(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/10 20060101AFI20240523BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20240523BHJP
A01N 37/40 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
A01N37/10
A01P17/00
A01N37/40
(21)【出願番号】P 2020052742
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手林 慎一
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるケイ皮酸化合物またはその塩
(但し、ケイ皮酸メチルを除く)を有効成分として含有することを特徴とするワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【化1】
[式中、
R
1は
、C
1-6アルコキシ基
、および水酸
基から選択される置換基を示し、
R
2は、H、またはC
1-6アルキル基を示し、
nは、0以上、
3以下の整数を示し、
nが2以上の整数である場合、2以上のR
1は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
第3位および/または第4位にR
1を有する請求項1に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【請求項3】
R
1
が水酸基である請求項1または2に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【請求項4】
R
1がC
1-6アルコキシ基である請求項1または2に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【請求項5】
nが0である請求項1に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【請求項6】
R
2がHである請求項1~5のいずれかに記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【請求項7】
更に溶媒を含む請求項1~5のいずれかに記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダンゴムシやワラジムシ等のワラジムシ目生物は、落葉などを食べる分解者としての役割を担う一方で、農作物の葉や茎などを食べる害虫であったり、また不快害虫としての側面も有する。ヤスデ綱生物も同様に自然界の分解者であるともいえるが、刺激によりシアン化合物などの毒性化合物や刺激性化合物を放出するなど、不快害虫であるともいえる。また、何らかの原因により大量発生し、鉄道の運行を妨げた事例もある。
【0003】
従来より殺虫剤の有効成分としてはピレスロイドが用いられているが、上記の通りワラジムシ目生物とヤスデ綱生物は分解者として働くことや、ピレスロイドは益虫まで殺してしまうことから、ワラジムシ目生物やヤスデ綱生物に対してはその接近を抑制する忌避剤が好ましい。昆虫などに対する忌避剤の成分としては、N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)が汎用されているが、臭気の問題の他、アレルギーや肌荒れを起こすという問題がある。そこで、安全な害虫防除剤が種々開発されている。
【0004】
例えば特許文献1には、食酢、オリゴ糖類、および米糠抽出成分を含む植物活力剤が記載されているが、アブラムシを駆除したとのデータも開示されており、小昆虫には致死的なものであると考えられるし、ワラジムシ目生物やヤスデ綱生物に対する効果は不明である。
【0005】
特許文献2には、ケイ皮酸および/またはケイ皮酸誘導体を含み、害虫を毒で殺すのではなく、害虫を確実に農作物や園芸作物から遠ざけることのできる農・園芸産物用害虫忌避剤が記載されている。しかし特許文献2にはアブラムシに対する効果を示すデータが開示されているのみであり、ワラジムシ目生物やヤスデ綱生物に対する効果は不明である。
【0006】
特許文献3には、キク科センダングサ属植物の抽出物を有効成分として含むマツ材線虫病の防除剤が開示されているが、マツノザイセンチュウやマツノマダラカミキリを防除するためのものであり、ワラジムシ目生物やヤスデ綱生物に対する効果は不明である。
【0007】
特許文献4には、環式セスキテルペン化合物とケイ皮酸などのフェニルプロパノイド化合物とを含有する害虫忌避剤が開示されているが、対象となる害虫としてはシラミ、ハエ、カ、ダニ、アブなどであり、コロモジラミに対する効果を示すデータが開示されているのみであり、ワラジムシ目生物やヤスデ綱生物に対する効果は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-61344号公報
【文献】特開2003-2805号公報
【文献】特開2013-249278号公報
【文献】特開2017-114770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定のケイ皮酸化合物がワラジムシ目生物とヤスデ綱生物に対して優れた忌避作用を示すことを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] 下記式(I)で表されるケイ皮酸化合物またはその塩を有効成分として含有することを特徴とするワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【化1】
[式中、
R
1は、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、C
1-6アルコキシ-カルボニル基、水酸基、ホルミル基、カルボキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シアノ基、およびニトロ基から選択される置換基を示し、
R
2は、H、またはC
1-6アルキル基を示し、
nは、0以上、5以下の整数を示し、
nが2以上の整数である場合、2以上のR
1は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[2] 第3位および/または第4位にR
1を有する上記[1]に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
[3] R
1がC
1-6アルコキシ基および/または水酸基である上記[1]または[2]に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
[4] R
1がC
1-6アルコキシ基である上記[1]または[2]に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
[5] nが0である上記[1]に記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
[6] R
2がHである上記[1]~[5]のいずれかに記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
[7] 更に溶媒を含む上記[1]~[5]のいずれかに記載のワラジムシ目生物および/またはヤスデ綱生物に対する忌避剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る忌避剤の有効成分であるケイ皮酸化合物は、植物なども生合成して天然にも存在するものであり、比較的安全であるといえる。例えばケイ皮酸は、皮膚刺激性や、特に眼に対する刺激性が指摘されているが、極低量でもワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物に対して優れた忌避作用を示し、このような低濃度ではヒトに対する刺激性もほとんどないと考えられる。また、忌避作用を示す量において、極低量でワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物の死亡例は認められなかった。よって本発明に係る忌避剤は、安全である一方で、極低量でワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物に対して優れた忌避作用を示すものとして、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る忌避剤は、式(I)で表されるケイ皮酸化合物(以下、「ケイ皮酸化合物(I)」という)またはその塩を有効成分として含有する。
【0014】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはメチルである。
【0015】
「C1-6アルコキシ基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の飽和脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキソキシ等であり、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-2アルコキシ基であり、より更に好ましくはメトキシである。
【0016】
「C1-6アルコキシ-カルボニル基」は、C1-6アルコキシ基に置換されたカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n-プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n-ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、n-ペントキシカルボニル、n-ヘキソキシカルボニル等であり、好ましくはC1-4アルコキシ-カルボニル基であり、より好ましくはC1-2アルコキシ-カルボニル基であり、より更に好ましくはメトキシカルボニルである。
【0017】
「アミノ基」には、無置換のアミノ基(-NH2)のほか、1個の上記C1-6アルキル基に置換されたモノC1-6アルキルアミノ基と2個の上記C1-6アルキル基に置換されたジC1-6アルキルアミノ基が含まれるものとする。かかるアミノ基としては、アミノ(-NH2);メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、t-ブチルアミノ、n-ペンチルアミノ、n-ヘキシルアミノ等のモノC1-6アルキルアミノ;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(n-ペンチル)アミノ、ジ(n-ヘキシル)アミノ、エチルメチルアミノ、メチル(n-プロピル)アミノ、n-ブチルメチルアミノ、エチル(n-プロピル)アミノ、n-ブチルエチルアミノ等のジC1-6アルキルアミノを挙げることができる。好ましくは、無置換のアミノ基である。
【0018】
「ハロゲノ基」としては、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを例示することができ、クロロまたはブロモが好ましく、クロロがより好ましい。
【0019】
R1は、ケイ皮酸化合物(I)のベンゼン環上の置換基であり、対象生物によっては、n=0、即ちベンゼン環上が置換されていないケイ皮酸化合物(I)の忌避活性が高い場合がある。
【0020】
また、対象生物によっては、R1として親水性のものがよい場合と、疎水性のものがよい場合とがある。親水性または比較的親水性のR1としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シアノ基、およびニトロ基が挙げられ、水酸基、カルボキシ基、およびアミノ基が好ましく、水酸基がより好ましい。疎水性または比較的疎水性のR1としては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-カルボニル基が挙げられ、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-カルボニル基が好ましく、C1-6アルコキシ基がより好ましい。また、R1としては、C1-6アルコキシ基および/または水酸基も好ましい。
【0021】
ベンゼン環上の置換基R1の数nは、置換可能であれば特に制限されないが、1以上、3以下が好ましく、1または2がより好ましい。ベンゼン環上の置換基R1の数nが2以上である場合、2以上のR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
ベンゼン環上の置換基R1の位置としては、プロパ-2-エン酸基に対して第3位(m位)および/または第4位(p位)が好ましく、第3位がより好ましい。
【0023】
R2がHである場合にはケイ皮酸化合物(I)はカルボン酸化合物であり、C1-6アルキル基である場合はエステル化合物となる。本発明者の実験的知見によれば、対象生物によって、R2がHであるケイ皮酸化合物(I)により高い忌避活性が認められた場合と、R2がC1-6アルキル基であるケイ皮酸化合物(I)により高い忌避活性が認められた場合があった。
【0024】
ケイ皮酸化合物(I)は、塩にしてもよい。塩にすることにより、水溶性が向上するか、或いは親水性が向上して水系溶媒に対する分散性が改善される可能性がある。カルボキシ基に対する塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などの第2族金属塩;アンモニウム塩が挙げられる。アミノ基に対する塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩などの有機酸塩;グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩などのアミノ酸塩が挙げられる。
【0025】
ケイ皮酸化合物(I)には、植物に含まれるものがある。よってケイ皮酸化合物(I)は、植物から他の化合物も含む組成物として抽出してもよいし、かかる抽出物から更に単離してもよい。また、ケイ皮酸およびその誘導体は、ベンズアルデヒド化合物に無水酢酸および酢酸カリウムを反応させるパーキン反応によって合成することができる。カルボキシ基のエステル化や、カルボキシ基およびアミノ基の塩化は、常法に従えばよい。
【0026】
ケイ皮酸化合物(I)は、ワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物に対する忌避作用を示す。よって、ケイ皮酸化合物(I)を、畑や花壇など、ワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物を近付けたくない場所の周辺に載置したり散布したりすればよい。
【0027】
ワラジムシ目生物は、軟甲綱真軟甲亜綱フクロエビ上目に属する甲殻類であり、例えば、コシビロダンゴムシ科生物(Armadillidae)、オカダンゴムシ科生物(Armadillidiidae)、ハマダンゴムシ科生物(Tylidae)、ナガワラジムシ科生物(Trichoniscidae)、ヒゲナガワラジムシ科生物(Olibrinidae)、ウミベワラジムシ科生物(Scypacidae)、ヒメワラジムシ科生物(Philosciidae)、ホンワラジムシ科生物(Oniscidae)、ハヤシワラジムシ科生物(Trachelipidae)、ワラジムシ科生物(Porcellionidae)、フナムシ科生物(Ligiidae)を含むワラジムシ亜目生物(Oniscidea)が挙げられ、所謂ダンゴムシ、ワラジムシ、フナムシが挙げられる。
【0028】
ヤスデ綱生物は、節足動物門(Arthropoda) 多足亜門(Myriapoda)に属する節足動物であり、例えば、フサヤスデ目生物(Polyxenida)、ヒラタヤスデ目生物(Platydesmida)、ギボウシヤスデ目生物(Siphonophorida)、ジヤスデ目生物(Polyzoniida)、ツムギヤスデ目生物(Chordeumatida)、オビヤスデ目生物(Polydesmida)、フトマルヤスデ目生物(Spirobolida)、ヒキツリヤスデ目生物(Spirostrepsida)、ヒメヤスデ目生物(Julida)が挙げられる。
【0029】
ケイ皮酸化合物(I)としては、常温で固体のものが多いため、粒状や粉末状のものを、ワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物を忌避すべき場所に散布してもよい。或いは、ケイ皮酸化合物(I)は少量でも優れた忌避作用を示すため、その溶液または分散液を散布してもよい。
【0030】
ケイ皮酸化合物(I)の多くは、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のC1-4アルコール溶媒に溶解性を示すため、ケイ皮酸化合物(I)の溶液および分散液の溶媒としてはC1-4アルコール溶媒が好ましく、また、水とC1-4アルコール溶媒の混合溶媒であってもよい。C1-4アルコール溶媒としては、エタノールおよびイソプロパノールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0031】
本発明に係る忌避剤におけるケイ皮酸化合物(I)またはその塩の濃度は、特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、0.001質量%以上、90質量%以下とすることができる。本発明に係る忌避剤が、例えば、ケイ皮酸化合物(I)またはその塩の溶液または分散液である場合、その濃度は、0.001質量%以上、80質量%以下とすることができる。当該濃度としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がより更に好ましい。特にケイ皮酸化合物(I)は微量でもワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物に対して優れた効果を示すため、ケイ皮酸化合物(I)またはその塩の溶液または分散液の濃度は、0.001質量%以上、10質量%以下とすることができる。当該濃度が0.001質量%以上であれば、ワラジムシ目生物およびヤスデ綱生物に対する忌避作用がより確実に発揮され、10質量%以下であれば散布者などに対する害をより確実に低減することができる。上記濃度としては、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また、粉末剤などの固形剤におけるケイ皮酸化合物(I)またはその塩の濃度としては、同様の理由から0.001質量%以上、90質量%以下とすることができ、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また、80質量%以下または50質量%以下が好ましく、30質量%以下または20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がより更に好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実施例1: オカダンゴムシに対する実験
直径70mmの濾紙を4等分し、2枚ずつに分け、表1に示すケイ皮酸化合物の1000ppm、100ppmもしくは10ppmメタノール溶液0.2mL、またはメタノール0.2mLを塗布し、60℃で2時間乾燥した。
30cm×23cm×高さ1.7cmのプラスチック製直方体容器の四隅に、ケイ皮酸化合物溶液を塗布した濾紙同士とメタノールを塗布した濾紙同士が対角に位置するよう置いた。容器の中央に、オカダンゴムシ(Armadillidium vulgare)20匹を入れたカップを逆さにしておいた後、カップを除去し、容器に蓋をして暗中30分間放置した。次いで、蓋を開け、ケイ皮酸化合物溶液を塗布した濾紙(実施例)とメタノールを塗布した濾紙(対照例)の上のオカダンゴムシの匹数を数えた。同様の実験を5回行い、平均値を算出し、下記式により誘因率(%)を算出した。なお、いずれかの濾紙の上にいなかったオカダンゴムシは計数しなかった。
誘因率(%)=[(対照例または実施例の匹数)/(濾紙上の総匹数)]×100
t-テストで対照例と実施例間の誘因率につき有意差検定した。死亡例は一例も認められなかった。なお、オカダンゴムシは、隅部や狭小部に集合する性質がある。結果を表1に示す。表1中、「*」はp<0.05で有意差が認められたことを示し、「-」は、100ppmの濃度でp<0.05で有意差が認められなかったこと等のため実験を行わなかったことを示す。
【0034】
【0035】
表1に示される結果の通り、試験した化合物は、1例を除いて何れも1000ppm、即ち0.1mg/mLでダンゴムシに対して有意な忌避作用を示した。1000ppmの場合、濾紙上の化合物の量は僅か約2.0×10-4gである。また、10ppm、即ち約2.0×10-6gでも有意な効果を示すものもあった。1000ppmで有意差が認められなかった1例の化合物でも、ダンゴムシ数は対照例の濾紙上の方が多かった。
化合物の置換基に関しては、ベンゼン環上に置換基を有さないか或いは3位に置換基を有するケイ皮酸化合物がダンゴムシに対して高い忌避活性を示し、次に4位に置換基を有するケイ皮酸化合物の忌避活性が高かった。
ベンゼン環上の置換基がメトキシ基であるケイ皮酸化合物の忌避活性が比較的高かった。
また、カルボキシ基がエステル化されていないケイ皮酸化合物の活性が高い傾向が示された。
【0036】
実施例2: ワラジムシに対する実験
22cm×15cm×高さ5cmのプラスチック製直方体容器の四隅に、実施例1で作製したケイ皮酸化合物溶液塗布濾紙とメタノール塗布濾紙を、実施例1と同様に四隅に置いた。容器の中央に、ワラジムシ(Porcellionides pruinosus)10匹を入れたカップを逆さにしておいた後、カップを除去し、容器に蓋をして暗中30分間放置した。次いで、蓋を開け、ケイ皮酸化合物溶液塗布濾紙(実施例)とメタノール塗布濾紙(対照例)の上のワラジムシの匹数を数えた。同様の実験を5回行い、平均値を算出し、誘因率(%)を算出した。なお、いずれかの濾紙の上にいなかったワラジムシは計数しなかった。t-テストで対照例と実施例間の誘因率につき有意差検定した。死亡例は一例も認められなかった。結果を表2に示す。表2中、「*」はp<0.05で有意差が認められたことを示し、「-」は、より高濃度でp<0.05で有意差が認められなかったこと等のため実験を行わなかったことを示す。
【0037】
【0038】
表2に示される結果の通り、試験した化合物は、3例を除いて何れも1000ppm、即ち0.1mg/mLでダンゴムシに対して有意な忌避作用を示した。1000ppmの場合、濾紙上の化合物の量は僅か約2.0×10-4gである。また、10ppm、即ち約2.0×10-6gでも有意な効果を示すものもあった。
化合物の置換基に関しては、ベンゼン環上に置換基を有さないか或いは3位または4位に置換基を有するケイ皮酸化合物がワラジムシに対して比較的高い忌避活性を示した。
【0039】
実施例3: フジヤスデに対する実験
ワラジムシをフジヤスデ(Anaulaciulus sp.)に変更した以外は実施例2と同様にして実験を行った。死亡例は一例も認められなかった。結果を表3に示す。表3中、「*」はp<0.05で有意差が認められたことを示し、「-」は、より高濃度でp<0.05で有意差が認められなかったこと等のため実験を行わなかったことを示す。
【0040】
【0041】
表3に示される結果の通り、試験した化合物の多くは1000ppm、即ち0.1mg/mLでダンゴムシに対して有意な忌避作用を示した。1000ppmの場合、濾紙上の化合物の量は僅か約2.0×10-4gである。また、100ppm、即ち約2.0×10-5gでも有意な効果を示すものもあった。
化合物の置換基に関しては、ベンゼン環上に置換基を有さないか或いは3位に置換基を有するケイ皮酸化合物がヤスデに対して比較的高い忌避活性を示し、次に4位に置換基を有するケイ皮酸化合物の忌避活性が高かった。