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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】エピタキシャルウエハ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20240522BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20240522BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20240522BHJP
   H01S 5/22 20060101ALI20240522BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
H01S5/042 610
H01S5/323
H01S5/183
H01S5/22
H01L21/205
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023102063
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2018159716の分割
【原出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2023123638
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 治
(72)【発明者】
【氏名】田崎 寛郎
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050389(JP,A)
【文献】特開2018-088455(JP,A)
【文献】特開2004-179293(JP,A)
【文献】特開2011-014869(JP,A)
【文献】特開2009-032716(JP,A)
【文献】特開2003-332682(JP,A)
【文献】特開2004-214332(JP,A)
【文献】特開2005-347604(JP,A)
【文献】特開2003-133303(JP,A)
【文献】特開2013-055268(JP,A)
【文献】特開2003-249719(JP,A)
【文献】米国特許第05557627(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3インチ以上の基板上に少なくともAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層を含む半導体積層体を有し、
少なくとも前記高Al組成層を含む電流狭窄層の側面が露出したメサ構造を具え、
前記高Al組成層は、前記メサ構造の外周側に設けられ、かつ前記高Al組成層と同一面内にある酸化領域に挟持されて電流狭窄層を構成し、
酸化されていない狭窄領域を俯瞰して、下記で定義される19箇所の位置(P ~P 19 )を含むウエハ面内の19個以上の狭窄形状を測定した場合に、狭窄形状の結晶方位<01-1>の幅と、結晶方位<010>の幅との標準偏差がいずれも0.6μm以下であり、
前記結晶方位<01-1>の幅に対する前記結晶方位<010>の幅の比の平均が100~102%であることを特徴とするエピタキシャルウエハ。

前記19箇所の位置(P ~P 19 )は、
距離L 、L 、L を、それぞれ前記ウエハのウエハ径の5/76、11/20、11/64と定めて;
前記ウエハの中心を点P とし;
オリエンテーションフラットと平行かつ前記点P を通過する直線において、前記ウエハのエッジから前記距離L 内側の2点をそれぞれ点P 、P と定め;
前記オリエンテーションフラットと平行な辺を含み、一辺の長さを前記距離L とする正方形の各辺の頂点及び各辺を3等分した点を、時計回りに点P 、P 、・・・、P 15 と定め;
前記オリエンテーションフラットと平行な辺を含み、一辺の長さを前記距離L とする正方形の各辺の頂点を時計回りに点P 16 、P 17 、P 18 、P 19 と定める。ただし、前記19箇所の位置を超えて前記狭窄形状を測定する場合には、前記19箇所の位置と重ならない位置を測定箇所に選ぶものとする。
【請求項2】
前記狭窄形状が円形である、請求項1に記載のエピタキシャルウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分酸化を用いて製造するエピタキシャルウエハの製造方法及びそれを用いる半導体素子の製造方法、並びに、高Al組成層が部分酸化された電流狭窄層を有するエピタキシャルウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
面発光レーザ(VCSEL; Vertical Cavity Surface Emitting Laserともいう)は、光通信、DVDやCD、プリンター、光学マウスなど様々な用途に使用されてきたが、顔認証システムに使用されてからは、各種の3Dセンサー用途としても注目されている。また、レーザ発振はしないが電流狭窄層を有する点光源LEDなどの発光素子も各種センサー用途に使用される。
【0003】
特許文献1には、半導体基板上に積層された半導体層をドライエッチングすることでメサ構造を作製し、そのメサ構造の側壁から、高温水蒸気により高Al組成層の一部を外周側から水蒸気酸化して絶縁領域を形成した酸化型VCSELが開示されている。
【0004】
特許文献2には、熱酸化工程におけるウエハの反りやヒータ形状に依存するウエハ内での酸化のばらつきを防止した酸化装置が開示されている。
【0005】
酸化方法は、特許文献1には例えば、窒素をキャリアガスとする350℃の水蒸気雰囲気に30分間晒すと記載されている。また、特許文献2には、熱酸化温度を例えば400℃~500℃の間に設定することが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-327862号公報
【文献】特開2017-50389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エピタキシャルウエハ(以下、ウエハと略記することがある。)が大口径化するほどに、ウエハ面内での特性、すなわち、絶縁領域を形成するための酸化工程での酸化量のばらつきをいかに抑制するが課題となる。酸化量のウエハ面内ばらつきが大きいと、狭窄形状の大きさもウエハ面内でばらつく。したがって、ウエハから得られる半導体素子の順方向電圧の素子間でのばらつきも大きくなり、さらには信頼性の問題も生じやすくなる。特許文献2に記載の遊星駆動技術や温度の均一化は酸化量のばらつきを抑制するには有効ではあるが、さらなるばらつきの抑制が求められる。
【0008】
そこで本発明は、ウエハ面内の酸化量のばらつきを抑制した電流狭窄層を有するエピタキシャルウエハの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この製造方法を用いる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、ウエハ面内の酸化量のばらつきを抑制した電流狭窄層を有するエピタキシャルウエハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した。そして本発明者らは、酸化処理を行う対象の高Al組成層に、従来から推奨されていた水蒸気雰囲気での熱酸化の条件とは異なる条件下において酸化を行うことを想起した。その結果、ウエハ面内の酸化量による電流狭窄径のばらつき、および、電流狭窄径の影響を大きく受ける順方向電圧の値のばらつきを、従来よりも改善できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)基板上に少なくともAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層を含む半導体積層体を形成する工程と、
少なくとも前記高Al組成層の側面を露出させるメサ構造を形成する工程と、
前記高Al組成層の露出した前記側面から前記高Al組成層の一部を酸化処理することで電流狭窄層を形成する酸化工程を有し、
前記酸化工程において、水蒸気を0.001~0.01g/L含む雰囲気で、480~580℃で酸化処理することを特徴とするエピタキシャルウエハの製造方法。
【0011】
(2)前記半導体積層体を形成する工程において、前記基板上に下部反射層、発光層、前記高Al組成層、上部反射層を順に形成する、前記(1)に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0012】
(3)前記酸化工程の温度が510℃以上である、前記(1)又は(2)に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0013】
(4)前記高Al組成層のAl組成xが0.9≦x<1である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0014】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法により得られたエピタキシャルウエハをダイシングする工程を含む、半導体素子の製造方法。
【0015】
(6)3インチ以上の基板上に少なくともAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層を含む半導体積層体を有し、
少なくとも前記高Al組成層を含む電流狭窄層の側面が露出したメサ構造を具え、
前記高Al組成層は、前記メサ構造の外周側に設けられ、かつ前記高Al組成層と同一面内にある酸化領域に挟持されて電流狭窄層を構成し、
酸化されていない狭窄領域を俯瞰してウエハ面内の19個以上の狭窄形状を測定した場合に、狭窄形状の結晶方位<01-1>の幅と、結晶方位<010>の幅との標準偏差がいずれも0.6μm以下であることを特徴とするエピタキシャルウエハ。
【0016】
なお、本明細書では、結晶方位
【数1】

を、結晶方位<01-1>と表記する。
【0017】
(7)前記狭窄形状が円形であり、
前記結晶方位<01-1>の幅に対する前記結晶方位<010>の幅の比の平均が100~102%である、前記(6)に記載のエピタキシャルウエハ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりウエハ面内の酸化量のばらつきを抑制した電流狭窄層を有するエピタキシャルウエハの製造方法を提供することができる。また、本発明は、この製造方法を用いる半導体素子の製造方法を提供することができる。さらに本発明は、ウエハ面内の酸化量のばらつきを抑制した電流狭窄層を有するエピタキシャルウエハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に従う面発光レーザの製造工程を説明する図である。
図2】本発明の製造方法に適用できる水蒸気酸化装置の一例の概略図である。
図3】本発明のエピタキシャルエハの狭窄形状を測定するときのウエハ面内の19個の測定箇所を示す模式図である。
図4】実施例において狭窄径を測定した際の赤外線カメラ写真の代表例である。
図5】実施例におけるAl組成と酸化レートとの関係を示すグラフである。
図6】実施例におけるAl組成と酸化レートとの関係を示すグラフである。
図7】実施例におけるウエハ面内の順方向電圧Vfのばらつきを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(エピタキシャルウエハの製造方法)
本発明は高Al組成層を含む半導体積層体を有する半導体素子を得るためのエピタキシャルウエハに適用される。具体的には、基板の厚み方向において複数の半導体層に挟まれた状態の高Al組成層を、その側面から酸化することで部分的に酸化し、基板面内方向で高Al組成層が酸化層により挟持された電流狭窄層を形成する技術に関する。得られたエピタキシャルウエハをダイシングすることにより半導体素子を得ることができる。高Al組成層を基板の厚み方向において挟む層が何かは任意であり、様々な形態をとることができる。
【0021】
<半導体素子及びその態様としての面発光レーザ>
以下、図1の符号を参照しつつ本実施形態においては、半導体素子1の例として、基板10上に下部反射層20、発光層30、AlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層41を含む電流狭窄層40、上部反射層50を順に形成した面発光レーザに関して説明を行う。
【0022】
本発明によるエピタキシャルウエハの製造方法は、基板10上に少なくともAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層41を含む半導体積層体(図1の例では符号20,30,41、50)を形成する工程(図1ステップA)と、少なくとも高Al組成層41の側面を露出させるメサ構造を形成する工程(図1ステップB)と、高Al組成層41の露出した側面から高Al組成層41の一部を酸化処理することで電流狭窄層40を形成する酸化工程を有する(図1ステップC)。当該酸化処理により、高Al組成層41は、上記メサ構造の外周側に設けられた酸化領域42に挟持されて電流狭窄層40を構成する。そして、詳細を後述するように、酸化工程(図1ステップC)において、水蒸気を0.001~0.010g/L含む雰囲気で、480~580℃で酸化処理する。また、図1ステップDに示すように、上部反射層50の上に上面電極61を設けてもよく、基板10の裏面に下面電極62を設けてもよい。こうして得られた半導体素子構造を有するエピタキシャルウエハをダイシングすれば、半導体素子1を得ることができる。
【0023】
なお、図1は面発光レーザの具体例を示すものに過ぎず、本発明の製造方法を適用する高Al組成層41の位置は上記面発光レーザの例に何ら限定されない。下部反射層20と発光層30の間に高Al組成層41を設けることもできるし、様々な層を高Al組成層41の前後(図1の紙面上下方向)に挟むことができる。また、基板上に下部反射層、下部クラッド層、発光層、電流狭窄層、上部クラッド層を設けた半導体発光素子のように、上部反射層を持たない点光源LEDを得るために本製造方法を適用することもできるし、上下共に反射層を持たない電流狭窄型LEDに適用してもよい。半導体発光素子に限らず、半導体受光素子に本製造方法を適用してもよい。なお、反射層(下部反射層20および上部反射層50)とは、発光層30から放出される光を反射させるために設けられる層である。こうした反射層として、Al組成の異なるAlGaAs層(符号21,22及び51,52を参照)を交互に繰り返し積層したブラック反射層(DBR)や、金属反射層を用いることができる。
【0024】
以下、本発明の製造方法の各工程を順次説明する。
【0025】
<半導体積層体を形成する工程>
まず、図1ステップAに示すように、基板10上に少なくともAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層41を含む半導体積層体を形成する。
【0026】
<<高Al組成層の組成>>
高Al組成層41は、AlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなり、0.9≦x<1であることがより好ましい。Al組成xの値は、SIMSまたはTEM-EDSを用いて測定することができる。Al組成xが0.9未満の場合、高Al組成層と他の半導体層との酸化速度の差が小さく、高Al組成層41の選択的な酸化が困難となり、その結果、電流狭窄層40の形成も困難となる。また、AlAs(すなわちx=1)の場合、本発明によってウエハ面内での酸化量のばらつきを抑制できるものの、面方位の影響が強く残る(例えばメサ形状が円形でも狭窄形状が四角に近づく)傾向がある。そのため、酸化量だけでなく形状も均一にしたい場合には、0.9≦x<1とすることが好ましく、例えば0.9≦x≦0.98とすることがより好ましい。
【0027】
<高Al組成層以外の半導体層の組成>
高Al組成層41以外の半導体層については、高Al組成層41よりもAl組成が低く、高Al組成層41より酸化されにくい半導体層を用いることが好ましい。こうした半導体層としては、エピタキシャル成長において上記の電流狭窄層40を厚み方向に挟んで成長できる層であればよく、例えば、AlGaAs、AlInGaP、InGaAs、AlInP、InGaPとすることができる。
【0028】
<基板>
基板10は、エピタキシャル成長に用いる成長用基板のことを指す。なお、成長用の基板10上に半導体積層体をエピタキシャル成長した後に、支持用の任意の基板を半導体積層体上に接合して、成長用に用いた基板10を除去してもよい。こうした基板10としては、GaAs基板のほかに、InP基板を使用することもできる。ウエハが大口径化するほどに、ウエハ面内での特性、すなわち、酸化工程での酸化量のばらつきをいかに抑制するが課題となる。そこで、本発明の製造方法を適用することが好ましい基板は、3インチ以上である。
【0029】
<高Al組成層の側面を露出させるメサ構造を形成する工程>
次に、図1ステップBに示すように高Al組成層41の側面を露出させるメサ構造を形成する。高Al組成層41を含む半導体積層体に、特定の形状と配置パターンを有するメサ構造を形成することで、高Al組成層の側面を露出させる。メサ構造を形成するためには、フォトリソグラフィなどの一般的な手法を適用すればよい。
【0030】
メサ構造を形成した後の半導体積層体の形状としては、半導体積層体を俯瞰した形が円形、四角形や六角形などの多角形とすることができ、また、長方形のように縦横比を変えてもよい。さらに、メサ構造を形成した後の半導体積層体の電流狭窄層40の全ての側面を露出させるように周囲を除去する場合と、高Al組成層の一部の側面は露出させずに残し、所定間隔の空隙を設けた凹形状の溝を形成する場合とがある。いずれの場合であっても、高Al組成層が酸化するために水蒸気が高Al組成層の側面に十分に触れることができるメサ構造となればよい。
【0031】
<高Al組成層の露出した側面から高Al組成層の一部を酸化する酸化工程>
メサ構造を形成する工程に続き、酸化工程を行う(図1ステップC)。本工程はAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)の高Al組成層を酸化する工程であり、酸化によって絶縁性のAl酸化物を主成分とする複合酸化物が生成すると考えられる。この酸化工程は、水蒸気を用いて行う酸化工程であり、水蒸気を0.001~0.01g/L含む雰囲気で行うものとし、0.008g/L以下とすることが好ましい。なお、酸化工程中の高Al組成層41周辺の雰囲気中の水蒸気含有量が大きく変化しないように水蒸気を0.001~0.01g/L含むガスを10~30L/分で高Al組成層41に向けて流し続けることがより好ましい。また、水蒸気を0.001~0.01g/L含むガスは、酸化速度の再現性を確保するために窒素やアルゴンなどの不活性ガスに水蒸気を含ませることがより好ましい。
【0032】
発明者らは、酸化速度が供給律速となるか反応律速となるかが本発明の水蒸気の濃度と関係があるのではないかと予想している。水蒸気濃度が0.01g/L以下であると、酸化速度は主に供給律速となって、温度のばらつきに起因する反応速度のばらつきが酸化速度に及ぼす影響が小さくなる。一方、水蒸気の濃度が0.01g/Lを超えると供給が十分となって酸化速度は反応律速となり、温度のばらつきに起因する反応速度のばらつきが酸化速度に及ぼす影響が過剰になると予想される。そして、供給律速となる条件では、結晶異方性の影響(結晶方位によって反応速度が異なる影響)も低減されているのではないかと予想している。なお、水蒸気の濃度が0.001g/L未満であると、酸化レートが小さすぎて酸化工程に必要な時間が長くなりすぎ、製造工程として実用的ではなくなるため、水蒸気濃度の下限を0.001g/L未満とした。
【0033】
酸化処理が行われる温度(ステージ温度)は、従来適正といわれる温度より高い温度が適しており、480~580℃で行うものとし、510~580℃で行うことが好ましい。なお、酸化処理が行われている最中の半導体積層体の表面温度を厳密に測定することは困難であるため、ウエハ搭載後の酸化処理直前のステージ温度(設定温度)を酸化処理の温度とする。ステージ温度が480℃未満では、上記の水蒸気の濃度では、酸化レートが小さすぎて酸化工程に必要な時間が長くなりすぎ、製造工程としての実用的ではなくなる。一方、ステージ温度が580℃を超えると、酸化が急激に起こるために酸化をさせる予定ではない高Al組成層以外の半導体層への影響も大きく、半導体積層体の表面荒れなどの悪影響が起こる恐れが生じる。また、本工程における酸化時間は、必要な狭窄形状に応じて、水蒸気濃度と酸化処理が行われる温度(ステージ温度)に合わせて適宜設定すればよい。限定を意図しないが、例えば酸化時間を10分~3時間とすることができる。
【0034】
このような酸化工程を行うための水蒸気酸化装置100の構成例を図2に示す。マスフローコントローラーにより一定量で水を供給するとともに純水気化器において100度以上(例えば180度)に加熱された蒸気を一定の水蒸気量で供給する機構110と、水蒸気を予熱した(例えば120度の)窒素ガスなどの不活性ガスを用いてステージまで送る機構120と、ステージ上にウエハWを搬送・回収する機構(図示せず)と、ステージを特定の温度(ステージ温度)に加熱する機構130と、を有する。さらに、水蒸気を含むガスをステージ上のウエハに供給を開始してから供給を停止するまでの酸化時間に対し、高Al組成層の酸化の停止を確実に行うために、水蒸気を含むガスの停止とともにウエハに水蒸気を含まないガスをウエハに噴霧する機構140を有していてもよい。図2には、チャンバ内に導入したガスを排出するための排出口150を併せて図示した。
【0035】
以上の各工程を経て得られたエピタキシャルウエハをダイシングすることで、半導体素子を得ることができる。なお、ダイシングに先立ち、図1ステップDに示すように、上部反射層50の上に上面電極61を設けてもよく、基板10の裏面に下面電極62を設けてもよいことは前述のとおりである。また、電極の形態はこの例に何ら限定されず、半導体素子の態様に応じて適宜設ければよい。
【0036】
<エピタキシャルウエハ>
図1の符号を参照する。上記の製造方法によって得られるエピタキシャルウエハは、3インチ以上の基板10上に少なくともAlGa1-xAs(0.9≦x≦1)からなる高Al組成層41を含む半導体積層体を有する。そして、高Al組成層41と同一面内で高Al組成層41を挟持する酸化領域42により電流狭窄層40を構成する。そして、このエピタキシャルウエハは、電流狭窄層40の側面が露出したメサ構造を有しており、電流狭窄層40のウエハ面内での酸化量のばらつきを抑制することができる。ここで、ウエハ面内での酸化量のばらつきが抑制されるとは、すなわち、電流狭窄層40の酸化されていない狭窄領域の、ウエハ面内の19個以上の測定箇所について、狭窄形状の結晶方位<01-1>の幅と結晶方位<010>の幅とをそれぞれ測定した場合に、各結晶方位の幅の標準偏差が小さく、標準偏差が0.6μm以下であることをいう。標準偏差が0.4μm以下であることがより好ましい。
【0037】
なお、(100)面を上面とする閃亜鉛鉱型の半導体結晶における結晶方位において、使用する基板のオリエンテーションフラット(OF)が(011)面である場合、結晶方位<01-1>はOF水平方向に相当し、結晶方位<010>はOFに対して45度斜め方向に相当する。
【0038】
<電流狭窄層の酸化されていない領域(狭窄形状)の測定方法>
ウエハ面内の19個以上の測定箇所は、ウエハ面内の中心Pを含む図3に示す19箇所の位置(P~P19)を有するものとする。19個を超えて測定する場合には、図3に示す19箇所と重ならない位置を測定箇所に選ぶものとする。測定箇所P~P19の位置は、下記のとおり定める。
【0039】
まず、ウエハ中心を点Pとする。OFと平行かつ点Pを通過する直線において、ウエハエッジから距離L内側の2点をそれぞれ点P、Pと定める。次に、OFと平行な辺を含み、一辺の長さをLとする正方形の各辺の頂点及び各辺を3等分した点を、時計回りにP、P、・・・P15と定める。さらに、OFと平行な辺を含み、一辺の長さをLとする正方形の各辺の頂点を時計回りにP16、P17、P18、P19と定める。距離L、L、Lは、それぞれウエハ径の5/76、11/20、11/64とする。
【0040】
狭窄形状の測定方法としては、酸化によって透過率が変わることを利用して、狭窄形状を俯瞰した位置から例えば赤外線カメラを用いて撮影すればよい。撮影画像を観察し、酸化した領域と酸化していない領域とのコントラスト差から電流狭窄層の酸化されていない領域(狭窄形状)のサイズを測定することができる。
【0041】
<電流狭窄層の酸化されていない領域(狭窄形状)の形について>
メサ構造と同じく電流狭窄層の酸化されていない領域(狭窄形状)は、半導体積層体を俯瞰してみた場合の形が円形、四角形や六角形などの多角形とすることができ、また、長方形のように縦横比を変えてもよい。
【0042】
<異方性の抑制について>
本発明の製造方法に従い、電流狭窄層40の酸化されていない領域(狭窄形状)、つまり高Al組成層41の形状精度が上がる。メサ構造の特定パターンが円形であり、AlxGa1-xAs(0.9≦x<1)からなる高Al組成層41を含む電流狭窄層40を形成する場合、狭窄形状も円形となる。そして、円形における結晶方位<01-1>の幅(狭窄形状の直径)に対する結晶方位<010>の幅(狭窄形状の直径)の比の平均を、100~102%と、従来に比べて高精度にすることができる。メサ構造と狭窄形状がともにひずみの無い円であると、電流の広がり方が均一となりやすく、半導体素子としての効率を上げることができるため好ましい。なお、以下の実施例において狭窄形状の直径を狭窄径とも記載する。
【実施例
【0043】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
3インチのn型GaAs基板を用意した。次いで、MOCVD法により、上記GaAs基板(100)面上に、Al0.86Ga0.14As(70nm)とAl0.06Ga0.94As(60nm)のペアを繰り返して46ペア積層することで合計膜厚6μmの下部反射層(下部DBR)を結晶成長させた。下部反射層上に、発光層としてIn0.23Ga0.77Asを厚さ30nm結晶成長させた後、高Al組成層としてAl0.963Ga0.037Asを30nm結晶成長させた。高Al組成層上に、Al0.86Ga0.14As(70nm)とAl0.06Ga0.94As(60nm)のペアを繰り返して18ペア積層することで合計膜厚2.3μmの上部反射層(上部DBR)を結晶成長させた。
【0045】
次いで、上記上部反射層の上面にレジストを塗布し、フォトリソグラフィにより直径50μmの円が220μm間隔で縦横に並ぶパターンに配置されたレジストマスクを形成した。その後、ドライエッチング装置によって、レジストマスクによりマスクされていない領域を上部反射層から下部反射層の一部が露出するまでエッチングした。これにより、上部反射層、高Al組成層、発光層、および下部反射層の一部が円筒状に特定のパターンで立ち並ぶメサ構造を作製した、高Al組成層の側壁は円筒の外周として露出した状態となる。
【0046】
続いて、水蒸気酸化装置を用いて酸化処理を行った。酸化処理では、Al組成比の大きい層(本実施例1では、高Al組成層および下部反射層と上部反射層の一部に相当)が上記の円筒状の側壁から円筒の中心に向かう方向に酸化される。水蒸気酸化装置では、純水気化器において製造された180℃の水蒸気を、120℃の窒素ガスと混合し、処理チャンバ―内において540℃に加熱されたステージに搭載されたウエハの上記メサ構造に吹き付けた。このとき、処理チャンバ―の圧力は常圧とし、水蒸気を0.1g/min、および窒素ガスのガス流量を20L/minに調整することによって、吹き付けるガスの水蒸気濃度を1分あたり0.005g/Lとし、高Al組成層周辺の雰囲気中の水蒸気含有量が0.005g/Lとなるようにした。酸化処理の時間を110分間とし、水蒸気を含むガスの供給を停止すると共に25℃の窒素ガスをウエハの上記メサ構造に吹き付けることで酸化処理を停止させた。
【0047】
続いて、酸化処理後のウエハの酸化量の計測を行った。赤外線カメラを用いて、上部反射層側からウエハ面内の19カ所(OFを紙面下方向にし、前述した図3に示す位置)において、メサ径(外周径)と、酸化されていない領域の径(狭窄径)をそれぞれ測定した。
【0048】
レジストマスクを円形としたため、ドライエッチングにより形成されるメサ形状は円形であり、メサ径は当該円形の直径に相当する。そのため、メサ径は基板のオリフラ(011面)と水平方向の直径を代表値として測定した。酸化による狭窄径については、オリフラと水平方向である<01-1>方位の直径(水平狭窄径)だけでなく、オリフラに対し45°傾いた斜め方向である<010>方位の直径(斜め狭窄径)についても測定した。
なお、狭窄径は、赤外線カメラ(浜松ホトニクス製C9597-42U)を用いて観察した。酸化された領域と酸化されていない領域とでコントラスト差が生じるために、内蔵されている2点間距離計測の機能によって直径(狭窄径)を測定した。狭窄径を測定する際の赤外線カメラ写真のうち、点P16及び点Pの写真を代表例として図に示す。なお、各写真の中央部における濃色部が非酸化領域であり、当該濃色部を取囲む淡色部が酸化領域である。
【0049】
[実施例2]
酸化処理の時間を100分間とした以外は、実施例1と同様にした。
【0050】
[実施例3]
酸化処理の時間を40分間とした以外は、実施例1と同様にした。
【0051】
[比較例1]
酸化処理において、水蒸気を1.2g/minおよび窒素ガスのガス流量を20L/minに調整することによって、吹き付けるガスの水蒸気濃度を1分あたり0.06g/Lとして高Al組成層周辺の雰囲気中の水蒸気含有量が0.06g/Lとなるようにし、ステージ温度を520℃、酸化処理の時間を29分40秒間(29.7分間)とした以外は、実施例1と同様にした。また、狭窄径を測定する際の赤外線カメラ写真のうち、点P16及び点Pの写真を代表例として図に示す。
【0052】
[比較例2]
酸化処理において、水蒸気を1.2g/minおよび窒素ガスのガス流量を20L/minに調整することによって、吹き付けるガスの水蒸気濃度を1分あたり0.06g/Lとして高Al組成層周辺の雰囲気中の水蒸気含有量が0.06g/Lとなるようにし、酸化処理の時間を15分間とした以外は、実施例1と同様にした。
【0053】
[比較例3]
酸化処理において、水蒸気を0.4g/minおよび窒素ガスのガス流量を20L/minに調整することによって、吹き付けるガスの水蒸気濃度を1分あたり0.02g/Lとして高Al組成層周辺の雰囲気中の水蒸気含有量が0.02g/Lとなるようにし、酸化処理の時間を40分間とした以外は、実施例1と同様にした。
【0054】
実施例1~3および比較例1~3に係る酸化処理による酸化による狭窄径の評価を行った結果を表1に示す。なお、表中の水平狭窄径(μm)と斜め狭窄径(μm)については、図3に示す19か所の平均値と標準偏差(σ)の値をそれぞれ示し、斜め狭窄径と水平狭窄径との比率を「斜め/水平」(%)として表1に記載した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果より、実施例1~3においては比較例1~3に比べて酸化処理時間は長くなるものの、狭窄径のばらつきを示す標準偏差(σ)の値が小さい。したがって、実施例1~3では、ウエハ面内での酸化量のばらつきを抑制できることが分かった。また、斜め/水平の割合が100%に近いことから、メサ形状に対してより等方的に(異方性の影響を抑えて)酸化させることができることが分かった。
【0057】
(評価1:Al組成による酸化レートの違いの評価)
上記の実施例1と比較例1ではAl0.963Ga0.037Asを30nm結晶成長後、酸化処理して電流狭窄層を形成した。これに替えて、電流狭窄層をAl0.976Ga0.024Asから形成したサンプルと、電流狭窄層をAlAsから形成したサンプルとを用意して、ウエハ中央(図3の点P)における電流狭窄層のAl組成の違いによる酸化レート(=(メサ径-狭窄径)/2/処理時間)を測定した。水蒸気濃度0.06g/L・分、520℃での酸化処理の結果を図5に、水蒸気濃度0.005g/L・分、540℃での酸化処理の結果を図6に、それぞれ示す。
【0058】
図5,6のグラフより、本製造方法に従って酸化処理を行った方が、Al組成差による酸化レートの変化を僅かに小さくできることが分かった。このことが、表1の狭窄径のばらつきの抑制につながっている可能性がある。
【0059】
(評価2:順方向電圧の評価)
酸化処理後のウエハについて、上面反射層上にAu/Znからなる金属層を蒸着し、460℃でのアニール処理を行って上面電極とした。その後、GaAs基板裏面にAu/Ni/Geからなる金属層を蒸着し裏面電極とし、410℃でのアニール処理を行って裏面電極とした。
【0060】
ダイサーを用いてメサ構造の下部反射層の一部が露出した部分を切断して、個々の面発光レーザのチップとなるように分割した。チップを金属ステム上で銀ペーストを用いてマウントし、金ワイヤーを用いて上面電極にワイヤボンディングを行った。
【0061】
定電流電圧測定装置を用いて電流10mAを流した時の順方向電圧を、ウエハ面内のウエハ中央からウエハ外周まで径方向に等間隔に10カ所(オリフラ水平方向)にわたって測定した。比較例1、比較例3、実施例1における測定結果を図7に示す。
【0062】
図7より、本発明の製造方法における酸化工程のように、水蒸気濃度を小さくすることで、ウエハ面内での順方向電圧のばらつきを低減できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、従来よりもウエハ面内での酸化量のばらつきを抑制し、狭窄形状のばらつきが少ない品質が安定した面発光レーザなどの半導体素子を大量に提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 半導体素子
10 基板
20 下部反射層
30 発光層
40 電流狭窄層
41 高Al組成層
42 酸化領域
50 上部反射層
100 水蒸気酸化装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7