(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】電極、固体電解質形電解装置および合成ガス生成方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/052 20210101AFI20240523BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240523BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240523BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240523BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20240523BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240523BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B1/23
C25B9/00 Z
C25B9/23
C25B11/04
C25B11/054
(21)【出願番号】P 2021516174
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017384
(87)【国際公開番号】W WO2020218371
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019082033
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】ジア チンシン
(72)【発明者】
【氏名】脇 一太郎
(72)【発明者】
【氏名】田邉 真一
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-171611(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118065(WO,A1)
【文献】特表2017-527701(JP,A)
【文献】国際公開第2019/020239(WO,A1)
【文献】特開2017-078191(JP,A)
【文献】特開2012-024648(JP,A)
【文献】特開2008-214694(JP,A)
【文献】特開2006-226218(JP,A)
【文献】特開昭61-065996(JP,A)
【文献】田部浩三,固体酸・塩基の基礎と応用,有機合成化学協会誌,1975年,第33巻、第11号,p.842-853
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの還元反応により少なくとも一酸化炭素を生成する触媒と、
前記触媒を担持する電極材料と、
少なくとも前記電極材料の表面上に局所的に存在する固体塩基と、
を有し、
前記触媒が前記電極材料の表面に薄膜状に形成されており、
前記固体塩基が、
KHCO
3
、アルカリ土類金属の酸化物、
Sr(OH)
2
、BaCO
3
、希土類金属の酸化物
及びNaOHからなる群から選択される少なくとも1つである、電極。
【請求項2】
前記電極はカソードである請求項1に記載の電極。
【請求項3】
原料ガスの還元反応により少なくとも一酸化炭素を生成する触媒と前記触媒を担持する電極材料とを有するカソードと、
前記カソードと1対の電極を構成するアノードと、
前記カソードと前記カソードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、
前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加する電圧印加部と
を有し、
前記触媒が前記電極材料の表面に薄膜状に形成されており、
前記カソードが、
KHCO
3
、アルカリ土類金属の酸化物、
Sr(OH)
2
、BaCO
3
、希土類金属の酸化物、
及びNaOHからなる群から選択される少なくとも1つである固体塩基を更に有し、
前記固体塩基が、前記電極材料の表面上に局所的に存在する固体電解質形電解装置。
【請求項4】
前記固体塩基が、前記カソードの、前記固体電解質との接触面側に存在する請求項3に記載の固体電解質形電解装置。
【請求項5】
前記固体電解質が、陰イオン交換膜である請求項3または4に記載の固体電解質形電解装置。
【請求項6】
前記固体電解質が、陽イオン交換膜である請求項3または4に記載の固体電解質形電解装置。
【請求項7】
触媒と前記触媒を担持する電極材料とを有するカソードと、前記カソードと1対の電極を構成するアノードと、前記カソードと前記カソードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加する電圧印加部とを有し、前記触媒が前記電極材料の表面に薄膜状に形成されており、前記カソードが、
KHCO
3
、アルカリ土類金属の酸化物、
Sr(OH)
2
、BaCO
3
、希土類金属の酸化物、
及びNaOHからなる群から選択される少なくとも1つである固体塩基を更に有し、前記固体塩基が、前記電極材料の表面上に局所的に存在する固体電解質形電解装置に反応ガスを供給する工程と、
前記反応ガスが前記カソードに接触し還元反応が生じることによって、少なくとも一酸化炭素を含む合成ガスを生成する工程と、
前記合成ガスを回収する工程と、
を有する合成ガス生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも一酸化炭素を含む合成ガスを生成可能な電極、固体電解質形電解装置および合成ガス生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料(石油、石炭、天然ガス)は、現代のエネルギー消費社会を支えている。しかしながら、このような化石燃料の埋蔵量には限りがある。したがって、化石燃料に代わる各種代替燃料が提案されている。そのひとつに、炭化水素系燃料(HC)がある。HCは、例えば、一酸化炭素(CO)および水素(H2)を少なくとも含有した合成ガスをフィッシャー・トロプシュ反応(FT反応)させて合成可能である。
【0003】
そして、特許文献1には、合成ガス合成装置が提案されている。具体的には、電解槽とは別に設けたタンクにおいて、海水中に二酸化炭素(CO2)を吹き込んで海水のpHを8から5~6に低下させ、pH調整後の海水を該タンクから電解槽に送液し電気分解する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1の方法では、CO2の水への溶解度が低いために合成ガスの生産効率が悪いという課題がある。そこで、本開示は、少なくともCOを含む合成ガスの生産効率が高い電極に関する技術を提供することを課題とする。
【0006】
本開示の一態様によれば、
還元反応により少なくとも一酸化炭素を生成する触媒と、
前記触媒を有する電極材料と、
少なくとも前記電極材料に設けられた固体塩基と、
を有する技術を提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、少なくともCOを含む合成ガスの生産効率が高い電極に関する技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置である。
【
図2】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置において、カソード表面に固体塩基を添加することで、局所的に効率よくCO
2を吸着できる様子を示した概念図である。
【
図3】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置を用いた合成ガス生成方法を示したフローチャートである。
【
図4】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の用途例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示における固体電解質形電解装置について、一実施形態を参照しながら具体的に説明する。尚、本開示に係る発明は、以下で説明する該形態に限定されるものではない。
【0010】
≪固体電解質形電解装置100≫
まず、
図1を参照しながら、本実施形態に係る固体電解質形電解装置(電解セル、電解モジュールとも称される)を説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る固体電解質形電解装置100は、カソード(陰極)101と、前記カソード101と1対の電極を構成するアノード(陽極)102と、前記カソード101と前記アノード102との間に少なくとも一部が接触している状態にて介在する固体電解質103と、前記カソード101の前記固体電解質103との接触面101-1とは反対側の面101-2で接触している集電板104と、前記アノード102の前記固体電解質103との接触面102-2とは反対側の面102-1で接触している支持板105と、前記集電板104と前記支持板105との間(即ち、前記カソードと前記アノードとの間)に電圧を印加する電圧印加部106と、を有している。また、図示しない供給源および供給装置によって、気相状態でのCO
2や、支持電解質H
2Oを供給することとしている。なお、
図1に記載した固体電解質形電解装置100は、説明のためにカソード101やアノード102などの各部品を離した状態で図示しているが、実際には、集電板104、カソード101、固体電解質103、アノード102、支持板105のそれぞれは所定の方法によって接着され、一体化して構成されている。各部品が、着脱可能に構成されて1つの固体電解質形電解装置100を構成していてもよい。以下、各構成要素を詳述する。
【0011】
<カソード101>
(カソード101での還元反応)
カソード101での還元反応は、固体電解質103の種類による。固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(1)と(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(3)と(4)の還元反応が起きる。
【0012】
(カソード101の基本構造・材質)
カソード101は、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、カーボン紙若しくは不織布、又は金属メッシュを含む。カソード101の電極材料には、例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、チタン、SUSを挙げることができる。また、カソード101が有する、CO2をCOに還元可能なカソードの触媒は、例えば、銀、金、銅又はそれらの組合せから選択される金属を含む。触媒は、より詳細には、例えば、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、又は、それらのいずれか1種以上を含む混合金属を含む。触媒の種類は、触媒としての機能を有するものであれば特に限定されず、耐腐食性等を考慮して決定することができる。例えば、触媒が、Al、Sn、Zn等の両性金属を含まないことで、耐腐食性を向上させることができる。蒸着、析出、吸着、堆積、接着、溶接、物理混合、噴霧等の公知の方法を実施することで、カソード101(乃至は電極材料)に対して、触媒を担持させることができる。
【0013】
(固体塩基107)
ここで、
図2に示すようにカソード101は、固体塩基107を有する。固体塩基107としては、常温(25℃)で固体である塩基であれば特に限定されず、例えば、炭酸水素カリウム(KHCO
3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸物{例えば、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、酸化ストロンチウム(SrO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)
2)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化バリウム(BaO)、水酸化バリウム(Ba(OH)
2)、炭酸バリウム(BaCO
3)など}、希土類金属の酸化物、希土類金属の水酸化物または希土類金属の炭酸塩{例えば、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ランタン(La
2O
3)など}、ハイドロタルカイト(例えば、金属複合水酸、炭酸塩、LDH、HT-CO
3、HT-OHなど)、表面塩基処理したゼオライト、塩基処理したモレキュラーシーブ、表面塩基処理した多孔質アルミナ(KF-Al
2O
3)などを用いることが好ましい。特に、後述する実施例に記載するように、原子番号の小さい弱塩基性の固体塩基がより好ましい。また、水不溶性の固体塩基であるアルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸物、希土類金属の酸化物、希土類金属の水酸化物または希土類金属の炭酸塩を用いることがガス中の水や反応で発生する水により流されず、固体塩基107を有するカソードとしての耐久性が低下しないため、さらにより好ましい。ここで、「水不溶性」とは、10mgが20℃の水100mLに溶解しないものをいう。尚、固体塩基107は、カソード101の、固体電解質103との接触面101-1側に存在することが好適である。このように構成する理由は、カソード101と固体電解質103との界面が反応サイトであるからである。また、固体塩基107は、カソード101の材料との混合物として存在しても良く、また、化合物として一体化された状態で存在してもよい。塗布、蒸着、析出、物理混合等の公知の方法を実施することで、カソード101(乃至は電極材料)に対して固体塩基107を担持させることができる。固体塩基の単位面積あたりの質量は、特に限定されないが、例えば、0.1~10mg/cm
2、好ましくは0.1~6mg/cm
2である。
【0014】
ここで、固体塩基107を用いると効率が上がる理由については、以下の作用機序が推定される。まず、例えば、工場における排出ガスといったような含有濃度が10~20%となる低濃度CO
2ガスを固体電解質形電解装置100に供給した場合、CO
2が低濃度であるが故にカソード101表面に吸着されにくい。そこで、
図2に示すように、カソード101表面に固体塩基107を添加することで、固体塩基が存在している箇所に対して局所的に効率よくCO
2を吸着でき、CO
2還元を進行させることができると理解される。また、固体電解質103として陽イオン交換膜を採用した場合、カソード101表面にH
+が多いと、CO
2が十分に吸着できないと理解される。この際、固体塩基107が存在すると反応が進行すると考えられる(例えばpH>2となるようにpHを制御することが好ましい)。他方、固体電解質として陰イオン交換膜を採用した場合、カソード表面にOH
-が存在しているため、CO
2が吸着され、CO
2還元には適している。しかし、OH
-が多すぎると安定なCO
3
2-で吸着されてしまい、CO
2還元反応が十分に進まないと理解される。この際、弱塩基性の固体塩基107が存在すると、CO
2還元反応がより進行すると考えられる(例えばpH<12となるようにpHを制御することが好ましい)。本発明において、このような固体塩基および触媒を有する電極を、「触媒と、触媒を有する電極材料と、少なくとも電極材料に設けられた固体塩基と、を有する電極」(換言すれば、触媒および固体塩基を有する電極材料、を有する電極)、または、「触媒を有し、固体塩基を更に有するカソード」等と表現することができる。
【0015】
<アノード102>
(アノード102での酸化反応)
アノード102での酸化反応は、固体電解質103の種類による。固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(5)の酸化反応が起き、固体電解質103として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(6)の酸化反応が起きる。
【0016】
(アノード102の基本構造・材質)
アノード102は、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、金属メッシュを含む。アノード102の電極材料には、例えば、Ir、IrO2、Ru、RuO2、Co、CoOx、Cu、CuOx、Fe、FeOx、FeOOH、FeMn、Ni、NiOx、NiOOH、NiCo、NiCe、NiC、NiFe、NiCeCoCe、NiLa、 NiMoFe、 NiSn、 NiZn、 SUS、Au、Ptを挙げることができる。
【0017】
<固体電解質103>
固体電解質103は、カソード101とアノード102との間に接触状態にて介在する。ここで、固体電解質103は、特に高分子膜に限定される訳ではないが、陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜が好適であり、陰イオン交換膜がより好適である。陽イオン交換膜としては、例えば、フッ素樹脂母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、Nafion 117、Nafion115、Nafion212やNafion 350(デュポン社製)、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、又はネオセプタ CMX(徳山曹達社製)等を用いることができる。また、陰イオン交換膜としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、更にこれらのイオン交換基が複数混在した陰イオン交換膜が挙げられる。具体例としては、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、AMX、ACS、AFN、AFX(トクヤマ社製)、セレミオン(登録商標) AMV、AMT、DSV、AAV、ASV、AHO、AHT、APS4(旭硝子社製)等を用いることができる。
【0018】
<集電板104>
集電板104としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。負極集電板の形状は、集電板104が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等が挙げられる。
【0019】
ここで、
図1に示すように、集電板104には、カソード101にガス(原料ガスや生成ガス)を供給および回収するためのガス供給孔104-1およびガス回収孔104-2が設けられている。当該ガス供給孔104-1および当該ガス回収孔104-2により、カソード101に均一且つ効率よく原料ガスを送り込み生成ガス(未反応原料ガスを含む)を排出することが可能となる。尚、当該図では、ガス供給孔およびガス回収孔がそれぞれ1個ずつ設けられているが、その数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。加えて、集電板104が通気性のあるものである場合には、ガス供給孔およびガス回収孔は必ずしも必要無い。
【0020】
尚、カソード101が電子を伝達する役割を持っている場合には、集電板104は必ずしも必要無い。
【0021】
<支持板105>
支持板105は、アノードを支持する役割を果たす。したがって、アノードの厚み・剛性等により、求められる支持板105の剛性も変わる。また、当該支持板105は、アノードからの電子を受け取るべく、電気伝導性を有している必要がある。支持板105の材料としては、例えば、Ti、SUS、Niを挙げることができる。
【0022】
ここで、
図1に示すように、支持板105には、アノード102に原料ガス(H
2O等)を送り込むためのガス流路105-1が設けられている。当該ガス流路により、アノード102に均一且つ効率よく原料ガスを送り込むことが可能となる。尚、当該図では、8個のガス流路が設けられているが、その数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。
【0023】
尚、本形態では、アノード102と支持板105を別体のものとして説明したが、アノード102と支持板105とが一体構造であってもよい(即ち、支持機能を持った、一体型アノード102として構成してもよい)。
【0024】
<電圧印加部106>
電圧印加部106は、
図1に示すように、集電板104と支持板105に電圧を印加することを通じ、カソード101とアノード102との間に電圧を印加する役割を担う。ここで、前記のように、集電板104は導電体であるため、カソード101に電子を供給する一方、支持板105も導電体であるため、アノード102からの電子を受け取ることになる。尚、前記のように集電板104が必要無い場合においては、カソード101と支持板105との間に電圧は印加される。また、電圧印加部106には、適切な電圧を印加するために、図示しない制御部が電気的に接続されていてもよい。
【0025】
<反応ガス供給部>
本開示における固体電解質形電解装置100には、図示しない反応ガス供給部が、固体電解質形電解装置100の外側に備えられていてもよい。すなわち、面101-2に反応ガスであるCO2が供給されればよく、図示しない配管などを介して反応ガス供給部からガス供給孔104-1に反応ガスが供給されてもよいし、集電板104の、カソード101との接触面104-Bとは反対側の面104-Aに反応ガスが吹付けられるように設けられていてもよい。また、この反応ガスは、工場から排出される工場排出ガスを用いることが、環境面から好適である。
【0026】
≪CO生成方法≫
次に、上述した固体電解質形電解装置100を用いたCO生成方法について、
図3を用いて説明する。
【0027】
<反応ガス供給工程S301>
まず、図示しない反応ガス供給部によって、原料としての反応ガスであるCO2が気相状態にて固体電解質形電解装置100へ供給される。このとき、CO2は集電板104に設けられたガス供給孔104-1を介してカソード101に供給される(S301)。
【0028】
<CO,H2生成工程S302>
次に、カソード101に供給されたCO2は、カソード101表面において、還元反応により、固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、上述した式(1)及び式(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、上述した式(3)及び式(4)の還元反応が起きることで、COとH2を少なくとも含んだ合成ガスを生成する(S302)。
【0029】
<生成ガス回収工程S303>
次に、生成されたCOとH2を含んだ合成ガスは、集電板104に設けられたガス回収孔104-2を介して図示しないガス回収装置に送られ、所定のガス毎に回収されることとなる(S303)。
【0030】
≪用途≫
図4に示すように、上述したような本開示に係る固体電解質形電解装置に対して、例えば工場より排出されたCO
2ガスを原料として、電圧印加部106への太陽電池等の再生可能エネルギーを利用することで、所望の生成割合による少なくともCOとH
2を含有した合成ガスを生成することが可能となる。このようにして生成された合成ガスは、FT合成やメタネーション等の手法により燃料基材や、化学品原料を生成することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、上述した本実施形態を用いた場合の実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
【0032】
図1に示す固体電解質形電解装置100を組み立て(支持板=3mmのTi板)、表1-3に、使用したカソード触媒と固体塩基材料毎の合成ガス生成結果を示した。
【0033】
【0034】
表1は、固体電解質103として陰イオン交換膜を用い、カソード触媒に銀(Ag)を用い、各固体塩基をカソード101に添加した場合の固体電解質形電解装置100における実験データを示している。
【0035】
表1の実験条件は、アノード材料として白金メッシュを用い、カソード材料としてAgを塗布することで薄膜形成されたカーボンペーパー、アノード電解液として飽和KHCO3水溶液、集電板104と支持板105に印加する印加電圧を3.5Vとした。このとき、固体塩基は、単位面積あたりの質量が約5.33mg/cm2となるように添加した。
【0036】
実験結果の評価は、判定基準として固体塩基を添加しない場合のCOの部分電流密度(mA/cm2)の測定値を判定基準とし、当該測定値に対して2%以上の向上が見られた結果に対して△、10%以上の向上が見られた結果に対して○、50%以上の向上が見られた結果に対して◎の記号を付与し、合成ガス(特にCO)の生成効率を向上させることができると判定した。なお、部分電流密度とは、特定の化合物を生成するために使われた電子の量を表す物理量であり、値が大きいほど、生成量が多いことを意味している。
【0037】
まず、判定基準1として、固体塩基の添加を行わなかった場合(未添加の場合)、COの部分電流密度は、6.05mA/cm2であった。また、H2のファラデー効率(Faraday Efficiency:FE)は、3.19%、COのFEは57.62%、H2の部分電流密度は0.33mA/cm2であった。陰イオン交換膜を用いた本実験においては、これらの測定値を基準値として判断する。
【0038】
実施例1として、KHCO3を添加した場合、H2のFEは、26.87%、COのFEは54.28%、H2の部分電流密度は3.07mA/cm2、COの部分電流密度は、6.2mA/cm2であった。このため、実施例1は、判定基準1のCOの部分電流密度に対して約2.5%の向上となり、COの生成効率を大きくは向上させることができなかった。これは、KHCO3が水溶性であり、カソードにおける反応によって生じたH2Oに溶けてしまい、塩基効果が十分に得られなかったためと考えられる。
【0039】
次に実施例2として、MgOを添加した場合、H2のFEは、20.85%、COのFEは77.19%、H2の部分電流密度は2.72mA/cm2、COの部分電流密度は、10.08mA/cm2であった。このため、実施例2は、判定基準1のCOの部分電流密度は約66.6%の向上となり、COの生成効率を向上させることができた。
【0040】
次に実施例3として、Sr(OH)2を添加した場合、H2のFEは、4.15%、COのFEは54.61%、H2の部分電流密度は0.71mA/cm2、COの部分電流密度は、9.28mA/cm2であった。このため、実施例3は、判定基準1のCOの部分電流密度は約53.4%の向上となり、COの生成効率を向上させることができた。
【0041】
次に実施例4として、BaCO3を添加した場合、H2のFEは、26.36%、COのFEは58.17%、H2の部分電流密度は3.81mA/cm2、COの部分電流密度は、8.25mA/cm2であった。このため、実施例4は、判定基準1のCOの部分電流密度は約36.4%の向上となり、COの生成効率を向上させることができた。
【0042】
次に実施例5として、Y2O3を添加した場合、H2のFEは、23.51%、COのFEは58.78%、H2の部分電流密度は3.43mA/cm2、COの部分電流密度は、8.58mA/cm2であった。このため、実施例5は、判定基準1のCOの部分電流密度は約41.8%の向上となり、COの生成効率を向上させることができた。
【0043】
次に実施例6として、La2O3を添加した場合、H2のFEは、8.4%、COのFEは64.09%、H2の部分電流密度は0.88mA/cm2、COの部分電流密度は、7.57mA/cm2であった。このため、実施例6は、判定基準1のCOの部分電流密度は約25.1%の向上となり、COの生成効率を向上させることができた。
【0044】
【0045】
表2は、固体電解質103として陽イオン交換膜(Nafion117)を用い、カソード触媒に銅(Cu)または(Ag)を用い、各固体塩基をカソード101に添加した場合の固体電解質形電解装置100における実験データを示している。
【0046】
表2の実験条件は、アノード材料として白金メッシュを用い、カソード材料としてAgを塗布することで薄膜形成されたカーボンペーパー、アノード電解液として0.1mol/Lの硫酸、集電板104と支持板105に印加する印加電圧を5Vとして実験した。このとき、固体塩基は、単位面積あたりの質量が約5.33mg/cm2となるように添加した。
【0047】
実験結果の評価は、カソード触媒をCuとし、固体塩基を添加しない場合のCOの1時間当たりの生成量(μmol/h)の測定値を判定基準2とし、カソード触媒をAgとし、固体塩基を添加しない場合のCOの1時間当たりの生成量(μmol/h)の測定値を判定基準3とし、当該測定値よりも多くCOが生成された結果に対して、COの生産効率を向上させることができると判定した。
【0048】
まず、判定基準2として、カソード触媒にCuを用い、固体塩基の添加を行わなかった場合(未添加の場合)、COの生成活性は、0μmol/hであった。
【0049】
次に実施例6として、カソード触媒にCuを用い、KHCO3を添加した場合、COの生成活性は、0.2μmol/hとなり、COの生成効率を向上させることができた。
【0050】
次に実施例7として、カソード触媒にCuを用い、NaOHを添加した場合、COの生成活性は、1.4μmol/hとなり、COの生成効率を向上させることができた。
【0051】
次に実施例8として、カソード触媒にCuを用い、La2O3を添加した場合、COの生成活性は、5.6μmol/hとなり、COの生成効率を向上させることができた。
【0052】
次に、判定基準3として、カソード触媒にAgを用い、固体塩基の添加を行わなかった場合(未添加の場合)、COの生成活性は、0μmol/hであった。
【0053】
次に実施例9として、カソード触媒にAgを用い、La2O3を添加した場合、COの生成活性は、2.7μmol/hとなり、COの生成効率を向上させることができた。
【0054】
表3には、固体電解質として陰イオン交換膜を用い、カソード触媒(Cu-In)を用い、MgO固体塩基をカソードに添加した場合の固体電解質形電解装置における実験データを示している。
【0055】
【0056】
実験条件は、アノード材料として白金メッシュを用いて、カソード材料としてCu-Inが表面領域に薄膜形成されたカーボンペーパー、アノード電解液として飽和KHCO3水溶液、集電板と支持板に印加する電圧を3.5Vとした。固体塩基の添加量は5mg/cm2となるように添加した。
【0057】
Cu-In触媒では、MgO固体塩基を添加した場合、未添加よりも、COの部分電流密度が26%向上した。塩基添加効果が十分にあると考えられる。