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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/19 20160101AFI20240523BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
A23L33/19
A23C9/123
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022171760
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2019511271の分割
【原出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2023011739
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017076225
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02411
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-19638
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】高杉 諭
(72)【発明者】
【氏名】河合 良尚
(72)【発明者】
【氏名】長田 昌士
(72)【発明者】
【氏名】山地 健人
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-094076(JP,A)
【文献】DOUGKAS, Anesyis et al.,Differential effects of dairy snacks on appetite, but not overall energy intake,British Journal of Nutrition,2012年,Vol.108,pp.2274-2285
【文献】岩渕明ほか,乳酸発酵粉乳投与時のラットにおける胃内窒素形態分布および門脈血漿遊離アミノ酸濃度,日本栄養・食糧学会誌,1986年,Vol.39,pp.449-455
【文献】WALRAND, Stephane et al.,Consumption of a functional fermented milk containing collagen hydrolysate improves the concentratio,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2008年,Vol.56,pp.7790-7795
【文献】戸羽正道ほか,ヒトにおける発酵乳単回摂取後の血中アミノ酸濃度の検討,第53回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,1999年,2G-15a
【文献】日本食品標準成分表2015版(七訂)[online],2015年12月25日,第2章,13乳類,[検索日:2018.06.18],インターネット:<URL: http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365295.htm>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00 - 23/00
A23L 2/00 - 35/00
A61K 6/00 -135/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である、血中ヒスチジン濃度上昇促進用発酵乳であって、
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)を含む少なくとも1種の発酵微生物により発酵されたものである、発酵乳。
【請求項2】
乳タンパク質濃度が3.0質量%以上である、請求項1に記載の血中ヒスチジン濃度上昇促進用発酵乳。
【請求項3】
前記発酵乳を摂取したときの血中ヒスチジン濃度の最高血中濃度(Cmax)が、前記発酵乳と同じ濃度の乳タンパク質を含む非発酵乳を摂取したときの血中のヒスチジンのCmaxよりも5%以上高い、請求項1または2に記載の血中ヒスチジン濃度上昇促進用発酵乳。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵乳を含む、血中ヒスチジン濃度上昇促進用食品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願特許出願は、2017年4月6日に出願された日本出願特願2017-76225号に基づく優先権の主張を伴うものであり、この日本出願の全開示内容は、引用することにより本願発明の開示の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳に関する。
【背景技術】
【0003】
サルコペニアなどに伴う筋肉の低下は、近年注目を集めている。筋肉の萎縮は、要介護および要支援のリスクを増加させ、高齢者のQOLや健康寿命を低下させる大きな要因といわれている。従って、サルコペニアなどに伴う筋肉の低下の予防は超高齢社会を迎えた日本の大きな課題である。
【0004】
サルコペニアなどに伴う筋肉の低下の予防のためには、タンパク質や分岐鎖アミノ酸(BCAA)を摂取すること、もしくは、吸収速度が速く血中アミノ酸濃度が増加しやすいタンパク質源を摂取することが重要である。例えば、BCAAの一つであるロイシン(Leu)は、筋タンパク質の合成促進に重要な役割を果たしていることが知られており(非特許文献1~3参照)、特に、高齢者では、血中のLeu濃度のピークを高くすることが筋肉合成に有用であることが示唆されている(非特許文献4~6参照)。しかし、タンパク質やBCAAを多く摂取することは、そのような製品の製造適性の面や、摂取のし易さという点から困難であった。
【0005】
従って、製品の製造適性に優れ、摂取のし易い製品の開発が希求されている。
【0006】
これまでに、原料中の無脂乳固形分含量が9~15重量%であり、かつ原料中のタンパク質に対する乳酸菌資化性糖の含有割合が重量比で1.53~3.9倍量であるペプチド混合物の製造法が開示されている(特許文献1参照)が、特定の発酵乳が血中アミノ酸濃度の上昇を促進することについて何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2006/004105号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Anthony JC et al., 1999, Leucine supplementation enhances skeletal muscle recovery in rats following exercise., J Nutr. 1999, 129: 1102-1106.
【文献】Koopman R et al., 2005, Combined ingestion of protein and free leucine with carbohydrate increases postexercise muscle protein synthesis in vivo in male subjects., Am J Physiol Endocrinol Metab., 288: E645-E653.
【文献】Atherton PJ et al., 2010, Distinct anabolic signalling responses to amino acids in C2C12 skeletal muscle cells., Amino Acids., 38 :1533-1539.
【文献】Breen L & Phillips SM., 2011, Skeletal muscle protein metabolism in the elderly: Interventions to counteract the 'anabolic resistance' of ageing., Nutr Metab (Lond). 8:68. doi: 10.1186/1743-7075-8-68.
【文献】Katsanos CS et al., 2006, A high proportion of leucine is required for optimal stimulation of the rate of muscle protein synthesis by essential amino acids in the elderly., Am J Physiol Endocrinol Metab., 291: E381-E387.
【文献】Rieu I et al., 2006, Leucine supplementation improves muscle protein synthesis in elderly men independently of hyperaminoacidaemia. J Physiol., 575(Pt 1):305-315.
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、特定の発酵乳を対象へ摂取させることにより、対象の血中のアミノ酸濃度の上昇を顕著に促進できることを見出した。
【0010】
従って、本発明は、血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳および血中アミノ酸濃度上昇促進方法等を提供することを目的とする。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である、血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳。
(2)乳タンパク質濃度が3.0質量%以上である、(1)に記載の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳。
(3)発酵乳が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)により発酵されたものである、(1)または(2)に記載の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳。
(4)血中必須アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳である、(1)~(3)のいずれかに記載の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳。
(5)血中分岐鎖アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳である、(1)~(3)のいずれかに記載の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の発酵乳を含む、血中アミノ酸濃度上昇促進用食品。
(7)乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳を、対象に摂取させることを含んでなる、血中アミノ酸濃度上昇促進方法。
(8)血中アミノ酸濃度上昇促進のための、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳の使用。
(9)乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳を含む、血中アミノ酸濃度上昇促進用食品組成物。
(10)血中アミノ酸濃度上昇促進用食品組成物の製造のための、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳の使用。
(11)血中アミノ酸濃度上昇を促進するための、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳。
【0012】
本発明の発酵乳を対象へ摂取させることにより、対象の血中のアミノ酸濃度の上昇を顕著に促進できる点で有利である。また、本発明の発酵乳は製造適性に優れ、摂取し易い点でも有利である。
【発明の具体的説明】
【0013】
微生物の寄託
Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL205013株は、2017年2月3日付け(原寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号NITE BP-02411の下でブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0014】
Streptococcus thermophilus OLS3290株は、2004年1月19日付け(原寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、受託番号FERM BP-19638の下でブダペスト条約に基づき国際寄託されている。なお、本寄託菌株は2013年9月30日(発行日)(移管請求は2013年9月6日に受領された)に、国内寄託(原寄託)からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
【0015】
本発明の発酵乳は、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳である。
【0016】
本発明の発酵乳は、乳に乳酸菌等の発酵微生物を加えて、発酵させた培養物として得ることができる。本発明の発酵乳の製造に際し、乳酸菌スターターを所定量、例えば発酵乳の原料に対して0.1~10質量%、好ましくは0.2~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%を添加して発酵ミックスとする。発酵乳の原料にスターターとして接種する発酵微生物としては、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococus lactis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)等の乳酸桿菌や、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等の乳酸球菌や、ビフィズス菌や、プロピオン酸菌や、酵母等の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができ、好ましくは、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)およびラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)の組み合わせを用いることができ、より好ましくは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)2038株およびストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)1131株の組み合わせ、または、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL205013株(受託番号:NITE BP-02411)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)OLS3290株(受託番号:FERM BP-19638)の組み合わせを用いることができる。さらに好ましくは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL205013株(受託番号:NITE BP-02411)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)OLS3290株(受託番号:FERM BP-19638)の組み合わせを用いることができる。
【0017】
本発明の発酵乳に含まれる無脂乳固形分の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、発酵乳に対して、好ましくは8~20質量%であり、より好ましくは14~17質量%である。ここで、無脂乳固形分とは、発酵乳中の全固形分から脂質を除いた成分を意味し、例えば、タンパク質、灰分、および糖質が含まれる。また、本発明の発酵乳の無脂乳固形分中のタンパク質には、乳発酵成分由来のタンパク質が含まれる。乳発酵成分は、生体から採取された乳のみならず、その分画または、加工したものを発酵して得ることができる。乳の分画または加工品としては、好ましくは牛乳の分画または加工品であり、例えば、部分脱脂乳、脱脂乳、還元全乳、還元脱脂粉乳、還元部分脱脂乳、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、分離ミルクたんぱく質(MPI)、ホエー、脱脂乳、酸カゼイン、発酵乳またはクワルク等を製造した際に得られるカゼインホエー、酸ホエー、クワルクホエー、カゼイン、カゼインナトリウム、脱脂粉乳、ホエーたんぱく濃縮物(WPC)、ホエーたんぱく分離物(WPI)、α―ラクトアルブミン、β―ラクトグロブリン、ラクトフェリン、バター、バターミルク、クリーム、ホエーペプチド、大豆ホエー等を挙げることができ、脱脂粉乳が特に好ましい。
【0018】
本発明の発酵乳に含まれる無脂乳固形分中の乳タンパク質濃度は30質量%以上であり、好ましくは34~70質量%であり、より好ましくは34~42質量%である。
【0019】
また、本発明の発酵乳中の乳タンパク質濃度は1.9質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以上であり、より好ましくは3.0~15質量%であり、さらに好ましくは4.0~12質量%であり、さらに好ましくは5.0~10質量%であり、特に好ましくは5.8~8質量%である。本発明の発酵乳中の乳タンパク質濃度は、例えばケルダール法により測定することができる。
【0020】
本発明の発酵乳には、さらに食物繊維、安定剤、脂質、ビタミン、ミネラルなどを含んでいてもよい。
【0021】
食物繊維としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、食品中に元来存在する可食性のもの、物理的、酵素的もしくは化学的処理により得られたもの、または合成されたものが挙げられる。また、食物繊維は、高分子水溶性食物繊維であっても低分子水溶性食物繊維であっても、不溶性食物繊維であってもよい。かかる食物繊維としては、セルロース、カルボキシメチルセルロース、寒天、キサンタンガム、サイリウム種皮、ジュランガム、低分子アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリデキストロース、アラビアガム、難消化性デキストリン、ビートファイバー、グァーガム、グァーガム酵素分解物、小麦胚芽、湿熱処理デンプン(難消化性デンプン)、レジスタントスターチ、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、プルラン、イヌリン等の多糖類が挙げられる。また、食物繊維として、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ビートオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖等のオリゴ糖またはそれらオリゴ糖の組み合わせが挙げられる。
【0022】
安定剤としては、水溶性大豆多糖類、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、でんぷん、加工でんぷん、カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガムおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
脂質としては、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、いずれのものであっても良い。このような脂質としては、植物性油脂、動物性油脂、微生物油脂、合成トリグリセリド、リン脂質等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、任意に組み合わせて使用しても良い。
【0024】
ビタミンとしては、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、1種であっても複数の混合物であっても良い。
【0025】
ミネラルとしては、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、1種であっても複数の混合物であっても良い。
【0026】
本発明において、「血中アミノ酸濃度上昇促進」とは、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳を対象が摂取しない場合と比較して、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳を対象が摂取した場合に僅かでも血中のアミノ酸濃度の増加がみられれば、血中アミノ酸濃度上昇促進効果を有するとする。本発明の好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進とは、同じ乳タンパク質濃度を有する発酵していない乳と比較して、血中のアミノ酸(好ましくは必須アミノ酸、より好ましくは分岐鎖アミノ酸)濃度が高い場合に、血中アミノ酸濃度上昇促進効果を顕著に有するとする。
【0027】
また、本発明のより好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳を摂取した対象は、同じ乳タンパク質濃度を有する発酵していない乳を対象が摂取した場合と比較して血中の総アミノ酸濃度変化量の上昇率が、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上となる。
【0028】
また、本発明のより好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳を摂取した対象は、同じ乳タンパク質濃度を有する発酵していない乳を対象が摂取した場合と比較して血中の必須アミノ酸濃度変化量の上昇率が、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上となる。
【0029】
また、本発明のより好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳を摂取した対象は、同じ乳タンパク質濃度を有する発酵していない乳を対象が摂取した場合と比較して血中の分岐鎖アミノ酸濃度変化量の上昇率が、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上となる。
【0030】
ここで、アミノ酸とは、アミノ酸であれば必須アミノ酸および非必須アミノ酸のいずれのアミノ酸であってもよいが、好ましくは必須アミノ酸であり、より好ましくは分岐鎖アミノ酸である。必須アミノ酸とは、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、リジン、およびヒスチジンをいう。また、分岐鎖アミノ酸とは、バリン、ロイシン、イソロイシンをいう。また、本発明において、アミノ酸とは、L-アミノ酸(L体)を意味するが、D-アミノ酸(D体)やDL-アミノ酸(DL体)が含まれていてもよい。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳は、好ましくは血中必須アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳であり、より好ましくは血中分岐鎖アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳である。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の発酵乳(例えば、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳)を含む血中アミノ酸濃度上昇促進用食品(好ましくは血中必須アミノ酸濃度上昇促進用食品、より好ましくは血中分岐鎖アミノ酸濃度上昇促進用食品)が提供される。ここで、食品とは、下記と同じものであってもよく、具体的には、本発明の発酵乳を含有できる食品であればどのような形態のものであってもよいが、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、ゼリー、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品、流動食、半流動食などの経管・経口栄養食品などが挙げられる。
【0033】
血中のアミノ酸濃度の測定は、例えば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳の摂取前および摂取後に対象から採取された血液を用いる。血液の採取方法は特に限定されないが、血液の凝固を防止するため、血液抗凝固剤を用いてもよい。その血液抗凝固剤としては、ヘパリン、クエン酸ナトリウム、EDTA等が挙げられる。また、当該血液は、当該分野で周知は方法により血清とされ、そのまま測定に供され、または保存されてもよい。このように採取された血液は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定してもよい。高速液体クロマトグラフィー法には、プレカラム誘導体化法(AQC法、OPA法、FMOC法など)やポストカラム誘導体化法(ニンヒドリン法、OPA法など)によりアミノ酸を誘導体化して、誘導体化したアミノ酸を紫外可視吸光光度法(UV法)や質量分析法(MS法、MS/MS法)などで検出して行う方法がある。
【0034】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳を、対象に摂取させることを含んでなる、血中アミノ酸濃度上昇促進方法が提供される。本発明の別の好ましい態様によれば、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳を対象に摂取させることを含んでなる、血中アミノ酸濃度上昇促進方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。ここで、「ヒトに対する医療行為」とは、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。また、上記実施態様において、対象は好ましくは健常者である。本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進方法は、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0035】
ここで、対象とは、血中のアミノ酸濃度の上昇を促進させることを必要とする対象であることが好ましく、筋肉合成促進効果、筋肉分解抑制効果、抗疲労効果、筋肉痛抑制効果、肌質改善効果、認知機能改善効果、または睡眠改善効果を期待または必要とする対象がより好ましい。例えば、健康増進、運動能力向上、潜在的もしくは顕在的な疲労の回復、または肌質や不眠の改善を目的として、運動する対象、肌の手入れを行う対象や不眠症の治療および予防を行う対象が挙げられる。また、この対象はヒト以外の動物(馬、牛などの家畜、犬、猫などの愛玩動物、動物園などで飼育されている鑑賞動物など)であってもよい。
【0036】
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進方法は、好ましくは血中必須アミノ酸濃度上昇促進方法であり、より好ましくは血中分岐鎖アミノ酸濃度上昇促進方法である。
【0037】
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進方法において、前記発酵乳(例えば、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳)をタンパク質含量で一食あたり1g以上となるように摂取させることができ、具体的には、1~40g、好ましくは2~20g、より好ましくは3~20g、さらに好ましくは3~15g、特に好ましくは3~10gとなるように摂取させることができる。
【0038】
本発明の別の態様によれば、血中アミノ酸濃度上昇促進(好ましくは必須アミノ酸濃度上昇促進、より好ましくは分岐鎖アミノ酸濃度上昇促進)のための、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳の使用が提供される。本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の使用は、非治療的使用である。
【0039】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳を含む、血中アミノ酸濃度上昇促進用食品組成物(血中アミノ酸濃度上昇促進用食品)が提供される。本発明において、食品組成物(食品)とは、医薬組成物(医薬品)以外のものであって、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。食品組成物(食品)とは、具体的には、本発明の発酵乳を含有できる食品であればどのような形態のものであってもよく、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、ゼリー、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品、流動食、半流動食などの経管・経口栄養食品などが挙げられる。
【0040】
また、食品には、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、乳幼児用調製粉乳、妊産婦もしくは授乳婦用粉乳、または血中アミノ酸濃度上昇促進のために用いられる物である旨の表示を付した食品のような分類のものも包含される。また、本発明において、食品とは飲料を含む概念である。
【0041】
本発明の別の態様によれば、血中アミノ酸濃度上昇促進用食品組成物(食品)の製造のための、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳の使用が提供される。
【0042】
本発明の別の態様によれば、血中アミノ酸濃度上昇を促進するための、乳タンパク質濃度が1.9質量%以上である発酵乳が提供される。
【0043】
本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進方法に用いられる発酵乳等や、本発明の食品組成物に含まれる発酵乳等などは、上記本発明の血中アミノ酸濃度上昇促進用発酵乳と同じであってもよい。
【実施例
【0044】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
本発明の発酵乳の調製
下記表1に記載の配合によりベースミックスを調合した。調合後のベースミックスを95℃で達温殺菌した後、スターターを添加して43℃で発酵し(終了時のpHは4.3)、本発明の発酵乳を調製した。スターターとして、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus subsp. bulgaricus)2038株とストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)1131株(いずれの菌も「明治ブルガリアヨーグルト」(登録商標、株式会社明治製)から入手した)とを組み合わせて用いた。また、ベースミックスの配合に用いた脱脂粉乳は株式会社明治より入手した。本発明の発酵乳の組成を下記表2に表す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
[実施例2]
乳中のタンパク質吸収性評価
8週齢のSD系雄ラット(日本エスエルシー株式会社より入手した)を1週間の馴化の後に用いて、実施例1で調製した発酵乳中のタンパク質の吸収性を評価した。
(1)投与試験
実施例1で調製した発酵乳をさらに65℃、30分間殺菌した後、試験飲料として用いた。実施例1で調製した発酵乳と同じ、脂質、無脂乳固形分、固形分組成(%)となるように脱脂乳を水に溶解した試料を対照飲料(発酵を行っていない)として用意した。実施例1で調製した発酵乳と、対照飲料とは同じ乳タンパク質濃度となる。
8週齢のSD系雄ラット13匹について、ネンブタール麻酔下で門脈カテーテルを留置した。
カテーテル留置から1日後に一晩の絶食を行い、体重の平均値が均一になるように脱脂乳(対照飲料)群(6匹)、脱脂発酵乳(実施例1で調製した発酵乳(本発明の発酵乳))群(7匹)に群分けを行った。各群には脱脂乳または脱脂発酵乳(実施例1で調製した発酵乳(本発明の発酵乳))を10mL/kgBWで胃ゾンデを用いて単回経口投与した。単回経口投与前、投与から30、60、90、120、および240分後にカテーテルより血液を200μLずつヘパリン処理済みチューブに採取した。採取した血液から血漿を得た後、-80℃で凍結保存し、アミノ酸濃度の測定に用いた。
【0049】
(2)門脈血中アミノ酸測定
血漿に、3.5%スルホサリチル酸二水和物を1:2の割合で添加し、遠心分離を行い除蛋白した後、0.45μmフィルター(Durapore PVDF 0.45μm,
Millipore)で濾過しサンプルとした。サンプル中のアミノ酸濃度は高速アミノ酸分析計(L-8800, Hitachi)で測定した。
測定したアミノ酸、総アミノ酸(TAA)、必須アミノ酸(EAA)、非必須アミノ酸(NEAA)、および分岐鎖アミノ酸(BCAA)を下記表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
また、門脈血中アミノ酸濃度のCmax(血中濃度最大値)を測定した結果を下記表4に示す。
【0052】
【表4】
上記値は全て平均値±標準誤差で表した。Cmaxの平均値の有意差検定は、群間の等分散性をF-testを用いて検定した後、等分散性が認められた場合には、Student t-testを用いて統計解析を行い、等分散性が認められなかった場合には、Aspin-Welch’s t-testを用いて統計解析を行った。
【0053】
上記表4の結果から、同じ乳タンパク質濃度の脱脂乳(対照飲料)を投与した場合と比較して、脱脂発酵乳(実施例1で調製した発酵乳、本発明の発酵乳)を投与した場合の方が、門脈血中総アミノ酸(Total AA)、必須アミノ酸(EAA)、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、バリン(Val)濃度のCmax(血中濃度最大値)が有意に高い値を示し、脱脂発酵乳は、脱脂乳と比較して、これらのアミノ酸の吸収速度が速いことが示された。
【0054】
従って、本発明の発酵乳は、これらのアミノ酸の血中濃度のピークをより高くすることができ、血中アミノ酸濃度の上昇を促進できることから、加齢に伴う筋肉の低下(サルコペニア)を改善および予防できることが期待できる。
【受託番号】
【0055】
NITE BP-02411
FERM BP-19638