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特許7493228有機半導体材料および有機薄膜トランジスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】有機半導体材料および有機薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20240524BHJP
   C07D 495/12 20060101ALI20240524BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240524BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20240524BHJP
【FI】
H10K85/60
C07D495/12
H10K10/40
H10K71/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020147026
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2021044546
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019160622
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】東野 寿樹
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152889(WO,A1)
【文献】特開2018-186189(JP,A)
【文献】特開2015-195362(JP,A)
【文献】特開2010-177641(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108690046(CN,A)
【文献】特開2018-008885(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109503621(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0145266(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107360720(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106104833(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 10/00-19/80、71/00-99/00
C07D 495/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)または(2)で表される化合物。
【化1】
【化2】
(上記一般式(1)および(2)中、Rは芳香族炭化水素基または複素環基または炭素数1~20のアルキル基であり、RおよびRはいずれか一方が水素原子であり、もう一方はRが芳香族炭化水素基または複素環基であるときは炭素数1~20のアルキル基であり、Rが炭素数1~20のアルキル基であるときは芳香族炭化水素基または複素環基である)
【請求項2】
は芳香族炭化水素基または複素環基であり、RおよびRはいずれか一方が水素原子であり、もう一方は炭素数1~20のアルキル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が水素原子である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
アルキル基が炭素数6~12のアルキル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
一般式(1)で示される、請求項1~4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
有機溶媒に対する25℃における溶解度が0.01質量%以上の、請求項1~5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
示差走査熱測定において160℃未満に相転移を示すピークが観測されない、請求項1~6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の化合物と有機溶媒とを含有する組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄膜。
【請求項10】
請求項9に記載の有機半導体薄膜を含んでなる有機半導体デバイス。
【請求項11】
請求項9に記載の有機半導体薄膜を含んでなる有機トランジスタ。
【請求項12】
有機半導体薄膜が単結晶である、請求項11に記載の有機トランジスタ。
【請求項13】
請求項8に記載の有機半導体組成物を基材上に塗布することにより有機半導体薄膜を製膜することを特徴とする、有機トランジスタの製造方法。
【請求項14】
有機半導体薄膜が単結晶であることを特徴とする、請求項13に記載の有機トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合多環芳香族化合物、該化合物を含有する有機半導体材料ならびに有機半導体組成物、該有機半導体材料を含む有機薄膜、該有機薄膜の製造方法、および該有機薄膜を有する有機半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器には、トランジスタが多用され必要不可欠となっている。しかしながら、アモルファスシリコンや多結晶シリコンなどの無機半導体材料を用いた電界効果トランジスタの製造には、多数の真空プロセス、不純物のドーピング等製造コスト、およびランニングコストがかかり、電界効果トランジスタの製造コストが高くなっている。
【0003】
一方で、今日低価格で大量生産が必要とされている電子ペーパーや、RFIDタグの需要が高まっており、より低コスト、大量生産、短時間の回路製作により製造が可能である印刷プロセス(プリンテッドエレクトロニクス)が注目され、半導体材料としては塗布成膜可能な有機半導体が注目されている。
【0004】
また、近年ウェアラブル電子デバイスの需要が高まっており、軽量で柔軟性のあるプラスチック基材の上にトランジスタなどのデバイスを作製する技術が必要となってきた。しかしながら、アモルファスシリコンや多結晶シリコンの成膜は、高温度下で実施されるため、熱耐久性に乏しいプラスチック材料などは基板として使用できないという難点がある。
【0005】
上記問題を解決するためにも、有機溶媒に溶解可能で塗布成膜可能な有機半導体化合物をチャネル層に用いて印刷法でトランジスタを作製する技術が有望視され、その実用化に期待が集まっている。
【0006】
有機半導体層を形成する方法としては、真空蒸着法や塗布法などが知られており、塗布法を利用することができれば従来の真空プロセスを用いた製造方法を必要としないため、製造コストを抑えることができるとともに、インクジェット印刷、スクリーン印刷などの既存の印刷プロセスが活用できるため、有機トランジスタ素子を大面積かつ大量に製造することができるようになる。
【0007】
さらには、成膜時に必要となる温度を下げることができ、有機半導体化合物を用いた有機トランジスタでは、基板にプラスチック材料を使用することが可能となることでフレキシブルなデバイスへの適用が可能となり、その実用化に期待が集まっている。
【0008】
加えて、実用的な有機トランジスタは、高いキャリア移動度(単に移動度ともいう)、および熱耐久性を有している必要がある。
しかし一般に有機化合物は、半導体層となる固相を隣接分子間の相互作用により構築するため、これらを共有結合で構築することができる無機化合物に対して相互作用が弱くなる。そのため、固相内でのキャリア移動に障害が大きくなる傾向があるとともに、熱耐久性が低下するという課題がある。特に、トランジスタのチャネル層に用いる有機半導体化合物は、室温を中心とした広い温度領域にわたって、融解などの相転移をおこさない必要がある。ここで相転移とは、有機化合物の固相から液相への変化、固相から液晶相への変化、固相から他の固相への変化、液晶相から液相への変化、あるいはこれらの逆方向の変化などを指し、これらの相転移の発生する温度を相転移点と呼び、そのなかで特に固相や液晶相から液相に転移する温度を融点とよぶ。
【0009】
以上のように、有機半導体には、高いキャリア移動度を実現するための強い分子間相互作用と、実用に足る熱耐久性を得るための高い転移点温度を有することが有機トランジスタの実用化にむけて必要不可欠な物性として求められる。
【0010】
有機トランジスタのチャネル層に用いる有機半導体化合物としてはこれまで、ベンゼン環を5つ縮合させた構造をもつペンタセンや、ベンゼン環とチオフェン環からなるベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)に代表される、ベンゼン環やチオフェン環を縮合させた縮合多環芳香族化合物を主骨格とした化合物が検討されてきた(非特許文献1-3)。これら化合物は母骨格の強い分子間相互作用のため、実用的な高い移動度を示すとともに、高い相転移温度を有することに基づいて優れた熱耐久性を示す。しかし、これら化合物は溶媒にきわめて難溶であるため、有機トランジスタを作製する際に塗布法を適用できないという問題があった。
【0011】
有機溶媒への溶解性を高めるなどの目的で、縮合多環芳香族化合物にアルキル基を置換することが検討されている。このとき、ベンゼン環やチオフェン環の縮環数が小さい場合は、塗布法を適用するのに充分な溶媒溶解性を示す一方で、より低温で相転移を起こしやすく、有機トランジスタデバイスの熱耐久性の面で不利にはたらきやすいことが問題となる。
例えば非特許文献4に記載されているように、アルキル基を置換したBTBTは塗布製膜が可能な溶解性を有しつつ高い移動度を示すものの、転移点が110℃であることが示されており、特許文献1には半導体デバイスの熱耐久性に関する課題が示されている。
一方、縮環数の大きい場合は、相転移温度が高温側へシフトし有機トランジスタデバイスの熱耐久性は改善されるものの、塗布法を適用するための溶媒溶解性が不充分となる。
例えば前記BTBTよりも縮環数の大きいジナフトベンゾジチオフェン(DNBDT)にアルキル基を付与した非特許文献5に記載した化合物では、高い移動度を示すとともに相転移温度が200℃以上であることから、高耐熱な有機トランジスタの製造が期待できるが、その溶媒溶解性は室温では極めて低いため、文献においても加熱条件下での溶液調整法および塗布成膜法が示されている。
このように、溶媒溶解性と熱耐久性は一般にトレードオフ関係にあり、高い溶媒溶解性と高い熱耐久性を両立する有機半導体材料(有機半導体化合物)の開発が求められている。
【0012】
また、チエノベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBTT)骨格について、有機トランジスタに含有される有機半導体材料として報告されている(非特許文献6および特許文献2-3)。しかしながら、非特許文献6および特許文献2-3は、蒸着成膜により作製した有機トランジスタのキャリア移動度に関する記載があるのみで、いずれの文献においても塗布成膜に向けた溶媒溶解性や有機トランジスタデバイスの熱耐久性については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2018-142704号公報
【文献】CN108690046A
【文献】特許第5352260号
【非特許文献】
【0014】
【文献】“Molecular beam deposited thin films of pentacene for organic field effect transistor applications”, J. Appl. Phys., 1996, 80, 2501-2508.
【文献】“2,7-Diphenyl[1]benzothieno[3,2-b]benzothiophene, A New Organic Semiconductor for Air-Stable Organic Field-Effect Transistors with Mobilities up to 2.0 cm2 V-1 s-1”, J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 12604-12605.
【文献】“Facile Synthesis of Highly π-Extended Heteroarenes, Dinaphtho[2,3-b:2‘,3‘-f]chalcogenopheno[3,2-b]chalcogenophenes, and Their Application to Field-Effect Transistors”, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 2224-2225.
【文献】“Highly Soluble [1]Benzothieno[3,2-b]benzothiophene (BTBT) Derivatives for High-Performance, Solution-Processed Organic Field-Effect Transistors”, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 15732-15733.
【文献】“High‐Performance Solution‐Processable N‐Shaped Organic Semiconducting Materials with Stabilized Crystal Phase”, Adv. Mater., 2014, 26, 4546-4551.
【文献】“Five-ring-fused asymmetric thienoacenes for high mobility organic thin-film transistors: the influence of the position of the S atom in the terminal thiophene ring” J. Mater. Chem. C, 2019, 7, 3656-3664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在までに、種々の有機化合物を有機半導体層に用いた有機トランジスタの提案がなされているが、そのいずれもが、実用的に充分満足できる特性を有しているとはいい難いものであった。
上述のとおり、塗布製膜が可能な十分な溶媒溶解性を有し、かつ、熱耐久性が高く、キャリア移動度が高い有機半導体材料が開発できれば、印刷などの塗布製膜法を用いて、任意の基板上に簡便に有機薄膜トランジスタを作製することができ、これを集積することでフレキシブルなデバイスを作製することができる。たとえば、これが薄膜の場合には、タッチパネルなどの透明電極や、有機ELや有機太陽電池の電極などに利用でき、また電磁波吸収シートとして利用することが可能となる。その産業的利用価値は極めて大きいが、そのような要請に応える有機半導体材料がまだ開発されていないのが現状である。
【0016】
本発明は、このような現状を鑑みてなされたものであって、有機半導体溶液を塗布することによって作製可能であり、熱耐久性に優れ、キャリア移動度が高い有機トランジスタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)または(2)で表されるBTBTTを母骨格とし、ある特定の置換位置に異なる置換基を有する化合物が塗布成膜によって薄膜を作製するに十分な溶媒溶解性と高い相転移温度を示し、さらにこれを有機半導体層とする有機トランジスタは、キャリア移動度が極めて高く、かつ熱耐久性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】
または
【化2】
(上記一般式(1)および(2)中、Rは芳香族炭化水素基または複素環基または炭素数1~20のアルキル基であり、RおよびRはいずれか一方が水素原子であり、もう一方はRが芳香族炭化水素基または複素環基であるときは炭素数1~20のアルキル基であり、Rが炭素数1~20のアルキル基であるときは芳香族炭化水素基または複素環基である)
【0018】
具体的には、本出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉以下の一般式(1)または(2)で表される化合物。
【化1】
【化2】
(上記一般式(1)および(2)中、Rは芳香族炭化水素基または複素環基または炭素数1~20のアルキル基であり、RおよびRはいずれか一方が水素原子であり、もう一方はRが芳香族炭化水素基または複素環基であるときは炭素数1~20のアルキル基であり、Rが炭素数1~20のアルキル基であるときは芳香族炭化水素基または複素環基である)
〈2〉Rは芳香族炭化水素基または複素環基であり、RおよびRはいずれか一方が水素原子であり、もう一方は炭素数1~20のアルキル基である、〈1〉に記載の化合物。
〈3〉Rが水素原子である、〈1〉または〈2〉に記載の化合物。
〈4〉アルキル基が炭素数6~12のアルキル基である、〈1〉~〈3〉のいずれかに記載の化合物。
〈5〉一般式(1)で示される、〈1〉~〈4〉のいずれかに記載の化合物。
〈6〉有機溶媒に対する25℃における溶解度が0.01質量%以上の、〈1〉~〈5〉のいずれかに記載の化合物。
〈7〉示差走査熱測定において160℃未満に相転移を示すピークが観測されない、〈1〉~〈6〉のいずれかに記載の化合物。
〈8〉〈1〉~〈7〉のいずれかに記載の化合物と有機溶媒とを含有する組成物。
〈9〉〈1〉~〈7〉のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄膜。
〈10〉〈9〉に記載の有機半導体薄膜を含んでなる有機半導体デバイス。
〈11〉〈9〉に記載の有機半導体薄膜を含んでなる有機トランジスタ。
〈12〉有機半導体薄膜が単結晶である、〈11〉に記載の有機トランジスタ。
〈13〉〈8〉に記載の有機半導体組成物を基材上に塗布することにより有機半導体薄膜を製膜することを特徴とする、有機トランジスタの製造方法。
〈14〉有機半導体薄膜が単結晶であることを特徴とする、〈13〉に記載の有機トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明による縮合多環芳香族化合物は、塗布成膜によって薄膜を作製するに十分な溶媒溶解性を示すと共に、キャリア移動度が高くかつ熱耐久性に優れた有機薄膜トランジスタ等の有機半導体デバイスを、高温処理を必要としない塗布製膜により製造することができる。よって、本発明の縮合多環芳香族化合物は、ウェアラブル電子デバイスなどのプラスチックを基材とする用途における有機半導体材料に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】主要な各種有機トランジスタ素子の構造を示す概略図であり、(a)はボトムコンタクト-ボトムゲート構造の有機トランジスタ、(b)はトップコンタクト-ボトムゲート構造の有機トランジスタ、(c)はトップコンタクト-トップゲート構造の有機トランジスタ、(d)はトップ&ボトムコンタクトボトムゲート型有機トランジスタ、(e)は静電誘導型有機トランジスタ、(f)はボトムコンタクト-トップゲート構造の有機トランジスタを示す。
図2】本発明の有機トランジスタの一態様例を製造するための工程の概略図。
図3】本発明の縮合多環芳香族化合物No.1の示差熱・熱重量分析の結果を示す図。
図4】本発明の縮合多環芳香族化合物No.1の示差走査熱量曲線を示す図。
図5】本発明の縮合多環芳香族化合物No.1を用いたトランジスタ素子をドレイン電圧-50V、ゲート電圧0V~-50Vまで掃引したときのドレイン電流変化(トランスファーカーブ)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の縮合多環芳香族化合物は、上記式(1)または(2)で表される構造を有する。式(1)および(2)中、Rは芳香族炭化水素基または複素環基または炭素数1~20のアルキル基を表し、RおよびRはいずれか一方が水素原子であり、もう一方はRが芳香族炭化水素基または複素環基であるときは炭素数1~20のアルキル基であり、Rが炭素数1~20のアルキル基であるときは芳香族炭化水素基または複素環基を表す。
【0022】
式(1)および(2)のR~Rが表す炭素数1~20のアルキル基は、直鎖、分岐鎖または脂環式の何れにも限定されない。
直鎖アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基およびn-エイコシル基等が挙げられる。分岐鎖アルキル基の具体例としては、iso-プロピル基、iso-ブチル基、t-ブチル基、iso-ペンチル基、t-ペンチル基、sec-ペンチル基、iso-ヘキシル基、sec-ヘプチル基、sec-ノニル基、2-エチルヘキシル基および2-ヘキシルデシル基等が挙げられる。脂環式のアルキル基の具体例としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、アダマンチル基およびノルボルニル基等が挙げられる。
式(1)および(2)のR~Rが表すアルキル基としては直鎖または分岐鎖アルキル基であることが好ましく、直鎖アルキル基であることがより好ましい。また、R~Rが表すアルキル基の炭素数は、炭素数が多いほど溶解性ならびに相転移温度が低下することから、4~14であることが好ましく、6~14であることがより好ましく、6~12であることが更に好ましく、6~10であることが最も好ましい。
【0023】
式(1)および(2)のR~Rが表す芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基およびフェナレニル基等が挙げられる。より少ない炭素数で構成される芳香族炭化水素基ほど溶解性が高くなるため、フェニル基またはナフチル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
式(1)および(2)のR~Rが表す芳香族炭化水素基はアルキル基を置換基として有していてもよく、そのアルキル基は直鎖、分岐鎖または脂環式のいずれにも限定されず、その具体例としては、式(1)および(2)のR~Rが表すアルキル基と同じものが挙げられる。
式(1)および(2)のR~Rが表す複素環基の具体例としては、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピリドニル基、ベンゾキノリル基、アントラキノリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基およびチエノチエニル基等が挙げられる。より少ない炭素数で構成される複素環基ほど溶解性が高くなるためピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基またはチエノチエニル基であることが好ましく、ピリジル基、チエニル基またはベンゾチエニル基であることがより好ましく、ピリジル基またはチエニル基であることが更に好ましい。
式(1)および(2)のR~Rが表す複素環基はアルキル基を置換基として有していてもよく、そのアルキル基は直鎖、分岐鎖または脂環式のいずれにも限定されず、その具体例としては、式(1)および(2)のR~Rが表すアルキル基と同じものが挙げられる。
【0024】
式(1)および(2)で表される化合物の具体例を、下記表1-1~1-3に示す。
【0025】
【表1-1】
【0026】
【表1-2】
【0027】
【表1-3】
【0028】
一般式(1)および(2)で表される縮合多環芳香族化合物は、塗布製膜による半導体層作製のために、有機溶媒に可溶であることが要求される。そのため該有機溶媒は、一般式(1)および(2)で表される有機化合物を溶解し得るものであれば特に限定なく用いることができる。また、有機溶媒に対する上記縮合多環芳香族化合物の溶解度は、高いほど好ましいので、上限は特にないが、溶液プロセスにより有機半導体薄膜を形成する際、溶液中における化合物の濃度が高くなりすぎると均質性の高い薄膜を形成することが困難になる恐れがあるため、印刷プロセスに応じて化合物の濃度を適宜調整すればよい。また、下限については低濃度であるほど半導体薄膜作成が困難になるため、0.01wt%以上が好ましく、0.02wt%がより好ましく、0.05wt%が更に好ましい。
上記有機溶媒としては、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒も使用できるが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、ブトキシベンゼンなどのエーテル類などを用いることができ、これら有機溶媒は、単一の有機溶媒でも、複数の有機溶媒を混合して使用することもできる。実用的な観点から環境問題等を考慮した場合、非ハロゲン系溶媒であることが好ましい。
【0029】
一般式(1)および(2)で表される縮合多環芳香族化合物は、160℃未満に相転移点を有さないことを特徴とするものである。相転移点は、結晶相から液晶相への転移温度を示す液晶転移点、固相ならびに液晶相が等方性液体となる転移温度を融点、固相ならびに液晶相が液体を介さず直接気相に転移する温度を示す昇華点等、物質が相転移する温度を示すものである。これらは通常、化合物の示差走査熱測定を行い、吸熱ピークあるいは発熱ピークを観測してその温度が示される。特に固相から液相に変化する融点のほか、ネマチック相やスメクティックA相など体積変化の大きい相変化を示す転移温度は、半導体層のキャリア伝導を著しく損なうため、より高い方が好ましい。また、有機トランジスタデバイスの製造工程、すなわち半導体層のレジスト等による封止、フロントプレーン製造工程等やトランジスタデバイスの使用環境等を考慮すると相転移温度が160℃未満に認められないものが好ましく、相転移温度が180℃未満に認められないものがより好ましく、相転移温度が200℃未満に認められないものが更に好ましい。
【0030】
一般式(1)および(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物は、単一の分子構造をもつ化合物を単独で用いることができるが、使用目的により、複数の化合物を混合して用いることもできる。また、一般式(1)および(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物以外の有機半導体化合物と混合して使用することもできる。
式(1)または(2)で表される縮合多環芳香族化合物は、必要に応じて他の有機半導体材料や各種の添加剤を含むことができる。上記添加剤としては、例えば、半導体性を示す半導体性高分子化合物や、絶縁性を示す絶縁性高分子化合物などが挙げられる。上記半導体性高分子化合物の具体例として、ポリアセチレン系高分子、ポリジアセチレン系高分子、ポリパラフェニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリアリールアミン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリチエニレンビニレン系高分子、ポリカルバゾール系高分子、ポリインドール系高分子、ポリパラフェニレンビニレン系高分子や、これらの誘導体等が挙げられる。上記絶縁性高分子材料の具体例としては、アクリル系高分子、ポリエチレン系高分子、ポリメタクリレート系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレンテレフタレート系高分子、ナイロン系高分子、ポリアミド系高分子、ポリエステル系高分子、ビニロン系高分子、ポリイソプレン系高分子、セルロース系高分子、共重合系高分子およびこれらの誘導体等が挙げられる。また、半導体デバイスの特性を損なわない限りにおいて、その他の添加剤、例えばドーパント、導電性物質、粘度調整剤、レベリング剤、レオロジー調整剤などを加えてもよい。
【0031】
本発明の一般式(1)および(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体組成物を用いて有機薄膜を作製することができる。該有機薄膜は、ガラス、アモルファス、結晶性のいずれの形態であってもよい。該有機薄膜の膜厚は、その用途によって異なるが、通常0.5nm~1μmであり、好ましくは1nm~1μmである。
【0032】
本発明の有機半導体薄膜の形成方法としては、各種の方法を用いることができる。一般的に、上記有機半導体薄膜の形成方法は、真空プロセスによる形成方法と、溶液プロセスによる形成方法とに大別され、何れを用いてもよいが、より実用的な観点から、溶液プロセスによる形成方法であることが好ましい。上記真空プロセスによる有機半導体薄膜の形成方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、CVD法、分子線エピタキシャル成長法、真空蒸着法等が挙げられる。溶液プロセスとしては、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、ロールコーター法、バーコーター法、スリットコート法、ダイコーター法、スプレー法等の印刷法に加え、インクジェット印刷法、ナノインプリント法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷等の凸版印刷法、オフセット印刷、パッド印刷等の平板版印刷法、グラビア印刷法、リソグラフ印刷等の凹版印刷法、スクリーン印刷等の孔板印刷法等が挙げられる。上記有機半導体薄膜は、上記した1つの形成方法によって形成することも、上記した形成方法を複数組み合わせて形成することも可能である。また、製膜方法と製膜条件の適切な選択によって、結晶のサイズを調整することもでき、結晶性の低い膜から単結晶膜までを作製できる。
【0033】
一般式(1)および(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を材料として用いて、有機半導体デバイスを作製することができ、有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子および有機トランジスタ素子等の有機半導体デバイスの有機薄膜の材料として好適に用いられる。その一例として有機トランジスタについて詳細に説明する。
【0034】
有機トランジスタは、有機半導体に接して2つの電極(ソース電極およびドレイン電極)があり、その電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。一般に、有機トランジスタにはゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal-InsuIator-Semiconductor:MIS構造)がよく用いられる。
【0035】
実用的な有機トランジスタの性能については、高いキャリア移動度(単に移動度ともいう)、および大きなオン/オフ比などの特性を有している必要がある。オン/オフ比は、通電(オン)状態と遮断(オフ)状態における電流値の比を指し、これが大きいほどスイッチとして優れている。オン/オフ比は、大きいほど好ましいので、上限は特にない。実用上1×10以上が好ましく、1×10以上がより好ましい。また、キャリア移動度は、キャリアの移動しやすさを示す値であり、キャリア密度、チャネル部近傍のトラップ、絶縁体層の誘電率など、有機デバイスの構造に依存するほか、有機半導体材料においては、薄膜内での隣接分子間の相互作用(隣接する分子のπ共役系の重なり具合)や結晶ドメインのサイズに大きく依存するため、化合物の種類に大きく依存する。スイッチの応答速度に係る重要な指標の一つであり、大きいほど好ましいので、上限は特にない。キャリア移動度は実用上、1cm/Vs以上が好ましく、2cm/Vs以上がより好ましく、5cm/Vs以上が更に好ましく、10cm/Vs以上が最も好ましい。一般式(1)および(2)であらわされる縮合多環芳香族化合物は、その固体内においてキャリア移動に好適な分子の配列およびπ共役系の重なり具合を有するため、これらの縮合多環芳香族化合物を用いた薄膜デバイスでは高いキャリア移動度を容易に実現可能である。
【0036】
以下、図1に示す有機トランジスタのいくつかの態様例を用いて有機トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれらの構造には限定されない。
図1における各態様例の有機トランジスタ10A~10Fにおいて、1がソース電極、2が半導体層、3がドレイン電極、4が絶縁体層、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ表す。尚、各層や電極の配置は、有機トランジスタの用途により適宜選択できる。有機トランジスタ10Aはボトムコンタクト-ボトムゲート構造、有機トランジスタ10Bはトップコンタクト-ボトムゲート構造と呼ばれる。また、有機トランジスタ10Cは半導体層2上にソース電極1およびドレイン電極3、絶縁体層4を設け、さらにその上にゲート電極5を形成しており、トップコンタクトトップゲート構造と呼ばれている。有機トランジスタ10Dはトップ&ボトムコンタクトボトムゲート型トランジスタと呼ばれる構造である。有機トランジスタ10Fはボトムコンタクト-トップゲート構造である。有機トランジスタ10Eは縦型の構造をもつトランジスタ、すなわち静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。このSITは、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリア8が移動できる。またソース電極1とドレイン電極3が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお図1中の有機トランジスタ10Eには、基板を記載していないが、通常の場合、有機トランジスタ10Eのソース電極1またはドレイン電極3の外側には基板が設けられる。
【0037】
次に各態様例における各構成要素について説明する。
基板6は、その上に形成される各構成要素が剥離することなく保持できることが必要である。基板6としては、例えば、樹脂板、樹脂フィルム、紙、ガラス板、石英板、セラミック板等の絶縁性基板;金属または合金等からなる導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成した基板;樹脂と無機材料との組み合わせ等のような各種組合せからなる基板;半導体基板(例えばシリコンウェハー)等の導電性基板等が使用できる。使用できる樹脂フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネートなどが挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、デバイスに可撓性を持たせることができ、フレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板の厚みは、通常1μm~10mmであり、好ましくは5μm~5mmである。導電性基板を用いた場合は、基板がボトムゲート型トランジスタのゲート電極を兼ねてもよい。
【0038】
ソース電極1、ドレイン電極3、ゲート電極5には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛、インジウム等の金属およびそれらを含む合金;In2O3、ZnO2、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の炭素材料;等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。ドーパントとしては、塩酸、硫酸等の無機酸;スルホン酸等の酸性官能基を有する有機酸;PF5、AsF5、FeCl3等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子;等が挙げられる。
【0039】
ソース電極とドレイン電極間の距離(チャネル長)はデバイスの特性を決める重要なファクターであり、適正なチャネル長が必要である。チャネル長が短ければ取り出せる電流量は増えるが、コンタクト抵抗の影響などの短チャネル効果が生じ、半導体特性を低下させることがある。該チャネル長は、通常0.01~300μm、好ましくは0.1~100μmである。ソース電極とドレイン電極の幅(チャネル幅)は通常10~5000μm、好ましくは30~2000μmとなる。またこのチャネル幅は、電極の構造をくし型構造とすることなどにより、さらに長いチャネル幅を形成することが可能で、必要な電流量やデバイスの構造などにより、適切な長さにする必要がある。
【0040】
ソース電極1およびドレイン電極3のそれぞれの構造(形状)について説明する。ソース電極1とドレイン電極3の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。ボトムコンタクト構造の場合は、一般的にはリソグラフィー法を用いてソース電極1およびドレイン電極3を作製し、またソース電極1およびドレイン電極3を直方体に形成するのが好ましい。インクジェット印刷、グラビア印刷またはスクリーン印刷などの手法を用いることもできる。半導体層2上にソース電極1およびドレイン電極3のあるトップコンタクト構造の場合はシャドウマスクなどを用いて蒸着することによりソース電極1およびドレイン電極3を作製できる。インクジェットなどの既存の印刷手法を用いて電極パターンを直接印刷することも可能になってきている。ソース電極1およびドレイン電極3の長さは前記のチャネル幅と同じである。ソース電極1およびドレイン電極3の幅には特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で、デバイスの面積を小さくするためには短い方が好ましい。ソース電極1およびドレイン電極3の幅は、通常0.1~1000μmであり、好ましくは0.5~500μmである。ソース電極1およびドレイン電極3の厚さは、通常1~1000nmであり、好ましくは5~500nmである。
【0041】
絶縁体層4としては絶縁性を有する材料が用いられる。絶縁性を有する材料としては、例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマーおよびこれらを組み合わせた共重合体;酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の金属酸化物;SrTiO3、BaTiO3等の強誘電性金属酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体;あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー;等が使用しうる。この絶縁体層4はリーク電流を少なくするために電気絶縁特性が高いものが好ましく使用できる。それにより膜厚を薄膜化し、絶縁容量を高くすることができ、取り出せる電流が多くなる。また半導体の移動度を向上させるためには絶縁体層4表面の表面エネルギーを低下させ、凹凸がなくスムーズな膜であることが好ましい。その為に自己組織化単分子膜や、2層の絶縁体層を形成させる場合がある。絶縁体層4の膜厚は、材料や用途によって異なるが、通常1nm~1μm、好ましくは1nm~500nm、より好ましくは1nm~300nmである。
【0042】
有機半導体層である半導体層2の材料は、上記の一般式(1)および(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物のうち少なくとも1種の化合物を有機半導体材料として用いることができる。先に示した有機薄膜の形成方法を用いて、一般式(1)および(2)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜を形成し、半導体層2とすることができる。
半導体層2については複数の層を形成してもよいが、単層構造であることがより好ましい。半導体層2の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。これは、有機トランジスタ10A、10Bおよび10Dのような横型の有機トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があれば有機トランジスタの特性は膜厚に依存しないが、膜厚が厚くなると半導体特性の低下につながるためである。必要な機能を示すための半導体層2の膜厚は、通常、1nm~1μm、好ましくは5nm~300nmである。
【0043】
また半導体層2は、単結晶膜、多結晶膜、アモルファス膜のいずれでもよいが、分子が規則的に配列している状態であるほうが、分子間の電荷キャリアの移動がスムーズとなるので、結晶性の膜であるほうが好ましく、有機トランジスタとして用いる場合にはソース電極とドレイン電極の間を1つの単結晶が占めることが最も好ましい。一般式(1)および(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を用いると、溶液を塗布成膜するだけで高品質な結晶性薄膜を容易に得ることができ、高いキャリア移動度を示す薄膜を容易に作製できるため、高品質デバイス作製プロセスが容易になり、かつ、デバイス間の性能ばらつきを低減させるのに好適である。
【0044】
半導体層2が単結晶膜である場合は、上記のように、ソース電極とドレイン電極の間は1つの単結晶で覆われていることが最も望ましいことから、一つの単結晶ドメインの直径は1μm以上であることが望ましく、10μm以上であることがより望ましい。さらに、多くのトランジスタを並べたアレイとする場合は、トランジスタアレイ全体が単結晶であれば素子間のばらつきが最小となり好ましいため、直径の上限は特にない。
【0045】
有機トランジスタには、有機トランジスタの外面に必要に応じて他の層を設けてもよい。例えば、有機トランジスタ10Aの半導体層2上に直接、または他の層を介して保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることで、有機トランジスタのオン/オフ比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0046】
上記保護層の材料としては特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜;酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機酸化膜;および窒化膜等の誘電体からなる膜;等が好ましく用いられ、特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。有機ELディスプレイ用に開発されているガスバリア性保護材料も使用が可能である。保護層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を選択できるが、通常100nm~1mmである。
【0047】
半導体層2が積層される基板6または絶縁体層4に予め表面改質や表面処理を行うことにより、有機トランジスタの特性を向上せしめてもよい。例えば、基板6または絶縁体層4表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される薄膜の膜質や成膜性を改良することができ、特性が向上する。特に、基板6または絶縁体層4と半導体層2の界面付近の膜質をより均質にすることにより特性を向上できる。
【0048】
上記のような特性改良のための表面処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクタデシルトリクロロシラン、トリクロロ(フェニルエチル)シラン等による自己組織化単分子膜処理、ポリマーなどによる表面処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、電気的処理等が挙げられ、それらを組み合わせた処理を行ってもよい。
【0049】
次に、本発明に係る有機トランジスタデバイスの製造方法について、図1(b)に示すトップコンタクト-ボトムゲート型有機トランジスタ10Bを例として、図2に基づき以下に説明する。この製造方法は前記した他の態様の有機トランジスタ等にも同様に適用しうるものである。
【0050】
(有機トランジスタの基板6および基板処理について)
本発明の有機トランジスタは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(図2(a)参照)。基板6の材質および厚みは上記で説明したとおりであり、この基板6上に前述の表面処理などを行うことも可能である。また、必要により、基板に電極の機能を持たせるようにすることもできる。
【0051】
(ゲート電極5の形成について)
基板6上にゲート電極5を形成する(図2(b)参照)。ゲート電極5の材料としては上記で説明したものが用いられる。ゲート電極5を成膜する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時または成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、シャドウマスクを用いた蒸着法やスパッタ法やインクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、およびこれら手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm~10μmであり、好ましくは0.5nm~5μmであり、より好ましくは1nm~3μmである。また、ゲート電極5と基板6を兼ねるような場合は上記の膜厚より大きくてもよい。
【0052】
(絶縁体層4の形成について)
ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(図2(c)参照)。絶縁体層4を構成する絶縁体材料としては上記で説明した材料が用いられる。絶縁体層4を形成するにあたっては各種の方法を用いることができる。例えばスピンコート法、ドロップキャスト法、スプレー法などの塗布法、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、アルミニウム上のアルマイト、シリコン上の酸化珪素のように金属上に熱酸化法などにより酸化物膜を形成する方法等が採用される。なお、絶縁体層4と半導体層2が接する部分においては、基板6と同様の手法で絶縁体層4上に所定の表面処理を行うこともできる。
【0053】
(半導体層2の形成について)
本発明の上記一般式(1)および(2)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体材料は、半導体層2の形成に使用される(図2(d)参照)。半導体層2を成膜するにあたっては、上記の各種方法を用いることができ、その厚みについても上記のとおりである。このように形成された半導体層2は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、微量の元素、原子団、分子、高分子を半導体層2に加えるドーピング手法を用いて有機半導体を酸化/還元することにより、特性を変化させることができる。これには酸/塩基、電子ドナー/アクセプターなどの気相/溶液/固相と接触させることで達成される。これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。
【0054】
(ソース電極およびドレイン電極の形成)
ソース電極1およびドレイン電極3の形状や使用される材料、形成方法等は上記のとおりである(図2(e)参照)。また、ソース電極1およびドレイン電極3の形成はゲート電極5の場合に準じて形成することもできる。また半導体層2との接触抵抗を低減するために各種添加剤などを用いることが可能である。
【0055】
(保護層7について)
半導体層2上に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、また、有機トランジスタの電気的特性を安定化できるという利点がある(図2(f)参照)。保護層7の材料や厚みなどは上記のとおりである。保護層7を成膜するにあたっては各種の方法を採用しうるが、保護層7が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法;樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着したのち重合する方法;などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。無機物の場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法等の溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
【0056】
本発明の有機薄膜トランジスタは、上記一般式(1)および(2)で表される縮合多環芳香族化合物を有機半導体材料として用いているため、比較的低温プロセスで製造することができる。従って、高温にさらされる条件下では使用できなかったプラスチック板、プラスチックフィルム等フレキシブルな材質も基板6として用いることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい有機トランジスタの製造が可能になり、ディスプレイのアクティブマトリクスのスイッチングデバイス等として利用することができる。
【0057】
本発明の有機薄膜トランジスタは、メモリー回路デバイス、信号ドライバー回路デバイス、信号処理回路デバイス等の、デジタルデバイスまたはアナログデバイスとしても利用できる。さらにこれらを組み合わせることにより、ディスプレイや、IC(集積回路)カードや、ICタグ等の作製が可能となる。さらに、本発明の有機薄膜トランジスタは、化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、センサーとしての利用も可能である。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0059】
以下の操作において、不活性ガス下の反応には市販の脱水溶媒を用い、その他の反応や操作においては市販一級または特級の溶媒を用いた。核磁気共鳴分光は、Bruker AVANCE III(400MHz、σ値、ppm、内部標準TMS)を用いて行った。質量分析は、島津製作所 ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-QP2010SEを用いて行った。
【0060】
[実施例1] (本発明の縮合多環芳香族化合物(化合物No.1)の合成)
一般式(1)のそれぞれRがフェニル基、Rが水素、Rがn-デシル基である化合物No.1で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を、下記の合成フローに従って合成した。
【化3】
窒素雰囲気下、100mLフラスコに上記Precursor302mg(0.500mmol)、2,6-ジメチル安息香酸113mg(0.750mmol)、酢酸パラジウム(II)56mg(0.25mmol)およびo-キシレン5mLを加え、150℃で24時間加熱した。反応混合物をシリカゲルカラムに担持し、熱トルエンを展開溶媒として分取した。トルエンを一部濃縮し、加熱・再結晶することで上記No.1で表される本発明の縮合多環芳香族化合物51mg(0.099mmol、収率20%)を白色固体として得た。
実施例1で得られたNo.1で表される縮合多環芳香族化合物の核磁気共鳴分光および質量分析の測定結果は以下のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):σ8.340(s,1H),8.25(s,1H),7.83(d,J=8.4 Hz,1H),7.78-7.75(m,2H),7.69-7.66(m,2H),7.49-7.44(m,2H),7.38(t,J=7.6 Hz,1H),7.27-7.24(m,1H),2.78(t,J=7.6Hz,2H),1.77-1.67(m,2H),1.42-1.24(m,14H),0.88(t,J=6.8 Hz,3H).MS(EI):m/z512.
【0061】
[実施例2] (本発明の縮合多環芳香族化合物(化合物No.2)の合成)
n-デシル基をn-ヘキシル基に代えたPrecursorを用いる以外は実施例1と同様にして、一般式(1)のそれぞれRがフェニル基、Rが水素、Rがn-ヘキシル基である化合物No.2で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を合成した。
実施例2で得られたNo.2で表される縮合多環芳香族化合物の核磁気共鳴分光および質量分析の測定結果は以下のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):σ8.34(s,1H),8.25(s,1H),7.83(d,J=8.4 Hz,1H),7.78-7.74(m,2H),7.69-7.66(m,2H),7.49-7.44(m,2H),7.40-7.35(m,1H),7.27-7.24(m,1H),2.78(t,J=7.6Hz,2H),1.76-1.68(m,2H),1.43-1.30(m,6H),0.90(t,J=6.8 Hz,3H).MS(EI):m/z456.
【0062】
[実施例3] (本発明の縮合多環芳香族化合物(化合物No.21)の合成)
一般式(1)のそれぞれRがフェニル基、Rがn-デシル基、Rが水素である化合物No.21で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を、下記の合成フローに従って合成した。
【化4】
大気下、50mLフラスコに上記Precursor100mg(0.17mmol)およびトリフルオロメタンスルホン酸3mLを加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物を氷水に注ぎ、析出した淡黄色固体をろ過で回収し、水で洗浄した。得られた固体とピリジン10mLを50mLフラスコに入れ、大気下、110℃で3時間加熱した。反応混合物をメタノールで希釈し、析出した淡黄色固体をろ過で回収し、メタノールで洗浄した後、トルエンで再結晶することで、上記No.21で表される本発明の縮合多環芳香族化合物16mg(0.03mmol、収率18%)を白色固体として得た。
実施例3で得られたNo.21で表される縮合多環芳香族化合物の核磁気共鳴分光および質量分析の測定結果は以下のとおりであった。
H-NMR(300MHz,1,1,2,2-tetrachloroethane-d2):σ8.38(s,1H),8.27(s,1H),7.84-7.77(m,4H),7.69(s,1H),7.54-7.47(m,2H),7.42(t,J=7.2 Hz,1H),7.36(d,J=8.1Hz,1H),2.84(t,J=7.5Hz,2H),1.83-1.73(m,2H),1.45-1.32(m,14H),0.95(t,J=6.9 Hz,3H).MS(EI):m/z512.
【0063】
[実施例4] (本発明の縮合多環芳香族化合物(化合物No.31)の合成)
一般式(2)のそれぞれRがフェニル基、Rが水素、Rがn-ヘキシル基である化合物No.31で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を、下記の合成フローに従って合成した。
【化5】
大気下、50mLフラスコに上記Precursor98mg(0.20mmol)、五酸化二リン28mg(0.20mmol)およびトリフルオロメタンスルホン酸5mLを加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物を氷水に注ぎ、析出した黄緑色固体をろ過で回収し、水で洗浄した。得られた固体とピリジン15mLを100mLフラスコに入れ、大気下、120℃で2時間加熱した。反応混合物をメタノールで希釈し、析出した淡黄色固体を回収し、メタノールで洗浄した後、シリカゲルカラムに担持し、熱トルエンを展開溶媒として分取した。トルエンを濃縮した後、クロロホルム/メタノール混合溶液から再沈殿することで、上記No.31で表される本発明の縮合多環芳香族化合物49mg(0.11mmol、収率54%)を白色固体として得た。
実施例4で得られたNo.31で表される縮合多環芳香族化合物の核磁気共鳴分光および質量分析の測定結果は以下のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):σ8.31(s,1H),8.29(s,1H),7.82(d,J=7.6 Hz,1H),7.76(d,J=7.2Hz,2H),7.68(s,1H),7.62(s,1H),7.48-7.43(m,2H),7.39-7.34(m,1H),7.26-7.23(m,1H),2.78(t,J=7.6Hz,2H),1.76-1.68(m,2H),1.42-1.31(m,6H),0.90(t,J=6.8 Hz,3H).MS(EI):m/z456.
【0064】
[実施例5] (化合物No.1の溶解度測定)
実施例1で得られた化合物No.1で表される縮合多環芳香族化合物の粉末約1mgをバイアルに量り取り、正確に質量を測定した。そこに各温度下でクロロベンゼン、キシレン、クロロホルムまたはトルエンをそれぞれ加えていき、縮合多環芳香族化合物が完全に溶解した時点で溶液の質量を正確に測定した。No.1で表される縮合多環芳香族化合物の質量と前記のクロロベンゼン溶液、キシレン溶液、クロロホルム溶液またはトルエン溶液の質量から溶解度(縮合多環芳香族化合物の質量/各溶液の質量×100)を算出した。なお、完全に溶解した時点の見極めは目視確認により行った。得られた溶解度を表2に示す。
【0065】
[実施例6] (化合物No.2の溶解度測定)
実施例2で得られた化合物No.2で表される縮合多環芳香族化合物について、実施例5と同様の手法で溶解度を算出した。得られた溶解度を表2に示す。
【0066】
[実施例7] (化合物No.21の溶解度測定)
実施例3で得られた化合物No.21で表される縮合多環芳香族化合物について、実施例5と同様の手法で溶解度を算出した。得られた溶解度を表2に示す。
【0067】
[実施例8] (化合物No.31の溶解度測定)
実施例4で得られた化合物No.31で表される縮合多環芳香族化合物について、実施例5と同様の手法で溶解度を算出した。得られた溶解度を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
[比較例1]
比較例として、化合物No.1、No.2、No.21およびNo.31と同程度の縮合度を有し、類似する置換基を有する、下記の縮合多環芳香族化合物No.101について知られている溶解度(文献値)を表2に記載した。
【化6】
No.101 Chem. Mater. 2018, 30,5050-5060.
【0070】
[比較例2]
比較例として、化合物No.1、No.2、No.21およびNo.31と同程度の縮合度を有し、類似する置換基を有する、下記の縮合多環芳香族化合物No.102について知られている溶解度(文献値)を表2に記載した。
【化7】
No.102 Adv. Mater. 2011, 23, 1222-1225.
【0071】
[実施例9] (化合物No.1の示差熱・熱重量分析)
実施例1で得られたNo.1で表される縮合多環芳香族化合物について、示差熱・熱重量分析計(TG/DTA)を用いて示差熱・熱重量分析を行い、示差熱・熱重量変化曲線を得た。結果を図3に示す。合成した縮合多環芳香族化合物は、369℃付近まで重量減少がなく、高い熱耐久性を示すことが判明した。
【0072】
[実施例10] (化合物No.1の示差走査熱量分析)
実施例1で得られたNo.1で表される縮合多環芳香族化合物について、示差走査熱量計(DSC)を用いて示差走査熱量分析を行い、示差走査熱量曲線(DSC曲線)を得た。示差走査熱量曲線から得られた結晶が最初に相転移する温度、および、融点を図4と表3に示す。
【0073】
[実施例11] (化合物No.2の示差走査熱量分析)
実施例2で得られたNo.2で表される縮合多環芳香族化合物について、実施例10と同様の手法で示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量曲線から得られた結晶が最初に相転移する温度、および、融点を表3に示す。
【0074】
[実施例12] (化合物No.21の示差走査熱量分析)
実施例3で得られたNo.21で表される縮合多環芳香族化合物について、実施例10と同様の手法で示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量曲線から得られた結晶が最初に相転移する温度、および、融点を表3に示す。
【0075】
[実施例13] (化合物No.31の示差走査熱量分析)
実施例4で得られたNo.31で表される縮合多環芳香族化合物について、実施例10と同様の手法で示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量曲線から得られた結晶が最初に相転移する温度、および、融点を表3に示す。
【0076】
[比較例3]
化合物No.1、No.2、No.21およびNo.31と同程度の縮合度、および類似する置換基を有する下記の縮合多環芳香族化合物No.103について知られている、結晶が最初に相転移する温度、および、融点(文献値)を表3に記載した。
【化8】
No.103 J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 15732-15733.
【0077】
[比較例4]
化合物No.1、No.2、No.21およびNo.31と同程度の縮合度、および類似する置換基を有する下記の縮合多環芳香族化合物No.104について知られている、結晶が最初に相転移する温度、および、融点(文献値)を表3に記載した。
【化9】
No.104 Chem. Mater. 2015, 27, 3809-3812.
【0078】
[比較例5]
化合物No.1、No.2、No.21およびNo.31と同程度の縮合度、および類似する置換基を有する下記の縮合多環芳香族化合物No.105について知られている、結晶が最初に相転移する温度、および、融点(文献値)を表3に記載した。
【化10】
No.105 Chem. Mater. 2018, 30, 5050-5060.
【0079】
【表3】
実施例1、2、3および4で得られたNo.1、No.2、No.21およびNo.31で表される縮合多環芳香族化合物は、加熱過程の示差走査熱量曲線において、結晶-液晶相転移を示すピークが観測されたものの、結晶相が最初に相転移する温度や融点が180℃以上であり、比較例3~5の化合物に比べ高い転移温度を示した。従って、実施例1、2、3および4の化合物は、比較例3~5の化合物と比較して顕著に熱耐久性が高いことが分る。
【0080】
[実施例14] (化合物No.1の結晶性薄膜作製)
SiO熱酸化膜付きpドープシリコンウェハー上に実施例1で得られたNo.1で表される有機化合物のクロロベンゼン溶液をブレード掃引することにより製膜することで、直径約1000ミクロンの良質な結晶性膜を得た。得られた薄膜をクロスニコル下の偏光顕微鏡で観察すると、単一ドメインであり、単結晶性有機薄膜であることが確認された。
【0081】
[実施例15] (化合物No.1の半導体特性評価)
実施例14得られた単結晶性有機薄膜を用いて有機トランジスタデバイスを作製し、トランジスタ特性を評価した。
実施例14で得られた単結晶性有機薄膜上にシャドウマスクを用いてAuを真空蒸着することでソース・ドレイン電極を作製した。今回作製した有機トランジスタデバイスはチャネル長50μm、チャネル幅200μmである。このようにして作製した有機トランジスタデバイスはトップコンタクト型であり、図1b)は、その構造を示すものである。なお、本実施例における有機トランジスタデバイスにおいては、熱酸化膜付きpドープシリコンウェハーにおける熱酸化膜が絶縁体層4の機能を有し、pドープシリコンウェハーが基板6およびゲート電極5の機能を兼ね備えている。
有機トランジスタデバイスの性能は、ゲートに電位をかけた状態でソース・ドレイン間に電位をかけた時に流れた電流量に依存する。この電流値を測定することでトランジスタの特性である移動度を決めることができる。移動度は、絶縁体としてのSiOにゲート電界を印加した結果、有機半導体層中に生じるキャリア種の電気的特性を表現する式(a)から算出することができる。

式(a)
Id=WμCi(Vg-Vt)/2L・・・(a)

ここで、Idは飽和したソース・ドレイン電流値、Wはチャネル幅、Ciは絶縁体の電気容量、Vgはゲート電位、Vtはしきい電位、Lはチャネル長であり、μは決定する移動度(cm/Vs)である。Ciは用いたSiO絶縁膜の誘電率、W、Lは有機トランジスタデバイスのデバイス構造よりに決まり、Id、Vgは有機トランジスタデバイスの電流値の測定時に決まり、VtはId、Vgから求めることができる。式(a)に各値を代入することで、それぞれのゲート電位での移動度を算出することができる。
上記のように作成したトランジスタ素子をドレイン電圧-50V、ゲート電圧0V~-50Vまで掃引した場合のドレイン電流変化を示すトランスファーカーブを図5に示した。式(a)から算出されたキャリア移動度は10.6cm/Vs、しきい値電圧-32V、オン電流とオフ電流の比(オンオフ比)は1×10であった。これらの結果を表4に示す。
【0082】
[比較例6]
化合物No.1と同程度の縮合度を有し、可溶性有機トランジスタ化合物として知られている下記の縮合多環芳香族化合物No.106を使用して、化合物No.1と同様の製膜法により得られた有機薄膜を有機半導体膜として用いたトランジスタ素子について得られた実験値を表4に記載した。
【化11】
No.106
【0083】
【表4】
本発明により得られた化合物No.1を用いて作成した有機トランジスタは、可溶性有機トランジスタ材料として従来より知られている化合物No.106よりも2桁高い移動度を示し、オンオフ比は3桁向上する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の縮合多環芳香族化合物は良好な溶媒溶解性を有し、印刷プロセスで有機半導体デバイスを作製する際に好適に用いられるため、有機トランジスタデバイス、ダイオード、コンデンサ、薄膜光電変換デバイス、色素増感太陽電池、有機ELデバイス等の既存分野への応用が可能になることはいうまでもなく、極めて高い半導体移動度を以て、例えば8Kディスプレイ等の高いキャリア移動度を必要とするハイエンドデバイスのバックプレーンやRF-IDタグなどに使用可能な材料となる。加えて、高い熱耐久性はPETやPENフィルムなどの低温型フレキシブル基板のみならず、耐熱性フレキシブル基板の使用も可能になるため、より広範な産業応用が見込める。
【符号の説明】
【0085】
図1および図2において同じ名称には同じ番号を付すものとする。
1 ソース電極
2 半導体層
3 ドレイン電極
4 絶縁体層
5 ゲート電極
6 基板
7 保護層
10A~10F 有機トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5