(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】アクリロニトリル二量体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/30 20060101AFI20240524BHJP
C07C 255/09 20060101ALI20240524BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
C07C253/30
C07C255/09
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022574832
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 KR2021013749
(87)【国際公開番号】W WO2022080751
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0131025
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0132515
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】パク、シ-チョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウォンソク
(72)【発明者】
【氏名】アン、ユチン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヒョンチョル
(72)【発明者】
【氏名】パク、セ-フム
(72)【発明者】
【氏名】オ、ワン-キュ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-136123(JP,A)
【文献】特公昭41-011334(JP,B1)
【文献】特公昭42-011730(JP,B1)
【文献】米国特許第03732281(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/
C07C 255/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系溶媒;前記炭化水素系溶媒より沸点が高く、アクリロニトリル二量体と相分離が可能な炭素数2~6のアルコール;およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させてアクリロニトリル二量体を製造する反応工程と、
前記反応工程が完了した後、反応混合物を蒸留して未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒を除去する第1精製工程と、
前記未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒が除去された反応混合物を撹拌した後、相分離されるように静置し、リン系触媒を含むアルコール相とアクリロニトリル二量体相とを分離する第2精製工程と、
を含
み、
前記アルコールは、シクロヘキサノール、エチレングリコール、またはこれらの組み合わせであり、
前記炭化水素系溶媒は、ベンゼン、トルエン、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロペンタンおよびシクロヘキサンからなる群より選択される1種以上であり、
前記リン系触媒は、エチルジフェニルホスフィナイト、イソプロピルジフェニルホスフィナイト、エチルフェニルエチルホスフィナイトおよびイソプロピルジトリルホスフィナイトからなる群より選択される1種以上である、アクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項2】
前記アルコールの沸点は、
前記炭化水素系溶媒の沸点より40℃以上高い、請求項1に記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素系溶媒は、沸点が115℃以下である、請求項1
または2に記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素系溶媒は、トルエンであり、前記アルコールは、シクロヘキサノールである、請求項1~
3のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程において、
前記アルコールは、
前記炭化水素系溶媒100体積%に対して、3体積%~50体積%使用される、請求項1~
4のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項6】
前記第1精製工程で分離された未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒;および前記第2精製工程で分離されたリン系触媒を含むアルコール相は、前記反応工程に再循環される、請求項1~
5のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照
本出願は、2020年10月12日付の韓国特許出願第10-2020-0131025号および2021年10月6日付の韓国特許出願第10-2021-0132515号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、アクリロニトリル二量体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリロニトリル二量体は、アクリロニトリルの二量化で製造される炭素数6の直鎖化合物である1,4-ジシアノ-1-ブテン(1,4-dicyano-1-butene、DCB)、1,4-ジシアノ-2-ブテン(1,4-dicyano-2-butene)、メチレングルタロニトリル(MGN)などを通称するもので、アクリロニトリル二量体のうち1,4-ジシアノ-1-ブテン(1,4-dicyano-1-butene、DCB)および1,4-ジシアノ-2-ブテン(1,4-dicyano-2-butene)を通称して1,4-ジシアノブテン(DCB)という。1,4-ジシアノブテン(DCB)は、水添反応によりアジポニトリル(Adiponitrile)に変換可能であり、これはナイロン66の主要単量体であるヘキサメチレンジアミンを製造するための中間体として有用に使用される。
【0004】
アクリロニトリル二量体は、リン系触媒の存在下、プロトンを提供できる溶媒中でアクリロニトリルを反応させて製造される。前記二量化反応の主生成物は1,4-ジシアノブテン(DCB)であり、副生成物としてメチレングルタロニトリル(MGN)が少量製造される。反応後の反応混合物には、主生成物のDCBと共に、MGN、未反応アクリロニトリル、触媒、溶媒などの成分が混合されており、精製過程により純粋なアクリロニトリル二量体を得ることができる。
【0005】
前記アクリロニトリル二量体の製造に使用される触媒は、高価な化合物で製造単価に大きく影響を及ぼすので、反応後の触媒を回収して再使用しようとする試みがある。そこで、アクリロニトリル二量化反応後の反応混合物の精製方法として、アクリロニトリル二量体を蒸留させて触媒と分離したり、抽出溶媒を用いて反応混合物から触媒を抽出する方法が提案された。
【0006】
しかし、蒸留方法の場合、アクリロニトリル二量体の沸点が約254℃と高いため、高温で蒸留が行われて副反応が起こりうる問題がある。また、抽出法の場合、アクリロニトリル二量体と触媒との親和度が高くて分離が難しく、別の抽出溶媒を必要とし、抽出後、抽出液から触媒を回収するための後工程をさらに必要として全体的な製造工程が複雑になり、費用が上昇する問題があった。
【0007】
そこで、精製過程でアクリロニトリル二量体と触媒とを効率的に分離できる方法が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、リン系触媒をアクリロニトリル二量体と効率的に分離して、工程の効率性および経済性を向上させることができるアクリロニトリル二量体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、
炭化水素系溶媒;前記炭化水素系溶媒より沸点が高く、アクリロニトリル二量体と相分離が可能な炭素数2~6のアルコール;およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させてアクリロニトリル二量体を製造する反応工程と、
前記反応工程が完了した後、反応混合物を蒸留して未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒を除去する第1精製工程と、
前記未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒が除去された反応混合物を撹拌した後、相分離されるように静置し、リン系触媒を含むアルコール相とアクリロニトリル二量体相とを分離する第2精製工程とを含むアクリロニトリル二量体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アクリロニトリル二量体を高純度で得ることができ、反応に使用された触媒を容易に回収可能で、製造工程の効率性および経済性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用される用語は単に例示的な実施例を説明するために使用されたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
【0012】
本発明は多様な変更が加えられて様々な形態を有することができるが、特定の実施例を例示して下記に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物乃至代替物を含むことが理解されなければならない。
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明の一実施形態によるアクリロニトリル二量体の製造方法は、炭化水素系溶媒;前記炭化水素系溶媒より沸点が高く、アクリロニトリル二量体と相分離が可能な炭素数2~6のアルコール;およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させてアクリロニトリル二量体を製造する反応工程と、
前記反応工程が完了した後、反応混合物を蒸留して未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒を除去する第1精製工程と、
前記未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒が除去された反応混合物を撹拌した後、相分離されるように静置し、リン系触媒を含むアルコール相とアクリロニトリル二量体相とを分離する第2精製工程とを含む。
【0015】
既存のアクリロニトリル二量体の製造方法では、二量化反応後、アクリロニトリル二量体と触媒とを分離するために、アクリロニトリル二量体自体を蒸留したり、別の抽出溶媒を用いて反応混合物から触媒を抽出する方法を使用した。しかし、このような方法は工程が複雑で、製造設備と費用が多くかかり、精製効率が低下するなどの問題があった。
【0016】
そこで、本発明のアクリロニトリル二量体の製造方法では、炭化水素系溶媒と共に使用される共溶媒として、前記炭化水素系溶媒より沸点が高く、アクリロニトリル二量体と相分離が可能なアルコールを用いて、精製工程の効率性と経済性を向上させた。
【0017】
つまり、本発明で使用されるアルコールは、アクリロニトリルの二量化反応中にはプロトン提供溶媒としての役割を果たし、炭化水素系溶媒より高い沸点を有するので、二量化反応後の未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒を除去する第1精製工程で共に揮発しない。
【0018】
また、前記アルコールは、アクリロニトリル二量体と相分離を起こすので、第2精製工程では、触媒を抽出するための抽出溶媒としての役割を果たすことができる。このように、アルコールは反応溶媒であると同時に抽出溶媒であることから、抽出後、アルコール相に含まれている触媒は、別の精製過程なしに、アルコールと共に反応段階に再循環される。
【0019】
したがって、本発明によれば、高温での蒸留による副反応を防止することができ、別の抽出溶媒の使用およびその除去工程が不必要であり、既存の方法に比べて簡素化された工程でアクリロニトリル二量体と触媒とを分離可能なため、工程の効率性、便宜性、経済性を顕著に向上させることができる。
【0020】
前記アルコールとしては、炭素数2~6の脂肪族、脂環族、または芳香族アルコールが使用できる。一例として、シクロヘキサノール、エチレングリコール、またはこれらの組み合わせが使用可能であり、好ましくは、シクロヘキサノールまたはエチレングリコールが使用可能であり、より好ましくは、シクロヘキサノールが使用可能である。
【0021】
また、前記アルコールは、炭化水素系溶媒より沸点が40℃以上高く、好ましくは、50℃以上、または60℃以上高くてもよい。
【0022】
アルコールと炭化水素系溶媒の沸点の差が少ない場合、第1精製工程でアルコールが共に蒸留されて、第2精製工程で抽出溶媒として使用されるアルコールが残らなくなりうるので、沸点は50℃以上の差があることが好ましい。アルコールと炭化水素系溶媒の沸点の差の上限は特に制限されないが、一例として、180℃以下、110℃以下、または90℃以下であってもよい。
【0023】
また、前記アルコールは、密度が0.965g/cm3以下、または0.962g/cm3以下であるか、または1.05g/cm3以上、または1.10g/cm3以上であることが好ましい。アクリロニトリルの二量化反応で生成される二量体は、大部分の密度が1.0g/cm3水準である1,4-ジシアノブテンであるので、アルコールが前記密度範囲を満足する時、アクリロニトリル二量体と相分離が円滑に起こり得る。
【0024】
一方、前記アルコールは、アクリロニトリル二量体からリン系触媒を抽出できなければならないので、リン系触媒に対する親和度がアクリロニトリル二量体より高くなければならない。このため、50℃、常圧(760torr)下、下記数式1で表されるリン系触媒のアルコール-アジポニトリル分配係数(KROH/ADN)は1.0以上であり、1.07以上、1.35以上、または1.5以上であることが好ましい。前記分配係数の上限は特に制限されないが、一例として、6.0以下、5.0以下、または4.8以下であってもよい。
【0025】
[数式1]
KROH/ADN=CROH/CADN
上記数式1中、
CROHは、アルコール中のリン系触媒のパーセント濃度であり、
CADNは、アジポニトリル中のリン系触媒のパーセント濃度である。
【0026】
前記炭化水素系溶媒は、アクリロニトリル二量化反応の主溶媒として使用される。前記炭化水素系溶媒は、炭素数5~15の芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素などが使用できる。
【0027】
前記炭化水素系溶媒は、アクリロニトリル二量化反応が終了した後、未反応のアクリロニトリル単量体(沸点77℃)と共に蒸留によって円滑に除去できるように、沸点が115℃以下、または110℃以下でかつ、20℃以上、30℃以上、または50℃以上であることが好ましい。このような炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロペンタンおよびシクロヘキサンからなる群より選択される1種以上が挙げられる。
【0028】
好ましい一実施形態によれば、前記炭化水素系溶媒としてはトルエンを、前記アルコールとしてはシクロヘキサノール、またはエチレングリコールを使用することができる。トルエンは、沸点が約110℃で比較的温和な条件で蒸留によって揮発し、シクロヘキサノールおよびエチレングリコールは、トルエンに比べて沸点が50℃以上高くて第1精製工程で揮発しない。また、シクロヘキサノールおよびエチレングリコールは、アクリロニトリル二量体と相分離が可能であり、リン系触媒に対する溶解度が高いので、第2精製工程でアクリロニトリル二量体と触媒とを分離するための抽出溶媒として好適に使用できる。
【0029】
アクリロニトリル二量化反応時、プロトン提供溶媒が不足する場合にアクリロニトリルの重合反応が促進できる。このため、前記反応工程において、アルコールは、炭化水素系溶媒100体積%に対して、3体積%以上、5体積%以上、または10体積%以上でかつ、50体積%以下、40体積%以下、または30体積%以下の範囲で使用できる。このような含有量範囲を満足する時、アクリロニトリル二量化反応と、反応後の抽出過程が円滑に行われる。
【0030】
本発明のアクリロニトリル二量化反応に使用されるリン系触媒は、少なくとも1つ以上のヒドロカルビル;および少なくとも1つ以上のアルコキシまたはシクロアルコキシ;を含む有機リン(III)化合物であってもよい。
【0031】
一例として、前記リン系触媒は、(R)2P(OR’)で表されるホスフィナイト系化合物または(R)P(OR’)2で表されるホスホナイト系化合物であってもよい。前記化学式(R)2P(OR’)および(R)P(OR’)2において、RおよびR’は、それぞれ独立して、C1-20アルキル、C6-20アリール、C7-20アルキルアリール、C7-20アルアルキル、またはC3-20アルキルである。好ましくは、Rは、それぞれ独立して、C1-20アルキルまたはC6-20アリールであり、R’は、それぞれ独立して、C1-20アルキルであってもよい。
【0032】
好ましくは、前記リン系触媒としては、エチルジフェニルホスフィナイト、イソプロピルジフェニルホスフィナイト、エチルフェニルエチルホスフィナイトおよびイソプロピルジトリルホスフィナイトからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0033】
前記反応工程で、リン系触媒は、アクリロニトリル単量体100モル%に対して、2モル%以上、3モル%以上、または4モル%以上でかつ、8モル%以下、7モル%以下、または6モル%以下の含有量で含まれる。リン系触媒がアクリロニトリル単量体に対して前記モル含有量で使用される時、アクリロニトリル二量化反応が円滑に進行しながらも副反応が抑制可能である。
【0034】
本発明のアクリロニトリル二量体の製造方法において、アクリロニトリルを二量化する反応工程は、常圧(700~800torr)下、0℃~70℃で行われ、10℃~50℃、または20℃~40℃がより好ましい。万一、反応温度が0℃未満であれば、反応速度が低くて生産性が低下し、70℃を超えると、反応速度が過度に高くなって、アクリロニトリル単量体および二量体が高分子に重合されることがある。
【0035】
前記反応工程が完了すると、反応混合物を蒸留して、比較的沸点が低い未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒を除去する第1精製工程を行う。この時、蒸留された未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒は、反応器に回収して再使用することができる。
【0036】
前記第1精製工程の条件は、使用された炭化水素系溶媒の沸点によって調節可能である。一実施形態において、第1精製工程は、760torr以下、400torr以下、100torr以下、または10torr以下の圧力下で行われる。第1精製工程の温度は、圧力条件によって適切に調節可能であり、一例として、100℃以下、70℃、または60℃以下でかつ、10℃以上、または30℃以上の範囲であってもよい。このような条件下、前記アルコールの蒸発なしに、未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒のみが選択的に除去できる。
【0037】
次に、未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒が除去された反応混合物を撹拌した後、これを相分離させて、アルコール相とアクリロニトリル二量体相とを分離する第2精製工程を行う。
【0038】
前記アルコールは、炭化水素系溶媒に比べて沸点が高くて第1精製工程で大部分揮発しないので、追加的にアルコールを添加せず、反応混合物中に存在するアルコールを用いてリン系触媒を抽出することができる。
【0039】
第2精製工程は、10~30℃、または20~25℃の温度で行うことができる。第2精製工程の温度が過度に高ければ、アルコール相とアクリロニトリル二量体相との分離がうまく起こらず、アクリロニトリル二量体相に溶解したリン系触媒の比率が高くなって分離効率が低下しうるので、常温で行うことが好ましい。
【0040】
このため、前記温度範囲内で反応混合物を十分に混合した後、混合物を静置して相分離させ、上層液と下層液とを分離して抽出を完了する。
【0041】
また、触媒回収率をさらに向上させるために、前記第2精製工程で分離されたアクリロニトリル二量体相に、追加的に前記アルコールを添加して抽出する過程を繰り返すことができる。
【0042】
前記工程を経てアルコール相と分離されたアクリロニトリル二量体相は、大部分が1,4-ジシアノブテン(DCB)からなっており、メチレングルタロニトリル(MGN)を少量含むことができる。このため、前記MGNを除去するために、アクリロニトリル二量体相を追加的に精製し、部分水添反応を経て、ヘキサメチレンジアミンの前駆体であるアジポニトリルを製造することができる。
【0043】
一方、リン系触媒を含むアルコール相は、反応容器に回収されて再使用できる。本発明では、リン系触媒を抽出するための第2精製工程で別の抽出溶媒を使用せず、反応段階で共溶媒として使用したアルコールを用いるので、触媒の再使用のために抽出溶媒を除去する過程が不必要であり、触媒だけでなく、共溶媒のアルコールも共に再使用可能で、製造費用を節減し、工程効率性を高めることができる。
【0044】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変更および修正が添付した特許請求の範囲に属することも当然である。
【実施例】
【0045】
<触媒の分配係数評価>
アルコールおよびアクリロニトリル二量体に対するリン系触媒の分配係数を知るために、第1精製過程により反応混合物中の未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒が除去された状況を仮定して下記の実験を行った。
【0046】
(1)エチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)0.634g(25wt%)とアジポニトリル(ADN)2ml(1.902g、75wt%)とを混合して、未反応アクリロニトリルおよび炭化水素系溶媒が除去された第1精製工程後の反応混合物の模擬溶液とした。
【0047】
(2)前記模擬溶液に下記表1のアルコール2mlを投入し、50℃に加熱して撹拌した。
【0048】
(3)50℃で5分間撹拌した後、撹拌を止めて静置した。
【0049】
(4)相分離後、上層液と下層液をそれぞれ0.25mlずつ得て、ガスクロマトグラフィー(GC、SIMADAZU、GC-2030)で成分を分析した。この時、ディテクタはFIDであり、350℃に設定し、カラムはHP-5MSを用い、40-280℃に設定した。Injection portの温度は260℃であり、移動相はN2を使用した。
【0050】
(5)各層(ADN層およびアルコール層)に含まれている触媒のパーセント濃度およびこれから計算した分配係数を下記表1に記載した。
【0051】
【0052】
<アクリロニトリル二量体の製造>
(実施例1)
溶媒としてトルエンを、アルコール共溶媒としてシクロヘキサノール(沸点161.8℃、密度0.962g/cm3)を用い、触媒としてエチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)を用いて、下記のようにアクリロニトリル二量化反応を行った。
【0053】
1Lの反応器に、トルエン、アクリロニトリル、およびシクロヘキサノールを10:3:3の体積比で投入し、エチルジフェニルホスフィナイトを前記アクリロニトリルに対して5モル%投入した。前記混合物を常温(25℃)で24時間撹拌して反応させた。
【0054】
反応が終了した後、反応混合物を温度60℃、圧力10torr下で蒸留して、トルエンと未反応アクリロニトリルを反応混合物から除去した。次いで、反応混合物を撹拌して混合した後、撹拌を止めて相分離が起こるように静置した。相分離が完了した後、上層液と下層液とを分離し、ガスクロマトグラフィー(GC、SIMADAZU、GC-2030)を用いて上層液と下層液の成分を分析した。ディテクタはFIDであり、350℃に設定し、カラムはHP-5MSを用い、40-280℃に設定した。Injection portの温度は260℃であり、移動相はN2を使用し、試料は1mlを注入した。
【0055】
分析結果、試料投入量対比の検出量を計算した時、下層液は1,4-ジシアノブテン(DCB)78.9重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)2.1重量%、シクロヘキサノール11.9重量%、エチルジフェニルホスフィナイト7.1重量%を含むことが確認され、上層液はシクロヘキサノール81.3重量%、エチルジフェニルホスフィナイト10.3重量%、1,4-ジシアノブテン(DCB)8.2重量%、メチレングルタロニトリル(MGN)0.2重量%を含むことが確認された。
【0056】
(実施例2)
溶媒としてトルエンを、アルコール共溶媒としてエチレングリコール(沸点197℃、密度1.110g/cm3)を用い、触媒としてエチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)を用いて、下記のようにアクリロニトリル二量化反応を行った。
【0057】
1Lの反応器に、トルエン、アクリロニトリル、およびエチレングリコールを10:3:3の体積比で投入し、エチルジフェニルホスフィナイトを前記アクリロニトリルに対して5モル%投入した。前記混合物を常温(25℃)で24時間撹拌して反応させた。
【0058】
以後、実施例1と同様の方法で第1および第2精製工程を行った後、GC分析を行った。
【0059】
分析結果、試料投入量対比の検出量を計算した時、下層液はエチレングリコール76.9重量%、エチルジフェニルホスフィナイト9.1重量%、1,4-ジシアノブテン(DCB)13.6重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)0.4重量%を含むことが確認され、上層液は1,4-ジシアノブテン(DCB)67.2重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)1.8重量%、エチレングリコール23.7重量%、エチルジフェニルホスフィナイト7.3重量%を含むことが確認された。
【0060】
(比較例1)
溶媒としてトルエンを、共溶媒としてイソプロピルアルコール(沸点82.5℃、密度0.786g/cm3)とホルムアミド(沸点210℃、密度1.130g/cm3)を用い、触媒としてエチルジフェニルホスフィナイトを用いて、下記のようにアクリロニトリル二量化反応を行った。
【0061】
1Lの反応器に、トルエン、アクリロニトリル、イソプロピルアルコールおよびホルムアミドを10:3:1:1の体積比で投入し、エチルジフェニルホスフィナイトを前記アクリロニトリルに対して5モル%投入した。前記混合物を常温(25℃)で24時間撹拌して反応させた。
【0062】
反応が終了した後、反応混合物を温度60℃、圧力10torr下で蒸留して、トルエンとイソプロピルアルコールおよび未反応アクリロニトリルを反応混合物から除去した。以後、反応混合物を撹拌して混合した後、撹拌を止めて静置したが、ホルムアミドとDCBとの相分離が起こらなかった。
【0063】
(比較例2)
溶媒としてトルエンを、アルコール共溶媒としてオクタノール(沸点185℃、密度0.824g/cm3)を用い、触媒としてエチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)を用いて、下記のようにアクリロニトリル二量化反応を行った。
【0064】
1Lの反応器に、トルエン、アクリロニトリル、およびオクタノールを10:3:3の体積比で投入し、エチルジフェニルホスフィナイトを前記アクリロニトリルに対して5モル%投入した。前記混合物を常温(25℃)で24時間撹拌して反応させた。
【0065】
以後、実施例1と同様の方法で第1および第2精製工程を行った後、GC分析を行った。
【0066】
分析結果、試料投入量対比の検出量を計算した時、下層液はオクタノール11.1重量%、エチルジフェニルホスフィナイト10.5重量%、1,4-ジシアノブテン(DCB)75.8重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)2.6重量%を含むことが確認され、上層液は1,4-ジシアノブテン(DCB)9.2重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)0.3重量%、オクタノール81.9重量%、エチルジフェニルホスフィナイト8.6重量%を含むことが確認された。
【0067】
(比較例3)
溶媒としてトルエンを、アルコール共溶媒としてノナノール(沸点214℃、密度0.827g/cm3)を用い、触媒としてエチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)を用いて、下記のようにアクリロニトリル二量化反応を行った。
【0068】
1Lの反応器に、トルエン、アクリロニトリル、およびノナノールを10:3:3の体積比で投入し、エチルジフェニルホスフィナイトを前記アクリロニトリルに対して5モル%投入した。前記混合物を常温(25℃)で24時間撹拌して反応させた。
【0069】
以後、実施例1と同様の方法で第1および第2精製工程を行った後、GC分析を行った。
【0070】
分析結果、試料投入量対比の検出量を計算した時、上層液はノナノール85.4重量%、エチルジフェニルホスフィナイト5.8重量%、1,4-ジシアノブテン(DCB)8.5重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)0.3重量%を含むことが確認され、下層液は1,4-ジシアノブテン(DCB)74.6重量%およびメチレングルタロニトリル(MGN)2.2重量%、ノナノール10.3重量%、エチルジフェニルホスフィナイト12.9重量%を含むことが確認された。