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特許7492754重合性組成物及びそれを用いる硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】重合性組成物及びそれを用いる硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20240523BHJP
   C08F 22/10 20060101ALI20240523BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20240523BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240523BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F22/10
C09J4/00
H01L23/30 R
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021552278
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035450
(87)【国際公開番号】W WO2021075206
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019190969
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文子
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-081879(JP,A)
【文献】特表2019-516668(JP,A)
【文献】特表2018-517809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0210894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 22/10
C09J 4/00
H01L 23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性組成物であって、
(a)1種以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であって、各々、下記式(I):
【化10】

で表される構造単位を少なくとも1つ有する、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物、
及び
(b)1種以上の、前記化合物(a)と実質的に反応しないイオン性化合物であって、
ビススルホニルイミドアニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン及びスルホネートアニオンからなる群より選択されるアニオン;及び
オニウムカチオン
を含む、イオン性化合物
を含み、
1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤と接触すると重合する、重合性組成物。
【請求項2】
イオン性化合物(b)のオニウムカチオンが、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及びスルホニウムカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量が180以上10000以下である、請求項1又は2記載の重合性組成物。
【請求項4】
水を250ppm~10000ppm含む、請求項1~3のいずれか一項記載の重合性組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の重合性組成物、及び潜在化された1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤を含む、一液型の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
水を250ppm~10000ppm含む、請求項5記載の一液型の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
二液混合型の硬化性樹脂組成物のキットであって、
(A)請求項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物を含む主剤;及び
(B)下記(c)を含む硬化剤
(c)1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤
を含む、キット。
【請求項8】
電子部品製造に用いられる、請求項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物、請求項5又は6記載の一液型の硬化性樹脂組成物又は請求項7記載のキット。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物、請求項5又は6記載の一液型の硬化性樹脂組成物又は請求項7記載のキットを含む、電子部品用接着剤又は封止材。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物、請求項5又は6記載の一液型の硬化性樹脂組成物、請求項7記載のキット又は請求項9記載の接着剤又は封止材を硬化して得られる、硬化物。
【請求項11】
請求項10記載の硬化物を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物及びそれを用いる硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の製造に、メチレンマロネート等の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む硬化性樹脂組成物を接着剤等として用いることが検討されつつある。このような硬化性樹脂組成物は、室温のような低温でも短時間で硬化するため、硬化のための熱による悪影響の回避や、製造効率の向上において有用である。
【0003】
メチレンマロネートは古くから知られている。実際、最初に報告されたメチレンマロネートであるジエチルメチレンマロネートに関する報告は、W.H.Perkin,Jr.によって1886年に行われた。しかし、その興味深い特性にも関わらず、商業的規模でのメチレンマロネートの供給は、長い間困難であった。その理由の1つは、製造過程での副生物の抑制が困難だったことである。この副生物のため、メチレンマロネートが予期せず重合したり、逆に上記のような迅速な重合が妨げられたりすることがある。この重合の阻害は、ケタール等の副生物から発生する酸によるものであることが知られている(特許文献1)。
【0004】
現在では、製造技術の改良(特許文献1)により、メチレンマロネートは商業的に入手することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第WO2014/110388号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】有機合成化学、1975年、第33巻、第11号、915-924頁
【文献】Perkin,Ber.19,1053(1886)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような技術改良が行われてはいるものの、それでも全ての不純物の含有量をごく微量に至るまで厳密に管理することが困難なことは想像に難くない。
これらの不純物は、その種類にもよるが、たとえ微量であっても2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の重合性に重大な影響を及ぼす可能性がある。なお、アニオン重合の反応速度は、不純物の影響を受けやすい(非特許文献1)。また、重合性組成物には安定剤が添加されることがあるが、これにより十分な硬化速度が得られない場合もある。
【0008】
このため、優れた硬化速度を確保するための何らかの処置を、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に施すことが望ましい。しかし、このような処置は、本質的にアニオン重合を促進する処置であるため、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の保存安定性の低下(予期しない重合の可能性上昇)を招く恐れがあり、その場合は、産業上の有用性は制限されてしまう。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、優れた硬化速度及び優れた保存安定性を同時に実現する、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む重合性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0012】
1.重合性組成物であって、
(a)1種以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であって、各々、下記式(I):
【化1】

で表される構造単位を少なくとも1つ有する、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物、
及び
(b)1種以上の、前記化合物(a)と実質的に反応しないイオン性化合物であって、
ビススルホニルイミドアニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン及びスルホネートアニオンからなる群より選択されるアニオン;及び
オニウムカチオン
を含む、イオン性化合物
を含み、
1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤と接触すると重合する、重合性組成物。
【0013】
2.イオン性化合物(b)のオニウムカチオンが、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及びスルホニウムカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種である、前項1記載の重合性組成物。
【0014】
3.2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量が180以上10000以下である、前項1又は2記載の重合性組成物。
【0015】
4.水を250ppm~10000ppm含む、前項1~3のいずれか一項記載の重合性組成物。
【0016】
5.前項1~4のいずれか1項記載の重合性組成物、及び潜在化された1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤を含む、一液型の硬化性樹脂組成物。
【0017】
6.水を250ppm~10000ppm含む、前項5記載の一液型の硬化性樹脂組成物。
【0018】
7.二液混合型の硬化性樹脂組成物のキットであって、
(A)前項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物を含む主剤;及び
(B)下記(c)を含む硬化剤
(c)1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤
を含む、キット。
【0019】
8.電子部品製造に用いられる、前項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物、前項5又は6記載の一液型の硬化性樹脂組成物又は前項7記載のキット。
【0020】
9.前項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物、前項5又は6記載の一液型の硬化性樹脂組成物又は前項7記載のキットを含む、電子部品用接着剤又は封止材。
【0021】
10.前項1~4のいずれか一項記載の重合性組成物、前項5又は6記載の一液型の硬化性樹脂組成物、前項7記載のキット又は前項9記載の接着剤又は封止材を硬化して得られる、硬化物。
【0022】
11.前項10記載の硬化物を含む、半導体装置。
【0023】
本発明の重合性組成物は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物と、特定のイオン性化合物を含む。本発明の重合性組成物は優れた保存安定性を有するが、これに重合開始剤を添加したときのゲルタイムは、上記イオン性化合物の不在下で、上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に重合開始剤を添加したときのゲルタイムに比して短縮される。このため、本発明の重合性組成物を用いると、保存安定性を損なうことなく硬化反応を促進することができるので、硬化性樹脂組成物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明は、重合性組成物に関する。この組成物は、
(a)1種以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(以下「成分(a)」と称する場合がある)、及び
(b)特定の1種以上のイオン性化合物(以下「成分(b)」と称する場合がある)
を含む。以下、本発明の重合性組成物に含まれる成分について説明する。
【0026】
[(a)2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a))]
本発明の重合性組成物は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a))を含む。本発明において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(I):
【化2】

で表される構造単位を少なくとも1つ有する化合物である。成分(a)は、前記式(I)の構造単位を1つ又は2つ以上含む。ある態様においては、成分(a)は、前記式(I)の構造単位を2つから6つ、好ましくは2つ含む。
前記式(I)の構造単位は、一方のπ結合炭素には2つのカルボニル基が共有結合し、他方のπ結合炭素には置換基が共有結合していないビニル基からなる。このような構造においては、上記カルボニル基の影響で、上記ビニル基における、上記カルボニル基が結合していないπ結合炭素が、求核試薬による攻撃を受けやすい(即ち、上記ビニル基が活性化されている)。このことが、成分(a)に高い重合性をもたらす。
【0027】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、前記式(I)の構造単位を含むことから、重合開始剤、典型的には塩基性物質(後述の重合開始剤(成分(c)))の存在下で、上記構造単位同士の重合が起こるため、本発明において成分(a)として使用可能である。上記の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、上記式(I)の構造単位を2つ以上有するもの(多官能成分)を含む場合、硬化時に架橋が生じ、硬化物の高温での機械特性が向上する等の、物性の改善が見込まれる。
【0028】
成分(a)は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を1種以上含む。成分(a)に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、好ましくは、分子量が180~10000であり、より好ましくは180~5000、さらに好ましくは180~2000、さらに好ましくは220~2000、さらに好ましくは220~1500、さらに好ましくは240~1500、特に好ましくは250~1500、最も好ましくは250~1000である。成分(a)に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量、及び組成物全体(又は組成物中の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物全体)を1としたときの各2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の質量含有率は、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)の手法で、カラムとしてODSカラム、検出器として質量分析器(MS)及びPDA(検出波長:190~800nm)あるいはELSDを用いて検量することにより明らかとなる。成分(a)の分子量が180未満の場合は、25℃における蒸気圧が高すぎて、揮発物に起因する種々の問題が生じるおそれがある。特に、揮発物は、周辺部材へ付着すると表面の塩基によって硬化してしまうため、周辺部材の汚染につながる。一方、成分(a)の分子量が10000を超えると、組成物の粘度が高くなり、作業性が低下するほか、充填剤の添加量が制限されるなどの弊害を生じる。
【0029】
成分(a)は、多官能成分を含んでいてもよい。多官能とは、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、前記式(I)の構造単位を2つ以上含むことを指す。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に含まれる前記式(I)の構造単位の数を、当該2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の「官能基数」とよぶ。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物のうち、官能基数が1のものを「単官能」、官能基数が2のものを「2官能」、官能基数が3のものを「3官能」と呼ぶ。多官能成分を含む成分(a)を用いて得られる硬化物は架橋されているので、硬化物の物性、例えば耐熱性や高温での機械的特性が向上する。多官能成分を用いる場合、本発明の重合性組成物全体を1としたときの、多官能成分の質量割合が0.01以上であることが好ましい。ある態様においては、本発明の重合性組成物全体を1としたとき、前記式(I)で表される構造単位を2つ以上含む成分(a)の質量割合は、好ましくは0.01~1.00、より好ましくは0.05~0.99、さらに好ましくは0.05~0.95、特に好ましくは0.10~0.90、最も好ましくは0.10~0.80である。
【0030】
成分(a)が多官能成分を含む場合、その硬化物は網目状の架橋構造を形成するため、高温時、特にガラス転移温度以上の温度においても流動することがなく、一定の貯蔵弾性率を保持する。硬化物の高温時における貯蔵弾性率は、例えば動的粘弾性測定(DMA)によって評価できる。一般に架橋構造を形成した硬化物をDMAによって評価した場合、ガラス転移温度以上の温度域にプラトーと呼ばれる貯蔵弾性率の温度変化が比較的小さい領域が広範囲にわたって観察される。このプラトー域の貯蔵弾性率は架橋密度、すなわち成分(a)における多官能成分の含有率に関係した量として評価される。
【0031】
ある態様においては、本発明の重合性組成物全体を1としたとき、成分(a)の質量割合は、好ましくは0.05~1.00、より好ましくは0.10~0.99、さらに好ましくは0.20~0.99、特に好ましくは、0.50~0.99である。
【0032】
ある態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(II):
【化3】

(式中、
及びXは、各々独立に、単結合、O又はNR(式中、Rは、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
及びRは、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(III):
【化4】

(式中、
及びXは、各々独立に、単結合、O又はNR(式中、Rは、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
Wは、スペーサーを表し、
は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0033】
ある態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(IV):
【化5】

(式中、
及びRは、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(V):
【化6】

(式中、
Wは、スペーサーを表し、
は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0034】
別の態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(VI):
【化7】

(式中、
11は、下記式(VII):
【化8】

で表される1,1-ジカルボニルエチレン単位を表し、
それぞれのR12は、各々独立に、スペーサーを表し、
13及びR14は、各々独立に、水素又は1価の炭化水素基を表し、
11並びにそれぞれのX12及びX13は、各々独立に、単結合、O又はNR15(式中、R15は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
それぞれのmは、各々独立に、0又は1を表し、
nは、1以上20以下の整数を表す)
で表されるジカルボニルエチレン誘導体である。
【0035】
本明細書において、1価の炭化水素基とは、炭化水素の炭素原子から水素原子を1つ除去することにより生じる基を指す。該1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基が挙げられ、これらの一部にN、O、S、P及びSi等のヘテロ原子が含まれていても良い。一部にヘテロ原子を含む1価の炭化水素基は、例えば、ポリエーテル構造やポリエステル構造を有していてもよい。
【0036】
前記1価の炭化水素基は、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリル、アルコキシ、アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アミド、アジド、シアノ、アシロキシ、カルボキシ、スルホキシ、アクリロキシ、シロキシ、エポキシ、又はエステルで置換されていても良い。
前記1価の炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基であり、さらに好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基である。
【0037】
前記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。前記アルキル基の炭素数は、通常1~18、好ましくは1~16、更に好ましくは2~12、より好ましくは3~10、特に好ましくは4~8である。また、前記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2~12、好ましくは2~10、更に好ましくは3~8、より好ましくは3~7、特に好ましくは3~6である。前記アルキル基等が環状構造の場合、前記アルキル基等の炭素数は、通常5~16、好ましくは5~14、更に好ましくは6~12、より好ましくは6~10である。前記アルキル基等の炭素数は、例えば前記の逆相HPLCや核磁気共鳴法(NMR法)によって特定できる。
【0038】
前記アルキル基等の構造には特に限定はない。前記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。前記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。前記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、前記アルキル基等は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。また、前記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1つ又は2つ以上含んでいてもよい。前記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、及び珪素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0039】
前記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2-エチルヘキシル基が挙げられる。前記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2-メチルシクロヘキシル基が挙げられる。前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。前記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0040】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が前記式(II)又は(IV)で表され、R及びRがいずれも1価の炭化水素基である場合、R及びRはいずれも炭素数2~8のアルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルカリル基であることが特に好ましい。
【0041】
本明細書において、スペーサーとは、2価の炭化水素基を指し、より具体的には、環状、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基である。前記アルキレン基の炭素数には特に限定はない。前記アルキレン基の炭素数は、通常1~12、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、さらに好ましくは4~8である。ここで、前記アルキレン基は、所望に応じて、N、O、S、P、及びSiから選択されるヘテロ原子を含有する基を途中に含んでいてよい。また、前記アルキレン基は、不飽和結合を有していても良い。ある態様においては、スペーサーは炭素数4~8の非置換アルキレン基である。好ましくは、スペーサーは、直鎖の置換又は非置換アルキレン基、より好ましくは、式-(CH-(式中、nは2~10、好ましくは4~8の整数である)で表される構造を有するアルキレン基であって、その両末端の炭素原子が、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の残りの部分と結合する。
上記スペーサーとしての2価の炭化水素基の具体的な例としては、1,4-n-ブチレン基及び1,4-シクロヘキシレンジメチレン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物がスペーサーを有する場合、末端の一価の炭化水素基の炭素数は6以下であることが好ましい。すなわち、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が前記式(II)又は(IV)で表される場合、前記式(III)又は(V)におけるRは炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、ただし、R及びRの一方が前記式(III)又は式(V)で表される場合は、R及びRの他方は炭素数1~6のアルキル基であることが好ましい。この場合、前記式(II)又は(IV)において、R及びRの両方が前記式(III)又は式(V)で表されてもよいが、好ましくは、R及びRの一方だけが前記式(III)又は式(V)で表される。好ましくは、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、前記式(IV)で表される。
【0043】
スペーサーを有する特に好ましい化合物としては、前記式(IV)におけるR又はRの一方が、エチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、他方が前記式(V)で表され、Wが1,4-n-ブチレン基又は1,4-シクロヘキシレンジメチレン基のいずれかであり、Rがエチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかである化合物が挙げられる。また、他の特に好ましい化合物としては、前記式(IV)におけるR及びRが前記式(V)で表され、Wは1,4-n-ブチレン基又は1,4-シクロヘキシレンジメチレン基のいずれかであり、Rはエチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかである化合物が挙げられる。
【0044】
種々の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を、米国オハイオ州SIRRUS Inc.から入手可能であり、その合成方法は、WO2012/054616、WO2012/054633及びWO2016/040261等の公開特許公報に公開されている。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に含まれる前記式(I)で表される構造単位の両端が酸素原子に結合している場合は、特表2015-518503に開示されているジオール又はポリオールとのエステル交換等の公知の方法を用いることによって、前記式(I)で表される構造単位がエステル結合及び前記スペーサーを介して複数結合している、より大きな分子量の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を製造することができる。このようにして製造された2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、前記式(II)又は前記式(IV)中のR及びR、前記式(III)又は前記式(V)中のR、並びに前記式(VI)中のR14及びR13が、ヒドロキシ基を含み得る。これらの2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を適宜配合することにより、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む成分(a)を得ることができる。特に、多官能成分(すなわち、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であって、前記式(I)の構造単位を2つ以上有するもの)は、例えば、特表2015-517973号公報に開示されている方法で合成することができる。
【0045】
成分(a)として好ましい2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の具体的な例としては、ジブチルメチレンマロネート、ジペンチルメチレンマロネート、ジヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネート、エチルオクチルメチレンマロネート、プロピルヘキシルメチレンマロネート、2-エチルヘキシル-エチルメチレンマロネート、エチルフェニル-エチルメチレンマロネート等が挙げられる。これらは揮発性が低く、反応性が高いために好ましい。取り扱い性の観点からは、ジヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネートが特に好ましい。
【0046】
[(b)イオン性化合物(成分(b))]
本発明の重合性組成物は、1種以上の特定のイオン性化合物(成分(b))を含む。成分(b)は、
ビススルホニルイミドアニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン及びスルホネートアニオンからなる群より選択されるアニオン;及び
オニウムカチオン
を含む。
【0047】
成分(b)は、上記成分(a)の重合開始剤としての効果を本質的に有していないので、成分(b)は成分(a)と実質的に反応しない。成分(b)が、成分(a)と「実質的に反応しない」とは、それらの成分が接触したときのゲルタイムが1日超、好ましくは10日超、より好ましくは30日超、さらに好ましくは90日超、特に好ましくは150日超であることを意味する。
本明細書において、特に断りがない限り、ある重合性(又は硬化性)の化合物又は組成物のゲルタイムとは、室温(22℃)にて測定した、当該化合物又は組成物(或いはそれと重合開始剤の混合物)についての、その調製の時点から、事実上その流動性が失われた時点までの期間を指す。ある期間内に流動性が失われなかった場合、ゲルタイムはその期間超と表わされる。
このため、成分(b)と成分(a)の混合物、即ち本発明の重合性組成物は、高い保存安定性を有し、長期間硬化しない。
【0048】
しかし、本発明の重合性組成物は、後述する重合開始剤と接触すると重合する。このとき、本発明の重合性組成物は、成分(b)を含まない成分(a)よりも速く硬化する。より具体的には、重合開始剤を本発明の重合性組成物に添加したときのゲルタイムの、成分(b)を含まない成分(a)に重合開始剤を添加したときのゲルタイムに対する比が、通常0.90以下、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.60以下である。即ち成分(b)は、成分(a)の重合を促進する効果を有する。
【0049】
本発明において組成物が「重合性である」とは、当該組成物に含まれる成分(a)の活性化されているビニル基の少なくとも一部が、当該組成物の流動性が失われていない程度まで未反応のままであり、かつ、当該組成物が適切な重合開始剤と接触すると、成分(a)の重合により流動性が失われることを意味する。
【0050】
本発明の重合性組成物が「重合開始剤と接触すると重合する」とは、本発明の重合性組成物が重合開始剤と接触する前には実質的に進行しない(又は、極めて低速でしか進行しない)成分(a)の重合が、本発明の重合性組成物を重合開始剤と接触させると、急速に進行するようになることを意味する。
【0051】
成分(a)(例えばメチレンマロネート)の保存安定性は、製造時に発生あるいは混入する酸などの不純物や、保存安定性を向上する目的で添加される酸の影響を受ける(特許文献1等)。そのような成分(a)をそのまま用いて硬化性樹脂組成物を製造すると、得られる組成物の各種の特性が影響を受け、特にゲルタイムが長くなる恐れがある。
本発明の重合性組成物では、上記のように成分(b)の効果により硬化性樹脂組成物のゲルタイムを短縮することが可能となる。したがって、本発明の重合性組成物を用いると、保存安定性を損なうことなく硬化反応を促進することができる硬化性樹脂組成物を容易に製造することができる。成分(b)が上記のような効果を有することは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0052】
本発明において、成分(b)に含まれるアニオンは、上記の効果がある限り特に限定されない。ある態様においては、当該アニオンは、ビススルホニルイミドアニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン及びスルホネートアニオンからなる群より選択される。逆に、成分(b)のアニオンが、例えば、カルボキシレートアニオンやリン酸アニオン(部分的にエステル化されたものを含む)である場合は、成分(a)を求核攻撃するのに十分な求核性を有するため、これらのアニオンを含むイオン性化合物(塩)を、成分(b)として使用することはできない。また、特に本発明の重合性組成物を用いて製造した硬化性樹脂組成物を電子材料用途に用いることが意図されている場合、ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物(塩)は、成分(b)として適切でない。これは、ハロゲン原子を含む物質は、金属部品を腐食させる恐れがあるためである。ある態様において、成分(b)はハロゲン化物イオンを含まない。
【0053】
成分(b)におけるアニオンの一選択肢であるビススルホニルイミドアニオンに含まれる2つのスルホン酸残基は、好ましくは、各々独立に、炭素数1~10の一部または全ての水素がフッ素化されていてもよいアルキルスルホン酸、一部または全ての水素がフッ素化されていてもよい炭素数6~10のアリールスルホン酸、一部または全ての水素がフッ素化されていてもよい炭素数6~10のアラルキルスルホン酸、及び一部または全ての水素がフッ素化されていてもよい炭素数6~10のアルカリルスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種に由来する。より好ましくは、上記スルホン酸残基はいずれも、炭素数1~10の一部または全ての水素がフッ素化されていてもよいアルキルスルホン酸に由来する。特に好ましくは、上記スルホン酸残基はいずれも、トリフルオロメタンスルホン酸に由来する。
【0054】
成分(b)におけるアニオンの一選択肢であるスルホネートアニオンは、好ましくは、炭素数1~10の一部または全ての水素がフッ素化されていてもよいアルキルスルホン酸、一部または全ての水素がフッ素化されていてもよい炭素数6~10のアリールスルホン酸、一部または全ての水素がフッ素化されていてもよい炭素数6~10のアラルキルスルホン酸、及び一部または全ての水素がフッ素化されていてもよい炭素数6~10のアルカリルスルホン酸からなる群より選択される1種に由来する。特に好ましくは、スルホネートアニオンは、トリフルオロメタンスルホン酸に由来する。
【0055】
保存安定性の観点から、成分(b)に含まれるアニオンは、特に、ビススルホニルイミドアニオン、及び/または、ヘキサフルオロリン酸アニオンであることが好ましい。
【0056】
本明細書において、オニウムカチオンとは一般に、孤立電子対を有する原子を含む化合物において、その孤立電子対に水素イオン又はカチオン型原子団を配位させることにより生じるカチオンを意味する。典型的なオニウムカチオンは、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン、オキソニウムカチオンなどである。また、孤立電子対を有する原子が多重結合(例えば二重結合)を形成している化合物に由来するカチオン、例えばピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン等も、上記の定義に当てはまるので、オニウムカチオンに含まれる。
【0057】
成分(b)のオニウムカチオンは、好ましくは、4級アンモニウムカチオン、4級ホスホニウムカチオン及び3級スルホニウムカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、4級アンモニウムカチオン及び/又は4級ホスホニウムカチオンであり、特に好ましくは、4級アンモニウムカチオンである。
4級アンモニウムカチオン、4級ホスホニウムカチオン及び3級スルホニウムカチオンの例としては、それぞれ、下記式:
【化9】

(式中、
21~R24は、それぞれ独立して、炭素数1~40、好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~12の非置換又は置換炭化水素基(それらに含まれる炭素原子の一部が、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選択されるヘテロ原子で置換されていてもよい)であり、R21~R24のうち2つ以上が互いに結合して、それらが結合する窒素原子、リン原子又は硫黄原子と共に、飽和又は部分不飽和の脂環式環、或いは芳香環を形成していてもよい)
で表されるオニウムカチオンが挙げられる。
【0058】
上記式中のR21~R24のうち2つ以上が互いに結合して、それらが結合する窒素原子、リン原子又は硫黄原子と共に環を形成する場合、上記オニウムカチオンは環状オニウムカチオンである。このような環状オニウムカチオンの例としては、非置換又は置換ピロリジニウムカチオン、非置換又は置換モルホリニウムカチオン、非置換又は置換ピリジニウムカチオン、非置換又は置換イミダゾリウムカチオン等が挙げられる。
【0059】
成分(b)が非置換又は置換ピリジニウムカチオン、非置換又は置換イミダゾリウムカチオンなどの芳香族複素環を含む場合、その芳香族複素環の原料や副生成物が不純物として混入しないよう細心の注意を払う必要がある。これは反応性の高い不純物によって成分(a)の重合が期せずして開始してしまうのを避けるためである。このため、前記4級アンモニウムカチオンとしては、上記4級アンモニウムカチオンを表す式中のNとR21~R24とがすべて単結合で結合されているものが好ましい。ある態様においては、成分(b)はイミダゾリウムなどの芳香族複素環を有するオニウムカチオンを含まない。
【0060】
なお、成分(b)の成分(a)に対する親和性(相溶性)が高いことは必要ではなく、成分(a)と成分(b)が不均一な混合物を与える場合でも、上記のような効果を得ることができる。1つの態様において、本発明の重合性組成物は均一である。他の1つの態様において、本発明の重合性組成物は不均一である。
【0061】
本発明において、成分(b)の含有量は、成分(a)と成分(b)の合計重量(100wt%)に対して0.01wt%以上、20wt%未満、好ましくは0.05wt%以上、10wt%未満、より好ましくは0.1wt%以上、5wt%未満、さらに好ましくは0.2wt%以上、2wt%未満である。成分(b)の含有量が20wt%以上であると、ブリードが発生したり、硬化が不十分になったりする恐れがある。またこの場合、例えば、成分(b)に含まれる不純物に起因する、意図しない重合反応の発生も懸念される。逆に、成分(b)の含有量が0.01wt%未満であると、上記のような共存する重合開始剤の効果を向上する、又は成分(a)の重合を促進する効果が不十分になる。
【0062】
[その他の成分]
本発明の重合性組成物は、安定化剤を更に含んでもよい。
安定化剤は、組成物の保存時の安定性を高めるための物質であり、ラジカルや塩基性成分による重合反応の意図しない発生を抑制するために添加される。成分(a)は、偶発的に生じたラジカルを基点として意図しないラジカル重合反応が発生する場合がある。また、成分(a)は、非常に微量の塩基性成分の混入によってアニオン重合反応が発生する場合がある。安定化剤を添加することによって、このようなラジカルや塩基性成分による意図しない重合反応の発生を抑制することができる。
【0063】
安定化剤は公知のものを使用可能であり、例えば、強酸やラジカル捕捉剤を用いることができる。具体的な安定化剤の例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、リン酸、ジクロロ酢酸、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、トリフェニルホスフィン、4-メトキシフェノール、及びハイドロキノンを挙げることができる。この中で、好ましい安定化剤は、マレイン酸、メタンスルホン酸、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム及び4-メトキシフェノールから選ばれる少なくとも1つである。また安定化剤として、特開2010-117545号公報、特開2008-184514号公報などに開示された公知のものを用いることもできる。
安定化剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
本発明の重合性組成物は、前記各成分以外に、絶縁性あるいは導電性充填剤、カップリング剤等の界面処理剤、顔料、可塑剤等を必要に応じて含有していてもよい。
【0065】
一態様において、本発明の重合性組成物は、水を更に含む。重合性組成物は水を含むことにより、保存安定性が悪化することはない。また、別の態様においては、本発明の一液型の硬化性樹脂組成物は、水を更に含む。ある側面においては、一液型の硬化性樹脂組成物が水を含むことにより、ゲルタイムをさらに短くできるが、この場合においても保存安定性を維持できる。
本発明の重合性組成物が水を含む場合、当該水は添加されたものでもよく、空気中の水分が吸収されたものでもよい。本発明の重合性組成物が水を含む場合、水の量は、重合性組成物全体の重量に対して250ppm~10000ppmが好ましく、380ppm~5000ppmがより好ましく、400ppm~2000ppmが特に好ましい。なお、上記の水を含む重合性組成物を主剤として用いて二液混合型の硬化性樹脂組成物のキットを調製してもよい。また、本発明の一液型の硬化性樹脂組成物が水を含む場合も、当該水は添加されたものでもよく、空気中の水分が吸収されたものでもよい。本発明の一液型の硬化性樹脂組成物が水を含む場合、水の量は、一液型の硬化性樹脂組成物全体の重量に対して250ppm~10000ppmが好ましく、380ppm~5000ppmがより好ましく、400ppm~2000ppmが特に好ましい。水の量が多くなりすぎると、水が重合性組成物に相溶せず、硬化が不均一となるおそれがある。なお、このような含水量を達成するため、重合性組成物全体の重量または一液型の硬化性樹脂組成物全体の重量に対する水の添加量は、それぞれ重合性組成物全体の重量または一液型の硬化性樹脂組成物全体に対して、1wt%以下であることが好ましい。本発明において、水の含有量が重合性組成物全体または一液型の硬化性樹脂組成物全体に対し、それぞれ250ppm未満の場合は、実質的に水を含有しないものとする。
【0066】
なお、一般に、ある種の接着剤を放置しておくと、空気中に含まれる水分と反応しポットライフが短縮されてしまうことがある。特に、例えば、シアノアクリレート化合物を含む重合性組成物は、水と接触した場合、急速に硬化してしまうので、扱いに注意を要する。
これに対し、本発明の重合性組成物は水を含んでいてもよい。すなわち、ある態様においては、本発明の重合性組成物は、放置による吸水が発生しても長期間安定性を保持することができ、扱いが容易であるという利点がある。さらに、成分(b)の種類によっては、重合性組成物の作製時に、ゲル状沈殿物が生じる場合もあるが、重合性組成物に水を含ませることで、これを抑制し得る。
【0067】
本発明の重合性組成物は、前記成分(a)~(b)、及び必要に応じて前記安定化剤や充填剤等の成分を含有する。本発明の重合性組成物は、これらの成分を混合して調製することができる。混合には、公知の装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサーやロールミルなどの公知の装置によって混合することができる。これらの成分は、同時に混合してもよく、一部を先に混合し、残りを後から混合してもよい。
【0068】
本発明の重合性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記各成分以外の成分、例えば、難燃剤、イオントラップ剤、消泡剤、レベリング剤、破泡剤等を含有してもよい。
【0069】
[重合開始剤(成分(c))]
以上の成分を含む本発明の重合性組成物を、重合開始剤(成分(c))と組み合わせることにより、硬化性樹脂組成物を製造することができる。重合開始剤は、硬化性樹脂組成物がマイケル付加反応によって硬化する際の重合開始反応に寄与することが期待される。本発明に用いる重合開始剤は、塩基性物質を含む。本発明において成分(c)として用いる塩基性物質は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。本発明においては、本発明の重合性組成物、及び1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤を含む硬化性樹脂組成物、特に一液型の硬化性樹脂組成物も提供される。
【0070】
本発明で用いられる塩基性物質は、典型的には、有機塩基、無機塩基、又は有機金属材料を含む。
有機塩基としては、後述するアミン化合物等が挙げられる。無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。有機金属材料としては、ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、フェニルリチウム、等の有機アルカリ金属化合物及びそれらから調製される有機銅試薬;メチルマグネシウムブロミド、ジメチルマグネシウム、フェニルマグネシウムクロリド等の有機アルカリ土類金属化合物及びそれらから調製される有機銅試薬;及びナトリウムメトキシド、t-ブチルメトキシド等のアルコキシド;ナトリウムベンゾエート等のカルボキシレート等が挙げられる。
【0071】
本発明の重合性組成物を用いる硬化性樹脂組成物を電子材料用途に用いる場合、組成物が無機塩基や有機金属材料を含むと、周辺電気・電子回路における意図しない電気的特性への影響が懸念される。このため、本発明に用いる塩基性物質は、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属元素、又はハロゲン元素を含まないものである。別の態様においては、本発明に用いる塩基性物質は、非イオン性である。
【0072】
本発明で用いられる塩基性物質は、好ましくは、有機塩基、さらに好ましくは、アミン化合物である。前記アミン化合物とは、少なくとも第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基のいずれかを分子内に1つ以上有する有機化合物であり、これら級の異なるアミノ基を同一分子内に2種以上同時に有していてもよい。
【0073】
第1級アミノ基を有する化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、アニリン、トルイジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0074】
第2級アミノ基を有する化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン、ピペリドン、ジフェニルアミン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン等が挙げられる。
【0075】
第3級アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリアリルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリ-n-オクチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、トリフェニルアミン、4-メチルトリフェニルアミン、4,4-ジメチルトリフェニルアミン、ジフェニルエチルアミン、ジフェニルベンジルアミン、N、N-ジフェニル-p-アニシジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン、1-ベンジルピペリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N-エチル-N-メチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0076】
また、異なるアミノ基を同一分子内に2種以上同時に有していている化合物としては、特に限定されないが、例えば、本実施の形態の原料として用いられるグアニジン化合物やイミダゾール化合物等が挙げられる。グアニジン化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン等が挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-(2-メチルイミダゾリル-(1))-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2′-メチルイミダゾリル-(1)′)-エチル-S-トリアジン・イソシアヌール酸付加物、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール-トリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール-トリメリテイト、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)-尿素、及び、N,N′-(2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル)-アジポイルジアミドが挙げられる。ただし、上記イミダゾール化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0077】
上記アミン化合物は、好ましくは第2級又は第3級アミノ基を含む。アミン化合物に含まれるアミノ基が第1級の場合には、アミノ基から生じる活性水素が重合反応を抑制する可能性が高まる。上記アミン化合物は、より好ましくは、第3級アミノ基を含む。換言すれば、上記アミン化合物は、より好ましくは第3級アミン化合物である。
上記アミン化合物は、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び遷移金属元素ならびに、ハロゲン元素を含まないものである。
上記アミン化合物は、好ましくはヒドロキシ基、スルフヒドリル基等の活性水素を含まないものである。
【0078】
本発明の重合性組成物を用いる硬化性樹脂組成物においては、硬化時に塩基性物質が固体状であると、塩基性物質表面において反応が進行し、反応が組成物全体に行き渡らないため、硬化が不均一となる。このため、塩基性物質は硬化時において固体状でないこと、すなわち、液状または重合性組成物中に可溶であることが好ましい。
【0079】
上記アミン化合物の分子量は、好ましくは100~1000であり、より好ましくは100~500であり、さらに好ましくは110~300である。アミン化合物の分子量が100未満である場合には揮発性が高く、周辺部材への影響ならびに硬化物の物性変動等が懸念される。アミン化合物の分子量が1000を超える場合には、アミン化合物の粘度増加や、組成物中への分散性低下等が懸念される。
本発明において、重合開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0080】
重合開始剤として好ましいアミン化合物の具体的な例としては、トリエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N-エチル-N-メチルベンジルアミン、2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン、N,N-ジメチルオクチルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミン及びN,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明において、重合開始剤は、分離又は潜在化によって不活性となっていて、任意の熱、光、機械的剪断等の刺激によって活性化するものでもよい。より具体的には、重合開始剤は、マイクロカプセル、イオン解離型、包接型などの潜在性硬化触媒であってもよく、熱、光、電磁波、超音波、物理的せん断によって塩基を発生する形態であってもよい。本発明においては、本発明の重合性組成物、及び潜在化された1種以上の塩基性物質を含む重合開始剤を含む硬化性樹脂組成物、特に一液型の硬化性樹脂組成物も提供される。
【0082】
また、本発明の重合性組成物を主剤として用い、これを1種類以上の塩基性物質を含む重合開始剤を含む硬化剤と組み合わせて、二液混合型の硬化性樹脂組成物(接着剤)のキットとして使用することもできる。本発明の二液混合型の硬化性樹脂組成物のキットは、前記の主剤と硬化剤を接触させることで硬化させることができる。
【0083】
本発明において、使用する塩基性物質の量は、重合性組成物中の成分(a)の全量(100mol%)に対して、好ましくは0.01mol%~30mol%、より好ましくは、0.01mol%~10mol%である。塩基性物質の量が0.01mol%未満であると、硬化が不安定になる。逆に、塩基性物質の量が30mol%よりも多いときは、硬化物中に樹脂マトリックスと化学結合を形成していない塩基性物質が大量に残留し、硬化物の物性低下やブリード等を引き起こす。
【0084】
上記塩基性物質は、それ自体の構造や、用いる成分(a)の構造等によっては、成分(c)として弱い効果しか示さない場合がある。例えばN,N-ジイソプロピルエチルアミンやN,N-ジシクロヘキシルメチルアミンは、成分(c)としての効果が弱い。これは立体障害のためと考えられる。しかし、そのような塩基性物質を、本発明の重合性組成物と組み合わせて用いると、事実上、当該塩基性物質の成分(c)としての効果が向上するので、満足な速さでの硬化がもたらされうる。
【0085】
本発明の重合性組成物並びに、本発明の重合性組成物を用いる硬化性樹脂組成物及びキットは、接着剤又は封止材として使用することができる。特に、一液型の樹脂組成物、一液型の接着剤又は封止材として使用することができる。さらに、無溶剤タイプの一液型の樹脂組成物、無溶剤タイプの一液型の接着剤又は封止材として使用することができる。具体的には、上記重合性組成物、硬化性樹脂組成物及びキットは、電子部品用接着剤又は封止材として好適である。より具体的には、上記重合性組成物、硬化性樹脂組成物及びキットは、カメラモジュール用部品の接着及び封止に用いることができ、特に、イメージセンサモジュール等のセンサモジュールの接着に好適である。本発明においては、上記重合性組成物または、重合性組成物を用いる硬化性樹脂組成物またはキットを用いて接着された電子部品も提供される。さらには、上記重合性組成物、硬化性樹脂組成物またはキットを用いて封止された電子部品も提供される。また上記重合性組成物及び硬化性樹脂組成物は、絶縁性組成物としても導電性組成物としても利用することができる。
本発明においては、本発明の重合性組成物または、本発明の重合性組成物を用いる硬化性樹脂組成物またはキットを上述のように硬化させた硬化物も提供される。また、この硬化物を含む半導体装置も提供される。
【0086】
例えば、硬化性樹脂組成物の被接着面への供給には、ジェットディスペンサー、エアーディスペンサー等を使用することができる。上記硬化性樹脂組成物は、加熱をせず常温で硬化させることができる。上記硬化性樹脂組成物は、また、例えば、25~80℃の温度で加熱することで硬化させることができる。加熱温度は、好ましくは、50~80℃である。加熱時間は、例えば、0.01~4時間である。
【実施例
【0087】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明は、以下の実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0088】
[樹脂組成物の調製]
以下の実施例及び比較例において使用した組成物の原料は、以下のとおりである。
【0089】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a)):
(a-1)DHMM (SIRRUS社製)
(a-2)DCHMM (SIRRUS社製)
前記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の具体的な構造は、以下の表1中の化学式のとおりである。
【表1】
【0090】
イオン性化合物(成分(b)):
(b-1)トリメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社、CAS登録番号:268536-05-6)
(b-2)1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社、CAS登録番号:223437-11-4)
(b-3)4-(2-エトキシエチル)-4-メチルモルホリニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社、CAS登録番号:663628-48-6)
(b-4)1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社、CAS登録番号:870296-13-2)
(b-5)トリブチルドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社、CAS登録番号:1002754-39-3)
(b-6)テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(和光純薬株式会社、CAS登録番号:3109-63-5)
(b-7)1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(和光純薬株式会社、CAS登録番号:174501-64-5)
(b-8)トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(シグマアルドリッチ、CAS登録番号:321746-49-0)
(b-9)メチルトリオクチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(和光純薬株式会社、CAS登録番号:569652-37-5)
(b-10)メチルトリオクチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート(関東化学株式会社、CAS登録番号:121107-18-4)
(b-11)1-ブチル-3-ドデシルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社)CAS登録番号:1612842-42-8)
(b-12)メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬株式会社)CAS登録番号:375395-33-8)
【0091】
イオン性化合物(成分(b’)):
(b’-1)テトラブチルアンモニウムアセテート(東京化成工業株式会社、CAS登録番号:10534-59-5)
(b’-2)トリブチルメチルアンモニウムジブチルホスフェート(シグマアルドリッチ、CAS登録番号:922724-14-9)
【0092】
以下、成分(b)の化合物に含まれるアニオンを、以下の略号で示す場合がある。
NTf : ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン
PF : ヘキサフルオロホスフェートアニオン
Tf: トリフルオロメタンスルホネートアニオン
【0093】
重合開始剤(成分(c)):
(c-1)トリエチルアミン(和光純薬工業株式会社、分子量:101.19)
(c-2)N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン(東京化成工業株式会社、分子量:195.3)
(c-3)N,N-ジメチルベンジルアミン(和光純薬工業株式会社、分子量:135.21)
(c-4)N,N-ジイソプロピルエチルアミン(東京化成工業株式会社、分子量:129.24)
(c-5)N,N-ジメチルオクタデシルアミン(東京化成工業株式会社、分子量:297.57)
【0094】
[実施例1~10及び比較例1~2]
上記成分(a)、成分(b)又は(b’)及び成分(c)の表2に示す組み合わせに関し、以下のようにして保存安定性及び反応促進効果を評価した。
【0095】
・保存安定性
ポリプロピレン製サンプルチューブ内にて、成分(b)又は(b’)10mgに成分(a)500mgを添加し、ボルテックスミキサーで振とうすることにより両者を十分混合した。得られた混合物が事実上流動性を失うまでの期間(ゲルタイム、単位:日)を、室温(22℃)にて測定した。結果を表2に示す。
「事実上流動性を失う」とは、前記混合物の入った前記サンプルチューブを、直立させた状態から瞬時に水平に傾けたとき、前記サンプルチューブ内の前記混合物について、重力下10秒間にわたり明らかな形状変化が観察されない状態となることを指す。
【0096】
・反応促進効果
ポリプロピレン製サンプルチューブ内に採取した約3mgの成分(b)又は(b’)に、成分(a)を添加し(両者の(正確に測定された)重量の合計に対し、前者の重量の比が0.5%となるように)、ボルテックスミキサーで振とうすることにより両者を十分混合した。得られた混合物に、成分(a)の0.05当量の成分(c)を添加した。成分(c)を添加した時点から、得られた混合物が事実上流動性を失うまでに要した時間(単位:分)を、室温(22℃)にて測定した。この時間を「ゲルタイム(+)」と定義する。
「事実上流動性を失う」とは、前記混合物の入った前記サンプルチューブを、直立させた状態から瞬時に水平に傾けたとき、前記サンプルチューブ内の前記混合物について、重力下10秒間にわたり明らかな形状変化が観察されない状態となることを指す。
成分(b)又は(b’)を用いないこと以外は、ゲルタイム(+)の測定と同様の操作を行い、成分(c)を添加した時点から、得られた混合物が事実上流動性を失うまでに要した時間(単位:分)を、室温(22℃)にて測定した。この時間を「ゲルタイム(-)」と定義する。
なお、ゲルタイム(+)とゲルタイム(-)の対は、同一ロットの成分(a)を用いて、同じ日に測定した。
【0097】
【表2】
【0098】
[実施例11~14及び比較例3~5]
上記成分(a)~(c)の表3に示す組み合わせに関し、各成分の量が表3に示す通りであることを除き、上記「反応促進効果」の項の「ゲルタイム(+)」(成分(b)の量が0mgでない場合(実施例))又は「ゲルタイム(-)」(成分(b)の量が0mgである場合(比較例))の測定と同様にして、ゲルタイムを測定した。
なお、同一の成分(a)を用いる実施例と比較例の対について、各ゲルタイムは、同一ロットの成分(a)を用いて、同じ日に測定した。
また、上記成分(a)及び(b)の表3に示す組み合わせに関し、各成分の量が表3に示す通りである(成分(b)の量が0mgである場合(比較例)には、成分(a)のみをサンプルチューブに入れる)ことを除き、上記「保存安定性」の項の記載と同様にして、保存安定性(単位:日)を測定した。
【0099】
【表3】
【0100】
(結果の考察)
実施例1~14より、アニオンがNTf 、PF 又はTfであるイオン性化合物を用いると、この化合物と成分(a)の混合物が高い保存安定性を示し、またこの化合物が、成分(c)によって開始される成分(a)の重合を促進することが分かる。実施例1~9及び11~14では、保存安定性が150日超であり、特に優れていた。以上のことは、このようなイオン性化合物を、本発明における成分(b)として好適に使用することができることを示す。
【0101】
比較例1では成分(b’―1)を成分(a)と混合しただけで速やかにゲル化したため、成分(c)を添加してのゲルタイム測定はできなかった。比較例1~2より、アニオンがカルボキシレートアニオンやリン酸アニオンであるイオン性化合物を用いると、この化合物と成分(a)の混合物が低い保存安定性を示すことが分かる。これは、上記アニオンが成分(a)と反応するのに十分な求核性を有し、それ自体成分(a)の重合開始剤として機能するためと考えられる。このようなアニオンを含むイオン性化合物を、本発明における成分(b)として使用することはできない。
なお、比較例3は、成分(b)を加えない例であり、実施例11および実施例12と比較するための例である。
また、比較例4は、成分(b)を加えない例であり、実施例13と比較するための例である。
そして、比較例5は、成分(b)を加えない例であり、実施例14と比較するための例である。
【0102】
[実施例15~21]
本発明の重合性組成物が水を含む場合の、更なる保存安定性の向上につき検討した。
表4に示す成分及び各成分量を用いて、ポリプロピレン製容器内にて、20mgの成分(b)に、所定量の純水(実施例15および18を除く)、次いで1000mgの成分(a)を添加し、ボルテックスミキサーでの振とうによりそれらを十分混合して、重合性組成物を得た。なお、実施例15の組成物水分量が、実施例18より高い値を示したのは、吸湿によるものである。
混合の終了より1時間経過後すみやかに、重合性組成物中のゲル状沈殿物の有無を目視にて確認すると共に、この時点での重合性組成物(ゲル状沈殿物が生成していた場合には、重合性組成物の上清)中の水分量を、京都電子工業株式会社 カールフィッシャー水分計(電量滴定法)MKC-520を用いて測定した。
【0103】
また、上記重合性組成物(ゲル状沈殿物が生成していた場合には、上記重合性組成物の上清)300μLに、(c-1)6.9μLを添加して得られる混合物について、上記「ゲルタイム(+)」の測定と同様にして、ゲルタイムを測定した。
さらに、上記成分(a)及び(b)の表4に示す組み合わせに関し、各成分の量が表4に示す通りであることを除き、上記「保存安定性」の項の記載と同様にして、保存安定性(単位:日)を測定した。
【0104】
【表4】
【0105】
(結果の考察)
成分(b)を成分(a)と接触させると、ゲル状沈殿物が生成することがある。実際、この実験で用いた(b-11)や(b-12)は、ゲル状沈殿物の生成をもたらした(実施例15、18及び19)。このようなゲル状沈殿物生成の原因は明らかになっていない。しかし、市販されている成分(b)には微量の不純物が含まれており、この不純物が成分(a)の重合開始剤として機能した可能性がある。
一方、十分な量の水が重合性組成物中に存在する場合には、このようなゲル状沈殿物生成が抑制される。添加すべき水分量は、原料自体にもともと含まれている水分量や、反応によって消失する水分量によって異なるが、重合性組成物中に400ppm以上の水を含有させることによって(実施例16,17、20及び21)ゲル状沈殿物の生成が抑制できる。
なお、ゲル状沈殿物が生成した重合性組成物においても、上清(液状の部分)の硬化能は損なわれていなかった。実際、この上清の硬化能は、ゲル状沈殿物の生成が十分抑制された重合性組成物のそれと同様であった。また、ゲル状沈殿物の量は目視で数vol%程度と少なかった。このため、ゲル状沈殿物を含む重合性組成物も、ゲル状沈殿物の生成が十分抑制された重合性組成物と同様に、硬化性樹脂組成物の製造に用いることができると予想される。ただし、産業上の利用可能性の観点からは、ゲル状沈殿物の発生は抑制されることが望ましい。
【0106】
[参考例1~5、実施例22~25]
・二液混合型硬化性樹脂組成物のキットへの適用
上記成分(a)~(c)及び水(HO)の表5に示す組み合わせに関し、各成分の量は表5に示す通りで、以下の手順で組成物を調製した。
すなわち、実施例22,23、および参考例1,3において記載されている成分に関して、ポリプロピレン製容器内にて、成分(b)、純水、次いで成分(a)の順に計量し、ボルテックスミキサーでの振とうによりそれらを十分混合して、組成物を得た。
実施例24は、実施例22と参考例3を1:1で混合して調製した例である。
実施例25は、実施例23と参考例3を1:1で混合して調製した例である。
参考例4は、参考例1と参考例3を1:1で混合して調製した例である。
参考例5は、参考例2と参考例3を1:1で混合して調製した例である。
各成分を添加・混合し終わった時点から、得られた混合物が事実上流動性を失うまでに要した時間(単位:分)を、室温(22℃)にて測定した。この時間を「ゲルタイム」と定義する。
「事実上流動性を失う」とは、前記混合物の入った前記サンプルチューブを、直立させた状態から瞬時に水平に傾けたとき、前記サンプルチューブ内の前記混合物について、重力下10秒間にわたり明らかな形状変化が観察されない状態となることを指す。
なお、表5に記載の各ゲルタイムは、同一ロットの成分(a)を用いて、同じ日に測定した。
【0107】
【表5】
【0108】
(結果の考察)
表5に示す組成物において用いられている成分(c)、即ち(c-4)は、成分(a)に対して単独では、比較的弱い反応性を示す。このため、参考例3の組成物(成分(a)及び(c)のみを含む)の保存安定性は有望なものであるといえる。
実施例22~23及び参考例1~2の組成物は、開始剤となる成分(c)を含まないため、極めて良好な保存安定性を有していた。
一方、実施例24及び25の組成物は、迅速に硬化した。この組成物は、実施例22の組成物と実施例23の組成物に、それぞれ同体積の参考例3の組成物を混合して得られる混合物に相当する。
即ち、実施例22~23の組成物と参考例3の組成物は、いずれも良好な保存安定性を有するが、これらを混合して得られる混合物は迅速に硬化する。従って、これらの組成物の組み合わせは、二液混合型の硬化性樹脂組成物のキットとして好適に使用することができる。
【0109】
また、実施例25の組成物に水が添加された組成を有する実施例24の組成物は、実施例25の組成物よりも迅速に硬化した。
【0110】
成分(b)を含まない参考例1及び2の組成物に、それぞれ同体積の参考例3の組成物を混合して得られる混合物に相当する参考例4及び5の組成物は、硬化に長時間を要した。
【0111】
[実施例26~29及び比較例6~9]
本発明の重合性組成物に対する、酸性不純物(夾雑物)の影響につき検討した。
上記成分(a)~(c)及びトリフルオロ酢酸(TFA)の表6に示す組み合わせに関し、各成分の量が表6に示す通りであることを除き、上記「反応促進効果」の項の「ゲルタイム(+)」(成分(b)の量が0mgでない場合(実施例))又は「ゲルタイム(-)」(成分(b)の量が0mgである場合(比較例))の測定と同様にして、ゲルタイムを測定した。
これらの実験において、TFAを含む重合性組成物、即ち成分(a)及び(b)とTFAの混合物は、以下のようにして調製した。
1000mgの(a-1)に、1mgのTFAを溶解させ、得られた溶液を適宜(a-1)にて希釈することにより、各々25、50及び100ppmのTFAを含有する、3種の(a-1)溶液を調製した。これら3種の溶液を各々2等分し、その一方に、(b-1)を1wt%になるように溶解させた。
ゲルタイムの測定は、これらのTFAを含有する混合物に、成分(c)を添加した時点から開始した。
【0112】
【表6】
【0113】
(結果の考察)
成分(a)のアニオン重合は、微量の不純物による影響を受けやすい。例えば、保存安定性を高める目的で、成分(a)にTFAのような強酸が添加されることがあるが、これが成分(a)のゲルタイムに影響を与える可能性がある。実際、(a-1)に添加されたTFAの量に応じて、(a-1)のゲルタイムは長くなった(比較例6~9)。
一方、(a-1)に一定量の成分(b)を添加した場合、(a-1)のゲルタイムは大きく短縮された。さらに、(a-1)のゲルタイムは、ほぼ一定の値に収束していた(実施例26~29)。
以上から明らかなように、本発明の重合性組成物では、成分(b)を含むことにより、安定剤を含む場合であっても優れた硬化速度を発揮することができる。また、このように硬化が加速される結果、正確に制御することが困難な安定剤の量やその他の不純物の種類や量が変動しても、ゲルタイムが変動しにくくなるという利点が生じる。
【0114】
・潜在化された重合開始剤(潜在化アミン(c-6))の調製
特表2015-512460(シラス インコーポレイテッド)記載の方法にならって、潜在化アミンを調製した。
ワックス(ポリエチレングリコール、分子量8000;MP Biomedicals, LLC製)と(c-5)(両成分の合計重量に対し5重量%)を、溶融状態において混合し、得られた混合物を撹拌しながら放冷することにより、粉体を得た。得られた粉体をさらに、同重量の、溶融させた上記ワックスでコーティングすることによりコーティング粉体を得、これを潜在化アミン(c-6)として用いた。潜在化アミン(c-6)に含まれる(c-5)の重量は約2.5%であった。
【0115】
[実施例30~31、比較例10~11]
上記成分(a)~(c)の表7に示す組み合わせに関し、
-各成分の量が表7に示す通りであること、及び
-実施例30及び比較例10に関しては、成分(c)(上記潜在化アミン(c-6)として使用)の添加により得られた混合物を活性化工程に付し、活性化工程の完結の時点から、上記混合物が事実上流動性を失うまでに要した時間(単位:分)を、上記混合物を室温(22℃)下で放冷しつつ測定したこと
を除き、上記「反応促進効果」の項の「ゲルタイム(+)」(成分(b)の量が0mgでない(即ち実施例)場合)又は「ゲルタイム(-)」(成分(b)の量が0mgである(即ち比較例)場合)の測定と同様にして、ゲルタイムを測定した。
活性化工程は、目視によって潜在化アミンの完全融解が観察される(活性化工程の完結)まで、ヘアドライヤーの熱風を反応容器にあてることで上記混合物を加熱する工程であった。
なお、各ゲルタイムは、同一ロットの成分(a)を用いて、同じ日に測定した。
【0116】
【表7】
【0117】
(結果の考察)
潜在化された重合開始剤を使用することにより、硬化のタイミングを制御することができることがわかる(実施例30~31)。
また、成分(b)は、潜在化による重合開始剤の効果の制御に影響せず(実施例31、比較例11)、潜在化に使用した成分(ワックス)の存在下でも、成分(a)の硬化を促進することがわかる(実施例30、比較例10)。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の重合性組成物は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物のアニオン重合を、保存安定性を損なうことなく促進することができるので、硬化性樹脂組成物の製造に有用である。
【0119】
日本国特許出願2019-190969号(出願日:2019年10月18日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。