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特許7493115アミノ基含有化合物の製造方法、およびアミノ基含有化合物の分離方法
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  • 特許-アミノ基含有化合物の製造方法、およびアミノ基含有化合物の分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】アミノ基含有化合物の製造方法、およびアミノ基含有化合物の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/02 20060101AFI20240523BHJP
   C07K 1/06 20060101ALI20240523BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C07K1/02 ZNA
C07K1/06
C07K1/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023576411
(86)(22)【出願日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2023035433
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2023004101
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本山(上原) 杏梨
(72)【発明者】
【氏名】下田 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 麻由
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲はお▼
(72)【発明者】
【氏名】福田 健太郎
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/218497(WO,A1)
【文献】特表2022-536775(JP,A)
【文献】特開2022-183588(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198833(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/140232(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/059628(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、
前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含み、
前記回収対象のアミノ基含有化合物は、2個以上のアミノ酸が結合したペプチドであり、
前記N末端保護基由来化合物は、前記N末端保護基に由来する分解生成物に捕捉剤が結合した捕捉体であり、
前記捕捉剤は、2級アミンである、
アミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項2】
前記捕捉剤は、モルホリン、ピペリジン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンジオキシド、4-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチルアミン、およびピロリジンからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項3】
前記捕捉剤は、モルホリンである、
請求項2に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチル-t-ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテルおよびクロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項6】
前記酸性水溶液は、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸およびクエン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のブレンステッド酸を含む水溶液である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項7】
前記酸性水溶液に含まれるブレンステッド酸の濃度は、1.0モル/L以上、12.0モル/L以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項8】
前記スラグ流形成工程は、0.3mL/min以上の流量を有する前記疎水性溶液と、前記疎水性溶液の流量の1.0倍以上、10倍以下の流量を有する前記酸性水溶液とを混合して、前記スラグ流を形成することを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項9】
前記スラグ流形成工程の前に、前記有機溶媒中で、前記回収対象のアミノ基含有化合物のN末端が前記N末端保護基により保護されているN末端保護アミノ基含有化合物と、当該N末端保護アミノ基含有化合物から前記N末端保護基を脱保護する脱保護剤と、前記捕捉剤と、を接触させて、当該アミノ基含有化合物および前記捕捉体を形成させる、脱保護工程をさらに含み、
前記N末端保護基は、フルオレン骨格を有する保護基である、
求項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項10】
前記分離工程の後に、回収された前記疎水性溶液と塩基とを接触させて、前記疎水性溶液を中和する、中和工程をさらに含む、
請求項1~3および9のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項11】
前記回収対象のアミノ基含有化合物は、そのC末端が下記式(1):
【化1】
[式中、
m個のQは、それぞれ酸素原子を表し、
m個のRは、それぞれ独立して、下記式(A):
【化2】
(式中、
*は、結合位置を示し、
1a、R1b、R1c、R1dおよびR1eは、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示し、
は、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、
は、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、
但し、R1a、R1b、R1cおよびR1dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である)で表わされる基であり、
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子を表し、
Xは、前記アミノ基含有化合物のC末端との結合位置を表し、
mは、2または3の整数を表し、
kは、0以上(5-)以下の整数を示し、
m個の[Q-R]のうち少なくとも1つは、前記Xを含む置換基に対してメタ位に置換されており、
総炭素数は、40以上、60以下である]
で表されるC末端保護基で保護されている、
請求項1~3および9のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項12】
前記回収対象のアミノ基含有化合物は、そのC末端が下記式:
【化3】
[式中、Xは、前記アミノ基含有化合物のC末端との結合位置を表す]
のいずれか1つで表されるC末端保護基で保護されている、
請求項1~3および9のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項13】
前記分離工程の後に、回収された前記疎水性溶液から前記回収対象のアミノ基含有化合物を抽出する抽出工程をさらに含む、
請求項1~3および9のいずれか1項に記載のアミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項14】
回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、
前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含み、
前記回収対象のアミノ基含有化合物は、2個以上のアミノ酸が結合したペプチドであり、
前記N末端保護基由来化合物は、前記N末端保護基に由来する分解生成物に捕捉剤が結合した捕捉体であり、
前記捕捉剤は、2級アミンである、
アミノ基含有化合物の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基含有化合物の製造方法、アミノ基含有化合物の分離方法、およびアミノ基含有化合物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドなどのアミノ基含有化合物を化粧品および医薬品などの製品の材料として用いるために、アミノ基含有化合物を低コストで大量に製造する技術の開発が求められている。ペプチドを大量に製造する技術としては、液相中で、C末端が疎水性保護基で保護されたペプチドに対して、N末端が保護されたアミノ酸残基を縮合させることにより、ペプチド鎖を伸長していく方法が知られている。このような方法は、疎水性保護基がタグと呼ばれることから、液相タグ法とも呼ばれている。
【0003】
液相タグ法においては、アミノ酸残基1つの縮合反応ごとに、ペプチドから脱保護された保護基と当該保護基を捕捉する捕捉剤とが結合した捕捉体を分液洗浄により除去することがある。このような技術として、例えば特許文献1には、N無保護C保護ペプチドを含む反応液を、フローリアクター中で水および/または親水性有機溶媒により連続的流れで洗浄後、連続的流れで油水分離手段により分液して、当該N無保護C保護ペプチドを含有する有機層を分層することにより当該N無保護C保護ペプチドを精製する工程を含む、ペプチドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/218497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
捕捉体等のN末端保護基由来化合物を除去する処理は、アミノ基含有化合物の製造方法においてコストおよび時間を費やす処理となっている。特許文献1に記載の技術は、捕捉体の除去率に関する検討が十分とは言えず、したがって、より容易にN末端保護基由来化合物を除去できる技術の開発が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、より容易にN末端保護基由来化合物を除去できるアミノ基含有化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。
【0008】
また、本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の分離方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。
【0009】
また、本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の製造装置は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成部と、前記スラグ流形成部と連結しており、前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離部と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、より容易にN末端保護基由来化合物を除去できるアミノ基含有化合物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るアミノ基含有化合物の製造装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施例1-3において得られた親水層のHPLCの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔アミノ基含有化合物の製造方法〕
本発明者らは、縮合反応後のN末端保護基の脱保護により生じ得る、N末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物を含む疎水性溶液を、酸性水溶液を用いたスラグ流中で洗浄することにより、N末端保護基由来化合物の少なくとも一部を容易に酸性水溶液へと除去することによって、例えば、疎水性溶液中のアミノ基含有化合物の純度を向上させたり、洗浄後にアミノ基含有化合物に対してさらにアミノ酸を縮合させる工程などの別の工程を行なう際に支障となり得る成分をより多く除去したりできることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、スラグ流から疎水層を分離することによって、回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。以下、本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法を、単に「本発明の一態様に係る製造方法」と呼ぶことがある。
【0014】
(スラグ流形成工程)
スラグ流形成工程は、疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成する工程である。スラグ流形成工程によれば、流れ方向に沿って疎水層と親水層とが交互に流れるスラグ流が形成される。スラグ流においては、疎水層に含まれるN末端保護基由来化合物の少なくとも一部が当該疎水層に隣接する親水層へと移動し、疎水層に含まれる捕捉体が減じられる。
【0015】
本明細書において、「スラグ流」とは、流れの少なくとも一部において、疎水層と親水層との交互の流れが流れ方向に沿って形成された流れを指す。「スラグ流」は、当該流れが流れる流路の全体に亘って疎水層と親水層との交互の流れが形成されたもののみならず、流路の一部のみに疎水層と親水層との交互の流れが形成されたものも含む。例えば、「スラグ流」は、疎水層と親水層とが混合される流路の開始点から流路の終点に亘って疎水層と親水層との交互の流れが形成されたもの、前記開始点の近傍のみに疎水層と親水層との交互の流れが形成されたもの、および、流路中で断続的に疎水層と親水層との交互の流れが形成されたものも含む。「スラグ流」においては、その少なくとも一部に疎水層と親水層との交互の流れが形成されていればよく、一部において疎水層および親水層が形成する平行流及び乱流が形成されていてもよい。
【0016】
(疎水性溶液)
疎水性溶液は、回収対象のアミノ基含有化合物、N末端保護基由来化合物および有機溶媒を含む。疎水性溶液は、N末端保護基由来化合物を捕捉する捕捉剤をさらに含んでもよい。限定するものではないが、疎水性溶液としては、アミノ基含有化合物を合成するための縮合反応において用いられた反応溶液がそのまま用いられてもよい。
【0017】
(アミノ基含有化合物)
本発明の一態様において、アミノ基含有化合物は、第1級アミノ基および第2級アミノ基のうち少なくとも一方を有する任意の化合物である。アミノ基含有化合物の例としては、単体のアミノ酸、および2個以上のアミノ酸がペプチド結合して形成されるペプチドが挙げられる。ペプチドは、ペプチド鎖のC末端および側鎖末端のいずれかに、保護基などの置換基を有していてもよい。
【0018】
回収対象のアミノ基含有化合物は、本発明の一態様に係る製造方法において目的生成物として製造されるアミノ基含有化合物と同一であってもよく、異なっていてもよい。限定するものではないが、回収対象のアミノ基含有化合物は、目的生成物のアミノ基含有化合物の前駆体、例えば目的生成物のアミノ基含有化合物のペプチド配列の一部を有する化合物であってもよい。
【0019】
本発明の一態様に係る製造方法において製造される、または回収対象となるアミノ基含有化合物は、ペプチドであり得る。ペプチドを構成するアミノ酸の数は、製造するペプチドの用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、2個以上である。また、本発明の一態様に係る製造方法は、より多くのアミノ酸から構成されるペプチドの製造に好適に適用することができ、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは5個以上のアミノ酸が結合しているアミノ基含有化合物の製造に適用できる。
【0020】
ペプチドのアミノ酸残基配列は、特に限定されないが、ペプチドのN末端残基がリシン(Lys)、またはプロリン(Pro)であってもよい。N末端残基がこれらのアミノ酸残基である場合、捕捉体の従来の除去処理を行うと、洗浄溶液中で捕捉体を含む疎水性溶液のエマルジョンが形成され、分液に長時間を要することがある。しかしながら、本発明の一態様によれば、捕捉体の除去におけるエマルジョンの形成が減じられるため、より短時間で分液を行うことができる。
【0021】
回収対象のアミノ基含有化合物は、そのC末端がC末端保護基で保護されていてもよい。C末端保護基は、液相タグ法において用いられ得るC末端保護基であり得る。C末端保護基の例としては、下記式(1)で表されるC末端保護基が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
式(1)中、m個のQは、それぞれ酸素原子を表す。m個のRは、それぞれ独立して、下記式(A)で表わされる基である。k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子を表す。Xは、アミノ基含有化合物のC末端との結合位置を表す。mは、2または3の整数を表す。kは、0以上(5-)以下の整数を示す。m個の[Q-R]のうち少なくとも1つは、Xを含む置換基に対してメタ位に置換されている。式(1)で表されるC末端保護基の総炭素数は、40以上、60以下である。
【0024】
【化2】
【0025】
式(A)中、*は、結合位置を示す。R1a、R1b、R1c、R1dおよびR1eは、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。nは、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基である。nは、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基である。但し、R1a、R1b、R1cおよびR1dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である。
【0026】
C末端保護基の例としては、下記式のうちいずれかで表される保護基も挙げられる。式中、Xはアミノ基含有化合物のC末端との結合位置を表す。
【0027】
【化3】
【0028】
C末端保護基は、上述した保護基に限定されず、当技術分野で公知の保護基を用いてもよい。
【0029】
(N末端保護基由来化合物)
本発明の一態様において、N末端保護基由来化合物は、アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物である。N末端保護基由来化合物の例としては、N末端保護アミノ基含有化合物のN末端保護基を脱保護することによってN末端保護基が分解して生じる分解生成物、および当該分解生成物に対して捕捉剤が結合した捕捉体(以下、単に「捕捉体」という。)が挙げられる。分解生成物および捕捉体は、典型的には、本発明の一態様に係る製造方法において副生成物として生じ得る。分解生成物および捕捉体は、製造されるアミノ基含有化合物の収率および純度を減少させることがあるため、その少なくとも一部を除去することが所望されることがある。本発明の一態様において、N末端保護基由来化合物の少なくとも一部を容易に除去することによって、本発明の一態様に係る製造方法におけるコストおよび所要時間の削減を達成することができる。N末端保護基由来化合物は、1種であってもよく、複数種類の組合せであってもよい。
【0030】
なかでも、本発明の一態様は、N末端保護基由来化合物が捕捉体である場合に、好適に適用できる。つまり、本発明の一態様は、捕捉体をより好適に洗浄できる。本発明の一態様に係る製造方法は、捕捉体をより容易に除去することができ、より効果的にコストおよび所要時間の削減を達成することができる。
【0031】
N末端保護基は、アミノ基含有化合物が有する第1級アミノ基および第2級アミノ基のうち少なくとも一方を保護するために使用され得る官能基であればよく、特に限定されない。N末端保護基の例としては、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)などのフルオレン骨格を有する保護基、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、アセチル(Ac)基およびトリクロロアセチル基が挙げられる。
【0032】
(分解生成物)
本発明の一態様において、除去の対象は、分解生成物であってもよい。分解生成物は、N末端保護アミノ基含有化合物のN末端保護基を脱保護することによってN末端保護基が分解して生じる化合物である。
【0033】
分解生成物の例としては:Fmoc基由来のジベンゾフルベン(DBF);Boc基由来のCOおよびイソブテン;ならびに、Cbz基由来のトルエンが挙げられる。
【0034】
(捕捉体)
本発明の一態様において、除去の対象は、捕捉体であってもよい。捕捉体は、回収対象のアミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する分解生成物に捕捉剤が結合した化合物である。なお、疎水性溶液には、捕捉体に加えて、捕捉剤、およびN末端保護基に由来する分解生成物それぞれが、互いに結合していない形態で含まれてもよい。
【0035】
捕捉剤は、分解生成物と結合することにより捕捉体を形成する化合物である。捕捉剤は、N末端保護基の構造、および当該N末端保護基に由来する分解生成物の構造に応じて、適宜に選択され得る。捕捉剤の例としては、2級アミンが挙げられる。例えば、N末端保護基がフルオレン骨格を有する保護基であり、したがって分解生成物がフルベン骨格を有する場合、高い効率で分解生成物を捕捉し、遊離している分解生成物を反応系から除去する観点から、捕捉剤は2級アミンであることが好ましい。捕捉剤は、2級アミンのなかでも、モルホリン、ピペリジン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンジオキシド、4-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチルアミン、およびピロリジンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
捕捉体は、分解生成物と捕捉剤とが結合することにより形成される。捕捉体の構造は、N末端保護基および捕捉剤の構造に応じて決定され、特に限定されない。捕捉体の例としては、下記式のうちいずれかで表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、分解生成物DBFと、捕捉剤モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、4-メチルピペラジン、またはジエチルアミンとが結合して形成される捕捉体である。
【0037】
【化4】
【0038】
(有機溶媒)
本発明の一態様において、有機溶媒は、当該有機溶媒を含む疎水性溶液を酸性水溶液に対して非相溶性とするものであればよく、特に限定されない。有機溶媒は、ペプチドの縮合反応において反応溶媒として用いられ得る公知の疎水性有機溶媒であってもよい。本発明の一態様に係る製造方法において縮合反応とN末端保護基由来化合物の除去とを繰り返し行う場合には、操作の簡便性を向上させ、また縮合反応とN末端保護基由来化合物の除去との間に生じる悪影響を低減する観点から、スラグ流形成工程における有機溶媒は縮合反応における反応溶媒と同一であることが好ましい。
【0039】
有機溶媒の例としては、エーテル類、酢酸エステル類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類および炭化水素類が挙げられる。有機溶媒としては、1種を単独でも用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。有機溶媒は、分液が容易であり且つ低コストであるため、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチル-t-ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテルおよびクロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0040】
(疎水性溶液の他の成分)
疎水性溶液は、上述した成分以外の他の成分を含んでもよい。他の成分の例としては、ペプチドの縮合反応において用いられ得る縮合剤、活性化剤および触媒、ならびに縮合反応の副生成物、ならびに脱保護剤が挙げられる。縮合剤、活性化剤、触媒および脱保護剤の具体例は、後述する。
【0041】
従来技術において、N末端保護基由来化合物、縮合剤、活性化剤および脱保護剤を含む反応溶液を、N末端保護基由来化合物の除去のための分液洗浄に供すると、エマルジョンが形成されて分液洗浄に時間を要することがあり、したがって当該分液洗浄の前に、縮合剤、活性化剤および脱保護剤それぞれの除去のための予備的な分液洗浄が必要とされることがあった。しかしながら、本発明の一態様に係る製造方法によれば、N末端保護基由来化合物以外の成分として縮合剤、活性化剤および脱保護剤のいずれかが疎水性溶液に含まれる場合であっても、エマルジョンの形成が減じられるため、短時間で分液洗浄を行える。また、本発明の一態様に係る製造方法によれば、予備的な分液洗浄を行わずともよいため、より少ない回数の分液洗浄でN末端保護基由来化合物を除去することができる。
【0042】
(酸性水溶液)
酸性水溶液は、スラグ流中で、N末端保護基由来化合物が疎水層から抽出される親水層を形成する。酸性水溶液は、酸を含む水溶液であればよく、特に限定されないが、例えばブレンステッド酸を含む水溶液である。
【0043】
酸性水溶液は、N末端保護基由来化合物をより高い効率で除去する観点から、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸およびクエン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のブレンステッド酸を含む水溶液であることが好ましい。酸性水溶液に含まれるブレンステッド酸の濃度は、N末端保護基由来化合物をより高い効率で除去する観点から、好ましくは1.0モル/L以上であり、より好ましくは2.0モル/L以上である。また、酸性水溶液に含まれるブレンステッド酸の濃度は、疎水層に含まれるアミノ基含有化合物の分解を減じる観点から、好ましくは12.0モル/L以下であり、より好ましくは6.0モル/L以下であり、さらに好ましくは4.0モル/L以下である。
【0044】
酸性水溶液のpHは、特に限定されないが、例えば7.0未満であってもよい。酸性水溶液のpHは、好ましくは5.0未満であり、より好ましくは3.0未満である。
【0045】
(スラグ流形成工程の運転条件)
疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、疎水性溶液および酸性水溶液を別々の流路から合流部へと導入して混合する方法、ならびに電磁弁などの外部制御によりスラグ流を形成する方法が挙げられる。
【0046】
合流部で混合する方法においては、疎水性溶液および酸性水溶液の導入路、ならびに形成されたスラグ流が排出される排出路の内径は、適宜に選択され得る。内径は、親水層と疎水層とが安定して形成されるスラグ流を得る観点から、好ましくは0.4mm以上であり、より好ましくは0.6mm以上であり、好ましくは6.5mm以下であり、より好ましくは4.5mm以下である。
【0047】
合流部へ導入される疎水性溶液および酸性水溶液それぞれの流量は、固定されていてもよく、2つの溶液が交互に合流部へと導入されるように可変的に制御されてもよい。スラグ流形成工程を簡便に運転する観点から、疎水性溶液および酸性水溶液それぞれの流量は、固定されていることが好ましい。疎水性溶液の流量は、スラグ流における疎水層1層の流れ方向の長さ、すなわちスラグ長を安定させ、処理の再現性を高める観点から、好ましくは0.3mL/min以上であり、より好ましくは1.0mL/min以上であり、好ましくは10mL/min以下であり、より好ましくは6.0mL/min以下である。酸性水溶液の流量は、スラグ長を短くして、各層の体積当たりの隣接する層との接触面積を増加させてN末端保護基由来化合物の移動をより促進する観点から、疎水性溶液の流量の、0.5倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましい。また、酸性水溶液の流量は、廃液を減じる観点から、疎水性溶液の流量の、10倍以下であることが好ましく、4.0倍以下であることがより好ましい。
【0048】
スラグ流形成工程は、形成されたスラグ流をチューブ内に流通させることを含んでもよい。チューブの長さは、チューブ中でのスラグ流の滞留時間が所望のものとなるように、適宜選択され得る。N末端保護基由来化合物の親水層への移動を十分に進行させる観点から、滞留時間は、好ましくは3秒以上であり、より好ましくは5秒以上である。N末端保護基由来化合物を十分に除去しつつ、本発明の一態様に係る製造方法をより短時間で完了させる観点から、滞留時間は、好ましくは500秒以下であり、より好ましくは300秒以下である。例えば、チューブの長さは、好ましくは0.015m以上であり、より好ましくは0.1m以上であり、好ましくは20m以下であり、より好ましくは10m以下であるが、これらに限定されない。チューブの内径は、チューブ内でスラグ流が維持される程度であればよい。チューブの内径は、好ましくは0.4mm以上であり、より好ましくは0.6mm以上であり、好ましくは6.5mm以下であり、より好ましくは4.5mm以下であるが、これらに限定されない。
【0049】
(分離工程)
分離工程は、スラグ流から疎水層を分離することによって、回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する工程である。本発明の一態様に係る製造方法においてN末端保護基由来化合物の除去が起こるスラグ流は微細なエマルジョンを生じにくく、疎水層がある程度の大きさを有するため、スラグ流から疎水層を容易に分離することができる。回収される疎水性溶液は、回収対象のアミノ基含有化合物を含むが、スラグ流形成工程において用いられた疎水性溶液が含んでいたN末端保護基由来化合物を含まないか、スラグ流形成工程における量よりも減じられた量で含んでいる。
【0050】
疎水層を分離する方法は、特に限定されず、バッチ式分離であってもよく、連続式分離であってもよい。バッチ式分離を行う場合には、公知の方法を用いることができ、例えば貯留槽に導入したスラグ流を静置して、上層および下層に分離した疎水層(疎水性溶液)および親水層(酸性水溶液)のうち疎水層を回収してもよい。連続式分離を行う場合には、公知の方法を用いることができ、例えばスラグ流を油水分離膜に導入してもよく、また例えば上層および下層が流れに沿って平行に流れる平行流にスラグ流を変換して、上層および下層のうち疎水層に対応する層を回収してもよい。
【0051】
(脱保護工程)
本発明の一態様に係る製造方法は、スラグ流形成工程の前に、脱保護工程をさらに含んでもよい。脱保護工程は、スラグ流形成工程の前に、有機溶媒中で、N末端保護アミノ基含有化合物と脱保護剤と捕捉剤とを接触させて、回収対象のアミノ基含有化合物および捕捉体を形成させる工程である。脱保護工程によれば、アミノ基含有化合物および捕捉体を含む疎水性溶液を得ることができる。
【0052】
脱保護工程において有機溶媒および捕捉剤は、スラグ流形成工程について上述したものを用いることができるため、その説明を繰り返さない。N末端保護アミノ基含有化合物は、回収対象のアミノ基含有化合物のN末端がN末端保護基により保護されている化合物である。N末端保護アミノ基含有化合物の構成は、アミノ基含有化合物およびN末端保護基に関する上記説明を参照する当業者であれば、容易に理解するであろう。
【0053】
脱保護剤は、N末端保護アミノ基含有化合物からN末端保護基を脱保護する化合物である。脱保護剤は、N末端保護基に応じて適宜選択され得る。脱保護剤の例としては:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)トリエチルアミンおよびトリブチルアミンなどの有機塩基;ならびに、カリウムtert-ブトキシドおよびナトリウムtert-ブトキシドなどの無機塩基が挙げられるが、これに限定されない。脱保護剤は、DBU、DBNおよびDABCOからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、DBUであることがさらに好ましい。
【0054】
有機溶媒中でN末端保護アミノ基含有化合物と脱保護剤と捕捉剤とを接触させる方法は特に限定されない。例えば、N末端保護アミノ基含有化合物を含む反応溶液に対して脱保護剤および捕捉剤を任意の順番で加えてもよい。
【0055】
また、本発明の別の一態様においては、脱保護工程において捕捉剤が用いられなくともよい。すなわち、脱保護工程は、スラグ流形成工程の前に、有機溶媒中で、N末端保護アミノ基含有化合物と脱保護剤とを接触させて、回収対象のアミノ基含有化合物および分解生成物を形成させる工程であってもよい。脱保護工程の態様は、N末端保護基の種類に応じて適宜に選択され得る。
【0056】
(縮合工程)
また、本発明の一態様に係る製造方法は、脱保護工程の前に、縮合工程をさらに含んでもよい。縮合工程は、脱保護工程の前に、アミノ基含有化合物前駆体のN末端に対して、N末端保護アミノ酸を縮合させて、N末端保護アミノ基含有化合物を得る工程である。アミノ基含有化合物前駆体は、アミノ基含有化合物においてN末端アミノ酸1残基が除去された構造を有する化合物である。また、N末端保護アミノ酸は、アミノ基にN末端保護基が結合している任意のアミノ酸である。
【0057】
縮合工程は、アミノ基含有化合物前駆体を有機溶媒に溶解した反応溶液に、N末端保護アミノ酸および縮合剤、ならびに任意に活性化剤および触媒に添加することにより実行することができる。
【0058】
縮合剤としては、アミド化反応において用いられ得る公知の化合物を用いることができる。縮合剤の例としては、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホニウムクロリド(DMT-MM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6-Cl))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)が挙げられる。
【0059】
活性化剤は、縮合剤との共存下で、アミノ酸を、対応する活性エステルまたは対称酸無水物などに誘導して、アミド化反応させやすくする公知の化合物であり得る。活性化剤の例としては、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボン酸エチル(HOCt)3-ヒドロキシ-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(HOOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、N-ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONb)、ペンタフルオロフェノールおよびシアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)が挙げられる。
【0060】
触媒は、アミド化反応を触媒する公知の化合物であり得る。触媒の例としては、ジメチルアミノピリジン(DMAP)が挙げられる。
【0061】
(縮合工程および脱保護工程の一例)
縮合工程および脱保護工程のスキームの一例を以下に示す。下記スキームでは、縮合工程として、C末端がR基で保護されているアミノ基含有化合物前駆体H-AA-ORをMTHP/DMF(8/2)の混合液に30~40v/wになるよう溶解し、N末端保護アミノ酸Fmoc-AA-OH(1.3equiv)、縮合剤EDCI・HCl(1.3equiv)および活性化剤Oxyma(0.1equiv)を加え、室温で1時間攪拌する。縮合反応の終了をHPLCで確認した後、活性エステルFmoc-AA-Oxの捕捉剤としてモルホリン(0.4equiv)を加え室温で30分間攪拌する。次いで、脱保護工程として、捕捉剤モルホリン(20.0equiv)および脱保護剤DBU(7.0equiv)を加えて室温で1時間攪拌し、脱保護反応を行い、アミノ基含有化合物H-AA-AA-ORを得る。限定するものではないが、続けて、反応溶液を分液ロートに移し、10%食塩水(25~30v/w、2回)を加えて洗浄、分液してもよい。さらに、有機層に2M塩酸(25~30v/w、2回)を加えて洗浄、分液を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液(25~30v/w)で洗浄、分液し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、適量のMTHPで洗いこみを行いながら、ろ過し、アミノ酸縮合物を溶液として得てもよい。
【0062】
【化5】
【0063】
(中和工程)
また、本発明の一態様に係る製造方法は、分離工程の後に、中和工程をさらに含んでもよい。中和工程は、分離工程の後に、回収された疎水性溶液と塩基とを接触させて、疎水性溶液を中和する工程である。中和工程によれば、分離工程において回収された、低pHを有する疎水性溶液を中和することにより、続く工程における、疎水性溶液の反応性を制御することができる。また、中和工程によれば、疎水性溶液に含まれ得る活性化剤を容易に除去することができる。
【0064】
中和工程は、例えば疎水性溶液が形成する疎水層と、塩基性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成することにより、実行してもよい。このような方法によれば、中和後の疎水性溶液をスラグ流から容易に分離できると共に、疎水性溶液に含まれ得る活性化剤を塩基性水溶液へと除去することができる。
【0065】
塩基性水溶液は、塩基を含む水溶液であれば特に限定されないが、例えばブレンステッド塩基を含む水溶液である。塩基性水溶液は、疎水性水溶液のpHを好適な値へ変化させる観点から、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のブレンステッド塩基を含む水溶液であることが好ましい。
【0066】
塩基性水溶液に含まれるブレンステッド塩基の濃度は、洗浄効率の観点から、好ましくは0.1モル/L以上であり、より好ましくは0.5モル/L以上である。また、塩基性水溶液に含まれるブレンステッド塩基の濃度は、ペプチド分解抑制の観点から、好ましくは2.0モル/L以下であり、より好ましくは1.0モル/L以下である。塩基性水溶液のpHは、例えば8以上、12以下であってもよいが、これに限定されない。
【0067】
中和工程において、疎水層と親水層とのスラグ流を形成する場合、運転条件は、上述したスラグ流形成工程と同様の条件を採用してもよい。
【0068】
また、中和工程は、疎水性溶液を中和するための公知の方法を用いて実行してもよい。例えば、疎水性溶液に塩基を添加するか、または疎水性溶液を塩基性カラムに導入することにより、疎水性溶液と塩基とを接触させて中和してもよい。塩基の例としては、トリエチルアミンおよびジイソプロピルエチルアミンなどの三級アミンが挙げられる。塩基性カラムの例としては、DIAIONTM(三菱ケミカル株式会社)などの陰イオン交換樹脂を充填したカラム、および、固体の炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基などを充填したカラムが挙げられる。
【0069】
(一連の工程の繰り返し)
本発明の一態様に係る製造方法は、任意に縮合工程と、任意に脱保護工程と、スラグ流形成工程と、分離工程と、任意に中和工程とをこの順番で含む一連の工程を、繰り返し実行することを含んでもよい。一連の工程を繰り返し実行することにより、アミノ基含有化合物のN末端に対してアミノ酸を縮合させて、当該アミノ基含有化合物を伸長させることができる。一連の工程を繰り返す回数は、特に限定されず、アミノ酸を縮合させる回数に応じて定めればよい。
【0070】
一連の工程を繰り返し実行する場合、1サイクルにおける回収対象のアミノ基含有化合物は、続く1サイクルにおいては、アミノ基含有化合物前駆体として縮合工程に供されてもよい。また、一連の工程を繰り返し実行する場合には、最後の1サイクルにおける回収対象のアミノ基含有化合物が、本発明の一態様に係る製造方法によって目的生成物として製造されるアミノ基含有化合物であり得る。
【0071】
(抽出工程)
本発明の一態様に係る製造方法は、分離工程の後に、抽出工程をさらに含んでもよい。抽出工程は、分離工程で回収された疎水性溶液から回収対象のアミノ基含有化合物を抽出する工程である。アミノ基含有化合物を抽出する方法は、疎水性溶液からアミノ基含有化合物を単離生成するための任意の方法を用いて行うことができ、例えば抽出洗浄、晶析およびクロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
抽出工程は、アミノ基含有化合物が有するC末端保護基を脱保護することを含んでもよい。C末端保護基の脱保護は、公知の方法を用いて行うことができ、例えばトリフルオロ酢酸(TFA)処理が挙げられる。TFA処理においては、水、チオアニソール、1,2-エタンジチオール、フェノールおよびトリイソプロピルシランなどの分子をさらに用いてもよい。
【0073】
〔アミノ基含有化合物の分離方法〕
本発明の他の態様について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記にて説明した工程または部材と同じ機能を有する工程または部材については、その説明を繰り返さない。
【0074】
本発明の範疇には、アミノ基含有化合物の分離方法も含まれる。本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の分離方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、スラグ流から疎水層を分離することによって、回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。また、本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の分離方法は、脱保護工程、縮合工程、中和工程および抽出工程のうちいずれかをさらに含んでもよい。
【0075】
〔アミノ基含有化合物の製造装置〕
本発明の一態様は、アミノ基含有化合物の製造装置に関する。本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の製造装置は、アミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成部と、スラグ流形成部と連結しており、スラグ流から疎水層を分離する分離部と、を含む。以下、アミノ基含有化合物の製造装置を、単に「製造装置」と呼ぶことがある。
【0076】
本製造装置は、スラグ流形成部と、分離部とを含む。また、本製造装置は、脱保護部、縮合部、中和部および抽出部のうちいずれかをさらに含んでもよい。スラグ流形成部、分離部、脱保護部、縮合部、中和部および抽出部はそれぞれ、上述したスラグ流形成工程、分離工程、脱保護工程、縮合工程および抽出工程を実施するための構成である。
【0077】
(本製造装置の一実施形態)
本製造装置の一実施形態について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るアミノ基含有化合物の製造装置10の構成を示すブロック図である。図1に示すように、製造装置10は、スラグ流形成部20と、分離部30とを含む。スラグ流形成部20と分離部30とは連結している。
【0078】
スラグ流形成部20は、アミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するための構成である。スラグ流形成部20は、疎水性溶液槽21と、酸性水溶液槽22と、混合部23と、流通部24とを含む。疎水性溶液槽21、酸性水溶液槽22および流通部24は、それぞれ混合部23と連結している。
【0079】
疎水性溶液槽21は、疎水性溶液を貯留すると共に、当該疎水性溶液を混合部23へと導入するための構成である。本実施形態において、疎水性溶液槽21としては、疎水性溶液を貯留する槽と、当該槽と連結したポンプとの組合せが用いられる。
【0080】
酸性水溶液槽22は、酸性水溶液を貯留すると共に、当該酸性水溶液を混合部23へと導入するための構成である。本実施形態において、酸性水溶液槽22としては、酸性水溶液を貯留する槽と、当該槽と連結したポンプとの組合せが用いられる。
【0081】
本実施形態において、疎水性溶液槽21と酸性水溶液槽22とは、独立して制御され、それぞれ一定の流量で貯留された溶液を混合部23へ導入する。しかしながら、本発明の一態様においては、疎水性溶液槽21と酸性水溶液槽22とは、連動して制御され、それぞれ可変流量で貯留された溶液を混合部23へ導入してもよい。
【0082】
混合部23は、疎水性溶液および酸性水溶液を導入してスラグ流を形成させるための構成である。本実施形態において、混合部23としては、T字型ミキサーが用いられる。T字型ミキサーにおいては、互いに対向する2つの導入路から疎水性溶液および酸性水溶液それぞれが導入され、残る排出路からスラグ流が排出される。このような構成によれば、T字型ミキサーの内壁およびチューブ内壁の摩擦作用によってスラグ流中の疎水層および親水層それぞれの内部に循環流が形成され、N末端保護基由来化合物の移動がより促進される。
【0083】
本発明の一態様において、混合部23は、T字型ミキサーに限定されず、スラグ流を形成することができる部材であればよい。混合部23の例としては、Y字型ミキサー、ヘリックス型ミキサーおよびスタティック型ミキサーが挙げられる。なお、上述のように電磁弁などの外部制御によりスラグ流を形成する方法も挙げられる。
【0084】
流通部24は、混合部において形成されたスラグ流を流通させるための構成である。本実施形態において、流通部24として、内径1.59mmおよび長さ1mを有するPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)チューブが用いられる。
【0085】
本発明の一態様において、流通部24は、上述のPFAチューブに限定されず、スラグ流を流通させることができる部材であればよい。流通部24としてチューブを用いる場合には、当該チューブの材質、内径および長さは、適宜選択され得る。
【0086】
分離部30は、スラグ流形成部と連結しており、スラグ流から疎水層を分離するための構成である。本実施形態において、分離部30としては、流通部24と連結したスラグ流の導入口と、上部および下部それぞれに開閉可能な排出口とを有する貯留槽が用いられる。本実施形態においては、上部および下部の排出口が閉鎖された状態で、導入口からスラグ流が貯留槽へと導入され、疎水層および親水層が所定量貯留した時点で導入が停止されて、一定の静置時間を経た後、排出口から疎水層および親水層が排出されて、疎水層の分離が達成される。
【0087】
本発明の一態様において、分離部30は、上述の貯留槽に限定されず、バッチ式分離および連続式分離のうちいずれの方式を利用する部材であってもよい。分離部30の例としては、油水分離膜が挙げられる。
【0088】
〔まとめ〕
上記の説明から理解されるように、本発明の第1の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。
【0089】
本発明の第2の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記N末端保護基由来化合物は、前記N末端保護基に由来する分解生成物に捕捉剤が結合した捕捉体である。
【0090】
本発明の第3の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様または第2の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記有機溶媒は、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチル-t-ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0091】
本発明の第4の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第3の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記有機溶媒は、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテルおよびクロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0092】
本発明の第5の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第4の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記酸性水溶液は、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸およびクエン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のブレンステッド酸を含む水溶液である。
【0093】
本発明の第6の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第5の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記酸性水溶液に含まれるブレンステッド酸の濃度は、1.0モル/L以上、12.0モル/L以下である。
【0094】
本発明の第7の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第6の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記スラグ流形成工程は、0.3mL/min以上の流量を有する前記疎水性溶液と、前記疎水性溶液の流量の1.0倍以上、10倍以下の流量を有する前記酸性水溶液とを混合して、前記スラグ流を形成することを含む。
【0095】
本発明の第8の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第2の態様および第2の態様を引用する第3の態様~第7の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記スラグ流形成工程の前に、前記有機溶媒中で、前記回収対象のアミノ基含有化合物のN末端が前記N末端保護基により保護されているN末端保護アミノ基含有化合物と、当該N末端保護アミノ基含有化合物から前記N末端保護基を脱保護する脱保護剤と、前記捕捉剤と、を接触させて、当該アミノ基含有化合物および前記捕捉体を形成させる、脱保護工程をさらに含み、前記N末端保護基は、フルオレン骨格を有する保護基であり、前記捕捉剤は、2級アミンである。
【0096】
本発明の第9の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第8の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記分離工程の後に、回収された前記疎水性溶液と塩基とを接触させて、前記疎水性溶液を中和する、中和工程をさらに含む。
【0097】
本発明の第10の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第9の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記回収対象のアミノ基含有化合物は、2個以上のアミノ酸が結合したペプチドである。
【0098】
本発明の第11の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第10の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記回収対象のアミノ基含有化合物は、そのC末端が下記式(1):
【化6】
[式中、m個のQは、それぞれ酸素原子を表し、m個のRは、それぞれ独立して、下記式(A):
【化7】
(式中、*は、結合位置を示し、R1a、R1b、R1c、R1dおよびR1eは、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示し、nは、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、nは、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、但し、R1a、R1b、R1cおよびR1dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である)で表わされる基であり、k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子を表し、Xは、前記アミノ基含有化合物のC末端との結合位置を表し、mは、2または3の整数を表し、kは、0以上(5-)以下の整数を示し、m個の[Q-R]のうち少なくとも1つは、前記Xを含む置換基に対してメタ位に置換されており、総炭素数は、40以上、60以下である]で表されるC末端保護基で保護されている。
【0099】
本発明の第12の態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、上述した第1の態様~第11の態様のいずれか一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法の構成に加えて、前記分離工程の後に、回収された前記疎水性溶液から前記回収対象のアミノ基含有化合物を抽出する抽出工程をさらに含む。
【0100】
本発明の第13の態様に係るアミノ基含有化合物の分離方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。
【0101】
本発明の第14の態様に係るアミノ基含有化合物の製造装置は、回収対象のアミノ基含有化合物、当該アミノ基含有化合物のN末端を保護していたN末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成部と、前記スラグ流形成部と連結しており、前記スラグ流から前記疎水層を分離することによって、前記回収対象のアミノ基含有化合物を含む疎水性溶液を回収する分離部と、を含む。
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0102】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0103】
〔製造例〕
以下の製造例では、続く実施例において用いる、ペプチドおよび捕捉体を含む疎水性溶液を製造した。製造例においては、それぞれ下記式(X)、(Y)および(Z)で表される化合物X、YおよびZをアミノ基含有化合物のC末端保護基(タグ)として用いた。
【0104】
【化8】
【0105】
<製造例1>H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)の合成
製造例1-1:H-Leu-OTagX(1-1)の合成
化合物X5.62g(6.78mmol)をMTHP/アセトニトリル(8/2)の混合液211.1mLに溶解し、Fmoc-Leu-OH3.35g(9.49mmol)、EDCI・HCl1.82g(9.49mmol)およびDMAP0.083g(0.678mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。次いで、モルホリン0.236mL(2.71mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、モルホリン11.8mL(136mmol)およびDBU7.08mL(47.4mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応溶液を分液ロートに移し、10%食塩水(140mL×2回)を加えて分液洗浄した。さらに、有機層に2M塩酸(140mL×2回)を加えて分液洗浄を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液(140mL)で分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥した後、適量のMTHPで洗いこみを行いながら、ろ過し、アミノ酸縮合物H-Leu-OTagX(1-1)を溶液として得た。
【0106】
製造例1-2:H-Ile-Leu-OTagX(1-2)の合成
上記で得られたH-Leu-OTagX(1-1)の溶液にアセトニトリル42.1mL、Fmoc-Ile-OH3.11g(8.81mmol)、EDCI・HCl1.69g(8.81mmol)およびOxyma0.289g(2.03mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。次いで、モルホリン0.236mL(2.71mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、モルホリン11.8mL(136mmol)およびDBU7.08mL(47.4mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応溶液を分液ロートに移し、10%食塩水(140mL×2回)を加えて分液洗浄した。さらに、有機層に2M塩酸(140mL×2回)を加えて分液洗浄を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液(140mL)で分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥した後、適量のMTHPで洗いこみを行いながら、ろ過し、アミノ酸縮合物H-Ile-Leu-OTagX(1-2)を溶液として得た。
【0107】
製造例1-3:H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-3)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Ile-Leu-OTagX(1-2)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いたこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、アミノ酸縮合物H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-3)を溶液として得た。
【0108】
製造例1-4:H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-3)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Pro-OHを用い、分液操作を行わなかったこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、ペプチド(H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4))を疎水性溶液として得た。当該疎水性溶液には、Fmocに由来するジベンゾフルベン(DBF)にモルホリンが結合して形成された捕捉体も含まれる。
【0109】
<製造例2>H-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-7)の合成
製造例2-1:H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-5)の合成
製造例1-4で得た疎水性溶液を10%食塩水で2回、2M塩酸で2回、0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄して、疎水性溶液を得た。次いで、アミノ酸縮合物溶液の代わりに得られた疎水性溶液を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Arg(Pbf)-OHを用いたこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、アミノ酸縮合物H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-5)を溶液として得た。
【0110】
製造例2-2:H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-6)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-5)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Arg(Pbf)-OHを用いたこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、アミノ酸縮合物H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-6)を溶液として得た。
【0111】
製造例2-3:H-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-7)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-6)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Lys(Boc)-OHを用い、分液洗浄として10%食塩水(60mL)のみを行い、続く乾燥、洗いこみおよびろ過を省略したこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、ペプチドH-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-7)を疎水性溶液として得た。当該疎水性溶液には、Fmocに由来するジベンゾフルベン(DBF)にモルホリンが結合して形成された捕捉体も含まれる。
【0112】
<製造例3>H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-10)の合成
製造例3-1:H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-8)の合成
製造例2-3で得た疎水性溶液をさらに2M塩酸で2回、0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄して、疎水性溶液を得た。次いで、アミノ酸縮合物溶液の代わりに得られた疎水性溶液を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Asn(Trt)-OHを用いたこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、アミノ酸縮合物H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-8)を溶液として得た。
【0113】
製造例3-2:H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-9)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-8)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Glu(OtBu)-OHを用いたこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、アミノ酸縮合物H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-9)を溶液として得た。
【0114】
製造例3-3:H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-10)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-9)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Tyr(tBu)-OHを用い、分液洗浄として10%食塩水(60mL)のみを行い、続く乾燥、洗いこみおよびろ過を省略したこと以外は製造例1-2と同様の操作を行い、ペプチドH-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-10)を疎水性溶液として得た。当該疎水性溶液には、Fmocに由来するジベンゾフルベン(DBF)にモルホリンが結合して形成された捕捉体も含まれる。
【0115】
<製造例4>H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-4)の合成
製造例4-1:H-Leu-OTagY(4-1)の合成
化合物Y2.00g(3.03mmol)をMTHP/アセトニトリル(8/2)の混合液60.0mLに溶解し、Fmoc-Leu-OH1.60g(4.54mmol)、EDCI・HCl0.87g(4.54mmol)およびDMAP0.037g(0.303mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。次いで、モルホリン0.158mL(1.82mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、モルホリン5.27mL(60.5mmol)およびDBU3.16mL(21.2mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応溶液を分液ロートに移し、10%食塩水(60mL)を加えて分液洗浄した。さらに、有機層に2M塩酸(60mL×2回)を加えて分液洗浄を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液(60mL)で分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥した後、適量のMTHPで洗いこみを行いながら、ろ過し、アミノ酸縮合物H-Leu-OTagY(4-1)を溶液として得た。
【0116】
製造例4-2:H-Ile-Leu-OTagY(4-2)の合成
上記で得られたH-Leu-OTagY(4-1)の溶液にアセトニトリル12.0mL、Fmoc-Ile-OH1.39g(3.93mmol)、EDCI・HCl0.754g(3.93mmol)およびOxyma0.129g(0.908mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。次いで、モルホリン0.105mL(1.21mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、モルホリン5.27mL(60.5mmol)およびDBU3.16mL(21.2mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応溶液を分液ロートに移し、10%食塩水(60mL)を加えて分液洗浄した。さらに、有機層に2M塩酸(60mL×2回)を加えて分液洗浄を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液(60mL)で分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥した後、適量のMTHPで洗いこみを行いながら、ろ過し、アミノ酸縮合物H-Ile-Leu-OTagY(4-2)を溶液として得た。
【0117】
製造例4-3:H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-3)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Ile-Leu-OTagY(4-2)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いたこと以外は製造例4-2と同様の操作を行い、アミノ酸縮合物H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-3)を溶液として得た。
【0118】
製造例4-4:H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-4)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-3)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Pro-OHを用い、分液洗浄として10%食塩水(60mL)のみを行い、続く乾燥、洗いこみおよびろ過を省略したこと以外は製造例4-2と同様の操作を行い、ペプチド(H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-4))を疎水性溶液として得た。当該疎水性溶液には、Fmocに由来するジベンゾフルベン(DBF)にモルホリンが結合して形成された捕捉体も含まれる。
【0119】
<製造例5>H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-4)の合成
製造例5-1:H-Leu-OTagZ(5-1)の合成
化合物Z2.00g(2.19mmol)をTHF/アセトニトリル(8/2)の混合液70mLに溶解し、Fmoc-Leu-OH1.16g(3.28mmol)、EDCI・HCl0.63g(3.28mmol)およびDMAP0.027g(0.219mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。次いで、モルホリン0.114mL(1.31mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、モルホリン3.81mL(43.8mmol)およびDBU2.29mL(15.3mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。エバポレーターを用いて反応溶液から溶媒を除去した後、アセトニトリル100mLを追加し、30分間攪拌した。析出した固体をろ取し、アミノ酸縮合物H-Leu-OTagZ(5-1)を固体として得た。
【0120】
製造例5-2:H-Ile-Leu-OTagZ(5-2)の合成
上記で得られたH-Leu-OTagZ(5-1)をTHF48mLに溶解させ、アセトニトリル12.0mL、Fmoc-Ile-OH1.01g(2.85mmol)、EDCI・HCl0.546g(2.85mmol)およびOxyma0.093g(0.657mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。次いで、モルホリン0.076mL(0.876mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、モルホリン3.81mL(43.8mmol)およびDBU2.29mL(15.3mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。エバポレーターを用いて反応溶液から溶媒を除去した後、アセトニトリル100mLを追加し、30分間攪拌した。析出した固体をろ取し、アミノ酸縮合物H-Ile-Leu-OTagZ(5-2)を固体として得た。
【0121】
製造例5-3:H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-3)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Ile-Leu-OTagZ(5-2)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いたこと以外は製造例5-2と同様の操作を行い、H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-3)を溶液として得た。
【0122】
製造例5-4:H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-4)の合成
アミノ酸縮合物としてH-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-3)を用い、縮合するアミノ酸としてFmoc-Pro-OHを用い、溶媒としてMTHP/アセトニトリル(8/2)の混合溶液を用い、分液洗浄として10%食塩水(60mL)を行い、続く溶媒除去およびろ取を省略したこと以外は製造例5-3と同様の操作を行い、ペプチド(H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-4))を疎水性溶液として得た。当該疎水性溶液には、Fmocに由来するジベンゾフルベン(DBF)にモルホリンが結合して形成された捕捉体も含まれる。
【0123】
〔実施例〕
以下の実施例では、製造例で得た疎水性溶液を、種々の条件で形成したスラグ流による洗浄に供し、分離後の疎水層における捕捉体の除去率を測定した。
【0124】
<装置>
実施例では、以下の装置を使用した。
・フローリアクター:PFAチューブ(内径1.59mm、フロン工業社)とPFAユニオン「PFA-220-6」(外径1/8インチ、Swagelok社)とを連結したリアクター
・T字型ミキサー:PFAユニオンティー「PFA-220-3」(外径1/8インチ、Swagelok社)、ステンレスユニオンティー「SS-200-3」(外径1/8インチ、Swagelok社)
・ポンプ:ダイヤフラムポンプ「QI-100-TT-P-S」(タクミナ社)
【0125】
<除去率の測定方法>
捕捉体の除去率は、疎水性溶液にあらかじめ加えた化合物Yを内部標準物質とし、捕捉体ピークの面積値の、内部標準物質ピークの面積値に対する比率をスラグ流洗浄前後でHPLCを用いて測定し、下記式を用いて求めた。
【0126】
残存率(%)=洗浄後の比率/洗浄前の比率×100
除去率(%)=100-残存率(%)
【0127】
液体クロマトグラフィー(HPLC)条件:
カラム:InertSustainC18(3μm、4.6×125mm)
移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液、移動相B:THF
溶出液:移動相A/移動相B:表1に示すグラジエント条件にて測定を実施した。
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:紫外可視分光検出器(λ=220nm)
【0128】
【表1】
【0129】
<実施例1>予備的な洗浄を含むスラグ流洗浄(安定してスラグ流が形成される条件の検討)
実施例1-1:クロロホルム溶液を用いた洗浄
製造例1-4で得た疎水性溶液を、10%食塩水で2回、2M塩酸で1回予備洗浄して、0.04mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を含むクロロホルム溶液を得た。クロロホルム溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ0.34mL/minおよび0.37mL/minの流量でT字型ミキサー(SS-200-3)に導入して合流させ、スラグ流(流れ方向に沿って、クロロホルム溶液が形成する疎水層と、塩酸水溶液が形成する親水層とが交互に流れる流れ)を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ2m、滞留時間354秒)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。
【0130】
スラグ流において形成された疎水層のスラグ長は、1~6cmの範囲内であった。
【0131】
実施例1-2:MTHP溶液を用いた洗浄
製造例1-4で得た疎水性溶液を、10%食塩水で2回、2M塩酸で1回予備洗浄して、0.04mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を含むMTHP溶液を得た。クロロホルム溶液の代わりに得られたMTHP溶液を用いたこと以外は実施例1-1と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。本実施例においてビーカーに排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。
【0132】
スラグ流において形成された疎水層のスラグ長は、1~20cmの範囲内であった。
【0133】
製造例1-4で得た疎水性溶液を、10%食塩水で2回、2M塩酸で1回予備洗浄して、0.04mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を含むMTHP溶液を得た。クロロホルム溶液の代わりに得られたMTHP溶液を用い、MTHP溶液および2M塩酸水溶液の流量をそれぞれ3.0mL/minおよび3.0mL/min(スラグ流のPFAチューブ内での滞留時間45秒)としたこと以外は実施例1-1と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。本実施例においてビーカーに排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。
【0134】
スラグ流において形成された疎水層のスラグ長は、1cmであり、安定していた。
【0135】
実施例1の結果を表2に示す。表2に示すように、実施例1-1~1-3において、特には実施例1-3において、疎水性溶液と酸性水溶液とのスラグ流が安定して形成された。また、実施例1-3において得られた親水層のHPLCの結果を図2に示す。図2に示される捕捉体ピーク(6.3min)からも、スラグ流を用いて疎水性溶液を洗浄することにより、捕捉体が親水層へと除去されたことが分かる。また、図2において、ペプチドピーク(17.6min)が無いことから、目的生成物であるペプチドは親水層へは移動しないことも分かる。
【0136】
【表2】
【0137】
<実施例2>予備的な洗浄を含まないスラグ流洗浄
実施例2-1:
製造例1-4で得られた0.02mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を含むMTHP/アセトニトリル(8/2)混合溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび3.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ2m、滞留時間45秒)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。
【0138】
得られた溶液における捕捉体の除去率は89.16%であった。また、洗浄後の親水層のpHは1程度であり、洗浄前の疎水性溶液に含まれていた脱保護剤DBUおよび捕捉剤モルホリンが疎水層から除去された。
【0139】
実施例2-2:
2M塩酸水溶液の流量を4.5mL/minとしたこと以外は、実施例2-1と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は90.16%であった。
【0140】
実施例2-3:
2M塩酸水溶液の流量を6.0mL/minとしたこと以外は、実施例2-1と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は92.56%であった。
【0141】
実施例2-4:
2M塩酸水溶液の流量を10.0mL/minとしたこと以外は、実施例2-1と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は96.71%であった。
【0142】
実施例2-5:
塩酸濃度を4Mとしたこと以外は、実施例2-3と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は94.94%であった。
【0143】
実施例2-6:
塩酸濃度を6Mとしたこと以外は、実施例2-3と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は97.38%であった。
【0144】
実施例2-7:
PFAチューブの長さを4mとしたこと以外は、実施例2-3と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は93.69%であった。
【0145】
実施例2-8:
PFAチューブの長さを1mとしたこと以外は、実施例2-3と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は96.14%であった。
【0146】
実施例2-9:
有機溶媒としてMTHP/アセトニトリル(8/2)混合溶液の代わりにクロロホルム/アセトニトリル(8/2)混合溶液を用いたこと以外は、実施例2-3と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は51.10%であった。
【0147】
実施例2-10:
有機溶媒としてMTHP/アセトニトリル(8/2)混合溶液の代わりにCPME/アセトニトリル(8/2)混合溶液を用いたこと以外は、実施例2-3と同様の操作を行い、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は98.35%であった。
【0148】
実施例2の結果を表3に示す。表2に示すように、疎水性溶液を酸性水溶液とのスラグ流を用いて洗浄することにより、高い除去率で捕捉体を除去できた。また、実施例2の結果からは、縮合反応によって得られたペプチド溶液を、予備的な洗浄無しに酸性水溶液を用いたスラグ流洗浄に供しても、スラグ流中でエマルジョンが形成されずに、排出液が速やかに親水層と疎水層との2層に分離することが分かる。このことから、本発明の一態様に係る製造方法を用いることにより、少ない回数の分液洗浄で捕捉体を除去することができることが分かる。
【0149】
【表3】
【0150】
<実施例3>タグXを含むペプチド溶液のスラグ流洗浄
製造例1-4で得た疎水性溶液を、10%食塩水で1回予備洗浄して、0.02mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を含むMTHP溶液を得た。クロロホルム溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび6.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流(流れ方向に沿って、クロロホルム溶液が形成する疎水層と、塩酸水溶液が形成する親水層とが交互に流れる流れ)を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ1m)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は92.16%であった。
【0151】
<実施例4>タグYを含むペプチド溶液のスラグ流洗浄
製造例4-4で得た0.02mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-4)を含むMTHP溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび6.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ1m)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は91.66%であった。
【0152】
<実施例5>タグZを含むペプチド溶液のスラグ流洗浄
製造例5-4で得た0.02mmol/mLのH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-4)を含むMTHP溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび6.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ1m)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-4)を溶液として得た。捕捉体の除去率は88.22%であった。
【0153】
<実施例6>ペプチド分解物生成の検討
ところで、実施例3~5で用いたペプチドにTyr側鎖保護基として含まれるtBu基は、酸性条件下で脱保護されることがある。そのため、酸性水溶液を用いたスラグ流中での洗浄により、tBu基が脱保護されたペプチド分解物が生成することがある。
【0154】
そこで、各種タグ(化合物X~Z)が結合した、ペプチドH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagY(4-4)およびH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagZ(5-4)それぞれについてスラグ流洗浄を実施した後、HPLCによる定量分析を行った。各種ペプチド分解物の生成率は、ペプチドH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagおよび各種ペプチド分解物H-Pro-Tyr-Ile-Leu-OTagの合計面積に対する、ペプチド分解物の面積の割合を算出することにより求めた。
【0155】
〔実験結果〕
ペプチド分解物生成の実験結果を表4に示す。表4に示すように、タグ化合物XまたはYが結合したペプチドを、酸性水溶液を用いたスラグ流中での洗浄に供した場合、化合物Zが結合したペプチドと比較して、ペプチド分解物の生成が減じられることが分かった。
【0156】
【表4】
【0157】
<実施例7>7残基ペプチドについてのスラグ流洗浄
製造例2-3で得られた0.02mmol/mLのH-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-7)を含むMTHP溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび6.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ2m)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-7)を溶液として得た。捕捉体の除去率は83.86%であった。
【0158】
<実施例8>10残基ペプチドについてのスラグ流洗浄
製造例3-3で得られた0.02mmol/mLのH-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-10)を含むMTHP溶液および2M塩酸水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび6.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ2m)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Lys(Boc)-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-10)を溶液として得た。捕捉体の除去率は78.12%であった。
【0159】
<実施例9>塩酸水溶液洗浄後の炭酸水素ナトリウム水溶液によるスラグ流洗浄
実施例2-1~2-8で得られたペプチドH-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を含む疎水層を合わせて得られた疎水性溶液(pH1.97)、および0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液を、ダイヤフラムポンプを用いてそれぞれ3.0mL/minおよび6.0mL/minの流量でT字型ミキサー(PFA-220-3)に導入して合流させ、スラグ流(流れ方向に沿って、疎水性溶液が形成する疎水層と、炭酸水素ナトリウム水溶液が形成する親水層とが交互に流れる流れ)を形成した。T字型ミキサーから排出されたスラグ流をPFAチューブ(内径1.59mm、長さ2m)中に流通させて、ビーカーに排出した。排出されたスラグ流は、速やかに疎水層と親水層との2層に分離した。疎水層を回収し、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTagX(1-4)を溶液(pH8.15)として得た。活性化剤Oxymaの除去率を捕捉体と同様に測定したところ、活性化剤の除去率は85.20%であった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、例えばペプチドなどのアミノ基含有化合物の製造のために利用することができる。
【符号の説明】
【0161】
10 製造装置
20 スラグ流形成部
21 疎水性溶液槽
22 酸性水溶液槽
23 混合部
24 流通部
30 分離部
【要約】
本発明の一態様は、より容易にN末端保護基由来化合物を除去できるアミノ基含有化合物の製造方法を提供することを目的とする。本発明の一態様に係るアミノ基含有化合物の製造方法は、回収対象のアミノ基含有化合物、N末端保護基に由来する化合物であるN末端保護基由来化合物、および有機溶媒を含む疎水性溶液が形成する疎水層と、酸性水溶液が形成する親水層とのスラグ流を形成するスラグ流形成工程と、スラグ流から疎水層を分離することによって、疎水性溶液を回収する分離工程と、を含む。
図1
図2