(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】水車発電機
(51)【国際特許分類】
F03B 11/06 20060101AFI20240523BHJP
F03B 3/12 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F03B11/06
F03B3/12
(21)【出願番号】P 2020130200
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】上原 賢一
(72)【発明者】
【氏名】徳脇 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽大
(72)【発明者】
【氏名】黒田 昇
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-221141(JP,A)
【文献】実開昭61-029072(JP,U)
【文献】特開2006-189014(JP,A)
【文献】特開2012-136952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0052325(US,A1)
【文献】特開平08-145051(JP,A)
【文献】特開2014-059025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 1/00-11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランナと、該ランナより水流の上流に設けた旋回流発生機能部と
、前記ランナより水流の下流に設けた下流管部とを有し、
前記ランナは、中心軸が本体部に固定された軸受で支持され、
該軸受は相対移動対象物との対向面が非金属であり、前記水流の経路中に配置され、前記対向面が水流に対して開放した構造であ
り、
前記下流管部は、前記ランナのプロペラの傾きと同方向であって中心軸に対し30°~60°の角度で傾くリブを備えることを特徴とする水車発電機。
【請求項2】
請求項1に記載の水車発電機において、
前記ランナは外周部に磁石またはコイルを有するロータを備え、
前記ロータの外周部にコイルを有するステータを有することを特徴とする水車発電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水車発電機において、
前記軸受は、転がり軸受であり、前記対向面である軌道が非金属であることを特徴とする水車発電機。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一に記載の水車発電機において、
非金属はセラミック材であることを特徴とする水車発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水車発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ランナと、ランナより水流の上流に設けた旋回流発生機能部とを有る水車発電機が知られている。
例えば特許文献1には、係る水車発電機であって、本体部によるランナの支持を、ランナの外周部に設けたランナショルダー部を本体部に設けた水循環軸受で支持することによって行うものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、水循環軸受への水供給を、水流の水を水管に形成した吸水口と、この吸水口に接続された給水配管を介して行っており、機構が複雑になっている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するために、本発明は、ランナと、該ランナより水流の上流に設けた旋回流発生機能部と、前記ランナより水流の下流に設けた下流管部とを有し、前記ランナは、中心軸が本体部に固定された軸受で支持され、該軸受は相対移動対象物との対向面が非金属であり、前記水流の経路中に配置され、前記対向面が水流に対して開放した構造であり、前記下流管部は、前記ランナのプロペラの傾きと同方向であって中心軸に対し30°~60°の角度で傾くリブを備えるものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば機構を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る水車発電機100の縦断面図。
【
図2】上流管部、ランナ、及び下流管部の縦断面図。
【
図3】
図2の例における下流管部、ランナ及び上流管部のそれぞれの斜視図。
【
図4】
図2の例の下流管部、ランナ及び上流管部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明をインライン方式のマイクロ水力発電機としての水車発電機に適用した実施形態について説明する。マイクロ水力発電機は用水路や小さな河川での発電が可能となる。インライン方式は発電効果の高く一般河川や上水道施設での利用も期待されている。マイクロ水力発電は例えば100KW以下といった程度の発電である。
【0008】
図1は実施形態に係る水車発電機100の縦断面図である。図が軸心Xで線対称に現れるので、軸心Xの片側部分のみ図示している。水車発電機100は、水車と発電機の一体型である。配管等のクローズされた水流に固定される。上流フランジ取り合い部1、下流フランジ取り合い部2それぞれを配管に固定する。図中右側のAが水流上流側、図中左側のBが水流下流側とする。つまり、水流に固定された状態で、図中右側から左側に水流が形成されるものとする。
【0009】
水車発電機100はケーシング10内に上流管部20、ランナ管部30、下流管部40が配置されている。これらの管部のうち主にランナ管部30の外周に対向するようケーシング10の内周部に発電機を構成するコイル50aを備えたステータ50が配置されている。上流管部20の中心部にはボス部21があり、上流管部20の内壁とボス部21の外周を接続するようにガイドベーン22が形成されている。ガイドベーン22により旋回流発生部が構成されている。下流管部40の中心部にもボス部41があり、下流管部40の内壁とボス部41の外周とを接続するリブ42が形成されている。ランナ管部30はランナ31を備えている。ランナ31はハブ部37の中心に軸32が固設され、軸32の両端には転がり軸受60が設けられている。ランナ31におけるプロペラ33の外周を連結する外周管部34に発電機の構成要素であるロータ35が固設されている。ロータ35には永久磁石35aが取り付けられている。ランナ31とロータ35の固定は図示の例ではシャフト36による連結を用いて行われている。
【0010】
図2は上流管部20、ランナ31、及び下流管部40の縦断面図である。ボス部21,41の具体的な形状は
図1のものとは多少異なっている。上流の転がり軸受60の上流側にはボス部21の軸受け穴壁との間にスペーサ64も設けている。下流側の転がり軸受と軸32の鍔部32aとの間には円筒状のスペーサ65も設けてある。ランナ31のハブ部37と上流管部20のボス部21との間には転がり軸受60の配置空間に連通する隙間G1,G2が形成され、転がり軸受60の箇所まで水が浸入する。下流管部40のボス部41との間にも同様に転がり軸受60の配置空間に連通する隙間G3が形成され、転がり軸受60の箇所まで水が浸入する。つまり、転がり軸受60が水流の経路中に配置され、軌道面が水流に対して開放した構造になっている。
【0011】
図2のボス部21,41などの具体的な形状は発電効率を考慮した次の形状にしている。つまり、上流管部20のボス部21は上流部から外径が徐々に増加(流路断面は徐々に減少)し、中央部で一定範囲外径平行部(流路断面一定)なる。この中央部には、外形がほぼ平行なランナ管部30のハブ部37と、下流管部40のボス部41の外形平行部も含む。下流管部40のボス部41の外形平行部から下流部にかけ外径が徐々に減少する(流路断面積は徐々に増加する)。下流管部40のリブ42は、ランナ管部30のプロペラ33の傾きと同方向の傾きを設ける。傾きを持たせることで、ランナ管部30の後方に発生する旋回流に対して、抵抗を低減し発電効率の低下を防止することができる。リブ42の傾きについては中心軸に対し30°~60°の設定することが好ましい。
【0012】
図3は
図2の例における下流管部40、ランナ31及び上流管部20のそれぞれの斜視図である。
図3(c)が下流管部40の下流側を示す斜視図、
図3(b)はランナ31の上流側を示す斜視図、
図3(c)が上流管部20の下流側を示す斜視図である。
図3(b)のランナ31外周に形成されている溝がロータ連結用のシャフト36が入り込む溝36aである。
【0013】
図4は
図2の例の下流管部40、ランナ31及び上流管部20の斜視図である。
図4(a)は上流側から見た斜視図、
図4(b)は下流側から見た斜視図である。
【0014】
図1に戻り、ケースの上流フランジ取り合い部1より流入した水流は、ガイドベーン22からなる旋回流発生部で回転運動を伴う流れとなる。旋回流発生部で生じた旋回流れで固形分は遠心力を受け外周方向へ移動する。旋回流発生部を通過した流れはランナ31のプロペラ33に衝突し、ランナ31は回転方向に力を受ける。ランナ31は固定されているロータ35や軸32と同期される。
【0015】
軸32は、両端それぞれが転がり軸受60,60の内輪51に装着されている。上流側の転がり軸受60の外輪52は、上流管部20のボス部21に装着される。このボス部21が上流軸受け保持部として機能する。下流側の転がり軸受60の外輪52は、下流管部40のボス部41に装着される。このボス部41が下流側軸受け保持部材として機能する。このように軸両端が軸受されることで、ランナ31に加わった回転力により、外輪52を固定された転がり軸受60を起点に回転することが可能となる。
【0016】
転がり軸受60の転がり軸受の方式については、ボールベアリングやコロベアリングを使用することが好ましい。また片側、もしくは両側をアンギュラベアリングとし、スラスト方向の加重を受けることが可能となる。ベアリングの数量については、荷重や回転数によるベアリング寿命を考慮し、多段に装着することも可能である。
【0017】
転がり軸受60は非金属性の軌道を用いることで、水潤滑においてもクリープやピーキングを起こすことなく、滑らかな回転で稼働することが可能となる。ボールやコロの材質については金属製でも問題ない。なお、速度差が生じる相対移動対象物との対向面が非金属であれば、滑り軸受や水循環軸受でもよい(滑り軸受における摺動面や水潤滑軸受における軸受面が対向面に相当する)。軌道面を含む上記対向面が非金属の軸受を用いることで、潤滑油が無くても水流を利用した水潤滑が可能となる。潤滑油の使用が必要なく稼働が可能となることで、潤滑油を有する軸受け部と、水流を隔離していた接触シールが不要となり、さらに回転抵抗は小さくなることから、水車の発電効率は向上する。このうち転がり軸受でれば、軸受けは固形物噛みしやすくなるが、上流の旋回流発生機能により固形物は壁面に集まることで、軸の中心部に軸受けを設けることにより、固形異物含有の水流でも安定稼働できる。
【0018】
以上、本実施形態では、ランナ31と、ランナ31より水流の上流に設けたガイドベーン22からなる旋回流発生機能部とを有し、ランナ31は、中心軸である軸32が本体部であるボス部21,41に固定された軸受60に支持され、軸受60は、相対移動対象物であるボールあるいはコロとの対向面である軌道面が非金属であり、水流の経路中に配置され軌道面が水流に対して開放した構造である。このように、ランナ31が軌道面が水流に対して開放構造の軸受で中心軸を支持するので、特許文献1とは異なり、給水配管が不要で機構の簡素化ができる。しかも、軌道面が非金属であるので、接触シールも不要である。
【0019】
図示の例の発電機は、ランナ31の外周部に構成したが、これに代えて各ボス部内にロータ、ステータなどを設置し、電力を取り出すことは可能となる。但し、この場合には、発電部が小型となるため、小型のマイクロ水力発電機では大きな発電量は望めない。よって、図示の例のように、ロータ35に永久磁石35a又はコイルを設置し、かつケーシング10に鉄心50bやコイル50aを設け方が好ましい。これにより、比較的径が大きい回転による相対運動を発生することで、より大きな発電を発生させることが可能となる。何れの場合にも、鉄心50bは、軽量化のため、コアレス方式のステータ50を採用することも可能である。
【0020】
転がり軸受60のべアリング軌道については、樹脂製を採用することで低抵抗化が可能となる。摩耗による寿命低下は発生するが、低回転、低荷重の条件で稼働できれば、より高効率で発電が可能となる。樹脂材質については特定するものはない。POM、PEEK、PET、シリコン、テフロン(登録商標)等を使用することは可能となる。さらに転がり軸受60はセラミック軌道、およびセラミックボールを使用することで、コストアップにはなるが、高寿命、高耐候性で安定した水車の稼働を可能とする。樹脂材質については特定するものはない。Zi系焼結材、Ti系焼結材、Si系焼結材等を使用することは可能となる。
【0021】
[比較例1]
系路中に水車が装着可能な、貯水槽を持つポンプ循環水路にて、水車の性能確認を実施した。流量はインバーターにて20L/sに固定し、水車の回転数は1000r/mとなるよう、電子負荷装置にて負荷を与え、回転を均一にした。その時の水車前後の差圧は0.04MPa状態で1000万回転稼働させた。水車は流路中心にコイルを設け、軸受けは金属ベアリングを設け、接触式のリップシールで潤滑グリスの流失を防止した結果、発電電力は224W。発電効率は28%となった。実験後軸受けを解体し、ボールベアリングのスラスト隙間を測定した結果、0.050mmの増加が確認された。また循環水槽の上澄みを捕集し乾燥した後、FT-IRにてグリス成分の測定を行ったところ、特定ピークに微量スペクトルが検出された。
【0022】
[実施例1]
軸受けは硬質ゴム軌道のボールベアリングを設け、潤滑グリス及びシールを設けない構造以外は、比較例1と同様の設備、及び条件にて稼働した。結果、発電電力は264W。発電効率は33%となった。実験後軸受けを解体し、ベアリングのスラスト隙間を測定した結果、0.350mmの増加が確認されたが、油分は検出されなかった。
【0023】
[比較例2]
ローター外周部にボールベアリング軸受け、並びに永久磁石を持ち、ステーター部に発電コイルを持つ水力発電機を、比較例1に記載の循環ラインに設置し、性能評価を行った。発電電力は264W。発電効率は33%となった。実験後軸受けを解体し、ベアリングのスラスト隙間を測定した結果、0.150mmの増加が確認されたが、油分は検出されなかった。
【0024】
[実施例2]
ローター中心の軸の上下流に硬質ゴム軌道のボールベアリングを持ち、ローター外周部永久磁石、ステーター部に発電コイルを持つ水力発電機を、比較例1に記載の循環ラインに設置し、性能評価を行った。発電電力は304W。発電効率は38%となった。実験後軸受けを解体し、ベアリングのスラスト隙間を測定した結果、0.350mmの増加が確認されたが、油分は検出されなかった。
【0025】
[実施例3]
ローター中心の軸の上下流にPOM軌道ベアリングを持ち、ローター外周部永久磁石、ステーター部に発電コイルを持つ水力発電機を、比較例1に記載の循環ラインに設置し、性能評価を行った。発電電力は408W。発電効率は51%となった。実験後軸受けを解体し、ベアリングのスラスト隙間を測定した結果、0.200mmの増加が確認されたが、油分は検出されなかった。
【0026】
[実施例4]
ローター中心の軸の上下流にSi3N4軌道及び転動体のボールベアリングを持ち、ローター外周部永久磁石、ステーター部に発電コイルを持つ水力発電機を、比較例1に記載の循環ラインに設置し、性能評価を行った。発電電力は416W。発電効率は52%となった。実験後軸受けを解体し、ベアリングのスラスト隙間を測定した結果、0.030mmの増加が確認されたが、油分は検出されなかった。
【符号の説明】
【0027】
1 :上流フランジ取り合い部
2 :下流フランジ取り合い部
10 :ケーシング
20 :上流管部
21 :ボス部
22 :ガイドベーン
30 :ランナ管部
31 :ランナ
32 :軸
32a :鍔部
33 :プロペラ
34 :外周管部
35 :ロータ
35a :永久磁石
36 :シャフト
36a :溝
37 :ハブ部
40 :下流管部
41 :ボス部
42 :リブ
50 :ステータ
50a :コイル
50b :鉄心
51 :内輪
52 :外輪
60 :転がり軸受
64 :スペーサ
65 :スペーサ
100 :水車発電機
G1 :隙間
G2 :隙間
G3 :隙間
X :軸心
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】