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特許7493367研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240524BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240524BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240524BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020058743
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158278
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-085375(JP,A)
【文献】特開2019-071413(JP,A)
【文献】特開2016-149402(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131341(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169602(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052408(WO,A1)
【文献】特表2004-514266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、研磨速度向上剤と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、
前記砥粒が、カチオン変性シリカであり、
前記砥粒のゼータ電位が+15mV以上であり、
前記研磨速度向上剤が、亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸、二亜硫酸およびこれらの塩からなる群より選択される無機化合物であり、
pHが7.0未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
下記化合物:
【化1】

(式中、X及びYは独立して孤立電子対含有原子又は原子グループを示し、R 及びR は独立して水素原子、アルキル基、アミノ基、アミノアルキル基又はアルコキシ基を示す)を含有しない、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
研磨速度向上剤が、チオ硫酸、亜ジチオン酸、二亜硫酸およびこれらの塩からなる群より選択される無機化合物である、請求項1または2に記載の研磨用組成物
【請求項4】
前記カチオン変性シリカが、アミノ基変性シリカである、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数が、0個/nmを超え3個/nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
pH調整剤をさらに含み、前記pH調整剤が硝酸である、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項9】
多結晶シリコンを含む半導体基板を、請求項8に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)やシリコン窒化物(窒化ケイ素)といったSi含有材料を研磨することがあり、トランジスタの構造によっては、各Si含有材料の研磨レートを制御することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1および2には、砥粒、界面活性剤等を含む研磨用組成物で多結晶シリコンを研磨する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-41992号公報
【文献】特開2006-344786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の研磨用組成物は、多結晶シリコンの研磨速度の向上が不十分であり、さらなる改良が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、多結晶シリコンを含む研磨対象物をより高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の新たな課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と、研磨速度向上剤と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒のゼータ電位が正であり、前記研磨速度向上剤が、亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸、二亜硫酸およびこれらの塩からなる群より選択される無機化合物であり、pHが7.0未満である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多結晶シリコンを含む研磨対象物を、より高い研磨速度で研磨することができる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、研磨速度向上剤と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒のゼータ電位が正であり、前記研磨速度向上剤が、亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸、二亜硫酸およびこれらの塩からなる群より選択される無機化合物であり、pHが7.0未満である、研磨用組成物である。かような構成を有する本発明の研磨用組成物は、多結晶シリコンを含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨することができる。
【0011】
このような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることがない。研磨対象物が多結晶シリコンである場合の研磨は、シリコン原子と水酸化物イオン(OH)とが求核反応し、さらにプロトンによって加水分解することで生成したSi(OH)xを、砥粒等の機械的作用による掻き取りや、OHとの反応による溶解により除去することで進行すると考えられている。このことから、多結晶シリコンの研磨における重要な化学反応は、求核反応であると考えられる。本発明の研磨用組成物には、研磨速度向上剤として、亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸、二亜硫酸およびこれらの塩からなる群より選択される無機化合物が含まれている。このような特定の硫黄のオキソ酸は、-S=O基を有しており、O原子上に存在する非共有電子対は求核性を有している。ここで、O原子が有する非共有電子対は、研磨対象物である多結晶シリコン表面に対して求核することにより多結晶シリコン表面と相互作用しうる。その結果、多結晶シリコン表面の原子間の共有結合距離を伸張し、多結晶シリコンにおける共有結合を弱めることができ、上記の砥粒の機械的作用による掻き取りや上記の溶解による除去が促進される。これにより、多結晶シリコンの研磨が進行しやすくなり、研磨速度が向上すると考えられる。
【0012】
また、研磨速度向上剤が無機化合物であることにより、さらに本発明の効果が発揮されていると考えられる。有機化合物は、有機部位(すなわち、疎水性部分)が多結晶シリコン表面へ吸着しやすい。したがって、特定の硫黄のオキソ酸が有機化合物である場合、その有機部位(疎水性部分)が多結晶シリコン表面に吸着すると、その分子内に存在する-S=O基(詳しくはO原子上の非共有電子対)による求核性を阻害することが考えられる。無機化合物は、有機化合物と比べて多結晶シリコン表面に対して吸着しにくく、これにより多結晶シリコン表面に対する求核性を十分に発揮することができ、研磨速度をさらに高められていると考えられる。
【0013】
また、本発明の研磨用組成物を用いて多結晶シリコンを研磨する場合、多結晶シリコン表面は負に帯電している。ここで、本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒のゼータ電位は正である。よって、砥粒と多結晶シリコン表面との間に引力が生じ、砥粒は多結晶シリコン表面に付着しやすくなる。これにより、砥粒が研磨面に対して有意に近接することができ、さらに効率的な研磨が実現できるものと推測される。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0015】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0016】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、多結晶シリコン(ポリシリコン)を含む。すなわち、本発明に係る研磨対象物は、多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、多結晶シリコンの用途は制限されず、半導体基板、太陽電池の基板、液晶ディスプレイ(LCD)のTFT等が挙げられる。また、それらのテストウェハ、モニターウェハ、搬送チェックウェハ、ダミーウェハ等にも好適である。
【0018】
本発明に係る研磨対象物は、多結晶シリコン以外に他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、ドープト多結晶シリコン(ドープトポリシリコン)、アンドープト非晶質シリコン(アンドープトアモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0019】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0020】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0021】
[研磨用組成物]
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明の研磨用組成物において、砥粒は正のゼータ電位を有する。ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。
【0022】
本発明の研磨用組成物において、砥粒のゼータ電位は、好ましくは+15mV以上であり、より好ましくは+20mV以上+60mV以下であり、さらに好ましくは+25mV以上+50mV以下であり、特に好ましくは+30mV以上+45mV以下である。砥粒がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨速度をより向上させることができる。
【0023】
ここで、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0024】
本発明の研磨用組成物において、砥粒の種類としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0025】
砥粒の種類としては、好ましくはシリカであり、より好ましくはヒュームドシリカ、コロイダルシリカであり、さらに好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(たとえば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0026】
砥粒は、表面修飾していないシリカ(未変性シリカ)であってもよいが、カチオン性基を有するシリカ(カチオン変性シリカ)であるのが好ましく、カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)がより好ましい。カチオン性基により表面修飾されたシリカ(コロイダルシリカ)は、カチオン性基により表面修飾されていない通常のシリカ(コロイダルシリカ)に比べて、研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きい傾向がある。そのため、研磨用組成物中におけるコロイダルシリカのゼータ電位を正(例えば、好ましくは+15mV以上、より好ましくは+20mV以上+60mV以下の範囲)に調整しやすい。
【0027】
ここでカチオン変性とは、シリカ(好ましくはコロイダルシリカ)の表面にカチオン性基(例えば、アミノ基または第4級アンモニウム基)が結合した状態を意味する。そして、本発明の好ましい実施形態によれば、カチオン変性シリカは、アミノ基変性シリカであり、より好ましくはアミノ基変性コロイダルシリカである。かかる実施形態によれば、多結晶シリコンを含む研磨対象物の研磨速度をより高めることができる。
【0028】
ここで、シリカ(コロイダルシリカ)をカチオン変性するには、シリカ(コロイダルシリカ)に対して、カチオン性基(例えば、アミノ基または第4級アンモニウム基)を有するシランカップリング剤を加えて、所定の温度で所定時間反応させればよい。本発明の実施形態において、前記砥粒は、アミノ基を有するシランカップリング剤または第4級アンモニウム基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化させてなる。
【0029】
この際、用いられるシランカップリング剤としては、例えば、特開2005-162533号公報に記載されているものが挙げられる。具体的には、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン((3-アミノプロピル)トリエトキシシラン)、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(α,γ-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリエトキシシランの塩酸塩、オクタデシルジメチル-(γ-トリメトキシシリルプロピル)-アンモニウムクロライド、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド等のシランカップリング剤が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカとの反応性が良好であることから、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく用いられる。なお、本発明において、シランカップリング剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
なお、シランカップリング剤は、そのまま、または親水性有機溶媒で希釈して、シリカ(コロイダルシリカ)に加えることができる。親水性有機溶媒で希釈することによって、凝集物の生成を抑制することができる。シランカップリング剤を親水性有機溶媒で希釈する場合、シランカップリング剤1質量部当り、好ましくは5質量部以上50質量部以下、より好ましくは10質量部以上20質量部以下の親水性有機溶媒に希釈すればよい。親水性有機溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコールなどを例示することができる。
【0031】
また、シリカ原料のpHとシランカップリング剤の添加量とを調節することにより、シリカ(コロイダルシリカ)の表面に導入されるカチオン性基の量を調節できると考えられる。シランカップリング剤の使用量は特に限定されないが、シリカ(コロイダルシリカ)に対して、好ましくは0.01質量%以上3.0質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下程度である。
【0032】
シランカップリング剤でシリカ(コロイダルシリカ)をカチオン変性する際の処理温度は特に限定されず、室温(例えば、25℃)から、シリカ(コロイダルシリカ)を分散する分散媒の沸点程度の温度であればよく、具体的には0℃以上100℃以下、好ましくは室温(例えば、25℃)以上90℃以下程度とされる。
【0033】
好ましい実施形態において、砥粒は、シラノール基が低減されたコロイダルシリカである。この場合、砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数が、0個/nmを超え3個/nm以下であるのが好ましく、1個/nm以上2.5個/nm以下であるのがより好ましい。砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数が上記範囲内であれば、多結晶シリコンを含む研磨対象物の研磨速度をより高めることができる。砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数は、後述の実施例に記載の方法にしたがって算出される。
【0034】
本発明の一実施形態において、砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数を0個/nmを超え3個/nm以下にするためには、砥粒の製造方法の選択等により制御することができ、例えば、焼成等の熱処理を行うことが好適である。本発明の一実施形態において、焼成は、例えば、砥粒(例えば、シリカ)を、120~200℃の環境下に、30分以上保持することにより行われる。このような、熱処理を施すことによって、砥粒表面のシラノール基数を、0個/nmを超え3個/nm以下等の所望の数値にせしめることができる。このような特殊な処理を施さない限り、砥粒表面のシラノール基数が0個/nmを超え3個/nm以下にはならない。
【0035】
ここで、砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0036】
砥粒の大きさは特に制限されない。例えば、砥粒が球形状である場合には、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましく、20nm以上が特に好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましく、15nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上50nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)を基に、砥粒の形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0037】
また、砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的に研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上400nm以下であることが好ましく、15nm以上300nm以下であることがより好ましく、20nm以上200nm以下であることがさらに好ましく、25nm以上100nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0038】
砥粒の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。砥粒の平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。この平均会合度とは、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0039】
研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0040】
砥粒のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10の上限は特に制限されないが、2.04以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥を寄り低減することができる。
【0041】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0042】
砥粒の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.25質量%を超えることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、砥粒の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.25質量%を超えて3質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以上1質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度を向上させることができる。研磨用組成物中の砥粒濃度が低い場合(例えば、砥粒の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下)であっても、研磨速度を十分に向上させることができるのも本発明の有意な点のひとつである。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意味する。
【0043】
[研磨速度向上剤]
本発明の研磨用組成物は、研磨速度向上剤として、亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸、二亜硫酸(「ピロ亜硫酸」とも称される)およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の無機化合物を含む。これらの研磨速度向上剤は、-S=O構造を有するため、O原子上に存在する非共有電子対により求核性が高い。これにより、研磨用組成物により研磨を行う際に、研磨速度向上剤が研磨対象物である多結晶シリコン表面に対して効果的に作用することができる。
【0044】
ここで、亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸または二亜硫酸の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等の第2族金属塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、等が挙げられる。また、アルカリ金属塩は、一水素ナトリウム塩(例えば、亜硫酸水素ナトリウム)、一水素カリウム塩(例えば、亜硫酸水素カリウム)等の酸性塩であってもよい。これらのうち、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水素ナトリウム塩、一水素カリウム塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、一水素ナトリウム塩、一水素カリウム塩がより好ましい。
【0045】
研磨速度向上剤の例としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸バリウム、亜硫酸アンモニウム;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸カルシウム、チオ硫酸ストロンチウム、チオ硫酸バリウム、チオ硫酸アンモニウム;亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム;二亜硫酸ナトリウム(ピロ亜硫酸ナトリウム)、二亜硫酸カリウム(ピロ亜硫酸カリウム)、二亜硫酸バリウム(ピロ亜硫酸バリウム);などが挙げられる。これらの化合物は、水和物であってもよい。
【0046】
研磨速度向上剤の含有量(濃度)は、研磨用組成物中において、0.1mM以上であることが好ましく、0.5mM以上であることがより好ましく、1mM以上であることがさらに好ましく、2mM以上であることが特に好ましい。また、研磨速度向上剤の含有量の上限は、研磨用組成物中において、100mM以下であることが好ましく、50mM以下であることがより好ましく、20mM以下であることがさらに好ましく、10mM以下であることが特に好ましい。すなわち、研磨速度向上剤の含有量は、研磨用組成物中において、好ましくは0.1mM以上100mM以下、より好ましくは0.5mM以上50mM以下、さらに好ましくは1mM以上20mM以下、特に好ましくは2mM以上10mM以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、多結晶シリコンの研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の研磨速度向上剤を含む場合には、研磨速度向上剤の含有量は、これらの合計量を意味する。
【0047】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHは、7.0未満であり、好ましくは5未満であり、より好ましくはpH4.9以下であり、さらに好ましくはpH4.5以下であり、さらにより好ましくはpH4以下であり、特に好ましくはpH3以下、もっとも好ましくはpH2.5以下である。pHが7.0未満であることにより、多結晶シリコンのエッチング抑制や、酸化ケイ素および窒化ケイ素の研磨速度比調整に有利な効果がある。pHの下限は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
【0048】
上記の研磨速度向上剤は、本発明の研磨用組成物において、pH調整剤としても機能する。そのため、本発明の研磨用組成物のpHは、上記研磨速度向上剤の添加により調整することができるが、必要によりpH調整剤を適量添加してもよい。
【0049】
pH調整剤としては、研磨速度向上剤以外の無機酸、有機酸、アルカリ等がある。これらは1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0050】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。これらのうち、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸が好ましく、硝酸がより好ましい。硝酸をpH調整剤として用いることにより、多結晶シリコンに対する研磨選択性を向上することができ、多結晶シリコンに対する研磨速度を好適に向上することができる。
【0051】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。なかでも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0052】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0053】
pH調整剤として使用できるアルカリの具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の含有量は、本発明の効果を奏する範囲内で適宜調整することによって選択することができる。
【0054】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。具体的には、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製pHメータ(型番:LAQUA))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより、研磨用組成物のpHを測定することができる。
【0055】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0056】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0057】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0058】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、研磨速度向上剤、pH調整剤、および必要に応じて他の成分を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、前記砥粒、前記研磨速度向上剤、前記pH調整剤および前記分散媒を混合する工程を含む、本発明の研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0059】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0060】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、多結晶シリコンを含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、多結晶シリコンを含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、多結晶シリコンを含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0061】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0062】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0063】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0064】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、多結晶シリコンを含む層を有する基板が得られる。
【0065】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0066】
[多結晶シリコンに対する研磨速度]
以上のように、本発明の研磨用組成物は、砥粒のゼータ電位が正であり、特定の硫黄のオキソ酸を含むことにより多結晶シリコンに対する研磨速度を向上させることができる。多結晶シリコンの研磨速度(Å/min)は、例えば、80Å/min以上であるのが好ましい。本発明の研磨用組成物は、多結晶シリコンに対する研磨選択性が高く、よって、多結晶シリコンの研磨速度を向上させつつ、かつ、酸化ケイ素(特にTEOS)および窒化ケイ素の研磨速度を抑制することができる。よって、本発明は、前記研磨用組成物を使って研磨することを有する、多結晶シリコンの研磨速度を向上させ、かつ、酸化ケイ素(特にTEOS)および窒化ケイ素の研磨速度を抑制する方法も提供される。前記研磨用組成物の具体的な説明は、上記の説明が妥当する。
【0067】
本発明の研磨用組成物における多結晶シリコンの研磨選択性は、例えば、多結晶シリコンに対する選択比により表すことができる。例えば、多結晶シリコンの研磨速度(Å/min)をTEOS(酸化ケイ素膜)の研磨速度(Å/min)で除した値を算出して、選択比とすると、選択比(Poly-Si/TEOS)は、3.0以上が好ましく、3.0以上50以下がより好ましく、4.0以上40以下がさらに好ましい。多結晶シリコンの研磨速度(Å/min)からSiN(窒化ケイ素膜)の研磨速度(Å/min)を除した値を算出して、選択比とすると、選択比(Poly-Si/SiN)は、3.0以上が好ましく、4.0以上70以下がより好ましく、5.0以上60以下がさらに好ましい。
【実施例
【0068】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0069】
<研磨用組成物の調製>
(アミノ基変性コロイダルシリカの準備)
特開2005-162533号公報の実施例1に記載の方法と同様にして、シランカップリング剤としてγ-アミノプロピルトリメトキシシランを用いて、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2、アスペクト比:1.3、D90/D10:1.7のアミノ基変性コロイダルシリカを作製した。なお、アミノ基変性コロイダルシリカの平均一次粒子径、平均二次粒子径は、下記砥粒の粒子径の測定方法に従って測定した。
【0070】
(実施例1)
砥粒として上記で得られたアミノ基変性コロイダルシリカ(平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2)を0.45質量%、研磨速度向上剤として二亜硫酸ナトリウムを5mMの最終濃度となるように、それぞれ分散媒である純水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。
【0071】
その後、混合液にpH調整剤として硝酸を、pHが2.4となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。また、得られた研磨用組成物中のアミノ基変性コロイダルシリカのゼータ電位を、下記砥粒のゼータ電位の測定方法により測定したところ、+31.1mVであった。なお、研磨用組成物中の砥粒(アミノ基変性コロイダルシリカ)の粒子径は、用いた砥粒の粒子径と同様であった。
【0072】
測定方法
[砥粒のゼータ電位]
各研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位を算出した。
【0073】
[砥粒の粒子径]
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0074】
[砥粒のシラノール基数の算出方法]
砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数(単位:個/nm)は、以下の測定方法または計算方法により、各パラメータを測定または算出した後、下記の方法により算出した。なお、研磨用組成物において砥粒としてアミノ基変性コロイダルシリカを用いた場合、アミノ基変性コロイダルシリカの単位面積当たりのシラノール基数を算出した。
【0075】
より具体的には、下記式中のCは、砥粒の合計質量を用い、下記式中のSは、砥粒のBET比表面積である。さらに具体的には、まず、固形分として1.50gの砥粒を200mlビーカーに採取し、100mLの純水を加えてスラリーとした後、30gの塩化ナトリウムを添加して溶解した。次に、1N 塩酸を添加してスラリーのpHを約3.0~3.5に調整した後、スラリーが150mLになるまで純水を加えた。このスラリーに対して、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1700)を使用して、25℃で0.1N 水酸化ナトリウムを用いてpHが4.0になるよう調整し、さらに、pH滴定によってpHを4.0から9.0に上げるのに要した0.1N 水酸化ナトリウム溶液の容量V[L]を測定した。平均シラノール基密度(シラノール基数)は、下記式により算出できる。
【0076】
【数1】
【0077】
上記式中、
ρは、平均シラノール基数(シラノール基密度)(個/nm)を表し;
cは、滴定に用いた水酸化ナトリウム溶液の濃度(mol/L)を表し;
Vは、pHを4.0から9.0に上げるのに要した水酸化ナトリウム溶液の容量(L)を表し;
NAは、アボガドロ定数(個/mol)を表し;
Cは、砥粒の合計質量(固形分)(g)を表し;
Sは、砥粒のBET比表面積の加重平均値(nm/g)を表す。
【0078】
(実施例2~9、比較例1~12)
砥粒の種類、研磨速度向上剤の種類、およびpH調整剤の種類と含有量(pH)を下記表1および表2のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~9、比較例1~12の各研磨用組成物を調製した。下記表1および表2において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。なお、実施例6および7比較例3は、砥粒として未変性コロイダルシリカ(平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2、アスペクト比:1.5、D90/D10:2.0)を用い、実施例7および比較例4は、砥粒として未変性コロイダルシリカ(平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径66nm、平均会合度1.9、アスペクト比:1.2、D90/D10:2.1)を用いた。得られた各研磨用組成物のpHおよび各研磨用組成物中の砥粒(アミノ基変性コロイダルシリカまたは未変性コロイダルシリカ)の平均一次粒子径、平均二次粒子径、およびゼータ電位を、下記表1および表2に示す。研磨用組成物中の砥粒(アミノ基変性コロイダルシリカまたは未変性コロイダルシリカ)の粒子径は、用いた砥粒の粒子径と同様であった。
【0079】
<評価>
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、下記の研磨対象物のいずれかに対して、以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。なお、実施例1~7および比較例1~4の各研磨用組成物を用いた場合は、研磨圧力2psiにおける研磨速度を評価し、実施例8、9および比較例5~12の各研磨用組成物を用いた場合は、研磨圧力3psiにおける研磨速度を評価した。
【0080】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psiまたは3.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:47rpm
ヘッド(キャリア)回転数:43rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:60秒。
【0081】
(研磨対象物)
表面に研磨対象物の膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)をそれぞれ準備した。研磨対象物は、(1)表面に厚さ5000Åの多結晶シリコン膜を形成したシリコンウェーハ(poly-Si)、(2)表面に厚さ10000Åの酸化ケイ素(TEOS)膜を形成したシリコンウェーハ(TEOS)、(3)表面に厚さ2000Åの窒化ケイ素膜を形成したシリコンウェーハ(SiN)の3種類とした。上記で得られた各研磨用組成物を用いて、基板を上記の研磨条件で研磨した。なお、3種の研磨対象物について、同様の条件で研磨を行った。
【0082】
(研磨速度)
研磨速度(研磨レート)は、以下の式により計算した。
【0083】
【数2】
【0084】
膜厚は、光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより評価した。研磨圧力2psiの場合の研磨速度の結果を下記表1に示し、研磨圧力3psiの場合の研磨速度の結果を下記表2に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
表1および表2に示すように、実施例1~9の研磨用組成物を用いた場合、比較例1~12の研磨用組成物と比べて多結晶シリコンを顕著に高い研磨速度で研磨できることがわかった。実施例1~7の研磨用組成物を用いて研磨圧力2psiで研磨した場合(表1)、多結晶シリコンの研磨速度が80Å/minを超え、実施例8、9の研磨用組成物を用いて研磨圧力3psiで研磨した場合(表2)、多結晶シリコンの研磨速度がさらに向上して150Å/minを超えることがわかる。
【0088】
実施例1~5と比較例1との比較、実施例6と比較例3との比較、および実施例7と比較例4との比較により、研磨用組成物が研磨速度向上剤として特定の硫黄のオキソ酸またはそれらの塩の無機化合物を含むことによって多結晶シリコンを顕著に高い研磨速度で研磨できることがわかる。また、実施例9と比較例10との比較により、研磨速度向上剤が無機化合物であることによって、多結晶シリコンを高い研磨速度で研磨できることがわかる。
【0089】
さらに、実施例1~9の結果から、特定の硫黄のオキソ酸またはそれらの塩の無機化合物を含んだ場合であっても、TEOSやSiNに対する研磨速度は抑制されていることがわかる。これにより、特定の硫黄のオキソ酸またはそれらの塩の無機化合物の研磨速度向上剤としての効果は、多結晶シリコンに対してのみ顕著に発揮されることがわかる。
【0090】
以上のように、砥粒のゼータ電位が正であり、研磨速度向上剤として特定の硫黄のオキソ酸またはそれらの塩の無機化合物を含む研磨用組成物により、多結晶シリコンの研磨速度が向上することがわかった。