化水素系オイルが継続的にブリードアウトするので、繰り返し吸収時においても、体液吸収性や、体液透過性が良好に維持される。
【0038】
(ゲルローション)
本発明において、ゲルローションは、スチレン系エラストマー、炭化水素系オイル、及び界面活性剤を含む。本実施形態においては、後述するトップシート2が、このようなゲルローションが塗布されたゲルローション塗布部5を備えており、このゲルローションに含まれる、炭化水素系オイル、及び界面活性剤の極性の違いから、界面活性剤がゲルローションの表面にブリードアウトしやすいので、ブリードアウトした界面活性剤の作用により、吸収性物品1に吸収される体液の拡散性が高まる。さらに、本実施形態においては、体液によりトップシート2や、ゲルローションの表面に存在する界面活性剤が洗い流されたとしても、この界面活性剤が、ゲルローションの内部から供給されて、ゲルローションの表面に再度、ブリードアウトするので、体液拡散性が維持される。
【0039】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、ハードセグメント及びソフトセグメントを有するものが好ましく、上記ハードセグメントとしては、ポリスチレンブロックが好ましく、上記ソフトセグメントとしては、ポリオレフィンブロックが好ましい。
【0040】
ハードセグメントとして用いられるポリスチレンブロックには、スチレンのホモポリマーからなるブロック(すなわち、ポリスチレンブロック)だけでなく、α-メチルスチレンのホモポリマーからなるブロック(すなわち、ポリα-メチルスチレンブロック)、及びスチレンとα-メチルスチレンとのコポリマーからなるブロックも含まれる。
【0041】
また、ソフトセグメントとして用いられるポリオレフィンブロックとしては、例えば、ポリオレフィンのホモポリマーからなるブロック(ポリエチレンブロック、ポリプロピレンブロック、ポリブチレンブロック、及びポリブタジエンブロック)、及びポリオレフィンのコポリマーからなるブロック(エチレン、プロピレン、ブチレン及びブタジエン等のコポリマーからなるブロック)を挙げることができる。なお、本明細書では、便宜上、ブタジエンもオレフィン系モノマーとして取り扱う。
さらに、上記ソフトセグメントには、ポリブタジエンブロックの水素付加物、並びにブタジエンと、エチレン、プロピレン、ブチレン及びブタジエン等のコポリマーとからなるブロックの水素付加物も含まれる。
【0042】
本発明の実施形態において、ゲルローションに含まれるスチレン系エラストマーにおける、ハードセグメント及びソフトセグメントの配置方法としては、両末端にハードセグメント、それらの間に1種又は複数種のソフトセグメントを配置することが好ましい。
【0043】
上記スチレン系エラストマーの具体例としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(i)ポリスチレン-block-ポリ(エチレン-co-プロピレン)
(以下、「SEP」と省略する場合がある)
(ii)ポリスチレン-block-ポリ(エチレン-co-プロピレン)-block-ポリスチレン
(以下、「SEPS」と省略する場合がある)
(iii)ポリスチレン-block-ポリ(エチレン-co-ブチレン)-block-ポリスチレン
(以下、「SEBS」と省略する場合がある)
(iv)ポリスチレン-block-ポリエチレン-block-ポリ(エチレン-co-プロピレン)-block-ポリスチレン
(以下、「SEEPS」と省略する場合がある)
【0044】
本発明の実施形態において、スチレン系エラストマーは、好ましくは5,000以上500,000以下、より好ましくは10,000以上400,000以下、更に好ましくは50,000以上300,000以下の重量平均分子量を有する。上記重量平均分子量が5,000以上であることにより、スチレン系エラストマーがゲル構造をより保持しやすくなり、上記重量平均分子量が500,000以下であることにより、ゲルローションが固くなりすぎず、ゲルローションの取り扱い性が高まる。
なお、重量平均分子量の測定方法は、後述する。
【0045】
本発明の実施形態において、スチレン系エラストマーは、好ましくは10質量%以上50質量%以下のポリスチレンブロックと、50質量%以上90質量%以下のポリオレフィンブロックとを含み、より好ましくは15質量%以上40質量%以下のポリスチレンブロックと、60質量%以上85質量%以下のポリオレフィンブロックとを含み、更に好ましくは18質量%以上35質量%以下のポリスチレンブロックと、65質量%以上82質量%以下のポリオレフィンブロックとを含む。
【0046】
ポリスチレンブロックの量が10質量%以上であることにより、ポリスチレンブロックが後述のミクロ層分離構造をより形成しやすくなる。ポリスチレンブロックの量が50質量%以下であることにより、ローションを保持可能なポリオレフィンブロックの量が一定以上に保たれるので、保持できる炭化水素系オイルの量を一定以上に維持できる傾向がある。また、ポリスチレンブロックのミクロ層分離構造の量が多くなり、形成されるゲルローションが固くなり、着用感に劣る傾向がある。
【0047】
上記スチレン系エラストマーから生成される、ゲルローションにおいて、スチレン系エラストマーのハードセグメントは、互いに凝集してドメインを形成し、架橋点として作用する。一方、ソフトセグメントは、それらの架橋点を連結する網目の役割を果たす。そして、スチレン系エラストマーを、炭化水素系オイルと混合すると、スチレン系エラストマーのソフトセグメントが、炭化水素系オイルを保持する一方で、ハードセグメントはドメインを形成したままとなる。その結果、スチレン系エラストマーと、炭化水素系オイルとの混合物(ゲルローション)は、ゲルとしての形状を一定程度保持可能な弾性体となる。
なお、上記炭化水素系オイルは、スチレン系エラストマーのソフトセグメントの緩い網目に保持されているのみであり、後述する界面活性剤とともに、ゲルローションの表面に移動可能である。
【0048】
(炭化水素系オイル)
本発明の実施形態におけるゲルローションは、炭化水素系オイルを含む。ここで、本明細書において、「炭化水素系オイル」とは、炭素と水素とからなる化合物(炭化水素)であって、常温において一定の流動性を有するものを意味する。上記炭化水素としては、鎖状炭化水素、例えば、パラフィン系炭化水素(二重結合及び三重結合を含まない、アルカンとも称される)、オレフィン系炭化水素(二重結合を1つ含む、アルケンとも称される)、アセチレン系炭化水素(三重結合を1つ含む、アルキンとも称される)、及び二重結合及び三重結合からなる群から選択される結合を2つ以上含む炭化水素、並びに環状炭化水素、例えば、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素が挙げられる。
【0049】
本発明の実施形態においては、炭化水素系オイルとして用いられる炭化水素としては、鎖状炭化水素及び脂環式炭化水素を用いることが好ましく、鎖状炭化水素を用いることがより好ましく、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、及び二重結合を2つ以上含む炭化水素(三重結合を含まない)を用いることが更に好ましく、パラフィン系炭化水素を用いることが最も好ましい。なお、上記鎖状炭化水素には、直鎖状炭化水素及び分岐鎖状炭化水素が含まれる。
【0050】
本発明の実施形態における炭化水素系オイルは、40℃における動粘度が、0.01mm2/s以上80mm2/s以下であることが好ましく、重量平均分子量が1,000未満であることが好ましい。
【0051】
本発明においては、ゲルローションに含まれる炭化水素系オイルが、界面活性剤とともに、一定量、ゲルローションの表面にブリードアウトしている。そして、ゲルローションの表面にブリードアウトした炭化水素系オイルが、経血、尿等の体液と共に吸収層内部に滑落等して消失すると、ゲルローションから炭化水素系オイルが新たにブリードアウトする。これにより、ゲルローションは、炭化水素系オイルを継続的に放出することができる。
【0052】
なお、本発明の実施形態においては、ゲルローションが効果的にゲルを形成するために、ゲルローションに含まれるローション成分中、上記炭化水素系オイルを、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下含む。
【0053】
(界面活性剤)
本発明において、ゲルローションは界面活性剤を含む。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤等を挙げることができるが、本発明の実施形態においては、ゲルローションがノニオン系界面活性剤を含んでいることが好ましい。本発明の実施形態において、ゲルローションがノニオン系界面活性剤を含んでいることにより、ゲルローションからの界面活性剤がより持続性かつ徐放性のものとなるとともに、ゲルローションの肌への刺激性が軽減される。
【0054】
(ノニオン系界面活性剤)
上記のノニオン系界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、ポリオオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリオール脂肪酸エステル等のエステル系界面活性剤を挙げることができるが、本発明の実施形態においては、ゲルローションがエステル系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0055】
本発明の実施形態においては、上記界面活性剤が、7以上20以下のHLB値を有することが好ましく、10以上18以下のHLB値を有することがより好ましい。界面活性剤が、7以上20以下のHLB値を有していることにより、界面活性剤がゲルローションからよりブリードアウトしやすくなり、吸収性物品の、繰り返し吸収時の体液拡散性が高まる。7以上20以下のHLBを有するエーテル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を挙げることができ、7以上20以下のHLBを有するエステル系界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エスエル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレングリセリンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレングリセリントリイソステアリン酸エステル等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトラステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトライソステアリン酸エステル等)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等を挙げることができる。また、上記のエステル系界面活性剤以外のエステル系界面活性剤として、東洋紡(株)製のセラメーラ(マンノシルエリスリトールの水酸基に、脂肪酸がエステル結合した糖脂質構造を有する界面活性剤)を使用することもできる。なお、エステル系界面活性剤が、脂肪酸エステル構造を有する場合、上記7以上20以下のHLBを実現するためには、脂肪酸の炭素数は、8以上20以下であることが好ましく、10以上18以下であることがより好ましく、12以上16以下であることが更に好ましい。
【0056】
HLB値は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、「界面活性剤の合成と其応用」(小田,寺村,槙書店(1957),501頁)による次式を用いて算出される値をいう。
HLB値=[(Σ無機性値)/(Σ有機性値)]×10
HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなる。
【0057】
(その他のローション成分)
ゲルローションは、上記炭化水素系オイルに加えて、当該技術分野におけるゲルローション製造にあたって、ローション成分として用いられる、その他のローション成分をさらに含んでいてもよい。
【0058】
(各種測定値)
なお、本明細書において、動粘度は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」にしたがって、キャノンフェンスケ逆流形粘度計を用いて、40℃の試験温度で測定する。
【0059】
また、重量平均分子量は、多分散系の化合物(例えば、逐次重合により製造された化合物、複数の脂肪酸と、複数の脂肪族1価アルコールとから生成されたエステル)と、単一化合物(例えば、1種の脂肪酸と、1種の脂肪族1価アルコールから生成されたエステル)とを含む概念であり、Ni個の分子量Miの分子(i=1、又はi=1,2・・・)からなる系において、次の式:
Mw=ΣNii 2/ΣNii
により求められるMwを意味する。
【0060】
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により求められる、ポリスチレン換算の値を意味する。
GPCの測定条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。
機種:(株)日立ハイテクノロジーズ製 高速液体クロマトグラム Lachrom Elite
カラム:昭和電工(株)製 SHODEX KF-801、KF-803及びKF-804
溶離液:THF
流量:1.0mL/分
打込み量:100μL
検出:RI(示差屈折計)
【0061】
(各種成分の配合量)
本発明の実施形態において、ゲルローションは、繰り返し吸収時の体液拡散性を良好にする観点から、界面活性剤を、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは2質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下含む。
【0062】
また、本発明の実施形態において、上記ゲルローションは、スチレン系エラストマーと、炭化水素系オイルとを、それらの計100質量部に基づいて、それぞれ、好ましくは1質量部以上30質量部以下及び70質量部以上99質量部以下、より好ましくは2質量部以上20質量部以下及び80質量部以上98質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上15質量部以下及び85質量部以上97質量部以下の比率で含む。上記スチレン系エラストマーの比率が1質量部以上であることにより、形成されるゲルローションが、十分な弾性力を有するものとなり、吸収性物品の着用時に体圧が加わった際にも、ゲルローションの形状が維持されやすい。上記スチレン系エラストマーの比率が30質量部以下であることにより、形成されるゲルローションの弾性が高くなりすぎることが抑制され、着用時に違和感を生じにくい。
【0063】
従来のローションコーティング剤の多くは、有効成分を所定の場所に固定するために、それらを高粘度化(粘性体化)する手法が採用されている。しかし、それらを高粘度化すると、有効成分がローションコーティング剤等の内部に閉じ込められ、その機能を発揮することが難しくなる。また、従来のローションコーティング剤の多くは、粘性体に過ぎず、着圧等の体圧が加わると、所定の場所に固定されず、吸収性物品の内部に移動し、着用者の肌に作用し続けることが難しい問題点がある。
【0064】
一方、本発明において用いられるゲルローションは、体圧等の加わる範囲で弾性体としての挙動を示す。したがって、上記ゲルローションに高い体圧が加わっても、弾性変形するに留まり、トップシートの繊維等の間に押し込まれることなく、体圧が低くなると弾性回復し、元の位置に戻る。したがって、ゲルローションに含まれる炭化水素系オイルや界面活性剤が、所望の位置でその作用を果たすことができる。
【0065】
(その他の成分)
本発明において用いられるゲルローションは、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
上記その他の成分としては、例えば、BHT(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)、BHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、没食子酸プロピル等の酸化防止剤;方沸石、菱沸石、輝沸石、ナトロライト、束沸石、及びソモソナイト等の天然ゼオライト、並びに、合成ゼオライト等を挙げることができる。
【0066】
(トップシート)
上述のとおり、本発明の吸収性物品は、トップシート、及びトップシートと吸収層との間に配置されていてもよいシートから選ばれる繊維シートの、吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に、後述するゲルローション塗布部を備えているが、図2に示すように、本実施形態の吸収性物品1は、トップシート2の非肌側面にゲルローション塗布部5を備えている。トップシート2の非肌側面にゲルローション塗布部5を備えていることにより、ゲルローションが、トップシート2における体液の透過を妨げにくいので、吸収性物品1が、トップシート2の全面から体液を吸収しやすい。したがって、トップシート2の、体液を透過する特性である体液透過性が良好に維持される。
【0067】
図3に示すように、本実施形態の吸収性物品1において用いられるトップシート2は、凹部6及び凸部7が、幅方向Wに対して交互に、かつ長手方向Lに沿って設けられており、凹部6の非肌側面には凸部が、凸部7の非肌側面には凹部が形成されて、断面波状の形態を有している。そして、図2に示すように、凹部6の非肌側面に形成されている凸部の頂部(凹部6の底部の非肌側面)は、吸収層4の肌側面と接した状態で保持されており、トップシート2が断面波状の形態を構成する凸部7と凹部6を有している。本発明において、好ましくは、凸部の非肌側面におけるゲルローションの存在量よりも、凹部の非肌側面における上記ゲルローションの存在量が少なくなっているが、本実施形態においては、後述するように、ゲルローションが、主として、凸部7の非肌側面に存在しているので、凸部7の非肌側面のゲルローションからブリードアウトした界面活性剤は、重力にしたがい、幅方向Wに沿って、トップシート2の非肌側面を、凹部6にも拡散しやすい。これにより、凸部7だけではなく、凹部6においても、長手方向Lにおける体液の拡散性が高まる。
【0068】
(凹部及び凸部、並びにゲルローション塗布部)
図1から3に示すように、本実施形態において、凹部6及び凸部7は、幅方向Wに対して交互に配置されており、長手方向Lに沿って配置されている。そして、この凸部7の非肌側面に形成されている凹部に、ゲルローション塗布部5が、長手方向Lに沿って設けられている。本発明においては、ゲルローションが界面活性剤を含んでいるが、上述のとおり、本実施形態の吸収性物品1においては、凸部7において、ゲルローションの作用により体液を、長手方向Lに沿って、拡散させやすく、凹部6において、凸部7から移動した体液を厚さ方向Tに透過しやすいが、凹部6と凸部7とが、長手方向Lに沿って存在しており、ゲルローション塗布部5も長手方向Lに沿って配置されているので、吸収性物品1の繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシート2の体液透過性がともに高まる。また、この凸部7の非肌側面に形成されている凹部に、ゲルローション塗布部5が設けられていることにより、トップシート2の凹部6から、体液が吸収層4に向かって浸透しやすく、トップシート2の体液透過性が高まる。
なお、本発明においては、凹部及び凸部は、幅方向Wに対して交互に、長手方向Lに沿って配置されている態様に限定されるものではなく、長手方向Lに対して交互に、幅方向Wに沿って配置されていてもよい。
また、本発明において、ゲルローション塗布部5は、凸部7の非肌面側の凹部のみに設けられている実施形態に限定されるものではなく、吸収層と厚さ方向に重畳する領域の少なくとも一部に設けられていればよく、例えば、凹部の非肌面側にもゲルローションが存在するとともに、凸部の非肌側面におけるゲルローションの存在量よりも、凹部の非肌側面におけるゲルローションの存在量が少なくなるような態様であってもよい。本発明において、ゲルローション塗布部は、トップシートの非肌側面に設けられる態様に限定されるものではなく、トップシートと吸収層との間に配置されてもよいシートの肌側面又は非肌側面に設けられていてもよい。また、本発明の実施形態において、ゲルローションは、トップシート2の厚さ方向Tに浸透しない傾向が強く、凸部7の非肌面側の凹部の表面に存在している傾向にある。
本発明においては、ゲルローションは、長手方向に連続して設けられているものに限定されず、長手方向に沿って間欠的に設けられていてもよい。
【0069】
本発明の実施形態において、凹部及び凸部は、エンボス加工やギア加工により形成することができる。ここで、ギア加工とは、このギア加工は、外周面に沿って、ロール幅方向に一定の間隔で、相互に平行に複数設けられた突稜と、隣り合う突稜の間の凹溝を有し、一方の延伸ロールの突稜が、他方の延伸ロールの凹溝に噛み合うように構成された上下一対の延伸ロールを備えた賦形装置の間に原反シートを装入して延伸することにより施されるものである。隣り合う凸部の頂点間の間隔は、例えば2.0~5.0mmが挙げられる。凸部の頂部と凹部の底部の高低差は、例えば0.2~2mmが挙げられる。
【0070】
(高繊維密度部)
本発明の吸収性物品においては、ゲルローション塗布部が設けられた繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を有する。
そして、図3に示すように、本実施形態においては、トップシート2の凹部6に、長手方向Lに沿って、凸部7よりも繊維密度が高い高繊維密度部8が存在している。高繊維密度部8は、例えば、上記のエンボス加工やギア加工において、原反シートにおける一方の延伸ロールの突稜の頂部により他方の延伸ロールの凹溝に押し付けられた部分である。これにより、体液や、ゲルローションの表面にブリードアウトした界面活性剤が、毛細管現象によって高繊維密度部8に拡散しやすく、長手方向Lにおける体液の拡散性が高まるとともに、毛細管現象により、凹部6に拡散する体液が高繊維密度部8に吸収されやすいので、吸収層4に向かって、体液がトップシート2を透過しやすくなる。したがって、吸収性物品1の、繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシート2の体液透過性が高まる。
【0071】
(吸収層)
本発明の吸収性物品は、トップシート及びバックシートの間に、吸収層が配置されている。ここで、本発明の吸収性物品において、吸収層の種類は、特段限定されるものではなく、フラッフパルプ等の吸水性繊維と、高吸収性ポリマーとからなる吸収体であってもよいし、高吸収性ポリマーが、不織布の間に保持された、吸収シートであってもよい。本実施形態においては、吸収層4は、長手方向Lと交差する1又は複数の方向に沿って、吸収層4の表面に、図示しない吸収層エンボスパターンが形成されていてもよい。このような構成を採用することにより、吸収層4の表面に形成された吸収層エンボスパターンが、トップシート2を透過して吸収層4の表面に到達した体液を、長手方向Lと交差する1又は複数の方向に沿って拡散させるので、吸収性物品1の、繰り返し吸収時の体液拡散性が高まる。
【0072】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と共通する構成については、その説明を省略することがある。また、本発明は、以下に示す第2の実施形態に限定されるものではない。
【0073】
図4は、本発明の第2の実施形態における吸収性物品1’の平面図であり、図5は、図4のV-Vにおける断面図であり、図6は、本発明の第2の実施形態における吸収性物品1’に用いられるトップシート2’の斜視図である。図4から図6に示すように、本実施形態の吸収性物品1’は、互いに直交する長手方向L、幅方向W、及び厚さ方向Tを有する。本発明の第2の実施形態の吸収性物品1’は、図4に示すように、トップシート2’の凹部6’及び凸部7’、並びにゲルローション塗布部5’及び高繊維密度部8’の平面パターンが、千鳥状のパターンである点において、図1から3に示される、本発明の第1の実施形態の吸収性物品1と異なっている。
【0074】
(トップシート)
図5に示すように、本実施形態の吸収性物品1’は、トップシート2’の非肌側面にゲルローション塗布部5’を備えているが、図6に示すように、本実施形態の吸収性物品1’において用いられるトップシート2’は、凹部6’及び凸部7’が、幅方向W及び幅方向Wに対して交互に、すなわち、千鳥状のパターンで配置されており、凹部6’の非肌側面には凸部が、凸部7’の非肌側面には凹部が形成されて、断面波状の形態を有している。そして、図5に示すように、凹部6’の非肌側面に形成されている凸部の頂部(凹部6’の底部の非肌側面)は、吸収層4の肌側面と接した状態で保持されている。
【0075】
(凹部及び凸部、並びにゲルローション塗布部)
図4から6に示すように、本実施形態において、凹部6’及び凸部7’は、千鳥状のパターンで配置されている。そして、この凸部7’の非肌側面に形成されている凹部に、ゲルローション塗布部5’が、設けられている。本実施形態においては、ゲルローションが界面活性剤を含んでおり、第1の実施形態で説明したとおり、ゲルローションの作用により体液を平面方向に拡散させやすい凸部7’と、凸部7’から移動した体液を透過しやすい凹部6’とが、千鳥状のパターンで存在しているので、吸収性物品1’の繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシート2’の体液透過性がともに高まる。
【0076】
本実施形態において、凹部及び凸部は、エンボス加工やギア加工により形成することができる。隣り合う凸部の頂点間の間隔は、例えば2.0~5.0mmが挙げられる。凸部の頂部と凹部の底部の高低差は、例えば0.2~2mmが挙げられる。
【0077】
(高繊維密度部)
本発明の吸収性物品においては、ゲルローション塗布部が設けられた繊維シートの領域が、繊維密度が周辺部よりも高い高繊維密度部を有する。
そして、図3に示すように、本実施形態においては、トップシート2’の凹部6’に、凸部7’よりも繊維密度が高い高繊維密度部8’が存在している。高繊維密度部8’は、例えば、上記のエンボス加工やギア加工において、原反シートにおける一方の延伸ロールの千鳥状パターンの突稜の頂部により他方の延伸ロールの千鳥状パターンの凹溝に押し付けられた部分である。これにより、毛細管現象によって、凹部6’が拡散する体液が吸収されやすいので、吸収層4に向かって、体液がトップシート2’を透過しやすくなる。したがって、吸収性物品1’の、繰り返し吸収時の、平面方向における体液拡散性と、トップシート2’の体液透過性が高まる。
【0078】
<第3の実施形態>
以下、本発明の第3の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と共通する構成については、その説明を省略することがある。また、本発明は、以下に示す第3の実施形態に限定されるものではない。
【0079】
図7は、本発明の第3の実施形態における吸収性物品1”の、第1の実施形態の図2に対応する断面図である。本実施形態の吸収性物品1”は、トップシート2”と、バックシート3と、トップシート2”及びバックシート3の間に配置される吸収層4を有するとともに、トップシート2”及び吸収層4の間には、セカンドシート9が配置されている。そして、本実施形態においては、トップシート2”には、凹部及び凸部が設けられておらず、セカンドシート9に凹部及び凸部が設けられ、セカンドシート9の凸部の非肌側面にゲルローション塗布部5”が設けられている点において、図1から3に示される、本発明の第1の実施形態の吸収性物品1と異なっている。
【0080】
本実施形態において、セカンドシート9に配置される凹部及び凸部は、幅方向Wに対して交互に、長手方向Lに沿って配置されている凹部及び凸部が想定されるが、本発明の吸収性物品が備える凹部及び凸部は、そのような態様に限定されるものではなく、凹部及び凸部が、長手方向Lに対して交互に、幅方向Wに沿って配置されていてもよく、幅方向W及び幅方向Wに対して交互に、すなわち、千鳥状のパターンで配置されていてもよい。
【0081】
セカンドシート9の凸部の非肌側面にゲルローション塗布部5を備えていることにより、トップシート2”の体液透過性がより高まるとともに、セカンドシート9にて、繰り返し吸収時の体液拡散性を高めることができる。また、ゲルローション塗布部が、凸部の非肌側面に設けられていることにより、セカンドシート9における体液の透過を妨げにくいので、体液が、セカンドシート9の一部において滞留することがなく、吸収性物品1”が、セカンドシート9の上層に位置するトップシート2”の全面から体液を吸収しやすい。したがって、吸収性物品1”の繰り返し吸収時の体液拡散性と、トップシート2”の、体液透過性が良好に維持される。
【実施例
【0082】
以下、試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0083】
<実施例1>
SEEPS(クラレ株式会社製、セプトン4055、スチレン含有量:30質量%、重量平均分子量:約25万)2部と、エステル系界面活性剤として、ポリソルベート20(日油株式会社製、原料商品名:ノニオンLT-20、HLB:16.7)を0.1質量部から16.7質量部とを、約140℃に加熱したパールリームEX(日油株式会社製、流動イソパラフィン、イソブテン及びn-ブテンを共重合し、次いで水素を付加することにより生成された分岐鎖炭化水素、37.8℃における動粘度が10mm2/s)98部に添加し、これらを5時間、攪拌しながら混合することにより混合物を生成し、当該混合物を直径40mmの円筒形容器に、高さ8mmまで注ぎ、次いで混合物を冷却することにより、直径40mm且つ高さ8mmの円筒形のゲルローションNo.1を得た。
【0084】
<実施例2>
ゲルローションNo.1において、エステル系界面活性剤として、ポリソルベート20(日油株式会社製、ノニオンLT-20、HLB:16.7)に代えて、トリグリセリド(日油株式会社製、パナセート810S)中に溶解させた、50%セラメーラ(東洋紡株式会社製、マンノシルエリスリトールの水酸基に、脂肪酸がエステル結合した糖脂質構造を有するバイオサーファクタント)を0.1質量部から16.7質量部を、流動急パラフィンに添加して加熱した点以外は、調整例1と同様にして、ゲルローションNo.2を得た。
【0085】
<比較例1>
エステル系界面活性剤を添加しなかった点以外は、調整例1と同様にして、ゲルローションNo.3を得た。
【0086】
<評価>
[ゲルローション自体の濡れ性の評価]
ゲルローションNo.1からNo.3の表面に着色した蒸留水を1滴(0.05ml)滴下し、10分後の液滴の径を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
[ゲルローションを塗布した不織布の濡れ性の評価]
トップシート(疎水性スパンボンド不織布、坪量17g/m2)の長手方向に、ゲルローションNo.1からNo.3を、0.2g/m、1.0g/m、及び2.0g/mの塗布量となるように、ビード状に20cm塗工した。塗工したゲルローション20cmの中央に、着色した蒸留水を2滴(0.1ml)滴下し、2分経過後の液拡散状態を観察し、ビード状に塗工したゲルローションに沿った拡散長を測定した。結果を表2に示す。
【0088】
[ゲルローションを塗布した吸収性物品の吸収性について]
トップシート(、親水性スパンボンド不織布、坪量18g/m2)に幅方向に対して交互に、長手方向に延びる凹部及び凸部を、幅7cm当たりの凸部が21本となるように形成し、ゲルローションNo.2及びNo.3を塗工量0.05g/m/本として、凸部の裏面に塗布した。このトップシートの凹部の裏面を、熱エンボス加工により、セカンドシート(旭化成株式会社製、親水性スパンボンド不織布、坪量18g/m2)に接着させ、この積層体の吸収速度及び液拡散性を以下の手法で評価した。
(1)トップシートの上面に、直径7cm、200gの荷重円筒を置き、そこに80ccの人工尿を注入して所要時間(秒)を測定し、円筒内の人工尿がなくなると同時にトップシート上の人工尿の液拡散を測定する。
(2)人工尿の注入開始から10分後に、再び、同量の人工尿を注入し、上記と同様の測定を行う。
(3)注入は合計3回(合計240cc)行う。結果を表3に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表1から分かるように、界面活性剤のゲルへの添加濃度が上がると液滴径が拡大した。ゲルローションNo.2が少量添加で液滴径の広がりが大きいのは、溶媒にトリグリセリドを用いているので、溶媒自体がブリードアウトし易く、結果としてセラメーラの液滴径が向上したと考えられる。
また、表2から分かるように、蒸留水は、ビード状に塗工したゲルローションに沿って拡散した。また、蒸留水は、ゲルローションの幅方向にも、ゲルローションの幅を超えて拡散した。したがって、ゲルローションから界面活性剤が不織布に広がり、界面活性剤のブリードアウトが効率よく行われたと考えられる。なお、ゲルローションNo.1については測定しなかった。
また、表3から分かるようにゲルローションNo.2は、3回目まで吸収速度が10秒台を維持できた。これは、吸収体の容量が一杯になり吸収しにくくなる3回目注入時でも、7cm荷重円筒からのトップシートでの液拡散が起きるためと考えられる。トップシートの液拡散は、長手方向に延びる凹部及び凸部のうち凹部のエンボス部がきっかけとなっていた。これは、エンボス部の繊維密度が高く、毛細力が働いたためと考えられる。
ゲルローションが無い場合(なし)や、エステル系界面活性剤を添加していない場合(No.3)に、3回目に吸収速度が時20秒台まで落ちたのは、もともと不織布に付着していた繊維油剤(界面活性剤)が人工尿の繰返し注入で流出しまったためと考えられる。ゲルローションNo.2でも、不織布に付着していた繊維油剤は流出するものの、10秒台を維持できるのは、ゲルローション中の界面活性剤がブリードアウトして繊維密度の高いエンボス部に移行することで、繊維の濡れ性を補完して毛管力を維持しているためと考えられる。
【符号の説明】
【0093】
1,1’,1” 吸収性物品
2,2’,2” トップシート
3 バックシート
4 吸収層
5,5’,5” ゲルローション塗布部
6,6’ 凹部
7,7’ 凸部
8,8’ 高繊維密度部
9 セカンドシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7