(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240523BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2021565513
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045820
(87)【国際公開番号】W WO2021125008
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019226531
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大友 政義
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036361(JP,A)
【文献】特表2018-516299(JP,A)
【文献】特表2014-503474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
H01B 1/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)~(c):
(a)1種以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物;
(b)1種以上の導電性粒子;及び
(c)1種以上の、炭素数3以上のモノカルボン酸
を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
モノカルボン酸が、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸が直鎖状又は分岐状である、請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸の炭素数が6以上である、請求項2又は3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
1種以上の導電性粒子が銀または銅を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
導電性硬化物製造用である、請求項1~5のいずれか一項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の樹脂組成物及び1種以上の塩基性物質を含む開始剤を含む、電子部品用ペースト。
【請求項8】
150℃以下の温度に加熱することによって硬化させることができる、請求項7記載の電子部品用ペースト。
【請求項9】
請求項7又は8記載の電子部品用ペーストを硬化して得られる、硬化物。
【請求項10】
請求項7又は8記載の電子部品用ペースト、又は請求項9記載の硬化物を含む、半導体装置。
【請求項11】
請求項9記載の硬化物を含む、電磁波シールド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。本発明はまた、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の重合を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や半導体装置の製造において、硬化性樹脂組成物に導電性粒子(特に、銀粒子などの金属粒子)を配合した導電性ペーストが、例えば接着剤として、電気や熱の伝導性を必要とする部位の接着に用いられている。このような導電性ペーストには、はんだより低温で接着ができるという利点がある。
【0003】
低温での硬化に適用し得る反応としては、ウレタン化による重付加、エンチオール反応、カチオン重合、ラジカル重合等が知られている。しかし、ウレタン化による重付加は反応が遅く、短時間での完全硬化が困難である。エンチオール反応は、使用するチオール化合物が金属を腐食させるという問題のため、導電性ペーストへの適用が困難である。カチオン重合(特殊な条件下でのリビングカチオン重合を除く)は、成長種の安定性が低く、反応の制御が困難である。ラジカル重合は酸素によって阻害されるため、特に表面での硬化不良が起こりやすく、大気下での硬化に適用することが困難であるという問題がある。
【0004】
これに対し、メチレンマロネート等の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、塩基性物質を開始剤として用いるアニオン重合によって硬化する。そして、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む硬化性樹脂組成物は、室温のような低温でも短時間で硬化するため、硬化のための加熱による悪影響の回避や、製造効率の向上において有用である。このため、導電性ペーストに含まれる硬化性樹脂として、メチレンマロネート等の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-527667
【文献】特表2018-517809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を用いた電子部品用ペーストの開発を目的として、本発明者らが種々検討を行ったところ、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に導電性粒子、特に銀粒子などの金属粒子を配合すると、その安定性(ポットライフ)が著しく低下し、開始剤不在下にも関わらず2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が短時間で硬化してしまうことが判明した。導電性粒子が2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の意図しない硬化を誘発することは、これまで知られていなかった。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を電子部品用ペーストに適用することは、このような意図しない硬化を抑制しない限り実用的ではない。
【0007】
特許文献1及び特許文献2には、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の安定化剤として種々の酸を用いることや、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に充填剤(特に、金属粒子などの無機充填剤(特許文献1))を添加しうることが記載されている。しかし、上記のような導電性粒子の存在下における2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の意図しない硬化や、その抑制について、特許文献1及び特許文献2には一切記載されていない。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、導電性粒子の共存下における2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の安定性を向上させることができる、電子部品用ペーストの製造に好適な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0011】
1.下記成分(a)~(c):
(a)1種以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物;
(b)1種以上の導電性粒子;及び
(c)1種以上の、炭素数3以上のモノカルボン酸
を含む、樹脂組成物。
2.モノカルボン酸が、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸である、前項1記載の樹脂組成物。
3.前記飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸が直鎖状又は分岐状である、前項2記載の樹脂組成物。
4.前記飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸の炭素数が6以上である、前項2又は3記載の樹脂組成物。
5.1種以上の導電性粒子が銀または銅を含む、前項1~4のいずれか一項記載の樹脂組成物。
6.導電性硬化物製造用である、前項1~5のいずれか一項記載の樹脂組成物。
7.前項1~6のいずれか一項記載の樹脂組成物及び1種以上の塩基性物質を含む開始剤を含む、電子部品用ペースト。
8.150℃以下の温度に加熱することによって硬化させることができる、前項7記載の電子部品用ペースト。
9.前項7又は8記載の電子部品用ペーストを硬化して得られる、硬化物。
10.前項7又は8記載の電子部品用ペースト、又は前項9記載の硬化物を含む、半導体装置。
11.前項9記載の硬化物を含む、電磁波シールド材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、導電性粒子に加え、炭素数3以上のモノカルボン酸を含む。上記のように、導電性粒子は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の意図しない硬化を誘発する恐れがある。しかし、本発明の樹脂組成物を用いると、そのような意図しない硬化がモノカルボン酸により抑制されるので、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む電子部品用ペーストを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、下記成分(a)~(c)を含む。
(a)1種以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物
(b)1種以上の導電性粒子
(c)1種以上の、炭素数3以上のモノカルボン酸
以下、前記成分(a)~(c)について説明する。
【0015】
[2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a))]
本発明の樹脂組成物は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a))を含む。本明細書において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物とは、下記式(I):
【化1】
で表される構造単位を少なくとも1つ有する化合物である。成分(a)は、前記式(I)の構造単位を1つ又は2つ以上含む。ある態様においては、成分(a)は、前記式(I)の構造単位を2つから6つ、好ましくは2つ含む。
【0016】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、前記式(I)の構造単位を含むことから、開始剤、典型的には塩基性物質(後述の開始剤)の存在下で、上記構造単位同士の重合が起こるため、本発明において成分(a)として使用可能である。上記の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、上記式(I)の構造単位を2つ以上有するもの(多官能成分)を含む場合、硬化時に架橋が生じ、硬化物の高温での機械特性が向上する等の、物性の改善が見込まれる。
【0017】
成分(a)は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を1種以上含む。成分(a)に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、好ましくは、分子量が180~10000であり、より好ましくは180~5000、さらに好ましくは180~2000、さらに好ましくは220~2000、さらに好ましくは220~1500、さらに好ましくは240~1500、特に好ましくは250~1500、最も好ましくは250~1000である。成分(a)に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量、及び樹脂組成物全体(又は樹脂組成物中の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物全体)を1としたときの各2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の質量含有率は、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)の手法で、カラムとしてODSカラム、検出器として質量分析器(MS)及びPDA(検出波長:190~800nm)あるいはELSDを用いて検量することにより明らかとなる。成分(a)の分子量が180未満の場合は、25℃における蒸気圧が高すぎて、揮発物に起因する種々の問題が生じるおそれがある。特に、揮発物は、周辺部材へ付着すると表面の塩基によって硬化してしまうため、周辺部材の汚染につながる。一方、成分(a)の分子量が10000を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下するほか、成分(b)の導電性粒子や他の充填剤の添加量が制限されるなどの弊害を生じる。
【0018】
成分(a)は、多官能成分を含んでいてもよい。多官能とは、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、前記式(I)の構造単位を2つ以上含むことを指す。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に含まれる前記式(I)の構造単位の数を、当該2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の「官能基数」とよぶ。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物のうち、官能基数が1のものを「単官能」、官能基数が2のものを「2官能」、官能基数が3のものを「3官能」と呼ぶ。多官能成分を含む成分(a)を用いて得られる硬化物は架橋されているので、硬化物の物性、例えば耐熱性や高温での機械的特性が向上する。多官能成分を用いる場合、本発明の樹脂組成物全体を1としたときの、多官能成分の質量割合が0.01以上であることが好ましい。ある態様においては、本発明の樹脂組成物全体を1としたとき、前記式(I)で表される構造単位を2つ以上含む成分(a)の質量割合は、好ましくは0.001~0.899、より好ましくは0.001~0.799、さらに好ましくは0.001~0.50、特に好ましくは0.001~0.25である。
【0019】
成分(a)が多官能成分を含む場合、その硬化物は網目状の架橋構造を形成するため、高温時、特にガラス転移温度以上の温度においても流動することがなく、一定の貯蔵弾性率を保持する。硬化物の高温時における貯蔵弾性率は、例えば動的粘弾性測定(DMA)によって評価できる。一般に架橋構造を形成した硬化物をDMAによって評価した場合、ガラス転移温度以上の温度域にプラトーと呼ばれる貯蔵弾性率の温度変化が比較的小さい領域が広範囲にわたって観察される。このプラトー域の貯蔵弾性率は架橋密度、すなわち成分(a)における多官能成分の含有率に関係した量として評価される。
【0020】
ある態様においては、本発明の樹脂組成物全体を1としたとき、成分(a)の質量割合は、好ましくは0.01~0.899、より好ましくは0.05~0.799、特に好ましくは、0.05~0.50、最も好ましくは、0.05~0.25である。
【0021】
ある態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(II):
【化2】
(式中、
X
1及びX
2は、各々独立に、単結合、O又はNR
3(式中、R
3は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(III):
【化3】
(式中、
X
3及びX
4は、各々独立に、単結合、O又はNR
5(式中、R
5は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
Wは、スペーサーを表し、
R
4は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0022】
ある態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(IV):
【化4】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(V):
【化5】
(式中、
Wは、スペーサーを表し、
R
4は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0023】
別の態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(VI):
【化6】
(式中、
R
11は、下記式(VII):
【化7】
で表される1,1-ジカルボニルエチレン単位を表し、
それぞれのR
12は、各々独立に、スペーサーを表し、
R
13及びR
14は、各々独立に、水素又は1価の炭化水素基を表し、
X
11並びにそれぞれのX
12及びX
13は、各々独立に、単結合、O又はNR
15(式中、R
15は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
それぞれのmは、各々独立に、0又は1を表し、
nは、1以上20以下の整数を表す)
で表されるジカルボニルエチレン誘導体である。
【0024】
本明細書において、1価の炭化水素基とは、炭化水素の炭素原子から水素原子を1つ除去することにより生じる基を指す。該1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基が挙げられ、これらの一部にN、O、S、P及びSi等のヘテロ原子が含まれていても良い。
【0025】
前記1価の炭化水素基は、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリル、アルコキシ、アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アミド、アジド、シアノ、アシロキシ、カルボキシ、スルホキシ、アクリロキシ、シロキシ、エポキシ、またはエステルで置換されていても良い。
前記1価の炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基であり、さらに好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基である。
【0026】
前記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。前記アルキル基の炭素数は、通常1~18、好ましくは1~16、更に好ましくは2~12、より好ましくは3~10、特に好ましくは4~8である。また、前記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2~12、好ましくは2~10、更に好ましくは3~8、より好ましくは3~7、特に好ましくは3~6である。前記アルキル基等が環状構造の場合、前記アルキル基等の炭素数は、通常5~16、好ましくは5~14、更に好ましくは6~12、より好ましくは6~10である。前記アルキル基等の炭素数は、例えば前記の逆相HPLCや核磁気共鳴法(NMR法)によって特定できる。
【0027】
前記アルキル基等の構造には特に限定はない。前記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。前記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。前記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、前記アルキル基等は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。また、前記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1つ又は2つ以上含んでいてもよい。前記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、及び珪素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0028】
前記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2-エチルヘキシル基が挙げられる。前記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2-メチルシクロヘキシル基が挙げられる。前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。前記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0029】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が前記式(II)又は(IV)で表され、R1及びR2がいずれも1価の炭化水素基である場合、R1及びR2はいずれも炭素数2~8のアルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルカリル基であることが特に好ましい。
【0030】
本明細書において、スペーサーとは、2価の炭化水素基を指し、より具体的には、環状、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基である。前記アルキレン基の炭素数には特に限定はない。前記アルキレン基の炭素数は、通常1~12、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、さらに好ましくは4~8である。ここで、前記アルキレン基は、所望に応じて、N、O、S、P、およびSiから選択されるヘテロ原子を含有する基を途中に含んでいてよい。また、前記アルキレン基は、不飽和結合を有していても良い。ある態様においては、スペーサーは炭素数4~8の非置換アルキレン基である。好ましくは、スペーサーは、直鎖の置換又は非置換アルキレン基、より好ましくは、式-(CH2)n-(式中、nは2~10、好ましくは4~8の整数である)で表される構造を有するアルキレン基であって、その両末端の炭素原子が、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の残りの部分と結合する。
上記スペーサーとしての2価の炭化水素基の具体的な例としては、1,4-n-ブチレン基及び1,4-シクロヘキシレンジメチレン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物がスペーサーを有する場合、末端の一価の炭化水素基の炭素数は6以下であることが好ましい。すなわち、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が前記式(II)又は(IV)で表される場合、前記式(III)又は(V)におけるR4は炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、ただし、R1及びR2の一方が前記式(III)又は式(V)で表される場合は、R1及びR2の他方は炭素数1~6のアルキル基であることが好ましい。この場合、前記式(II)又は(IV)において、R1及びR2の両方が前記式(III)又は式(V)で表されてもよいが、好ましくは、R1及びR2の一方だけが前記式(III)又は式(V)で表される。好ましくは、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、前記式(IV)で表される。
【0032】
スペーサーを有する特に好ましい化合物としては、前記式(IV)におけるR1又はR2の一方が、エチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、他方が前記式(V)で表され、Wが1,4-n-ブチレン基又は1,4-シクロヘキシレンジメチレン基のいずれかであり、R4がエチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかである化合物が挙げられる。また、他の特に好ましい化合物としては、前記式(IV)におけるR1及びR2が前記式(V)で表され、Wは1,4-n-ブチレン基又は1,4-シクロヘキシレンジメチレン基のいずれかであり、R4はエチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかである化合物が挙げられる。
【0033】
種々の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を、米国オハイオ州SIRRUS Inc.から入手可能であり、その合成方法は、WO2012/054616、WO2012/054633及びWO2016/040261等の公開特許公報に公開されている。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に含まれる前記式(I)で表される構造単位の両端が酸素原子に結合している場合は、特表2015-518503に開示されているジオール又はポリオールとのエステル交換等の公知の方法を用いることによって、前記式(I)で表される構造単位がエステル結合及び前記スペーサーを介して複数結合している、より大きな分子量の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を製造することができる。このようにして製造された2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、前記式(II)又は前記式(IV)中のR1及びR2、前記式(III)又は前記式(V)中のR4、並びに前記式(VI)中のR14及びR13が、ヒドロキシ基を含み得る。これらの2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を適宜配合することにより、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む成分(a)を得ることができる。
【0034】
成分(a)として好ましい2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の具体的な例としては、ジブチルメチレンマロネート、ジペンチルメチレンマロネート、ジヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネート、エチルオクチルメチレンマロネート、プロピルヘキシルメチレンマロネート、2-エチルヘキシル-エチルメチレンマロネート、エチルフェニル-エチルメチレンマロネート等が挙げられる。これらは揮発性が低く、反応性が高いために好ましい。取り扱い性の観点からは、ジヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネートが特に好ましい。
【0035】
(b)導電性粒子(成分(b))
本発明の樹脂組成物は、導電性粒子(成分(b))を含む。本発明において、導電性粒子とは、平均粒径が0.01~100μmであり、電気伝導率が106S/m以上の粒子のことであり、導電性物質を粒子状に成形したものでもよく、核(コア粒子)を導電性物質で被覆したものでもよい。前記核(コア粒子)は、その一部でも導電性物質で被覆されていれば、非導電性物質からなっていてもよい。導電性粒子の例には、金属粉やコート粉が含まれる。導電性粒子は、本発明の樹脂組成物に熱伝導性及び/又は導電性を付与するために用いられる。
上記導電性物質に特に制限はない。そのような導電性物質の例としては、金、銀、ニッケル、銅、パラジウム、白金、ビスマス、錫、これらの合金(特に、ビスマス-錫合金、はんだ等)、アルミニウム、インジウム錫酸化物、銀被覆銅、銀被覆アルミニウム、金属被覆ガラス球、銀被覆繊維、銀被覆樹脂、アンチモンドープ錫、酸化錫、炭素繊維、グラファイト、カーボンブラックおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0036】
熱伝導性や導電性を考慮すると、成分(b)は、好ましくは、銀、ニッケル、銅、錫、アルミニウム、銀合金、ニッケル合金、銅合金、錫合金およびアルミニウム合金からなる群から選択される少なくとも1種の金属、より好ましくは、銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の金属、更に好ましくは、銀または銅、最も好ましくは、銀を含む。ある態様において、導電性粒子は銀粒子である。別の態様において、導電性粒子は銅粒子である。銀粒子及び銅粒子は、上で定義されているように、それぞれ、コア粒子を銀及び銅で被覆したコート粉を含む。
【0037】
成分(b)の平均粒径は、0.05~50μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、0.1~15μmであることが最も好ましい。平均粒径が小さすぎると、成分(b)を構成する粒子が凝集し、物性が低下してしまう。平均粒径が大きすぎると、成分(b)の沈降が起こる。本明細書においては、特に断りのない限り、「平均粒径」は、レーザー回折法によって測定した体積基準のメジアン径を指す。
【0038】
成分(b)の形状は特に限定されず、球状、不定形、フレーク状(鱗片状)、フィラメント状(針状)および樹枝状などのいずれであってもよい。異なる形状を有する成分(b)を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
熱伝導性や導電性という観点から、本発明の樹脂組成物の総質量に対し、成分(b)は10質量%以上であり、20質量%以上であることが好ましい。成分(b)が少な過ぎると、硬化後の樹脂組成物の熱伝導性又は導電性が不十分に(場合によってはほとんどなく)なる。また、樹脂組成物の総質量に対し、成分(b)は典型的には95質量%以下、好ましくは92質量%以下である。成分(b)が多過ぎると、十分に硬化させることができない。ある態様においては、成分(b)は、本発明の樹脂組成物の総質量に対し、10質量%~95質量%であり、典型的には、20質量%~95質量%である。また、ある態様においては、成分(b)は、本発明の樹脂組成物の総質量に対し、50質量%~95質量%であり、典型的には、80質量%~95質量%である。
【0040】
(c)炭素数3以上のモノカルボン酸(成分(c))
本発明の樹脂組成物は、炭素数3以上のモノカルボン酸(成分(c))を含む。モノカルボン酸とは、カルボキシル基を1つだけ有する有機化合物である。
炭素数3以上のモノカルボン酸は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
先に述べたように、成分(a)に成分(b)を添加すると、開始剤不在下であっても、成分(a)が短時間で硬化してしまう。しかし、成分(c)の使用により、このような成分(a)の意図しない重合が抑制される。即ち、成分(c)の使用により、成分(a)の安定性が改善される。
【0041】
成分(c)は、炭素数3以上のカルボキシル基を1つだけ有する有機化合物である限り特に制限はなく、脂肪族カルボン酸及び芳香族カルボン酸のいずれを使用してもよい。ある態様においては、成分(c)のモノカルボン酸は、脂肪族モノカルボン酸である。脂肪族モノカルボン酸は、飽和脂肪族モノカルボン酸及び不飽和脂肪族モノカルボン酸のいずれであってもよい。また脂肪族モノカルボン酸は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの構造を有していてもよいが、好ましくは、直鎖状又は分岐状である。また、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、成分(c)は置換基を有していてもよい。ある態様において、成分(c)のモノカルボン酸の炭素数は、3~30であり、より典型的には3~24である。別の態様において、成分(c)のモノカルボン酸の炭素数は、6以上であり、さらに好ましくは6~20である。
成分(c)に替えて、炭素数3未満のモノカルボン酸、又は複数のカルボキシル基を有する有機酸(ポリカルボン酸)、例えばジカルボン酸を用いると、成分(b)の存在下における成分(a)の安定性の改善が不十分となる。
【0042】
成分(c)の例としては、プロピオン酸、アクリル酸、酪酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イソ酪酸、メタクリル酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ソルビン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、コール酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ペンタクロロプロピオン酸、乳酸、グリコール酸、ピルビン酸、グルクロン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレン-1-カルボン酸、ナフタレン-2-カルボン酸、サリチル酸、ニコチン酸、ケイ皮酸、マンデル酸などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、成分(c)のうち、異性体がありうるものについては、特定の構造を有するものに限定されない。
成分(c)としては、成分(a)の安定性を改善する効果の高さという観点から、脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数6以上の脂肪族モノカルボン酸がより好ましく、炭素数6以上20以下の脂肪族モノカルボン酸が更に好ましい。ある態様においては、成分(c)は、炭素数18の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。また、ある態様においては、成分(c)は、ステアリン酸又はオレイン酸を少なくとも含む。特に、成分(c)は、オレイン酸を含むことが好ましい。
【0043】
成分(c)の量は、本発明の樹脂組成物全体を1としたとき、成分(c)の質量割合は、好ましくは0.0001~0.1、より好ましくは0.0001~0.05、特に好ましくは、0.0005~0.03である。成分(c)の量が少なすぎると、成分(a)の安定性が十分改善されず、ポットライフが悪化することがある。一方、成分(c)の量が多すぎると、硬化性が悪化する可能性がある。
【0044】
成分(c)の添加の様式に特に制限はない。例えば、まず成分(b)を含まない成分(a)と成分(c)を混合し、次に得られた混合物に成分(b)を添加してもよい。あるいは、まず成分(a)を含まない成分(b)と成分(c)を混合し、次に得られた混合物に成分(a)を添加してもよい。後者の方法の例として、成分(b)を成分(c)で表面処理することにより、成分(c)で被覆された成分(b)を調製し、これを成分(a)と混合する方法を挙げることができる。先に述べたように、成分(a)と成分(b)を混合して得られる混合物は、成分(c)を添加しなくても硬化することがある。しかし、その硬化が過度に速くなければ、まず成分(a)と成分(b)を混合し、次に得られた混合物に成分(c)を添加することも可能である。
【0045】
なお、成分(b)は任意の物質により表面処理されていてもよい。表面処理に用いる物質(表面処理剤)の例としては、脂肪酸(ステアリン酸など)、アミン(イソブチルアミン、オクチルアミンなど)、シランカップリング剤等を挙げることができるが、これらに限定されない。使用する成分(b)が上記のように成分(c)(例えば、ステアリン酸などの脂肪酸)で表面処理されている場合、成分(c)の少なくとも一部が、成分(b)の表面処理に用いられた成分(c)であってもよい。
成分(b)を表面処理する方法は、特に限定されない。例えば、成分(b)としての金属粉(例えば銀粉)を脂肪酸で表面処理する場合、表面処理の方法の例としては、下記(1)~(3):
(1)液状脂肪酸に金属粉を添加し、得られた混合物を攪拌した後、脂肪酸が付着した金属粉を乾燥させる
(2)脂肪酸(液状又は固形)を溶媒に溶解し、得られた溶液に金属粉を添加し、得られた混合物を攪拌した後、脂肪酸溶液が付着した金属粉を乾燥させる
(3)液状脂肪酸と固形脂肪酸の混合物に金属粉、次いで溶媒を添加し、得られた混合物を攪拌した後、脂肪酸溶液が付着した金属粉を乾燥させる
の方法を挙げることができるが、これらに限定されない。
上記(1)~(3)の方法において、溶媒としては任意の溶媒、例えば、水等の無機溶媒及び/又はアルコール(例えばエタノール)等の有機溶媒を用いることができる。また、攪拌にはボールミル等の適切な撹拌機を用いることができる。
【0046】
塩基性物質によって開始させた重合を意図的に停止させることや、微量の塩基性不純物による意図しない重合を抑制することを目的とした、成分(a)へのカルボン酸などの酸成分の添加は知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、成分(b)の存在下における成分(a)の重合の意図しない促進と、1種以上の、炭素数3以上のモノカルボン酸である成分(c)によるその抑制は、本発明者によって初めて見出されたものである。
【0047】
ある実施形態において、本発明は、成分(a)を含む樹脂組成物を調製する方法であって、
成分(a)と成分(b)を混合して、混合物を得ること、及び
前記混合物に成分(c)を添加して、樹脂組成物を得ること
を含む方法に関する。
【0048】
他の実施形態において、本発明は、成分(a)を含む樹脂組成物を調製する方法であって、
成分(a)と成分(c)を混合して、混合物を得ること、及び
前記混合物に成分(b)を添加して、樹脂組成物を得ること
を含む方法に関する。
【0049】
更に他の実施形態において、本発明は、成分(a)を含む樹脂組成物を調製する方法であって、
成分(b)と成分(c)を混合して、混合物を得ること、及び
前記混合物に成分(a)を添加して、樹脂組成物を得ること
を含む方法に関する。
【0050】
以上の方法における、成分(a)、成分(b)及び成分(c)等の好ましい態様は、本発明の樹脂組成物におけるものと同一である。
【0051】
成分(b)存在下において成分(a)の安定性が低下するが、これは、成分(a)のアニオン重合を促進する活性を有する部位が成分(b)の表面上に存在するためである可能性がある。成分(c)の使用によって安定性が改善する理由は定かではないが、炭素数3以上のモノカルボン酸がこの安定化の機構に関与することが考えられる。
【0052】
[安定化剤]
本発明の樹脂組成物は、安定化剤を更に含んでもよい。前記成分(c)にも樹脂組成物を安定させる効果があるが、必要に応じてさらに安定化剤を用いてもよい。
安定化剤は、樹脂組成物の保存時の安定性を高めるための成分(c)以外の物質であり、意図しないラジカルや塩基性成分による重合反応の発生を抑制するために添加される。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、偶発的に生じたラジカルを基点として意図しないラジカル重合反応が発生する場合がある。また、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、非常に微量の塩基性成分の混入によってアニオン重合反応が発生する場合がある。安定化剤を添加することによって、このような意図しないラジカルや塩基性成分による重合反応の発生を抑制することができる。
【0053】
安定化剤は公知のものを使用可能であり、例えば、強酸やラジカル捕捉剤を用いることができる。具体的な安定化剤の例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、トリフェニルホスフィン、4-メトキシフェノール及びハイドロキノン等を挙げることができる。この中で、好ましい安定化剤は、メタンスルホン酸、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム及び4-メトキシフェノールから選ばれる少なくとも1つである。また安定化剤として、特開2010-117545号公報、特開2008-184514号公報などに開示された公知のものを用いることもできる。
安定化剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、前記成分(a)~(c)以外に、絶縁性粒子、カップリング剤等の界面処理剤、顔料、可塑剤等を必要に応じて含有していてもよい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、前記成分(a)~(c)を含むが、さらに必要に応じて上記安定化剤や絶縁性粒子等の成分を含有してもよい。本発明の樹脂組成物は、これらの成分を混合して調製することができる。混合には、公知の装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサーやロールミルなどの公知の装置によって混合することができる。これらの成分は、同時に混合してもよく、一部を先に混合し、残りを後から混合してもよい。
【0056】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分(a)~(c)及び上記安定化剤や絶縁性粒子等以外の成分、例えば、難燃剤、イオントラップ剤、消泡剤、レベリング剤、破泡剤等を含有してもよい。また必要であれば、粘度を調節することなどを目的として、本発明の樹脂組成物に溶剤を添加することができる。しかし通常、本発明の樹脂組成物の粘度は比較的低いので、溶剤は必要とされない。
【0057】
[開始剤]
本発明の樹脂組成物は、開始剤を用いて硬化させることができる。開始剤は、樹脂組成物がマイケル付加反応によって硬化する際の重合開始反応に寄与することが期待される。本発明に用いる開始剤は、塩基性物質を含む。本発明において開始剤として用いる塩基性物質は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明で用いられる塩基性物質は、典型的には、有機塩基、無機塩基、または有機金属材料を含む。
有機塩基としては、後述するアミン化合物等が挙げられる。無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。有機金属材料としては、ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、フェニルリチウム、等の有機アルカリ金属化合物およびそれらから調製される有機銅試薬;メチルマグネシウムブロミド、ジメチルマグネシウム、フェニルマグネシウムクロリド等の有機アルカリ土類金属化合物およびそれらから調製される有機銅試薬;及びナトリウムメトキシド、t-ブチルメトキシド等のアルコキシド;ナトリウムベンゾエート等のカルボキシレート等が挙げられる。
【0059】
本発明の樹脂組成物を電子材料用途に用いる場合、樹脂組成物が無機塩基や有機金属材料を含むと周辺電気・電子回路における意図しない電気的特性への影響が懸念される。このため、本発明に用いる塩基性物質は、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属元素、又はハロゲン元素を含まないものである。別の態様においては、本発明に用いる塩基性物質は、非イオン性である。
【0060】
本発明で用いられる塩基性物質は、好ましくは、有機塩基、さらに好ましくは、アミン化合物である。前記アミン化合物とは、少なくとも第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基のいずれかを分子内に1つ以上有する有機化合物であり、これら級の異なるアミノ基を同一分子内に2種以上同時に有していてもよい。
【0061】
第1級アミノ基を有する化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、アニリン、トルイジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0062】
第2級アミノ基を有する化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン、ピペリドン、ジフェニルアミン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン等が挙げられる。
【0063】
第3級アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリアリルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリ-n-オクチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、トリフェニルアミン、4-メチルトリフェニルアミン、4,4-ジメチルトリフェニルアミン、ジフェニルエチルアミン、ジフェニルベンジルアミン、N、N-ジフェニル-p-アニシジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン、1-ベンジルピペリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N-エチル-N-メチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0064】
また、異なるアミノ基を同一分子内に2種以上同時に有していている化合物としては、特に限定されないが、例えば、本実施の形態の原料として用いられるグアニジン化合物やイミダゾール化合物等が挙げられる。グアニジン化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン等が挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-(2-メチルイミダゾリル-(1))-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2′-メチルイミダゾリル-(1)′)-エチル-S-トリアジン・イソシアヌール酸付加物、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール-トリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール-トリメリテイト、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)-尿素、および、N,N′-(2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル)-アジポイルジアミドが挙げられる。ただし、上記イミダゾール化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0065】
上記アミン化合物は、好ましくは第2級又は第3級アミノ基を含む。アミン化合物に含まれるアミノ基が第1級の場合には、アミノ基から生じる活性水素が重合反応を抑制する可能性が高まる。上記アミン化合物は、より好ましくは、第3級アミノ基を含む。換言すれば、上記アミン化合物は、より好ましくは第3級アミン化合物である。
上記アミン化合物は、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、および遷移金属元素ならびに、ハロゲン元素を含まないものである。
上記アミン化合物は、好ましくはヒドロキシ基、スルフヒドリル基等の活性水素を含まないものである。
【0066】
上記アミン化合物の分子量は、好ましくは100~1000であり、より好ましくは100~500であり、さらに好ましくは110~300である。アミン化合物の分子量が100未満である場合には揮発性が高く、周辺部材への影響ならびに硬化物の物性変動等が懸念される。アミン化合物の分子量が1000を超える場合には、アミン化合物の粘度増加や、樹脂組成物中への分散性低下等が懸念される。
本発明において、開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
開始剤として好ましいアミン化合物の具体的な例としては、トリエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N-エチル-N-メチルベンジルアミン、2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン、N,N-ジメチルオクチルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミン及びN,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明において、開始剤は、分離又は潜在化によって不活性となっていて、任意の熱、光、機械的剪断等の刺激によって活性化するものでもよい。より具体的には、開始剤は、マイクロカプセル、イオン解離型、包接型などの潜在性硬化触媒であってもよく、熱、光、電磁波、超音波、物理的せん断によって塩基を発生する形態であってもよい。
【0069】
本発明において、塩基性物質の量は、樹脂組成物中の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の全量(100mol%)に対して、好ましくは0.01mol%~30mol%、より好ましくは、0.01mol%~10mol%である。塩基性物質の含有量が0.01mol%未満であると、硬化が不安定になる。逆に、塩基性物質の含有量が30mol%よりも多いときは、硬化物中に樹脂マトリックスと化学結合を形成していない塩基性物質が大量に残留し、硬化物の物性低下やブリード等を引き起こす。
【0070】
以上のような開始剤を用いて硬化させることにより、本発明の樹脂組成物は、その組成に応じた電気抵抗率を有する硬化物を与える。
本発明のある態様において、本発明の樹脂組成物が与える硬化物は、25℃において、1000μΩ・cm以下2μΩ・cm以上、典型的には700μΩ・cm以下2μΩ・cm以上の電気抵抗率を有する。しかし必要に応じて、本発明の樹脂組成物が与える硬化物が、1000μΩ・cm超の電気抵抗率を有することもある。
本発明のある態様において、本発明の樹脂組成物は、導電性硬化物の製造用である。硬化性が「導電性である」とは、当該硬化物が、10000μΩ・cm以下の電気抵抗率を有することを意味する。導電性硬化物は、ある程度高い電気伝導度が要求される用途において有用である。
【0071】
本発明のある態様において、本発明の樹脂組成物を開始剤と組み合わせることにより、電子部品用ペーストを得ることができる。この電子部品用ペーストは、特に、電子部品や半導体装置の製造において有用である。本発明の電子部品用ペーストは、本発明の樹脂組成物、及び1種以上の塩基性物質を含む開始剤を含む。
この電子部品用ペーストは、硬化性樹脂組成物を含むため、接着剤、特に一液型接着剤として使用することができる。この電子部品用ペーストはさらに、無溶剤タイプの一液型接着剤として使用することができる。このような接着剤は、電子部品の接着に好適である。ある実施形態において、本発明は、樹脂組成物及び1種以上の塩基性物質を含む開始剤を含む一液型接着剤、特に電子部品用の一液型接着剤に関する。他の実施形態において、本発明は、本発明の樹脂組成物、又は本発明の接着剤を含む半導体装置に関する。
また、本発明の樹脂組成物を主剤として用い、これを1種類以上の塩基性物質を含む上記開始剤を含む硬化剤と組み合わせて、二液混合型の接着剤として使用することもできる。
【0072】
電子部品用ペーストの適用には、ジェットディスペンサー、エアーディスペンサー等を使用することができる。また、公知のコーティング法(ディップ塗工、スプレー塗工、バーコーター塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工及びスピンコーター塗工等)及び公知の印刷方法(平版印刷、カルトン印刷、金属印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷及びインクジェット印刷等)を使用することができる。ある態様においては、本発明の電子部品用ペーストは、加熱をせず常温で硬化させることができる。別の態様においては、本発明の電子部品用ペーストは、150℃以下の温度、例えば25~80℃の温度に加熱することによって硬化させることができる。この場合、加熱温度は、好ましくは50~80℃である。加熱時間は、典型的には、0.5~4時間であり、好ましくは0.5~2時間である。
【0073】
本発明においては、本発明の樹脂組成物を硬化して得られる硬化物も提供される。また、本発明においては、本発明の電子部品用ペーストを硬化して得られる硬化物も提供される。
本発明においてはさらに、本発明の樹脂組成物の硬化物、又は本発明の電子部品用ペーストの硬化物を含む半導体装置も提供される。
【0074】
本発明では、本発明の樹脂組成物を、第1の電子部品用部材に塗布(apply)すること、および、第2の前記電子部品用部材に接触させることを含む、電子部品用部材を接着する方法も提供される。また、第1の電子部品用部材と第2の電子部品用部材の間に、本発明の樹脂組成物を注入することを含む、電子部品用部材を接着する方法も提供される。これらの電子部品用部材を接着する方法のある態様においては、塗布又は注入は、ジェットティスペンス又はエアーディスペンスによって行われる。さらに、本発明の樹脂組成物を、電子部品又は基板に塗布(apply)することを含む、電子部品を基板上に接着する方法も提供される。前記電子部品を基板上に接着する方法においては、塗布は注入によって行われてもよく、ジェットティスペンス又はエアーディスペンスによって行われてもよい。また、前記電子部品を基板上に接着する方法においては、電子部品は半導体素子であってもよい。また、本発明の樹脂組成物を、電子部品の表面の少なくとも一部に適用することを含む、電子部品を被覆する方法も提供される。前記電子部品を被覆する方法においては、適用はスプレー塗工によって行われてもよく、マスクを介したスクリーン印刷等の印刷方法によって行われてもよい。
【0075】
ある態様において、本発明の樹脂組成物の硬化物、又は本発明の電子部品用ペーストの硬化物は導電体であるため、その導電性に基づく用途に用いることができる。例えば、アクチュエータの動作に伴う帯電を防止するための部材を、これらの硬化物を用いて作成することができる。本発明の樹脂組成物の硬化物、又は本発明の電子部品用ペーストの硬化物はさらに、電磁波シールド材として用いることができる。本発明においては、本発明の樹脂組成物の硬化物、又は本発明の電子部品用ペーストの硬化物を含む電磁波シールド材も提供される。より具体的には、本発明の樹脂組成物、又は本発明の電子部品用ペーストは、外部から到来するまたは内部で発生する電磁波の遮断を要する、半導体装置用の種々のモジュールの組み立て等に用いることができる。本発明の樹脂組成物の硬化物は、さらに、プリント配線板の導電パターンとして用いることができる。
別の態様において、本発明の樹脂組成物の硬化物、又は本発明の電子部品用ペーストの硬化物は熱伝導性である。この場合、熱伝導性硬化物の熱伝導率は、典型的には、0.5~250W/m・Kである。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明は、以下の実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0077】
[樹脂組成物の調製]
以下の実施例及び比較例において使用した樹脂組成物の原料は、以下のとおりである。
【0078】
・2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a)):
(a-1)DHMM (SIRRUS社製)
(a-2)DCHMM (SIRRUS社製)
前記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の具体的な構造は、以下の表1中の化学式のとおりである。
【表1】
【0079】
・導電性粒子(成分(b)):
(b-1)銀粒子(表面処理なし)(平均粒径:5μm、形状:球状)
(b-1a)銀粒子(オクチルアミン(和光純薬株式会社)で表面処理された成分(b-1)、イグロス値:0.9%)
(b-1b)銀粒子(ステアリン酸(新日本理化株式会社)で表面処理された成分(b-1)、イグロス値:0.7%)
(b-1c)銀粒子(オレイン酸(日油株式会社)で表面処理された成分(b-1)、イグロス値:0.7%)
(b-2)銅粒子(表面処理なし)(平均粒径:2.5μm、形状:球状)
(b-2a)銅粒子(オレイン酸(日油株式会社)で表面処理された成分(b-2)、イグロス値:0.9%)
なお、イグロス値(強熱減量)は、表面処理された乾燥後の銀粒子又は銅粒子を800℃まで20℃/分で昇温し、800℃で5分間焼成した後の残分の質量から算出した。
【0080】
・成分(b)の表面処理
成分(b-1)100gと、種々の酸またはアミン2gと、エタノール10gとの混合物を、ポットミルにて攪拌して銀粒子の表面処理を行い、成分(b-1a)~(b-1c)を調製した。
また、成分(b-2)100gと、オレイン酸2gと、エタノール10gとの混合物をポットミルにて攪拌して銅粒子の表面処理を行い、成分(b-2a)を調製した。
【0081】
・モノカルボン酸(成分(c)):
(c-1)プロピオン酸(炭素数3、和光純薬株式会社)
(c-2)ソルビン酸(炭素数6、和光純薬株式会社)
(c-3)ステアリン酸(炭素数18、新日本理化株式会社)
(c-4)イソステアリン酸(炭素数18、日産化学工業株式会社)
(c-5)オレイン酸(炭素数18、日油株式会社)
【0082】
上記イソステアリン酸は、下記の構造を有する。
【化8】
【0083】
・炭素数の少ないモノカルボン酸、又はジカルボン酸(成分(c’)):
(c’-1)酢酸(炭素数2、和光純薬株式会社)
(c’-2)マロン酸(炭素数3、和光純薬株式会社)
(c’-3)マレイン酸(炭素数4、和光純薬株式会社)
【0084】
[実施例1~21及び比較例1~15]
軟膏瓶(30ml、ポリプロピレン製)に、成分(a)、成分(b)及び成分(c)(又は成分(c’))を、表2~7に示す配合(表中の配合量は重量(単位:g))で入れた。軟膏瓶の内容物を、ヘラを用いて攪拌した後、ハイブリッドミキサーを用いて室温(20~25℃)で15秒間混合することにより、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、目視観察および手に伝わる感触から、均質であると判断された。この樹脂組成物について、下記のようにしてポットライフを測定した。
樹脂組成物中の各種表面処理剤の量は、上記のイグロス値から算出した。なお上記のように、成分(b-1c)及び(b-2a)では成分(c-5)、成分(b-1b)では成分(c-3)を表面処理剤として用いている。これらの成分(b)については、表面処理剤として用いた成分(c)の種類及びその量を、表中の「成分(b)表面処理剤」の項に示した。表2~7中の「成分(b)」の項に示された量は、表面処理剤の量を含まず、また「成分(c)」の項に示された量は、表面処理剤として用いられた成分(c)の量を含まない。
【0085】
[樹脂組成物のポットライフの測定]
上記のようにして調製された直後の、軟膏瓶(蓋は調製完了後直ちに閉めた)中の樹脂組成物を、室温(20~25℃)で静置した。この樹脂組成物の粘度を所定の時点でチェックし、静置開始の時点から、この樹脂組成物における明らかな粘度の上昇が検出されるまでに要した時間を、ポットライフ(単位:時)と見なした。
樹脂組成物の粘度のチェックは、次のようにして行った。軟膏瓶の蓋を開けて、瓶の中の樹脂組成物を、ヘラを用いて攪拌し、撹拌に要する力の明らかな増加(手に伝わる感触によって判断した)が感知されたとき、樹脂組成物における明らかな粘度の上昇が検出されたと見なした。
この粘度のチェックは、樹脂組成物の静置開始から12時間後まで1時間おきに行った。ただし、静置開始から12時間以内に明らかな粘度の上昇が検出されなかった樹脂組成物については、その樹脂組成物の新たに調製した試料を室温で12時間静置し、その後1時間おきに、静置開始から24時間後まで粘度のチェックを行った。この試料について静置開始から24時間以内に明らかな粘度の上昇が検出されなかった場合は、粘度のチェックを24時間おきに行う以外は同様にして、明らかな粘度の上昇が検出されるまでこの試験を継続した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
(結果の考察)
実施例1~12、34~36及び比較例1、6、7、9より、成分(b)の存在下では、意図しない成分(a)の硬化が起こること、また成分(c)の添加により、成分(b)の存在下における樹脂組成物のポットライフが、成分(c)が添加されない場合に比して延長される、即ち成分(a)の安定性が向上することが分かる。
【0093】
実施例13~18及び比較例5、8より、成分(b)の表面処理剤としての成分(c)の添加によっても、成分(b)の存在下における成分(a)の安定性が向上することが分かる。
【0094】
実施例13及び19~30より、成分(c)で表面処理された成分(b)に別途成分(c)を添加することにより、成分(b)の存在下における樹脂組成物のポットライフが、成分(c)が添加されない場合に比して延長されることが分かる。
実施例31~33及び比較例5より、成分(b)が、成分(c)以外で表面処理されていても、成分(c)の添加により、樹脂組成物のポットライフが、成分(c)が添加されない場合に比して延長されることが分かる。
【0095】
比較例1~4より、炭素数3未満のモノカルボン酸や、ジカルボン酸のようなポリカルボン酸は、カルボキシル基を有する有機化合物であっても、成分(b)の存在下における成分(a)の安定性を向上させる効果を示さないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の樹脂組成物を用いると、導電性粒子の存在下における2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の意図しない硬化が抑制されるので、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む電子部品用ペーストを容易に製造することができる。
【0097】
日本国特許出願2019-226531(出願日:2019年12月16日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。