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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】渦電流センサの出力信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/06 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
G01B7/06 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020141608
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037460
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敦史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太郎
(72)【発明者】
【氏名】澁江 宏明
(72)【発明者】
【氏名】徳永 晋平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和英
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-175608(JP,A)
【文献】実開昭54-017775(JP,U)
【文献】特開2011-164110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01N 27/72-27/9093
G01R 15/00-17/22
27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理装置において、
前記出力信号処理装置は、
前記検出コイルが基準状態において出力する前記出力信号の特性を示す基準データを保持し、前記基準状態以外のときに、前記基準データを出力する保持装置と、
前記検出コイルが前記基準状態において出力する前記出力信号に対応する疑似信号を、前記保持装置が出力する前記基準データから生成して出力する疑似信号生成装置と、
前記基準状態以外のときに、前記検出コイルが出力する出力信号と、前記疑似信号が入力されて、前記出力信号と前記疑似信号の差に相当する信号をブリッジ出力信号として出力するブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路が出力する前記ブリッジ出力信号を処理するブリッジ信号処理装置とを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項2】
前記基準状態において前記ブリッジ回路は、前記検出コイルが出力する前記出力信号を入力され、前記疑似信号が入力されない状態で、基準ブリッジ出力信号を出力し、
前記出力信号処理装置は、前記基準ブリッジ出力信号から前記基準データを生成する基準データ生成装置を有し、
前記保持装置は、前記基準データ生成装置が出力する前記基準データを保持することを特徴とする請求項1記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項3】
前記ブリッジ信号処理装置は、前記基準データ生成装置であり、前記基準状態において、前記基準ブリッジ出力信号をインピーダンスとして処理するために、前記基準ブリッジ出力信号から前記インピーダンスを得て、
前記保持装置は、得られた前記インピーダンスを前記基準データとして保持し、
前記基準状態以外のときに、前記疑似信号生成装置は、前記保持装置から前記インピー
ダンスを入力されて、前記疑似信号を生成することを特徴とする請求項2記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項4】
前記基準状態は、前記導電体が前記検出コイルの近傍にないときであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項5】
前記出力信号処理装置は、前記渦電流センサと、前記渦電流センサの温度を測定する温度センサと、測定された前記温度を使用して前記基準データを補正する補正装置とを有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項6】
導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理装置において、
前記処理装置は、
前記検出コイルが基準状態において出力する前記出力信号の特性を示す基準データを保持し、前記基準状態以外のときに、前記基準データを出力する保持装置と、
前記基準状態以外のときに前記検出コイルが出力する前記出力信号の特性を示す特性データと、前記保持装置が出力する前記基準データが入力されて、前記特性データと前記基準データの差を求める差分装置とを有し、
前記処理装置は、
前記検出コイルが出力する前記出力信号をインピーダンスとして処理するために、前記出力信号から前記インピーダンスを得るインピーダンス出力装置を有し、
前記保持装置は、前記インピーダンス出力装置が前記基準状態において出力する前記インピーダンスを前記基準データとして保持し、
前記差分装置は、前記基準状態以外のときに、前記インピーダンス出力装置が出力する前記インピーダンスと、前記保持装置が出力する前記基準データとの差を求めることを特徴とする渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項7】
導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理方法において、
前記検出コイルが基準状態において出力する前記出力信号の特性を示す基準データを保持するステップと、
前記検出コイルが前記基準状態において出力する前記出力信号に対応する疑似信号を、保持されている前記基準データから生成して出力するステップと、
前記基準状態以外のときに前記検出コイルが出力する前記出力信号と、前記疑似信号をブリッジ回路に入力して、前記出力信号と前記疑似信号の差に相当する信号をブリッジ出力信号として出力するステップと、
前記ブリッジ出力信号を処理するステップとを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流センサの出力信号処理装置および渦電流センサの出力信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
渦電流センサは膜厚測定、変位測定等に使用される。以下では、膜厚測定を例にして渦電流センサを説明する。膜厚測定用渦電流センサは、例えば半導体デバイスの製造工程(研磨工程)で用いられる。研磨工程において渦電流センサは、以下のように用いられる。半導体デバイスの高集積化が進むにつれて回路の配線が微細化し、配線間距離もより狭くなりつつある。そこで、被研磨物である半導体ウェハの表面を平坦化することが必要となるが、この平坦化法の一手段として研磨装置により研磨(ポリッシング)することが行われている。
【0003】
研磨装置は、被研磨物を研磨するための研磨パッドを保持するための研磨テーブルと、被研磨物を保持して研磨パッドに押圧するためにトップリングを備える。研磨テーブルとトップリングはそれぞれ、駆動部(例えばモータ)によって回転駆動される。研磨剤を含む液体(スラリー)を研磨パッド上に流し、そこにトップリングに保持された被研磨物を押し当てることにより、被研磨物は研磨される。
【0004】
研磨装置では、被研磨物の研磨が不十分であると、回路間の絶縁がとれず、ショートするおそれが生じ、また、過研磨となった場合は、配線の断面積が減ることによる抵抗値の上昇、又は配線自体が完全に除去され、回路自体が形成されないなどの問題が生じる。このため、研磨装置では、最適な研磨終点を検出することが求められる。
【0005】
このような技術としては、特開2005-121616号に記載のものがある。この技術においては、2個のコイル、すなわち検出コイルとバランスコイルを用いた渦電流センサが研磨終点を検出するために用いられている。特開2005-121616号の図10に示すように、検出コイルとバランスコイルは直列回路を構成し、その両端は可変抵抗を含むブリッジ回路に接続されている。ブリッジ回路でバランスの調整を行うことで、膜厚がゼロのときに、ブリッジ回路の出力がゼロになるようにゼロ点の調整が可能である。ブリッジ回路の出力は、特開2005-121616号の図11に示すように、同期検波回路に入力される。同期検波回路は、入力された信号から、膜厚の変化に伴う抵抗成分(R)、リアクタンス成分(X)、振幅出力(Z)および位相出力(tan-1R/X)を取り出す。
【0006】
従来のブリッジ回路を使用した検出方法に関しては、ゼロ点調整時の抵抗値調整量はブリッジ回路を構成する抵抗値全体の大きさに比べて非常に小さい。その結果、抵抗値全体の温度変化量は、ゼロ点調整時の抵抗値調整量と比べると、無視できない量である。温度変化による抵抗値の変化や、抵抗が有する浮遊容量の変化、経時変化等のために、抵抗の周囲環境の変化に対してブリッジ回路の特性が敏感に影響を受ける。この結果、上述のゼロ点がシフトしやすく、膜厚の測定精度が低下するという問題があった。
【0007】
すなわち、従来は可変抵抗でブリッジ回路のバランスを調整して導電性膜が存在しない時にブリッジ回路の出力がゼロとなるようにブリッジ回路の出力を調整していた。しかし、次のような要因でブリッジ回路のパラメータが経時変化してバランスがくずれてしまい、ブリッジ回路の出力がゼロにならないという課題がある。(i) 検出コイルとバランスコイルは、周囲温度の影響で値が変動する。(ii) 可変抵抗においても、機械的な
可変機構をもつ場合、抵抗値がシフトする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-121616号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一形態は、このような問題点を解消すべくなされたもので、その目的は、周囲環境の変化等に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの出力信号処理装置および渦電流センサの出力信号処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、第1の形態では、導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理装置において、前記出力信号処理装置は、前記検出コイルが基準状態において出力する前記出力信号の特性を示す基準データを保持し、前記基準状態以外のときに、前記基準データを出力する保持装置と、前記検出コイルが前記基準状態において出力する前記出力信号に対応する疑似信号を、前記保持装置が出力する前記基準データから生成して出力する疑似信号生成装置と、前記基準状態以外のときに、前記検出コイルが出力する出力信号と、前記疑似信号が入力されて、前記出力信号と前記疑似信号の差に相当する信号をブリッジ出力信号として出力するブリッジ回路と、前記ブリッジ回路が出力する前記ブリッジ出力信号を処理するブリッジ信号処理装置とを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0011】
本実施形態では、バランスコイルを使用していない。これによりブリッジ回路のバランスが崩れてしまう要因を減らすことができる、もしくはそのような要因を排除することができるので、課題を解決できる。すなわち周囲環境の変化等に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの出力信号処理装置を提供できる。
【0012】
形態2では、前記基準状態において前記ブリッジ回路は、前記検出コイルが出力する前記出力信号を入力され、前記疑似信号が入力されない状態で、基準ブリッジ出力信号を出力し、前記出力信号処理装置は、前記基準ブリッジ出力信号から前記基準データを生成する基準データ生成装置を有し、前記保持装置は、前記基準データ生成装置が出力する前記基準データを保持することを特徴とする形態1記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0013】
形態3では、前記ブリッジ信号処理装置は、前記基準データ生成装置であり、前記基準状態において、前記基準ブリッジ出力信号をインピーダンスとして処理するために、前記基準ブリッジ出力信号から前記インピーダンスを得て、前記保持装置は、得られた前記インピーダンスを前記基準データとして保持し、前記基準状態以外のときに、前記疑似信号生成装置は、前記保持装置から前記インピーダンスを入力されて、前記疑似信号を生成することを特徴とする形態2記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0014】
形態4では、前記基準状態は、前記導電体が前記検出コイルの近傍にないときであることを特徴とする形態1ないし3のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0015】
形態5では、前記出力信号処理装置は、前記渦電流センサと、前記渦電流センサの温度を測定する温度センサと、測定された前記温度を使用して前記基準データを補正する補正装置とを有することを特徴とする形態1ないし4のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0016】
形態6では、導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理装置において、前記処理装置は、前記検出コイルが基準状態において出力する前記出力信号の特性を示す基準データを保持し、前記基準状態以外のときに、前記基準データを出力する保持装置と、前記基準状態以外のときに前記検出コイルが出力する前記出力信号の特性を示す特性データと、前記保持装置が出力する前記基準データが入力されて、前記特性データと前記基準データの差を求める差分装置とを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0017】
形態7では、前記処理装置は、前記検出コイルが出力する前記出力信号をインピーダンスとして処理するために、前記出力信号から前記インピーダンスを得るインピーダンス出力装置を有し、前記保持装置は、前記インピーダンス出力装置が前記基準状態において出力する前記インピーダンスを前記基準データとして保持し、前記差分装置は、前記基準状態以外のときに、前記インピーダンス出力装置が出力する前記インピーダンスと、前記保持装置が出力する前記基準データとの差を求めることを特徴とする形態6記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0018】
形態8では、導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理方法において、前記検出コイルが基準状態において出力する前記出力信号の特性を示す基準データを保持するステップと、前記検出コイルが前記基準状態において出力する前記出力信号に対応する疑似信号を、保持されている前記基準データから生成して出力するステップと、前記基準状態以外のときに前記検出コイルが出力する前記出力信号と、前記疑似信号をブリッジ回路に入力して、前記出力信号と前記疑似信号の差に相当する信号をブリッジ出力信号として出力するステップと、前記ブリッジ出力信号を処理するステップとを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理方法という構成を採っている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る研磨装置の全体構成を示す概略図である。
図2図2は、研磨テーブルと渦電流センサと半導体ウェハとの関係を示す平面図である。
図3図3は、渦電流センサ組立体の構成を示す図であり、図3(a)は渦電流センサ組立体の構成を示すブロック図であり、図3(b)は渦電流センサ組立体の等価回路図である。
図4図4は、従来技術の渦電流センサにおけるコイルの構成例を示す概略図である。
図5図5は、従来技術の渦電流センサにおける各コイルの接続例を示す概略図である。
図6図6は、従来技術の渦電流センサの出力信号処理回路を示すブロック図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサにおける各コイルの接続例を示す概略図である。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサにおける各コイルの接続例を示す概略図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路を示すブロック図である。
図10図10は、本発明の他の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路を示すブロック図である。
図11図11は、保持装置での温度補正の処理を示すブロック図である。
図12図12は、本発明の他の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同一または相当する部材には同一符号を付して重複した説明を省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサ50が適用される研磨装置の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨テーブル100と、研磨対象物である半導体ウェハ等の基板を保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧するトップリング(保持部)1とを備えている。
【0022】
研磨テーブル100は、テーブル軸170を介してその下方に配置される駆動部であるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸170周りに回転可能になっている。研磨テーブル100の上面には研磨パッド101が貼付されており、研磨パッド101の表面101aが半導体ウェハWHを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル100の上方には研磨液供給ノズル102が設置されており、この研磨液供給ノズル102によって研磨テーブル100上の研磨パッド101上に研磨液Qが供給されるようになっている。図1に示すように、研磨テーブル100の内部には、渦電流センサ50が埋設されている。
【0023】
トップリング1は、半導体ウェハWHを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体142と、半導体ウェハWHの外周縁を保持して半導体ウェハWHがトップリングから飛び出さないようにするリテーナリング143とから基本的に構成されている。
【0024】
トップリング1は、トップリングシャフト111に接続されており、このトップリングシャフト111は、上下動機構124によりトップリングヘッド110に対して上下動するようになっている。このトップリングシャフト111の上下動により、トップリングヘッド110に対してトップリング1の全体を昇降させ位置決めするようになっている。なお、トップリングシャフト111の上端にはロータリージョイント125が取り付けられている。
【0025】
トップリングシャフト111およびトップリング1を上下動させる上下動機構124は、軸受126を介してトップリングシャフト111を回転可能に支持するブリッジ128と、ブリッジ128に取り付けられたボールねじ132と、支柱130により支持された支持台129と、支持台129上に設けられたサーボモータ138とを備えている。サーボモータ138を支持する支持台129は、支柱130を介してトップリングヘッド110に固定されている。
【0026】
ボールねじ132は、サーボモータ138に連結されたねじ軸132aと、このねじ軸132aが螺合するナット132bとを備えている。トップリングシャフト111は、ブリッジ128と一体となって上下動するようになっている。したがって、サーボモータ1
38を駆動すると、ボールねじ132を介してブリッジ128が上下動し、これによりトップリングシャフト111およびトップリング1が上下動する。
【0027】
また、トップリングシャフト111はキー(図示せず)を介して回転筒112に連結されている。この回転筒112はその外周部にタイミングプーリ113を備えている。トップリングヘッド110にはトップリング用モータ114が固定されており、上記タイミングプーリ113は、タイミングベルト115を介してトップリング用モータ114に設けられたタイミングプーリ116に接続されている。したがって、トップリング用モータ114を回転駆動することによってタイミングプーリ116、タイミングベルト115、およびタイミングプーリ113を介して回転筒112およびトップリングシャフト111が一体に回転し、トップリング1が回転する。なお、トップリングヘッド110は、フレーム(図示せず)に回転可能に支持されたトップリングヘッドシャフト117によって支持されている。
【0028】
図1に示すように構成された研磨装置において、トップリング1は、その下面に半導体ウェハWHなどの基板を保持できるようになっている。トップリングヘッド110はトップリングヘッドシャフト117を中心として旋回可能に構成されており、下面に半導体ウェハWHを保持したトップリング1は、トップリングヘッド110の旋回により半導体ウェハWHの受取位置から研磨テーブル100の上方に移動される。そして、トップリング1を下降させて半導体ウェハWHを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このとき、トップリング1および研磨テーブル100をそれぞれ回転させ、研磨テーブル100の上方に設けられた研磨液供給ノズル102から研磨パッド101上に研磨液Qを供給する。このように、半導体ウェハWHを研磨パッド101の研磨面101aに摺接させて半導体ウェハWHの表面を研磨する。
【0029】
図2は、研磨テーブル100と渦電流センサ50と半導体ウェハWHとの関係を示す平面図である。図2に示すように、渦電流センサ50は、トップリング1に保持された研磨中の半導体ウェハWHの中心Cwを通過する位置に設置されている。研磨テーブル100は回転中心170の周りを回転する。例えば、渦電流センサ50は、半導体ウェハWHの下方を通過している間、通過軌跡(走査線)上で連続的に半導体ウェハWHのCu層等の金属膜(導電性膜)を検出できるようになっている。
【0030】
次に、本発明に係る研磨装置が備える渦電流センサ50について、添付図面を用いて説明する。図3は、渦電流センサ50を含む渦電流センサ組立体の構成を示す図であり、図3(a)は渦電流センサ組立体の構成を示すブロック図であり、図3(b)は渦電流センサ組立体の等価回路図である。図3(a)に示すように、渦電流センサ50は、検出対象の金属膜(または導電性膜)mfの近傍に配置され、そのコイルに交流信号源52が接続されている。ここで、検出対象の金属膜mfは、例えば半導体ウェハWH上に形成されたCu、Al、Au、Wなどの薄膜である。渦電流センサ50は、検出対象の金属膜(または導電性膜)に対して、例えば1.0~4.0mm程度の近傍に配置される。コイルはフェライト等の磁性体(図示せず)に通常、巻かれている。渦電流センサ50は空芯コイルでもよい。
【0031】
渦電流センサの信号検出には、金属膜mfに渦電流が生じることにより、インピーダンスが変化し、このインピーダンス変化から金属膜(または導電性膜)を検出するインピーダンスタイプと呼ばれるものがある。即ち、インピーダンスタイプでは、図3(b)に示す等価回路において、渦電流Iが変化することで、インピーダンスZが変化し、信号源(固定周波数発振器)52から見たインピーダンスZが変化すると、出力信号処理回路54でこのインピーダンスZの変化を検出し、金属膜(または導電性膜)の変化を検出することができる。
【0032】
インピーダンスタイプの渦電流センサでは、信号出力X、Y、位相、合成インピーダンスZ(=X+iY)、を取り出すことが可能である。インピーダンス成分X、Y等から、金属膜(または導電性膜)Cu、Al、Au、Wの膜厚に関する測定情報が得られる。渦電流センサ50は、図1に示すように研磨テーブル100の内部の表面付近の位置に内蔵することができ、研磨対象の半導体ウェハに対して研磨パッドを介して対面するように位置し、半導体ウェハ上の金属膜(または導電性膜)に流れる渦電流から金属膜(または導電性膜)の変化を検出することができる。
【0033】
渦電流センサの周波数は、単一電波、AM変調電波、関数発生器の掃引出力等を用いることができ、金属膜の膜種に適合させて、感度の良い発振周波数や変調方式を選択することが好ましい。
【0034】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて具体的に説明する。交流信号源52は、2~30MHz程度の固定周波数の発振器260(図9を参照)を有する。発振器260は、例えば水晶発振器である。そして、交流信号源52により供給される交流電圧により、渦電流センサ50に電流Iが流れる。金属膜(または導電性膜)mfの近傍に配置された渦電流センサ50に電流が流れることで、この磁束が金属膜(または導電性膜)mfと鎖交することでその間に相互インダクタンスMが形成され、金属膜(または導電性膜)mf中に渦電流Iが流れる。ここでR1は渦電流センサを含む一次側の等価抵抗であり、L1は同様に渦電流センサを含む一次側の自己インダクタンスである。金属膜(または導電性膜)mf側では、R2は渦電流損に相当する等価抵抗であり、L2はその自己インダクタンスである。交流信号源52の端子a、bから渦電流センサ側を見たインピーダンスZは、金属膜(または導電性膜)mf中に形成される渦電流損の大きさによって変化する。
【0035】
次に、本実施形態と従来技術との違いを明確にするために従来技術の渦電流センサ150におけるコイルの構成例について説明する。図4は、従来技術の渦電流センサ150におけるコイルの構成例を示す概略図である。従来技術では、渦電流センサ150は、半導体ウェハWH上の金属膜(または導電性膜)に渦電流を形成するための励磁コイル72と、生成された渦電流を検出するための検出コイル73と、バランスコイル74とを有する。渦電流センサ150は、フェライトコア71に巻回された3層のコイル、励磁コイル72、検出コイル73、バランスコイル74により構成されている。なお、フェライトコア71の構造としては、図4に示す構造に限られず、任意の構造を採用することができる。本図では、円筒状のフェライトコアに、励磁コイル72と検出コイル73が軸方向に配置される。
【0036】
励磁コイル72は、交流信号源52に接続される。励磁コイル72は、交流信号源52より供給される電圧の形成する磁界により、渦電流センサ150の近傍に配置される半導体ウェハWH上の金属膜(または導電性膜)mfに渦電流を形成する。フェライトコアの上側(金属膜(または導電性膜)側)には、検出コイル73が配置され、金属膜(または導電性膜)に形成される渦電流により発生する磁界を検出する。なお本発明の一実施形態では、渦電流センサ50は、後述するようにバランスコイル74を有しない。
【0037】
励磁コイル72の検出コイル73と反対側にはバランスコイル74が配置されている。励磁コイル72、検出コイル73、バランスコイル74は例えば、同じターン数(1~20t)のコイルである。バランスコイル74を設ける理由は、金属膜(または導電性膜)が存在しないときには、後述するブリッジ出力信号176がゼロとなるように調整可能とするためである。
【0038】
図5は、従来技術の渦電流センサにおける各コイルの接続を示す概略図である。この例では、ブリッジ回路77を用いている。図5(a)に示すように、検出コイル73とバランスコイル74は互いに逆相に接続されている。検出コイル73とバランスコイル74は、逆相の直列回路を構成し、その両端は可変抵抗76を含むブリッジ回路77に接続されている。
【0039】
具体的には、検出コイル73の信号線731は、ブリッジ回路77の端子773に接続され、検出コイル73の信号線732は、ブリッジ回路77の端子771に接続される。バランスコイル74の信号線741は、ブリッジ回路77の端子772に接続され、バランスコイル74の信号線742は、ブリッジ回路77の端子771に接続される。端子771は接地される。ブリッジ回路77の端子774がセンサ出力である。検出コイル73、励磁コイル72、バランスコイル74は、それぞれインダクタンスL、L、Lを有する。
【0040】
励磁コイル72は交流信号源52に接続され、交番磁束を生成することで、近傍に配置される金属膜(または導電性膜)mfに渦電流を形成する。可変抵抗76の抵抗値を調整することで、検出コイル73とバランスコイル74からなる直列回路の出力電圧が、金属膜(または導電性膜)が存在しないときにはゼロとなるように調整可能としている。
【0041】
図5(b)において、インダクタンスLと抵抗VR2-1は並列回路44を構成し、インダクタンスLと抵抗VR2-2は並列回路46を構成する。抵抗VR1-1と並列回路44は直列回路56を構成し、抵抗VR1-2と並列回路46は直列回路58を構成する。検出コイル73とバランスコイル74のそれぞれに並列に入る可変抵抗76(VR、VR)を用いて、VR(=VR1-1+VR1-2)で直列回路56の出力と、直列回路58の出力を等振幅に、VR(=VR2-1+VR2-2)で直列回路56と、直列回路58の出力を同位相にするように調整する。
【0042】
即ち、図5(b)の等価回路において、
VR1-1×(VRe2-2+jωLe)=VR1-2×(VRe2-1+jωLe)(1)
となるように、可変抵抗VRおよびVRを調整する。ここで、VRe2-1+jωLeは並列回路44の複素インピーダンスであり、VRe2-1、ωLeは、それぞれ複素インピーダンスの実部(抵抗成分)と虚部(リアクタンス成分)である。同様に、VRe2-2+jωLeは並列回路46の複素インピーダンスであり、VRe2-2、ωLeは、それぞれ複素インピーダンスの実部(抵抗成分)と虚部(リアクタンス成分)である。
【0043】
上記の(1)式において、VRe2-2+jωLeは、VR2-2、 Lを用いて表すと、(VR2-2ω /(VR2-2 +ω ))+j(VR2-2 ωL/(VR2-2 +ω ))である。VRe2-1+jωLeは、VR2-2、 Lを用いて表すと、(VR2-1ω /(VR2-1 +ω ))+j(VR2-1 ωL/(VR2-1 +ω ))である。
【0044】
上記の(1)式が成立するように可変抵抗VRおよびVRを調整することにより、図5(c)に示すように、調整前のL、Lの信号(図中点線で示す)を、同位相・同振幅の信号(図中実線で示す)とする。
【0045】
出力信号176は、出力信号処理回路154の増幅器268を介して、図6に示す出力信号処理回路154に入力される。増幅器268の後段には、図示しないフィルタが配置されている。フィルタは、増幅された信号に含まれるノイズの低減のために設置される。
【0046】
図6により、従来技術の出力信号処理回路154について説明する。図6は、渦電流センサの出力信号処理回路154を示すブロック図である。本図は、交流信号源52側から渦電流センサ50側を見たインピーダンスZの計測回路例を示している。本図に示すインピーダンスZの計測回路においては、膜厚の変化に伴う抵抗成分(X)、リアクタンス成分(Y)、振幅出力(Z)および位相出力(tan-1Y/X)を取り出すことができる。
【0047】
上述したように、検出対象の金属膜(または導電性膜)mfが成膜された半導体ウェハWH近傍に配置された渦電流センサ50に、信号源52は交流信号を供給する。信号源52は、水晶発振器からなる固定周波数の発振器である。信号源52は、例えば、2MHz、8MHz、16MHzの固定周波数の電圧を供給する。信号源52で形成される交流電圧は、バンドパスフィルタ82と増幅回路30を介して渦電流センサ50に供給される。渦電流センサ50で検出された出力信号176は、増幅回路268を経て、cos同期検波回路およびsin同期検波回路からなる直交信号検出回路86により検出信号のcos成分85とsin成分87とが取り出される。ここで、信号源52で形成される発振信号は、位相シフト回路84により信号源52の同相成分32(0゜)と直交成分34(90゜)の2つの信号が形成され、それぞれcos同期検波回路とsin同期検波回路とに導入され、上述の同期検波が行われる。
【0048】
同期検波された信号は、図示しないローパスフィルタにより、信号成分以上の不要な高周波成分が除去されてからAD変換回路36、38によりデジタル信号に変換される。cos同期検波出力である抵抗成分(X出力40)と、sin同期検波出力であるリアクタンス成分(Y出力42)とがそれぞれ取り出される。また、ベクトル演算回路89により、抵抗成分(X出力40)とリアクタンス成分(Y出力42)とから振幅出力(Z出力)である(X+Y1/2が得られる。また、θ処理回路90により、同様に抵抗成分出力とリアクタンス成分出力とから位相出力(θ出力)である(tan-1X/Y)が得られる。
【0049】
ここで、測定装置本体には、各種フィルタがセンサ信号の雑音成分を除去するために設けられている。各種フィルタは、それぞれに応じたカットオフ周波数が設定されており、例えば、ローパスフィルタのカットオフ周波数を2~16MHzの範囲で設定することにより、研磨中のセンサ信号に混在する雑音成分を除去して測定対象の金属膜(または導電性膜)を高精度に測定することができる。なお、ブリッジ回路77からAD変換回路36、38までと、交流信号源52と、位相シフト回路84は、アナログ信号を処理するアナログ信号処理部276であり、ベクトル演算回路89と、θ処理回路90は、デジタル信号を処理するデジタル信号処理部278である。
【0050】
以上述べた従来技術について整理すると、従来技術は、検出コイル73とバランスコイル74を用いている。検出コイル73とバランスコイル74は、逆相の直列回路を構成し、その両端は可変抵抗VR、VRを含む図5(b)のブリッジ回路に接続されている。可変抵抗VR、VRの抵抗値を調整することで、検出コイル73とバランスコイル74からなる直列回路の出力電圧(端子774)が、導電性膜が存在しないときにはゼロとなるように調整する。
【0051】
具体的には、検出コイル73とバランスコイル74のそれぞれに並列に入る可変抵抗VR、VRで、L、Lの信号を同振幅、逆位相となるように調整する。等価回路において、VR1-1×(VRe2-2+jωLe)=VR1-2×(VRe2-1+jωLe)となるように、可変抵抗VR(=VR1-1+VR1-2)およびVR(=VR2-1+VR2-2)を調整する必要がある。すなわち、従来は可変抵抗でブリッ
ジ回路のバランスを調整して導電性膜が存在しない時にブリッジ回路の出力(端子774)がゼロとなるようにブリッジ回路の出力を調整していた。しかし、次のような要因でブリッジ回路のパラメータが経時変化してバランスがくずれてしまい、ブリッジ回路の出力がゼロにならないという課題がある。(i)検出コイルとバランスコイルは、周囲温度の影響で値が変動する。(ii)可変抵抗においても、機械的な可変機構をもつ場合、抵抗値がシフトする。
【0052】
図7に示す本発明の一実施形態では、図5の従来技術と比較すると、本図の渦電流センサ50はバランスコイル74を使用していない。これによりブリッジ回路のバランスが崩れてしまう要因を減らすことができる、もしくはそのような要因を排除することができるので、課題を解決できる。図7は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサにおける各コイルの接続例を示す概略図である。本形態では、渦電流センサ50は、半導体ウェハWH上の金属膜(または導電性膜)に渦電流を形成するための励磁コイル72と、生成された渦電流を検出するための検出コイル73とを有する。渦電流センサ50は、図4のフェライトコア71に巻回された2層のコイル、励磁コイル72、検出コイル73により構成されている。
【0053】
励磁コイル72は、交流信号源52に接続される。励磁コイル72は、交流信号源52より供給される電圧の形成する磁界により、渦電流センサ50の近傍に配置される半導体ウェハWH上の金属膜(または導電性膜)mfに渦電流を形成する。フェライトコアの上側(金属膜側)には、検出コイル73が配置され、金属膜に形成される渦電流により発生する磁界を検出する。本形態では、渦電流センサ50は、既述のようなバランスコイル74を有しない。励磁コイル72、検出コイル73は例えば、同じターン数(1~20t)のコイルである。
【0054】
図7は、渦電流センサ50における各コイルの接続例を示す。この例では、ブリッジ回路60を用いている。ブリッジ回路60の変動要素を減らすため、バランスコイル74を排し、代わりに検出コイル73に対して逆相、同振幅となるバランスコイル疑似信号68をブリッジ回路60に入力する。ブリッジ回路60のパラメータの経時変化要因を減らす事で、ブリッジ回路60のバランスが崩れにくくなる。
【0055】
検出コイル73とバランスコイル疑似信号68は互いに逆相に接続されている。検出コイル73とバランスコイル疑似信号68は、逆相の直列回路を構成する。検出コイル73とバランスコイル疑似信号68の両端は可変抵抗VRと抵抗Rを含むブリッジ回路60に接続されている。ブリッジ回路60は、抵抗Rと、抵抗Rに直列に接続される抵抗VRと、抵抗Rと、抵抗Rに直列に接続される抵抗Rとを有する。検出コイル73は可変抵抗VRと並列に接続される。バランスコイル疑似信号68はRと並列に接続される。
【0056】
具体的には、検出コイル73の信号線731は、ブリッジ回路60の端子773に接続され、検出コイル73の信号線732は、ブリッジ回路77の端子771に接続される。バランスコイル疑似信号68の信号線741は、ブリッジ回路77の端子772に接続され、バランスコイル疑似信号68の信号線742は、ブリッジ回路77の端子771に接続される。端子771は接地される。ブリッジ回路77の端子774がブリッジ出力信号176である。検出コイル73、励磁コイル72、バランスコイル疑似信号68は、それぞれインダクタンスL、L、Lを有する。インダクタンスLは、バランスコイル疑似信号68の等価インダクタンスである。
【0057】
励磁コイル72は交流信号源52に接続され、交番磁束を生成することで、近傍に配置される金属膜(または導電性膜)mfに渦電流を形成する。可変抵抗VRの抵抗値を調整
することにより、検出コイル73とバランスコイル疑似信号68からなる直列回路の出力電圧が端子774において、金属膜(または導電性膜)が検出コイル73の近傍に存在しないとき(基準状態の時)にはゼロとなる。
【0058】
可変抵抗はVRのみであり、他の抵抗R、R、Rは固定抵抗である。抵抗Rと抵抗Rの抵抗値は同じ大きさとする。抵抗Rと抵抗Rの抵抗値は同じ大きさでなくてもよい。可変抵抗VRの抵抗値の初期設定値と抵抗Rの抵抗値は同じ大きさとする。なお、バランスコイル疑似信号68の出力値が、基準状態の時のときの検出コイル73の出力値に十分近いときは、可変抵抗VRは、固定抵抗でもよい。通常、膜厚測定時のブリッジ出力信号176は微小出力であるため、基準状態の時に端子774におけるゼロ調整は高精度である必要がある。そのため、可変抵抗VRは固定抵抗であるよりも可変抵抗であることが好ましい。
【0059】
可変抵抗VRは固定抵抗であるよりも可変抵抗であることが好ましい理由として以下もある。バランスコイル疑似信号68が検出コイル73の信号を後述の疑似信号生成装置96(デジタル回路である。)により精度よく再現できる場合は、可変抵抗VRは固定抵抗でもよい。しかし、上述のように基準状態の時に端子774におけるゼロ調整は高精度である必要がある場合、疑似信号生成装置96は高精度である必要がある。高精度のデジタル回路は高コストである場合がある。この点からも、可変抵抗VRは固定抵抗であるよりも可変抵抗であることが好ましい。
【0060】
図8において、インダクタンスLと抵抗VRは並列回路44を構成し、インダクタンスLと抵抗Rは並列回路46を構成する。抵抗VRと並列回路44は直列回路56を構成し、抵抗Rと並列回路46は直列回路58を構成する。検出コイル73に並列に入る抵抗VRを用いて、直列回路56と直列回路58の信号を等振幅に、かつ同位相にするように調整する。
【0061】
即ち、図8の等価回路において、
×(Re+jωLe)=R×(VRe+jωLe) (2)
となるように、可変抵抗VRを調整する。ここで、VRe+jωLeは並列回路44の複素インピーダンスであり、VRe、ωLeは、それぞれ複素インピーダンスの実部(抵抗成分)と虚部(リアクタンス成分)である。同様に、Re+jωLeは並列回路46の複素インピーダンスであり、Re3、ωLeは、それぞれ複素インピーダンスの実部(抵抗成分)と虚部(リアクタンス成分)である。
【0062】
上記の(2)式において、Re+jωLeは、R、 Lを用いて表すと、(Rω /(R +ω ))+j(R ωL/(R +ω ))である。VRe+jωLeは、VR、 Lを用いて表すと、(VRω /(VR+ω ))+j(VRωL/(VR+ω ))である。上記の(2)式が成立するように可変抵抗VRを調整することのみにより、調整前のL、Lの信号を、同位相・同振幅の信号とする。インダクタンスLに相当する成分は、バランスコイル疑似信号68として提供される。(2)式が成立するように可変抵抗VRを調整することを容易にするために、設計段階で、R=R、VR=Rとなるように、R、R、VR、Rの抵抗値を設定しておくことが好ましい。ωについては、渦電流センサ50と出力信号処理回路54の全体について、単一の発振器260を用いているため、装置全体について、同一の周波数である。
【0063】
図9は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路54(出力信号処理装置)を示すブロック図である。出力信号処理回路54は、導電体に渦電流を形成可能な励磁コイル72と、導電体に形成可能な渦電流を検出する検出コイル73とを有する渦
電流センサ50が出力する検出コイル73の出力信号731を処理する。出力信号処理回路54は保持装置66を有する。保持装置66は、検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731の特性を示す基準データ40、42を保持し、基準状態以外のときに、基準データ40、42を出力する保持装置66を有する。基準データ40、42の生成方法については後述する。
【0064】
検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731の特性を示す基準データ40、42は、検出コイルのインピーダンス情報を含む基準データであり、検出コイル73に対応した基準データ、または検出コイル73に依存した基準データであるということもできる。出力信号731の特性とは、本実施形態では出力信号731のインピーダンスであり、例えばインピーダンスの実部と虚部、またはインピーダンスの大きさと位相である。出力信号731の特性は、インピーダンスに限られず、バランスコイル疑似信号68を生成できるものであればよい。
【0065】
出力信号処理回路54は疑似信号生成装置96を有する。疑似信号生成装置96は、検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731に対応するバランスコイル疑似信号68(疑似信号)を、保持装置66が出力する基準データ40、42から生成して出力する。検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731に対応する信号は、図5に示すバランスコイル74が出力する信号に相当する信号であると言ってもよい。出力信号731に対応する信号は、検出コイル73の出力を相殺可能な擬似信号であると言ってもよい。
【0066】
出力信号処理回路54はブリッジ回路60を有する。ブリッジ回路60は、基準状態以外のときに、検出コイル73が出力する出力信号731と、保持装置66が出力する基準データ40、42から生成されたバランスコイル疑似信号68が入力されて、出力信号731とバランスコイル疑似信号68の差に相当する信号をブリッジ出力信号176として出力する。出力信号処理回路54は、ブリッジ信号処理装置70を有する。ブリッジ信号処理装置70は、ブリッジ回路60が出力するブリッジ出力信号176を処理する。
【0067】
ここで基準状態とは例えば、導電体が検出コイル73の近傍にない状態である。導電体が検出コイル73の近傍にない状態とは、例えば以下の状態である。(i)研磨テーブル100上に、半導体ウェハWHを保持するトップリング1が無い、(ii)研磨テーブル100上に、トップリング1があるが、トップリング1が半導体ウェハWHを保持していない、(iii)研磨テーブル100上に、トップリング1があるが、校正用の導電膜が形成されていない(すなわち、膜厚ゼロの)ウェハをトップリング1が保持している状態である。
【0068】
さらに基準状態は、導電体が検出コイル73の近傍にある状態でもよい。例えば、研磨テーブル100上にトップリング1があり、校正用の所定の既知の厚みを有する導電膜が形成されているウェハをトップリング1が保持している状態である。
【0069】
基準状態において基準データ40、42を得るときは、バランスコイル疑似信号68がブリッジ回路60に入力されていない。すなわち基準状態においてブリッジ回路60は検出コイル73の出力信号731のみを入力されて、ブリッジ出力信号176(センサ出力)を出力する。基準状態以外のときは、バランスコイル疑似信号68がブリッジ回路60に入力される。すなわち基準状態以外のときは、ブリッジ回路60は、検出コイル73の出力信号731と、バランスコイル疑似信号68を入力されて、検出コイル73の出力信号731と、バランスコイル疑似信号68との差をブリッジ出力信号176として出力する。
【0070】
基準データ40、42を取得する時に図7においては、検出コイル73の出力信号731はブリッジ回路60を介して、ブリッジ出力信号176として出力される。なお、基準データを取得する時に図7のようにブリッジ回路60を介さなくてもよい。検出コイル73の出力信号731を、ブリッジ回路60を介さずに、直接、ブリッジ出力信号176として、信号処理回路92に入力してもよい。すなわち、ブリッジ回路60の抵抗が全て無い状態で、検出コイル73の出力信号731のみの信号を取っても良い。
【0071】
基準状態において基準データ40、42を得た後に、基準データ40、42から生成されるバランスコイル疑似信号68がブリッジ回路60に入力されて、ブリッジ回路60の出力信号176の値がゼロ、もしくはゼロではないが許容範囲内にあるかどうかを確認する。許容範囲内にないときは、既述の可変抵抗VRを調整して、ブリッジ回路60の出力信号176の値がゼロ、もしくはゼロではないが許容範囲内にあるようにする。この確認作業は、研磨装置を工場から出荷する前、または工場出荷後、ユーザーが測定を開始する前、またはユーザーが測定中に必要と判断した場合等に行われる。
【0072】
基準データ40、42は例えば、渦電流センサ50の出力信号176を複素インピーダンスと見たときの抵抗成分(X)、リアクタンス成分(Y)である。しかし基準データ40、42はこれに限られるものではなく、基準データ40、42は振幅出力(Z)および位相出力(tan-1Y/X)でもよい。基準データ40、42は、バランスコイル疑似信号68を直接または間接的に生成できる信号であればよい。
【0073】
次にブリッジ信号処理装置70について図9により説明する。ブリッジ信号処理装置70は、信号処理回路92と出力回路94とを有する。信号処理回路92は、増幅回路268と、直交信号検出回路86と、AD変換回路36、38と、位相シフト回路84とを有する。増幅回路268と、直交信号検出回路86と、AD変換回路36、38と、位相シフト回路84の動作は、図6に示す増幅回路268と、直交信号検出回路86と、AD変換回路36、38と、位相シフト回路84の動作と同一であり、それらの動作は説明済みであるので、省略する。出力回路94は、ベクトル演算回路89と、θ処理回路90とを有する。ベクトル演算回路89と、θ処理回路90の動作は、図6に示すベクトル演算回路89と、θ処理回路90の動作と同一であり、それらの動作は説明済みであるので、省略する。
【0074】
ブリッジ信号処理装置70は、基準状態のときと、基準状態以外のときで、同一の動作を行う。ブリッジ信号処理装置70の出力である抵抗成分(X)、リアクタンス成分(Y)は、基準状態のときは基準データ40、42として処理される。ブリッジ回路60の調整が終了した後の基準状態以外のときは、ブリッジ信号処理装置70の出力である抵抗成分(X)、リアクタンス成分(Y)は、膜厚を示す情報として処理される。
【0075】
すなわち、基準状態においてブリッジ回路60は、検出コイル73が出力する出力信号731を入力され、バランスコイル疑似信号68が入力されない状態で、基準ブリッジ出力信号176を出力する。保持装置66は、信号処理回路92が出力する基準データ40、42を保持する。
【0076】
ブリッジ信号処理装置70の信号処理回路92は、基準データ生成装置であり、基準状態において、基準ブリッジ出力信号176をインピーダンスとして処理するために、基準ブリッジ出力信号176からインピーダンス、例えばインピーダンスの抵抗成分40とリアクタンス成分46を得る。保持装置66は、得られた抵抗成分40とリアクタンス成分42を基準データ40、42として保持する。保持装置66は、そのためにメモリを有する。保持装置66は、基準状態以外のときに、基準データ40、42を出力する。保持装置66が出力する信号104、106は、本形態では、基準データ40、42の符号を反
転したものである。すなわち、基準データ40、42をX、Yとし、信号104、106をXb、Ybとすると、Xb=-X、Yb=-Yである。符号を反転した理由は、ブリッジ回路60に入力されるバランスコイル疑似信号68は、検出コイル73の出力信号731を相殺する信号である必要があるからである。符号を反転する機能を保持装置66が有しなくともよい。最終的にバランスコイル疑似信号68がブリッジ回路60において、反転した状態で処理されればよい。反転処理は、ブリッジ回路60に至るまでのどの段階でなされてもよい。
【0077】
出力信号処理回路54は、既述のように疑似信号生成装置96を有する。保持装置66は、疑似信号生成装置96の一構成要素であると考えることもできる。疑似信号生成装置96は、直交信号変調回路180と、遅延調整回路182と、振幅調整回路184と、DAC回路186と、FIL回路188と、増幅回路190とを有する。直交信号変調回路180は、基準状態以外のときに、保持装置66からインピーダンス(抵抗成分Xとリアクタンス成分Y)を入力され、発振器260から交流信号を入力される。直交信号変調回路180は、これらの信号から直交変調処理により、バランスコイル疑似信号68とほぼ同一の振幅と位相を有する信号192を生成する。直交変調処理自体は公知のものであり、発振器260からの交流信号を用いて生成したCOS波とSIN波に、抵抗成分Xとリアクタンス成分Yをそれぞれ乗算した後に、2つの信号を加算する処理である。直交信号変調回路180は、直交信号検出回路86と逆の処理である。
【0078】
直交信号変調回路180が出力する信号192は、バランスコイル疑似信号68、すなわち検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731とほぼ同一の振幅と位相を有する。しかし、出力信号731と信号192との一致度が要求される範囲内に無い場合がある。位相がずれている時は信号192の位相を調整する遅延調整回路182によって位相を調整して、遅延調整回路182は、調整後の信号194を出力する。
【0079】
振幅がずれている時は信号194の振幅を調整する振幅調整回路184によって振幅を調整して、振幅調整回路184は、調整後の信号196を出力する。DAC回路186は、デジタル信号である信号196に対してデジタルアナログ変換を行い、アナログ信号である信号198を出力する。FIL回路188は、信号198に含まれているノイズを除去して、ノイズが低減した信号200を出力する。増幅回路190は、DAC回路186とFIL回路188によって振幅が減少するため、信号200を増幅してバランスコイル疑似信号68として出力する。
【0080】
ブリッジ回路60と、信号処理回路92と、交流信号源52と、DAC回路186と、FIL回路188と、増幅回路190は、本実施形態ではアナログ信号を処理する回路であり、これらは、点線で囲まれたアナログ信号処理部202を構成する。疑似信号生成装置96のうちのDAC回路186とFIL回路188と増幅回路190以外の回路と、出力回路94は、本実施形態ではデジタル信号を処理するデジタル信号処理部204を構成する。デジタル信号処理部204の遅延調整回路182と振幅調整回路184は、アナログ信号処理部202で生じる信号処理のバラツキを調整する機能を有する。
【0081】
デジタル信号処理部204は、CPU、メモリ、記録媒体と、デジタル信号処理部204の各部に所定の動作させるために記録媒体に格納されたソフトウェアを有する。ソフトウェアに関しては、工場出荷状態の初期のソフトウェアから更新できるようにするために、更新したソフトウェアをインストール可能である。アナログ信号処理部202をデジタル回路で構成してもよい。その時は、アナログ信号処理部202はCPU、メモリ、記録媒体と、アナログ信号処理部202の各部に所定の動作させるために記録媒体に格納されたソフトウェアを有する。なお、保持装置66が有する基準データは、別の研磨装置の出力信号処理回路54で得られたデータでもよい。このような場合とは、例えば検出コイル
73の出力のばらつきが小さい、または、検出コイル73の出力に対する精度要求が厳しくない場合等である。
【0082】
図1、2に戻り、出力信号処理回路54の配置について説明する。出力信号処理回路54は、図1に示す位置に配置することができる。図2に示すように、研磨装置の研磨テーブル100は矢印で示すようにその軸心170まわりに回転可能になっている。この研磨テーブル100内には、交流信号源52および出力信号処理回路54が埋め込まれている。
【0083】
渦電流センサ50と交流信号源52および出力信号処理回路54を一体型としてもよい。出力信号処理回路54の出力信号172は、研磨テーブル100のテーブル軸100内を通り、テーブル軸100の軸端に設けられたロータリジョイント(図示せず)を経由して、出力信号172により終点検出コントローラ246に接続されている。なお、交流信号源52および出力信号処理回路54のうちの少なくとも一方を研磨テーブル100外に配置してもよい。
【0084】
次に、別の実施形態について、図10により説明する。図10は、本発明の他の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路254を示すブロック図である。本実施形態では温度センサ206を渦電流センサ50内の検出コイル73の近傍に設置し、検出コイル73周辺の温度を監視する。バランスコイル疑似信号68を生成する際に保持装置66において基準データ40、42に温度特性カーブを掛け合わせる、または温度補正量を加算することで、検出コイル73の温度特性を補正する。バランスコイル疑似信号68を生成する回路内で、バランスコイル疑似信号68を温度補正する。これにより基準データ40、42の経時変化の要素をさらに、一つ減らすことが可能である。なお、補正方法を、加算、減算、乗算、その他の補正方法のいずれにするかは、検出コイル73の特性、検出コイル73の周囲環境等により決定される。
【0085】
本実施形態では出力信号処理回路254(出力信号処理装置)は、渦電流センサ50と、渦電流センサ50の温度を測定する温度センサ206と、測定された温度を使用して基準データ40、42を補正する保持装置66(補正装置)とを有する。温度センサ206の出力信号210は、アナログ信号をデジタル信号に変換するADC回路208を介して保持装置66に入力される。
【0086】
温度補正を行わない時のバランスコイル疑似信号は、基準状態のブリッジ回路60のブリッジ出力信号176を処理する信号処理回路92によって得られるX及びY出力信号であるX=X0、Y=Y0の符号を反転したXb=-X0、Yb=-Y0から生成される。温度センサ206を用いてセンサ温度上昇に伴う検出コイル73の出力シフト量を補正する場合には、予め工場出荷前等において温度変化に伴うX、Y出力の変位量Xt、Ytを測定して、記録しておく。工場出荷後等の実際の膜厚測定時に、温度センサ206の出力信号210に対するX、Y出力の変位量Xt、Ytを用いて、バランスコイル疑似信号生成時に基準データXb、YbをXb=-(X0+Xt)、Yb=-(Y0+Yt)に変更して直交信号変調回路180へ入力する。
【0087】
図11により保持装置66での出力信号210の処理について説明する。図11は、保持装置66での温度補正の処理を示すブロック図である。本実施形態では既述のように温度補正量を加算する。保持装置66は補正量決定部212を有する。補正量決定部212は、温度センサ206の出力信号210を入力されて、基準データ40を取得したときの検出コイル73の温度と出力信号210との温度差218、220を求める。補正量決定部212は、得られた温度差218、220を抵抗成分の補正テーブル記憶部214と、リアクタンス成分の補正テーブル記憶部216にそれぞれ出力する。補正テーブル記憶部
214と補正テーブル記憶部216は、温度センサ206の出力信号210(温度)によって決まるインピーダンスの抵抗成分と誘導リアクタンス成分の補正量を温度特性テーブルとして、膜厚の測定を開始する前、例えば工場から研磨装置を出荷する前に蓄積している。
【0088】
補正テーブル記憶部214と補正テーブル記憶部216は、温度差218、220と補正量222、224との対応関係を表もしくは関数の形で有する。補正テーブル記憶部214、216は補正量222、224を調整部226、228に出力する。なお、保持装置66は、符号反転部230、232を有する。符号反転部230、232は、基準データ40、42の符号を反転して、反転された信号104、106を出力する。すなわちXb=-X0、Yb=-Y0という演算を行う。
【0089】
温度補正を行わない場合は、信号104、106は直接、直交信号変調回路180に入力される。本図のように温度補正を行う場合は、信号104、106は調整部226、228を介して、直交信号変調回路180に入力される。調整部226、228は、基準データXb、YbをXb=-(X0+Xt)、Yb=-(Y0+Yt)に変更する。調整部226、228は、-(X0+Xt)、-(Y0+Yt)を信号234、236として直交信号変調回路180に出力する。
【0090】
信号234、236は、直交信号変調回路180のミキサ238、240に入力される。ミキサ238、240は乗算器である。ミキサ238は、信号234と、位相シフト回路242の出力244との乗算を行う。ミキサ240は、信号236と、発振器260の出力262との乗算を行う。位相シフト回路242は、発振器260の出力262を90度、位相シフトするものである。ミキサ238の出力264と、ミキサ240の出力266は、加算器270で加算される。加算器270で加算した結果は、信号192として遅延調整回路182に出力される。遅延調整回路182以降の処理は、図9に関して説明したとおりである。補正量決定部212と、補正テーブル記憶部214と、補正テーブル記憶部216は、基準データ40、42の温度補正のために、基準データ40、42をシフト(補正)すべき量を算出する算出部280を構成する。
【0091】
次に、別の実施形態について、図12により説明する。図12は、本発明の他の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路254を示すブロック図である。本実施形態では図9のブリッジ回路60を使用しないで、検出コイル73の出力信号731を直接、図9の信号処理回路92に相当する回路に取り込むことで、ブリッジ回路60におけるパラメータの経時変化を完全に排除することが可能となる。
【0092】
具体的には、基準状態の検出コイル73の出力信号731から基準データ40(X出力)、42(Y出力)を直接得る。このX/Y出力をX0/Y0として、Xb=-X0、Yb=-Y0として、Xb、Ybを図9における信号104、106に相当する信号としてメモリ等に保存する。金属膜(半導体ウェハWH)がある基準状態以外のときに、検出コイル73が出力する出力信号731から直交信号検出回路86によりXn/Ynを得る。Xn/Ynにそれぞれ基準データXb/Yb値を加算することで、金属膜が無い時を基準とした検出コイル73の出力信号731の変化量のみをX/Y出力として算出することができる。
【0093】
図12に示す本実施形態では出力信号処理装置354は渦電流センサ50を有する。渦電流センサ50は、金属膜mf(導電体)に渦電流を形成可能な励磁コイル72と、金属膜mfに形成可能な渦電流を検出する検出コイル73とを有する。出力信号処理装置354は、渦電流センサ50が出力する検出コイル73の出力信号731を処理する。出力信号処理装置354は保持装置66を有する。保持装置66は、検出コイル73が基準状態
において出力する出力信号731の特性を示す基準データ40、42(X0、Y0)を保持し、基準状態以外のときに、基準データ40、42(Xb、Yb)を出力する。
【0094】
なお、基準状態以外のときに、保持装置66は基準データ40、42(X0、Y0)を出力することとしてもよい。保持装置66が(Xb、Yb)を出力する時は保持装置66の後段の処理回路において(Xb、Yb)を加算する処理を行い、保持装置66が(X0、Y0)を出力する時は保持装置66の後段の処理回路において(X0、Y0)を減算する処理を行えばよいからである。
【0095】
出力信号処理装置354は差分装置272、274を有する。差分装置272、274は、基準状態以外のときに検出コイル73が出力する出力信号731の特性を示す特性データXn、Ynと、保持装置66が出力する基準データXb、Ybが入力されて、前記特性データXn、Ynと前記基準データX0、Y0の差を求める。ただし、本実施形態では基準データXb、Ybが入力されるため、差分装置272、274が行う演算は、加算である。差分と呼ぶ理由は、実質的に基準データX0、Y0との差を求めているからである。
【0096】
出力信号処理装置354は、検出コイル73が出力する出力信号731をインピーダンスとして処理するために、出力信号731からインピーダンス(抵抗成分とリアクタンス成分)を得る直交信号検出回路86(インピーダンス出力装置)を有する。図9に示す実施形態においては、出力信号731はブリッジ回路60に入力される。ブリッジ回路60で出力信号731は処理された後に、ブリッジ出力信号176として増幅回路268に入力される。図12に示す実施形態では、出力信号731は、ブリッジ回路60を介さずに、直接、増幅回路268に入力される。増幅回路268の出力はAD変換回路282によりデジタル信号に変換されたのちに、直交信号検出回路86に入力される。なお、図12では、直交信号検出回路86はデジタル回路で構成している。図12の直交信号検出回路86を、図9の直交信号検出回路86と同様にアナログ回路で構成してもよい。
【0097】
保持装置66は、直交信号検出回路86が基準状態において出力するインピーダンスを基準データ40、42(X0、Y0)として保持する。差分装置272、274は、基準状態以外のときに、直交信号検出回路86が出力するインピーダンス(Xn、Yn)と、保持装置が出力する基準データ(X0、Y0)との差を求める。
【0098】
従来技術では、図5に示すブリッジ回路77の検出コイル73とバランスコイル74の出力信号の差(バランス)をブリッジ回路77により調整して、導電性膜が存在しないときには、ブリッジ回路77の出力がゼロとなるように調整していた。しかし、ブリッジ回路77の構成要素である抵抗やコイルは、以下の要因で経時変化してバランスがくずれてしまうという課題があった。
1. 可変抵抗VR1、VR2と、検出コイル73と、バランスコイル74は、周囲温度の影響で値が変動する。
2. 可変抵抗VR1、VR2は、機械的な可変機構をもつ場合、抵抗値がシフトする。
【0099】
本発明の一実施形態では、ブリッジ回路77の経時変化要因となるブリッジ回路77の構成要素の数を減らす。図9、10では、可変抵抗は可変抵抗VR、1個であり、バランスコイルはなく、検出コイル73のみである。図12ではブリッジ回路はなく、すなわち可変抵抗や固定抵抗はなく、またバランスコイルはなく、検出コイル73のみである。可変抵抗やコイルを減らすことにより、経時変化の発生を抑制する。
【0100】
図10では、さらに渦電流センサ50内に温度変化をモニタする温度センサ206を設ける。バランスコイル疑似信号68を温度補正することで、検出コイル73の変化要因も
抑制する。これらの対策により、導電性膜が存在しないときにブリッジ回路77の出力がゼロとなるように調整する、もしくはブリッジ回路77をなくすことにより、検出コイル73とバランスコイル74の出力信号のバランスがくずれることを低減することが可能となる。
【0101】
次に図9により、渦電流センサ50が出力する検出コイル73の出力信号731を処理する出力信号処理方法について説明する。検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731の特性(インピーダンス)を示す基準データ40、42を保持装置66は保持する。検出コイル73が基準状態において出力する出力信号731に対応するバランスコイル疑似信号68を疑似信号生成装置96は、保持装置66が保持する基準データ40、42から生成して出力する。
【0102】
基準状態以外のときに検出コイル73が出力する出力信号731と、バランスコイル疑似信号68はブリッジ回路に入力される。出力信号731とバランスコイル疑似信号68の差に相当する信号をブリッジ出力信号176としてブリッジ回路60は出力する。ブリッジ出力信号176は信号処理回路92において処理される。
【0103】
以上、本発明の実施形態の例について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0104】
Xb、Yb…基準データ
Xn、Yn…特性データ
X…抵抗成分
Y…リアクタンス成分
Xt、Yt…変位量
…インダクタンス
Z…インピーダンス
mf…金属膜
40…基準データ、抵抗成分
42…基準データ、リアクタンス成分
50…渦電流センサ
54…出力信号処理回路
60…ブリッジ回路
66…保持装置
68…バランスコイル疑似信号
70…ブリッジ信号処理装置
72…励磁コイル
73…検出コイル
74…バランスコイル
76…可変抵抗
77…ブリッジ回路
86…直交信号検出回路
92…信号処理回路
96…疑似信号生成装置
150…渦電流センサ
154…出力信号処理回路
176…基準ブリッジ出力信号、ブリッジ出力信号
180…直交信号変調回路
182…遅延調整回路
184…振幅調整回路
206…温度センサ
212…補正量決定部
214、216…補正テーブル記憶部
218…温度差
222…補正量
226…調整部
246…終点検出コントローラ
254…出力信号処理回路
354…出力信号処理回路
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
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図10
図11
図12